説明

紅そう類から非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法及びこれを用いた非毒性紫外線遮断剤

本発明は、(a)アマノリ属またはツノマタから選ばれる1種以上の紅そう類を用意するステップと、(b)前記用意された紅そう類に炭素数1〜5のアルコール対水の体積比が1:9〜9:1である混合溶媒を添加し、30〜60℃の温度において維持して有効成分を抽出するステップと、(c)前記有効成分及び残余の紅そう類固形物を含む混合溶媒をろ過して上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップと、を含む非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法を提供する。本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、抽出原料としてアマノリ属またはツノマタを用いることから、マイコスポリン様アミノ酸(Mycosporine−like amino acids;MAA)を含む紫外線遮断用抽出物の歩留まりが、緑そう類、褐そう類及び紅そう類植物からの抽出物よりも相対的に顕著に高いというメリットを有する。なお、アマノリ属またはツノマタから抽出された紫外線遮断用抽出物は光毒性及び細胞毒性が非常に低いことから、皮膚に重たい感じ若しくは残余の水による異物感を与えず、かつ同時に刺激性皮膚炎、接触性皮膚炎、光アレルギー性または光毒性皮膚炎などの皮膚刺激やアレルギー反応及び毒性などの副作用がない紫外線遮断剤の主成分として利用可能である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紅そう類から非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法及び前記抽出物を用いた非毒性紫外線遮断剤に係り、さらに詳しくは、紅そう類のうちマイコスポリン様アミノ酸(Mycosporine−like amino acids;MAA)の含量が相対的に高いアマノリ属またはツノマタから非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法及び前記非毒性紫外線遮断用抽出物の紫外線吸収特性を用いた非毒性紫外線遮断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽紫外線は、紅斑に代表される急性皮膚反応を引き起こすだけではなく、長期間露出されるときには皮膚老化及び皮膚癌を引き起こす。地表に達する太陽光線に含まれている紫外線(Ultraviolet Ray;UV ray)は、波長によって大きく2つの領域、すなわち、長波であるUV−A(320−400nm)と中波であるUV−B(280−320nm)とに分けられる。
【0003】
これらのうち、相対的にエネルギーの大きなUV−Bが皮膚層に吸収されると、急性皮膚色素沈着、DNA変異または癌を引き起こすことが知られている。
一方、UV−AはエネルギーがUV−Bよりは小さいものの、UV−Bよりも皮膚のさらに深いところまで浸透して早期皮膚老化現象を引き起こすことが知られており、活性酸素を発生したりIL−1βやTNF−αなどの炎症症状を引き起こしたりして遺伝子の発現を変化させてしまうが、UV−AがNF−κBやAP−1などの転写要因を活性化させるという報告がある。UV−Aによる転写要因の活性化によって、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP’s)と呼ばれる一連のコラーゲン分解酵素とエラスチン分解酵素が誘導されるが、これによるコラーゲン量の減少と繊維素の分節現象は、究極的に典型的な光老化現象を引き起こすことになる。なお、UV−Aは皮膚の色素体であるウロカニン酸やDNAなどによって上手に吸収されて、結果的に活性酸素を発生してタンパク質と脂質などの重要な分子と反応することにより、重要な生命分子を破壊したり機能を喪失させる。
【0004】
UV−Bは、季節、一日の時間、雲の有無、緯度などによってその量が異なるのに対し、UV−Aは一年を通して比較的に一定量が地表に達するため、持続的な皮膚管理のためには、UV−Aからの皮膚保護が一層重要である。紫外線から皮膚を保護するために用いられる紫外線遮断剤(サンスクリーン)は、大きく、無機粒子状と有機化合物状とに分けられる。無機粒子状の紫外線遮断剤は、極く微細なミネラル粒子である酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化鉄などの種類の無機粒子を含み、前記無機粒子は皮膚の表面に粘着されて太陽光線(紫外線)を反射するバリアの役割を果たす。無機粒子状の紫外線遮断剤は皮膚を涼しく維持し、自然な太陽光線(紫外線)の防御をし、皮膚に吸収されないことから皮膚トラブルを引き起こさないというメリットを有するのに対し、皮膚に重たい感じを与え、皮膚の上に残留物を残すという不都合がある。一方、有機化合物状の紫外線遮断剤は、PARSOL(Dimethico−diethylbenzalmalonate)、ベンゾフェノン(Sodium Dihydroxy Dimethoxy Disulfobenzophenone)、 PABA(p−Aminobenzoic acid)などの紫外線を非常に上手に吸収する活性的な合成化合物を含んでいるものであり、UV−Aが皮膚の深くに浸透してコラーゲン繊維や他の組織において老化現象を引き起こすことと、UV−Bによって日焼けや皮膚癌などが引き起こされることと、を防ぐことができるというメリットがあるのに対し、皮膚炎やアレルギーを引き起こし、分解され易い他、活性酸素を生産するという欠点を抱えており、最近には、前記有機化合物が内分泌系障害をはじめとする副作用を引き起こすことが報告されている。
【0005】
この理由から、皮膚に重たい感じ若しくは残余物による異物感を与えず、かつ同時に刺激性皮膚炎、接触性皮膚炎、光アレルギー性または光毒性皮膚炎などの皮膚刺激やアレルギー反応及び毒性などの副作用がない紫外線遮断剤用天然素材の開発が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点を解消するために案出されたものであり、その目的は、光毒性や細胞毒性などがなく、紫外線吸収能に優れていることから紫外線遮断剤の主成分として利用可能な非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、非毒性紫外線遮断用抽出物を用いた非毒性紫外線遮断剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、無数の実験を通じて、紅そう類のうちアマノリ属(Porphyra)とツノマタからUV−A遮断物質として知られているマイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含む紫外線遮断用抽出物を抽出するときに、緑そう類、褐そう類及び紅そう類植物から抽出するときよりもさらに高い歩留まりを有する点及び前記アマノリ属とツノマタから抽出された紫外線遮断用抽出物が光毒性及び細胞毒性が非常に低いという点を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の目的を達成するために、本発明は、(a)アマノリ属またはツノマタから選ばれる1種以上の紅そう類を用意するステップと、(b)前記用意された紅そう類に炭素数1〜5のアルコール対水の体積比が1:9〜9:1である混合溶媒を添加し、30〜60℃の温度において維持して有効成分を抽出するステップと、(c)前記有効成分及び残余の紅そう類固形物を含む混合溶媒をろ過して上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップと、を含む非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法を提供する。
本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(d)前記分離された上澄み液をメンブレインフィルターに通させて不純物を除去するステップをさらに含む。
また、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(e)前記分離された上澄み液を濃縮し且つ乾燥して固形化された粗抽出物を得るステップをさらに含む。
【0009】
さらに、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、前記固形化された粗抽出物がメンブレインフィルターによる不純物の除去ステップを経ない場合に、(f)前記固形化された粗抽出物を水に溶解させ、且つ、メンブレインフィルターに通させて不純物を除去するステップをさらに含む。
さらに、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(g)前記ステップ(f)により不純物の除去された粗抽出物水溶液を水と炭素数1〜5のアルコールの濃度勾配で展開させ、280〜400nmの紫外線波長を吸収する粗抽出分画物を得るステップをさらに含む。このとき、紫外線波長の吸収有無を測定するためにUVデテクターが用いられ、補助的にRI(refractive index)がさらに用いられてもよい。
さらに、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(h)前記粗抽出分画物を疎水性相互カラムに通させて1次精製抽出物を得るステップをさらに含む。
さらに、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(i)前記1次精製抽出物をサイズ排除カラム(Size Exclusion Column)に通させて2次精製抽出物を得るステップをさらに含む。
さらに、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、好ましくは、(j)前記2次精製抽出物を濃縮し且つ乾燥して固形化された精製抽出物を得るステップをさらに含む。
【0010】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、上記の製造方法によって製造された非毒性紫外線遮断用抽出物を含む非毒性紫外線遮断剤を提供する。このとき、紫外線遮断用抽出物は、有効成分としてマイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含有し、含有されたマイコスポリン様アミノ酸(MAA)の種類としては、パリチン(Palythine)、アステリナ−330(Asterina−330)及びシノリン(Shinorine)があり、さらにポルフィラ−334(Porphyra−334)を含む。マイコスポリン様アミノ酸(MAA)はシクロヘキサノンまたはシクロヘキセニミン色素構造体を有していてUV−A(320〜400nm)領域の紫外線を上手に吸収し、吸光係数は人造紫外線遮断剤(サンスクリーン)の吸光係数とほとんど同様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、抽出原料としてアマノリ属またはツノマタを用いることから、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含む紫外線遮断用抽出物の歩留まりが、緑そう類、褐そう類及び紅そう類植物からの抽出物よりも相対的に顕著に高いというメリットを有する。なお、アマノリ属またはツノマタから抽出された紫外線遮断用抽出物は光毒性及び細胞毒性が非常に低いことから、皮膚に重たい感じ若しくは残余の水による異物感を与えず、かつ同時に刺激性皮膚炎、接触性皮膚炎、光アレルギー性または光毒性皮膚炎などの皮膚刺激やアレルギー反応及び毒性などの副作用がない紫外線遮断剤の主成分として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好適な一実施形態による非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法の工程を示す図である。
【図2】ヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法によるアマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用粗抽出物(PE)と2次精製抽出物(P7)の光毒性結果を示すグラフである(細胞生存率,濃度)。
【図3】アマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用粗抽出物(PE)の濃度が500μg/mlであるときのヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法による光毒性結果を示す写真である。
【図4】アマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用2次精製抽出物(P7)の濃度が250μg/mlであるときのヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法による光毒性結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面は、光毒性や細胞毒性などがなく、紫外線吸収能に優れていることから紫外線遮断剤の主成分として利用可能な非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法に関するものである。以下、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法を図1に基づいてステップ別に説明する。但し、図1は、好適な一実施形態に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法の工程を示すものであり、本発明の技術的思想はこれに限定または制限されるものではなく、当業者によって変形されて種々に実施可能であるということはいうまでもない。
【0014】
抽出原料を用意するステップ(S1)
抽出原料としては、アマノリ属(Porphyra)またはツノマタ(Chondrus)から選ばれる1種以上を用いる。アマノリ属またはツノマタは紅そう類(Rhodophyta)植物の一種であり、本発明者の研究によれば、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含む紫外線遮断用抽出物の歩留まりが、緑そう類、褐そう類及び紅そう類植物からの抽出物よりも相対的に顕著に高いというメリットを有する。
アマノリ属またはツノマタは、好ましくは、乾燥されたものであり、より好ましくは、粗砕されたものであることを特徴とする。粗砕されたアマノリ属またはツノマタは表面積が非常に大きくて抽出溶媒による抽出速度及び抽出歩留まりを向上させる。アマノリ属またはツノマタは乳鉢または粉砕装置などにより粗砕可能である。
【0015】
抽出溶媒を用いて有効成分を抽出するステップ(S2)
粗砕されたアマノリ属またはツノマタなどの紅そう類に抽出溶媒を添加し、所定の温度に維持して有効成分を抽出する。このとき、抽出溶媒としては、水、アルコールまたは水とアルコールとの混合溶媒が用いられるが、好ましくは、アルコール対水の体積比が1:9〜9:1である混合溶媒であり、より好ましくは、アルコール対水の体積比が4:1であることを特徴とする。アルコール対水の体積比が1:9よりも低い場合には、アルコールの含量が小さすぎて抽出速度及び抽出歩留まりが下がり、アルコール対水の体積比が9:1よりも大きな場合には、アルコールの含量の増加による抽出速度及び抽出歩留まりの増加率が大きくないため経済性に劣り、アルコール対水の体積比が4:1である場合に抽出速度、抽出歩留まり及び経済性が最適である。
アルコールは炭素数1〜5のものを用いるが、好ましくは、メタノールまたはエタノールを用い、より好ましくは、メタノールを用いる。メタノールを用いる場合に、抽出速度及び抽出歩留まりが他のアルコールよりも高い。
抽出温度はその範囲が特に制限されるものではないが、好ましくは、約30〜60℃である。抽出温度が30℃未満である場合には抽出速度及び抽出歩留まりが低すぎ、抽出温度が60℃を超える場合にはアルコールの一部が気化されて抽出に供されなくなる。
【0016】
ろ過により上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップ(S3)
抽出溶媒による有効成分の抽出が終わると、有効成分及び残余の紅そう類固形物を含む混合溶媒をろ過して上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離する。ろ過に用いられるろ過材としては、上澄み液と残余の紅そう類固形物とに有効に分離できるものであれば、その種類に特に制限がなく、具体的に、ろ紙またはろ過布などがあり、気孔径は約0.1μm〜0.005mmの範囲を有する。
【0017】
一方、1回抽出後にろ過によって分離された残余の紅そう類固形物には未抽出のマイコスポリン様アミノ酸(MAA)などの有効成分が存在するが、最終的な抽出歩留まりを高めるために、上記の残余の紅そう類固形物を混合溶媒に添加し、抽出後ろ過によって上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離する過程を1回〜3回さらに繰り返し行っても良い。
また、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法は、図1に示してはいないが、分離された上澄み液をメンブレインフィルターに通させて不純物を除去するステップを選択的にさらに含んでいてもよい。メンブレインフィルターはナノ寸法の気孔径(約100nm未満)を有する膜であって、ろ過済みの上澄み液に含まれている不純物や汚染物質などを上澄み液から除去する役割を果たす。
【0018】
上澄み液から固形化された粗抽出物を得るステップ(S4)
ろ過による分離済みまたはメンブレインフィルター処理済みの上澄み液を濃縮し且つ乾燥して固形化させることにより粗抽出物を得る。
上澄み液の濃縮は、好ましくは、減圧濃縮であることを特徴とし、乾燥は凍結乾燥であることを特徴とする。減圧濃縮による場合に、低い温度において抽出溶媒を容易に蒸発することができ、凍結乾燥による場合に、低い温度において抽出物が固形化されるので、抽出物の有効成分が熱によって変性されることを防ぐことができる。
【0019】
固形化された粗抽出物水溶液を製造してメンブレインフィルター処理するステップ(S5)
固形化された粗抽出物を水に溶解して粗抽出物水溶液を製造する。一方、粗抽出物水溶液の粗抽出物が製造過程においてメンブレインフィルター処理を経ない場合に、粗抽出物水溶液をメンブレインフィルターに通させて不純物などを除去する。不純物の除去された粗抽出物水溶液は、後述する分画及び精製ステップを経る。また、図1には示していないが、ろ過により上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップ(S3)において、ろ過及びメンブレインフィルター処理を経た上澄み液を後述する分画及び精製処理してもよい。
【0020】
粗抽出物水溶液を分画するステップ(S6)
不純物の除去された粗抽出物水溶液、または、ろ過により上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップ(S3)においてろ過及びメンブレインフィルター処理を経た上澄み液を水−アルコールの濃度勾配で展開させ、展開された粗抽出物水溶液から280〜400nmの紫外線波長を吸収する粗抽出分画物を得る。このとき、アルコールとしては炭素数1〜5のアルコールを用い、好ましくは、メタノールを用いる。水−アルコールの濃度勾配の展開は、具体的に、水、50体積%のアルコール水溶液をこの順に展開する方法がある。一方、展開された粗抽出物水溶液または上澄み液のうち80〜400nmの紫外線波長を吸収する分画部分を測定するためにUVデテクターが用いられ、補助的にRIがさらに用いられてもよい。
【0021】
粗抽出分画物を疎水性相互カラムにより1次精製するステップ(S7)
収集された粗抽出分画物を疎水性相互カラムに通させて1次精製抽出物を得る。このときに用いられる疎水性相互カラムとしては、その種類が制限されるものではなく、具体的に、アガロースゲル、シリカゲルまたは有機重合体樹脂からなるベース粒子の表面に疎水性アルキル基、疎水性アリール基、疎水性シアノ基及び疎水性アミン基よりなる群から選ばれる一つの疎水性官能基が結合されたものが挙げられる。疎水性アルキル基としてはブチル基、オクチル基、オクタデシル基などがあり、疎水性アリール基としてはフェニルエチル基があり、疎水性シアノ基としてはシアノプロピル基があり、疎水性アミン基としてはアミノプロピル基がある。また、本発明に用いられる疎水性相互カラムは、好ましくは、シリカゲルの表面に疎水性アルキル基、疎水性アリール基、疎水性シアノ基及び疎水性アミン基よりなる群から選ばれる一つの疎水性官能基が結合されたものであることを特徴とし、このような疎水性相互カラムとしては、商業的に入手可能な日本資生堂社製のCAPCELL PAK C8、CAPCELL PAK C18などがある。中でも、CAPCELL PAK C18は、カプセル型のシリカゲルの表面にシリコーン高分子を蒸着して断層を形成し、断層の表面にオクタデシル基を結合したものである。特に、本発明において疎水性相互カラムとしてCAPCELL PAK C18 UG120を用いる場合に、移動相としては酢酸水溶液を用いる。
【0022】
1次精製抽出物をサイズ排除カラムにより2次精製するステップ(S8)
1次精製抽出物をサイズ排除カラムに通させて2次精製抽出物を得る。このときに用いられるサイズ排除カラムは、水溶性システムに用いられるものであればその種類に特に制限がなく、具体的に、資生堂社製のシリカベース水溶系のサイズ排除カラム(KW−800シリーズ、KW−400シリーズ)、ポリヒドロキシメタクリレートベースのサイズ排除カラム(OHpakシリーズ)などがある。
【0023】
2次精製抽出物から固形化された精製抽出物を得るステップ(S9)
2次精製抽出物を濃縮し且つ乾燥して固形化された精製抽出物を得る。2次精製抽出物の濃縮は、好ましくは、減圧濃縮であることを特徴とし、乾燥は凍結乾燥であることを特徴とする。減圧濃縮による場合に、低い温度において水などの溶媒を容易に蒸発することができ、凍結乾燥による場合に、低い温度において精製抽出物が固形化されるので、精製抽出物の有効成分が熱によって変性されることを防ぐことができる。
【0024】
本発明の他の側面は、本発明に係る製造方法により製造された非毒性紫外線遮断用抽出物を用いた非毒性紫外線遮断剤に関する。
本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物は、有効成分としてマイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含有し、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)としてパリチン、アステリナ−330及びシノリンを含み、ポルフィラ−334を選択的にさらに含んでいることからUV−A吸収能に優れている。なお、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物(特に、2次精製抽出物)は光毒性や細胞毒性が非常に低いので、非毒性紫外線遮断剤の主成分として利用可能である。
【0025】
紫外線遮断剤の具体的な組成について述べると、活性成分として、本発明に係る非毒性紫外線遮断用抽出物約0.05〜10重量%、油相媒質約5〜40重量%、乳化剤約1〜10重量%、微量の補助剤及び残部としての水などの水相媒質を含む。
油相媒質としては、パラフィンやミネラルオイルなどの炭化水素オイル、パラフィンワックス、天然オイル、シリコンオイル、イソプロピルパルミテートなどの脂肪酸エステル、ステアリルアルコールなどの脂肪酸アルコールなどがあり、油相媒質は油中水型(water in oil)または水中油型(oil in water)状態の油相成分を構成する。
乳化剤としては、ソルビタンエステル(Sorbitan eser、商標名:SPAN)、エトキシル化ソルビタンエステル(Ethoxylated Sorbitan eser、商標名:Tween)、シリコンポリオール、ポタシウムステアレート、エトキシル化脂肪酸エステルなどがある。
補助剤としては、紫外線遮断剤に通常的に含まれるエモリエント、補湿剤、抗酸化剤、乳化安定剤、増粘剤、防腐剤、芳香剤、着色剤などがある。
【0026】
以下、本発明について具体的な実施例を挙げてさらに明確に説明する。但し、下記の実施例によって本発明の保護範囲が制限されることはない。
【0027】
1.抽出原料の選別
韓国の海水に存在する緑そう類(Green algae、CHLOROPHYTA)、褐そう類(Brown algae、PHAEOPHYTA)、紅そう類(Red algae、RHODOPHYTA)サンプルを取り、ろ紙により水分を除去した後、乳鉢において粗砕して各サンプル当たりに100gの抽出原料を用意した。抽出原料100gに80体積%のメタノール濃度を有する水溶液(メタノール体積80及び水体積20からなる混合溶媒)を10ml添加し、約45℃においてミキサーにより5分間攪拌しながら有効成分を抽出した後、ろ紙によりろ過し、約280〜400nmの波長を有する紫外線によりスキャンして抽出液の紫外線吸収能を調べた。
【0028】
表1は、緑そう類サンプルから抽出した抽出液の紫外線吸収能結果を示すものであり、表2は、褐そう類サンプルから抽出した抽出液の紫外線吸収能結果を示すものであり、表3は、紅そう類サンプルから抽出した抽出液の紫外線吸収能結果を示すものである。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表1に示すように、緑そう類においては280〜400nmの波長を有する紫外線の吸収ピークが観測されず、表2に示すように、褐そう類においては16種のうち5種において280〜400nmの波長を有する紫外線の吸収ピークが観測されたが、紅そう類において観測された吸収ピークに比べてその高さが相対的に低くて、相対的に低い有効成分の含量を示している。紅そう類の場合に、表3に示すように、27種のうち24種において280〜400nmの波長を有する紫外線の吸収ピークが観測され、ユカリ(Plocamium telfairiae)を除く26種において吸収ピークの高さが褐そう類において観測される吸収ピークよりも高くて、相対的に高い有効成分の含量を示している。
調査されたほとんどの紅そう類抽出物において紫外線吸収物質の存在可能性が把握されることにより、紅そう類抽出物を対象として4種類のマイコスポリン様アミノ酸(MAA)であるパリチン、アステリナ−330、シノリン、ポルフィラ−334を標準物質として用いて、紅そう類抽出物内のマイコスポリン様アミノ酸成分の含量を分析し、その結果を表4に示す。分析は、高性能液体クロマトグラフィによって行われた。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示すように、4種類のマイコスポリン様アミノ酸(MAA)標準物質の全体含量を基準とする歩留まりは、アマノリ属抽出物において約1.7%、ツノマタ抽出物において約1.3%であって、他の紅そう類抽出物(約0.3〜0.7%)よりも相対的に高かった。また、アマノリ属抽出物は4種類の標準物質を全て含んでおり、ポルフィリン−334の含量が非常に高かった。さらに、ツノマタ抽出物はポルフィリン−334を除く3種類の標準物質を含んでおり、パリチンの含量が非常に高かった。以上において検討した結果を基に、紫外線遮断用抽出物の原料候補としてアマノリ属とツノマタを選択した。
【0035】
2.アマノリ属からの紫外線遮断用抽出物の製造
(1)粗抽出物(PE)の製造
スサビノリ(Porphyra yezoensis)100gをバイアルに入れ、ここに80体積%のメタノール水溶液(メタノール体積80及び水体積20からなる混合溶媒)20mlを添加した後、45℃に保たれた恒温水槽において3時間維持して有効成分を抽出した。次いで、バイアル内の内容物をろ紙(whatman No.2)によりろ過して上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離した。分離された残余の紅そう類固形物から上記の抽出及びろ過により2回さらに抽出した。分離された上澄み液を全て集めた後、これを真空乾燥して濃縮することを繰り返し行い、2回抽出した。次いで、溶液をろ過し(whatman No.2)、残余の固形物は同じ方式により2回の抽出を試みた。このようにして得られた抽出液を全て集めて真空蒸発機により濃縮し且つ乾燥して固形化された粗抽出物(Porphyra extract;PE)を得た。
【0036】
(2)粗抽出分画物の製造
固形化された粗抽出物10mlを蒸留水90mlに添加し且つ溶解させて粗抽出物水溶液を製造した後、これを気孔径が0.45nmであるメンブレインフィルター(Gelman、USA)によりろ過して不純物を除去した。不純物の除去された粗抽出物水溶液をPrep LC systemのデュアルポンプ(日本KOTO社製、オート、UV/RIデテクター及びフラクションコレクターから構成される)上において水−メタノールの濃度勾配(最初には水、次には50体積%のメタノール水溶液)で展開(展開速度は5ml/min)させた後、UVデテクター及びRIデテクターを用いて280〜400nmの紫外線波長を吸収する粗抽出分画物を得た。
【0037】
(3)精製抽出物(P7)の製造
得られた粗抽出分画物をUG120 guard column(日本資生堂社製)により保護された疎水性相互カラム(Capcellpak C18 UG120 semi−prepatative column、日本資生堂社製)に0.2体積%の酢酸水溶液とともに10ml/minの速度にて展開して1次精製した。1次精製済みの抽出物をサイズ排除カラム(Ohpak 2002、日本資生堂社製)に水とともに2.5ml/minの速度にて展開して2次精製した。2次精製済みの抽出物は明るい黄色を帯びる液体であり、これを真空蒸発機により濃縮し且つ凍結乾燥して固形化された精製抽出物(P7)を得た。
【0038】
3.アマノリ属から抽出された紫外線遮断用抽出物の毒性実験
(1)光毒性(phototoxicity)
アマノリ属から製造された抽出物であるPE及びP7に対して、人体光毒性結果と良好な一致を示すと知られているOECDの化学物質の評価法である3T3 NRU光毒性試験法(The 3T3 neutral red uptake photoxicity test、3T3 NRU PT)と酸素依存的な細胞膜損傷を効果的に検索する方法として知られている光溶血試験法(Photohemolysis Test)を適用して光毒性を評価した。3T3 NRU光毒性試験法にはマウス由来の繊維芽細胞(NIH/3T3)が用いられ、光溶血試験法にはヒト赤血球(Human Erythrocyte)が用いられた。
【0039】
3T3 NRU光毒性試験法(The 3T3 neutral red uptake photoxicity test、3T3 NRU PT)は化粧品の光毒性評価に対する代替試験法であり、2004年4月にOECD毒性試験基準として採択された。これは、マウス由来の繊維芽細胞である3T3細胞を用い、光照射した細胞と光照射しなかった細胞との細胞毒性の度合いをNRU試験により比較して、その差分(PIF:photoirritation factor)が5倍以上になると光毒性物質として分類する評価方法である。
【0040】
表5は、3T3 NRU光毒性試験法によるアマノリ属から製造された抽出物であるPE及びP7の光毒性結果を示すものである。
表5に示すように、精製抽出物であるP7は、平均半数致死量(IC50、一般に、毒性が予想される物質の一定量を動物に投与して実験に供された動物が半数以上死ぬ量をいう。)の濃度が紫外線の照射有無とは無関係に1000mg/mlを超え、PIF値が1を示していることから、非光毒性物質(non−phototoxic substance)と判定された。なお、粗抽出物であるPEの場合に、平均半数致死量の濃度がP7よりも低くて相対的に毒性の度合いが高かったが、PIF値が5未満であって非光毒性物質と判定された。
【0041】
【表5】

【0042】
図2は、ヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法によるアマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用粗抽出物(PE)と2次精製抽出物(P7)の光毒性結果を示すグラフである。また、図3は、アマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用粗抽出物(PE)の濃度が500μg/mlであるときのヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法による光毒性結果を示す写真であり、図4は、アマノリ属から抽出された非毒性紫外線遮断用2次精製抽出物(P7)の濃度が250μg/mlであるときのヒト赤血球細胞を用いた光溶血試験法による光毒性結果を示す写真である。図2乃至図4において、UV−は紫外線を照射しなかった状態を示し、UV+は、紫外線を照射した状態を示す。図2乃至図4に示す光溶血試験において用いられた紫外線の照射量はUVA15J/cmであった。
ヒト赤血球を用いた光溶血試験法による光毒性結果は、3T3 NRU光毒性試験法による光毒性試験結果とほとんど同様であった。
【0043】
(2)細胞毒性(Cytotoxicity)
アマノリ属から製造された抽出物であるPE及びP7に対し、ヒトの角質細胞(keratinocyte)であるHaCaTに対する細胞毒性試験(cytotoxicity test)を行った。細胞毒性の評価は、ニュートラルレッドアッセイ(Neutral red assay)を用いて行った。
【0044】
表6は、アマノリ属から製造された抽出物であるPE及びP7のヒトの角質細胞(keratinocyte)であるHaCaTに対する細胞毒性試験結果を示すものである。
表6に示すように、PE及びP7のHaCaTに対する半数致死量の濃度がいずれも5mg/ml以上であり、非細胞毒性物質(non−cytotoxic substance)であると思われる。
【0045】
【表6】

【0046】
以上検討したように、アマノリ属から製造された粗抽出物と精製抽出物はいずれも非毒性紫外線遮断用抽出物であることが判明され、前記抽出物は、紫外線遮断剤などの化粧料組成物の主な成分として使用可能である。このとき、化粧料組成物は、クリーム、ローション、ゲル、トニックまたはミストなどの類型に製造可能であり、紫外線遮断用抽出物の含量は皮膚に毒性を引き起こさない範囲において適切に選択可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法により製造されたアマノリ属またはツノマタの抽出物は、紫外線遮断用化粧品の有効成分として利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アマノリ属またはツノマタから選ばれる1種以上の紅そう類を用意するステップと、
(b)前記用意された紅そう類に炭素数1〜5のアルコール対水の体積比が1:9〜9:1である混合溶媒を添加し、30〜60℃の温度において維持して有効成分を抽出するステップと、
(c)前記有効成分及び残余の紅そう類固形物を含む混合溶媒をろ過して上澄み液と残余の紅そう類固形物とに分離するステップと、
を含む非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)における紅そう類は、粗砕されたものであることを特徴とする請求項1に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)における残余の紅そう類固形物をもってステップ(b)及びステップ(c)を1回〜3回繰り返し行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項4】
(d)前記分離された上澄み液をメンブレインフィルターに通させて不純物を除去するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項5】
(e)前記分離された上澄み液を濃縮し且つ乾燥して固形化された粗抽出物を得るステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項6】
(f)前記固形化された粗抽出物を水に溶解させ、且つ、メンブレインフィルターに通させて不純物を除去するステップと、
(g)前記不純物の除去された粗抽出物水溶液を水と炭素数1〜5のアルコールの濃度勾配で展開させ、280〜400nmの紫外線波長を吸収する粗抽出分画物を得るステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項7】
(h)前記粗抽出分画物を疎水性相互カラムに通させて1次精製抽出物を得るステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項8】
前記疎水性相互カラムは、シリカゲルの表面に疎水性アルキル基、疎水性アリール基、疎水性シアノ基及び疎水性アミン基よりなる群から選ばれる一つの疎水性官能基が結合されたものであることを特徴とする請求項7に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項9】
(i)前記1次精製抽出物をサイズ排除カラムに通させて2次精製抽出物を得るステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項10】
(j)前記2次精製抽出物を濃縮し且つ乾燥して固形化された精製抽出物を得るステップをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の非毒性紫外線遮断用抽出物を製造する方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の製造方法によって製造された非毒性紫外線遮断用抽出物を含む非毒性紫外線遮断剤。
【請求項12】
前記非毒性紫外線遮断用抽出物は、有効成分としてマイコスポリン様アミノ酸(MAA)を含有することを特徴とする請求項11に記載の非毒性紫外線遮断剤。
【請求項13】
前記非毒性紫外線遮断用抽出物は、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)としてパリチン、アステリナ330及びシノリンを含むことを特徴とする請求項12に記載の非毒性紫外線遮断剤。
【請求項14】
前記非毒性紫外線遮断用抽出物は、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)としてポルフィラ334をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の非毒性紫外線遮断剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518871(P2013−518871A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551898(P2012−551898)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006099
【国際公開番号】WO2011/096628
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(512206839)インダストリー−アカデミック コオペレーション ファウンデイション,ユニヴァーシティ オブ インチョン (1)
【Fターム(参考)】