説明

紙幣搬送シミュレーション方法

【課題】紙幣搬送シミュレーション方法において、多様な折れや皺などを有する条件紙幣が使用される紙幣搬送装置を高信頼性を有しつつ短期間に開発することを可能とすること。
【解決手段】紙幣搬送シミュレーション方法は、ジャム障害情報を分析して各種搬送ガイド形状及び各種障害紙幣の特徴を定性的に一次抽出し、その各種搬送ガイドの形状を簡易化した各種簡易搬送ガイドを用いた搬送実験で得られたジャムし易い各種搬送ガイド形状及び各種条件紙幣の特徴及び寸法を二次抽出してFEMモデルを作成し、このFEMモデルにおける紙幣搬送解析を実行してその解析結果と二次抽出した搬送実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、各種条件紙幣の特徴及び寸法を決めて基準化したFEMモデルを作成し、この基準化したFEMモデルをデータベース格納し、このデータベースをATMの三次元CAD設計システムを用いてシミュレーションする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣搬送シミュレーション方法に係り、特に、条件紙幣が用いられるATM(Automatic Teller Machine)などの紙幣搬送装置に適用可能な紙幣搬送シミュレーション方法に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ATMなどの紙幣搬送装置における紙幣搬送ガイドの設計開発は、既設計データまたは設計者の経験に基づいて紙幣搬送ガイドの試作品を作り、この試作品による紙幣搬送の評価試験から試作品の改良すべき箇所を割り出して再度試作改良品を作り、この試作改良品に対してさらに評価試験を繰り返すといった方法で実施されてきた。
【0003】
従来のような搬送ガイドの試作及び評価を繰り返す方法では、搬送ガイド用試作金型をその都度設計、製造しなければならない。このような開発では、試作段階の評価に膨大な時間が必要となるだけでなく、紙幣搬送障害の模様やジャム障害などが発生するメカニズムなどを具体的に解明することが困難であった。また、ATMなどの紙幣搬送装置においては、多様な折れや皺などを有する、いわゆる癖がある紙幣(条件紙幣)が使用されるため、癖がない紙幣(普通紙幣)の搬送において問題が全くない搬送ガイドでも、条件紙幣が搬送される際にジャム障害が発生することがあった。このような条件紙幣に対する高精度、高信頼性を有する紙幣搬送装置の設計要求が高くなっている。
【0004】
このため、条件紙幣の搬送に対するジャム障害を発生させない信頼性に優れた紙幣搬送装置を短期間で開発できるように、仮想的な解析を用いて条件紙幣に対応した信頼性の高い紙幣搬送装置を開発することが重要となっている。すなわち、解析によって設計の段階で搬送障害をあらかじめ予測することができれば、試作回数の低減ができ、信頼性の高い製品を早期に市場に投入することが可能となるからである。
【0005】
近年では、近似解析手法などを用いたコンピュータシミュレーションによる設計支援方法が採用される傾向にある。この設計支援方法によれば、試作品を作らなくてもある程度の性能を予測、解析可能なことから、製品開発の期間とコストを大幅に削減できる。
【0006】
係るコンピュータシミュレーションには、種々の解析法が用いられ、例えば有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いることがよく知られている。このFEMは、構造物を有限要素と呼ばれる有限の大きさの多数の領域に分割し、各有限要素に比較的簡単な特性を与えて系全体を解析する手法である。
【0007】
そして、搬送装置内で柔軟媒体物の搬送動作をコンピュータシミュレーションする手法としては、次の技術が公知である。
【0008】
特開2002−352176号公報(特許文献1)のシート状柔軟物の運動解析方法では、紙などのシート状柔軟物を複数の微小剛体に分割するとともに、各微小剛体間を3種類の弾性体とシート状柔軟物の並進方向に面分を有するシェル要素とによって連結した運動解析モデルを作成して、シート状柔軟物の三次元動的変形を微小剛体の集合についての運動解析により近似するようにしている。
【0009】
また、特開2002−140372号公報(特許文献2)の柔軟媒体物搬送シミュレーション装置では、柔軟媒体のサイズ情報と三次元搬送経路と移動量情報とに基づいて柔軟媒体の搬送位置を算出するとともに、柔軟媒体の形状、幅方向と直交する面内における二次元形状として算出し、算出された三次元搬送位置と二次元形状とサイズ情報とに基づいて柔軟媒体物の三次元像を作成し、その三次元像をシミュレーション結果として出力するようにしている。このような簡易な手法にて、柔軟媒体物の搬送動作をリアルタイムで且つ三次元的に柔軟媒体搬送動作を表示可能にして、柔軟媒体物の搬送の様子を三次元的に視認し確実に把握できるようになっている。
【0010】
特開2004−171426号公報(特許文献3)の紙搬送設計支援装置では、紙搬送シミュレーションに用いるパーツのデータを出力するものであり、搬送に用いられるパーツの三次元形状データを入力する三次元CADとパーツの属性グループの入力手段及び出力手段とを備えることにより、紙搬送解析のためのシミュレーションで用いるパーツのデータを簡便に受渡すことを可能とするものである。
【0011】
【特許文献1】特開2002−352176号公報
【特許文献2】特開2002−140372号公報
【特許文献3】特開2004−171426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1〜3のような搬送シミュレーションの手法において、紙幣搬送装置の設計に際し、実機を造らずにシミュレーション上でその有効性を検討するためには、まだ解決されるべき点も多い。
【0013】
即ち、特許文献1〜3の搬送シミュレーションの手法では、多様な折れや皺などを有する条件紙幣が使用される紙幣搬送装置への適用性について十分に配慮されておらず、このような条件紙幣が用いられた場合にジャム障害などが発生するおそれがあった。換言すれば、ATMの紙幣搬送装置における紙幣の搬送では、前述したように、多様な折れや皺などを有する条件紙幣の搬送があり、このような条件紙幣の搬送に対してもジャム障害などを発生させない信頼性に優れた紙幣搬送装置を短期間で開発できるようにするための紙幣搬送シミュレーションが望まれる。また、ATMの紙幣搬送装置では、種々の機能を実現するために、様々な形状の搬送ガイド(例えば、直線状の搬送ガイドの他に、2パーツをリンクするV字型受渡し搬送ガイド、搬送の進行方向を変化する屈曲搬送ガイドなど)が設けられ、これらの異なる形状の搬送ガイドにおけるジャム障害の発生を防止することが必要である。
【0014】
本発明の目的は、多様な折れや皺などを有する条件紙幣が使用される紙幣搬送装置を高信頼性を有しつつ短期間に開発することを可能とする紙幣搬送シミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の目的を達成するための本発明の第1の態様は、各種条件紙幣が各種搬送ガイドで搬送される際に発生するジャム障害をコンピュータを用いてシュミレーションする紙幣搬送シミュレーション方法において、既存の実機ATMによる搬送試験などから入手したジャム障害情報を前記コンピュータに記憶し、このジャム障害情報を分析して定性的に一次抽出した各種搬送ガイド形状及び各種障害紙幣の特徴を前記コンピュータに記憶し、前記定性的に一次抽出した各種搬送ガイドの形状を簡易化した各種簡易搬送ガイドを試作して各種条件紙幣の搬送実験を行ない、この搬送実験で得られたジャムし易い各種搬送ガイド形状及びこれに対応する各種条件紙幣の特徴及び寸法を二次抽出して前記コンピュータに記憶し、前記簡易化した搬送ガイド及び条件紙幣のFEMモデルを作成し、このFEMモデルにおける紙幣搬送解析を実行してその解析結果を記憶装置に記憶し、この解析結果と上述した二次抽出した搬送実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、各種条件紙幣の特徴及び寸法を決めて基準化したFEMモデルを作成し、この基準化したFEMモデルをデータベース格納し、このデータベースをATMの三次元CAD設計システムを用いてシミュレーションすることである。
【0016】
係る本発明の第1の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記FEMモデルは、V字型搬送受渡しガイドと先端折れ条件紙幣及び耳折れ条件紙幣との組合せと、屈曲搬送ガイドと短手折れ条件紙幣及び皺付き条件紙幣との組合せとを含むものであること。
(2)前記三次元CAD設計システムからシミュレーションする対象の搬送ガイドのデータを出力してPre/Postプロセッサーによって搬送ガイドの幾何モデルを作成し、前記FEMモデルを備えたデータベースから分析しようとするガイド形状に合わせる条件紙幣モデルを選定し、前記搬送ガイドの幾何モデルと前記条件紙幣モデルとの境界条件及び接触条件を定義してFEMモデルを作成し、この作成したFEMモデルを汎用FEM解析ソフトウェアを用いて解析し、この解析結果をPre/Postプロセッサーによって評価して条件紙幣のジャムの有無を判定すること。
【0017】
また、本発明の第2の態様は、各種条件紙幣が各種搬送ガイドで搬送される際に発生するジャム障害をシュミレーションするコンピュータにおいて動作する紙幣搬送シミュレーションプログラムにおいて、既存の実機ATMによる搬送試験などから入手したジャム障害情報を前記コンピュータに記憶する手順と、このジャム障害情報を分析して定性的に一次抽出した各種搬送ガイド形状及び各種障害紙幣の特徴を前記コンピュータに記憶する手順と、前記定性的に一次抽出した各種搬送ガイドの形状を簡易化した各種簡易搬送ガイドを試作して各種条件紙幣の搬送実験を行ない、この搬送実験で得られたジャムし易い各種搬送ガイド形状及びこれに対応する各種条件紙幣の特徴及び寸法を二次抽出して前記コンピュータに記憶する手順と、前記簡易化した搬送ガイド及び条件紙幣のFEMモデルを作成し、このFEMモデルにおける紙幣搬送解析を実行してその解析結果を記憶装置に記憶する手順と、この解析結果と上述した二次抽出した搬送実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、各種条件紙幣の特徴及び寸法を決めて基準化したFEMモデルを作成し、この基準化したFEMモデルをデータベース格納する手順とを実行させるものである。
【0018】
係る本発明の第2の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記データベースをATMの三次元CAD設計システムを用いてシミュレーションする手順を有すること。
【発明の効果】
【0019】
本発明の紙幣搬送シミュレーション方法によれば、多様な折れや皺などを有する条件紙幣が使用される紙幣搬送装置を高い信頼性を有して短期間に開発することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例について図を用いて説明する。
【0021】
まず、本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法を用いて設計するATMに関して図1を参照しながら説明する。
【0022】
紙幣搬送装置を構成するATM50は、図1に示すように、利用者が紙幣2の入金及び出金を行う入出金口3と、紙幣2の鑑別を行う鑑別部4と、入金した紙幣2を取引成立までの間一時的に集納する一時スタッカ5と、紙幣2の集納及び放出を行う還流庫6と、非還流の紙幣や損券などを集納する入金庫7と、紙幣2の装填及び回収を行う装填回収庫8と、各要素をつなぎ紙幣を双方向に搬送する搬送路1とを備えて構成されている。
【0023】
係るATM50の搬送路1における紙幣搬送動作を説明する。利用者がATM50に入金紙幣2を投入すると、その紙幣2を入出金口3で一枚ずつ分離し、鑑別部4へと搬送する。鑑別部4にて紙幣2の真偽及び枚数を判断し、真券と判断した紙幣を一時スタッカ5に一時的に集納する。真券とならなかった紙幣を入出金口2に搬送して利用者に返却する。利用者により入金金額の確認が行なわれると、紙幣2を一時スタッカ5から金種別に入金庫7及び還流庫6に搬送して集納する。出金時には、利用者に指定された金額に基づき、対応する金種を集納している還流庫6から紙幣を一枚ずつ分離して鑑別部4へと搬送する。鑑別部4にて紙幣枚数や破損の有無を判定し、正常とみなした紙幣2を入出金口3に搬送すると共に、正常とみなされなかった紙幣2を一時スタッカ5に集納した後に入金庫7に搬送し収納する。
【0024】
なお、図1に詳細な搬送ガイドの形状を示してないが、ATM50内の搬送路1には、直線状の搬送ガイドの他に、例えば、2パーツをリンクするV字型受渡し搬送ガイド、搬送の進行方向を変化する屈曲搬送ガイドなどからなる各種搬送ガイドを備えている。
【0025】
次に、本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法について図2を参照しながら説明する。図2は本実施例に係るコンピュータよる紙幣搬送シミュレーション方法を示すフローチャート図である。
【0026】
先ず、既存の実機ATMによる連続搬送試験から紙幣障害情報を入手してコンピュータに入力して記憶装置に記憶し、解析プログラムを用いてこの紙幣障害情報を分析し、紙幣のジャムが発生する箇所やジャムした紙幣の種類とジャム状況などの情報に基づいて搬送ガイド形状及び障害紙幣の特徴を定性的に一次抽出し、記憶装置に記憶する(ステップS1)。
【0027】
しかし、実機ATMによる連続搬送試験では、ある紙幣が一旦ジャムすると、後続紙幣が全て搬送装置内に止まってしまい、紙幣の変形状態などの情報が入手できなくなる。そのため、ステップ1で定性的に一次抽出した搬送ガイドの形状を簡易化した搬送ガイドを試作して各種条件紙幣の搬送実験の検証を行ない、ジャムし易い条件紙幣種を明確化して、条件紙幣及び搬送ガイドの代表寸法や特徴などを二次的に抽出し、記憶装置に記憶する(ステップS2)。
【0028】
次いで、簡易化した搬送ガイドと条件紙幣とを合わせたFEMモデルを作成し、FEMモデルにおける紙幣搬送解析を解析プログラムを用いて実行し、その解析結果を記憶装置に記憶する(ステップS3)。
【0029】
次いで、その解析結果と上述した実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、紙幣ジャムが発生するメカニズムを解明できる解析手法として構築し、条件紙幣の代表的な種類、特徴寸法、剛性などを決めてFEMモデルを基準化し、データベースを作成する(ステップS4)。このデータベースは、ATMの三次元CAD設計システムと連携した紙幣搬送解析システムに組み込まれて用いられる。
【0030】
次に、上述した条件紙幣のFEMモデルを基準化するプロセスによって、紙幣ジャム現象を再現及び解明する代表的な搬送ガイド及びそれに対応する条件紙幣の例を図3を参照しながら説明する。
【0031】
図3(A)はATMにおける2つパーツからなるガイド部21a、21bをリンクするV字型受渡しガイド21の例である。このV字型受渡しガイド21において、左側から送られてきた紙幣2は、回転するローラ9に挟持されることにより右側への搬送力を受け、ガイド部21a、21b内を左から右に搬送される。
【0032】
係るV字型受渡しガイド21では、例えば先端折れ紙幣2aAの先端がガイド部21aの傾斜部と接触することにより、先端折れ紙幣2aAの先端が完全に折れしてしまってジャムすることがある。その場合のガイド部21a、21bの特徴を傾斜角度θ、搬送路隙間h、受渡しV字型幅W、ローラ9からV字受渡し部までの距離Lと設定する。また、このV字型受渡しガイド21では、リンクされる2つガイド部21a、21bの間に搬送方向と直交する方向の隙間があるため、耳折れ紙幣2bAのエッジがガイドのくし歯エッジと接することにより引っかかってジャムすることがある。その場合のガイド部21a、21bの特徴を搬送方向と直交する軸方向の隙間と設定する。
【0033】
図3(B)はATMにおける搬送進行方向を変化するガイド部22aを有する屈曲搬送ガイド22の例である。この屈曲搬送ガイド22において、左側から送られてきた紙幣2は、回転するローラ9に挟持されることにより右側への搬送力を受け、ガイド部22a内を下から上へさらには右側に方向が反転して搬送される。屈曲搬送ガイド22は、搬送路内ローラやベルトを搬送路面内に設けるために、ガイド部22aに一定幅Wの切欠部(図示せず)を設けることが必要である。係る屈曲搬送ガイド22では、短手折れ紙幣2cDや皺付き紙幣2dBが切欠部の出口に設けられた傾斜部と接触することにより、短手折れ紙幣2cDや皺付き紙幣2dBがぺこ折れしてジャムが発生する可能性が高い。その場合の屈曲ガイド部22aの特徴を曲率半径R、切欠部の幅W、出口に設けられる傾斜角θと設定する。
【0034】
次に、条件紙幣を基準化するためのFEMを用いた解析方法について図4を参照しながら説明する。
【0035】
FEMを用いた解析において、その解析結果と上述した実験結果との一致性を得るため、FEMモデルの作成法とその特徴寸法とを決める必要がある。このFEMモデルは、図4に示すように、初期状態の条件紙幣2と、補助ガイド11と、搬送力及び搬送速度を与えるための上下2つの挟持ローラ92、91で構成するローラ搬送部90と、ガイド路10Aの形状を変更できるガイド部10と、から成っている。図4では、条件紙幣2が上述した先端折れ紙幣2aAの例で示され、また、ガイド部10が上述した受渡しガイド部21aの例で示されているが、上述した2種類の搬送ガイド21、22を含む複数の搬送ガイドと対応する条件紙幣2aA、2bA、2cB、2dBを含む条件紙幣との解析が行えるように複数の基本FEMモデルを作成する。なお、図4(B)では、条件紙幣2、挟持ローラ92、91及びガイド路10Aを有限要素に分割したメッシュで表示してある。
【0036】
そして、条件紙幣2が挟持ローラ92、91や狭いガイド10に入り易いため、所定の傾斜角を持つ補助ガイド11を設けて、条件紙幣2と補助ガイド11との間の摩擦係数を0に設定してある。条件紙幣2は、薄い柔軟物であり、解析ではシェル要素に近似する。また、ガイド部10と補助ガイド11は剛体のシェル要素として扱う。ローラ搬送部90は、2つの挟持ローラ91、92のどちらか1つを弾性体に近似して、条件紙幣2に搬送力と速度を与えている。この場合には、剛体としたローラ91はシェル要素として扱い、弾性体としたローラ92は立体的な6面体や4面体要素として扱う。なお、2つの挟持ローラ91、92とも弾性体に近似して条件紙幣2に搬送力と速度を与えるようにしてもよい。また、条件紙幣2は、ローラ挟持力を受ける前に、後端側から初期速度が与えられる。なお、挟持ローラ91、92とも強制的に規定の速度で回転させる。
【0037】
そして、条件紙幣2と、補助ガイド11、挟持ローラ91、92及びガイド部10との接触条件を定義して、FEMモデルを作成する。作成したFEMモデルは、汎用解析ソフトウェア、例えば、Livermore Software Technology Corporation製のLS−DYNA(商品名)の陽解法を用いて解析される。この解析は、実験結果と合わせるために、条件紙幣2の折れ部剛性や、メッシュ分割の合理性を検討する。また、解析に伴う条件紙幣2や、挟持ローラ91、92などの運動物の減衰係数を実験測定から決める。
【0038】
次に、上述した先端折れ条件紙幣2aAの特徴寸法とそのFEMモデルを図5を参照しながら説明する。図5に示す先端折れ紙幣2aAでは、先端折れ長さSは10mm以内に、傾斜角αは60度以内に設置する。データベースに記憶される代表的な寸法は、折れ長さSが10mm、7.5mm及び5mm、傾斜角αが60度、45度、30度の組み合わせにする。複数回の実験検証と解析結果との比較を行い、先端折れ条件紙幣や他種折れ紙幣は、折れ目幅は2mm以内に設定し、この部分の剛性は他の部分の剛性より1/10から1/2までの範囲内に設定する。また、FEMモデルのメッシュを他の部分よりも細化する。
【0039】
次に、図6を参照しながら、図5に示すような条件紙幣の特徴及び寸法を有する条件紙幣モデルのデータベースを用いて、より高効率で高精度の三次元CAD設計システムとの連携が行なえる紙幣搬送シミュレーション方法を説明する。
【0040】
まず、実機設計物のデータを持っている三次元CAD設計システムを起動する(ステップS11)。次いで、検討しようとする対象の搬送ガイドユニットのデータを出力し(ステップS12)、Pre/Postプロセッサーによるガイドの幾何モデルを作成する(ステップS13)。一方、基準化した条件紙幣のFEMモデルを備えたデータベースから、分析しようとするガイド形状を認識した上で、そのガイド形状に合わせる条件紙幣モデルを選定し、所定の条件紙幣モデルのデータを読み出す(ステップS14)。
【0041】
次いで、上述した搬送ガイドの幾何モデルとともに、境界条件と接触条件を定義した上で、FEMモデルを作成する。作成したFEMモデルに、汎用FEM解析ソフトウェア、例えば、例えば上述したLS−DYNAなどの陽解法を用いて、解析を実行する(ステップS15)。この解析結果をPre/Postプロセッサーによって評価し(ステップS16)、条件紙幣のジャムの有無を判定する(ステップS17)。ジャムがあれば、搬送ガイドの特徴設計パラメータの変更と修正を行ない、ステップS11に戻って再度の解析を行なう。ジャムが発生しない場合には、その一つケースの解析を完了する。本発明は、このフローチャートに示すようなプロブラムを作りだし、紙幣搬送シミュレータ方法及びそのシステムを提供する。
【0042】
本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法及びシステムを言い換えると次の通りである。
(1)本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法は、紙幣を搬送するガイドにおけるガイドの設計と紙幣の搬送性能を評価するため、有限要素法を用いて仮想的に紙幣の挙動シミュレーションする方法であって、ガイド及び被搬送紙幣を、それぞれ有限の大きさの多数の要素に分割した有限要素モデル及び紙幣に、所定の設定条件に基づいて近似する条件紙幣モデルを基準化する処理工程を備える。
(2)本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法は、実機の紙幣搬送性能を評価するため、実機搬送ガイドと上記(1)で基準化した条件紙幣モデルを備えたデータベースを用いてシミュレーションする紙幣搬送シミュレーション処理工程と、モデルを基準化する処理及び搬送シミュレーション処理から所定の情報を取得する情報取得処理工程と、三次元CAD設計システムに搬送ガイドの最適設計パラメータをリアルタイムに得る工程とを備える。
(3)本実施例の紙幣搬送シミュレーション方法は、条件紙幣モデルを基準化する処理工程の設定条件を、搬送ガイドの特徴に合わせる所定の条件紙幣の物性条件、形状条件及び特徴寸法に基づいて決定し、紙幣搬送シミュレーション処理工程の搬送条件を、基準化した条件紙幣モデルと搬送ガイドの幾何モデルに搬送力、搬送速度及び接触条件に基づいて決定し、情報を取得処理工程によって、搬送される紙幣の挙動、形状、性能、ジャム有無情報などに関する情報を取得する方法である。
(4)本実施例の紙幣搬送シミュレーションシステムは、紙幣搬送性能と信頼性を評価するため、有限要素法を用いて仮想シミュレーションシステムであって、紙幣の搬送シミュレーションに関する諸処理工程を行ない、条件紙幣のジャムの有無を自動的に判定する及びガイドの最適設計パラメータを得ることができる演算処理装置を備えている。
【0043】
本実施例によれば、紙幣搬送ガイドの試作をしなくても、紙幣搬送のジャム性能を評価ができ、しかも、試作品の評価試験よりも精度、効率の高い性能評価を行なえ、工数の低減や解析有効性向上の両立を達成する紙幣搬送シミュレーション方法を提供することができる。すなわち、本実施例に係る条件紙幣モデルの基準化と搬送シミュレーション方法及びその装置を適用すると、紙幣搬送の従来の性能推定と試作評価などにかかっていた工数や費用を大幅に減少することができると共に、搬送ガイドの最適設計や、紙幣ジャムに及ぼす影響とジャムの発生メカニズムなど、実機試験では把握が不可能であった現象を明確にすることができるので、ATMの搬送装置の開発に関する改良、改善、性能説明及び最適仕様設計などを効率的に行うことができる。また、紙幣搬送ガイドの特徴に合わせる条件紙幣を基準化する及びジャム自動判定方法では、単種紙幣とガイドにおける解析方法より、膨張な解析作業を減らし、より効率向上と現象解明にもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の紙幣搬送シミュレーション方法を用いて設計するATMの構成図である。
【図2】本実施例に係る紙幣搬送シミュレーション方法を示すフローチャート図である。
【図3】本実施例に係る紙幣搬送シミュレーション方法で用いる搬送ガイド及びそれに対応する条件紙幣の例を示す図である。
【図4】本実施例に係る紙幣搬送シミュレーション方法で用いる条件紙幣モデルを基準化するためのFEM解析方法の説明図である。
【図5】本実施例に係る紙幣搬送シミュレーション方法で用いる先端折れ条件紙幣の有限要素モデルとその特徴寸法を説明するための図である。
【図6】本実施例に係る紙幣搬送シミュレーション方法の適用方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1…搬送路、2…紙幣、2aA…先端折れ紙幣、2bA…耳折れ紙幣、2cB…短手折れ紙幣、2dB…皺付き紙幣、3…入出金口、4…鑑別部、5…一時スタッカ、6…還流庫、7…入金庫、8…装填回収庫、
9…ローラ、10…ガイド部、10A…ガイド路、11…補助ガイド、12…搬送ベルト、21…V字型受渡し搬送ガイド、21a、21b…ガイド部、22…屈曲搬送ガイド、22a…ガイド部、50…ATM(紙幣搬送装置)、90…ローラ搬送部、91…剛体挟持ローラ、92…弾性体挟持ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種条件紙幣が各種搬送ガイドで搬送される際に発生するジャム障害をコンピュータを用いてシュミレーションする紙幣搬送シミュレーション方法において、
既存の実機ATMによる搬送試験などから入手したジャム障害情報を前記コンピュータに記憶し、
このジャム障害情報を分析して定性的に一次抽出した各種搬送ガイド形状及び各種障害紙幣の特徴を前記コンピュータに記憶し、
前記定性的に一次抽出した各種搬送ガイドの形状を簡易化した各種簡易搬送ガイドを試作して各種条件紙幣の搬送実験を行ない、この搬送実験で得られたジャムし易い各種搬送ガイド形状及びこれに対応する各種条件紙幣の特徴及び寸法を二次抽出して前記コンピュータに記憶し、
前記簡易化した搬送ガイド及び条件紙幣のFEMモデルを作成し、このFEMモデルにおける紙幣搬送解析を実行してその解析結果を記憶装置に記憶し、
この解析結果と上述した二次抽出した搬送実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、各種条件紙幣の特徴及び寸法を決めて基準化したFEMモデルを作成し、この基準化したFEMモデルをデータベース格納し、
このデータベースをATMの三次元CAD設計システムを用いてシミュレーションする
ことを特徴とする紙幣搬送シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紙幣搬送シミュレーション方法において、前記FEMモデルは、V字型搬送受渡しガイドと先端折れ条件紙幣及び耳折れ条件紙幣との組合せと、屈曲搬送ガイドと短手折れ条件紙幣及び皺付き条件紙幣との組合せとを含むものであることを特徴とする紙幣搬送シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1に記載の紙幣搬送シミュレーション方法において、
前記三次元CAD設計システムからシミュレーションする対象の搬送ガイドのデータを出力してPre/Postプロセッサーによって搬送ガイドの幾何モデルを作成し、
前記FEMモデルを備えたデータベースから分析しようとするガイド形状に合わせる条件紙幣モデルを選定し、
前記搬送ガイドの幾何モデルと前記条件紙幣モデルとの境界条件及び接触条件を定義してFEMモデルを作成し、
この作成したFEMモデルを汎用FEM解析ソフトウェアを用いて解析し、
この解析結果をPre/Postプロセッサーによって評価して条件紙幣のジャムの有無を判定する
ことを特徴とする紙幣搬送シミュレーション方法。
【請求項4】
各種条件紙幣が各種搬送ガイドで搬送される際に発生するジャム障害をシュミレーションするコンピュータにおいて動作する紙幣搬送シミュレーションプログラムにおいて、
既存の実機ATMによる搬送試験などから入手したジャム障害情報を前記コンピュータに記憶する手順と、
このジャム障害情報を分析して定性的に一次抽出した各種搬送ガイド形状及び各種障害紙幣の特徴を前記コンピュータに記憶する手順と、
前記定性的に一次抽出した各種搬送ガイドの形状を簡易化した各種簡易搬送ガイドを試作して各種条件紙幣の搬送実験を行ない、この搬送実験で得られたジャムし易い各種搬送ガイド形状及びこれに対応する各種条件紙幣の特徴及び寸法を二次抽出して前記コンピュータに記憶する手順と、
前記簡易化した搬送ガイド及び条件紙幣のFEMモデルを作成し、このFEMモデルにおける紙幣搬送解析を実行してその解析結果を記憶装置に記憶する手順と、
この解析結果と上述した二次抽出した搬送実験結果とを比較してよく一致するものを選択し、各種条件紙幣の特徴及び寸法を決めて基準化したFEMモデルを作成し、この基準化したFEMモデルをデータベース格納する手順とを実行させるための紙幣搬送シミュレーションプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載された紙幣搬送シミュレーションプログラムにおいて、前記データベースをATMの三次元CAD設計システムを用いてシミュレーションする手順を有する紙幣搬送シミュレーションプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−235714(P2006−235714A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45582(P2005−45582)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】