説明

紡糸部材

【課題】 低硬度で繊維の加工性がよく、繊維の巻付きを防止した紡糸部材を提供する。
【解決手段】 ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合して硬化・成形したゴム部材を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機の紡績工程において繊維や糸を紡糸するための紡糸部材に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機の紡績工程においては複数のロールが用いられており、これらのロールの回転数がそれぞれ異なることにより、送られてきた繊維が細く伸ばされる。ここで用いられるロールは、優れた繊維加工性、耐摩耗性、及び繊維の巻付き防止が求められている。
【0003】
従来、ロールの耐摩耗性を向上させるために、製造工程において硫酸処理や紫外線処理を行ってロール表面を硬化させていたが、環境に対する問題や製造に時間がかかるという問題があった。
【0004】
そこで、ポリアミド、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム、可塑剤及び架橋剤の混合物で作られた少なくとも一層を有する紡績ユニット(紡績コット、エプロン)が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献に記載の紡績加工ユニットは、ポリアミドを混合することで繊維加工特性が向上したが、硬度が高くなり且つ反発弾性が低下してしまうという問題があった。なお、ロールの硬度が高くなり、反発弾性が低くなると製造する糸の質が悪くなってしまう。また、さらに繊維が巻付き難いロールが求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平08−188927号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、低硬度で繊維の加工性がよく、繊維の巻付きを防止した紡糸部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合して硬化・成形したゴム部材を具備することを特徴とする紡糸部材にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の紡糸部材において、前記ノニオン界面活性剤がポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の紡糸部材において、前記ゴム部材は、前記ゴム基材100重量部に対して、前記樹脂を5〜50重量部、前記ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種を2〜50重量部配合して硬化・成形したものであることを特徴とする紡糸部材にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1又は3の態様に記載の紡糸部材において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の数平均分子量が200〜20000であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ポリエステルの融点が80〜200℃であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0012】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ポリエステルの粘度が100〜8000(dPa・s/200℃)であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0013】
本発明の第7の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ポリエチレンの融点が80〜150℃であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0014】
本発明の第8の態様は、第1〜4、7の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ポリエチレンのメルトマスフローレイト(MFR)が0.01〜100(g/10min)であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0015】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ゴム基材がアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であることを特徴とする紡糸部材にある。
【0016】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に記載の紡糸部材において、前記ゴム部材は充填材としてホワイトカーボンを配合して硬化・成形したものであることを特徴とする紡糸部材にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明のように、ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合することで、低硬度で繊維の加工性がよく、繊維の巻付きを防止した紡糸部材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明の紡糸部材は、ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合して硬化・成形したゴム部材を具備するものである。
【0020】
ゴム基材に上述した樹脂の少なくも1つを配合することで、成形されるゴム部材は繊維加工性が向上し、且つ摩擦係数が低下する。また、ゴム基材にポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種を配合することで、ゴム部材表面に静電気が発生するのを防ぐことができ、且つ摩擦係数が低下する。そして、ゴム基材に、上述した樹脂の少なくも1つと、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合して硬化・成形することにより、ゴム部材は著しく繊維の巻付きが防止される。
【0021】
また、ゴム基材に樹脂を配合して硬化・成形するとゴム部材の硬度は比較的上昇するが、ゴム基材にポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくも1種を配合して硬化・成形することでゴム部材の硬度は低下するため、ゴム基材に、樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤の少なくとも1種とを配合して硬化・成形したゴム部材は、硬度の上昇が抑えられ低硬度にすることができる。このように硬度を抑えた紡糸部材は、均質な糸を製造することができる。
【0022】
かかるゴム部材は、ゴム基材100重量部に対して、樹脂を5〜50重量部、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種を2〜50重量部配合して硬化・成形したものが好ましく、特にポリエチレングリコール(PEG)又はノニオン界面活性剤の少なくとも1種を5〜20重量部配合して硬化・成形したものが好ましい。この範囲とすることで、機械的特性を維持しつつ、繊維の巻付きを防止することができる。なお、樹脂の配合量が5重量部未満となると樹脂による効果が十分には得られず、樹脂の配合量が50重量部よりも多くなると、ゴム部材の硬度が上昇しすぎたり摩擦係数が低下しすぎたりするため好ましくない。また、ポリエチレングリコール(PEG)又はノニオン界面活性剤の配合量が2重量部未満となると効果が十分には得られず、配合量が50重量部より多くなると、ブリードしてしまうため好ましくない。
【0023】
また、樹脂と、PEG又はノニオン界面活性剤とは、重量比が1:2〜4:1であることが好ましい。
【0024】
本発明にかかるゴム基材は、特に限定されず、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム、これらのブレンド等を挙げることができるが、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が好ましい。耐油性及び耐摩耗性に優れるからである。なお、ここでいうアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は水添NBRを含むものである。また、アクリロニトリルブタジエンゴムの結合アクリロニトリル量は、10〜60(%)であることが好ましく、さらに好ましくは20〜40(%)である。
【0025】
本発明におけるゴム部材は、ゴム基材にポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種を配合したものであり、これらは併用してもよい。
【0026】
ポリエチレングリコール(PEG)は、数平均分子量が200〜20000のものが好ましい。数平均分子量が200未満であると十分な効果が得られず、数平均分子量が20000より大きいとゴム練りが困難になったり、ゴム部材の機械的特性が低下したりする虞があるからである。また、数平均分子量が400〜8000のポリエチレングリコール(PEG)を配合することにより、ゴム部材の繊維加工性がより向上する。
【0027】
また、ノニオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)が好ましい。ポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)としては、例えば、ポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(6)ステアリルエーテル、ポリエチレングリコール(12)モノラウレート等が挙げられる。ここで、ノニオン界面活性剤とは、疎水性部位と、水に溶けたときにイオン化しない親水性部位とからなる界面活性剤をいう。また、ここでいうポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)とは、親水性部位の一部にポリオキシエチレン鎖を含むものである。
【0028】
本発明に用いる樹脂は、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であり、好ましくはポリエステル、又はポリエチレンである。ゴム基材にポリエステル又はポリエチレンを配合することで、ゴム基材の反発弾性を低下させずに維持、又は上昇させたゴム部材とすることができるからである。すなわち、樹脂としてポリエステル又はポリエチレンを用いることで、高反発弾性の紡糸部材とすることができる。このような高反発弾性の紡糸部材は、高品質な糸を製造することができる。なお、上述した樹脂は併用してもよい。
【0029】
ポリエステルは、融点が80〜200℃であることが好ましく、さらに好ましくは120〜150℃である。この範囲の融点のポリエステルを配合することで、巻付き防止効果の高いゴム部材となるからである。この範囲よりも融点が高くなるとゴム部材の成形温度でポリエステルが溶融しないためゴム練りが困難となる虞があり、この範囲よりも融点が低くなると繊維の巻付き防止効果の低いゴム部材となる虞がある。また、ポリエステルの粘度は100〜8000(dPa・s/200℃)であることが好ましい。この範囲よりも高いと、ゴム練りが困難となる虞があるからである。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0030】
ポリエチレンは、融点が80〜150℃であることが好ましい。この範囲とすることで、繊維の巻付き防止効果の高いゴム部材となるからである。この範囲よりも融点が高くなると繊維の巻付き防止の低いゴム部材となる虞がある。また、ポリエチレンのメルトマスフローレイト(MFR)は0.01〜100(g/10min)が好ましく、さらに好ましくは10〜60(g/10min)である。100(g/10min)よりも高いと、ゴム練りが困難となる虞があるからである。なお、ここでいうメルトマスフローレイト(MFR)とは溶解粘度の指標を示すものであり、JIS K7210に準拠して測定したものである。
【0031】
本発明におけるゴム部材は、上述したゴム基材に、樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種と、さらに適宜、加硫剤、可塑剤、充填剤等とを配合し、加熱硬化させることにより成形する。
【0032】
なお、充填剤を用いる場合は、ホワイトカーボンを用いるのが好ましい。紡糸部材が着色されることがないため、紡糸部材により繊維が汚れてしまう虞がなくなるからである。
【0033】
本発明にかかる紡糸部材は、低硬度で繊維の加工性がよく、繊維の巻付きを防止したものであり、例えば、紡糸ロールやエプロンバンドに用いて好適なものである。
【0034】
また、本発明にかかる紡糸部材は、上述したゴム部材を繊維と接触する面に有していればよく、さらに層を有していてもよい。
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1a〜1e)
アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を100重量部に対し、ポリアミド(ナイロン)を5、10、15、20、又は30重量部、数平均分子量400のポリエチレングリコール(表及び図中:PEG1)を10重量部、亜鉛華を5重量部、可塑剤を10重量部、ホワイトカーボンを30重量部、硫黄を3重量部配合し、加熱硬化させることにより実施例1a〜1eのロール形状物を得た。
【0037】
(実施例2a〜2e)
ポリアミドの代わりに、融点が140℃で粘度が500(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例2a〜2eのロール形状物を得た。
【0038】
(実施例3a〜3e)
ポリアミドの代わりに、融点が110℃でMFRが70(g/10min)のポリエチレンを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例3a〜3eのロール形状物を得た。なお、MFRはJIS K7210に準拠して測定した。
【0039】
(実施例4a〜4e)
ポリアミドの代わりに、融点が100℃で粘度が500(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例4a〜4eのロール形状物を得た。
【0040】
(実施例5a〜5e)
ポリアミドの代わりに、融点が120℃で粘度が5000(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例5a〜5eのロール形状物を得た。
【0041】
(実施例6a〜6e)
ポリアミドの代わりに、融点が140℃で粘度が5000(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例6a〜6eのロール形状物を得た。
【0042】
(実施例7a〜7e)
ポリアミドの代わりに、融点が120℃でMFRが50(g/10min)のポリエチレンを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例7a〜7eのロール形状物を得た。なお、MFRはJIS K7210に準拠して測定した。
【0043】
(実施例8a〜8e)
ポリアミドの代わりに、融点が130℃でMFRが20(g/10min)のポリエチレンを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして実施例8a〜8eのロール形状物を得た。なお、MFRはJIS K7210に準拠して測定した。
【0044】
(実施例9a〜9e)
数平均分子量400のポリエチレングリコールの代わりに、数平均分子量8000のポリエチレングリコール(表及び図中:PEG2)を用いた以外は、実施例2a〜2eと同様にして実施例9a〜9eのロール形状物を得た。
【0045】
(実施例10a〜10e)
数平均分子量400のポリエチレングリコールの代わりに、数平均分子量8000のポリエチレングリコール(表及び図中:PEG2)を用いた以外は、実施例3a〜3eと同様にして実施例10a〜10eのロール形状物を得た。
【0046】
(実施例11)
ポリエチレングリコール(PEG1)の代わりに、ノニオン界面活性剤であるポリエチレングリコール(12)モノラウレート(HLB値:13)を用いた以外は、実施例2dと同様にして実施例11のロール形状物を得た。
【0047】
(実施例12)
ポリエチレングリコール(PEG1)の代わりに、ノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル(HLB値:10)を用いた以外は、実施例2dと同様にして実施例12のロール形状物を得た。
【0048】
(実施例13)
ポリエチレングリコール(PEG1)の代わりに、ノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(6)ステアリルエーテル(HLB値:9)を用いた以外は、実施例2dと同様にして実施例13のロール形状物を得た。
【0049】
(比較例1)
ポリアミド及びポリエチレングリコール(PEG1)を配合しなかった以外は、実施例1aと同様にして比較例1のロール形状物を得た。
【0050】
(比較例2)
ポリアミドを配合しなかった以外は、実施例1aと同様にして比較例2のロール形状物を得た。
【0051】
(比較例3a〜3e)
PEG1を配合しなかった以外は、実施例1a〜1eと同様にして比較例3a〜3eのロール形状物を得た。
【0052】
(比較例4a〜4e)
PEG1を配合しなかった以外は、実施例2a〜2eと同様にして比較例4a〜4eのロール形状物を得た。
【0053】
(比較例5a〜5e)
PEG1を配合しなかった以外は、実施例3a〜3eと同様にして比較例5a〜5eのロール形状物を得た。
【0054】
(比較例6a〜6e)
ポリアミドの代わりに、ポリスチレンを用いた以外は、実施例1a〜1eと同様にして比較例6a〜6eのロール形状物を得た。
【0055】
(比較例7)
ポリアミドの代わりに、ポリプロピレン(PP)を20重量部用いた以外は、実施例1dと同様にして比較例7のロール形状物を得た。
【0056】
(比較例8)
ポリアミドの代わりに、アクリロニトリルスチレン(AS)を20重量部用いた以外は、実施例1dと同様にして比較例8のロール形状物を得た。
【0057】
(比較例9)
ポリエステルを配合しなかった以外は、実施例12と同様にして比較例9のロール形状物を得た。
【0058】
(比較例10)
ポリエチレングリコール(PEG1)の代わりに、カチオン界面活性剤である変性脂肪族アルキルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートを用いた以外は、実施例2dと同様にして比較例10のロール形状物を得た。
【0059】
(比較例11)
ポリエチレングリコール(PEG1)の代わりに、アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム塩を用いた以外は、実施例2dと同様にして比較例11のロール形状物を得た。
【0060】
(試験例1)
各実施例及び各比較例のロール形状物について、25℃でのゴム硬度(JIS A)をJIS K6253に準拠して、25℃での反発弾性(Rb)をJIS K6255に準拠したリュプケ式反発弾性試験装置により測定した。
【0061】
結果を表1〜4、及び図3〜図12に示す。なお、図中の曲線において、「PEG無」で樹脂の配合量が0の値は比較例1を、「PEG有」で樹脂量が0の値は比較例2を、PEGを配合して樹脂が0の値は比較例8を用いた。
【0062】
(試験例2)
各実施例及び各比較例のロール形状物の摩擦係数を測定した。図1に示すように、支持された各ロール形状物10に粗紡糸11(綿100%)を掛けて下方に垂下させ、一端は20gの重り12を、もう一端はフック13を介して荷重計14を取り付けた。荷重計14により粗紡糸11を速度10mm/sで下方に引っ張ったときの荷重計14の荷重を測定し、下記式により摩擦係数μを計算した。なお、ロール形状物10の寸法は、内径20mm×外径30mm×幅28mmとした。結果を表1〜4、及び図13〜図17に示す。
【0063】
[数1]
μ=ln(荷重÷重りの重さ)/π
【0064】
(試験例3)
図2に示す試験機を用いて各実施例及び各比較例のロール形状物の繊維の巻付き試験を行った。試験機は、トップロール21、エプロンバンド22、及びバックロール23が一体に組み込まれたユニット20と、そのそれぞれ相対向する位置に駆動ロール31、駆動ベルト32、駆動ロール33が一体に組み込まれたユニット30とからなる。ここで、エプロンバンド22は、ロール22a及び摺動板22bに掛け回された無端ベルト(φ37mm×28wmm)であり、相対向する位置の駆動ベルト32も同様に、ロール32a及び摺動板32bに掛け回された無端ベルトである。なお、各実施例及び各比較例のロール形状物(φ30mm×28wmm)をトップロール21として用いた。
【0065】
駆動ロール31(φ25mm×37wmm)、駆動ベルト32及び駆動ロール33(φ25mm×37wmm)を回転させることで、トップロール21、エプロンバンド22、及びバックロール23の表面速度に差をつけ、バックロール23の上方に設けられた繊維の束40から供給される粗紡糸(綿100%)を延伸する。このとき、粗紡糸はユニット20とユニット30との間を通過する。延伸された粗紡糸は速度10m/minでトップロール21を通過し、掃除機41(MC−G200;National製、350W)に吸い取られる。本試験ではトップロール21に粗紡糸の繊維が巻付くまでの時間を測定した。なお、トップロール21とエプロンバンド22との速度差であるメインドラフトは32倍、エプロンバンド22とバックロール23との速度差であるバックドラフトは1.25倍、トップロール21とバックロール23との速度差であるトータルドラフトは40倍とした。結果を表1〜4、及び図18〜図22に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
(結果のまとめ)
<樹脂の種類及びPEGの有無による比較>
図3に示すように、ポリアミドを配合したロール形状物は、樹脂の配合量が増えるにつれて反発弾性が低下したが、その他の樹脂を配合した場合には反発弾性がわずかに高くなった。また、いずれの樹脂(ポリアミドも含む)を配合したロール形状物もPEGを配合することにより反発弾性が高くなる傾向があった。これより、PEGを配合することにより反発弾性が低下することを防ぐことができることがわかった。
【0071】
図8に示すように、いずれの樹脂を配合しても配合量が増えるにつれて硬度は上昇したが、PEGを配合することによりロール形状物の硬度の上昇が抑えられることがわかった。
【0072】
図13に示すように、いずれの樹脂も配合量が増えるにつれて摩擦係数は低下した。また、PEGを配合することによりロール形状物の摩擦係数はさらに低下した。
【0073】
図18に示すように、ロール形状物は、樹脂の配合量が増えるにつれて繊維が巻付くまでの時間が長くなっており、繊維の巻付きが防止されているのがわかる。また、PEGを配合して樹脂を配合しないもの(比較例2)と、樹脂を配合してPEGを配合しないものは、繊維が巻付くまでの時間は同程度であるが、樹脂及びPEGを配合することにより、繊維が巻付くまでの時間は非常に長くなった。これより、樹脂及びPEGを配合した場合には相乗効果により、著しく繊維の巻付きが防止されているのがわかる。ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルスチレンを配合したロール形状物は、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートを配合したロール形状物と比べて、繊維が巻付くまでの時間が短く、繊維の巻付きが十分に防止されたものではなかった。
【0074】
<ポリエチレンテレフタレートの融点による比較>
図4及び14に示すように、融点が100〜140℃で、粘度が500〜5000(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートを配合したロール形状物はいずれも反発弾性の上昇、摩擦係数の低下は同程度であった。また、融点が100〜140℃のポリエチレンテレフタレートは、いずれも硬度の上昇が抑えられ(図9)、繊維の巻付くまでの時間が長かった(図19)が、特に、硬度の上昇は融点が低いポリエチレンテレフタレートを配合するほど抑えられ、繊維の巻付くまでの時間は融点が140℃のポリエチレンテレフタレートを配合するほど長かった。
【0075】
これより、融点が100〜140℃で、粘度が500〜5000(dPa・s/200℃)のポリエチレンテレフタレートは何れも好適に配合できるものであり、特に融点が140℃のポリエチレンテレフタレートが好ましいことがわかった。
【0076】
<ポリエチレンの融点による比較>
図5及び15に示すように、融点が110〜130℃でMFRが20〜70(g/10min)のポリエチレンを配合したロール形状物はいずれも反発弾性の上昇、摩擦係数の低下は同程度であった。また、融点が110〜130℃でのポリエチレンは、いずれも硬度の上昇が抑えられ(図10)、繊維の巻付くまでの時間が長かった(図20)が、特に、硬度の上昇は融点が高いポリエチレンを配合するほど抑えられ、繊維の巻付くまでの時間は融点が低いポリエチレンを配合するほど長かった。
【0077】
これより、融点が110〜130℃でMFRが20〜70(g/10min)のポリエチレンは何れも好適に配合できるものであり、特に融点が110〜120℃のポリエチレンが好ましいことがわかった。
【0078】
<PEGの数平均分子量による比較>
図6、11、21に示すように、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンのいずれの樹脂を配合した場合も、数平均分子量が400のPEG(PEG1)を配合したロール形状物と、数平均分子量が8000のPEG(PEG2)を配合したロール形状物の反発弾性の上昇、硬度の上昇、繊維が巻付くまでの時間は同程度であった。
【0079】
図16に示すように、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンのいずれの樹脂を配合した場合も、数平均分子量が400のPEG(PEG1)を配合したロール形状物の方が摩擦係数の低下が大きかった。
【0080】
これより、数平均分子量が400〜8000のPEGはいずれも好適に配合することができるものであることがわかった。
【0081】
<PEG及びノニオン界面活性剤と他の界面活性剤との比較>
図7、12、17に示すように、樹脂とPEGとを配合した実施例2dのロール形状物、樹脂とノニオン界面活性剤を配合した実施例11〜13のロール形状物、樹脂とカチオン界面活性剤を配合した比較例10のロール形状物、樹脂とアニオン界面活性剤を配合した比較例11のロール形状物は、硬度及び反発弾性の上昇、摩擦係数の低下は同程度であった。しかしながら、図22に示すように、実施例2d及び11〜13のロール形状物はいずれも繊維の巻付くまでの時間が158秒以上と長かったのに対し、比較例10及び11のロール形状物はそれぞれ繊維の巻付くまでの時間が25秒、20秒と非常に短かった。これより、樹脂とPEG及びノニオン界面活性剤とを配合することで、繊維の巻付き防止効果が高い紡糸部材が得られることがわかった。
【0082】
なお、樹脂を配合せずにPEGを配合した比較例1のロール形状物と、樹脂を配合せずにポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテルを配合した比較例9のロール形状物は繊維が巻付くまでの時間がいずれも5秒であり、樹脂を配合せずにPEG又はノニオン界面活性剤のみを配合した場合、いずれも繊維の巻付き防止効果はほとんど得られないことがわかった。
【0083】
以上の結果より、ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合したロール形状物は、硬度の上昇を抑え、繊維の巻付きを防止できるものであるということがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】摩擦係数の測定方法を示す図である。
【図2】繊維の巻付き試験の試験機を示す図である。
【図3】各実施例及び各比較例の反発弾性を示す図である。
【図4】各実施例の反発弾性を示す図である。
【図5】各実施例の反発弾性を示す図である。
【図6】各実施例の反発弾性を示す図である。
【図7】各実施例及び各比較例の反発弾性を示す図である。
【図8】各実施例及び各比較例の硬度を示す図である。
【図9】各実施例の硬度を示す図である。
【図10】各実施例の硬度を示す図である。
【図11】各実施例の硬度を示す図である。
【図12】各実施例及び各比較例の硬度を示す図である。
【図13】各実施例及び各比較例の摩擦係数を示す図である。
【図14】各実施例の摩擦係数を示す図である。
【図15】各実施例の摩擦係数を示す図である。
【図16】各実施例の摩擦係数を示す図である。
【図17】各実施例及び各比較例の摩擦係数を示す図である。
【図18】各実施例及び各比較例の繊維が巻付くまでの時間を示す図である。
【図19】各実施例の繊維が巻付くまでの時間を示す図である。
【図20】各実施例の繊維が巻付くまでの時間を示す図である。
【図21】各実施例の繊維が巻付くまでの時間を示す図である。
【図22】各実施例及び各比較例の繊維が巻付くまでの時間を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
10 ロール形状物
11 粗紡糸
12 重り
13 フック
14 荷重計
21 トップロール
22 エプロンバンド
23 バックロール
31、33 駆動ロール
32 駆動ベルト
41 掃除機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム基材に、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種とを配合して硬化・成形したゴム部材を具備することを特徴とする紡糸部材。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸部材において、前記ノニオン界面活性剤がポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡糸部材において、前記ゴム部材は、前記ゴム基材100重量部に対して、前記樹脂を5〜50重量部、前記ポリエチレングリコール(PEG)及びノニオン界面活性剤から選択される少なくとも1種を2〜50重量部配合して硬化・成形したものであることを特徴とする紡糸部材。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の紡糸部材において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の数平均分子量が200〜20000であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の紡糸部材において、前記ポリエステルの融点が80〜200℃であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の紡糸部材において、前記ポリエステルの粘度が100〜8000(dPa・s/200℃)であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載の紡糸部材において、前記ポリエチレンの融点が80〜150℃であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項8】
請求項1〜4、7の何れかに記載の紡糸部材において、前記ポリエチレンのメルトマスフローレイト(MFR)が0.01〜100(g/10min)であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の紡糸部材において、前記ゴム基材がアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であることを特徴とする紡糸部材。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の紡糸部材において、前記ゴム部材は充填材としてホワイトカーボンを配合して硬化・成形したものであることを特徴とする紡糸部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−95079(P2008−95079A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224737(P2007−224737)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】