説明

紫外線遮断性軟凝集粉末、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料

【課題】有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に均一に分散させることが可能な紫外線遮断性無機軟凝集粉末、前記紫外線遮断性無機軟凝集粉末と前記有機ポリマーからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び紫外線照射後の劣化が小さい紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を提供する。
【解決手段】本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末は、紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで粒子表面の損傷なく解砕して得られた紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを、凍結乾燥することによって得られたものであり、得られた前記紫外線遮断性軟凝集粉末と有機ポリマーとからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、更には前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストから得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外光照射後の劣化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮断性軟凝集粉末、耐候性に優れた紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び耐候性に優れた紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料に関する。更に詳しくは、無機粒子表面に化学反応処理を施すことなく、有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に均一に分散させることが可能な紫外線遮断性軟凝集粉末、及びこのような紫外線遮断性軟凝集粉末を含む紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外線、可視光線、及び紫外線の3つに大別することができる。このうち、短波長領域の紫外線は、日焼け、しみ、そばかす、発癌、視力障害など人体への悪影響があり、プラスチック材料の機械的強度低下、色褪せなどの劣化などを引き起こすものである。
【0003】
この有害な紫外線を遮断するために、紫外線遮断膜を基材上に形成して、紫外線遮断機能を持たせたガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材が使用されている。また、紫外線遮断材料を含有する塗布液を適宜な基材上に塗布し、紫外線遮断膜を当該基材上に形成することによって、簡単かつ低コストで紫外線遮断機能を持たせた透明基材を製造することも提案されている。
【0004】
通常、プラスチック板や化粧品などの、いわゆる有機ポリマーは、紫外線照射下で分解劣化してしまい、前記有機ポリマーの有する優れた柔軟性、或いは機械的強度が低下してしまう。このような柔軟性、及び機械的強度の劣化を防止するため、紫外線遮断能を有する無機粒子を前記有機ポリマーへ添加し、紫外線遮断機能を有したプラスチック板や化粧品などを製造することも提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1、及び特許文献2は、常温硬化性バインダーへ無機紫外線遮断成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子の内の1種以上を含有させた紫外線遮断膜形成用塗布液について開示している。また、特許文献3は、前記常温硬化性バインダーへ無機紫外線遮断成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子の内の1種以上を添加した日射遮断膜形成用塗布液について提案している。
【0006】
更に、特許文献4、及び特許文献5は、硬化性紫外線吸収剤へ無機紫外線遮断成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子の内の1種以上を含有させた熱線・紫外線遮断膜形成用塗布液について開示している。
【0007】
また、特許文献6は、無機紫外線遮断成分として酸化チタン微粒子を用い、前記酸化チタン微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂からなる紫外線遮断性光学レンズについて開示している。
【0008】
更に、優れた特性を有する複合材料を得るため、加工性の良好な高分子樹脂(有機ポリマー)に、高屈折率、高熱伝導、高誘電率、紫外線吸収などの特性を有する無機粒子を混合・混練しポリマー中に分散させる技術も提案されており、この場合、シラン基、スルホン酸基、メルカプト基などを有するカップリング剤の化学物質を無機粒子表面に修飾し、この無機粒子と有機ポリマーとの親和性を制御及び、分散する方法がとられている(例えば、特許文献7〜9参照)。
【0009】
また、無機粒子を予め溶媒に分散させた後、溶媒に溶解した有機ポリマーを混合し、その後、混合されている溶媒を取り除き、有機ポリマーを硬化させることによって、無機粒子分散型の複合材料を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献7及び10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−262061号公報
【特許文献2】特開2001−262064号公報
【特許文献3】特開2006−299087号公報
【特許文献4】特開2000−191957号公報
【特許文献5】特開2000−319554号公報
【特許文献6】特開2009−48027号公報
【特許文献7】特開2004−331740号公報
【特許文献8】特開平10−139928号公報
【特許文献9】特開2003−105094号公報
【特許文献10】特開2007−291184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、開発対象の複合材料の材料組成は多種多様であり、無機粒子表面の化学修飾による調製方法では、材料の組み合わせに応じて、修飾剤の種類及び量、更には反応方法を考慮する必要があり、製造コストを増大させてしまうという問題があった。加えて、化学物質の使用に伴い、最終的に環境に対して無害化する必要性があり、製造にかかわるエネルギーコストと環境負荷の問題もあった。
【0012】
また、溶媒に無機粒子を分散させた後、有機ポリマーを添加して溶媒を除去する方法では、有機ポリマー中に溶剤が残存することに伴い、得られた複合ペーストを硬化して複合材料を得る際に、残存した溶媒の蒸発によって気孔が形成されてしまい、複合材料の特性を低下させてしまうという問題があった。
【0013】
近年では、急速に進展する情報・家電・自動車産業などの高度な要求を満たす透明導電膜、半導体関連材料、光学材料、放熱材料などで、高分子・金属・セラミックスなどの個別の材料では達成が困難な相反機能、例えば、高粉体含有と流動性、絶縁性と熱伝導、絶縁性と高屈折特性などを有する無機粒子−有機ポリマー複合材料が生産性と併せて求められており、複合材料の特性向上と低環境負荷型の製造プロセスとが強く切望されている。
【0014】
また、従来使用されているプラスチック材料においては、紫外線に伴う劣化が懸念される。それ故、従来以上の高紫外線遮断機能を有する紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の製造が強く嘱望されている。
【0015】
しかしながら、有機ポリマーにセラミックスなどの無機粒子・粉体を混入する場合、無機粒子の添加量が高くなると、添加した無機粒子が凝集して分散性が低下するだけでなく、混合物の流動性が著しく低下してしまう。
【0016】
更に、有機ポリマーにセラミックスなどの紫外線遮断性無機粒子・粉体を混入する場合においても、紫外線遮断性無機粒子の添加量増大に伴い、得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料が有する紫外線遮断性機能は増大するものの、その一方、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の流動性が著しく低下してしまう。現状、高粉体含有量の前記紫外線遮断性無機粒子・粉体を混合して得られる、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料において、紫外線遮断性無機粒子の有する特性である高い紫外線遮断能と、有機ポリマー特性のひとつである成型性や加工性とを同時発現させることは困難である。
【0017】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に均一に粒子分散させることが可能な紫外線遮断性軟凝集粉末、このような紫外線遮断性軟凝集粉末を含む紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、すなわち紫外線遮断性プラスチック材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは前記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、前記紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで粒子表面の損傷なく、即ち、原料として用いる前記紫外線遮断性無機原料粉末の表面状態を保ったまま、解砕して得られた前記紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた紫外線遮断性軟凝集粉末を用いることによって、前記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
即ち、本発明によれば、以下に示す紫外線遮断性軟凝集粉末、この紫外線遮断性軟凝集粉末を用いた紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト、及び紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料が提供される。
【0020】
[1] 紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで粒子表面の損傷なく解砕して得られた紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを、凍結乾燥することによって得られた紫外線遮断性軟凝集粉末。
【0021】
[2] 前記紫外線遮断性無機原料粉末の解砕強度に対して、1〜50%の範囲で解砕強度が低下し、且つその解砕強度が1〜30MPaである前記[1]に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【0022】
[3] 前記スラリーが、前記紫外線遮断性無機原料粉末を湿式ジェットミルを用いた前記ミルプロセスによって、前記スラリー同士の衝突圧力が50〜300MPaとなるように解砕したものである前記[1]又は[2]に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【0023】
[4] 前記紫外線遮断性無機原料粉末に分散剤を加えて解砕した前記スラリーを凍結乾燥することによって得られた前記[1]〜[3]の何れかに記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【0024】
[5] 前記[1]〜[4]の何れかに記載の紫外線遮断性軟凝集粉末と、有機ポリマーとを含有し、前記紫外線遮断性軟凝集粉末の含有割合が、1〜50体積%である紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【0025】
[6] 前記紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子の表面に、化学修飾を施すことなく作製された前記[5]に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【0026】
[7] チクソ比が0〜3%である前記[5]又は[6]に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【0027】
[8] 前記[5]〜[7]の何れかに記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【0028】
[9] 前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとからなる紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとからなる高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ強さが5〜50%向上した前記[8]に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【0029】
[10] その曲げ破壊ひずみ測定における相対標準偏差が0〜10%である前記[8]又は[9]に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【0030】
[11] 紫外光照射前の曲げ強さに対する紫外光照射後の曲げ強さの減少率が0〜20%である前記[8]〜[10]の何れかに記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【0031】
[12] 紫外光照射前の破壊ひずみに対する紫外光照射後の曲げ破壊ひずみの減少率が0〜20%である前記[8]〜[11]の何れかに記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【0032】
[13] 前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとからなる紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとからなる高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ弾性率が15〜70%向上した前記[8]〜[12]の何れかに記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【発明の効果】
【0033】
本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末は、有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子を均一に分散させることができる。即ち、前記紫外線遮断性無機粒子からなる粉体の高含有量に伴う流動性の低下の問題を解決すると共に、例えば、1〜50体積%の高粉体含有量であっても、紫外線遮断性無機粒子の分散性を向上させることができ、流動性が高く易成型性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト又は複合材料を作製することができる。
【0034】
また、本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末は、紫外線遮断性無機粒子表面に化学修飾を施すことなく有機ポリマー中に均一に分散させることができるため、例えば、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト又は複合材料の製造プロセスにおいて、化学物質を使用しなくとも良く、環境調和型の製造プロセスを実現することができる。なお、前記「化学修飾」とは、紫外線遮断性無機粒子表面に化学物質を用いた化学反応処理を行うことをいう。
【0035】
また、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストは、紫外線遮断性無機粒子と有機ポリマーの吸着親和性が弱くなおかつ流動性が高いため、ポリマーマトリックス中で紫外線遮断性無機粒子が良好に分散した、易成型性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストである。
【0036】
更に、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外線遮断能を有する無機粒子がポリマーマトリックス中に均一に分散されているため、機械的強度、及び柔軟性に優れており、なおかつ、紫外光照射後も高い機械的強度、及び柔軟性を保った紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料である。
【0037】
更に、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、生産性、及びその加工性に優れた本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなるものであり、この複合材料を用いた各材料、及び各種製品の高性能化を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1及び比較例1の各凝集粉末、並びに紫外線遮断性原料粉末の解砕強度を示すグラフである。
【図2】実施例2、及び比較例2〜4の各複合ペーストにおけるせん断速度(s−1)とせん断応力(Pa)との関係を示すグラフである。
【図3】JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」における試験装置と、試験片の設置状態とを示す模式図である。
【図4】実施例3、及び比較例5〜8の各材料における紫外照射時間と曲げ強さ(σfm)との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3、及び比較例5〜8の各材料における紫外照射時間と曲げ破壊ひずみ(εfB)との関係を示すグラフである。
【図6】実施例3、及び比較例5〜8の各材料における紫外照射時間と曲げ弾性率(E)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0040】
[紫外線遮断性軟凝集粉末]
まず、本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末の一の実施形態について具体的に説明する。本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末は、紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで粒子表面の損傷なく解砕して得られた紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを、凍結乾燥することによって得られた紫外線遮断性軟凝集粉末である。
【0041】
このような紫外線遮断性軟凝集粉末は、有機ポリマーとともに混合・混練して、有機ポリマーのせん断力を利用して紫外線遮断性軟凝集粉末を解砕することで、ポリマーマトリックス中に一次粒子の状態で紫外線遮断性無機粒子を分散させた紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを良好に製造することができる。即ち、紫外線遮断性無機粒子からなる粉体の高含有量に伴う流動性の低下の問題を解決するとともに、例えば、1〜50体積%の高粉体含有量であっても、紫外線遮断性無機粒子の分散性を向上させることができ、流動性が高く易成形性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを得ることができる。
【0042】
一般的に粒子凝集体(凝集粉末)の解砕強度は、以下の式(1)で表される。
【0043】
σ=2(1−ε)ku/d ・・・(1)
【0044】
上記式(1)において、σは解砕強度、εは構造体(粒子凝集体)の空隙率、kは粒子の配位数、uは粒子の表面エネルギー、dは一次粒子径を示す。
【0045】
上記(1)式から、構造体の空隙率εが同じなら、粒子の表面エネルギーuが小さくなると、解砕強度σは低下することになる。従来の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストの製造において、凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子の表面を化学修飾するのは、この粒子の表面エネルギーuを低下させる意味があるが、本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末においては、環境負荷に鑑みて、化学修飾を行うことなく紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを製造することが可能な紫外線遮断性軟凝集粉末を提供することができる。
【0046】
一般的には、無機粉末は凝集状態を形成しているため、分散を行うための解砕プロセスとして、ボールミルや遊星ボールミルなどのボールメディアを用いたミル方法が用いられている。このような方法で作製された分散粒子は、時間とともに凝集することが知られており、前記解砕プロセスによって分散した無機粒子は、時間とともに再度凝集してしまうことがある。本発明者らは、これまで凝集粉末の解砕方法、即ち、ミル方法によって、凝集性の低い無機粒子の分散に成功している(例えば、特開2006−248876号公報参照)。
【0047】
本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末は、凝集状態にある紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで一度解砕し、そのスラリーを凍結乾燥することによって得られたものである。特に、ミルプロセスにおけるミル方法の一つである湿式ジェットミルを用いることによって、無機粒子表面に損傷のない状態での解砕を行うことができる。なお、従来の一般的なミルプロセスに使用されるボールミルを用いた場合には、ボールの粉末への衝突エネルギーが大きいため、本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末における「粒子表面に損傷のない状態」を実現することが困難になる場合がある。
【0048】
なお、前記した湿式ジェットミルは、水等の溶媒に無機原料粉末を混入したスラリーを調製し、このスラリー同士を、解砕室(粉砕室)内で双方向から衝突させたり、或いは、そのスラリーを解砕室の壁に衝突させて無機原料粉末の解砕を行うものである。但し、本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末における紫外線遮断性無機原料粉末の解砕方法は、ミル処理した無機粒子表面が損傷しなければよく、前記湿式ジェットミルに限定したものではない。例えば、紫外線遮断性無機原料粉末を解砕するミルプロセスとしては、前記湿式ジェットミルの他に、例えば、超音波による解砕や、ビーズミルによる解砕等を挙げることができる。このような方法によっても、無機粒子表面の損傷なく無機原料粉末を解砕することができる。
【0049】
なお、分散した粒子の再凝集性は、ボールミルで調整した粒子の方が、湿式ジェットミルで調整した粒子よりも大きく、前記式(1)で示す粒子の表面エネルギーuは、湿式ジェットミル処理した粒子の方が小さくなる。
【0050】
なお、「粒子表面に損傷のない状態」とは、ミルプロセスで解砕する紫外線遮断性原料凝集粉末(紫外線遮断性無機原料粉末)の表面の損傷状態と同程度の損傷のない状態のことをいい、具体的には、解砕した粒子表面の表面粗さによって規定することが可能である。また、「紫外線遮断性原料凝集粉末の表面の損傷状態と同程度の損傷のない状態」とは、紫外線遮断性原料凝集粉末(即ち、紫外線遮断性無機原料粉末)を構成する粒子の表面粗さに対して、解砕後の粒子の表面粗さが同一、或いは0〜5%の範囲で表面粗さが粗くなっている状態のことをいう。解砕の結果、無機粒子の表面に損傷を生じると、原料の構成と異なる官能基が粒子表面に5%以上増加してしまう。例えば、粒子表面がダメージ(損傷)を受けると、その状態では不安定となる。より具体的には、ボールミル処理のような水系で酸化物の無機粒子が粒子表面にダメージを受けた場合、粒子表面に水酸基が形成されることがある。
【0051】
本実施形態に用いられる紫外線遮断性無機原料粉末としては、紫外線遮断能を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄、オキシ水酸化鉄などを挙げることができる。更に、これらの混合粉末を本実施形態における紫外線遮断性無機原料粉末として用いても差し支えない。
【0052】
凝集状態にある紫外線遮断性無機原料粉末の解砕において、一般的にセラミックス産業で広く用いられている分散剤を用いて、高粉体含有でのスラリーを調整した後で解砕してもよい。勿論、前記した分散剤を用いずに解砕を行ってもよい。なお、分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリエチレンイミン、ポリメタクリル酸アンモニウム塩等の従来公知の分散剤を好適に用いることができる。
【0053】
本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末は、このようして粒子表面の損傷なく解砕して得られた紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを、凍結乾燥することによって得ることができる。このような凍結乾燥によって、乾燥時の毛細管力の働きを小さくすることができ、紫外線遮断性無機粒子間の凝集力を抑制することができる。
【0054】
なお、スラリーを凍結乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、液体窒素などで短時間で凍結する方法を挙げることができる。凍結における好ましい温度は、マイナス3℃以下であり、更に好ましくはマイナス50℃以下である。このような温度で急速に凍結させた後、減圧して真空状態で溶媒を昇華させて乾燥することが好ましい。この時の真空度は、0.01Pa以上、200Pa以下であることが好ましい。このように構成することによって、紫外線遮断性無機粒子間の凝集力を良好に抑制することができ、また、急速に凍結させることによって、粒子の再凝集も防ぐことができる。
【0055】
なお、本実施形態の紫外線遮断性軟凝集粉末は、紫外線遮断性無機原料粉末の解砕強度(即ち、解砕前の解砕強度)に対して、1〜50%の範囲で解砕強度が低下し、且つその解砕強度が1〜30MPaであることが好ましい。このように構成することによって、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを製造する際に、紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する無機粒子を良好に分散させることができる。
【0056】
また、紫外線遮断性無機原料粉末を湿式ジェットミルを用いたミルプロセスによって解砕する場合には、スラリー同士の衝突圧力が50〜300MPaとなるように解砕したものであることが好ましく、100〜250MPaとなるように解砕したものであることが更に好ましい。このように構成することによって、紫外線遮断性無機粒子表面の損傷なく良好に解砕することができる。なお、スラリー同士の衝突圧力が50MPa未満では、紫外線遮断性無機原料粉末の十分な解砕が行われないことがあり、また、300MPaを超えると、紫外線遮断性無機粒子表面に損傷を生じるおそれがある。
【0057】
[紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト]
次に、本発明の本紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストの一の実施形態について具体的に説明する。本発明における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストは、これまでに説明した本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末と有機ポリマーを混練して得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストである。
【0058】
本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストに用いられる有機ポリマーとしては、例えば、従来公知の無機粒子−有機ポリマー複合体の作製に使用されている、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチル樹脂等の有機ポリマーを用いることができ、軟凝集粉末と有機ポリマーの混合・混練時において、液状或いは溶媒に溶解した高分子溶液、或いは熱可塑性高分子樹脂であれば、有機ポリマーの種類については特に制限はない。
【0059】
また、本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストは、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子の表面に、化学修飾を施すことなく作製されたものであることが好ましい。このように構成することによって、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストの製造プロセスにおいて化学物質を使用しなくともよく、環境調和型の製造プロセスを実現することができる。
【0060】
本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを製造するに当たっては、まず、前記紫外線遮断性無機原料粉末を含むスラリーを湿式ジェットミル解砕した後、得られたスラリーを乾燥して得られる紫外線遮断性軟凝集粉末と有機ポリマーとを、紫外線遮断性軟凝集粉末の含有割合が1〜50体積%となるよう混合・混練する。混合・混練装置は、前記紫外線遮断性軟凝集粉末と有機ポリマーをせん断混練できるものであればよく、温度及び圧力調整手段の有無については特に制限はない。具体的には、例えば、ニーダー、ロール、単軸又は多軸押し出し機、ミキサー、攪拌子による攪拌機、自転公転型攪拌機などの装置を挙げることができる。なお、装置の種類については、使用する有機ポリマーの種類、性質、及び使用する前記紫外線遮断性無機原料粉末の組み合わせによって適宜選択することができる。
【0061】
また、本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストにおいては、そのチクソ比が0〜3%であることが好ましく、0〜1%であることがより好ましい。このように構成された前記ペーストは、有機ポリマー中への紫外線遮断性無機粒子の分散性が良好であるといえる。
【0062】
なお、本実施形態において、チクソ比とは、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト中における紫外線遮断性無機粒子の分散状態を規定したものであり、レオロジー測定による流動挙動などの測定方法によって算出することができる。
【0063】
以上の製造方法により、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを製造することができる。
【0064】
このような製造方法によって得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストは、無機粒子を1〜50体積%含有しており、高粉体含有量を実現することができるとともに、その流動性に優れている。このため、乾式プレス機、熱間プレス機、ロール機など圧力を用いた圧縮成形、即ち、従来公知の圧縮成形、射出成形、及び押出成形工法によって、有機ポリマー中での紫外線遮断性無機粒子の移動が良好である。また、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを用いたシート成型にも適応可能であり、複合ペースト内の紫外線遮断性無機粒子の分散性が良好なことから、硬化して複合材料とした後でも、紫外線遮断性無機粒子がポリマーマトリックス中に分散した状態で存在させることができる。
【0065】
[紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料]
次に、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の一の実施形態について説明する。本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、これまでに説明した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料である。本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、生産性・及びその加工性に優れた本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストから構成されるものであり、この複合材料を用いた各材料、及び各種製品の高性能化を期待することができる。
【0066】
本実施形態の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ペースト状で得られた本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを硬化して製造することができる。例えば、乾式プレス機、熱間プレス機、ロール機など圧力を用いた圧縮成形、射出成形、及び押出成形工法、即ち、従来公知の圧縮成形工法によって、或いは、上述する本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト内の有機ポリマーと相互に反応して硬化するような硬化剤を前記複合ペーストに添加する手法によって、所望の形状に安定して製造することができる。
【0067】
なお、上述した硬化剤としては、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、変性アミン類、ポリアミド樹脂、二級及び三級アミン、イミダゾール類、ポリメルカプタン類、ポリスルフィド樹脂、酸無水物などを挙げることができる。
【0068】
[紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の特性評価]
次に、上述した方法によって製造した本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の特性評価について、具体例を用いて更に詳細に説明する。本実施形態によって製造された紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外線遮断能を有する無機粒子がポリマーマトリックス中に均一に分散されているため、機械的強度、及び柔軟性に優れており、なおかつ、紫外光照射後も高い機械的強度、及び柔軟性を保った紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料である。
【0069】
本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の特性評価については、特に制限はなく、従来公知の試験法によって、評価することができる。例えば、日本工業規格(以下、「JIS」と言うことがある)に規定された、JIS K−7113「プラスチックの引張試験方法」、JIS K−7161「プラスチック−引張特性の試験方法:第1部・通則」、JIS K−7162「プラスチック−引張特性の試験方法:第2部・型成形、押出成形及び注型プラスチックの試験条件」、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」、JIS K−7181「プラスチック−圧縮特性の試験方法」などを挙げることができる。
【0070】
本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとから構成された紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとから構成された高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ強さが5〜50%向上することが見出された。ここで、「曲げ強さ」とは、曲げ試験中、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料等の試験片が耐え得ることのできる最大曲げ応力である。また、「曲げ応力」とは、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料等の試験片の支点間中央部における外表面上の呼び応力である。即ち、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、より紫外線遮断性無機粒子の添加効果が現れたこととなる。
【0071】
また、本発明者らが、本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を用いて、その曲げ破壊ひずみ測定を行ったところ、前記曲げ破壊ひずみ測定における相対標準偏差が0〜10%であることを見出した。ここで、「曲げ破壊ひずみ」とは、曲げ試験中、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の試験片が破壊するときの曲げひずみである。また、「曲げひずみ」とは、曲げ試験中、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の試験片の支点間中央部における外表面上の微小要素の長さの呼び変化率である。即ち、本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、誤差の少ない曲げ破壊ひずみが観測された。
【0072】
また、本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の紫外光照射前の曲げ強さに対する紫外光照射後の曲げ強さの減少率が0〜20%となることを見出した。即ち、上述の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、紫外線照射による有機ポリマーの分解の影響が抑制され、紫外線照射後も高い強度を示した。
【0073】
更に、本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の紫外光照射前の曲げ破壊ひずみに対する紫外光照射後の曲げ破壊ひずみの減少率が0〜20%となることを見出した。即ち、上述の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、紫外線照射による有機ポリマーの分解の影響が小さくなったためと解釈することができる。
【0074】
更にまた、本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、本実施形態における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとから構成された紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとから構成された高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ弾性率が15〜70%向上することを見出した。ここで、「曲げ弾性率」とは、JIS K―7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」において規定された2点のひずみに対応する応力を求め、応力の差をひずみの差で除した値である。即ち、上述の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、前記紫外線遮断性無機原料粉末と有機ポリマーが架橋していることに伴い、曲げ弾性率が向上したものと解釈することができる。
【0075】
以上より、本発明における紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外線遮断能を有する無機粒子がポリマーマトリックス中に均一に分散されていることによって、機械的強度、及び柔軟性に優れており、なおかつ、紫外光照射後も高い機械的強度、及び柔軟性を保った紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料であると言える。
【実施例】
【0076】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
[紫外線遮断性軟凝集粉末の製造]
(実施例1)
紫外線遮断性無機原料粉末として酸化亜鉛(ZnO:平均一次粒子径:500nm)を準備した。
【0078】
蒸留水に、前記紫外線遮断性無機原料粉末を、3体積%の粉体含有量となるように添加してスラリー化し、そのスラリーを200MPaの条件で湿式ジェットミル処理した。ミル処理後のスラリーを、直ちに液体窒素で凍結し、凍結乾燥を行って、実施例1の紫外線遮断性軟凝集粉末を得た。
【0079】
(比較例1)
ミル処理として、ボールミル処理を24時間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で紫外線遮断性軟凝集粉末を得た。
【0080】
[紫外線遮断性軟凝集粉末の評価]
実施例1、及び比較例1にて得られた紫外線遮断性軟凝集粉末は、50〜200μm程度の凝集粉末を形成していた。得られた紫外線遮断性軟凝集粉末の解砕強度を微小圧試験機で計測した。解砕強度は、凝集体(紫外線遮断性軟凝集粉末)が圧壊する荷重の実測値F、及び下式(2)の関係式から、引張り強度(σ)として算出した。
【0081】
σ=2.8F/πD ・・・(2)
【0082】
ここで、上式(2)において、Dは凝集体の平均粒径を示す。
【0083】
図1は、実施例1、及び比較例1で得られた紫外線遮断性軟凝集粉末の解砕強度を示すグラフである。なお、同様の微小圧試験から求めた、紫外線遮断性無機原料粉末の解砕強度の結果も参考データとして図1中に示す。図1における縦軸は、解砕強度(MPa)を示す。
【0084】
図1に示すように、解砕強度に注目すると、紫外線遮断性無機原料粉末よりも解砕プロセスを経て作製した紫外線遮断性軟凝集粉末(実施例1、及び比較例1)の方が、解砕強度は5〜10%低く、更に湿式ジェットミル処理した実施例1の紫外線遮断性軟凝集粉末は、ボールミルによって作製した比較例1の紫外線遮断性軟凝集粉末よりも低い解砕強度であった。
【0085】
[複合ペーストの製造]
(実施例2)
実施例1で得られた紫外線遮断性軟凝集粉末を、液状エポキシ(粘度:11Pa・s、JERS−827、ジャパンエポキシレジン株式会社製)に、20体積%の粉体含有量となるように混合し、混練して紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを得た。混練には、自転公転型攪拌機(ARE−250、THINKY製)を用いた。
【0086】
(比較例2)
比較例1で得られた紫外線遮断性軟凝集粉末を、実施例2と同様、前記液状エポキシに、20体積%の粉体含有量となるように混合し、混練して高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを得た。
【0087】
(比較例3)
蒸留水に、実施例1において紫外線遮断性軟凝集粉末の作製に使用した紫外線遮断性無機原料粉末を、20体積%の粉体含有量となるように添加し、更に0.15質量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(分散剤)を加えてスラリー化し、得られたスラリーを直ちに液体窒素で凍結し、凍結乾燥を行って、高凝集性紫外線遮断性乾燥無機粉末を得、その後は実施例2、或いは比較例2と同様の方法で、前記液状エポキシ中で混練することで、高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを得た。
【0088】
(比較例4)
実施例1において紫外線遮断性軟凝集粉末の作製に使用した紫外線遮断性無機原料粉末を、直接前記液状エポキシに20体積%の粉体含有量となるように混合し、混練して紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合ペーストを得た。
【0089】
[複合ペーストの評価]
実施例2、及び比較例2〜4にて得られた各複合ペーストの流動曲線を計測した。図2は、それら各複合ペーストのせん断速度(s−1)とせん断応力(Pa)との関係(流動曲線)を示すグラフである。なお、図2においては、横軸がせん断速度(s−1)を示し、縦軸がせん断応力(Pa)を示す。
【0090】
図2に示すように、比較例2〜4の流動曲線は、明らかに行きと帰りの挙動(図2における矢印の各方向における挙動)が異なり、チクソトロピー性が存在することが分かる。チクソトロピーは、無機粒子間を有機ポリマーが架橋した状態、即ち、凝集した状態にせん断を与えたとき、その凝集状態が崩壊することによって生じるものである。一方、実施例2の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストの流動曲線は、行きと帰りの挙動が一致し、せん断速度とせん断応力の関係は比例関係にあることが分かる。これは、ニュートニアン挙動として定義でき、無機粒子は有機ポリマー中に分散し流動性が高いことを示す。即ち、実施例2の紫外線遮断性無機粉末−有機ポリマー複合ペーストは、ニュートニアンの流動曲線を有する高流動性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストである。
【0091】
また、図2の流動曲線から、チクソ比を算出した。チクソ比とは、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト中における紫外線遮断性無機粒子の分散状態を規定したものであり、レオロジー測定による流動挙動などの測定方法によって算出することができる。
【0092】
チクソ比は、せん断速度とせん断応力の測定時に得られる2つの関数を用いて算出した。まず、「横軸と行きの関数間で挟まれた面積(以下、「面積A」と言うことがある)」、及び「横軸と帰りの関数間で挟まれた面積(以下、「面積B」と言うことがある)」を算出し、この2つの面積の和と差の比、即ち、下式(3)から実施例2、及び比較例2〜4のチクソ比を算出した。下式(3)に示すとおり、チクソ比の最大値は「面積B」が0となるときで、そのときのチクソ比は100となり、また、チクソ比の最小値は「面積A」=「面積B」となるときで、そのときのチクソ比は0となる。
【0093】
チクソ比={(面積A−面積B)/(面積A+面積B)}×100 ・・・(3)
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すとおり、実施例2で作製した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストにおけるチクソ比は0.13%となり、紫外線遮断性無機粒子が有機ポリマーマトリックス中に高分散していることとなる。一方、比較例2〜4で作製した各複合ペーストにおけるチクソ比は10%以上であり、紫外線遮断性無機原料粉末、或いは高凝集性紫外線遮断性無機粒子の有機ポリマーマトリックス中における分散度合いは悪く、当該無機粉末等が有機ポリマーマトリックス中で凝集状態にあることとなる。
【0096】
[材料の製造]
(実施例3)
前記実施例2で製造した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストに、当該ペーストおいて用いた液状エポキシ100質量部に対して、60質量部となるように硬化剤(アミン、ST−11、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を加えて混練し、混練後、長さ80.0mm、幅10.0mm、高さ15.0mmの直方体の型に流し込み、80℃で1時間30分間静置することで硬化させて、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を得た。なお、粉体含有量は10体積%となるよう調整した。
【0097】
(比較例5)
前記実施例2で製造した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを、前記比較例2で製造した高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストに変更した以外は、実施例3と同様の手法で高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を得た。
【0098】
(比較例6)
前記実施例2で製造した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを、前記比較例3で製造した高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストに変更した以外は、実施例3と同様の手法で高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を得た。
【0099】
(比較例7)
前記実施例2で製造した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを、前記比較例4で製造した紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合ペーストに変更した以外は、実施例3と同様の手法で紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料を得た。
【0100】
(比較例8)
前記実施例2で製造した紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを、有機ポリマー(液状エポキシ)のみに変更した以外は、実施例3と同様の手法で有機ポリマー材料を得た。
【0101】
[材料の特性評価]
(1)曲げ強さの評価
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料の曲げ強さ(σfm)を、図3に示すような試験装置を用い、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」に従って算出した。図3中において、10は力の係る方向、11は試験片、12は圧子、13は支持台、Rは圧子の先端半径、Rは支持台コーナーの半径、hは試験片の厚さ、Lは支点間距離、lは試験片の長さをそれぞれ示す。試験片11の寸法は、長さ80.0±2.0mm、幅10.0±0.2mm、厚さ4.0±0.2mmに調整し、実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料について、それぞれ、紫外線を照射していない状態、紫外線を2時間照射した後の状態、及び紫外線を8時間照射した後の状態の3種類の試験片を用意した。試験速度、即ち、圧子12の降下速度は、2.0mm毎分とした。
【0102】
本評価試験において、曲げ強さ(σfm)は、下式(4)によって算出した。
【0103】
σfm=(3FL)/(2bh) ・・・(4)
【0104】
上式(4)において、σfm は曲げ強さ(MPa)であり、各点における曲げ応力の最大値である。 また、Fは圧子が試験片に与えている力(N)、bは試験片の幅(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、Lは支点間距離(mm)であり、L=16×hに相当する。即ち、hは4.0±0.2mmであることが求められるので、Lは64mmとなる。
【0105】
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料の曲げ強さ(σfm)の算出結果を、図4、及び表2に示す。図4における縦軸は、曲げ強さ(MPa)である。
【0106】
【表2】

【0107】
また、実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料について、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」により得られた、前記表2に示す曲げ強さ(σfm)から、曲げ強さ減少率を算出した。その結果を表3に示す。
【0108】
なお、表3内における「曲げ強さ減少率」とは、「紫外光を照射していない試料における曲げ強さ」から、「紫外光を照射した試料における曲げ強さ」を差し引き、更にその差を「紫外光を照射していない試料における曲げ強さ」で割った商であり、下式(5)で表すことができる。
【0109】
曲げ強さ減少率(%)={(紫外光を照射していない試料における曲げ強さ−紫外光を照射した試料における曲げ強さ)/紫外光を照射していない試料における曲げ強さ}×100 ・・・(5)
【0110】
【表3】

【0111】
図4、及び表2に示すように、紫外光照射を行わなかった比較例8の有機ポリマー材料は、曲げ強さ(σfm)が115MPaであった。それに対して、紫外光照射を行わなかった実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料における曲げ強さ(σfm)は127MPaであり、湿式ジェットミル処理した紫外線遮断性無機粒子を添加することにより曲げ強さ(σfm)は10%向上した。即ち、実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、高い強度を示した。
【0112】
一方、紫外光照射を行わなかった比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料の曲げ強さ(σfm)は、比較例8の有機ポリマー材料のそれと比較して、3〜10%低下したことが認められた。即ち、これらの複合材料では、ポリマーマトリックス中において粒子が凝集した状態で存在しているため、紫外線遮断性無機原料粉末、或いは高凝集性紫外線遮断性無機粒子の添加効果が曲げ強さに反映されなかった。
【0113】
更に、図4、表2、及び表3に示すように、紫外光照射を行った比較例8の有機ポリマー材料の曲げ強さ(σfm)は、紫外光照射を行っていない有機ポリマー材料のそれに対して、紫外光照射2時間の場合は4%、紫外光照射8時間の場合は12%、それぞれ低下が認められた。これは、紫外光照射に伴い高分子が分解され、結果として曲げ強さが低下したことを示す。それに対して、紫外光照射を行った実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料における曲げ強さ(σfm)は、紫外光照射を行っていない紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料のそれに対して、紫外光照射2時間の場合は6%、紫外光照射8時間の場合は10%、それぞれ低下が認められた。即ち、実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中における均一分散粒子が紫外光による高分子の分解を遮断し、紫外光照射後も曲げ強さの減少が抑制された。
【0114】
一方、紫外光照射を行った比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料の曲げ強さ(σfm)は、紫外光照射を行っていない場合のそれと比較して、紫外光照射2時間の場合は10〜23%、紫外光照射8時間の場合は29〜45%、それぞれ低下した。即ち、これらの複合材料では、ポリマーマトリックス中において粒子が凝集した状態で存在しているため、紫外光による高分子の分解が試験片全体に影響し、曲げ強さが大きく減少するに至ったと解釈することができる。
【0115】
(2)曲げ破壊ひずみの評価
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料の曲げ破壊ひずみ(εfB)を、前記曲げ強さの評価に用いたのと同様の試験装置及び試験片を使用し、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」に従って算出した。試験速度、即ち、圧子12の降下速度も、前記曲げ強さの評価と同様、2.0mm毎分とした。
【0116】
本評価試験において、曲げ破壊ひずみ(εfB)は、下式(6)によって算出した。
【0117】
εfB=(600sh)/L ・・・(6)
【0118】
上式(6)において、εfB は曲げ破壊ひずみ(%)であり、試験片が破壊したときの曲げひずみ(ε)である。また、sはたわみ(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、Lは支点間距離(mm)である。
【0119】
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料の曲げ破壊ひずみ(εfB)の算出結果を、図5、及び表4に示す。図5における縦軸は、曲げ破壊ひずみ(εfB)である。また、表4において、「±」の前の値は前記曲げ破壊ひずみ(εfB)の平均値であり、「±」の後の値は曲げ破壊ひずみの標準偏差である。
【0120】
【表4】

【0121】
また、実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料について、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」により算出された各々の曲げ破壊ひずみ(εfB)、及び標準偏差を用いて、各々の相対標準偏差を下式(7)によって算出した。その結果を表5に示す。
【0122】
相対標準偏差(%)=(標準偏差/平均値)×100 ・・・(7)
【0123】
【表5】

【0124】
更に、実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料について、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」により得られた、前記表4に示す曲げ破壊ひずみ(εfB)から曲げ破壊ひずみ減少率を算出した。その結果を表6に示す。
【0125】
なお、表6において、「最大曲げ破壊ひずみ減少率」とは、「紫外光を照射していない試料における最大曲げ破壊ひずみ」から、「紫外光を照射した試料における最大曲げ破壊ひずみ」を差し引き、更にその差を「紫外光を照射していない試料における最大曲げ破壊ひずみ」で割った商であり、下式(8)で表すことができる。
【0126】
最大曲げ破壊ひずみ減少率(%)={(紫外光を照射していない試料における最大曲げ破壊ひずみ−紫外光を照射した試料における最大曲げ破壊ひずみ)/紫外光を照射していない試料における最大曲げ破壊ひずみ}×100 ・・・(8)
【0127】
【表6】

【0128】
図5及び表4に示すように、紫外光照射を行わなかった比較例8の有機ポリマー材料は、曲げ破壊ひずみ(εfB)は10.3%であった。それに対して、紫外光照射を行わなかった実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料の曲げ破壊ひずみは3.14〜4.92%であった。紫外線遮断性無機粉末の添加により、無機粒子と有機ポリマー間に架橋凝集が形成され、結果として紫外線遮断性無機粉末を含有した複合材料の曲げ破壊ひずみは、当該粉末を含有しない有機ポリマー材料のそれに対して大きく低下したと解釈することができる。
【0129】
更に、表5に示すように、紫外光照射を行わなかった実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料における曲げ破壊ひずみの標準相対偏差は9.03%であった。この紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が均一に分散されているため、誤差が小さくなったと解釈することができる。一方、紫外光照射を行わなかった比較例7の紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料における曲げ破壊ひずみの標準相対偏差は37.9%であった。この紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中において粒子が凝集した状態、即ち、粒子が偏析していることに伴い、誤差が大きくなったと解釈することができる。
【0130】
更に、表6に示すように、紫外光照射を行った比較例8の有機ポリマー材料の曲げ破壊ひずみ(εfB)は、紫外光照射を行っていない有機ポリマー材料のそれに対して、紫外光照射2時間の場合は8%、紫外光照射8時間の場合は17%、それぞれ低下が認められた。これは、紫外光照射に伴い高分子が分解され、ポリマーマトリックス中の高分子鎖の長さが短くなり、結果として曲げ破壊ひずみ(εfB)が低下したと解釈することができる。それに対して、紫外光照射を行った実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料における曲げ破壊ひずみ(εfB)は、紫外光照射を行っていない紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料のそれに対して、紫外光照射2時間の場合は5%、紫外光照射8時間の場合は15%、それぞれ低下が認められた。
【0131】
一方、紫外光照射を行った比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料の曲げ破壊ひずみ(εfB)は、紫外光照射を行っていない高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料のそれと比較して、紫外光照射2時間の場合は13〜44%、紫外光照射8時間の場合は27〜64%、それぞれ低下した。即ち、これらの複合材料では、ポリマーマトリックス中において粒子が凝集した状態で存在しているため、粒子間距離が実施例3のような均一分散粒子の存在下と比べると長いため、紫外光照射による高分子分解が大きくなったことに伴い、曲げ破壊ひずみが大きく低下したと解釈することができる。
【0132】
(3)曲げ弾性率の評価
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料の曲げ弾性率(E)を、前記曲げ強さの評価に用いたのと同様の試験装置及び試験片を使用し、JIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」に従って算出した。試験速度、即ち、圧子12の降下速度も、前記曲げ強さの評価と同様、2.0mm毎分とした。
【0133】
本評価試験において、曲げ弾性率(E)を求めるに当たっては、上述のJIS K−7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」に従い、まずは曲げひずみεf1=0.0005、及びεf2=0.0025に相当するたわみs、及びsを、下式(9)によって算出した。
【0134】
=εfi×L/6h ・・・(9)
【0135】
上式(9)において、s は曲げひずみεfiに相当するひずみ(mm)であり、iは1、或いは2である。また、Lは支点間距離(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、である。
【0136】
次いで、上式(9)において得られたひずみのときのσf1、及びσf2をグラフから読み取り、曲げ弾性率(E)を、下式(10)によって算出した。
【0137】
=(σf2 −σf1)/(εf2−εf1) ・・・(10)
【0138】
ここで、上式(10)において、E は曲げ弾性率(MPa)であり、σf1、及びσf2は各々ひずみ量s、及びsのときの曲げ応力(MPa)、εf1=0.0005、及びεf2=0.0025である。
【0139】
実施例3、及び比較例5〜8にて得られた各材料のの曲げ弾性率(E)の算出結果を、図6、及び表7に示す。
【0140】
【表7】

【0141】
図6及び表7に示すように、紫外光照射を行わなかった比較例8の有機ポリマー材料は、曲げ弾性率(E)が3.42GPaであった。それに対して、紫外光照射を行わなかった比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料の曲げ弾性率(E)は4.35〜4.40GPaであった。紫外線遮断性無機粉末の添加により、無機粒子と有機ポリマー間に架橋凝集が形成され、結果として紫外線遮断性無機粉末を含有した複合材料の曲げ弾性ひずみは、当該粉末を含有しない有機ポリマー材料のそれに対して向上したと解釈することができる。
【0142】
更に、図6及び表7に示すように、紫外光照射を行わなかった実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の曲げ弾性率(E)は5.49GPaであり、比較例5〜7の高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、或いは紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料に対して、その曲げ弾性率は25%向上した。即ち、実施例3の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、ポリマーマトリックス中における均一分散粒子の存在によって粒子間距離が比較的短く、紫外線遮断性無機粒子添加効果が強く現れたと解釈することができる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末は、有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に、前記紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子を均一に分散させることができる。即ち、前記紫外線遮断性無機粒子からなる粉体の高含有量に伴う流動性の低下の問題を解決すると共に、例えば、1〜50体積%の高粉体含有量であっても、紫外線遮断性無機粒子の分散性を向上させることができ、流動性が高く易成型性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト又は複合材料を作製することができる。
【0144】
また、本発明の紫外線遮断性軟凝集粉末は、紫外線遮断性無機粒子表面に化学修飾を施すことなく有機ポリマー中に均一に分散させることができるため、例えば、紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト又は複合材料の製造プロセスにおいて、化学物質を使用しなくとも良く、環境調和型の製造プロセスを実現することができる。
【0145】
本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストは、有機ポリマーからなるポリマーマトリックス中に、紫外線遮断性無機粒子が均一に分散されているため、チクソ比が0〜3%以下と非常に低く、即ち、流動性が非常に高いため、易成形性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストとすることができる。このため、乾式プレス機、熱間プレス機、ロール機などの圧力を用いた圧縮成形、射出成形、及び押出成形工法、即ち、前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストを硬化し、所望の型に成形することで得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の製造も期待できる。
【0146】
本発明の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストから得られる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外光照射下においても、紫外線遮断性無機原料粉末、或いは高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料に対して、曲げ強さ(σfm)、曲げ破壊ひずみ(εfB)、及び曲げ弾性率(E)などの特性が維持されており、即ち、紫外光における前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料の劣化を抑制することができる。ゆえに、本発明によって提供される前記紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料は、紫外線遮断性無機粉末添加による強度及び、紫外線遮断性能向上と、有機ポリマーの存在による曲げ破壊ひずみの維持という相反特性の問題を解消するものであり、低コスト並びに高特性の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料を実現することができる。
【符号の説明】
【0147】
10:力の係る方向、11:試験片、12:圧子、13:支持台、R:圧子の先端半径、R:支持台コーナーの半径、L:支点間距離、h:試験片の厚さ、l:試験片の長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線遮断性無機原料粉末をミルプロセスで粒子表面の損傷なく解砕して得られた紫外線遮断性無機粒子を含有するスラリーを、凍結乾燥することによって得られた紫外線遮断性軟凝集粉末。
【請求項2】
前記紫外線遮断性無機原料粉末の解砕強度に対して、1〜50%の範囲で解砕強度が低下し、且つその解砕強度が1〜30MPaである請求項1に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【請求項3】
前記スラリーが、前記紫外線遮断性無機原料粉末を湿式ジェットミルを用いた前記ミルプロセスによって、前記スラリー同士の衝突圧力が50〜300MPaとなるように解砕したものである請求項1又は2に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【請求項4】
前記紫外線遮断性無機原料粉末に分散剤を加えて解砕した前記スラリーを凍結乾燥することによって得られた請求項1〜3の何れか一項に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の紫外線遮断性軟凝集粉末と、有機ポリマーとを含有し、前記紫外線遮断性軟凝集粉末の含有割合が、1〜50体積%である紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【請求項6】
前記紫外線遮断性軟凝集粉末を構成する紫外線遮断性無機粒子の表面に、化学修飾を施すことなく作製された請求項5に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【請求項7】
チクソ比が0〜3%である請求項5又は6に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペースト。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか一項に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合ペーストからなる紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【請求項9】
前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとからなる紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、
前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとからなる高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、
前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、
の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ強さが5〜50%向上した請求項8に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【請求項10】
その曲げ破壊ひずみ測定における相対標準偏差が0〜10%である請求項8又は9に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【請求項11】
紫外光照射前の曲げ強さに対する紫外光照射後の曲げ強さの減少率が0〜20%である請求項8〜10の何れか一項に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【請求項12】
紫外光照射前の破壊ひずみに対する紫外光照射後の曲げ破壊ひずみの減少率が0〜20%である請求項8〜11の何れか一項に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。
【請求項13】
前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末と前記有機ポリマーとからなる紫外線遮断性無機原料粉末−有機ポリマー複合材料、
前記紫外線遮断性軟凝集粉末を作製するための紫外線遮断性無機原料粉末を未解砕のまま含有するスラリーを凍結乾燥することによって得られた高凝集性紫外線遮断性無機粉末と前記有機ポリマーとからなる高凝集性紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料、及び、
前記有機ポリマーのみからなる有機ポリマー材料、
の内の少なくとも何れか1種の材料に対して、その曲げ弾性率が15〜70%向上した請求項8〜12の何れか一項に記載の紫外線遮断性無機粒子−有機ポリマー複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−248317(P2010−248317A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97181(P2009−97181)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】