説明

糸センサ、及び、この糸センサを備えた繊維機械

【課題】固有の検出特性のバラツキの影響を補正によって除去するとともに、交換の度にその補正情報を設定することが不要な、糸センサを提供すること。
【解決手段】糸センサ24は、走行する糸Yの走行速度に対応した検出信号を発信する検出部40と、検出部40に固有の補正情報を記憶する記憶部41と、検出部40から発信された検出信号を、記憶部41に記憶された補正情報を用いて補正する演算部42と、演算部42で補正された後の補正済み信号を出力する信号出力部43とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸の走行速度又は走行長さを検出する糸センサ、及び、この糸センサを備えた繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、糸を巻取る巻取り装置と、巻取られる糸の走行速度を検出する糸センサを有し、糸センサで検出された糸の走行速度から、巻取パッケージの糸の長さを取得することが可能に構成された繊維機械が知られている。
【0003】
特許文献1には、給糸パッケージから解舒された糸を巻き返して、巻取りパッケージを形成する巻取ユニットを複数備えた、自動ワインダが開示されている。各巻取ユニットは、巻取られる糸の走行速度(以下、糸速ともいう)を検出する糸センサ(糸速センサ)を備えている。そして、この特許文献1の自動ワインダは、各巻取ユニットにおいて、糸センサで検出された糸速からパッケージに巻取られた糸の長さを算出することが可能となっている。
【0004】
尚、特許文献2には、糸センサの詳細な構成が開示されている。特許文献2の糸センサは、走行する糸に向けて光を発する光源と、糸走行方向に沿って配置された複数の受光素子と、複数の受光素子の配置位置に対応した複数の開口部を有するスリットとを有する。光源から発せられた光は、スリットの複数の開口部を通過して複数の受光素子に到達する。ここで、糸が走行すると、糸の表面に存在する毛羽の多寡によって各開口部を通過する光量が変化し、受光素子から出力される光電流も変化する。そこで、受光素子から出力された光電流の変化をパルス信号に変換して、一定時間内のパルス数(1つの毛羽部分が開口部を通過した回数)をカウントし、パルス数に開口部のピッチを乗じることで、前記一定時間内に走行した糸の長さ、即ち、糸速が検出される。
【0005】
糸センサは、長期間使用すると、センサの検出面が糸から発生する風綿等のゴミの付着により汚れてしまい、検出精度が低下してしまうことがある。また、長年の使用によりセンサが劣化して、検出精度が低下してしまうこともある。さらに、糸センサには固有の検出特性があり、糸センサ間でその検出特性にはバラツキがある。そのため、各々の糸センサの糸速の検出値をそのまま使用して巻取パッケージの糸長さを算出したときには、この算出された糸長さには、糸センサの検出精度の低下、及び、検出特性のバラツキの影響が含まれている。例えば、複数の巻取ユニット間で、実際は同じ糸長さのパッケージが形成されている場合であっても、糸センサの検出精度の低下、及び、検出特性のバラツキによって、算出される糸長さが異なってしまう。
【0006】
検出精度の低下に対しては、センサの感度を一定に保つようにフィードバック制御を行うことによる解決が従来よりなされている。また、糸センサの検出特性のバラツキに対しては、例えば、以下のような解決策が採用されている。特許文献1の自動ワインダにおいては、複数の巻取ユニットを含む自動ワインダ全体を制御する制御装置に、糸センサに固有の検出特性を補正するための補正情報を設定する設定器が設けられており、この設定器から複数の巻取ユニットに対して、各々の糸センサに対応した補正情報が送信される。そして、各巻取ユニットは、制御装置から送信された補正情報を用いて糸センサの出力信号に補正を行い、補正後の信号に基づいてパッケージの糸長さを算出する。これにより、糸センサの検出特性のバラツキの影響が補正によって除去されるため、パッケージの糸長さを精度よく検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−137571号公報
【特許文献2】特開2005−194024号公報(段落0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1の構成では、各巻取ユニットの糸センサの補正情報は、複数の巻取ユニットを制御する制御装置内の設定器で設定される。そのため、糸センサの故障時などに糸センサを交換する度に、作業者は、新しく取り付けた糸センサの補正情報を制御装置の設定器で設定しなくてはならず、作業が煩雑であった。また、糸センサ交換時に補正情報の設定を忘れる、あるいは、複数の糸センサを同時に交換した場合の設定間違い等の人為的ミスを完全に防ぐことはできず、このようなミスが発生した場合には、誤った補正情報に基づいて糸センサの出力信号の補正が行われてしまう。
【0009】
本発明の目的は、固有の検出特性のバラツキの影響を補正によって除去するとともに、交換の度にその補正情報を設定することが不要な、糸センサを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
第1の発明の糸センサは、走行する糸の走行速度又は走行長さに対応した検出信号を発信する検出部と、前記検出部に固有の補正情報を記憶する記憶部と、前記検出部から発信された前記検出信号を、前記記憶部に記憶された補正情報を用いて補正する演算部と、前記演算部で補正された後の補正済み信号を出力する信号出力部とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、検出部から発信された、糸の走行速度又は走行長さに対応した検出信号は、糸センサ内の記憶部に記憶された、検出部に固有の補正情報を用いて演算部で補正される。従って、検出部に固有の検出特性のバラツキの影響が除去された、補正済みの信号が糸センサから外部へ出力される。このように、本発明の糸センサは、その内部で補正情報を保持し、さらに、その補正情報によって検出部の検出信号を補正してから外部へ出力するため、糸センサを交換する度に、新たな糸センサの検出特性の補正に関する設定を別途行う必要がなく、交換時の作業が簡略化される。
【0012】
第2の発明の繊維機械は、走行する糸を巻取ってパッケージを形成する巻取ユニットを複数備え、各巻取りユニットは、請求項1に記載の糸センサと、前記糸センサの前記信号出力部から出力された補正済み信号から、糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方を算出する算出部とを有することを特徴とするものである。
【0013】
上述したように、巻取ユニットに備えられた糸センサからは補正済みの検出信号が出力される。従って、この糸センサから出力された信号に基づいて算出部で算出される、糸の走行速度や糸の走行長さは、糸センサの検出特性のバラツキの影響は除去された、精度の高いものとなる。
【0014】
第3の発明の繊維機械は、前記第2の発明において、前記複数の巻取ユニットをそれぞれ制御する制御部を備え、前記制御部に、各巻取ユニットの前記算出部で算出された、前記糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方の情報が入力されることを特徴とするものである。
【0015】
各巻取ユニットの算出部で算出された糸の走行速度や走行長さは、糸センサの検出特性のバラツキの影響が除去されていることから、制御部は、このような精度の高い、糸の走行速度や走行長さの情報に基づいて、各巻取ユニットを管理することができる。
【0016】
第4の発明の繊維機械は、前記第2又は第3の発明において、前記糸センサは、前記検出部、前記記憶部、前記演算部、及び、前記信号出力部が取り付けられるハウジングを有し、前記巻取ユニットに対して一体的に着脱できるように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
このように、検出部、記憶部、演算部、及び、信号出力部がハウジングに取り付けられていることから、糸センサの各機構を、ハウジングとともに、巻取ユニットに対して一体的に着脱することが可能となり、糸センサの取付や交換が容易である。
【0018】
第5の発明の繊維機械は、前記第2〜第4の何れかの発明において、前記糸センサが前記巻取ユニットに取り付けられた直後から、前記算出部は、前記糸センサから出力された前記補正済み信号から、前記糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方の算出が可能な状態となることを特徴とするものである。
【0019】
従って、糸センサを巻取ユニットに取り付けるという作業を行うだけで、算出部における糸の走行速度又は走行長さの算出において、糸センサの補正情報が反映されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る自動ワインダを概略的に示す正面図である。
【図2】巻取ユニットの正面図である。
【図3】パッケージの糸長さ情報の取得に関する構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、給糸ボビンから解舒された糸を巻取管に巻取って巻取パッケージを形成する巻取ユニットを多数備えた、自動ワインダ(繊維機械)に本発明を適用した一例である。図1は本実施形態に係る自動ワインダの概略構成を示す正面図、図2は自動ワインダの1つの巻取ユニットの正面図である。
【0022】
図1、図2に示すように、自動ワインダ1は、列設された複数の巻取ユニット2と、これら多数の巻取ユニット2に沿ってそれらの列設方向に走行自在に設けられた玉揚装置3と、自動ワインダ1の全体制御を司る機台制御装置4(制御部)とを備えている。尚、機台制御装置4は、巻取ユニット2の列設方向一端側に配置されている。
【0023】
そして、この自動ワインダ1は、機台制御装置4から複数の巻取ユニット2の巻取ユニット制御装置30に対して指令を送り、各々の巻取ユニット2において給糸ボビンから解舒される糸を巻取管に巻取ってパッケージを形成するように構成されている。また、ある巻取ユニット2に満玉パッケージが形成されたときには、玉揚装置3がその巻取ユニット2の頭上に移動して、満玉パッケージを空の巻取管に取り替えるようになっている。また、機台制御装置4は、複数の巻取ユニット2のそれぞれの動作を制御するとともに、動作状態の監視や動作パラメータの設定記憶等を行う。
【0024】
次に、各々の巻取ユニット2の詳細な構成について説明する。図2に示す巻取ユニット2は、給糸ボビンBから解舒される紡績糸をトラバースさせながら巻取管11に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージPを形成するものである。
【0025】
巻取ユニット2は、その上部に、図示しないユニットフレームに設けられて巻取管11を回転自在に把持するクレードル12と、同じくユニットフレームに回転自在に支持された綾振ドラム13とを備えている。綾振ドラム13はドラム駆動モータ28により回転駆動される。また、この綾振ドラム13の周面には螺旋状の綾振溝13aが形成されており、この綾振溝13aによって紡績糸Yをトラバースさせるように構成されている。そして、綾振ドラム13が、綾振溝13aによって紡績糸Yをトラバースさせながら、巻取管11に形成されたパッケージPに接触した状態で回転することで、綾振ドラム13との接触摩擦によってパッケージPが回転し、給糸ボビンBから解舒された糸Yが巻取管11に巻取られていくようになっている。
【0026】
図2に示すように、給糸ボビンBと綾振ドラム13の間の糸走行経路中には、給糸ボビンB側から順に、解舒補助装置17、ヤーンフィーラ18、テンション付与装置19、糸継装置20、糸センサ24、ヤーンクリアラー21がそれぞれ配設されている。
【0027】
解舒補助装置17は、給糸ボビンBに被さる筒体25と、この筒体25を降下させる駆動装置26とを備えており、駆動装置26により筒体25と給糸ボビンBの先端(チェス部)との間隔が略一定に保たれるように制御して、糸Yの解舒を安定させるものである。また、ヤーンフィーラ18は、解舒補助装置17とテンション付与装置19との間における紡績糸Yの有無を検出するものである。
【0028】
テンション付与装置19は、走行する紡績糸Yに所定のテンションを付与するものである。図2に示される例では、固定の櫛歯19aに対して可動の櫛歯19bを配置するゲート式のものが用いられている。櫛歯19aに対して櫛歯19bが噛み合わせ状態または開放状態になるように旋回自在になっており、その旋回はロータリー式のソレノイド27により行われる。
【0029】
糸継装置20は、後述するヤーンクリアラー21により検出された糸欠陥を除去するために行われる糸切断時、または解舒中の糸切れ時などに、給糸ボビンB側の下糸Y1とパッケージP側の上糸Y2とを糸継ぎするものである。尚、図2には、糸継装置20として、空気流を発生させて下糸Y1と上糸Y2の繊維同士を絡ませて糸継ぎをおこなう、エアスプライサが用いられている。
【0030】
また、糸継装置20の上下には、給糸ボビンB側の下糸Y1を捕捉して糸継装置20へ案内する下糸捕捉案内部材22と、パッケージP側の上糸Y2を捕捉して糸継装置20へ案内する上糸捕捉案内部材23が設けられている。解舒中の糸切れ時、あるいは、ヤーンクリアラー21による糸切断時には、下糸捕捉案内部材22の吸引口22aは、図2に示されている位置において下糸Y1の糸端を捕捉し、下から上へと旋回して糸継装置20に下糸Y1を案内する。同時に、上糸捕捉案内部材23は、そのサクションマウス23aが、図2に示されている位置から、パッケージPと綾振ドラム13の接点近傍の糸端捕捉位置まで旋回し、この糸端捕捉位置においてパッケージPから上糸Y2の糸端を捕捉した後に再び下へと旋回し、糸継装置20に上糸Y2を案内するようになっている。
【0031】
糸センサ24は、糸Yの走行長さを検出するセンサである。このような糸センサ24としては様々な方式のものを使用できるが、一例を挙げると、糸に糸太さの変動があることを利用して、糸の走行長さを検出する方式のセンサが挙げられる。本実施形態では、糸Yは紡績糸であり、この紡績糸は、毛羽によって長さ方向で糸太さが変動する。即ち、毛羽立ちのある部分は、糸太さが見かけ上太くなる。そこで、この糸太さが変動する部位の移動状態を検出することで、糸の走行長さを検出することが可能となる。より詳しくは、糸センサ24は、光学式の糸太さ検出装置を糸走行方向に沿って複数備えており、糸走行方向で異なる位置にある糸太さ検出装置の出力信号を元に、空間フィルタ方式を利用して、糸Yの走行長さを検出する。
【0032】
あるいは、糸センサ24として、糸に接触して従動回転するローラの回転量から、糸の走行長さを検出する方式のものを使用することもできる。この場合、糸の走行長さはローラの周回転量に比例するため、ロータリエンコーダ等で検出されたローラの回転量から周回転量を算出することで、糸の走行長さを求めることが可能である。この方式では、ローラは糸の走行に連動し、糸速に正比例した速度で回転するので、ローラの回転量は糸の走行長さを正確に反映することになり、糸の走行長さの検出精度が高い。
【0033】
尚、この糸センサ24の、糸の走行長さに対応した検出信号を出力する検出部(上述した例では、光学式の糸太さ検出装置や、ローラの回転速度検出部(ロータリエンコーダ等)がこれに相当する)は、固有の検出特性を有し、異なる糸センサ24間で検出特性に多少のバラツキが生じてしまう。つまり、同じ速度で走行する糸の走行長さを、異なる糸センサ24の検出部で検出した場合に、各々の検出部から出力される検出信号にはバラツキが発生する。そこで、本実施形態の糸センサ24は、前記検出部の検出特性のバラツキの影響を除去するための補正情報を記憶しており、糸センサ24内部で、前記補正情報を用いた検出信号の補正まで行うように構成されている。この具体的構成については、後ほど詳述する。
【0034】
ヤーンクリアラー21は、紡績糸Yの欠陥を検出するためのものであって、クリアラーからの紡績糸Yの太さに応じた信号が適宜のアナライザで処理されることで、スラブ等の糸欠陥を検出する。また、このクリアラー21には、糸欠陥を検出した時の糸切断用のカッター21aが付設されている。
【0035】
図2に示す巻取ユニット制御装置30は、上述した巻取ユニット2の各部の動作を制御することによって、巻取管11に巻取パッケージPを形成させる。この巻取ユニット制御装置30は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びプログラムに使用されるデータが記憶されているROM(Read-Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)、及び、外部とのデータの入出力を行う入出力インターフェース等で構成されている。
【0036】
巻取ユニット制御装置30は、自動ワインダ1の全体動作を制御する機台制御装置4から送られた指令に基づいて、巻取ユニット2の各部を制御する。具体的には、巻取ユニット制御装置30には、ヤーンフィーラ18の出力信号、糸センサ24の検出信号等が入力される。その上で、巻取ユニット制御装置30は、綾振ドラム13を駆動するドラム駆動モータ28を制御して、巻取管11に所定の糸量(糸長さ)のパッケージPを形成する。このとき、同時に、解舒補助装置17の駆動装置26やテンション付与装置19のソレノイド27を制御する。さらに、糸巻取中に、糸切れが発生した場合、あるいは、ヤーンクリアラー21により検出された糸欠陥を除去するためにカッター21aによる糸切断が行われた場合には、糸継装置20を制御してパッケージP側の上糸Y2と給糸ボビンB側の下糸Y1の糸継ぎを行う。
【0037】
また、巻取ユニット制御装置30は、機台制御装置4に対して、巻取ユニットの動作状態に関する情報や、動作パラメータ等、機台制御装置4が巻取ユニット2を管理するために必要な様々な情報を送信する。
【0038】
ところで、上記の機台制御装置4に送信される情報の1つに、巻取ユニット2で形成されたパッケージPの糸量(糸長さ)の情報がある。図3は、パッケージPの糸長さ情報の取得に関する構成を概略的に示すブロック図である。図3に示すように、糸センサ24の信号出力部43から出力された、糸の走行長さに対応した検出信号は、巻取ユニット制御装置30の算出部44に入力される。そして、算出部44は、前記検出信号を用いて、巻取ユニット2で巻取られる糸の長さを算出する。より詳細には、糸長さは、糸の走行状態を示すパルス信号を累積することで算出することが可能である。そこで、算出部44は、糸センサ24の検出信号(パルス信号)から糸の走行長さを導出し、パッケージPの巻き始めからパッケージPの巻き終わりとなるまで、糸の走行長さの時間積分を行うことにより、パッケージPの糸長さを算出する。
【0039】
また、巻取ユニット2で算出されたパッケージPの糸長さは、機台制御装置4に送信される。そして、機台制御装置4の糸長さ管理部45には、複数の巻取ユニット制御装置30の算出部44でそれぞれ算出された、糸長さの情報が入力されることになる。これにより、機台制御装置4の糸長さ管理部45は、複数の巻取ユニット2でどのような糸長さのパッケージPが形成されているのかを把握することができる。
【0040】
ところで、先にも少し触れたが、糸センサ24の検出部40は固有の検出特性を有するため、複数の糸センサ24間で、例え検出対象の糸Yの速度が同じであっても、複数の検出部40からそれぞれ発信される検出信号は多少異なったものとなってしまう。そのため、そのバラツキの影響を含んだ検出信号に基づいて、パッケージPの糸長さを算出すると、同じ糸長さのパッケージPであるのに、糸センサ24の検出特性によって算出される糸長さの値が異なってしまうというような問題が生じる。そこで、糸センサ24は、検出特性のバラツキの影響を除去するための補正を内部で行うように構成されている。
【0041】
具体的には、図3に示すように、糸センサ24は、ハウジング46、検出部40、記憶部41、演算部42、及び、信号出力部43を備えている。検出部40は、走行する糸Yの走行長さに対応した検出信号を発信する。記憶部41は、検出部40に固有の補正情報を記憶する。演算部42は、検出部40から発信された検出信号を、記憶部41に記憶された補正情報を用いて補正する。信号出力部43は、演算部42で補正された後の、検出特性のバラツキの影響が除去された、補正済み信号を巻取ユニット制御装置30へ出力する。また、ハウジング46には、検出部40、記憶部41、演算部42、及び、信号出力部43が取り付けられており、糸センサ24を構成する各機構を、ハウジング46とともに巻取ユニット21に対して一体的に着脱できるようになっている。そのため、糸センサ24の取付や交換が容易である。
【0042】
空間フィルタ方式を利用する従来の糸センサ24は、スリットに設けられた複数の開口部を用いて、光源から発せられた光を複数の光として捉えているが、本発明では、複数の受光素子の各々に入射される光を複数の光として捉えている。それゆえ、ハウジング46の受光素子側の開口部は1つとしている。この開口部は、光が透過可能なカバーで覆われており、糸から生ずる風綿等のゴミが受光素子に付着しないようになっている。
【0043】
前述した検出部40に固有の補正情報とは、具体的には次のような情報である。例えば、ある糸センサ24の糸の走行長さの検出値が、所定の基準値に対して100.1%の大きさとなる場合、検出値を−0.1%にする(100.0/100.1倍する)補正を行えば、糸センサ24から出力される糸の走行長さは、基準値と同じになる。この場合、記憶部41には「−0.1%」という補正情報が記憶される。
【0044】
あるいは、ある糸センサ24の検出値の、基準値に対するズレ量が、糸速に応じて変化する場合もある。例えば、糸速が1000m/分の場合には、検出部40から出力される検出信号の電圧値が基準値から+0.1mVずれ、800m/分の場合には、電圧値が−0.05mVずれるといった場合である。このような場合には、糸速とズレ量の大きさとの関係を表すテーブルが、記憶部41に補正情報として記憶される。
【0045】
尚、上記説明において、補正の基準となる「基準値」は、理想的には、検出対象の実際の糸の走行長さと完全に等しい、真の値であることが好ましいが、必ずしも基準値=真の値である必要はない。即ち、複数の糸センサ24間で、検出部40の検出特性のバラツキをなくして出力信号を均一にする(走行した糸の長さが同じ場合にどの糸センサ24で糸の走行長さを検出しても、出力される糸の走行長さが等しくなるようにする)という観点からは、前記基準値が真の値とは多少異なっていても問題はない。
【0046】
このような補正情報の元となる、各々の糸センサ24に固有の検出特性は、例えば、糸センサ出荷前の検査で判明する。そして、この判明した検出特性に応じて補正情報が決定され、決定された補正情報が記憶部41に記憶された後に、糸センサ24が出荷される。このように、出荷された糸センサ24の記憶部41には既に補正情報が記憶されているため、糸センサ24を交換する際に、作業者が、補正情報を新たに設定する作業は全く必要ない。
【0047】
従って、新たな糸センサ24が巻取ユニット2に取り付けられた直後から、この糸センサ24から、その固有の補正情報に基づいて、交換前の糸センサ24や、他の巻取ユニット2の糸センサ24と同じ特性に補正された、補正済みの信号が出力され、巻取ユニット制御装置30の算出部44は、その補正済み信号を用いた糸の走行長さの算出が可能となる。つまり、糸センサ24を巻取ユニット2に取り付けるという作業を行うだけで、算出部44における糸の走行長さの算出において、糸センサ24の補正情報が反映されることになる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の糸センサ24においては、検出部40から発信された、糸の走行長さに対応した検出信号は、糸センサ24内の記憶部41に記憶された、検出部40に固有の補正情報を用いて演算部42で補正される。そして、前記検出特性のバラツキの影響が除去された、補正済みの信号が糸センサ24から巻取ユニット制御装置30へ出力される。このように、糸センサ24は、その内部に補正情報を保持し、さらに、その補正情報によって検出部40の検出信号を補正してから出力するため、糸センサ24を交換する度に、新たな糸センサ24の検出特性の補正に関する設定を行う必要は特になく、交換時の作業が簡略化される。
【0049】
また、巻取ユニット制御装置30の算出部44は、糸センサ24から出力された補正済みの信号から、その巻取ユニット2で形成されるパッケージPの糸長さを算出するそのため、この算出部44で算出された糸長さは、糸センサ24の検出特性のバラツキの影響が除去された、精度の高いものとなる。
【0050】
さらに、各巻取ユニット2の算出部44で算出された、パッケージPの糸長さの情報は、複数の巻取ユニット2をそれぞれ制御する機台制御装置4に入力される。この糸長さの情報には、糸センサ24の検出特性のバラツキの影響が除去されていることから、機台制御装置4は、このような精度の高い、糸の走行速度や走行長さの情報に基づいて、各巻取ユニット2を管理することができる。従って、例えば、算出された糸長さの精度が低いと、機台制御装置4は、本来正常な糸長さのパッケージであるのに、糸長さが正常範囲にない不良パッケージであると誤って判定してしまう虞があるが、そのような誤判定を極力防止できるようになる。
【0051】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0052】
1]前記実施形態では、糸センサ24の検出部40は、糸の走行長さに対応する信号を発信するものであったが、糸速に対応する信号を発信するものであってもよい。また、この場合には、この糸速に対応する信号が演算部42で補正されて、信号出力部43から、糸速に対応した、補正済みの信号が出力される。また、巻取ユニット制御装置30の算出部44において、単位時間当たりに検出される糸の走行長さから糸速を算出してもよい。
【0053】
2]前記実施形態では、糸センサ24から糸の走行長さに対応する信号が出力され、巻取ユニット制御装置30において糸長さが算出されるようになっていたが、巻取ユニット制御装置30の算出部44において糸速が算出されてもよい。もちろん、糸速と糸長さの両方を算出してもよい。
【0054】
また、巻取ユニット制御装置30の算出部44で糸速が算出される場合には、巻取ユニット制御装置30から入力された糸速の情報に基づいて、機台制御装置4が、糸速から糸長さを算出するようにしてもよい。あるいは、機台制御装置4が、入力された糸速の情報から糸長さを算出することなく、糸速の情報のままで、各巻取ユニットの糸巻取状態を管理するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 自動ワインダ
2 巻取ユニット
4 機台制御装置
24 糸センサ
30 巻取ユニット制御装置
40 検出部
41 記憶部
42 演算部
43 信号出力部
44 算出部
Y 糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する糸の走行速度又は走行長さに対応した検出信号を発信する検出部と、
前記検出部に固有の補正情報を記憶する記憶部と、
前記検出部から発信された前記検出信号を、前記記憶部に記憶された補正情報を用いて補正する演算部と、
前記演算部で補正された後の補正済み信号を出力する信号出力部と、
を備えていることを特徴とする糸センサ。
【請求項2】
走行する糸を巻取ってパッケージを形成する巻取ユニットを複数備え、
各巻取りユニットは、
請求項1に記載の糸センサと、
前記糸センサの前記信号出力部から出力された補正済み信号から、糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方を算出する算出部と、
を有することを特徴とする繊維機械。
【請求項3】
前記複数の巻取ユニットをそれぞれ制御する制御部を備え、
前記制御部に、各巻取ユニットの前記算出部で算出された、前記糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方の情報が入力されることを特徴とする請求項2に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記糸センサは、前記検出部、前記記憶部、前記演算部、及び、前記信号出力部が取り付けられるハウジングを有し、前記巻取ユニットに対して一体的に着脱できるように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の繊維機械。
【請求項5】
前記糸センサが前記巻取ユニットに取り付けられた直後から、前記算出部は、前記糸センサから出力された前記補正済み信号から、前記糸の走行速度と走行長さの少なくとも一方の算出が可能な状態となることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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