説明

納豆の保存方法

【課題】 納豆の風味が損なわれないようにすると共に大豆の歯応えや風味(味覚)が低下しないようにすること、及び酸素不足による納豆菌の活性喪失で嫌気性雑菌の繁殖を防止して長期に保存できるようにすること。
【解決手段】 本発明は、納豆を収納した容器の内部空間部分に濃縮酸素ガスを含ませたシート状部材を配設して密閉し、該容器を3℃以下で凍結しない温度範囲で低温保存するようにしたことによって、納豆菌を低温で冬眠状態にするが呼吸による酸素不足が生じないようしたので、納豆の熟成とアンモニアの発生とを抑制することができ、長期に保存しても納豆自体が劣化せず風味や歯応えが損なわれず美味しく食することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟成した納豆を適宜の容器に収納した状態で長期に保存することができるようにした納豆の保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の納豆の長期保存に関しては、種々のやり方が公知または周知になっている。第1の公知例として、例えば、通常の製法で生成した納豆を、攪拌装置により所定回数、少なくとも50回以上、望ましくは100回以上攪拌して糸引き状態になった納豆を、そのままか或いは薬味や調味料を添加して混ぜた上、所定の容器に入れて蓋をし、必要に応じて密閉した上で冷凍する冷凍納豆が公知になっている(特許文献1)。
【0003】
この冷凍納豆は、加熱解凍或いは自然解凍などにより常温に戻し食に供する、というものであり、味覚と香りが良く、保存性も高いというものである。
【0004】
第2の公知例として、発行を終了した納豆(完成品)の容器を密閉し、該容器中に酸素を吸収する薬剤の一定量を納豆本体に混入しないように加え、以って容器内の酸素濃度を低下させ、納豆の二次発酵を抑えて納豆の品質劣化を防止するようになることを特徴とする納豆の保存法が公知になっている(特許文献2)。
【0005】
この保存法は、密閉した容器内の酸素濃度を低下させるために酸素吸収薬剤を入れ、酸素濃度の低下によって納豆菌の活性を低下させて二次発酵を抑え、それによってアンモニアの生成を抑えて品質の劣化を防止するというものである。
【0006】
第3の公知例として、大豆を原料とする発酵食品(納豆を主体に説明している)の保存方法において、発酵工程を完了した発酵食品を密封可能な容器に収容して発酵食品と空気の接触を断つことにより発酵食品の更なる発酵を停止させることを特徴とする発酵食品の保存方法が公知になっている(特許文献3)。
【0007】
この発酵食品の保存方法は、発酵した納豆を容器に入れて密封し納豆と空気との接触を断って、納豆菌の発酵を完全に停止させ、室温保存を可能にしたというものである。
【0008】
【特許文献1】特開2004−194527号公報
【特許文献2】特開平10−165130号公報
【特許文献3】特開平5−260922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記特許文献1に記載の冷凍納豆は、大豆を構成している無数の細胞はそれぞれ細胞膜で区画されており、冷凍工程により蛋白質から水分が分離して凍結することで必然的に細胞膜の大半が破壊されるのであり、その冷凍納豆を加熱または自然解凍したときに、一度分離した水分が溶けても破壊された細胞膜は元に戻らないのであり、蛋白質と水分とが単に混ざった状態にしかならないので、既に大豆の風味は損なわれており、食した時に歯応えや味覚が低下してしまうという問題点を有している。
【0010】
また、前記特許文献2に記載の保存法は、密閉した容器内に酸素吸収薬剤を入れて酸素濃度を低下させ、納豆菌が酸素不足で活性を低下させて二次発酵を抑えるとしているが、酸素不足になると好気性の納豆菌は活性が失われ、徐々に死滅するかまたは嫌気性の雑菌に抵抗できなくなってしまい、雑菌が繁殖して納豆を腐敗させ腐敗臭の発生やカビの発生を増長させてしまうという問題点を有している。
【0011】
さらに、前記特許文献3に記載の納豆の保存方法は、容器に入れた納豆を密封して納豆と空気との接触を断って、納豆菌の発酵を完全に停止させるというものであるが、好気性の納豆菌が空気に全く接触しない状態であると、やはり納豆菌は活性が失われ、徐々に死滅するかまたは嫌気性の雑菌に抵抗できなくなり、雑菌が繁殖して納豆を腐敗させ腐敗臭発生やカビの発生を増長させてしまうという問題点を有している。
【0012】
従って、前記公知技術に係る納豆の保存方法においては、納豆の風味が損なわれないようにすると共に大豆の歯応えや風味(味覚)が低下しないようにすること、及び酸素不足による納豆菌の活性喪失で嫌気性雑菌の繁殖を防止して長期に保存できるようにすることに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る納豆の保存方法は、所要量の納豆を所要の容器内に収納し蓋部材を施蓋し内部空間を残して包装されている納豆を長期に保存する方法であって、該容器の内部空間部分に濃縮酸素ガスを含ませたシート状部材を配設して密閉し、該容器を3℃以下で凍結しない温度範囲で低温保存するようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
前記納豆の保存方法に係る発明においては、低温保存の好ましい温度範囲は、0.5〜2℃の範囲であること;を付加的な要件として含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る納豆の保存方法においては、納豆を収納した容器の内部空間部分に濃縮酸素ガスを含ませたシート状部材を配設して密閉し、該容器を3℃以下で凍結しない温度範囲で低温保存するようにしたことによって、納豆菌を低温で冬眠状態にするが呼吸による酸素不足が生じないようしたので、納豆の熟成とアンモニアの発生とを抑制することができ、長期に保存しても納豆自体が劣化しないで風味が損なわれず美味しく食することができるという優れた効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る納豆の保存方法は、凍結しない低温保存するので納豆自体を凍結させないため、長期保存後においても食する場合に簡単に常温に戻すことができ、且つ大豆の細胞膜が破壊されていないので、納豆自体が劣化せず歯応えも充分あって美味しく食することができるという優れた効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を図示の具体的な実施の形態に基づいて詳しく説明する。図1と図2は、好ましい一実施の形態に係る納豆の保存方法を説明するためのものであり、図1は斜視図であり、図2は納豆を収納した容器の拡大断面図である。
【0018】
まず、第1の実施の形態に係る納豆の保存方法は、図1および図2に示したように、所要の容器1内に発酵済みの納豆2を所要量収納し、その上部に通気性のフィルム材からなる仕切部材3を載置し、収納した納豆2の上部に所要の内部空間1aを形成する。
【0019】
この内部空間1aに、高濃度の酸素ガスを含ませたシート状材料4と辛子や醤油などの調味料が入った複数の小袋5を収納して蓋部材6を施蓋し、実質的な包装を完了する。
【0020】
この場合に使用されるシート状材料4は、例えば、所要厚さ(2〜5mm)のスポンジ状材料または不織布などであり、容器1の大きさに対応して内部空間1aに収納できる大きさに切断したものである。
【0021】
このシート状材料4に高濃度の酸素ガスを含ませる場合には、例えば、所要大きさの合成樹脂製の袋体に多数のシート状材料4を収納し、その袋体の内部空気を吸引排出しすると共にシート状材料4の内部隙間の空気も排出して全体を圧縮した後に、ガスボンベから酸素ガスを袋体内に吹き込んで圧縮したシート状材料4を元の状態に戻すことによって、シート状材料4の内部隙間全体に渡って高濃度の酸素ガスを含ませることができるのである。
【0022】
このように高濃度の酸素ガスを含ませたシート状材料4を、納豆2を収納した容器1の内部空間1aに配設しておくことにより、内部空間1aは外気よりも酸素濃度が高い状態で維持されており、蓋部材6が施蓋されているので輸送・搬送においても酸素ガスが外部に排出してしまうことはないのである。
【0023】
そして、納豆2を製造し容器1内に収納すると共に、高濃度の酸素ガスを含ませたシート状材料4も容器1の内部空間1aに入れて一緒に包装し、出荷するまでは適宜の冷蔵庫内において3℃以下の凍結しない範囲、好ましくは0.5〜2℃の範囲で低温保存する。
【0024】
包装した納豆2を3℃以下の低温にすることによって、納豆菌を強制的に冬眠状態にさせ、それによって納豆菌の活性化を一時的に減衰または停滞状態にし、納豆熟成の進行を停止させると共に、大豆タンパク質の分解が停止するのである。
【0025】
大豆タンパク質の分解が停止することによって、アンモニアの発生が大幅に抑制されると共に、苦味アミノ酸などの苦味成分の生成も抑制され、それによって納豆としての風味と歯応えとが失われず、長期に渡って品質劣化が防止されるのである。
【0026】
ところで、納豆菌が冬眠状態になって活性化が停滞しても、好気性の納豆菌は呼吸しているのであり、それによって容器1内の酸素が少しずつ、例えば、通常の1/10〜1/20程度が消費されるのであり、その消費によって少しずつアンモニアが放出されるのである。しかしながら、容器1内には高濃度の酸素ガスを含ませたシート状材料4が入っているので、通常の空気中の酸素量は略20%程度であるが、容器1における内部空間1aの容積からして略3〜5倍程度の酸素濃度になっていると考えられる。
【0027】
[実験]
次のとおり実験した。まず、四角形状の発泡スチロール容器に入った市販の同じメーカーの国産大豆を使用した納豆(賞味期限残7日)を10個購入し、厚さ3mmのシート状スポンジを略5cmの正方形に切った6枚のシート状材料をポリビニール袋に入れ、吸引式真空掃除機で内部の空気を吸引排除しシート状材料を押し潰した状態にした後に、市販の吸入酸素器にて袋の中に酸素を注入してシート状材料を元の状態に戻し、購入した納豆の内、6個の容器の蓋を開けて内部に酸素を含ませたシート状材料をそれぞれ一枚づつ入れて蓋をし、その蓋の周りに接着テープを貼って密封状態にした。
【0028】
残った4個の納豆の内、1個については、現状を把握するため、蓋を開けて外見と臭気とを調べると共に、食して風味(味)、歯応えなどを賞味した結果、良好であった。残り3個の納豆は、一応日付などをメモして通常の食品と同様に冷蔵庫の中に入れ保冷状態で保存することにし、前記シート状材料を入れた6個の納豆は日付などをメモして、温度管理ができる冷凍庫を凍結しない2℃以下の温度に設定し、その冷凍庫の中に入れて低温保存した。
【0029】
1ヶ月後に、冷蔵庫で保冷保存した3個の納豆の内1個の納豆を取り出すと共に、冷凍庫で低温保存した6個の納豆の内2個の納豆を取り出し、外見、臭気、風味(味)、歯応えなどの比較をした。その結果は、表1に示すとおりであった。
[表1]


評価:◎=良好、 ○=やや良好、 △=やや劣る、 ▲=劣る。

【0030】
2ヶ月後に、冷蔵庫で保冷保存してある2個の納豆の内1個の納豆を取り出すと共に、冷凍庫で低温保存してある4個の納豆の内2個の納豆を取り出し、外見、臭気、風味、歯応えなどの比較をした。その結果は、表2に示すとおりであった。
[表2]


評価:◎=良好、 ○=やや良好、 △=やや劣る、 ▲=劣る。
【0031】
3ヶ月後に、冷蔵庫で保冷保存してある1個の納豆を取り出すと共に、冷凍庫で低温保存してある2個の納豆を取り出し、外見、臭気、風味、歯応えなどの比較をした。その結果は、表3に示すとおりであった。
[表3]

評価:◎=良好、 ○=やや良好、 △=やや劣る、 ▲=劣る。
【0032】
上記の実験からして、単に冷蔵庫での保冷保存した納豆は、ほぼ1ヶ月を過ぎると納豆菌の呼吸によって容器内に酸素が無くなり発生したアンモニアで充満され、納豆が熟成し過ぎて一部にカビが発生するようになり、風味も失われて食品として全く好ましくない状態になる。さらに、2ヶ月以上を過ぎると全体的に変色が激しくアンモニア臭と腐敗臭とが強くなり、嫌気性の菌が繁殖して納豆の一部が腐敗すると共に全面を覆うようにカビが発生し、食せない状態になってしまう。
【0033】
これに反して本発明に係る納豆の保存方法によれば、納豆を3℃以下の凍結しない低温で納豆菌を冬眠状態にして熟成を抑制するが、長期の冬眠状態で熟成が抑制されても呼吸は継続しているのであり、容器内には充分な酸素を充満させているので、呼吸が適正に継続されていても熟成は抑制されアンモニアの発生も抑制され、3ヶ月過ぎても納豆として当初の状態と外見も風味等もあまり変化しないのである。
【0034】
これらの事からして、好気性の納豆菌について、限りなく0℃に近い低温にして強制的に冬眠させて周囲に充分な酸素があれば、品質を維持して長期保存が可能になることが解ったのであり、逆に周囲に酸素が無くなってしまうと嫌気性の菌が活性化し蛋白質を分解してアンモニアが発生し、熟成ではなく腐敗する方向になるのであり、長期保存ができなくなることが解ったのである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
いずれにしても本発明に係る納豆の保存方法は、納豆を収納した容器の内部空間部分に濃縮酸素ガスを含ませたシート状部材を配設して密閉し、該容器を3℃以下で凍結しない温度範囲で低温保存するようにしたことによって、納豆菌を低温で冬眠状態にするが呼吸による酸素不足が生じないようしたので、納豆の熟成とアンモニアの発生とを抑制することができると共に、納豆を凍結させていないので大豆の細胞膜が破壊されず、それによって、長期に保存しても納豆自体が劣化せず、風味が損なわれず歯応えも充分あって美味しく食することができるのであり、納豆に限らずこの種発酵食品において、その容器の中に濃縮酸素ガスを存在させることによって、品質を低下させないで長期保存ができるように広い範囲で有用に利用することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る納豆の保存方法を具体的に実施する一例の形態を略示的に示した斜視図である。
【図2】納豆を収納した容器内にシート状材料が存在する状態を示した拡大断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 容器
1a 内部空間
2 納豆
3 仕切部材
4 シート状材料
5 小袋
6 蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要量の納豆を所要の容器内に収納し蓋部材を施蓋し内部空間を残して包装されている納豆を長期に保存する方法であって、
該容器の内部空間部分に濃縮酸素ガスを含ませたシート状部材を配設して密閉し、
該容器を3℃以下で凍結しない温度範囲で低温保存すること
を特徴とする納豆の保存方法。
【請求項2】
低温保存の好ましい温度範囲は、0.5〜2℃の範囲であること
を特徴とする請求項1に記載の納豆の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−77648(P2009−77648A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248872(P2007−248872)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(507320638)
【Fターム(参考)】