説明

紡機における繊維束集束装置

【課題】繊維束の集束性を向上する。
【解決手段】吸引パイプ15の案内面28には吸引スリット27が形成されている。吸引スリット27の幅方向Hにおける一対の側縁29,30のうち一方の側縁29は、繊維束Fを集束するガイド縁を構成している。側縁30の外側方の案内面28にはカバー33の側壁31が立設されており、側壁31の上端にはカバー33の被覆壁32が一体に連結して形成されている。側壁31の内面及び被覆壁32の内面には張り出し部331が一体形成されている。張り出し部331は、側縁30の外側方で通気搬送ベルト16に向けて、且つ側壁31の手前まで張り出している。通気搬送ベルト16と被覆壁32との間には気流導入間隙Sがガイド縁29の外側方へ開放するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における繊維束集束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトされた繊維束(スライバー)を撚り掛けの前に予め集束する繊維束集束装置が例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示の繊維束集束装置は、ドラフト装置の出口ローラ対(最終ローラ対)より繊維束移動方向の下流に設けられた中空成形部材(吸引パイプ)と、中空成形部材の周面の滑り面に巻き掛けられた多孔の搬送ベルトとを備えている。中空成形部材の滑り面には吸い込みスリット(吸引スリット)が設けられており、吸い込みスリットは、搬送ベルトによって被覆されている。中空成形部材の繊維束移動方向の下流側端部付近には締め付けローラが設けられている。締め付けローラは、繊維束及び搬送ベルトを中空成形部材の周面に圧着させつつ搬送ベルトを移動させる。
【0003】
吸い込みスリットは、繊維束移動方向に対して傾斜するように形成されており、吸い込みスリットの一方の側縁が繊維ガイド縁を構成している。出口ローラ対と締め付けローラとの間においてスライバーがカバーによって覆われている。カバーは、繊維ガイド縁の外側方の滑り面に連結された支持部と、支持部の上端に一体形成された被覆壁とから構成されており、繊維ガイド縁とは反対側にて被覆壁と搬送ベルトとの間に空気流入間隙があけられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−69762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、カバーがスライバーの圧縮(集束)を一層改善するためのものである旨が記載されている。しかし、カバーの支持部が繊維ガイド縁の外側方に立設されているため、繊維ガイド縁の外側方から繊維ガイド縁側へ流れる気流が少ない。そのため、繊維ガイド縁の外側方から吸い込みスリット側に入ってくる繊維束を繊維ガイド縁の外側方から繊維ガイド縁側へ移動させるための気流が不足し、繊維束の集束が不十分になる。これは、糸品質の低下をもたらす。
【0006】
本発明は、繊維束の集束性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた吸引パイプと、前記吸引スリットを被覆するように前記吸引パイプの案内面に巻き掛けられた状態で移動される通気搬送ベルトとを備え、前記吸引スリットの幅方向における一対の側縁のうち一方の側縁が繊維束を集束するガイド縁として形成されている紡機における繊維束集束装置を対象とし、請求項1の発明では、前記吸引スリットの上方及び前記ガイド縁とは反対側の側縁の外側方を被覆するカバーが設けられており、前記気流導入間隙が前記ガイド縁と前記カバーとの間に設けられている。
【0008】
ガイド縁と反対側の側縁の外側方とは、吸引スリットを内側として、側縁を境として吸引スリットとは反対側の領域のことであり、ガイド縁の外側方とは、吸引スリットを内側として、ガイド縁を境として吸引スリットとは反対側の領域のことである。側縁の外側方とガイド縁の外側方とは、吸引スリットに関して互いに反対側にある。
【0009】
ガイド縁の外側方から吸引スリットへ気流が流れるが、吸引スリットの上方からの気流及びガイド縁と反対側の側縁の側から吸引スリットへの気流がカバーによって遮られる。そのため、ガイド縁の外側方から気流導入間隙を介して吸引スリットへ流れる気流が増大し、繊維束の集束性が向上する。
【0010】
好適な例では、前記カバーは、前記吸引スリットの上方を被覆する被覆壁を備え、前記被覆壁の前記ガイド縁側の先端縁は、前記ガイド縁の外側方まで達している。
このような構成は、ガイド縁の外側方から気流導入間隙を介して吸引スリットへ流れる気流の方向を、案内面に平行な状態に近づける上で好ましい。
【0011】
好適な例では、前記被覆壁は、前記反対側の側縁の外側方で前記通気搬送ベルトに向けて張り出す張り出し部を備えている。
張り出し部は、吸引スリットの上流端側からや吸引スリットの下流端側からの気流の流入を抑制して集束性の向上に寄与する。
【0012】
好適な例では、前記カバーは、前記被覆壁と前記反対側の側縁の外側方を被覆する側壁とを備え、前記被覆壁と前記側壁とは、一体形成されている。
好適な例では、前記被覆壁は、前記被覆壁の外側から前記被覆壁の内側へ貫通する孔を有し、前記孔は、前記吸引スリットの上流端寄りに、且つ前記反対側の側縁の外側方に設けられている。
【0013】
被覆壁の外側から孔を通って被覆壁の内側へと流れる気流は、前記反対側の側縁の外側方から吸引スリット側へ入ってくる繊維束をガイド縁側へ移動させて集束性の向上に寄与する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、繊維束の集束性を向上できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は、繊維束集束装置の一部破断側面図。(b)は、部分平面図。
【図2】(a)は、繊維束集束装置の吸引パイプと搬送ベルトとの関係を示す部分平面図。(b)は、図2(a)のA−A線断面図。
【図3】(a)は、繊維束の移動位置とヘアリネスとの関係を示すグラフ。(b)は、繊維束の移動位置と糸強力との関係を示すグラフ。
【図4】第2の実施形態を示す断面図。
【図5】第3の実施形態を示し、(a)は、部分拡大平面図。(b)は、図5(a)のB−B線断面図。
【図6】(a)は、繊維束の移動位置とヘアリネスとの関係を示すグラフ。(b)は、繊維束の移動位置と糸強力との関係を示すグラフ。
【図7】別の実施形態を示し、(a)は、部分拡大平面図。(b)は、図7(a)のC−C線断面図。
【図8】別の実施形態を示す断面図。
【図9】別の実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、繊維束集束装置11は、ドラフト装置12の最終送出ローラ対13の下流側に設けられている。繊維束集束装置11は、送出部14、吸引パイプ15、通気搬送ベルト16及びガイド部17を備えている。最終送出ローラ対13は、フロントボトムローラ131とフロントトップローラ132とによって構成されている。
【0017】
送出部14は、フロントボトムローラ131と平行に配設された回転軸18と、回転軸18に形成されたボトムニップローラ181と、ボトムニップローラ181に通気搬送ベルト16を介して押圧されるトップニップローラ19とによって構成されている。トップニップローラ19は、フロントトップローラ132と同様に2錘毎に、支持部材20を介してウエイティングアーム(図示略)に支持されている。支持部材20は、フロントトップローラ132の支持部材(図示略)と一体に形成されている。吸引パイプ15は、送出部14のニップ点(トップニップローラ19と通気搬送ベルト16との接触点)に対して繊維束Fの移動方向の上流側に設けられている。
【0018】
精紡機の機台長手方向〔図1(a)の紙面と垂直方向〕にはローラスタンド21が所定間隔で配設されている。隣り合うローラスタンド21間の中間位置には支持アーム(図示略)が精紡機の機台長手方向に延設された支持ビーム(図示略)に支持された状態で配設されており、ローラスタンド21と支持アームとの間には回転軸18が支持されている。回転軸18の長手方向の中間部にはギヤ22が回転軸18と一体回転可能に設けられている。
【0019】
フロントボトムローラ131にはギヤ22と対向する位置にギヤ部133が形成されている。前記支持ビームに固定された支持アーム24には中間ギヤ25が回転可能に支持されている。中間ギヤ25は、ギヤ部133及びギヤ22に噛合している。フロントボトムローラ131の回転力は、ギヤ部133、中間ギヤ25及びギヤ22を介して回転軸18に伝達される。
【0020】
精紡機の機台には吸引ダクト(図示略)が機台の長手方向に延びるように配設されている。吸引パイプ15は、吸引ダクトと平行に延びる状態で接続管26を介して吸引ダクトに接続されている。吸引パイプ15は、案内面28を備えており、案内面28には吸引スリット27が形成されている。案内面28は、吸引パイプ15の内側から外側へ凸の曲面である。
【0021】
通気搬送ベルト16は、吸引パイプ15とガイド部17とボトムニップローラ181とに接触するように巻き掛けられており、吸引スリット27は、通気搬送ベルト16によって被覆されている。通気搬送ベルト16は、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。
【0022】
回転軸18の回転に伴い、ボトムニップローラ181及びトップニップローラ19が互いに逆方向に回転し、ボトムニップローラ181とトップニップローラ19との間に挟まれている通気搬送ベルト16が矢印Rの方向へ移動される。これによりトップニップローラ19と通気搬送ベルト16との間に挟まれている繊維束Fが吸引スリット27の上流端271側から下流端272側へ移動される。
【0023】
図1(b)に示すように、吸引スリット27は、案内面28上における通気搬送ベルト16の搬送方向に対して傾斜する状態に形成されている。吸引スリット27の幅方向〔図2(a)に矢印Hで示す方向であって、吸引パイプ15の長手方向〕における一対の側縁29,30のうち一方の側縁29は、繊維束Fを集束するガイド縁(以下においてはガイド縁29と記す)を構成している。吸引スリット27の幅は、通気搬送ベルト16の搬送方向Rに関して上流側から下流側に向かう途中まで狭まってゆく形状である。
【0024】
図2(a),(b)に示すように、吸引スリット27の上方及びガイド縁29とは反対側の側縁30の外側方を被覆するカバー33が設けられている。側縁30の外側方〔側縁30より左側〕の案内面28にはカバー33を構成する側壁31が立設されており、側壁31の上端にはカバー33を構成する被覆壁32が一体に連結して形成されている。側縁30の外側方とは、吸引スリット27を内側として、側縁30を境として吸引スリット27とは反対側の領域のことである。側壁31の基端(案内面28側の端部)は、案内面28との間に隙間を生じないように案内面28に当接されており、被覆壁32は、側壁31との間に隙間を生じないように側壁31に連結されている。
【0025】
被覆壁32の内面320と案内面28との間隔は、どこでも一定である。側壁31の内面〔吸引スリット27側を向く面〕及び被覆壁32の内面には張り出し部331が一体形成されている。張り出し部331は、側縁30の外側方で通気搬送ベルト16に向けて、且つ側縁30の手前まで張り出しており、張り出し部331と通気搬送ベルト16との間には僅かな隙間が設けられている。
【0026】
図2(a)に示すように、被覆壁32の先端縁321は、案内面28上の通気搬送ベルト16の搬送方向Rに対して若干傾けられており、吸引スリット27の幅方向Hにおける被覆壁32の長さは、通気搬送ベルト16の搬送方向Rとは逆方向に向かうにつれて長くなるようにしてある。つまり、吸引スリット27の幅方向Hにおける被覆壁32の長さは、吸引スリット27の上流端271側が吸引スリット27の下流端272側よりも長い。吸引スリット27の幅方向Hにおける被覆壁32の先端縁321は、ガイド縁29の外側方〔図2(a)においてガイド縁29より右側〕にあり、被覆壁32は、吸引スリット27の幅方向Hにおいてガイド縁29を越えた位置まで案内面28を被覆している。
【0027】
被覆壁32は、吸引スリット27から直上方に離れて吸引スリット27の大半を被覆するように設けられている。本実施形態では、吸引スリット27の上流端271及び下流端272は、被覆壁32の被覆範囲から外れている。
【0028】
側壁31及び被覆壁32は、側縁30の外側方〔図2(a)において側縁30の左方〕の案内面28からガイド縁29の外側方〔図2(a)においてガイド縁29の右方〕の案内面28の上方に至るカバー33を構成する。ガイド縁29の外側方とは、吸引スリット27を内側として、ガイド縁29を境として吸引スリット27とは反対側の領域のことである。側縁30の外側方とガイド縁29の外側方とは、吸引スリット27に関して互いに反対側にある。カバー33は、図示しないブラケットを介して支持部材20に支持されている。図示しないウェイティングアームを解除位置に配置することにより、カバー33はトップニップローラ19等と一緒に吸引パイプ15から離間させることができる。
【0029】
通気搬送ベルト16表面と被覆壁32の先端縁321との間には気流導入間隙Sがガイド縁29の外側方へ開放するように設けられている。
繊維束Fは、図示しないトラバース装置の作用により綾振り運動を行ないながら移動する。綾振り運動の速度は、繊維束Fの移動速度に比べて十分に小さい速度に設定されている。吸引スリット27の上流端271は、通気搬送ベルト16の搬送方向Rと直交しており、綾振り運動によって繊維束Fの位置が変化しても、最終送出ローラ対13のニップ点から吸引スリット27に至る距離が一定に保たれる。
【0030】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機が運転されると、繊維束Fは、ドラフト装置12でドラフトされた後、最終送出ローラ対13から繊維束集束装置11へ案内される。ボトムニップローラ181及びトップニップローラ19は、最終送出ローラ対13の表面速度と略同等の速度で回転される。繊維束Fは、適度な緊張状態で両ローラ181,19間のニップ点を過ぎた後に撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。
【0031】
図示しないダクトの吸引作用は、接続管26を介して吸引パイプ15に波及し、吸引スリット27の吸引作用が通気搬送ベルト16を介して繊維束Fに波及する。繊維束Fは、吸引スリット27と対応する位置に吸引して集束された状態で移動する。この場合、吸引スリット27の近辺かつ通気搬送ベルト16表面付近の空気が順次吸引スリット27へ流入してゆく。しかし、側壁31は、側縁30の外側方から吸引スリット27への気流を遮り、被覆壁32は、吸引スリット27の上方から吸引スリット27への気流を遮る。そのため、吸引スリット27の幅方向Hにおいて吸引スリット27へ向かう気流は、主として被覆壁32の先端縁321と通気搬送ベルト16表面との間の気流導入間隙Sから吸引スリット27へと流れる気流となる。その結果、吸引スリット27と対応する位置に吸引される繊維束Fは、通気搬送ベルト16の搬送作用と、主として被覆壁32の先端縁321と通気搬送ベルト16表面との間の気流導入間隙Sから吸引スリット27へと流れる気流の作用とによって集束される。
【0032】
図3(a)は、試験によって得られたヘアリネスと繊維束Fの移動位置との関係を示す。図3(b)は、試験によって得られた糸強力と繊維束Fの移動位置との関係を示すグラフである。ヘアリネスとは、毛羽に関する評価項目であって、糸1cm長さ当たりのはみ出し繊維(毛羽)の合計長さと定義される。図3(a),(b)において繊維束Fの移動位置を示す横軸の位置Xは、図2(a)に示す位置Xを表し、横軸の位置Zは、図2(a)に示す位置Zを表す。横軸の位置Yは、図2(a)に示す位置Yを表す。
【0033】
図3(a),(b)における記号□は、カバー33がある場合の試験結果を表し、図3(a),(b)における記号◇は、カバー33がない場合の試験結果を表す。図3(a)のヘアリネスでは、縦軸において下側に行くほど特性が良くなることを表し、図3(b)の糸強力では、縦軸において上側に行くほど特性が良くなることを表す。
【0034】
図3(a)の試験結果は、カバー33がない場合に比べてカバー33がある場合の方がヘアリネスが良いことを示す。繊維束Fが移動位置Zにあるときのヘアリネスの向上が特に著しい。さらに、カバー33がある場合は、カバー33がない場合と比較して位置X〜Zでのヘアリネスの差が減少しており、トラバース位置にかかわらずヘアリネスが安定していることが分かる。
【0035】
図3(b)の試験結果は、カバー33がない場合に比べてカバー33がある場合の方が糸強力が良いことを示す。繊維束Fが移動位置X,Zのいずれにある場合にも糸強力の向上が著しい。さらに、カバー33がある場合は、カバー33がない場合と比較して位置X〜Zでの糸強力の差が減少しており、トラバース位置にかかわらず糸強力が安定していることが分かる。
【0036】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)側縁30のガイド縁29とは反対側(側縁30の外側方)から吸引スリット27への気流が側壁31によって遮られ、これによりガイド縁29の外側方から気流導入間隙Sを介して吸引スリット27へ流れる気流が側壁31のない場合に比べて増える。そのため、ガイド縁29の外側方から吸引スリット27への気流が増大し、繊維束Fの集束性が向上する。
【0037】
(2)吸引スリット27の上方から吸引スリット27への気流が被覆壁32によって遮られ、これによりガイド縁29の外側方から気流導入間隙を介して吸引スリット27へ流れる気流が被覆壁32のない場合に比べて増える。つまり、被覆壁32は、繊維束Fの集束性の向上に寄与する。
【0038】
(3)ガイド縁29の外側方から吸引スリット27側へ流れる気流は、案内面28に平行な状態で吸引スリット27へ向かうのが繊維束Fの集束性を向上する上で望ましい。
案内面28に対して一定の間隔をもって離れた内面320を有する被覆壁32の先端縁321は、吸引スリット27の幅方向Hにおけるガイド縁29を越えた所(ガイド縁29の外側方)まで達している。そのため、ガイド縁29の外側方から気流導入間隙Sを介して吸引スリット27へ流れる気流の流れ方向は、案内面28に平行な状態に近づく。従って、吸引スリット27の幅方向Hにおけるガイド縁29を越えた所まで被覆壁32を延ばした構成は、繊維束Fの集束性の向上に寄与する。
【0039】
(4)側縁30の外側方で通気搬送ベルト16に向けて張り出す張り出し部331は、側縁30の外側方において吸引スリット27の上流端271側からや下流端272側から吸引スリット27への気流の流入を抑制する。このような気流の流入の抑制は、ガイド縁29の外側方から吸引スリット27への気流の更なる増大をもたらして繊維束Fの集束性の向上に寄与する。
【0040】
(5)側壁31は、吸引パイプ15の案内面28との間に隙間を生じることなく立設されており、被覆壁32は、側壁31との間に隙間を生じることなく連結されている。このような隙間のない構成では、側壁31の基端と案内面28との間からの気流の流入、及び側壁31の先端と被覆壁32の基端との間からの気流の流入がなく、ガイド縁29の外側方から吸引スリット27への気流が効果的に増大する。
【0041】
(6)側壁31と被覆壁32とによってカバー33を一体形成した構成は、カバー33の所望の形状の形成を容易にする。
次に、図4の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
【0042】
図4に示すように、第2の実施形態のカバー33Aは、第1の実施形態における張り出し部331が無い点のみが第1の実施形態と異なる。
第2の実施形態では、第1の実施形態における(1)〜(3),(5),(6)項と同様の効果が得られる。
【0043】
次に、図5及び図6の第3の実施形態を説明する。第2の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
図5(a),(b)に示すように、第3の実施形態のカバー33Bでは、被覆壁32に孔322が形成されている。孔322は、吸引スリット27の上流端271寄りに、且つ側縁30の外側方に対応した位置で、被覆壁32の外側から被覆壁32の内側へ貫通している。被覆壁32の外側から孔322を介して被覆壁32の内側に流入した気流は、側縁30の外側方で吸引スリット27の上流端271寄りに、且つ側縁30へ向かう。孔322を通った気流は、移動位置X付近の繊維束Fをガイド縁29側へ移動させる。
【0044】
図6(a)は、紡出するという試験によって得られたヘアリネスと繊維束Fの移動位置との関係を示す。図6(b)は、紡出するという試験によって得られた糸強力と繊維束Fの移動位置との関係を示すグラフである。図6(a),(b)における記号○は、カバー33Bがある場合の試験結果を表し、図6(a),(b)における記号□は、第1の実施形態のカバー33がある場合の試験結果を表す。
【0045】
図6(a)の試験結果は、移動位置Y及びZにおいては、カバー33Bとカバー33とでヘアリネスに大きな変化はないが、移動位置Xにおけるヘアリネスは、カバー33Bの方がカバー33に比べて良いことを示す。従って、カバー33Bがある場合は、カバー33がある場合と比較して位置X〜Zでのヘアリネスの差が更に減少しており、トラバース位置にかかわらずヘアリネスが第1の実施形態と比較してさらに安定していることが分かる。図6(b)の試験結果は、移動位置Y及びZにおいては、カバー33Bとカバー33とで糸強力に大きな変化はないが、移動位置Xにおける糸強力は、カバー33Bの方がカバー33に比べて良いことを示す。従って、カバー33Bがある場合は、カバー33がある場合と比較して位置X〜Zでの糸強力の差が更に減少しており、トラバース位置にかかわらず糸強力が第1の実施形態と比較してさらに安定していることが分かる。
【0046】
第3の実施形態では、第2の実施形態と比べて同等以上の効果が得られる。
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○図7(a),(b)に示すように、カバー33の張り出し部331に孔332を設けてもよい。孔332は、吸引スリット27の上流端271寄り、且つ側縁30を指向しており、孔332を通った気流は、移動位置X付近の繊維束Fをガイド縁29側へ移動させる。
【0047】
この実施形態では、第3の実施形態と同様の効果が得られる。
○図8に示すように、傾斜した側壁31Cと傾斜した被覆壁32Cとからなるカバー33Cを用いてもよい。被覆壁32Cは、吸引スリット27の幅方向Hにおいてガイド縁29の外側方まで到達している。
【0048】
○図9に示すように、傾斜壁形状のカバー33Dを用いてもよい。カバー33Dの先端は、吸引スリット27の幅方向Hにおいてガイド縁29の外側方まで到達している。カバー33Cは、傾斜した側壁と傾斜した被覆壁とを兼ねている。
【0049】
○第1の実施形態において、案内面28は平面であってもよく、被覆壁32の内面320も平面であってもよい。
○第1の実施形態において、カバー33の被覆壁32が吸引スリット27全体を被覆するようにしてもよい。
【0050】
○第1の実施形態において、張り出し部331は、側壁31から離れていてもよい。
○案内面28と被覆壁32の内面320とが異なる面形状であってもよい。例えば、案内面28が曲面であって内面320が平面であってもよい。
【0051】
○通気搬送ベルト16の搬送方向に対する吸引スリット27の傾き方向を第1の実施形態の場合とは逆の方向〔図2(a)に示す吸引スリット27を左右反転した形状〕にしてもよい。
【0052】
○ゴム製や弾性を有する樹脂製のベルトに多数の孔を開けて形成した通気搬送ベルトを用いてもよい。
前記した実施形態から把握できる技術的思想を以下に記載する。
【0053】
(イ)前記吸引スリットの幅方向における前記被覆壁の長さは、前記吸引スリットの上流端側が前記吸引スリットの下流端側よりも長い請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の紡機における繊維束集束装置。
【0054】
(ロ)前記側壁は、前記吸引パイプとの間に隙間を生じることなく前記吸引パイプに立設されており、前記被覆壁は、前記側壁との間に隙間を生じることなく前記側壁に連結されている請求項4に記載の紡機における繊維束集束装置。
【符号の説明】
【0055】
11…繊維束集束装置。12…ドラフト装置。13…最終送出ローラ対。15…吸引パイプ。16…通気搬送ベルト。27…吸引スリット。271…上流端。272…下流端。28…案内面。29…ガイド縁。30…側縁。31,31C…側壁。32,32C…被覆壁。322…孔。33,33A,33B,33C,33D…カバー。331…張り出し部。F…繊維束。S…気流導入間隙。H…幅方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた吸引パイプと、前記吸引スリットを被覆するように前記吸引パイプの案内面に巻き掛けられた状態で移動される通気搬送ベルトとを備え、前記吸引スリットの幅方向における一対の側縁のうち一方の側縁が繊維束を集束するガイド縁として形成されている紡機における繊維束集束装置において、
前記吸引スリットの上方及び前記ガイド縁とは反対側の側縁の外側方を被覆するカバーが設けられており、気流導入間隙が前記ガイド縁と前記カバーとの間に設けられている紡機における繊維束集束装置。
【請求項2】
前記カバーは、前記吸引スリットの上方を被覆する被覆壁を備え、前記被覆壁の前記ガイド縁側の先端縁は、前記ガイド縁の外側方まで達している請求項1に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項3】
前記被覆壁は、前記反対側の側縁の外側方で、前記通気搬送ベルトに向けて張り出す張り出し部を備えている請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項4】
前記カバーは、前記被覆壁と前記反対側の側縁の外側方を被覆する側壁とを備え、前記被覆壁と前記側壁とは、一体形成されている請求項2及び請求項3のいずれか1項に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項5】
前記カバーは、前記カバーの外側から内側へ貫通する孔を有し、前記孔は、前記吸引スリットの上流端寄りに、且つ前記反対側の側縁の外側方に設けられている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の紡機における繊維束集束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−122273(P2011−122273A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281703(P2009−281703)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】