説明

糖類固定化高分子基材、及びそれを用いた医療器具

【課題】 血中のウイルスの除去を目的としたウイルス吸着用高分子基材であって、除去が好ましくない血液成分を吸着・除去することなく、ウイルスを選択的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供すること。
【解決手段】 水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(B)のグラフト重合反応により高分子支持体の表面が処理されたウイルス吸着用高分子基材であって、
糖類が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアとの共有結合を介して重合性化合物(B)と結合することにより、高分子支持体に固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子支持体の表面を処理することにより得られる糖類が固定化された高分子基材に関する。また、本発明の本高分子基材はウイルスを吸着する機能を有することから、当該高分子基材を用いたウイルスを除去する医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られており、血中のHCVを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。即ち、体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
しかしながら、上記フィルターで除去する方法は、一旦血球と血漿を分離した後、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法が望まれている。
【0004】
一方、HCVに結合するリガンドとしてヘパリンが有効なことが知られている(非特許文献3)。よって、血球と血漿を分離することなく全血を通過させることのできる中空糸等の高分子支持体へヘパリンを固定化された基材は、より簡便にHCVを除去できる可能性があり、患者への負担の少ないHCV除去モジュール等を提供できることが期待される。
【0005】
ヘパリンが固定化された基材の形態にはビーズや中空糸が挙げられる。中空糸を用いた内部循環型の体外循環モジュールは粒子状ヘパリン固定化基材の充填された体外循環モジュールと比較して血液の滞留部分が少ないことから、構成上血栓の形成が少ない利点を有する。中空糸にヘパリンを固定化する際、表面官能基の種類や固定化密度は基材材質によって異なり、各基材によって最適な方法を見出す必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、血液入口、上流側血液回路、血漿分離手段、下流側血液回路がこの順に接続され、さらに血漿分離手段の血漿出口、上流側血漿回路、血漿浄化手段、下流側血漿回路がこの順に接続され、下流側血漿回路の末端は下流側血液回路の途中に設けられた血液血漿混合手段に接続されている血液処理装置であって、下流側血液回路の血液血漿混合手段の下流側に少なくともウイルス及びウイルス感染細胞を除去する水不溶性担体からなる血球処理手段が設けられ血漿浄化手段が最大孔径20nm以上50nm以下の多孔性濾過膜からなる装置が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、血液中の有害成分を吸着除去するための、安全性と性能が優れた吸着材であって、アニオン性基を有する分子量1000以上100万以下の化合物が、水不溶性担体に溶離値0.001以下、熱解離値0.01以下の強度で、水不溶性担体1mlあたり0.01mg以上100mg以下共有結合されていることを特徴とする血液浄化用吸着材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−230165
【特許文献2】特開平5−168707
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】A.K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでの技術では、ウイルス等の病原体を除去する手段は濾過膜を用いた病原体を含有する血液の濾過によるものが殆どであり、血栓の形成等が起こり問題となっていた。
そこで、本発明の課題は、血中のウイルスの除去を目的としたウイルス吸着用高分子基材であって、血栓の形成等を起こすことなく効率的にウイルスを除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは高分子支持体の選択、ウイルスを吸着する機能を有する糖類の高分子支持体への固定化方法について詳細に検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(B)のグラフト重合反応により高分子支持体の表面が処理されたウイルス吸着用高分子基材であって、
糖類が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアとの共有結合を介して重合性化合物(B)と結合することにより、高分子支持体に固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、目詰まり等を起こすことなく、ウイルスを効率的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
即ち、本発明は、
1.糖類が固定化されたウイルス吸着用高分子基材において、
糖類が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアとの共有結合を介して高分子支持体にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)と結合されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材、
2.高分子支持体が、ポリオレフィンを基質とする1.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
3.高分子支持体が、中空糸である2.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
4.ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリ−4−メチルペンテンである2.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
5.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又はアミノ基の保護基を有してもよい分子内に少なくとも2個のアミノ基を有するアミン誘導体である1.〜4.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
6.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである5.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
7.重合性化合物(B)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートである1.〜6.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
8.糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、又はフコイダンである1.〜7.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
9.ウイルスが、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである1.〜8.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材、
10.1.〜9.の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材を備えたウイルス除去器具、
11.10.に記載のウイルス除去器具を用いたウイルスの除去方法、
に関する。
【0016】
・水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)
本発明の水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)は、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又はアミノ基の保護基を有してもよい分子内に少なくとも2個のアミノ基を有するアミン誘導体であって、具体的には、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等を挙げることができる。
【0017】
本化合物(A)は、重合化合物(B)との反応の際、水酸基或いはアミノ基に用いられる公知慣用の保護基を有していてもよい。使用される保護基としては、カーバメート結合により保護する基、エステル結合により保護する基、アミド結合により保護する基又はエーテル結合により保護する基等を挙げることができるが、これらに限らない。
【0018】
カーバメート結合により保護する基としては、例えばt−ブチルカーバメート(Boc基)、ベンジルカーバメート等が挙げられ、エステル結合により保護する基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられ、アミド結合により保護する基としては、アセチルアミド基、ベンゾイルアミド基等が挙げられ、エーテル結合により保護する基としては、メトキシメチルエーテル基、ベンジルエーテル基等の基を挙げることができる。
これらの基は、用いられる化合物(A)の種類、重合性化合物(B)との間で行われる反応の種類・条件等により適宜選択して行うことができる。
・重合性化合物(B)
本発明に用いられる重合性化合物(B)は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と反応し得る基を有し、更に高分子支持体にグラフト重合反応し得るエチレン性不飽和基を有するものであれば制限なく使用することが可能であるが、高分子支持体とのグラフト重合を考慮すると、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と反応し得る基を有する(メタ)アクリル系化合物が好ましい。(メタ)アクリル系化合物として、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートが特に好ましい。
【0019】
・高分子支持体
本発明に用いる高分子支持体は、電離放射線照射によってラジカルを生成することからラジカルを生成することができる高分子化合物であれば良い。このような高分子化合物としては血液適合性の高いものであれば種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂又はセルロースアセテートが挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
【0020】
高分子支持体の形状には特に限定はなく、中空糸、ビーズなど種々の形態のものとして用いることができる。体外循環への適用時には血液が滞留する構造を持つビーズとして用いることも可能であるが、ビーズは滞留部において血栓の発生が多くなることから、このような用途を目的とする場合は中空糸を使用することが望ましい。
【0021】
・グラフト重合
本発明では、前記高分子支持体に電離放射線を照射して発生させたラジカルにより、前記重合性化合物(B)が有するエチレン性不飽和基を高分子支持体にグラフト重合させる。グラフト重合に際して用いる電離放射線源としては、公知慣用のα線、β線、γ線、加速電子線、X線等があげられ、実用的にはγ線、加速電子線が望ましい。
【0022】
グラフト重合法は前記高分子支持体と重合性化合物(B)とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と、高分子支持体を予め照射した後重合性化合物(B)と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0023】
本発明に用いる電離放射線を用いたグラフト重合法において、照射線量や加速電圧は高分子支持体によって異なるため一概には範囲を決めることができず、高分子支持体の素材、形態、厚みなどを考慮し適宜調整することが必要である。例えば、照射量が多いと帯電による絶縁破壊が発生し、照射量が少ないと重合反応が進行しない。このため、高分子支持体の材質や形態などを考慮し、帯電による絶縁破壊が発生せず、かつ重合反応が充分に進む照射量を適宜調整すればよい。また、加速電圧は透過性に関係し、高分子支持体の厚みによって異なる。フィルムなどの薄い形態の場合、加速電圧は一般には小さくて済み、高分子支持体の形態によって選択すればよい。
【0024】
例えば、高分子支持体がポリ−4−メチル−1−ペンテンからなる厚さ10(μm)〜100(μm)の中空糸の場合においては、10(kGy)以上、300(kGy)以下であり、さらに望ましくは90(kGy)以下であばよく、加速電圧は適宜選択することができる。
【0025】
前記接触工程と前記電離放射線照射工程の順に特に限定はない。
例えば、前記高分子支持体に重合性化合物(B)又は該重合性化合物(B)を含む重合性組成物を接触させた後、この状態で電離放射線を照射する工程をこの順で行っても良いし、逆に、前記高分子支持体に電離放射線を先に照射し、その後該高分子支持体に重合性化合物(B)又は該重合性化合物(B)を含む重合性組成物を接触させる工程をこの順で行ってもよい。
【0026】
前記照射グラフト重合において、照射後の基材中のラジカルは温度の上昇、酸素との接触によって速やかに不活化される。従って、照射後は十分に酸素を除いた状態で低温にて貯蔵し、速やかに固定化を行うことが好ましい。また前記の理由から、固定化においては脱酸素下、又は不活性ガス下で実施することが望ましい。
重合後の高分子支持体は、溶媒による洗浄など種々の方法で未反応の重合性化合物を除去すればよい。
【0027】
なお、高分子支持体の形状が中空糸であり、該中空糸へ前記重合性化合物(B)又は重合性組成物を固定化する場合には、実施形態に応じて糸の内面、外面のどちらか、又は両方に固定化することができる。例えば中空糸内部に血液を灌流させる時は中空糸内部に、前記重合性化合物(B)又は重合性組成物を中空糸内部に接触させた後、糖類を固定化すれば良く、逆に、外部灌流時には中空糸外部に前記重合性化合物(B)ないし重合性組成物を接触させた後、糖類を固定化すれば良い。
【0028】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と重合性化合物(B)との結合反応に特に制限はなく、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と重合性化合物(B)とが共有結合をなし得るものであればよい。
【0029】
例えば、重合性化合物として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基と結合し得る官能基であるアミノ基を有する化合物(A)が好ましい。
この結合様式の場合には、(メタ)アクリル酸と、アミノ基を有する化合物とのアミド化反応を行う。
アミド化反応の方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法など、ペプチド合成などで用いられている公知慣用のアミド化反応を適宜行えばよい。
【0030】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)等を用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)などが挙げられる。
【0031】
このうち、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基を一旦、NHS化した後に、化合物(A)のアミノ基と反応させアミド化する方法が好ましい。
【0032】
これらのアミド化方法において利用できる溶媒としては、水及びペプチド合成に用いられる有機溶媒を使用することができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等、更にはこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
【0033】
カルボキシ基への活性化エステル残基導入割合は、用いる活性化剤の種類や、試薬の使用量に依存する。一般的に、溶液中での反応と比較し、重合性化合物から得られる重合体が結合されていることで、反応性が落ちる為、導入量を上げる為には反応試薬をかなり過剰量用いる必要があると考えられる。従って、高分子支持体に重合せしめた(メタ)アクリル酸のカルボキシ基に対する活性化剤と縮合剤反応試薬の量比は一概には規定できないが、カルボキシル基に活性エステル基を等量的に導入するためには、概ねモル比で、1から10程度用いることが望ましい。さらに、反応試薬の過剰量を調整することで、活性エステル基の導入割合を0.01から100%の範囲で、任意に調整することが可能である。
【0034】
重合性化合物(B)として、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の水酸基或いはアミノ基と、重合性化合物(B)の有するグリシジル基と反応させることにより結合することができる。
反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とグリシジル基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が溶液の場合には、直接使用しても良く、溶媒を使用する場合には、高分子支持体を溶解又は膨潤させない溶媒が使用でき、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の濃度は任意に選択することができ、好ましくは、重量濃度0.1〜50%の濃度に調製して使用できる。
【0035】
反応温度は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)や溶媒が気化しない温度から選択でき、好ましくは0〜70℃、より好ましくは、20〜60℃である。反応時間は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の種類、濃度、及び、反応温度によりことなるが、反応溶液中の水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の含有量をガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、滴定などでモニターしながら、(A)が消費されなくなるまで行うことが好ましい。一般的には、30分から12時間で完結することができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0036】
重合性化合物(B)として、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の水酸基若しくはアミノ基と、重合性化合物(B)の有するイソシアネート基と反応させることにより結合することができる。
反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とイソシアネート基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、溶媒として、酢酸エチルやアセトニトリルなど、高分子支持体を溶解及び膨潤せず、イソシアネートと反応しない溶媒から適宜選択することができる。反応濃度は任意に選択することが可能であり、具体的には重量濃度で0.5〜15%から選択することができる。反応温度はイソシアネートとの反応が発熱反応であることから、0〜50℃が好ましい。
反応時間は、2〜24時間を挙げることができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0037】
・糖類
本発明に用いられる糖類としては、ウイルスを吸着させるものであれば、特に制限はないが、ウイルスを効率的に吸着させることができる点で、例えば、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、又はフコイダン等を挙げることができる。
【0038】
ヘパリンは、通常公知のものを制限なく使用することができる。ヘパリンは、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞など体内で幅広く存在し、化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β−D−グルクロン酸、或いはα−L−イズロン酸とD−グルコサミンが1,4−結合により重合した高分子であって、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴を有する。
また、ヘパリンの平均分子量についても特に制限はないが、平均分子量が大きい場合には水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)との反応性が低くなる為、ヘパリンの固定化の効率が悪いと考えられる。従って、ヘパリンの分子量は、概ね、500から500,000ダルトン、より好ましくは1,200から50,000ダルトン、更に好ましくは5,000〜20,000ダルトンであることが好ましい。
【0039】
本発明に用いられるヘパリン誘導体は、上記ヘパリンを、該ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体又は該ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体であることに特徴を有する。硫酸エステル化は通常公知の方法で行うことができる。
【0040】
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンのアルカリ塩類をイオン交換樹脂(H)等に通じ、アミン類と処理することによりヘパリンアミン塩を調製する。その後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体(A)とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・ピリジン等が好ましい。また、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンN−アセチル基をヒドラジン等で脱アセチル化した後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・NMe等が好ましい。
【0041】
また、デキストラン硫酸、又はフコイダンは、公知慣用のものを用いることができる。
【0042】
本発明の糖類と水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)との結合は、例えば上記アミド化反応により行うことができる。
【0043】
ここで、重合性化合物(B)をグラフト重合反応に供してから、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアと反応させた後にヘパリンを固定化させても良いし、重合性化合物(B)と水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアを反応させた後に、グラフト重合反応を行い、ヘパリンを固定化させてもよい。
【0044】
本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば中空糸モジュールや濾過カラム、フィルターなどが挙げられる。中空糸モジュールや濾過カラムにおいて、容器の形状及び材質は特に限定されないが、体液(血液)の体外循環に適用する場合、内部容量が10〜400mLで外径が2〜10cm程度の筒状容器とすることが好ましく、内部容量が20〜300mLで外径が2.5〜7cm程度の筒状容器とすることがより好ましい。図1にその一例を挙げる。
【0045】
本発明の医療器具の使用方法としては、ウイルスを含む液(例えば、ウイルスを含む水溶液や血液、血漿、血清等の体液)と接触させて該液中のウイルスを吸着除去、分離することができればいずれの方法でもよい。このような方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)本発明の高分子基材を有するモジュールを用意し、該モジュールにウイルスを含む液を通過させる方法
(2)流出口に液は通過できるが本発明の高分子基材は通過できないフィルターを装着し、内部に該基材を充填したカラム様容器を用意し、これにウイルスを含む液を通過させる方法
(3)貯留バッグ等の容器を用意し、これにウイルスを含む液と本発明の高分子基材を加えて混合した後、上澄み液を回収する方法
(1)や(2)の方法は操作が簡便である点で好ましく、体外循環回路に組み込むことにより患者の体液や血液から効率よくインラインでウイルスを除去することが可能である。このうち、さらに好ましい方法として(1)の方法が挙げられる。(2)や(3)の方法では、例えば血液を扱う場合、その凝固を防止するため血液を血球と血漿に分離した上で血漿のみを処理する必要があるが、(1)の方法ではこのような工程を必要とせず、操作が最も簡便でかつ患者への負担が少なくて済む。
【0046】
・本発明で対象とするウイルス
本発明で対象とするウイルスは、本発明における高分子基材で吸着を行うことができるウイルスであれば特に制限はないが、効率的に吸着を行うことが可能なことからエンベロープウイルを挙げることができ、より具体的にはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスを挙げることができる。
【0047】
・肝炎ウイルス吸着能の評価
本発明で対象とする肝炎ウイルスは、B型又はC型肝炎ウイルスであることに特徴を有する。本発明では、ヘパリン誘導体の肝炎ウイルス吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
以下の実施例に示すように、本発明の高分子基材で除去されるウイルスは、HCV E2蛋白質の吸着能が確認された。
【実施例】
【0048】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0049】
(合成例1)式(1)で表される化合物の合成
【0050】
【化1】

【0051】
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート15.5gの酢酸エチル50mL溶液を、氷冷したN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン16.0gの酢酸エチル溶液200mLに30分かけて滴下した。その後、0〜25℃で30分攪拌した。反応液を氷冷し、ヘキサンを徐々に滴下することで沈殿が生じるので、それをろ取し、酢酸エチル:ヘキサン=1:3の混合溶液で洗浄し、減圧乾燥して、目的物28.6gを得た。
【0052】
<式(1)で表される化合物の物性値>
H−NMR(CDCl) δ:6.15−6.09(1H,m),5.61−5.55(1H,m),5.21−4.90(3H,m),4.23(2H,t,J=5.3Hz),3.49(2H,q,J=5.5Hz),3.33−3.18(4H,m),1.96−1.92(3H,m),1.43(9H,s)
(合成例2)硫酸エステル化したヘパリン誘導体の調製例
ヘパリンナトリウム塩1gをイオン交換樹脂(H)50mLに通し、溶出液をトリブチルアミン−エタノール溶液で中和した。過剰なトリブチルアミンをEtOで抽出除去し、残った水層を凍結乾燥し、ヘパリンのトリブチルアンモニウム塩1.7gを調製した。
次に、SO・Py 2.8gの無水DMF100mL溶液を、上記調製したヘパリンのn−トリブチルアンモニウム塩(800mg)を溶解したDMF60mLに滴下したのち、混合液を40℃で1時間反応させた。反応液を冷水に入れ、1M−NaOHで中和後、限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)を470mg得た。
【0053】
(合成例3)N−硫酸エステル化したヘパリン誘導体の調整例
ヘパリン400mgと硫酸ヒドラジン60mgをヒドラジン1水和物6mLに溶解し、90℃で24時間反応させた。反応液をEtOHに滴下し、生じた沈殿をろ取した。得られた白色固体を水に溶解し、0.5M−HIO水溶液で処理し、生じたヨウ素をEtOで抽出して取り除いた。水層を1M−NaOHで中和後、限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、200mg得た。
次に、脱NAc体40mg、炭酸ナトリウム40mg、SO・NMe40mgをHO 8mLに溶解し、55℃で24h反応させた。限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、N−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を25mg得た。
【0054】
(実施例1)
<電子線グラフト重合による高分子支持体への重合性化合物(B)の導入>
高分子支持体としてのポリ−4−メチルペンテン製の中空糸束(中空糸表面積:200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換してから、RDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV―150kW」にて4.8MeVの加速エネルギーで90kGyの電子線を照射した。
次に、脱酸素した重合性化合物(B)としてのグリシジルメタクリレート(以下、GMAという)の50mg/mLメタノール溶液を試験管に注入し、23℃で所定時間静置した後、中空糸束を取り出し、メタノールで洗浄して、ポリGMAをグラフトした中空糸を得た。中空糸の重量増加から算出したGMAの中空糸1cmあたりの導入mg数(以下、グラフト量という)は0.190mg/cmであった。
【0055】
<中空糸へ導入した重合性化合物(B)と化合物(A)との反応>
上記で得た重合性化合物(B)導入中空糸を、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)としてのポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)のアセトニトリル溶液(重量濃度30%)に浸漬し、60℃で3時間加熱後、メタノールで洗浄・乾燥し、アミノ基を導入した中空糸を得た。ポリエチレンイミンの導入量は、8.58μg/cmであった。
【0056】
<中空糸へ導入した化合物(A)へのヘパリン固定化>
上記で得たポリエチレンイミン導入中空糸を、ヘパリン(LDO社製)120mg、シアノ水素化ホウ素ナトリウム12mg、pH7.1の0.01mol/Lリン酸緩衝液(以下、PBSという)7mLの混合溶液に浸漬し、40℃で48時間反応した。蒸留水で洗浄後、無水酢酸と0.2mol/L酢酸ナトリウム水溶液の容積比1:2の混合溶液に2時間浸漬して残留アミノ基をアセチル化した。0.1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液、20%食塩水、PBS、蒸留水、メタノールの順で洗浄後乾燥し、ヘパリンを固定化した中空糸を得た。ジメチルメチレンブルー溶液を用いた色素吸着による定量法で中空糸1cmあたりに固定化したヘパリンの重量(μg)(以下、ヘパリン固定化量という)を測定したところ、0.4μg/cmであった。
【0057】
<ヘパリン固定化中空糸のHCV E2吸着率の評価>
ヘパリンを固定化した中空糸を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、ブロッキング液として1%BSA/PBS溶液を加え、4℃、一晩放置した。ブロッキング液を除去し、2〜4μg/mL濃度のE2溶液(Abcam社製)を500μL加え、室温で2時間ローテートして吸着前後のE2量をELISA法にて測定したところ、E2吸着率は58%であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様の操作で、グラフト量1.35mg/cmのGMAをグラフトしたのち、ポリエチレンイミンを導入した中空糸を用い、ヘパリンの固定化反応において、反応液にヘパリン(LDO社製)30mg、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩15mg、N−ヒドロキシコハク酸イミド12mg、PBS10mLの混合液を用い、23℃で19時間反応(活性エステル化法)する他は、実施例1と同様にしてヘパリン固定化中空糸を作製した。ヘパリン固定化量は0.4μg/cm、HCV E2吸着率は57%であった。
【0059】
(実施例3)
GMAの替わりに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOIという)を用いて、実施例1と同様の操作で得たグラフト量0.498mg/cmのポリ2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOIという)グラフト中空糸を用い、ポリエチレンイミンの替わりにN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタンを0.489mg/cm導入したものを用い、脱t−ブトキシカルボニル反応を行う他は実施例2と同様にしてヘパリン固定化中空糸を作製した。このヘパリン固定化量は、1.3μg/cmであった。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は62%であった。
【0060】
(実施例4)
実施例3と同様にして得たグラフト量0.494mg/cmのポリMOIグラフト中空糸を用い、ポリエチレンイミンの替わりにN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタンを用い、更に脱t−ブトキシカルボニル反応を行う他は実施例1と同様にしてヘパリン固定化中空糸を作製した。この中空糸のHP固定化量は0.6μg/cmであった。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は65%であった。
【0061】
(実施例5)
重合性化合物(B)として、合成例1で得た式(1)で表される化合物
【0062】
【化2】

【0063】
を用いてグラフト重合反応を行い、グラフト量0.171mg/cmで(1)を導入した中空糸にて、脱t−ブトキシカルボニル反応を行う他は実施例2と同様にしてヘパリン固定化中空糸を作製した。この中空糸へのヘパリン導入量は0.9μg/cmであった。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は41%であった。
【0064】
(実施例6)
重合性化合物(B)として、式(2)で表される化合物
【0065】
【化3】

【0066】
を用いてグラフト重合を行い、2.51mg/cmの(2)を導入した中空糸にて、脱t−ブトキシカルボニル反応を行う他は実施例2と同様にしてヘパリン固定化中空糸を作製した。この中空糸のヘパリン固定化量は2.4μg/cmであった。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は45%であった。
【0067】
(実施例7)
脱酸素したアクリル酸の30mg/mL酢酸エチル溶液を、実施例1と同様に電子線照射したガラス試験管に注入し、23℃で所定時間静置した後、中空糸束を取り出し、酢酸エチル及びメタノールで洗浄して、ポリアクリル酸をグラフトした中空糸を得た。中空糸の重量増加から算出したアクリル酸のグラフト量は、0.874mg/cmであった。
【0068】
<中空糸へ導入した重合性化合物(B)と化合物(A)との反応>
上記で得た官能基導入中空糸を1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩465mg及びN−ヒドロキシコハク酸イミド278mgの溶解したジメチルホルムアミド溶液10mLに浸漬した。次に、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン388mgを加え、室温で4時間攪拌した。得られた中空糸束を蒸留水及びメタノールで洗浄後、乾燥した。得られた中空糸を4M−HCl酢酸エチル溶液に浸漬し、t−ブトキシカルボニル基の脱保護を行い、中空糸束を酢酸エチル、飽和炭酸水素ナトリウム水、蒸留水、メタノールの順で洗浄後乾燥し、アミノ基を導入した中空糸を得た。得られた中空糸束のアクリル酸に対するアミノ基の導入率は61%であった。
【0069】
<中空糸へ導入した化合物(A)へのヘパリン固定化>
ヘパリン(LDO社製)30mg、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩15mg、N−ヒドロキシコハク酸イミド12mgのPBS10mLの濃度の混合溶液を調製して、1時間攪拌した。上記で得たアミノ基導入中空糸を、先の混合溶液に浸漬して室温で一晩静置した。蒸留水及びメタノールで洗浄後、乾燥し、無水酢酸:ピリジン=5mL:5mLの混合溶媒にて残存アミノ基をアセチル化処理した。得られた中空糸束を蒸留水、0.1mol/L炭酸水素ナトリウムを含有する20質量%の塩化ナトリウム水溶液、PBS、蒸留水、メタノールの順で洗浄後乾燥し、ヘパリン固定化中空糸を得た。この中空糸へのヘパリン固定化量は2.1μg/cmであった。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は84%であった。
【0070】
(実施例8)
実施例7におけるアクリル酸の替わりにメタクリル酸を用いてグラフト重合(グラフト量=0.961mg/cm)を行い、ヘパリンの固定化を実施例1に記載の方法(還元アミノ化法)と同様にシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元アミノ化法を行った他は実施例7と同様にして、ヘパリン固定量1.3μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は79%であった。
【0071】
(実施例9)
実施例7におけるアクリル酸の替わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、及び化合物(1)を用いてグラフト重合(2−ヒドロキシエチルメタクリレート:化合物(1)=80:20、グラフト量=1.387mg/cm)を行いヘパリンの固定化を実施例1に記載の方法(還元アミノ化)と同様にシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元アミノ化法を行って、ヘパリン固定化量1.8μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は76%であった。
【0072】
(実施例10)
実施例6における式(2)で表される化合物の替わりに式(3)で表される化合物
【0073】
【化4】

【0074】
を用い、ヘパリン固定化法として4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドを用いた他は、実施例6と同様にして、グラフト量1.14mg/cm、ヘパリン固定化量0.8μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は60%であった。
【0075】
<式(3)で表される化合物の物性値>
H−NMR(CDCl)δ:6.15−6.10(1H,m),5.66−5.56(1H,m),5.00−4.79(2H,brm),4.24(2H,t,J=5.1Hz),4.15−4.13(2H,m),3.50(2H,q,J=5.4Hz),3.38−3.37(2H,m),1.96−1.95(3H,m),1.45(9H,s)
【0076】
(実施例11)
実施例10における2−ヒドロキシエチルメタクリレートの替わりにアクリルアミドを用いて、アクリルアミドと化合物(1)の重合比率が、50:50である他は同様にして、グラフト量1.33mg/cm、ヘパリン固定化量0.7μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は60%であった。
【0077】
(実施例12)
実施例11におけるアクリルアミドの替わりにメタクリル酸メチルを用い、メタクリル酸メチル:化合物(1)の重合比率が、70:30である他は、実施例11と同様にして、グラフト量1.25mg/cm、ヘパリン固定化量0.8μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は58%であった。
【0078】
(実施例13)
実施例1における高分子支持体を中空糸からポリエチレン製中空糸に替え、ポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)をポリエチレンイミン(分子量10000、和光純薬製)に替えた他は、実施例1と同様にして、グラフト量0.912mg/cm、ヘパリン固定化量3.6μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は82%であった。
【0079】
(実施例14)
実施例13におけるポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)を1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンに替えた他は、実施例16と同様にして、グラフト量3.44mg/cm、ヘパリン固定化量6.3μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は85%であった。
【0080】
(実施例15)
実施例1におけるGMAをアクリル酸に替え、ポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)をポリエチレンイミン(分子量60000、和光純薬製)に替えた他は、実施例1と同様にして、グラフト量0.08mg/cm、ヘパリン固定化量6.0μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は48%であった。
【0081】
(実施例16)
実施例1におけるGMAをアクリル酸に替え、ポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)を1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンに替えた他は、実施例1と同様にして、グラフト量1.01mg/cm、ヘパリン固定化量1.5μg/cmの中空糸を作製した。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は64%であった。
【0082】
(実施例17)
実施例2におけるGMAの替わりに、GMA及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用い、ポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬)を28%アンモニア水に替えた他は、実施例2と同様にして、グラフト量0.27mg/cm、ヘパリン固定化量8μg/cmの中空糸を作製した(グラフト重合比率;2−ヒドロキシエチルメタクリレート:GMA=50:1)。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は61%であった。
【0083】
(実施例18)
実施例2におけるポリエチレンイミン(分子量600、和光純薬製)をポリエチレンイミン(分子量1000、和光純薬製)に替えた他は、実施例2と同様にして、グラフト量0.87mg/cm、ヘパリン固定化中空糸を作製した(ヘパリン固定化量:0.4μg/cm)。
実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は51%であった。
【0084】
(実施例19)
実施例1におけるヘパリンの替わりに合成例2で調製した硫酸エステル化したヘパリン誘導体を用いた他は、実施例1と同様にして、糖類固定化中空糸を得た。実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は59%であった。
【0085】
(実施例20)
実施例1におけるヘパリンの替わりに合成例3で調製したN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を用いた他は、実施例1と同様にして、糖類固定化中空糸を得た。実施例1と同様にしてHCV E2吸着率の測定試験を行った結果、吸着率は62%であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の高分子基材は、ウイルス除去器具、及び該ウイルス除去器具を用いたウイルスの除去方法への利用が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1流出口
2流入口
3糖類
4中空糸
5容器
6隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類が固定化されたウイルス吸着用高分子基材において、
糖類が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアとの共有結合を介して高分子支持体にグラフト重合反応により固定化された重合性化合物(B)と結合されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材。
【請求項2】
高分子支持体が、ポリオレフィンを基質とする請求項1に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項3】
高分子支持体が、中空糸である請求項1に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項4】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプリピレン、又はポリ−4−メチルペンテンである請求項2に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項5】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又はアミノ基の保護基を有してもよい分子内に少なくとも2個のアミノ基を有するアミン誘導体である請求項1〜4の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項6】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基の保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである請求項5に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項7】
重合性化合物(B)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートである請求項1〜6の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項8】
糖類が、ヘパリン、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、又はフコイダンである請求項1〜7の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項9】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである請求項1〜8の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のウイルス吸着用高分子基材を備えたウイルス除去器具。
【請求項11】
請求項10に記載のウイルス除去器具を用いたウイルスの除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224350(P2011−224350A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47555(P2011−47555)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】