説明

精製油劣化度測定装置及び精製油劣化度測定方法

【課題】使用中の精製油の劣化度をその使用現場でモニタする。
【解決手段】精製油に対して励起光Rを強度を変化させて照射する励起光照射部1と、前記励起光Rを照射されて発生する蛍光Qの強度を検出する蛍光強度検出部2と、前記励起光Rの強度変化に対する蛍光Q強度変化の時間遅れ特性を算出する時間遅れ特性算出部33と、精製油の劣化度を示す劣化指標値及び前記時間遅れ特性との相関関係を参照して、前記時間遅れ特性算出部33で算出された時間遅れ特性から前記劣化指標値を求める劣化指標値取得部35とを設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶や自動車等に搭載される内燃機関等の潤滑油や絶縁油、食品油などに代表される精製油の劣化度を測定する精製油劣化度測定装置及び精製油劣化度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精製油とはベースオイルに酸化防止剤や清浄分散剤等の添加剤を混入させたものであり、その種類としては、上述したように、摩擦低減や放熱などの目的で用いられる潤滑油や、変圧器に用いられる絶縁油、あるいは食品油等がある。かかる精製油は、使用や時間経過に伴って徐々に劣化する。そして、その劣化度を示す指標として、従来、前記添加剤の状態量である中和価や全酸価、全塩基価などが用いられている。
【0003】
例えば全塩基価は、前記添加剤の酸中和性、清浄性などを示す指標であり、この値の低下は添加剤の消費が進んでいることを示している。
【0004】
現在のところ、この全塩基価を測定するための規格で定められた方法として、滴定液が一定のpHに達したときを終点とする滴定法(JIS)と、FTIRの吸光度で判断する方法(ASTM)とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US6,633,043
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した測定方法は、精製油をサンプル取得してバッチ処理する必要があるうえ、前者は測定に高い専門性が必要であり、後者は振動に弱いという不具合もあって、精製油使用現場(in situ)での測定が難しい。
【0007】
かかる問題を解決すべく鋭意研究した結果、精製油に一定波長の励起光を照射したときに生じる蛍光の時間遅れと、精製油の劣化指標値との間に高い相関関係があることを本発明者は見いだした、本発明は、この相関関係に基づいて精製油の劣化度を測定するようにしたものであり、その主たる目的は、精製油使用現場(in situ)での劣化度を簡易に測定可能とすることにある。
【0008】
なお、蛍光を利用して精製油の種類や劣化度を測定する方法を開示したものとして特許文献1がある。しかしながら、この特許文献1記載の方法は、要すれば、蛍光波長毎の強度時間変化プロファイルを、横軸を時間、縦軸を波長としたグラフ上に同一強度を示す等高線として表し、この等高線図の類似性によって油の種類や劣化度を判定するようにしたものである。すなわち、この特許文献1では、各蛍光波長間での時間変化プロファイルの相対的な近似性を利用しており、励起光の照射に対する蛍光発生の時間遅れ特性には全く着目していない。況や前記時間遅れ特性と精製油の劣化指標値との間に相関関係があることについては全く記載乃至示唆は無い。したがって、この特許文献1は本発明と似て非なるものであると言える。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る精製油劣化度測定装置又は精製油劣化度測定方法は、測定対象である精製油に対して励起光を強度を変化させて照射し、前記励起光を照射された精製油で発生する蛍光の強度を検出し、前記励起光の強度変化に対する蛍光強度変化の時間遅れ特性を算出したうえで、予め測定等により取得しておいた、前記精製油の劣化度を示す劣化指標値と前記時間遅れ特性との相関関係を参照して、前記のように算出した時間遅れ特性から前記劣化指標値を求めるようにしたものである。
【0010】
このようなものであれば、精製油に励起光を照射し、その蛍光を受光して演算処理するだけなので、例えば自動車や船舶等にこの精製油劣化度測定装置を取り付けることにより、使用中の精製油の劣化度をサンプリングすることなくモニタすることが可能となる。
具体的な劣化指標としては全塩基価を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成した本発明によれば、例えばオイルタンクに光を透過させる窓を設け、その内部の精製油に励起光を照射すれば、その蛍光を受光して自動的に劣化度が演算されるので、操作にあたって特に専門性は不要である。また、振動や汚染に対する脆弱性も見あたらないので、使用現場(in situ)での精製油の劣化度を測定することができ、さらには、サンプリングすることなくリアルタイムでモニタすることも可能となる。
【0012】
そして、その結果、的確な時期に精製油交換ができるようになるため、精製油交換時期を遅く誤ることによる機器の故障や動作効率の低下等を防止できるだけでなく、精製油を頻繁に交換しすぎることによる無駄を防止することができ、ECOにも貢献し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における精製油劣化度測定装置の全体概要図である。
【図2】新旧の精製油の違いによる蛍光強度の時間変化プロファイルの違いを示す測定結果図である。
【図3】全塩基価と時間遅れ特性との相関関係を示す検量線図である。
【図4】前記一実施形態における精製油劣化度測定装置の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る精製油劣化度測定装置100は、図1に示すように、例えば内燃機関のオイルタンクTに収容された精製油の一種である潤滑油に励起光Rを照射し、それによって発生する蛍光Qを利用して、当該潤滑油の劣化度を測定するものである。
【0016】
より具体的に説明すると、この精製油劣化度測定装置100は、前記励起光Rを照射する励起光照射部1と、潤滑油で発生する蛍光Qの強度を検出する蛍光強度検出部2と、この蛍光強度検出部2で検出された蛍光強度に基づいて潤滑油の劣化度を判定する演算装置3とを具備したものである。
【0017】
前記励起光照射部1は、ここでは、例えば360nm付近の近紫外光を発生するレーザ光源11と、その近紫外光の波長域を狭く制限して励起光Rとするバンドパスフィルタ13と、適宜箇所に設けたコリメータレンズ12及び集光レンズ14とからなる。この励起光照射部1で発生した励起光Rは、例えば前記オイルタンクTに設けた励起光導入窓1wを介して内部の潤滑油に照射される。
【0018】
前記蛍光強度検出部2は、励起光Rの照射によって潤滑油で発生し、オイルタンクTに設けた蛍光導出窓2wを通って出てきた蛍光のうち、所定波長より長い帯域の蛍光Qを通過させるローパスフィルタ24と、そのローパスフィルタ24を通った蛍光Qのうち、所望波長のものを抽出する分光器22と、その分光器22で抽出された蛍光Qを受光してその強度を測定するCCD等の光センサ21と、適宜箇所に設けた集光レンズ23及びコリメータレンズ25とを具備したものである。測定する蛍光Qの波長は、前記励起光Rと異なる波長域に設定してあり、ここでは例えば420nm付近の蛍光Qを測定するようにしている。
【0019】
演算装置3は、CPUやメモリ等のデジタル回路と、前記レーザ光源11をドライブする増幅器等のアナログ回路とからなるものであり、それらが協働することによって、励起光制御部31、蛍光強度信号受光部32、時間遅れ特性算出部33、相関関係記憶部34、劣化指標値取得部35、表示部36等としての機能を発揮する。
【0020】
励起光制御部31は、前記レーザ光源11に制御信号を出力して励起光Rの強度を変化させるものである。ここでは、例えば非常に短いパルス状の励起光Rが発生するように制御信号を出力する。なお、強度変化の代表例としては、この実施形態のようにON/OFFの他、正弦波状や三角波状に変化させた態様が挙げられる。
【0021】
蛍光強度信号受光部32は、前記光センサ21から出力される蛍光強度信号を受信するものである。
【0022】
時間遅れ特性算出部33は、前記励起光Rの強度変化に対して、前記蛍光強度信号が示す蛍光強度変化の時間遅れ特性を算出するものである。より具体的には、前述したように、励起光Rとして短いパルス光を出力しているので、そのパルスの立ち上がり時刻、例えば前記制御信号の出力時刻を基準とし、その基準時から蛍光強度のピーク値に対し所定割合の値まで減少した時点までの時間(以下、遅れ時間とも言う。)を時間遅れ特性として算出する。
【0023】
相関関係記憶部34は、メモリの所定領域に設定されたものであり、ここには前記潤滑油の全塩基価値と前記時間遅れ特性との相関関係が予め格納されている。この相関関係は、本発明者が鋭意努力の末に見いだしたものである。その一例を説明すると、例えば前述のように短パルス励起光Rを与えた場合、蛍光強度(実際には蛍光強度に対応する関連値)の時間変化プロファイルは、図2に示すとおり、時間遅れを伴って変化する。これを新しい潤滑油及び徐々に劣化の進んだ各潤滑油で比較すると、前記基準時から蛍光強度のピーク値に対し所定割合の値まで減少した時点までの時間が、徐々に小さくなっていくことがわかる。なお、各潤滑油での蛍光強度の絶対値は実際には異なるため、この図2では、理解容易のために、各蛍光強度のピーク値が同一となるように正規化演算を施してある。
【0024】
そして、規格に定められた滴定法で測定した全塩基価と前記遅れ時間との関係を調べると、図3に示すように、高い相関性があることがわかる。この相関関係、言い換えれば検量線を、前記相関関係記憶部34は記憶している。劣化指標値取得部35は、前記相関関係記憶部34に格納された前記相関関係を参照して、前記時間遅れ特性算出部33で算出された遅れ時間から劣化指標値である全塩基価を求めるものである。
【0025】
表示部36は、前記劣化指標値取得部35で得られた全塩基価を表示するものである。なお、その他に、その全塩基価に基づいてオイル劣化度を複数段階で表示したり、あるいは、全塩基価に基づいてオイル交換が不要か必要かを判断し、その旨を表示したりするものでも構わない。
【0026】
次に、かかる構成の精製油劣化度測定装置100の動作を図4を参照して説明する。まず、励起光制御部31から制御信号が送信されて、励起光照射部1から短パルス状の励起光Rが潤滑油に照射される(励起光照射ステップS1)。次に、その照射により潤滑油で発生する蛍光Qを蛍光強度検出部2が検出し、その強度を示す蛍光強度信号を出力する(蛍光強度検出ステップS2)。
【0027】
そして、前記時間遅れ特性算出手段が、励起光制御部31で出力された制御信号の立ち上がり時刻を基準として、前記強度信号受信部で受信された蛍光強度信号から前記遅れ時間を算出する(時間遅れ特性算出ステップS3)。
【0028】
その後、劣化指標値取得部35が、前記全塩基価と前記遅れ時間との間の予め求めておいた相関関係を参照して、測定された遅れ時間から前記全塩基価を求め(劣化指標値取得ステップS4)、その全塩基価を表示部36が表示する(表示ステップS5)。
【0029】
しかして、このようなものであれば、オイルタンクTに窓1w、2wを設けて、内部の潤滑油精製油に励起光Rを照射し、その蛍光Qを受光して演算処理するだけなので、例えば自動車や船舶等に、この精製油劣化度測定装置100を取り付けることにより、究極的には使用中の潤滑油の劣化度をサンプリングすることなくリアルタイムでモニタすることが可能となる。したがって、的確で無駄のない潤滑油交換をすることができるようになる。また。励起光として短パルス光を用いているので、蛍光強度が弱くとも、精度良く測定できる効果もある。なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0030】
例えば、前記励起光に短パルス光を用いたが、要は、励起光の強度が時間で変化しさえすればよい。そうすれば、その強度変化に対する蛍光の強度変化を測定することで時間遅れ特性がわかるからである。したがって、例えば前述したように励起光の強度を正弦波状や三角波状に変化させてもかまわない。また、蛍光の時間応答波を周波数解析し、その結果と劣化指標とを関連づけることも考えられる。劣化指標として全酸価や中和価などを用いてもよい。潤滑油の他に、添加剤が含まれているオイル、例えば絶縁油や食品油であれば、その劣化度を測定することができる。
【0031】
光源は、LEDに限られず、半導体レーザや水銀ランプなどを用いることもできる。また励起光の波長は、精製油によって変えても良いし、取得する蛍光の波長も前記実施形態に限られるものではない。その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
100・・・精製油劣化度測定装置。
1・・・励起光照射部
2・・・蛍光強度検出部
33・・・時間遅れ特性算出部
34・・・相関関係記憶部
35・・・劣化指標値取得部
R・・・励起光
Q・・・蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である精製油に対して励起光を強度を変化させて照射する励起光照射部と、
前記励起光を照射された精製油で発生する蛍光の強度を検出する蛍光強度検出部と、
前記励起光の強度変化に対する蛍光強度変化の時間遅れ特性を算出する時間遅れ特性算出部と、
前記精製油の劣化度を示す劣化指標値と前記時間遅れ特性との相関関係を予め記憶している相関関係記憶部と、
前記相関関係を参照して、前記時間遅れ特性算出部で算出された時間遅れ特性から前記劣化指標値を求める劣化指標値取得部とを具備していることを特徴とする精製油劣化度測定装置。
【請求項2】
前記劣化指標が全塩基価であることを特徴とする請求項1記載の精製油劣化度測定装置。
【請求項3】
測定対象である精製油に対して励起光を強度を変化させて照射する励起光照射ステップと、
前記励起光を照射された精製油で発生する蛍光の強度を検出する蛍光強度検出ステップと、
前記励起光の強度変化に対する蛍光強度変化の時間遅れ特性を算出する時間遅れ特性算出ステップと、
前記精製油の劣化度を示す劣化指標値と前記時間遅れ特性との間の予め求めておいた相関関係を参照して、前記時間遅れ特性算出ステップで算出された時間遅れ特性から前記劣化指標値を求める劣化指標値取得ステップとを具備していることを特徴とする精製油劣化度測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−133370(P2011−133370A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293535(P2009−293535)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】