説明

素地調整装置

【課題】高所作業となる鋼管やハンガーロープの素地調整を、人手に代わり極めて短時間で行うことができる素地調整装置を提供すること。
【解決手段】長尺体1に沿って移動自在に取り付けする移動基体2に、前記長尺体1に被嵌可能な被嵌体3を設けると共に、この被嵌体3は、長尺体1に被嵌したままこの長尺体1に沿って移動基体2に対し往復スライド移動自在に設け、この被嵌体3は、前記長尺体1が貫通する貫通被嵌部4に長尺体1の外周面に圧接する研磨体5を設け、前記移動基体2に、前記被嵌体3をこの移動基体2に対し前記長尺体1に沿って往復スライド駆動せしめる駆動装置6を設けて、この駆動装置6による被嵌体3の往復スライドにより前記研磨体5が長尺体1の外周面を往復研磨し得るように構成した素地調整装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鋼管やハンガーロープなどの金属製長尺体の表面の錆や塗膜を除去したり、表面を研削したりするための素地調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄塔の構造要素である鋼管や、吊り橋の構造要素であるハンガーロープには、一般的に防食手段として塗装が施されているが、塗膜は経年劣化するため定期的な塗り替えが必要である。
【0003】
この塗り替え作業にあたっては、前処理として劣化塗膜を除去する素地調整作業が必須であるが、この作業は手工具やディスクサンダー等を用いた人力作業に依存しているのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄塔の鋼管や吊り橋のハンガーロープは、足場の不安定な高所にあるため、例えば高所作業用の昇降ゴンドラを設置し、この昇降ゴンドラに作業者が搭乗して人力の素地調整作業を行うが、この作業は典型的な危険・苦渋作業である。
【0005】
また、かような環境で所定の素地調整品質を確保するためには長時間の作業が必要であり、膨大な労力とコストがかかる。
【0006】
本発明は、このような素地調整作業の現状の工法が抱える問題点を解決するために開発されたもので、鋼管やハンガーロープを、人手に代わり極めて短時間で所定品質の素地調整を行うことができる素地調整装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
長尺体1に沿って移動自在に取り付けする移動基体2に、前記長尺体1に被嵌可能な被嵌体3を設けると共に、この被嵌体3は、長尺体1に被嵌したままこの長尺体1に沿って移動基体2に対し往復スライド移動自在に設け、この被嵌体3は、前記長尺体1が貫通する貫通被嵌部4に長尺体1の外周面に圧接する研磨体5を設け、前記移動基体2に、前記被嵌体3をこの移動基体2に対し前記長尺体1に沿って往復スライド駆動せしめる駆動装置6を設けて、この駆動装置6による被嵌体3の往復スライドにより前記研磨体5が長尺体1の外周面を往復研磨し得るように構成したことを特徴とする素地調整装置に係るものである。
【0009】
また、前記研磨体5を前記長尺体1の外周面に圧接せしめる圧接付勢手段9を備えたことを特徴とする請求項1記載の素地調整装置に係るものである。
【0010】
また、前記移動基体2は、複数のガイドフレーム部7を設けてこの各ガイドフレーム部7に前記被嵌体3を往復スライド移動自在に設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の素地調整装置に係るものである。
【0011】
また、前記被嵌体3の前記貫通被嵌部4に、この貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1の周りを旋回可能な周回体8を設け、この周回体8に前記研磨体5を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の素地調整装置に係るものである。
【0012】
また、ロープ状の前記長尺体1に用いる素地調整装置であって、前記研磨体5は、前記長尺体1の撚り山10と撚り溝11に合致して圧接可能な形状に形成し、前記被嵌体3が前記長尺体1に沿って移動すると、前記研磨体5が長尺体1の撚り溝11に沿って前記周回体8と共に被嵌体3に対し倣い回転するように構成したことを特徴とする請求項4記載の素地調整装置に係るものである。
【0013】
また、前記貫通被嵌部4に、この貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1の外周方向に沿って複数の前記研磨体5を並設状態に設け、この複数の研磨体5が貫通被嵌部4に貫通する長尺体1の外周面の全周に圧接する構成としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の素地調整装置に係るものである。
【0014】
また、前記貫通被嵌部4は筒状に形成し、前記研磨体5で前記長尺体1の外周面を研磨した際にこの貫通被嵌部4内で発生する研磨粉を吸引するための吸引装置12を前記被嵌体3若しくは前記移動基体2に設けるか、若しくは吸引装置12を接続可能な接続部13を前記被嵌体3若しくは前記移動基体2に設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の素地調整装置に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、例えば、鉄塔の構造要素である鋼管や、吊り橋のハンガーロープを長尺体(素地調整対象)とするような高所作業に本装置を用いることができ、これにより人力による危険作業を回避でき、しかも、手工具やディスクサンダー等を用いた人力作業に比べて作業効率が著しく向上するので、大幅な工期短縮と施工コスト削減を実現できることとなるなど、極めて実用性に優れた画期的な素地調整装置となる。
【0016】
また、請求項2記載の発明においては、圧接付勢手段により研磨体が長尺体の外周面に良好に圧接した状態で確実に研磨が行われるので、長尺体の外周面の素地調整を極めて効果的に行うことができる一層実用性に優れた構成の素地調整装置となる。
【0017】
また、請求項3記載の発明においては、移動基体に対する被嵌体の往復スライド移動構造を簡易に設計実現可能となると共に、複数のガイドフレーム部をガイドとして被嵌体が移動基体に対し安定的に往復スライド移動できる一層実用性に優れた構成の素地調整装置となる。
【0018】
また、請求項4記載の発明においては、研磨体が長尺体を往復研磨する際に、研磨体が周回しながら長尺体の外周面の広範囲を研磨できる一層実用性に優れた構成の素地調整装置となる。
【0019】
また、請求項5記載の発明においては、ロープ状の長尺体の外周面に対して、その撚り溝内まで確実に研磨して素地調整を行うことができる極めて実用性に優れた素地調整装置となる。
【0020】
また、請求項6記載の発明においては、長尺体の外周面全周をまんべんなく素地調整することができる一層実用性に優れた構成の素地調整装置となる。
【0021】
また、請求項7記載の発明においては、被嵌体の貫通被嵌部内で発生する長尺体の研磨粉を吸引装置で吸引して研磨粉の飛散を防止することができる一層実用性に優れた構成の素地調整装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の使用状態を示す斜視図である。
【図2】実施例1の分解斜視図である。
【図3】実施例1の説明平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】実施例1の研磨体の長尺体への圧接状態並を示す部分拡大説明図である。
【図6】実施例1の動力変換機構の作動説明図である。
【図7】実施例1の使用状態を示す概略説明正面図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】実施例2の使用状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0024】
素地調整対象である長尺体1に本装置の移動基体2を取り付けして被嵌体3の貫通被嵌部4に長尺体1を貫通すると、貫通被嵌部4に設けた研磨体5が長尺体1の外周面に圧接することになり、駆動装置6を駆動すると、被嵌体3が移動基体2に対し長尺体1に沿って往復スライド移動し、この被嵌体3の往復スライドにより長尺体1の外周面に圧接する研磨体5が長尺体1の外周面を往復研磨して長尺体1の素地調整がなされる。
【0025】
例えば、駆動装置6を駆動したまま本装置の移動基体2を長尺体1に沿って少しずつ移動させると、長尺体1がその長さ方向に連続的に素地調整されていくことになる。
【0026】
従って、例えば、鉄塔の構造要素である鋼管1Bや、吊り橋のハンガーロープ1Aを長尺体1(素地調整対象)とするような高所作業に本装置を用いれば、人力による高所危険作業を回避でき、また、手工具やディスクサンダー等を用いた人力作業に比べて作業効率が著しく向上することとなる。
【0027】
また、例えば、本装置を鋼管1Bやハンガーロープ1Aに取り付けすると共に、本装置を高所作業用の昇降ゴンドラ25に取り付けて昇降ゴンドラ25の昇降移動と同時に鋼管1Bやハンガーロープ1Aに対し昇降移動させるようにしたり、自重で鋼管1Bやハンガーロープ1Aに対して降下移動させるようにすることで、本装置の鋼管1Bやハンガーロープ1Aに対する移動手段も簡易に達成可能となるので、実施化が極めて容易であり、本装置の導入により大幅な工期短縮と施工コスト削減を実現できることとなる。
【0028】
また、例えば、前記研磨体5を前記長尺体1の外周面に圧接せしめる圧接付勢手段9を備えれば、圧接付勢手段9により研磨体5が長尺体1の外周面に圧接した状態が常に保たれるので、この研磨体5による長尺体1の外周面の素地調整が確実に且つ効果的になされることになる。
【0029】
また、例えば、前記移動基体2は、複数のガイドフレーム部7を設けてこの各ガイドフレーム部7に被嵌体3を往復スライド移動自在に設ければ、複数のガイドフレーム部7をガイドとして被嵌体3が移動基体2に対し安定的に往復スライド移動できることになる。
【0030】
また、例えば、前記被嵌体3の前記貫通被嵌部4に、この貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1の周りを旋回可能な周回体8を設け、この周回体8に前記研磨体5を設ければ、周回体8は、被嵌体3が移動基体2に対し往復スライド移動する際にも長尺体1の周りを旋回可能であるから、この周回体8の旋回により研磨体5が周回しながら長尺体1の外周面の広範囲を往復研磨することになる。
【0031】
また、例えば、ロープ状の前記長尺体1に用いる素地調整装置であって、前記研磨体5は、前記長尺体1の撚り山10と撚り溝11に合致して圧接可能な形状に形成し、前記被嵌体3が前記長尺体1に沿って移動すると、前記研磨体5が長尺体1の撚り溝11に沿って前記周回体8と共に被嵌体3に対し倣い回転するように構成すれば、研磨体5が長尺体1の撚り山10と撚り溝11に合致して圧接した状態が常に保たれたまま往復研磨が行われるので、撚り山10はもちろん撚り溝11内までもが確実に研磨されて素地調整されることになる。
【0032】
また、例えば、前記貫通被嵌部4に、この貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1の外周方向に沿って複数の前記研磨体5を並設状態に設け、この複数の研磨体5が貫通被嵌部4に貫通する長尺体1の外周面の全周に圧接する構成とすれば、長尺体1の外周面全周がまんべんなく素地調整されることになる。
【0033】
また、例えば、前記貫通被嵌部4は筒状に形成し、前記研磨体5で前記長尺体1の外周面を研磨した際にこの貫通被嵌部4内で発生する研磨粉を吸引するための吸引装置12を前記被嵌体3若しくは前記移動基体2に設けるか、若しくは吸引装置12を接続可能な接続部13を前記被嵌体3若しくは前記移動基体2に設ければ、吸引装置12若しくは接続部13を介して接続した吸引装置12により貫通被嵌部4内で発生する研磨粉を吸引して、研磨粉の飛散を防止することができる。
【実施例1】
【0034】
本発明の具体的な実施例1について図1〜図8に基づいて説明する。
【0035】
本実施例は、ロープ状の長尺体1用の素地調整装置に適用したもので、図面はロープ状の長尺体1として吊り橋のハンガーロープ1A(以下、長尺物1Aと称す。)を示している。
【0036】
以下、本実施例を具体的に説明すると、長尺体1Aに沿って移動自在に取り付けする移動基体2に、前記長尺体1Aに被嵌可能な被嵌体3を設けると共に、この被嵌体3は、長尺体1Aに被嵌したままこの長尺体1Aに沿って移動基体2に対し往復スライド移動自在に設け、この被嵌体3は、前記長尺体1Aが貫通する貫通被嵌部4に長尺体1Aの外周面に圧接する研磨体5を設け、前記移動基体2に、前記被嵌体3をこの移動基体2に対し前記長尺体1Aに沿って往復スライド駆動させる駆動装置6を設けて、この駆動装置6による被嵌体3の往復スライドにより前記研磨体5が長尺体1Aの外周面を往復研磨し得るように構成している。
【0037】
本実施例の移動基体2は、一対の円板体14を上下対向状態に設け、この上下の円板体14の周縁部間に複数本(図面では六本)の支柱フレーム7を、夫々が互いに平行関係となるように架設固定することにより、全体として図1に示すような略円柱形状をなす中空体に形成している。
【0038】
また、この移動基体2は、上下の円板体14の夫々の中心部に貫通孔26を形成し、この貫通孔26を介して移動基体2内に長尺体1Aを貫通配設し得るように構成すると共に、この上下の貫通孔26を移動ガイドとして移動基体2が長尺体1Aに沿って上下方向に移動可能となるように構成している。
【0039】
本実施例の被嵌体3は、前記移動基体2より一回り小さな円筒状体に形成して移動基体2内に収納配設している。即ち、本実施例の被嵌体3は、移動基体2内に収納配設可能な大きさの筒状体に形成し、この被嵌体3を移動基体2の複数の支柱フレーム7が囲繞するようにして設けられる構成としている。
【0040】
また、この被嵌体3は、その筒穴部を前記貫通被嵌部4とし、前記貫通孔26を介して移動基体2内に貫通配設した長尺体1Aをこの貫通被嵌部4でも貫通被嵌し得るように構成している。
【0041】
また、この被嵌体3の、前記移動基体2への往復スライド移動自在な取り付け構造は、移動基体2の前記各支柱フレーム7をスライドレールとして機能するガイドフレーム部7とする一方、被嵌体3の上下二箇所の外周面全周に、前記円板体14の外径寸法より径大な外径寸法の取付用鍔部30を突設し、この上下夫々の取付用鍔部30の数箇所(図面では平面より見て六箇所)に前記各ガイドフレーム部7に位置を対応させてリニアブッシュ15を付設し、この各リニアブッシュ15を各ガイドフレーム部7に被嵌装着した取り付け構造としている。
【0042】
従って、被嵌体3がリニアブッシュ15を介してガイドフレーム部7に対しスムーズにスライド移動可能となり、且つ移動基体2の上部円板体14をスライド上限とし、下部円板体14をスライド下限として、この上下の円板体14間で移動基体2の上下方向に被嵌体3が往復スライド移動可能となる構成としている。
【0043】
本実施例では、この被嵌体3の貫通被嵌部4の内周面に、この内周面の周方向に並設状態にして前記研磨体5を複数内向きに突設している。
【0044】
また、本実施例の研磨体5は、金属製のブラシ28を採用すると共に、このブラシ28先端部の形状が前記長尺体1Aの撚り山10と撚り溝11に合致して圧接可能な形状となるように構成している。
【0045】
更に詳しくは、図3,図5に示すように研磨体5(ブラシ28先端部)の形状を、撚り山10と撚り溝11の形状に対応するように凹凸が横方向に並設する形状に形成している、即ち、研磨体5(ブラシ28)の中央部を左右両側部位に対して長く(大きく)凸出する形状とし、この中央の凸部29が撚り溝11に圧接し、凸部29より突出度の小さい左右部(凹部)が撚り山10に圧接する構成としている。
【0046】
この研磨体5を、貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1Aの外周方向に沿って複数(図面では六個)隙間なく並設配設して、この複数の研磨体5が貫通被嵌部4に貫通する長尺体1の外周面の全周に圧接する構成としている。
【0047】
また、この研磨体5は、図5に示すように長尺体1Aの撚り山10と撚り溝11の角度に合わせた傾斜状態に設けて、常にこの研磨体5が撚り山10と撚り溝11に合致して圧接可能となる(研磨体5の中央凸部29が撚り溝11に圧接し、左右部が撚り山10に圧接する)構成としている。
【0048】
また、本実施例では、被嵌体3の貫通被嵌部4に、この貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1の周りを旋回可能な周回体8を設け、この周回体8に前記研磨体5を設けて、前記被嵌体3が前記長尺体1Aに沿って長尺体1Aの長さ方向に移動すると、前記研磨体5が長尺体(ハンガーロープ)1Aの螺旋状ストランドの撚り溝11に沿って被嵌体3に対し倣い回転する構成としている。
【0049】
本実施例の周回体8は、リング体に構成し、このリング状の周回体8の内周面に前記研磨体5を複数隙間なく並設配設した構成としている。
【0050】
また、この周回体8の、前記貫通被嵌部4に対する旋回取り付け構造は、貫通被嵌部4の内周面にこの内周面の周方向全周にわたって長さを有するガイド溝21を設け、このガイド溝21に周回体8の外周部全周を旋回自在に装着した構造としている。
【0051】
また、本実施例では、この研磨体5(長尺体1Aの外周方向に並設配設する複数の研磨体5群)を、前記貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1Aの長さ方向に対しても複数並設状態に設けている。
【0052】
更に詳しくは、貫通被嵌部4の内周面の上下部に前記ガイド溝21を設け、この上下の各ガイド溝21に夫々研磨体5付の前記周回体8を装着している。即ち、本実施例では、貫通被嵌部4の上下二箇所に複数の研磨体5群を設けて、この各研磨体5群が長尺体1Aの長さ方向に間隔を置いた二箇所に圧接する構成としている。
【0053】
尚、この研磨体5群は、貫通被嵌部4に貫通した前記長尺体1Aの長さ方向に三箇所以上並設状態に設けても良く、研磨体5群の数を長尺体1Aの長さ方向に増やすことで素地研磨能力を向上させることが可能である。また、研磨体5群を貫通被嵌部4の一箇所にだけ設ける構成としても良い。
【0054】
また、本実施例の研磨体5は、前記周回体8の内周面に圧接付勢手段9を介して付設している。
【0055】
更に詳しくは、周回体8の内周面に研磨体ホルダー22を複数並設状態に設け、この各研磨体ホルダー22に圧接付勢手段9としての抗縮弾性を有するコイルバネ9を複数内装すると共にこの圧接付勢手段9を介して研磨体ホルダー22に研磨体5を装着し、このコイルバネ9によって研磨体5が常に貫通被嵌部4の中心方向に付勢される構成としている。従って、この貫通被嵌部4に長尺体1Aを貫通した際には、このコイルバネ9の付勢力によって研磨体5が常に長尺体1Aの外周面に圧接することになる構成としている。
【0056】
また、この圧接付勢手段9の圧接度は、研磨体5が長尺体1Aの外周面に圧接したままで前記移動基体2が移動用の外力(例えば昇降ゴンドラ25の動力など)若しくは自重により長尺体1Aに沿って移動可能となる圧接度に設定している。
【0057】
また、本実施例では、前記ロープ状の長尺体1の撚り溝11に配設する倣い回転ガイド23を備えている。
【0058】
具体的には、前記研磨体ホルダー22の上面の数箇所(図面では三箇所)に、鋭角部を有する板材をその鋭角部が貫通被嵌部4の中心方向を向くようにして付設し、この板材の鋭角部を、長尺体1Aの撚り溝11に配設する前記倣い回転ガイド23としている。
【0059】
また、この倣い回転ガイド23は、研磨体5を撚り山10と撚り溝11に合致して圧接させた際に、その上方で撚り溝11に配設するように前記研磨体ホルダー22の上面への付設位置並びに鋭角部の形状を設定構成している。
【0060】
従って、この倣い回転ガイド23を撚り溝11に配設すると、長尺体1Aに対して移動基体2(被嵌体3)が移動した際に倣い回転ガイド23が撚り溝11に沿って移動することになり、これにより研磨体5(周回体8)が被嵌体3に対し自動的に旋回して常にこの研磨体5が撚り山10と撚り溝11に合致して圧接し、その表面(外周面)を撚り溝11内まで確実に研磨することになる構成としている。
【0061】
本実施例の前記駆動装置6は、回転軸17を有するモータ6を採用している。
【0062】
このモータ6の移動基体2への取り付け構造は、隣接する二本の前記ガイドフレーム部7を利用して駆動装置用ブラケット16を移動基体2の側部に取り付けし、この駆動装置用ブラケット16にモータ6を取り付けすることにより駆動装置用ブラケット16を介して移動基体2の側部にモータ6を取り付けした構造としている。
【0063】
また、本実施例では、前記駆動装置6(モータ6)の駆動力を往復運動に変換する動力変換機構18を備え、この駆動力変換機構18を介して駆動装置6と前記被嵌体3とを連結している。
【0064】
具体的には、モータ6の回転軸17に動力変換機構18を設け、この動力変換機構18を前記被嵌体3に連結している。
【0065】
動力変換機構18は、モータ6の回転軸17に偏心カム19を連結する一方、この偏心カム19を嵌合可能なカム受筒部20を前記被嵌体3の外周面に形成している。
【0066】
また、カム受筒部20は、筒開口部の形状を水平方向に長さを有する横長開口形状に形成し、更に長径寸法が前記偏心カム19の直径よりやや径大で、その短径寸法が偏心カム19の直径と略同径となる形状に形成している。
【0067】
この動力変換機構18の作動を説明すると、図6(a)の状態(位相0°)から、図6(b)のようにモータ6の回転軸17が図中矢印方向に90°回転すると(位相90°とすると)、偏心カム19の回転により回転軸17から最も遠い位置にある偏心カム19の外周面がカム受筒部20の図面上側の内周面に当接して、カム受筒部20(被嵌体3)を3mm程上方へ押し上げることになる。
【0068】
更に、図6(c)のように回転軸17が図中矢印方向に90°回転すると(位相180°とすると)、カム受筒部20の上側内周面を押し上げていた偏心カム19の外周面がカム受筒部20の図面左側の内周面に当接するように位相変化してカム受筒部20が下方へ下がり(被嵌体3が位相0°の状態と同じ高さとなり)、引き続いて図6(d)のように回転軸17が図中矢印方向に90°回転すると(位相270°とすると)、回転軸17から最も遠い位置にある偏心カム19の外周面がカム受筒部20の図面下側の内周面に当接して、カム受筒部20(被嵌体3)を3mm程下方へ押し下げることになる。図中符号27は偏心カム19の外周面に設けたボールベアリングであり、このボールベアリング27が偏心カム19とカム受筒部20の内周面との当接移動を円滑にする構成としている。
【0069】
以下、回転軸17の回転によってこの動きを繰り返すことにより、被嵌体3が移動基体2に対してその上下方向に往復スライド移動することになる構成としている。
【0070】
また、本実施例では、前記研磨体5で前記長尺体1の外周面を研磨した際にこの貫通被嵌部4内で発生する研磨粉を吸引するための吸引装置12を接続可能な接続部13を、前記移動基体2に設けている。
【0071】
具体的には、前記被嵌体3の貫通被嵌部4の下部と連通するようにして前記移動基体2の下部の円板体14の上面側に、この円板体14と同心円状に連通筒部24をその筒長が上下方向となるようにして設けると共に、この下部の円板体14の底部の偏心位置に前記貫通孔26と並設状態にして接続筒13を垂設状態に設け、この接続筒13を前記接続部13としている。
【0072】
従って、前記したように被嵌体3(貫通被嵌部4)が筒状であることから、これだけでも貫通被嵌部4内で発生する研磨粉が外部に飛散しにくいが、接続部13に吸引装置12を接続し、前記駆動装置6による長尺体1Aの往復研磨と同時にこの吸引装置12を作動させるようにすると、貫通被嵌部4内で発生する研磨粉が吸引装置12に吸引されて外部に飛散することが確実に防止される構成としている。また、これにより研磨粉が被嵌体3を囲繞するガイドフレーム部7に付着して、被嵌体3の往復スライド移動が阻害されるような不具合も防止される構成としている。尚、吸引装置12を、移動基体2に直接接続可能となる構成を採用しても良い。
【0073】
また、本実施例は、前記移動基体2の上下の円板体14と、前記被嵌体3と、前記周回体8とを夫々、その平面視の直径位置で左右二分割した構成とし、このうち、上下の各円板体14は、その分割部分の一端側同志をヒンジ31を介して連結し、他端側にはこの他端側同志を連結状態に固定する固定・解除可能な固定手段32を設けて、この固定手段32を固定解除することで移動基体2をヒンジ31を介して左右に開くことができる構成としている。
【0074】
そして、ヒンジ31を介して移動基体2を左右に開くと、ガイドフレーム部7を介して連結している被嵌体3も左右に分割されて開き、この際、周回体8をガイド溝21から分離可能となるように構成している。
【0075】
従って、このように構成した本実施例は、例えば、ヒンジ31を介して移動基体2と被嵌体3とを開いて研磨体5付の周回体8を分離させ、この分離させた周回体8を長尺体1Aに被嵌した後、開いた移動基体2と被嵌体3とを周回体8の上から長尺体1Aに被嵌するように配して閉じ、この閉じた状態を固定手段32で固定することによって本装置を長尺体1Aに対して取り付けることができる。即ち、例えば、上下両端部が他の部材に連結されてフリーになっていないハンガーロープ1Aのような長尺体1Aに対しても、本実施例は簡単に取り付けできる構成としている。
【0076】
次に、図7,図8に基づいて本装置を用いたハンガーロープ1Aの素地調整作業を説明する。
【0077】
本実施例では、昇降ゴンドラ25に取付用ブラケット33を介して本装置を取り付けし、昇降ゴンドラ25の昇降移動に連動して本装置がハンガーロープ1Aに対しその長さ方向に沿って昇降移動するようにしている。また、図面は、昇降ゴンドラ25に本装置を二個取り付けて並設するハンガーロープ1Aを二本同時に素地調整する場合を示している。
【0078】
本装置をハンガーロープ1Aに取り付け(被嵌)し、接続部13に吸引装置12を接続し、駆動装置6と吸引装置12を駆動する。
【0079】
すると、被嵌体3が移動基体2に対し長尺体1に沿って往復スライド移動し、この被嵌体3の往復スライドにより長尺体1の外周面に圧接する研磨体5が長尺体1の外周面を往復研磨して長尺体1の素地調整がなされる。
【0080】
例えば、作業開始地点をハンガーロープ1Aの上端部とし、作業開始と同時にゆっくりと昇降ゴンドラ25をハンガーロープ1Aの下端部に至るまで下降移動させて、ハンガーロープ1Aの素地調整を行う。
【0081】
尚、本実施例では、本装置を昇降ゴンドラ25に取り付けして、昇降ゴンドラ25を昇降移動制御することで本装置が長尺体1Aに沿って移動するようにした場合を示したが、本装置が自重で長尺体1Aに対して下降移動するようにしても良い。
【実施例2】
【0082】
本発明の具体的な実施例2について図9に基づいて説明する。
【0083】
本実施例は、鉄塔の鋼管1B(以下、長尺体1Bと称す。)用に適用したものである。
【0084】
具体的には、前記実施例1とは、研磨体5の構成を異ならせている。
【0085】
本実施例の研磨体5は、弾性を有する研磨シート34を採用し、この研磨シート34を前記被嵌体3の貫通被嵌部4の内周面から突設した筒状のシート支持部35に支持している。
【0086】
また、この研磨シート34は、長尺体1Bの外周面の全周に圧接するようにして支持部33に支持し、この研磨シート34で長尺体1Bの外周面全周をまんべんなく往復研磨する構成としている。
【0087】
また、本実施例の場合、研磨シート34の持つ弾性が前記圧接付勢手段9として機能する構成としている。
【0088】
また、本実施例の場合、前記実施例1の周回体8や倣い回転ガイド23を省略し、貫通被嵌部4の内周面から直接前記シート支持部35を突設した構成としている。
【0089】
他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0090】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0091】
1 長尺体
2 移動基体
3 被嵌体
4 貫通被嵌部
5 研磨体
6 駆動装置
7 ガイドフレーム部
8 周回体
9 圧接付勢手段
10 撚り山
11 撚り溝
12 吸引装置
13 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺体に沿って移動自在に取り付けする移動基体に、前記長尺体に被嵌可能な被嵌体を設けると共に、この被嵌体は、長尺体に被嵌したままこの長尺体に沿って移動基体に対し往復スライド移動自在に設け、この被嵌体は、前記長尺体が貫通する貫通被嵌部に長尺体の外周面に圧接する研磨体を設け、前記移動基体に、前記被嵌体をこの移動基体に対し前記長尺体に沿って往復スライド駆動せしめる駆動装置を設けて、この駆動装置による被嵌体の往復スライドにより前記研磨体が長尺体の外周面を往復研磨し得るように構成したことを特徴とする素地調整装置。
【請求項2】
前記研磨体を前記長尺体の外周面に圧接せしめる圧接付勢手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の素地調整装置。
【請求項3】
前記移動基体は、複数のガイドフレーム部を設けてこの各ガイドフレーム部に前記被嵌体を往復スライド移動自在に設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の素地調整装置。
【請求項4】
前記被嵌体の前記貫通被嵌部に、この貫通被嵌部に貫通した前記長尺体の周りを旋回可能な周回体を設け、この周回体に前記研磨体を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の素地調整装置。
【請求項5】
ロープ状の前記長尺体に用いる素地調整装置であって、前記研磨体は、前記長尺体の撚り山と撚り溝に合致して圧接可能な形状に形成し、前記被嵌体が前記長尺体に沿って移動すると、前記研磨体が長尺体の撚り溝に沿って前記周回体と共に被嵌体に対し倣い回転するように構成したことを特徴とする請求項4記載の素地調整装置。
【請求項6】
前記貫通被嵌部に、この貫通被嵌部に貫通した前記長尺体の外周方向に沿って複数の前記研磨体を並設状態に設け、この複数の研磨体が貫通被嵌部に貫通する長尺体の外周面の全周に圧接する構成としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の素地調整装置。
【請求項7】
前記貫通被嵌部は筒状に形成し、前記研磨体で前記長尺体の外周面を研磨した際にこの貫通被嵌部内で発生する研磨粉を吸引するための吸引装置を前記被嵌体若しくは前記移動基体に設けるか、若しくは吸引装置を接続可能な接続部を前記被嵌体若しくは前記移動基体に設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の素地調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−718(P2012−718A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137926(P2010−137926)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(505440631)本州四国連絡高速道路株式会社 (6)
【出願人】(592185585)株式会社ブリッジ・エンジニアリング (7)
【出願人】(594091215)株式会社技術開発研究所 (9)
【Fターム(参考)】