説明

紙質向上剤の製造方法

【課題】従来の嵩高剤に比して、更に高い軽量化(嵩向上)、白色度向上、不透明度向上を達成する紙質向上剤、あるいは同等の嵩向上であってもより紙力低下の少ない紙質向上剤が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】多価アルコール(A)と、分子内に不飽和基2個以上を有する炭素数8〜36の脂肪酸(B1)の比率が20〜95重量%である脂肪酸混合物(B)とを反応させて部分置換エステル化合物の混合物を製造する工程を有する、紙質向上剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙質向上剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護の面から、パルプの使用量削減、すなわち、紙の軽量化と古紙パルプの増配合が求められている。しかしながら、単に紙中のパルプ量を削減し古紙パルプの配合比率を高めて得られる紙は、紙が薄くなることによる不透明度低下とヴァージンパルプよりも紙厚を低下させる古紙パルプ増配による更なる不透明度と白色度の低下が起こり品質の劣るものとなる。また、紙中のパルプ量を低減させる単なる軽量化では、実質的に紙が薄くなり、書籍等に必要とされる質感が劣る結果となる。
【0003】
軽量化による厚さの低下を防止することを目的として、従来より種々の嵩高向上方法が試みられてきた。例えば、プレス圧を低くする製造方法は、平滑性が低下し印刷適性が劣るという問題がある。また、架橋パルプを用いる方法や合成繊維と混抄する方法も提案されているが、パルプのリサイクルが不可能であったり、紙の平滑度が損なわれる結果となり望ましくない。そのため、現在は、紙用嵩高剤としていくつかの商品が市販され多用されてきている。具体的には、特定のアルコール及び/又はそのポリオキシアルキレン付加物(特許文献1)や多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物(特許文献2)、あるいは従来より紙用柔軟剤やサイズ剤として汎用されてきたアミドアミン化合物などがある。
【特許文献1】国際公開第98/03730号パンフレット
【特許文献2】特許2971447号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2の化合物はある程度の軽量化は達成できるものの、現在求められている更なる軽量化のニーズに対してはまだ不十分である。
【0005】
本発明の課題は、紙の軽量化と古紙パルプの増量に伴う前記諸問題を解決することであり、具体的には、従来の嵩高剤に比して、更に高い軽量化(嵩向上)、白色度向上、不透明度向上を達成する紙質向上剤、あるいは同等の嵩向上であってもより紙力低下の少ない紙質向上剤が得られる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多価アルコール(A)〔以下、(A)成分という〕と、分子内に不飽和基2個以上を有する炭素数8〜36の脂肪酸(B1)の比率が20〜95重量%である脂肪酸混合物(B)〔以下、(B)成分という〕とを反応させて部分置換エステル化合物の混合物〔以下、本発明のエステル混合物ということもある〕を製造する工程を有する、紙質向上剤の製造方法に関する。
【0007】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られる紙質向上剤を含有する紙、並びに、上記本発明の製造方法で得られる紙質向上剤を、水又は水性溶剤に溶解又は分散させた形態でパルプスラリーに添加し抄紙する紙の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の嵩高剤に比して、更に高い軽量化(嵩向上)、白色度向上、不透明度向上を達成できる紙質向上剤、あるいは、嵩向上が同等であっても、より紙力低下の少ない紙質向上剤が得られる製造方法が提供される。
【0009】
かかる製造方法により製造された本発明の紙質向上剤を用いて得られた紙は、従来の紙質向上剤を用いて得られた紙に較べて、嵩向上、白色度向上、不透明度向上に優れる。
【0010】
また紙力についても、本発明の紙質向上剤を用いて得られた紙は、従来の紙質向上剤を用いて得られた紙に較べて相対的に紙力の低下が小さい。
【0011】
同様に摩擦係数についても、本発明の紙質向上剤を用いて得られた紙は、従来の紙質向上剤を用いて得られた紙に較べて相対的に摩擦係数の低下が小さい。
【0012】
すなわち、本発明によれば、紙の軽量化と古紙パルプの増量に伴う諸問題を解決し、具体的には、紙の軽量化(嵩向上)、白色度向上、不透明度向上が可能であり、更に紙力低下及び摩擦係数低下の少ない紙質向上剤が提供される。
【0013】
なお、本発明において、紙とは、広くパルプ繊維同士が水素結合、バインダー等により拘束されてシートを形成しているものをいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、%、希釈倍率の指定がないものは重量基準とする。
【0015】
<(A)成分>
本発明で使用する多価アルコールは、好ましくは2〜10価、より好ましくは3〜6価の水酸基を有する化合物であり、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜10の多価アルコールが好ましい。2価アルコールとしては、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜10のもの、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールが、3価以上のアルコールとしては、エーテルを有していてもよい総炭素数3〜24のアルコールで、1分子中の総水酸基数/総炭素数=0.4〜1であるもの、例えばグリセリン、ポリ(n=2〜5)グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アラビトール、ソルビトール、スタキオース、エリトリット、アラビット、マンニット、グルコース、ショ糖などが挙げられる。好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エーテル基を有していてもよい総炭素数3〜12のアルコールで、1分子中の水酸基数/総炭素数=0.5〜1である3価以上のアルコールである。更に好ましくはグリセリン、ポリ(n=2〜4)グリセリン、ペンタエリスリトールであり、最も好ましくは、ペンタエリスリトールである。
【0016】
<(B)成分>
本発明で使用する(B)成分は、分子内に不飽和基2個以上を有する炭素数8〜36の脂肪酸(B1)〔以下、脂肪酸(B1)という〕と、これ以外の脂肪酸、すなわち、分子内に不飽和基を0個又は1個を有する脂肪酸(B2)〔以下、脂肪酸(B2)という〕が用いられる。
【0017】
脂肪酸(B1)は、直鎖でも分岐鎖でもよい。脂肪酸(B1)の炭素数は、12〜28であることが好ましく、16〜24であることがより好ましい。脂肪酸(B1)の不飽和基の数は2〜4個が好ましい。
【0018】
また、脂肪酸(B2)は、直鎖でも分岐鎖でもよい。脂肪酸(B2)の炭素数は、8〜36であることが好ましく、12〜24であることがより好ましい。脂肪酸(B2)の不飽和基の数は0個が好ましい。
【0019】
本発明のエステル混合物を得るには、(A)成分と、(B)成分とを反応させることが好ましい。通常、(B)成分における不飽和基の組成が、実質的にそのままエステル混合物中の不飽和基の組成に反映される。従って、(B)成分は、脂肪酸(B1)と脂肪酸(B2)とを、(B1)/(B2)=20/80〜95/5の重量比で含有する脂肪酸混合物である。
【0020】
この(B)成分のように、不飽和基を2個以上有する脂肪酸(B1)を特定比率で含有する脂肪酸混合物で構成された部分置換エステル化合物の混合物を使用した場合は、この重量比を外れる脂肪酸混合物ないし単独の脂肪酸で構成された部分置換エステル化合物に較べて、相対的に少ない添加量でも高い嵩向上、白色度向上、不透明度向上を実現でき、また添加量が少ないために実質的に紙力の低下も改善される。この作用機構については明確ではないが、不飽和基による分子鎖の変形が大きいために分子配列のパッキング性が低下し、セルロース表面へ定着した後の表面での濡れ拡がりが良好になるためであると推測される。一方、脂肪酸(B1)を(B)成分中5重量%未満又は95重量%を超えて含有する脂肪酸混合物で構成されたエステルでは、紙質向上効果が低下する傾向が見られるが、これはパッキング性が上昇しすぎるためであると推察される。このことから、(B)成分における(B1)/(B2)重量比は、好ましくは30/70〜80/20、より好ましくは40/60〜70/30である。
【0021】
(B)成分としては、コスト面から天然油脂由来の脂肪酸を原料とすることが好ましい。この天然油脂とは、陸産動植物油、水産動植物油であり、例えば、ヤシ油、牛脂、魚油、亜麻仁油、菜種油、大豆油、ひまし油などであり、特に大豆油が好ましい。そして天然油脂由来の脂肪酸は、この天然油脂を分解したり、分解後に硬化あるいは分留して得られる。または油脂を予め硬化あるいは分留した後に分解して得られる。または油脂精製工程で回収された油脂を同様に分解しても得られる。更に、天然油脂由来の脂肪酸が本発明の脂肪酸(B1)含有量〔(B1)/(B2)重量比〕を満たすならば、そのまま(B)成分として使用することもできる。
【0022】
<エステル混合物>
本発明のエステル混合物は、部分置換エステル化合物の混合物であり、従来公知のエステル化反応により得ることが出来る。例えば、(A)成分と(B)成分の混合物に、要すればエステル化触媒を添加し、150〜250℃で反応させることにより得ることもできるし、(B)成分を3塩化リン等で処理して酸塩化物とし、これを(A)成分と混合し、要すればアルカリ触媒を添加して反応させることにより得ることもできる。また、エステル交換法によっても得ることが出来る。
【0023】
また、(A)成分がグリセリンである場合は、本発明の部分置換エステル化合物は、油脂の部分分解エステル、あるいはこれらの硬化、分留等により得られるエステルであってもよい。
【0024】
更に、別々に用意された複数の部分置換エステル化合物を混合して、本発明のエステル混合物を得ても良い。
【0025】
上記の通り、本発明のエステル混合物は部分置換エステル化合物の混合物であり、当該混合物の平均置換度(多価アルコールの水酸基の水素が脂肪酸に置換されている割合)としては、紙質向上効果の観点から、10〜95当量%が好ましく、25〜85当量%がより好ましい。なお、部分置換エステル化合物の平均置換度は、反応に用いる(A)成分と(B)成分の比率により制御できる。
【0026】
また、本発明の部分置換エステル化合物は、オキシアルキレン基、特に炭素数2〜4のオキシアルキレン基を有することができ、そのような構造は、従来公知のアルキレンオキサイド付加反応を行うことで得ることが出来る。その際、エステル化反応時、または反応後にアルカリ触媒等の存在下でアルキレンオキサイドを付加することも出来るし、(A)成分あるいは(B)成分にアルキレンオキサイドを付加した後、エステル化等を行っても良い。
【0027】
本発明に係る部分置換エステル化合物として、炭素数2〜4のオキシアルキレン基(以下OA基)を含むエステル化合物を用いる場合、その数は、エステル化合物1モル当たり平均で0モル超12モル未満が好ましく、0.1〜9モルがより好ましい。
【0028】
なお、エチレングリコール等のようにOA基となり得る多価アルコールを使用した場合においては、それらもOA基に算入する。
【0029】
アルキレンオキサイドはエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)が好ましい。これらはEO、POあるいはEOとPOの混合のいずれでもよい。
【0030】
また、本発明の部分置換エステル化合物又はエステル混合物は、取り扱い性及び性能発現の観点から融点が、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは−50℃以上90℃以下、更に好ましくは−20℃以上80℃以下、更に好ましくは−20℃以上60℃以下、更に好ましくは−20℃以上40℃以下である。融点は、予め冷却して固体にしたエステル化合物を示差走査熱量測定装置(DSC)にて測定(昇温速度2℃/分)した際の熱量がピークを示す温度とする。
【0031】
本発明のエステル混合物について、構成成分の(B)成分が既知である場合は、公知の文献等に基づいた値を(B)成分の組成として採用できる。また、未知の成分については、以下の方法でエステル混合物を得た脂肪酸について分析することで(B)成分の組成を知ることができる。
【0032】
<部分置換エステル化合物の脂肪酸組成の測定方法>
〔I〕試料に過剰のメタノールと三フッ化ホウ素等の無機酸を添加し、70〜80℃に加熱して加溶媒分解して構成脂肪酸をメチルエステル化する。反応混合物を水−ヘキサン等で抽出し、酸や水溶性成分を除去し精製する。具体的には以下の要領で行う。
【0033】
(1)試料0.4〜0.6gをすり合わせ付三角フラスコ200mLにはかり、メタノール約20mLを加えて溶解する。
(2)BF3−メチルアルコールコンプレックス約3mLと沸騰石を入れ、空冷管を取り付けて73〜80℃の水浴中に5〜10分間浸ける。このとき蒸気が空冷管の1/2以下になるように温度を調節する。
(3)放冷後、メチルエステル化物を分液漏斗400mLに移し、10%塩化ナトリウム溶液約80mLを入れ、約80mLのヘキサンで抽出する。
(4)ヘキサン層は、10%塩化ナトリウム溶液約70mLで中性になるまで洗浄する。メチルオレンジ指示薬溶液で確認する。
(5)ヘキサン層に無水硫酸ナトリウム約10g入れて脱水した後、濾紙で別の新しい三角フラスコ300mLに濾過する。
(6)ヘキサン留去装置に取り付け、約50℃でヘキサンを留去する。
(7)残留物にヘキサン約10mLを加え、試料濃度が約5%となるように調製する。
【0034】
〔II〕精製された混合物をガスクロマトグラフにより分析する。ただし、各脂肪酸メチルエステルのリテンションタイム及び強度については試薬等を入手し、検量線を作成しておく必要がある。ガスクロマトグラフ操作条件は以下の通りである。
【0035】
機種〔(株)島津製作所製〕 GC−7AG
検出器 FID
カラム温度 180±10℃
検出器温度 270±10℃
注入口温度 270±20℃
試料注入量 1μL(5%ヘキサン溶液)
感度 2mV、100mA 8×102
キャリヤーガス流量 60mL/min(ヘリウム)
カラム 2m/3mmφ
データ処理装置 C−R1A
【0036】
<紙質向上剤>
本発明の紙質向上剤は、抄紙工程の何れかにおいて添加されるものであり、液体品はそのままで添加してもよいが、固体品は粉砕後あるいは加熱溶融して又は水等で希釈して添加してもよい。また、要すればノニオン系、アニオン系、カチオン系、ポリマー系、好ましくはノニオン系の界面活性剤を乳化剤もしくは分散剤として使用し、水分散液の形態で用いてもかまわない。その際の本発明の紙質向上剤と界面活性剤との比率は、〔本発明の紙質向上剤〕/界面活性剤=99.5/0.5〜70/30(重量比)、好ましくは98/2〜80/20である。
【0037】
本発明の紙質向上剤は、本発明のエステル混合物を50〜100重量%、更に70〜100重量%含有することが好ましい。上記のような(A)成分と(B)成分との反応により得られた、本発明のエステル混合物を含む反応生成物をそのまま、あるいは適宜未反応成分等を除去した後、紙質向上剤として用いることができる。
【0038】
本発明の紙質向上剤としては、多価アルコール(A)と、分子内に不飽和基2個以上を有する炭素数8〜36の脂肪酸(B1)の比率が20〜95重量%である脂肪酸混合物(B)とから得られる部分置換エステル化合物の混合物を含有するものが挙げられる。
【0039】
本発明の紙質向上剤を適用できるパルプ原料としては、TMP(サーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ、LBKP(広葉樹晒パルプ)等の化学パルプなどのヴァージンパルプから、各種古紙パルプに至るものまで広くパルプ一般に適用できるものである。また、本発明の紙質向上剤の添加場所としては、パルプ原料の希薄液が金網上を進む間に濾水されて紙層を形成するまでの抄紙工程であれば特に限定するものではないが、例えば工場ではレファイナー、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加するなど均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。なお、本発明の紙質向上剤はパルプ原料に添加後、そのまま抄紙され紙上に残存する。本発明の紙質向上剤、好ましくは本発明のエステル混合物の添加量は、パルプ原料に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%であるが、系によっては0.1〜1重量%の少量添加でも優れた紙質向上効果が得られる。
【0040】
本発明の紙質向上剤を用いて得られた紙は、従来の紙質向上剤と比較して緊度(測定方法は、後述の実施例記載の方法による)が低く、それは、実施例において例示されている。
【0041】
なお、抄紙時にはロジン、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸、ゼラチン、澱粉、ラテックス等のサイズ剤の他、填料、歩留剤、濾水剤、紙力剤等が添加されてもよい。
【0042】
特に、本発明の紙質向上剤がその機能を発現するためには、本発明に係る部分置換エステル化合物がパルプに定着することが重要であり、そのためには当該エステル化合物の定着を促進する剤を添加することが好ましい。定着を促進する剤としては、硫酸アルミニウム等の無機物質、PAM等のアミド化合物、ポリエチレンイミン、PDADMAC等のカチオン化合物などが挙げられる。定着を促進する剤の添加量はパルプ原料100質量部に対して0.001〜5重量部が好ましい。
【0043】
また、本発明の紙質向上剤を用いて得られた紙は、「紙パルプ技術便覧」(紙パルプ技術協会発行、1992年)の455〜460頁に記載された品目分類の中の新聞巻取紙、印刷・情報用紙、包装用紙等の紙、または板紙に好適に用いられ、特に、印刷・情報用紙に好適に用いられる。
【0044】
また、脱墨パルプは白色度、不透明度、軽量化等を悪化させる傾向になるため、本発明の紙質向上剤は脱墨パルプを含有するパルプ原料を使用する場合に好適に用いられる。脱墨パルプの含有量がパルプ全体の10%以上含まれる場合に良好な効果が見られる。
【実施例】
【0045】
(1)紙質向上剤の製造
以下に示す脂肪酸を用いて、表1に示す組成のエステル混合物を製造し、紙質向上剤として用いた。なお、表1のエステル混合物は、何れも融点が100℃以下であった。
【0046】
(1−1)紙質向上剤No.1の製造
1L4つ口フラスコに大豆油脂肪酸(アルキル組成は以下の通り)452gとペンタエリスリトール(試薬)204gを入れ、窒素気流下で攪拌しながら150℃に昇温して30分保持した。その後、235℃まで昇温して4時間脱水反応を行った。その時の酸価は0.15KOHmg/gであった。
この反応混合物を一旦70℃まで冷却し、1時間熟成し、濾材(ラジオライト#900)を敷いたろ過床で減圧ろ過して未反応のペンタエリスリトールを除去し、エステル平均置換度45当量%の紙質向上剤No.1(450g)を得た。
【0047】
*大豆油脂肪酸のアルキル組成(%は質量%、以下同様)
C16 5〜12%
C18 2〜 7%
C18:1 20〜35%
C18:2 50〜57%
C18:3 3〜 8%
C20以上 0〜 2%
【0048】
上記において、Cの次の数字は炭素数であり、例えば、C18:2は炭素数18で炭素鎖内に二重結合を2つ有する脂肪酸を示す(以下同様)また、脂肪酸のアルキル基組成は、「油脂化学入門 基礎から応用まで」(黒崎富裕・八木和久共著、産業図書、1995年9月発行)に基づくものである(以下同様)。
【0049】
(1−2)紙質向上剤No.2〜3、No.12〜14の製造
紙質向上剤1の製造に従い、下記の脂肪酸を用いて表1に示す組成のエステル混合物を製造し、紙質向上剤として用いた。
*大豆油脂肪酸(高沸点留分)のアルキル組成
C16 29〜30%
C18 12〜14%
C18:1 13〜15%
C18:2 33〜36%
C18:3 4〜 6%
C14以下 0〜 1%
C20以上 0〜 2%
【0050】
*亜麻仁油脂肪酸のアルキル組成
C16 4〜 9%
C16:1 0〜 1%
C18 2〜 5%
C18:1 20〜35%
C18:2 5〜20%
C18:3 30〜58%
C20以上 0〜 2%
【0051】
(1−3)紙質向上剤No.4の製造
1L4つ口フラスコに大豆油を297g、グリセリン6.3g、水酸化カリウム0.96gを入れ、窒素気流下で攪拌しながら150℃に昇温してエステル交換反応を4時間行い、エステル平均置換度80当量%のエステル混合物(275g)を製造し、紙質向上剤No.4として用いた。
【0052】
(1−4)紙質向上剤No.5〜7、No.15の製造
紙質向上剤4の製造に従い、下記の脂肪酸を用いて表1に示す組成のエステル混合物を製造し、紙質向上剤として用いた。
【0053】
*コーン油脂肪酸のアルキル組成
C16 7〜13%
C18 2〜 5%
C18:1 25〜45%
C18:2 40〜60%
C18:3 0〜 3%
C20以上 0〜 1%
【0054】
*落花生油脂肪酸のアルキル組成
C16 6〜13%
C18 2〜 7%
C18:1 35〜70%
C18:2 20〜40%
C18:3 0〜 1%
C14以下 0〜 2%
C20以上 3〜14%
【0055】
*パーム核油脂肪酸のアルキル組成
C8 3〜 5%
C10 3〜 7%
C12 44〜55%
C14 10〜17%
C16 6〜10%
C18 1〜 7%
C18:1 1〜17%
C18:2 0〜 2%
【0056】
(1−5)紙質向上剤No.8の製造
1.5Lオートクレーブに大豆油416g及びグリセリン8.8g、水酸化カリウム1.34gを仕込み、攪拌下で120℃まで昇温した。次いで上記反応物にEOを101g反応させ、エステル平均置換度80当量%、EO平均付加モル数4モルのエステル混合物を製造し、紙質向上剤8として用いた。この時の反応条件は、温度145℃、圧力80〜400kPaであった。
【0057】
(1−6)紙質向上剤No.9〜11の製造
紙質向上剤No.8の製造に従い、表1に示す組成のエステル混合物を製造し、紙質向上剤として用いた。
【0058】
(1−7)紙質向上剤の水分散液の調製
紙質向上剤No.1を10重量部、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(コータミン24;花王(株))0.5重量部(固形分換算)、ラウリルアルコールEO付加物(エマルゲン147;花王(株))0.5重量部を混合し、イオン交換水で全量を100重量部とし、特殊機化工業製ホモミキサー6000rpmで1分間攪拌して紙質向上剤No.1の水分散液を得た。紙質向上剤No.2〜15についても、必要に応じて(紙質向上剤No.2及びNo.12)50〜70℃に加熱したこと以外は、上記の方法で水分散液を調製した。
【0059】
(2)評価
(抄紙方法)
LBKPを室温下、叩解機にて離解、叩解して2.2%のLBKPスラリーとしたものを用いた。カナディアンスタンダードフリーネスは420mlであった。2.2%のLBKPスラリーを抄紙後のシートの坪量が絶乾で80g/m2になるように上記パルプをはかりとってから、カチオン化澱粉(CATO308、日本エヌエスシー製)0.5%(重量基準、対パルプ、以下同じ)、工業用硫酸バンド1.0%、紙質向上剤(表1)の水分散液1%(エステル混合物として)を攪拌しながら添加し、その後パルプ濃度が0.5%になるように水で希釈し、カチオン性ポリアクリルアミド系歩留向上剤(パーコール47、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)0.015%、攪拌後角型タッピ抄紙機にて150メッシュワイヤーで抄紙し、コーチングを行って湿紙を得た。抄紙後の湿紙は、プレス機にて3.5kg/cm2で5分間プレスし、ドラムドライヤーを用い、105℃で2分間乾燥した。
【0060】
得られた紙を23℃、湿度50%RHの条件で1日間調湿し、下記の方法により諸物性を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(緊度)
調湿された紙の坪量(g/m2)と厚み(mm)を測定し、下記計算式により緊度(g/cm3)を求めた。
計算式: (緊度)=〔(坪量)/(厚み)〕×0.001
緊度は絶対値が小さいほど嵩が高く、また緊度の0.02g/cm3の差は有意差として十分に認識される。
【0062】
(破裂強度)
紙力測定項目としてJIS P 8112により破裂強度を測定した。0.01MPaの差は有意差として十分に認識される。
【0063】
(白色度)
JIS P 8123に基づき、ハンター白色度(WB)を測定し、白色度とした。白色度0.5ポイント以上の差は有意差として認識される。
【0064】
(不透明度)
JIS P 8138Aに基づき、不透明度を測定した。不透明度0.5ポイント以上の差は有意差として認識される。
【0065】
(摩擦係数)
JIS P 8147に基づき、静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。何れの摩擦係数も50ポイント以上の差は有意差として認識される。
【0066】
【表1】

【0067】
表中、PTはペンタエリスリトール、GLはグリセリンである。
【0068】
表1に示されるように、本発明の紙質向上剤No.1〜11を用いた実施例1〜11では、嵩性能、白色度度、不透明度、破裂強度、静摩擦係数、動摩擦係数の何れも良好な結果となっている。一方、飽和脂肪酸のみを使用した比較例1は嵩性能は認められるが、紙力や摩擦が低下する。不飽和基を1個しか持たない脂肪酸を使用した比較例2、脂肪酸(B1)の比率が100重量%の脂肪酸を使用した比較例3、脂肪酸(B2)の比率が2重量%以下の脂肪酸混合物を使用した比較例4は、何れも嵩性能が十分ではない。また、紙質向上剤を用いない比較例5は、嵩性能が十分でなく、白色度度、不透明度も劣る傾向となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール(A)と、分子内に不飽和基2個以上を有する炭素数8〜36の脂肪酸(B1)の比率が20〜95重量%である脂肪酸混合物(B)とを反応させて部分置換エステル化合物の混合物を製造する工程を有する、紙質向上剤の製造方法。
【請求項2】
多価アルコールが2〜10価の多価アルコールである請求項1記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸(B1)が天然油脂由来の脂肪酸である請求項1又は2記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項4】
脂肪酸混合物中、脂肪酸(B1)以外の脂肪酸の炭素数が8〜36である請求項1〜3の何れか1項記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の紙質向上剤の製造方法で得られる紙質向上剤。
【請求項6】
請求項5記載の紙質向上剤を含有する紙。
【請求項7】
請求項5記載の紙質向上剤を、水又は水性溶剤に溶解又は分散させた形態でパルプスラリーに添加し抄紙する紙の製造方法。

【公開番号】特開2007−177072(P2007−177072A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376990(P2005−376990)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】