説明

糸条巻取機

【課題】空のボビンへの糸掛けをより確実に行うことが可能な糸条巻取機を提供すること。
【解決手段】糸条巻取機1は、回転可能なターレット11と、ターレット11に支持されるとともに、ボビン20が装着されるボビンホルダ12,13と、ターレット11を回転駆動するターレット駆動モータと、ボビン20から退避した退避位置とボビン20に糸Yを押しつける糸押圧位置とにわたって移動可能な糸掛け部材25とを備えている。そして、ボビンホルダ12,13が、ボビン20に糸Yを巻取る巻取位置P1から、巻取位置P1よりも糸道側の糸掛け位置P3へ移動した後に、糸掛け部材25が糸押圧位置へ移動して、ボビン20への糸掛けを行うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に供給される糸を巻取る糸条巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡糸機から連続的に供給される糸を巻取る糸条巻取機が知られている。一般的な糸条巻取機は、ターレットと、ターレットに支持されるとともに複数のボビンが装着されるボビンホルダと、ボビンに巻取られる糸を綾振るトラバース装置等を備えている。そして、紡糸機から連続的に供給される複数の糸をトラバース装置で綾振りしながら、ボビンホルダに装着された複数のボビンにそれぞれ巻取るように構成されている。
【0003】
さらに、上述したような糸条巻取機の中でも、近接して配置された2つのターレットを有する糸条巻取機が知られている(特許文献1参照)。この糸条巻取機においては、2つのターレットにそれぞれ支持されたボビンホルダ同士が互いに平行に配置されている。そして、紡糸機から連続的に供給される複数の糸を、巻取位置にある2本のボビンホルダにそれぞれ装着されたボビンに同時に巻取ることが可能となっている。
【0004】
また、この特許文献1の糸条巻取機においては、ボビンへの糸巻取に先だって、空のボビンへの糸掛け(初期糸掛け)を行うための糸掛け部材(初期糸掛けガイド)が、巻取位置にある2本のボビンホルダの間に設けられている。この糸掛け部材は、ボビン(ボビンホルダ)から退避した退避位置と、ボビンへ向けて糸を押し当てる糸押圧位置とにわたって移動可能である。そして、巻取位置にある2本のボビンホルダの間に複数の糸が通された状態で、糸掛け部材が退避位置から糸押圧位置にそれぞれ進出することで、2本のボビンホルダに装着された複数のボビン(具体的には、ボビン端部に形成された糸捕捉溝)に糸を掛けるように構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−75340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の糸条巻取機においては、ボビン(ボビンホルダ)が巻取位置にある状態で、糸掛け部材によるボビンへの糸掛けが行われている。しかし、このような糸掛け動作においては、ボビンホルダと糸掛け部材の配置関係によっては、糸掛けが失敗しやすいという問題があった。
【0007】
即ち、巻取位置にあるボビンホルダと糸掛け部材との離間距離が比較的大きい場合には、糸掛け部材を糸押圧位置に移動させて糸をボビンに押し当てたときの、ボビンへの糸の巻き付け角度が小さくなるため、ボビンの糸捕捉溝に糸が捕捉されにくく、糸掛け失敗が生じやすい。また、糸掛け時に糸掛け部材を退避位置から糸に向けて大きく進出させれば、ボビンへの糸の巻き付け角度を大きくすることは可能であるが、この場合には、糸掛け部材で把持された部分において、糸の屈曲率がかなり高くなってしまう。このように糸の屈曲率が高くなると、屈曲部分において生じる糸の走行抵抗が大きくなり、サクションガンで糸を十分に吸引することができなくなる。また、糸の屈曲率が高いと糸の張力が不安定になるため、やはり糸掛け失敗の頻度が高くなる。
【0008】
一方で、巻取位置にあるときのボビンホルダに対して、糸掛け部材があまりにも近接して配置されていると、ボビン近傍に糸を通すための空間が狭くなり、糸掛け前の糸通しが困難になる。特に、特許文献1に記載されている糸条巻取機においては、2つのターレットにそれぞれ支持された、巻取位置にある2本のボビンホルダの間に糸掛け部材が配置されていることから、糸通しのためのスペースが限られたものとなっている。その上で、初期糸掛け時における糸の屈曲率を低下させるために、巻取位置にあるボビンホルダと糸掛け部材とを一層近接させて配置すると、サクションガンで吸引されている糸を通すスペースがさらに狭くなるため、糸通しが非常に困難となる。また、サクションガンを操作して、2本のボビンホルダ間にある糸を一方のボビンホルダに近づけて、そのボビンホルダに装着されたボビンに対する糸の屈曲率を低下させることは可能ではあるが、他方のボビンホルダからは糸が離れてしまうため、他方のボビンに対しては糸の屈曲率が高くなってしまう。
【0009】
本発明の目的は、空のボビンへの糸掛け時に、ボビンと糸とを接近させたときの糸の屈曲率を小さく抑えて、糸掛けをより確実に行うことが可能に構成された糸条巻取機を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
第1の発明の糸条巻取機は、ボビンが装着されるボビンホルダと、それぞれ少なくとも2つの前記ボビンホルダを回転可能に支持するともに、自らも回転可能な2つのターレットと、前記2つのターレットを回転駆動するターレット駆動手段と、前記ボビンに巻取られる糸を綾振るトラバース装置と、前記ボビンと接触可能に設けられたコンタクトローラとを備え、
前記ボビンホルダは、前記コンタクトローラに接触する巻取位置と、前記コンタクトローラに接触しない待機位置とに移動可能であり、
前記2つのターレットにそれぞれ支持された、前記巻取位置にある2つのボビンホルダの内側に、当該2つのボビンホルダに装着されたボビンへの糸掛けを行う糸掛け部材が設けられており、
前記巻取位置にある2つの前記ボビンホルダが、前記巻取位置よりも内側の糸掛け位置に移動可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、ボビンへの糸掛け時において、ボビンホルダを巻取位置よりも内側の糸掛け位置へ移動させることができるため、ボビンが糸に接近した状態でボビンへの糸掛けを行うことができる。その結果、糸掛け部材に把持された部分における糸の屈曲率を小さく抑えつつ、ボビンへの糸の巻き付け角を十分に確保することができる。従って、初期糸掛け時において、ボビンへの糸掛けをより確実に行うことができる。
【0012】
また、本発明の糸条巻取機においては、2つのターレットにそれぞれ支持された、巻取位置にある2つのボビンホルダに対して、トラバース装置やコンタクトローラ等の糸巻取を行うための構成がそれぞれ設けられている。そのため、初期糸掛け時にボビンホルダと糸掛け部材とを近接させるために、ボビンホルダの巻取位置自体を内側の糸掛け部材に寄せようとしても、巻取動作に関係するトラバース装置やコンタクトローラを内側に寄せるには限度がある。そこで、本発明では、ボビンホルダの巻取位置はトラバース装置やコンタクトローラが相互干渉しない、比較的外側の位置に設定し、糸掛け部材による初期糸掛け時には、ボビンホルダだけを巻取位置よりも内側の糸掛け位置に移動させるようになっている。
【0013】
第2の発明の糸条巻取機は、前記第1の発明において、前記糸掛け部材は、糸に接触しない退避位置と、前記退避位置よりも外側の位置であって前記ボビンに糸を押しつける糸押圧位置と、前記退避位置と前記糸押圧位置との間の位置であって糸を把持する糸把持位置とにわたって移動可能であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、糸掛け部材は、退避位置から糸把持位置まで移動して、糸把持位置において糸を把持した後に、さらに、糸押圧位置まで移動して把持した糸をボビンに押しつけることができるため、糸をボビンに確実に掛けることができる。
【0015】
第3の発明の糸条巻取機は、前記第2の発明において、前記2つのボビンホルダが前記巻取位置から前記糸掛け位置に移動する前に、前記糸掛け部材が前記糸把持位置から前記退避位置に移動するように構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、糸掛け直前において糸掛け部材が退避位置に位置しているため、糸掛け部材が糸を把持したときの糸把持位置にそのまま位置している場合と比べて、巻取位置にあるボビンホルダの糸道側のスペースが大きく確保される。従って、ボビンをより一層糸に接近させて、糸の屈曲率を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、初期糸掛け前の糸通しが完了した状態における糸条巻取機の正面図、図2は図1の糸条巻取機の側面図である。図1に示すように、図示しない紡糸機から2つのローラ2,3を介して糸条巻取機1に複数本(本実施形態では16本)の糸Yが連続的に供給される。また、本実施形態の糸Yは、合成繊維からなるフィラメント糸である。尚、下流側のローラ3と糸条巻取機1との間には、複数本の糸Yを所定の間隔に分離するための糸ガイド4が設けられている。そして、糸条巻取機1は、紡糸機からローラ2,3及び糸ガイド4を介して供給された複数本の糸Yを、複数個のボビン20にそれぞれ巻取るように構成されている。
【0018】
図1、図2に示すように、糸条巻取機1は、ユニットフレーム10に回転自在に設けられた円板状の2つのターレット11と、ターレット11に回転可能に支持されるとともに、複数のボビン20が装着されるボビンホルダ12,13と、ボビンホルダ12,13に装着されたボビン20に接触可能な2つのコンタクトローラ14と、ボビン20に巻取られる糸Yを綾振りする2つのトラバース装置15と、空のボビン20に糸掛け(初期糸掛け)を行う糸掛け装置16等を備えている。
【0019】
尚、以下の説明において、ターレット11やボビンホルダ12,13等、左右で対をなす構成に関して、符号に“a”が付加されている場合は、図1中の右側に位置しているものを指し、符号に“b”が付加されている場合は、図1中の左側に位置しているものを指す。
【0020】
左右2つの円板状ターレット11(11a,11b)は、それぞれ鉛直面に平行な姿勢で、ユニットフレーム10に回転自在に設けられている。各ターレット11の回転中心に対して互いに対称な2つの位置には、ターレット11と直交する水平方向に延びる2本のボビンホルダ12,13がそれぞれ固定されている。各ターレット11に支持された2本のボビンホルダ12,13は、ターレット11と一体的に回転するようになっている。また、2つのターレット11に支持された計4本のボビンホルダ12a,13a,12b,13bの各々には、複数(本実施形態では8つ)のボビン20が、ボビンホルダの軸方向に並べて装着されるようになっている。尚、図2に示すように、各ボビン20の軸方向端部には、後述する糸掛けが行われる際に糸Yを捕捉する糸捕捉溝21が形成されている。
【0021】
2つのターレット11は、ターレット駆動モータ42(図3参照:ターレット駆動手段)によりそれぞれ回転駆動される。そして、ターレット駆動モータ42によりターレット11を回転させることで、各ターレット11に支持された2本のボビンホルダ12,13を、コンタクトローラ14に接触してボビン20に糸Yを巻取る巻取位置P1(P1a,P1b)と、巻取位置P1(P1a,P1b)とターレット11の回転中心に関して点対称な位置である待機位置P2(P2a,P2b)とにわたって移動させる。即ち、図1において巻取位置P1に位置するボビンホルダ12と待機位置P2に位置するボビンホルダ13とを交互に切り換えることが可能となっている。尚、このボビンホルダ12,13の切換時における2つのターレット11の回転方向(正転方向)は互いに逆方向となっている。具体的には、右側のターレット11aは図1の時計回りの方向に回転し、左側のターレット11bは図1の反時計回りの方向に回転する。
【0022】
2つのターレット11に支持された計4本のボビンホルダ12a,13a,12b,13bは、ボビン駆動モータ43(図3参照)によりそれぞれ回転駆動される。そして、巻取位置P1にある左右2本のボビンホルダ12が回転することによって、これらのボビンホルダ12にそれぞれ装着されたボビン20に糸Yが巻取られるようになっている。
【0023】
2つのコンタクトローラ14と2つのトラバース装置15は、ユニットフレーム10に対して昇降自在に配設された昇降枠17に支持されており、これらは昇降枠17と一体的に上下に移動可能となっている。
【0024】
コンタクトローラ14は、巻取位置P1にあるボビンホルダ12のボビン20に糸Yを巻取る際に、ボビン20の表面に直接接触、又は、ボビン20に形成された糸層(パッケージ)表面に接触する。これにより、ボビン20への糸巻取時に、ボビン20に形成された糸層を押圧してパッケージ形状を整えるとともに、パッケージ硬度を高めるようになっている。
【0025】
トラバース装置15は、巻取位置P1にある2本のボビンホルダ12に装着された複数のボビン20にそれぞれ対応して、ボビンホルダ12の軸方向に2列に配列された複数のトラバースガイド18を有する。尚、トラバースガイド18は、糸Yを所定のトラバース範囲内で綾振りしながらボビン20に巻取るために、図示しない駆動機構によりボビンホルダ12の軸方向に往復駆動される。
【0026】
また、昇降枠17には、巻取位置P1にある2本のボビンホルダ12のボビン20にそれぞれ対応して、ボビンホルダ12の軸方向に2列に配列された複数の綾振り支点ガイド19が、ボビンホルダ12の軸方向に移動可能に設けられている。ボビン20に糸Yを巻取る際には、綾振り支点ガイド19は、対応するボビン20の軸方向中央位置に固定される。一方、空のボビン20へ糸Yを掛ける初期糸掛け時には、流体シリンダ等によりボビンホルダ12の軸方向先端側(図2の左側:作業者側)に寄せられるようになっている(図2参照)。
【0027】
綾振り支点ガイド19が対応するボビン20の軸方向中央の位置にあり、且つ、綾振り支点ガイド19に糸Yが保持された状態で、トラバースガイド18が巻取位置P1にあるボビンホルダ12の軸方向に往復移動することによって、糸Yが所定のトラバース範囲内で綾振りされながら、ボビン20に巻取られる。
【0028】
また、昇降枠17には、後述する糸掛け装置16により空のボビン20に糸掛けが行われる際に、トラバースガイド18から糸Yを外すために、左右2つの糸はねガイド22がそれぞれ糸道(糸掛け前の糸Yの走行経路)に対して進退自在に設けられている。さらに、昇降枠17には、初期糸掛け時に、上方から供給される糸Yを、この糸Yが糸掛けされるボビン20の糸捕捉溝21に対応する位置に規制する、左右2つの糸規制ガイド23が設けられている。
【0029】
次に、糸掛け装置16について説明する。糸掛け装置16は、ガイド支持体24と、このガイド支持体24に可動連結された糸掛け部材25とを備えている。
【0030】
ガイド支持体24は、巻取位置P1a,P1bにある左右2本のボビンホルダ12a,12bの間に配置されるとともに、ユニットフレーム10の底部に立設されている。そして、このガイド支持体24の左右両側部のそれぞれに、2本のボビンホルダ12の各々に装着された複数のボビン20に対応する、複数(本実施形態では8つ)の糸掛け部材25が、ボビンホルダ12の軸方向に並べて設けられている。
【0031】
糸掛け部材25は、一方向に長尺な部材であり、その先端部に糸を把持する把持部26を有する。また、糸掛け部材25は、流体シリンダ等の駆動手段によって駆動されることにより、ボビンホルダ12の軸方向に移動可能である。
【0032】
また、糸掛け部材25は、図示しないリンク機構を介してガイド支持体24に連結されている。そして、糸掛け部材25は、リンク機構を介して、対応するボビン20から退避した退避位置(図1参照)と、退避位置よりも少し外側(糸道側)に進出して糸Yを把持する糸把持位置(図4参照)と、糸把持位置よりもさらに外側に進出して、把持した糸Yをボビン20に押しつける糸押圧位置(図6、図7参照)と、にわたって移動可能に構成されている。
【0033】
尚、本実施形態においては、巻取位置P1にある2本のボビンホルダ12a,12bに装着されたボビン20に対して糸掛け動作を行う左右の糸掛け部材25が、これら2本のボビンホルダ12a,12bの間に配置されている。従って、糸条巻取機1をコンパクトにまとめて、糸条巻取機1の全体サイズを小さくすることが可能となる。
【0034】
次に、糸条巻取機1の電気的な構成について、図3のブロック図を参照して簡単に説明しておく。図3に示すように、糸条巻取機1の全体の制御を司る制御装置40は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びプログラムに使用されるデータが記憶されているROM(Read-Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)等で構成されている。そして、この制御装置40は、糸条巻取機1の操作ボックス41から入力された指令に基づいて、ターレット11を回転駆動するターレット駆動モータ42、ボビンホルダ12,13を回転駆動するボビン駆動モータ43、トラバース装置15、糸掛け装置16、及び、綾振り支点ガイド19、糸はねガイド22、糸規制ガイド23などの各種ガイドをそれぞれ駆動する流体シリンダ等、糸条巻取機1の各部の動作を制御する。
【0035】
次に、糸条巻取機1の動作(特に、初期糸掛け時の動作)について、図1,図2,図4〜図7を参照して説明する。本実施形態の糸条巻取機1では、作業者により操作ボックス41から所定の指令が入力されたときに、その指令に基づいて制御装置40が糸条巻取機1の各部を制御する。これにより、巻取位置P1a,P1bにある2本のボビンホルダ12a,12bに装着された複数のボビン20に対して同時に、糸掛け動作や糸Yの巻取動作が行われるようになっている。
【0036】
まず、図1、図2に示すように、巻取位置P1にある2本のボビンホルダ12a,12bに装着された空ボビン20に対する糸掛け前に、これら2本のボビンホルダ12a,12bに装着された複数のボビン20にそれぞれ対応する、複数の綾振り支点ガイド19を昇降枠17の先端側(図2の左側)に寄せる。また、糸掛け装置16の糸掛け部材25を、巻取位置P1にある2本のボビンホルダ12a,12bの間の退避位置にそれぞれ退避させた状態で、ガイド支持体24の先端側(即ち、作業者側)に寄せておく。
【0037】
この状態で、図示しない紡糸機から、ローラ2,3及び糸ガイド4を介して連続的に送られてくる複数本の糸Yを、サクションガン50で吸引しつつ、上述のようにして昇降枠17の先端側に寄せられた複数の綾振り支点ガイド19にそれぞれ掛ける。さらに、図2に示すように、サクションガン50の吸引位置をユニットフレーム10の先端側に固定し、綾振り支点ガイド19にそれぞれ掛けられた複数本の糸Yを先端側に寄せつつ、図1に示すように、巻取位置P1a,P1bにある2本のボビンホルダ12a,12bと、退避位置にある糸掛け部材25との間の空間にこれらの糸Yを通す。また、このとき、糸はねガイド22を進出させることにより、糸通しされた糸Yがトラバース装置15のトラバースガイド18に掛からない状態にしておく。
【0038】
次に、図4に示すように、左右の糸掛け部材25をそれぞれ少し開き、糸掛け部材25を、図1に示す退避位置よりもやや外側(糸道側)の糸把持位置に移動させる。このとき、糸掛け部材25の先端部に設けられた把持部26により糸Yが把持される。
【0039】
その後、図5に示すように、糸Yが掛けられた複数の綾振り支点ガイド19と、糸Yを把持した状態の複数の糸掛け部材25をボビンホルダ12の基端側(図5の右側)に移動させる。そして、糸掛け部材25を、対応するボビン20の端部に設けられた糸捕捉溝21と対向するように位置させる。また、このとき、糸規制ガイド23を進出させて、糸掛け部材25に把持された糸Yが糸捕捉溝21に沿う位置からずれないように、糸Yをボビンホルダ12の軸方向に関して規制しておく。
【0040】
次に、図6に示すように、ターレット駆動モータ42により、2つのターレット11を、ボビンホルダ12,13の切換時(正転)とは逆方向に回転(逆転)させる。即ち、図6に矢印で示されているように、右側のターレット11を反時計回りの方向に回転させるとともに、左側のターレット11を時計回りに回転させる。そして、巻取位置P1a,P1bにある2つのボビンホルダ12a,12bを、巻取位置P1a,P1bよりも内側(糸掛け部材25側)にある、糸掛け位置P3a,P3bにそれぞれ移動させる。これにより、2本のボビンホルダ12a,12bのボビン20は、巻取位置P1a,P1bに位置していたときよりもそれぞれ糸道(糸Yの走行経路)に接近する。
【0041】
次に、図7に示すように、左右の糸掛け部材25をさらに大きく開いて、糸掛け部材25を、図4に示す糸把持位置よりもさらに外側(糸道側)に進出した糸押圧位置に移動させる。これにより、複数の糸掛け部材25の把持部26にそれぞれ把持された複数本の糸Yが、対応するボビン20にそれぞれ押しつけられ、ボビン20の糸捕捉溝21に糸Yが掛けられる。
【0042】
このように、巻取位置P1a,P1bに位置している2本のボビンホルダ12a,12bが、巻取位置P1a,P1bよりも内側(糸掛け部材25側)の糸掛け位置P3a,P3bにそれぞれ移動して空のボビン20が糸Yに接近した状態で、左右の糸掛け部材25が糸押圧位置に進出して、ボビン20への糸掛けを行う。そのため、把持部26に把持された部分における糸Yの屈曲率を小さく抑えつつ、ボビン20への糸Yの巻き付け角を十分に確保することができる。これにより、初期糸掛け時に、ボビン20への糸掛けをより確実に行うことができる。
【0043】
また、糸掛け部材25は、退避位置(図1参照)から糸把持位置(図4参照)に移動して糸Yを確実に把持した後に、糸押圧位置(図6参照)に移動して把持した糸Yをボビン20に押しつける。その結果、ボビン20に一層確実に糸Yを掛けることができる。
【0044】
尚、以上説明した糸掛け部材25による糸掛け動作において、図4に示すように、糸掛け部材25が糸把持位置に移動して把持部26に糸Yが把持された後に、糸掛け部材25を、再び図1に示す退避位置に一旦戻し、図6に示す糸掛け時には、退避位置から糸押圧位置まで糸掛け部材25を進出させるようにしてもよい。この場合には、糸掛け直前(糸掛け部材25が糸押圧位置に進出する前)の状態において、糸掛け部材25が糸Yを把持したときの糸把持位置に進出したままの状態と比べて、巻取位置P1よりも内側(糸道側)のスペースが大きく確保されることになる。その結果、ボビンホルダ12a,12bをより内側(糸道側)の糸掛け位置に移動させることが可能になる。つまり、糸掛け時にボビン20と糸Yとをさらに接近させて、糸Yの屈曲率を低下させることができる。
【0045】
以上のようにして、2本のボビンホルダ12a,12bに装着されたボビン20に糸Yが掛けられると、図7に示すように、糸規制ガイド23と糸はねガイド22とを退避させる。すると、糸規制ガイド23による、ボビンホルダ12の軸方向に関する糸Yの位置規制が解除されるとともに、糸はねガイド22によって糸Yがトラバースガイド18から外された状態が解除され、糸Yがトラバースガイド18に係合することになる。
【0046】
さらに、ターレット駆動モータ42により、2つのターレット11を糸掛け時とは逆方向に回転(正転)させる。即ち、右側のターレット11aを時計回りの方向に回転させるとともに、左側のターレット11bを反時計回りに回転させる。これにより、糸掛け位置P3a,P3bにある2本のボビンホルダ12a,12bが、糸掛け位置P3a,P3bよりも外側の、コンタクトローラ14と接触する巻取位置P1a,P1bにそれぞれ戻る。この状態で、トラバースガイド18をボビンホルダ12の軸方向に往復移動させて綾振り支点ガイド19を中心に糸Yを綾振りさせながら、ボビン駆動モータ43によりボビンホルダ12を回転させて、ボビンホルダ12に装着された複数のボビン20にそれぞれ糸Yを巻取る。
【0047】
また、巻取位置P1にあるボビンホルダ12に装着されたボビン20に、一定量の糸Yが巻取られて満巻状態となると、ターレット駆動モータ42により、2つのターレット11をそれぞれ正転させて、巻取位置P1にあるボビンホルダ12と待機位置P2にあるボビンホルダ13とを切り換える。そして、新しく巻取位置P1に到達したボビンホルダ13に装着されている複数のボビン20に対して、糸Yの巻取が行われる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態はこれに限られるものではなく、前記実施形態に対して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることも可能である。そのような変更形態例を以下に挙げる。
【0049】
前記実施形態の糸条巻取機は、ボビン駆動モータ43でボビンホルダ12,13を直接回転駆動することにより、ボビン20に糸Yを巻取るものであるが、ボビン20と接触するコンタクトローラ14をモータ等で回転駆動し、このコンタクトローラ14との接触摩擦によってボビン20を回転させる、いわゆる、フリクション駆動方式の糸条巻取機であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る糸巻取装置(糸通し完了状態)の正面図である。
【図2】図1の糸巻取装置の側面図である。
【図3】糸巻取装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】糸巻取装置(糸把持状態)の正面図である。
【図5】糸巻取装置(糸規制状態)の側面図である。
【図6】糸巻取装置(糸掛け途中)の正面図である。
【図7】糸巻取装置(糸掛け完了状態)の正面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 糸条巻取機
11 ターレット
12,13 ボビンホルダ
20 ボビン
25 糸掛け部材
42 ターレット駆動モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンが装着されるボビンホルダと、
それぞれ少なくとも2つの前記ボビンホルダを回転可能に支持するともに、自らも回転可能な2つのターレットと、
前記2つのターレットを回転駆動するターレット駆動手段と、
前記ボビンに巻取られる糸を綾振るトラバース装置と、
前記ボビンと接触可能に設けられたコンタクトローラとを備え、
前記ボビンホルダは、前記コンタクトローラに接触する巻取位置と、前記コンタクトローラに接触しない待機位置とに移動可能であり、
前記2つのターレットにそれぞれ支持された、前記巻取位置にある2つのボビンホルダの内側に、当該2つのボビンホルダに装着されたボビンへの糸掛けを行う糸掛け部材が設けられており、
前記巻取位置にある2つの前記ボビンホルダが、前記巻取位置よりも内側の糸掛け位置に移動可能に構成されていることを特徴とする糸条巻取機。
【請求項2】
前記糸掛け部材は、糸に接触しない退避位置と、前記退避位置よりも外側の位置であって前記ボビンに糸を押しつける糸押圧位置と、前記退避位置と前記糸押圧位置との間の位置であって糸を把持する糸把持位置とにわたって移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の糸条巻取機。
【請求項3】
前記2つのボビンホルダが前記巻取位置から前記糸掛け位置に移動する前に、前記糸掛け部材が前記糸把持位置から前記退避位置に移動するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の糸条巻取機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−290835(P2008−290835A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137340(P2007−137340)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】