説明

糖鎖の精製方法

【課題】簡単な作業でかつ多量に優れた精度で糖鎖を分離精製することができる糖鎖の精製方法を提供すること。
【解決手段】本発明の糖鎖の精製方法は、糖鎖を含有する溶液を用意する第1の工程と、前記溶液を糖鎖と特異的に結合する捕捉担体に接触させて、捕捉担体上に糖鎖を捕捉する第2の工程と、捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する第3の工程と、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させる第4の工程と、再遊離した糖鎖を捕捉担体と分離して精製する第5の工程とを有し、前記第3の工程において、フィルター105を備えるウェル101を複数有するマルチウェルフィルタープレート100を用いて、捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する洗浄液24を、ウェル101中のポリマー粒子(捕捉担体)20に供給した後、ウェル101の上下で圧力差を生じさせることで、フィルター105により洗浄液24とポリマー粒子20とを分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖タンパク質が有する糖鎖の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸等の単糖およびこれらの
誘導体がグリコシド結合によって鎖状に複数結合した分子の総称である。
【0003】
糖鎖は、非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能に関与する物質である。糖鎖は生体内でタンパク質や脂質等に結合した複合糖質として存在することが多く、生体内の重要な構成成分の一つである。生体内の糖鎖は細胞間情報伝達、タンパク質の機能や相互作用の調整等に深く関わっていることが明らかになりつつある。
【0004】
糖鎖を有する生体高分子としては、例えば、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン、細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質、および細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられるが、これらの高分子の糖鎖が、互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。さらに、このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、および細胞の癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖工学と、医学、細胞工学、あるいは臓器工学とを密接に関連させて新たな展開を図ることが期待できる(非特許文献1)。
【0005】
特に細胞表面に存在する糖鎖は、様々な生体反応の足場として重要な役割をしている事が明らかとなってきた。例えば、レセプターとの相互作用異常による疾病の発生、あるいはエイズウイルスやインフルエンザウイルス等の感染、病原性大腸菌O157の毒素やコレラ毒素の細胞への侵入に関わるとされている。また、ある種の癌細胞では特異的な糖鎖が細胞表面に現れる等、細胞表面糖鎖は細胞に個性をあたえる重要な分子とされている。
【0006】
これらの解析のため、糖鎖構造解析の技術が開発されており、これらの技術は、複合糖質からの糖鎖切り出し、糖鎖の分離精製、糖鎖の標識化等の工程を組み合わせたものであるが、これらの工程はきわめて煩雑である。
【0007】
さらに、糖鎖の分離精製には、例えば、イオン交換樹脂、逆相クロマトグラフィ、活性炭、ゲル濾過クロマトグラフィ等の手法が用いられるが、これらの分離手段は糖を特異的に認識する方法ではないので、莢雑物(ペプチド、タンパク質等)の混入が避けられず、また糖鎖の構造によって回収率に差異が生じることが多い。
【0008】
また、クロマトグラフィで糖鎖を高精度に分離する場合には、糖鎖にピリジルアミノ化等の蛍光標識を施す必要があり、煩雑な操作が必要となる。そして、蛍光標識した糖鎖を分析するには、標識後の反応液中より未反応の2−アミノピリジン等の夾雑物を除き、この標識化糖鎖を精製することが必要である。
【0009】
一般には、標識化糖鎖と夾雑物の分子量の差を利用してゲルろ過を行い、夾雑物を除去する。しかしながら、この方法は器具を多く用いる点と、操作に多くの時間を要する点から、多数の試料を短時間に処理するのは困難である。
【0010】
また、簡易な方法として共沸により夾雑物を留去する方法も試みられているが、十分に夾雑物を除去するのは難しい。
【0011】
さらに、糖鎖構造と各種疾患の関係を調べるためには、統計的処理が可能な多数の検体の糖鎖構造を調べる必要がある。
【0012】
上述したような従来法では、糖鎖を分離するために、煩雑な工程を経る必要があり、膨大なコストと時間が必要となるため、簡単な作業でかつ多量に優れた精度で糖鎖を分離精製する手段が求められていた。
【0013】
さらに、糖鎖に蛍光標識を施す方法は、種々開発されている(例えば、特許文献1、2、3)が、その標識化効率は100%ではなく、1つのサンプルに標識された糖鎖とされていない糖鎖が混在していた。この状況は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)や、キャピラリー電気泳動法(CE法)を用いて蛍光検出している際には大きな問題とならないが、質量分析法により糖鎖を分析する際にピークが複雑化するという問題点があった。また、標識化効率が悪い場合、HPLCやCEによる分析においても、感度が低下するという問題が生じる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−20131号公報
【特許文献2】特開2006−098367号公報
【特許文献3】特開2008−309501号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】糖鎖生物学入門 化学同人 2005年11月1日発行 第1版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、簡単な作業でかつ多量に優れた精度で糖鎖を多検体同時に分離精製することができる糖鎖の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的は、下記(1)〜(14)に記載の本発明により達成される。
(1) 糖鎖を含有する溶液を用意する第1の工程と、前記糖鎖を含有する溶液を糖鎖と特異的に結合する捕捉担体に接触させて、この捕捉担体上に糖鎖を捕捉する第2の工程と、前記捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する第3の工程と、前記捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させる第4の工程と、再遊離した前記糖鎖を前記捕捉担体と分離して精製する第5の工程とを有する糖鎖の精製方法であって、
前記第3の工程において、フィルターを備えるウェルを複数有するマルチウェルフィルタープレートを用いて、前記捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する洗浄液を、前記ウェル中の前記捕捉担体に供給した後、前記ウェルの上下で圧力差を生じさせることで、前記フィルターにより前記洗浄液と前記捕捉担体とを分離することを特徴とする糖鎖の精製方法。
【0018】
(2) 前記第3の工程において、前記フィルターの下側を負圧にすることで、前記フィルターの下側に、前記洗浄液を透過させる上記(1)に記載の糖鎖の精製方法。
【0019】
(3) 前記第5の工程において、前記マルチウェルフィルタープレートを用いて、前記ウェルの上下で圧力差を生じさせることで、前記フィルターにより、溶液中に含まれる再遊離した前記糖鎖と、前記捕捉担体とを分離する上記(1)または(2)に記載の糖鎖の精製方法。
【0020】
(4) 前記第5の工程において、前記フィルターの下側を負圧にすることで、前記フィルターの下側に、再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液を透過させる上記(3)に記載の糖鎖の精製方法。
【0021】
(5) 前記マルチウェルフィルタープレートの下側に、複数のウェルを有するマイクロウェルプレートが配置され、前記マルチウェルフィルタープレートのウェルに対応する、前記マイクロウェルプレートのウェルに、再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液が選択的に供給される上記(4)に記載の糖鎖の精製方法。
【0022】
(6) 前記マルチウェルフィルタープレートの底面と、前記マイクロウェルプレートの上面との離間距離は、10mm以下である上記(5)に記載の糖鎖の精製方法。
【0023】
(7) 前記第4の工程において、前記捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させるとともに、該糖鎖をラベル化試薬でラベル化する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。
(8) 前記第4の工程において、前記補足担体からの前記糖鎖の再遊離の後に、前記糖鎖をラベル化試薬でラベル化する上記(7)に記載の糖鎖の精製方法。
【0024】
(9) 前記ラベル化試薬は、芳香族アミンで構成される蛍光物質である上記(8)に記載の糖鎖の精製方法。
【0025】
(10) 前記蛍光物質は、2−Aminobenzamide、2−Aminobenzoic acid、8−Aminopyrene−1,3,6−trisulfonate、8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate、2−Amino9(10H)−acridone、5−Aminofluorescein、Dansylethylenediamine、7−Amino−4−methylcoumarine、3−Aminobenzoic acid、7−Amino−1−naphthol、3−(Acetylamino)−6−aminoacridineから選ばれる少なくとも1種である上記(9)に記載の糖鎖の精製方法。
【0026】
(11) 再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液における前記蛍光物質の濃度は、0.5mol/L以上である上記(9)または(10)に記載の糖鎖の精製方法。
【0027】
(12) 前記第5の工程において、再遊離した前記糖鎖を前記捕捉担体と分離した後、さらに、前記糖鎖を、ラベル化に使用されなかったラベル化試薬と分離する上記(7)ないし(11)のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。
【0028】
(13) 前記第5の工程において、シリカゲルを備えるウェルを複数有するマルチウェルシリカゲルプレートを用いて、前記シリカゲルに対する前記糖鎖と前記ラベル化試薬との吸着力の差に基づいて、前記糖鎖を、ラベル化に使用されなかった前記ラベル化試薬から分離する上記(12)に記載の糖鎖の精製方法。
【0029】
(14) 前記捕捉担体は、ヒドラジド基またはオキシルアミノ基を有するポリマー粒子である上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、簡単な作業で優れた精度で糖鎖を分離精製することができる。さらに、複数のウェルに供給された処理液を一括して処理することができるため、一度の精製処理で、多量(複数種)の糖鎖を精製することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の糖鎖の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の糖鎖の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示す精製装置のA−A線断面図である。
【図4】糖タンパク質から糖鎖を精製する本発明の糖鎖の精製方法を説明するための縦断面図である。
【図5】糖タンパク質から糖鎖を精製する本発明の糖鎖の精製方法を説明するための縦断面図である。
【図6】糖タンパク質から糖鎖を精製する本発明の糖鎖の精製方法を説明するための縦断面図である。
【図7】糖タンパク質から糖鎖を精製する本発明の糖鎖の精製方法を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の糖鎖の精製方法について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、以下では、本発明の糖鎖の精製方法の説明を行うのに先立って、まず、糖タンパク質が有する糖鎖の精製方法(本発明の糖鎖の精製方法)に用いられる精製装置の一例について説明する。
【0033】
<精製装置>
図1は、本発明の糖鎖の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す分解斜視図、図2は、本発明の糖鎖の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す斜視図、図3は、図2に示す精製装置のA−A線断面図(なお、図3(a)は、精製装置にマイクロウェルプレートを装着した場合を表し、図3(b)は、精製装置にトレイを装着した場合を表す。)である。なお、説明の都合上、以下の説明では、図1〜図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0034】
図1〜図3に示す精製装置1は、マルチウェルフィルタープレート100と、このマルチウェルフィルタープレート100を支持する第1の支持台400と、マイクロウェルプレート200と、トレイ300と、これらマイクロウェルプレート200またはトレイ300を支持する第2の支持台500とを有している。
【0035】
マルチウェルフィルタープレート100は、その全体形状が平板状をなし、その厚さ方向(上下方向)に設けられた、複数(本実施形態では96個)のウェル(穴部)101を備えている。
【0036】
これらのウェル101は、それぞれ、図3に示すように、その下側に底面103を備える構成をなしており、さらに、この底面103のほぼ中心に対応して、貫通孔104が設けられている。これにより、この貫通孔104を介した、ウェル101に供給(収納)された液体の外部への流出が、底面103側から許容される。
【0037】
貫通孔104の孔径は、好ましくは0.1mm〜1mm程度、より好ましくは0.2mm〜0.7mm程度に設定される。
【0038】
さらに、ウェル101の下側(底面103側)には、貫通孔104を塞ぐようにフィルター105が配置されている。このフィルター105と貫通孔104の孔径との関係により、マルチウェルフィルタープレート100の静置時には、ウェル101に供給された液体が貫通孔104を介して、その外部へ流出することが阻害される。
【0039】
これに対して、後述するように、マルチウェルフィルタープレート100を精製装置1に装着して、吸引ポンプを用いて、第2の支持台500が有する凹部505内を吸引した際には、前記液体のフィルター105の透過が許容される。そのため、前記液体が貫通孔104を介して、その外部に、底面103側から流出される。
【0040】
フィルター105の素材としては、特に限定されないが、例えば、多孔性フィルムおよび不織布等が挙げられる。また、その構成材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースエステル、フッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびナイロン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
なお、このフィルター105には親水処理が施されているのが好ましい。これにより、前記液体の透過性の向上を図ることができる。
【0042】
この親水処理は、例えば、界面活性剤、水溶性シリコン、ポリプロピレングリコール等を付与(塗布)等することにより行うことができる。
【0043】
フィルター105が備える細孔の孔径は、好ましくは0.1〜50μm程度、より好ましくは0.2〜20μm程度、さらに好ましくは0.4〜10μmに設定される。これにより、前記液体に含まれる液状成分の透過は許容されるとともに、後述するようなポリマー粒子20の透過は確実に許容されなくなる。
【0044】
なお、マルチウェルフィルタープレート100のフィルター105を除く各部の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、なかでも、ポリプロピレン、塩化ビニル、PTFE等であるのが好ましい。これにより、マルチウェルフィルタープレート100の耐溶剤性や耐熱性を向上させることができる。
【0045】
第1の支持台400は、マルチウェルフィルタープレート100を支持するための部材であり、平板状をなし、その中央部で開口する開口部402を備える底部401と、底部401の外縁に沿って上方に突出するように設けられた上側外壁403と、底部401の外縁に沿って下方に突出するように設けられた下側外壁404とを有している。
【0046】
このような上側外壁403で取り囲まれることにより凹部405が形成され、この凹部405内にマルチウェルフィルタープレート100を挿入することで、マルチウェルフィルタープレート100が第1の支持台400により支持される。
【0047】
また、底部401の開口部402の縁部に沿って溝が設けられており、この溝に対応するようにパッキン(シール部材)407が配置されている。これにより、凹部405内にマルチウェルフィルタープレート100を挿入した際に、開口部402と精製装置1の外部との連通が許容されなくなる。
【0048】
なお、上側外壁403は、対向する2つの長辺の中央部において、厚さ方向(上下方向)に直交する方向に開口部408を有する構成をなしており、これにより、凹部405内に挿入(載置)されたマルチウェルフィルタープレート100の出し入れを容易に行うことができるようになる。また、この開口部408は、マルチウェルフィルタープレート100の上端が、凹部405から突出する場合には、その形成を省略することができる。
【0049】
さらに、下側外壁404で取り囲まれることにより凹部406が形成され、この凹部406の内周面に沿って、後述する第2の支持台500が有する突出部502を挿入することで、第2の支持台500上に第1の支持台400が固定される。
【0050】
なお、本実施形態では、上側外壁403の外周面と下側外壁404の外周面とが、一体的に形成されていることで、1つの平坦面により構成されている。
【0051】
なお、第1の支持台400の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)のような樹脂材料、ステンレス鋼等のFe系合金、CuまたはCu系合金、AlまたはAl系合金のような金属系材料、アルミナ、アパタイト、窒化アルミのようなセラミックス系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
マイクロウェルプレート200は、第2の支持台500が備える凹部505内に挿入して用いられるものである。
【0053】
このマイクロウェルプレート200は、マルチウェルフィルタープレート100と同様に、その全体形状が平板状をなし、その厚さ方向(上下方向)に設けられた、複数(本実施形態では96個)のウェル(穴部)201を備えている。
【0054】
これらのウェル201は、その下側に底面203を備え、この底面203側で貫通しない構成をなしており、これにより、ウェル201に供給(収納)された液体がその内部に貯留される。
【0055】
なお、マルチウェルフィルタープレート100が備える各ウェル101と、マイクロウェルプレート200が備えるウェル201とは、各プレート100、200同士を上下方向に重ね合わせたとき、それぞれ、上下方向に対応して配置するように設定されている。そのため、後に詳述するように、各ウェル101が備える貫通孔104を通過して底面103側から外部へ流出された液体は、各ウェル101に対応するように配置された各ウェル201に対して、選択的に供給されることとなる。
【0056】
また、マイクロウェルプレート200は、複数のウェル201が形成されたウェル形成部202と、このウェル形成部202の周囲を取り囲むように配置されたフレーム部204とを有する構成をなしており、ウェル形成部202の厚さは、フレーム部204の厚さより厚くなっている。これにより、ウェル形成部202の上面は、フレーム部204の上面から突出する。このウェル形成部202の平面視形状は、第1の支持台400の開口部402に挿入可能な大きさに設定されている。したがって、第2の支持台500の凹部505内にマイクロウェルプレート200を配置した状態で、第2の支持台500上に第1の支持台400を載置すると、図3(a)に示すように、ウェル形成部202を開口部402内に挿入させることができる。そのため、ウェル形成部202の上面と、マルチウェルフィルタープレート100の底面103との離間距離を小さく設定することができることから、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101から貫通孔104を介して流出された液体を、このウェル101に対応する、マイクロウェルプレート200のウェル201内に高効率に供給することができる。
【0057】
なお、マイクロウェルプレート200の構成材料としては、例えば、マルチウェルフィルタープレート100のフィルター105を除く各部の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0058】
トレイ300は、マイクロウェルプレート200と同様に第2の支持台500が備える凹部505内に挿入して用いられるものである。すなわち、精製装置1を用いた糖鎖の精製方法で施される処理の種類に応じて、トレイ300またはマイクロウェルプレート200が凹部505内に挿入される。
【0059】
このトレイ300は、上述したマイクロウェルプレート200と、複数のウェル201が形成されたウェル形成部202に対応する位置に、1つの凹部301を備えていること以外は、同様の構成をなしている。
【0060】
トレイ300を、このような凹部301を備える構成とすることで、図3(b)に示すように、第2の支持台500の凹部505内にトレイ300を配置した状態で、第2の支持台500上に第1の支持台400を載置した際に、マルチウェルフィルタープレート100の各ウェル101から貫通孔104を介して流出された液体を、トレイ300の凹部301内に一括して貯留することができるようになる。
【0061】
なお、トレイ300は、図1等に示すように、マイクロウェルプレート200のフレーム部204に対応する位置で突出する凸部を有する構成に限らず、その中心部側に凹部301が形成されている限りにおいて、凸部の形成が省略されたものであってもよい。
【0062】
なお、トレイ300の構成材料としては、例えば、マルチウェルフィルタープレート100のフィルター105を除く各部の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0063】
調整板600は、トレイ300またはマイクロウェルプレート200に先立って、第2の支持台500が備える凹部505内に挿入して用いられるものである。
【0064】
この調整板600は、平板状をなしており、その厚さの異なるものが複数枚用意されている。
【0065】
そして、凹部505内に挿入するマイクロウェルプレート200の種類に応じて、適切な厚さのものを選択することで、マイクロウェルプレート200(ウェル形成部202)の上面と、マルチウェルフィルタープレート100の底面103との離間距離を容易に小さく設定することができるようになる。
【0066】
なお、調整板600の構成材料としては、例えば、マルチウェルフィルタープレート100のフィルター105を除く各部の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0067】
第2の支持台500は、マイクロウェルプレート200またはトレイ300を支持するための部材であり、平板状をなす底部501と、底部501の外縁に沿って上方に突出するように設けられた外壁503とを有している。
【0068】
このような外壁503で取り囲まれることにより、その内側に凹部505が形成され、この凹部505内にマイクロウェルプレート200またはトレイ300を挿入することで、マイクロウェルプレート200またはトレイ300が第2の支持台500により支持される。
【0069】
また、外壁503は、外壁503の内縁に沿って上方に突出する突出部502を有している。この突出部502は、第1の支持台400が備える凹部406の内周面に沿って、挿入し得るように設定されており、これにより、第2の支持台500上に第1の支持台400を載置した際に、突出部502が第1の支持台400の凹部406に挿入されることで、第2の支持台500上に第1の支持台400が固定される。
【0070】
外壁503の上面には、突出部502を取り囲むように溝が設けられており、この溝に対応するようにパッキン(シール部材)507が配置されている。これにより、第2の支持台500上に第1の支持台400を載置した際に、支持台400、500同士間での外部との連通が許容されなくなる。
【0071】
さらに、外壁503は、外壁503の側面に、凹部505に貫通する貫通孔506を有している。この貫通孔506には、吸引ポンプ(図示せず)を連結し得るように構成されており、かかる吸引ポンプを作動させることで、凹部505内を減圧することができる。
【0072】
なお、第2の支持台500の構成材料としては、例えば、第1の支持台400の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0073】
以上のような各部材で構成される精製装置1は、図3(a)に示すように、第2の支持台500の凹部505にマイクロウェルプレート200を挿入して用いる第1の使用方法と、図3(b)に示すように、第2の支持台500の凹部505にトレイ300を挿入して用いる第2の使用方法との2つの使用方法で用いられるが、以下、これらの使用方法について説明する。
【0074】
まず、第1の使用方法では、第1の支持台400の凹部405にマルチウェルフィルタープレート100を挿入し、さらに第2の支持台500の凹部505に調整板600およびマイクロウェルプレート200を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する(図2、図3(a)参照。)。
【0075】
これにより、マルチウェルフィルタープレート100が凹部405内に挿入され、マイクロウェルプレート200が凹部505内に挿入され、マイクロウェルプレート200のウェル形成部202が第1の支持台400の開口部402に挿入され、さらに、第2の支持台500の突出部502が第1の支持台400の凹部406に挿入される。その結果、マルチウェルフィルタープレート100の各ウェル101に対応して、マイクロウェルプレート200の各ウェル201が配置された状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400が固定される。
【0076】
また、かかる状態では、パッキン507により、支持台400、500同士間での外部との連通が許容されておらず、パッキン407により、第1の支持台400とマルチウェルフィルタープレート100との間での連通が許容されていないため、マルチウェルフィルタープレート100と、第1の支持台400と、第2の支持台500とで形成される内部空間を、外部に対して閉鎖された閉鎖空間とすることができる。
【0077】
したがって、貫通孔506に連結された吸引ポンプを作動させて、凹部505を減圧することで、前記閉鎖空間をその外部に対して負圧とすることができる。そのため、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101内ではフィルター105を介して、その上下で圧力差が生じることから、この圧力差に基づいて、ウェル101内の液体がフィルター105を透過する。したがって、各ウェル101から貫通孔104を介して液体を流出させることができ、その結果、これらのウェル101に対応する、マイクロウェルプレート200のウェル201内に選択的に液体が供給される。
【0078】
次に、第2の使用方法では、第1の支持台400の凹部405にマルチウェルフィルタープレート100を挿入し、さらに第2の支持台500の凹部505に調整板600およびトレイ300を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する(図2、図3(b)参照。)。
【0079】
第2の使用方法では、第2の支持台500の凹部505に調整板600およびトレイ300を挿入すること以外は、第1の使用方法と同様である。
【0080】
このような第2の使用方法によっても、マルチウェルフィルタープレート100と、第1の支持台400と、第2の支持台500とで形成される内部空間を、外部に対して閉鎖された閉鎖空間とすることができる。
【0081】
したがって、第1の使用方法と同様に、貫通孔506に連結された吸引ポンプを作動させて、凹部505を減圧することで、各ウェル101から貫通孔104を介して液体を流出させることができる。その結果、各ウェル101から流出した液体を、マルチウェルフィルタープレート100の下側に位置するトレイ300が有する凹部301に一括して貯留することができる。
【0082】
なお、この第2の使用方法では、各ウェル101から流出した液体を、一括して凹部301に貯留すれば良いことから、凹部301の開口部と、貫通孔104との離間距離を必要以上に小さくさせる必要がないため、第2の支持台500の凹部505に対する調整板600の挿入を省略するようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態では、精製装置1において、マルチウェルフィルタープレート100の各ウェル101が有するフィルター105の下側を、その上側より負圧とすることでフィルター105に液体を透過させる構成としたが、かかる構成に限らず、精製装置は、フィルター105の上側を、その下側より正圧とすることでフィルター105に液体を透過させる構成のものであってもよい。
【0084】
以上のような精製装置(マニホールド)1を用いて、例えば、以下のようにして、糖鎖を備える糖タンパク質から糖鎖を精製することができる。
【0085】
<精製方法>
図4〜7は、糖タンパク質から糖鎖を精製する本発明の糖鎖の精製方法を説明するための縦断面図である。また、以下の説明では、図4〜7中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0086】
なお、以下に示す糖タンパク質の精製方法では、電気泳動により分離されたゲル中の糖タンパク質から糖鎖を精製する場合について説明する。
【0087】
以下に示す糖鎖の精製方法では、[1]糖タンパク質が保持されたゲルを得る工程と、[2]ゲルを糖鎖遊離手段で処理することで糖鎖を遊離させる工程と、[3]遊離した糖鎖をゲルから溶出させて糖鎖を含有する溶液を得る工程と、[4]糖鎖を含有する溶液を糖鎖と特異的に結合する捕捉担体に接触させて、この捕捉担体上に糖鎖を捕捉する工程と、[5]上記捕捉担体に結合しなかった糖鎖以外の物質を除去する工程と、[6]捕捉担体が備える官能基を失活させる工程と、[7]捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離するとともに、この糖鎖を他の化合物でラベル化する工程と、[8]ラベル化された糖鎖を精製する工程とを有する。
【0088】
以下、各工程について詳述する。
[1]まず、糖タンパク質を含有する試料を用意し、この試料に対して所定の処理を施すことにより、糖タンパク質が保持されたゲルを得る。
【0089】
用意する糖タンパク質を含む試料としては、特に限定されないが、例えば、全血、血清、血漿、尿、唾液、細胞、組織等の生体試料が挙げられる。また、予め所定の方法を用いて精製された、または未精製の糖タンパク質をも用いることができる。
【0090】
なお、この試料は脱脂、脱塩、タンパク質分画糖の方法により前処理されていてもよい。
【0091】
次いで、試料を、例えば、SDS−PAGE(SDS変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動)や、等電点電気泳動とSDS−PAGEを組み合わせた二次元電気泳動等の所定処理を施すことにより、ゲル中において試料に含まれる糖タンパク質を分離する。
【0092】
次いで、泳動後のゲルを、例えば、クーマシーブリリアントブルー等の染色剤を用いて染色する。これにより、染色された糖タンパク質が保持されたゲルを得ることができる。
【0093】
[2]次に、染色された糖タンパク質を備える電気泳動後のゲルにおいてバンドを確認し、このバンドを、刃物等を用いて切り出す。そして、これを刃物等で細片化し、染色剤を洗浄除去したのち、ゲル内に保持されている糖タンパク質から、糖鎖遊離手段を用いて糖鎖を遊離させる。
【0094】
糖鎖を遊離させる手段としては、特に限定されないが、例えば、N−グリコシダーゼまたはO−グリコシダーゼを用いたグリコシダーゼ処理、ヒドラジン分解、アルカリ処理によるβ脱離等の方法を用いることができる。
【0095】
なお、N型糖鎖の分析を行う場合は、N−グリコシダーゼを用いる方法が好ましい。また、N−グリコシダーゼ処理に先立って、トリプシンやキモトリプシン等を用いてプロテアーゼ処理を行ってもよい。
【0096】
[3]次に、糖鎖遊離処理後のゲルを取り出し、このゲルを、洗浄液を用いてリンスすることで、遊離された糖鎖をゲルから洗浄液中に溶出させる。そして、洗浄液中においてゲルを沈殿させた後、この上清を回収することで、糖鎖を含有する溶液を得る(第1の工程)。
【0097】
洗浄液としては、特に限定されないが、例えば、水、各種緩衝液、各種有機溶媒等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
なお、この溶液は、必要に応じて濃縮することで、溶液中における糖鎖の含有率を増大させるようにしてもよい。
【0099】
また、前記工程[1]〜[3]における、糖タンパク質を含有する試料からの糖タンパク質の分離および糖タンパク質からの糖鎖の遊離は、電気泳動処理を施すことにより得られたゲル中から糖鎖を遊離することにより行うこととしたが、この場合に限定されず、アフィニティークロマトグラフィー処理やイオン交換クロマトグラフィ処理を前記試料に施すことにより精製された糖タンパク質から糖鎖を遊離するようにしてもよい。さらに、前記試料からの糖タンパク質の精製を省略してもよい場合には、前記試料に含まれる糖タンパク質に対して直接糖鎖を遊離させる処理を施すようにしてもよい。
【0100】
[4]次に、糖鎖を含有する溶液を糖鎖と特異的に結合する捕捉担体に接触させて、この捕捉担体上に糖鎖を捕捉する(第2の工程)。
【0101】
ここで、糖鎖は生体内物質のなかで唯一、アルデヒド基をもつ物質である。すなわち、糖鎖は、水溶液等の状態で環状のヘミアセタール型と、非環状型のアルデヒド型とが平衡で存在する物質である。
【0102】
これに対して、タンパク質、核酸および脂質等の糖鎖以外の生体内物質には、通常、アルデヒド基が含まれていない。
【0103】
このことから、アルデヒド基と特異的に反応して安定な結合を形成する官能基を有する捕捉担体を利用すれば、糖鎖のみを選択的に捕捉することが可能である。
【0104】
アルデヒド基と特異的に反応する官能基としては、例えば、ヒドラジド基、オキシルアミノ基、アミノ基、セミチオカルバジド基およびそれらの誘導体が好ましく、ヒドラジド基またはオキシルアミノ基がより好ましく用いられる。オキシルアミノ基とアルデヒド基との反応によって生じるオキシム結合、およびヒドラジド基とアルデヒド基との反応によって生じるヒドラゾン結合は、酸処理等によって容易に切断されるため、糖鎖を捕捉したのち、糖鎖を担体から簡単に切り離すことができる。
【0105】
なお、一般的に,生理活性物質の捕捉・担持にはアミノ基が多用されているが、アミノ基とアルデヒド基の反応によって生じる結合(シッフ塩基)は結合力が弱いため、還元剤等を用いた二次処理が必要であることから、アミノ基は糖鎖の捕捉には好ましくない。
【0106】
糖鎖を捕捉するための担体としては、ポリマー粒子を用いることが好ましい。さらに、このポリマー粒子は、少なくとも表面の一部に糖鎖のアルデヒド基と特異的に反応する官能基を有した固体またはゲル粒子であることが好ましい。
【0107】
ポリマー粒子が固体粒子またはゲル粒子であれば、ポリマー粒子に糖鎖を捕捉させた後に、マルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101を用いて、かかる粒子を容易に回収することができる。
【0108】
このようなポリマー粒子としては、例えば、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【0109】
【化1】

【0110】
以下、捕捉担体としてポリマー粒子20を用い、ポリマー粒子20上に糖鎖を捕捉する方法について説明する。
【0111】
[4−1]まず、ポリマー粒子20を、純水21中に分散させて、ポリマー粒子が分散された粒子分散液22を得る。
【0112】
このポリマー粒子20の形状は、特に限定されないが、例えば、球状またはそれに類する形状が好ましい。
【0113】
ポリマー粒子20が球状の場合、平均粒径は、好ましくは0.05〜1000μm程度、より好ましくは0.05〜200μm程度、さらに好ましくは0.1〜200μm程度、最も好ましくは0.1〜100μm程度に設定される。平均粒径が下限値未満では、ポリマー粒子20を遠心分離やろ過で回収することが困難となるおそれがある。また、平均粒径が上限値を超えると、ポリマー粒子20と、後述する試料溶液との接触面積が少なくなり、糖鎖捕捉の効率が低下するおそれがある。
【0114】
[4−2]次に、図4(a)に示すように、第1の支持台400の凹部405にマルチウェルフィルタープレート100を挿入し、さらに第2の支持台500の凹部505に調整板600およびトレイ300を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する。すなわち、本工程では、精製装置1の第2の使用方法が適用される。
【0115】
そして、この状態で、前記工程[4−1]で予め調製した粒子分散液22をマルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101内に供給した後、精製装置1の吸引ポンプを作動させることで、マルチウェルフィルタープレート100と、第1の支持台400と、第2の支持台500とで形成される内部空間を負圧とし、これにより、ウェル101内の粒子分散液22を吸引する(図4(b)参照。)。
【0116】
これにより、粒子分散液22中の純水21はフィルター105を透過する。これに対して、フィルター105の細孔径と、ポリマー粒子20の粒径との関係により、ポリマー粒子20はフィルター105を透過することができない。そのため、フィルター105を透過した純水21が、貫通孔104を介して、マルチウェルフィルタープレート100の下側に位置するトレイ300内に選択的に供給される。
【0117】
その結果、図4(c)に示すように、ポリマー粒子20がマルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に単独で充填された状態となる。
【0118】
[4−3]次に、図4(d)に示すように、前記工程[3]で得られた糖鎖を含有する溶液(以下、「糖鎖含有液23」という。)を、ポリマー粒子20が充填されたマルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に供給する。
【0119】
[4−4]次に、糖鎖含有液23を加熱することで、供給した糖鎖含有液23が乾燥するまで、糖鎖含有液23を一定の温度範囲に保つ(図4(e)参照。)。
【0120】
これにより、ポリマー粒子20と、糖鎖含有液23中に含まれる糖鎖とが反応し、ポリマー粒子20上に糖鎖が捕捉される。
【0121】
この際の反応系のpHは、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。なお、pH調整は、例えば、前記工程[4−3]の後に、各種緩衝液または有機溶媒を添加することにより行うことができる。
【0122】
糖鎖捕捉時の温度は、好ましくは4〜100℃程度、より好ましくは20〜90℃程度、さらに好ましくは30〜80℃程度、最も好ましくは40〜80℃程度の温度範囲に保たれるように設定する。
【0123】
また、反応時間、すなわち溶液が乾燥するまでの時間は、かかる温度範囲に設定した場合、通常、0.1〜3時間程度、好ましくは、0.6〜2時間程度に設定される。
【0124】
かかる条件で、ポリマー粒子20と糖鎖とを反応させることで、ポリマー粒子20上に糖鎖が確実に捕捉されることとなる。
【0125】
なお、本実施形態のように、糖鎖含有液23が乾燥するまで加熱する構成とすることにより、ポリマー粒子20と糖鎖との反応率の向上を確実に図ることができる。
【0126】
なお、糖鎖含有液23を加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、精製装置1の全体を加熱するようにしてもよいし、マルチウェルフィルタープレート100を選択的に加熱するようにしてもよい。
【0127】
以上のような工程[4−1]〜[4−4]を経ることで、ポリマー粒子20上に糖鎖が捕捉される。
【0128】
なお、ポリマー粒子20がヒドラジド基を有するものである場合、ヒドラジド基と、糖鎖が有する還元末端との間で、下記式(2)で表される反応が進行することで、ポリマー粒子20上に糖鎖が捕捉される。
【0129】
【化2】

【0130】
以上のように、マルチウェルフィルタープレート100を備える精製装置1を用いることで、マルチウェルフィルタープレート100の静置時には、ウェル101において、供給された液体の反応を進行させることができる。さらに、精製装置1を用いたマルチウェルフィルタープレート100の吸引により、ウェル101に供給した液体中に含まれる固定成分と、液状成分との分離を容易に行うことができる。
【0131】
[5]次に、捕捉担体に捕捉された糖鎖以外の物質を除去する(第3の工程)。
ここで、上記のように捕捉担体としてポリマー粒子20を用いた場合、ポリマー粒子20に捕捉された糖鎖以外の物質としては、例えば、ポリマー粒子20に捕捉されなかった糖鎖の他、ポリマー粒子20の表面に、非特異的に吸着している糖鎖以外の夾雑物(タンパク質、脂質等)が挙げられる。
そのため、本工程[5]では、これらの物質を洗浄することで除去する。
【0132】
以下、前記工程[4]と同様に、マルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101を用いて、ポリマー粒子20に捕捉された糖鎖以外の物質(以下、この物質を「洗浄物質」ということもある。)を洗浄除去する場合について説明する。
【0133】
[5−1]まず、図5(a)に示すように、前記工程[4−4]において得られた、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101中で乾燥したポリマー粒子20に対して、洗浄液24を添加する。
【0134】
洗浄液24としては、特に限定されないが、水、各種緩衝液、各種有機溶媒等が挙げられ、これらを適宜組み合わせて用いることができる。
【0135】
[5−2]次に、精製装置1を前記工程[4−2]で説明した状態を維持したまま、すなわち、精製装置1の第2の使用方法を適用して、精製装置1の吸引ポンプを作動させることで、マルチウェルフィルタープレート100と、第1の支持台400と、第2の支持台500とで形成される内部空間を負圧とし、これにより、ウェル101内の洗浄液24を吸引する(図5(b)参照。)。
【0136】
その結果、洗浄液24を、フィルター105を透過させることで、図5(c)に示すように、マルチウェルフィルタープレート100にポリマー粒子20を残存させた状態で、マルチウェルフィルタープレート100から選択的に洗浄液24を、トレイ300に除去することができるとともに、洗浄液24中に溶解した洗浄物質を除去することができる。
【0137】
これら工程[5−1]および工程[5−2]で構成される洗浄を、複数回(繰り返して)行うことで、洗浄物質を洗浄液24中に溶解させた状態で、トレイ300に分離することができるため、洗浄物質を糖鎖が捕捉されたポリマー粒子20から確実に除去することができる。
【0138】
すなわち、工程[5−1]および工程[5−2]において、フィルター105を備えるウェル101を複数有するマルチウェルフィルタープレート100を用いて、ポリマー粒子20に結合した糖鎖以外の物質を除去する洗浄液24を、ウェル101中のポリマー粒子20に供給した後、フィルター105の下側を負圧にすることでウェル101の上下で圧力差が生じ、その結果、フィルター105により洗浄液24とポリマー粒子20とが分離されることとなる。
【0139】
なお、この場合、まず水または緩衝液を洗浄液24として用いて十分にポリマー粒子20を洗浄したのち、さらに有機溶媒の洗浄液24で洗浄し、必要に応じてこれら洗浄液24による洗浄を繰り返し行い、最後に有機溶媒の洗浄液24で洗浄するのが好ましい。これにより、洗浄物質、特に、非特異的にポリマー粒子20の表面に吸着する夾雑物をより確実に除去することができるようになる。
【0140】
[6]次に、捕捉担体が備える官能基を失活させる。
本工程では、前記工程[4]において、糖鎖の捕捉に用いられなかった、捕捉担体が備える官能基(糖鎖のアルデヒド基と特異的に反応する官能基)を失活させる。
【0141】
これにより、次工程[7]において、捕捉担体(ポリマー粒子20)に結合した糖鎖を再遊離させた際に、この糖鎖が再度捕捉担体に捕捉されてしまうのを、確実に防止することができる。
【0142】
捕捉担体が備える官能基の失活は、例えば、前記官能基を失活させる機能を有する失活液を、捕捉担体に接触させることにより行うことができる。
【0143】
また、このような失活液の捕捉担体への接触は、前記工程[5−1]および前記工程[5−2]で構成される洗浄における洗浄液24に代えて失活液を用い、前記工程[5−1]および前記工程[5−2]を施すようにすればよい。
【0144】
さらに、失活液としては、特に限定されないが、官能基がヒドラジド基である場合、例えば、無水酢酸、無水コハク酸等の酸無水物が挙げられる。これにより、官能基を容易に失活させることができる。
【0145】
[7]次に、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させるとともに、この糖鎖を他の化合物(以下、「化合物A」と言うこともある。)で置換する(第4の工程)。
【0146】
なお、この化合物Aとしては、蛍光物質、吸光物質および放射性物質等のラベル化物質を備えるラベル化試薬が好ましく用いられる。
【0147】
以下、前記工程[4]、[5]と同様に、マルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101を用いて、化合物Aで糖鎖をラベル化する場合について説明する。
【0148】
[7−1]まず、図5(d)に示すように、化合物Aを含有する化合物含有液25を、糖鎖が捕捉されたポリマー粒子20が充填されたマルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に添加する。
【0149】
マルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に添加する化合物Aの添加量は、糖鎖が捕捉されたポリマー粒子20に対して、過剰量となっているのが好ましい。これにより、次工程[7−2]における糖鎖に対する化合物Aの置換率の向上を図ることができる。
【0150】
具体的には、化合物Aの添加量は、ポリマー粒子20が有する糖鎖と特異的に反応する官能基量に対して、好ましくは1.5倍量以上、より好ましくは3倍量以上、さらに好ましくは5倍量以上であり、最も好ましくは10倍量以上に設定される。
【0151】
[7−2]次に、化合物含有液25を加熱することで、添加した化合物含有液25が乾燥するまで、化合物含有液25を一定の温度範囲に保つ(図5(e)参照。)。
【0152】
これにより、捕捉された糖鎖はポリマー粒子20から切り離され、それとほぼ同時に糖鎖に化合物Aが付加することとなるため、糖鎖は化合物Aでラベル化されることとなる。
【0153】
この際の反応系のpHは、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。なお、pH調整は、例えば、前記工程[7−1]の後に、各種緩衝液を添加することにより行うことができる。
【0154】
ラベル化時の温度は、好ましくは4〜100℃程度、より好ましくは20〜90℃程度、さらに好ましくは30〜80℃程度、最も好ましくは40〜80℃程度の温度範囲に保たれるように設定する。
【0155】
また、反応時間、すなわち溶液が乾燥するまでの時間は、かかる温度範囲に設定した場合、通常、0.1〜3時間程度、好ましくは、0.6〜2時間程度に設定される。
【0156】
かかる条件で、ラベル化を行うことで、糖鎖が確実に化合物Aによりラベル化される。
なお、本実施形態のように、化合物含有液25が乾燥するまで加熱する構成とすることにより、糖鎖と化合物Aとの反応率の向上を確実に図ることができる。
【0157】
以上のような工程[7−1]、[7−2]を経ることで、糖鎖が化合物Aでラベル化される。
【0158】
なお、化合物Aとしては、アミノオキシ基またはヒドラジド基を有する化合物が好ましく用いられ、ポリマー粒子20がヒドラジド基を有するものである場合、特に、下記化学式(3)で表されるN−aminooxyacetyl−tryptophanyl(arginine methyl ester)が好ましく用いられる。
【0159】
【化3】

【0160】
また、この化合物Aとしては、前記化合物の他、芳香族アミンで構成される蛍光物質を用いることができる。
【0161】
化合物Aとして、このような芳香族アミンを用いた場合、捕捉された糖鎖は、まずポリマー粒子20から切り離されて再遊離した後に、化合物Aによりラベル化されることとなる。
【0162】
以下、化合物Aとして芳香族アミンを用いて、糖鎖を化合物Aでラベル化する場合について説明する。
【0163】
[7−1’]まず、糖鎖を再遊離させる糖鎖遊離液を、糖鎖が捕捉されたポリマー粒子20が充填されたマルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に添加する。
【0164】
[7−2’]次に、糖鎖遊離液を加熱することで、添加した糖鎖遊離液が乾燥するまで、糖鎖遊離液を一定の温度範囲に保つ。
【0165】
これにより、捕捉された糖鎖がポリマー粒子20から切り離されることで、糖鎖は再遊離する。
【0166】
この際の反応系のpHは、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。このpH調整が、前記工程[7−1’]における糖鎖遊離液の添加により行われ、各種緩衝液が糖鎖遊離液として用いられる。
【0167】
糖鎖遊離時の温度は、好ましくは4〜100℃程度、より好ましくは25〜90℃程度、さらに好ましくは30〜80℃程度、最も好ましくは60〜80℃程度の温度範囲に保たれるように設定する。
【0168】
また、反応時間、すなわち溶液(糖鎖遊離液)が乾燥するまでの時間は、かかる温度範囲に設定した場合、通常、0.1〜3時間程度、好ましくは、0.6〜2時間程度に設定される。
【0169】
かかる条件で、糖鎖の再遊離を行うことで、糖鎖がポリマー粒子20から確実に切り離される。
【0170】
なお、本実施形態のように、糖鎖遊離液が乾燥するまで加熱する構成とすることにより、糖鎖の遊離率の向上を確実に図ることができる。
【0171】
[7−3’]次に、化合物Aとして芳香族アミンを含有する化合物含有液25を、ポリマー粒子20から糖鎖が遊離している、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101内に添加する。
【0172】
芳香族アミン(化合物A)としては、特に限定されないが、例えば、2−Aminobenzamide、2−Aminobenzoic acid、8−Aminopyrene−1,3,6−trisulfonate、8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate、2−Amino9(10H)−acridone、5−Aminofluorescein、Dansylethylenediamine、7−Amino−4−methylcoumarine、3−Aminobenzoic acid、7−Amino−1−naphtholおよび3−(Acetylamino)−6−aminoacridine等が挙げられる。中でも2−aminobenzamideまたは2−aminobenzoic acidであるのが好ましい。これらの化合物は、試薬としての入手、反応の簡便性から好適に用いられる。
【0173】
また、芳香族アミンとして2−aminobenzamideまたは2−aminobenzoic acidを用いる場合、一般的な条件では0.35mol/Lで使用されるが、本工程では、化合物含有液25添加後のウェル101内の溶液、すなわち、再遊離した糖鎖を含む溶液における芳香族アミンの濃度は、好ましくは0.5mol/L以上、より好ましくは1.4mol/L以上に設定される。これにより、化合物Aによる糖鎖の標識効率を向上させることが可能となる。ただし、濃度が3mol/L以上になると、後工程[8]において、反応に使用されなかった芳香族アミン(化合物A)を除去するのが困難となるおそれがあるため、最も好ましい濃度は1.4mol/L以上3mol/L以下に設定される。
【0174】
また、液量に関して、ウェル101内に充填されたポリマー粒子20で規定する場合、通常はポリマー粒子20が浸る程度の液量、例えば、5mgのポリマー粒子20に対して50μL程度に設定されるが、液量(容量)を倍量の100μL程度に設定するのが好ましい。これにより、化合物Aによる糖鎖の標識効率を向上させることが可能となる。ただし、液量は100μLを超えても良いが、一定量を超えると、後工程[8]において、反応に使用されなかった芳香族アミン(化合物A)を除去するのが困難となるおそれがあるため、最も好まし液量は100μL〜200μLの間に設定される。
【0175】
より具体的には、芳香族アミンとして2−aminobenzamideを用いる場合、ウェル101内に、1.4 M 2−Aminobenzamid, 1 M sodium cyanoborohydrideの濃度になるように30%酢酸/ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた溶液100μLを化合物含有液25として添加する。
【0176】
[7−4’]次に、化合物含有液25を加熱することで、化合物含有液25を一定の温度範囲に保つ。
【0177】
これにより、ポリマー粒子20から再遊離している糖鎖は化合物Aと反応し、その結果、糖鎖は化合物Aでラベル化されることとなる。
【0178】
この際の反応系のpHは、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。
【0179】
ラベル化時の温度は、好ましくは0〜100℃程度、より好ましくは4〜95℃程度、さらに好ましくは30〜90℃程度の温度範囲に保たれるように設定する。
【0180】
また、反応時間は、かかる温度範囲に設定した場合、通常、0.1〜20時間程度、好ましくは、0.6〜12時間程度に設定される。
【0181】
より具体的には、芳香族アミンとして2−aminobenzamideを用いた場合、化合物含有液25を30〜70℃の温度範囲で加熱して、1〜10時間程度、反応する。
かかる条件で、ラベル化を行うことで、糖鎖が確実に化合物Aによりラベル化される。
【0182】
なお、化合物Aとして芳香族アミンを用いた場合、前記工程[7−2]で説明したような、化合物含有液25の乾燥を省略することができる。
【0183】
以上のような工程[7−1’]〜[7−4’]によっても、糖鎖が化合物Aでラベル化される。
【0184】
さらに、本工程において、糖鎖のラベル化が必要ない場合には、糖鎖の化合物Aによる置換を省略することができる。
【0185】
[8]次に、化合物Aでラベル化された糖鎖(以下、「ラベル化糖鎖」と言うこともある。)を精製する(第5の工程)。
【0186】
ここで、上記のようにポリマー粒子20に捕捉された糖鎖を再遊離させることで、ラベル化糖鎖を得た場合、化合物Aでラベル化された糖鎖以外に、マルチウェルフィルタープレート100中に含まれる物質としては、糖鎖が遊離したポリマー粒子20および糖鎖のラベル化に使用されなかった化合物A(以下、「未使用化合物A」と言うこともある。)が挙げられる。
【0187】
そのため、本工程[8]では、これらポリマー粒子20および未使用化合物Aを除去することで、ラベル化糖鎖の精製を行う。
【0188】
以下、前記工程[4]〜[7]と同様に、マルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101を用いて、ラベル化糖鎖を精製する場合について説明する。
【0189】
[8−1]まず、図6(a)に示すように、前記工程[7−2]において得られた、乾燥したラベル化糖鎖と、ポリマー粒子20とがウェル101中に収納されたマルチウェルフィルタープレート100を第1の支持台400の凹部405に挿入し、さらに第2の支持台500の凹部505に調整板600およびマイクロウェルプレート200を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する。すなわち、本工程では、精製装置1の第1の使用方法が適用される。
【0190】
そして、この状態で、溶解液26をマルチウェルフィルタープレート100が備えるウェル101内に添加する。
【0191】
溶解液26としては、ラベル化糖鎖を溶解し得る液剤であればよく、特に限定されるものではないが、水、各種緩衝液、各種有機溶媒等が挙げられる。
【0192】
なお、前記工程[7−2]における化合物含有液25の加熱によりポリマー粒子20が乾燥していない場合には、本工程[8−1]におけるウェル101内への溶解液26の添加を省略することができる。
【0193】
さらに、化合物Aとして、芳香族アミンで構成される蛍光物質を用いた場合には、前記工程[7−1’]〜[7−4’]で得られる化合物Aでラベル化された糖鎖が乾燥していないため、この場合についても、本工程[8−1]におけるウェル101内への溶解液26の添加を省略することができる。
【0194】
[8−2]次に、精製装置1の吸引ポンプを作動させることで、マルチウェルフィルタープレート100と、第1の支持台400と、第2の支持台500とで形成される内部空間を負圧とし、これにより、ウェル101内の溶解液26を吸引する(図6(b)参照。)。
【0195】
これにより、図6(c)に示すように、溶解液26を、フィルター105を透過させることで、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101にポリマー粒子20を残存させた状態で、マルチウェルフィルタープレート100のウェル101から選択的に溶解液26を、このウェル101に対応する位置のマイクロウェルプレート200が備えるウェル201内に貯留することができるとともに、この溶解液26中に溶解したラベル化糖鎖をマイクロウェルプレート200のウェル201に移動させることができる。その結果、ラベル化糖鎖とポリマー粒子20とが分離される。
【0196】
すなわち、工程[8−2]において、フィルター105を備えるウェル101を複数有するマルチウェルフィルタープレート100を用いて、溶解液26をウェル101中に供給した後、フィルター105の下側を負圧にすることでウェル101の上下で圧力差を生じさせ、その結果、ラベル化糖鎖とポリマー粒子20とが分離される。
【0197】
なお、この際、未使用化合物Aも、通常、溶解液26に対して溶解性を示すため、溶解液26に溶解した状態で、マイクロウェルプレート200のウェル201側に移動する。
【0198】
なお、精製装置1の第1の使用方法では、前述したように、マイクロウェルプレート200のウェル形成部202を、第1の支持台400の開口部402内に挿入させることができるように設定されているため、ウェル形成部202の上面と、マルチウェルフィルタープレート100の底面103との離間距離を小さく設定することができる。これにより、貫通孔104を通過した溶解液26がたとえ飛散したとしても、このウェル101に対応する、マイクロウェルプレート200のウェル201内に溶解液26を高効率に供給することができる。
【0199】
このような離間距離は、具体的には、好ましくは10mm以下、より好ましくは0.5mm以上、10mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上、3mm以下に設定される。離間距離をかかる範囲内に設定することにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0200】
[8−3]次に、フィルター105に代えて、シリカゲル106がウェル101の下側に配置され、底面103の貫通孔104に対応する位置に突出部107が設けられたマルチウェルフィルタープレート(マルチウェルシリカゲルプレート)100’を用意し、このマルチウェルフィルタープレート100’を第1の支持台400の凹部405に挿入し、さらに第2の支持台500の凹部505に調整板600およびトレイ300を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する。
【0201】
そして、図7(a)に示すように、前記工程[8−2]において、マイクロウェルプレート200の各ウェル201に分離された、ラベル化糖鎖を含有する溶解液26をアセトニトリル等の非水溶媒で希釈し、マルチウェルフィルタープレート100’のシリカゲル106を備えるウェル101内に供給する。
【0202】
これにより、図7(b)に示すように、ウェル101のシリカゲル106を透過した溶解液26が貫通孔104を介して、各ウェル101に対応するトレイ300の凹部301に液滴として流出することとなる。
【0203】
この際、シリカゲル106をアセトニトリル等の非水溶媒で希釈した溶解液26が透過するため、溶解液26に含まれるラベル化糖鎖と未使用化合物Aとは、シリカゲルに吸着する。
【0204】
[8−4]次に、図7(b)の状態を維持したまま、さらに、マルチウェルフィルタープレート100’のウェル101内にアセトニトリル等の非水溶媒を供給し、シリカゲル106を洗浄する。
【0205】
ここで、シリカゲルへの吸着力は、未使用化合物Aよりもラベル化糖鎖の方が高い。したがって、ウェル101内に非水溶媒を供給してシリカゲル106を洗浄することで、未使用化合物Aの少なくとも一部をシリカゲルから除去することができる。
【0206】
[8−5]次に、図7(c)に示すように、第2の支持台500の凹部505に、トレイ300に代えてマイクロウェルプレート200を挿入し、この状態で、第2の支持台500上に、第1の支持台400を載置する。
【0207】
その後、マルチウェルフィルタープレート100’内に水27を加え、シリカゲルを透過させることにより、未使用化合物Aの混在が的確に防止または抑制された状態で、図7(d)に示すように、マイクロウェルプレート200のウェル201に、水27中に溶解した状態で、ラベル化糖鎖が精製(分離)されることとなる。
【0208】
なお、本工程[8−3]〜[8−5]では、突出部107が形成されたマルチウェルフィルタープレート100’を用いて、ラベル化糖鎖を精製することとしたが、この突出部107の形成が省略されたマルチウェルフィルタープレート100’によっても、前記と同様にしてラベル化糖鎖を精製することができる。
【0209】
さらに、本工程[8−3]〜[8−5]では、ウェル形成部202の上面がフレーム部204の上面から突出するマイクロウェルプレート200を用いて、ラベル化糖鎖を精製することとしたが、ウェル201の開口部に突出部107を挿入させることができる場合には、ウェル形成部202の上面がフレーム部204の上面から突出することなく、ウェル形成部202の上面とフレーム部204の上面とで連続する連続面(平坦面)を形成しているマイクロウェルプレートによっても、前記と同様にしてラベル化糖鎖を精製することができる。
【0210】
また、シリカゲルに代えて、このものに対する吸着力が未使用化合物Aよりもラベル化糖鎖の方が高いものであれば、如何なる化合物も用いることができ、かかる化合物としては、例えば、グラファイトカーボン等が挙げられる。
【0211】
以上のように工程[8−3]〜[8−5]において、シリカゲル106を備えるウェル101を複数有するマルチウェルフィルタープレート(マルチウェルシリカゲルプレート)100’を用いることで、シリカゲル106に対するラベル化糖鎖と未使用化合物Aとの吸着力の差に基づいて、ラベル化糖鎖が未使用化合物Aから分離される。
【0212】
以上のような工程を経ることで、精製装置1を用いて、化合物Aでラベル化された糖鎖が精製される。
【0213】
なお、捕捉担体の官能基を失活する必要がない場合には、本工程[6]を省略するようにしてもよい。さらに、未使用化合物Aを除去する必要がない場合には、本工程[8−3]を省略するようにしてもよい。
【0214】
また、化合物Aでラベル化された糖鎖は、MALDI−TOF MSに代表される質量分析、さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の手法で分析することができる。
【0215】
特に、糖鎖が前述した化学式(3)で表されるN−aminooxyacetyl−tryptophanyl(arginine methyl ester)でラベル化されている場合、MALDI−TOF MSを用いて高感度分析を行うことができる。
【0216】
このような糖鎖の精製方法によれば、簡単な作業で優れた精度で糖鎖を分離精製することができる。さらに、複数のウェルに供給された処理液を一括して処理することができるため、一度の精製処理で、多量の糖鎖を精製することができるようになる。
【0217】
以上、本発明の糖鎖の精製方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0218】
例えば、本発明の糖鎖の精製方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
【0219】
また、本発明の糖鎖の精製方法に用いられる精製装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、または、任意の構成のものを付加することもできる。
【0220】
さらに、前記実施形態では、精製装置において、マルチウェルフィルタープレートの各ウェルが有するフィルターの下側を、その上側より負圧とすることでフィルターに液体を透過させる構成としたが、かかる場合に限らず、フィルターにおける液体の透過は、マルチウェルフィルタープレートに付与された遠心力によって行われるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0221】
1 精製装置
20 ポリマー粒子
21 純水
22 粒子分散液
23 糖鎖含有液
24 洗浄液
25 化合物含有液
26 溶解液
27 水
100、100’ マルチウェルフィルタープレート
101 ウェル
103 底面
104 貫通孔
105 フィルター
106 シリカゲル
107 突出部
200 マイクロウェルプレート
201 ウェル
202 ウェル形成部
203 底面
204 フレーム部
300 トレイ
301 凹部
400 第1の支持台
401 底部
402 開口部
403 上側外壁
404 下側外壁
405 凹部
406 凹部
407 パッキン
408 開口部
500 第2の支持台
501 底部
502 突出部
503 外壁
505 凹部
506 貫通孔
507 パッキン
600 調整板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖を含有する溶液を用意する第1の工程と、前記糖鎖を含有する溶液を糖鎖と特異的に結合する捕捉担体に接触させて、この捕捉担体上に糖鎖を捕捉する第2の工程と、前記捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する第3の工程と、前記捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させる第4の工程と、再遊離した前記糖鎖を前記捕捉担体と分離して精製する第5の工程とを有する糖鎖の精製方法であって、
前記第3の工程において、フィルターを備えるウェルを複数有するマルチウェルフィルタープレートを用いて、前記捕捉担体に結合した糖鎖以外の物質を除去する洗浄液を、前記ウェル中の前記捕捉担体に供給した後、前記ウェルの上下で圧力差を生じさせることで、前記フィルターにより前記洗浄液と前記捕捉担体とを分離することを特徴とする糖鎖の精製方法。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記フィルターの下側を負圧にすることで、前記フィルターの下側に、前記洗浄液を透過させる請求項1に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項3】
前記第5の工程において、前記マルチウェルフィルタープレートを用いて、前記ウェルの上下で圧力差を生じさせることで、前記フィルターにより、溶液中に含まれる再遊離した前記糖鎖と、前記捕捉担体とを分離する請求項1または2に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項4】
前記第5の工程において、前記フィルターの下側を負圧にすることで、前記フィルターの下側に、再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液を透過させる請求項3に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項5】
前記マルチウェルフィルタープレートの下側に、複数のウェルを有するマイクロウェルプレートが配置され、前記マルチウェルフィルタープレートのウェルに対応する、前記マイクロウェルプレートのウェルに、再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液が選択的に供給される請求項4に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項6】
前記マルチウェルフィルタープレートの底面と、前記マイクロウェルプレートの上面との離間距離は、10mm以下である請求項5に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項7】
前記第4の工程において、前記捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させるとともに、該糖鎖をラベル化試薬でラベル化する請求項1ないし6のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。
【請求項8】
前記第4の工程において、前記補足担体からの前記糖鎖の再遊離の後に、前記糖鎖をラベル化試薬でラベル化する請求項7に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項9】
前記ラベル化試薬は、芳香族アミンで構成される蛍光物質である請求項8に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項10】
前記蛍光物質は、2−Aminobenzamide、2−Aminobenzoic acid、8−Aminopyrene−1,3,6−trisulfonate、8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate、2−Amino9(10H)−acridone、5−Aminofluorescein、Dansylethylenediamine、7−Amino−4−methylcoumarine、3−Aminobenzoic acid、7−Amino−1−naphthol、3−(Acetylamino)−6−aminoacridineから選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項11】
再遊離した前記糖鎖を含む前記溶液における前記蛍光物質の濃度は、0.5mol/L以上である請求項9または10に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項12】
前記第5の工程において、再遊離した前記糖鎖を前記捕捉担体と分離した後、さらに、前記糖鎖を、ラベル化に使用されなかったラベル化試薬と分離する請求項7ないし11のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。
【請求項13】
前記第5の工程において、シリカゲルを備えるウェルを複数有するマルチウェルシリカゲルプレートを用いて、前記シリカゲルに対する前記糖鎖と前記ラベル化試薬との吸着力の差に基づいて、前記糖鎖を、ラベル化に使用されなかった前記ラベル化試薬から分離する請求項12に記載の糖鎖の精製方法。
【請求項14】
前記捕捉担体は、ヒドラジド基またはオキシルアミノ基を有するポリマー粒子である請求項1ないし13のいずれかに記載の糖鎖の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82698(P2013−82698A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213268(P2012−213268)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】