説明

紫外線照射による水不溶性DNA架橋体の製造方法とその利用

【課題】新規の水不溶性DNA架橋体とその環境浄化材料としての利用方法の提供。
【解決手段】支持体上の水溶性DNA(例えば、サケの精巣由来のDNA)の水溶液もしくはその液膜、又は支持体上の水溶性DNAの薄膜液波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射すると、該DNAは支持体上に固定された水に不溶性の架橋体に変化する。同様にして、例えば、セルロース繊維不織布を浸漬した水溶性DNAの水溶液に波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することにより、該DNAの水不溶性架橋重合体により被覆されたセルロース繊維不織布が形成される。この架橋体はDNAへの挿入剤または環境ホルモンを水中の極めて低い濃度の状態でも極めて収率高く吸着する。同様に有毒金属例えばHgイオンも水に対して固定的に吸着する。従って、この架橋体は環境浄化材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、支持体上の水溶液中にあってもよい水溶性DNAに波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することによる支持体に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋体の製造方法、該架橋体;該架橋体を含有する医薬、獣医薬又は食品;該架橋体による、DNAへの挿入剤の集積及び除去;銀イオンを含有する該架橋体とその殺菌材料としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射により、二本鎖DNAが、エタノール中で互いの二本鎖DNAの間で架橋することは知られている(例えば、Photochemistry and Photobiology, 1998, 67(4): 386-390 を参照) 。しかし、水中又は無溶媒の条件下で二本鎖DNAの間での架橋が起こることは知られていない。又、一本鎖DNA又はRNAの紫外線照射による架橋化は知られていない。
【発明の開示】
【0003】
本発明者は、水中又は無溶媒下での、水溶性二本鎖DNA、水溶性一本鎖DNA又はRNAの紫外線照射による影響を検討したところ、意外にも該二本鎖DNA間の水不溶性の架橋体、該一本鎖DNA間又はRNA間の水不溶性の架橋体が生成することを発見し、この発見に基づき本発明を完成した。
【0004】
即ち、本願発明は、支持体上の水溶性DNAの水溶液もしくはその液膜、又は支持体上の水溶性DNAの薄層又は支持体上の水溶性DNAの溶液の液膜の濃縮乃至乾涸により得られた薄層に、波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することによる、支持体に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋重合体の製造方法に関する。
【0005】
又、本願発明は、上記発明の一変形として、支持体例えばセルロース繊維不織布を浸漬した水溶性DNAの水溶液に波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することによる、水溶性DNAの水不溶性架橋重合体により被覆された支持体又はセルロース繊維不織布の製造方法にも関する。
【0006】
又、本願発明は、上記支持体に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋重合体、上記支持体に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋重合体から例えば剥離により支持体を除いた水不溶性架橋重合体の利用法にも関する。
又、本願発明は、臭化エチジウム、ベンゾ[a]ピレン、ジベンゾ−p−ジオキサン、ジベンゾフラン及びビフェニルより選択される1種以上の化合物を含む液体又は気体から該1種以上の化合物を集積又は除去することのできる濾過材又は吸着剤であって、且つ、
支持体上の水溶性二本鎖DNAの水溶液もしくはその液膜、又は支持体上の水溶性二本鎖DNAの薄層又は支持体上の水溶性二本鎖DNAの水溶液の液膜の濃縮乃至乾涸により得られた薄層に、波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することにより、支持体上に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋重合体を含む濾過材又は吸着剤に関する。
又、本願発明は、水溶性DNAの水溶液の液膜の厚みが0.1mm〜10mm、又は水溶性二本鎖DNAの溶液の濃縮乃至乾涸により得られた薄層の厚みが0.01〜1mmである、前記に記載の濾過材又は吸着剤にも関する。
又、本願発明は、DNAが魚類の白子(精巣)又は哺乳動物もしくは鳥類の胸腺から得られる二本鎖DNAである前記に記載の濾過材又は吸着剤にも関する。
又、本願発明は、支持体が合成樹脂、ガラス、セラミックス、金属、及び天然繊維より選択される支持体である、前記に記載の濾過材又は吸着剤にも関する。
又、本願発明は、濾過材又は吸着剤が、タバコのフィルター、空気浄化器の気体濾過材及び液体濾過材のいずれかに使用することのできる濾過材又は吸着剤である、前記に記載の濾過材又は吸着剤にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
水溶性DNAの例としては、一本鎖のDNA又は二本鎖DNA例えば魚類の精巣又は動物の胸腺から得られるDNAが挙げられる。例えばサケ、ニシン、タラの白子(精巣)から得られるものが好ましい。又、哺乳動物もしくは鳥類、例えばウシ、ブタ、ニワトリ等の胸腺から得られるものが好ましい。他の水溶性DNAの例としては、合成DNA特に(dA)−(dT)の塩基対を持つDNA配列、特に例えばpoly(dA)−poly(dT)型の配列を持つDNAであってもよい。RNAの例としては、酵母から得られるRNAが好ましい。
【0008】
支持体は、生成した水溶性DNAの水不溶性架橋体を膜状、線状又は点状に支持できる能力のあるものであればよい。支持体の形状と材質は、多孔性であってもよい、板状、球状例えば直径0.1mmないし10mmの球状又は繊維状の、合成樹脂、ガラス、セラミックス又は金属;天然繊維例えばセルロース又はパルプ;或いは天然繊維例えばセルロース又はパルプを化学的に加工したものである。
【0009】
支持体の材質としては、DNA架橋体との結合力の乏しい材質例えばガラス、合成樹脂例えばポリエチレン又はポリプロピレン又は金属、乃至は、結合力の強い表面を持つ、表面処理済のガラス、表面処理してあってもよい合成樹脂又は表面処理してあってもよい金属、又はセルロースであってもよい。何れの場合にも、照射される紫外線により分解され難いものが好ましい。そして上記水不溶性架橋体と結合力の弱い支持体は生成したDNA架橋体例えばフィルムの該支持体からの剥離が容易であってもよい。この場合の支持体は架橋体を剥離しない場合は、該架橋体の物理的補強材料にもなり得る。更に上記水不溶性架橋体と結合力の強い支持体は、該架橋体、例えばフィルム状の架橋体の物理的補強材料にもなり得る。
【0010】
ガラスとセラミックスは表面を化学的処理してあるものであってもよい。例えば、表面処理をしてない市販のボーラスガラスビーズ(粒径=約0.5〜1.2mm、平均して約1mm)の場合は、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬する。表面処理の場合は、例えばポーラスガラスビーズを約70℃の濃H2SO4 :30%H22 =7:3の溶液に30分間浸漬して、表面に水酸基を導入した後、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬する。同様にして、ポーラスガラスビーズを約70℃の濃H2SO4 :30%H22
7:3の溶液に30分間浸漬、次いで密封容器内に3−アミノプロピルニトリルトリエトキシシランと共に約2時間放置して、ビーズの表面に有機アミノ基を導入した後、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬する。
【0011】
支持体上の水溶性DNAの薄層は通常は、支持体上の水溶性DNAの溶液の液膜を濃縮乃至乾涸することにより生成する。この際に使用される溶液の溶媒は、水、水性メタノール又は水性エタノールであり、風乾の容易なものが好ましい。特に水が好ましい。水溶性DNAの薄層の厚みは通常0.01〜1mmであるが、この範囲外の厚みであってもよい。
【0012】
水溶性DNAの水溶液の濃度は、該水溶液DNAの飽和溶液の濃度以下であればよい。例えば、溶解処理のし易い濃度であるDNA10mg/水1mL程度である。水溶性DNAの水溶液の液膜の厚みは通常0.1〜20mm、好ましくは0.1〜10mmであるが、この範囲外の厚みであってもよい。
【0013】
照射する紫外線の波長は250〜270nmの範囲にあるものが好ましい。必要な照射時間は、照射される紫外線の照射強度に反比例する。5600μW/cm2 (照射距離は約7.5cmである)の場合は、概ね12時間以上の照射時間である。照射時間が不十分な場合は、水不溶性DNAの収率が低下する。従って、生成したフィルム中の水溶液DNA量又は水不溶性DNA量を追跡して、収率の高い照射強度と照射時間を選択するのが好ましい。例えばサケの精巣から得られたDNA膜(DNA10mgと水20mLからの溶液を乾涸した。膜面積は約10cm2 )を強度5600μW/cm2 (照射距離は約7.5cmである)の260nm紫外線で照射すると、1時間照射後に生成したフィルム水により約50%のDNAが溶質するが、12時間照射後には約25%のDNAが溶出する。又、薄膜の厚みは、照射された紫外線がDNA膜の深部に到達できる程度の厚みであることが好ましい。普通は、薄膜の厚みは、0.01〜1mm程度である。 紫外線の照射温
度は、普通は0〜50℃以下、室温例えば10〜35℃が好ましい。
【0014】
紫外線照射後、得られたフィルムから水可溶性のDNAを水により溶出した後得れた水不溶性DNAフィルムは、例えば50日の長期にわたって常温の水中に浸漬しても水に不溶性であるので、常温の水中では安定且つ不溶性である。水不溶性とは、80℃以下の水に容易に溶解しないと定義する。上記水不溶性架橋体は、100℃の沸騰水中では15分間で溶解した。この溶解物は冷却しても水中への析出を認めることは出来なかった。この溶解した試料を水に希釈して、濃度0.1μg/10μLの溶液にした後、アガロースゲル電気泳動法(和科盛(製)、移動相 TAE buffer,分析温度30℃、移動距離
12cm)で分析すると非常に分子量の高い超巨大DNA化合物であることを示してい
た。
【0015】
常温(25℃)における水不溶性と測定できない程度の高い分子量を合わせて考察するとこの水不溶性DNAは、多数の二本鎖DNA間の架橋反応により生成したDNA架橋重合体であると推定される。
【0016】
得られた(水溶性DNAの)水不溶性架橋体のフィルムは、水溶性DNAがサケの精巣由来の場合は、IR(KBr錠剤法)スペクトルとUV−VS領域の吸光スペクトルにおいて、使用された原料の水溶性DNAのそれと問題にできる程度顕著な差異を認めることができなかった。現在時点ては、どの部分で架橋化しているのか不明である。
【0017】
しかるに、Poly(dA)−Poly(dT)( 1%アガロースゲルを用いる電気泳動を行った。その結果、2.7,4.3,5.0と6.0(kbp)付近にバンドを示した)の薄膜に254nmの紫外線を30分間照射したところ、水不溶性のフィルム(上記の1%アガロースゲルを用いる電気泳動による分析では、水に不溶性のためなのだろう、バンドを示さなかった)を生じた。この水不溶性フィルムのIRスペクトル(フィルム20μg+KBr数百gから錠剤を測定)は、下記の波長領域において、紫外線照射前の原料との吸収の違いを示した。
(1)1680 cm-1近傍のチミンの二重結合に由来するνCHの吸収(ν:伸縮振動)が消えた。
(2)1450 cm -1 付近に大きな変化を示した。
(3)968 cm-1: デオキシリボースのνC-C の消失(4)800 cm-1: νP-O の変化(5)1230,1090
cm-1: 非対象νPO2 結論:1680 cm -1近傍吸収の消失はチミンダイマーの形成を示して
いる。
【0018】
上記のPoly(dA)−Poly(dT)の分析結果から考察すると、サケ由来のDNAにおいては(dA)−(dT)対がランダムに存在しているため、架橋のチャンスは少なく、水不溶化してもIRスペクトルでは顕著な差が観察されなかったことによると思われる。なお、現時点で得られたデータのみからは、チミンダイマーの形成だけが不溶化の原因であるとは断定できない。
【0019】
本発明者は、このようにして得られた水不溶性架橋体のフィルムは、DNAへの挿入剤(intercalating agent) である環境ホルモン等の化合物、例えば臭化エチジウム(4ppm);ベンゾ[a]ピレン(10ppb);ジベンゾ−p−ジオキサン(10ppb);ジベンゾフラン(10ppb)及びビフェニル(10ppb)の極めて低い濃度〔各化合物の後に記述した()中の数値〕の水溶液からこれら挿入剤を極めて高い収率で吸着、これらの水溶液から除去することを見出した。この効果により、生体内外の又は食用の液体又は固体又は環境内の液体又は気体中に存在する極めて低い濃度のDNAへの挿入剤を除去することが可能になる。
【0020】
従って、支持体の材質と形状を適宜選択することにより、挿入剤の除去をするのに有用である。挿入剤を集積及び除去するための濾過材又は吸着剤、例えば、タバコのフィルター、空気浄化器の気体濾過材、飲料水、食用水、飲料食品例えば牛乳、母乳の液体濾過材、動物特にヒトを含む哺乳動物の消化管内の挿入剤例えばの吸着・清浄剤として有用である。
【0021】
上述のように、支持体はガラスとセラミックスは表面を化学的処理してあるものであってもよい。例えば、表面処理をしてない市販のボーラスガラスビーズ(粒径=約0.5〜1.2mm、平均して約1mm)の場合は、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬、乾燥後、紫外線を2時間照射する。紫外線照射に際しては、15分毎に、ポーラスガラスをかき混ぜた。表面処理の場合は、例えばポーラスガラスビーズを約70℃の濃H2SO4
:30%H22 =7:3の溶液に30分間浸漬して、表面に水酸基を導入した後、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬、乾燥後、上記と同様に紫外線照射する。同様にして、ポーラスガラスビーズを約70℃の濃H2SO4 :30%H22=7:3の溶液に3
0分間浸漬、次いで密封容器内に3−アミノプロピルニトリルトリエトキシシランと共に約2時間放置して、ビーズの表面に有機アミノ基を導入した後、10mg/mLのDNA溶液に2時間浸漬、乾燥後、上記と同様に紫外線照射する。これらのポーラスガラスビーズの表面へのDNA固定量は、下記の通りであった。市販されているポーラスガラスビーズ:4−6mg/ビーズ1g;表面に水酸基があるポーラスガラスビーズ:約3mg/ビーズ1g;表面に有機アミノ基があるポーラスガラスビーズ:5−7mg/ビーズ1g。このように固定されたDNA架橋体は、上記の水不溶性架橋体のフィルムと同様の作用を、DNAへの挿入剤に対して持つ。
【0022】
本発明の製造方法を、水溶液DNAを含有する水溶液に浸漬したセルロース繊維不織布に応用した。即ち、上記浸漬液へ、250〜270nmの範囲の紫外線を照射した結果、DNAの水不溶性架橋体がセルロース上に固定化されることを見出した。このセルロース繊維不織布は、水不溶性架橋体の物理的補強剤として機能している。このものは、上記の挿入剤又は環境ホルモン型化合物を吸着できる。また、セルロース繊維不織布は、硫酸銀、硝酸銀のような水溶性銀塩例えば硝酸銀の水溶液からAg+ イオンを水で洗浄除去できない程度に固定的に吸着した。そして、その含Ag+ 不織布がEscherichia coli Staphylococcus aureus 等の細菌に顕著な生育抑制作用を示している。この結果は、殺生物作用のある金属イオン例えばAg+ の他に、Hg+ 、Hg2+、Cu+ 、Cu2+等の金属イオンでも同様に使用できる可能性を示している。
【0023】
上記のセルロース繊維不織布に換えて、通常のセルロース繊維織物、例えばガーゼのような形態のものも使用できる。セルロース繊維間の間隔を調節することにより不織布又は織物の目の大きさを通液又は通気のために自由に調節することができる。同様にして上記のセルロース繊維不織布をセルロース紙に換えることも可能である。この場合は、所望の大きさの孔径を持つセルロース紙であってもよい。又、上記セルロースはセルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース又は
ヒドロキシプロピルセルロースであってもよい。
【0024】
又、上記の水溶性DNAの水不溶性架橋体は、DNA構造を維持したDNAの架橋体であるので、DNAと同様の金属との結合力を持つ。従って、Cd2+、クロムイオン例えばCr3+、Hg2+、マンガンイオン例えばMn2+等の金属イオンを吸着できる環境浄化材料としての機能もある。これは、上記の水溶性DNAの水不溶性架橋体のフィルムと該架橋体により被覆された支持体例えばセルロース繊維不織布についても言える。
【0025】
又、本発明の水不溶性架橋体は、初期的試験では或る種(マイクロコッカル・ヌクレアーゼ(Sigma))のヌクレアーゼにより加水分解されないことが証明されている。これはこのものが普通のDNAと異なり、ヒトを含む哺乳動物、鳥類の消化器管内で分解されないことを示唆しているので、消化管内にある上記の挿入剤又は金属イオン類を集積・除去する毒物除去即ち解毒の作用を持つ医薬又は獣医薬又は食品として機能する。
【0026】
なお、水溶性二本鎖DNAを水溶性一本鎖DNA又はRNAに換えても、250〜270nmの範囲の紫外線を照射の結果、水不溶性架橋体が形成されることを確認している。この一本鎖DNA又はRNAの水不溶性架橋体も、上記の金属に対して二本鎖DNA架橋体と同様の作用を持つ。又、支持体上の一本鎖と二本鎖のDNAの混合物に250〜270nmの範囲の紫外線を照射して架橋体を形成することも、本願発明の対象である。
【実施例】
【0027】
本願発明を下記の実施例により更に具体的に説明する。
実施例1.水溶性DNAの架橋重合体の合成
サケの白子から得られた二本鎖DNA(分子量,5×106 )10mgを水1mLに溶解し、得られたDNA溶液を直径3cmのシャーレに注入し、室温で風乾した。次いで、紫外線ランプ(R−52G型、5600μW/cm2 、ウルトラ・バイオレット社製 )
を使用して254nmの紫外線(照射距離は約7.5cmであった。)を1〜12時間照射した。シャーレに水を注入して、シャーレ底部に生成した水不溶性のDNAフィルムをシャーレ底部から剥離した。
【0028】
この水不溶性DNAフィルムは、50日の長期にわたって水中に浸漬しても水に不溶性であるので、水中では安定であった。この紫外線照射により得られた水不溶性のDNAは、100℃の沸騰水中では約15分間で溶解した。この溶解した試料を水に希釈して、濃度0.1μg/10μLの溶液にした後、アガロースゲル電気泳動法(和科盛(製)、移動相 TAE buffer,分析温度30℃、移動距離 12cm)で分析すると、移動
が認められず、非常に分子量の高い超巨大化合物であることを示していた。なお、水不溶性DNAの常温における水抽出液(反応ろ液)中にも、アガロースゲル電気泳動法で移動が認められない非常に分子量の高い化合物を混在を確認している。
【0029】
常温(25℃)における水不溶性と測定できない程度の高い分子量を合わせて考察するとこの水不溶性DNAは、多数のDNAの架橋反応により生成したDNA架橋重合体である。
【0030】
実施例2.上記の水不溶性DNAフィルム (フィルム状のDNA架橋重合体)による挿
入剤(intercalating agent)の集積及び除去
実施例1で得られた水不溶性DNAフィルム1mg(面積約1cm2 )を、下記の挿入剤を下記の濃度で含有する水10mLに浸漬し、水中の濃度をUV−VS分光吸光度により所定の経過時間に測定して、追跡した:臭化エチジウム、4ppm;ベンゾ[a]ピレン、10ppb;ジベンゾ−p−ジオキサン、10ppb;ジベンゾフラン、10ppb;ビフェニル、10ppb。例えば臭化エチジウムの場合は、該化合物の極大吸光波長4
80nmにおける吸光度が時間経過と共に減少し、24時間で完全に消失した。同様のことが、他の挿入剤についても観察された。
【0031】
実施例3.紫外線照射によるセルロース繊維不織繊維上へのDNAの固定化
100mgのセルロース繊維不織布(布の厚み0.15mm)を、実施例1で使用したDNA3mgを水1mLに溶解した溶液に含浸した。含浸した上記不織セルロース繊維を風乾し、実施例1と同様にして所定時間にわたり紫外線照射した。その後、約20℃の水で十分に洗浄して固定されていないDNAを除去し、乾燥した。不織セルロース繊維上に固定化されたDNAの量は紫外線照射の時間と共に概ね増加し、照射15分後には一定値に到達していた。不織セルロース繊維1gへ固定化されたDNAの最大量は約20mgであった(最大量の測定法:100℃、1N HClで1hr加熱、室温に冷後、260n
mの吸光度で測定した)。
【0032】
実施例4.実施例3で得られたDNA固定セルロース繊維不織布へのAg+ の吸着とAg+ 吸着不織布の殺菌活性
実施例3で得られたDNA固定セルロース繊維不織布30mg(DNA含有量20mg/布1g)を、10mMの硝酸銀を含有する水溶液に1時間浸漬する。
次いで、硝酸銀水溶液からDNA固定不織布を取り出し、水で洗浄した後、室温で乾燥する。十分に洗浄した後のDNA固定不織布に吸着されたAg+ の量は、使用される硝酸銀の量に依存し、硝酸銀の量の量が多いと吸着量も概ね多くなる。DNA固定不織布1gへ吸着されたAg+ の量は最大量は5mgであった。
【0033】
Ag+ 含有−DNA固定不織布は、Escherichia coli Staphylococcus aureus 等の細菌に対して顕著な生長阻害性を示した。この布は、抗菌材料として広く使用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
支持体上の水溶性DNAもしくは水溶性RNAの薄層又は水溶性DNAもしく水溶性RNAの水溶液又はその液膜に、波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射すると、該DNAもしくはRNAは水に不溶性の超巨大分子の架橋体に変化する。同様にして、例えばセルロース繊維不織布を浸漬した水溶性DNAの水溶液に波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することによる、該DNAの水不溶性架橋重合体により被覆されたセルロース繊維不織布が形成される。更に、同様にして、水溶性DNAにより被覆されたガラスピーズに同様の紫外線を照射すると水不溶性のDNA架橋重合体が表面に固定された。このDNAが二本鎖DNAである場合の架橋体はDNAへの挿入剤またはDNAへの挿入剤である環境ホルモン類を水中又は気体中の極めて低い濃度の状態でも極めて収率高く吸着する。同様に有毒金属例えばHgイオンも水に対して固定的に吸着する。従って、この架橋体は、環境ホルモンと有害金属を集積・除去する環境浄化材料として有用である。具体的には、生物体内外の挿入剤を集積・除去するための、空気、水、飲料水、飲料食品の濾過材、又はヒトを含む哺乳動物の消化管内の清浄剤即ち医薬、獣医薬または食品に含まれる有効成分として使用することが可能である。一本鎖のDNA又はRNAの架橋体は、有害金属を固定するので環境浄化材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化エチジウム、ベンゾ[a]ピレン、ジベンゾ−p−ジオキサン、ジベンゾフラン及びビフェニルより選択される1種以上の化合物を含む液体又は気体から該1種以上の化合物
を集積又は除去することのできる濾過材又は吸着剤であって、且つ、支持体上の水溶性二本鎖DNAの水溶液もしくはその液膜、又は支持体上の水溶性二本鎖DNAの薄層又は支持体上の水溶性二本鎖DNAの水溶液の液膜の濃縮乃至乾涸により得られた薄層に、波長が250〜270nmの範囲の紫外線を照射することにより、支持体上に固定された水溶性DNAの水不溶性架橋重合体を含む濾過材又は吸着剤。
【請求項2】
水溶性DNAの水溶液の液膜の厚みが0.1mm〜10mm、又は水溶性二本鎖DNAの溶液の濃縮乃至乾涸により得られた薄層の厚みが0.01〜1mmである、請求項1記載の濾過材又は吸着剤。
【請求項3】
DNAが魚類の白子(精巣)又は哺乳動物もしくは鳥類の胸腺から得られる二本鎖DNAである請求項1又は2記載の濾過材又は吸着剤。
【請求項4】
支持体が合成樹脂、ガラス、セラミックス、金属、及び天然繊維より選択される支持体である、請求項1記載の濾過材又は吸着剤。
【請求項5】
濾過材又は吸着剤が、タバコのフィルター、空気浄化器の気体濾過材及び液体濾過材のいずれかに使用することのできる濾過材又は吸着剤である、請求項1乃至4いずれかに記載の濾過材又は吸着剤。

【公開番号】特開2008−169210(P2008−169210A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−793(P2008−793)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【分割の表示】特願平11−255733の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(598043054)日生バイオ株式会社 (21)
【Fターム(参考)】