説明

紡績糸及びそれを用いた織編物

【課題】繊維化すること以外の主目的により栽培された植物、すなわち、ハイビスカス、オクラの、過去においては廃材とされていた茎部を開繊することにより得られる繊維を含有する紡績糸、それを用いた織編物を提供する。
【解決手段】ハイビスカスもしくはオクラの茎部を開繊することにより得られる繊維を含有し、200〜2000回/mの実撚りが付与されている紡績糸、それを用いた織編物である。紡績糸は、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維と他の繊維とで構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡績糸及びそれを用いた織編物に関し、特に、ハイビスカス、オクラの茎部を開繊して得られる繊維を含む紡績糸とその紡績糸を用いた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維製品は、木綿、麻、天然竹、羊毛、絹等の天然繊維;ビスコースレーヨン、キュプラ、溶剤紡糸セルロース等の化学繊維;アセテートのような半合成繊維;そして、石油資源由来のポリエステル、ナイロン、アクリル等や植物資源由来のポリ乳酸等といった合成繊維に分けられ、風合い、物理特性等、各々の特徴を利用した商品が作られてきており、現在も継続されている。たとえば、天然竹繊維を含む紡績糸として、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
近年、環境保全に関する関心が高まり、枯渇資源である石油に代替する原料、すなわちバイオマス資源に注目が集まっている。しかし、バイオマス資源においても、例えば木綿繊維では、作付面積が広く単位面積あたりの生産量が非常に小さく効率性が低いという問題点があり、また、ビスコースレーヨンでは、製造段階で地球環境に対して有害な廃棄物を出すという問題がある。さらに、羊毛、絹等の動物タンパク質系繊維においては、近年、鳥インフルエンザ、SARSといった予期できない新種の流行病の発生により収穫量が不安定になるという懸念がある。
【0004】
一方、溶剤紡糸セルロースは、木綿と比べて作付面積が比較的小さい植物を原料とすることができ、かつ、製造段階で地球環境に対して有害な廃棄物を出さない方法により製造されている。天然竹も、同様に作付面積が小さく地球環境対応型繊維と言える。しかし、これらの繊維原料は、繊維化を主目的としてわざわざ栽培されたものであり、このためこれらの繊維原料を用いることは非効率であると言える。
【0005】
トウモロコシを主原料として製造されるポリ乳酸繊維は、本来食物であるものを資材として使用することに対して、飢餓死発生が多い地域を含む地球全体規模で考えるとその意義に異論を唱える声もある。
【特許文献1】特開2006−169666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決し、繊維化すること以外の主目的により栽培された植物、すなわち、ハイビスカス、オクラの、過去においては廃材とされていた茎部を開繊することにより得られる繊維を含有する紡績糸、それを用いた織編物を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、亜熱帯、熱帯地方に存在するハイビスカス、及び、温帯、亜熱帯、熱帯地方に存在するオクラという植物に着目し、化学的処理および機械的な処理により、茎部を細く分繊化し特定の繊度と繊維長を有する、ハイビスカスを繊維化したもの、または、オクラを繊維化したものを紡績糸とすればよいことを知見して本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の構成を有するものである。
(1)ハイビスカスの茎部を開繊することにより得られる繊維を含有し、200〜2000回/mの実撚りが付与されていることを特徴とする紡績糸。
【0009】
(2)オクラの茎部を開繊することにより得られる繊維を含有し、200〜2000回/mの実撚りが付与されていることを特徴とする紡績糸。
(3)上記(1)または(2)のいずれかの紡績糸を少なくともその一部に用いたものであることを特徴とする織編物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紡績糸は、ハイビスカス、オクラの茎部という、本来廃棄するはずのものを廃棄せずに再利用することから、環境負荷が小さい。また、この紡績糸を少なくともその一部に用いた織編物は、適度な張り、腰と、麻調の清涼感があり、吸湿性にも優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるハイビスカスは、学名でアオイ科フヨウ属のものを指し、亜熱帯や熱帯地方に生息するものであり、野生のものの他、鑑賞用や防風林として生垣や街路沿い等に栽培されている。この植物は成長が早く、成長した茎や花は、道路等、人が使用する区域に侵入してくるため、定期的に先端を刈取る必要がある。通常この刈取られた部分は焼却されるが、本発明ではこの廃棄されるはずの部分を繊維化する目的で使用する。
【0012】
本発明では、ハイビスカス茎部の外皮を剥がした後に出現する靭皮を開繊して繊維化する。得られる繊維は、単繊維径が5〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、10〜300μmである。単繊維径が5μm以下であると、最低限必要な強度に満たなくなる。500μm以上になると、肌に対するチクチク感が発生したり、風合いが硬くなったりする等、衣料や寝装品用には不向きなものとなり、同時に紡績性が著しく低下する。また、ハイビスカスから得られる繊維の平均繊維長は20〜200mmであることが好ましい。より好ましくは30〜150mmである。平均繊維長が20〜200mmの範囲を外れると、紡績性が低下しやすくなる。
【0013】
本発明で用いられるオクラは、学名でアオイ科トロロアオイ属のものを指し、温帯から亜熱帯、さらには熱帯地方に至るまで世界各地で栽培されている。日本でも、食用として、沖縄県や九州、四国地方を始め、中部、関東地方においてでも栽培されている。オクラは、収穫が終わると、株ごと引抜き廃棄する。特に沖縄地方では、オクラは年に2回収穫するため、株も年に2回廃棄することになる。
【0014】
本発明では、オクラの茎部の外皮を剥がした後に出現する靭皮を開繊して繊維化する。得られる繊維は、ハイビスカス繊維と同様に、単繊維径が5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。単繊維径が5μm以下であると、最低限必要な強度に満たなくなる。500μm以上になると、肌に対するチクチク感が発生したり、風合いが硬くなったりする等、衣料や寝具装備用には不向きなものとなり、同時に紡績性が著しく低下する。また、オクラから得られる繊維の平均繊維長は20〜200mmであることが好ましく、より好ましくは30〜150mmである。平均繊維長が20〜200mmの範囲を外れると、紡績性が低下する。
【0015】
本発明の紡績糸は、ハイビスカスから得られる繊維を含有したものも、オクラから得られる繊維を含有したものも、いずれも200〜2000回/mの実撚りが付与されていることが必要である。好ましくは500〜1200回/mである。紡績糸が200〜2000回/mの実撚りを有することで、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維が本来有する張り、腰の特徴を効果的に発揮することができる。
【0016】
本発明の紡績糸は、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維だけで形成されていてもよいが、他の繊維との混紡などの複合紡績されていてもよい。他の繊維と併用する場合には、その含有率に制限は無いが、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維が本来有する張り、腰の特徴を効果的に発揮させるためには、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維を3質量%以上含有させるのが好ましく、10質量%以上含有させるのがさらに好ましい。
【0017】
ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維と併用する他の繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、溶剤紡糸セルロース繊維及び合成繊維がある。併用する他の繊維の具体例として、天然繊維では綿、麻、竹、絹、羊毛、カシミヤ、アルパカ、モヘア、アンゴラ等があり、再生繊維ではビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン等があり、半合成繊維としてはアセテート及びトリアセテート等がある。また、合成繊維としてはナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン等があるが、環境に対する負荷が少ない植物由来の繊維であるポリ乳酸等の生物分解性合成繊維もこの範疇である。もちろんハイビスカス繊維とオクラ繊維とを複合させても良い。
【0018】
本発明の紡績糸を得るための紡績方法としては、綿紡、そ毛紡、合繊紡、オープンエンド紡、結束紡等を適用できる。複合の形態は、混紡、芯鞘等の多層構造等、いかなる方法で行って良い。他の繊維と混紡などの複合紡績を行う場合には、ハイビスカス繊維やオクラ繊維と他繊維との平均繊維長が同程度であることが好ましい。
【0019】
本発明の織編物は、上記したハイビスカス繊維、オクラ繊維を含む紡績糸を少なくともその一部に用いて得られるものである。すなわち、本発明の紡績糸だけで形成されていてもよいが、他の糸条と併用されていてもよい。他の糸条と併用する場合には、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維が本来有する張り、腰の特徴を効果的に発揮させるために、ハイビスカス繊維もしくはオクラ繊維が3質量%以上となるように併用するのが好ましく、10質量%以上となるように併用するのがより好ましい。
【0020】
本発明の織編物の製造には、エアージエット織機、ウオータージエット織機、レピア織機、シャットル織機、手機機、丸編機、経編機等を使用することができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
沖縄産のハイビスカス茎部の靭皮部を分繊化して得たハイビスカス繊維(平均繊維径30μm、平均繊維長46mm)を用い、通常の綿紡績工程にかけ、スライバーを作成した後、リング紡績機を用いて、綿番手25/1、撚数が780回/mの、ハイビスカス繊維25質量%、木綿繊維75質量%の紡績糸を得た。
【0022】
次いで、この紡績糸を経糸、緯糸に用いて、シャットル織機により、経糸を42本/2.54cm、緯糸を40本/2.54cmとした平織物を作成し、常法により染色仕上げ加工を行い、ハイビスカス繊維25質量%を含む平織物を得た。
【0023】
(実施例2)
沖縄産のオクラ茎部の靭皮部を分繊化して得たオクラ繊維(平均繊維径35μm、平均繊維長52mm)を用い、通常の綿紡績工程にかけ、スライバーを作成した後、リング紡績機を用いて、綿番手25/1、撚数が780回/mのオクラ繊維25質量%、木綿繊維75質量%の紡績糸を得た。
【0024】
次いで、この紡績糸を経糸、緯糸に用いて、シャットル織機により、経糸を42本/2.54cm、緯糸を40本/2.54cmとした平織物を作成し、常法により染色仕上げ加工を行い、オクラ繊維25質量%を含む平織物を得た。
【0025】
(実施例3)
実施例1と同様にして得たハイビスカス繊維と木綿繊維の紡績糸を用い、釜径30×2.54cmで28ゲージの丸編機を使用して天竺編物を作成し、常法に従い染色仕上げ加工を行い、ハイビスカス繊維25質量%を含む天竺編物を得た。
【0026】
(実施例4)
実施例2と同様にして得たオクラ繊維と木綿繊維との紡績糸を用い、釜径30×2.54cmで28ゲージの丸編機を使用して天竺編物を作成し、常法に従い染色仕上げ加工を行い、オクラ繊維25質量%を含む天竺編物を得た。
【0027】
(比較例1)
実施例1〜4に使用した木綿繊維だけを100質量%含んだ紡績糸を得た。それ以外は実施例1もしくは実施例2と同様にして、平織物を得た。
【0028】
(比較例2)
実施例1〜4に使用した木綿繊維だけを100質量%含んだ紡績糸を得た。それ以外は実施例3もしくは実施例4と同様にして、天竺編物を得た。
【0029】
実施例1〜4で得られた織物布帛もしくは編物布帛は、比較例1〜2のような従来の木綿繊維100%織編物布帛にはない張り、腰と清涼感、ドライ感及び軽量感があり、既存の繊維素材には無い質感を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイビスカスの茎部を開繊することにより得られる繊維を含有し、200〜2000回/mの実撚りが付与されていることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
オクラの茎部を開繊することにより得られる繊維を含有し、200〜2000回/mの実撚りが付与されていることを特徴とする紡績糸。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の紡績糸を少なくともその一部に用いたものであることを特徴とする織編物。

【公開番号】特開2008−69468(P2008−69468A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247426(P2006−247426)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【出願人】(504310663)有限会社中嶋プランニング (2)
【Fターム(参考)】