説明

精製アルギン酸又はその塩

【課題】低い着色度を有する精製アルギン酸又はその塩;及びその製法の提供。
【解決手段】5質量%濃度の水溶液を1cmセルを用いて吸光光度分析を行った際に420nmの吸光度と720nmの吸光度の差で表される着色度が0.040以下である、重量平均分子量が30万以下のアルギン酸又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製アルギン酸又はその塩、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸が種々の割合で結合している高分子量のポリウロン酸の食物繊維として用いられてきた。さらに、アルギン酸は保健上多くの効用をもつことが知られている。近年では特にその整腸作用及び/又はコレステロール低減作用といった機能により、アルギン酸又はその塩(アルギン酸(塩)と記載することがある)については、厚生労働省から表示を許可された特定保健用食品の原材料としての利用が活発に行われている。
【0003】
他方で、これら種々の優れた生理活性機能を有しているが、アルギン酸(塩)は水に溶解すると粘度が高いため、乳化安定剤、増粘剤等の希薄溶液としてしか使用できなかった。そのため、高濃度が必要な場合はアルギン酸(塩)を粉末としてそのまま使用することになる。
【0004】
そこで、従来からアルギン酸(塩)を低分子量化する技術が知られている。アルギン酸の低分子量化の方法として、例えば、酸性水溶液にして加熱する方法が一般的に知られている。また、加圧加熱により低分子量化する方法(特許文献1)も知られている。しかしながら、これら、低分子量化されたアルギン酸(塩)は褐色に着色しているため、低い着色度を要求される用途には適用が難しかった。また、色を有する用途に適用する際にも、求める色に調整することが難しかった。
また、リン酸を用いてアルギン酸(塩)を加水分解することで、精製度の高い低分子量化アルギン酸(塩)を得る製造方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法で得られた低分子量化アルギン酸(塩)の水溶液も、褐色に着色しており、同様に適用に制限があった。
【0005】
一方、アルギン酸(塩)を含む食品としては、特定保健用食品として、清涼飲料水やスープ類がある(平成20年10月29日現在)。これらの特定保健用食品は、いずれも、無色であることが製品として要求されるものではない。これまでは、低い着色度を有するアルギン酸(塩)がなかったため、ニアウォーターやゼリーなど高い無色性が要求される食品の開発が困難な状況にあり、これを打開するために、低い着色度を有するアルギン酸(塩)が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−7093号公報
【特許文献2】特開平11−80204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術の現状を鑑み、本発明は、低い着色度を有する高度に精製されたアルギン酸(塩)を提供することを課題とする。また、本発明の他の課題は、当該高度に精製されたアルギン酸(塩)を用いた飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来より市販されている低分子量のアルギン酸(塩)は高分子量のアルギン酸(塩)と比べて特に褐色に着色しているということを見出した。そしてこれらは高分子量のアルギン酸(塩)を低分子量のアルギン酸(塩)にする低分子化工程により着色することが原因であると考えられる。そこで、これを一般に知られている精製処理として、活性炭処理や溶媒洗浄などで精製を試みたが、顕著な効果を得ることができなかった。
【0009】
そこで本発明者は、上記の問題点に対して鋭意研究を重ねた結果、低分子化アルギン酸(塩)のうち、特に低分子量の成分が着色原因物質であり、当該着色成分は酸性条件においても沈澱を起こさず、溶解状態で存在することを見出した。この知見に基づき、着色した低分子量のアルギン酸(塩)を水溶液に溶解した後、pHを低下させて非着色成分を水溶液中で沈澱させ、該沈澱を水溶性着色成分から分離することで、着色度の低い精製アルギン酸又はその塩が得られることを見出した。また、一方で本発明者は、着色した低分子量のアルギン酸(塩)を溶解した水溶液を、着色成分は透過させるが非着色成分を透過させない特定の限外濾過膜で処理することによっても、着色度の低い精製アルギン酸又はその塩が得られることを見出した。
【0010】
アルギン酸又はその塩に対して酸を加えて処理する方法は、一般には昆布からアルギン酸又はその塩を抽出するときや、アルギン酸又はその塩を低分子量化するときに使用されている。酸を用いた低分子化においてはアルギン酸の着色が起きることが知られている。このため、酸処理はむしろ着色を発生させる結果になるのではないかと予想された。しかしながら、意外にも、既に低分子化されたアルギン酸塩を水溶液に溶解した後、酸を加えることによりpHを低下させて水溶液中で沈澱を生じさせ、該沈澱を分離することで、着色度の低い精製低分子アルギン酸が得られることを見出し、ここに本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、5質量%濃度の水溶液を1cmセルを用いて吸光光度分析を行った際に420nmの吸光度と720nmの吸光度の差で表される着色度が0.040以下である、重量平均分子量が30万以下のアルギン酸又はその塩を提供するものである。
また、本発明は、上記のアルギン酸又はその塩を含有する食品を提供するものである。
また、本発明は、重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液のpHを3.5以下に調整する工程、及び生成した沈澱を分離する工程を含む、精製アルギン酸又はその塩の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液を、分画分子量2,000〜30,000の限外濾過膜で処理する工程を含む、精製アルギン酸又はその塩の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の精製アルギン酸又はその塩は、着色度が低い。本発明の精製アルギン酸又はその塩は、配合の際に色相を変化させることが少ないため、各種食品、特に無色性を要求される食品にまで適用範囲を広げることを可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の精製アルギン酸(塩)は、重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液のpHを3.5以下に調整する工程、及び生成する沈澱を分離する工程を含む工程を行うことにより製造するか、或いは重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液を、分画分子量2,000〜30,000の限外濾過膜で処理する工程を含む工程を行うことにより製造できる。
【0014】
本発明方法で用いる原料アルギン酸(塩)は低分子化アルギン酸(塩)、すなわち重量平均分子量300,000以下のアルギン酸(塩)であり、5質量%水溶液の着色度が0.04超のアルギン酸(塩)である。なお、ここでアルギン酸(塩)を構成するβ−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸の割合や配列順序は特に制限されない。したがって、β−D−マンヌロン酸のみからなるブロック、α−L−グルロン酸のみからなるブロック、両者が混合しているブロックの全てを有するアルギン酸(塩)を使用してもよいし、そのいずれか1種又は2種からなるアルギン酸又はその塩を使用してもよい。
【0015】
本発明の精製アルギン酸(塩)の製造方法は、アルギン酸(塩)水溶液にて行う。その濃度は特に限定されないが、50質量%以下、さらには0.1〜20質量%、特に0.5〜15質量%、殊更1〜10質量%とするのが、着色成分を効率的に除去するという点から好ましい。またその溶媒としては水が好ましい。
【0016】
本発明においては、低分子化アルギン酸(塩)含有水溶液をpH3.5以下にする。pH3.5以下にすることにより、アルギン酸(塩)と着色成分を効率的に分離することができ、着色度の低い精製アルギン酸(塩)を得ることができる。好ましいpHは、0.5〜3.5、さらに好ましくは1〜3である。
【0017】
pHの調整剤としては、pHを3.5以下に調整できるものであれば良く、例えば、酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、リン酸、塩酸、硫酸、炭酸等の無機塩、及びこれらの混合物など特に制限されるものではない。上述したように、本発明の精製アルギン酸(塩)が主に食品に使用されることを考えると、これら酸も、精製アルギン酸(塩)に残存した場合においても食品又は食品添加物の製品に用いることができるものであることが望ましい。これらの点から、上記の酸は、食品添加物グレードであることが好ましい。
【0018】
処理温度は、特に制限はないが、0〜80℃、特に0〜50℃が好ましい。処理時間は、特に制限はないが、一般的に1分から100時間の範囲内である。
【0019】
処理後の沈澱物と上澄み液の分離方法は遠心分離やろ過による方法で分離を行ってよい。なお、分離された沈澱物を洗浄するため、水を加えて再沈澱したものを上記と同様な方法により分離することで、さらに着色度の低い精製アルギン酸を得ることができる。
【0020】
上記の精製方法により得られた沈澱物は、凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させることで精製アルギン酸を得てもよいが、精製アルギン酸をアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等で中和を行い、同様な方法で乾燥させることで精製アルギン酸塩を得てもよい。しかし、本発明の精製アルギン酸塩が主に食品に使用されることを考えると、食品添加物として指定されているアルギン酸塩を使用する必要がある。従って、現在使用可能なアルギン酸塩として、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムを得ることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、低分子化アルギン酸(塩)含有水溶液を、分画分子量2,000〜30,000の限外濾過膜で処理する。限外濾過膜の分画分子量が2,000以上であると濾過速度が高く、他方30,000以下であれば、アルギン酸(塩)と着色成分との分離が容易で色調が良好になる。
限外濾過膜の分画分子量は、更に3,000〜20,000、特に4,000〜10,000であるのが好ましい。分画分子量は、分子量既知の物質をマーカーとし、これが対象とする膜で分離できるか否かで測定できる。マーカーには、例えばVitamin B12、チトクロームC、γグロブリン、ブルーデキストランなどがある。
【0022】
限外濾過膜としては、例えば、炭化水素系、フッ素化炭化水素系、スルホン系又はニトリル系等の高分子膜;メンブラロックス等のセラミック膜が挙げられる。なかでも、高分子膜を用いるのが濾過に要する時間が短く、効率が良い点で好ましい。
炭化水素系、フッ素化炭化水素系又はスルホン系の高分子膜としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系高分子膜;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)等のフッ素化ポリオレフィン系高分子膜;ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン(PES)等のスルホン系高分子膜等が挙げられる。具体的には、例えば、AIP−0013D(ポリアクリロニトリル膜:旭化成ケミカルズ株式会社)、SEP−0013(ポリスルフォン膜;旭化成ケミカルズ株式会社)、SIP−0013(ポリスルフォン膜;旭化成ケミカルズ株式会社)、SLP−0013(ポリスルフォン膜;旭化成ケミカルズ株式会社)、バイオマックスPBCC(PES膜:ミリポア社)等の市販品を用いることができる。
【0023】
また、限外濾過膜の形態は、シート状、中空糸状等特に制限はないが、中空糸状のものは、原液を膜面と並行に流通させるため目詰まりを抑えることができ、濾過能力が安定的に得られる点から好ましい。中空糸状の場合の膜内径としては、0.5〜2mm、更に0.6〜1.8mm、特に0.8〜1.5mmであるのが好ましい。
【0024】
限外濾過の条件は、限外濾過膜の耐熱性の点から、温度が5〜70℃、更に10〜40℃であるのが好ましい。圧力は、使用する膜モジュールの耐圧範囲であることが望ましい。例えば、30〜1,000kPa、更に50〜800kPa、特に100〜700kPaであるのが好ましい。
処理後、濃縮液を回収し、凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させることで精製アルギン酸又はその塩を得ることができる。
【0025】
本発明の精製アルギン酸又はその塩は、5質量%濃度の水溶液を1cmセルを用いて吸光光度分析を行った際に420nmの吸光度と720nmの吸光度の差で表される着色度が0.040以下であり、重量平均分子量が30万以下である。かかる着色度により、褐色〜黒色の度合いが判定できる。着色度が0.040を超えると褐色がかっており、0.040以下になるとほとんど無色である。さらに好ましい着色度は0.03以下(0〜0.03)である。
【0026】
本発明の精製アルギン酸(塩)の重量平均分子量は30万以下であるが、15万以下、さらに10万以下、特に7万以下が好ましい。また、重量平均分子量の下限は、1万が好ましい。従来、このような低分子量のアルギン酸(塩)で着色度が0.040以下のものは存在しなかった。
【0027】
本発明の方法により得られるアルギン酸(塩)は、低分子量成分の含有量が減少している。低分子量のアルギン酸(塩)は着色の原因成分と考えられる。より具体的には、本発明の精製アルギン酸は、分子量が1800以下のアルギン酸(塩)の含有量が0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の方法により得られるアルギン酸(塩)の多分散度(Mw/Mn=重量平均分子量/数平均分子量)は小さくなる。多分散度は、1〜2.6が好ましく、更に1〜2.3、特に1〜2.2が好ましい。
【0029】
本発明の精製アルギン酸(塩)は、着色度が低いため、種々の飲食品に応用することができる。
本発明により得られた精製アルギン酸(塩)を用いた製品としては、例えば精製アルギン酸(塩)を含んだ食品などを挙げることができる。具体的食品としては、飲料、ゼリー、クリーム、麺類、タレ類、スープ、餅等が例示される。特に本発明の精製アルギン酸(塩)が有する低い着色度の効果を有効に発揮するには、例えば、ゼリー、タレ類、麺類などが好ましい。
【0030】
また、飲料の種類としては、具体的に清涼飲料水、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料などの飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末も含む)やゼリー飲料等が挙げられる。特に、低い着色度が要求されるニアウォーターなどの飲料が好ましい。
【0031】
食品又は飲料中の精製アルギン酸(塩)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて、本発明を説明する。
【0033】
(着色度の測定方法)
本発明において、着色度は、以下の方法で測定する。まず、アルギン酸(塩)に水を加えて5.0質量%に調整する。次にこれを開口径0.45μmのメンブレンフィルター(GLクロマトディスク)を用いてろ過する。得られたろ液を1cm角の石英ガラス製セルに注入し、分光光度計(日立製作所:U−2910)により420nmと720nmの吸光度を測定する。そして、420nmの吸光度から720nmの吸光度を差し引いた値を着色度として定義する。
【0034】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法、多分散度(Mw/Mn)の測定方法)
1.前処理(分析試料の作成)
アルギン酸(塩)を0.1g取り、蒸留水で0.1%溶液になるように定容して得られたものを分析試料とする。
2.分析試料を100μLをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する。GPC操作条件は以下の通りである。分子量算出用の検量線には、標準プルラン(Shodex STANDARD P−82(昭和電工株式会社)を用いる。これより、試料中のアルギン酸(塩)の重量平均分子量及び数平均分子量を測定する。
なお、分子量が1800以下のアルギン酸(塩)の含有量は、GPC測定結果より分子量に対する含有量をプロットし、分子量1800以下の部分の面積を積算し、アルギン酸(塩)全体の面積に対する比を計算することにより求めることができる。
カラム:(1)Super AW−L(東ソー株式会社)
(2)TSK−GEL Super AW4000(東ソー株式会社)
TSK−GEL Super AW2500(東ソー株式会社)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
移動相:0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.6mL/min
注入量:100μL
【0035】
実施例1
5質量%水溶液の着色度0.078、重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)を10gを水90gに溶解し、塩酸にてpHを2.0に調整した。10分間攪拌し、その後、遠心分離(3,000rpm、10分間)を行い、沈澱物を回収した。得られた沈澱物に水を90g加えて十分に分散した後、再度遠心分離(3,000rpm、10分間)を行い、沈澱物を回収した。その後、水酸化カリウム溶液を加えてpHが7になるように調整し、凍結乾燥機により十分に乾燥して精製アルギン酸カリウムを得た。なお、全ての操作は室温(25℃)にて行った。
【0036】
実施例2
実施例1と同様にして、但し出発原料を5質量%水溶液の着色度0.049、重量平均分子量31,000のアルギン酸カリウム(カリアルギンK−3:株式会社紀文フードケミファ)を用いて、精製アルギン酸(塩)を得た。
【0037】
実施例3
実施例1と同様にして、但し出発原料を5質量%水溶液の着色度0.042、重量平均分子量54,000のアルギン酸ナトリウム(ソルギン:株式会社カイゲン)を用いて、さらに、水酸化カリウムの変わりに水酸化ナトリウムを用いて、精製アルギン酸ナトリウムを得た。
【0038】
得られたアルギン酸(塩)の5質量%水溶液の着色度、重量平均分子量、多分散度及び分子量1800以下の含有率を表1に示す。表1に示した結果からわかるように、5質量%水溶液の着色度が0.040超のアルギン酸(塩)が、本発明の処理方法により、5質量%水溶液の着色度が0.040以下の精製アルギン酸(塩)になる。
【0039】
比較例1
実施例1で用いた重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)の5質量%溶液を調整した。この溶液の着色度を測定した結果、0.078であった。
【0040】
比較例2
実施例2で用いた重量平均分子量31,000のアルギン酸カリウム(カリアルギンK−3:株式会社紀文フードケミファ)の5質量%溶液を調整した。この溶液の着色度を測定した結果、0.049であった。
【0041】
比較例3
実施例3で用いた重量平均分子量54,000のアルギン酸ナトリウム(ソルギン:株式会社カイゲン)の5質量%溶液を調整した。この溶液の着色度を測定した結果、0.042であった。
【0042】
比較例4
実施例1で用いた重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)に水を加え、溶解させたのち、80%エタノール溶液になるようにエタノールを加えて、十分に攪拌をして洗浄をした。その後、遠心分離(3,000rpm、10分間)を行い、沈澱物を回収し、凍結乾燥機により十分に乾燥して精製アルギン酸カリウムを得た。
得られたアルギン酸(塩)の5質量%水溶液の着色度、重量平均分子量、多分散度及び分子量1800以下の含有率を表1に示す。表1に示した結果からわかるように、5質量%水溶液の着色度は0.066であった。これより、この方法では、アルギン酸(塩)中に含まれる着色成分を十分に除去できないことが示された。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例4
5質量%水溶液の着色度0.078、重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)1.0gを水99.0gに溶解した。分画分子量5,000の限外ろ過フィルター(バイオマックスPBCC 5,000NMWL:ミリポア社製)を装備した攪拌式セル(攪拌式セルModel8050:ミリポア社製)に水溶液を充填し、400kPaで濃縮した。この濃縮液を凍結乾燥により十分に乾燥して精製アルギン酸カリウム0.86gを得た。なお、全ての操作は室温(25℃)にて行った。
【0045】
実施例5
5質量%水溶液の着色度0.078、重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)1.0gを水99.0gに溶解した。分画分子量10,000の限外ろ過フィルター(バイオマックスPBCC 10,000NMWL:ミリポア社製)を装備した攪拌式セル(攪拌式セルModel8050:ミリポア社製)に水溶液を充填し、400kPaで濃縮した。この濃縮液を凍結乾燥により十分に乾燥して精製アルギン酸カリウム0.75gを得た。なお、全ての操作は室温(25℃)にて行った。
【0046】
得られたアルギン酸(塩)の5質量%水溶液の着色度、重量平均分子量、多分散度及び分子量1800以下の含有率を表2に示す。表2に示した結果からわかるように、5質量%水溶液の着色度が0.040超のアルギン酸(塩)が、本発明の処理方法により、5質量%水溶液の着色度が0.040以下の精製アルギン酸(塩)になる。
【0047】
【表2】

【0048】
実施例6
実施例1において得られた精製アルギン酸カリウムを用いて、下記処方1及び処方2のアルギン酸カリウム含有ゼリーを調製した。調整方法は、鍋に水250.0gを入れて沸騰する直前に実施例1で得られた精製アルギン酸カリウム6.0gと粉末寒天をいれて攪拌しながら2〜3分間沸騰させ、砂糖を加えてさらに攪拌し、火を止めた。鍋の粗熱が取れたら型に注いだ。レモン果汁を注ぎいれ、攪拌し、冷蔵庫に入れて20〜30分間冷やして、アルギン酸カリウム含有ゼリーを得た。
【0049】
(処方1) 精製アルギン酸カリウム(実施例1) 6.0g
粉末寒天 2.0g
砂糖 15.0g
レモン果汁 30.0g
水 250.0g
【0050】
(処方2) 精製アルギン酸カリウム(実施例1) 10.0g
粉末寒天 2.0g
砂糖 15.0g
レモン果汁 30.0g
水 250.0g
【0051】
得られた精製アルギン酸カリウム含有ゼリーは、高濃度のアルギン酸カリウムが含まれているにもかかわらず、着色度の少ない、透明性の優れたゼリーであった。
【0052】
実施例7
実施例1にて得られた精製アルギン酸カリウムを用いて、下記処方3のアルギン酸カリウム含有飲料を調整した。調整方法は、実施例1の精製アルギン酸カリウム2.0gを水198.0gに溶解させた。クエン酸を用いてpH4.0に調整した。さらにレモンフレーバーを0.080gを添加し攪拌して溶解させアルギン酸カリウム含有飲料を得た。
【0053】
(処方3) 精製アルギン酸カリウム(実施例1) 2.0g
クエン酸 pH4.0調整
レモンフレーバー 0.080g
水 198.0g
【0054】
得られた精製アルギン酸カリウム含有飲料は、高濃度のアルギン酸カリウムが含まれているにもかかわらず、着色度の少ない、透明性の優れた飲料であった。
【0055】
比較例5
実施例4と同様な調整方法によりアルギン酸カリウム含有ゼリーを調整した。比較例1の重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)を用いた。
【0056】
(処方4) 未処理アルギン酸カリウム 6.0g
粉末寒天 2.0g
砂糖 15.0g
レモン果汁 30.0g
水 250.0g
【0057】
(処方5) 未処理アルギン酸カリウム 10.0g
粉末寒天 2.0g
砂糖 15.0g
レモン果汁 30.0g
水 250.0g
【0058】
得られたアルギン酸カリウム含有ゼリーは、着色していることが外観でわかるゼリーであった。
【0059】
比較例6
実施例5と同様な方法にてアルギン酸カリウム含有飲料を調整した。比較例1の重量平均分子量45,000のアルギン酸カリウム(SKAT−K−ULV:株式会社キミカ)を用いた。
【0060】
(処方6) 未処理アルギン酸カリウム 2.0g
クエン酸 pH4.0調整
レモンフレーバー 0.080g
水 198.0g
【0061】
得られたアルギン酸カリウム含有飲料は、着色していることが外観でわかる飲料であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5質量%濃度の水溶液を1cmセルを用いて吸光光度分析を行った際に420nmの吸光度と720nmの吸光度の差で表される着色度が0.040以下である、重量平均分子量が30万以下のアルギン酸又はその塩。
【請求項2】
分子量が1800以下のアルギン酸又はその塩の含有量が0.3質量%以下である、請求項1記載のアルギン酸又はその塩。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルギン酸又はその塩を含有する食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載のアルギン酸又はその塩を含有する容器詰飲料。
【請求項5】
重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液のpHを3.5以下に調整する工程、及び生成した沈澱を分離する工程を含む、精製アルギン酸又はその塩の製造方法。
【請求項6】
重量平均分子量が30万以下の原料アルギン酸又はその塩の水溶液を、分画分子量2,000〜30,000の限外濾過膜で処理する工程を含む、精製アルギン酸又はその塩の製造方法。

【公開番号】特開2010−187659(P2010−187659A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209159(P2009−209159)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】