説明

紡糸原液およびこれを用いた不織布の製造方法

【課題】電界紡糸法、乾式紡糸法によってエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)の不織布を製造できる紡糸原液、これを用いた不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】化合物(I)またはカルボニル基を1つ有する炭素数6〜10の脂肪族化合物を含む液状媒体にETFEを溶解または分散させた紡糸原液を用い、電界紡糸法を用い製造する。


Z:NまたはCR、R〜R:水素原子、ハロゲン原子等または隣り合う2つが結合して形成された5〜6員環;化合物(I)はFを少なくとも1つ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと記す。)を含む紡糸原液およびこれを用いたETFEからなる不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂の不織布は、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、クリーン性に優れる点から、固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材、フィルタ(半導体分野における空気清浄超高性能フィルタや薬液フィルタ、バグフィルタ等)、電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池等)のセパレータ等として用いられている。
【0003】
フッ素樹脂としては、弾性率が高く、かつ耐熱性、耐薬品性、非粘着性に優れる点から、ETFEが注目されている。
ETFEの不織布は、ETFEを液状媒体に溶解または分散させて紡糸原液とすることが困難なため、メルトブローン法等の溶融紡糸法によって製造されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、メルトブローン法で製造されたETFEの不織布は、ETFEの溶融粘度が高いため、不織布を構成する繊維の平均繊維径が太くなる。その結果、該不織布を固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材として用いた場合には、電解質膜が厚くなり、抵抗が上昇する。また、該不織布をフィルタとして用いた場合には、最大孔径が大きくなり、除去能力が不充分となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−18995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電界紡糸法または乾式紡糸法によるETFEの不織布の製造を可能にする紡糸原液、および不織布を構成する繊維の平均繊維径が細いETFEの不織布を製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紡糸原液は、液状媒体にETFEを溶解または分散させた紡糸原液であって、液状媒体が、下式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)と記す。)を含むことを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
ただし、Zは、窒素原子またはCRを表し、
〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、−X、−CN、−NO、−NX、−COOH、−COOX、−CHO、−COX、−OH、−OX、−OCOH、−OCOX、−SOOH、−SOCl、−SOF、−SOH、−SO、−SF、−OSO、−OCOOX、または隣り合う2つが結合して5〜6員環(炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基およびハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよく、環を構成する原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子が含まれていてもよい。)を形成していることを表し、
〜Xは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基および炭素数1〜20のアルキニル基から選ばれる基(ハロゲン原子または水酸基で置換されていてもよく、結合末端以外の任意の−CH−が酸素原子に置換されていてもよい。)、またはフェニル基(炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基およびハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよい。)を表し、
式(I)で表される化合物は、フッ素原子を少なくとも1つ有する。
【0010】
また、本発明の紡糸原液は、液状媒体にETFEを溶解または分散させた紡糸原液であって、液状媒体が、カルボニル基を1つ有する炭素数6〜10の脂肪族化合物(II)(以下、化合物(II)と記す。)を含むことを特徴とする。
【0011】
ETFEとしては、エチレン(以下、Eと記す。)に基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)に基づく繰り返し単位と他のモノマーに基づく繰り返し単位とを有し、他のモノマーが、CH=CX(CFYで表される化合物(ただし、X、Yはそれぞれ水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)であり、Eに基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位とのモル比(E/TFE)が、25/75〜45/55であり、他のモノマーに基づく繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位のうち、0.4〜4モル%であるものが好ましい。
ETFEの濃度は、紡糸原液(100質量%)中、1.5〜10質量%であることが好ましい。
本発明の紡糸原液となるETFEを液状媒体に溶解または分散させた組成物は、その液状媒体の沸点以下において溶液となり得るものである。本溶液は、常圧環境下において、沸点より低い温度において、液状媒体の種類に依存する析出曇点を有しており、実質上、当該析出曇点以上沸点以下の温度範囲において「溶液」として取り扱いが可能となる。
なお析出曇点は、ETFEと液状媒体の混合組成物をガラス製の容器など内部の液状組成物の透明度が認識できる容器に投入し、室温から連続的にその液状媒体の沸点近傍まで加熱せしめ、外部より目視にて内部の組成物の様子を観察し、透明な均一溶液様を呈する温度を見出し、その温度を測定することにより求めることが出来る。
【0012】
本発明の不織布の製造方法は、本発明の紡糸原液を用いた電界紡糸法または乾式紡糸法にて不織布を得ることを特徴とする。
本発明の不織布の製造方法においては、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液を気流によって延伸することが好ましい。
紡糸ノズルから吐出される直前の紡糸原液の温度は、紡糸原液の析出曇点以上であり液状媒体の沸点以下であることが好ましい。
本発明の不織布の製造方法においては、紡糸原液を紡糸ノズルにて加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紡糸原液は、電界紡糸法または乾式紡糸法によるETFEの不織布の製造を可能にする。
本発明の不織布の製造方法によれば、不織布を構成する繊維の平均繊維径が細いETFEの不織布を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電界紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図である。
【図2】乾式紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図ならびに紡糸ノズルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<紡糸原液>
本発明の紡糸原液は、液状媒体にエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を溶解または分散させた紡糸原液であって、液状媒体が、化合物(I)または化合物(II)を含むことを特徴とする。
【0016】
(化合物(I))
化合物(I)は、上式(I)で表される化合物である。
化合物(I)は、フッ素原子を少なくとも1つ有する。フッ素の含有量は、化合物(I)(100質量%)のうち、5〜75質量%が好ましい。
〜Xにおける、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよく、環状構造であってもよい。
【0017】
〜Rのうち隣り合う2つが結合して5〜6員環を形成する場合、式(I)に示される6員環と縮合環を形成する。具体的には、ZがCRの場合、R〜Rのうち隣り合う2つの1組が6員の芳香環を形成すれば、化合物全体の基本骨格としてナフタレン環を形成する。同様に、R〜Rのうち隣り合う2つの1組が酸素原子を含む5員、または硫黄原子を含む5員の芳香環を形成すれば、それぞれベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環を形成する。また、R〜Rのうち隣り合う2つの2組がそれぞれ6員の芳香環を形成すれば、アントラセン環またはフェナントレン環を形成する。Zが窒素原子の場合、Rを除くR〜Rのうち隣り合う2つの1組が6員の芳香環を形成すれば、キノリン環を形成する。他の縮合環としては、ZがCRの場合、インデン環、インドール環、クロメン環等が挙げられ、Zが窒素原子の場合、イソキノリン環、ナフチリジン環等が挙げられる。
【0018】
化合物(I)としては、下記の化合物が好ましい。
Zが、窒素原子またはCRであり、
〜Rが、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、−X、−CN、−NO、−COOH、−COOX、−COX、−OX、−OCOX、−SOCl、−SF、−OSO、もしくは−OCOOXである、または、隣り合う2つが結合して6員環を形成し、
〜X(X、Xを除く。)が、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基(ハロゲン原子または水酸基で置換されていてもよく、結合末端以外の任意の−CH−が酸素原子に置換されていてもよい。)、またはフェニル基(炭素数1〜20のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい)であり、
かつ、フッ素原子を少なくとも2つ有する化合物。
【0019】
少なくとも2つのフッ素原子は、R〜Rの位置において、−F、−R、−SF、−OR、−COR、−OCOOR、−OSO、および−COOR(ただし、Rは、フッ素原子で置換されたアルキル基またはフェニル基を表す。)から選ばれる基の状態で存在することが好ましい。また、R〜Rの隣り合う2つが芳香環を形成している場合、該芳香環に存在してもよい。
【0020】
化合物(I)としては、具体的には、含フッ素ベンゾニトリル、含フッ素安息香酸およびそのエステル、含フッ素多環芳香族化合物、含フッ素ニトロベンゼン、含フッ素フェニルアルキルアルコール、含フッ素フェノールおよびそのエステル、含フッ素芳香族ケトン、含フッ素芳香族エーテル、含フッ素芳香族スルホニル化合物、含フッ素ピリジン化合物、含フッ素芳香族カーボネート、ペルフルオロアルキル置換ベンゼン、ペルフルオロベンゼン、安息香酸のポリフルオロアルキルエステル、フタル酸のポリフルオロアルキルエステル、トリフルオロメタンスルホン酸のアリールエステルが挙げられ、本発明の紡糸原液においては、ETFEに対する溶解性、すなわち、析出曇点とその沸点との関係から、下記の化合物が好ましい。
【0021】
2,6−ジフルオロベンゾニトリル、
2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、
ペンタフルオロベンゾニトリル(以下、PFBNと記す。)、
2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、
3,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、
2,3−ジフルオロベンゾニトリル、
2,4−ジフルオロベンゾニトリル、
2,5−ジフルオロベンゾニトリル、
3,4−ジフルオロベンゾニトリル、
2,3,4,5−テトラフルオロベンゾニトリル、
3,5−ジフルオロベンゾニトリル、
4−フルオロベンゾニトリル、
3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル(以下、35BTFMBNと記す。)、
2−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、
3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、
4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、
2,4−ジフルオロ安息香酸メチル、
3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、
3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、
4−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、
ペルフルオロビフェニル(以下、PFBと記す。)、
ペルフルオロナフタレン、
2,4−ジフルオロニトロベンゼン、
(3−ニトロフェニル)サルファペンタフルオリド、
ペンタン酸ペンタフルオロフェニル、
2’,3’,4’,5’,6’−ペンタフルオロアセトフェノン、
3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノン(以下、35APと記す。)、
3’−(トリフルオロメチル)アセトフェノン、
3,5−ビス(トリフルオロメチル)アニソール、
ペンタフルオロフェニルスルホニルクロリド、
3−シアノ−2,5,6−トリフルオロピリジン、
ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネート、
安息香酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル、
安息香酸2,2,2−トリフルオロエチル、
1,3−(トリフルオロメチル)ベンゼン。
【0022】
本発明の紡糸原液においては、PFBN、35BTFMBN、PFB、35APがより好ましく、35AP単独、または35APとPFBとの組み合わせが特に好ましい。
35APとPFBとの質量比(35AP/PFB)は、ETFEへの溶解性が高く(すなわち、析出曇点が低く)、沸点が高いため溶液状態を示す温度領域が広いという点から、4/1〜5/0が好ましい。
【0023】
化合物(I)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の紡糸原液においては、液状媒体として化合物(I)のみを用いてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、他の液状媒体を併用してもよい。他の液状媒体としては、ベンゾニトリル、アセトフェノン、ニトロベンゼン、安息香酸メチル等のフッ素原子を含まない芳香族化合物が好ましい。化合物(I)と他の液状媒体との質量比(化合物(I)/他の液状媒体)は、9/1〜1/9が好ましく、5/5〜3/7がより好ましい。
【0024】
(化合物(II))
化合物(II)は、カルボニル基(−CO−)を1つ有する炭素数6〜10の脂肪族化合物である。
化合物(II)は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよく、環状構造であってもよい。化合物(II)は、主鎖または側鎖を構成する炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有していてもよく、炭素原子に結合する水素原子の一部がハロゲン原子(フッ素原子等)で置換されていてもよい。
【0025】
化合物(II)としては、具体的には、ケトン類(環状ケトン、鎖状ケトン等)、エステル類(鎖状エステル、グリコール類のモノエーテルモノエステル等)、カーボネート類が挙げられ、本発明の紡糸原液においては、ETFEへの溶解性が高く(すなわち、析出曇点が低く)、沸点が高いため溶液状態を示す温度領域が広いという点から、下記の化合物が好ましい。
【0026】
(−)−フェンコン、
2−デカノン、
3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、
4−エチルシクロヘキサノン、
イソホロン、
酢酸2−エチルヘキシル、
酢酸2−ブトシキエチル、
酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル。
【0027】
化合物(II)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の紡糸原液においては、液状媒体として化合物(II)のみを用いてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、他の液状媒体を併用してもよい。他の液状媒体としては、ベンゾニトリル、アセトフェノン、ニトロベンゼン、安息香酸メチル等の芳香族化合物、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフロオロプロポキシ)ペンタン等のエーテル類が好ましい。化合物(II)と他の液状媒体との質量比(化合物(II)/他の液状媒体)は、9/1〜1/9が好ましく、5/5〜3/7がより好ましい。
【0028】
(ETFE)
ETFEとしては、Eに基づく繰返し単位とTFEに基づく繰返し単位とのモル比(E/TFE)が、25/75〜45/55であるものが好ましく、40/60〜45/55であるものがより好ましい。該モル比(E/TFE)が極端に大きいと、ETFEの耐熱性、耐候性、耐薬品性、薬液透過防止性等が低下する場合がある。該モル比(E/TFE)が極端に小さいと、機械的強度、溶融成形性等が低下する場合がある。
【0029】
ETFEは、本質的な特性を損なわない範囲で、他のモノマーに基づく繰返し単位の1種類以上を有していてもよい。
他のモノマーとしては、下記の化合物が挙げられる。
α−オレフィン類:プロピレン、ノルマルブテン、イソブテン等、
CH=CX(CFY(ただし、X、Yはそれぞれ水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物(以下、FAEと記す。)、
不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン:フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン等、
不飽和基に水素原子を有さないフルオロオレフィン:ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等、
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE):ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)、
その他(ただし、TFEを除く。)等。
他のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
他のモノマーとしては、FAEが好ましい。FAEとしては、具体的には、下記の化合物が挙げられる。
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH等。
【0031】
FAEとしては、CH=CH(CFYで表される化合物が好ましく、nが2〜6の整数であるものがより好ましく、nが2〜4の整数であるものがさらに好ましい。
FAEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
FAEに基づく繰返し単位の割合は、ETFEの全繰返し単位のうち、0.4〜4モル%が好ましい。FAEに基づく繰返し単位の割合が該範囲であれば、強度および成形安定性に優れる。
【0032】
ETFEの製造方法としては、E、TFEおよび必要に応じて他のモノマーを、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤を用いて共重合させる方法が挙げられる。
重合法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられ、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒の存在下に、E、TFEおよび必要に応じて他のモノマーを共重合させる溶液重合法が好ましい。
【0033】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシエステル、非フッ素系ジアシルペルオキシド、含フッ素ジアシルペルオキシド、無機過酸化物等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、アルコール、フッ化塩化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。
溶媒としては、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等が挙げられる。
重合温度は、0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。
重合圧力は、0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。
重合時間は、1〜30時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0034】
ETFEの濃度は、紡糸原液(100質量%)中、1.5〜10質量%が好ましく、1.5〜7.5質量%がより好ましい。ETFEの濃度が該範囲であれば、電界紡糸法または乾式紡糸法にて不織布を形成しやすい。
【0035】
(他の成分)
本発明の紡糸原液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線安定剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、充填剤(フィラー)、強化剤、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤等の各種添加剤が挙げられる。他の成分の割合は、紡糸原液(100質量%)中、30質量%以下が好ましい。
【0036】
以上説明した本発明の紡糸原液にあっては、液状媒体として特定の化合物(I)または化合物(II)を含んでいるため、液状媒体にETFEを、電界紡糸法または乾式紡糸法に用いることができるレベルにまで良好に溶解または分散できる。その結果、電界紡糸法または乾式紡糸法によるETFEの不織布の製造が可能となる。なお、液状媒体にETFEを分散させた紡糸原液であっても、紡糸原液をその析出曇点以上に加熱すれば、液状媒体にETFEがすばやく溶解するため、紡糸原液を析出雲点以上に加熱した状態で電界紡糸法または乾式紡糸法に用いることができる。
【0037】
<不織布の製造方法>
本発明の不織布の製造方法は、本発明の紡糸原液を用いた電界紡糸法または乾式紡糸法にて不織布を得ることを特徴とする。
【0038】
(電界紡糸法)
電界紡糸法とは、紡糸原液に高電圧を印加することによって電気的に繊維を形成する方法である。
電界紡糸法は、下記の特徴を有する。
(i)他の方法に比べ、簡便な装置で不織布を製造できる。
不織布を製造する方法としては、メルトブローン法、スパンボンド法、抄紙法等が知られているが、いずれも大掛かりな不織布製造装置が必要となる、原料繊維を準備するために別に繊維製造装置が必要である等、装置コストがかかる。
(ii)極細の繊維が得られる。
通常の紡糸設備を用いて極細の繊維で構成される不織布を製造することは、条件的にも厳しく、原料の粘度、延伸性等、多くの制約がある。一方、電界紡糸法は、溶液を用いた紡糸法であるため、その乾燥過程において体積収縮が起こること、および原料自体が低粘度あるため、極細ノズルでの紡糸が可能であることにより、極細の繊維を得やすい。
(iii)繊維の集積体は、通常、繊維同志が結合した不織布として得られる。
電界紡糸法においては、溶液からの固化と延伸による紡糸とが同時に、または、逐次的に起こるため、繊維の集積体は、繊維同士が結合した不織布として得られる。
【0039】
図1は、電界紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図である。不織布製造装置10は、紡糸原液が充填されるシリンジ12と、シリンジ12の針14(紡糸ノズル)に対向するように設置された、回転自在のドラム16(コレクタ)と、針14とドラム16との間に高電圧を印加する高電圧電源18と、針14の外周面を囲むように同軸的に配置されたヒータ20と、シリンジ12のプランジャ部分を吐出方向に一定速度で動かすことで一定の流量で紡糸原液をシリンジから吐出させるシリンジポンプ(図示略)とを具備する。
【0040】
不織布製造装置10を用いた不織布の製造は、下記のように行われる。
シリンジ12内に紡糸原液を充填する。ドラム16を回転させながら、高電圧電源18によって針14とドラム16との間に高電圧を印加する。また同時に、針14内の紡糸原液が所定の温度となるように、ヒータ20によって針14を加熱する。シリンジポンプを作動させ、シリンジ12の先の針14から紡糸原液を一定の速度で吐出させる。針14の先端に電圧を印加した際、静電的な引力が紡糸原液の表面張力を超えると、紡糸原液が針14の先端においてTaylor coneと呼ばれる円錐状に変形し、さらに該coneの先端は引き伸ばされる。引き伸ばされた紡糸原液は、正に帯電した紡糸原液の静電反発により微細化する。微細化した紡糸原液から溶媒が瞬時に蒸発し、極細の繊維が形成される。正に帯電した繊維は、負に帯電したドラム16に付着する。該繊維が回転するドラム16上にしだいに堆積することにより、ドラム16上に連続繊維で構成される不織布が形成される。
【0041】
なお、電界紡糸法による不織布の製造方法においては、電界紡糸法によって紡糸されつつある紡糸原液を気流によって延伸してもよい。
電界紡糸法によって紡糸されつつある紡糸原液とは、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液、および該紡糸原液が紡糸され、溶媒の一部が蒸発したもの(すなわち繊維前駆体)を意味する。
【0042】
紡糸されつつある紡糸原液を延伸する気流の方向は、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液を引き伸ばすような方向であればよく、紡糸ノズルからの紡糸原液の吐出方向に対して平行であってもよく、斜めであってもよい。紡糸されつつある紡糸原液を効率よく延伸し、かつ繊維の飛散を抑える点から、紡糸されつつある紡糸原液を延伸する気流の方向は、紡糸ノズルからの紡糸原液の吐出方向に対して略平行であることが好ましい。これにより、繊維が装置周辺に飛散しにくくなり、吐着効率をより一層高めることができるため、全体として低コスト化することができる。
【0043】
気流の発生源となる気体としては、空気、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)が挙げられ、コストの点では、空気が好ましく、導電性繊維の放電等を抑制する点では、不活性ガスが好ましい。また、高速の気流を発生させ、紡糸されつつある紡糸原液を効率よく延伸する点では、加圧された気体が好ましい。
電界紡糸法は、紡糸原液を繊維状に引き伸ばし、同時に乾燥させる方法であるため、繊維の乾燥を補助する気体を流すことも好ましい。よって、気流の発生源となる気体を調湿してもよく、気流の発生源となる気体を適切な温度まで加熱してもよい。
【0044】
(乾式紡糸法)
乾式紡糸法とは、紡糸ノズルから紡糸原液を気体中に吐出し、該吐出された紡糸原液から溶媒を蒸発させる紡糸法である。
乾式紡糸法による不織布の製造方法においては、乾式紡糸法によって紡糸されつつある紡糸原液を気流によって延伸することが好ましい。
乾式紡糸法によって紡糸されつつある紡糸原液とは、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液、および該紡糸原液が紡糸され、溶媒の一部が蒸発したもの(すなわち繊維前駆体)を意味する。
【0045】
紡糸されつつある紡糸原液を延伸する気流の方向は、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液を引き伸ばすような方向であればよく、紡糸ノズルからの紡糸原液の吐出方向に対して平行であってもよく、斜めであってもよい。紡糸されつつある紡糸原液を効率よく延伸し、かつ繊維の飛散を抑える点から、紡糸されつつある紡糸原液を延伸する気流の方向は、紡糸ノズルからの紡糸原液の吐出方向に対して略平行であることが好ましい。これにより、繊維が装置周辺に飛散しにくくなり、吐着効率をより一層高めることができるため、全体として低コスト化することができる。
【0046】
気流の発生源となる気体としては、空気、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)が挙げられ、コストの点では、空気が好ましい。また、高速の気流を発生させ、紡糸されつつある紡糸原液を効率よく延伸する点では、加圧された気体が好ましい。
乾式紡糸法は、紡糸原液から溶媒を蒸発させる紡糸法であるため、繊維の乾燥を補助する気体を流すことも好ましい。よって、気流の発生源となる気体を調湿してもよく、気流の発生源となる気体を適切な温度まで加熱してもよい。
【0047】
気流延伸を併用した乾式紡糸法は、下記の特徴を有する。
(i)他の方法に比べ、簡便な装置で不織布を製造できる。
溶融樹脂を用いて不織布を製造する方法としては、メルトブローン法、スパンボンド法等が知られ、溶融紡糸法で形成された繊維を用いて不織布を製造する方法としては、抄紙法等が知られているが、いずれも大掛かりな不織布製造装置が必要となる、原料繊維を準備するために別に繊維製造装置が必要である等、装置コストがかかる。
(ii)極細の繊維が得られる。
通常の紡糸設備を用いて極細の繊維で構成される不織布を製造することは、条件的にも厳しく、原料の粘度、延伸性等、多くの制約がある。一方、気流延伸を併用した乾式紡糸法は、溶液を用いた紡糸法であるため、その乾燥過程において体積収縮が起こること、および原料自体が低粘度あるため、極細ノズルでの紡糸が可能であることにより、極細の繊維を得やすい。
(iii)繊維の集積体は、通常、繊維同志が結合した不織布として得られる。
気流延伸を併用した乾式紡糸法においては、溶液からの固化と延伸による紡糸とが同時に、または、逐次的に起こるため、繊維の集積体は、繊維同士が結合した不織布として得られる。
【0048】
図2は、乾式紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図である。不織布製造装置22は、吐出ノズル24および気体吹出ノズル26を備えた紡糸ノズル28と、吐出ノズル24に対向するように紡糸ノズル28の下方に設置されたコレクタ30と、紡糸原液を吐出するための加圧空気を吐出ノズル24に供給するポンプ(図示略)と、加熱気体を気体吹出ノズル26に供給するポンプ(図示略)と、紡糸ノズル28の外周面を囲むように同軸的に配置されたヒータ32とを具備する。
【0049】
紡糸ノズル28は、基端側が略円柱状であり、先端側が略円錐状であり、中心軸に沿って基端側から先端側に延びる、紡糸原液を充填するための液溜孔34が穿設され、液溜孔34から先端まで延びる吐出孔36が穿設された吐出ノズル24と;略円柱状であり、基端側から先端側に縮径するテーパ状の円錐孔38が形成された気体吹出ノズル26とが;吐出ノズル24の先端側の外周面と、気体吹出ノズル26の円錐孔38の内周面との間に加熱気体流路40が形成され、かつ吐出ノズル24の先端と気体吹出ノズル26の先端との間に吐出孔36と同心円状の吹出孔42が形成されるように、嵌め合わされたものである。
【0050】
コレクタ30は、上面が開口した筐体44と、筐体44の上面に設けられたステンレスメッシュ46と、筐体44内の空気を吸引する吸引装置(図示略)とを有する。
【0051】
不織布製造装置22を用いた不織布の製造は、下記のように行われる。
液溜孔34内に紡糸原液を充填する。液溜孔34内の紡糸原液が所定の温度となるように、ヒータ32によって紡糸ノズル28を加熱する。ポンプを作動させ、吐出ノズル24の先端の吐出孔36から紡糸原液を一定の速度で下方に向けて吐出させると同時に、紡糸ノズル28の吹出孔42から加熱気体を吹き出し、吐出孔36から吐出される紡糸原液の吐出方向に対して略平行な気流を発生させる。
【0052】
吐出孔36から吐出された紡糸原液と該紡糸原液が接触する気体との間の摩擦力が紡糸原液の表面張力を超えると、紡糸原液が吐出孔36の先端においてTaylor coneと呼ばれる円錐状に変形し、さらに該coneの先端は引き伸ばされる。引き伸ばされた紡糸原液は、吹出孔42から吹き出した気体によって発生した気流により延伸されて微細化する。微細化した紡糸原液から溶媒が気流によって瞬時に蒸発し、極細の繊維が形成される。該繊維が、吸引装置によってステンレスメッシュ46を介して吸引され、ステンレスメッシュ46の表面にしだいに堆積することにより、コレクタ30上に連続繊維で構成される不織布が形成される。
【0053】
また、吐出孔36から吐出される紡糸原液の吐出方向に対して略平行な気流によって、繊維がコレクタ30に向かいやすくなり、繊維が装置周辺に飛散しにくくなり、吐着効率をより一層高めることができるため、全体として低コスト化することができる。また、該気流によって、繊維がコレクタ30上にムラなく堆積されるため、均質な不織布が形成されやすい。
【0054】
(紡糸条件)
紡糸ノズルから吐出される直前の紡糸原液の温度は、紡糸原液の析出曇点以上であり液状媒体の沸点以下であることが好ましく、析出曇点以上〜析出曇点+20℃がより好ましい。紡糸原液の温度が析出曇点以上であれば、紡糸原液に含まれるETFEが液状媒体に充分に溶解するため、平均繊維径が細い繊維が形成されやすい。紡糸原液の温度が液状媒体の沸点以下であれば、溶液状態を維持しながら種々の取り扱いが可能となる。また、沸点に近すぎると液状媒体の揮発量が増加し、当該組成物の組成が変化しやすくなることから、若干沸点よりも低い温度で取り扱うことが望ましい。この場合、ETFEの組成や濃度、液状媒体の種類にも依存すると考えられるが、概ね析出曇点+20℃の範囲で加熱しながら取り扱うことがさらに好ましい。
【0055】
紡糸原液の加熱は、紡糸ノズル(針)内で行ってもよく、紡糸ノズルに供給する前(シリンジ内)で行ってもよく、紡糸原液の温度を制御しやすい点から、紡糸ノズル(針)内で行うことが好ましい。
紡糸ノズルに供給する前に、紡糸原液をフィルタでろ過し、紡糸ノズルの目詰まりの原因となるおそれのある粒径の大きいETFEを紡糸原液から取り除いてもよい。
【0056】
紡糸原液の吐出量は、0.5mL/時以上が好ましく、1mL/時以上がより好ましい。また、紡糸原液の吐出量は、60mL/時以下が好ましく、30mL/時以下がより好ましい。紡糸原液の吐出量が0.5mL/時以上であれば、紡糸ノズルが詰まりにくく、また繊維が切れにくい。紡糸原液の吐出量が60mL/時以下であれば、細い繊維を形成できる。
【0057】
気体の吹出量は、0.5L/分以上が好ましく、3.5L/分以上がより好ましい。また、気体の吹出量は、300L/分以下が好ましく、100L/分以下がより好ましい。気体の吹出量が0.5L/分以上であれば、紡糸原液に対して、体積比1000以上の気体が延伸作用を加えることから、充分な延伸効果が期待できる。気体の吹出量が300L/分を超えると、延伸効果が逆に強すぎることから、延伸されたものが逆に細切れになり、連続した繊維形状のものが得られにくい。
【0058】
紡糸ノズルの紡糸原液の吐出孔(針)の内径は、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、該内径は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。該内径が0.05mm以上であれば、紡糸ノズルが詰まりにくい。該内径が2mm以下であれば、細い繊維を形成できる。
【0059】
気体の吹出孔の先端の内径は、紡糸原液の吐出孔(針)の外径より0.1〜2.0mm大きいことが好ましく、0.1〜1.0mm大きいことがより好ましい。吹出孔の先端の内径が該範囲であれば、電界紡糸法または乾式紡糸法によって紡糸されつつある紡糸原液を、気流によって効率よく延伸できる。
【0060】
電界紡糸法において紡糸ノズル(針)の先端からコレクタ(ドラム)までの距離は、3cm以上が好ましく、5cm以上がより好ましい。また、該距離は40cm以下が好ましく、30cm以下がより好ましく、20cm以下がさらに好ましい。該距離が3cm以上であれば、溶媒の蒸発が充分に行われる。また、放電が抑えられる。該距離が40cm以下であれば、繊維を形成しやすい。
【0061】
乾式紡糸法において紡糸ノズルの先端からコレクタまでの距離は、20cm以上が好ましく、30cm以上がより好ましい。また、該距離は100cm以下が好ましく、80cm以下がより好ましく、60cm以下がさらに好ましい。該距離が20cm以上であれば、溶媒の蒸発が充分に行われる。該距離が100cm以下であれば、繊維を形成しやすい。
【0062】
電界紡糸法において紡糸ノズル(針)とコレクタ(ドラム)との間に印加する電圧は、3kV以上が好ましい。該印加電圧は10kV以下が好ましい。該電圧が3kV以上であれば、繊維を形成しやすい。該電圧が10kV以下であれば、放電が抑えられ、安定して紡糸できる。
【0063】
以上説明した本発明の不織布の製造方法にあっては、紡糸原液を電界紡糸法または乾式紡糸法にて紡糸しているため、不織布を構成する繊維の平均繊維径が細いETFEの不織布を製造できる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1〜7は実施例である。
【0065】
(融点)
ETFEの融点は、走査型示差熱分析器(セイコーインスツルメンツ社製、DSC220CU)を用いて、ETFEを空気雰囲気下に室温から300℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求めた。
【0066】
(繊維の平均繊維径)
不織布を構成している繊維の平均繊維径は、電子顕微鏡観察において、繊維200本の繊維径を測定し、データのうち最も細い10本のデータおよび最も太いデータ10本を除いた平均値とした。
【0067】
ETFE1:
真空引きした1.3Lのステンレス製オートクレーブに、CF(CFHの710g、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、商品名:AK225cb、以下AK225cbと記す。)の334g、CH=CH(CFFの10.6g、脱イオン水の273g、E/TFE=10/90(モル%)の160gを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温したところ、オートクレーブの圧力が1.4MPaGになった。続いて重合開始剤としてtert−ブチルペルオキシピバレートの2.0質量%CF(CFH溶液の8mLを注入して重合を開始した。重合中は、圧力が1.4MPaGとなるようにE/TFE=40/60(モル%)の混合ガスおよび混合ガスに対して3.3モル%に相当する量のCH=CH(CFFを連続的に添加し、E/TFE混合ガスを110g仕込んだ後にオートクレーブを冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。
得られたスラリー状のETFEをロータリーエバポレーターに移し、溶媒を蒸発させて粉末状のETFEを得た。得られたETFEを150℃で15時間乾燥することにより、E/ETFEのモル比:40/60、CH=CH(CFFに基づく繰返し単位の割合:3.3モル%、融点:225℃のETFE1を得た。
【0068】
ETFE2:
真空引きした430Lのステンレス製オートクレーブに、CF(CFHの255kg、AK225cbの158kg、CH=CH(CFFの2.1kgを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温し、TFE/E=84/16(モル%)の混合ガスを1.5MPaGになるまで導入し、tert−ブチルペルオキシピバレートの0.3質量%CF(CFH溶液の3.0Lを注入して重合を開始した。重合中は、圧力が1.5MPaGとなるようにTFE/E=54/46(モル%)の混合ガスおよび混合ガスに対して1.4モル%に相当する量のCH=CH(CFFを連続的に添加し、TFE/E混合ガスを34kg仕込んだ後、オートクレーブを冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。
得られたETFEのスラリーを850Lの造粒槽へ移し、340Lの水を加えて撹拌しながら加熱し、重合溶媒や残留モノマーを除去し、E/ETFEのモル比:46/54、CH=CH(CFFに基づく繰返し単位の割合:1.4モル%、融点:257℃のETFE2を得た。
【0069】
〔例1〕
液状媒体である35APにETFE1を加え、溶解温度:170℃にて撹拌、溶解し、紡糸原液1(ETFE濃度:5質量%)を得た。この紡糸原液の析出曇点は156℃で、液状媒体の沸点は187℃であった。
【0070】
図1に示す不織布製造装置を用意した。容量20mLのシリンジの先端に18G(内径:0.8mm、外径:1.2mm、長さ:75mm)のステンレス製注射針を装着した。
針の先端からドラムまでの距離:10cm、印加電圧:7.5kV、紡糸原液の吐出量:23mL/時、ヒータの温度:沸点近傍(約190℃)の条件で紡糸原液1を用いて電界紡糸を行った。ドラム上に連続繊維で構成される不織布を得た。不織布を構成する繊維の平均繊維径を表1に示す。なお、ステンレス製注射針はヒータに充分密着しており、そこから吐出される直前の紡糸原液の温度は、ヒータ温度と同じ温度であった。
【0071】
〔例2〜4〕
表1に示すETFE、液状媒体、溶解温度、ETFE濃度に変更した以外は、例1と同様にして、紡糸原液2〜4を得た。
紡糸原液1を紡糸原液2〜4に変更し、表1に示すヒータの温度に変更した以外は、例1と同様にして、不織布を得た。不織布を構成する繊維の平均繊維径を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
〔例5〕
表2に示すETFE濃度に変更した以外は、例4と同様にして、紡糸原液5を得た。
図2に示す不織布製造装置を用意した。
紡糸ノズル(日本ノズル社製、吐出孔の内径:0.19mm)の先端からコレクタまでの距離:60cm、ヒータの温度:220℃、紡糸原液の吐出量:約30mL/時、気流延伸用の加熱空気の温度:360℃、吹出量:約30L/分(空気圧力:約0.5MPa)の条件で紡糸原液5を用いて気流延伸を併用した乾式紡糸を行った。コレクタ上に連続繊維で構成される不織布を得た。不織布を構成する繊維の平均繊維径を表3に示す。なお、紡糸原液を含めた紡糸ノズル全体の温度が充分安定化するまで放置した後に紡糸原液の吐出を行った。紡糸ノズル全体に大きな温度分布は見られず、そこから吐出される直前の紡糸原液の温度は、ヒータ温度と同じ温度であった。
【0074】
〔例6〕
表2に示すETFE濃度に変更した以外は、例4と同様にして、紡糸原液6を得た。
紡糸原液5を紡糸原液6に変更し、表3に示す紡糸原液の吐出量、気流延伸用の加熱空気の温度に変更した以外は、例5と同様にして、不織布を得た。不織布を構成する繊維の平均繊維径を表3に示す。
【0075】
〔例7〕
表3に示す紡糸原液の吐出量、気流延伸用の加熱空気の吹出量に変更した以外は、例6と同様にして、不織布を得た。不織布を構成する繊維の平均繊維径を表3に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の紡糸原液を用いて得られたETFEの不織布は、固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材、フィルタ、電池のセパレータ等として有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 不織布製造装置
12 シリンジ
14 針
16 ドラム
18 高電圧電源
20 ヒータ
22 不織布製造装置
24 吐出ノズル
26 気体吹出ノズル
28 紡糸ノズル
30 コレクタ
32 ヒータ
34 液溜孔
36 吐出孔
38 円錐孔
40 加熱気体流路
42 吹出孔
44 筐体
46 ステンレスメッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体にエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を溶解または分散させた紡糸原液であって、
液状媒体が、下式(I)で表される化合物を含む、紡糸原液。
【化1】

ただし、Zは、窒素原子またはCRを表し、
〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、−X、−CN、−NO、−NX、−COOH、−COOX、−CHO、−COX、−OH、−OX、−OCOH、−OCOX、−SOOH、−SOCl、−SOF、−SOH、−SO、−SF、−OSO、−OCOOX、または隣り合う2つが結合して5〜6員環(炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基およびハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよく、環を構成する原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子が含まれていてもよい。)を形成していることを表し、
〜Xは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基および炭素数1〜20のアルキニル基から選ばれる基(ハロゲン原子または水酸基で置換されていてもよく、結合末端以外の任意の−CH−が酸素原子に置換されていてもよい。)、またはフェニル基(炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基およびハロゲン原子から選ばれる基で置換されていてもよい。)を表し、
式(I)で表される化合物は、フッ素原子を少なくとも1つ有する。
【請求項2】
液状媒体にエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を溶解または分散させた紡糸原液であって、
液状媒体が、カルボニル基を1つ有する炭素数6〜10の脂肪族化合物(II)を含む、紡糸原液。
【請求項3】
エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体が、エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位と他のモノマーに基づく繰り返し単位とを有し、
他のモノマーが、CH=CX(CFYで表される化合物(ただし、X、Yはそれぞれ水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)であり、
エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とのモル比(エチレン/テトラフルオロエチレン)が、25/75〜45/55であり、
他のモノマーに基づく繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位のうち、0.4〜4モル%である、請求項1または2に記載の紡糸原液。
【請求項4】
エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の濃度が、紡糸原液(100質量%)中、1.5〜10質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の紡糸原液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の紡糸原液を用いた電界紡糸法にて不織布を得る、不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の紡糸原液を用いた乾式紡糸法にて不織布を得る、不織布の製造方法。
【請求項7】
紡糸ノズルから吐出された紡糸原液を気流によって延伸する、請求項5または6に記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
紡糸ノズルから吐出される直前の紡糸原液の温度が、該紡糸原液の析出曇点以上であり前記液状媒体の沸点以下である、請求項5〜7のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
紡糸原液を紡糸ノズルにて加熱する、請求項5〜8のいずれかに記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−106049(P2011−106049A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261721(P2009−261721)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】