説明

系、例えば光学系、を計算する方法

【課題】旧来の方法では応じられなかったような、着用者の要求に応えることのできる光学系を提供する。
【解決手段】i)各々が出発値に初期設定された一組の系パラメータ(SP)を提供して、出発系(SS)を定義するステップと、ii)複数の基準(Ck)を定義するステップと、iii)各基準(Ck)に対して費用関数(CFk)を関係づけるステップと、iv)各大域費用関数(GCFp)に少なくとも一つの費用関数(CFk)を関係づけることによって、複数の大域費用関数(GCF1,…,GCFND)を定義するステップと、v)各変数パラメータベクトル(Xp)に対して少なくとも一つの系パラメータ(SP)を選択することによって、各大域費用関数(GCFp)に関係づけられた変数パラメータベクトル(Xp)を定義するステップと、vi)変数パラメータベクトル(X1,…,XND)の系パラメータ値を変更することにより、複数の大域費用関数(GCF1,…,GCFND)を最適化して、中間系(IS)を得るステップと、vii)平衡に到達するまでステップvi)を繰り返して、系(S)を得るステップと、を含んでなる最適化法で系(S)を計算する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、系、例えば光学系など、を最適化法で計算する方法に関する。この発明は、さらに、系、例えば光学系、コンピュータプログラムプロダクトおよびコンピュータ読取り可能媒体など、の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学系などの系を計算するための最適化法は、当該技術分野では公知である。しかしながら、現在は、考慮に入れる基準の数が限られており、系設計者の全ての要求に答えることができない。光学系の分野では、本件出願人のフランス特許第FR9812109号に、特に、非点収差と度数の基準によって、光学系の光学パラメータを決定する「古典的」方法の一例が記述されている。
【0003】
さらに加えて、眼科光学の分野では、公知の「古典的」方法は、通常、一組の選択された基準が、目標値に到達または近づくようにと開発されている。当該目標値は、光学系の設計者によって予め決められている。「古典的」制限事項、例えば局所の厚さなどは、最適化の過程中で、すなわち美的要素や製造上の必要条件を満たすために、考慮に入れられる。その結果、「古典的」方法では、レンズ着用者の要求を満たすことができるであろう光学系に、限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】フランス特許第FR9812109号。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】John Nash 著(1951年)「Non-cooperative games」、
【非特許文献2】Periaux et al. 著「MOO methods for Multidisciplinary Design Using Parallel Evolutionary Algorisms, Game Theory and Hierarchical Theory: Theoretical Backrround」、
【非特許文献3】VKI lectures series「Introduction to Optimization and Multidisciplinary Design」、Rhode-Saint-Genese、Belgium、
【非特許文献4】T.Basar および G.J,Olsder 著「Dynamic Non-cooperative Game Theory」、SIAM(1999年)、
【非特許文献5】COHEN G. 著「Algorithmes numeriques pour les equilibres de Nash」、
【非特許文献6】CHAPLAIS F. 著「Automatique-productique informatique industrielle」(1986年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記状況を改善して、それらの欠点を回避することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一曲面によれば、コンピュータ手段により実行される、最適化法で系(S)を計算する方法であって、
i)各々が出発値に初期設定された一組の系パラメータ(SP)を提供して、出発系(SS)を定義するステップと、
ii)複数の基準(Ck )を定義するステップと、
iii)各基準(Ck )に対して費用関数(CFk )を関係づけるステップと、
iv)各大域費用関数(GCFp )に少なくとも一つの費用関数(CFk )を関係づけることによって、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)を定義するステップと、
v)各変数パラメータベクトル(Xp )に対して少なくとも一つの系パラメータ(SP)を選択することによって、各大域費用関数(GCFp )に関係づけられた変数パラメータベクトル(Xp )を定義するステップと、
vi)変数パラメータベクトル(X1 ,…,XND)の系パラメータ値を変更することにより、複数の大域費用関数(GCF1,…,GCFND)を最適化して、中間系(IS)を得るステップと、
vii)平衡に到達するまでステップvi)を繰り返して、系(S)を得るステップと、
を含んでなる方法が提供される。
【0008】
系パラメータとは、最適化されるべき系を定義して当該系を製造できるようにする情報を得るのに適切なパラメータである。
【0009】
前記平衡としては、例えば、ナッシュ(Nash)平衡、シュタッケルベルク(Stackelberg)平衡またはその他の公知の平衡がある。ナッシュ平衡は、例えば、John Nash 著(1951年)の「Non-cooperative games」および Periaux et al. 著の「MOO methods for Multidisciplinary Design Using Parallel Evolutionary Algorisms, Game Theory and Hierarchical Theory: Theoretical Backrround」、VKI lectures series の「Introduction to Optimization and Multidisciplinary Design」, Rhode-Saint-Genese, Belgium に記述されている 。シュタッケルベルク平衡は、例えば、T.Basar および G.J,Olsder 著の「Dynamic Non-cooperative Game Theory」, SIAM(1999年)に記述されている。
【0010】
この発明の意味では、「最適化すること」とは、好ましくは、実関数を「最小化すること」と解されたい。もちろん、当業者は、この発明が最小化それ自体に限定されるのではないことを理解するであろう。最適化することは、実関数を最大化することでもあり得る。すなわち、実関数を「最大化すること」は、それの正反対(opposite)を「最小化すること」と同等である。
【0011】
この発明のお陰で、複雑な最適化問題を、より簡単に解けるいくつかのより小さい最適化問題に分離することによって、系を有利に最適化することができる。最適化は、基準間のより少ない妥協でもって行うことができる。
【0012】
さらに、この発明による方法を実行することによって、最適化問題を簡略化しながら、より多数の基準を考慮に入れることができる。
【0013】
この発明による方法の別の利点によれば、費用関数において考慮に入れられるいくつかの基準を、目標ありまたは目標なしで定義することができる。したがって、各基準は、より効率的に最適化することができる。その結果、この発明による最適化法は、複雑さが低く、消費時間が短く、かつ融通性が高い。
【0014】
この発明の一実施形態によれば、ステップvi)の中で、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)の最適化が、多基準法を使って実行される。
【0015】
多基準法の一例は、例えば、COHEN G. の「Algorithmes numeriques pour les equilibres de Nash」、CHAPLAIS F. の「Automatique-productique informatique industrielle」(1986年)に記述されている。多基準法を使うことによって、平衡に到達するまで、一組の大域費用関数を同時に最適化することができる。
【0016】
この発明の別の実施形態によれば、ステップvi)の中で、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)の最適化が、多目的法を使って実行される。
【0017】
多目的最適化法は、複数の制約条件を満たし複数の目的関数を表す要素からなるベクトル関数を最適化する決定変数のベクトルを見つける問題である。複数の目的関数は、通常互いに相いれない性能基準の数学的記述を形成している。したがって、用語「最適化する」は、設計者が許容できる全ての目的関数の値を与えるであろう解を見つけることを意味する(Coello, 2000)。
【0018】
この発明の一実施形態によれば、ステップv)の中で、当該少なくとも一つの系パラメ
ータは、ただ一つの変数パラメータベクトル(Xp )に対して選択される。
【0019】
この発明の一実施形態によれば、
系(S)は、光学系(OS)であり、
系パラメータ(SP)は、光学系パラメータ(OSP)であり、
出発系(SS)は、出発光学系(SOS)であって、各光学系パラメータが出発値に初期設定されている。
【0020】
最適化法は、光学設計者が多数の基準を考慮に入れなければならないとき、より一層複雑なプロセスである。この発明によれば、複数の大域費用関数を定義することができる。各大域費用関数は、同じタイプの基準を有利に集めることができる。その基準は、例えば、幾何学タイプまたは光学タイプの基準であることができる。したがって、最適化法は、より簡単に解が得られるいくつかのより小さい最適化問題に分離することができる。各大域費用関数に対して、少なくとも一つの光学系パラメータを選択することによって、一つの変数パラメータベクトルを定義することができる。最適化のプロセスの中では、それら選択された光学系パラメータのみが、変化することができる。その結果、各種の大域費用関数は、個々にしかし全部が最適化されて、平衡に到達する。
【0021】
先に述べたように、この発明によれば、目標の使用を避けることができる。実際に、古典的な基準とは異なるいくつかの基準については、目標を利用すると効率が低下する。この方法で行くと、光学設計者が、例えば光学系の倍率を最適化したいときに、可能性のある解の数を制限してしまう。また、目標値を決定することに時間が掛かる。
【0022】
この発明の一実施形態によれば、最適化法によってこの発明の光学系を計算する方法は、例えば、しかし限定されないが、着用時前傾角、ラップ角(wrap angle)、レンズ眼球間距離などの着用者データを有利に考慮に入れることができる。
【0023】
系(S)が光学系(OS)である一実施形態では、出発光学系(SOS)は、第一と第二の光学表面を有し、そしてステップv)の中で、第一と第二の変数パラメータベクトル
(X1 ,X2 )が定義され、第一変数パラメータベクトル(X1 )は、第一光学表面に関連する光学系パラメータを含み、第二変数パラメータベクトル(X2 )は、第二光学表面に関連する光学系パラメータを含んでいる。
【0024】
組み合わせることのできるこの発明の諸実施形態によれば、
・中心視における度数、中心視における非点収差、中心視における高次収差、中心視における明瞭度、周辺視における度数、周辺視における非点収差、周辺視における高次収差からなるリストの中で選択された光学基準(Ck )または前記基準の変形に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義され、
・中心視におけるプリズム的偏倚、眼球偏倚、中心視における物体視野、中心視における像視野、中心視における倍率、瞳孔視野光線偏倚、周辺視における物体視野、周辺視における像視野、周辺視におけるプリズム的偏倚、周辺視における倍率、眼球の倍率、こめかみのシフトからなるリストの中で選択された光学基準(Ck )または前記基準の変形に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義され、
・幾何学的基準(Ck )に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義される。
【0025】
この発明の一実施形態によれば、ステップvi)およびステップvii)の中で、複数の大域費用関数(GCFp )の各々が、平衡に到達するまで最適化される。
【0026】
この発明は、また、系を製造する方法に関し、その方法は、
最適化法によって系(S)を計算するステップと、
その計算された系を製造するステップと、
を含んでなる方法である。
【0027】
前段落の実施形態によれば、製造される系(S)が光学系(OS)であって、その製造方法は、
最適化法によって前記光学系(OS)を計算するステップと、
その計算された光学系を製造するステップと、
を含んでなる方法である。
【0028】
この発明は、また、コンピュータプログラムプロダクトに関し、それは、プロセッサにアクセス可能であって、そのプロセッサによって実行されたとき、プロセッサに上記の実施形態のステップを実行させる命令の一つ以上の記憶されたシ−ケンスを含むコンピュータプログラムプロダクトである。
【0029】
この発明は、また、前段落の実施形態のコンピュータプログラムプロダクトの命令の一つ以上のシーケンスを記録してなるコンピュータ読取り可能媒体に関する。
【0030】
特に別意に断らない限り、以下の説明から明らかなように、この明細書全体を通して、例えば、「演算」(computing)、「計算」(calculating)、「生成」(generating)などの用語を利用しての説明は、演算システムのレジスタおよび/またはメモリ内に電子的などの物理量として表されているデータを処理しおよび/または変換して、演算システムのメモリ、レジスタまたはそのような他の記憶装置、伝送装置または表示装置内の物理量として同様に表されている別のデータにする、コンピュータまたは演算システムまたは類似の電子演算装置の動作および/またはプロセスのことを意味する。
【0031】
この発明の諸実施形態は、中で演算を実行する諸装置を含んでいてもよい。その装置は、所望の目的を達成するように特用途向けに構築されてもよいし、または、汎用コンピュータまたはデジタル信号処理装置(「DSP」)で構築して、コンピュータ内に記憶されているコンピュータプログラムによって選択的に駆動または再構成されるのでもよい。そのようなコンピュータプログラムは、コンピュータ読取り可能記憶媒体に記憶させることができ、その記憶媒体としては、限定されないが、フロッピーディスク、光ディスク、CD−ROM、磁気光ディスク、読取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、電気的にプログラム可能な読取り専用メモリ(EPROM)、電気的に消去可能でプログラム可能な読取り専用メモリ(EEPROM)、磁気カードもしくは光カードを含む任意の型のディスク、または電子的命令を記憶するのに適切でかつコンピュータシステムバスに連結できる任意の他の型の媒体がある。
【0032】
この明細書で提示される諸プロセスおよび諸ディスプレイは、特定のコンピュータその他の装置にもともと関連したものではない。各種の汎用システムが、この明細書の教示に従って、プログラムでもって使用することができ、または所望の方法を実行するためにより特化された装置を構築することは一層好都合であろう。各種のこれらシステムのための所望の構造は、以下の説明から分かるであろう。そのうえ、この発明の諸実施形態は、いかなる特定のプログラム言語にも関連させて記述してはいない。この明細書に記載されているこの発明の教示を実施するために、各種のプログラム言語を使用することができることが、分かるであろう。
【0033】
この発明の枠組みの中では、その光学系は、例えば、しかし限定されないが、第一表面と第二表面を有する眼科レンズであることができる。その第一表面および/または第二表面は、累進追加表面(progressive addition surface)、球面、非球面、トーリック面または非トーリック面であることができる。
【0034】
この発明の範囲の中では、前述の用語は、以下の諸定義に従って理解される。
【0035】
「光学系」(OS)は、その全ての表面によって定義され、主として前記表面を表す式の係数、ガラスの屈折率および各表面の互いの相対的位置(オフセット、回転および傾き)によって定義される。これらの要素は、その光学系(OS)の光学系パラメータ(OSP)と呼称される。光学系の表面は、通常、Bスプライン(B-splines)またはゼルニケの多項式(Zernike's polynomials)に基づいたモデルを使って得られる多項式または助変数方程式によって表される。これらのモデルは、レンズ上の全体に連続曲率を与える。表面は、フレネル面またはピクセル化面でもよい。一つの表面が、いくつかの表面の関数であることができる(例えば、その関数は、重み付け合計であることができる)。材料の屈折率は、不均一であることができるし、その光学系(OS)のいくつかのパラメータに依存していてもよい。
【0036】
「光学基準」は、着用者および/または着用者を観察する者の視覚性能に影響を与える基準と定義される。光学基準は、以下の3グループに分類される。すなわち、
1)中心視光学基準(CVOC)グループ:
中心視における度数、中心視における非点収差、中心視における高次収差、中心視における明瞭度、中心視におけるプリズム的偏倚、眼球偏倚、中心視における物体視野、中心視における像視野、中心視における倍率、またはそれら基準の変形、
2)周辺視光学基準(PVOC)グループ:
周辺視における度数、周辺視における非点収差、周辺視における高次収差、瞳孔視野の光線偏倚、周辺視における物体視野、周辺視における像視野、周辺視におけるプリズム的偏倚、周辺視における倍率、またはそれら基準の変形、
3)大域光学基準(GOC)グループ:
眼球の倍率、こめかみのシフト(temple shift)。
【0037】
この発明の範囲の中では、「幾何学的基準」は、光学系(OS)の物理特性に影響を与える基準を意味する。幾何学的基準には、例えば、限定されないが、局所幾何学的基準である厚さおよび大域幾何学的基準である体積が含まれる。
【0038】
この発明では、「局所基準」とは、その基準が少なくとも注視方向または周辺の光線方向で定義される評価ドメイン上で評価されることを意味するものとする。とりわけ、上記の中心視光学基準(CVOC)および周辺視光学基準(PVOC)は、局所基準である。
【0039】
この発明では、「大域基準」は、その基準が光学系(OS)を全体として考慮に入れて評価されることを意味するものとする。
【0040】
この発明の範囲の中では、その他の前述の用語は、以下の諸定義に従って理解される。
【0041】
「中心視」(「中心窩視」とも称する)は、中心窩すなわち錐体が豊富に集まっている網膜の中心部の小領域の働きを記述する。中心視の状況では、観察者は、注視方向に静止している物体を見ており、観察者の中心窩が移動して物体を追跡する。中心視によって、ヒトは、読取り、運転し、繊細で鋭敏な視覚を必要とする他の活動を行うことができる。
【0042】
「注視方向」は、眼球の回転中心を通る2本の基準軸に関して測定される2つの角度で定義される。
【0043】
「周辺視」は、視直線から外れたところで物体および動きを見る能力を記述する。周辺視の状況では、観察者は、固定した注視方向を見ていて、この視直線から外れたところに物体が見えている。この場合、物体から眼に到来する光の方向は、注視方向とは異なり、周辺光方向と呼称される。周辺視は、主として、桿体すなわち網膜の中心窩の外側に位置する光受容細胞の働きである。
【0044】
「周辺光方向」は、眼球の入射瞳を通り注視方向軸に沿って移動する2本の基準軸に関して測定される2つの角度で定義される。
【0045】
「中心視における度数基準」は、着用者に処方された度数が考慮に入れられることを意味する。最適化の過程中では、各注視方向について度数誤差を最小にするために、光学系の諸パラメータが計算される。
【0046】
「中心視における非点収差」は、最適化の過程中で、CRE(眼球中心)に関係づけられた基準軸においておよび各注視方向について、振幅および軸の両方に関して、着用者に処方された非点収差と中間の光学系で生成された非点収差との差(この差は、残留非点収差と呼称される)を最小にするために、光学系のパラメータが計算される、ということを意味する。
【0047】
「中心視における高次収差」は、通常の残留度数および残留非点収差に加えて、着用者が中心視で観察する物体の像のボケを変化させる収差、例えば、球面収差およびコマ収差を記述する。これら収差の次数は、一般に、ゼルニケの多項式で表される次数である。
【0048】
「周辺度数」は、着用者が周辺視で物体を観察するときに、光学系で生成される度数と定義される。
【0049】
「周辺非点収差」は、振幅とおよび軸の両方に関して、光学系で生成される非点収差と定義される。
【0050】
「眼球偏倚」は、中心視において定義され、レンズを加えたことによって、同じ物体上に焦点を合わせた状態に維持するために眼球が回転することを記述する。その角度は、プリズムのディオプターで測定できる。
【0051】
「中心視における物体視野」は、少なくとも2つの注視方向で決まるレンズの角度部分を走査して、眼が観察できる空間部分によって、物体空間中に定義される。例えば、それら2つの注視方向は、眼鏡フレームの形によって、または十分良好な鮮鋭度で物体空間を可視化することを阻害する収差のレベルによって定義することができる。
【0052】
「像空間内での中心視における像視野」は、物体空間(眼球空間)内での中心視における決定され固定された物体視野について、物体空間内で視野を可視化するため眼によって走査される角度部分と定義される。
【0053】
「周辺視における高次収差」は、通常の残留周辺度数および残留周辺非点収差に加えて、着用者が周辺視で観察する物体の像のボケを変化させる収差、例えば、周辺球面収差および周辺コマ収差を記述する。これら収差の次数は、一般に、ゼルニケの多項式で表される次数である。
【0054】
「瞳孔視野の光線偏倚」は、周辺視野内に位置する物体から来る光線が、眼球の入射瞳への光線経路上にレンズを加えたことによって、変化させられることを記述する。
【0055】
「周辺視における物体視野」は、物体空間内に定義される。この視野は、眼の入射瞳の中心から発する少なくとも2つの光線によって定義される周辺視野内に、眼が(固定方向を見ている間に)観察できる空間の部分である。例えば、これらの光線は、眼鏡フレームの形状によってまたは良好で十分な鮮鋭度で物体空間を可視化することを阻害する収差のレベルによって定義することができる。
【0056】
「周辺視における像視野」は、決定され固定された周辺物体視野について、眼の周辺視によって見られる像空間内の対応する角度部分と定義される。
【0057】
「中心視におけるプリズム的偏倚」は、眼球の回転中心から発する光線の、レンズのプリズムの量によってもたらされる角度偏倚によって物体空間内に定義される。
【0058】
「周辺視におけるプリズム的偏倚」は、レンズのプリズムの量によって生じる、入射瞳の中心から発する光の、レンズのプリズムの量によってもたらされる角度偏倚である。
【0059】
「中心視/周辺視の倍率」は、レンズ無しで中心視/周辺視において見られる物体の見掛けの角度の大きさ(または立体角)と中心視/周辺視においてレンズを通して見られる物体の見掛けの角度の大きさ(または立体角)との間の比と定義される。
【0060】
「眼球の倍率」は、観察者によって査定される着用者の眼球の倍率と定義される。
【0061】
「こめかみのシフト」は、観察者によって査定される着用者のこめかみのオフセットと定義される。
【0062】
「レンズ体積」は、レンズの体積である。これは、レンズの離散化(discretization)を通して、例えば、台形法(trapezium method)または長方形法(rectangle method)によって査定することができる。
【0063】
「評価領域」は、評価されるべき局所基準と関係づけられる。これは、1つまたはいくつかの評価ドメインで構成される。1つの評価ドメインは、中心視光学基準(CVOC)グループまたは幾何学的局所基準グループに属する1つの基準に対する1つまたはいくつかの注視方向、および周辺視光学基準(PVOC)グループに属する1つの基準に対する1つまたはいくつかの周辺光方向で構成されている。
【0064】
「目標値」(target value)は、基準によって到達されるべき値である。選択された基準が局所基準であるとき、目標値は、評価ドメインに関係づけられる。選択された基準が大域基準であるとき、目標値は光学系(OS)全体に関係づけられる。
【0065】
「停止基準」は、最適化アルゴリズムを停止するための繰返し回数を見つけるのに使われる。そのとき、その系は「平衡」に到達したという。
【0066】
「費用関数」は、大域費用関数(GCF)の計算に使われる実関数である。
【0067】
「大域費用関数(GCF)」は、少なくとも一つの費用関数の関数と定義され、中間光学系(IOS)の性能のレベルを提供する。
【0068】
「原理」は、それについて同じ変数パラメータベクトルが複数定義される一組の基準である。
【0069】
「平衡」は、対象の系が、一定の方法でそれ以上最適化できない状態である。平衡の例としては、ナッシュ(Nash)平衡とシュタッケルベルク(Stackelberg)平衡がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】この発明の実施形態によって光学系(OS)を計算する方法の諸ステップの線図的表現を示す。
【図1b】この発明の実施形態によって光学系(OS)を計算する方法の諸ステップの線図的表現を示す。
【図2】レンズ+眼球の系の模式図を示す。
【図3】眼球の回転中心からの光線追跡を示す。
【図4】眼球の入射瞳の中心からの光線追跡を示す。
【図5】周辺視におけるプリズム的偏倚を示す。
【図6】眼球偏倚を示す。
【図7】瞳の光線視野偏倚を示す。
【図8】中心視における物体視野を示す。
【図9】水平物体視野を示す。
【図10】中心視における、水平方向のプリズム的偏倚を示す。
【図11】全物体視野を示す。
【図12】中心視における像視野を示す。
【図13】周辺視における物体視野を示す。
【図14】周辺視における像視野を示す。
【図15】眼球の倍率を示す。
【図16a】こめかみのシフトを示す。
【図16b】こめかみのシフトを示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
当業者は、図中の各要素が簡潔のためおよび明瞭のために図解されているのであって、必ずしも定尺で画かれているのでないことを理解するであろう。例えば、図中のある要素の寸法は、この発明の実施形態の理解をより一層助けるために、他の要素に対して相対的に拡大されている場合もある。異なる図中における同じ参照符号は、同じ物を指す。
【0072】
図1aを参照しながら、この発明の、最適化法によって光学系(OS)を計算する方法を以下に説明する。
【0073】
この方法は、提供するステップiを含んでおり、その中で一組の光学系パラメータ(OSP)を提供して、出発光学系(SOS)を定義する。各光学系パラメータ(OSP)は、出発値に初期設定される。
【0074】
この方法は、さらに、基準を定義するステップiiを含んでおり、その中で、複数の基準(C1 ,…,Cm )が定義される。次いで、基準を関係づけるステップiiiにおいて、少なくとも一つの費用関数(CFk )が各基準(Ck )に対して関係づけられる。このようにして、一組の基準(C1 ,…,Cm )がm個あるとすれば、m個の費用関数(CF1 ,…,CFm )が関係づけられる。
【0075】
この方法は、さらに、大域費用関数を定義するステップivを含んでおり、その中で、各大域費用関数(GCFp )に少なくとも一つの費用関数(CFk )を関係づけることによって、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)が定義される。各大域費用関数(GCPp )は、特定の原理(Δp)に関係づけられている。換言すれば、m個の費用関数(CF1 ,…,CFm )は、ND個の原理(Δ1 ,…,ΔND)にグループ分けされる。各原理Δp について、関係づけられた特定の大域費用関数(GCFp )は、[数1]を満足するようにnp 個の費用関数を含んでいる。
【0076】
【数1】

【0077】
特定の原理(Δp )に関係づけられた各大域費用関数(GCPp )は、np 個の費用関数(CFk )の実関数に等しい。この実関数は、どのような関数でもよいが、例えば、限定されないが、下記の関数のいずれでもよい。
【0078】
1)平均関数、例えば[数2]
【0079】
【数2】

【0080】
または、
2)最小関数、または
3)最大関数、または
4)L2 ノルム関数。
【0081】
当業者に知られている他のいかなる関数でも使うことができる。
【0082】
この方法は、さらに、変数パラメータベクトルを定義するステップvを含んでおり、その中で、各変数パラメータベクトル(Xp )に対して少なくとも一つの光学系パラメータ(OSP)を選択することによって、各大域費用関数(GCFp )について一つの変数パラメータベクトル(Xp )が定義される。したがって、後に説明するように、変数パラメータベクトル(Xp )は、最適化ステップの間に変化できる光学系パラメータ(OSP)を含んでいる。
【0083】
この方法は、さらに、最適化ステップを含んでおり、その中で、変数パラメータベクトル(X1 ,…,XND)の光学系パラメータ(OSP)の値を変更することによって、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)が最適化されて、中間光学系(IOS)を得る。換言すれば、この最適化ステップは、[数3]のND最適化問題を解くことにある。
【0084】
【数3】

【0085】
この最適化ステップは、次いで平衡に到達するまで繰り返されて、最終的に光学系(OS)を得る。
【0086】
この最適化ステップは、例えば、多基準法を使って行うことができる。
【0087】
限定しない代替の実施形態では、図1bに示すように、各最適化ステップの中で、各大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)を、例えば、それぞれ最適化して、各最適化ステップの後に新しい中間光学系(IOS1、IOS2、IOS3、…)を得ることができる。換言すれば 、各最適化ステップの中で、一度にはただ一つの大域費用関数(GCFp )が最小化される。これら最適化ステップは、次いで平衡に到達するまで繰り返されて、最終的に光学系(OS)を得る。
【0088】
この発明をもっとよく具体的に詳解するために、−6ディオプターの単焦点レンズ(近視のヒト用)である光学系を最適化によって計算する方法を、以下に説明する。
【0089】
この実施例では、光学設計者は、中心視における倍率の変動(標準偏差で示す)を最小化することによって、および中心視における度数と非点収差の基準に対応する光学費用関数を、注視方向の70°の角度円錐全体に相当する評価ドメインにわたって最小化することによって、レンズを最適化することを目的としている。
【0090】
2つの原理、すなわち第一原理と第二原理を定義する。
【0091】
第一原理は、中心視における基準度数C1 と基準非点収差C2 の両者を一緒に集める。この原理に関係づけられた大域費用関数は、GCF1 である。
【0092】
目標値が、両基準C1 とC2 について評価ドメインDj に関係づけられる。Tj1が、C1 について評価ドメインに関係づけられた目標値を指す。Tj1は、各注視方向Dj について−6ディオプターに等しい。Tj2が、C2 について評価ドメインに関係づけられた目標値を指す。Tj2は、各注視方向Dj についてゼロに等しい。
【0093】
各注視方向Dj について、度数の残余ΔPj と非点収差の残余ΔAj を[数4]と[数5]で計算する。
【0094】
【数4】

【0095】
【数5】

【0096】
1 は、各注視方向Dj に、光学系パラメータ(OSP)を考慮して、中心視における度数値を関係づける評価関数である。
【0097】
2 は、各注視方向Dj に、光学系パラメータ(OSP)を考慮して、中心視における非点収差値を関係づける評価関数である。
【0098】
1 に関係づけられた費用関数CF1 は、[数6]で定義される。
【0099】
【数6】

【0100】
2 に関係づけられた費用関数CF2 は、[数7]で定義される。
【0101】
【数7】

【0102】
第一原理に関係づけられた大域費用関数GCF1 は、[数8]で表される。
【0103】
【数8】

【0104】
第二原理は、中心視における倍率C3 の標準偏差で表される。この原理に関係づけられた大域費用関数は、[数9]で表されるGCF2 である。
【0105】
【数9】

【0106】
上記式[数9]において、H3 は、各注視方向Dj に、光学系パラメータ(OSP)を考慮して、中心視における倍率値を関係づける評価関数である。
【0107】
光学系の裏面を表す光学系パラメータは、全て変数と考えられ、GCF1 に関係づけられる。X1 は、当該変数パラメータのベクトルを表す。
【0108】
光学系の前面を表す光学系パラメータは、全て変数と考えられ、GCF2 に関係づけられる。X2 は、当該変数パラメータのベクトルを表す。
【0109】
ナッシュ平衡に到達するまで、GCF1(X1)とGCF2(X2)は、図1bに示すように、それぞれ最適化される。
【0110】
平衡に達すると、当該大域費用関数は、両者ともに最小化されて、[数10]および[数11]となる。
【0111】
【数10】

【0112】
【数11】

【0113】
比較してみると、非点収差及び度数の基準だけが最適化されそして一方の表面だけが変化している標準最適化法により得られる伝統的なレンズは、最終の光学大域費用関数が65.01に等しくなる。このとき、中心視における倍率の標準偏差は、0.021に等しい。
【0114】
この実施例は、発明の方法の利点の一つをよく説明している。というのは、異なるタイプの基準がうまく最適化されているからである。実際に、度数や非点収差の基準に加えて倍率の標準偏差が最適化される。さらに、複数の基準を異なる原理に集めることにより、大きさが桁違いに異なる基準をうまく扱うことができ、かつ各原理について光学系パラメータの中の異なる変数を定義することができる。
【0115】
図2は、レンズ+眼球の系の模式図を示す。図2を参照し、眼球の回転中心CREと入射瞳中心点Pによって、眼球の位置(姿勢を含む)を定義できる。PSは、瞳の大きさである(定尺で画いてない)。CREとレンズ20の間の距離q’は、限定されないが、一般に25.5mmに設定され、そしてp’は、CREに対する眼球の入射瞳の位置を定義している。
【0116】
図3は、中心視の状況における基準を光線追跡で評価するための中心視についてのモデルを示す。中心視の状況では、眼球は、眼球の回転中心の回りを回転し、眼球の入射瞳も同様である。注視方向が、CREで交わる基準座標軸R=(X,Y,Z)に対して測定した2つの角度(α,β)で定義される。注視方向(α,β)における中心視の基準を評価するため、CREから注視方向(α,β)に注視光線1を引く。11は、レンズ20を通った後の入射光線である。
【0117】
図4は、周辺視の状況における基準を光線追跡で評価するための周辺視についてのモデルを示す。周辺視の状況では、注視方向(α,β)(図4には記入されていない)を固定して、注視方向とは異なる周辺光線の方向に物体が見える。固定方向(α,β)で与えられ図4に軸X’で表される注視方向軸に沿って移動し眼球の入射瞳で交わる基準座標軸R’=(X’,Y’,Z’)に対して測定した2つの角度(α’,β’)によって、周辺光線の方向が、定義される。周辺光線の方向(α’,β’)における周辺視基準を評価するため、瞳孔Pの中心から周辺光線方向(α’,β’)に周辺光線2を引く。22は、レンズ20を通った後の入射光線である。
【0118】
注視光線1(中心視における)または周辺光線2(周辺視における)に従って、光線追跡ソフトウェアは、図3の参照番号11および図4の参照番号22として、対応する入射光線を計算する。次いで、その光線上に物体空間内で物体の点を選定し、その物体から光束を引いて、最終の像が計算される。光線追跡を行えば、次いで、当該選択された基準を計算することができる。
【0119】
図5〜13は、この発明による基準の評価方法を示す。
【0120】
図5は、周辺視におけるプリズム的偏倚PDを見積もるための光線追跡を示す。先に説明したように、注視方向軸に沿って移動し眼球の入射瞳で交わる基準座標軸に関して与えられる周辺光線方向(α’,β’)に関係づけられた周辺光線を光線追跡することによって、周辺視におけるプリズム的偏倚が見積もられる。注視方向軸X’に対して、周辺光線の方向(α’,β’)に入射瞳の中心から発する光線2を追跡する。次いで、光線2に対応する入射光線22を引く。プリズム的偏倚は、入射光線22と、瞳孔の中心から光線2の方向に発されしかしレンズ20のプリズムによって偏倚されない仮想光線3との間の角度を表す。
【0121】
図6は、眼球偏倚OCDを記載している。この図は、CREに至る光線の経路中にレンズが置かれていないときに物体10から来る第一の光線33、およびレンズ20が加わったことによって光線の経路が変更されたときに同じ物体から来る第二の光線120を示す。光線12は、レンズ20を通った後の、像空間における光線120に相当する。方向(α,β)における眼球偏倚OCDは、中心視において見積もられ、次の2つの方向の間の角度と定義される。
【0122】
・レンズ無しで物体を狙っている眼球の方向(光線33で表される)、と
・当該レンズが観察者の眼球の前に置かれているときに、同じ物体を狙っている眼球の方向(光線12で表される)。
【0123】
図7は、瞳孔光線視野偏倚PRFDを示し、眼球の入射瞳に至る光線経路内にレンズが置かれていないときに周辺視野に位置する物体10からくる第一の光線34、およびレンズ20の導入で光線経路が変更されたときに同じ物体からくる第二の入射光線230を示す。光線23は、像領域において入射光線230に対応する。
【0124】
瞳孔視野光線偏倚PRFDは、周辺視において見積もられ、像空間において測定された次の2つの光線の間の角度と定義される。
【0125】
・眼の周辺視野内に位置する物体から来て瞳孔の中心に入るまっすぐな光線34、と
・レンズが着用者の眼球の前に着用されているときに、同じ物体から来て瞳孔の中心に入る光線23。
【0126】
図8は、1つの平面内で中心視における物体視野を示し、CREから発する任意に選択された2つの光線4と5について図解する。物体視野は、物体空間内で光線4と5によって定まるレンズの角度部分を走査して、眼が観察できる空間部分を表す。ハッチを施した部分60は、中心視における物体視野を表す。
【0127】
図9は、CREから発する2つの光線41と51について、中心視における視野VFの一例を示す。レンズ20は、等非点収差線201〜206を有する面として表されている。光線41と51は、方向αよって与えられた前もって定められた水平軸と、2つの前もって定められた等非点収差線201と204の間の交点と定義される。これらの交点によって、光線41を方向(α,β1)に沿って追跡することができ、かつ光線51を方向(α,β2)に沿って追跡できる。中心視における物体視野VFは、プリズム的偏倚の関数であり、2つの光線について、数学的に[数12]で表すことができる。
【0128】
【数12】

【0129】
Dp_H(α,β1)は、注視方向(α,β1)における水平方向プリズム的偏倚を表す。水平方向プリズム的偏倚は、図8にPで表されている水平面内でのプリズム的偏倚の成分である。
【0130】
Dp_H(α,β2)は、注視方向(α,β2)における水平方向プリズム的偏倚を表す。
【0131】
図10は、中心視における水平方向プリズム的偏倚HPDを示す。プリズム的偏倚は、光線130と光線35の間の角度差として定義される。光線130は、物体空間内での光線13の像である。光線13は、図10に表されるように、眼球の回転中心で交わる固定基準座標軸(X,Y,Z)において眼球の回転中心から方向(α,β)に従って発している。光線35は、眼の回転中心から方向(α,β)に従って発し、レンズのプリズムによって偏倚されない仮想の光線である。水平方向プリズム的偏倚HPDは、平面(XOZ)内でのプリズム的偏倚の成分であり、[数13]によって計算できる。
【0132】
【数13】

【0133】
また、Vini とVfin は、それぞれ光線13と130の方向ベクトルである。
【0134】
図11は、眼鏡フレームの形状210を表す、一組の注視方向によって定義される中心視における物体視野の別の実施形態を示す。レンズ20は、等非点収差線201〜208を有する面として表されている。Piを、前記注視方向(αi,βi)の各々について、
・注視方向(αi,βi)によって定義されるベクトル、
・注視方向(0,0)によって定義されるベクトル、
・眼球の回転中心
を含む平面Piを定義する。
(α,β)=(0,0)によって与えられる注視方向についてPi上に投影されたプリズム的偏倚:Dp_i(0,0)を計算する。
(αi,βi)によって与えられる注視方向についてPi上に投影されたプリズム的偏倚
:Dp_i(αi,βi)を計算する。
【0135】
この視野を全物体視野と命名し、[数14]として数学的に表すことができる。
【0136】
【数14】

【0137】
[数14]において、Dp_i(αi,βi)は、平面Pi上に投影された注視方向(
αi,βi)のプリズム的偏倚を表す。
【0138】
図12は、中心視における像視野を示し、光線4と5が中心視における物体視野を定義するために使われ、そして斑点部分70は、ハッチングを施した部分60で表される中心視における物体視野を考えた場合の、中心視における像視野を表す。
【0139】
図13は、一平面内での、眼球の入射瞳Pから発する任意に選択された2つの光線6と7についての周辺視における物体視野を示す。ハッチングを施した部分80は、周辺視における物体視野を表す。
【0140】
図14は、周辺視における像視野を示し、光線6と7が周辺視における物体視野80を定義するために使われ、そして斑点部分90は、ハッチングを施した部分80で表される周辺視における物体視野を考えた場合の、周辺視における像視野を表す。
【0141】
図15は、着用者の眼球の倍率を示す。ΩおよびΩ’は、それぞれ、観察者が着用者の眼球をレンズ20有りおよび無しで見た場合の立体角を表す。観察者は、眼球が21で表されている着用者から距離dの所に位置し、観察者の入射瞳の中心がOPで表され、着用者の眼球21とレンズ20の間の頂点距離がq’で表されている。例えば、距離dは、1mに等しくなどすることができる。
【0142】
図16aと16bは、こめかみのシフトTSを示す。こめかみのシフトは、着用者が観察者に見られているときに、レンズ20によって誘発される、プリズム的偏倚に起因する。OPは、着用者の頭部25を見ている観察者の瞳孔の中心点である。その着用者の眼球は、21で表され、着用者の鼻は、27で表され、着用者のこめかみは、26で表されている。着用者は、眼鏡レンズを着用している。こめかみのシフトは、観察者がレンズを着用していない着用者のこめかみを見ているときにこめかみ26から出た光線100と、観察者がレンズ20を通して着用者のこめかみを見ているときにこめかみ26から出た光101との間の角度TSと定義される。例えば、着用者と観察者の距離は、1mに等しいことができる。
【0143】
ここで、この発明をよりよく具体的に詳解するため、費用関数の非限定実施形態を記述する。
【0144】
費用関数の実施形態は、まず、局所基準Ck について記述し、次いで、大域基準Ck について記述する。
【0145】
局所基準Ck については、以下のステップが実行される。
【0146】
基準Ck に関係づけられた評価領域Dk を定義する。その評価領域は、一つまたはいくつかの評価ドメイン Dikを含み(i∈[1…Mk ]、1以上の整数Mk は、1つの基準に関係づけられた評価ドメインの数を表す)、前記評価ドメインは、当該基準が中心視の基準グループに属する場合、少なくとも1つの注視方向(α,β)と定義されるか、または当該基準が周辺視の基準グループに属する場合、少なくとも一つの周辺光線の方向(α’,β’)と定義される。
【0147】
基準Ck および評価領域Dk を含む対{Ck ,Dk }について評価関数Hk を定義する。評価関数Hk は、Dk の一評価ドメインDikに、その光学系パラメータ(OSP)によって定義される光学系(OS)についての数字基準値Hk(Dik,OSP)を関係づける。
【0148】
基準Ck 、評価領域Dk 、評価関数Hk および光学系パラメータOSPを含むトリプレット{Ck ,Dk ,Hk }を与えて、費用関数CFk(OSP) を定義する。この費用関数CFk は、領域Dkの基準Ckに数値を関係づける。
【0149】
1つの与えられた規準Ck を、結局は異なる評価領域で何回も使うことができ、例えば、CF1 とCF2 を、この与えられた規準Ck に関係づけることができる。
【0150】
目標値を評価ドメインに関係づけることができる。目標値は、光学設計者が、下記のいくつかの方法によって決めることができる。すなわち、
・「目標レンズ」を使う方法:選択された基準について目標レンズから目標値が計算され、それがさらに目標値として使われる、
・1つの基準および対応する一組の評価ドメインについて複数の目標値が予め決められているデータースを使う方法、
・分析関数を使う方法。
【0151】
基準値および対応する一組の目標が与えられると、費用関数を[数15]によって数学的に定義できる。
【0152】
【数15】

【0153】
[数15]において、Tikは、評価ドメインDikに関係づけられた目標値であり、そしてwikは予め決められた重みである。
【0154】
目標値は、予め決める必要がないので、好都合である。
【0155】
例えば、費用関数は、以下のように定義できる。
【0156】
1)基準Ck に関係づけられた評価領域Dk にわたっての最大値:
【0157】
【数16】

【0158】
または、
【0159】
【数17】

【0160】
[数16]、[数17]において、(異なるiについての変数の中から最大値を探す)関数maxは、Ck に関係づけられた評価領域Dk の評価ドメインにわたってのHk の最大値に戻る。
【0161】
2)重みつき合計:
【0162】
【数18】

【0163】
[数18]において、wikは、予め定められた重みである。
【0164】
3)評価関数Hk の評価ドメインDki全てについての平均値:
【0165】
【数19】

【0166】
大域基準Ck については、以下のステップが実施される。
【0167】
評価関数Hk を定義する。基準Ck について、評価関数Hk が光学系パラメータ(OSP)で定義される光学系(OS)についての数字基準値Hk(OSP) を関係づける。
【0168】
評価関数Hk と光学系パラメータOSPを与えて、費用関数CFk(OSP) を定義する。その費用関数CFk は、数値を基準Ck に関係づける。
【0169】
一つの基準に複数の目標値を関係づけることができる。目標値は、光学設計者が、下記のいくつかの方法によって決めることができる。すなわち、
・「目標レンズ」を使う方法:選択された基準について目標レンズから目標値が計算され、それがさらに目標値として使われる、
・1つの基準について複数の目標値が予め決められているデータベースを使う方法、
・分析関数を使う方法。
【0170】
基準値および対応する目標が与えられると、費用関数を[数20]によって数学的に定義できる。
【0171】
【数20】

【0172】
[数20]において、Tk は、目標値であり、そしてwk は、予め決められた重みである。
【0173】
目標値は、予め決める必要がないので、好都合である。
【0174】
例えば、費用関数は、[数21]の評価関数Hk として定義することができる。
【0175】
【数21】

【0176】
費用関数は、例えば、[数22]のような別のいかなる実関数であってもよい。
【0177】
【数22】

【0178】
この発明は、上記のように、あらゆる種類の光学レンズ、特に眼科用レンズ、例えば、単焦点レンズ(球面、トーリック面)、二焦点レンズ、累進多焦点レンズ、非球面レンズなどに使用できる光学系を、最適化法によって計算する方法を提供するものである。
【0179】
この発明は、光学系に向けられた実施形態の助けによって上記に説明してきた。これらの実施形態は、発明の全般的な思想を限定するものではないこと、およびこの発明は、あらゆる種類の技術分野のための系を最適化法によって計算する方法を提供するものであることを、言明する次第である。
【0180】
この発明の方法は、複雑な系を扱う場合、特に興味深いものである。一例を挙げると、ワイパーとフロントガラス表面を一緒に最適化することは、そのような解決すべき複雑な問題の一つである。
【符号の説明】
【0181】
SOS … 出発光学系
OSP … 光学系パラメータ
IOS … 中間光学系
OS … 光学系
k … 基準
CFk … 費用関数
GCFp … 大域費用関数
(Xp ) … 変数パラメータベクトル
CRE … 眼球中心
P … 入射中心点
PS … 瞳の大きさ
PD … プリズム的偏倚
HPD … 水平方向プリズム的偏倚
OCD … 眼球偏倚
PRFD … 瞳孔光線視野偏倚
VF … 中心視における視野
TS … こめかみのシフト
(α,β) … 注視方向
(α’,β’)… 周辺光線方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ手段により実行される、最適化法で系(S)を計算する方法であって、
i)各々が出発値に初期設定された一組の系パラメータ(SP)を提供して、出発系(SS)を定義するステップと、
ii)複数の基準(Ck )を定義するステップと、
iii)各基準(Ck )に対して費用関数(CFk )を関係づけるステップと、
iv)各大域費用関数(GCFp )に少なくとも一つの費用関数(CFk )を関係づけることによって、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)を定義するステップと、
v)各変数パラメータベクトル(Xp )に対して少なくとも一つの系パラメータ(SP)を選択することによって、各大域費用関数(GCFp )に関係づけられた一つの変数パラメータベクトル(Xp )を定義するステップと、
vi)変数パラメータベクトル(X1 ,…,XND)の系パラメータ値を変更することにより、複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)を最適化して、中間系(IS)を得るステップと、
vii)平衡に到達するまでステップvi)を繰り返して、系(S)を得るステップと、
を含んでなる最適化法で系(S)を計算する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
ステップvi)の中で、前記複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)の最適化が多基準法を使って実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
ステップvi)の中で、前記複数の大域費用関数(GCF1 ,…,GCFND)の最適化が多目的法を使って実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、
ステップv)の中で、前記少なくとも一つの系パラメータが、ただ一つの変数パラメータベクトル(Xp )に対して選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法において、
前記系(S)が光学系(OS)であり、
前記系パラメータ(SP)が光学系パラメータ(OSP)であり、
前記出発系(SS)が出発光学系(SOS)であって、各光学系パラメータが出発値に初期設定されている
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記出発光学系(SOS)が第一光学表面と第二光学表面を備え、
ステップv)の中で、第一変数パラメータベクトル(X1 )と第二変数パラメータベク
トル(X2 )が定義され、第一変数パラメータベクトル(X1 )は、前記第一光学表面に関する光学系パラメータを含み、第二変数パラメータベクトル(X2 )は、前記第二光学表面に関する光学系パラメータを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法において、
中心視における度数、中心視における非点収差、中心視における高次収差、中心視における明瞭度、周辺視における度数、周辺視における非点収差、周辺視における高次収差からなるリストの中で選択された光学基準(Ck )または前記基準の変形に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義される
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の方法において、
中心視におけるプリズム的偏倚、眼球偏倚、中心視における物体視野、中心視における像視野、中心視における倍率、瞳孔視野光線偏倚、周辺視における物体視野、周辺視における像視野、周辺視におけるプリズム的偏倚、周辺視における倍率、眼球の倍率、こめかみのシフトからなるリストの中で選択された光学基準(Ck )または前記基準の変形に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義される
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の方法において、
幾何学的基準(Ck )に、ただ一つまたはいくつかの費用関数(CFk )を関係づけることによって、少なくとも一つの大域費用関数(GCFp )が定義される
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法において、
ステップvi)およびステップvii)の中で、複数の大域費用関数(GCFp )の各々が、平衡に到達するまで最適化される
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかによる最適化法によって系(S)を計算するステップと、
その計算された系を製造するステップと、
を含んでなる系(S)の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法において、
製造される系(S)が光学系(OS)であり、
請求項5と組み合わせた請求項1〜11のいずれかに従って最適化することによって前記光学系(OS)を計算するステップと、
その計算された光学系を製造するステップと、
を含んでなる製造方法。
【請求項13】
プロセッサにアクセス可能であって、前記プロセッサによって実行されたとき、前記プロセッサに請求項1〜12のいずれかに記載のステップを実行させる命令の一つ以上の記憶されたシーケンス
を含んでなるコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項14】
請求項13のコンピュータプログラムプロダクトの命令の一つ以上のシーケンス
を記録してなるコンピュータ読取り可能媒体。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【公表番号】特表2012−514227(P2012−514227A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544037(P2011−544037)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067924
【国際公開番号】WO2010/076294
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(594066420)エシロール エンテルナショナル (コンパニ ジェネラル ドプチック) (5)
【Fターム(参考)】