説明

糖衣物及び糖衣シロップ

【課題】従来から知られているマルチトール主体の糖衣層と比較しても、硬度や外観で劣ることなく、糖衣シロップ温度制御や糖衣シロップを常時攪拌する手間が省け、更に短時間で芯材に糖衣層を調製することができる糖衣物及び糖衣シロップを提供する。
【解決手段】芯材を糖衣層で被覆してなり、該糖衣層にラクチトールとエリスリトールとを含有する糖衣物において、上記ラクチトールを糖衣層全体重量中70〜95重量%、上記エリスリトールを5〜30重量%含有することを特徴とする糖衣物によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類や医薬品等の芯材を糖衣してなる糖衣物及びそれに用いる糖衣シロップに関し、更に詳しくは、従来から知られているマルチトール主体の糖衣層と比較しても、硬度や外観で劣ることなく、糖衣シロップ温度制御や糖衣シロップを常時攪拌する手間が省け、更に短時間で芯材に糖衣層を調製することができる糖衣物及びそれに用いる糖衣シロップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、糖衣物は、菓子類や医薬品等の可食性の芯材を、蔗糖を主体とする糖衣層で被覆したものであり、いわゆる「ハード掛け法」や「ソフト掛け法」と呼ばれる糖衣方法により製造されている。例えば「ハード掛け法」は、回転する糖衣釜内に投入された芯材の表面全体に、蔗糖溶液を掛けたのち、送風乾燥を行い、蔗糖結晶を析出させる作業を繰り返し、蔗糖の結晶層により芯材を被覆して糖衣を行う方法である。また、「ソフト掛け法」は、回転する糖衣釜内の芯材に被覆液を掛けた後、予め粉末化された糖アルコールや蔗糖等を振り掛け、送風乾燥する作業を数回繰り返すことにより、被覆液に粉末が結着した層を積層して糖衣層を形成する方法である。
【0003】
ところで、従来より糖衣物に利用されてきた蔗糖は、う蝕性や高カロリー等の点が問題となっているため、消費者の健康志向に伴い、代替甘味源として、抗う蝕性、低カロリー等の特徴を有する糖アルコールが使用されるようになってきている。
【0004】
上記糖アルコールの中でも、糖衣層の硬度及び外観の点で、特にマルチトールを主体とすることが行われてきた。
しかしながら、マルチトールを主体とする糖衣層とすると、製造工程において50℃未満となると糖衣シロップの結晶化が生じてしまうため、結晶化防止のために常時攪拌する必要性があったり、結晶化しにくいため、乾燥に時間がかかり、芯材に糖衣シロップを供給しながら乾燥させる繰り返しの作業回数も多く、手間がかかるという問題がある。
【0005】
マルチトール以外の糖アルコールを用いた糖衣層としては、主成分のエリスリトール100重量部に対し、副成分としてラクチトール5〜100重量部添加混合し、該糖質混合物100重量部を40〜100重量部の水に溶解させて糖質液を調製したものを用いた糖衣掛け製品の製法がある(例えば、特許文献1参照)。
他に、芯材がラクチトール及び結晶セルロースを含む糖衣層で被覆された糖衣生成物がある(例えば、特許文献2)。
しかしながら、特許文献1、2でも、マルチトールほど深刻でないものの、糖衣シロップは50℃未満においては糖衣シロップの結晶化が生じてしまったり、結晶化防止のために常時攪拌する必要性があったり、糖衣層の外観が劣るという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】特許第3332987号公報
【特許文献2】特開平6−70688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、従来から知られているマルチトール主体の糖衣層と比較しても、硬度や外観で劣ることなく、糖衣シロップ温度制御や糖衣シロップを常時攪拌する手間が省け、更に短時間で芯材に糖衣層を調製することができる糖衣物及び糖衣シロップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芯材を糖衣層で被覆してなり、該糖衣層にラクチトールとエリスリトールとを含有する糖衣物において、上記ラクチトールを糖衣層全体重量中70〜95重量%、上記エリスリトールを5〜30重量%含有することを特徴とする糖衣物により上記目的を達成する。
【0009】
本発明の糖衣物においては、芯材がチューインガムであることが好適である。
【0010】
また、本発明は、ラクチトールとエリスリトールとを含有する糖衣シロップにおいて、乾燥物質濃度が60〜80重量%であり、乾燥物質中のラクチトールの含有率が70〜95重量%、乾燥物質中のエリスリトールの含有率が5〜30重量%であることを特徴とする糖衣シロップにより上記目的を達成する。
【0011】
すなわち、本発明者らは、従来から知られているマルチトール主体の糖衣層と比較しても、硬度や外観で劣ることなく、糖衣シロップ温度制御や糖衣シロップを常時攪拌する手間が省け、更に糖衣シロップを噴霧、乾燥を繰り返す糖衣層形成作業を減らして短時間で芯材に糖衣層を調製することができる糖衣物及び糖衣シロップについて検討した。
そして、鋭意研究した結果、糖衣層の組成を、単独では糖衣に長時間を要するラクチトールを主体とし、これを短時間で糖衣する組成にすることはできないかと考え、検討を続けた結果、これに被覆性の悪いエリスリトールを少量組合わせると、驚くべきことに、糖衣性能が向上することを見出した。更に含有量を検討した結果、ラクチトールを糖衣層全体重量中70〜95重量%、上記エリスリトールを5〜30重量%含有する糖衣物とすることで上記効果が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来から知られているマルチトール主体の糖衣層と比較しても、硬度や外観で劣ることなく、糖衣シロップ温度制御や糖衣シロップを常時攪拌するという制約がなく手間を省くことができる。また、糖衣層形成作業を減らして短時間で芯材に糖衣層を調製することができる糖衣物を得ることができる。
また、本発明の糖衣物は、従来通りの製造手順により製造でき、特殊な製造技術を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明の糖衣物は、芯材を糖衣層で被覆してなる糖衣物において、該糖衣層全体重量中ラクチトールを70〜95重量%、エリスリトールを5〜30重量%含有する。
【0014】
まず、本発明の糖衣物に用いる芯材は、例えばチューインガム、キャンディ類、錠菓、グミ、チョコレート、クッキーやビスケット等の焼菓子、コーンパフ、即席麺塊等の食品又はこれらの粉砕物や、各種食品素材(果実、野菜の小片等)や栄養成分の粉末を造粒したもの、錠剤、丸薬等の医薬品類等可食性で糖衣可能であれば何ら限定されるものではなく、単独又は複数組み合わせて用いればよい。この中でも、特にチューインガムや錠菓は、ガムや錠菓中の糖類にラクチトールを使用でき、このラクチトールが糖衣層の結晶種となるので糖衣性能が向上する点で好適である。
上記芯材の形状としては、一般的な円盤形、球形、枕形は勿論のこと、例えば、円筒形、円錐形、角錐形、直方体、立方体、更には星型や金平糖のような多数の角部や突起を有する形状の芯材も用いることができる。
上記芯材の大きさは、特に限定するものではない。
【0015】
本発明の糖衣物における糖衣層の厚みは、特に限定するものではなく、適宜設定すればよい。
【0016】
本発明にかかるラクチトールは、還元乳糖とも言われ、例えばラクトースを還元して得ることができる糖アルコールの一種である。ラクチトールは、無水和物、一水和物または二水和物の形態が存在するが、本発明においては、特に限定するものではなく、適宜選択して用いればよい。また、その剤形も、特に限定するものではなく、粉体や液状物等が挙げられる。
上記ラクチトールの含有量は、糖衣層全体重量中70〜95重量%であることが重要であり、更に好ましくは75〜90重量%であることが、円滑かつ短時間に芯材を糖衣することができ、更には糖衣層の硬度を高め、外観を良好にすることができる点で好適である。
【0017】
本発明にかかるエリスリトールは、ぶどう糖を原料に、酵母の発酵により産出される四炭糖の糖アルコールである。その剤型は、特に限定するものではなく、粉体や液状物等が挙げられる。
上記エリスリトールの含有量は、糖衣層全体重量中5〜30重量%であることが重要であり、更に好ましくは10〜20重量%に設定することが、円滑かつ短時間に芯材を糖衣することができ、更には糖衣層の硬度を高め、外観を良好にすることができる点で好適である。
【0018】
また、本発明の糖衣物には、上記原料の他に副原料として各種糖類(粉末状糖質甘味料、非糖質甘味料の他、液糖、蜂蜜、水飴、糖アルコール等)、澱粉類(澱粉、化工澱粉、変性澱粉、澱粉分解物等)や、アラビアガム、ゼラチン、ワックス、シェラック、カルシウム、油脂、乳類、粉末呈味原料(粉末茶類、卵白粉末、卵黄粉末、調味料、粉末果汁、粉末エキス等)、調味料、香料、酸味料、安定剤、ゲル化剤、増粘剤、塩類、着色料、栄養素(食物繊維、ビタミン類、ミネラル、DHA、ビフィズス菌増殖因子等)、ガルシニア、カンボジアエキス粉末、ギムネマ粉末等を単独もしくは複数組み合わせて用いればよい。
【0019】
次に、本発明の糖衣物は、例えば次のようにして製造することができる。
すなわち、まず、糖衣シロップを常法に従い調製する。このとき、糖衣シロップは、乾燥物質濃度(糖衣シロップを乾燥し、糖衣層としたときの固形物濃度)を糖衣シロップ全体重量中好ましくは60〜80重量%、更に好ましくは63〜68重量%とし、上記乾燥物質中のラクチトールの含有率を好ましくは70〜95重量%、更に好ましくは80〜85重量%、乾燥物質中のエリスリトールの含有率を好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%とすることが本発明の糖衣物を簡便に調製することができる点で望ましい。
【0020】
次いで、一般に糖衣に用いられる回転釜に、適当量の芯材を投入し、回転釜を20〜30rpmに回転させながら上記糖衣シロップを施与し、該糖衣シロップを各芯材表面に被覆する。このとき、好適には、1回に施与する糖衣シロップの量は、各芯材表面を均一に被覆し得る最低量であることが望ましい。また、糖衣シロップの温度は、好ましくは20〜45℃とすることが被覆性の点で好適である。特に、ビタミン類等加熱により変質するような原料を含む場合は40℃以下に設定しておくことが好ましい。
なお、上述した副原料を用いる際には、糖衣シロップ調製時に糖衣シロップ内に直接混合して用いてもよく、糖衣シロップを芯材に施与する際に別途施与するようにしてもよい。
【0021】
次いで、糖衣シロップが被覆された芯材の表面を乾燥させる。
乾燥方法としては、各種送風機等を用いればよい。
乾燥条件は、糖衣シロップの流動性がなくなる程度に行えばよい。
【0022】
更に、糖衣シロップを被覆、乾燥する工程を一過程とし、糖衣層が所望の厚みになるまで繰り返すことにより本発明の糖衣物を得ることができる。
【0023】
更に、必要に応じて、最終的に得られた糖衣層の表面に被覆液を施与して滑らかにしたり、着色料溶液を施与して着色したり、あるいはココア微粉末等の各種粉末食品素材を施与して風味に変化を持たせたり、光沢剤(蜜蝋、カルナバロウ、シェラック、ワックス等)等を施与して光沢を付与する等の加工を施してもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0025】
<実施例1〜4、比較例1〜4>
まず、一方で、芯材として、表1に示す組成の縦12mm×横20mm×厚み5mmのチューインガム成型品を調製し、他方で、表2に示す組成を混合することにより糖衣シロップ(40℃)を調製した。
次に、上記チューインガム成型品を回転釜(ステンレス製のレボリングパン)に350g投入し、糖衣釜を25rpmで回転させながら、予め調製した表2に示す組成の糖衣シロップを約5〜8g噴霧した後、30℃の送風により乾燥を行う作業を一過程とし、これを糖衣層全体の厚みが0.75mmになるまで繰り返し行うことにより糖衣チューインガムを調製した。
なお、このようにして得られた糖衣チューインガムの糖衣層は、表2に示した糖衣層の組成により構成されるものである。
【0026】
上記のようにして得られた実施例及び比較例の糖衣層の外観、糖衣シロップの制約、糖衣層全体の厚みが0.75mmになるまでの糖衣層形成作業回数について評価し、その結果を表2に合わせて示した。
【0027】
また、実施例1及び比較例3の糖衣チューインガムについて、最大破断力G(kg)をレオメーターで測定し、クランチ食感の目安となるG/T値を算出した。
レオメーターは、株式会社サン科学社製 sun RHEO METER CR−200Dを使用した。
測定は、4mmの定深度測定で、進入速度は100mm/分、使用したアダプターは歯型(A)で、実施例1、比較例3共に10粒実施し、最大破断力G(kg)からG/T値をもとめた。
なお、上記最大破断力G(kg)とは、糖衣チューインガムに歯型のアダプターを一定の速度で押し付けていくと、やがて糖衣層が割れ、糖衣チューインガムは押しつぶされるわけであるが、糖衣層が割れる瞬間に糖衣層に掛かる最大の破断力のことである。また、アダプターを押し付け始めてから、最大破断力Gに達するまでの時間をTとすると、G/Tは糖衣を噛む際のクランチ食感に相当する。
以上の結果を、表3に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表2の結果より、実施例の糖衣チューインガムは、糖衣シロップの制約がなく、形成された糖衣層の硬度や外観でマルチトール主体の糖衣層(比較例3)と比較しても劣ることがない糖衣層であった。しかも、比較例3に比べ、糖衣作業回数が少なく、糖衣性能に優れていた。
特に、表3の結果より、実施例1の糖衣チューインガムは、そのG/T値がマルチトールを主体とする比較例3品と有意差がないため、そのクランチ食感はマルチトール糖衣品と比べて遜色なかった。
【0032】
これに対し、比較例の糖衣チューインガムは、糖衣シロップに制約があると共に、糖衣層の外観が著しく悪いか、糖衣作業を行うこと自体が困難である糖衣層であった。特に、比較例4の場合、ラクチトール含有量が少ないため、糖衣層が不均一となり易く、かつ糖衣作業回数も増加し、非経済的であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材を糖衣層で被覆してなり、該糖衣層にラクチトールとエリスリトールとを含有する糖衣物において、上記ラクチトールを糖衣層全体重量中70〜95重量%、上記エリスリトールを5〜30重量%含有することを特徴とする糖衣物。
【請求項2】
芯材がチューインガムである請求項1記載の糖衣物。
【請求項3】
ラクチトールとエリスリトールとを含有する糖衣シロップにおいて、乾燥物質濃度が60〜80重量%であり、乾燥物質中のラクチトールの含有率が70〜95重量%、乾燥物質中のエリスリトールの含有率が5〜30重量%であることを特徴とする糖衣シロップ。

【公開番号】特開2006−87425(P2006−87425A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162234(P2005−162234)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(393029974)カネボウフーズ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】