説明

紡機のドラフト装置

【課題】繊維束を案内する繊維束ガイド部が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる紡機のドラフト装置を提供する。
【解決手段】エプロンドラフト部とフロントローラとの間に繊維束ガイド部26が配置されている。繊維束ガイド部26は、繊維束ガイド部26を設定位置に保持する板金製の保持部材25の先端側に板金加工で一体に形成されており、保持部材25は基端側においてエプロンクレードル20に形成された支持部23に支持されている。繊維束ガイド部26は、保持部材25の先端側に連続するとともに、左右両側のミドルトップローラ19と平行に延びるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機のドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機においてはフロントローラとバックローラとの間にエプロンドラフト部を配設し、トップエプロンとボトムエプロンとの間で粗糸を把持してドラフトするようにしている。ドラフト装置においてドラフトされつつ移動(走行)する繊維束は、トップエプロンとボトムエプロンとによる把持部からフロントトップローラとボトムトップローラによる把持部に至るまでの間は、エプロンやローラによる圧力を受けずに自由な状態で移動する。繊維束が自由な状態で移動する範囲(以下、フリーゲージ範囲と記載する。)が広い(長い)と、繊維束がフリーゲージ範囲を移動する間に、繊維束から短い繊維が離脱したり、毛羽になる繊維が増え易くなったりする。
【0003】
従来、エプロンドラフト部とフロントローラとの間に案内エレメントを設けて、ドラフトされる繊維束から短い繊維が離脱することを回避するようにしたドラフト装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、図10に示すように、ドラフト装置に案内エレメント51を固定する2つの実施例が開示されている。第1実施例では、案内エレメント51はケージ(クレードル)50の1区分の全長にわたって延びている。案内エレメント51の端部は保持エレメント510a,510bによって掴まれている。保持エレメント510aは位置的に不動にケージ50の端部に例えばピン又はねじの形をした固定エレメント512を用いて取り付けられている。保持エレメント510aは例えばばね鋼から成る板ばねとして製作されている。保持エレメント510aは固定ピンで固定エレメント512と整合する孔内に側方からケージ50の端部へスナップ結合される。第2実施例では、図10の右側の部分に示すように、比較的短い案内エレメント51が、端部に鞍部514が位置する2つの保持エレメント510a,510bでスペーサ片52の近くでケージ50の右側の長手方向縁部に差し嵌められている。
【0004】
また、図11に示すように、エプロンドラフト部61とバックローラ62との間に、2本のローラ63a,63bから成る案内部63を設けたドラフト装置もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−505703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、案内エレメントと、案内エレメントをケージ(クレードル)に取り付けるための保持部材とが複数の部品で構成されているため、保持部材への案内エレメントの取り付け時に取り付け誤差があると、錘間で作用がばらつく。その結果、紡出糸の糸品質に対する悪影響、特に糸の太さのむらが錘間で生じる。また、エプロンドラフト部61とバックローラとの間に2本のローラ63a,63bからなる案内部63を設けた構成の図11に示すドラフト装置においても、案内部63が複数の部品で構成されているため同様の問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は繊維束を案内する繊維束ガイド部が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる紡機のドラフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、2錘一体型のエプロンドラフト部を備えた紡機のドラフト装置である。そして、前記エプロンドラフト部とフロントローラとの間及び前記エプロンドラフト部とバックローラとの間の少なくとも一方に配置される繊維束ガイド部が設けられ、前記繊維束ガイド部は、該繊維束ガイド部を設定位置に保持する板金製の保持部材の先端側に板金加工で一体に形成されており、前記保持部材は基端側において支持部に支持されている。ここで、支持部は板金加工で形成された保持部材の基端側を支持可能であればよく、エプロンクレードルの一部やエプロンクレードルが取り付けられるミドルトップローラの支持軸等が支持部として利用される。
【0009】
この発明では、エプロンドラフト部とフロントローラとの間あるいはエプロンドラフト部とバックローラとの間に配置されて繊維束がフリーの状態で移動する範囲を狭める役割を果たす繊維束ガイド部と、繊維束ガイド部を適切な設定位置に保持する保持部材とが板金加工で一体に形成されているため、構成部品が少なくなって取り付け誤差による錘間での作用のばらつきが抑制される。したがって、繊維束を案内する繊維束ガイド部が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記繊維束ガイド部が、前記エプロンドラフト部とフロントローラとの間に配置されており、前記繊維束ガイド部は繊維束に接触する湾曲部を有する。この発明では、エプロンドラフト部を出た繊維束は、繊維束ガイド部の湾曲部に接触しつつ移動するため、エプロンドラフト部とフロントローラとの間において繊維束がフリーの状態で移動する範囲が狭くなり、糸品質が向上する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記繊維束ガイド部は、前記保持部材の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から後方に折り曲げられて前記湾曲部が形成され、前記湾曲部に連続して上方に延びる壁部を有する。繊維束は湾曲部に接触する状態で繊維束ガイド部の下側を通過するのが正常な状態である。しかし、繊維束の表面に繊維の一部が長く出ている部分があると、稀に繊維の一部が湾曲部の上を通過して繊維束全体が繊維束ガイド部の上を通過する状態になる虞がある。この発明では、下側から後方に折り曲げられて形成された湾曲部に連続して上方に延びる壁部を有するため、繊維束の表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、繊維の一部が繊維束ガイド部の上側を通過することが壁部により抑制され、繊維束全体が繊維束ガイド部の上を通過する状態になることが抑制される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記繊維束ガイド部は、前記湾曲部から繊維束の走行方向に沿って前側に延びる平面部を備えている。したがって、この発明では、繊維束が繊維束ガイド部の湾曲部のみに接触して移動する場合に比べて、繊維束がフリーの状態で移動する範囲が狭くなり、糸品質がより向上する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記繊維束ガイド部は、前記保持部材の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から前側上方、次いで後方に折り曲げられて前記湾曲部が形成されている。この発明では、繊維束の表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、湾曲部は保持部材の先端を延長して斜め下方に延びた部分の前側に形成されているため、繊維の一部が繊維束ガイド部の上側を通過することが防止され、繊維束全体が繊維束ガイド部の上を通過する状態になることが回避される。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記繊維束ガイド部として、前記エプロンドラフト部とバックローラとの間に配置された繊維束ガイド部を備えており、その繊維束ガイド部は断面円弧状の前後一組のガイド部を有する。この発明では、エプロンドラフト部とバックローラとの間に設けられる繊維束ガイド部においても、繊維束を案内するガイド部が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記前後一組のガイド部のうち前側のガイド部は取り外し可能に形成されている。エプロンドラフト部とバックローラとの間に配置された繊維束ガイド部を構成する一組のガイド部のうち、前側に配置されるガイド部は後側に配置されるガイド部に比べて重要性は低く、糸の種類によっては後側のガイド部のみを有する繊維束ガイド部を使用したい場合もある。この発明では、前側のガイド部が取り外し可能に構成されているため、後側のガイド部は適切な位置に保持されたまま、前側のガイド部を取り外すことにより、紡出条件に適した状態に簡単に変更することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維束を案内する繊維束ガイド部が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態におけるドラフト装置の部分側断面図。
【図2】繊維束ガイド部材とトップエプロンとの関係を示す模式斜視図。
【図3】(a)は繊維束ガイド部材とエプロンクレードルとの関係を示す概略斜視図、(b)は繊維束ガイド部の拡大側面図。
【図4】第2の実施形態におけるドラフト装置の部分側断面図。
【図5】第3の実施形態におけるドラフト装置の部分側断面図。
【図6】繊維束ガイド部材の斜視図。
【図7】(a)は別の実施形態のドラフト装置の部分側断面図、(b)は繊維束ガイド部材の斜視図。
【図8】(a),(b)はそれぞれ別の実施形態の繊維束ガイド部の拡大側面図。
【図9】別の実施形態の繊維束ガイド部材を示す側断面図。
【図10】従来技術の模式斜視図。
【図11】別の従来技術の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を精紡機の2錘一体型のドラフト装置に具体化した第1の実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
【0019】
図1に示すように、ドラフト装置10は、フロントローラ11の後方にエプロンドラフト部12が設けられている。フロントローラ11はフロントボトムローラ11aとフロントトップローラ11bで構成されている。フロントボトムローラ11aは図示しないローラスタンドに支持され、フロントトップローラ11bはボトムローラの上方に配設されたウエイティングアーム13に図示しない支持アームを介して支持されている。
【0020】
エプロンドラフト部12は、ボトムエプロン14及びトップエプロン15を備えている。ボトムエプロン14は、テンサーバー16とミドルボトムローラ17とに巻き掛けられている。トップエプロン15は、ウエイティングアーム13に固定された支持アーム(図示せず)に支持された支持軸18の両端に回転可能に支持されたミドルトップローラ19と、支持軸18に対して支承されたエプロンクレードル20との間に巻き掛けられている。
【0021】
図3(a)に示すように、エプロンクレードル20は、クレードル本体21が略T字状を成す。図2及び図3(a)に示すように、クレードル本体21は、基端寄りに形成された一対の円弧部21aが支持軸18の外周面に当接する状態で、図示しない付勢手段により、トップエプロン15をボトムエプロン14側へ付勢する状態に保持されている。クレードル本体21の先端側には左右一対のエプロンガイド22が固定され、トップエプロン15はミドルトップローラ19とエプロンガイド22とに巻き掛けられている。クレードル本体21にはトップエプロン15の幅方向への移動を規制する規制部21bが、トップエプロン15の幅とほぼ同じ間隔をおいて突設されている。左右一対のトップエプロン15はウエイティングアーム13を挟んで対称位置に支持されている。
【0022】
クレードル本体21には、一対のエプロンガイド22の間に支持部23が形成され、支持部23には繊維束ガイド部材24が支持されている。繊維束ガイド部材24は、エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間に配置される繊維束ガイド部26と、繊維束ガイド部26を所定の設定位置に保持する板金製の保持部材25とが板金加工で一体に形成されている。
【0023】
図2及び図3(a)に示すように、保持部材25は、一対のエプロンガイド22の間でエプロンガイド22と平行に延びるとともに、基端側に形成された取り付け部25aにおいて支持部23に取り付けられている。繊維束ガイド部26は、保持部材25の先端側に連続するとともに、左右両側のミドルトップローラ19と平行に延びるように設けられている。詳述すると、繊維束ガイド部26は、保持部材25の先端側が斜め下方に延びるとともに、図3(b)に示すように、下側から後方に折り曲げられて略半円弧状の湾曲部26aが形成され、湾曲部26aに連続して上方に向かって延びる壁部26bを有する形状、即ち全体として側面略水滴状に形成されている。そして、図1に示すように、繊維束ガイド部材24は、繊維束Fが繊維束ガイド部26の湾曲部26aの下面に接触して移動するように配設されている。
【0024】
図2及び図3(a)に示すように、クレードル本体21には、保持部材25の下側にディスタンスクリップ27が固定されている。ディスタンスクリップ27は、糸の番手や繊維の種類に応じて上下のエプロン先端部の開き量、即ちボトムエプロン14の先端とトップエプロン15の先端との間隔を調整するため、クレードル本体21とテンサーバー16との間隔を調整するためのものである。ディスタンスクリップ27として、紡出条件に応じた適切な開き量となるディスタンスクリップ27が取り付けられている。
【0025】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
ミドルボトムローラ17の回転によりボトムエプロン14が回動される。そして、トップエプロン15がボトムエプロン14との間の接圧によりボトムエプロン14と同期して回動され、ボトムエプロン14と共同して繊維束Fを移送する。トップエプロン15は上側走行部が規制部21bにそれぞれガイドされて幅方向への移動が規制され、所定の位置で移動する。
【0026】
ボトムエプロン14及びトップエプロン15により把持された状態で移送される繊維束Fは、ミドルボトムローラ17及びミドルトップローラ19に把持され、フロントローラ11の回転速度とエプロンの回転速度との差により引き伸ばされる。ボトムエプロン14及びトップエプロン15の先端部の開き量は、ディスタンスクリップ27により糸の番手や繊維の種類に応じて適切に調整されており、繊維束Fはミドルボトムローラ17及びミドルトップローラ19に適切な把持圧力で把持された状態でフロントボトムローラ11a及びフロントトップローラ11b間へ向かって移動する。
【0027】
ボトムエプロン14とトップエプロン15とによる把持部からフロントボトムローラ11aとフロントトップローラ11bによる把持部に至るまでの間は、繊維束Fは、エプロンやローラによる圧力を受けずに自由な状態で移動する。繊維束Fは、多数の繊維が束ねられるとともに、まだ撚りが掛けられていない状態であるため、繊維束Fが自由な状態で移動する範囲(フリーゲージ範囲)が広い(長い)と、繊維束Fがフリーゲージ範囲を移動する間に、繊維束Fから短い繊維が離脱したり、毛羽になる繊維が増え易くなったりする。
【0028】
しかし、フロントローラ11とエプロンドラフト部12との間に繊維束ガイド部26が配置され、繊維束Fは、繊維束ガイド部26の湾曲部26aの下面に接触するとともに湾曲部26aから圧力を受けた状態で移動するため、フリーゲージ範囲が狭く短くなる。そのため、繊維束Fがフリーゲージ範囲を移動する間に、繊維束Fから短い繊維が離脱するのが防止されるとともに、毛羽になる繊維が増え難くなる。
【0029】
繊維束Fは湾曲部26aの下面に接触する状態で繊維束ガイド部26の下側を通過するのが正常な状態である。しかし、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分が存在した場合、特許文献1のように断面円形の案内エレメントを用いると、繊維の一部がガイド部の上を通過して繊維束F全体が繊維束ガイド部26の上を通過する状態になる場合がある。しかし、繊維束ガイド部26は、湾曲部26aに連続して上方に延びる壁部26bが存在するため、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、繊維の一部が繊維束ガイド部26の上側を通過することが壁部26bにより抑制され、繊維束F全体が繊維束ガイド部26の上を通過する状態になることが抑制される。
【0030】
また、繊維束ガイド部材24は、繊維束ガイド部26と、繊維束ガイド部26を適切な設定位置に保持する保持部材25とが板金加工で一体に形成されているため、構成部品が少なくなって取り付け工数が少なくなるとともに、保持部材25と繊維束ガイド部26とが別体の場合の両者の取り付け誤差による錘間での繊維束ガイド部26の位置の違いによる作用のばらつきが抑制される。
【0031】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束ガイド部26は、該繊維束ガイド部26を設定位置に保持する板金製の保持部材25の先端側に板金加工で一体に形成されており、保持部材25は基端側において支持部23に支持されている。繊維束Fがフリーの状態で移動する範囲を狭める役割を果たす繊維束ガイド部26と、繊維束ガイド部26を適切な設定位置に保持する保持部材25とが板金加工で一体に形成されているため、構成部品が少なくなって取り付け誤差による錘間での繊維束ガイド部26の位置の違いによる作用のばらつきが抑制される。したがって、繊維束Fを案内する繊維束ガイド部26が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる。
【0032】
(2)繊維束ガイド部26は、エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間に配置され、繊維束Fに接触する湾曲部26aを有し、エプロンドラフト部12を出た繊維束Fは、繊維束ガイド部の湾曲部26aに接触しつつ移動する。したがって、エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間において繊維束Fがフリーの状態で移動する範囲が狭くなり、糸品質が向上する。
【0033】
(3)繊維束ガイド部26は、保持部材25の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から後方に折り曲げられて湾曲部26aが形成され、湾曲部26aに連続して上方に延びる壁部26bを有する。したがって、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、繊維の一部が繊維束ガイド部26の上側を通過することが壁部26bにより抑制され、繊維束F全体が繊維束ガイド部26の上を通過する状態になることが抑制される。
【0034】
(4)保持部材25は、エプロンクレードル20に形成された支持部23に取り付けられている。したがって、エプロンクレードル20以外の箇所に設けられた支持部に保持部材25が取り付けられる構成に比べて、繊維束ガイド部26を適切な設定位置に保持する状態に取り付け易い。
【0035】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を図4にしたがって説明する。この実施形態では、繊維束ガイド部材24の繊維束ガイド部26の形状が第1の実施形態と異なり、その他の構成は同じである。第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0036】
図4に示すように、繊維束ガイド部26は、湾曲部26aの形状及び位置が第1の実施形態と異なるとともに、湾曲部26aから繊維束Fの走行方向に沿って前側に延びる平面部26cを備えている。詳述すると、繊維束ガイド部26は、保持部材25の先端側が斜め下方に延びるとともに、後側に凸となるように湾曲部26aが形成され、湾曲部26aから平面部26cがフロントボトムローラ11aとフロントトップローラ11bとによる繊維束Fの把持部に向かって延びるように形成されている。そして、繊維束ガイド部材24は、繊維束Fが繊維束ガイド部26の平面部26cの下面全体に接触して移動するように配設されている。具体的には、平面部26cがフロントボトムローラ11aとフロントトップローラ11bとによる繊維束Fの把持部より若干低い位置で略水平に延びるように配設されている。
【0037】
したがって、この第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1),(2)及び(4)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(5)繊維束ガイド部26は、湾曲部26aから繊維束Fの走行方向に沿って前側に延びる平面部26cを備えており、繊維束Fが平面部26cの下面全体に接触して移動する。したがって、繊維束Fが繊維束ガイド部26の湾曲部26aのみに接触して移動する場合に比べて、繊維束Fがフリーの状態で移動する範囲が狭くなり、糸品質がより向上する。
【0038】
(6)繊維束ガイド部26は、繊維束Fをガイドするガイド部分として、湾曲部26aから繊維束Fの走行方向に沿って前側に延びる平面部26cを備えている。したがって、ガイド部分をフロントボトムローラ11aとフロントトップローラ11bとによる繊維束Fの把持部に近づけることが棒形状のガイドを用いる従来技術に比べて容易になり、繊維束Fをガイドする範囲を広くする自由度が高くなる。
【0039】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態を図5及び図6にしたがって説明する。この実施形態では、エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間で繊維束Fをガイドする繊維束ガイド部材24に加えて、エプロンドラフト部12とバックローラとの間で繊維束Fをガイドする繊維束ガイド部材を設けた点が第1の実施形態と異なり、その他の構成は同じである。第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0040】
図5に示すように、繊維束ガイド部材29は、エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に配置される繊維束ガイド部31と、繊維束ガイド部31を所定の設定位置に保持する板金製の保持部材30とが板金加工で一体に形成されている。保持部材30は、基端に形成された取り付け部30aがクレードル本体21の後端部21cに対して嵌合固定されている。
【0041】
図5及び図6に示すように、繊維束ガイド部31は、保持部材30の先端側に連続するとともに、ミドルボトムローラ17と平行に延びるように設けられた前後一組のガイド部、即ち第1ガイド部32及び第2ガイド部33を有する。第1ガイド部32及び第2ガイド部33はいずれも側面半円弧状に形成され、後側、即ちバックローラ28に近い側に配置される第1ガイド部32は、半円弧が下側に凸となる状態に配置され、前側に配置される第2ガイド部33は、半円弧が上側に凸となる状態に配置されている。そして、図5に示すように、繊維束ガイド部材29は、第1ガイド部32の下面がバックローラ28による繊維束Fの把持部より低い位置になり、第2ガイド部33の上面がボトムエプロン14とトップエプロン15とによる繊維束Fの把持部とほぼ同じ高さ位置になるように配設されている。この実施形態では、バックローラ28から出た繊維束Fが、下方前方へ向かって移動した後、第1ガイド部32の下面に接触してその移動方向が上方前方となるように変更され、第2ガイド部33の上面に接触してその移動方向がボトムエプロン14とトップエプロン15とによる繊維束Fの把持部に向かうように移動する。
【0042】
したがって、この第3の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(4)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(7)エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に配置された繊維束ガイド部31を備えており、繊維束ガイド部31は、該繊維束ガイド部31を設定位置に保持する板金製の保持部材30の先端側に板金加工で一体に形成され、保持部材30は基端側において支持部としてのクレードル本体21の後端部21cに支持されている。したがって、エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に設けられる繊維束ガイド部31においても、繊維束Fを案内する繊維束ガイド部31が所定の位置に精度良く保持されて、糸品質の錘間のばらつきを抑制することができる。
【0043】
(8)繊維束ガイド部31は、断面円弧状の前後一組の第1ガイド部32及び第2ガイド部33を有する。そして、バックローラ28から出た繊維束Fが、下方前方へ向かって移動した後、第1ガイド部32の下面に接触してその移動方向が上方前方となるように変更され、第2ガイド部33の上面に接触してその移動方向がボトムエプロン14とトップエプロン15とによる繊維束Fの把持部に向かうように移動する。したがって、2個の円弧状のガイド部が、繊維束Fに対して同じ側で接触する場合に比べて繊維束Fに対する押圧力が強くなる。
【0044】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ エプロンドラフト部12とバックローラ28との間で繊維束Fをガイドする繊維束ガイド部材29は、前後一組の第1ガイド部32及び第2ガイド部33が保持部材30と一体形成された構成に限らない。例えば、図7(a),(b)に示すように、後側に配置される第1ガイド部32が保持部材30と一体形成され、前側の第2ガイド部33が取り外し可能に形成されている構成としてもよい。保持部材30は、側面略L字状に形成され、その先端側に断面略円形状の第1ガイド部32が形成されている。第2ガイド部33は、矩形状金属板の両長辺の中央寄りにそれぞれ掛止片33a,33bが一対ずつ形成されるとともに、金属板が四半円弧状に湾曲形成され、各掛止片33a,33bが保持部材30に形成された掛止孔30bに掛止された状態で取り付けられている。
【0045】
エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に配置された繊維束ガイド部31を構成する一組のガイド部32,33のうち、前側に配置される第2ガイド部33は後側に配置される第1ガイド部32に比べて重要性は低く、糸の種類によっては後側の第1ガイド部32のみを有する繊維束ガイド部31を使用したい場合もある。この実施形態では、前側の第2ガイド部33が取り外し可能に構成されているため、後側の第1ガイド部32は適切な位置に保持されたまま、前側の第2ガイド部33を取り外すことにより、紡出条件に適した状態に簡単に変更することが可能になる。
【0046】
○ エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間に配置される繊維束ガイド部26の形状は、第1の実施形態や第2の実施形態の形状に限らない。例えば、湾曲部26aで繊維束Fをガイドする構成の繊維束ガイド部26の形状として、図8(a)に示すように、保持部材25の先端側の下側から後方に折り曲げられて湾曲部26aが形成され、湾曲部26aに連続して上方に延びる壁部26bの長さを長くしてもよい。この場合、壁部26bの長さが第1の実施形態の繊維束ガイド部26に比べて長いため、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、繊維の一部が繊維束ガイド部の上側を通過することを防止する壁部26bの機能が向上する。その結果、繊維束F全体が繊維束ガイド部26の上を通過する状態になることが回避される。
【0047】
○ 図8(b)に示すように、繊維束ガイド部26の形状を、保持部材25の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から前側上方、次いで後方に折り曲げられて湾曲部26aが形成された形状としてもよい。この場合も、湾曲部26aよりエプロンドラフト部12側で、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分が繊維束ガイド部26の上側を通過する状態になるのを防止する壁部26bが長く存在する。したがって、繊維束Fの表面に繊維の一部が長く出ている部分があっても、繊維の一部が繊維束ガイド部26の上側を通過することが防止され、繊維束F全体が繊維束ガイド部26の上を通過する状態になることが回避される。
【0048】
○ 繊維束ガイド部材24,29を支持する支持部は、板金加工で形成された保持部材25,30の基端側を支持可能であればよく、エプロンクレードル20の一部やエプロンクレードル20が取り付けられるミドルトップローラ19の支持軸18等を支持部として利用してもよい。例えば、図9に示すように、エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に配置される繊維束ガイド部材29をエプロンクレードル20に取り付ける代わりに、支持軸18に取り付ける構成にしてもよい。繊維束ガイド部材29は、支持軸18に取り付けられる左右一対の取り付け部34を備えている。左右一対の取り付け部34は、支持軸18を挟持する一対の挟持片34aを有し、エプロンクレードル20の一対の円弧部21aの外側に位置する状態で支持軸18に取り付けられる。
【0049】
○ エプロンクレードル20の形状は実施形態で使用された形状に限らない。例えば、トップエプロン15の幅方向への移動を規制する規制部21bをクレードル本体21に形成する代わりに、エプロンガイド22に規制部を設けてもよい。
【0050】
○ エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間及びエプロンドラフト部12とバックローラ28との間の少なくとも一方に繊維束ガイド部が設けられていればよい。したがって、エプロンドラフト部12とバックローラ28との間に繊維束ガイド部31を設ける場合、エプロンドラフト部12とフロントローラ11との間に繊維束ガイド部26を設けなくてもよい。
【0051】
○ ボトムエプロン14は、一つのテンサーバー16とミドルボトムローラ17とに巻き掛けられる構成に限らず、テンサーバー16、ミドルボトムローラ17及びミドルボトムローラ17の下方に配置されたテンサーバーの三者に巻き掛けられる構成であってもよい。
【0052】
○ 精紡機のドラフト装置に限らず粗紡機あるいは結束紡績機等の他の紡機のドラフト装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
F…繊維束、10…ドラフト装置、11…フロントローラ、12…エプロンドラフト部、21c…支持部としての後端部、23…支持部、25,30…保持部材、26,31…繊維束ガイド部、26a…湾曲部、26b…壁部、26c…平面部、28…バックローラ、32…ガイド部としての第1ガイド部、33…ガイド部としての第2ガイド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2錘一体型のエプロンドラフト部を備えた紡機のドラフト装置であって、
前記エプロンドラフト部とフロントローラとの間及び前記エプロンドラフト部とバックローラとの間の少なくとも一方に配置される繊維束ガイド部が設けられ、前記繊維束ガイド部は、該繊維束ガイド部を設定位置に保持する板金製の保持部材の先端側に板金加工で一体に形成されており、前記保持部材は基端側において支持部に支持されている紡機のドラフト装置。
【請求項2】
前記繊維束ガイド部が、前記エプロンドラフト部とフロントローラとの間に配置されており、前記繊維束ガイド部は繊維束に接触する湾曲部を有する請求項1に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項3】
前記繊維束ガイド部は、前記保持部材の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から後方に折り曲げられて前記湾曲部が形成され、前記湾曲部に連続して上方に延びる壁部を有する請求項2に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項4】
前記繊維束ガイド部は、前記湾曲部から繊維束の走行方向に沿って前側に延びる平面部を備えている請求項2に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項5】
前記繊維束ガイド部は、前記保持部材の先端側が斜め下方に延びるとともに、下側から前側上方、次いで後方に折り曲げられて前記湾曲部が形成されている請求項2に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項6】
前記繊維束ガイド部として、前記エプロンドラフト部とバックローラとの間に配置された繊維束ガイド部を備えており、その繊維束ガイド部は断面円弧状の前後一組のガイド部を有する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項7】
前記前後一組のガイド部のうち前側のガイド部は取り外し可能に形成されている請求項6に記載の紡機のドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−231418(P2011−231418A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100143(P2010−100143)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】