説明

紙幣識別機

【課題】紙幣識別機において、真券の受入性能と偽札の排除性能が向上し、高い識別精度で、販売チャンスを逃すことのないようにする。
【解決手段】挿入口2から挿入された紙幣1を搬送ローラ3により搬送路5内に搬送し、CPU10により紙幣1の真贋を判別する。その際、光センサ6及び磁気センサ7で紙幣1の厚さ、色、模様のデータ、及び磁気インクの塗布分布のデータを収集するとともに、インクジェットヘッド12により紙幣1に偽札判定用の特殊インクを塗布し、光センサ6と同一ライン上に配設した光センサ13によりその特殊インクを塗布した部分の紙幣1の色を検出し、それらのデータを基に紙幣1の真贋を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動販売機等に搭載される紙幣識別機、特に挿入された紙幣が真券であるかを識別する識別精度が向上した紙幣識別機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動販売機、あるいは遊技場での両替機や玉貸機には、挿入された紙幣が真券であるかを識別する紙幣識別機が搭載されている。図5はこのような従来の紙幣識別機の構成を示す図である。同図の(a)は紙幣識別機の側断面図、(b)は識別センサの配置位置を示す背面図である。
【0003】
この紙幣識別機は、紙幣1の挿入口2、挿入された紙幣1を搬送する搬送ローラ3、紙幣1の搬送量に応じた量のクロックパルスを出力するタコジェネレータ4、紙幣1の搬送路5、搬送路5の途中に配置された紙幣識別用の光センサ6と磁気センサ7、紙幣1を一時保留するエスクロ部8、紙幣1の収納庫9、CPU(Central Processing Unit)10、及びしきい値テーブル11を備えている。
【0004】
図6は上記構成の従来の紙幣識別機の動作を示すフローチャートである。挿入口2に紙幣1が挿入されるまで待機状態となり、挿入口2に紙幣1が挿入されると(S1)、その紙幣1は搬送ローラ3により引き込まれ、搬送路5内に搬送される(S2)。CPU10は、タコジェネレータ4のクロックに同期して、識別センサとして搬送路5近傍に配置された光センサ6と磁気センサ7により順次検出した紙幣1に対する赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比のデータを一時メモリ(図示せず)に記憶するとともに、紙幣1の厚さ、色、模様、及び磁気インクの塗布分布のデータを一時記憶して、それらのデータを収集する(S3)。識別センサによるデータの収集が順次行われ、全データの収集が終了すると(S4)、それらのデータを特徴のあるエリア毎に集計する(S5)。そして、集計したデータをしきい値テーブル11と比較し(S6)、紙幣1が真券であるかを判別する(S7)。このとき、データが真券の分布範囲に全てある場合は真券と判別し、その紙幣1をエスクロ部8に一時的に保留した後、収納庫9へ収納する(S8)。また、真券ではないと判別した場合には、その紙幣1を挿入口2へ返却する(S9)。
【0005】
ここで、上述の紙幣の真贋の判別に際して、真券であるかの識別精度を上げると古い紙幣に対して誤判断し、紙幣識別機の稼動率が低下する恐れがある。すなわち、真券の分布範囲のしきい値テーブルを狭くすると紙幣の受入率が低下して、紙幣識別機の稼動率が低下する恐れがある。そこで、稼働率を低下させることなしに、偽札投入を的確に抑制することが可能な紙幣識別機が提案されている(例えば特許文献1参照)。これは、紙幣の真贋判別結果に応じて識別精度を切り替えるものである。
【0006】
また、安価、簡易な構成で、紙幣の真贋を容易に判別する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。この方法は、特殊なインクを紙幣に付け、そのインクが付いた部分の色の変化を検知することにより、紙幣の真贋を判別するものである。
【0007】
更に、真券では透かし部とそれ以外の部分との透過光量の差が大きくなり、偽札ではその差が小さくなることを利用し、それらの透過光量の比を求めて精度よく紙幣の真贋を判定することも提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−145688号公報
【特許文献2】特開2000−319559号公報
【特許文献3】特開2005−190256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、紙幣識別機に挿入される紙幣は、流通過程での磨耗や劣化により、識別センサで検出される識別データの分布範囲が広がる傾向にあり、真券でも偽札と判断される恐れがある。また、最近のパーソナルコンピュータ、スキャナ、プリンタ等の処理能力の著しい進歩により、識別センサで検出される偽札データが真券の範囲と重なるようになってきており、偽札を真券として受け入れてしまうという問題点があった。
【0009】
例えば、図3の(a)に示すように、巧妙で精巧にできている偽札あるいは精度の高い偽札では、光センサにより検出した透過光量(Aは赤外光波形、Bは赤色光波形を示す)は真券に近くなってきている。そこで、真券データの有効分布範囲を制限することが有効であるが、この場合、真券の受付率が低下し、この紙幣識別機を搭載した自動販売機の販売効率が低下してしまう。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、真券の受入性能と偽札の排除性能が向上し、高い識別精度で、販売チャンスを逃すことのない紙幣識別機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では上記課題を解決するために、挿入された紙幣が真券であるかを識別する紙幣識別機であって、前記紙幣の所望領域に選択的に特殊インクを塗布するインク塗布手段と、前記特殊インクが塗布された部分の色の変化を検知する光センサと、を備え、前記光センサの出力信号から前記紙幣の紙質を検出して真券であるかを識別することを特徴とする紙幣識別機が提供される。
【0012】
このような紙幣識別機によれば、真券の受入性能と偽札の排除性能が向上し、高い識別精度で、販売チャンスを逃すことがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紙幣識別機は、紙幣の紙質を検出して紙幣が真券であるかを識別するため、真券の受入性能と偽札の排除性能が向上し、高い識別精度で、販売チャンスを逃すことがないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態の紙幣識別機の構成を示す図である。同図の(a)は紙幣識別機の側断面図、(b)は識別センサの配置位置を示す背面図であり、図5に示すものと同一の構成要素に対しては同一符号を付して説明する。
【0015】
本実施の形態では、紙幣1が真券であるかを精度よく識別するために、紙幣1の紙質を検出しており、同時に、紙幣1の模様、色、磁気成分も検出している。
ここでは、紙質の検出手段として、紙幣1の所望領域に特殊インクを塗布するインクジェットヘッド(インク塗布手段)12と、その特殊インクが塗布された部分の紙幣1の色の変化を検知する光センサ6,13が設けられており、光センサ6,13の出力信号から紙幣1の紙質を検出して真券であるかを識別する。この光センサ6,13は、紙幣1の搬送方向の前後の同一走査ライン上にそれぞれ配置され、上記特殊インクが塗布された部分に対するそれぞれの光センサ6,13の出力信号(もしくはその出力を集計したデータ値)を相互に比較することにより紙幣1の紙質を検出する。
【0016】
上記の紙質の検出方法としては、一般に知られている偽札判定用のインク(特殊インク)を用いることが可能で、塗布すると、真券は変色せず、偽札はヨウ素デンプン反応により変色する。紙質の検出には、このインク塗布前後の光センサ6,13の透過光量比の変化を検出することにより行う。この特殊インクとしては、ヨウ素を含むインク、例えばヨウ素と水、ケトン類、エステル類、エーテル類、アルコール類、及びアルカリ金属ヨウ化物溶液からなる群から選ばれる溶剤とからなるインクを用いることができる。
【0017】
また、上記の紙幣識別機は、紙幣1を受け入れる挿入口2、挿入口2から挿入された紙幣1を搬送する複数の搬送ローラ3、紙幣1の搬送量に応じた量のクロックパルスを出力するタコジェネレータ4、紙幣1の搬送路5、搬送路5の途中に配置された紙幣識別用の磁気センサ7、紙幣1を一時収容するエスクロ部8、紙幣1の収納庫9、紙幣1の識別を行うCPU10、真贋判別用のしきい値テーブル11、偽札判定用のインクを蓄えるインクタンク14、及びインクタンク14の偽札判定用のインクの残量を検知する残量検知センサ15を備えている。
【0018】
上記のように構成された紙幣識別機は、インクジェットヘッド12により偽札判定用のインクをダイレクトに紙幣1に吹き付けて塗布し、光センサ6,13によりそのインクが塗布された部分の紙幣1の色の変化を検知する。このとき、真券では変色せず、偽札では変色するので、このインク塗布前後の色変化を検知することにより、高い識別精度で紙幣1の真贋を判別することができる。また、本実施の形態では、上記の紙幣1の紙質の他に、紙幣1の模様、色、磁気成分を光センサ6及び磁気センサ7で検出し、それらの検出結果に基づいて紙幣1が真券であるかを識別している。このため、より高い精度での識別が可能である。
【0019】
図2は第1の実施の形態の紙幣識別機の動作を示すフローチャートであり、図6のフローチャートと同一の制御処理については同一符号を付して説明する。この紙幣識別機の紙幣識別方法は、紙幣1の紙質を検出する検出工程と、この検出工程での検出結果に基づいて紙幣1が真券であるかを判別する判別工程とを有している。図3は偽札に対する光センサ6,13の出力波形を示す図であり、(a)は光センサ6の出力波形、(b)は特殊インクの効果による光センサ13の出力波形を示し、また、17は偽札判定用のインクのインク塗布部、Aは赤外光波形、Bは赤色光波形を示す。なお、インク塗布部17は、紙幣1の図柄に応じて設定することができる。
【0020】
挿入口2に紙幣1が挿入されるまで待機状態となっており、挿入口2に紙幣1が挿入されると(S1)、その紙幣1は搬送ローラ3により引き込まれ、搬送路5内に搬送される(S2)。CPU10は、タコジェネレータ4のクロックに同期して、識別センサとして搬送路5近傍に配置された光センサ6と磁気センサ7により順次検出した紙幣1に対する赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比のデータを一時メモリ(図示せず)に記憶するとともに、紙幣1の厚さ、色、模様、及び磁気インクの塗布分布のデータを一時記憶して、それらのデータを収集する(S3)。このとき、特殊インク塗布用のインクジェットヘッド12及び検出用の光センサ13の配置位置によるが、通常では光センサ6でデータ検出している最中に紙幣1の先端がインクジェットヘッド12の位置に到達し、引き続き光センサ13の位置に到達するので、光センサ6によるデータ検出動作の途中から光センサ6の動作に併行する形で光センサ13によるデータ検出動作が始まる。すなわち、タコジェネレータ4のクロックに同期して、例えば図3の(b)に示すインク塗布部17の位置にインクジェットヘッド12により紙幣1に偽札判定用のインクを塗布し(S11)、識別センサである光センサ13によりそのインクを塗布した部分の紙幣1の赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比のデータを検知し、それらのデータを順次収集する(S12)。
【0021】
上記識別センサによるデータの収集、すなわち磁気センサ7による紙幣1の厚さ、色、模様、及び磁気インクの塗布分布のデータと、光センサ6,13によるインク塗布部17の赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比のデータの収集が順次行われ、全データの収集が終了すると(S4)、それらのデータを特徴のある紙幣1のエリア毎に集計する(S5)。そして、集計したデータをしきい値テーブル11と比較し(S6)、紙幣1が真券であるかを判別する(S7)。このとき、データが全て真券の分布範囲にある場合は真券と判別し(S7)、データが相違して真券ではないと判別した場合はその紙幣1を挿入口2へ返却する(S9)。真券と判別した場合は、更に二つの光センサ6と13で上記偽札判定用のインクが塗布されたインク塗布部17の紙幣1の赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比も比較する(S13)。比較結果、赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比に相違のない場合は真券であると判別し(S14)、その紙幣1をエスクロ部8にエスクロして、収納庫9へ収納する(S8)。また、図3の(b)の丸で囲んだ部分に示すように、ヨウ素デンプン反応で変色した部分がある場合には赤外光の透過光量、赤色光の透過光量、及び赤外光と赤色光の透過光量比に差異が生じるため、真券ではないと判別し、その紙幣1を挿入口2へ返却する(S9)。
【0022】
なお、インクタンク14からインク塗布ローラ16へインクを供給する方法としては、インクタンク14に図示しないインク供給部(ノズル弁、インクジェットヘッド等)を設け、CPU10の制御により自動的に塗布する方法や、インクタンク14のインク供給部(インク塗布ローラ16と接する部分)に、インク保持性の高い材料(後述の多孔質材料、インク吸蔵体等)を用いて、常時、インク塗布ローラ16と接触させておく等が考えられる。また、残量検知センサ15によりインクタンク14の偽札判定用のインクの残量が少なくなったことが検知された場合は、CPU10の制御により図示しない外部出力信号を出力して、管理者等にインクタンク14の交換あるいはインク補充を促すように構成する。
【0023】
このように、本実施の形態では、紙幣1の紙質を検出して紙幣1が真券であるかを識別しているため、真券の受入性能と偽札の排除性能が向上し、高い識別精度で、販売チャンスを逃すことはない。
【0024】
ここで、上述のように、同一走査ライン上の光センサ6と13の出力信号を比較する場合は、光センサ6と13の出力値が同一となるように調整しておくか、あるいは紙幣1の識別動作を開始する前に各々の光センサ6,13の出力を補正することが必要である。また、特殊インクが塗布された部分については、偽札の場合にはその部分が真券の場合よりも低いレベルの信号出力値を示すので、必ずしも二つの光センサ6,13を用いなくても、単独の光センサで正常パターンとの差として検出することができる。その際、特殊インクを塗布する部分を必要に応じて選択する。本実施の形態では、特殊インクを塗布する部分は固定しているが、プリンタと同様インクジェットヘッド12をスキャンして紙幣1のどの部分でも特殊インクを塗布できるようにすることも可能である。なお、インクジェットヘッド12の動作の間紙幣1の搬送を必要に応じて制御したり、光センサ6,13を必要部位に配置することは当然である。
【0025】
また、上記の紙幣1の紙質検出に用いる領域は、上述のように例えば紙幣1の図柄に応じて設定する必要があるが、この紙幣1上の位置の限定は、タコジェネレータ4のクロック数を計数することで容易に可能である。
【0026】
また、前述のように真券の分布範囲のしきい値テーブルを狭くすると紙幣1の受入率が低下して稼動率が低下するが、本実施の形態では、新たな識別要素を持ち込むことによって、従来の識別方法によるしきい値テーブルの設定を狭くする必要はない。
【0027】
図4は本発明の第2の実施の形態の紙幣識別機の構成を示す図である。同図の(a)は紙幣識別機の側断面図、(b)は識別センサの配置位置を示す背面図であり、図1に示すものと同一の構成要素に対しては同一符号を付して説明する。
【0028】
本実施の形態では、インク塗布手段として、インクジェットヘッド12に代えて、無数の連続気孔を有した耐油性ゴムからなるローラで、塗布するパターンに応じて必要部位がマスクされたインク塗布ローラ16を用いている。
【0029】
このような構成であっても、上述の第1の実施の形態と同様の効果が期待できる。
なお、紙幣1への特殊インクの塗布に上記のような塗布に用いる多孔質ローラ、あるいはインク吸蔵体等は、簡易的な印鑑スタンプ等に用いられており、ローラ形状にも、スタンプ形式にも適用することができる。また、インク吸蔵体に、多孔質化学繊維(無数の連続気孔を有する特殊スポンジ体)を採用すれば、さらにインク保持力が高まるので長期間の使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態の紙幣識別機の構成を示す図である。
【図2】第1の実施の形態の紙幣識別機の動作を示すフローチャートである。
【図3】偽札に対する光センサの出力波形を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の紙幣識別機の構成を示す図である。
【図5】従来の紙幣識別機の構成を示す図である。
【図6】従来の紙幣識別機の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
1 紙幣
2 挿入口
3 搬送ローラ
4 タコジェネレータ
5 搬送路
6,13 光センサ
7 磁気センサ
8 エスクロ部
9 収納庫
10 CPU
11 しきい値テーブル
12 インクジェットヘッド
14 インクタンク
15 残量検知センサ
16 インク塗布ローラ
17 インク塗布部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入された紙幣が真券であるかを識別する紙幣識別機であって、
前記紙幣の所望領域に選択的に特殊インクを塗布するインク塗布手段と、
前記特殊インクが塗布された部分の色の変化を検知する光センサと、
を備え、
前記光センサの出力信号から前記紙幣の紙質を検出して真券であるかを識別することを特徴とする紙幣識別機。
【請求項2】
前記光センサは、前記紙幣の搬送方向の前後の同一走査ライン上にそれぞれ配置し、
前記特殊インクが塗布された部分に対するそれぞれの前記光センサの出力信号を相互に比較して前記紙幣の紙質を検出することを特徴とする請求項1記載の紙幣識別機。
【請求項3】
前記インク塗布手段は、インクジェットヘッドを用いたことを特徴とする請求項1記載の紙幣識別機。
【請求項4】
前記インク塗布手段は、連続気孔を有した耐油性ゴムからなるインク塗布ローラを用いたことを特徴とする請求項1記載の紙幣識別機。
【請求項5】
前記紙幣を検出する磁気センサを有していることを特徴とする請求項1記載の紙幣識別機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate