説明

索条牽引式輸送設備の非常制動装置

【課題】多数本の索条により車両を牽引する構成であっても、いずれか一つの索条が切断した場合には、これを検出して車両の制動を行うことができ、また、複雑な機構等を用いることなく簡易に構成することのできる索条牽引式輸送設備の非常制動装置を提供することにある。
【解決手段】原動装置15によって索条13を駆動し、この索条13によって車両14を牽引して輸送を行う索条牽引式輸送設備において、車両14には、垂直方向へ回動自在であって一端部を索条13に掛止する検出アーム38、39と、垂直方向へ回動自在であって検出アーム38、39の他端部が当接することにより回動するスイッチレバー43と、スイッチレバー43の回動を検出する検出スイッチ47とを備え、検出スイッチ47の信号により前記車両を停止させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を索条で牽引して輸送を行う輸送設備において、車両を牽引する索条が破断した場合にこれを検出して車両を停止させる非常制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルカーやインクラインといった、索条で車両を牽引して人員や物資を輸送する設備は、比較的急な傾斜であっても車両の運行が可能なことから山岳地域や観光地の傾斜地等で多く利用されている。このような索条牽引式の輸送設備は、一般的に次のように構成されている。山麓停留場と山頂停留場の間には、2本のレールを平行して敷設し、このレールに沿って索条を延線している。索条は、山頂停留場に備えた滑車やウィンチに巻き掛けられ、この索条の少なくとも一端には車両を連結している。そして、滑車等を駆動することにより索条を巻き上げ又は繰り出して、車両を両停留場間で移動させて運行を行う。
【0003】
車両には、自走するための駆動装置等は備えておらず、したがって、もしも索条が切断した場合には、車両が山麓側へと逸走してしまうことになる。そこで、このような場合に車両において索条の切断を機械的に検出し、これによって車両に備えた制動機を動作させ、車両を停止させるようにしている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−295572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたロープ破断検出制動装置は、リンク機構等を介して非常止め装置を機械的に動作させるものであるために、構成する部品点数が多く製作や組み付けに難点が有り、さらには繁雑な保守作業を必要とした。また、上記特許文献1においては、2本又は3本の索条により車両を牽引するように構成していたが、車両を運行する諸条件によっては、さらに多くの索条で車両を牽引する必要がある場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、多数本の索条により車両を牽引する構成であっても、いずれか一つの索条が切断した場合には、これを検出して車両の制動を行うことができ、また、複雑な機構等を用いることなく簡易に構成することのできる索条牽引式輸送設備の非常制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、原動装置によって索条を駆動し、該索条によって車両を牽引して輸送を行う索条牽引式輸送設備において、前記車両には、垂直方向へ回動自在であって一端部を前記索条に掛止した検出アームと、垂直方向へ回動自在であって前記検出アームの他端部が当接することにより回動するスイッチレバーと、該スイッチレバーの回動を検出する検出スイッチとを備え、該検出スイッチの信号により前記車両を停止させることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の非常制動装置において、前記検出アームは、前記索条に掛止する方向の長さが異なる複数の前記検出アームであって、該異なる長さの検出アームを隣り合わせに配置したことを特徴としている。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の非常制動装置において、前記検出スイッチの信号により前記原動装置を停止して車両を停止させることを特徴としている。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の非常制動装置において、前記検出スイッチの信号により車両に備えた車両制動機を動作させて車両を停止させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非常制動装置の構成を複雑な機構等を用いることなく、部品点数を少なくして簡易な構成とすることができ、また、多数本の索条により車両を牽引する構成であっても、いずれか一つの索条が切断した場合には、これを検出して車両の制動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】索条牽引式輸送設備の線路縦断面図
【図2】車両の側面図
【図3】車両下部の正面断面図
【図4】車両と索条との連結部を示した平面図
【図5】車両と索条との連結部を示した側面図
【図6】車両と索条との連結部を示した正面図
【図7】図5におけるA−A矢視拡大図
【図8】図7におけるB−B矢視拡大図
【図9】索条が破断又は弛緩した状態を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、索条牽引式輸送設備の線路の一例を示した線路縦断面である。図に示すように線路は、標高の低い位置にある山麓停留場10と標高の高い位置にある山頂停留場11とを結んで形成されており、両停留場10、11を結んでレール12が敷設され、このレール12に沿って索条13が延線されている。索条13の一端は、車両14に連結されており、中間部を山頂停留場11に備えた原動装置15に巻き掛けて折返し、他端部をレール12上のカウンターウエイト16に連結されている。このように、つるべ式に索条13に連結された車両14とカウンターウエイト16とは、原動装置15を駆動することにより両停留場10、11間をレール12に沿って互いに反対方向へ移動する。原動装置15の各種制御は、山頂停留場11に備えた運転制御装置17によって行われる。
【0014】
図2は車両14の側面図であり、図3は車両14下部の正面断面図である。車両14の側方部下部には、レール12に作用して車両14の制動を行う車両制動機20を備えている。図4に示すように車両制動機20は、ブレーキレバー21、22のそれぞれ中央部付近をピン23、24によって垂直方向へ回動可能に枢支し、このブレーキレバー21、22の端部にばね25のばね力を作用させることにより、他端部でレール12を挟持して制動力を得るようにしている。また、ブレーキレバー21、22に対してばね25と反対の側には油圧シリンダー26を備え、この油圧シリンダー26の動作によりブレーキレバー21、22がばね力に抗して回動し、ブレーキレバー21、22の他端部が互いに離れて制動力が開放される。油圧シリンダー26は、車両14に搭載した油圧ユニット27との間で配管され、油圧ユニット27で発生した圧油を制御することにより油圧シリンダー26が動作する。この油圧ユニット27の動作は、車両14に搭載された制御装置28により制御される。制御装置28は、この他に、上記原動装置15の制御を行う運転制御装置17との間で各種信号の送受信を行う。
【0015】
次に、車両14と索条13との連結部の構造を説明する。図4、図5、図6は、それぞれ、車両14と索条13との連結部を示した平面図、側面図、正面図であり、図7は図5におけるA−A矢視の拡大図、図8は図7におけるB−B矢視図である。
【0016】
本実施の形態においては、車両14は5本の索条13に連結されている。各索条13は、隣り合う索条13の高さ位置を順次変えて上下二段の位置に配置されるとともに、平面視にて互いに重なり合わないように、いわゆる千鳥状に配置されており、それぞれの索条13の端部は、シンブルロッド30のソケット部31に挿入されて合金によって止着されている。シンブルロッド30は、車両フレーム18に設けられた挿通孔を貫通して車両フレーム18の内側に延出しており、この端部にはネジ部32が形成されている。このシンブルロッド30の延出部には、ネジ部32側からコイルバネ33及びバネ受け34が外挿され、ネジ部32に螺着したナット35を締め込んでシンブルロッド30ないしコイルバネ33が車両フレーム18に掛止されている。この構成により、索条13はコイルバネ33を介して車両14を牽引するので、車両14に伝播する索条13の振動や衝撃が軽減される。
【0017】
図7及び図8に示すように、車両フレーム18の下部には、シンブルロッド30が掛止される位置を挟んで両側方に支持プレート36が形成されており、両支持プレート36間に軸37が固定支持されている。この軸37には、以下説明する検出アーム38、39とスイッチレバー40とが、垂直方向へ回動自在に軸支されている。
【0018】
検出アーム38、39は長尺の細板であって、軸37の位置から索条13の延出方向側へ向けてはやや長く、反対の車両フレーム18内側方向へはやや短く延出するように取り付けられており、軸37付近においては車両フレーム18との間に略U字状の板バネ42が介挿されて、これにより検出アーム38、39の索条13延出方向側が下方へ回動するようにばね力が付勢されている。各検出アーム38、39には、索条13延出方向側の先端部に上部が湾曲した略J字状のフック41を固着しており、このフック41をそれぞれ対応する索条13に掛止して検出アーム38、39が支持される。検出アーム38と39とは、索条13の延出方向側への長さが異なっており、検出アーム38と39とが交互になるように配置されている。これにより、隣り合う検出アーム38と39のフック41が互いに干渉することなく索条13に掛止することができる。
【0019】
スイッチレバー40は、両支持プレート36の内側に隣接する位置において車両フレーム18の内側方向へ延出する細板状のレバー部材43と、このレバー部材43の上端部を連結する連結部材44と、レバー部材43の端部垂直面間を連結する蓋部材45とから形成されている。前記検出アーム38と39は、それぞれスイッチレバー40の内側に配置されており、各検出アーム38と39の車両フレーム18内側方向端部は、連結部材44の下部位置まで延出している。この検出アーム38と39の端部には、連結部材44の下面が当接し、検出アーム38と39によってスイッチレバー40の端部が下方から支持されている。すなわち、スイッチレバー40は、連結部材44が検出アーム38、39の端部上へ載置された状態で支持されている。
【0020】
スイッチレバー40の横方向における一端部には、連結部材44の上方位置にスイッチブラケット46が車両フレーム18に固設されており、このスイッチブラケット46に検出スイッチ47を固着している。検出スイッチ47は、スイッチレバー40が上方に回動したときに連結部材44と当接して動作し、この信号を制御装置28に発信する。一方、スイッチレバー40他端部の上方位置には、雌ネジを螺刻した突出部48を車両フレーム18に形成し、この突出部48にボルト49を上方から螺合するとともに、ボルト49の下端と連結部材44の上面との間に若干の隙間を有する位置でボルト49を固定している。このボルト49により、スイッチレバー40が上方へ過剰に回動しないよう規制されるので、検出スイッチ47には無理な負荷が加わることがない。
【0021】
次に、以上の構成による動作を説明する。まず、正常な状態においては、索条13には所定の張力が作用して、山頂停留場11側へ略直線となって5本の索条13が延びている。各索条13には、それぞれ検出アーム38、39のフック41が掛止されており、索条13と検出アーム38、39とは、側面から見て(図5参照)、互いに略平行な状態となっている。スイッチレバー40は、検出アーム38、39の他端部で当接支持されて、検出アーム38、39と略平行な状態となっている。この状態においては、スイッチレバー40の連結部材44と検出スイッチ47とは当接していない。
【0022】
次いで、索条13が破断又は弛緩した状態を図9に示す。いずれかの索条13が破断又は弛緩すると、索条13は自重によって下方に下降し、これにともなって当該索条13に掛止した検出アーム38又は39は、自重および板バネ42のバネ力によってフック41側が下方に向けて回動する。一方、検出アーム38又は39の他端部は上方に向けて回動し、スイッチレバー40の連結部材44を下方から押し上げてスイッチレバー40が回動する。このときに、正常な索条13に対応する検出アーム38、39は、正常な状態を保持しているので、スイッチレバー40の連結部材44は、正常状態の検出アーム38、39の他端部から浮き上がった状態となっている。すなわち、本構成においては、各検出アーム38、39は独立してスイッチレバー40を回動させるように構成されている。次いで、回動したスイッチレバー40は、連結部材44の上面が検出スイッチ47に当接し、検出スイッチ47が動作して、この信号を制御装置28に発信する。
【0023】
この信号を受けて制御装置28は、運転制御装置17に対して運転停止の信号を発信する。この信号を受けた運転制御装置17は、原動装置15に備えた制動装置を動作させるとともに、原動装置15を構成する機器類を停止させ、これによって車両14が速やかに停止する。
【0024】
次に、この制動停止の動作は、以下のように行うこともできる。検出スイッチ47の信号を受信した制御装置28は、油圧ユニット27に対して車両制動機20が制動動作するように制御を行い、同時に運転制御装置17に対しても運転停止の信号を発信する。これにより、上記と同様に原動装置15が停止するとともに、車両14に備えた車両制動機20がレール12を挟持して車両14が停止する。この構成によれば、例えば全ての索条13が破断したとしても、車両14は車両制動機20によって定位置に保持されるのでさらに安全である。
【符号の説明】
【0025】
10 山麓停留場
11 山頂停留場
12 レール
13 索条
14 車両
15 原動装置
16 カウンターウエイト
17 運転制御装置
18 車両フレーム
20 車両制動機
21 ブレーキレバー
22 ブレーキレバー
23 ピン
24 ピン
25 ばね
26 油圧シリンダー
27 油圧ユニット
28 制御装置
30 シンブルロッド
31 ソケット部
32 ネジ部
33 コイルバネ
34 バネ受け
35 ナット
36 支持プレート
37 軸
38 検出アーム
39 検出アーム
40 スイッチレバー
41 フック
42 板バネ
43 レバー部材
44 連結部材
45 蓋部材
46 スイッチブラケット
47 検出スイッチ
48 突出部
49 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動装置によって索条を駆動し、該索条によって車両を牽引して輸送を行う索条牽引式輸送設備において、前記車両には、
垂直方向へ回動自在であって一端部を前記索条に掛止した検出アームと、
垂直方向へ回動自在であって前記検出アームの他端部が当接することにより回動するスイッチレバーと、
該スイッチレバーの回動を検出する検出スイッチとを備え、
該検出スイッチの信号により前記車両を停止させることを特徴とする索条牽引式輸送設備の非常制動装置。
【請求項2】
前記検出アームは、前記索条に掛止する方向の長さが異なる複数の前記検出アームであって、該異なる長さの検出アームを隣り合わせに配置したことを特徴とする請求項1に記載の索条牽引式輸送設備の非常制動装置。
【請求項3】
前記検出スイッチの信号により前記原動装置を停止して車両を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の索条牽引式輸送設備の非常制動装置。
【請求項4】
前記検出スイッチの信号により車両に備えた車両制動機を動作させて車両を停止させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の索条牽引式輸送設備の非常制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−254749(P2012−254749A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129795(P2011−129795)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000228523)日本ケーブル株式会社 (96)
【Fターム(参考)】