説明

紫外線硬化型樹脂の塗布方法および同軸ケーブルの製造方法

【課題】ダイスコーティングによりシールドコアなどの凹凸を有する線状体の外周に紫外線硬化型樹脂を塗布する場合に、気泡による不具合を低減することができ、硬化後の樹脂の除去力を小さくすることのできる紫外線硬化型樹脂の塗布方法および同軸ケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】中心導体11と、中心導体11の外周に配設された内部絶縁体12と、内部絶縁体12の外周に配設された外部導体13とを有するシールドコア15の外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂16を塗布して外被14を形成する際に、紫外線硬化型樹脂16に含まれる添加剤16aを分離して第1層14aとしてシールドコア15の外周に塗布した後、添加剤除去樹脂成分16bを第2層14bとして第1層14aの外周に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状体の外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂を塗布する方法および紫外線硬化型樹脂の外被を有する同軸ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極細径の同軸ケーブルは、超音波診断装置、内視鏡装置のような医療機器や、ノートパソコンのような電子機器や、携帯電話のような通信機器等、幅広い用途に用いられている。この同軸ケーブルは、一般に、中心導体を内部絶縁体で被覆し、その内部絶縁体に複数の導体素線を横巻きして外部導体を設けてシールドコアを形成し、さらにその外部導体を外被で被覆した構造となっている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の同軸ケーブルでは、中心導体の周囲に絶縁塗料を塗布して内部絶縁層を形成するとともに、内部絶縁層の周囲に外部導体を設けてシールドコアを形成し、このシールドコアの外側(すなわち外部導体の外側)にも紫外線硬化型樹脂等の絶縁塗料を塗布して外被を形成している。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−143314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、極細の同軸ケーブルのシールドコアのような、細い線状体に紫外線硬化型樹脂を塗布するには、光ファイバの被覆形成工程で行われているようなダイスコーティングを採用できる。
【0006】
ダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂の被覆を形成する際には、紫外線硬化型樹脂を充填したダイスに、線状体を通過させて紫外線硬化型樹脂を塗布した後、紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる。その際、同軸ケーブルのシールドコアのように外周面に外部導体を構成する導体素線間の溝である凹凸を有する線状体の場合には、表面の凹凸がダイスの樹脂に入る際に、樹脂表面を乱して多数の気泡が発生し、この気泡が樹脂中に取り込まれやすい。紫外線硬化型樹脂が硬化する前に気泡が割れると、被覆の外表面にクレータ状に凹部が形成され、その凹部においては被覆の実質的な厚さが減少する。また、硬化させた樹脂の被覆に気泡が混入していると、被覆がこすれて破れたり、気泡が存在する部分に穴が開き外観不良となる。線状体がシールドコアである場合には、外被を貫通する穴ができれば同軸ケーブルの耐電圧特性が低下してしまう。
【0007】
また、同軸ケーブルの外被に紫外線硬化型樹脂を用いると、外被が外部導体の表面の凹凸や外部導体と内部絶縁体との間まで入り込むため外被と外部導体が強く一体化し、外被を除去するための力が著しく大きくなり、コネクタ付け等の端末処理の作業性が低下してしまう。また、外被を除去した後に外部導体の凹凸に樹脂が残留し易い。
【0008】
本発明の目的は、ダイスコーティングによりシールドコアなどの凹凸を有する線状体の外周に紫外線硬化型樹脂を塗布する場合に、気泡による不具合を低減することができ、硬化後の樹脂の除去力を小さくすることのできる紫外線硬化型樹脂の塗布方法および同軸ケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決することのできる本発明に係る紫外線硬化型樹脂の塗布方法は、表面に凹凸を有する線状体の外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂を塗布する紫外線硬化型樹脂の塗布方法であって、
前記紫外線硬化型樹脂に含まれる添加剤を第1層として前記線状体の外周に塗布した後、
前記紫外線硬化型樹脂のうち前記添加剤を除く残りの成分(以後、「添加剤除去樹脂成分」という。)を第2層として前記第1層の外周に塗布することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る紫外線硬化型樹脂の塗布方法において、前記添加剤が、シリコーン添加剤または高分子量添加剤の少なくとも一方であることが好ましい。
【0011】
また、前記課題を解決することのできる本発明に係る同軸ケーブルの製造方法は、中心導体と、前記中心導体の外周に配設された内部絶縁体と、前記内部絶縁体の外周に複数の導体素線を横巻きして配設された外部導体とを有するシールドコアの外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂を塗布してさらに硬化して外被を形成する同軸ケーブルの製造方法であって、
前記紫外線硬化型樹脂を塗布して外被を形成する工程が、
前記紫外線硬化型樹脂に含まれる添加剤を第1層として前記シールドコアの外周に塗布する工程と、
前記紫外線硬化型樹脂のうち前記添加剤を除く残りの成分(以後、「添加剤除去樹脂成分」という。)を第2層として前記第1層の外周に塗布する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る同軸ケーブルの製造方法において、前記添加剤が、シリコーン添加剤または高分子量添加剤の少なくとも一方であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紫外線硬化型樹脂の塗布方法によれば、表面に凹凸を有するシールドコア等の線状体の外周に、まず紫外線硬化型樹脂に含まれる添加剤を第1層として線状体の外周に塗布することにより、線状体の表面の凹凸が埋められて平滑化される。そのとき、第1層の厚さは最終的な紫外線硬化型樹脂の厚さに比べて大幅に薄く、その中に気泡が取り込まれたとしてもその厚さ以下の小さいものに限られる。次いで、第1層の外周に添加剤除去樹脂成分を第2層として塗布することで、第2層を塗布する時の気泡の発生を抑えることができる。また、第2層は線状体の表面の凹凸に入り込まず、第1層の添加剤は硬化後の第2層に取り込まれるため、硬化後の紫外線硬化型樹脂は線状体に対する一体化が抑えられ、紫外線硬化型樹脂の除去力を小さくすることができる。
したがって、本発明の同軸ケーブルの製造方法により製造した同軸ケーブルは、外被に含まれる気泡が少なくなって薄肉部分が形成されにくくなり、耐電圧特性が良好である。また、従来より小さい力で外被を除去することができるため、コネクタ付け等の端末処理の作業性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る紫外線硬化型樹脂の塗布方法および同軸ケーブルの製造方法の実施形態の例を、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の紫外線硬化型樹脂の塗布方法では、表面に凹凸を有する線状体として、極細径の同軸ケーブルのシールドコアを例示して説明するが、他の線状体に適用することも可能である。また、本実施形態の紫外線硬化型樹脂の塗布方法を用いてシールドコアに紫外線硬化型樹脂の外被を形成して同軸ケーブルを製造することが可能である。
【0015】
本実施形態により紫外線硬化型樹脂の塗布するシールドコアおよびそれにより製造される同軸ケーブルの断面図を図1に示す。
図1に示す同軸ケーブル10は、中心導体11と、この中心導体11の外周に配設された内部絶縁体12と、この内部絶縁体12の外周に配設された外部導体13とから形成されるシールドコア15の外周に紫外線硬化型樹脂の外被14が形成されたものである。同軸ケーブル10は、例えば直径が300μmの極細の同軸ケーブルであり、AWG(American Wire Gauge)の規格で40番よりも細い線である。
【0016】
この同軸ケーブル10は、径方向の断面内の中心に中心導体11を有している。中心導体11は、複数本(ここでは、例えば7本)の直径がおよそ30μm以下の導体素線11aを撚り合わせて、直径がおよそ75μm程度に形成されている。なお、中心導体11としては1本の導体素線からなるものであっても良い。
【0017】
中心導体11の外周には、例えばPFA(ポリテトラフルオロエチレン)を押し出し成型して内部絶縁体12が設けられており、内部絶縁体12の外周面までの直径は、およそ175μmである。内部絶縁体12の外周は、複数本(ここでは、例えば21本)の導体素線13aが横巻きされて構成されている外部導体13によって覆われており、外部導体の外周面は凹凸状となっている。外部導体13の外周面までの直径は、およそ235μmである。このように、中心導体11、内部絶縁体12および外部導体13によってシールドコア15が形成され、シールドコア15の表面(すなわち外部導体13の表面)には凹凸が形成されることになる。
【0018】
さらに、外部導体13の層の外側(すなわち、シールドコア15の外側)は、紫外線硬化型樹脂のダイスコーティングによって形成される外被14により被覆されている。なお、同軸ケーブル10は外径が270μm程度であり、シールドコア15の外径は235μm程度である。
【0019】
次に、本実施形態の同軸ケーブルの製造方法を実施する同軸ケーブルの製造装置について説明する。図2は、同軸ケーブルの製造方法を実施する同軸ケーブルの製造装置を示す概略図であり、この製造装置には、本実施形態の紫外線硬化型樹脂の塗布方法を実施する樹脂塗布装置30が含まれている。
【0020】
この同軸ケーブルの製造装置20では、前記シールドコア15が巻き取られた供給ボビン21を有している。供給ボビン21の下流側には、ガイドローラ22を介して、樹脂塗布装置30が設けられている。この樹脂塗布装置30においては、外被14の第1層14a(図1参照)をダイスコーティングにより形成する第1層用ダイス31と、形成された第1層14aを所定の径に調整するための穴を有するピンホール32と、第1層14aの外側にダイスコーティングにより第2層14b(図1参照)を形成して外被14を形成する第2層用ダイス33が設けられている。
【0021】
第1層用ダイス31には、紫外線硬化型樹脂16に含まれる成分のうち添加剤16aのみが充填されており、第2層用ダイス33には紫外線硬化型樹脂16のうち添加剤16aを除く残りの成分である添加剤除去樹脂成分16bが充填されている。紫外線硬化型樹脂16としては、例えば、ウレタンアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂にエポキシアクリレート樹脂やポリエステルアクリレート樹脂を配合したもの等の樹脂組成物を使用することができる。紫外線硬化型樹脂16は、オリゴマー、モノマー、添加剤、反応開始剤を主に有している。このうち、紫外線硬化型樹脂の骨格形成に寄与するのは、オリゴマー、モノマー、反応開始剤である。添加剤は、主に樹脂にさまざまな機能を持たせたり、物性を調整するために入れられているものであり、その多くは液体であり浸透しやすい。例えば、樹脂の伸び性向上や、金属密着性の調整等のために可塑剤を添加している。
【0022】
第1層14aとして塗布される添加剤16aとしては、シリコーン添加剤または高分子量添加剤を用いることができる。シリコーン添加剤または高分子量添加剤は、紫外線硬化型樹脂を構成する成分のうち膨潤性の高い液体成分であり、可塑剤または滑剤として機能するものである。
【0023】
添加剤16aに用いるシリコーン添加剤として、下記一般式(1)で表される変性ジメチルポリシロキサンを例示できる。
【0024】
【化1】


(式中、Rはエーテル結合又はエステル結合を有する2価の連結基を示す。Xはアクリル基又はメタアクリル基を示す。l、m及びnは、それぞれ1〜100の整数を示す。)
【0025】
また、下式(2)で表される「両末端にビニル基を有する変性ジメチルシロキサン」を含有していても良い。
【0026】
【化2】


(式中、R2はエーテル結合又はエステル結合を有する2価の連結基を示す。X2はアクリロイル基を示す。l2、m2及びn2は、それぞれ1〜100の整数を示す。)
【0027】
以下、式(1)の化合物について説明する。式(1)において、Rはエーテル結合又はエステル結合を有する2価の連結基を示す。このようにジメチルポリシロキサンをポリエーテル変性又はポリエステル変性することにより、モノマーやオリゴマーに対する相溶性が向上する。Rが示すエーテル結合を有する2価の連結基としては、アルキレンオキシド基等が挙げられる。アルキレンオキシド基としては、炭素数1〜6のアルキレンオキシド基が好ましい。エステル結合を有する2価の連結基としては、下式(3)で表わされる連結基等が挙げられる。
【0028】
【化3】


(式中、R31及びR32は、炭素数1〜6の炭化水素基を示す。)
【0029】
また、式(1)において、Xはアクリロイル基又はメタアクリロイル基である。l、m及びnは、それぞれ1〜100の整数を示す。lは1〜20が好ましく、mは1〜15が好ましく、nは10〜90が好ましい。
【0030】
式(1)においては、下記繰り返し単位(4)及び(5)がジメチルポリシロキサン中にランダムに存在してもよいし、ブロックで存在してもよい。
【0031】
【化4】

【0032】
また、式(1)の化合物を合成するには、例えば、下式(6)で表される化合物(ポリメチルハイドロゲンシロキサン・ポリジメチルシロキサンの共重合体)と、下式(7)で表わされるポリエーテル化合物、又は(8)で表わされるポリエステル化合物とを付加反応させることによって行うことができる。
【0033】
【化5】


(式中、R31及びR32は前記と同じ意味を示す。R71及びR81は水素原子又はメチル基である。R72は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【0034】
紫外線硬化型樹脂16における式(1)の化合物の配合量としては、樹脂の全重量に対して8〜20重量%であることが好ましいが、第1層14aとして塗布する量は、これに限られず、外部導体13の表面の凹部を埋めて凹凸を平滑化できる程度の量であれば良い。
【0035】
第2層用ダイス33に充填されている添加剤除去樹脂成分16bは、重合性モノマー及び重合性オリゴマー等の重合性成分、重合開始剤、着色剤等を含有することができる。
添加剤除去樹脂成分16bに用いられるモノマーとしては、ラジカル共重合性モノマーが挙げられ、具体的には、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
また、添加剤除去樹脂成分16bに用いられるオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリオールとポリイソシアネート反応物に対して、さらにヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させた反応物等を利用することができる。ポリエステル(メタ)アクリレートは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物である。エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシアクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノール又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート及びポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
他に、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート又はそのアルキレンオキシド変性体等が挙げられる。
【0037】
添加剤除去樹脂成分16bにおける重合性モノマー又は重合性オリゴマーの配合量は、紫外線硬化型樹脂16の固形分に対して65〜87重量%が好ましい。
【0038】
添加剤除去樹脂成分16bに用いられる光重合開始剤としては、紫外線を照射することにより、ラジカルやイオンを発生して重合を開始させる化合物であればよい。
光重合開始剤としては、例えば、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノンおよびベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジルおよびベンジル誘導体、ベンゾインおよびベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。
着色剤として顔料を使用する場合、光重合開始剤の少なくとも1種が吸収波長が長い光重合開始剤を用いると、特に深部までの硬化により有効である。
【0039】
本実施形態において、光重合開始剤は、少なくとも2種以上の光重合開始剤を組み合わせて使用することが好ましい。異なる2種以上の光重合開始剤を組み合わせて使用する際には、表面硬化性に優れた光重合開始剤(例えば、イルガキュア907(チバガイギー社製))と深部硬化性に優れた光重合開始剤(例えば、イルガキュア369(チバガイギー社製))とを組み合わせて使用することが好ましい。これにより、表層部から深部まで充分に硬化させることができる。
【0040】
添加剤除去樹脂成分16bは、重合性モノマー又は重合性オリゴマー、光重合開始剤、着色剤の他に、添加剤として、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、保存安定剤、可塑剤、溶剤、老化防止剤、濡れ性改良剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0041】
また、図2に示すように、ピンホール32には、内径250μmの穴32aを有しており、第1層用ダイス31によって第1層14aが塗布されたシールドコア15を通すことにより、第1層14aを外径250μmになるよう調整している。
【0042】
さらに、第2層用ダイス33の下流側には、紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂16を硬化させるための例えば紫外線ランプを有する紫外線照射装置23が設けられており、紫外線照射装置23の下流側には、ガイドローラ24、引取装置25、巻取装置26が順次設けられている。
【0043】
図2に示した同軸ケーブルの製造装置20を用いて、表面に凹凸を有する線状体であるシールドコア15の外周に紫外線硬化型樹脂を塗布して、同軸ケーブルを製造する方法について説明する。
まず、予め、中心導体11の外周に内部絶縁体12を設け、内部絶縁体12の外周に外部導体13を設けてシールドコア15を形成し、供給ボビン21に巻き取っておく。そして、供給ボビン21に巻き取られているシールドコア15を、ガイドローラ22を介して樹脂塗布装置30に供給して、外被14の形成を開始する。
【0044】
樹脂塗布装置30では、シールドコア15の外周に、ダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂の外被14を形成する。
その際、まず、第1層14aとして、紫外線硬化型樹脂16に含まれる成分のうち前記添加剤16aのみを第1層用ダイス31によるダイスコーティングによりシールドコア15の外周に塗布し、ピンホール32を通してシールドコア15の外周面を平滑化する。その後、第2層用ダイス33によるダイスコーティングにより、第2層14bとして添加剤16aが除去された添加剤除去樹脂成分16bを塗布する。
【0045】
第1層14aとして添加剤16aを塗布することで、シールドコア15の表面の凹凸が平滑化される。このとき、第1層14aの厚さは最終的な紫外線硬化型樹脂16の厚さに比べて大幅に薄く、その中に取り込まれる気泡はその厚さ以下の小さいものに限られる。つまり、第1層が塗布されるときに気泡が生じたとしても、極小さな気泡だけしかシールドコア15の表面に存在しない。
そして、第2層14bは平滑化された第1層14aの外側に塗布されるため、第2層14bを塗布する時の気泡の発生を抑えることができる。仮に、第1層14aに気泡が混入していても、第2層14bを塗布するまでの距離(すなわち、第1層用ダイス31と第2層用ダイス33との距離)を、粘度および線速に応じて設定することにより、第2層14bの塗布前に破裂させて除去することができる。
【0046】
なお、第1層用ダイス31と第2層用ダイス33との距離が十分に確保できない場合には、ピンホール32を通すことにより、第1層14aに混入する気泡を除去することも可能である。
【0047】
添加剤除去樹脂成分16bを塗布して第2層14bを形成した後、紫外線照射装置23において紫外線を照射して、添加剤除去樹脂成分16bを硬化させる。添加剤除去樹脂成分16bは、第1層14aに塗布された添加剤16aを取り込んで膨潤し、所望の物性を得ることができる。これに伴い、添加剤除去樹脂成分16bはシールドコア15の表面の凹凸に入り込まず、第1層14aの体積が減少してシールドコア15と外被14との間に隙間ができる。また、硬化した外被14とシールドコア15との間に液体の第1層14aが残留しても構わない。このように、硬化後の外被14はシールドコア15に対する一体化が防がれ、シールドコア15に対する外被14の除去力が従来と比較して小さくなる。
また、硬化した外被14には、気泡が殆ど含まれず、また気泡の割れより形成される外表面の凹部も形成されないため、ほぼ均一な厚さの外被14が形成されている。したがって、外被14の薄肉化による同軸ケーブル10の耐電圧特性の低下が生じず、耐電圧特性が良好な同軸ケーブル10を製造することができる。
【実施例】
【0048】
紫外線硬化型樹脂16を構成する成分のうち、上記添加剤16aを第1層14aとして塗布した後に、添加剤除去樹脂成分16bを第2層14bとしてダイスコーティングにより塗布して、外被14を形成した場合(本発明に係る実施例)と、紫外線硬化型樹脂16を構成する成分を一度に塗布して外被14を形成した場合(比較例)において、外被14のヤング率、破断強度、伸び、除去力、気泡の数を調べた。その結果を次の表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
なお、表中、ヤング率、破断強度、伸びの値の測定はシート状に樹脂層を形成した状態で実施した(製膜条件:膜厚200μm、照射量1.0J/cm)。除去力は被覆した同軸ケーブルを使用し、除去長3cmとした。気泡は10μm以上のものをカウントした。また、ここでの添加剤16aは、高分子量添加剤である。
【0051】
樹脂の塗布工程は、添加剤16aを塗布して第1層14aを形成後、ピンホール32(直径250μm)を通過させて、外径を調整する。その後、添加剤除去樹脂成分16bを塗布して第2層14bを形成して、外被14を形成する。同軸ケーブル10は、シールドコア15の外径235μm、外被14の外径(同軸ケーブル外径)は270μmとした。第1層の厚さをなるべく均一にするには、ピンホールの直径よりも大きめの外径となるように第1層を塗布して、ピンホールで第1層を少し取り去るのがよい。
【0052】
実施例と比較例を比較すると、外被14に含まれる気泡の数においては、従来の塗布の場合(比較例)の値に比べて、添加剤16aを分離して塗布した場合(実施例)には大幅に減少していることがわかる。これは、第1層14aを添加剤16aで形成することにより、シールドコア15の外周面の凹凸を平滑化するため、第2層14bを形成する際に気泡が極めて生じにくいためである。
【0053】
また、外被除去力においても大幅に低減化していることがわかる。これは、第1層14aである添加剤16aが第2層16bに移行して、添加剤16aを除去した紫外線硬化型樹脂16bと反応する結果、第1層14aに空間ができる。また、このとき添加剤16aの全部が移行するわけではないため、第1層14aに添加剤16aが硬化せずに残る。このため、外被14(主に第1層14a)と外部導体13との密着が弱くなり、外被除去力が低下して、外被除去性が向上すると考えられる。
【0054】
また、実施例において形成された外被14の物性(ヤング率、破断強度、伸び)は、比較例と近い値を示しており、添加剤とその他の成分を分離して塗布しても、硬化後の樹脂の物性には殆ど影響のないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る紫外線硬化型樹脂の塗布方法に使用されるシールドコア、および本発明に係る同軸ケーブルの製造方法により製造される同軸ケーブルの断面図である。
【図2】本発明に係る紫外線硬化型樹脂の塗布方法および同軸ケーブルの製造方法を実施する同軸ケーブルの製造装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0056】
10 同軸ケーブル
11 中心導体
12 内部絶縁体
13 外部導体
14 外被
14a 第1層
14b 第2層
15 シールドコア(線状体)
16 紫外線硬化型樹脂
16a 添加剤
16b 添加剤除去樹脂成分(紫外線硬化型樹脂のうち添加剤を除く残りの成分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する線状体の外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂を塗布する紫外線硬化型樹脂の塗布方法であって、
前記紫外線硬化型樹脂に含まれる添加剤を第1層として前記線状体の外周に塗布した後、
前記紫外線硬化型樹脂のうち前記添加剤を除く残りの成分を第2層として前記第1層の外周に塗布することを特徴とする紫外線硬化型樹脂の塗布方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外線硬化型樹脂の塗布方法であって、
前記添加剤が、可塑剤または滑剤の少なくとも一方であることを特徴とする紫外線硬化型樹脂の塗布方法。
【請求項3】
中心導体と、前記中心導体の外周に配設された内部絶縁体と、前記内部絶縁体の外周に複数の導体素線を横巻きして配設された外部導体とを有するシールドコアの外周にダイスコーティングにより紫外線硬化型樹脂を塗布してさらに硬化して外被を形成する同軸ケーブルの製造方法であって、
前記紫外線硬化型樹脂を塗布して外被を形成する工程が、
前記紫外線硬化型樹脂に含まれる添加剤を第1層として前記シールドコアの外周に塗布する工程と、
前記紫外線硬化型樹脂のうち前記添加剤を除く残りの成分を第2層として前記第1層の外周に塗布する工程とを有することを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の同軸ケーブルの製造方法であって、
前記添加剤が、可塑剤または滑剤の少なくとも一方であることを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−106886(P2009−106886A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283509(P2007−283509)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】