説明

紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、記録物、及びインクジェット記録方法

【課題】硬化性、保存安定性、視認性、及び耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を提供する。
【解決手段】重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物であって、前記重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上を、該インク組成物の総質量に対し、0.1〜1質量%含有し、被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材に記録するために用いられ、かつ、該パッケージ基材又は該半導体基材に付着し、硬化し、150℃以上で加熱処理されるものである、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、記録物、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。
【0003】
近年、耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などの良好な画像を被記録媒体の表面に形成するため、インクジェット方式の記録方法において、紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化型インクジェット用インク組成物が使用されている。
【0004】
一方で、近年、半導体チップ(集積回路(IC)チップ)等をパッケージしてなる電子部品(ICパッケージ)が様々な機器に使用されており、そのような電子部品には文字、記号、ロゴマーク等を印刷するマーキングを施すのが通常である。そのため、電子部品に適したマーキングを施す印刷技術が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、電子部品に対しインクジェット方式で付着させたインクに紫外線を照射して、当該電子部品上にインクを定着させるというマーキング方法が開示されている。特許文献2には、ベアチップを多数個取りする基板の周縁部の捨て基板部に、インクジェット方式でロット番号等を印字するというマーキング方法が開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、二酸化チタンを含むインクが最大インク膜厚10〜30μmで硬化するように、照射される紫外線の積算光量及び照度を特定範囲にした、プリント配線板製造におけるインクジェット記録方法が開示されている。特許文献4には、インクジェットプリンターから、着色剤、光重合開始剤、及びエポキシ試薬を含有する紫外線硬化性インクをプリント回路基板上に噴射してマーキングを提供する工程と、当該マーキングを少なくとも2秒間後に紫外線に暴露する工程と、を含む、インクジェット印刷方法が開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献5には、ICパッケージ上にコーティングを行い、その上にマーキングを施したモールドICパッケージが開示されている。特許文献6には、複数のICチップを有するウエハーのうち、不良ICチップの箇所のみにマーキングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−274335号公報
【特許文献2】特開2000−332376号公報
【特許文献3】特開2006−21479号公報
【特許文献4】特表2007−527459号公報
【特許文献5】実用新案登録第2539839号明細書
【特許文献6】特開2003−273172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された技術はいずれも、インクの硬化性及び保存安定性、記録された画像の視認性、並びに硬化物の耐擦性のうち少なくともいずれか一つに劣るか又は改善の余地がある。そのため、従来のマーキング方法は、精密な電子部品に適用し難いという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、硬化性、保存安定性、視認性、及び耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物、並びにこれを用いた記録物及びインクジェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。従来のマーキング方法により精密な電子部品にマーキングを施した場合、電子部品に記録されたインクの硬化物は、特に耐擦性に劣るため実用に耐え得ない。
【0012】
このような状況の下で、硬化するインク組成物中の重合禁止剤の種類及び含有量を所定のものとし、かつ、上記の硬化物をさらに高温で加熱処理したところ、耐擦性が極めて優れたものとなり、実用に十分耐えられる電子部品へのマーキング方法が得られることを本発明者らは知見した。
【0013】
このようにして、重合性化合物と、光重合開始剤と、所定の種類及び所定の含有量である重合禁止剤を含み、硬化された後に所定条件で加熱処理されてなる紫外線硬化型インクジェット用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)が、電子部品のパッケージ基材又は半導体基材に好適に記録(マーキング)することができ、かつ、インクの硬化性及び保存安定性、記録された画像の視認性、並びに硬化物の耐擦性のいずれにも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物であって、前記重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上を、該インク組成物の総質量に対し、0.1〜1質量%含有し、被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材に記録するために用いられ、かつ、該パッケージ基材又は該半導体基材に付着し、硬化し、150℃以上で加熱処理されるものである、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[2]
20℃における粘度が10〜25mPa・sである、[1]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[3]
文字サイズが0.6mm以下であるパターンの記録に用いられる、[1]又は[2]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[4]
前記重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含み、前記N−ビニルカプロラクタムの含有量が、該インク組成物の総質量に対し、5〜15質量%である、[1]〜[3]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[5]
前記重合性化合物はペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートを含み、
前記ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートの含有量が、該インク組成物の総質量に対し、5〜20質量%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[6]
被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材と、該パッケージ基材又は該半導体基材に記録された[1]〜[5]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物の硬化物と、を備える、記録物。
[7]
360〜420nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線を照射して、該インク組成物を硬化可能である、[1]〜[6]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
[8]
紫外線硬化型インクジェット用インク組成物をパッケージ基材又は半導体基材に付着する付着工程と、付着された該インク組成物に、紫外線を照射して、該インク組成物を硬化する硬化工程と、硬化されて得られる硬化物を150℃以上で加熱する加熱工程と、
を含むインクジェット記録方法であって、前記紫外線硬化型インクジェット用インク組成物が、重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含み、前記重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上を該インク組成物の総質量に対し、0.1〜1質量%含有するものである、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本明細書において、「パッケージ基材」とは、半導体チップ等を封入する保護基材を意味する。「半導体基材」とは、半導体チップ等であって直接基材にもなるウエハーを含む意味である。以下では、パッケージ基材又は半導体基材を「パッケージ基材等」ともいう。また、「記録物」とは、基材上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。なお、本明細書における硬化物は、硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質を意味する。
【0017】
本明細書において、「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。「耐擦性」とは、硬化物を引っ掻いた時に、硬化物がパッケージ基材等から剥がれにくい性質をいう。「保存安定性」とは、保存前後における粘度が変化しにくい性質をいう。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。
【0018】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0019】
本明細書において、「文字サイズ」は、文字における最大の長さを意味する。本明細書において、この文字サイズは、JISZ8305−1962(一般の印刷に用いる活字の基準寸法)に従い測定し、活字の大きさ及び幅のうち長い方の数値を採用するものとする。
【0020】
[紫外線硬化型インクジェット用インク組成物]
本発明の一実施形態は、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物に係る。当該インク組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、所定の種類及びその種類が所定量である重合禁止剤と、を含む。また、上記インク組成物は、硬化された後所定の温度条件で加熱処理が施されてなるものである。さらに、上記インク組成物は、被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材に記録するという用途に適するという特徴を有する。
【0021】
以下、本実施形態のインク組成物に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0022】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に含まれる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0023】
(N−ビニルカプロラクタム)
本実施形態における重合性化合物は、N−ビニルカプロラクタムを含有することが好ましい。インク組成物が重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムを含有することにより、インクの硬化性及び保存安定性、並びに硬化物の耐擦性をより良好なものとすることができる。
【0024】
N−ビニルカプロラクタムの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜15質量%であることが好ましく、7〜15質量%であることがより好ましい。N−ビニルカプロラクタムの含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性及び保存安定性、並びに硬化物の耐擦性により優れたものとなる。
【0025】
(ペンタエリスリトール骨格を有する化合物)
本実施形態における重合性化合物は、ペンタエリスリトール骨格(C(CH2O−)4)を有する化合物を一種以上含有することが好ましい。
インク組成物が重合性化合物としてペンタエリスリトール骨格を有する化合物を含有することにより、特に硬化したインクにおける耐擦性をより良好なものとすることができる。
【0026】
ペンタエリスリトール骨格を有する化合物として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル及びペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等のオキセタン化合物、並びにこれらのエチレンオキサイド(EO)付加物及びプロピレンオキサイド(PO)付加物のうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0027】
これらの中でも、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートがより好ましい。ペンタエリスリトール骨格を有する多官能(メタ)アクリレートの中でも、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びペンタエリスリトールテトラアクリレートのうち少なくともいずれかがより好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレートがさらに好ましい。上記の場合、インクの粘度が低下し、かつ、インクにおける架橋密度が増大する。
【0028】
上記のペンタエリスリトール骨格を有する化合物は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜20質量%含まれることが好ましく、10〜20質量%含まれることがより好ましい。ペンタエリスリトール骨格を有する化合物の含有量が上記範囲内であると、記録された画像の視認性及び硬化したインクにおける耐擦性により優れたものとなる。
【0029】
(分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物)
本実施形態のインク組成物は、下記一般式(I)で表される化合物(以下、「モノマーA」という。)を含んでもよい。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0030】
上記モノマーAは、分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物であり、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と換言することができる。
インク組成物がモノマーAを含有することにより、インクの硬化性などをより良好なものとすることができる。
【0031】
上記の一般式(I)において、R2で表される2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキレン基、構造中にエーテル結合及びエステル結合の少なくとも一方による酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0032】
上記の一般式(I)において、R3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0033】
上記の有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0034】
上記の一般式(I)で表されるモノマーAの具体例としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0035】
上記したものの中でも、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0036】
これらの中でも、低粘度で、引火点が高く、かつ、硬化性により優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが好ましく、さらに、臭気が低く、皮膚への刺激を抑えることができ、かつ、反応性及び密着性に優れるため、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。
【0038】
モノマーAは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
モノマーAの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、20〜50質量%であることが好ましい。モノマーAの含有量が上記範囲内であると、硬化したインクにおける耐擦性などをより良好なものとすることができる。
【0040】
上記一般式(I)で表されるモノマーAの製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステル類と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とアルキルビニルエーテル類とをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0041】
(上記以外の重合性化合物)
上記以外の重合性化合物(以下、「その他の重合性化合物」という。)としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0042】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニルカプロラクタム以外のN−ビニル化合物を含んでいてもよい。そのようなN−ビニル化合物として、例えば、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、及びアクリロイルモルホリン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0043】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましく、2官能以上である多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、多官能のアクリレートがさらに好ましい。
【0044】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、粘度及び臭気を低減させるため、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
【0045】
上記(メタ)アクリレートのうち、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等のトリペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、及びテトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等のテトラペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ペンタペンタエリスリトールウンデカ(メタ)アクリレート及びペンタペンタエリスリトールドデカ(メタ)アクリレート等のペンタペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、並びにこれらのエチレンオキサイド(EO)付加物及びプロピレンオキサイド(PO)付加物のうち少なくともいずれか等、3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
これらの中でも、硬化したインクにおける耐擦性をより良好にすることができるため、ジペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ペンタペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、及びポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0047】
上記その他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物に含まれる光重合開始剤は、安全性に優れ、且つ光源にかかるコストを抑えることができるため、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて画像を形成するために用いられる。光重合開始剤としては、光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0049】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、特にインクの硬化性をより良好にすることができるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかが好ましく、アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物がより好ましい。
【0051】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0052】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambson社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0053】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
光重合開始剤は、放射線硬化速度を十分に発揮させ、且つ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜20質量%含まれることが好ましい。
【0055】
〔重合禁止剤〕
本実施形態のインク組成物に含まれる重合禁止剤は、フェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち少なくともいずれかを含有する。これにより、硬化前における重合性化合物の重合反応を抑えることができることに加えて、インクの保存安定性及び硬化物の耐擦性に優れたものとなる。
【0056】
上記フェノール系重合禁止剤として、以下に限定されないが、例えば、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、ジ−t−ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、及び4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)が挙げられる。
【0057】
上記のフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち、インクの保存安定性及び硬化物の耐擦性を一層優れたものとするため、フェノール系重合禁止剤が好ましい。また、このフェノール系重合禁止剤の中でも、p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)からなる群より選択される一種以上がより好ましい。
【0058】
上記のフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンの市販品としては、例えば、p−メトキシフェノール(関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製商品名、p−メトキシフェノール)、ノンフレックスMBP(精工化学社(Seiko Chemical Co,.Ltd.)製商品名、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール))、BHTスワノックス(精工化学社製商品名、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)、フェノチアジン(精工化学社製商品名、フェノチアジン)が挙げられる。
【0059】
重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
重合禁止剤としてのフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.1〜1質量%であり、0.15〜0.4質量%であることが好ましい。含有量が0.1質量%以上であると、使用に耐え得るものとなり、インクの保存安定性が優れたものとなることに加えて、後述のように、硬化後の高温での加熱で硬化物が受け得るダメージを重合禁止剤が防止することができると推測されるため、硬化物の耐擦性をも一層優れたものとすることができる。また、含有量が1質量%以下であると、インクの硬化性及び記録された画像の視認性を一層優れたものとすることができる。
【0061】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材を含んでもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0062】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を良好なものとすることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0063】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0064】
上記無機顔料の中でも、好ましい白色を呈するため、酸化チタンが好ましい。
【0065】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0066】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとして、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0067】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0068】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0069】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0070】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60が挙げられる。
【0071】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0072】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜250nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インク組成物における吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0074】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0075】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
色材の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1〜20質量%であることが好ましい。
【0077】
特に、色材のうち酸化チタンの含有量は、黒地基材上での隠蔽性確保のため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、12〜18質量%であることが好ましく、14〜16質量%であることがより好ましい。
【0078】
〔分散剤〕
本実施形態のインク組成物が顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、ノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 36000等)、BYK社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0079】
〔界面活性剤〕
本実施形態のインク組成物は、硬化したインクにおける耐擦性をより良好にすることができるため、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、BYK社製商品名)を挙げることができる。
【0080】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0081】
〔インク組成物の物性〕
本実施形態のインク組成物の20℃での粘度を、10〜25mPa・s以下とするのが好ましく、15〜20mPa・sとするのがより好ましい。粘度が上記範囲内であると、インクの吐出安定性が良好なものとなる。
【0082】
[被記録媒体]
本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物は、後述するインクジェット記録方法を利用して、被記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この被記録媒体としては、パッケージ基材又は半導体基材が好ましい。すなわち、上記インク組成物は、被記録媒体としてのパッケージ基材等に記録するという用途に適している。なぜなら、パッケージ基材等にマーキングする際に用いられるインクには、優れた硬化性及び保存安定性が求められる上、当該インクを硬化することで得られる硬化物には、優れた視認性及び耐擦性が求められるからである。
なお、上記で定義したように、パッケージ基材は、半導体チップ等を封入する保護基材を意味し、半導体基材は、半導体チップ等であって直接基材にもなるウエハーも含む意味である。そして、上記の半導体チップ等を封入して製造されたものが電子部品(ICパッケージ)となる。この電子部品を一以上集積して構成されたものが電子機器となる。
【0083】
パッケージ基材の規格としては、例えば、PGA(Pin Grid Array)、DIP(Dual Inline Package)、SIP(Single Inline Package)、ZIP(Zigzag Inline Package)、DO(Diode Outline)パッケージ、及びTO(Transistor Outline)パッケージ等の挿入形パッケージ、並びにP−BGA(Plastic Ball grid array)、T−BGA(Tape Ball grid array)、F−BGA(Fine Pitch Ball grid array)、SOJ(Small Outline J−leaded)、TSOP(Thin Small Outline Package)、SON(Small Outline Non−lead)、QFP(Quad Flat Package)、CFP(Ceramic Flat Package)、SOT(Small Outline Transistor)、PLCC(Plastic leaded chip carrier)、LGA(Land grid array)、LLCC(Lead less chip carrier)、TCP(Tape carrier package)、LLP(Leadless Leadframe Package)、及びDFN(Dual Flatpack Non−lead)等の表面実装形パッケージが挙げられる。
【0084】
パッケージ基材の市販品として、例えば、東芝セミコンダクター社(Toshiba Semi-Conductor Co., Ltd.)製の汎用ロジックICパッケージ(SOP14−P−300−1.27A)、ルネサスエレクトロニクス社(Renesas Electronics Corporation)製の表面実装型パッケージ(UPA2350B1G)、シャープ社(Sharp Corporation)製の面実装型パッケージ(P−LFBGA048−0606)、及びローム社(ROHM Co., Ltd.)製のシリアルEEPROM(BR24L01A)が挙げられる。
【0085】
パッケージ基材の材質としては、電子部品本体へのインクの浸透を防ぐため、非吸収性材質が挙げられる。この非吸収性材質の具体例としては、以下に限定されないが、金、銀、銅、アルミニウム、鉄−ニッケル系合金、ステンレス、及び真鋳などの金属、並びに半導体(例えばシリコン)、炭化物、窒化物(例えば窒化珪素)、及びホウ化物などの無機物質、並びにシリコン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、及びポリメチルメタアクリレート(PMMA)等の有機物質が挙げられる。
【0086】
中でも、硬化物の視認性及び耐擦性に優れるため、パッケージ基材としては、シリコン又はエポキシ樹脂がより好ましい。このように、シリコン又はエポキシ樹脂からなるパッケージ基材を電子部品の封止材として用いることで、パッケージ基材の外面に、上記実施形態のインク組成物を好適に記録(マーキング)することができる。
【0087】
一方、半導体基材(ウエハー)の市販品として、例えば、信越化学工業社(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)製の300mmシリコンウエハー、SUMCO社製のSOIウエハー、及びコバレントマテリアル社(Covalent Materials Corporation)製のポリッシュトウエハーが挙げられる。
【0088】
半導体基材の材質としては、例えばシリコン、ゲルマニウム、及びセレンが挙げられる。中でも、最も多く使用され、硬化物の視認性及び耐擦性に優れ、かつ、半導体材料として極めて安定しているため、シリコンが好ましい。
【0089】
なお、上記電子機器として、例えば、USBメモリ、メモリーカード、SDメモリーカード、メモリースティック、スマートメディア、xDピクチャーカード、及びコンパクトフラッシュ(登録商標)等のフラッシュメモリーカードが挙げられる。
【0090】
ここで、パッケージ基材等へのマーキング方法を説明する。
【0091】
まず、半導体基材としてウエハー上にマーキングする場合、ダイシング(dicing)前のウエハー上にマーキングしてもよいし、あるいはウエハー上に回路を形成した後、チップ状にダイシングした半導体チップ上にマーキングしてもよい。後者の場合、IC(集積回路)が形成されたシリコンウエハーは、回路形成工程中、ウエハー表面に酸化ケイ素膜を形成するのが一般的である。酸化ケイ素膜を形成する方法として、例えば、厚さの制御に優れた方法の一つである高周波スパッタリング法が挙げられる。この方法を利用して、ターゲット材料である二酸化ケイ素をシリコンウエハー上にスパッタリングすることができる。
【0092】
次に、パッケージ基材へマーキングする場合、半導体チップを封入後のパッケージ基材上にマーキングしてもよく、半導体チップの封入前のパッケージ基材上にマーキングしてもよい。
【0093】
電子部品は、半導体チップのパッドとリードフレームとをボンディングし、チップ全体を封止剤と共にパッケージ基材に封入することにより作製する。当該封止剤として、以下に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリコ−ン樹脂が挙げられる。このようにして作製された電子部品上(外面)にマーキングを行うことができる。
【0094】
なお、当該インク組成物を非吸収性の被記録媒体に適用した場合、紫外線を照射した後に乾燥工程を設けること等が必要となり得る。
【0095】
このように、本実施形態によれば、硬化性、保存安定性、視認性、及び耐擦性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を提供することができる。
なお、本実施形態のインク組成物は、硬化後所定の温度条件で加熱処理が施されることも相俟って、上記のような優れた効果を発揮する。この加熱処理については、後述のインクジェット記録方法の項で詳細に説明する。
【0096】
[記録物]
本発明の一実施形態は、記録物に係る。当該記録物は、上記実施形態のインク組成物が、被記録媒体としてのパッケージ基材等に記録されたものであり、パッケージ基材等と、そのパッケージ基材等に記録された上記インク組成物の硬化物とを備える。上記記録物は、インク組成物の硬化性及び保存安定性に優れると共に、パッケージ基材等上に付着し硬化したインク組成物(硬化物)の視認性に優れ、かつ、当該硬化物が耐擦性に優れるという特徴を有する。
【0097】
このように、本実施形態によれば、硬化性及び保存安定性に優れる紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を用いた、記録された画像の視認性及び硬化物の耐擦性に優れる記録物を提供することができる。
【0098】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、上記実施形態のインク組成物をパッケージ基材等(被記録媒体)上に吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されて付着したインク組成物に、所定範囲に発光ピーク波長を有する紫外線を照射して、当該インク組成物を硬化する硬化工程と、硬化されて得られる硬化物を150℃以上で加熱する加熱工程と、を含むものである。このようにして、パッケージ基材等上で紫外線照射及び加熱処理が施されたインク組成物から、硬化物が形成される。以下、上記の各工程を詳細に説明する。
【0099】
〔吐出工程〕
まず、吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インク組成物の吐出の際は、インク組成物の粘度を、上記のとおり、10〜25mPa・sとするのが好ましい。インク組成物の粘度が、インク組成物の温度を室温として、あるいは、インク組成物を加熱しない状態として上記のものであれば、インク組成物の温度を室温として、あるいはインク組成物を加熱せずに吐出させればよい。一方、インク組成物を所定の温度に加熱することによって粘度を好ましいものとして吐出させてもよい。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0100】
〔硬化工程〕
次に、硬化工程においては、パッケージ基材等上に吐出されて付着したインク組成物が、紫外線の照射によって硬化する。
具体的には、紫外線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0101】
紫外線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、放射線硬化型インクジェット用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザーダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、放射線硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0102】
ここで、上記実施形態のインク組成物は、360〜420nmの範囲、好ましくは365〜395nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線を照射することにより硬化可能である。また、照射エネルギーは、500mJ/cm2以下が好ましい。
【0103】
上記の場合、上記実施形態のインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。上記実施形態のインク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合、記録速度が増大する。他方、上記実施形態のインク組成物の組成によって照射強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の紫外線照射にUV−LEDを用いることが好適であることを本発明者らは見出したのである。このようなインク組成物は、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤を含むことにより得られ、上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物を含むと、より低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。なお、発光ピーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネルギーとする。
【0104】
〔加熱工程〕
次に、加熱工程においては、上記硬化工程を通じてインク組成物が硬化されて得られる硬化物に、加熱処理を施す。この加熱処理を行うことにより、硬化反応の際に光重合開始剤が開裂して低分子量化したもの及び未反応の重合性化合物など、低分子成分をインクの硬化物から揮発させることができる。その結果、硬化物の耐擦性を一層良好なものとすることができる。
【0105】
上記加熱処理における加熱温度は、150℃以上であり、150〜190℃であることが好ましい。加熱温度が150℃以上であると、耐擦性を優れたものとすることができる。
【0106】
このように、本実施形態によれば、硬化性及び保存安定性、記録された画像の視認性、並びに硬化物の耐擦性のいずれにも優れる紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
[使用原料]
下記の実施例及び比較例において使用した原料は、以下の通りである。
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、表1では819と略記した。)
・DAROCURE TPO(BASF社製商品名、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、表1ではTPOと略記した。)
〔顔料〕
・Tipaque(登録商標) CR−60−2(石原産業社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)製商品名、酸化チタン、平均粒径0.21μm、表1では酸化Tiと略記した。)
〔分散剤〕
・Solsperse 36000(Noveon社製商品名)
〔重合禁止剤〕
・p−メトキシフェノール(関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製商品名、表1ではMEHQと略記した。)
・ノンフレックスMBP(精工化学社(Seiko Chemical Co,.Ltd.)製商品名、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、表1ではMBPと略記した。)
・BHTスワノックス(精工化学社製商品名、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、表1ではBHTと略記した。)
・フェノチアジン(精工化学社製商品名)
・FA−711MM(日立化成社(Hitachi Chemical Co., Ltd.)製商品名、ペンタメチルピペリジルメタクリレート)
〔界面活性剤〕
・BYK−UV3500(ビックケミー(BYK-Chemie)社製商品名、ポリシロキサン、両末端、表1ではBYK3500と略記した。)
〔重合性化合物〕
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、表1ではVEEAと略記した。)
・V−CAP(N−ビニルカプロラクタム、ISP社製商品名、表1ではNVCと略記した。)
・ビスコート#192(フェノキシエチルアクリレート、大阪有機化学工業社製商品名、表1ではPEAと略記した。)
・SR−444(ペンタエリスリトールトリアクリレート、サートマー社(Sartomer Co.)製商品名、表1ではPETAと略記した。)
【0109】
〔基材〕
・基材1(パッケージ基材):エポキシ樹脂面(シャープ社製、面実装型パッケージ、型番「P−LFBGA048−0606」)
・基材2(半導体基材):シリコン面(SUMCO社製、SOIウエハー)
・基材3(その他の基材):ルミラー(登録商標)E20#125(東レ社(Toray Industries, Inc.)製商品名、二軸延伸ポリエステル(PET)フィルム、白色グレード、厚み125μm)
・基材4(その他の基材):バイロフレックス(登録商標)(東洋紡績(TOYOBO CO.LTD.)社製商品名、2層フレキシブル銅張積層板(銅表面))
なお、上記の基材2は、回路形成して半導体チップにダイシングしたものを使用した。回路形成の際、ウエハー表面の酸化ケイ素層の厚さを50nmとした。
【0110】
[例1〜15]
〔顔料分散液の作製〕
インク組成物の作製に先立ち、顔料分散液を作製した。上記の顔料を60質量%、分散剤を5質量%、重合性化合物としてのVEEAを35質量%の割合で、それぞれ混合し、1時間スターラーで撹拌した。撹拌後の混合液をビーズミルで分散し、顔料分散液を得た。なお、分散条件は、直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間を2〜4時間とした。
【0111】
〔インク組成物の作製〕
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し(表1中、顔料とVEEAの一部とは上記顔料分散液として添加)、これを常温で1時間混合撹拌して完全に溶解させた。これを、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過して、各紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を得た。
【0112】
なお、表1中、顔料分散液における分散剤は、固形分である顔料及びVEEAの含有量に基づきその組成を算出できるため、記載していない。また、インク組成では、例1〜11が実施例に相当し、例12〜15が比較例に相当する。
【0113】
【表1】

【0114】
[測定・評価項目]
上記の例1〜15で調製した紫外線硬化型インクジェット用インク組成物について、以下の方法により粘度、硬化性、保存安定性、視認性、及び耐擦性を評価した。
【0115】
〔粘度〕
各インク組成物の粘度を、E型粘度計(東機産業社(TOKI SANGYO CO.,LTD.)製)を用いて、温度20℃、回転数10rpmの条件下で測定した。測定結果を下記表2に示す。
【0116】
〔硬化性〕
インクジェットプリンター PX−G5000(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製商品名)を用いて、上記の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物をそれぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下で、基材1上に、記録解像度720dpi×720dpi及び液滴重量7ngの条件で、ベタパターン画像を印刷した。なお、このベタパターン画像は、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像である。
上記の印刷と共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから、照射強度が400mW/cm2であり、且つ波長が395nmである紫外線を600mJ/cm2照射してベタパターン画像を硬化させた。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなった時点で硬化したものと判断した。
【0117】
評価は、硬化の際に要した紫外線の照射エネルギーを算出することにより行った。照射エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて行った。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を下記表2に示す。
◎:300mJ/cm2未満、
○:300mJ/cm2以上500mJ/cm2未満、
×:500mJ/cm2以上。
【0118】
〔保存安定性〕
30mL容のガラス瓶に上記の各インク組成物を24mLずつ投入し、50℃で14日間、遮光しながら放置した。放置前のインク粘度に対する放置後のインク粘度を測定することで、放置前後におけるインクの増粘率を算出し、これによりインクの保存安定性を評価した。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を下記表2に示す。
◎:10%未満、
○:10%以上20%未満、
×:20%以上。
【0119】
〔視認性〕
インクジェットプリンター PX−G5000(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製商品名)を用いて、上記の各インク組成物をそれぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下で、上記基材1〜4上に、記録解像度720dpi×720dpi及び液滴重量7ngの条件で、様々な大きさの文字「A」を印刷した。
この印刷と共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから、照射強度が400mW/cm2であり、且つ波長が395nmである紫外線を600mJ/cm2照射して上記の文字パターンを硬化させた。
以上のようにして、基材1〜4上に文字「A」がそれぞれ記録された記録物を作製した。評価は、文字中の△の部分が識別可能かという観点で行った。評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を下記表2に示す。
◎:0.3mm以下の文字サイズを識別可能である。
○:0.3mm以下の文字サイズは識別できないが、0.3mmを超えて0.8mm以下の文字サイズは識別可能である。
×:0.8mm以下の文字サイズは識別できないが、0.8mmより大きな文字サイズは識別可能である。
【0120】
【表2】

【0121】
なお、上記表2中の視認性のうち、例1〜11の基材1及び2に印刷する場合が実施例に相当し、例1〜11の基材3及び4(パッケージ基材、半導体基材のいずれでもない基材)に印刷する場合、並びに例12〜15が比較例に相当する。
【0122】
〔耐擦性〕
ベタパターン画像でなくAという文字画像(文字サイズ0.6mm)を印刷した点以外は、上記硬化性の評価項目と同様の印刷及び硬化、並びに各種条件での加熱処理を、上記基材1〜4について行った。そして、荷重変動型摩擦磨耗試験システム(トライボギアTYPE−HHS2000〔商品名〕、新東科学社製)を用いて硬化膜(塗膜)の剥がれ度合いを確認した。条件は、荷重を150gfに設定し、Φ0.2mmのサファイア針で、加熱処理後の文字画像(ただし、加熱しない系については硬化後の文字画像)を引っ掻き、塗膜の剥がれた程度を確認した。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を下記表3〜5に示す。
◎:塗膜面にキズ、剥離がない。
○:塗膜面に傷がつく。剥離がない。
×:塗膜面に傷がつき、塗膜が剥離する。
【0123】
【表3】

【0124】
なお、上記表3中、硬化後に加熱処理をしていない点で、全ての例が比較例に相当する。
【0125】
【表4】

【0126】
なお、上記表4中、加熱温度の点で、全ての例が比較例に相当する。
【0127】
【表5】

【0128】
なお、上記表5中、例1−3〜例11−3の基材1及び2に印刷する場合が実施例に相当し、例1−3〜11−3の基材3及び4(パッケージ基材、半導体基材のいずれでもない基材)に印刷する場合、並びに例12−3〜例15−3が比較例に相当する。
【0129】
上記表2〜5より、重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含み、前記重合禁止剤がフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち少なくともいずれかを含有し、かつ、上記重合禁止剤の含有量がインク組成物の総質量に対して0.1〜1質量%である紫外線硬化型インクジェット用インク組成物(上記例1〜11)を、パッケージ基材等(上記基材1及び2)上に記録した画像は、硬化性、保存安定性、及び視認性のいずれにも優れることが分かった。これに加えて、当該パッケージ基材等に付着したインクを硬化し150℃以上で加熱処理した(上記表5)画像は、耐擦性に優れることが分かった。
【0130】
重合禁止剤について詳しく考察する。重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち少なくともいずれかを含有するインク組成物(上記例1〜11)は、フェノール系重合禁止剤及びフェノチアジン以外の重合禁止剤を含有するインク組成物(上記例14)に比べて、特に保存安定性に優れることが分かった。
【0131】
重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち少なくともいずれかを含有する場合に、上記重合禁止剤の含有量がインク組成物の総質量に対して0.1〜1質量%の範囲内であるインク組成物(上記例1〜11)は、この範囲を下回るインク組成物(上記例12)と比べて、保存安定性及び耐擦性に優れることが分かった。一方で、上記例1〜11のインク組成物は、上記範囲を上回るインク組成物(上記例13、15)と比べて、硬化性に優れることが分かった。
【0132】
上記のうち、耐擦性について言うと、パッケージ基材等に付着し硬化させたインク組成物を、150℃以上で加熱処理することにより、耐擦性が優れたものとなる(上記表3〜5)。この理由は、150℃以上という高温で加熱した場合、耐擦性が劣化するほど硬化物は大きなダメージを受け得るが、重合禁止剤が硬化物中に存在すると重合禁止剤が上記ダメージを防止するためであると推測される。
【0133】
また、上記の例10及び11とその他の例(特に例6及び7)とより、重合性化合物のうちN−ビニルカプロラクタム(NVC)は150℃加熱時の膜品質を高めるものの、特定の重合禁止剤(所定含有量のフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち少なくともいずれか)の含有量がNVCに対して少なすぎない場合、保存安定性がより良好となり、耐擦性がより高くなる。一方で、上記特定の重合禁止剤の含有量がNVCに対して多すぎない場合、保存安定性及び耐擦性が良好であることに加えて硬化性もより良好となる。したがって、上記例6,7,10,及び11の結果より、上記特定の重合禁止剤との関係上、NVCの含有量に好ましい範囲が存在することも分かった。具体的には、インク組成物中で、重合禁止剤の含有量0.1〜1質量%に対して、NVCの含有量が5〜15質量%という関係である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含む紫外線硬化型インクジェット用インク組成物であって、
前記重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上を、該インク組成物の総質量に対し、0.1〜1質量%含有し、
被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材に記録するために用いられ、かつ、
該パッケージ基材又は該半導体基材に付着し、硬化し、150℃以上で加熱処理されるものである、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項2】
20℃における粘度が10〜25mPa・sである、請求項1に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項3】
文字サイズが0.6mm以下であるパターンの記録に用いられる、請求項1又は2に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項4】
前記重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含み、
前記N−ビニルカプロラクタムの含有量が、該インク組成物の総質量に対し、5〜15質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項5】
前記重合性化合物はペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートを含み、
前記ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートの含有量が、該インク組成物の総質量に対し、5〜20質量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項6】
被記録媒体としてのパッケージ基材又は半導体基材と、該パッケージ基材又は該半導体基材に記録された請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物の硬化物と、を備える、記録物。
【請求項7】
360〜420nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線を照射して、該インク組成物を硬化可能である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク組成物。
【請求項8】
紫外線硬化型インクジェット用インク組成物をパッケージ基材又は半導体基材に付着する付着工程と、
付着された該インク組成物に、紫外線を照射して、該インク組成物を硬化する硬化工程と、
硬化されて得られる硬化物を150℃以上で加熱する加熱工程と、
を含むインクジェット記録方法であって、
前記紫外線硬化型インクジェット用インク組成物が、重合性化合物、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含み、前記重合禁止剤としてフェノール系重合禁止剤及びフェノチアジンのうち一種以上を該インク組成物の総質量に対し、0.1〜1質量%含有するものである、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−144681(P2012−144681A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6274(P2011−6274)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】