説明

紫外線と微細気泡を併用した難分解性有機物質の分解方法及び分解装置

【課題】高価な酸化剤を用いることなく、難分解性有機物質を効率的に分解する分解方法を提供する。
【解決手段】難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合し、前記混合物に254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する前記難分解性有機物質の分解方法であって、1)前記液体が水を含む及び/又は2)前記微細気泡が酸素を含む、前記難分解性有機物質の分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線と微細気泡を併用した難分解性有機物質(特に界面活性物質)の分解方法及び分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
難分解性有機物質を含む廃液の処理方法としては、例えば、廃液に過酸化水素を添加して有機物質を分解する方法(特許文献1、2)、廃液に酸化チタンを添加して有機物質を分解する方法(特許文献3、4)、廃液に紫外線を照射しながらオゾンガスをバブリングさせて有機物質を分解する方法(特許文献5〜10)等が知られている。なお、上記過酸化水素、酸化チタン、オゾンガスはいずれも酸化剤である。
【0003】
上記処理方法は、いずれも「促進酸化法」と呼ばれ、有機物質を酸化により分解する。かかる方法は、酸化剤が高価である、酸化剤の後処理が必要である、有機物質の分解率が十分に得られない、等の種々の課題がある。
【0004】
よって、改良された処理方法(分解方法)の開発が求められている。
【特許文献1】特開2001−276834号公報
【特許文献2】特開2003−24934号公報
【特許文献3】特開2002−336879号公報
【特許文献4】特開2003−47952号公報
【特許文献5】特開2000−176468号公報
【特許文献6】特開2000−102793号公報
【特許文献7】特開2003−1279号公報
【特許文献8】特開2003−13607号公報
【特許文献9】特開2006−281129号公報
【特許文献10】特開平10−20090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高価な酸化剤を用いることなく、難分解性有機物質を効率的に分解する分解方法及び分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、特定の条件下において微細気泡と紫外線を併用して難分解性有機物質を分解する方法と装置が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の難分解性有機物質の分解方法及び分解装置に関する。
1.難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合し、前記混合物に254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する前記難分解性有機物質の分解方法であって、1)前記液体が水を含む及び/又は2)前記微細気泡が酸素を含む、前記難分解性有機物質の分解方法。
2.前記難分解性有機物質は、界面活性物質である、上記項1に記載の分解方法。
3.前記界面活性物質は、揮発性有機化合物である、上記項2に記載の分解方法。
4.前記微細気泡は、前記液体の体積に対して0.01〜20体積%混合する、上記項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
5.前記微細気泡は、膜状多孔質体を介して発生させる、上記項1〜4のいずれかに記載の分解方法。
6.前記膜状多孔質体は、多孔質ガラスからなる、上記項5に記載の分解方法。
7.難分解性有機物質の分解装置であって、
(1)前記難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合する手段、及び
(2)前記手段により得られる混合物に、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する手段を有し、
(3)前記液体が水を含む及び/又は前記微細気泡が酸素を含む、
前記難分解性有機物質の分解装置。

以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
難分解性有機物質の分解方法
本発明の難分解性有機物質の分解方法(以下「分解方法」と略記する)は、難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合し、前記混合物に254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する分解方法であって、1)前記液体が水を含む及び/又は2)前記微細気泡が酸素を含むことを特徴とする。
【0009】
上記特徴を有する本発明の分解方法は、特定条件下において微細気泡と紫外線照射とを併用することによって、従来法で用いられている過酸化水素、酸化チタン、オゾンガス等の高価な酸化剤を用いなくても、難分解性有機物質を効率的に分解することができる。特に、微細気泡の表面に吸着し易い界面活性物質を処理対象とする場合、分解効率の観点で、本発明の分解方法は好適に利用できる。
【0010】
本発明の分解方法により分解可能な難分解性有機物質は、例えば、界面活性物質(界面活性剤、界面活性を有する揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds))、タンパク質、液体(水、エタノール等)の表面張力を低下させる水溶性高分子(いわゆる分散安定剤として使用される水溶性高分子)等が挙げられる。これらの有機物質の中でも、分解効率の点で、微細気泡の表面に吸着し易い界面活性物質が処理対象として好適である。
【0011】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0012】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)等)、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、高級アルコール系活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸ナトリウム、アシルメチルタウリン、N−アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム液、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸塩、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロオクタンスルホンアミド、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸アンモニウム、パーフルオロオクタンスルホン酸リチウム、N−プロピル−N−パーフルオロオクチルスルホニルグリシンカリウム塩、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、N−ポリ(n=20)オキシエチレン−N−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミド、N−ポリ(n=10)オキシエチレン−N−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミド、N−ポリ(n=3)オキシエチレン−N−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミド、リン酸ビス[2−(N−プロピルパーフルオロオクチルスルホニルアミノ)エチル]エステル、リン酸ビス[2−(N−プロピルパーフルオロオクチルスルホニルアミノ)エチル]アンモニウム塩、N−プロピル−N−(β−アクリロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム=ヨージド、パーフルオロカプリル酸、パーフルオロオクタン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0013】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0014】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ジメチコンコポリオール、ショ糖脂肪酸エステル、ベミュレン、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、ラウリン酸ジエタノールアミド、ジメチコンコポリオール、ショ糖ステアリン酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ニコムルス41(親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル系混合乳化剤)、ベミュレン、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミドモノオレイン酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン等が挙げられる。
【0015】
界面活性を有する揮発性有機化合物(VOC)としては、常温常圧で空気中に容易に揮発する有機化合物のうち、その水溶液の表面張力が水の表面張力より低いものが該当する。界面活性を有するVOCとしては、例えば、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ベンゼン、キシレン、トルエン、アセトン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ジメチルスルフィキシド等が挙げられる。
【0016】
タンパク質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、コラーゲン、血清アルブミン、オボアルブミン、ラクトアルブミン等の水溶性タンパク質が挙げられる。
【0017】
液体(水、エタノール等)の表面張力を低下させる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等の水溶性合成高分子が挙げられる。
【0018】
上記難分解性有機物質を含む液体は、難分解性有機物質を溶解又は分散した液体であれば限定されず、溶媒又は分散媒としては、例えば、水、水溶性有機溶媒(エタノール等)等が挙げられる。例えば、上記難分解性有機物質を含む水溶液(水性廃液、地下水)等が処理対象となり得る。なお、有機物質の分解に必要なヒドロキシラジカルを得る観点で、溶媒又は分散媒としては、水又は水を含むものが好ましい。液体中における難分解性有機物質の濃度は、一般に1ppb〜2000ppm程度が好ましく、濃度が薄いほど分解速度は大きくなる。
【0019】
本発明の処理方法は、上記難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合する。なお、平均粒子径が大きいほど液体中での上昇速度が速くなるためボイド率が低下し易くなる。そのため、平均粒子径は上記範囲内でできる限り小さく設定することが好ましい。本明細書において、上記平均気泡径は、粒度分布計(製品名「SALD2000」島津製作所製)を用いてレーザ回折・散乱式の粒度分布測定法により測定した値である。
【0020】
上記微細気泡を生じさせる手段は限定的ではないが、例えば、貫通細孔を有する公知の膜状多孔質体に各種ガスを通過させることにより生じさせることが好ましい。貫通細孔は、その断面形状が楕円状、長方形(スリット状)、正方形等のいずれでもよい。また、貫通細孔は、膜面に対して垂直に貫通していてもよく、斜めに貫通していてもよく、更に貫通細孔どうしが絡み合った状態でもよい。多孔質体の細孔径は、上記平均気泡径の微細気泡が得られる限り限定されないが、特に0.05〜50μmが好ましい。
【0021】
膜状多孔質体の形状は限定的ではなく、例えば、板状(平膜状)、円筒状(管状)等が挙げられる。膜状多孔質体の厚みは、通常0.2〜2mm程度とすればよい。
【0022】
膜状多孔質体を構成する材料も限定的ではなく、例えば、ガラス、セラミックス、金属、有機高分子等のいずれでもよいが、均一なサイズの微細気泡を生じさせる観点から、細孔径の均一性の高い多孔質ガラスが好ましい。
【0023】
多孔質ガラスとしては、例えば、ガラスのミクロ相分離を利用して製造される多孔質ガラスが好ましい。具体的には、特許第1504002号に開示されたCaO−B−SiO−Al系多孔質ガラス、特許第1518989号及び米国特許第4657875号に開示されたCaO−B−SiO−Al−NaO系多孔質ガラス、CaO−B−SiO−Al−NaO−MgO系多孔質ガラス、特開2002−160941に開示されたSiO−ZrO−Al−B−NaO−CaO系多孔質ガラスが挙げられる。
【0024】
微細気泡の平均気泡径は、300nm〜500μmの範囲内であればよいが、上記範囲内においてできる限り小さい方が好ましい。このような微細気泡は気泡の安定性が高く、その表面への有機物質の吸着量を多く確保できる。また、微細気泡が酸素を含有する場合、液中への酸素の溶解量も多く確保でき、ヒドロキシラジカルの生成効率を上げることができる。平均気泡径は、上記範囲の中から難分解性有機物質の種類に応じて適宜設定できる。平均気泡径は小さいほど単位体積当たりの気液界面積が増えるため、分解率や分解速度が増大する。
【0025】
微細気泡を構成するガス種は限定されず、例えば、酸素ガス、空気、窒素ガス、アルゴン、ネオン、炭酸ガス等が挙げられる。この中でも、有機物質の分解に必要なヒドロキシラジカルを得る観点で、酸素ガス又は酸素含有ガス(空気)が好ましい。なお、経済性を考慮すると空気が最も好ましい。
【0026】
難分解性有機物質を含む液体への微細気泡の混合割合(ボイド率)は、有機物質の種類や濃度に応じて適宜設定できる。ボイド率は大きいほど気液界面積が増大するので分解率や分解速度が増大する。通常は、液体に対して0.01〜20体積%程度が好ましく、2〜10体積%程度がより好ましい。
【0027】
微細気泡を混合する際の圧力は、微細気泡を生成するのに必要な圧力以上であればよい。当該圧力が大きいほど送気量が増大するためボイド率が増大する。通常は膜状多孔質体の細孔径に応じて0.01〜5MPaの範囲内で適宜設定する。液中に微細気泡を混合する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。即ち、膜状多孔質体の一方に液体を接触させ、他方には気体を接触させる。例えば、膜状多孔質体の形状を管状とし、管内に液体を流通させ、管外に気体を存在させる。次に外部から気体を加圧することにより、気体が多孔質体の貫通細孔を通過して液体中に微細気泡が分散される。気体を加圧する方法としては、例えば、密閉空間に気体を強制的に充填する方法、密閉空間に気体を充填した後にピストンにより空気を圧縮する方法等が挙げられる。
【0028】
本発明の分解方法は、上記有機物質を含む液体と微細気泡との混合物に254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する。例えば、いわゆる低圧水銀ランプと中圧・高圧水銀ランプとを単独又は併用することによって254nmと185nmの両方の波長ピークが得られるように照射すればよい。紫外線の照射強度、照射量は特に限定されず、所望の分解速度に応じて設定する。
【0029】
このような紫外線を照射することにより、微細気泡の表面に吸着された難分解性有機物質が分解される。難分解性有機物質の分解速度や分解率は、気液界面積と紫外光の照射面積に依存する。即ち、微細気泡の平均気泡径が小さい、微細気泡のボイド率が大きい、処理対象液に対する紫外光の照射量と強度が大きいほど、分解速度や分解率が増大する。
【0030】
なお、本発明の分解方法は、前記液体が水を含むか、又は前記微細気泡が酸素を含むか、いずれかを満たす必要がある。これは、紫外線の照射によって、前記水又は酸素の一方又は両方からヒドロキシラジカルを生じさせるためである。
【0031】
本発明の分解方法の機構を例示すると次の通りである。
【0032】
先ず、微細気泡によって液中に溶解した溶存酸素が185nmの紫外線と反応してオゾン(O)が発生する。オゾンは、速やかに254nmの紫外線の作用を受けて反応活性が高いヒドロキシラジカル(OH・)が生成する(式(1))。また、水(HO)も185nmの紫外線によりヒドロキシラジカルを生成する(式(2))。その後、生成したヒドロキシラジカルが難分解性有機物質と反応して、中間体である炭素ラジカルが生成される。この生成された中間体は、酸素を介してペロキシラジカル(RO・)が生成され、さらに酸素と反応を繰り返し最終生成物である水と二酸化炭素まで分解されると考えられる。酸素を含まないガスの場合は、式(2)により生成したヒドロキシラジカルを介して難分解性有機物質を分解すると考えられる。
【0033】
【化1】

【0034】
難分解性有機物質の分解装置
本発明の難分解性有機物質の分解装置は、上記本発明の分解方法を実施できる限り特に限定されない。例えば、難分解性有機物質の分解装置であって、
(1)前記難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合する手段、及び
(2)前記手段により得られる混合物に、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する手段を有し、
(3)前記液体が水を含む及び/又は前記微細気泡が酸素を含む分解装置が使用できる。
【0035】
本発明の分解装置(紫外線処理装置)の構成図を図1、図8に例示する。以下、この図を用いて本発明の分解装置を例示的に説明する。
【0036】
図1に示される紫外線照射装置は、反応槽1内に、保護管3に収容された紫外線照射手段2(紫外線ランプ)が設置されている。紫外線照射手段2は、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する水銀ランプである。紫外線照射手段2の上部に電源装置4が設置されている。反応槽1の下部にはモジュール6が設置され、循環ポンプ8により循環経路7は反応槽1内の液体の循環をしている。モジュール6は、循環ポンプ8が作動し、気体5の注入により所定の圧力下で液体中に微細気泡を供給する。
【0037】
図8に示される紫外線照射装置は、反応槽1と気泡生成槽9を有する。反応槽1内に、保護管3に収容された紫外線照射手段2(紫外線ランプ)が設置されている。紫外線照射手段2は、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する水銀ランプである。紫外線照射手段2の上部に電源装置4が設置されている。気泡生成槽9の下部にはモジュール6が設置され、循環ポンプ8により循環経路7は反応槽1と気泡生成槽9内の液体の循環をしている。モジュール6は、循環ポンプ8が作動し、気体5の注入により所定の圧力下で液体中に微細気泡を供給する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の分解方法は、特定条件下において微細気泡と紫外線照射とを併用することによって、従来法で用いられている過酸化水素、酸化チタン、オゾンガス等の高価な酸化剤を用いなくても、難分解性有機物質を効率的に分解することができる。特に、微細気泡の表面に吸着し易い界面活性物質を処理対象とする場合、分解効率の観点で、本発明の分解方法は好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0040】
実施例1及び比較例1
図1に示される紫外線処理装置を用いた。図1に示される紫外線照射装置は、反応槽1内に、保護管3に収容された紫外線照射手段2(紫外線ランプ)が設置されている。紫外線照射手段2は、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する水銀ランプである。紫外線照射手段2の上部に電源装置4が設置されている。反応槽1の下部にはモジュール6が設置され、循環ポンプ8により循環経路7は反応槽1内の液体の循環をしている。モジュール6は、循環ポンプ8が作動し、気体5の注入により所定の圧力下で液体中に微細気泡を供給する。
(実施例1−1)
難分解性有機物質であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を1000ppm含む水溶液(以下「SDBS溶液」)を用意した。
【0041】
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例1−1)
SDBS溶液に0.4wt%過酸化水素を加え、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例1−2)
SDBS溶液に紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
SDBS溶液の全有機体炭素(TOC)濃度を経時的に測定した。測定装置は、全有機体炭素測定装置(製品名「TOC−VCPH」島津製作所)を用いた。TOC残存率の経時変化を図2に示す。図2から明らかなように、比較例1−1、比較例1−2に比して、実施例1−1の方が分解効率が高いことが分かる。
(実施例1−2)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。なお、SDBSは界面活性を有している。
(実施例1−3)
難分解性有機物質であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を1000ppm含む水溶液(以下「SDS溶液」)を用意した。なお、SDSは界面活性を有している。
【0042】
SDBS溶液に代えてSDS溶液を用いた以外は実施例1−2と同じとした。
(実施例1−4)
難分解性有機物質であるベンゼンスルホン酸ナトリウム(BS)を1000ppm含む水溶液(以下「BS溶液」)を用意した。なお、BSは界面活性を有していない。
【0043】
SDBS溶液に代えてBS溶液を用いた以外は実施例1−2と同じとした。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図3に示す。図3から明らかなように、界面活性を有するSDBS(実施例1−2)やSDS(実施例1−3)は、界面活性を有さないBS(実施例1−4)よりも分解効率が高いことが分かる。本発明の分解方法は、気泡表面に吸着し易い物質(界面活性物質)の分解処理に有利である。
(実施例1−5)
SDBS溶液に酸素マイクロバブル(気泡径約8μm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(実施例1−6)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例1−3)
SDBS溶液に紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図4に示す。図4から明らかなように、微細気泡を用いることによって(実施例1−5、1−6)、分解効率が向上することが分かる。
(実施例1−7)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例1−4)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図5に示す。図5から明らかなように、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を用いることによって分解効率が向上することが分かる。
(実施例1−8)
SDBS溶液に空気ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(実施例1−9)
空気ナノバブルを酸素ナノバブル(気泡径約800nm)に代えた以外は実施例1−8と同じとした。
(実施例1−10)
空気ナノバブルを窒素ナノバブル(気泡径約800nm)に代えた以外は実施例1−8と同じとした。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図6に示す。図6から明らかなように、微細気泡のガスの種類に関係なく、分解効率は同程度であることが分かる。なお、液体クロマトグラフ質量分析計(製品名「LCMS−2010EV」島津製作所)を用いて、分解生成物の種類を同定したところ、酸素ナノバブルを用いた場合と窒素ナノバブルを用いた場合に実質的な差は見られなかった。このことから、酸素ナノバブルを用いた場合は、主に気泡内の酸素ガス由来の溶存酸素に基づくヒドロキシラジカルが分解に寄与するのに対し、窒素ナノバブルを用いた場合は溶媒の水により生成したヒドロキシラジカルにより分解するものと推察される。
【0044】
実施例2及び比較例2
図1に示される紫外線処理装置を用いた。
(実施例2−1)
難分解性有機物質であるアセトンを100ppm含む水溶液(以下「アセトン溶液」、表面張力70mN/m)を用意した。
【0045】
アセトン溶液に酸素ナノバブル(気泡径約100nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例2−1)
アセトン溶液に酸素ナノバブル(気泡径約100nm)を10mL/minで吹き込んだ。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例2−2)
アセトン溶液に紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図7に示す。図7から明らかなように、比較例2−1、比較例2−2に比して、実施例2−1の方が分解効率が高いことが分かる。
【0046】
実施例3及び比較例3
図8に示される紫外線処理装置を用いた。図8に示される紫外線照射装置は、反応槽1と気泡生成槽9を有する。反応槽1内に、保護管3に収容された紫外線照射手段2(紫外線ランプ)が設置されている。紫外線照射手段2は、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する水銀ランプである。紫外線照射手段2の上部に電源装置4が設置されている。気泡生成槽9の下部にはモジュール6が設置され、循環ポンプ8により循環経路7は反応槽1と気泡生成槽9内の液体の循環をしている。モジュール6は、循環ポンプ8が作動し、気体5の注入により所定の圧力下で液体中に微細気泡を供給する。
(実施例3−1)
SDBS溶液に酸素マイクロバブル(気泡径約8μm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(実施例3−2)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例3−1)
SDBS溶液に紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図9に示す。図9から明らかなように、微細気泡を用いることによって(実施例3−1、3−2)、分解効率が向上することが分かる。
(実施例3−3)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例3−2)
SDBS溶液に酸素ナノバブル(気泡径約800nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図10に示す。図10から明らかなように、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を用いることによって分解効率が向上することが分かる。
【0047】
実施例4及び比較例4
図8に示される紫外線処理装置を用いた。
(実施例4−1)
難分解性有機物質であるトリクロロエチレン(TCE)を50ppm含む水溶液(以下「TCE溶液」、表面張力70mN/m)を用意した。
【0048】
TCE溶液に酸素ナノバブル(気泡径約100nm)を10mL/minで吹き込み、紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例4−1)
TCE溶液に酸素ナノバブル(気泡径約100nm)を10mL/minで吹き込んだ。溶液は0.5L/minで循環した。
(比較例4−2)
TCE溶液に紫外線(254nm及び185nm)を照射した。溶液は0.5L/minで循環した。
(結 果)
TOC残存率の経時変化を図11に示す。図11から明らかなように、比較例4−1、比較例4−2に比して、実施例4−1の方が分解効率が高いことが分かる。また、TCEが分解されているかどうかを調べるために、分解液に5%硝酸銀水溶液を加えて溶液中の塩素イオンの有無を調べた。その結果を図12に示す。白濁しているものは、塩化銀の沈殿が認められる。実施例4−1の結果が最も白濁しており、TCEの分解によって塩素イオンが最も生じていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1及び比較例1で用いた紫外線処理装置の構成図である。
【図2】実施例1−1、比較例1−1、1−2のTOC残存率を示すグラフである。
【図3】実施例1−2、1−3、1−4のTOC残存率を示すグラフである。
【図4】実施例1−5、1−6、比較例1−3のTOC残存率を示すグラフである。
【図5】実施例1−7、比較例1−4のTOC残存率を示すグラフである。
【図6】実施例1−8、1−9、1−10のTOC残存率を示すグラフである。
【図7】実施例2−1、比較例2−1、2−2のTOC残存率を示すグラフである。
【図8】実施例3で用いた紫外線処理装置の構成図である。
【図9】実施例3−1、3−2、比較例3−1のTOC残存率を示すグラフである。
【図10】実施例3−3、比較例3−2のTOC残存率を示すグラフである。
【図11】実施例4−1、比較例4−1、4−2のTOC残存率を示すグラフである。
【図12】実施例4−1、比較例4−1、4−2の処理後の液体中の塩素イオンの有無を示す図である。白濁化したものは塩化銀の沈殿が生じていることを示し、即ち分解により塩素イオンが生じていることを示す。
【符号の説明】
【0050】
1…反応槽
2…紫外線照射手段
3…保護管
4…電源装置
5…気体
6…モジュール
7…循環経路
8…循環ポンプ
9…気泡発生槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合し、前記混合物に254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する前記難分解性有機物質の分解方法であって、1)前記液体が水を含む及び/又は2)前記微細気泡が酸素を含む、前記難分解性有機物質の分解方法。
【請求項2】
前記難分解性有機物質は、界面活性物質である、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記界面活性物質は、揮発性有機化合物である、請求項2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記微細気泡は、前記液体の体積に対して0.01〜20体積%混合する、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項5】
前記微細気泡は、膜状多孔質体を介して発生させる、請求項1〜4のいずれかに記載の分解方法。
【請求項6】
前記膜状多孔質体は、多孔質ガラスからなる、請求項5に記載の分解方法。
【請求項7】
難分解性有機物質の分解装置であって、
(1)前記難分解性有機物質を含む液体に、平均気泡径が300nm〜500μmの範囲内の微細気泡を混合する手段、及び
(2)前記手段により得られる混合物に、254nmと185nmの2つの波長ピークを持つ紫外線を照射する手段を有し、
(3)前記液体が水を含む及び/又は前記微細気泡が酸素を含む、
前記難分解性有機物質の分解装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−207949(P2009−207949A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50706(P2008−50706)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】