説明

糖尿病の予防・治療用組成物およびその有効成分を含む健康食品

【課題】 生体安全性が高く、優れた効能・効果を発揮する天然素材の組み合わせのよる糖尿病予防・治療用組成物ならびにその組成物を含む健康食品を提供する。
【解決手段】 サラシア属植物の抽出物およびベンケイソウ科植物の石蓮花または石蓮花の抽出物を併用することを特徴とする、糖尿病の予防・治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の予防・治療用組成物ならびにその有効成分を含む健康食品に関する。
より具体的には、本発明は、有効成分としてサラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の併用による血糖値抑制効果に基づく糖尿病の予防・治療用組成物ならびにその有効成分を含む健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
我々は日常の食事において、主食あるいは副食として多くの炭水化物(例えばデンプンやショ糖など)を摂取している。摂取された炭水化物は、体内の酵素(例えばα-グルコシダーゼなど)により代謝され、単糖に分解された後、消化管から吸収される。
【0003】
炭水化物の摂取量が増加すると、消化管から吸収され、血液中に移行する単糖の量も増加して高血糖となる。この高血糖が日常的に持続することにより、通常、肥満を経て糖尿病に罹患し、さらに場合によっては、糖尿病の悪化により合併症などの重大な疾病をもたらすことがある。
【0004】
糖尿病による三大合併症として、通常、網膜症、神経障害および腎症があり、成人における失明の大部分が、糖尿病による網膜症に基づくと言われている。また、上記の三大合併症以外にも合併症として脳卒中や動脈硬化などの血管系疾患および高血圧症も知られている。
【0005】
この糖尿病は、近年の食生活の欧米化、すなわち、高カロリー食の摂取および過食ならびに交通手段および交通機関の発達による生活習慣の変化、すなわち運動不足などが原因となり、成人のみならず若年にとっても増加する傾向にあり、現代病として大きな問題になっている。
【0006】
現在、糖尿病の治療に用いられる医薬品としては、主に、膵インシュリン分泌促進作用を有するスルホニル尿素剤;肝の糖新生の抑制と末梢の筋肉、脂肪組織でのインシュリン感受性の亢進作用を有するビグアナイド系薬剤;消化管粘膜に存在し、デンプンやショ糖からブドウ糖を生成するα-グルコシターゼ(二糖類加水分解酵素)を阻害して血糖値上昇を抑制するα-グルコシダーゼ阻害剤(例えばアカルボース(バイエル社製、商品名;グルコバイ)およびボグリボース(武田薬品工業社製、商品名;ベイスン)等があり、経口投与用の糖尿病治療剤として広く使用されている。
【0007】
しかしながら、上記の糖尿病治療剤は、一般に合成品であり、近年、胃腸障害、乳酸アシドーシスまたは重篤な肝障害の発生などが報告されており、その使用にあたっては医師の厳格な指導・管理が必要である。一方で、これらの副作用低減を目的とするアルドース還元酵素阻害剤(例えばエパルタット(小野薬品、商品名;キネダック))等も広く使用されている。
【0008】
そこで、最近、副作用が少ない天然素材が注目され、健康食品としても種々上市されており、そのなかに抗糖尿病効果を標榜したものも多数認められるが、有効性に疑問のあるものが多く、具体的に効果が証明されたものがほとんどないのが実情である。
【0009】
従来、サラシア属植物は、スリランカやインドの伝統医学において天然薬物と利用されてきた。スリランカの薬物書には、上記のサラシア属植物がリュウマチ、淋病および皮膚病の治療に有効であると共に、糖尿病の治療に用いられることが記載されている(非特許文献1)。また、インドでも、サラシア属植物を上記と同様の目的で用いることが伝承されている。
【0010】
さらに、近年、上記のサラシア属植物の抗糖尿病活性に関していくつか報告されている。すなわち、例えば、α-グルコシダーゼ阻害活性については、サラシア プリノイデス(Salacia prinoides)の含有物質が報告されており(特許文献1)、α-グルコシダーゼおよびアルドースレダクターゼ阻害活性については、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(Salacia oblonga)およびサラシア キネンシス(Salacia chinensis)の含有物質が報告されている(非特許文献1)。
【0011】
一方、石蓮花は、中国に広く自生する石蓮属植物であり、中国の広西壮族自治区では、従来、食用として用いられてきた。
近年、この石蓮花の血糖値降下剤としての応用および血糖値効果作用についても報告されている(特許文献2および3)。
しかしながら、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物との併用効果についての研究結果は、なんら報告されていない。
【0012】
【特許文献1】特許第3030008号
【特許文献2】特許第3097997号
【特許文献3】特開2002-233342号
【非特許文献1】Food Style 21、第6巻、第5号、第72〜78頁
【非特許文献2】薬学雑誌第121巻第5号第371〜378頁、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のように、既存の抗糖尿病薬が副作用を発現することがあることから、血糖値上昇抑制効果を有し、かつ副作用がない安全で安価な天然素材の糖尿病の予防・治療用組成物の開発が要望されている。さらには、該組成物を他の糖尿病治療薬と併用することにより、個々の血糖値上昇抑制物質または剤の使用量の低減を可能にする血糖値上昇抑制効果を有する組成物の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、糖尿病の性質上、その治療薬の服用が長期に及ぶこと、および従来の合成医薬品が副作用を起こし得ることなどから、長年の使用経験から有効性とともに安全性が実証されている中国伝統医学やインド伝統医学であるアーユル・ヴェーダなどの東洋医学において用いられる天然薬物や薬用植物に注目した。
そして、前記のような抗糖尿病剤による副作用の低減を目的とし、他の糖尿病治療薬および/または血糖上昇抑制剤と併用することにより、個々の血糖値上昇抑制有効物質の使用量の低減を可能にする血糖値上昇抑制効果を有する組成物の組合せの開発に着手した。
【0015】
本発明者は、鋭意研究の結果、サラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の併用が、意外にも、血糖上昇抑制において相乗効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、有効成分としてサラシアの抽出物および石蓮花の抽出物が、相乗効果を奏する割合で含まれることを特徴とする糖尿病の予防・治療用組成物が提供される。
【0016】
より具体的には、有効成分としてサラシアの抽出物と石蓮花の抽出物が、乾燥重量比で1:0.05〜1:7の割合で含まれることを特徴とする糖尿病の予防・治療用組成物が提供される。
また、本発明によれば、上記の組成物を含む健康食品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明による抽出物に用いられるサラシアおよび石蓮花は、東洋医学において長年用いられてきたものであり、さらに、健康食品素材として近年用いられているので、長期間に亘って使用しても副作用が無く、安心して使用できる。
さらに、本発明によるサラシアの抽出物および石蓮花の抽出物による相乗効果により、血糖値上昇抑制を目的とするそれぞれの使用量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において用いられている用語「サラシア」は、デチンムル科(Hippocrateaceae) (旧分類ではニシキギ科(Celastrineae))に属するサラシア(Salacia)属植物の総称として、さらに同属植物を原料として開発された健康食品素材を意味する一般名称として用いられている。サラシア属植物は、インド、スリランカ、タイおよびインドネシアなど東南アジアおよびブラジルなどの熱帯地域に広く自生し、分布する多年生のつる性植物であり、現在約120種が同属植物として知られている。
【0019】
本発明に用いられるサラシアとしては、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア キネンシス(Salacia chinensis)、サラシア プリノイデス(Salacia prinoides)、サラシア ラティフォリア(Salacia latifolia)、サラシア ブルノニアーナ(Salacia burunoniana)、サラシア グランディフローラ(Salacia grandiflora)、サラシア マクロスペルマ(Salacia macrosperma)またはサラシア ロクスブルギイ(Salacia roxburghii)などのサラシア属植物が挙げられ、それらの根および茎を用いることができる。
【0020】
なかでも入手し易いサラシア レティキュラータ、サラシア オブロンガおよびサラシア キネンシスが好ましい。また、市場で入手可能なサラシア属植物を原料とする健康食品素材を用いることもできる。
【0021】
また、本発明において用いられている用語「石蓮花」は漢薬名であり、ベンケイソウ科(Crassulacea)に属する石蓮(Sinocrassula)属植物の総称として、また、さらに同属植物を原料として開発された健康食品素材を意味する一般名称として用いられている。石蓮属植物は、パキスタン、インド北部から中国各地かけて広く分布し、岩山および石の上に自生する二年生または多年生植物である。
【0022】
また、同属植物は、地域によっては多数の異名を有しており、例えば、メキシコなど熱帯アメリカではエチェバリア グラウカ(Echevaria glauca)またはコチレドン グラウカ(Cotyledon glauca)の別名でも知られている。本発明における石蓮花とは、それらの中でいずれかに限定されるものではない。
【0023】
上記の石蓮属植物としては、例えばシノクラスラ インディカ(Sinocrassula indica、石蓮)、シノクラスラ ウンナンエンシス(Sinocrassula yunnanensis、雲南石蓮)、シノクラスラ アンビグア(Sinocrassula ambigua、長萼石蓮)、シノクラスラ デンシロスラータ(Sinocrassula densirosulata、密叶石蓮)、シノクラスラ テキネシス(Sinocrassula techinesis、徳欽石蓮)、シノクラスラ ラナイスチラ(Sinocrassula lanaistyla、長柱石蓮)などが挙げられ、エチェバリア グラウカまたはコチレドン グラウカが含まれることもあり、それらの葉および茎を用いることができる。また、市場で入手可能な石蓮属植物を原料する健康食品素材を用いることもできる。
【0024】
本発明によるサラシアまたは石蓮花としては、上記の何れかの素材あるいは植物の所定の部位または全草を採取して直ぐにもしくは乾燥し、そのままもしくは細断・粉砕したものを抽出材料として用いることができる。なかでも、細断・粉砕したものを用いると、抽出効率の点で好ましい。
【0025】
本発明による抽出物の調製には、水または低級アルコールまたはこれらの混液を用いることができる。
低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールもしくはブタノールまたはプロパノールもしくはブタノールの異性体としての溶媒を用いることができ、好ましくはメタノールまたはエタノールが用いられる。
【0026】
なお、好ましくはサラシアの抽出には水または含水メタノールを、石蓮花の抽出にはメタノールを用いることができる。
これらの抽出溶媒は、抽出材料に対して、1〜50倍(容量)程度、好ましくは2〜10倍程度用いられる。
【0027】
抽出は、熱時または室温で行うことができ、抽出温度は、室温と溶媒の沸点の間で任意に設定できる。熱時抽出の場合、例えば、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪下もしくは非振盪下または還流下に、上記の抽出材料を上記の抽出溶媒に浸漬することによって行うのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜5時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分〜数時間加熱還流するのが好ましい。
【0028】
なお、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、上記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度繰り返すのが好ましい。
【0029】
抽出後に、固形物をろ別して得られる抽出液は、常法により濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、減圧下に低温で行うのが好ましい。濃縮は抽出液が乾固するまで行ってもよい。
抽出エキスは、そのまま本発明の組成物を調製するのに用いてもよいが、粉末状または凍結乾燥品等として用いてもよい。これらの固形物とする方法は、当該分野で公知の方法を採用することができる。
【0030】
したがって、本発明における抽出物とは、抽出液、抽出エキス、およびそれらを固形化して得られる固形物のいずれをも包含する。
なお、本発明における抽出物とは、濃縮液、抽出エキス、濃縮乾固物または凍結乾燥物のいずれも意味する。
【0031】
なお、抽出液は、濃縮する前後に精製処理に付してもよい。精製処理は、クロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法、溶媒による分配抽出等を単独または組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相もしくは逆相担体またはイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは遠心液体クロマトグラフィー等のいずれか、またはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0032】
しかしながら、本発明による抽出物は、精製せずにそのまま用いることができ、本発明の一部を構成している。
【0033】
すなわち、本発明によれば、有効成分として本発明の抽出物、すなわちサラシアの抽出物と石蓮花の抽出物を乾燥重量比で1:0.05〜1:7、好ましくは1:0.1〜1:6の割合で含むことにより、血糖値上昇抑制効果において相乗効果を奏することが見出された。
【0034】
より具体的には、以下の表2および図1の動物群2に示すように、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物を乾燥重量比で約1:0.8(サラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の乾燥使用量=75 mg/kgおよび62.5 mg/kg)の割合で用いたときに、血糖値抑制効果において、サラシア抽出物75 mg/kgの単独使用に比べ、投与0.5時間後に約1.4倍、投与1時間後に約1.8倍の血糖値上昇阻害率の上昇が観察された。
【0035】
したがって、本発明によれば、有効成分としてサラシアの抽出物と石蓮花の抽出物を上記の範囲の乾燥重量比で用いることにより、それぞれの抽出物の使用量を低減でき、糖尿病の予防・治療用組成物として糖尿病の予防・治療剤の製造に、また健康食品にも用いることができる。
【0036】
本発明の抽出物は、そのままの状態、または適当な媒体で希釈して、あるいは医薬品の製造分野において公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等、種々の医薬品の形態で使用することができる。
【0037】
これらの医薬品形態においては、適当な媒体を添加してもよい。そのような媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはポリエチレングリコール)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0038】
錠剤は、通常の方法でコーティングしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
【0039】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤(例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、乳化剤(例えばレシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)、(食用脂を含んでいてもよい)非水性賦形剤(例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのような油性エステル)、保存剤(例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピル、またはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料等を含んでいてもよい。
【0040】
また、本発明による組成物を有効成分として食品に添加したものを健康食品として利用することができる。
健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、固形、半固形または液体の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の抽出物を添加して、健康食品とすることができる。
【0041】
サラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、予防・治療に用いる場合には、成人1回につき、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の前記の乾燥重量比の混合物を0.1〜10g程度、好ましくは0.3〜2g程度使用でき、食前30分位に1日3回服用するのが望ましい。また、健康食品として使用する場合には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し上記の混合物を、0.1〜5g程度の範囲で用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等制限するものではない。
実験材料:
Wistar系雄性ラット:紀和実験動物研究所。
ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖、アラビアゴム:和光純薬工業株式会社。
【0043】
石蓮花の抽出物: 粉砕した石蓮花乾燥物10 kgを、含水エタノール10 Lで3回熱時抽出し、ろ過し、エタノール抽出液を合わせ、減圧下で溶媒を留去した後、凍結乾燥し、石蓮花の抽出物800 mgを得た。
サラシアの抽出物: 粉砕したサラシア乾燥物10 kgを、水10 Lで3回熱時抽出し、ろ過し、ろ液を合わせ、減圧下で溶媒を留去した後、凍結乾燥し、サラシアの抽出物1000 gを得た。
なお、上記の抽出物の代替として、市販のサラシア抽出物(株式会社 タカマ、lot No. 040203)を用いることもできる。
【0044】
血糖値上昇抑制効果の測定方法:
20〜24時間絶食させたWistar系雄性ラット(体重130〜140 g) 5匹を1群とした。被験物質をアラビアゴム末の5%水溶液に懸濁させて被験サンプルとし、この被験サンプルを5 ml/kgの割合で3群のラットに経口投与した。被験サンプルの投与30分後に、20%ショ糖、20%麦芽糖または10%ブドウ糖水溶液を5 ml/kgの割合で各群のラットにそれぞれ経口投与した。糖溶液の投与30、60および120分後に、エーテル麻酔下でラットの眼窩静脈より約0.4 mlずつ採血し、血液を遠心分離(5000 rpm、10分)により血清を分離後、グルコースオキシダーゼ法(グルコースCIIテストワコー,和光純薬)により血清中グルコース濃度を測定した。
【0045】
なお、正常群には、アラビアゴム末の5%水溶液および水のみを投与し、対照群には、アラビアゴム末の5%水溶液および上記の糖溶液をそれぞれ投与した。
被験物質として石蓮花の抽出物を用いて、上記の方法を実施した結果、20%ショ糖投与群において、被験サンプルが血糖値上昇抑制作用を示した。そこで、ショ糖負荷ラット(上記の20%ショ糖投与群)に対して、以下の実験を行った。
【0046】
試験例1
石蓮花メタノール抽出物のショ糖負荷ラットにおける血糖値上昇抑制作用
上記の実験方法に従って、石蓮花の抽出物を125、250および500 mg/kgの割合でラットに経口投与し、各被験サンプルの血糖値上昇抑制作用を比較した。その結果を以下の表1に示す。
【0047】
表1:石蓮花の抽出物のショ糖負荷ラットにおける血清中のブドウ糖レベルの抑制効果
【表1】

【0048】
上記の表1から、石蓮花の抽出物は、ショ糖負荷ラットにおいて250 mg/kgの投与量以上で、ショ糖負荷ラットに対して有意な血糖値上昇抑制作用を示すことが判明した。
【0049】
試験例2
石蓮花の抽出物とサラシア属植物の抽出物の併用による相乗効果
次いで、石蓮花の抽出物とサラシアの抽出物の併用効果を検討した。被験物質として、サラシアの抽出物を100〜0 mg/kg、石蓮花の抽出物を0〜250 mg/kgの範囲において5種類の異なった割合で組合せて、5群のラットに対して用いた。すなわち、サラシアの抽出物100 mg/kg(第1群)、サラシアの抽出物75 mg/kgおよび石蓮花の抽出物62.5 mg/kg(第2群)、サラシアの抽出物50 mg/kgおよび石蓮花の抽出物125 mg/kg(第3群)、サラシアの抽出物25 mg/kgおよび石蓮花の抽出物187.5 mg/kg(第4群)、ならびに石蓮花の抽出物250 mg/kg(第5群)の計5種類の各投与量の被験サンプルを、前記の方法に従って調製した。
【0050】
上記の被験サンプルを用い、前記の血糖値上昇抑制効果の測定方法に従って、ショ糖負荷ラットに対する各被験サンプルの血糖値上昇抑制効果を測定した(表2)。
【0051】
表2:石蓮花の抽出物、サラシアの抽出物およびそれらの混合物のショ糖負荷ラットに対する血清中のブドウ糖レベルの抑制効果
【表2】

【0052】
上記の表2から明らかなように、第2および第3群において、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の併用が、血糖値上昇抑制に対して極めて強い相乗効果を有意に示した。
【0053】
そこで、上記の表2において、各抽出物の上記の割合の混合物を投与した第1〜5群について、ショ糖の投与後0.5および1時間後の血糖値上昇抑制率を次式により計算し、その結果を図1に示す。
抑制率(%)=(対照−被験サンプル)/(対照−標準)(100
【0054】
すなわち、第2群におけるサラシアの抽出物75 mg/kgおよび石蓮花の抽出物62.5 mg/kg(抽出物の乾燥重量比=1:0.8)の混合物の投与は、血糖値抑制効果において、サラシア抽出物75 mg/kgの単独使用に比べ、投与0.5時間後に約1.4倍、投与1時間後に約1.8倍の血糖値上昇阻害率の上昇を示した。
【0055】
また、第3群におけるサラシアの抽出物50 mg/kgおよび石蓮花の抽出物125 mg/kg(抽出物の乾燥重量比=1:2.5)の混合物の投与は、血糖値抑制効果において、サラシア抽出物50 mg/kgの単独使用に比べ、投与0.5時間後に約1.3倍、投与1時間後に約1.7倍の血糖値上昇阻害率の上昇を示した。
【0056】
実施例1
米粉50重量部、砂糖5重量部、全卵10重量部、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の乾燥重量比1:0.8の混合物0.5重量部を秤量した。
全卵に砂糖を混合した後、予め篩に通した米粉を加え、軽く混ぜ合わせて生地を作り、これを適当な形に成形し、オーブンで焼き上げて、せんべいを作った。
【0057】
実施例2〜16
実施例1において、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の乾燥重量比約1:0.8の混合物に替えて、乾燥重量比約1:0.05、1:0.1、1:0.5、1:0.83、1:1、1:2、1:2.5、1:3、1:4、1:5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.4および1:7.45の各重量比の混合物を用い、同様にして、せんべいを作った。
【0058】
実施例17
当該分野で公知の方法にしたがって、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の乾燥重量比1:0.8の混合物10重量部を乳糖25重量部と混合し、ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に混合物が500 mg含有されるゼラチンカプセル剤を得た。
【0059】
実施例18〜32
実施例18において、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の乾燥重量比約1:0.8の混合物に替えて、乾燥重量比約1:0.05、1:0.1、1:0.5、1:0.83、1:1、1:2、1:2.5、1:3、1:4、1:5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.4および1:7.45の各重量比の混合物を用い、同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ショ糖負荷ラットにおける血糖値上昇抑制効果に対するサラシアと石蓮花の抽出物の相乗効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてサラシアの抽出物および石蓮花の抽出物が、相乗効果を奏する割合で含まれることを特徴とする糖尿病の予防・治療用組成物。
【請求項2】
有効成分としてサラシアの抽出物と石蓮花の抽出物が、乾燥重量比で1:0.05〜1:7の割合で含まれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
サラシアが、サラシア属植物のサラシア レティキュラータ、サラシア オブロンガまたはサラシア キネンシスである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
石蓮花が、石蓮属植物のシノクラスラ インディカ、シノクラスラ ウンナンエンシス、シノクラスラ アンビグア、シノクラスラ デンシロスラータ、シノクラスラ テキネシス、シノクラスラ ロナイスチラ、エチェバリア グラウカまたはコチレドン グラウカである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の有効成分が添加されてなる健康食品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−160710(P2006−160710A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358541(P2004−358541)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(501361600)株式会社 日本薬用食品研究所 (8)
【出願人】(504300066)株式会社 ハリマ漢方製薬 (6)
【Fターム(参考)】