説明

糖鎖アレイ用高分子化合物および糖鎖アレイ基板

【課題】
吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着・結合を抑制し、糖、糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定化できるバイオアッセイ用の高分子化合物及びこれを用いた各種糖鎖アレイ基材を提供すること。
【解決手段】
ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニットおよび一級アミノ基を有するユニットを含むことを特徴とする糖鎖捕捉用高分子化合物であり、該高分子化合物を基材に塗布してなるマイクロチップであって、30種の糖鎖およびその誘導体のうち、少なくとも一つを固定してなるバイオアッセイ用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ状基材に糖鎖分子等を固定して利用して生体試料等の対象物質の検出および分析に用いる高分子材料およびそれを用いた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、近年、核酸、タンパク質に続く第三の鎖として糖鎖分子が注目されている。特に細胞の分化や癌化、免疫反応や受精などのかかわりが研究され、新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
また、糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの受容体であり、また、癌のマーカーとしても注目されており、こちらの分野においても、同様に新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
【0003】
しかしながら、糖鎖は、研究の重要性を認識されながら、その複雑な構造や多様性から、第一、第二の鎖である核酸、タンパク質に比較して研究の推進が著しく遅れている。
この研究を推進する目的で、糖鎖を精製するための方法が種々開発されている。一方、糖鎖は、それ単独で機能を発揮するというより、細胞レセプターに対するリガンドとして機能する場合も多く確認され、それゆえに糖鎖に対するレセプターの解析に供するために、種々の糖鎖を固定化するための基材が開発されている。
【0004】
特許文献1には、三官能性スペーサーを用いて、第1に官能基に糖鎖、第2の官能基が固相担体、第3の官能基が発色団と結合させ糖鎖アレイを作製する方法が示されている。また、特許文献2には、スペーサーを介して糖鎖を基材に固定化する方法が記載されておりスペーサーに親水性化合物を用いることで、非特異的吸着を抑制することが示されている。
しかしながら、特許文献1においては、糖鎖固定後に非特異吸着を防ぐために実施例において3%ウシ血清アルブミンを用いたブロッッキング操作が記載されている。
また、特許文献2には、スペーサーを介して糖鎖を基材に固定化する方法が記載されておりスペーサーに親水性化合物を用いることで、非特異的吸着を抑制することが示されている。
しかしながら、該発明においては、固相担体にハロゲン化アセチル基の導入の必要があり、材質がガラスの場合においては、比較的容易であるが、汎用性に乏しい方法である。また、前述のように糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの受容体の研究にも使用されていることから、廃棄に際しては焼却処理が好ましく、材質がガラスであることは不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−115616号公報
【特許文献2】特開2006−078418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着・結合を抑制し、糖、糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定化できるバイオアッセイ用の高分子化合物及びこれを用いた各種糖鎖アレイ基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(15)に記載の本発明により達成される。
(1)糖鎖アレイに用いる糖鎖捕捉用高分子化合物であって、下記一般式〔1〕で表されることを特徴とする糖類捕捉用高分子化合物。
【化1】

(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。l、m、nは自然数である。)
(2)前記一般式〔1〕においてYが下記一般式〔2〕又は〔3〕である(1)記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【化2】

(式中q、rは1〜20の整数)
【化3】

(式中q、rは1〜20の整数)
(3)前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/またはヒドラジド基である(1)または(2)記載の糖類捕捉用高分子化合物。
(4)オキシルアミノ基および/またはヒドラジド基を有するユニットの含有量が高分子化合物の全ユニットの20mol%以上40mol%以下であることを特徴とする(3)記載の糖鎖捕捉用高分子化合物。
(5)前記親水性を保持するためのユニットがホスホリルコリン基を含む(1)〜(4)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
(6)前記一般式〔1〕において、Xがエチレンオキシ基である(1)〜(5)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物
(7)高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である(1)〜(6)いずれか記載の糖鎖捕捉用高分子化合物。
(8)前記疎水性基、R4が炭素数2〜10のアルキル基である(1)〜(7)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
(9)前記疎水性基、R4が環状アルキル基であることを特徴とすることを特徴とする(1)〜(8)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
(10)前記環状アルキル基がシクロヘキシル基であることを特徴とすることを特徴とする(1)〜(9)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
(11)(1)〜(10)いずれか記載の糖鎖捕捉高分子化合物を基材の表面に形成した糖鎖アレイ用基材
(12)(1)〜(10)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物の製造方法であって、少なくとも、ホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基をあらかじめ保護基にて保護したモノマーとをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物を基材表面に塗布する工程、前記保護具を除去する工程、を含む糖類捕捉用高分子化合物を基材の表面に形成した(12)記載の糖鎖アレイ用基材
(13)前記基材の材質がプラスチックである(11)または(12)記載の糖鎖アレイ用基材
(14)前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである(11)〜(13)いずれか記載の糖鎖アレイ用基材
(15)前記糖類が糖、単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、又はそれらの誘導体、およびこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化されていることを特徴とする(1)〜(14)いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
(16)(15)に記載の前記グリコサミノグリカンまたはプロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体、およびこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化されている糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
(17)(15)に記載の前記前記糖類が、下表のリスト中の糖鎖、又はそれらの誘導体、及びこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化させてなる糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
表1

【発明の効果】
【0008】
本発明の高分子化合物を用いれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物の非特異的な吸着・結合を抑制し固定化することができ、糖、糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定したバイオアッセイ用の糖鎖アレイを簡便に作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の高分子化合物は、少なくとも糖類を捕捉するための一級アミノ基を有するユニット、親水性を保持するためのユニットおよび疎水性基を有するユニットからなる高分子化合物である。この高分子化合物は、生理活性物質を固定化する性質と、検出対象物の基材への物理的吸着(非特異敵吸着)を抑制する性質を有する。すなわち、一級アミノ基が糖、糖鎖、糖ペプチド、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定する役割を果たし、親水性を保持するためのユニットが検出対象物への基材への物理的吸着(非特異吸着)を抑制する性質を併せ持つ。また、疎水性のユニットは、該高分子化合物のプラスチック基材やガラス基材への吸着に関与している。
【0010】
本発明の高分子化合物に含まれる親水性のユニットはホスホリルコリン基に代表されるもので、特に構造を限定するものではないが、下記一般式〔1〕のユニットは、構成単位の左部の構成単位で示されように、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが最も好ましい。中でもXはエチレンオキシ基であることが最も最も好ましい。式中のアルキレンオキシ基の繰り返し数は1〜20の整数であり、繰り返し数2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレンオキシ基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。lは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明の高分子化合物に含まれるホスホリルコリン基を有するユニットの組成割合は(l,m,nの和に対するlの比率)は、高分子の全ユニットに対して、5〜98mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、10〜80%である。組成比が下限値を下回ると親水性が弱くなり非特異吸着が多くなる。一方、上限値を上回ると水溶性が高まり、アッセイ中に高分子化合物が溶出してしまう可能性がある。
【0013】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットの組成割合は(l,m,nの和に対するmの比率)は、高分子の全ユニットに対して、10〜90mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、20〜80%である。上限値を上回ると非特異吸着が増加する恐れが出てくる。
【0014】
本発明の高分子化合物に含まれる一級アミノ基を有するユニットは、特に構造を限定されるものではないが、前記一般式〔1〕の構成単位の右部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル残基とオキシルアミノ残基を含むスペーサーYを解した構造であることが好ましい。オキシルアミノ基の場合、Zは酸素原子を、ヒドラジド基の場合、ZはNHを示す。nは本来自然数であるが、各成分の組成割合として標記される場合がある。アルキレングリコール残基を含むスペーサーYの構造は、特に制限されるものではないが、下記一般式〔2〕または〔3〕であることがこのましく、より好ましくは〔2〕である。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
各成分の組成割合は(l,m,nの和に対するnの比率)は、高分子の全ユニットに対して、1〜94mol%が好ましくより好ましくは2〜90mol%、最も好ましくは、20〜40%である。組成値が下限地を下回ると糖、糖鎖、および/またはこれらを有する生理活性物質を十分量固定化できなくなる。また、上限値を上回ると非特異吸着が増加する。
【0018】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物から保護基を除去する工程、を含む製造方法が好ましい。あるいは、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基を導入しうる官能基を有するモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物に一級アミノ基を導入する工程、を含む製造方法が好ましい。
【0019】
ホスホリルコリン基を有する単量体としては、特に構造を限定しないが、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等を挙げられるが、入手性から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0020】
疎水性基を有するモノマーの具体的な例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、i s o−ブチル(メタ)アクリレート、s e c−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、i s o−ネオペンチル(メタ)アクリレート、s e c−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i s o−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i s o−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、is o−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、i s o−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ) アクリレート、i s o−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ) アクリレート、i s o−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、i s o−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、i s o−オクタデシル(メタ)アクリレート、イソボニル( メタ) アクリレートなどが挙げられる。これらのなかで最も好ましいのが、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートである。
【0021】
一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーは、特に構造を限定しないが、下記一般式[ 4 ] ( 式中、R 3 は水素原子またはメチル基、Y はアルキレングリコール残基を含むスペーサー、Z は酸素原子またはN H 、W は保護基を示す。) で表されるように、( メタ) アクリル基と、オキシルアミノ基またはヒドラジド基が、アルキレングリコール残基を含むスペーサーY を介した構造であることが好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
保護基W としてはアミノ基を保護基できるものであれば何ら制限を受けるものではなく、任意に用いることができる。なかでもt―ブトキシカルボニル基(Boc基)やベンジロキシカルボニル基(Z基、Cbz基) 、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基) などが好適に用いられる。
【0024】
具体的なモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【0025】
【化5】

【0026】
脱保護化は、トリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができる。
【0027】
一方、高分子化合物を重合した後に一級アミノ基を導入する方法としては、何ら制限を受けるものではないが、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、およびアルコキシ基を有するモノマーをラジカル共重合した後に、該高分子化合物に導入されたアルコキシ基とヒドラジンを反応させて、ヒドラジド基を生成する方法が簡便で好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基等が好適である。
【0028】
具体的なアルコキシ基を有するモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【0029】
【化6】

【0030】
本発明の高分子化合物の合成溶媒としては、それぞれの単量体が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。
【0031】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2 ’−アゾビスイソブチルニトリル( 以下「AIBN」という) 、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0032】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
【0033】
脱保護は前述のトリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができるが、脱保護の時期に関しては、以下の通りである。
通常は重合が完了し、高分子化合物が作製できた段階で行うことが一般的であり、本発明の高分子化合物を得るには、重合終了後に脱保護を行いうことで該高分子化合物を得ることができる。
【0034】
一方、本発明においては、基材表面に該高分子化合物を被覆することにより生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、及び生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能であることを示している。
この場合、脱保護を行った一級アミノ基を持つ高分子化合物を被覆することも可能であるが、反応性の高い一級アミノ基を持つ高分子材料を溶液にして皮膜することは、場合によっては作業中に一級アミノ基が反応して不活化することも考えられる。
従って、脱保護する直前で高分子化合物を精製し、基材表面を皮膜して後に、脱保護の反応を行い、基材表面上に一級アミノ基が存在する状態を形成することが望ましい。
【0035】
基材表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜50重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0036】
有機溶剤としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノールシクロヘキサノール等アルコール類がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0037】
本発明に用いる基材としては、スライド形状基板、9 6 穴プレート、容器、マイクロフルイディスク基板が好ましい。例えばプラスチック製基板、ガラス製基板、金属蒸着膜を有する基板などがあげられる。プラスチック製基板の具体例としては、ポリスチレン、環状ポリオレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートを素材とした基板などがあげられる。
【0038】
特に、蛍光観察に用いる基材としては、環状ポリオレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマーが有用である。前記基材を用いる場合においては、前記高分子化合物の疎水基が、シクロヘキシルキ基であると、基材との相互作用が良好で、同じ組成比の高分子材料を他の基材(例えばポリスチレンやガラス基材)に塗布した場合に比べ、吸着量が高くバックグランド値が低い良好な結果となる。
【0039】
また、環状ポリオレフィンポリマーに、前記高分子物資を塗布する場合、アミノオキシモノマー100mol%の高分子化合物に関しては、塗布振ることができない。一方、ポリスチレンポリマーにはと不可能であるが、夾雑物の非特異的吸着は抑制されず汎用性に乏しい。
【0040】
前記高分子化合物を塗布した基材は単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、又はそれらの誘導体を固定化することができ、バイオアッセイ用途に好適に用いることができる。生理活性物質としては、糖タンパク質、糖脂質、糖鎖遺伝子などが上げられる。これらの生理活性物質の基材への固定化方法としては、スポッターを使用して生理活性物質が溶解した溶液を点着する方法、生理活性物質が溶解した溶液を容器などに分注して固定化する方法などがある。
【0041】
単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、又はそれらの誘導体を前記の基板表面に固定化するためには、分子中の糖鎖末端部分に還元糖部分を作製する必要がある。使用する酸化剤 としては、特に限定されないが、過ヨウ素酸を使用する。これらの濃度は、0.04〜0.16Mである。また、該酸化反応の緩衝液としては、通常、重炭酸ナトリウム溶液(pH8.1)を使用する。このようにして酸化された生理活性物質のアルデヒド基と基板上の一級アミノ基とを反応させ、シッフ塩基を生成することにより、化学的に固定化することが出来る。
【0042】
また、糖を還元するのではなく結合物質の糖鎖でない部分、すなわち、ペプチド、タンパク質、脂質部分にケトン基を導入して、それを結合点として前記の方法で固定化することも可能である。
結合物質のペプチド部分にケトン基を導入する方法としては、・・・がある。
結合物質のタンパク質部分にケトン基を導入する方法は、前記ペプチド部にケトン基を導入するのと同じ方法を用いることが可能である。
【0043】
結合物質の脂質部分にケトン基を導入する方法としては、オゾン分解法がある。
具体的には200μMの糖脂質のクロロホルム−メタノール(1:1(v/v))溶液200μLにオゾンガスを30分間導入しバブリングする。この後、ガスを窒素ガスに換えて溶存オゾンを除去。1μLのトリフェニルホスフィン(1Mトルエン溶液)でオゾン分解反応を停止。反応溶液を蒸発させた後、ヘキサンを加えて攪拌し糖脂質のオゾン分解生成物をえる。(反応式1)
〔反応式1〕

【0044】
生理活性物質を溶解する溶液としては各種緩衝材が好適に用いられる。特に限定されないが、たとえば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、トリス塩酸緩衝剤、トリス酢酸緩衝剤、PBS緩衝剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、HEPES(N−2−hydroxyetylpiperazine−N’−ethanesulphonic acid)緩衝剤、MOPS(3−(N−morpholino)propanesulphonicacid) 緩衝剤などが用いられる。
【0045】
生理活性物質を溶解する溶液のpHとしては、糖又は糖鎖を溶解する場合はpHが2〜8であることが好ましい。糖タンパク質を溶解する場合はpHが4〜9であることが好ましい。糖核酸を溶解する場合はpHが2〜8であることが好ましい。糖脂質を溶解する場合はpH2〜8 であることが好ましい。
【0046】
生理活性物質の溶液中の濃度としては特に限定されないが、0.0001mg/mlから10mg/mlであることが好ましい。
【0047】
生理活性物質の溶液を固定化する温度としては0℃から100℃が好ましい。
【0048】
固定化する糖鎖には、前記のように、単糖、2糖以上の糖鎖、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、又はそれらの誘導体を用いることができる。
【0049】
特に、前記グリコサミノグリカンまたはプロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体、およびこれらを有する生体由来物質が、細胞増殖因子との相互作用による因子の安定化や、機能亢進に重要な役割を果たしていることから、これらの物質を固定化したものは、生体内機能の解析や、臨床検査において重要なものである。
【0050】
また、以下に示す糖鎖構造物は、生体内機能や疾患に関係の深い物質であり、生体内機能の解析や、疾患の研究、臨床検査において重要な物質である。生体内機能と市は、例えば、受精や、発生に関連しており、疾患関係では、癌、感染症に関連しているがこれらに限定されるものではない。以下の糖鎖から選ばれる少なくとも一つを固定化させてなる糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイは、生体内機能や疾患の機能解析、検査において有用なツールとなる可能性を有する。
【0051】
表1

<実施形態>
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
アミノオキシ基含有量の比較(96ウェルプレート)
(糖鎖捕捉基材の作製)
糖鎖捕捉高分子材料を表面に形成させる基材として、96ウェルプレートを使用した。該96ウェルプレートは住友ベークライトにおいて環状ポリオレフィン樹脂で成形したものを使用した。
糖鎖捕捉高分子化合物として2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N-(2-(2-(2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシ−アセチルアミノ)エトキシ)エトキシ)エチル)-メタクリルアミド共重合体を用い、該高分子化合物の1.0重量%エタノール溶液150uLを96ウェルプレートの各ウェルに分注して30分静置した後に溶液を抜き取り乾燥、溶媒を蒸散させて基材表面に塗布した。
用いた高分子化合物はアミノオキシ基の含有量が14、16、20%の3種類を合成して用いた。
乾燥後、2M HClを分注し、37℃で2時間処理してBoc基を脱保護し糖鎖捕捉高分子化合物を表面に持つ96ウェルプレートを作製した。
【0054】
(糖鎖固定化)
二糖のラクトース(和光純薬、124−00092)を300mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)で1mg/mLに調製、ラクトース溶液を作製。
作製したラクトース溶液を、前記の糖鎖捕捉用96ウェルプレートに200μL分注し、65℃で16時間反応させた。反応後、溶媒で未反応ラクトースを除去。
【0055】
(固定糖鎖の検出)
ラクトースと特異的に反応する RCA120レクチンをビオチン標識したもの(Biotin標識RCA120レクチン(Vector社製、B−1085))を下記の溶媒で0.5μg/mLに調製。

溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
(試薬はすべて和光純薬製)
各ウェルに100μLづつ分注して室温で2時間反応。
反応後、下記洗浄液で3回、ウェル内を洗浄した。

洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
0.05%TritonX−100(試薬はすべて和光純薬製)
ペルオキシダーゼ標識アビジン(MP Biomedicals、191370)を下記の溶媒で0.5ug/mLに調製。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20(試薬はすべて和光純薬製)。

ペルオキシダーゼ溶液100μLを、前記のラクトースを固定化した96ウェルプレートに分注、室温で1時間反応。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄。
固相化されたぺルオキシダーゼ量を、ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製、ML−1120T)を用いて15分間発色、マイクロプレートリーダー(TECAN社製Infinit200)で測定波長450nmの吸光度を測定した。
結果を下表に示す。
表2

【0056】
<実施例2>疎水性残基の構造比較(バックグランド比較、96ウェルプレート)
実施例1で用いた環状ポリオレフィン製96ウェルマイクロプレート(住友ベークライト製)を使用。
実施例1の糖鎖捕捉高分子化合物のブチルメタクリレートを、シクロヘキシルメタクリレートまたはn−ヘキシルメタクリレートに変えて合成した高分子化合物を実施例1同様の方法で塗布、Boc基を脱保護した。
Biotin標識RCA120レクチンを反応、さらにペルオキシダーゼ標識アビジンを反応させた後、ペルオキダーゼ発色キットで発色後、吸光度を測定した。
結果を下表に示す。
表3

直鎖アルキル基であるブチル基、n−ヘキシル基においても低バックグランド値であるが、環状アルキル基であるシクロヘキシル基では更に低いバックグランド値を得た。
【0057】
<実施例3>疎水性残基の構造比較(シグナル値比較, 96ウェルプレート)
実施例1、2で用いた環状ポリオレフィン製96ウェルマイクロプレート(住友ベークライト製)を使用。
実施例1の糖鎖捕捉高分子化合物のブチルメタクリレートを、シクロヘキシルメタクリレートに変えて合成した高分子化合物を実施例1同様の方法で塗布、Boc基を脱保護した。
(糖鎖固定化)
マンノトリオース(Dextra、M336)を下記の溶媒を用いて10μg/mLに調製。96ウェルプレートの各ウェルに100μLづつ分注し、80℃、1時間反応させた。
溶媒:2%AcOH/CH3CN:水=75:25

反応終了後、洗浄し未反応のマンノトリオースを除去した。
(固定糖鎖の検出)
マンノトリオースと特異的に反応する Biotin標識ConAレクチン(SIGMA社、C2272)を下記の溶媒で250ng/mLに調製

溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。

各ウェルに100μLづつ分注して室温で2時間反応。
反応後、下記洗浄液で3回、ウェル内を洗浄した。

洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
05%TritonX−100

ペルオキシダーゼ標識アビジン(MP Biomedicals、191370)を下記の溶媒で0.5ug/mLに調製。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。

ペルオキシダーゼ溶液100μLを、前記のラクトースを固定化した96ウェルプレートに分注、室温で1時間反応。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄。
固相化されたぺルオキシダーゼ量を、TMB(Bio−Rad、172−1067)で15分発色、450nmで吸光度測定した。
結果を下表に示す。
表4

環状アルキル基であるシクロヘキシル基において高い吸光度値を得ることができた。
【0058】
<実施例4> 糖鎖固定マイクロアレイ
(糖鎖捕捉基材の作製)
マイクロアレイの作製には住友ベークライト製、環状ポリオレフィン樹脂製のスライドガラス形状のプラスチックス基板を使用した。
オキシエチルホスホリルコリン−シクロヘキシルメタクリレート−N−(2−(2−(2−(t−ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ)エトキシ)エチル)−メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液にスライドを浸漬して高分子化合物を塗布した。
塗布後、2M HClで37℃、2時間処理し、Boc基を脱保護した。
【0059】
(糖鎖の固定化)
8種類のN結合型糖鎖、Dextra、MC1131、C0920、C1026、SC1120、C0840、C1124、C1224、PROZYME、GKC−335300(Dextra社製)を下記溶液で100ug/mLに調製し、基板にスポッティング、80℃、1時間反応させて基板に糖鎖を固定化。
溶液:100mM NaOAc buffer(pH5.0)+0.01%TritonX−100(和光純薬、A16046)、0.01%PVA(重合度=1500)
【0060】
(固定糖鎖の検出)
C1026と特異的に結合するレクチンであるAALレクチンのビオチン標識体であるBiotin標識AALレクチン(生化学バイオビジネス社、300406)を下記溶液で100ug/mLに調製。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20

基板上に溶液を反応させ、室温で2時間反応した。
反応後、前記洗浄剤で洗浄。
Cy3−Streptavidin(GEヘルスケア、PA43001)を下記溶液で2ug/mLに調製したものを基板状に展開し、室温で1時間反応。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20
反応後、前記洗浄液で洗浄。測定はX−100マイクロアレイリーダー、ScanArrayLite(PerkinElmer製)を用いてCy3の蛍光強度を測定。(Laser=90、PMT=60)
結果を下表に示す。
表5

標識糖鎖が固定化できていることを確認した。
【0061】
<実施例5> 酸性多糖の固定化(マイクロアレイ)
(糖鎖捕捉基材の作製)
マイクロアレイの作製には住友ベークライト製、環状ポリオレフィン樹脂製のスライドガラス形状のプラスチックス基板を使用した。
【0062】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−シクロヘキシルメタクリレート−N-(2-(2-(2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ)エトキシ)エチル)-メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液にスライドを浸漬して高分子化合物を塗布した。
塗布後、2M HClで37℃、2時間処理し、Boc基を脱保護した。
【0063】
(糖鎖の固定化)
ヘパリン(Iduron社、HEP001)とコンドロイチン硫酸(生化学バイオビジネス社、400650)を下記溶液で100ug/mLに調製し、基板にスポッティングし、80℃、1時間反応させて基板に酸性糖鎖を固定化した。
溶液:100mM NaOAc buffer(pH5.0)+界面活性剤(0.01%TritonX−100、0.01%PVA(重合度=1500))
固定化後、純水で洗浄し、未反応の酸性多糖を除去した。
【0064】
(固定糖鎖の検出)
ヘパリンと結合する事が報告されているFGF2(Peprotech社、100−18B)を下記の溶媒で100ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0065】
基板上に溶液を反応させ、室温で2時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応のFGF2を除去した。
洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
0.05%TritonX−100
【0066】
抗FGF2抗体(Peprotech社、500−M38)を下記の溶媒で2μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。

基板上に溶液を反応させ、室温で1時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応の抗体を除去した。
【0067】
Cy3標識された抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア、PA43002)を下記溶液で2ug/mLに調製した。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20
【0068】
基板上に溶液を反応させ、室温で1時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応の抗体を除去した。
【0069】
X−100マイクロアレイリーダー、ScanArrayLite(PerkinElmer製)を用いてCy3の蛍光強度を測定した。(Laser=90、PMT=60)
【0070】
結果を下表に示す。
表6 酸性多糖固定化基材測定結果

【0071】
<比較例1>
(固定化基材の作製)
実施例1、2で用いた環状ポリオレフィン製96ウェルマイクロプレート(住友ベークライト製)を使用。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N-
(2−(2−(2−(t−ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ)エトキシ)エチル−メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液150uLを一部のウェルに分注して基材表面にポリマーコート。一部ポリマーコートしていないウェルを1%BSA/PBSでブロッキング、室温で1時間ブロッキング反応させた。
【0072】
(レクチンの固定化)
実施例1で用いたBiotin標識RCA120レクチン(Vector社、B−1085)をPBSで5ug/mLに調製し、各ウェルに100uL分注して室温で2時間反応させた。反応後、前記の洗浄液で3回洗浄した。
ペルオキシダーゼ標識アビジン(MP Biomedicals、191370)を下記の溶媒で0.5ug/mLに調製。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。

ペルオキシダーゼ溶液100μLを、前記の96ウェルプレートに分注、室温で1時間反応。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄。
固相化されたペルオキシダーゼ量を、ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製、ML−1120T)を用いて15分間発色、測定波長450nmで吸光度測定した。

結果を下表に示す。
表7

糖を固定化せず測定を実施し、本発明による高分子化合物存在下においてのみ非特異吸着が抑制できることが明らかとなった。
【0073】
<比較例2>
実施例1、2で用いた環状ポリオレフィン製96ウェルマイクロプレート(住友ベークライト製)を使用。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N−(2−(2−(2−(t−ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ)エトキシ)エチル)−メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液150uLを一部のウェルに分注して基材表面にポリマーコートした。
【0074】
(糖鎖固定化)
ラクトース(和光純薬、124−00092)を下記の溶媒を用いて100μg/mLに調製。96ウェルプレートの各ウェルに100μLづつ分注し、80℃、1時間反応させた。
溶媒:2%AcOH/CH3CN:水=75:25
反応終了後、洗浄し未反応のラクトースを除去した。
【0075】
(レクチンの固定化)
実施例1で用いたBiotin標識RCA120レクチン(Vector社、B−1085)をPBSで5ug/mLに調製し、各ウェルに100uL分注して室温で2時間反応させた。反応後、前記の洗浄液で3回洗浄した。
ペルオキシダーゼ標識アビジン(MP Biomedicals、191370)を下記の溶媒で0.5ug/mLに調製。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20

ペルオキシダーゼ溶液100μLを、前記のラクトースを固定化した96ウェルプレートに分注、室温で1時間反応。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄。
固相化されたペルオキシダーゼ量を、ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製、ML−1120T)を用いて15分間発色、測定波長450nmで吸光度測定した。

結果を下表に示す。
表8

表7との対比により、本発明による高分子化合物存在下においてのみ非特異吸着が抑制かつ糖鎖を捕捉し測定できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の用いることにより、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着・結合を抑制し、糖、糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定化できるバイオアッセイ用の高分子化合物及びこれを用いた各種糖鎖アレイ基材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖アレイに用いる糖鎖捕捉用高分子化合物であって、下記一般式〔1〕で表されることを特徴とする糖類捕捉用高分子化合物。
【化1】

(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。l、m、nは自然数である。)
【請求項2】
前記一般式〔1〕においてYが下記一般式〔2〕又は〔3〕である請求項1記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【化2】

(式中q、rは1〜20の整数)
【化3】

(式中q、rは1〜20の整数)
【請求項3】
前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/またはヒドラジド基である請求項1または2記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【請求項4】
オキシルアミノ基および/またはヒドラジド基を有するユニットの含有量が高分子化合物の全ユニットの20mol%以上、40mol%以下である請求項3記載の糖鎖捕捉用高分子化合物。
【請求項5】
前記親水性を保持するためのユニットがホスホリルコリン基を含む請求項1〜4いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【請求項6】
前記一般式〔1〕において、Xがエチレンオキシ基である請求項1〜5いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物
【請求項7】
高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である請求項1〜6いずれか記載の糖鎖捕捉用高分子化合物。
【請求項8】
前記疎水性基、R4が炭素数2〜10のアルキル基である請求項1〜7いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【請求項9】
前記疎水性基、R4が環状アルキル基であることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【請求項10】
前記環状アルキル基がシクロヘキシル基であることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか記載の糖鎖捕捉高分子化合物を基材の表面に形成した糖鎖アレイ用基材
【請求項12】
請求項1〜10いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物の製造方法であって、少なくとも、ホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基をあらかじめ保護基にて保護したモノマーとをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物を基材表面に塗布する工程、前記保護具を除去する工程、を含む糖類捕捉用高分子化合物を基材の表面に形成した請求項12記載の糖鎖アレイ用基材
【請求項13】
前記基材の材質がプラスチックである請求項11または12記載の糖鎖アレイ用基材
【請求項14】
前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである請求項11〜13いずれか記載の糖鎖アレイ用基材
【請求項15】
前記糖類が糖、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、又はそれらの誘導体、およびこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化されていることを特徴とする請求項1〜14いずれか記載の糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
【請求項16】
請求項15に記載の前記グリコサミノグリカンまたはプロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体、およびこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化されている糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
【請求項17】
請求項15に記載の前記前記糖類が、下表のリスト中の糖鎖、又はそれらの誘導体、及びこれらを有する生体由来物質から選ばれる少なくとも一つを固定化させてなる糖類捕捉用高分子化合物および糖鎖アレイ。
表1


【公開番号】特開2011−191286(P2011−191286A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170228(P2010−170228)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】