説明

糸立て装置及びミシン

【課題】糸駒台をコンパクトに収納することができると共に、糸駒交換作業を容易に行うことができる使い勝手のよい糸立て装置を提供すること、及び、この糸立て装置を備えたミシンを提供する。
【解決手段】糸立て装置19において、糸駒台は、複数に分割された分割糸駒台22,23であって、一端部にて枢支軸24,25に揺動可能に枢支された第1糸駒台30,30と、この第1糸駒台30,30の他端部に連なる第2糸駒台31,31と、第1糸駒台30,30の他端部に対して第2糸駒台31,31の一端部を揺動可能に連結する連結部32,32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の糸駒が装着可能な糸駒台を備えた糸立て装置、及び糸立て装置を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上記の糸立て装置を備えたミシンでは、糸駒台に装着された複数の糸駒から繰り出される糸が、糸案内機構によって糸駒の上方で夫々案内され、糸調子器や天秤等を経由する所定の糸供給経路を通って縫針に供給される。
例えば、特許文献1の多針刺繍ミシンの糸立台構造にあっては、ミシンのアーム部上に、平面視にて略矩形状をなす横長な糸立台が配置されており、この糸立台に複数の糸駒が前後2列に(前列に5つ、後列に4つ)並列配置される。このため、当該糸立台では、比較的多くの糸駒を左右に並べて載置することができるが、そのぶん糸立台が左右に大きく張出すこととなる。従って、縫製時に刺繍模様の糸色数が9つ未満の場合や、不使用時にミシンを収納する場合にも糸立台が余分なスペースを取るという課題がある。
【0003】
一方、特許文献2の糸立て装置では、複数(例えば3つ)の糸駒を夫々装着可能な一対の糸駒台を備えている。一対の糸駒台は、支持台に設けられた一対の枢支軸によって、平面視にて「V」字形に後方側が拡開した使用位置と、この使用位置から閉じて略平行に並べた収納位置とに切換え可能に構成されている。この糸立て装置によれば、一対の糸駒台を収納位置に切換えることで、各糸駒台を前後方向に平行に並べてコンパクトに収納することができる。また、一対の糸駒台は、使用位置にて「V」字状をなすことから、特許文献1の糸立台よりも左右方向の寸法を抑制することができ、特許文献1の糸駒台構造で生じる上記課題は解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−312073号公報
【特許文献2】特許第3729411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように特許文献2の糸立て装置では、一対の糸駒台の収納位置或は使用位置で、各糸駒が前後方向に平行に或はV字状に並ぶため、各糸駒台における奥側の糸駒を交換する際、例えばユーザが手を奥方へ伸ばして当該糸駒の着脱を行うことになる。従って、各糸駒台について、より多く(4つ以上)の糸駒を載置できるように構成した場合、その奥側の糸駒の交換作業をミシンの手前側で行うことが困難となる等、作業効率に影響を来すことになる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、糸駒台をコンパクトに収納することができると共に、糸駒交換作業を容易に行うことができる使い勝手のよい糸立て装置を提供すること、及び、この糸立て装置を備えたミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の糸立て装置は、複数の糸駒が装着可能な糸駒台と、前記糸駒台を水平面内で揺動可能に支持する枢支手段を有する支持台とを具備した糸立て装置において、前記糸駒台は、複数に分割された分割糸駒台であって、一端部にて前記枢支手段に揺動可能に枢支され、複数の糸駒が水平方向に列をなすように並べて載置される第1糸駒台と、前記第1糸駒台の他端部に連なり、複数の糸駒が水平方向に列をなすように並べて載置される第2糸駒台と、前記第1糸駒台の他端部に対して前記第2糸駒台の一端部を揺動可能に連結する連結部とを有し、前記分割糸駒台を、前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台が夫々の長手方向に略平行になり互いに隣接する収納位置と、この収納位置から前記第1糸駒台が前記枢支手段を中心に揺動されると共に前記第2糸駒台が前記連結部を中心に揺動されて前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台を非平行状に拡開させた使用位置とに切換え可能に構成したことを特徴とする。
【0008】
上記糸立て装置によれば、糸駒台を複数に分割した分割糸駒台から構成したので、分割糸駒台において比較的多くの糸駒を各糸駒台(第1糸駒台及び第2糸駒台)に分けて載置することができる。また、この分割により、各糸駒台の長手方向(奥行方向)への大型化を抑制することができる。従って、各糸駒台の奥方に載置される糸駒であっても、交換作業を比較的容易に行うことができる。更に、第1糸駒台の多端部と第2糸駒台の一端部とを連結部により揺動可能に連結したので、第1糸駒台を第2糸駒台に連動させることができる。このため、分割糸駒台の位置を切換える際、第1糸駒台と第2糸駒台とを各別に把持して移動させる必要がなく、使い勝手のよいものとすることができる。しかも、上記分割糸駒台を使用位置から収納位置に切換えることで、第1糸駒台及び第2糸駒台を夫々の長手方向に略平行に隣接させてコンパクトに収納することができる。
【0009】
請求項2の糸立て装置では、請求項1の発明において、前記分割糸駒台を、使用位置又は収納位置に保持する保持機構を備えることを特徴とする。
請求項3の糸立て装置では、請求項2の発明において、前記保持機構は、前記支持台に対して所定方向へ略直線的に移動可能に配置され、前記第2糸駒台における前記連結部側の一端部とは反対側の他端部が揺動可能に連結された規制板と、前記支持台に対して前記規制板を係止解除可能に係止する係止手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の糸立て装置では、請求項1から3までの何れかの発明において、前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台とは別個に、もう一組の第1糸駒台及び第2糸駒台からなる分割糸駒台を備え、前記複数の糸駒から延びる糸を当該糸駒よりも上方で夫々案内し略水平方向に列をなす複数の糸案内部を有する糸案内部材と、前記支持台上で前記糸案内部材を支持する支柱とを備えた糸案内機構を設け、2つの前記分割糸駒台を、前記支柱を挟んで左右対称に配置したことを特徴とする。
請求項5の糸立て装置では、請求項4の発明において、2つの前記分割糸駒台は、使用位置で夫々の前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台が平面視にてM字状に並ぶように構成されていることを特徴とする。
請求項6のミシンは、請求項1から5までの何れかに記載の糸立て装置を備えたことを特徴とする。よって、上記した請求項1から5までの発明と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の糸立て装置によれば、糸駒台を複数に分割した分割糸駒台から構成したので、分割糸駒台において比較的多くの糸駒を各糸駒台(第1糸駒台及び第2糸駒台)に分けて載置することができる。また、この分割により、各糸駒台の長手方向(奥行方向)への大型化を抑制することができる。従って、各糸駒台の奥方に載置される糸駒であっても、交換作業を比較的容易に行うことができる。更に、第1糸駒台の多端部と第2糸駒台の一端部とを連結部により揺動可能に連結したので、第1糸駒台を第2糸駒台に連動させることができる。このため、分割糸駒台の位置を切換える際、第1糸駒台と第2糸駒台とを各別に把持して移動させる必要がなく、使い勝手のよいものとすることができる。しかも、上記分割糸駒台を使用位置から収納位置に切換えることで、第1糸駒台及び第2糸駒台を夫々の長手方向に略平行に隣接させてコンパクトに収納することができる。
【0012】
請求項2の糸立て装置によれば、請求項1の発明の効果に加え、保持機構によって、分割糸駒台を、使用位置又は収納位置で保持することができる。従って、分割糸駒台を使用位置に保持することで、ミシンの振動等による各糸駒台の位置ずれを防止することができる一方、分割糸駒台を収納位置に保持して糸立て装置を持ち運ぶことができ、より使い勝手を向上させることができる。
請求項3の糸立て装置によれば、請求項2の発明の効果に加え、分割糸駒台の両端部は前記枢支手段と保持機構とを介して支持台上で支持される。従って、規制板を係止手段により係止する簡単な構成で、分割糸駒台について第1糸駒台及び第2糸駒台を安定した状態で保持することができる。また、分割糸駒台の収納位置と使用位置との間の切換えを、規制板の所定方向への略直線的な移動を通じて容易に切換えることができる。
【0013】
請求項4の糸立て装置によれば、1から3までの何れかの発明の効果に加え、糸駒から繰り出される糸は、糸案内機構の糸案内部材によってガイドされる。この糸案内機構の支柱に対して2つの分割糸駒台を左右対称に配置することで、より多くの糸駒を載置することができると共に、支持台上で各分割糸駒台を安定して支持することができる。
請求項5の糸立て装置によれば、請求項4の発明の効果に加え、2つの分割糸駒台は、使用位置で夫々の第1糸駒台及び第2糸駒台が平面視にてM字状に並ぶ。このため、分割糸駒台を使用位置に切換えることで、特に各糸駒台の奥側に載置された糸駒を手前側(ユーザ側)に近づけることができ、当該糸駒の交換をより容易に行うことができる。
【0014】
請求項6のミシンによれば、請求項1から5の何れかに記載の糸立て装置を備えたので、上記した請求項1から5までの発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態を示す糸立て装置を備えた多針式刺繍ミシンの正面図
【図2】同右側面図
【図3】同背面図
【図4】同平面図
【図5】糸調子台部分の平面図
【図6】糸案内部材から縫針かけての部分の正面図
【図7】糸案内機構及び中間糸案内部リンク機構の正面図
【図8】糸案内機構を省略して示す、分割糸駒台の使用位置における糸立て装置の平面図
【図9】(a)は同正面図、(b)は図8のIXb−IXb線に沿う断面図
【図10】図8のX−X線に沿う拡大断面図
【図11】図8のXI−XI線に沿う拡大断面図
【図12】(a)及び(b)は、左側及び右側のガイドピン近傍部の拡大断面図
【図13】(a)及び(b)は、左側及び右側の規制軸近傍部の拡大断面図
【図14】(a)及び(b)は、締結部材近傍部を拡大して示す平面図及び縦断正面図
【図15】分割糸駒台の収納位置における図4相当図
【図16】分割糸駒台の収納位置における図8相当図
【図17】(a)及び(b)は、左側及び右側のガイドピン近傍部の拡大平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明を多針式刺繍ミシン(以下、多針ミシンMと称す)に適用した一実施形態について、図1〜図17を参照しながら説明する。図1は、多針ミシンMの正面図であり、ユーザ(使用者)が位置する方向(紙面手前)を前方、その反対方向を後方(奥方)として説明する。
図1〜図3に示すように、多針ミシンMは、このミシン全体を支持する左右1対の脚部1と、その脚部1の後端部から立設された脚柱部2と、その脚柱部2の上部から前方に延びるアーム部3と、脚柱部2の下端部から前方に延びるシリンダベッド4と、アーム部3の前端部に装着された針棒ケース5とを備えている。脚部1、脚柱部2、アーム部3及びシリンダベッド4は、ミシン本体7として一体的に構成されており、このミシン本体7側に、多針ミシンMの制御全般を司る制御手段(図示略)や操作パネル6等が配設されている。
【0017】
シリンダベッド4の上面には針板4aが設けられており、この針板4aに、後述する縫針10a〜10jの針落ち位置としての針穴(図示略)が形成されている。
脚部1の上側には、左右方向向きのキャリッジ8が配置されており、このキャリッジ8の内部には、当該キャリッジ8の前側に設けられた枠取付台(図示略)をX方向(左右方向)に駆動させるX方向駆動機構(図示略)が設けられている。左右の脚部1内には、キャリッジ8をY方向(前後方向)に駆動させるY方向駆動機構が設けられている。刺繍縫製に供する加工布(図示略)は、矩形枠状の刺繍枠(図示略)に保持され、この刺繍枠が、前記枠取付台に取付けられる。こうして、キャリッジ8がY方向駆動機構によりY方向に駆動され、或は枠取付台がX方向駆動機構によりX方向に駆動されることで、刺繍枠が、キャリッジ8と同期してY方向に移動し、或は枠取付台と共にX方向に移動して、加工布が布送りされる。
【0018】
針棒ケース5には、左右方向に配列された上下方向に延びる10本の針棒9a〜9jが上下動可能に支持されており、各針棒9a〜9jの下端部には、縫針10a〜10jが夫々装着されている。また、針棒ケース5には、各針棒9a〜9jに対応する10個の天秤11a〜11jが上下動可能に装着されている。針棒ケース5の前面側には、合成樹脂製のカバー5aが取付けられており、針棒ケース5の上面側には、前下がりの傾斜状をなす糸調子台12がカバー5aの上端部と連なるように取付けられている。図5に示すように、糸調子台12の後端部には、10個の糸導入部材13A〜13Jが左右方向に並べて設けられている。詳しい図示は省略するが、糸導入部材13A〜13Jは、その後部に配された筒状の糸導入口部13a〜13j(図5参照)と、前部に配された補助糸案内部14a〜14jとからなる。また、糸調子台12には、各縫針10a〜10jに供給される糸の張力を調整する為の10個の糸調子器15a〜15jが配設されている。
【0019】
アーム部3の前端部には、左右方向に延びるガイドレール3aが設けられており、上記針棒ケース5は、このガイドレール3aに沿って左右方向(X方向)へ摺動するように支持されている。また、アーム部3の内部には、針棒ケース5をX方向に移動させる針棒ケース移動機構(図示略)が設けられている。針棒ケース移動機構は、その駆動モータ(図示略)の駆動により、10組の針棒9a〜9j及び天秤11a〜11jのうち1組の針棒9a〜9j及び天秤11a〜11jだけが針落ち位置に対して択一的に切換わるようになっている。この1組の針棒9a〜9j及び天秤11a〜11jは、脚柱部2に設けられた図示しないミシンモータの駆動により同期して上下動されると共に、シリンダベッド4の前端部に設けられた回転釜(図示略)と協働することによって、前記刺繍枠に保持された加工布に刺繍縫目が形成される。
【0020】
次に、ミシン本体7の上面側に設けられた糸立て装置19について説明する。
図2〜図4に示すように、糸立て装置19は、アーム部3上面に配置された平板状の支持台20と、複数(例えば10個)の糸駒21a〜21jが載置される一対の糸駒台(後述する分割糸駒台22,23)と、支持台20で当該糸駒台22,23を水平面内で揺動可能に支持する一対の枢支軸24,25と、糸駒21a〜21jから延びる糸を案内するための糸案内機構27とを備えている。
【0021】
図8に示すように、支持台20は金属板からなり、平面視にて後半部が左右に張り出した一対の張出部20aを有する。支持台20には、前後両側部に位置して3つの螺子用孔20bが形成されている。支持台20は、螺子用孔20bに夫々挿通された螺子29(図4参照)により、アーム部3上面に沿って水平に取付け固定されている。
本発明の一対の糸駒台22,23は、夫々複数(例えば2つ)に分割された分割糸駒台22,23であって、枢支軸24,25により揺動可能に支持されることで、平面視にて「M」字状に拡開した使用位置(図4、図8参照)と、この使用位置から閉じて略平行になり互いに隣接する収納位置(図15、図16参照)との間での切換えが可能とされている。ここで、2つの分割糸駒台22,23は互いに同一構造であり、正面視にて糸案内機構27の支柱(後述する分割支柱51,52)を挟んで左右対称に配設されたものであるので、左側の分割糸駒台22を主として説明する。
【0022】
図8、図9に示すように、分割糸駒台22は、合成樹脂製の第1糸駒台30及び第2糸駒台31と、両者30,31を連結する連結部32とを備えている。
第1糸駒台30は、平面視にて略小判状の上面部30aと、上面部30aの周縁部に形成された下方に突出する周壁部30bとを一体に有する。上面部30aには、例えば3つの棒用孔部30fが所定間隔で設けられており、当該棒用孔部30fに後述する糸駒棒33(図10参照)が夫々装着されている。この上面部30aには、例えば3つの糸駒21c〜21eが水平方向に列をなすように略直線的に並べて載置される。第1糸駒台30における上面部30aの一端部(図8中、前端部)には、枢支軸24が挿通される枢支軸用孔部30cが設けられ、他端部(後端部)には、連結部32を連結するための連結用孔部30dが設けられている。図10及び図11に示すように、略円筒状をなす枢支軸用孔部30c及び連結用孔部30dは、何れも上面部30a側に段部30g及び30hを有する段付き状をなし、上面部30aから下方に突出するように形成されている。また、第1糸駒台30の外周部には、前寄りの部位に湾状に内側に窪む左右一対の逃し部30iが形成されている。
【0023】
第2糸駒台31も、略小判状の上面部31aとその周縁部の周壁部31bとを一体に有する。上面部31aには、例えば2つの棒用孔部31fが所定間隔で設けられており、当該棒用孔部31fに糸駒棒33が夫々装着されている。この上面部31aには、例えば2つの糸駒21a,21bが水平方向に列をなすように略直線的に並べて載置される。上面部31aの一端部(後端部)には、連結部32に連結するための一対の連結用孔部31cが設けられている。図11に示すように、連結用孔部31cは有底円筒状をなし、上面部31aから下方に突出するように形成されている。上面部31aの他端部(前端部)には、後述する保持機構40に連結するための規制軸用孔部31dが設けられている。図13(a)に示すように、規制軸用孔部31dは円筒状をなすと共に上面部30a側に段部31eを有する段付き状をなし、上面部31aから下方に突出するように形成されている。
第1糸駒台30及び第2糸駒台31は、分割糸駒台22,23を同一構造の部品で構成すべく、第1糸駒台30の左右一対の逃し部30i等のように、左右で対称的な形状になっている。
【0024】
図10に示すように、第1糸駒台30の棒用孔部30fは、各糸駒台30の上面部30aから下方に突出する筒状をなしており、糸駒棒33の下端部が夫々挿通される。この糸駒棒33の下端部には、棒用孔部30fに挿通されて当該棒用孔部30fの下面と係合する係合片33aと、この係合片33aの係合状態で各糸駒台30の上面部30aと係合するフランジ部33bが形成されている。これら係合片33a及びフランジ部33bによって、糸駒棒33は、棒用孔部30fにてガタつかないように垂直に保持されている。図示は省略するが、第2糸駒台31の棒用孔部31fも、前記棒用孔部30fと同様に構成されており、糸駒棒33は、その係合片33a及びフランジ部33bによって、棒用孔部31fにてガタつかないように垂直に保持されている。
【0025】
第1糸駒台30及び第2糸駒台31における夫々の後端部の下面側には、金属板製の連結板35が配置されている。ここで、図11は、連結板35近傍部の連結構造を説明すべく、図8中、XI―XI線に沿う縦断面図を示している。
図8に示すように、連結板35は、平面視にて略二等辺三角形状をなし、その頂角側の端部に形成された小孔35a(図11参照)と、底角側の両端部にバーリング加工により形成された一対の雌螺子部35bとを有する。連結板35の小孔35aには、第1糸駒台30の連結用孔部30dに上側から挿通された円柱状の連結軸36が取付けられている。詳細には、連結軸36は、その下端部に設けられたリベット部36aが小孔35aに挿通されて当該リベット部36a先端をかしめることにより、小孔35a周縁部に係止されている。また、連結軸36は、その上面部に螺子36bが螺挿されると共に、螺子36bの頭部と連結用孔部30dの段部30hとの間にばね座金36c及びワッシャ36dが配設されることにより、抜け止めされている。第1糸駒台30における連結用孔部30dの下端と連結板35との間には、波座金39a及びワッシャ39bが配設されており、多針ミシンMの振動を吸収すると共に、第1糸駒台30に対する連結板35の相対的な揺動が円滑に行われるようになっている。
【0026】
連結板35の一対の雌螺子部35bには、第2糸駒台31の一対の連結用孔部31cを貫通する一対の螺子37が螺挿されている。この螺子37の頭部と、有底円筒状をなす連結用孔部31cの底部との間には、ばね座金37a及びワッシャ37bが配設されている。上記連結板35、連結軸36、螺子37、各座金37a,39a、ワッシャ37b,39b等は、第1糸駒台30の後端部に対して第2糸駒台31の後端部を連結軸36の周りに揺動可能に連結する連結部32を構成する。
【0027】
右側の分割糸駒台23は、上記した左側の分割糸駒台22と基本的に同一であり、ミシン本体7の中心を通り前後方向に延びる直線L1を対称軸として左右対称に配設された、第1糸駒台30、第2糸駒台31、及び連結部32を備え、例えば5つの糸駒21f〜21jが載置されるようになっている。もっとも、図13(a)、(b)に対比して示すように、右側の分割糸駒台23では、第2糸駒台31における規制軸用孔部31d´の下端までの長さ(下方への突出寸法H1´)は、前記の規制軸用孔部31dの突出寸法H1に比し若干、小さく設定されている。詳しくは後述するように、当該規制軸用孔部31d´,31dに同一の規制軸43,44が夫々挿通されるようになっている。
【0028】
前記支持台20における前後方向の中間部には、左右両側に位置して枢支軸24,25を取付けるための一対の雌螺子部20c,20d(図9(a)、図10参照)がバーリング加工により形成されている。枢支軸24,25は、その下端部に径小な螺子部24a、25aを一体に有し、左右の分割糸駒台22,23を水平面内で夫々揺動可能に支持する枢支手段として構成されている。即ち、枢支軸24,25は、分割糸駒台22,23の夫々の第1糸駒台30,30の枢支軸用孔部30c,30cに上側から挿通され、螺子部24a、25aが支持台20の雌螺子部20c,20dと螺合することで、分割糸駒台22,23を支持台20に対して揺動可能に連結している。また、枢支軸24,25の夫々の頭部と枢支軸用孔部30c,30cの段部30g,30gとの間には、波座金38a及びワッシャ38bが配設されており、多針ミシンMの振動を吸収すると共に、支持台20に対する分割糸駒台22,23の相対的な揺動が円滑に行われるようになっている。
【0029】
支持台20には、分割糸駒台22,23を前述した使用位置又は収納位置に保持する保持機構40が設けられている。この保持機構40は、支持台20に対して所定方向に移動可能に設けられた左右一対の規制板41,42と、この規制板41,42に対して分割糸駒台22,23の夫々の第2糸駒台31,31を揺動可能に連結する規制軸43,44と、支持台20に対する規制板41,42の移動を係止解除可能に係止する締結部材45とを備えている。
図8に示すように、左側の規制板41と右側の規制板42は、互いに同一構造を有し、長尺板状に形成されている。規制板41,42の幅方向中央部には、その長手方向に延びるスリット41a,42aが形成されている。また、各規制板41,42の長手方向の一端部には、その前側部分を切欠いた逃し部41b、42b(図17(a)、(b)参照)が形成されている。
【0030】
図14(a)、(b)に示すように、締結部材45(係止手段)は、その上下方向中間部の中間筒部45bと、中間筒部45bの上端部に形成されたツマミ部45aと、中間筒部45bの下端部に形成された螺子部45cとを一体に有する。ツマミ部45aは、ユーザが手指で摘んで回動操作できるだけでなく、上面部に工具用溝45dが形成されており、工具による回動操作も可能である。前記支持台20の略中央部には雌螺子部20eが形成されており、締結部材45の螺子部45cは、上下に重ねられた規制板41,42のスリット41a,42aに挿通されて、雌螺子部20eにて螺合される。この締結部材45は、分割糸駒台22,23の収納位置(図16参照)において両第1糸駒台30,30の逃し部30i,30i間に位置する。そして、締結部材45は、ツマミ部45aが所定方向に回されることで、中間筒部45bの下端部と支持台20との間で規制板41,42を押圧して固定し、前記所定方向とは逆方向にツマミ部45aが回されることで、規制板41,42の締結固定を解除可能に構成されている。尚、図14(b)に示すように、中間筒部45bと規制板41との間、及び規制板41と規制板42との間には、両規制板41,42を円滑に移動させるべく、ワッシャ48が夫々配設されている。
【0031】
図9(b)、図12(a)、(b)に示すように、支持台20の左右の張出部20a,20a近傍には、締結部材45より若干、前側に位置してピン用孔20f,20gが形成され、当該ピン用孔20f,20gにガイドピン46,47が設けられている。これら一対のガイドピン46,47のうち、左側のガイドピン46は、規制板41のスリット41aに挿通される小径なガイド部46aと、ガイド部46aの上端部に形成された径大な抜止め部46bと、ガイド部46aの下端部に形成されたスペーサ部46cと、スペーサ部46cの下側に形成されたリベット部46dとを一体に有する。ガイドピン46は、リベット部46dが支持台20の左側のピン用孔20fに挿通されて当該リベット部46d先端をかしめることにより、ピン用孔20f周縁部に係止されている。
【0032】
右側のガイドピン47は、左側のガイドピン46と同様に、規制板42のスリット42aに挿通されるガイド部47a、抜止め部47b、スペーサ部47c、及びリベット部47dを一体に有し、支持台20の右側のピン用孔20gにてリベット部47d先端のかしめにより係止されている。もっとも、図12(a)、(b)に対比して示すように、右側のガイドピン47におけるスペーサ部47cの軸方向寸法H2´は、前記のスペーサ部46cの軸方向寸法H2よりも、規制板41の厚みのぶん大きく設定されている。
【0033】
左側の規制板41は、スリット41aの長手方向中間部に形成された幅広な挿通部41c(図8参照)にガイドピン46の抜止め部46b及びガイド部46aが挿通される。そして、規制板41は、当該スリット41aに挿通されたガイド部46aと締結部材45の螺子部45cとにより、スリット41aに沿って矢印D1方向へ略直線的に移動可能にガイドされている。一方、右側の規制板42も、スリット42aの長手方向中間に形成された幅広な挿通部42cからガイドピン47の抜止め部47b及びガイド部47aが挿通される。そして、規制板42は、当該スリット42aに挿通されたガイド部47aと締結部材45の螺子部45cとにより、スリット42aに沿って矢印D2方向へ略直線的に移動可能にガイドされている。
【0034】
この場合、左側の規制板41は、ガイドピン46のスペーサ部46cにより支持台20の上方でガイドされ、右側の規制板42は、ガイドピン47のスペーサ部47cにより規制板41の上方でガイドされている。これにより、左右の規制板41,42が上下に重なるように配置されるため、規制板41,42が移動する際、互いに干渉しないようになっている。
図9(b)、図13(a)に示すように、左側の規制板41の左端部には、規制軸43を取付けるための規制軸用孔41dが形成されている。規制軸43は、当該規制軸用孔41dと左側の第2糸駒台31の規制軸用孔部31dとに挿通され、規制軸用孔部31dの段部31eで係止される止め輪43aと規制板41の下面側で係止される止め輪43bとにより抜け止めされている。この規制軸43により、左側の第2糸駒台31の前端部が規制板41に対して揺動可能に連結されている。
【0035】
図9(b)、図13(b)に示すように、右側の規制板42の右端部には、規制軸44を取付けるための規制軸用孔42dが形成されている。規制軸44は、規制軸43と同一のもので、当該規制軸用孔42dと左側の第2糸駒台31の規制軸用孔部31d´とに挿通され、規制軸用孔部31d´の段部31e´で係止される止め輪44aと規制板42の下面側で係止される止め輪44bとにより抜け止めされている。この規制軸44により、右側の第2糸駒台31の前端部が規制板42に対して揺動可能に連結されている。
【0036】
前記規制軸用孔部31d,31d´の下端と規制板41,42との間には、波座金49a及びワッシャ49bが夫々配設されており、多針ミシンMの振動を吸収すると共に、規制板41,42に対する第2糸駒台31の相対的な揺動が円滑に行われるようになっている。
【0037】
ここで、図9(a)に示すように、左右の第1糸駒台30,30と左右の第2糸駒台31,31の高さについては、各第1糸駒台30の上面部30aと各第2糸駒台31の上面部31aとが同一高さであるように設定されている。そして、各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31は、何れも水平面内で揺動する。そして、この揺動の際、各規制板41,42におけるスリット41a,42aの内壁の一端に締結部材45の螺子部45cが夫々当接し(図14(b)参照)、当該内壁の他端にガイドピン46,47が夫々当接することで(図17(a)、(b)参照)、これら糸駒台30〜31の揺動範囲が規制され、以って分割糸駒台22,23が収納位置と使用位置との間で切換るようになっている。
【0038】
続いて、分割糸駒台22,23に載置された糸駒21a〜21jから延びる糸(上糸T1〜T10と称す)を夫々案内するための糸案内機構27について説明する。
図2、図7に示すように、糸案内機構27は、略水平方向に列をなす複数(例えば10個)の糸案内部50a〜50jを有する糸案内部材50、支持台20上で糸案内部材50を支持するように配置された一対の分割支柱51,52、これら分割支柱51,52を支持台20に取付けるためのベース部材53等からなる。
【0039】
ベース部材53は略矩形筒状をなし、その上部に扇状をなす一対のカバー部53aが形成されると共に、下端部にフランジ状の取付部53bが屈曲形成されている。ベース部材53は、取付部53bを上下に貫通する4つの螺子56が、支持台20前部の4つの雌螺子部55(図8参照)に夫々螺合することにより前記直線L1上に固定されている。
このベース部材53には、分割支柱51,52が、渡し部材61を介して糸案内部材50を支持するように配置されている。渡し部材61は、分割支柱51,52の上端部から後方に延びる形状をなしており、その後部には糸掛け部材62が螺子63a止め固定されている。図4に示すように、糸掛け部材62は、屈曲形成された複数の板材の螺子63b結合により構成されており、分割糸駒台22,23の「M」字形状(使用位置)における各糸駒棒33の略真上側に位置して糸通し穴62a〜62jを有している。また、糸掛け部材62は、前面側に補助糸通し穴62b´〜62d´,62g´〜62i´を有し、糸駒21a〜21jから上方へ延びる上糸T1〜T10を糸案内部材50側へ絡まないように案内する。
【0040】
渡し部材61の前端部には、左右方向に延びる糸案内部材50が長手方向の略中央で一対の螺子63c(図7参照)により取付け固定されている。詳しい図示は省略するが、糸案内部材50は、3つの長尺な板部材65,66,67(図3、図5、図6参照)を前後に重ねた形態で有する。各板部材65〜67は、板部材65と板部材66との間、及び板部材66と板部材67との間に、糸が屈曲した状態で通過可能なように所定の隙間を有するように配置されている。中間の板部材66は、右端部に上方へ突出する操作凸部66a(図6参照)を一体的に有し、両外側の板部材65,67に対して左右方向に移動操作可能に設けられている。
【0041】
糸案内部材50の糸案内部50a〜50jは、前側の板部材65に形成された10個の外側糸挿通穴68a〜68j(図6参照)と、後側の板部材67に形成された10個の外側糸挿通穴69a〜69j(図3参照)と、中間の板部材66に形成された10個の中側糸挿通穴(図示略)とから構成されている。これら外側糸挿通穴68a〜68j及び69a〜69jは、前後両側の板部材65及び板部材67に夫々、略等間隔で且つ互いに正面視にて対向する同じ位置に設けられている。前記中側糸挿通穴も、中間の板部材66に、外側糸挿通穴68a〜68j、69a〜69jと同様のピッチ間隔で形成されている。中間の板部材66は、操作凸部66aにて左右方向へ移動されることにより、外側糸挿通穴68a〜68j,69a〜69jに対して中側糸挿通穴の位置が左右方向へずれた使用位置と、外側糸挿通穴68a〜68j,69a〜69jに対して中側糸挿通穴の位置が略合致した糸通し位置とに切換え可能とされている。糸通し位置では、外側糸挿通穴68a〜68j、69a〜69jと中側糸挿通穴とに糸を挿入することが可能であり、この状態から、使用位置に中間の板部材66を移動させることにより、外側糸挿通穴68a〜68j、69a〜69jに対し中側糸挿通穴が左右方向にずれて上糸T1〜T10が屈曲される。
【0042】
図7に示すように、分割支柱51,52は、夫々複数(例えば2つ)に分割された支柱である。この2つの分割支柱51,52は、互いに同一構造であり、ミシン本体7の中心を通り上下方向に延びる直線L2を対称軸としてベース部材53に左右対称に配設されたものであるので、左側の分割支柱51を主として説明する。
分割支柱51は、上端部が糸案内部材50に対して揺動可能に枢支された上側支柱70と、下端部がベース部材53に対して揺動可能に枢支された下側支柱71とを有する。上側支柱70及び下側支柱71は、例えば、金属板から相互に略同じ長さの長尺形状をなし、内側(直線L2側)が開放された断面「コ」字状に形成されている。
【0043】
上側支柱70及び下側支柱71は、上側支柱70の下端部及び下側支柱71の上端部にて前後に重ねられた状態で貫通する連結ピン72により、揺動可能に連結されている。連結ピン72の外周部には、弾性部材としてのねじりコイルばね73が配置されている。ねじりコイルばね73は、一端73aが上側支柱70の側壁部70aに係止され、他端73bが下側支柱71の側壁部71aに係止されている。それゆえ、ねじりコイルばね73は、上側支柱70を図7中、矢印D3方向へ、下側支柱71を矢印D4方向へ夫々付勢すると共に、その付勢力は分割支柱51が連結ピン72の部分で急に「く」字状(後述する第2姿勢、図示略)に屈曲しないように設定されている。
【0044】
右側の分割支柱52は、前述のように分割支柱51と同一構造を有し、前記直線L2を対称軸として左右対称に配設されたものであり、上側支柱70、下側支柱71、連結ピン72及びねじりコイルばね73を備えている。これら2つの分割支柱51,52は、夫々の上端部を貫通する上側枢支ピン59,60により糸案内部材50に対して揺動可能に枢支されると共に、夫々の下端部を貫通する下側枢支ピン57,58によりベース部材53に対して揺動可能に枢支されている。これにより、分割支柱51,52は、上側支柱70,70と下側支柱71,71とが上下に略直列となって糸案内部材50を使用時の上方位置に位置させる第1姿勢(図7参照)と、上側支柱70,70と下側支柱71,71とが連結ピン72部分で屈曲して糸案内部材50を不使用時の収納位置に位置させる第2姿勢(図示略)との間で切換わるようになっている。
【0045】
詳細には、図6に示すように、一対の上側支柱70,70上端部には、左右一対の扇状部分を有する係止板部75、76が配置されている。左右の係止板部75,76は、金属板から互いに左右対称に形成されている。このうち、左側の係止板部75は、その下半部(前記扇状部分)外縁に沿う円弧状のガイド溝75aが形成されると共に、その円弧の略中心部にて上側枢支ピン59に貫通されている。右側の係止板部76も同様に、円弧状のガイド溝76aが形成されると共に、その円弧の略中心部にて上側枢支ピン60に貫通されている。これら係止板部75,76は、前記渡し部材61の前端部において糸案内部材50の後面側と分割支柱51,52の前面側に沿うように配置された状態で一対の螺子63cにより取付け固定されている。
【0046】
図2に示すように、渡し部材61前部の下側には、枢支ピン装着部61aが一体に形成されており、上側枢支ピン59,60は、前記枢支ピン装着部61a,61a、分割支柱51,52の各上端部及び係止板部75,76を夫々貫通するように設けられている。
一対の上側支柱70,70上端部には、係止板部75,76のガイド溝75a,76aに臨む部位にバーリング加工により雌螺子部(図示略)が夫々形成されている。上側支柱70,70は、ガイド溝75a,76aに夫々挿通された係止螺子75b,76bが当該雌螺子部に螺挿されることより締結固定される。
【0047】
即ち、係止板部75,76における一対の係止螺子75b,76bの締結固定により、上側支柱70,70の揺動を係止することで、分割支柱51,52を所望の姿勢に保持することができる。他方、係止螺子75b、76bを緩めることにより、上側支柱70,70に対する係止が解除され、分割支柱51,52の姿勢を変更することができる。この上側支柱70,70の揺動の際、係止螺子75b,76bがガイド溝75a,76aの内壁の両端に当接することで、上側支柱70,70の揺動範囲が規制され、以って分割支柱51,52の姿勢が前記の第1姿勢と第2姿勢との間で切換るようになっている。
図7に示すように、一対の下側支柱71,71の下端部には、前面側に位置して互いに噛合する一対のセクタギヤ77,78が夫々固定されている。下側枢支ピン57は、左側の下側支柱71下端部とセクタギヤ77とを貫通し、前記ベース部材53に対して前後に貫通するように設けられている。下側枢支ピン58は、右側の下側支柱71下端部とセクタギヤ78とを貫通し、前記ベース部材53に対して前後に貫通するように設けられている。セクタギヤ77,78は、ピッチ円直径が相等しく形成されており、左右の下側支柱71,71は、セクタギヤ77同士の噛合によって、下側枢支ピン57,58を中心として対称的に揺動する。
【0048】
図5、図6に示すように、前記糸案内部50a〜50jと前記糸導入口部13a〜13jとの間には、中間糸案内部79a〜79jを有する中間糸案内部材79が配置されている。この中間糸案内部79a〜79jは、中間糸案内部材79を上下に貫通する丸孔状(図5参照)をなし、前記糸案内部50a〜50j(或は糸導入口部13a〜13j)と同じピッチ間隔で略水平方向に列をなす。
図6に示すように、中間糸案内部材79は、針棒ケース5と共に糸導入口部13a〜13jが移動する際、中間糸案内部リンク機構80により針棒ケース5の移動に応じて移動されるようになっている。中間糸案内部リンク機構80は、糸案内部材50と中間糸案内部材79とを連結する一対の第1リンク部材81,82と、中間糸案内部材79と糸調子台12の後端部とを連結する一対の第2リンク部材83,84とを備えている。
【0049】
左側の第1リンク部材81は、上端部が糸案内部材50の左端部に枢支ピン81aにより矢印D5方向へ回動可能に枢支され、下端部が前記中間糸案内部材79の左端部に枢支ピン81bにより矢印D5方向へ回動可能に枢支されている。右側の第1リンク部材82は、上端部が糸案内部材50の右端部に枢支ピン82aにより矢印D5方向へ回動可能に枢支され、他端部が中間糸案内部材79の右端部に枢支ピン82bにより矢印D5方向へ回動可能に枢支されている。図7に示すように、第1リンク部材81,82は、相互に同じリンク長さA(換言すればリンク支点部81a,81b間の距離とリンク支点部82a,82b間の距離が同じ)に設定されている。
【0050】
一方、左側の第2リンク部材83は、下端部が針棒ケース5における糸導入口部13a近傍に設けられた支持片85に支軸85aを介して矢印D5方向へ回動可能に枢支され、上端部が前記ピン81bにより矢印D5方向へ回動可能に枢支されている。右側の第2リンク部材84は、下端部が針棒ケース5における糸導入口部13j近傍に設けられた支持片86に支軸86aを介して矢印D5方向へ回動可能に枢支され、上端部が前記ピン82bにより矢印D5方向へ回動可能に枢支されている。この第2リンク部材84のみ正面視にて略弓状に形成され、他のリンク部材81〜83は直線状に形状されているが、第2リンク部材83,84は相互に同じリンク長さB(換言すればリンク支点部85a,81b間の距離とリンク支点部86a,82b間の距離が同じ)に設定されている。
また、前記ピン81a,82a間の距離Cと、ピン81b、82b間の距離Dと、支軸85a,86a間の距離Eとは等しくなるように設定されており、上記リンク長さA,Bと相俟って、当該リンク部材81〜84と中間糸案内部材79とで平行リンク機構が構成されている。
【0051】
前記上糸T1〜T10は、糸立て装置19における糸駒21a〜21jから上方に延びて、夫々、糸案内機構27の糸通し穴62a〜62j、糸案内部50a〜50jに挿通され、中間糸案内部79a〜79jを経由して糸導入口部13a〜13jに導入されている。この糸導入口部13a〜13jに導入された糸は、補助糸案内部14a〜14j、糸調子器15a〜15j、天秤11a〜11j等を経由する所定の糸供給経路を通って縫針10a〜10jの目穴(図示略)に挿通されている。ここで、上糸T1〜T10は、糸案内部50a〜50jと中間糸案内部79a〜79jと糸導入口部13a〜13jとの間において互いに平行に延びるように案内される(図1参照)。また、針棒ケース5が糸導入口部13a〜13jと共に移動しても、中間糸案内部リンク機構80によって、中間糸案内部79a〜79jを、糸案内部50a〜50jの並び方向及び糸導入口部13a〜13jの並び方向に対して平行に移動させることができ(図6参照)、糸絡みの発生が防止される。
【0052】
上記構成の作用について説明する。図15、図16に示すように、分割糸駒台22,23は、収納位置において各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31が夫々の長手方向に略平行になり互いに隣接した状態で、締結部材45により規制板41,42を介して締結固定されている。また、この不使用時の状態において、両第1糸駒台30,30の逃し部30i,30i間に締結部材45が位置し、各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31は、何れも多針ミシンMから後方に突出せず且つ左右にはみ出さないようにコンパクトに収納されている。
【0053】
分割糸駒台22,23を図4、図8に示す使用位置に切換える場合、ユーザは、締結部材45のツマミ部45aを所定方向に回動操作することで、規制板41,42の締結固定状態を解除する。そして、第2糸駒台31,31を夫々外側に向って移動させるように操作する。この操作により、各第1糸駒台30,30が枢支軸24,25を中心に夫々揺動されると共に、各第2糸駒台31,31が連結軸36,36を中心に揺動されて、これら糸駒台30〜31が互いに隣接した収納位置から非平行状に拡開した使用位置に切換わる(図8参照)。この切換えの際、左側の第2糸駒台31の前端部は、規制軸43を介して規制板41に沿う矢印D1方向へ略直線的に移動すると共に、右側の第2糸駒台31の前端部は、規制軸44を介して規制板42に沿う矢印D2方向へ略直線的に移動するため、第2糸駒台31,31と第1糸駒台30,30とを夫々左右対称をなす位置に揺動させることができる。これにより、分割糸駒台22,23は、各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31が平面視にて「M」字状に並ぶ使用位置に容易に切換わる。
そして、ユーザは、締結部材45のツマミ部45aを前記所定方向とは逆方向に回動操作することにより、規制板41,42を支持台20に対して締結固定することで、分割糸駒台22,23を使用位置に確実に保持することができる。
また、使用位置にある分割糸駒台22,23を再び収納位置に切換える場合は、ユーザは、締結部材45のツマミ部45aを所定方向に回動操作して、規制板41,42の締結固定状態を解除した後、第2糸駒台31,31を夫々内側に向って移動させるように操作すればよい。
【0054】
以上のように本実施形態の糸立て装置19において、糸駒台は、複数に分割された分割糸駒台22,23であって、各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31が夫々の長手方向に略平行になり互いに隣接する収納位置と、この収納位置から第1糸駒台30,30が枢支軸24,25を中心に揺動されると共に第2糸駒台31,31が連結軸36,36を中心に揺動されて各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31を非平行状に拡開させた使用位置とに切換え可能に構成されている。
【0055】
このように、糸駒台を複数に分割した分割糸駒台22,23から構成することで、分割糸駒台22,23において比較的多くの糸駒21a〜21jを第1糸駒台30と第2糸駒台31とに分けて載置することができる。また、この分割により、各糸駒台30,31の長手方向(奥行方向)への大型化を抑制することができる。従って、各糸駒台の奥方(後方)に載置される糸駒であっても、交換作業を比較的容易に行うことができる。更に、第1糸駒台30の多端部と第2糸駒台31の一端部とを連結部32により揺動可能に連結したので、第1糸駒台30を第2糸駒台31に連動させることができる。このため、分割糸駒台22,23の位置を切換える際、第1糸駒台30と第2糸駒台31とを各別に把持して移動させる必要がなく、使い勝手のよいものとすることができる。しかも、上記分割糸駒台22,23を使用位置から収納位置に切換えることで、第1糸駒台30及び第2糸駒台31を夫々の長手方向に略平行に隣接させてコンパクトに収納することができる。
【0056】
支持台20に、分割糸駒台22,23の使用位置又は収納位置を保持する保持機構40を設けた。この保持機構40によって、分割糸駒台22,23を使用位置に保持することで、多針ミシンMの振動等による各糸駒台30〜31の位置ずれを防止することができる一方、分割糸駒台22,23を収納位置に保持して糸立て装置19を持ち運ぶことができ、より使い勝手を向上させることができる。
保持機構40は、支持台20に対して所定方向へ略直線的に移動可能に配置され且つ第2糸駒台31,31における連結部32側の一端部とは反対側の他端部が揺動可能に連結された規制板41,42と、支持台20に対して規制板41,42を係止解除可能に係止する締結部材45を備えている。これによれば、分割糸駒台22,23の両端部は、枢支軸24,25と保持機構40とを介して支持台20上で支持される。従って、規制板41,42を締結部材45により係止する簡単な構成で、分割糸駒台22,23について各第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31を安定した状態で保持することができる。また、分割糸駒台22,23の収納位置と使用位置との間の切換えを、規制板41,42の所定方向への略直線的な移動を通じて容易に切換えることができる。
【0057】
糸案内部50a〜50jを有する糸案内部材50と、支持台20上で糸案内部材50を支持する支柱(分割支柱51,52)とを備えた糸案内機構27を設け、2つの分割糸駒台22,23を、前記支柱を挟んで左右対称に配置した。これによれば、糸駒21a〜21jから繰り出される上糸T1〜T10は、糸案内機構27の糸案内部材50によってガイドされる。この糸案内機構27の支柱に対して2つの分割糸駒台22,23を左右対称に配置することで、より多くの糸駒21a〜21jを載置することができると共に、支持台20上で各分割糸駒台22,23を安定して支持することができる。
2つの分割糸駒台22,23は、使用位置で夫々の第1糸駒台30,30及び第2糸駒台31,31が平面視にてM字状に並ぶように構成されている。このため、使用位置では、収納位置において各糸駒台30〜31の後部に載置された糸駒21b,21c,21h,21iを手前側(ユーザ側)に近づけることができ、当該糸駒の交換をより容易に行うことができる。
【0058】
尚、本発明は上記しかつ図面に示す実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。本発明の糸立て装置は、多針ミシンMに限られず、ミシン全般にも適用できるものである。また、本発明の糸立て装置は、ミシン本体に装備されているものではなく、ミシン本体とは別体の装置であってもよい。
上記実施形態では、第1糸駒台30は3個の糸駒が夫々載置され、各第2糸駒台31は2個の糸駒が夫々載置されるように構成したが、これに限定されるものではない。即ち、第1糸駒台及び第2糸駒台は夫々複数の糸駒が水平方向に列をなすように並べて載置される構成であればよい。第2糸駒台は1個の糸駒が載置される構成でもよい。また、針棒の個数は10個以外の適宜個数に変更してもよく、糸案内部の個数等はこれに合わせれば良い。分割糸駒台は、上記実施形態における2つの分割糸駒台22,23に限定されるものではなく、第1糸駒台及び第2糸駒台が平面視にて「W」字状に並ぶように構成してもよいし、1つの分割糸駒台のみで構成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
M 多針ミシン
T1〜T10 糸
19 糸立て装置
21a〜21j 糸駒
22,23 分割糸駒台
24,25 枢支手段
27 糸案内機構
32 連結部
40 保持機構
42 規制板
45 係止手段
50 糸案内部材
50a〜50j 糸案内部
51,52 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸駒が装着可能な糸駒台と、前記糸駒台を水平面内で揺動可能に支持する枢支手段を有する支持台とを具備した糸立て装置において、
前記糸駒台は、複数に分割された分割糸駒台であって、
一端部にて前記枢支手段に揺動可能に枢支され、複数の糸駒が水平方向に列をなすように並べて載置される第1糸駒台と、
前記第1糸駒台の他端部に連なり、複数の糸駒が水平方向に列をなすように並べて載置される第2糸駒台と、
前記第1糸駒台の他端部に対して前記第2糸駒台の一端部を揺動可能に連結する連結部とを有し、
前記分割糸駒台を、前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台が夫々の長手方向に略平行になり互いに隣接する収納位置と、この収納位置から前記第1糸駒台が前記枢支手段を中心に揺動されると共に前記第2糸駒台が前記連結部を中心に揺動されて前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台を非平行状に拡開させた使用位置とに切換え可能に構成したことを特徴とする糸立て装置。
【請求項2】
前記分割糸駒台を、使用位置又は収納位置に保持する保持機構を備えることを特徴とする請求項1記載の糸立て装置。
【請求項3】
前記保持機構は、
前記支持台に対して所定方向へ略直線的に移動可能に配置され、前記第2糸駒台における前記連結部側の一端部とは反対側の他端部が揺動可能に連結された規制板と、
前記支持台に対して前記規制板を係止解除可能に係止する係止手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の糸立て装置。
【請求項4】
前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台とは別個に、もう一組の第1糸駒台及び第2糸駒台からなる分割糸駒台を備え、
前記複数の糸駒から延びる糸を当該糸駒よりも上方で夫々案内し略水平方向に列をなす複数の糸案内部を有する糸案内部材と、前記支持台上で前記糸案内部材を支持する支柱とを備えた糸案内機構を設け、
2つの前記分割糸駒台を、前記支柱を挟んで左右対称に配置したことを特徴とする請求項1から3までの何れかに記載の糸立て装置。
【請求項5】
2つの前記分割糸駒台は、使用位置で夫々の前記第1糸駒台及び前記第2糸駒台が平面視にてM字状に並ぶように構成されていることを特徴とする請求項4記載の糸立て装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れかに記載の糸立て装置を備えたことを特徴とするミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate