説明

紡機における繊維束案内装置及び精紡機のドラフト装置

【課題】繊維束に接触せずに繊維束を案内することができ、摩耗や異物の付着によって案内面の摩擦状態が経時的に劣化するのを防止する。
【解決手段】ミドルボトムローラ13とバックボトムローラ14との間には繊維束案内装置30が配置されている。繊維束案内装置30は、上流側から下流側へと移動する繊維束Fの幅を狭めるように案内する。繊維束案内装置30は、案内すべき繊維束Fの移動方向に沿う案内面を備えた案内部材31と、案内面に繊維束Fが接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材31を振動させる励振手段とを備えている。案内部材31は平行に配置された平板で構成され、案内面は平板の対向面で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における繊維束案内装置及び精紡機のドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機、練条機等の紡機には、繊維束の案内を行う案内部材が設けられている。繊維束を案内部材で案内する場合、案内部材の繊維束との接触面が摩耗する。特に上流側から下流側へと移動する繊維束の幅を狭めるように案内する場合、即ち繊維束を集束させつつ案内する場合は、接触面と繊維束との摩擦が大きくなって摩耗し易くなる。
【0003】
従来、精紡機用コレクタとして、繊維束との摩擦が最も大きな部分に耐摩耗材片を表面が露出するように埋設したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、図15(a)に示すように、精紡機のドラフト装置61において、フロントボトムローラ62の上面に乗るように装着される精紡機用コレクタ63の耐摩耗性を向上させたものが提案されている。精紡機用コレクタ63は、図15(b),(c)に示すように、プラスチック製のコレクタ本体64に縦絞り溝65が設けられ、縦絞り溝65の下方最狭部両側面に、セラミック、ステンレス等の所要長さの丸棒状耐摩耗材片66が埋設されている。精紡機用コレクタ63はワイヤ67を介してドラフトパート(テンサ)68に支承される。
【特許文献1】実公昭61−35568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の精紡機用コレクタ63では、繊維束Fとの摩擦が最も大きな部分に耐摩耗材片66を表面が露出するように埋設しているため、耐摩耗材片66を備えない場合に比較して、精紡機用コレクタ63の更新時期を延ばすことができる。しかし、耐摩耗材片66であっても繊維束Fとの接触摩擦により徐々に摩耗することは避けられず、経時的に性能が劣化する。このことは、紡出速度の上昇、紡出繊維として綿より強靱な合成繊維を使用することにより顕著になる。
【0005】
また、特許文献1に記載の案内部材に限らず、繊維束と接触して繊維束を案内するには、繊維束中の繊維配列を乱さないために、案内部材の表面の摩擦を低減させる必要がある。案内部材の表面を低摩擦状態とするために、表面研磨により面粗度を細かくしたり、メッキやコーティングを施したりする必要がある。しかし、このような対策は、初期性能が十分であっても、表面の摩耗、損傷、異物付着等により、経時的に性能が劣化する。
【0006】
また、精紡機のドラフト装置においては、現在のドラフトより高いドラフトで紡出を行いたいという要望もある。しかし、現在のドラフト装置ではそのドラフトを達成するためにバックローラとミドルローラとの間のドラフトを高めると、バックローラとミドルローラとの間において繊維束の幅が拡がり、拡がったままの状態で繊維束がミドルローラに進入するため、良好なドラフトを行うことができないという問題がある。拡がった繊維束の幅を狭めてミドルローラへ進入させるためにトランペット等の案内部材を使用すると、案内部材の摩耗による前記の問題が顕著になる。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は繊維束に接触せずに繊維束の幅を狭めることができ、繊維束の繊維配列を乱すことなく、かつ、摩耗や異物の付着によって案内面の摩擦状態が経時的に劣化するのを防止することができる紡機における繊維束案内装置及びその繊維束案内装置を備えた精紡機のドラフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、上流側から下流側へと移動する繊維束の幅を狭めるように案内する紡機における繊維束案内装置である。そして、紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材と、前記案内面に前記繊維束が接触するのを阻止する音圧の音波を発生するように前記案内部材を振動させる励振手段とを備えている。
【0009】
この発明では、繊維束を案内する案内部材が励振手段により振動されて案内面から音波が発生する。発生する音波の音圧は、繊維束が案内面に接触するのを阻止する大きさのため、案内部材が繊維束の幅を狭めるように案内する場合でも、繊維束は案内面と接触せずに移動する。また、繊維束に付着している異物が案内面に付着するのも防止される。その結果、繊維束との摩擦による案内面の摩耗や異物の付着によって案内面の摩擦状態が経時的に劣化するのを防止した状態で、低摩擦状態で繊維束を案内することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記案内部材は互いに平行に配置された一対の平板で構成され、前記案内面は前記平板の対向面で構成されている。この発明では、平板の配置間隔を変更することにより所望の案内幅に容易に調整することが可能になる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記案内部材は互いに対向して配置された一対の板で構成され、前記一対の板は対向面の間隔が前記繊維束の進行方向の下流側より上流側が広くなるように形成され、前記案内面は前記板の対向面で構成されている。ここで、「下流側より上流側が広くなるように」とは、下流側から上流側に向かって間隔が次第に広くなる場合だけでなく、下流側から途中までは間隔が一定で、途中から上流側に向かって間隔が次第に広くなる場合も含む。この発明では、案内面の下流側の間隔が狭い場合でも繊維束を案内面の間に導入するのが容易になる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記案内面は、繊維束の進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなる筒状に形成されている。この発明では、案内面が対向して設けられる平板によって構成される場合に比較して繊維束案内装置の小型化が容易になる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記案内部材は、繊維束の進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなる筒状体の一端から他端まで連続する溝部を有する形状に形成されており、前記案内面はその内面で構成されている。この発明では、案内面が対向して設けられる平板によって構成される場合に比較して繊維束案内装置の小型化が容易になる。また、案内部材が筒状に形成される場合に比較して繊維束を案内部材に導入するのが容易になる。
【0014】
請求項6に記載の発明の精紡機のドラフト装置は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、バックローラとエプロンが巻き掛けられたミドルローラとの間に配置されている。この発明では、エプロンが巻き掛けられたミドルローラに繊維束が入る前に、繊維束の幅が所望の幅に狭められる。従って、従来に比較してバックゾーンでのドラフトを高めて、全体としてのドラフトを高めるようにドラフト装置を駆動しても、エプロンゾーンでのドラフトが良好に行われる。繊維束の幅は前記繊維束案内装置により案内部材と繊維束とが非接触状態で狭められるため、繊維束と案内面との摩擦は繊維束の走行に支障を来さない。
【0015】
請求項7に記載の発明の精紡機のドラフト装置は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、最終送出ローラとその直前のローラとの間に配置されている。ここで、「その直前のローラ」とは、繊維束の進行方向において最終送出ローラの直ぐ上流側に位置するローラを意味する。
【0016】
この発明では、最終送出ローラに繊維束が入る前に、繊維束の幅を狭めて最終送出ローラへ案内することができ、最終送出ローラから送出された繊維束は、引き締まった状態で撚りがかけられるため、糸むら,毛羽が少なく、強力の高い糸が得られる。繊維束は案内面に接触せずに移動するため、繊維束に接触して案内する案内部材を設ける場合に比較して、繊維束の幅をより狭めた状態で案内することができる。また、案内面の振幅の調整により、紡出された製品の糸の風合いを制御することが可能になる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記繊維束案内装置の前記案内部材は、前記最終送出ローラのニップ部に向かって延びるガイド部を有する。この発明では、繊維束を最終送出ローラのニップ部に円滑に案内することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、繊維束に接触せずに繊維束の幅を狭めることができ、繊維束の繊維配列を乱すことなく、かつ、摩耗や異物の付着によって案内面の摩擦状態が経時的に劣化するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を精紡機のドラフト装置に具体化した第1の実施形態を図1〜図4に従って説明する。図1(a)はドラフト装置の模式側面図、図1(b)は繊維束案内装置の模式平面図、図2は繊維束案内装置の模式斜視図である。
【0020】
図1(a)に示すように、ドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を備えた3線式の構成となっている。ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14は機台を構成するローラスタンド15に対して前後方向に位置調整可能に固定された支持ブラケット16,17を介して支持されている。支持ブラケット16,17はローラスタンド15に形成された長孔(図示せず)を貫通するボルト16a,17a及び図示しないナットにより所定位置に締め付け固定されている。ボトムエプロン13aはボトムテンサ19とミドルボトムローラ13とに巻き掛けられている。
【0021】
ウエイティングアーム20にはフロントトップローラ21、ミドルトップローラ22及びバックトップローラ23が、それぞれフロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14と対応する位置にトップローラ支持部材を介してそれぞれ支持されている。トップエプロン22aはテンサ24とミドルトップローラ22とに巻き掛けられている。
【0022】
ウエイティングアーム20にはレバー20aが加圧位置と解放位置とに回動可能に配設されている。レバー20aが図1(a)に示すウエイティングアーム20のフレーム20bと当接する加圧位置に配置された状態では、ウエイティングアーム20に支持された各トップローラ21,22,23をボトムローラ12,13,14側に押圧する加圧位置(紡出位置)にロック状態で保持される。また、レバー20aが図1(a)に示す状態から上方の解放位置に回動された状態では、前記ロック状態が解除されるようになっている。
【0023】
バックローラとミドルローラとの間、即ちバックボトムローラ14とミドルボトムローラ13との間には繊維束案内装置30が配置されている。繊維束案内装置30は、上流側から下流側へと移動する繊維束Fの幅を狭めるように案内する。
【0024】
図1(b)及び図2に示すように、繊維束案内装置30は、案内すべき繊維束Fの移動方向に沿う案内面31a(図2にのみ図示)を備えた案内部材31と、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材31を振動させる励振手段32とを備えている。案内部材31は互いに平行に配置された一対の平板で構成され、案内面31aは平板の対向面で構成されている。案内部材31は、案内面31aの部分が繊維束Fの移動方向に沿って延びるように幅広に形成されており、全体として十字架状に形成されている。
【0025】
励振手段32を構成する振動子33には所謂ランジュバン形振動子が使用され、一対のリング状のピエゾ素子34a,34bを備えている。両ピエゾ素子34a,34b間にリング状の電極板35が配置され、ピエゾ素子34a,34bの電極板35と当接する側と反対側の面に当接する金属ブロック36,37を、図示しないボルトによって締め付け固定することにより振動子33が構成されている。ボルトは金属ブロック36に形成された図示しないねじ穴に、金属ブロック37側から螺合されている。両金属ブロック36,37はボルトを介して互いに導通された状態となっている。金属ブロック36の先端にはフランジ36aが形成され、金属ブロック36はフランジ36aにおいて取付片38に固定されている。振動子33は取付片38を介して支持ブラケット16に対して図示しないボルトにより固定されるようになっている。
【0026】
案内部材31は振動子33により励振されるホーン40に固定されている。ホーン40は先端側ほど細くなる円錐台と円柱が連続する形状に形成され、その先端においてロウ付けにより案内部材31の一端寄りに固着されている。ホーン40は案内部材31が締結される面と反対側の面において振動子33に固定されている。ホーン40の先端面は振動子33の軸方向と直交する平面に形成されている。一対の案内部材31は、取付片38の支持ブラケット16に対する固定位置を調整することにより、案内面31aの間隔を調整可能に構成されている。
【0027】
振動子33は発振器39に接続されている。電極板35は配線41aを介して発振器39と接続され、発振器39の接地端子が配線41bを介して金属ブロック37に接続されている。振動子33、ホーン40及び発振器39により案内部材31を振動させる励振手段32が構成されている。発振器39は案内部材31を人の可聴領域より高い周波数で振動させるように振動子33を励振させる。
【0028】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機の運転に先立って、紡出原料に合わせて、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置が、支持ブラケット16,17の位置を調整することで適正な位置に調整される。ミドルトップローラ22及びバックトップローラ23の位置もミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置に対応して調整される。また、一対の案内部材31の間隔が、取付片38の位置を調整することで適正な位置に調整される。
【0029】
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置11でドラフトされた後、フロントローラから送り出され、繊維束Fはフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21のニップ点を過ぎた後、撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。精紡機の運転時には、発振器39の駆動により、振動子33が案内部材31の所定の共振周波数(例えば、34kHz前後)で励振され、ホーン40が縦振動してホーン40を介して案内部材31が振動する。そして、案内部材31の案内面31aから音波が放射される。この振動周波数は、案内部材31の案内面31aから放射される音波の音圧が、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する大きさとなるように設定されている。
【0030】
繊維束Fはドラフト装置11を上流側から下流側へと移動する間に、繊維束案内装置30によって幅が狭められるように案内されつつ移動する。繊維束Fは、一対の案内部材31の案内面31a間を通過する間に、その幅が案内部材31より上流側における幅の例えば1/4以下に狭められた状態となってボトムエプロン13a及びトップエプロン22a間に進入する。
【0031】
一対の案内部材31が静止した状態であれば、案内面31aと繊維束Fとの摩擦が大きくなり、繊維束Fが両案内部材31間を通過する際に繊維束Fの繊維配列が乱れたり、繊維束Fが切断したりする。しかし、精紡機の運転時には案内部材31が振動されて、案内部材31から放射される超音波の音圧により案内面31aに繊維束Fが接触するのが阻止される。その結果、繊維束Fの幅が案内部材31の上流側における幅に比較して大幅に狭められても、案内面31a間を通過する際の摩擦力が大きく低下する。
【0032】
従来、精紡機においては、バックゾーンのドラフトが1.1〜1.3倍で、エプロンゾーンでは最大50倍程度であり、合計60〜70倍程度であるが、ドラフトを120倍程度に上げたいという要望がある。この要望を満たすために、バックゾーンのドラフトを2倍以上に上げることが考えられる。ところが、現在のドラフト装置でバックゾーンのドラフトを2倍近くに上げると、バックローラから出た繊維束Fの幅の拡がり具合が、ドラフトが1.1〜1.3倍の場合に比較して大きくなった状態でエプロンに進入する。ドラフトが良好に行われるには繊維と繊維との間の摩擦力が必要であるが、繊維束Fの幅が拡がった状態でエプロンに進入すると、繊維間の摩擦力が不十分になってドラフトが良好に行われない。
【0033】
バックゾーンのドラフトを2倍に設定した状態でドラフト装置11を駆動して、繊維束案内装置30の効果を調べた結果、繊維束案内装置30を設けることによりバックゾーンのドラフトを2倍にしても、良好にドラフトが行われることが確認された。
【0034】
(実施例)
案内部材31を2mm厚の冷延アルミ合金板より切り出して製作し、振動子33としてランジュバン形振動子を使用して繊維束案内装置30を製造した。ミドルローラとバックローラとの間に案内部材31の間隔を0.75mmに設定して繊維束案内装置30を配設した。バックローラからミドルローラへと送り出される繊維束Fの幅が4mmとなり、かつバックゾーンのドラフトが2.0となる条件でドラフト装置11を駆動して試験を行った。バックボトムローラ14の回転速度は4〜5r.p.mで、バックボトムローラ14の外周長さは100mm程度であるため、繊維束Fの移動速度は400〜500mm/min程度である。
【0035】
結果を図3及び図4に示す。図3は、案内部材31を振動させた場合(超音波ON)と、案内部材31を振動させない場合(超音波OFF)とにおける引き出し側のローラ(ミドルボトムローラ13)のトルク変化を示す。図4は、案内部材31を振動させた場合と、案内部材31を振動させない場合とにおける繊維束F(フリース)質量の変動を示す。図4の縦軸は、繊維束質量に相当する検出器の出力レベルを示す。
【0036】
図3から明らかなように、引き出しローラのトルクは、超音波OFFの状態に比較して超音波ONの状態において大きく低下している。このことは、超音波OFFの状態では繊維束Fが案内部材31を通過する際の抵抗(摩擦)が大きく、超音波ONの状態では繊維束Fが案内部材31を通過する際の抵抗が小さくなっていることを裏付けている。そして、超音波ONの状態での引き出しローラのトルクはミドルボトムローラ13(引き出しローラ)とバックボトムローラ14との間に繊維束の幅を狭めるような案内部材を設けないときのトルクと略一致している。このことは、上流側の繊維束Fの幅に比較して案内面31a間の間隔が非常に狭くても、案内面31aから放射される音圧により繊維束Fが案内面31aに接触せずに案内面31a間を通過していることの裏付けとなる。
【0037】
また、図4から明らかなように、繊維束Fの質量は、超音波ONの状態では、バックゾーンドラフト2.0の場合の出力レベルの位置を中心として小さな変動幅で推移しており、ドラフトが正確に行われていることが分かる。一方、超音波OFFの状態では、繊維束Fの質量は大きく変動し、ドラフトが十分に行われていないことが確認できる。繊維束Fに案内面31aを接触させて、しかも繊維束Fに圧縮力を加えるような案内方法では、案内部材31を通過する際に繊維束Fのムラに起因して繊維の素抜けが生じた部分では質量が大きく低下することになる。そして、繊維束Fの単位長さ当たりの質量変動が拡大された状態となる。従って、超音波ONの状態では、案内面31aから放射される音圧により繊維束Fが案内面31aに接触せずに案内面31a間を通過していることがこのことからも裏付けられる。
【0038】
この実施形態では以下の効果を有する。
(1)繊維束案内装置30は、紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束Fの移動方向に沿う案内面31aを備えた案内部材31と、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧の音波を発生するように案内部材31を振動させる励振手段とを備えている。従って、繊維束Fとの摩擦による案内面31aの摩耗や異物の付着によって案内面31aの摩擦状態が経時的に劣化するのを防止した状態で、低摩擦状態で繊維束Fを案内することができる。また、案内面31aが繊維束Fの移動方向に沿って延びているため、繊維束Fは幅方向に圧縮された状態で案内面31aに沿って移動した後、ボトムエプロン13a及びトップエプロン22a間に進入する。そのため、案内面が円弧面で構成され、両案内面間の距離が狭い部分が繊維束Fの移動方向において非常に短い場合と異なり、繊維束Fは所望の幅に狭められた状態でボトムエプロン13a及びトップエプロン22a間に進入する。
【0039】
(2)案内部材31は互いに平行に配置された一対の平板で構成され、案内面31aは平板の対向面で構成されている。従って、平板の配置間隔を変更することにより対向する案内面31aの距離を変更することができる。そのため、紡出糸の太さ等の紡出条件の変更に対応して案内面31aの間隔を紡出条件に対応した適正な所望の案内幅に容易に調整することが可能になる。
【0040】
(3)ドラフト装置11は、繊維束案内装置30がバックローラとミドルローラとの間に配置されている。従って、バックゾーンドラフトを大きくして、全体のドラフト量を120倍程度で行う場合、エプロンゾーンドラフトは変更せずにバックゾーンドラフトを2倍程度に変更することにより、良好に行うことが可能になる。
【0041】
(4)案内部材31は人の可聴領域より高い周波数で振動されるため、振動式の繊維束案内装置30を設けても振動による騒音が発生しない。
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を、図5〜図10を参照しながら説明する。この実施形態は、3線式ドラフト部の繊維束進行方向下流側に最終送出ローラ対が設けられている点と、繊維束案内装置30が最終送出ローラ対とその直前のローラとの間に配置されている点とが第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と基本的に同様であるため、同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、ドラフト装置11は、3線式ドラフト部の繊維束進行方向下流側に
最終送出ローラ対26を備えた4線式の構成である。3線式ドラフト部は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13、ボトムエプロン13a、バックボトムローラ14、フロントトップローラ21、ミドルトップローラ22、トップエプロン22a、バックトップローラ23及びテンサ24を備えている。
【0043】
最終送出ローラ対26は、ローラスタンド15に支持されたボトムニップローラ26aと、ウエイティングアーム20に支持部材を介して支持されたトップニップローラ26bとで構成されている。トップニップローラ26bはドラフト装置11のフロントトップローラ21と同様に2錘毎に、支持部材を介してウエイティングアーム20に支持されている。
【0044】
繊維束案内装置30は、最終送出ローラ対26とその直前のローラであるフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21との間に配置されている。
案内部材31は、互いに対向して配置された一対の板で構成され、案内面31aは一対の板の対向面で構成されている。図5(b)に示すように、一対の板は対向面の間隔、即ち案内面31aの間隔が繊維束Fの進行方向の下流側より上流側が広くなるように形成されている。具体的には、案内部材31は、案内面31aの中央より上流側においては上流側程間隔が広くなるように形成されており、中央より下流側においては一定の間隔になるように形成されている。
【0045】
図6及び図5(a)に示すように、案内部材31は、最終送出ローラ、即ちボトムニップローラ26a及びトップニップローラ26bのニップ部に向かって延びるガイド部31bを有するように、側面から見た形状が略十字架状に形成されている。ガイド部31bは、繊維束Fの進行方向下流に向かって幅が狭くなるように形成されている。即ち、案内部材31は、一対の平板ではなく一部が湾曲している一対の板で構成されている点と、ガイド部31bが先端に向かって幅が狭くなるように形成されている点とが第1の実施形態の案内部材31と異なっている。
【0046】
案内部材31を振動させる励振手段32は、第1の実施形態と同じである。振動子33は取付片38を介してローラスタンド15に対して図示しないボルトにより固定されている。
【0047】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機の運転に先立って、紡出原料に合わせて、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置が、支持ブラケット16,17の位置を調整することで適正な位置に調整される。ミドルトップローラ22及びバックトップローラ23の位置もミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置に対応して調整される。また、一対の案内部材31の間隔が、取付片38の位置を調整することで適正な位置に調整される。紡出条件によっても異なるが、一対の案内面31aの下流端の間隔が1mm以下に設定される。
【0048】
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置11の3線式ドラフト部でドラフトされた後、案内部材31の案内面31aを介して最終送出ローラ対26のニップ部へと案内され、最終送出ローラ対26から送出される。精紡機の運転時には、発振器39の駆動により、振動子33が案内部材31の所定の共振周波数(例えば、34kHz前後)で励振され、ホーン40が縦振動してホーン40を介して案内部材31が振動する。繊維束Fはボトムニップローラ26a及びトップニップローラ26bのニップ点を過ぎた後、撚り掛けを受けながら下流側へ移動し、図示しないボビンに巻き取られる。最終送出ローラ対26はフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21の表面速度より若干速く回転され、繊維束Fは適度な緊張状態で最終送出ローラ対26のニップ点を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。
【0049】
3線式のドラフト部でドラフトされた繊維束Fは、案内面31aを通過する間に幅が1mm以下に圧縮された状態で最終送出ローラ対26へ案内されてニップ点を過ぎる。従って、繊維束案内装置30を装備しない3線式のドラフト装置が装備された精紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される。
【0050】
毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される精紡機として、3線式のドラフト装置でドラフトされた繊維束Fを、吸引作用を利用した繊維束集束装置で集束して、ニップローラ対で下流側へ送り出す構成の装置が提案され、実施もされている。この繊維束集束装置は、ドラフトパートの最終送出ローラ対と、その下流側に設けられるニップローラ対との間に吸引孔を備えた案内面を有する吸引部と、前記案内面を摺動する状態で回転される多孔ベルト(メッシュベルト)とを備えている。
【0051】
吸引作用を利用して繊維束Fを集束する構成では、全錘でエア・サクションを行うため、消費電力が多くなる。また、安定した品質の紡出糸を得るには、多孔ベルトに付着した風綿等の定期的な除去や多孔ベルトの摩耗による交換作業等のメンテナンスが必要となるが、集束機構の構成が複雑なため多くの工数がかかる等の問題がある。
【0052】
しかし、この実施形態の繊維束案内装置30は、案内部材31の案内面31aから放射される音波の音圧が、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する状態で繊維束Fを圧縮しつつ案内する構成のため、吸引作用を利用して集束する構成に比較して、消費電力が少なくなり、案内部材31からの風綿等の定期的な除去や交換作業等のメンテナンスが不要になる。
【0053】
また、吸引作用を利用して繊維束Fを集束する構成では、吸引力を調整しても紡出糸の風合い(肌触りや手触り)の制御はできず、繊維束集束装置を機能させて紡出を行うことにより得られる毛羽の少ない紡出糸(コンパクト糸)の紡出と、繊維束集束装置を機能させずに紡出を行うことにより得られる普通糸の紡出との切替のみしかできなかった。
【0054】
しかし、この実施形態の繊維束案内装置30では、案内部材31を振動させる条件を変更することにより、紡出糸の風合いを調整することが可能になる。紡出糸として中番手の
綿糸(綿コーマ:40番手)を、案内部材31の励振条件の一つである振動板の振幅、即ち案内面31aの振幅を変更した場合について、得られた紡出糸を検査して100m当たりに存在する長い毛羽(長さ6mm)及び短い毛羽(長さ1mm)の数を調べた。精紡機の運転は、スピンドル回転数20000rpm、最終送出ローラ対26の表面速度20m/min程度で行った。結果を図7及び図8にそれぞれ示す。なお、図7及び図8において、振幅は標準を100%とした相対値で表示している。
【0055】
また、紡出糸として中番手の綿糸(綿コーマ:40番手)を、案内部材31の励振条件の一つである振動板の間隔、即ち案内面31aの間隔を変更した場合について、得られた紡出糸を検査して100m当たりに存在する長い毛羽(長さ6mm)及び短い毛羽(長さ1mm)の数を調べた。結果を図9及び図10にそれぞれ示す。なお、図9及び図10において、間隔は標準を100%とした相対値で表示している。
【0056】
ここで、長い毛羽(長さ6mm)は、製織工程等で邪魔になる毛羽であり、短い毛羽(長さ1mm)は、風合いに影響を及ぼす毛羽である。
図7に示すように、案内部材31を標準の振幅で振動させた場合は、短い毛羽数が、吸引作用を利用して繊維束Fを集束する繊維束集束装置で得られるコンパクト糸の場合の毛羽数のレベル(図7に点線で図示)と同等(約7400ケ)以下の値である。しかし、案内部材31の振幅を標準の振幅より25%あるいは50%小さくした場合は、短い毛羽数が約9200ケ程度と標準の振幅の場合より増加した。なお、繊維束案内装置30を装備しない通常の精紡機で紡出された普通糸の短い毛羽数は12400ケ程度である。
【0057】
一方、長い毛羽数は、図8に示すように、案内部材31の振幅を変更しても約30ケ程度でほとんど変化しなかった。なお、繊維束案内装置30を装備しない通常の精紡機で紡出された普通糸の長い毛羽数は330ケ程度である。従って、図7及び図8から案内部材31の振動による音圧で繊維束Fを圧縮して案内する構成の繊維束案内装置30を使用した場合、振幅を変更することで、製織工程等で邪魔になる長い毛羽を殆ど増やすことなく、紡出糸の風合いを調整することが可能になることが裏付けられる。
【0058】
図9に示すように、案内部材31を標準の間隔で振動させた場合は、短い毛羽数が、吸引作用を利用して繊維束Fを集束する繊維束集束装置で得られるコンパクト糸の場合の毛羽数のレベル(図9に点線で図示)と同等(約7400ケ)以下の値である。しかし、案内部材31の間隔を標準の間隔から変更した場合は、短い毛羽数が変化した。例えば、間隔を標準の場合より25%増加させた場合、短い毛羽数は約7600ケ程度に若干増加し、間隔を標準の場合より50%増加させた場合、短い毛羽数は約9500ケ程度に増加し、間隔を標準の場合より75%増加させた場合、短い毛羽数は約10200ケ程度に増加した。
【0059】
一方、長い毛羽数は、図10に示すように、案内部材31の間隔を変更しても約40ケ程度でほとんど変化しなかった。従って、図9及び図10から案内部材31の振動による音圧で繊維束Fを圧縮して案内する構成の繊維束案内装置30を使用した場合、間隔を変更することで、製織工程等で邪魔になる長い毛羽を殆ど増やすことなく、紡出糸の風合いを調整することが可能になることが裏付けられる。
【0060】
最終送出ローラ対26及びその直前のローラであるフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21の表面速度は同じでもよいが、糸種によっては最終送出ローラ対26の相対的な表面速度を速くした方が、紡出糸の糸質が向上する場合がある。例えば、繊維長が短い(例えば、平均繊維長28mm程度の場合)原料の場合は最終送出ローラ対26の相対的な表面速度を若干速くした方が良い。
【0061】
この実施形態によれば、第1の実施形態における(4)と同様の効果の他に次の効果を得ることができる。
(5)繊維束案内装置30は、最終送出ローラ対26と、フロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21との間に配置され、案内すべき繊維束Fの移動方向に沿う案内面31aを備えた案内部材31と、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧の音波を発生するように案内部材31を振動させる励振手段とを備えている。従って、繊維束Fとの摩擦による案内面31aの摩耗や異物の付着によって案内面31aの摩擦状態が経時的に劣化するのを防止し、かつ繊維束Fを圧縮した状態で最終送出ローラ対26のボトムニップローラ26a及びトップニップローラ26b間へ案内する。そのため、最終送出ローラ対26に繊維束Fが入る前に、繊維束Fの幅を狭めて最終送出ローラ対26へ案内することができ、最終送出ローラ対26から送出された繊維束Fは、引き締まった状態で撚りがかけられるため、糸むら,毛羽が少なく、強力の高い糸が得られる。繊維束Fは案内面31aに接触せずに移動するため、繊維束Fに接触して案内する案内部材を設ける場合に比較して、繊維束Fの幅をより狭めた状態で案内することができる。また、案内面31aの振幅の調整により、紡出された製品(紡出糸)の風合いを制御することが可能になる。
【0062】
(6)案内部材31は互いに対向して配置された一対の板で構成され、案内面31aは両板の対向面で構成されている。従って、両板の配置間隔を変更することにより対向する案内面31aの距離を変更することができる。そのため、紡出糸の太さ等の紡出条件の変更に対応して案内面31aの間隔を紡出条件に対応した適正な所望の案内幅に容易に調整することが可能になる。また、間隔を変更することにより、紡出された製品(紡出糸)の風合いを制御することが可能になる。
【0063】
(7)案内部材31を構成する一対の板は、案内面31aを構成する対向面の間隔が繊維束Fの進行方向の下流側より上流側が広くなるように形成されている。従って、案内面31aの間隔が狭い場合でも繊維束Fを案内面31aの間に導入するのが容易になる。
【0064】
(8)繊維束案内装置30の案内部材31は、最終送出ローラ対26のニップ部に向かって延びるガイド部31bを有する。従って、繊維束Fを最終送出ローラ対26のニップ部に円滑に案内することができる。
【0065】
(9)繊維束案内装置30は振動板の振動による音圧で繊維束Fを圧縮して案内する構成のため、吸引作用を利用して繊維束Fを集束する構成と異なり、繊維束案内装置30の構成が簡単である。従って、繊維束案内装置30自身を繊維束Fのトラバース機構と連動して駆動することが可能になり、ドラフト装置11を構成するゴムローラの研磨周期を長くすることが可能になる。
【0066】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成してもよい。
○ 繊維束案内装置30は、案内部材31として平行な平板をそれぞれ独立した振動子33で振動させる構成に代えて、1枚の平板の両側を屈曲加工して対向する平行な案内面を有する形状の案内部材を使用し、その案内部材を振動子で振動させる構成としてもよい。この場合、紡出原料として使用される繊維束Fの幅(太さ)に対応して案内面の間隔を調整することができないので、紡出原料の太さを大幅に変更する場合は別の案内部材と交換する必要がある。
【0067】
○ 案内部材は平行に配置された平板で構成されるものに限らない。例えば、目的に応じて繊維束Fの進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなり、外形が円錐台状、角錐台状、楕円錐台状等の筒状に案内部材を形成する。そして、案内面をその内面で構成するようにしてもよい。また、断面形状が一定の筒状に形成したものを使用してもよい。圧電材料(ピエゾ素子)による振動は複数のモードを加算することが可能なため、圧電材料を縦振動及び横振動を行うように重ねて案内部材に取り付けることにより、筒状であっても効率良く振動させることが可能である。
【0068】
○ 励振手段は所望の周波数及び振幅が得られればよく、ランジュバン形振動子に限らない。また、ホーンを設けずに、圧電材料(圧電素子)を案内部材に直接貼り付ける構成としてもよい。例えば、案内部材を筒状に形成した場合、図11に示すように、案内面50aを有する案内部材50の外周に圧電材料42を貼り付ける。
【0069】
○ 励振手段は圧電材料を用いて構成された振動子33に代えて、磁歪素子や超磁歪素子を用いて振動子を構成してもよい。
○ 案内部材31の振動周波数は、案内部材31の材質、形状、大きさ、案内すべき繊維束Fの太さなどを考慮して発振効率の高い周波数に選定されるが、騒音面を考慮して人に聞こえ難い15KHz以上とするのが好ましい。しかし、可聴領域であっても、紡機の運転中に発生する他の音に比較すれば小さな音であるため、可聴領域の周波数であってもよい。
【0070】
○ 複数の案内部材31を同一振動系の中に構成して一つの励振手段、即ち振動子及び発振器39を一つの構成としてもよい。
○ 精紡機の複数錘に設けられた複数の振動子あるいは案内部材31に直接貼り付けられた圧電材料を一つの発振器39で励振させる構成としてもよい。
【0071】
○ 案内部材31はミドルローラとバックローラとの間に配置される構成に限らず、例えば、フロントローラとミドルローラとの間に配置したり、フロントローラとミドルローラとの間及びミドルローラとバックローラとの間の両方に配置したりしてもよい。
【0072】
○ ボトムエプロン13a及びトップエプロン22aは必須ではなく、エプロンを備えない構成のドラフト装置に適用してもよい。
○ 4線式のドラフト装置に適用してもよい。
【0073】
○ 繊維束案内装置30は精紡機に限らず、上流側から下流側へと移動する繊維束Fの幅を狭めるように案内する繊維束案内装置を必要とする紡機、例えば、練条機やコーマに適用してもよい。練条機の場合はドラフト装置に限らず、ドラフト装置で引き延ばされた繊維束Fを収束してスライバーとするギャザラーやトランペットに代えて、非接触状態で繊維束Fを収束案内する繊維束案内装置30を配置してもよい。
【0074】
○ 練条機やコーマのギャザラーとして繊維束案内装置30を使用する場合、案内部材は図12に示すように、案内面51aを底壁51b及び両側壁51cで構成し、一つの振動子33で案内部材51全体を振動させる構成としてもよい。
【0075】
○ 第2の実施形態において、繊維束案内装置30の案内部材31は、振動状態で音圧
により繊維束Fを摩擦抵抗が低い状態で圧縮して案内できればよく、一対の板は対向面の間隔が繊維束Fの進行方向の途中までは下流側より上流側が広くなるように形成された構成に限らない。例えば、案内部材31を一対の湾曲した板あるいは一対の平板により、案内面31aとなる対向面の間隔が繊維束Fの進行方向の上流側から下流側に向かって次第に狭くなるように形成してもよい。また、繊維束案内装置30の案内部材31は、一対の平板を対向面である案内面31aを平行に配置した構成としてもよい。
【0076】
○ 繊維束案内装置30の案内部材31は、平板あるいは湾曲板で対向する案内面31aが構成されたものに限らない。例えば、図13に示すように、案内部材52が繊維束の進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなる筒状体の一端から他端まで連続する溝部53を有する形状に形成されており、案内面52aがその内面で構成されたものとしてもよい。溝部53は案内部材52の長手方向に沿って直線状に延びる形状に限らず、湾曲した形状あるいは蛇行した形状であってもよい。また、案内部材52は、溝部53が上側に位置する状態で配置される構成に限らず、溝部53が横側あるいは下側に位置する状態で配置されてもよい。この場合、案内面が対向して設けられる板によって構成される場合に比較して繊維束案内装置30の小型化が容易になるとともに部品点数が少なくなり、低コストで繊維束案内装置30を製造することができる。また、案内部材が筒状に形成される場合に比較して繊維束Fを案内部材52に導入するのが容易になる。
【0077】
○ 図14に示すように、繊維束案内装置30の案内部材55を、板材56に複数の溝57を錘のピッチに合わせた間隔で形成した構成としてもよい。この場合、構造が簡単になるとともに、1個の案内部材31が複数錘の繊維束Fを同時にガイドすることが可能になる。従って、より低コストで繊維束案内装置30を製造することが可能になる。
【0078】
○ 繊維束案内装置30で圧縮した繊維束Fをドラフト装置11の最終送出ローラのニップ部に案内する構成としては、第2の実施形態のように案内部材31を3線式のドラフト部のフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21と、最終送出ローラ対26との間に配置する構成に限らない。例えば、最終送出ローラを構成するボトムローラを大径のローラとして、そのボトムローラが3線式のドラフト部のフロントボトムローラの役割を兼用する構成として、そのボトムローラの上方に案内部材31,52を配置してもよい。
【0079】
○ 繊維束案内装置30で圧縮した繊維束Fをドラフト装置11の最終送出ローラのニップ部に案内する構成として、3線式のドラフト装置11の最終送出ローラであるフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21と、その直前のローラであるミドルボトムローラ13及びミドルトップローラ22との間に案内部材31を配置してもよい。
【0080】
○ 第2の実施形態のように、繊維束案内装置30を最終送出ローラ対26と、フロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21との間に配置したドラフト装置において、第1の実施形態のように繊維束案内装置30をバックローラとミドルローラとの間にも配置してもよい。
【0081】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の発明において、前記励振手段は複数錘共通の発振器により駆動される。
【0082】
(2)請求項6〜請求項8及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の発明において、前記ミドルローラにはエプロンが巻き掛けられている。
(3)請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載のドラフト装置を備えたリング精紡機。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】(a)は第1の実施形態におけるドラフト装置の側面図。(b)は繊維束案内装置の模式平面図。
【図2】繊維束案内装置の模式斜視図。
【図3】引き出しローラのトルク変化を示すグラフ。
【図4】繊維束の質量変化を示すグラフ。
【図5】第2の実施形態を示し、(a)は図6の部分拡大図、(b)はトップ側から見た案内部材とボトムローラの関係を示す概略図。
【図6】第2の実施形態におけるドラフト装置の側面図。
【図7】短い毛羽数と案内部材の振幅との関係を示すグラフ。
【図8】長い毛羽数と案内部材の振幅との関係を示すグラフ。
【図9】短い毛羽数と案内面の間隔との関係を示すグラフ。
【図10】長い毛羽数と案内面の間隔との関係を示すグラフ。
【図11】別の実施形態における案内部材の模式斜視図。
【図12】別の実施形態における案内部材の模式斜視図。
【図13】別の実施形態における案内部材の模式斜視図。
【図14】別の実施形態における案内部材の模式斜視図。
【図15】(a)は従来技術のコレクタを備えたドラフト装置の側面図、(b)はコレクタの模式斜視図、(c)はコレクタの平断面図。
【符号の説明】
【0084】
F…繊維束、11…ドラフト装置、13…ミドルローラを構成するミドルボトムローラ、13a…エプロンとしてのボトムエプロン、22…ミドルローラを構成するミドルトップローラ、22a…エプロンとしてのトップエプロン、26a…最終送出ローラとしてのボトムニップローラ、26b…同じくトップニップローラ、30…繊維束案内装置、31,50,51,52,55…案内部材、31a,50a,51a,52a…案内面、31b…ガイド部、32…励振手段、53…溝部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側へと移動する繊維束の幅を狭めるように案内する紡機における繊維束案内装置であって、
紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材と、
前記案内面に前記繊維束が接触するのを阻止する音圧を発生するように前記案内部材を振動させる励振手段と
を備えた紡機における繊維束案内装置。
【請求項2】
前記案内部材は互いに平行に配置された一対の平板で構成され、前記案内面は前記平板の対向面で構成されている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項3】
前記案内部材は互いに対向して配置された一対の板で構成され、前記一対の板は対向面の間隔が前記繊維束の進行方向の下流側より上流側が広くなるように形成され、前記案内面は前記板の対向面で構成されている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項4】
前記案内部材は、繊維束の進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなる筒状に形成されており、前記案内面はその内面で構成されている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項5】
前記案内部材は、繊維束の進行方向の上流側から下流側に向かって断面形状が小さくなる筒状体の一端から他端まで連続する溝部を有する形状に形成されており、前記案内面はその内面で構成されている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、バックローラとエプロンが巻き掛けられたミドルローラとの間に配置されている精紡機のドラフト装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、最終送出ローラとその直前のローラとの間に配置されている精紡機のドラフト装置。
【請求項8】
前記繊維束案内装置の前記案内部材は、前記最終送出ローラのニップ部に向かって延びるガイド部を有する請求項7に記載の紡機における精紡機のドラフト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2007−9391(P2007−9391A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80670(P2006−80670)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】