説明

紫外線、近赤外線遮へい用インジウム−錫酸化物粉末とこれを用いた紫外線、近赤外線遮へいガラスおよびその製造方法

【課題】紫外線、近赤外線の遮へい能力に優れたガラス基板を提供する。
【解決手段】平均粒径、粉体色を特定したインジウム−錫酸化物粉体からなる膜をガラス基板の上に形成する。前記インジウム−錫酸化物粉体の体積含有率は、該インジウム−錫酸化物膜の光学特性を考慮して適正な値に限定する。
これにより、可視光線とを透過し紫外線と近赤外線を同時に、しかも高遮へい能力で遮蔽することができる。電波透過性を制御することができる。インクの塗布、乾燥という簡便な方法で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物や自動車の窓ガラスに適した紫外線および近赤外線遮へい用顔料に優れたインジウム−錫酸化物粉末と、透明ガラス基板上に形成した紫外線および近赤外線遮へい膜の遮へい能力が優れ、かつその遮へい膜の抵抗をコントロールすることにより電波透過性も制御することができる紫外線および近赤外線遮へいガラスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建築物あるいは自動車用の窓ガラスとして紫外線および近赤外線を遮へいするガラスが注目されている。紫外線の遮へいは、人体の日焼け防止だけでなく、室内や車内の装飾品等の劣化防止にも必要である。従来の紫外線遮へい方法としては、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等の有機紫外線吸収剤を用いる方法(例えば、特許文献1、2等参照)や、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤を用いる方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【0003】
しかし、前者の方法は、有機化合物を用いるため劣化が起こりやすく、また後者の方法についても酸化亜鉛は化学的に耐久性に乏しいという問題点を有している。さらに、これらの方法は、紫外線の遮蔽効果だけであり、紫外線と近赤外線を同時に遮へいすることはできない。
【0004】
近赤外線の遮へいは、窓等から室内、車内へ流入する太陽エネルギーを減少させ、冷房負担の軽減をはかる上で必要である。従来の近赤外線の遮へい方法としては、(1)ガラス組成中に酸化鉄や酸化セリウムを添加して赤外線を吸収する方法、(2)ガラス板上に金属膜や金属窒化膜と誘電体膜からなる多層構造の薄膜をスパッタリング法等の物理的手法で形成する方法、(3)酸化錫と酸化アンチモンを主成分とする薄膜を、原料溶液を高温基板上に噴霧、熱分解するスプレー法により形成する方法(例えば、特許文献4参照)、(4)インジウム−錫酸化物膜をスパッタリング法や真空蒸着法によりガラス板上に形成する方法等が知られている。
【0005】
しかしながら、(1)の方法は、高い可視光線透過率を維持したままでの近赤外線の遮へいが不十分であり、また大規模な製造設備を必要とし手軽に少量多品種の製造が困難である。(2)、(4)の方法は、スパッタリングや真空蒸着等の物理的手法を用いるため製造コストが高くつく。(3)の方法は、近赤外線遮へい能力が低いために、可視光透過率が日射透過率よりも低いという欠点があり、実用性に問題がある。
【0006】
さらに、(2)、(3)、(4)の方法によれば、金属または導電性金属酸化物を、スパッリング法、蒸着法、スプレー法等で成膜するために膜の抵抗が比較的低くなり、電波に対する反射率が高くなって、例えばビルの窓ガラスに用いた場合テレビ電波を反射してゴースト障害等を生じる原因となる。
【0007】
このような問題を解決する手段として、ある特定の窒化物膜または酸化物膜の2層ないし3層構造からなる熱線遮へい膜で膜の表面抵抗を10kΩ/□以上とすることで電波低反射性を実現した技術が提案されている(例えば、特許文献5乃至7等参照)。しかし、これらの熱遮へい膜はスパッタリング法等により膜厚を精密にコントロールしながら多層化するため、製造コスト面で問題がある。
【0008】
なお、前記(3)、(4)の方法では、近赤外線の遮へいと同時に紫外線の遮へいも可能であるが、近赤外線の遮へいをプラズマ反射により行うために必然的に伝導度が高くなり、近赤外線遮へい能力と膜の抵抗を独立してコントロールできず、電波低反射性に問題がある。
【0009】
前記したごとく、従来の技術では、可視光線を透過し紫外線と近赤外線を同時に遮へいする膜で、膜の表面抵抗が低抵抗から高抵抗まで取り得ることのできる特性を有する紫外線、近赤外線遮へいガラスを得ることができず、その開発が望まれていた。さらに、スパッタリング法や真空蒸着法等の物理的手法やスプレー法等の高温プロセス法以外の、通常の塗布、乾燥により前記特性を有する膜を簡単に成膜できる方法の開発も望まれていた。
【0010】
そこで、インジウム−錫酸化物超微粉と溶剤またはバインダーを含む溶剤に分散したインクをガラス等の基材に塗布して紫外線、近赤外線を遮へいする方法が試みられている。一般に可視光線の散乱を抑え透過率を高めるためには、可視光線の波長に比べ粒径が十分小さいことが必要で、粒径0.1μm以下(好ましくは0.05μm以下)が良好とされている。しかしながら、このような超微粉のインジウム−錫酸化物粉末に対して紫外線、近赤外線遮へい特性に対する知見は、得られていないのが実情である。
【特許文献1】特開平2−22151号公報
【特許文献2】特開平2−22152号公報
【特許文献3】特開平1−217084号公報
【特許文献4】特開平3−103341号公報
【特許文献5】特開平5−238778号公報
【特許文献6】特開平5−238779号公報
【特許文献7】特開平5−294674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、このような従来の実情に鑑みて、前記インジウム−錫酸化物粉末に対し、紫外線、近赤外線遮へい能力の優れたインジウム−錫酸化物粉末を提供するとともに、可視光線を透過し紫外線と近赤外線を同時に遮へいすることができる膜で、膜の表面抵抗が低抵抗から高抵抗まで取り得ることのできる特性を有する紫外線、近赤外線遮へいガラスと、この紫外線、近赤外線遮へいガラスをスパッタリング法や真空蒸着法等の物理的手法やスプレー法等の高温プロセス法によらない、簡易な塗布、乾燥手段により容易にかつ低コストで得ることができる製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る紫外線、近赤外線遮へい用インジウム−錫酸化物粉末は、平均粒径が0.01〜0.05μm、錫含有量が1〜15重量%、粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32、圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmであることを特徴とし、また、紫外線、近赤外線遮へいガラスは、可視光線を透過するガラス基板と、このガラス基板の上に形成された平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉と樹脂バインダーまたは無機バインダーとからなるインジウム−錫酸化物膜とからなり、前記インジウム−錫酸化物超微粉の体積含有率が30〜70vol%であることを特徴とし、また、可視光線を透過するガラス基板と、このガラス基板の上に形成された平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉と樹脂バインダーまたは無機バインダーとからなるインジウム−錫酸化物膜とからなり、前記インジウム−錫酸化物超微粉の体積含有率が30〜70vol%であることを特徴とし、また、これら紫外線、近赤外線遮へいガラス用インジウム−錫酸化物超微粉として、前記した平均粒径が0.01〜0.05μm、錫含有量が1〜15重量%、粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32、圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉を用いることを特徴とするものである。
【0013】
また、上記紫外線、近赤外線遮へいガラスの製造方法として、平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉、または平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉を溶剤に分散させたインジウム−錫酸化物インクを透明なガラス基板に塗布し、乾燥、または乾燥、焼成し、インジウム−錫酸化物超微粉単体からなるインジウム−錫酸化物膜を形成した後、このインジウム−錫酸化物膜に樹脂バインダーまたは無機バインダーを含む液をしみ込ませ、インジウム−錫酸化物粒子間をバインダー成分で埋めるか、あるいは、平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉、または平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉を樹脂バインダーまたは無機バインダーを含む溶剤中に分散させたインジウム−錫酸化物インクを透明なガラス基板に塗布し、乾燥硬化して、インジウム−錫酸化物膜を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したごとく、この発明に係る紫外線、近赤外線遮へいガラスは、可視光線を透過し紫外線と近赤外線を同時に、しかも高遮へい能力で遮へいすることができると共に、膜の表面抵抗が低抵抗から高抵抗まで取り得ることのできる特性を有するので、電波透過性も制御することができるという優れた効果を有し、また、この紫外線、近赤外線遮へいガラスはインクの塗布、乾燥という簡便な方法により製造することができるので、コスト的にも高くつくことはなく、高性能のガラス基板を安価に提供できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
可視光線を透過するガラス基板としては、ソーダライムガラス(転位点660℃)、低アルカリガラス(転位点670℃)、無アルカリガラス(転位点730℃)等を用いることができる。
【0016】
この発明で用いるインジウム−錫酸化物(以下説明の便宜上「ITO」と称する)超微粉の平均粒径を0.01〜0.05μmとしたのは、平均粒径が0.05μmを超えると可視光線に対して光の散乱が大きくなるため、得られた膜の光学特性(ヘーズ値)が大きくなり好ましくなく、他方、平均粒径が0.01μ未満では凝集が強く、分散した状態の超微粉が得られず、またインク化、ペースト化の分散工程にも支障をきたすためである。なおここでは、平均粒径として粒子の大きさを示しているが、用いる超微粉としては粗粒が少なく、かつ粒度分布が明確な粉体が好ましい。
【0017】
ITO超微粉の錫の含有量は1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%である。すなわち、1重量%未満では錫の添加効果がなく、他方、15重量%を超えると錫の固溶が不十分となり好ましくない。
【0018】
このITO超微粉の粉体色を20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32と、また圧粉抵抗(100kg/cm)を0.05〜0.5Ω・cmと、それぞれ限定した理由を以下に説明する。まず、一般的な光と物質内の電子の相互作用について説明すると、ある物質には固有のプラズマ周波数があり、この周波数より長波長の光は反射され、短波長の光は透過されることが知られている。プラズマ周波数は下記式(1)で表される。
【0019】
ωp=ne/ε−γ……式(1)
ωp:プラズマ周波数
n:伝導電子密度
e:電子の電荷
ε:真空の誘電率
:電子の有効質量
γ:伝導電子の緩和周波数
【0020】
一般に、伝導電子密度が増加するとプラズマ周波数が大きくなるため、短波長側の光まで反射されることとなる。伝導電子密度は、金属では1022/cm台、ITOでは1020/cm台であるため、金属では可視光線域からすでに反射率が高いが、ITOでは、可視光線は透過し近赤外線域から反射率が高いため、熱線遮へい膜として用いることができる。ここでのITOの1020/cm台の伝導電子密度は、スパッタリング法や真空蒸着法により形成された膜に対して測定された値であり、ITOの超微粉に対し測定された例が見当たらない。
【0021】
本発明者らは、平均粒径が0.01〜0.05μmのITO超微粉における粉体色と、その電気的特性および光学的特性の関係を詳細に調査した。図1は平均粒径が0.01〜0.05μmのITO超微粉に還元処理を施した場合の粉体色、圧粉抵抗および処理時間の関係を例示したもので、平均粒径が0.01〜0.05μmのITO超微粉に還元処理を施すと、その粉体色は黄色→黄緑色→淡青色→濃青色→暗青色と変化するが、その時同時に粉の圧粉抵抗も減少していく。これは、還元処理によりITO超微粉中に空孔が生じるためと考えられる。そして、この空孔は錫と同様に、n型半導体である酸化インジウムに対しドナーとして働くために、空孔の増加のためにキャリアー(自由電子)が増加したと考えることで説明できる。
【0022】
また、図1中では、還元の進行に伴い抵抗が減少し、ある時点から圧粉抵抗が一定の値に収束しているが、これは空孔の増加によりキャリアーが増加するが、還元が進みすぎると粒子内部と粒子接触部を含んだ全体のキャリアーの移動が阻害されるために、電気抵抗としては一定の値になってしまう。
【0023】
スパッタリング法や真空蒸着法により形成されたITO膜は、ITO単体からなる構造であるため、非常に低抵抗であり、ホール測定等により比較的簡単にその伝導電子密度、移動度等を測定できるが、ITO超微粉、あるいはITO超微粉からなる膜では、伝導電子密度を簡単に求めることができない。
【0024】
そこで、粉体の色と圧粉抵抗が伝導電子密度、つまりプラズマ周波数と深い関係があると考え、鋭意検討した結果、次の知見を得た。
すなわち、ITO超微粉中の伝導電子密度を直接測定する替りに、前記のようにITO超微粉の還元処理による粉体の色と圧粉抵抗の変化と、それら還元処理の違いによる近赤外線の透過率の関係を調査し、近赤外線の遮へいに最適な条件を求めた結果、還元処理が進む程、近赤外線の遮へい能力が高く、その還元の度合を粉体色で示すと、20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32、好ましくは20<Y<40、0.25<x<0.28、0.25<y<0.3となり、圧粉抵抗で示すと0.05〜0.5Ω・cm、好ましくは0.05〜0.2Ω・cmとなる。この粉体色と圧粉抵抗の範囲を図1で表すと、粉体色が淡青色から暗青色の範囲がほぼ圧粉抵抗が一定の値に飽和した部分であり、好ましくは濃青色から暗青色の部分である。
【0025】
なお、ここでいう粉体の色は、国際照明委員会(CIE)の定めたXYZ表色系で表され(JISZ8722)、通常三刺激値のYと色度座標x、yを用い、Yxyで表される。また、圧粉抵抗の値は、100kg/cmの圧力下での圧粉体の比抵抗である。この発明で用いたITO超微粉では、100kg/cmの圧力下で、通常2.2〜2.9g/cmの圧粉体密度が得られ、この状態で抵抗が測定されている。
【0026】
また、この発明において、ITO膜中に樹脂または無機バインダーのバインダー成分を形成するのは、ITO膜中の超微粉間には空隙が存在し、その空隙が光の散乱因子となり、膜の光学特性が悪化したり、また基板への密着力も弱く、このままでは使用に耐えないためである。
【0027】
また、ITO超微粉の体積含有率を30〜70vol%(好ましくは40〜70vol%、さらに好ましくは50〜70vol%)に限定したのは、30vol%未満では光学特性が悪化するため十分な特性が得らない。他方、70vol%を超えると充填できない。
【0028】
この発明のITOによる紫外線遮へいについて説明すると、ITOは酸化インジウムに錫をドープしたものであり、前記のようにこの錫と空孔がドナーとして働き、伝導電子を形成している。酸化インジウムは、3.7eVのバンドキャップを持つn型半導体であるため、その基礎吸収端は約330nmであり、これより短波長の光を吸収するため紫外線遮へい能力を有している。ところで、ITOにおいて、ドナーにより多くの伝導電子が形成され縮退すると、電子間相互作用により光学的バンドキャップが短波長側にシフトするBurstenーMoss効果が観測され、吸収端が短波長側にずれるため、紫外線遮へいにとっては好ましくない。したがって、前記のように、伝導電子密度を増加して近赤外線の遮へい効果を高めると、紫外線遮へい能力は若干低下するが、それほど著しいものではなく、紫外線遮へい機能を完全に損なうものではない。
【0029】
また、この発明において用いるITO超微粉は、圧粉抵抗が0.05〜0.5Ω・cmと低抵抗であり、伝導電子密度が高いため、近赤外線を遮へいすることは前記の通りであるが、膜の抵抗については、ITO超微粉がバインダー中に分散した構造であるため、バインダーとITO超微粉の割合あるいは分散状態を変えることで膜中の導電パスの数を比較的自由に変えることができ、任意に制御することが可能である。
【0030】
上記のごとく、この発明に係る紫外線、近赤外線遮へいガラスは、可視光線を透過し紫外線と近赤外線を同時に、しかも高遮へい能力で遮へいすることができると共に、膜の表面抵抗が低抵抗から高抵抗まで取り得ることのできる特性を有するので、電波透過性も制御することができる。
【0031】
次に、この発明の製造方法におけるITOインクは、ITO超微粉と溶剤または、ITO超微粉とバインダーと溶剤とからなり、溶剤は一般の塗料、インクに用いられる有機溶剤または水を用いることができる。有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイリブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の多価アルコール誘導体、その他Nーメチルピロリドン、N.Nージメチルホルムアミド等があげられる。
【0032】
このITOインクは、ITO超微粉が十分に分散した状態にあり、このためITO超微粉と溶剤からなるインクでは超微粉単体からなる膜が形成でき、ITO超微粉とバインダーと溶剤を用いたインクでは、ITO粉とバインダーからなる膜が形成できる。ITO超微粉が十分に分散した状態を得るために、微量の界面活性剤等の添加剤を使用することもできる。
【0033】
ITO膜の形成時には、得られる膜の光学特性を向上させるため、ガラス基板上にITOインクを塗布した後、ゆっくり乾燥してインク中の溶剤を揮発させる。その際、膜中のITO超微粉の体積含有濃度を40〜70%、好ましくは50〜70%の範囲にする。
【0034】
ITO膜中のバインダー成分を形成するバインダー液は、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、紫外線、電子線硬化性樹脂等の樹脂バインダーを含む液、または無機バインダーを含む液としてポリオルガノシロキサン、ポリシラザン、ポリチタノカルボシラン等の溶液や、アルキルシリケートおよびその低縮合物を、塩酸等の触媒の存在下で加水分解して得られるシリカゾルからなるものを用いることができる。
【0035】
ITO超微粉単体からなる膜上に、バインダー液を塗布した場合、バインダー液は、ITO膜の超微粉の間に十分にしみ込むので、ITO膜中にバインダー部分が同時に形成される。そのため、膜の光学特性が向上するとともに、膜の強度、硬度も上昇する。
【0036】
基板上へのITOインクおよびバインダー液の塗布手段としては、ワイヤバーコーティング法、ドクターブレードコーティング法、スピンコート法、ディップコート法等を用いることができる。
【0037】
また、この発明方法では、ITO超微粉がバインダー中に分散した状態のバインダーと超微粉の割合あるいは分散状態を変えることで膜中の導電パスの数を比較的自由に変えることができるのみならず、ITO膜の熱処理を行いITO超微粉どうしを緩やかに焼結させることにより膜内でのキャリアーの移動度を高めることもでき、紫外線および近赤外線の遮蔽とほぼ独立して膜の抵抗を変えることが可能である。例えば、ITO膜の熱処理は、ITO超微粉と溶剤から成るITOインクを塗布、乾燥した後、不活性ガス中または弱還元性ガス中で300〜700℃に加熱することにより行うことができる。例えば、窒素ガス中550℃、30分間熱処理を行うと、未処理と比較すると最終的に膜の表面抵抗は50〜200kΩ/□から50〜200Ω/□まで低下できる。
【実施例1】
【0038】
錫含有量4.4重量%、平均粒径0.03μmのITO超微粉(商品名:UFPーHX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中340℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを30分間流して還元処理を行い、粉体色Y=45.82、x=0.2801、y=0.3022で、圧粉抵抗(100kg/cm)0.26Ω・cmのITO超微粉を得た。得られたITO超微粉をイソホロン中に分散させて、ITO透明導電インク(ITO:65重量%)を得た。このインクを図2に示す電極2(W=3.5cm、t=0.5cm)を付けた縦75mm×横75mm×厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板1(l=3.5cm)に、線径0.15mmのワイヤバーで塗布し、遠赤外線で50℃、10分間乾燥して、膜厚2.7μmのITO超微粒子単体からなるITO膜を得た。なお、図2に示す電極2はAuペースト[N.E.ケムキャット製のM.O.Auペースト]を200メッシュの版でスクリーン印刷し、常温で10分間レベリングした後、120℃で20分間乾燥し、さらに大気中550℃で30分間焼成して得たものである。
【0039】
得られたITO膜に、表1に示すエポキシ樹脂液を線径0.3mmのワイヤバーで塗布し、遠赤外線で50℃、5分間乾燥した後、140℃で30分間硬化した。このITO膜の可視光線透過率、ヘーズ値、表面抵抗値、日射透過率、紫外線透過率を測定した結果を表3に、紫外線、可視光線透過率、近赤外線透過率の測定チャートを図3、図4に、それぞれ示す。
【0040】
本実施例で用いたエポキシ樹脂は、波長330nm〜2400nmにおいて、ほとんど吸収が見られず、測定された透過率はITO膜の光透過特性を示すものと考えてよい。可視光線透過率、ヘーズ値の測定は、スガ試験機械株式会社製の直読ヘーズコンピューター(HGMーZDP)を用いて基板と共に測定した。紫外線、可視光線透過率の測定は、日本分光工業株式会社製のダブルモノクロ分光光度計(Ubestー55)で、近赤外線透過率の測定は日本電子株式会社製のフーリエ変換ラマン分光光度計(JIRー7000)で、それぞれ基板と共に行った。日射透過率と紫外線透過率は、それぞれJISR3106、ISO9050に従って算出した。ITO超微粉の粉体色の測定は、ミノルタカメラ株式会社製の色彩色差計(CRー300)および粉体セル(CRーA50)を用いて測定した。膜厚の測定には、膜の断面の走査電子顕微鏡観察と、東京精密株式会社製の表面粗さ測定機(商品名:サーフコム900A)を用いた。
【0041】
また、上記と同様のソーダライムガラス基板(Au電極なし)上に同様の方法で透明導電膜を形成した後(バインダー塗布前)、成膜前後の基板重量の差と膜厚および塗布面積を測定して、導電膜中のITO粉の体積含有濃度(vol%)を下記式(2)により算出した。その結果を表3に併せて示す。膜の乾燥は乾燥後に膜中に溶剤残留がないように乾燥し、さらに200℃で10分間乾燥した後、重量測定した。
【0042】
導電膜中のITO粉の体積含有濃度(vol%)
=ITO膜重量(g)×100 塗布面積(cm)×膜厚(cm)
×7.2(g/cm.ITOの比重) ・・・・・・・・・式(2)
【実施例2】
【0043】
錫含有量8.5重量%、平均粒径0.03μmのITO超微粉(商品名:UFPーHX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中380℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを80分間流して還元処理を行い、粉体色Y=30.76、x=0.2744、y=0.2932で、圧粉抵抗(100kg/cm)0.18Ω・cmのITO超微粉を得た。このITO超微粉を実施例1と同様にしてITO膜を得、実施例1と同様の測定を行った結果を表3に併せて示す。
【0044】
[比較例1]
錫含有量5.8重量%、平均粒径0.03μmのITO超微粉(商品名:UFPーHX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中300℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを8分間流して還元処理を行い、粉体色Y=56.56、x=0.3001、y=0.3275で、圧粉抵抗(100kg/cm)0.73Ω・cmのITO超微粉を得た。このITO超微粉を実施例1と同様にしてITO膜を得、実施例1と同様の測定を行った結果を表3に併せて示す。
【0045】
[比較例2]
実施例2で得たITO超微粉をイソホロン中に分散させて得られたITO透明導電インク(ITO:65重量%)を図2に示す電極2(W=3.5cm、t=0.5cm)を付けた縦75mm×横75mm×厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板1(l=3.5cm)に塗布した後、ITO膜を120℃で10分間乾燥した以外は、実施例2と同様にしてオーバーコート付きITO膜を得た。得られたITO膜について実施例1と同様の測定を行った結果を表3に併せて示す。この比較例2では、紫外線、可視光線透過率は実施例2とほぼ同じ曲線となるが、ヘーズ値が著しく高い。なお、表2には、実施例1、2および比較例1、2で得られたITO超微粉の粉体色および圧粉抵抗をまとめて示した。
【実施例3】
【0046】
ITO超微粉(商品名:UFP−HX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中380℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを120分間流して還元処理を行い、表4に示すITO超微粉を得た。得られたITO超微粉をイソホロン中に分散させて、ITO透明導電インク(ITO:55.5重量%)を得た。このインクを図2に示す電極2(W=3.5cm、t=0.5cm)を付けた縦75mm×横75mm×厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板1(1=3.5cm)に、線径0.15mmのワイヤバーで塗布し、遠赤外線で50℃、10分間乾燥して、ITO超微粒子単体からなるITO膜を得た。なお、図2に示す電極2は、実施例1と同様の方法で得た。得られたITO膜に、テトラエチルシリケートを少量の塩酸の存在下で加水分解して得られたシリカゾル液を、スピンコート(180rpm)で塗布し、常温で、5分間乾燥した後、150℃で20分間硬化した。このITO膜の可視光線透過率、ヘーズ値、表面抵抗値、日射透過率、紫外線透過率を測定した結果を表5に、紫外線、可視光線透過率、近赤外線透過率の測定チャートを図5に示す。なお、可視光線透過率、ヘーズ値の測定は、スガ試験機械株式会社製の直続ヘーズコンピューター(HGM−ZDP)を用いて基板と共に測定した。紫外線、可視光線近赤外線透過率の測定は、日本分光工業株式会社製のダブルビーム紫外可視近赤外分光光度計(Ubest V−570)で、基板と共に測定した。その他の測定については、実施例1と同様の方法で行った。
【実施例4】
【0047】
ITO超微粉(商品名:UFP−HX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中340℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを60分間流して還元処理を行い、表4に示すITO超微粉を得た。その後実施例3と同様な手順でITO膜を得、実施例3と同様の測定を行った結果を表5及び図5に示す。
【0048】
[比較例3]
ITO超微粉(商品名:UFP−HX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中300℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを8分間流して還元処理を行い、表4に示すITO超微粉を得た。その後実施例3と同様な手順でITO膜を得、実施例3と同様の測定を行った結果を表5及び図5に示す。
【0049】
[比較例4]
ITO超微粉(商品名:UFP−HX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中300℃に加熱して、表4に示すITO超微粉を得た。その後実施例3と同様な手順でITO膜を得、実施例3と同様の測定を行った結果は表5及び図5に示す。
【0050】
[実施例5〜8]
ITO超微粉(商品名:UFP−HX、住友金属鉱山株式会社製)を大気中380℃に加熱した後、その温度でメタノール含有窒素ガスを180分間流して還元処理を行い、表4に示すITO超微粉を得た。得られたITO超微粉をアクリル樹脂を含むイソホロン中に分散させて、ITO透明導電インクを得た。インク中のITO超微粉とアクリル樹脂の比は、以下のように、ITO/アクリル樹脂(重量比)=88/12、84/16、80/20、76/24とした。このインクを図2に示す電極2(W=3.5cm、t=0.5cm)を付けた縦75mm×横75mm×厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板1(1=3.5cm)に、線径0.1mmのワイヤバーで塗布し、遠赤外線で50℃、10分間及び80℃、10分間乾燥して、ITO超微粒子とアクリル樹脂からなるITO膜を得た。なお、図2に示す電極2は、実施例1と同様の方法で得た。
このITO膜の可視光線透過率、ヘーズ値、表面抵抗値、日射透過率、紫外線透過率を測定した結果を表5に、紫外線、可視光線透過率、近視赤外線透過率の測定チャートを図6に示す。
なお、導電中のITO粉の体積含有濃度(vol%)は、実施例1と同様に成膜前後の基板重量の差と膜厚および塗布面積を測定して行ったが、ITO膜中にアクリル樹脂が存在するため、インク中のITOとアクリル樹脂の比及びアクリル樹脂の比重(1.2)を用いて補正して計算した。その他の測定については、実施例3と同様にして行った。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】平均粒径が0.01〜0.05μmのITO超微粉に還元処理を施した場合の粉体色、圧粉抵抗および処理時間の関係を例示した図である。
【図2】この発明の実施例におけるソーダライムガラス基板を示す概略平面図である。
【図3】この発明の実施例における紫外線、可視光線透過率の測定チャートを示す図である。
【図4】この発明の実施例における近赤外線透過率の測定チャートを示す図である。
【図5】この発明の実施例における紫外線、可視光線、近赤外線透過率の測定チャートを示す図である。
【図6】この発明の実施例における紫外線、可視光線、近赤外線透過率の測定チャートを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ソーダライムガラス基板
2 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.01〜0.05μm、錫含有量が1〜15重量%、粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32、圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmであることを特徴とする紫外線、近赤外線遮へい用インジウム−錫酸化物粉末。
【請求項2】
可視光線を透過するガラス基板と、このガラス基板の上に形成された平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉と樹脂バインダーまたは無機バインダーとからなるインジウム−錫酸化物膜とからなり、前記インジウム−錫酸化物超微粉の体積含有率が30〜70vol%であることを特徴とする紫外線、近赤外線遮へいガラス。
【請求項3】
可視光線を透過するガラス基板と、このガラス基板の上に形成された平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉と樹脂バインダーまたは無機バインダーとからなるインジウム−錫酸化物膜とからなり、前記インジウム−錫酸化物超微粉の体積含有率が30〜70vol%であることを特徴とする紫外線、近赤外線遮へいガラス。
【請求項4】
請求項1記載のインジウム−錫酸化物粉末を用いることを特徴とする請求項2又は3記載の紫外線、近赤外線遮へいガラス。
【請求項5】
平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉、または平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉を溶剤に分散させたインジウム−錫酸化物インクを透明なガラス基板に塗布し、乾燥、または乾燥、焼成し、インジウム−錫酸化物超微粉単体からなるインジウム−錫酸化物膜を形成した後、このインジウム−錫酸化物膜に樹脂バインダーまたは無機バインダーを含む液をしみ込ませ、インジウム−錫酸化物粒子間をバインダー成分で埋めることを特徴とする紫外線、近赤外線遮へいガラスの製造方法。
【請求項6】
平均粒径が0.01〜0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム−錫酸化物超微粉、または平均粒径が0.01〜0.05μmで圧粉抵抗(100kg/cm)が0.05〜0.5Ω・cmのインジウム−錫酸化物超微粉を樹脂バインダーまたは無機バインダーを含む溶剤中に分散させたインジウム−錫酸化物インクを透明なガラス基板に塗布し、乾燥硬化して、インジウム−錫酸化物膜を形成することを特徴とする紫外線、近赤外線遮へいガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−145712(P2007−145712A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333778(P2006−333778)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【分割の表示】特願平7−145230の分割
【原出願日】平成7年5月19日(1995.5.19)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(000221959)東北化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】