説明

素子基板及びプリント配線板

【課題】 プリント配線板に設けられた信号線を介して素子基板へ供給される信号の反射の抑制や信号品質の低下の抑制する。
【解決手段】 第1端子を含む複数の端子と、複数の端子を介して差動信号を受信するための第1受信回路及び第2受信回路と、第1信号を入力するための第1入力部と第2信号を入力するための第2入力部とを備え、第1信号と第2信号に基づいて駆動素子を駆動する駆動回路と、第1受信回路の出力を第1入力部に接続するとともに第2受信回路の出力を第2入力部に接続する第1の接続状態または、第1受信回路の出力を第2入力部に接続するとともに第2受信回路の出力を第1入力部に接続する第2の接続形態の設定を行う設定回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号を入力する素子基板及び差動信号線を有したプリント配線板に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フルライン型の記録ヘッドが開示されている。この記録ヘッドのプリント配線板に複数の記録素子基板が千鳥状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−296638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロック信号(CLK)は、記録素子基板で共通の信号であるため、プリント配線板の配線スペースの観点から1対多接続(マルチドロップ接続)が望まれている。一方で、画像データ信号(DATA)は各記録素子基板で個別の信号が使用されるために、1対1接続(Point−to−Point接続)が望まれている。
【0005】
画像データ信号やクロック信号は、記録動作の高速化や高画質化を達成するために、信号の高周波数化、高速化が進んでいる。このために、信号線の配線において、1対多接続(マルチドロップ接続)を行う際は、良好な波形品質を確保するために、スタブ(分岐配線)をできるたけ短くする必要性がある。しかしながら、記録素子基板が千鳥状に配置される形態では、スタブが長くなる。このために、信号線の実効的な特性インピーダンスが低下するため、信号の反射が起きやすくなり、信号の振幅が小さくなり、信号の波形品質が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためにさなれたものであり、信号の波形品質の低下を抑制できる素子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の素子基板は、第1端子を含む複数の端子と、前記複数の端子を介して差動信号を受信するための第1受信回路及び第2受信回路と、第1信号を入力するための第1入力部と第2信号を入力するための第2入力部とを備え、前記第1信号と前記第2信号に基づいて駆動素子を駆動する駆動回路と、前記第1受信回路の出力を前記第1入力部に接続するとともに前記第2受信回路の出力を前記第2入力部に接続する第1の接続状態と、前記第1受信回路の出力を前記第2入力部に接続するとともに前記第2受信回路の出力を前記第1入力部に接続する第2の接続形態とを、前記第1端子から入力する信号に基づいて定める設定回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の構成によれば、プリント配線板に設けられた信号線を介して素子基板へ供給される信号の反射の抑制や信号品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】記録素子基板101の回路レイアウトを説明する図である。
【図2】プリント配線板103の平面図である。
【図3】図2の一部を拡大した図である。
【図4】本発明を適用しなかった場合のプリント配線板の平面図である。
【図5】信号の振幅のシミュレーション結果を説明する図である。
【図6】記録ヘッドの分解斜視図である。
【図7】記録素子基板の説明図である。
【図8】記録ヘッドと記録媒体800の搬送方向の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1(A)は、素子基板として記録素子基板101の回路レイアウトを説明する図である。記録素子基板101は受信回路303、切り替え回路305、駆動回路304、切り替え制御回路306、制御端子308、端子(パッド)204を備えている。受信回路303は、差動信号を受信する回路を2つ(303−1、303−2)備えている。駆動回路304は、クロック信号CLK(第1信号)を入力するための第1入力部とデータ信号DATA(第2信号)を入力するための第2入力部とを備えている。駆動回路304は、第1信号と第2信号に基づいて記録素子を駆動する。端子204は、矢印Bの方向に沿って配置している。
【0011】
切り替え回路305は、第1受信回路303−1の出力と、第2受信回路303−2の出力を入力する。切り替え回路305は、第1受信回路の出力を第1入力部に接続するとともに第2受信回路の出力を第2入力部に接続する第1の接続形態または、第1受信回路の出力を第2入力部に接続するとともに第2受信回路の出力を第1入力部に接続する第2の接続形態の設定をすることができる。切り替え回路305は、制御端子308から入力した信号に基づいて、第1の接続状態と第2の接続形態の切替えを行うことができる。例えば、制御端子308から入力した信号の論理レベルがロウレベルであれば第1の接続形態が定められ、制御端子308から入力した信号の論理レベルがハイレベルであれば第2の接続形態が定められる。切り替え回路305は、別の表現をするならば、信号接続を定める設定回路である。
【0012】
図2に、記録素子基板101が設けられるプリント配線板103の構成を説明する。プリント配線板103には6つの記録素子基板101が配置される。記録素子基板101は、所定方向(矢印A)に沿って領域401(第1領域)と領域402(第2領域)が割当てられ、図2に示すように複数配置される。また、領域401と領域402の間に設けられている領域403(第3領域)には、クロック信号を供給するための信号線対(第1の差動信号線)301が配置されている。この領域403において、信号線307が分岐している。領域401と領域402の外側に割当てられた領域404(第4領域)には、データ信号を供給するための信号線対(第2の差動信号線)302が配置されている。
【0013】
プリント配線板103には、記録素子基板101との信号接続のための複数の端子を有する端子列107が設けられる。また、プリント配線板103には、他の基板との信号の接続を行うために、複数の端子を有する端子列108が設けられる。
【0014】
図3は、図2の一部を拡大した図である。プリント配線板の端子列107に含まれる端子は、記録素子基板101の端子204とワイヤーボンディング309によって接続されている。記録素子基板101には抵抗310により信号線の終端(抵抗310を介して信号線をショートさせる)が行われる。図3では1対1接続の信号線対(第2の差動信号線)302はそれぞれの記録素子基板101内の抵抗310で終端が行われている。1対多接続の信号線対(第1の差動信号線)301は記録素子基板101−6内の終端抵抗310にのみ接続され終端が行われている。
【0015】
図3では、素子基板101−2と101−4の制御端子308には、ハイレベル信号(例えば、電源電圧VDD)が供給される。また、素子基板101−2と101−4の制御端子308には、ロウレベル信号(例えばアースVSS)が供給される。素子基板101に制御端子308から制御信号が入力されると、切り替え回路305は図3に示すような接続形態となる。以上のように素子基板101の外部から入力する制御信号を入力して、切り替え回路305の接続形態が設定される。
【0016】
以上のような構成により、各記録素子基板101は複数の受信回路を備えている構成において、差動信号線301(クロック信号)に近い方の受信回路を接続することができる。例えば、記録素子基板101−2の受信回路303−2が、差動信号線301(クロック信号)と接続している。一方、記録素子基板101−3の受信回路303−1が、差動信号線301(クロック信号)と接続している。これにより、差動信号線301のスタブ307の長さを抑えることができ、信号の反射の抑制や信号品質の低下の抑制できる。
【0017】
(第2の実施形態)
図1(B)は、第2の実施形態を説明する図である。素子基板101の切り替え回路305、駆動回路304等は第1の実施形態と同じであるので、説明は省く。図1(B)は、図1(A)と端子204の配置する位置が異なっており、端子204は、矢印Aの方向に沿って配置している。これにより、図2に示す領域403に設けられている差動信号線301のスタブ307の長さを抑えることができ、信号の反射の抑制や信号品質の低下の抑制できる。
【0018】
以上は、本発明の実施形態である。次に、本発明を適用しなかった場合のプリント配線板の平面図を図4に示す。図4に示すように、記録素子基板101−2、101−4の受信回路の位置が、差動信号線301から離れているため、記録素子基板101−2、101−4へ接続するスタブ307の長さが、記録素子基板101−1、101−3、101−5へ接続するスタブ307より長くなっている。
【0019】
図5は、転送される信号の振幅のシミュレーション結果を示す。図5(A)は本発明を実施した場合(図2の形態)の信号の振幅である。図5(B)は本発明を実施しない場合(図4の形態)の信号の振幅である。本発明を実施しなかった場合には最小振幅が77mVである(図5(B))のに対して、本発明を実施した場合には177mVである(図5(A))。信号の振幅差が100mV程度あることが分かる。即ち、本発明の実施することで、信号品質が大幅に改善され、データ転送エラーの抑制が実現できる。
【0020】
(記録ヘッドの説明)
デバイスの一例として、記録ヘッドを説明する。図6は、記録ヘッドの分解斜視図である。記録ヘッド100は記録素子基板101、支持部材102、プリント配線板103、インク供給部材104等を備えている。図6では記録素子基板101が6個千鳥状に配置されている。なお、搭載する記録素子基板101の数を増やすことでさらに印字幅の大きな記録ヘッドとすることが可能である。
【0021】
記録素子基板101はインクを吐出するためのデバイスであり、図2に示すように、厚さ0.05〜0.625mmのSi基板201に長溝状のインク供給口202がウェットエッチングやドライエッチング等によって高精度に形成されている。
【0022】
Si基板201の表面には、インク供給口202を挟んで記録素子である複数のヒータ203と、所定位置のヒータ203を所定時間駆動するための駆動回路が成膜技術によって形成され、記録素子基板101の長手方向両端部には、プリント配線板103と電気的に接続するための端子204が形成されている。また、Si基板201の上には樹脂材料でできた吐出口形成部材205が形成され、ヒータ203に対応する複数の吐出口206と、それに連通するインク貯蔵室207がフォトリソ技術によって形成されている。
【0023】
支持部材102は、記録素子基板101を支持固定するための部材であり、例えば、厚さ0.5〜10mmのアルミナ(Al203)で形成されている。なお、支持部材102の材料はアルミナに限られることはなく、記録素子基板101と同等の線膨張率を有し、剛性の高い材料で形成されていても良い。これらの材料としては、例えば、シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0024】
支持部材102には記録素子基板101のインク供給口202に対応する位置にインク供給口105が形成されており、記録素子基板101が第1の接着剤によって支持部材102に位置精度良く接着固定される。
【0025】
プリント配線板103は、記録素子基板101に対して、インクを吐出するための電気信号および電源電圧を伝送、供給するための部材であり、例えば、基材の両面に配線が形成され、表層が保護フィルムで覆われた二層構造のフレキシブル基板が使用されている。
【0026】
プリント配線板103は、図6に示すように記録素子基板101を実装するための開口部106が形成されており、記録素子基板101の入力端子204に対応する端子107と、記録装置本体からの電気信号を受け取るための端子108(例えばコネクタ)を有している。
【0027】
プリント配線板103は、支持部材102の記録素子基板101が接着される面と同一面に、第2の接着剤によって接着固定される。また、開口部106と記録素子基板101の隙間は封止剤で封止されている。また、プリント配線板103の端子107と記録素子基板101の入力端子204とが、金ワイヤーを用いたワイヤーボンディング技術等によって電気的に接続され、電気接続部は封止剤で封止される。また、プリント配線板103は本体との電気接続を容易に行えるよう、支持部材102の両側面で折り曲げられ、固定される。
【0028】
インク供給部材104は、インクタンクから記録素子基板101にインクを供給するための部品であり、例えば、樹脂材料を用いた射出成形によって形成されている。インク供給部材104には、複数の記録素子基板101にインクを供給するインク貯蔵室109が形成されている。インク貯蔵室109には、インクタンクからインク供給チューブを介し、開口部110からインクが導入される。インク供給部材104は支持部材102と接合される。
【0029】
(記録素子基板の説明)
素子基板101の例として、駆動素子として記録素子を駆動する記録素子基板を説明する。図7は、記録素子基板101の説明図である。図7(a)に示すように、記録素子基板101の長手方向両端部には、プリント配線板103と電気的に接続するための端子704が形成されている。また、複数の吐出口を備える吐出口列が2つ形成されている。図7(b)は、記録素子基板101の断面図である。厚さ0.05〜0.625mmのSi基板701に長溝状のインク供給口702がウェットエッチングやドライエッチング等によって高精度に形成されている。Si基板701の表面には、記録素子である複数のヒータ(記録素子)703とヒータ703を駆動するための駆動回路が成膜技術によって形成されている。また、Si基板701の上には樹脂材料でできた吐出口形成部材705が形成され、ヒータ703に対応する複数の吐出口706と、それに連通するインク貯蔵室707がフォトリソ技術によって形成されている。
【0030】
(記録装置の説明)
図8は、記録ヘッドと記録媒体800の搬送方向の関係を示した図であり、記録媒体800の裏面側から見た図である。記録動作を行う際には、記録ヘッドは記録装置において固定されており、記録媒体800が搬送され、記録素子基板101上の複数の吐出口206からインクが吐出され、記録媒体800に画像が形成される。記録装置は、記録媒体800を搬送するための搬送手段を備えている。
【0031】
(その他の実施形態)
以上、第1、第2の実施形態について説明したが、上述の形態に限定するものではない。例えば、プリント配線板103に設けられる素子基板の数は6つであったが、この数に限定するものではなく、4あるいは8、10等でも構わない。また、駆動素子として、LEDやダイオード等の発光素子やCMOSセンサ等のセンサ素子等でも構わない。また、デバイスの例として、原稿の画像の読取を行う読取読取ユニットや画像を表示する表示ユニット等に適用できる。
【0032】
また、受信回路で受信する信号として、クロック信号やデータ信号に限定することなく、他の制御信号であっても構わない。
【符号の説明】
【0033】
101 素子基板
103 プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の端子と、
前記複数の端子に含まれる端子を介して差動信号を受信するための第1受信回路及び第2受信回路と、
第1信号を入力するための第1入力部と第2信号を入力するための第2入力部とを備え、前記第1信号と前記第2信号に基づいて駆動素子を駆動する駆動回路と、
前記第1受信回路の出力を前記第1入力部に接続するとともに前記第2受信回路の出力を前記第2入力部に接続する第1の接続状態と、前記第1受信回路の出力を前記第2入力部に接続するとともに前記第2受信回路の出力を前記第1入力部に接続する第2の接続形態とを、外部から入力する信号に基づいて定める設定回路とを備えることを特徴とする素子基板。
【請求項2】
前記第1信号はクロック信号であり、前記第2信号はデータ信号であることを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
【請求項3】
前記駆動素子は記録素子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の素子基板。
【請求項4】
請求項1に記載の素子基板を所定方向に沿ってそれぞれ複数配置する第1領域及び第2領域が割当てられ、
前記第1領域と前記第2領域の間の前記所定方向に沿った第3領域に、第1の差動信号線が配置され、
前記第1領域と前記第2領域に対して外側の領域に割当てられた第4領域に、第2の差動信号線が配置され、
前記第1及び第2の差動信号線とそれぞれ接続する端子を備えることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−240516(P2011−240516A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112291(P2010−112291)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】