説明

糸巻取装置及びパッケージの回転不良検出のためのアラーム閾値決定方法

【課題】パッケージの回転不良を高精度に自動検出できる糸巻取装置を提供する。
【解決手段】自動ワインダは、巻取ユニット16と、機台制御装置11と、を備える。巻取ユニット16は、糸の巻取作業を行う。機台制御装置11は、巻取ユニット16の制御を行う。機台制御装置11は、理論パッケージ算出部27と、演算部17と、を備える。理論パッケージ算出部27は、理論パッケージ回転数を算出する。演算部17は、パッケージの回転不良を判定するためのアラーム閾値を理論パッケージ回転数に基づいて決定する。アラーム閾値は、巻取ユニット16に入力される。巻取ユニット16が備えるアラーム判定部76は、パッケージの実際の回転数と、アラーム閾値と、を比較してアラーム判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動ワインダ等の糸巻取装置においては、従来から、ベアリングを介してパッケージを回転可能に支持し、このパッケージに綾振ドラムを接触させつつ回転駆動させることにより、パッケージを従動回転させて糸を巻き取る構成が知られている。
【0003】
このような糸巻取装置において、特許文献1は、パッケージの形成中に糸巻成嵩等を算出する方法を開示する。特許文献1の構成では、パッケージの回転速度の測定値、綾振ドラムの回転速度の測定値、及び綾振ドラムのドラム径等に基づいて、糸巻成嵩δ及びパッケージ径dsp等が計算される。そして、パッケージ径dspにわたる糸巻成嵩δの経過がメモリに記録され、又はディスプレイに表示される。また、特許文献1は、計算された糸巻成嵩δの実際値が目標値を下回る場合は、綾巻パッケージが極めて高い巻成密度で巻かれることを意味するので、駆動モータの減速等により巻き密度を正常値に戻す制御を行う構成についても開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−72168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようにパッケージをベアリングで回転可能に支持する構成の糸巻取装置においては、当該ベアリングが故障する等してパッケージが円滑に回転できなくなると、回転する綾振ドラムによってパッケージの外周面が摩擦され、損傷や発熱の原因となる。従って、このようなパッケージの回転不良が発生した場合、それを早期に発見し、何らかの対処をすることが好ましい。
【0006】
そこで、パッケージの回転不良を検出する方法としては、許容できるパッケージ回転速度の下限値(閾値)を、適当なマージンを見込んだ形で定め、現在のパッケージの回転速度の測定値が前記閾値を下回るかどうかを調べることが考えられる。
【0007】
しかしながら、この閾値の決定は容易なものではない。即ち、糸巻取装置では巻取条件(糸の太さ、パッケージの形状等)を必要に応じて種々変更して糸を巻き取ることが多いが、糸巻取条件が変わる毎にオペレータ側で閾値を計算して再設定しようとすると、多大な時間と手間を要する。一方、全ての糸巻取条件に対して共通の閾値を一律に適用しようとすると、マージンを大きくとって非常に甘い判定条件とせざるを得ず、パッケージの回転不良の検出精度の低下を招く。
【0008】
なお、上記特許文献1の構成においてパッケージ径dspとの関係で糸巻成嵩δが計算されるのは、糸巻成嵩δの実際値の経過が、綾巻パッケージの重要な特性値である糸の巻成密度に関係するためであり、回転不良を検出するためではない。また、特許文献1においてパッケージ径dspはパッケージの回転速度の測定値と綾振ドラムの回転速度の測定値に基づいて定められるため(糸の太さやパッケージの形状等に基づいて定めるものではないため)、パッケージの回転不良が発生すると、計算されたパッケージ径dspの値が実際の値から乖離してしまう。従って、特許文献1の構成は、上記のようなパッケージの回転不良を適切に検出して周囲に知らせることができなかった。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、パッケージの回転不良を高精度に自動検出できる糸巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の糸巻取装置が提供される。即ち、この糸巻取装置は、巻取ユニットと、制御部と、を備える。前記巻取ユニットには、回転するドラムが設けられる。そして、前記巻取ユニットは、前記ドラムによりパッケージを従動回転させて糸の巻取作業を行う。前記制御部は、前記巻取ユニットを制御する。前記制御部は、理論パッケージ算出部と、演算部と、を備える。前記理論パッケージ算出部は、理論パッケージ回転数を算出する。前記演算部は、パッケージの回転不良を判定するためのアラーム閾値を前記理論パッケージ回転数に基づいて決定する。
【0012】
これにより、アラーム閾値を自動的に設定することができるので、適切なアラーム閾値を柔軟に定めて糸巻取装置を運用することができる。
【0013】
前記の糸巻取装置においては、前記理論パッケージ算出部は、理論パッケージ径を糸巻取条件に基づいて算出し、前記理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて理論パッケージ回転数を算出することが好ましい。
【0014】
これにより、糸巻取条件に応じた適切なアラーム閾値を設定することができる。また、糸巻取条件の変更にも容易に対応することができる。
【0015】
前記の糸巻取装置においては、前記理論パッケージ径は、満巻時における前記理論パッケージ径であることが好ましい。
【0016】
これにより、この理論パッケージ径から理論パッケージ回転数を一度求めるだけで、同一の糸巻取条件に適用可能なアラーム閾値を得ることができる。そのため、理論パッケージ算出部及び演算部が行う処理を簡単にすることができる。
【0017】
前記の糸巻取装置においては、前記糸巻取条件は、巻き取られる糸の種類と、形成するパッケージの形状と、を含むことが好ましい。
【0018】
これにより、理論パッケージ径を的確に算出することができる。
【0019】
前記の糸巻取装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記巻取ユニットは、巻取長さ測定部と、巻取長さ出力部と、を更に備える。前記巻取長さ測定部は、糸が巻き取られた長さである巻取長さを測定する。前記巻取長さ出力部は、前記巻取長さ測定部が測定した巻取長さを出力する。前記制御部には、巻取長さ入力部が備えられる。前記巻取長さ入力部には、前記巻取長さ出力部が出力した前記巻取長さが入力される。前記理論パッケージ算出部は、糸巻取条件と前記巻取長さとに基づいて理論パッケージ径を算出し、この理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて巻取長さ測定時の理論パッケージ回転数を算出する。
【0020】
これにより、巻取途中の時点での理論パッケージ径を巻取長さに基づいて求めることができるので、巻取の始めから終わりまでの間にパッケージ径及びパッケージ回転数が変化する場合であっても、適切なアラーム閾値を得ることができる。
【0021】
前記の糸巻取装置においては、前記アラーム閾値は、前記理論パッケージ回転数が変化する毎に更新されることが好ましい。
【0022】
即ち、糸の巻取途中においてはパッケージ回転数は刻々と変化し得るが、上記の構成とすることで、どの時点においてもパッケージの回転不良を良好な精度で検出することができる。
【0023】
ただし、前記の糸巻取装置においては、アラーム閾値は、前記理論パッケージ回転数の変化に応じて段階的に切り替えられるようにすることもできる。
【0024】
これにより、理論パッケージ算出部及び演算部の負荷を大幅に増大させることなく、糸の巻取りの進行具合に応じてアラーム閾値を切り替えて糸巻取装置を運用することができる。
【0025】
前記の糸巻取装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記制御部は、閾値出力部を備える。前記閾値出力部は、アラーム閾値を出力する。前記巻取ユニットは、閾値入力部と、パッケージ回転数測定部と、アラーム判定部と、アラーム部と、を備える。前記閾値入力部には、アラーム閾値が入力される。前記パッケージ回転数測定部は、パッケージの回転数を測定する。前記アラーム判定部は、アラーム閾値と、前記パッケージ回転数測定部が測定したパッケージ回転数と、を比較してアラーム判定を行う。前記アラーム部は、前記アラーム判定部の判定によりアラームを発する。
【0026】
これにより、オペレータは、アラーム部が発生させるアラームにより、パッケージの回転不良が生じていることを早期に知ることができる。また、アラーム部が巻取ユニットに備えられているので、オペレータは、パッケージの回転不良が発生している巻取ユニットを容易に特定することができる。
【0027】
前記の糸巻取装置においては、前記制御部は、複数の巻取ユニットを制御する機台制御装置であることが好ましい。
【0028】
これにより、機台制御装置を用いて、複数の巻取ユニットに同一の操作を行うことができる。従って、作業時間を短縮できる。
【0029】
本発明の別の観点によれば、以下のような工程を含む、パッケージの回転不良検出のためのアラーム閾値決定方法が提供される。即ち、理論パッケージ径算出工程では、巻き取られる糸の種類と、パッケージの形状と、パッケージを形成するのに必要な糸長さと、に基づいて理論パッケージ径を算出する。理論パッケージ回転数算出工程では、前記理論パッケージ径に基づいて理論パッケージ回転数を算出する。アラーム閾値決定工程では、前記理論パッケージ回転数に基づいてアラーム閾値を決定する。
【0030】
これにより、糸巻取条件に応じてアラーム閾値を自動的に設定することができるので、適切なアラーム閾値を柔軟に定めて糸巻取装置を運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの正面概略図。
【図2】自動ワインダが備える巻取ユニットの概略を示す正面図。
【図3】機台制御装置と巻取ユニットの主要な構成を示すブロック図。
【図4】本発明の一実施形態に係るアラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフ。
【図5】第1変形例に係るアラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフ。
【図6】第2変形例に係るアラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフ。
【図7】糸速度センサで糸速度を検出する構成の巻取ユニットを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動ワインダ60の正面概略図である。図2は、自動ワインダ60が備える巻取ユニット16の概略を示す正面図である。図3は、機台制御装置11と巻取ユニット16の主要な構成を示すブロック図である。
【0033】
図1に示すように、自動ワインダ(糸巻取装置)60は、機台制御装置(制御部)11と、並べて配置された複数の巻取ユニット16と、自動玉揚装置51と、を備えている。
【0034】
それぞれの巻取ユニット16は、給糸ボビン21から解舒された糸20を綾振ドラム41によって綾振りしながら巻取ボビンに巻き取り、パッケージ30を形成できるように構成されている。また、巻取ユニット16は、走行する糸20の太さ等を監視するクリアラ(糸品質測定器)42を備え、クリアラ42が糸20の欠陥を検出したときはそれを除去できるように構成されている。
【0035】
自動玉揚装置51は、各巻取ユニット16においてパッケージが満巻となった際に、当該巻取ユニット16の位置まで走行し、当該満巻パッケージを回収するとともに空ボビンを供給することができるように構成されている。この自動玉揚装置51の動作は、機台制御装置11によって制御されている。
【0036】
以下、巻取ユニット16の構成を具体的に説明する。図2に示すように、巻取ユニット16は、給糸ボビン21と綾振ドラム41との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、解舒補助装置12と、テンション付与装置13と、糸継装置14と、クリアラ42と、を配置して構成されている。
【0037】
解舒補助装置12は、給糸ボビン21の芯管に被さる規制部材40を給糸ボビン21からの糸20の解舒と連動して下降させることにより、給糸ボビン21からの糸の解舒を補助するものである。規制部材40は、給糸ボビン21から解舒された糸20の回転と遠心力によって給糸ボビン21の上部に形成されたバルーンに対し接触し、当該バルーンの大きさを適切に制御することによって糸20の解舒を補助する。規制部材40の近傍には、前記給糸ボビン21のチェース部を検出するための図略のセンサが備えられている。このセンサがチェース部の下降を検出すると、それに追従して前記規制部材40を例えばエアシリンダ(図略)によって下降させる制御が行われる。
【0038】
テンション付与装置13は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものである。テンション付与装置13としては、例えば、固定の櫛歯に対して可動の櫛歯を配置するゲート式のものを用いることができる。可動側の櫛歯は、櫛歯同士が噛合せ状態又は開放状態となるように、例えばロータリ式に構成されたソレノイドにより回動することができる。
【0039】
このテンション付与装置13によって、巻き取られる糸20に一定のテンションを付与し、パッケージ30の品質を高めることができる。なお、テンション付与装置13としては、上記のゲート式のもの以外にも、例えばディスク式のものを採用することができる。
【0040】
糸継装置14は、クリアラ42が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎするものである。このような上糸と下糸とを糸継する糸継装置としては、圧縮空気等の流体を用いるものや、機械式のものを採用することができる。
【0041】
クリアラ42は、糸20の太さを検出するための図略のセンサが配置されたクリアラヘッド49と、このセンサが出力する糸太さ信号を処理するアナライザ47と、を備えている。クリアラ42は、前記センサからの糸太さ信号を監視することにより、スラブ等の糸欠陥(糸欠点)を検出するように構成されている。クリアラヘッド49の近傍には、クリアラ42が糸欠陥を検出したときに直ちに糸20を切断するためのカッタ39が設けられている。
【0042】
糸継装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の下糸を捕捉して糸継装置14に案内する下糸案内パイプ25と、パッケージ30側の上糸を捕捉して糸継装置14に案内する上糸案内パイプ26と、が設けられている。下糸案内パイプ25と上糸案内パイプ26は、それぞれ軸33,35を中心にして回転可能に構成されている。下糸案内パイプ25の先端には吸引口32が形成され、上糸案内パイプ26の先端にはサクションマウス34が備えられている。下糸案内パイプ25及び上糸案内パイプ26には適宜の負圧源がそれぞれ接続されており、吸引口32及びサクションマウス34に吸引流を発生させて、上糸及び下糸の糸端を吸引捕捉できるように構成されている。
【0043】
クレードル23は、一対のクレードルアーム61,62を備えている。このクレードルアーム61,62はヒンジ軸48によって支持されており、綾振ドラム41に対し近接及び離間する方向に回転することができる。
【0044】
一対のクレードルアーム61,62の先端には、回転ホルダ63,64が取り付けられている。この回転ホルダ63,64は互いに対面するように配置され、それぞれが図略のベアリングを介して回転可能に支持されている。この構成で、巻取ボビン22を2つの回転ホルダ63,64の間に挟み込むように装着することにより、当該巻取ボビン22をクレードル23に回転可能に支持することができる。
【0045】
クレードル23は、当該クレードル23に装着されたパッケージ30(巻取ボビン22)の回転を検出するためのパッケージ回転センサ72を備える。このパッケージ回転センサ72は例えばロータリエンコーダとして構成されており、ユニット制御部70に電気的に接続されている。このパッケージ回転センサ72は、一側の回転ホルダ63が所定角度回転するごとに、パルス信号をユニット制御部70へ出力するように構成されている。
【0046】
綾振ドラム41は、前記クレードル23の近傍に配置され、回転可能に支持されている。綾振ドラム41の外周面には、糸20を所定の幅でトラバースするための螺旋状の綾振溝が形成されている。綾振ドラム41にはドラム駆動モータ53の出力軸が連結されており、ドラム駆動モータ53はモータ制御部74によって制御されている。モータ制御部74は、ユニット制御部70からの信号に基づいて、ドラム駆動モータ53の回転を制御する。綾振ドラム41は、ドラム駆動モータ53によって駆動されると、当該綾振ドラム41の外周面に接触している巻取ボビン22ないしパッケージ30を従動回転させる。
【0047】
綾振ドラム41の近傍にはドラム回転センサ73が配置されており、このドラム回転センサ73はユニット制御部70に電気的に接続されている。このドラム回転センサ73は例えばロータリエンコーダとして構成され、綾振ドラム41が所定角度回転するごとに回転パルス信号をユニット制御部70に出力するように構成されている。ユニット制御部70は、所定時間あたりのパルス数を計測することで、綾振ドラム41の回転数を取得することができる。
【0048】
次に、各巻取ユニット16の制御について説明する。図2及び図3に示すように、パッケージ回転センサ(パッケージ回転数測定部)72、ドラム回転センサ(巻取長さ測定部)73及びモータ制御部74は、ユニット制御部70に接続されている。
【0049】
ユニット制御部70は、図略のCPU(中央演算処理装置)と、ROM(リードオンリーメモリ)と、RAM(ランダムアクセスメモリ)と、を備える。また、ユニット制御部70は、図3に示すように、データの送受信が可能なI/Oポート(閾値入力部、巻取長さ出力部、入出力部)78を備えている。
【0050】
前記ROMには、巻取ユニット16の各構成(例えばモータ制御部74等)を制御するための制御プログラムが記憶されている。前記CPUは、ROMに記憶された制御プログラムを前記RAMに読み出して実行することにより、各構成を制御して適切に糸の巻取を行うことができるように構成されている。言い換えれば、上記ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、糸の巻取りを制御するための巻取制御部75がユニット制御部70に構築されている。
【0051】
また、ユニット制御部70は、上記の巻取制御部75の他に、パッケージが回転不良となっているか否かの判定を行うアラーム判定部76を備えている。なお、この判定の詳細については後述する。
【0052】
巻取ユニット16は、例えば光や音等によりアラームを発することが可能なアラーム部77を備えている。このアラーム部77の具体的な構成としては、例えばランプやブザー等が考えられる。このアラーム部77は、前記ユニット制御部70に電気的に接続されている。この構成で、パッケージの回転不良が生じていると前記アラーム判定部76が判定した場合は、ユニット制御部70は警告信号をアラーム部77へ出力してアラームを発生させ、オペレータに注意を促すことができる。
【0053】
図1及び図3に示すように、前記機台制御装置11は、理論パッケージ算出部27と、演算部17と、表示部18と、入力キー19と、を備えている。また、機台制御装置11はユニット制御部70と同様に、CPUと、ROMと、RAMと、I/Oポート(閾値出力部、巻取長さ入力部、入出力部)15と、を備えている。
【0054】
機台制御装置11のI/Oポート15は、各巻取ユニット16に備えられるユニット制御部70のI/Oポート78と、適宜の通信線を介して接続されている。この構成により、機台制御装置11は、それぞれの巻取ユニット16のユニット制御部70に対して各種の糸巻取条件を送信し、当該糸巻取条件を設定することができる。また機台制御装置11は、それぞれの巻取ユニット16のユニット制御部70から、当該巻取ユニット16における現在の糸巻取状況に関する情報(糸巻取状況情報)を受信可能に構成されている。
【0055】
この構成により、自動ワインダ60が備えている複数の巻取ユニット16を、機台制御装置11によって一括して管理することができる。具体的には、機台制御装置11は、それぞれの巻取ユニット16のユニット制御部70に対して各種の糸巻取条件を送信し、設定することができる。更に、機台制御装置11は、それぞれの巻取ユニット16のユニット制御部70から、当該巻取ユニット16における現在の糸巻取状況に関する情報を受信可能に構成されている。
【0056】
巻取ユニット16に設定される糸巻取条件としては、例えば、巻き取られる糸の種類、巻取速度、番手、巻取張力、パッケージの形状、パッケージを形成するのに必要な糸長さ、パッケージ重量、糸欠陥に関する項目などがある。また、巻取ユニット16から機台制御装置11に送信される糸巻取状況情報としては、例えば、現在のパッケージ30の回転数、現在の綾振ドラム41の回転数、現在のパッケージ30の巻取長さ、糸切れの発生状況、糸欠陥の検知状況などがある。
【0057】
具体的には、オペレータは適宜の操作によって機台制御装置11の表示部18に糸巻取条件設定メニューを表示させ、入力キー19により数値入力を行うことによって糸巻取条件を設定することができる。なお、糸巻取条件に関する設定値は、各巻取ユニット16を個別に指定して送信することもできるし、全ての巻取ユニット16に対し一括して送信することもできる。
【0058】
次に、パッケージに回転不良が生じたことを検出する構成を説明する。
【0059】
糸を巻き取り始める前に、オペレータは、前記の糸巻取条件のうち必要な項目を機台制御装置11に入力する。そして、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、設定された項目のうち必要な情報(例えば、巻き取られる糸の種類(番手)と、パッケージの形状と、パッケージの密度(比重))から、糸の巻取長さと理論パッケージ径との関係を計算により求める。即ち、理論パッケージ径をDとし、糸の巻取長さをLとした場合、理論パッケージ径Dは関数Fを用いて、D=F(L)のように表すことができる。そして理論パッケージ算出部27は、この関数Fを計算によって決定するように構成されている。
【0060】
本実施形態において、理論パッケージ径と巻取長さの関係は、測定値ではなく糸巻取条件の情報から理論的に求められている。なお、本実施形態のようにコーン形状のパッケージを形成する場合は一端側と他端側で径が異なるが、大径側及び小径側の何れの径を理論パッケージ径としても良いし、軸方向中央部分の径を理論パッケージ径としても良い。
【0061】
そして、上記の式で示すように、理論パッケージ径Dは巻取長さLをパラメータとする関数として表現することができる。従って、上記の関数Fを計算でいったん求めた後は、巻取長さLに対する当該関数Fの関数値を求めることで、その巻取長さLの時点での理論パッケージ径Dを求めることができる。
【0062】
次に、糸の巻取長さと理論パッケージ径との関係(即ち、上記関数F)を求める方法について例示する。この例では、計算にあたって、糸の種類、パッケージ形状、及びパッケージの密度(比重)の情報を用いている。
【0063】
考え方を以下に説明すると、まず、糸の種類から単位長さあたりの重さを得ることができるので、これに巻取長さLを乗じることで、巻き取られた糸の重さを得ることができる。そして、これをパッケージの密度(比重)で除算することで、巻き取られた糸が占める体積を得ることができる。その後は、既知である巻取ボビン22の径及びトラバース幅を利用して、上記体積を実現するために必要な糸層の径方向の厚みを幾何学的な関係から計算することで、理論パッケージ径を求めることができる。機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、糸巻取条件がオペレータから入力された時点で、糸の巻取長さと理論パッケージ径との関係(関数F)を上記のようにして算出し、得られた結果をRAM等の記憶装置へ記憶させておく。
【0064】
オペレータが機台制御装置11に各種条件を設定した後、巻取開始を指示することで、それぞれの巻取ユニット16における巻取りが開始される。この糸巻取中においては、各巻取ユニット16のドラム回転センサ73は、綾振ドラム41が所定角度回転するごとに、パルス信号(ドラムパルス)をユニット制御部70に出力している。ユニット制御部70は、このドラムパルスを糸の巻取開始の時点からカウントすることにより、糸を空ボビンに巻き始めてから綾振ドラム41が回転した累積回数を得ることができる。
【0065】
次に、ユニット制御部70は、上記の累積回数に、綾振ドラム41の1回転あたりに巻き取られる糸長を乗じることで、巻取長さ(パッケージの形成を始めてから現在までに巻き取った糸長さ)を算出する。なお、綾振ドラム41の1回転あたりの糸長は、綾振ドラム41に固有の定数であり、ユニット制御部70に予め設定されている。このように、本実施形態では、ドラム回転センサ73が綾振ドラム41の回転を検出することで糸の巻取長さを取得する構成となっているので、ドラム回転センサ73は実質的に巻取長さ測定部として機能するということができる。
【0066】
そして、ユニット制御部70は、求めた巻取長さを巻取ユニット16のI/Oポート78から機台制御装置11のI/Oポート15へ(糸巻取状況情報として)出力する。この巻取長さの出力処理は短い時間間隔をおいて繰り返し行われるので、機台制御装置11には、各巻取ユニット16における最新の巻取長さがほぼリアルタイムで入力される。
【0067】
機台制御装置11は、I/Oポート15で受信した巻取長さLを前述の式に当てはめることで、測定時の巻取長さLに対する理論パッケージ径Dを得ることができる。
【0068】
なお、糸を巻き取り始める前にオペレータが機台制御装置11に入力する情報には、巻取速度(単位時間あたりに巻き取る糸の長さ)が含まれる。機台制御装置11は、入力された巻取速度をRAM等の記憶装置に記憶するとともに、当該巻取速度をそれぞれの巻取ユニット16(ユニット制御部70)に送信する。各巻取ユニット16のユニット制御部70は、受信した巻取速度で糸を巻き取ることができるように、巻取制御部75及びモータ制御部74を介してドラム駆動モータ53を制御する。
【0069】
そして、機台制御装置11に設けられた理論パッケージ算出部27は、この巻取速度と理論パッケージ径とから、理論パッケージ回転数を算出する。なお、理論パッケージ回転数は、前記理論パッケージ径と巻取速度から理論的に求められるパッケージの回転数である。
【0070】
理論パッケージ回転数を求める方法について例示する。まず、上記の巻取速度を実現するために必要な綾振ドラム41の回転数を、綾振ドラム41の1回転あたりの糸長を用いて求める。次に、得られた綾振ドラム41の回転数と、綾振ドラム41の径と、測定時の巻取長さLに対する理論パッケージ径Dと、を用いて計算することで、理論パッケージ回転数を得ることができる。
【0071】
なお、前述したように、機台制御装置11においては、各巻取ユニット16における最新の巻取長さLが次々と取得される。機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、それぞれの巻取ユニット16において巻取長さLの値が更新されるごとに、当該巻取ユニット16における理論パッケージ径及び理論パッケージ回転数を再計算するように構成されている。
【0072】
図4には、理論パッケージ回転数とパッケージ径との関係が示されている。図4は、アラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフである。図4の横軸はパッケージ径を示し、縦軸は回転数を示している。
【0073】
一定の巻取速度で糸を巻き取る場合(綾振ドラム41が一定の回転数で駆動される場合)、図4に示すように、理論パッケージ回転数はパッケージ径の増大に応じて緩やかに単調減少する。即ち、糸巻取りの初期ではパッケージの径が小さく、綾振ドラム41の1回転あたりのパッケージ30の回転角度が大きくなり、この結果、パッケージ回転数は高い値を示す。一方、糸巻取りの終期になると、パッケージの径が大きくなり、綾振ドラム41の1回転あたりのパッケージ30の回転角度は小さくなるので、パッケージ回転数は低い値を示す。
【0074】
そして、本実施形態の機台制御装置11は、この理論パッケージ回転数に基づいて、パッケージの回転不良が発生しているか否かの判定基準となるアラーム閾値を決定する。このアラーム閾値は、例えば、1未満である所定の比率(X%)を理論パッケージ回転数に乗じた値とすることが考えられる。なお、この比率(Xの値)は、オペレータが例えば機台制御装置11の入力キー19を操作することで変更可能に構成されていることが好ましい。
【0075】
機台制御装置11は、各巻取ユニット16において巻取りが進行して理論パッケージ回転数が変化するごとに、アラーム閾値を随時再計算する。なお、図4には、上記のように理論パッケージ回転数に一定の比率を乗じてアラーム閾値を定めた場合の、当該アラーム閾値の推移を併せて示している。アラーム閾値は、理論パッケージ回転数が変化するのに追従して、滑らかに変動している。従って、巻取途中のどの時点においても、適切なアラーム閾値を用いて、パッケージの回転不良の発生の有無を的確に判定することができる。
【0076】
計算されたアラーム閾値は、機台制御装置11のI/Oポート15から巻取ユニット16のI/Oポート78を通じてユニット制御部70に入力される。ユニット制御部70は、入力されたアラーム閾値をRAM等の記憶装置に記憶する。
【0077】
一方で、糸巻取中は、パッケージ30が所定角度回転するごとに、パッケージ回転センサ72が回転検出信号(パルス信号)をユニット制御部70に出力している。ユニット制御部70は、所定の時間区間において上記パルス信号をカウントすることで、パッケージの回転数を求める。なお、以下の説明では、こうして得られたパッケージの回転数を実パッケージ回転数と称することがある。
【0078】
図4には、実パッケージ回転数の2つの例が示されている。このグラフに示すように、測定値に基づいて得られる実パッケージ回転数は、通常は、理論パッケージ回転数とほぼ一致する。しかしながら、例えば前記回転ホルダ63,64を支持するベアリングに不具合が生じると、パッケージ30が正常に回転できなくなる。この場合、実パッケージ回転数は急激に低下し、アラーム閾値を下回ることになる。
【0079】
ユニット制御部70が備えるアラーム判定部76は、糸の巻取中において、実パッケージ回転数と前記アラーム閾値とを比較する。実パッケージ回転数がアラーム閾値以上であれば、パッケージの回転が良好であることを意味するので、アラーム判定部76は上記の比較処理を継続する。一方で、実パッケージ回転数がアラーム閾値を下回ると、アラーム判定部76は警告信号をアラーム部77へ出力する。アラーム部77は、警告信号が入力されるとアラームを実際に発生させ、オペレータに異常の発生を報知する。これにより、オペレータはパッケージの回転不良の発生を早期に発見でき、適切な処置を行うことができる。
【0080】
なお、アラーム判定部76が警告信号を発生する場合(即ち、パッケージ回転不良の発生が検出された場合)は、巻取制御部75がモータ制御部74を介してドラム駆動モータ53を直ちに停止させるようになっている。このように巻取りを直ちに中止することで、正常に回転できないパッケージ30を綾振ドラム41が無理に回転駆動しようとするのを回避できるので、パッケージ30の損傷やドラム駆動モータ53の過負荷を防止できる。
【0081】
また、本実施形態では、上記の実パッケージ回転数を求めるためにパッケージ回転センサ72のパルス信号をカウントする時間区間を、ユニット制御部70が行うディスターブ制御を考慮して定めている。
【0082】
以下、ディスターブ制御について簡単に説明する。糸巻き中に、綾振ドラム41とパッケージの回転数が整数倍或いは整数分の1になったときに、綾振り周期とパッケージの巻取周期が同期して、巻き取られる糸が同じところに集まり重なるいわゆるリボン巻きが発生する。このようにリボン巻きが発生したパッケージでは、リボン巻き糸同士が相互に絡み合い、後工程でパッケージの糸を解舒する際に糸切れが発生するなどの問題がある。そこで、このリボン巻きを崩すために、リボン巻き発生径の近傍で綾振ドラム41の回転を急激に増減速させてパッケージと綾振ドラム41間にスリップを生じさせ、綾振り糸の糸道を分散させて巻き取る方法が知られている。これがディスターブ制御である。
【0083】
上記のように、ディスターブ制御はパッケージ30を綾振ドラム41上でスリップさせるものであるため、その過程で、実際のパッケージ回転数が通常より低下する状態が生じ得る。従って、仮に、その瞬間の速度が実パッケージ回転数として測定された場合、単なるディスターブ制御によるパッケージ回転数の低下がパッケージ回転不良と誤判定されるおそれがある。
【0084】
そこで、本実施形態では、実パッケージ回転数を求めるためにパッケージ回転センサ72のパルス信号をカウントする時間区間は、ディスターブ制御による速度変化周期に応じた時間としている。このようにカウント時間を十分に確保することで、ディスターブ制御によって瞬間的にパッケージ回転数が低下する現象の影響を抑制し、パッケージ回転不良の誤判定を回避することができる。
【0085】
なお、上記ではアラーム判定部76は実パッケージ回転数とアラーム閾値を比較すると説明しているが、厳密にいえば、アラーム判定部76は、アラーム閾値として得られた回転数に上記の時間区間の長さを乗じて得られた回転量に相当するパルス数と、上記の時間区間で実際に計測されたパッケージ回転センサ72のパルスのカウント値と、を比較することで、パッケージの回転不良が発生しているか否かを判定している。しかしながら、実質的にみれば、上記の処理も結局は回転数同士を比較しているということができる。
【0086】
以上に説明したように、本実施形態の自動ワインダ60は、巻取ユニット16と、機台制御装置11と、を備える。巻取ユニット16には、綾振ドラム41が設けられる。そして、巻取ユニット16は、綾振ドラム41によりパッケージ30を従動回転させて糸の巻取作業を行う。機台制御装置11は、巻取ユニット16を制御する。機台制御装置11は、理論パッケージ算出部27と、演算部17とを備える。理論パッケージ算出部27は、理論パッケージ回転数を算出する。そして、演算部17は、パッケージの回転不良を判定するためのアラーム閾値を前記理論パッケージ回転数に基づいて決定する。
【0087】
これにより、アラーム閾値を自動的に設定することができるので、適切なアラーム閾値を柔軟に定めて自動ワインダ60を運用することができる。
【0088】
また、本実施形態の自動ワインダ60において、前記理論パッケージ算出部27は、理論パッケージ径を糸巻取条件に基づいて算出し、前記理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて理論パッケージ回転数を算出する。
【0089】
これにより、糸巻取条件に応じた理論パッケージ回転数を算出することができる。また、例えばパッケージのロット変更に伴う糸巻取条件の変更にも容易に対応することができる。
【0090】
また、本実施形態の自動ワインダ60において、糸巻取条件は、巻き取られる糸の種類と、形成するパッケージの形状と、を含んでいる。
【0091】
これにより、理論パッケージ径を的確に算出することができる。
【0092】
また、本実施形態の自動ワインダ60において、巻取ユニット16は、ドラム回転センサ73と、I/Oポート78と、を更に備える。ドラム回転センサ73は、糸が巻き取られた長さである巻取長さを測定する。I/Oポート78は、ドラム回転センサ73が測定した巻取長さを機台制御装置11の演算部17へ出力する。また、機台制御装置11は、I/Oポート15を備える。I/Oポート15には、I/Oポート78が出力した巻取長さが入力される。そして、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、糸巻取条件と巻取長さとに基づいて理論パッケージ径を算出し、この理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて巻取長さ測定時の理論パッケージ回転数を算出する。
【0093】
これにより、糸巻取りの始めから終わりまでの間において、巻取長さの増大に伴ってアラーム閾値を変更することができる。従って、より適切なアラーム閾値を用いて、パッケージの回転不良を検出することができる。
【0094】
また、本実施形態の自動ワインダ60において、アラーム閾値は、理論パッケージ回転数が変化する毎に更新される。
【0095】
即ち、糸の巻取途中においてはパッケージ回転数は刻々と変化し得るが、上記の構成とすることで、どの時点においてもパッケージ30の回転不良を的確に検出することができる。
【0096】
また、本実施形態の自動ワインダ60は、以下のように構成されている。即ち、機台制御装置11のI/Oポート15は、アラーム閾値を出力する。巻取ユニット16は、I/Oポート78と、パッケージ回転センサ72と、アラーム判定部76と、アラーム部77と、を備える。I/Oポート78には、アラーム閾値が入力される。パッケージ回転センサ72は、パッケージの回転数を測定する。アラーム判定部76は、アラーム閾値とパッケージ回転センサ72が測定したパッケージの回転数とを比較してアラーム判定を行う。前記アラーム部77は、アラーム判定部76の判定によりアラームを発する。
【0097】
これにより、オペレータは、アラーム部77が発生させるアラームにより、パッケージの回転不良が生じていることを早期に知ることができる。また、アラーム部77が巻取ユニット16に備えられているので、オペレータは、パッケージの回転不良が発生している巻取ユニット16を容易に特定することができる。
【0098】
また、本実施形態の自動ワインダ60において、機台制御装置11は、複数の巻取ユニット16を制御する。
【0099】
これにより、機台制御装置11で複数の巻取ユニット16に同一の操作を一括して行うことができるので、作業時間を短縮できる。
【0100】
次に、上記実施形態の第1変形例を説明する。図5は、第1変形例に係るアラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフである。
【0101】
即ち、上記実施形態は糸の巻取中にアラーム閾値が新しい値に随時更新され続ける構成であるが、本変形例では、1つのパッケージを形成する間にアラーム閾値が1回のみ更新される構成になっている。
【0102】
以下、具体的に説明する。糸を巻き取り始める前に、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、満巻時の巻取長さの半分に対応する理論パッケージ回転数を計算する。なお、満巻時の巻取長さ(パッケージを形成するのに必要な糸長さ)は、予め機台制御装置11に入力されている。そして、演算部17は、その理論パッケージ回転数に対応するアラーム閾値(第1アラーム閾値)を求めておき、巻取ユニット16のユニット制御部70へ出力しておく。
【0103】
その後、巻取ユニット16において糸の巻取りが開始される。巻取ユニット16のアラーム判定部76は、上記の第1アラーム閾値を使用してパッケージ回転不良の検出を行う。
【0104】
巻取りの進行に伴い、巻取ユニット16がI/Oポート78を通じて出力する巻取長さは増大する。しかしながら本変形例では、当該巻取長さが所定値(具体的には、満巻時の巻取長さの半分の値)に達しない限り、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27と演算部17は理論パッケージ回転数やアラーム閾値の再計算を行わない。従って、巻取ユニット16のアラーム判定部76は、糸の巻取りがある程度進行するまでは、一定のアラーム閾値(第1アラーム閾値)を基準にしてパッケージ回転不良を検出することになる。
【0105】
巻取ユニット16から機台制御装置11に出力される巻取長さが、満巻時の巻取長さの半分以上になると、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27は、満巻時の巻取長さに対応する理論パッケージ回転数を算出する。そして、演算部17は、その理論パッケージ回転数に対応するアラーム閾値(第2アラーム閾値)を計算し、巻取ユニット16のユニット制御部70へ出力する。ただし、満巻時の理論パッケージ回転数及び第2アラーム閾値は、第1アラーム閾値等とともに巻取開始前に予め計算し、RAM等に記憶するようにしても良い。
【0106】
新しいアラーム閾値が巻取ユニット16のユニット制御部70に入力されると、アラーム判定部76は新しい閾値を用いてアラーム判定を行う。なお、機台制御装置11は、第2アラーム閾値を出力した後は、当該巻取ユニットのパッケージ30が満巻となるまで、アラーム閾値の更新を行うことはない。従って、巻取ユニット16においては、所定の長さの糸を巻き取ってパッケージ30が満巻となるまで、一定のアラーム閾値(第2アラーム閾値)を基準にしてパッケージ回転不良を検出する。
【0107】
本変形例のアラーム閾値の推移を図5のグラフに示す。本変形例では、糸の巻取りが進行するに従ってアラーム閾値が2段階に切り替えられ、階段状に変化する。このようにアラーム閾値が段階的に更新される本変形例では、理論パッケージ回転数やアラーム閾値の再計算の頻度を上記実施形態より大幅に少なくできるので、理論パッケージ算出部27及び演算部17の負荷を抑制できるとともに、機台制御装置11と巻取ユニット16との通信トラフィックを軽減できる点で有利である。なお、アラーム閾値の更新回数は1回に限られず、例えば2回又は3回以上の頻度でアラーム閾値を(間欠的に)更新する構成にすることもできる。
【0108】
以上に示すように、本変形例の自動ワインダ60において、アラーム閾値は、理論パッケージ回転数の変化に応じて段階的に切り替えられている。
【0109】
これにより、理論パッケージ算出部27及び演算部17の負荷を大幅に増大させることなく、糸の巻取りの進行具合に応じてアラーム閾値を更新して自動ワインダ60を運用することができる。
【0110】
次に、上記実施形態の第2変形例を説明する。図6は第2変形例に係るアラーム閾値とパッケージ径との関係を概念的に説明するグラフである。
【0111】
本変形例において、理論パッケージ径は、満巻時の巻取長さを用いて算出される。満巻時の巻取長さ(パッケージを形成するのに必要な糸長さ)は、予め機台制御装置11に入力されている。第2変形例の理論パッケージ算出部27は、その満巻時の巻取長さLFを上記の式に当てはめて、満巻時の巻取長さに対する理論パッケージ径DFを求め、上記実施形態と同様の方法で理論パッケージ回転数を算出する。そして、アラーム閾値の決定が演算部17によって行われる。
【0112】
そのため、本変形例では図6に示すように、アラーム閾値は、糸の巻始めから巻終わりを通じて一定値とされる。この構成では、理論パッケージ回転数やアラーム閾値は1回計算すれば十分なので、理論パッケージ算出部27及び演算部17の負荷をより低減することができる。また、満巻時の理論パッケージ回転数は、パッケージ30のロットが同一である限り一定の値となる。従って、複数の巻取ユニット16で同一ロットのパッケージを形成する場合は、1回の計算で求めた同一のアラーム閾値を複数の巻取ユニット16に対して出力すれば足りるので、この意味でも演算部17の負荷を低減することができる。
【0113】
以上に示すように、本変形例の自動ワインダ60において、理論パッケージ径は、満巻時における前記理論パッケージ径である。
【0114】
これにより、この理論パッケージ径から理論パッケージ回転数を一度求めるだけで、同一の糸巻取条件に適用可能なアラーム閾値を得ることができる。そのため、理論パッケージ算出部27及び演算部17が行う処理を簡単にすることができる。
【0115】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0116】
アラーム閾値は、理論パッケージ回転数に基づく限り任意の方法で決定して差し支えない。例えば、アラーム閾値を、理論パッケージ回転数に所定の比率を乗じて決定することに代えて、例えば所定の値を減算(オフセット)することで決定するように変更することができる。
【0117】
上記の実施形態は、コーン形状のパッケージを形成する場合に限られず、チーズ形状のパッケージを形成する場合に適用することもできる。
【0118】
上記の実施形態においては、巻取ユニット16がアラーム判定部76及びアラーム部77を備える構成であるが、これに代えて機台制御装置11がアラーム判定部及びアラーム部を備える構成にすることもできる。つまり、パッケージ回転センサ72が測定したパッケージ回転数が機台制御装置11へ出力され、機台制御装置11が一括してアラーム判定を行い、パッケージ回転不良が検出されると機台制御装置11のアラーム部が作動するように構成することができる。この場合、各巻取ユニット16がアラーム判定部76及びアラーム部77を備える場合に比べて、巻取ユニットの構成を簡単にできる。
【0119】
上記の実施形態においては、ドラム回転センサ73が綾振ドラム41の回転をカウントすることでパッケージの巻取長さを測定したが、これに代えて糸速度センサを用いて巻取長さを測定する構成にすることもできる。この構成を図7に示す。なお、図7の構成の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0120】
図7に示す糸速度センサ65は、糸に糸太さの変動があることを利用して、この糸太さの変動部位の移動速度を検出することで糸速度を検出する装置である。この糸速度の信号はユニット制御部70に入力され、ユニット制御部70において糸速度を積分処理することで、巻取長さを得ることができる。従って、糸速度センサ65は、前記ドラム回転センサ73と同様に、糸の巻取長さを測定する巻取長さ測定部として実質的に機能するということができる。なお、ドラム回転センサ73と糸速度センサ65を両方備え、より高精度に巻取長さを測定する構成にすることもできる。
【0121】
アラーム部77は、上述したパッケージの回転不良のほか、様々な異常(自動玉揚装置51の玉揚ミス、糸継装置14による糸継作業のミス、供給電源の異常等)を検出する機器と接続し、そのような異常が検出された際にもアラームを発する構成にすることもできる。この場合、異常の内容を数値等で表示する構成をアラーム部77に備えて、発生した事象の内容をオペレータが容易に把握できる構成にすることもできる。
【0122】
上記の実施形態においては、糸の巻取長さと理論パッケージ径との関係(関数F)を求めるための糸巻取条件として、巻き取られる糸の種類と、形成されるパッケージの形状と、を用いたが、他の糸巻取条件を用いて理論パッケージ径を求める構成にすることもできる。
【0123】
上記の実施形態は、機台制御装置11の理論パッケージ算出部27及び演算部17が、理論パッケージ径及び理論パッケージ回転数を算出して、アラーム閾値を決定する構成である。しかしながらこれに代えて、各巻取ユニット16のユニット制御部70が理論パッケージ径及び理論パッケージ回転数を算出し、アラーム閾値を決定する構成とすることもできる。
【0124】
上記の実施形態は、自動ワインダに限定されず、例えば紡績機、撚糸機等の糸巻取装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0125】
11 機台制御装置(制御部)
12 演算部
16 巻取ユニット
27 理論パッケージ算出部
60 自動ワインダ(糸巻取装置)
70 ユニット制御部
72 パッケージ回転センサ(パッケージ回転数測定部)
73 ドラム回転センサ(巻取長さ測定部)
76 アラーム判定部
77 アラーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するドラムが設けられ、前記ドラムによりパッケージを従動回転させて糸の巻取作業を行う巻取ユニットと、
前記巻取ユニットを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部には、理論パッケージ回転数を算出する理論パッケージ算出部と、パッケージの回転不良を判定するためのアラーム閾値を前記理論パッケージ回転数に基づいて決定する演算部と、が備えられていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取装置であって、
前記理論パッケージ算出部は、理論パッケージ径を糸巻取条件に基づいて算出し、前記理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて理論パッケージ回転数を算出することを特徴とする糸巻取装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸巻取装置であって、
前記理論パッケージ径は、満巻時における前記理論パッケージ径であることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項4】
請求項2に記載の糸巻取装置であって、
前記糸巻取条件は、巻き取られる糸の種類と、形成するパッケージの形状と、を含むことを特徴とする糸巻取装置。
【請求項5】
請求項1に記載の糸巻取装置であって、
前記巻取ユニットは、
糸が巻き取られた長さである巻取長さを測定する巻取長さ測定部と、
前記巻取長さ測定部が測定した前記巻取長さを出力する巻取長さ出力部と、
を更に備え、
前記制御部には、前記巻取長さ出力部が出力した前記巻取長さが入力される巻取長さ入力部が備えられ、
前記理論パッケージ算出部は、糸巻取条件と前記巻取長さとに基づいて理論パッケージ径を算出し、この理論パッケージ径と糸巻取速度とに基づいて巻取長さ測定時の理論パッケージ回転数を算出することを特徴とする糸巻取装置。
【請求項6】
請求項1、2、4又は5に記載の糸巻取装置であって、
前記アラーム閾値は、前記理論パッケージ回転数が変化する毎に更新されることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項7】
請求項1、2、4又は5に記載の糸巻取装置であって、
前記アラーム閾値は、前記理論パッケージ回転数の変化に応じて段階的に切り替えられることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の糸巻取装置であって、
前記制御部は、前記アラーム閾値を出力する閾値出力部を備え、
前記巻取ユニットは、
前記アラーム閾値が入力される閾値入力部と、
パッケージの回転数を測定するパッケージ回転数測定部と、
前記アラーム閾値と前記パッケージ回転数測定部が測定したパッケージ回転数とを比較してアラーム判定を行うアラーム判定部と、
前記アラーム判定部の判定によりアラームを発するアラーム部と、
を備えることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の糸巻取装置であって、
前記制御部は、複数の巻取ユニットを制御する機台制御装置であることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項10】
巻き取られる糸の種類と、パッケージの形状と、パッケージを形成するのに必要な糸長さと、に基づいて理論パッケージ径を算出する理論パッケージ径算出工程と、
前記理論パッケージ径に基づいて理論パッケージ回転数を算出する理論パッケージ回転数算出工程と、
前記理論パッケージ回転数に基づいてアラーム閾値を決定するアラーム閾値決定工程と、
を含むことを特徴とするパッケージの回転不良検出のためのアラーム閾値決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−269915(P2010−269915A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124663(P2009−124663)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】