説明

糸条冷却装置

【課題】 単糸繊度の小さなハイマルチのマルチフィラメント糸に対して、繊度斑を抑制することによって糸揺れが少ない紡糸を可能とする糸条冷却装置を提供する。
【解決手段】 各熱可塑性合成フィラメントの単糸繊度が0.1〜1.0デシテックスである90〜300本の衣料用マルチフィラメント糸(2)を紡出するための紡糸孔が2重又は3重の多重同心円上に穿設された一枚の紡糸口金(1)と、該紡糸口金(1)の直下に設けた紡出糸条(2)を徐冷するための徐冷手段(3)と、該徐冷手段(3)の直下に設けられ且つ冷却風によって紡出糸条(2)を冷却する糸条冷却装置(4)とを少なくとも備えた溶融紡糸装置であって、前記糸条冷却装置が紡出糸条(2)を囲繞するように紡出糸条(2)の最外周側から最内周側へ向かって冷却風を放射状に発生させる円筒状の冷却風吹出装置(4)を備えたことを特徴とする糸条冷却装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性合成繊維を溶融紡糸する際に紡出された糸条を冷却するために用いる糸条の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、ポリエステルなどの熱可塑性ポリマーを紡糸口金に穿孔された紡糸孔から溶融吐出した後、紡出糸条を冷却する方法は、熱可塑性合成繊維の溶融紡糸における一般的なプロセスである。このような合成繊維の冷却プロセスは、高品質な糸を得る上で重要な役割を果たしており、特に、衣料用長繊維の溶融紡糸プロセスでは紡糸後の糸強度や伸度、染織性に非常に大きな影響を与えることが知られている。
【0003】
近年、織物、編物あるいは不織布等の材料として細繊度の糸条が幅広く使用されている。しかも、これら細繊度の糸条を用いた布帛では、その風合や機能性をより高めるために、更にその単糸繊度を細くする傾向にある。このため、このようなマルチフィラメント糸として、構成単糸数が90本以上で、その単糸繊度が0.3デシテックス以下のものを生産することが行われるようになってきた。しかも、生産性を高めるために、一つの口金から多数本の単糸群(以下、この“単糸群”を“フィラメント群”ともいう)を紡出するようになってきている。
【0004】
このような多数の細繊度単糸群で構成される糸条を効率よく製造しようとすると、一枚の口金に多数の紡糸孔を高密度で穿孔する必要がある。しかしながら、一枚の口金に90個以上の紡糸孔群を穿孔しようとすると、これらの紡糸孔群から紡出された単糸群を均一に冷却するのが難しくなる。そうすると、得られるマルチフィラメント糸を構成する単糸群の繊度の均一性が悪化する。また、冷却不良や冷却不足が原因となって単糸同士の密着による断糸が発生したり、溶融紡糸後の糸条を後工程で処理した場合に染斑が発生したりする。
【0005】
そこで、このような問題を解消するために、特許文献1(特開平5−125609号公報)において、紡糸口金に穿設する紡糸孔の配列を二重正方格子にして、紡出されたフィラメント群間へ冷却風を良好に貫流させることが提案されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載の技術を含む特許文献2(特開平7−97709号公報)や特許文献3(特開2000−34615号公報)などに提案されている従来技術は、横吹冷却方法を前提としている。すなわち、図3に例示したように、冷却風を一定長さに渡って横方向から吹き付けて糸条を冷却する冷却装置10を口金1の直下に配置し、紡糸口金1から紡出されたマルチフィラメント糸2に対してほぼ直角に、その横方向から吹き付けて冷却する方法を採用している。
【0007】
しかしながら、この横吹冷却方法を採用する場合、冷却装置10から供給される冷却風の乱れをなくすことが要求される。そこで、従来技術においては、均一な風速でかつ一定の風向を有する冷却風を供給すると共に、走行糸条2の周りに生成する随伴気流が発達するの抑制する冷却風制御が主に行われてきた。
【0008】
すなわち、従来の冷却風制御技術においては、冷却風の供給源がもともと有している気流乱れを冷却風吹出口での冷却風の吹出圧力を均圧制御することによって冷却風の吹出風量や吹出風速を均一化している。通常、このような均圧制御は、前記金網、パンチングプレートあるいは多孔質金属板等からなる様々な均圧化部材5’を用いて行われる。また、冷却風の吹出方向(図中に矢印で示した方向)を一定に揃えて整流するために冷却風吹出口と糸条2との間に平行整流板やハニカム板などを整流部材6’として設置して、整流された冷却風を糸条に吹き付けることが行われる。
【0009】
しかしながら、紡糸口金1に穿設する紡糸孔群の穿孔密度が更に高くなる細繊度多フィラメント糸条2を溶融紡糸する場合は、これらの従来技術では限界に達している。その大きな原因は、横吹冷却方式を採用する限り、紡糸口金1から紡出されたマルチフィラメント糸2に対して、一方向からのみ冷却風が吹き付けることにある。
【0010】
一般に、従来の横吹冷却方式では、口金の下流側へ走行する糸条2に対して冷却風が一方向から吹き付けられ、紡出されたフィラメント群間を貫流することによって、糸条2から熱を奪った後、反対側へ流出する。このとき、従来の横吹冷却方式では、フィラメント群と冷却風吹出面との間の距離が大きくなってしまうために、糸条2を冷却する能力が低下し、糸条2と冷却風との間の熱交換性能が低下してしまう。また、紡出糸条2の糸揺れも大きくなる。
【0011】
そこで、この状況を克服するために、糸条2へ吹き付ける冷却風の速度や風量を大きくすればよいと考えられる。しかしながら、このような手段を採用すると、図3に例示したように、冷却を強化して風量や風速が強化されたために風圧によって走行糸条2が風下側へ大きくふくらむことにある。そうすると、かえって糸揺れを助長してしまうという問題が生じる。
【0012】
なお、当然のことながら、横吹方式では、一つの口金から高密度で紡出するフィラメント数が多くなればなるる程、単糸群間への冷却風の貫通性が低下する。そうすると、冷却風の吹付側に位置するフィラメント群と反吹付側に位置するフィラメント群との間で冷却斑が生じてしまう。この要因が糸条の品質を低下させる諸要因の中で最も主要なものであり、極細マルチフィラメント糸に対する冷却プロセスとしての横吹冷却技術に限界が生じている大きな理由でもある。
【0013】
【特許文献1】特開平5−125609号公報
【特許文献2】特開平7−97709号公報
【特許文献3】特開2000−34615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述の従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、特に衣料用長繊維の細繊度マルチフィラメント糸を溶融紡糸において、吐出フィラメント同士が密着断糸したり、断糸に至らない迄も繊度斑が発生したり、あるいは染斑が発生したりするのを効果的に抑制することができる糸条冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記従来技術が有する諸問題について、本発明者らが鋭意検討した結果、独立した円筒状の冷却風吹出装置内に、多重同心円上に穿設された紡糸孔群から多重円筒状(円環状)に紡出されたマルチフィラメント糸を通過させることにより、糸条と冷却風の吹出面との距離を小さく保ちながら、走行する糸条に対して外周側から放射状に冷却風を吹き付けることを可能とした。そして、これにより、冷却風の吹出風速を従来方式よりも遅くしても、フィラメント群への冷却風の貫流性を確保でき、各フィラメント間に発生する冷却斑を抑制でき、均一な糸条冷却が可能であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0016】
ここに、前記課題を達成するための本発明として、
(1) 各熱可塑性合成フィラメントの単糸繊度が0.1〜1.0デシテックスである90〜300本の衣料用マルチフィラメント糸を紡出するための紡糸孔が2重又は3重の多重同心円上に穿設された一枚の紡糸口金と、該紡糸口金の直下に設けた紡出糸条を徐冷するための徐冷手段と、該徐冷手段の直下に設けられ且つ冷却風によって紡出糸条を冷却する糸条冷却装置とを備え、更に該糸条冷却装置が紡出糸条を囲繞するように紡出糸条の最外周側から最内周側へ向かって冷却風を放射状に発生させる円筒状の冷却風吹出装置を備えたことを特徴とする糸条冷却装置、
(2) 前記冷却風吹出装置の冷却風吹出口の内周面に対して、紡出糸条に吹き付ける冷却風の風量及び/又は風速を制御する均圧化部材を設けた(1)に記載の糸条冷却装置、
(3) 前記冷却風吹出装置の冷却風吹出口の内周面に設けた均圧化部材の外周側に冷却風の吹出方向を一定方向へ整流する整流部材を設けた、(2)に記載の糸条冷却装置、
(4)前記マルチフィラメント糸を複数本溶融紡糸する多錘の溶融紡糸装置に各錘毎に設けられた徐冷ゾーンを隣接錘と仕切る円筒状の仕切部材が設けられ、該仕切部材によって前記糸条冷却装置の直上から前記紡糸口金面までの糸条走行域を密閉した、(1)〜(3)の何れかに記載の糸条冷却装置、そして
(5) 一枚の紡糸口金に穿設する紡糸孔の穿設密度が2.2〜6.0個/cmである、(1)〜(4)の何れかに記載の糸条冷却装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
以上に述べたように、従来方式の冷却装置を用いた熱可塑性合成繊維(特に、ポリエステル繊維)の溶融紡糸装置では、特に単糸繊度が0.1〜1.0デシテックスと細繊度であって、フィラメント数が90〜300本のマルチフィラメント糸の冷却において、フィラメント(単糸)間で繊度斑の発生が小さな糸条を得ることが困難とされていた。しかしながら、本発明の糸条冷却装置を用いることによって、従来の横吹冷却方式と比較して、冷却風の風速及び/又は風量をより小さくしながら、走行糸条に対して最外周側から斉内州側へと放射状に冷却風を吹き付けることにより、糸揺れを抑制しながら糸条を冷却することで、単糸繊度が0.1〜1.0デシテックスと細繊度であって、フィラメント数が90〜300本のマルチフィラメント糸を良好に製造することが可能となった。
【0018】
また、本発明では、多数本のマルチフィラメント糸を同時に溶融紡糸する多錘紡糸装置において、多重同心円上に紡糸孔を穿孔して、紡出糸条が円環状に紡出されるような配置とする。更に、紡出糸条を囲繞するように紡出糸条の最外周側から最内周側へ向かって冷却風を放射状に発生させる円筒状の冷却風吹出装置を設け、その直上に各錘を個別に仕切る円筒状の仕切部材を設置する。この仕切部材の設置によって、前記徐冷領域において紡出された各錘糸条に外部から擾乱を及ぼす気流の流入を遮断することができる。その結果、より繊度斑が小さく均質な合成繊維を得ることが可能となる。
【0019】
また、単糸繊度が非常に小さくて、フィラメント数が多い糸条では、従来のように一方向から冷却風を供給せずに、放射状に冷却風を供給し、紡出糸条の最外周側から最内周側へと冷却風を貫通させる。そうすると、従来型の横吹方式の冷却方法で生じる紡出糸条のふくらみを無くすことができ、紡出糸条と冷却風吹出面との間の距離を短くすることが可能となる。したがって、糸条と冷却風との間の熱交換性を決定する冷却風の流速を従来方式よりも小さく保つことができる。その結果、従来方式よりも遅い流速を持った冷却風であっても十分な冷却性能を有するため、単糸繊度斑の原因となる糸揺れを抑制しながら糸条の冷却を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、ポリエステル、ポリアミドなどからなる熱可塑性ポリマーの溶融紡糸装置に、本発明の糸条冷却装置を適用した一実施形態を模式的に示した正断面図であって、その概略装置構成の説明図である。この図1において、1は溶融紡糸装置に装着された紡糸口金、2は糸条、3は円筒状の仕切部材、4は円筒状の冷却風吹出装置、5は冷却風の均圧化部材、6は冷却風の整流部材、7は油剤付与装置、8は糸条交絡装置、9は一対の引取ロ−ラ、そして、10は巻取機をそれぞれ示している。また、図2は、前記紡糸口金1をポリマーの吐出面Fから見た平面図であって、一点鎖線で示したC1及びC2は2重同心円、Hはこの2重同心円上に穿設された紡糸孔群をそれぞれ示す。
【0021】
以上のように構成される溶融紡糸装置において、多重同心円(図2では、2重同心円(C1)及び(C2)である)上に紡糸口金1に穿設された紡糸孔群Hから吐出されたポリマーは、円筒状(円環状)のマルチフィラメント糸2を形成しながら下流側へ走行する。そして、紡出された該マルチフィラメント糸2は、口金1の直下に設けられた円筒状の仕切部材3によって糸条走行域が囲まれて外部から密閉された徐冷領域へ細繊度マルチフィラメント糸2に成形された状態で紡出される。
【0022】
ついで、この紡出糸条2は、前記仕切部材3の直下に設けられた円筒状の冷却風吹出装置4の内部を走行し、紡出糸条2の最外周側から最内周側へと放射状に吹き出される冷却風により所定の温度にまで冷却される。なお、前記冷却風吹出装置4には、その冷却風吹出面に、均圧化部材5と整流部材6が設けられ、図示省略した冷却風の供給手段などと共に糸条冷却装置を構成している。
【0023】
ここで、前記均圧化部材5は、冷却風が通過する際に圧力損失を起させる多孔質部材で構成されており、これによって冷却風吹出面に供給する冷却風に所定の背圧を生じさせることで、冷却風の吹出面から紡出糸条2に吹き付ける冷却風の流量及び/又は速度を一定にする役割を果たしている。また、前記整流部材6は、均圧化部材5を通過した冷却風の風向(図中に矢付き線分で示している)が紡出糸条2に対して垂直になるように揃える役割を果たしている。
【0024】
その際、前記機能を果たすための重要なパーツである均圧化部材5については、冷却風が通過する際に圧力損失を起させる多孔質部材であって、例えば多孔質焼結金属部材、市販の高密度に金属細線又はプラスチックス細線を編んだり織ったりした織網物あるいは不織布を一層又は多層に積層した抵抗体、更には孔開きプレートを積層した積層板などを挙げることができる。また、これら部材を複数組み合せても良い。
【0025】
次に、前記機能を果たすための重要なパーツである整流部材6については、冷却風が通過する間隙を形成して上下に平行に重なり合った平行板、更に、該平行板に加えて鉛直方向にも冷却風が通過する間隙を形成して格子状に積層された格子状板、あるいはハニカム(蜂の巣)板などを挙げることができる。
【0026】
以上に述べたようにして冷却された紡出糸条2は、冷却風吹出装置4の下方に位置する油剤付与装置7により油剤が付与された後に、糸条交絡装置8によってフィラメント間に交絡処理が施されて一対のゴデットローラ(引取ロ−ラ9)に引き取られ、最終的に巻取機10に巻き取られて、衣料用長繊維からなる糸条パッケージとされる。なお、図1の実施形態例では、溶融紡糸した糸条2を延伸する延伸工程については、説明を省略したが、通常、図1に例示した溶融紡糸工程のように一旦巻取機9に巻き取って延伸工程へ供給するか、あるいは、一旦巻き取らずに溶融紡糸工程に引き続いて直接紡糸延伸工程で延伸される。
【0027】
本発明の糸条冷却装置の一部を構成する冷却風吹出装置4では、前述のように均圧化部材5によって風量及び/又は風速が均一化された冷却風が整流部材6から風向きが紡出糸条に対して垂直となるように紡出糸条2の最外周側から最内周側へと放射状に吹き付けられる。したがって、従来の横吹冷却方式と異なり、本発明の糸条冷却装置によると、走行糸条2により近い距離から、より弱い風速でフィラメント群中を冷却風が容易に貫流することができるので、当然のことながら従来方式のように吹付方向への糸条2のふくらみも生じず、その結果として、糸揺れも小さくなる。そうすると、単糸繊度斑も小さくなって、より品質の高い糸条を得ることができる。
【0028】
なお、冷却風が吹き付けられる紡出糸条は、わずかに2重円筒状又は3重円筒状の周列を形成して下流側に向かって走行しているに過ぎないから、冷却風のフィラメント群間への貫流性は極めて良好である。したがって、従来方式では、高密度で紡出された多数のフィラメント群の全体に対して一方向から冷却風を吹き付ける際に顕著となる冷却風の吹付側フィラメント群と反吹付側フィラメント群とに生じる冷却斑を極めて良好に抑制することができる。
【0029】
また、本発明の糸条冷却装置では、紡出糸条2を囲繞する円筒状吹出面から冷却風を走行糸条に吹き付けることができるため、冷却風の吹付面積をより大きくすることができる。また、冷却風の吹付距離が横吹冷却方式の場合のように反吹付側フィラメント群において極めて長くなってしまうということも無く、冷却風の吹出面と紡出糸条2との間の吹付距離を短く設定することが可能となる。このことは、糸条と冷却風との間の熱交換性を大きく向上できることを意味している。
【0030】
なお、糸条冷却装置の冷却風吹出面から吹き出される冷却風は、吹き出された当初は吹出方向が整流部材によってきれいに一定方向へ揃えられているが、冷却風は気体であるから水などの液体と異なって吹き出されると直ぐに拡散して乱れてしまうという性質を有している。しかも、冷却風の吹出距離が長くなればなるほど、この冷却風の拡散と乱れがより顕著に現われてしまう。
【0031】
このように、従来の糸条冷却装置では、紡糸糸条2が冷却風の反吹出側へふくらむので、冷却風の吹出面と紡出糸条Yとの間の距離がより大きくなり、冷却風は拡散してしまう。したがって、フィラメント群間への冷却風の貫流性が低下すると共に、紡出糸条Yとの間の熱交換性も低下することとなる。そうすると、冷却能力が低下してしまうため、吹き出す冷却風の風速を大きくせざるを得ず、その結果として、かえって糸揺れを誘発し易くなるという問題が生じることは前述の通りである。
【0032】
このような従来技術に対して、本発明の糸条冷却装置では、吹出面から吹き出す冷却風の流速あるいは風量をより小さく設定することが可能となる。このため、至近距離から紡出糸条2をより小さな風速で冷却できる。その結果、繊度斑が発生する最も大きな要因である糸揺れを更に小さくすることができる。したがって、紡糸口金1に穿設する紡糸孔Hの穿孔密度をより高くできる。このように、本発明においては、一枚の紡糸口金1に穿設する紡糸孔Hの穿設密度を2.2〜6.0個/cm、より好ましくは、2.5〜4.5個/cmとすることができる。
【0033】
ここで、一枚の紡糸口金1に穿設する紡糸孔Hの穿設密度を2.2個/cm未満であれば、本発明の糸条冷却装置を使用するまでもなく、従来の糸条冷却装置を使用しても充分な効果が得られる。したがって、本発明では、一枚の紡糸口金1に穿設する紡糸孔Hの穿設密度が2.2個/cm以上であることが好ましいが、6.0個/cmを超えると本発明の糸条冷却装置を用いてもフィラメント群間への冷却風の還流性能が低下し、「背景技術」欄で述べたような問題を惹起するため好ましくない。
【0034】
本発明が対象とする細繊度マルチフィラメント糸のように、単糸繊度の小さな銘柄においては、口金1の直下で極力急冷し、冷却固化点を上流側に移動させると共に、紡糸張力を上昇させて糸揺れを少なくすることが紡糸技術として重要である。しかしながら、冷却固化点を上流側に移動させると、口金1の直下に設けた徐冷領域における紡出糸条2の伸長挙動が極めて重要となる。
【0035】
そこで、本発明の糸条冷却装置では、円筒状の冷却風吹出装置4の内部へ紡出糸条2を走行させて、紡出糸条2が受ける外乱を極力抑制すると共に、冷却風吹出装置4の直上に存在する徐冷領域にも各錘毎に個別に円筒状の仕切部材3を設ける。そして、紡糸口金1と冷却風吹出装置4との間の徐冷領域を密閉することで、冷却風吹出装置4から噴出された冷却風が徐冷領域に進入するのを防止することができる。また、各錘での糸揺れの要因となる外部気流の流入による影響を抑制することができ、更なる繊度斑抑制技術として重要かつ有効である。
【0036】
更に、円筒状冷却風吹出装置4から吹き出す冷却風の風速を小さくすることとの相乗効果により、糸揺れを更に抑制しながら急冷を実現し、本発明の糸条冷却装置では、油剤付与装置7も更に上流側に移動させることができる。その結果、紡出されたフィラメント群を集束する位置を短くすることができ、更に糸揺れ防止の効果を向上させている。しかしながら、紡出糸条2の冷却固化が遅い場合、すなわち、冷却固化点が更に下流側に伸びる場合には、油剤付与装置7と紡出糸条2との間の摩擦抵抗が大きくなり、油剤付与装置7との擦過による単糸切れ、あるいは断糸を誘発することが分かっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係わる糸条冷却装置を溶融紡糸工程に適用した場合の一実施形態例を模式的に示した説明図(正断面図)である。
【図2】紡糸口金をポリマーの吐出面から見た平面図である。
【図3】従来の横吹冷却方式に係わる糸条冷却装置の溶融紡糸工程への適用例を模式的に示した説明図(正断面図)である。
【符号の説明】
【0038】
1:紡糸口金
2:マルチフィラメント糸
3:円筒状の仕切部材
4:冷却風吹出装置
5:冷却風の均圧化部材
6:冷却風の整流部材
7:油剤付与装置
8:糸条交絡装置
9:一対の引取ロ−ラ
10:巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各熱可塑性合成フィラメントの単糸繊度が0.1〜1.0デシテックスである90〜300本の衣料用マルチフィラメント糸を紡出するための紡糸孔が2重又は3重の多重同心円上に穿設された一枚の紡糸口金と、該紡糸口金の直下に設けた紡出糸条を徐冷するための徐冷手段と、該徐冷手段の直下に設けられ且つ冷却風によって紡出糸条を冷却する糸条冷却装置とを備え、更に該糸条冷却装置が紡出糸条を囲繞するように紡出糸条の最外周側から最内周側へ向かって冷却風を放射状に発生させる円筒状の冷却風吹出装置を備えたことを特徴とする糸条冷却装置。
【請求項2】
前記冷却風吹出装置の冷却風吹出口の内周面に対して、紡出糸条に吹き付ける冷却風の風量及び/又は風速を制御する均圧化部材を設けた、請求項1に記載の糸条冷却装置。
【請求項3】
前記冷却風吹出装置の冷却風吹出口の内周面に設けた均圧化部材の外周側に冷却風の吹出方向を一定方向へ整流する整流部材を設けた、請求項2に記載の糸条冷却装置。
【請求項4】
前記マルチフィラメント糸を複数本溶融紡糸する多錘の溶融紡糸装置に各錘毎に設けられた徐冷ゾーンを隣接錘と仕切る円筒状の仕切部材が設けられ、該仕切部材によって前記糸条冷却装置の直上から前記紡糸口金面までの糸条走行域を密閉した、請求項1〜3の何れかに記載の糸条冷却装置。
【請求項5】
一枚の紡糸口金に穿設する紡糸孔の穿設密度が2.2〜6.0個/cmである、請求項1〜4の何れかに記載の糸条冷却装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate