説明

精製乳酸環状二量体の製造方法及び製造装置、並びに、ポリ乳酸の製造方法及び製造装置

【課題】本発明の目的はラクチドを効率よく得る方法及びそのための装置を提供することである。
【解決手段】本発明は、精製ラクチドの製造方法であって、乳酸を縮合して得られた乳酸縮合物を解重合して気体状のラクチドを得る解重合工程と、気体状のラクチドを凝縮させる凝縮工程と、凝縮されたラクチドを、L−ラクチド又はD−ラクチドのいずれかである光学活性ラクチドを含む精製ラクチドと、精製ラクチド以外の精製残留物とに分離する精製工程と、精製残留物中のラクチドを蒸発させることにより、精製残留物をラクチドとラクチド以外の蒸発分離残留物とに分離する蒸発分離工程とを含み、蒸発分離工程で分離されたラクチドを凝縮させ、精製工程において再利用することを特徴とする、精製ラクチドの製造方法、並びにそのための装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精製乳酸環状二量体の製造方法及び製造装置に関する。本発明はまたポリ乳酸の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は乳酸を原料として作られる脂肪族ポリエステルである。ポリ乳酸を合成する方法の一つとして、乳酸を濃縮して含有水分を低減させた後に縮合させることで乳酸縮合物(乳酸オリゴマー)を生成させ、これに酸化アンチモン等の触媒を添加して一度解重合させることにより乳酸環状二量体(ラクチド)を生成させ、必要に応じて晶析等による精製を行った後、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。
【0003】
濃縮工程ではモノマーである乳酸に不純物として10〜15%程度の水分(以下、自由水)が含まれている場合があり、モノマー間におけるエステル化処理を起こりやすくさせるためにこの自由水の除去が実施される。この濃縮工程では、120〜250℃での加熱及び、必要に応じて真空ポンプ等を用いた減圧により水分の除去が実施される。
【0004】
縮合工程は、モノマー間のエステル化反応によって生成される水を120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは10Torr以下での減圧により気化して除去する。ここでの減圧は濃縮工程におけるものとは異なり、エステル化反応を進展させるための必須条件である。この縮合工程によりモノマーから乳酸縮合物(以下、オリゴマーと呼称することがある)が生成する。
【0005】
縮合工程で生成したオリゴマーは解重合工程に送られ、120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは100Torr以下での減圧環境下においてオクチル酸スズ、三酸化アンチモン等の解重合触媒との接触により、乳酸環状二量体エステル(以下、ラクチドと呼称することがある)が生成する。生成したラクチドは解重合工程での環境下では通常気体であることが多く、冷却・凝縮により回収された後、精製工程へ送られる。
【0006】
乳酸はキラリティーのある分子であるため、L−乳酸及びD−乳酸というエナンチオマーが存在する。そのため、環状二量体であるラクチドには、L−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド及びL−乳酸とD−乳酸の環状二量体であるメソラクチドといった光学異性体がある。自然界に多く存在する乳酸はL−乳酸であるため、ポリ乳酸合成にはL−ラクチドが用いられることが多い。精製工程では溶媒抽出、再結晶等の手法でL−ラクチドとD−ラクチド及びメソラクチドを分離する。
【0007】
ポリ乳酸合成におけるラクチドの製造方法として種々の技術が開発されている。
【0008】
例えば解重合工程で生成した粗ラクチドを蒸留によって精製ラクチドを得る方法がある(従来技術1:例えば特許文献1に記載)。この方法では、解重合工程で生成した粗ラクチドを分縮器で濃縮した後、蒸気として蒸留システムに連続的に供給し、蒸留システム内の蒸留塔で低沸点塔頂留出物、ラクチド及び高沸点塔底缶留出物に分離される。
【0009】
また、解重合工程で生成した粗ラクチドを蒸留塔を用いて分離させた後、ラクチドを溶融結晶化させて精製ラクチドを得る方法がある(従来技術2:例えば特許文献2に記載)。この方法では、乳酸、水等をオーバーヘッドから、粗ラクチドを側部から、オリゴマー等の高沸点留分は底部から取り出すことで分離する。その後、側部から取り出した粗ラクチドを溶融させた後冷却することで不純物の少ない結晶相と不純物の多い液相を形成し、結晶相と液相を分離した後、結晶相をラクチドの融点未満まで加熱することで不純物を溶融・除去するものである。
【0010】
更にまた、解重合工程で精製した粗ラクチドを含むガスを凝固点以下に冷却し、ラクチドを凝固させその他の不純物を液化させることで分離・精製する方法がある(従来技術3:例えば特許文献3に記載)。
【0011】
【特許文献1】特許第3258324号公報
【特許文献2】特表平10−5−4563号公報
【特許文献3】特表平7−505150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先に述べた従来技術1及び2では粗ラクチドを全量蒸留するため、粗ラクチドを溶融・蒸発させるための大量の熱エネルギーが必要であり、効率が低い。また、蒸留塔を用いるため熱履歴が長く、ラクチドが熱劣化し分解あるいは異性化する可能性が大きく、収率が低下する恐れがある。一方、従来技術3ではラクチドと分離させた不純物中にラクチドが多く含まれているため、収率が低い。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされた。本発明の目的はラクチドを効率よく得る方法及びそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記目的を達成すべく、上記課題について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。以下、本発明について詳述する。
【0015】
(1)精製乳酸環状二量体の製造方法であって、乳酸を縮合して得られた乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合工程と、気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮工程と、凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離する精製工程と、精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、精製残留物を乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離する蒸発分離工程とを含み、蒸発分離工程で分離された乳酸環状二量体を凝縮させ、精製工程において再利用することを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造方法。
【0016】
(2)蒸発分離工程が、精製残留物を薄膜化した状態で乳酸環状二量体を蒸発させる工程であることを特徴とする、(1)記載の方法。
【0017】
(3)蒸発分離工程が遠心薄膜蒸発器を用いて行われることを特徴とする、(2)記載の方法。
【0018】
(4)乳酸を濃縮する濃縮工程と、濃縮工程後の乳酸を縮合して乳酸縮合物を得る縮合工程とを更に含み、縮合工程で得られた乳酸縮合物を解重合工程に用いることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(5)蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含むものであり、該蒸発分離残留物を濃縮工程に還流させて乳酸と共に濃縮し再利用することを特徴とする、(4)記載の方法。
【0020】
(6)蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含むものであり、該蒸発分離残留物を縮合工程に還流させて乳酸と共に縮合し再利用することを特徴とする、(4)記載の方法。
【0021】
(7)蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含み、該蒸発分離残留物を解重合工程において再利用することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の方法により精製乳酸環状二量体を製造する精製乳酸環状二量体製造工程と、精製乳酸環状二量体製造工程により得られた精製乳酸環状二量体を開環重合してポリ乳酸を製造する開環重合工程とを含むことを特徴とする、ポリ乳酸の製造方法。
【0023】
(9)精製乳酸環状二量体の製造装置であって、乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合装置と、解重合装置の下流側に配置され、解重合装置から供給される気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮装置と、凝縮装置の下流側に配置され、凝縮装置から供給される凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離し排出する、精製乳酸環状二量体排出口と精製残留物排出口とを備えた精製装置と、精製装置の精製残留物排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製残留物を、該精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離し排出する、乳酸環状二量体排出口と蒸発分離残留物排出口とを備えた蒸発分離装置と、蒸発分離装置の乳酸環状二量体排出口下流側と凝縮装置の上流側とを接続し、乳酸環状二量体を凝縮装置に供給する供給路とを備えることを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造装置。
【0024】
(10)精製乳酸環状二量体の製造装置であって、乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合装置と、解重合装置の下流側に配置され、解重合装置から供給される気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮装置と、凝縮装置の下流側に配置され、凝縮装置から供給される凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離し排出する、精製乳酸環状二量体排出口と精製残留物排出口とを備えた精製装置と、精製装置の精製残留物排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製残留物を、該精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離し排出する、乳酸環状二量体排出口と蒸発分離残留物排出口とを備えた蒸発分離装置と、
蒸発分離装置の乳酸環状二量体排出口下流側に配置され、蒸発分離装置から供給される乳酸環状二量体を凝縮する第二の凝縮装置と、第二の凝縮装置の下流側と精製装置の上流側とを接続し、乳酸環状二量体を精製装置に供給する供給路とを備えることを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造装置。
【0025】
(11)蒸発分離装置が薄膜蒸発器であることを特徴とする、(9)又は(10)記載の装置。
【0026】
(12)薄膜蒸発器が遠心薄膜蒸発器であることを特徴とする、(11)記載の装置。
【0027】
(13)乳酸を濃縮する濃縮装置と、濃縮装置の下流側に配置され、濃縮装置から供給される濃縮後の乳酸を縮合する縮合装置とを更に備え、解重合装置は縮合装置の下流側に、縮合装置からの乳酸縮合物が供給されるように配置されていることを特徴とする、(9)〜(12)のいずれかに記載の装置。
【0028】
(14)蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と濃縮装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を濃縮装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、(13)記載の装置。
【0029】
(15)蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と縮合装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を縮合装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、(13)記載の装置。
【0030】
(16)蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と解重合装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を解重合装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、(9)〜(13)のいずれかに記載の装置。
【0031】
(17)(9)〜(16)のいずれかに記載の精製乳酸環状二量体の製造装置と、該製造装置における精製装置の精製乳酸環状二量体排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製乳酸環状二量体を開環重合してポリ乳酸を製造する開環重合装置とを備えることを特徴とする、ポリ乳酸の製造装置。
【発明の効果】
【0032】
本発明の方法では、ラクチド精製工程における精製残留物中に残存するラクチドを蒸発分離により回収し再利用することによりラクチドの製造効率を高めることができる。上述の従来技術1のような、粗ラクチドの全量を蒸留することによりラクチドを精製する従来技術と比較して、本発明の方法は必要な熱エネルギーが少なく効率がよい。
【0033】
本発明の方法において蒸発分離工程における蒸発分離残留物中のオリゴマーを解重合工程又はより上流の工程に還流し再利用する場合には、ラクチドの製造効率は更に一層高まる。
【0034】
本発明の方法において精製を加熱を伴わない手段により行い、蒸発分離工程を薄膜蒸発器を用いて行う場合には、製造されるラクチドの熱履歴が少ないため、劣化していない高品質のラクチドをより高い効率で製造することが可能となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(濃縮工程及び濃縮装置)
乳酸の濃縮工程とは、ラクチドの合成のための原料となる乳酸から水分を除去する工程である。乳酸に含まれている水分は、可能な限り加熱して蒸発させることにより除去することが好ましい。加熱は窒素ガス流通下、120〜150℃で行うことが好ましい。
【0036】
乳酸濃縮装置は、典型的には、乳酸を収容するための反応器と、反応器中に収容された乳酸を加熱するための加熱手段(例えば熱媒ジャケット、熱交換器)と、反応器中に収容された乳酸を撹拌するための撹拌手段(例えば撹拌翼)と、乳酸供給口と、乳酸排出口を少なくとも備える。乳酸濃縮装置は更に還流器を備えていることが好ましい。乳酸濃縮工程では水及び乳酸が気体として発生するが、乳酸濃縮装置に還流器が設置されていれば、水および乳酸を含む気体を還流器に導き、前記気体を還流器で冷却して乳酸のみを凝縮して乳酸濃縮装置に戻すことができる。
【0037】
(縮合工程及び縮合装置)
乳酸縮合工程は、乳酸を減圧下で加熱することにより縮合させオリゴマーを生成させる工程である。乳酸縮合工程では縮合に伴い水分が生じる。本発明においてオリゴマーとは、乳酸の2量体から分子量5万程度までの乳酸重合物を含む概念である。本発明の乳酸縮合工程によって得られるオリゴマーの分子量は、平均分子量で通常150〜1万、好ましくは500〜5,000である。
【0038】
乳酸縮合反応は通常圧力100Torr以下、望ましくは10Torr以下、さらに好ましくは1Torr以下で、通常120〜250℃、好ましくは160〜220℃、より好ましくは170〜200℃で実施する。加熱時間を可能な限り短くすることで、乳酸及びオリゴマーの熱分解を抑制することができる。
【0039】
乳酸縮合装置は、典型的には、反応混合物を収容するための反応器と、反応器中に収容された反応混合物を加熱するための加熱手段(例えば熱媒ジャケット、熱交換器)と、反応器中に収容された反応混合物を撹拌するための撹拌手段(例えば撹拌翼)と、乳酸供給口と、オリゴマー排出口を少なくとも備える。乳酸縮合装置は反応器内を減圧する減圧装置と接続されていることが好ましい。そして、乳酸縮合装置と減圧装置との間には還流器を介在させることが好ましい。乳酸縮合反応では水分、乳酸、低分子量のオリゴマー及びその分解で発生するラクチドが気体として発生する。これらは乳酸縮合装置の反応器から減圧装置に向かって移動する。これらの気体は還流器に入り、乳酸、低分子のオリゴマー、ラクチドが気体から除去され、乳酸縮合装置に還流させることができる。
【0040】
乳酸縮合反応に関しては、必要に応じて、乳酸縮合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては従来公知のものを使用することができ、例えば、有機スズ系の触媒(例として乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)及び粉末スズ等が挙げられる。
【0041】
(解重合工程及び解重合装置)
解重合工程は、乳酸縮合物を解重合してラクチドを形成し、気体状のラクチドを生じる工程である。本発明においてラクチド(乳酸環状二量体)とは、乳酸2分子から水2分子を脱水反応させることにより生じる環状エステルを示す。
【0042】
解重合反応においては、必要に応じて解重合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IVB族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0043】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0044】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0045】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトイエ酸スズ、β−ナフトイエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0046】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0047】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。
【0048】
これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0049】
これら触媒の使用量は、オリゴマーに対して0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
【0050】
解重合装置は、典型的には、反応混合物を収容するための反応器と、反応器中に収容された反応混合物を加熱するための加熱手段(例えば熱媒ジャケット、熱交換器)と、反応器中に収容された反応混合物を撹拌するための撹拌手段(例えば撹拌翼)と、オリゴマー供給口と、ラクチド排出口と、残渣排出口を備える。また、通常は温度計等の検温手段も備える。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器、タンク型反応器等を用いることができる。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼等を使用することができる。
【0051】
反応器の加熱は、当技術分野において通常用いられる加熱手段を使用して行うことができる。例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または攪拌翼の回転軸内部に熱媒を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0052】
解重合装置には減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することによりオリゴマーの解重合反応を実施する。当該解重合反応によりラクチドが気体として生成する。
【0053】
(凝縮工程及び凝縮装置)
凝縮工程は、解重合装置で生成したラクチドを含む蒸気から、ラクチドを凝縮して回収する工程である。解重合工程で生成した気体状ラクチドは解重合装置の反応器から減圧装置に向かって移動する。解重合装置の反応器と減圧装置との間に凝縮装置を介在させることで、ラクチドを凝縮させて回収することができる。
【0054】
解重合装置で生成したラクチドを含む蒸気には乳酸オリゴマーなどの不純物が含まれていることが多いため、ラクチドの凝縮を行う前に、解重合装置で生成した蒸気を、不純物である乳酸オリゴマーは凝縮するがラクチドは凝縮しない適切な温度に保持された還流冷却器に通す還流冷却工程を行うことが好ましい。還流冷却工程においてラクチド含有蒸気と分離されたオリゴマーを含む液体は、解重合工程以前の工程に還流されることが好ましい。オリゴマーを戻す装置としては乳酸濃縮装置、乳酸濃縮装置と乳酸縮合装置との間に配置された濃縮乳酸バッファタンク、乳酸縮合装置、乳酸縮合装置と解重合装置との間に配置されたオリゴマーバッファタンク、解重合装置入口等がある。還流冷却工程においてラクチド含有蒸気と分離されたオリゴマーは解重合反応によって分子量が小さくなっている場合がある。ラクチドの収率を向上させるためには再度縮合させて分子量を向上させることが望ましいので、低分子量オリゴマーを含む液体は乳酸縮合工程に還流され再度縮合されることが望ましい。また、オリゴマーを分子量に応じて分離させた後に還流させるために、還流冷却器を多段化しても良い。この場合、低分子量オリゴマーは乳酸濃縮装置、濃縮乳酸バッファタンク、乳酸縮合装置の少なくとも一つに、高分子量オリゴマーは、乳酸縮合装置、乳酸オリゴマーバッファタンク、解重合装置入口の少なくとも一つに戻すことが望ましい。
【0055】
還流冷却器については、金属管を隔てて蒸気と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これはラクチド及びオリゴマーが水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として開環重合反応の進捗を阻害する上、冷却器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。冷媒としてラクチド及びオリゴマーに対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
【0056】
ラクチド凝縮工程では、解重合工程で得られた(好ましくは還流冷却器を通過した)ラクチド含有蒸気をラクチド凝縮装置に導入してラクチドを冷却・凝縮させる。冷却・凝縮されたラクチドは、精製工程に供給される。ラクチド凝縮工程において凝縮しない、水蒸気を多く含む蒸気は、更に下流に設けられた別の凝縮装置に入り、乳酸、低分子のオリゴマー、ラクチドを凝縮して水蒸気を含む気体と分離し、凝縮物はラクチド凝縮装置に還流させることが好ましい。水蒸気を含む気体は更に不純物冷却器に導入され、凝縮・液化され得る。液化された不純物は通常廃棄される。
【0057】
ラクチド凝縮装置についても還流冷却器と同様の構造を有するものを採用できる。ラクチド凝縮装置は、凝縮器本体と、ラクチド蒸気供給口と、ラクチド排出口と、残留蒸気排出口とを少なくとも備える。本明細書において単に「凝縮装置の下流側」といった場合、「凝縮装置のラクチド排出口下流側」を意味する。
【0058】
(精製工程及び精製装置)
凝縮工程で得られるラクチドは、原料としてL−乳酸を用いた場合にはL−ラクチドを主成分とするが、ラセミ化反応により生じたD−ラクチド及びメソラクチドを副生成物として含む。また、ラクチド中には乳酸オリゴマー等の不純物も混在していることが多い。また原料としてD−乳酸を用いた場合に得られるラクチドは、D−ラクチドを主成分とし、L−ラクチド及びメソラクチドを副生成物として含む。
【0059】
精製工程は、凝縮工程で凝縮されたこのような粗ラクチドから、L−ラクチド又はD−ラクチドのいずれかである所望の光学活性ラクチド(通常はL−ラクチド)を含む精製ラクチドを分離する工程である。
【0060】
精製の方法としては特に限定されないがラクチドの劣化の原因となる加熱を伴わない精製方法が好ましい。このような精製方法としては、溶媒抽出、溶融結晶化等を用いることができる。例えば、溶融結晶化法では、溶融させた粗ラクチドを少なくともラクチドの凝固点まで冷却し、溶融物を部分的に結晶化させて不純物の少ない固体結晶相と不純物の多い液相を形成し、結晶相と液相を分離させた後、結晶相を発汗させて不純物を溶融・除去する。精製ラクチドを分離した後の残留物(精製残留物)は、後述する蒸発分離工程に用いられる。精製残留物は通常は液体状である。
【0061】
ラクチド精製装置は、凝縮装置のラクチド排出口の下流側に配置され、典型的には、粗ラクチドを収容するための反応器と、粗ラクチド供給口と、精製ラクチド排出口と、精製残留物排出口を備える。ラクチド精製装置はまた、通常は、温度計等の検温手段も備える。
【0062】
ラクチド精製装置の精製ラクチド排出口から排出された精製ラクチドはポリ乳酸製造のために後述する開環重合工程の原料として使用することができる。
【0063】
精製残留物は多くのラクチドを含んでいる。そこで後述する蒸発分離工程により精製残留物からラクチドを分離回収し、精製工程以前に還流させて再利用する。
【0064】
(蒸発分離工程及び蒸発分離装置)
ラクチド精製装置の精製残留物排出口から排出された精製残留物(通常は液体状)は蒸発分離装置へ移送される。蒸発分離工程は、精製残留物中のラクチドを蒸発分離して回収する工程である。
【0065】
蒸発分離装置は、精製装置の精製残留物排出口下流側に配置され、典型的には、ラクチドを蒸発分離する蒸発器と、精製残留物供給口と、ラクチド排出口と、蒸発分離残留物排出口を少なくとも備える。蒸発分離装置はまた、通常は、温度計等の検温手段も備える。蒸発分離装置としては縦型でも横型でも良く、蒸留塔を用いることも可能であるが、遠心薄膜蒸発器に代表される、外力を用いて精製残留物を薄膜化させ、薄膜化させた状態でラクチドを蒸発させる装置を用いることが望ましい。薄膜化することにより、処理対象である精製残留物の温度が短時間で上がりやすくラクチドの蒸発を数秒から数十秒で完了することが可能である。また液膜が薄いためラクチドの蒸発が非常に早い。このように処理対象物の熱履歴が短いため、異性化反応により生成する光学異性体及び熱分解されることで生成する不純物が少なく、効率良くラクチドを回収することができる。
【0066】
遠心薄膜蒸発器は、典型的には、円筒状または円錐筒状の加熱可能な内壁面を有する固定された装置ケーシングと、装置ケーシング内で前記内壁面の軸心に沿って回転する回転翼を有している。前記翼は通常は、板状部材が、回転軸に平行になるように、回転軸上に、回転により形成される円の半径方向に突出するように設置されたものである。そのほかの翼の形状としては、板状部材が回転軸に対して斜めに回転軸上に配置にされたスクリュー状のものがある。遠心薄膜蒸発器は回転軸が地面に対して水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもののいずれでも良い。装置ケーシング内に供給された精製残留物は、回転した回転翼による遠心力により装置ケーシングの内壁面に衝突し、該内壁面上で薄膜を形成する。内壁面上での加熱により薄膜の蒸発が促される。本方式では設備規模を小さくできる、翼とケーシングとの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。遠心薄膜蒸発器の概略図を図2に示す。
【0067】
遠心薄膜蒸発器は、以下の利点を備えている。まず、蒸発能力が大きいため、比較的高粘度の物質の処理に適している。これは、回転翼によって液が均一な薄膜にされ、かつ強力に攪拌されるため高粘度物質でも伝熱係数が大きく取れるためである。次に、滞留時間を短くできるため、熱不安定物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理され、ごく短時間で所定の濃度まで濃縮されるので、熱不安定物質の処理に適しているためである。そして、真空蒸発に対応可能であるため、熱不安定物質や高沸点物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理されることで液ヘッドによる沸点上昇がなく、系内の真空度における沸点で蒸発させることができるためである。また、スケールがつかず連続運転が可能であるため高粘度物質やスラリー液の処理に適している。これは、液が回転翼により攪拌され、伝熱面が常に新しい液と更新されるためである。また、回転翼により遠心薄膜蒸発器内に飛散した液滴がたたかれ遠心力により回転翼上の液膜に押し戻されることで吸収されるため、オリゴマーが蒸発分離装置から液滴となって飛散し排出されることを防止する。
【0068】
遠心薄膜蒸発器は装置体積と比較して蒸発面積が大きいことから、蒸留塔を用いる場合と比較して装置を小型化できる。
【0069】
また、蒸発分離装置には減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは170〜230℃で加熱することにより精製残留物の蒸発分離を実施する。当該蒸発分離によりラクチドを回収した残留物(蒸発分離残留物)には乳酸オリゴマーを主成分とする高沸点物質が含まれる。
【0070】
(ラクチドの再利用)
蒸発分離工程で分離されたラクチドは凝縮された後、前記精製工程において再利用される。
【0071】
蒸発分離工程で分離されたラクチドの凝縮は、上述の解重合装置と精製装置の間に設けられたラクチド縮合装置に還流されて行われてもよい。すなわち本発明の精製ラクチド製造装置は、蒸発分離装置のラクチド排出口下流側と凝縮装置の上流側とを接続し、ラクチドを凝縮装置に供給する供給路とを備えるものであってよい。
【0072】
蒸発分離工程で分離されたラクチドの凝縮はまた、別途独立に設けられた第二のラクチド凝縮装置において行われてもよい。すなわち本発明の精製ラクチド製造装置はまた、蒸発分離装置のラクチド排出口下流側に配置され、蒸発分離装置から供給されるラクチドを凝縮する第二の凝縮装置と、該第二の凝縮装置の下流側と精製装置の上流側とを接続し、ラクチドを精製装置に供給する供給路とを更に備えるものであってよい。第二の凝縮装置の構成及び凝縮の条件は、解重合装置と精製装置の間に設けられた凝縮装置の構成及び凝縮の条件と同様である。蒸発分離装置と第二の凝縮装置との間には、更に第二の還流冷却装置を配置してもよい。
【0073】
(蒸発分離残留物の再利用)
蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口から排出された蒸発分離残留物(廃液)は解重合工程又はより上流側の工程へ還流されるが、不純物が多く含まれている等の事情により原料収率向上に寄与しないと判断される場合は廃棄しても良い。
【0074】
具体的には、蒸発分離残留物が乳酸オリゴマーを含む場合、蒸発残留物を乳酸濃縮工程に還流させて乳酸と共に濃縮し再利用するか、蒸発残留物を乳酸縮合工程に還流させて乳酸と共に縮合し再利用するか、或いは蒸発残留物を解重合工程に還流させてラクチドの製造に直接再利用することができる。
【0075】
(開環重合工程及び開環重合装置)
本発明はまた、上述の精製ラクチド製造工程により得られた精製ラクチドを開環重合することによりポリ乳酸を製造する方法及びそのための装置に関する。
【0076】
ラクチド精製装置から排出された精製ラクチドは開環重合装置に移送され、開環重合装置によりポリ乳酸に変換される。
【0077】
開環重合装置では不活性ガス雰囲気下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することによりラクチドの開環重合反応を実施する。開環重合反応は10torr以下まで減圧して行うことが好ましい。当該開環重合反応によりポリ乳酸が生成する。
【0078】
開環重合装置は、典型的には、反応混合物を収容するための反応器と、反応器中に収容された反応混合物を加熱するための加熱手段(例えば熱媒ジャケット、熱交換器)と、反応器中に収容された反応混合物を撹拌するための撹拌手段(例えば撹拌翼)と、精製ラクチド供給口と、ポリ乳酸排出口を供える。開環重合装置はまた、通常は温度計等の検温手段を備える。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器、タンク型反応器等を用いることができ、2つ以上の反応器を直列して用いても構わない。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0079】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる加熱手段を用いた方法を使用することができる。加熱方法としては、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0080】
開環重合反応の触媒としては、必要に応じて解重合反応のための触媒と同じものを用いても良い。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IVB族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0081】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0082】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0083】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトイエ酸スズ、β−ナフトイエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0084】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0085】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。
【0086】
これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0087】
これら触媒の使用量は、ラクチドに対して1〜2000ppm、好ましくは5〜1500ppm、より好ましくは10〜1000ppm程度である。
【0088】
開環重合反応においては、分子量の調整等を目的として、必要に応じて解重合反応のための重合開始剤を添加しても良い。重合開始剤としては1−ドデカノール等のアルコール類のように水酸基を有する物質を用いることができる。なお、重合開始剤の濃度が700ppmの場合、ポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。
【0089】
以下、本発明のポリ乳酸製造装置の具体的な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態のみには限定されない。
【0090】
(具体的な実施形態1)
図1では、本発明のポリ乳酸製造装置において、蒸発分離装置27のラクチド排出口36から排出されたラクチドを供給路38により、ラクチド凝縮器13の上流側にある還流冷却器12に供給して再利用する実施形態(実施形態1)を模式的に示す。図1に示す装置は、反応経路上流側から、乳酸供給装置1、液送ポンプ2、乳酸濃縮装置3、液送ポンプ4、濃縮乳酸バッファタンク5、液送ポンプ6、乳酸縮合装置7、液送ポンプ8、オリゴマーバッファタンク9、液送ポンプ10、解重合装置11、還流冷却器12、ラクチド凝縮器13、液送ポンプ14、ラクチド精製装置15、液送ポンプ16、開環重合装置17の順番で配置され、ラクチド精製装置15の精製残留物(廃液)排出口35から蒸発分離装置27の順番で配置されて成る。本実施形態に係る装置を用いた処理条件は上述の通りである。
【0091】
乳酸は乳酸供給装置1から供給され、乳酸濃縮装置3において加熱され水分を除去され濃縮乳酸となる。
【0092】
乳酸濃縮工程で発生する水及び乳酸を含む気体は還流器18に入り、乳酸が気体から除去され、乳酸濃縮装置3に還流される。
【0093】
乳酸濃縮装置3で製造された濃縮乳酸は濃縮乳酸バッファタンク5を経て乳酸縮合装置7へ送られる。
【0094】
乳酸縮合装置7では乳酸の縮合反応を進め、これに伴い発生する水分を蒸発させる。乳酸縮合反応で発生する、水分、乳酸、低分子量のオリゴマー及びその分解で発生するラクチドを含む気体は乳酸縮合装置7から減圧装置23に向かって移動する。これらの気体は還流器21に入り、乳酸、低分子のオリゴマー、ラクチドが気体から除去され、乳酸縮合装置7に還流される。
【0095】
乳酸縮合装置7で生成したオリゴマーは解重合装置11へ送られる。
【0096】
解重合装置11ではオリゴマーの解重合反応を進める。この反応により生成した気体ラクチドは還流冷却器12に送られる。
【0097】
還流冷却器12では気体ラクチドを冷却することでラクチドに含まれるオリゴマー等の不純物を液化し、気体であるラクチドはラクチド凝縮器13に送られる。ラクチドと分離されたオリゴマーを含む液体は解重合反応によってオリゴマーの分子量が小さくなっているものが多い。ラクチドの収率を向上させるためには分子量の小さいオリゴマーを再度縮合させて分子量を向上させることが望ましいので、ラクチドと分離された低分子量オリゴマーを含む液体は乳酸縮合装置7に還流される。
【0098】
気体ラクチドはラクチド凝縮器13において冷却・凝縮された後ラクチド精製装置15に送られる。ラクチドと分離された水蒸気を多く含む気体は凝縮器24に入り、乳酸、低分子のオリゴマー、ラクチドが気体から除去され、ラクチド凝縮器13に還流される。
【0099】
凝縮器24において凝縮されなかった蒸気は不純物冷却器25に入り、ここで凝縮・液化される。液化された不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物冷却器25で凝縮されなかったガスは減圧装置26を経て、系外に放出される。
【0100】
ラクチド精製装置15では目的とするラクチド、主にL−ラクチドとその他不純物を分離・精製する。ラクチド精製装置15で分離された精製ラクチドは精製ラクチド排出口34から、精製残留物は精製残留物排出口35から、それぞれ排出される。
【0101】
ラクチド精製装置15の精製ラクチド排出口34から排出されたラクチドは開環重合装置17に移送される。
【0102】
開環重合装置17ではラクチドの開環重合反応を進める。
【0103】
蒸発分離装置27ではラクチド精製装置15の精製残留物排出口35から排出される精製残留物(廃液)に含まれるラクチドを分離させる。この反応により生成した気体ラクチドは、蒸発分離装置27のラクチド排出口36から排出され、供給路38により、ラクチド凝縮器13の上流側にある還流冷却器12に送られ再利用される。オリゴマーを含む蒸発分離残留物(廃液)は、蒸発分離装置27の蒸発分離残留物排出口37から排出され、供給路39により、解重合装置11の上流側に還流されるが、不純物が多く含まれている等、原料収率向上に寄与しないと判断される場合は廃棄しても良い。
【0104】
(具体的な実施形態2)
図3では、本発明のポリ乳酸製造装置において、蒸発分離装置27と精製装置15との間に第二の還流冷却器29及び第二のラクチド凝縮器30を設けることにより、蒸発分離装置27で分離されラクチド排出口36から排出されたラクチドを第二の還流冷却器29及び第二のラクチド凝縮器30を通して凝縮し、供給路40により、精製装置15の上流側に還流させて再利用する実施形態を模式的に示す。本発明のこの実施形態によれば、蒸発分離装置で分離されたラクチドの組成に適合したラクチドの凝縮条件の設定が容易になり、精製ラクチド及びポリ乳酸の品質の管理が容易になるという利点がある。
【0105】
図3に示す実施形態では、第二のラクチド凝縮器30で凝縮されたラクチドは、供給路40を経て、精製装置15の上流側に移送され、再利用される。ラクチドと分離された水蒸気を多く含む気体は凝縮器31に入り、乳酸、低分子のオリゴマー、ラクチドが気体から除去され、第二のラクチド凝縮器30に還流される。
【0106】
凝縮器31において凝縮されなかった蒸気は不純物冷却器32に入り、ここで凝縮・液化される。液化された不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物冷却器32で凝縮されなかったガスは減圧装置33を経て、系外に放出される。
【0107】
図3において図1と同一の符号を有する構成要素は、図1に基づいて説明した上述の実施形態1における各構成要素と同一の機能及び特徴を有する。
【実施例】
【0108】
以下本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0109】
〔実施例1〕
図1に示すポリ乳酸製造装置を用いて、ポリ乳酸の製造を行った。原料として、数平均分子量630の乳酸オリゴマーを解重合装置11に投入した。解重合装置11での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。解重合装置11における乳酸オリゴマーの滞留時間を5時間、液膜厚さ(液深)を55cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度を0.7kg/mとした。
【0110】
蒸発分離装置27での反応は、10torr以下まで減圧し、210℃の温度で行った。蒸発分離装置27としては遠心薄膜蒸発器を用いた。
【0111】
ここでオリゴマーの滞留時間は溶融オリゴマーの供給流量と解重合装置から排出される蒸気の凝縮物流量が等しく、液膜厚さが安定化した時の溶融オリゴマー供給流量/オリゴマー解重合装置11における溶融オリゴマー滞留量で定義した。
【0112】
解重合工程での光学異性体化率の増加は0.9%であった(ラクチド精製装置15の直前で測定)。
【0113】
また、得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸は、その品質を表す着色がb値で2.5であり、解重合時におけるラクチドおよびオリゴマーの熱分解の影響は小さいと考えられる。開環重合装置17での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。
【0114】
以上から、従来廃棄していたラクチド精製装置からの廃液からラクチドを回収することにより収率の向上及びプラントの安定運転が可能となる。そして、この結果として品質の高いポリ乳酸が得られることがわかる。
【0115】
〔実施例2〕
図3に示すポリ乳酸製造装置を用いて、ポリ乳酸の製造を行った。原料として、数平均分子量630の乳酸オリゴマーを解重合装置11に投入した。解重合装置11での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。解重合装置11における乳酸オリゴマーの滞留時間を5時間、液膜厚さ(液深)を55cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度を0.7kg/mとした。
【0116】
蒸発分離装置27での反応は、10torr以下まで減圧し、210℃の温度で行った。蒸発分離装置27としては遠心薄膜蒸発器を用いた。
【0117】
ここでオリゴマーの滞留時間は溶融オリゴマーの供給流量と解重合装置から排出される蒸気の凝縮物流量が等しく、液膜厚さが安定化した時の溶融オリゴマー供給流量/オリゴマー解重合装置11における溶融オリゴマー滞留量で定義した。
【0118】
解重合工程での光学異性体化率の増加は0.9%であった(ラクチド精製装置15の直前で測定)。
【0119】
また、得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸は、その品質を表す着色がb値で2.5であり、解重合時におけるラクチドおよびオリゴマーの熱分解の影響は小さいと考えられる。開環重合装置17での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。
【0120】
以上から、従来廃棄していたラクチド精製装置からの廃液からラクチドを回収することにより収率の向上及びプラントの安定運転が可能となる。そして、この結果として品質の高いポリ乳酸が得られることがわかる。
【0121】
〔比較例〕
実施例1および2と同じ数平均分子量630の乳酸オリゴマーを用いて、解重合工程後に、解重合工程で生成した粗ラクチドを分縮器で濃縮した後、蒸気として蒸留塔に供給し、蒸留塔内で低沸点塔頂留出物、ラクチド及び高沸点塔底缶留出物に分離し、精製ラクチドを得る従来の装置(従来技術1の装置)でバッチ方式による解重合を行った。本方法では蒸留塔で精製ラクチドと分離された未反応オリゴマー、粗ラクチド等を解重合工程に還流させた。解重合時間10時間、初期液面高さ80cm、初期触媒濃度5kg/mの条件で解重合反応を実施した。解重合反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。その結果、生成したラクチドについて、解重合工程での光学異性体化率の増加は9%であった。
【0122】
得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸の着色はb値で4.4であった。開環重合装置での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。
【0123】
これらの結果から、解重合工程で得られた粗ラクチドを全量蒸留して精製ラクチドを得て、蒸留塔からの精製残留物を解重合工程に還流させる従来の方法では、乳酸オリゴマーの熱分解で不純物が生成し、結果としてポリ乳酸の品質が低下することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明のポリ乳酸製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に用いることができる遠心薄膜蒸発器の構造の模式図である。図2(a)はその側断面図、図2(b)はその横断面図である。
【図3】本発明のポリ乳酸製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0125】
1 乳酸供給装置
2 液送ポンプ
3 乳酸濃縮装置
4 液送ポンプ
5 濃縮乳酸バッファタンク
6 液送ポンプ
7 乳酸縮合装置
8 液送ポンプ
9 オリゴマーバッファタンク
10 液送ポンプ
11 解重合装置
12 還流冷却器
13 ラクチド凝縮器(凝縮装置)
14 液送ポンプ
15 ラクチド精製装置
16 液送ポンプ
17 開環重合装置
18 還流器
19 冷却器
20 減圧装置
21 還流器
22 冷却器
23 減圧装置
24 凝縮器
25 不純物冷却器
26 減圧装置
27 蒸発分離装置
28 液送ポンプ
29 第二の還流冷却器
30 第二のラクチド凝縮器(第二の凝縮装置)
31 凝縮器
32 不純物冷却器
33 減圧装置
34 精製ラクチド排出口
35 精製残留物排出口
36 ラクチド排出口
37 蒸発分離残留物排出口
38 供給路
39 供給路
40 供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製乳酸環状二量体の製造方法であって、
乳酸を縮合して得られた乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合工程と、
気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮工程と、
凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離する精製工程と、
精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、精製残留物を乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離する蒸発分離工程とを含み、
蒸発分離工程で分離された乳酸環状二量体を凝縮させ、精製工程において再利用することを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造方法。
【請求項2】
蒸発分離工程が、精製残留物を薄膜化した状態で乳酸環状二量体を蒸発させる工程であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蒸発分離工程が遠心薄膜蒸発器を用いて行われることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
乳酸を濃縮する濃縮工程と、
濃縮工程後の乳酸を縮合して乳酸縮合物を得る縮合工程とを更に含み、縮合工程で得られた乳酸縮合物を解重合工程に用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含むものであり、該蒸発分離残留物を濃縮工程に還流させて乳酸と共に濃縮し再利用することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含むものであり、該蒸発分離残留物を縮合工程に還流させて乳酸と共に縮合し再利用することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項7】
蒸発分離残留物が乳酸縮合物を含み、該蒸発分離残留物を解重合工程において再利用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により精製乳酸環状二量体を製造する精製乳酸環状二量体製造工程と、
精製乳酸環状二量体製造工程により得られた精製乳酸環状二量体を開環重合してポリ乳酸を製造する開環重合工程とを含むことを特徴とする、ポリ乳酸の製造方法。
【請求項9】
精製乳酸環状二量体の製造装置であって、
乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合装置と、
解重合装置の下流側に配置され、解重合装置から供給される気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮装置と、
凝縮装置の下流側に配置され、凝縮装置から供給される凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離し排出する、精製乳酸環状二量体排出口と精製残留物排出口とを備えた精製装置と、
精製装置の精製残留物排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製残留物を、該精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離し排出する、乳酸環状二量体排出口と蒸発分離残留物排出口とを備えた蒸発分離装置と、
蒸発分離装置の乳酸環状二量体排出口下流側と凝縮装置の上流側とを接続し、乳酸環状二量体を凝縮装置に供給する供給路とを備えることを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造装置。
【請求項10】
精製乳酸環状二量体の製造装置であって、
乳酸縮合物を解重合して気体状の乳酸環状二量体を得る解重合装置と、
解重合装置の下流側に配置され、解重合装置から供給される気体状の乳酸環状二量体を凝縮させる凝縮装置と、
凝縮装置の下流側に配置され、凝縮装置から供給される凝縮された乳酸環状二量体を、L−乳酸環状二量体又はD−乳酸環状二量体のいずれかである光学活性乳酸環状二量体を含む精製乳酸環状二量体と、精製乳酸環状二量体以外の精製残留物とに分離し排出する、精製乳酸環状二量体排出口と精製残留物排出口とを備えた精製装置と、
精製装置の精製残留物排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製残留物を、該精製残留物中の乳酸環状二量体を蒸発させることにより、乳酸環状二量体と乳酸環状二量体以外の蒸発分離残留物とに分離し排出する、乳酸環状二量体排出口と蒸発分離残留物排出口とを備えた蒸発分離装置と、
蒸発分離装置の乳酸環状二量体排出口下流側に配置され、蒸発分離装置から供給される乳酸環状二量体を凝縮する第二の凝縮装置と、
第二の凝縮装置の下流側と精製装置の上流側とを接続し、乳酸環状二量体を精製装置に供給する供給路とを備えることを特徴とする、精製乳酸環状二量体の製造装置。
【請求項11】
蒸発分離装置が薄膜蒸発器であることを特徴とする、請求項9又は10記載の装置。
【請求項12】
薄膜蒸発器が遠心薄膜蒸発器であることを特徴とする、請求項11記載の装置。
【請求項13】
乳酸を濃縮する濃縮装置と、
濃縮装置の下流側に配置され、濃縮装置から供給される濃縮後の乳酸を縮合する縮合装置とを更に備え、
解重合装置は縮合装置の下流側に、縮合装置からの乳酸縮合物が供給されるように配置されていることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と濃縮装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を濃縮装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、請求項13記載の装置。
【請求項15】
蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と縮合装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を縮合装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、請求項13記載の装置。
【請求項16】
蒸発分離装置の蒸発分離残留物排出口下流側と解重合装置の上流側とを接続し、蒸発分離残留物を解重合装置に供給する供給路を更に備えることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
請求項9〜16のいずれか1項記載の精製乳酸環状二量体の製造装置と、
該製造装置における精製装置の精製乳酸環状二量体排出口下流側に配置され、精製装置から供給される精製乳酸環状二量体を開環重合してポリ乳酸を製造する開環重合装置とを備えることを特徴とする、ポリ乳酸の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−256210(P2009−256210A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103580(P2008−103580)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】