説明

紫外線遮蔽性の樹脂粒子及びこれを配合した化粧料

【課題】皮膚刺激性がなく、耐光性に優れ、可視域において透明性が高く、紫外線の遮蔽性に優れた簡素な組成の無機複合樹脂粒子を提供すること、及び、可視光透過性が高く紫外線遮蔽性に優れた化粧料を提供すること。
【解決手段】1次粒子径が2〜50nmである、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを熱可塑性樹脂粒子内部に含有し、平均粒子径が1〜20μmであり略球状であることを特徴とする樹脂粒子、及び、この樹脂粒子を配合した化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に対して刺激が少なく、可視域で透明であり、紫外線遮蔽性を有する略球状の樹脂粒子及びこれを配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧品に対するニーズは多様化しており、これまでにも増して多くの特性が要求される傾向にある。皮膚に対してより刺激性の少ない化粧料とすることも重要である。
このために、顔料等の無機充填剤を熱可塑性樹脂の粒子内部に含有させて皮膚に直接触れなくする試みがある。このような内包型複合粉体としては、例えば、樹脂粉体内部に酸化チタンや酸化亜鉛微粉体を分散させた複合粒子(特許文献1)、樹脂粉体内部に着色顔料を分散させた複合粒子(特許文献2)等の内包型複合粉体に関する出願公開がある。しかしながら、特許文献1においては紫外線の遮断効果とすべり性、撥水・撥油性を得るために、(1)樹脂粉末の内部に酸化チタン又は酸化亜鉛の粉末を分散し、(2)次いでこの樹脂粉末の表面に酸化ジルコニウムの粉末を担持し、(3)さらに次いで(2)の粉末を酸化アルミニウムで表面処理し、(4)更に(3)で得られた粉末をシリコーン油などで疎水化処理する、という複雑な粒子組成を必要とした。また、特許文献1又は2においては、熱可塑性樹脂と充填剤の組合せが限定されていた。熱可塑性樹脂と添加剤とを自由に組み合わせて所望の粒子径を有する略球形の複合粉体が、化粧料に配合する成分として強く望まれている。
この課題を解決するために、本発明者らは、着色顔料や体質顔料等の充填剤を熱可塑性樹脂中に分散した微小な球状複合粉体を製造し、これを配合した化粧料を開示した(特許文献3参照)。特許文献3には、チタンホワイト等の着色顔料が熱可塑性樹脂に分散された実施態様が開示されている。
【0003】
近年、地球環境の悪化、特にオゾン層の破壊に伴い紫外線の地上表面への到達量が増加してきており、皮膚ガンの発生率等が増える傾向が見られる。紫外線を遮蔽するサンスクリーン剤として有用なファンデーション等の化粧料に配合するための複合粒子が公知である(特許文献4参照)。この特許文献4には、ナイロン樹脂等からなる母剤粒子を有し、この母剤粒子の表面には酸化ジルコニウム又は酸化アルミニウムの粉末が担持され、この母剤粒子の内部には酸化チタン又は酸化亜鉛の粉末が分散されている複合粒子が開示されている。このような複合粒子は可視域(400〜700nm)の透過性が25%以下と低い上、紫外線遮蔽性も十分とは言えず、また、粒子表面に酸化ジルコニウムを担持させる複雑な製造工程が煩雑である。
【0004】
可視域の透過性が高く優れた紫外線遮蔽剤が望まれ、有機紫外線吸収剤がこの要求に近い光線吸収特性を有している。例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類の有機紫外線吸収剤が候補になりうるが、これらの有機紫外線吸収剤はその耐光性が十分でない他に、人の皮膚に対して刺激を与える懸念が高い。また、熱可塑性樹脂の粒子に配合しても、吸収剤と樹脂との相溶性が十分でなく、滲み出し現象(ブリードアウト)が起こることが多い。
【0005】
【特許文献1】特開平9−30935号公報
【特許文献2】特開平10−231232号公報
【特許文献3】特開2001−199836号公報
【特許文献4】特開平2−49717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、まず第1に、皮膚刺激性がなく、耐光性に優れ、可視域において透明性が高く、紫外線の遮蔽性に優れた簡素な組成の無機複合樹脂粒子を提供することであり、第2に、可視光透過性が高く紫外線遮蔽性に優れたファンデーション等の化粧料を提供することである。
本発明の更に詳細な課題は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の項1)、項7)及び項8)に記す手段により解決された。以下に好ましい実施態様である項2)〜6)と共に列挙する。
項1)1次粒子径が2〜50nmである、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを熱可塑性樹脂粒子内部に含有し、平均粒子径が1〜20μmであり略球状であることを特徴とする樹脂粒子、
項2)1次粒子径が5〜20nmである酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを含有する項1)に記載の樹脂粒子、
項3)熱可塑性樹脂100重量部に対して酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを1〜75重量部含有する項1)又は2)に記載の樹脂粒子、
項4)無機粒子に対する表面処理剤による表面処理を施した、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを含有する項1)〜3)いずれか1つに記載の樹脂粒子、
項5)酸化亜鉛及び酸化チタンを含有する項1)〜4)いずれか1つに記載の樹脂粒子、
項6)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン類、ポリアミド類、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及び、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体よりなる群より選ばれた項1)〜5)いずれか1つに記載の樹脂粒子、
項7)項1)〜6)いずれか1つに記載の樹脂粒子を配合した化粧料、
項8)1)熱可塑性樹脂及び1次粒子径が2〜50nmである紫外線吸収性無機酸化物粒子の少なくとも1種から実質的になる熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度で混練して、平均粒子径が1〜20μmの熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂粒子に分散する工程(1)、及び、2)得られた樹脂粒子をその融点以下の温度に冷却して、平均粒子径が1〜20μmの略球状の樹脂粒子とする工程(2)、を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、皮膚刺激性がなく、紫外線耐久性に優れ、可視域において透明性が高く紫外線吸収性に優れ、ブリードアウトのない樹脂粒子を提供することができた。また、本発明によれば、可視光透過性が高く紫外線遮蔽性に優れ、のびのよいファンデーション等の化粧料が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂粒子は、紫外線遮蔽性に優れた樹脂粒子であり、1次粒子径が2〜50nmである、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを熱可塑性樹脂粒子内部に含有し、平均粒子径が1〜20μmであり略球状であることを特徴とする。本発明の樹脂粒子は、熱硬化性樹脂ではなく、熱可塑性樹脂を使用したものであり、真球状を含む略球状の形状を有し、その平均粒子径は1〜20μmである。この樹脂粒子は、その内部に紫外線吸収性の無機酸化物粒子を分散状態で含有する。無機酸化物としては、上述のように、1次粒子径が2〜50nmである、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンが好ましい。
【0010】
熱可塑性樹脂は、加熱により可塑性を有する樹脂であり、樹脂粒子を形成するために、紫外線吸収性の無機酸化物粒子を内包する結合剤(バインダー)として機能する。熱可塑性樹脂としては、多くの非結晶性の透明な合成高分子が好ましい。本発明で使用できる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等の各種ナイロンを含むポリアミド類;ポリ乳酸;エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・プロピレンコポリマー等のエチレンとエチレン性不飽和化合物との共重合体;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体又は共重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類;ポリカーボネート類;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリふっ化ビニリデン等のハロゲン原子若しくは芳香族基で置換されたエチレン性不飽和化合物の単独重合体又は共重合体;ポリ酢酸ビニルのケン化品、ポリビニルブチラール、ポリアセタール等のポリビニルアルコール類及びエチレンとの共重合体;ポリスルホン;アクリロニトリル・スチレンコポリマー、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー)等の不飽和アクリル類の共重合体;スチレン・ブタジエンブロックポリマー等の熱可塑性弾性体が例示できる。これらの熱可塑性樹脂の中で、ポリオレフィン類、ポリアミド類、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及び、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体がより好ましく、ポリアミド類が特に好ましい。
【0011】
本発明の樹脂粒子を後述の溶融分散法で製造する観点から、熱可塑性樹脂の融点が30〜300℃の範囲にあることが好ましく、30〜200℃の範囲にあることがより好ましい。ここで融点とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる値を言う。
【0012】
熱可塑性樹脂は、2種以上の、同種又は異種の、熱可塑性樹脂の混合物であっても良い。異種の熱可塑性樹脂混合物(ポリマーブレンド)の成分が非相溶である場合には、相溶化剤を用いて両相の分散を良化させることが好ましい。更に好ましくは混合状態を制御したいわゆるポリマーアロイを本発明に用いることができる。ポリマーアロイを用いて、耐熱性、強靱性、造粒性を改良することができる。ポリマーアロイの例としては、ポリフェニレンオキサイド(PPO)/ポリスチレン(PS)、ポリベンズイミダゾール(PBI)/ポリイミド(PI)、PPO/ABS、ABS/ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)/PC、PET/PC、PBT/PET、PBI/PI、ナイロン/変性ポリオレフィン、PBT/変性ポリオレフィン、ナイロン/PPO、ABS/ナイロン、ABS/PBT、ナイロン/PPO、ナイロン/ABS、ナイロン/PCを挙げることができ、その他の具体例は、高分子学会編、先端高分子材料シリーズ3「高性能ポリマーアロイ」、(平成3年、丸善)等に記載されている。
【0013】
本発明の樹脂粒子は、真球状又は略球状であることが好ましい。略球状とは、軸比が0.5〜2であることをいい、0.75〜1.33であることが好ましい。
本発明で使用する樹脂粒子は、平均粒子径が1〜20μmであり、5〜10μmであることが好ましい。平均粒子径とは長軸の重量平均値をいう。粒子径は光学顕微鏡、電子顕微鏡により測定することができる。平均粒子径が上記の範囲にあると、ローリング効果を有し、配合した化粧品ののびがよく、さらさらした感触を与えるので好ましい。
【0014】
本発明の樹脂粒子は、その内部に紫外線吸収性の無機酸化物を分散状態で含有する。無機酸化物としては、いわゆる超微粒子の酸化亜鉛及び/又は超微粒子の酸化チタンが例示でき、酸化亜鉛が好ましく、酸化亜鉛に酸化チタンを併用することも好ましい。
最近わが国で工業的に製造される超微粒子の酸化亜鉛は、粒子径が2〜50nmという微細な粒子径を有し、その粒度分布がシャープであり、従来白色顔料として使用されてきた亜鉛華の粒子径450〜600nmに比べて桁違いに小さく、樹脂や液体の分散媒に分散させた場合に可視域(400〜700nm)で透明であるが、紫外線の遮蔽に優れ、抗菌・防臭・消臭の特性を有する。この超微粒子の酸化亜鉛の吸収端は約380nmであり、UV−B(290〜320nm)のみならず、UV−A(320〜400nm)も吸収するので、広い波長幅の紫外線を遮蔽する性質がある。一方で、その粒子径は可視光線の数十分の1であり、屈折率も1.9と低いために、樹脂粒子内に分散しても、可視光の散乱が少なく、肉眼では無色で透明な樹脂粒子を与える。
超微粒子の酸化亜鉛は市販されており、住友大阪セメント(株)からのZnO-310、ZnO-350、ZnO-410など、及び堺化学工業(株)からのFINEXシリーズ(FINEX-30、FINEX-30S-LP2、FINEX-30W-LP2、FINEX-50、FINEX-50S-LP2等)が該当する。
【0015】
超微粒子の、酸化亜鉛は、表面処理を施すことが好ましく、公知の無機表面処理でも有機表面処理でも採用でき、有機シリコン化合物による表面処理がより好ましい。表面処理剤による表面処理に加えて更にラウリン酸やステアリン酸等の脂肪酸による被覆を適宜実施することができる。脂肪酸による超微粒子の被覆は、脂肪酸のイソプロピルアルコール溶液に微粒子を浸漬した後乾燥することにより達成できる。
【0016】
超微粒子の酸化チタンは、粒子径が2〜50nmという微細な粒子径を有し、その粒度分布がシャープであり、従来白色顔料として使用されてきた顔料用酸化チタンの粒子径200〜300nmに比べて桁違いに小さく、樹脂や液体の分散媒に分散させた場合に可視域(400〜700nm)で透明であるが、紫外線の遮蔽に優れ、抗菌・防臭・消臭の特性を有する。この超微粒子の酸化チタンの吸収端は約350nmであり、UV−B(290〜320nm)の紫外線を遮蔽する性質がある。その粒子径は可視光線の数十分の1であり、屈折率は2.7である。
超微粒子の酸化チタンは紡錘形の形状を有し、その粒子サイズは例えば30×90nmであり、UVB領域の遮蔽性が高く、可視光透明性を兼ね備えている。市販品としては、石原産業(株)からのTTO−55、51、F、Sシリーズなど、及び堺化学工業(株)からのSTR−60、STR−100等が例示できる。
超微粒子の酸化チタンも表面処理を施すことが好ましく、酸化アルミニウムによる無機の表面処理やオルガノポリシロキサンによる有機表面処理が例示できる。表面処理により、1次粒子の凝集を防止して、かつ熱可塑性樹脂への分散を容易にすることができる。
【0017】
本発明の樹脂粒子は、熱可塑性樹脂100重量部に対して超微粒子の酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを1〜75重量部含有することが好ましい。酸化亜鉛の含有量としては、好ましくは10〜40重量部であり、更に好ましくは20〜30重量部である。この配合量とすることにより、紫外線遮蔽性と可視光透過性を確保することができる。また、更に好ましい20〜30重量部の配合量では、超微粒子酸化亜鉛の樹脂粒子表面への露出を抑制することができ、酸化亜鉛が化粧料中の水分と接触した場合の亜鉛イオンの溶出が無い。亜鉛イオンは化粧料に配合される増粘剤の安定性を著しく低下させるため、亜鉛イオンの溶出が無いことは、化粧料に配合する上で極めて重要である。
【0018】
酸化チタンは主としてUV−Bを遮蔽すること、及び体質顔料としても使用できることから、透明性を重視するか、または、UV−Bを遮蔽しつつ体質顔料の機能を付加するかにより、好ましい配合量は異なる。UV−B遮蔽と透明性を両立させる場合は、好ましい配合量は10〜20重量部であり、UV−B遮蔽と体質顔料の機能を両立させる場合は、好ましい配合量は50〜75重量部である。酸化チタン配合量の増加に伴い、酸化チタンが樹脂粒子の表面に露出する割合が増加するが、酸化チタンは化粧料中の水分と反応せず、したがって増粘剤の安定性に影響を与えるイオンの生成も無いため、75重量部という多量の配合が可能である。
【0019】
本発明の樹脂粒子に充填される超微粒子の酸化亜鉛や酸化チタンは、着色顔料として使用される酸化チタン(チタンホワイト)や酸化亜鉛とは、その粒子径が異なり、よって可視光透過性や紫外線吸収強度において全く異なることに留意されたい。
超微粒子の酸化亜鉛及び/又は超微粒子の酸化チタンは、有機紫外線吸収剤と比較して、紫外線に対する耐光性・耐熱性に優れ、樹脂粒子又はファンデーション膜よりブリードアウトしない優位性を有する。
【0020】
本発明の化粧料において、必要に応じて、機能の異なる又は同一の、2以上の異なった樹脂粒子を併用することができる。充填する超微粒子の酸化亜鉛等は熱可塑性樹脂の球状粒子内部に含有させることが好ましい。また、これらの超微粒子が樹脂粒子の表面にも一部存在することを排除するものではない。
【0021】
本発明の樹脂粒子は、実質的に熱可塑性樹脂及び紫外線遮蔽性の無機酸化物からなることが好ましい。「実質的に熱可塑性樹脂及び紫外線遮蔽性の無機酸化物からなる」とは、その他の成分が20重量%以下、好ましくは10重量%以下であって、紫外線遮蔽性の無機酸化物の特性が阻害されないことを意味する。
【0022】
本発明に使用する樹脂粒子の製造法は、以下の工程1)及び2)を含む製造方法が例示できる:
1)熱可塑性樹脂及び1次粒子径が2〜50nmである紫外線吸収性無機酸化物粒子の少なくとも1種から実質的になる熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度において混練して、平均粒子径が1〜20μmの熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂粒子に分散する工程(1)、及び
2)得られた樹脂粒子をその融点以下の温度に冷却して、平均粒子径が1〜20μmの略球状の樹脂粒子とする工程(2)、を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。
この溶融混練法は、前記特許文献3に記載されている。
【0023】
前記の工程(1)の分散工程において、分散媒は熱可塑性樹脂組成物を微粒子に分散させるための連続相を形成し、熱可塑性樹脂と相溶性を有しない。相溶性を有しないとは、前記工程(1)の加熱温度において、1重量%以上の溶解度を有しないことをいう。本発明の分散媒は2以上の分散媒の混合物であっても良く、熱可塑性樹脂組成物に対して、室温から工程(1)の加熱温度の範囲にわたり、相溶性を有しないことが望ましい。本発明の分散媒は、熱可塑性樹脂組成物に対して、容量で、0.5倍以上5倍以下使用される。
【0024】
本発明に使用する分散媒の好ましい例は、ポリアルキレンオキサイド類、例えばポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びその誘導体(アセタール化体等)、ポリブテン、ワックス、天然ゴム、合成ゴム、例えばポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、石油樹脂等であり、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。ポリアルキレンオキサイド類は、異なった重合度のものが市販されており、これらの成分を適宜組み合わせることにより、工程(1)の分散温度において分散媒が所望の粘弾性を有するように調節することができる。
【0025】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物の融点は、示差走査熱量測定(DSC)法により測定した値をいう。熱可塑性樹脂及び無機充填剤から実質的になる熱可塑性樹脂組成物の融点は、熱可塑性樹脂の融点で近似することができる。前記の融点は、種々の熱可塑性樹脂の融点として、ハンドブック類、製造メーカーの技術資料等に記載されている(例えば、実用プラスチック辞典、材料編、増補改訂、320ページ、表1−4(1993年、産業調査会発行)。例えば、ナイロン12の融点は、約180℃である。本発明において、熱可塑性樹脂の融点は30℃以上300℃以下であることが好ましい。工程(1)の微粒子分散工程の温度は、使用する熱可塑性樹脂の融点よりも、10℃ないし200℃高い温度に加熱し、好ましくは20℃ないし150℃高い温度に加熱し、混合することが好ましい。加熱温度が低すぎると、熱可塑性樹脂組成物は微粒子に分散されにくく、絡まった繊維状になりやすい。加熱温度が高すぎると、熱分解等が起こるために好ましくない。
【0026】
本発明に使用するほぼ球状の複合粉体の製造方法において、工程(1)において樹脂組成物を分散媒中に微粒子に分散するための方法・装置は特に限定されない。例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等によって分散することができる。本発明の造粒方法では、湿式撹拌造粒に属すると考えられ、微粒子を分裂する力である、撹拌による剪断力と、微粒子を保持する力である、組成物の粘弾性及び界面張力とのバランスにより、粒子サイズが決定されると考えられる。均一な粒子サイズ分布を得るためには攪拌により組成物に均一に剪断をかけることが好ましく、このためには、密閉型の分散機を用いて、かつその分散機内部の温度分布を均一にすることが好ましい。
【0027】
本発明において、工程(2)の後に、熱可塑性樹脂組成物と分散媒の混合物を、融点以下に冷却した後、該組成物の貧溶媒でかつ分散媒の良溶媒である展開溶媒とこの混合物を混合して、複合粉体の懸濁液としても良い。この場合、該混合物を冷却した後、クラッシャー等で粉砕したり、ペレタイザーでペレット化したり、押出機、ロール等でシート状に成形してから展開溶媒中に浸漬してもよい。
【0028】
展開溶媒としては、水、有機溶媒及びこれらの混合物を用いることができる。分散媒として、ポリアルキレンオキシド類を用いると、水を展開溶剤として使用することができる。複合粉体の懸濁液から目的とする略球状の複合粉体を、遠心分離、濾過、又はこれらの方法を組み合わせて分離することができる。分離した複合粉体は、必要に応じて、乾燥してから使用する。
【0029】
本発明の複合粉体の製造方法によれば、平均粒子径が1μm以上であって20μm以下の略球状の粒子(以下、単に「球状粒子」ともいう。)を得ることができる。ここで、「略球状」とは、粒子の直交3軸の比が0.5〜2以下のものをいい、0.75〜1.33であることが好ましい。略球状の粒子には、真球状の粒子を含むことはいうまでもない。得られた樹脂粒子は、必要に応じて、分級することにより、所望の平均粒子径範囲にすることができる。分級には、公知の乾式又は湿式の分級方法と分級装置を用いることができる。
【0030】
化粧品配合用には、一般に1〜20μmの平均粒子径の樹脂粒子が使用される。更に好ましくは、5〜10μmの平均粒子径の樹脂粒子が使用される。合成高分子の球状樹脂粒子は、ローリング効果を有し、さらにポリエチレンやナイロン等で代表されるように樹脂表面の自由エネルギーが小さいことから、表面潤滑性に優れるとともに他素材との摩擦係数が小さい。したがって合成高分子の球状樹脂粒子を配合した化粧料は、のびがよく、サラサラした触感があり、使用者にとって快適な塗布感と使用感を与える。
また、プレス化粧料製品への配合では、球状樹脂微粒子がプレス成形物の内部応力を分散緩和するため、プレス性と作業性が向上し、ワレの防止に有効である。内部応力の緩和効果は、使用時に固形ファンデーションなどのプレス製品を誤って落下させてしまったような場合のワレ防止にも有用であり、高い耐落下衝撃性を与えることができる。
球状樹脂粒子は、上述のような塗布感、使用感、プレス性、耐衝撃性などの特性を維持しつつ、充填された無機酸化物により紫外線遮蔽性の機能を付加することができる。その他、化粧品配合用としては、化粧品に従来から使用されてきた粉体、油剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、増粘剤、殺菌剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、色素を同時に配合することができる。
本発明の球状樹脂粒子は、特に増粘剤との相互作用の抑制に効果があることは段落0017に述べたとおりである。
樹脂粒子を配合した化粧料の処方例と触感に与える効果は、特開2002−370920、特開2006−28035、特開平5−262622などに記載されている。
【0031】
本発明において、熱可塑性樹脂、充填剤、分散媒、展開溶剤、等の要素の好ましい例、又は、工程条件の好ましい範囲から任意の2以上を組み合わせた態様は、更に好ましい実施態様である。
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれに限られるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1:酸化亜鉛内包ナイロン粒子1
ダイセル・デグサ(株)製のダイアミド1640(ナイロン12)0.75Kgと超微粒子酸化亜鉛(堺化学工業(株)製 FINEX-50S-LP2;平均粒子径20nm)0.25Kgとを、明成化学工業(株)製のポリエチレンオキサイドR150の1.3Kgと良く混合した後、2軸型の加圧混練機中で、230℃に均一に加熱しながら混練し、上記酸化亜鉛を内部に分散したナイロン微粒子を製造した。得られた混合物を約150℃に冷却した後、分散媒である水20リットルと混合して超微粒子酸化亜鉛内包ナイロン複合粉体の懸濁液とした。遠心分離法により目的とする複合粉体を分離した後、加熱乾燥して、超微細酸化亜鉛を内包した平均粒子径が約5μmのほぼ真球状のナイロン粒子1を得た。
【0033】
実施例2:酸化亜鉛内包ナイロン粒子2
上記のナイロン粒子1の製造において、超微粒子酸化亜鉛として、超微粒子酸化亜鉛(住友大阪セメント(株)製 ZnO-350;粒子径10〜30nm)0.25Kgを使用する以外は全く同様にして、超微細酸化亜鉛を内包した平均粒子径が約7μmのほぼ真球状のナイロン粒子2を得た。
【0034】
実施例3:酸化チタン内包ナイロン粒子3
ダイセル・デグサ(株)製のダイアミド1640(ナイロン12)0.75Kgと超微粒子酸化チタン(堺化学工業(株)製STR-60C-LP;粒子サイズ30×90nm)0.25Kgとを使用する以外は全く同様にして、超微細酸化チタンを内包した平均粒子径が約6μmのほぼ真球状のナイロン粒子3を得た。
【0035】
実施例4
上記の酸化亜鉛内包ナイロン粒子1を使用して下記の固形ファンデーション1を製造した。
(固形ファンデーション1)
酸化亜鉛内包ナイロン粒子1 15重量%
顔料用酸化チタン 8重量%
セリサイト 45.2重量%
タルク 10重量%
雲母チタン 2重量%
ベンガラ 2重量%
黄酸化鉄 3.5重量%
群青 1重量%
ステアリン酸アルミニウム 1重量%
ジメチルポリシロキサン 5重量%
スクワラン 7重量%
パラベン 0.2重量%
香料 0.1重量%
上記成分をヘンシェルミキサーを用いて混合し、これに油分を加えて更に混合した。これを中皿に充填し、固形ファンデーション1を得た。
【0036】
実施例5
(固形ファンデーション2)
酸化亜鉛内包ナイロン粒子1の替わりに酸化亜鉛内包ナイロン粒子2を使用した以外は実施例1と同様にして、固形ファンデーション2を製造した。
【0037】
実施例6
上記の酸化亜鉛内包ナイロン粒子1及び酸化チタン内包ナイロン粒子3を使用して下記の固形ファンデーション3を製造した。
(固形ファンデーション3)
酸化亜鉛内包ナイロン粒子1 5重量%
酸化チタン内包ナイロン粒子3 10重量%
顔料用酸化チタン 8重量%
セリサイト 45.2重量%
タルク 10重量%
雲母チタン 2重量%
ベンガラ 2重量%
黄酸化鉄 3.5重量%
群青 1重量%
ステアリン酸アルミニウム 1重量%
ジメチルポリシロキサン 5重量%
スクワラン 7重量%
パラベン 0.2重量%
香料 0.1重量%
上記成分をヘンシェルミキサーを用いて混合し、これに油分を加えて更に混合した。これを中皿に充填し、固形ファンデーション3を得た。
【0038】
実施例7:酸化亜鉛内包ポリエチレン粒子4
上記のナイロン粒子1の製造において、ダイアミド1640(ナイロン12)0.75Kgに替えて、ショアー硬度がDスケールにて42である低密度ポリエチレン0.75Kgを使用する以外は全く同様にして、酸化亜鉛を内包した平均粒子径が約10μmのほぼ真球状のポリエチレン粒子4を得た。
【0039】
実施例8:
上記のナイロン粒子1及びポリエチレン粒子4を使用して下記の固形ファンデーション4を製造した。
(固形ファンデーション4)
酸化亜鉛内包ナイロン粒子1 5重量%
酸化亜鉛内包ポリエチレン粒子4 10重量%
顔料用酸化チタン 8重量%
セリサイト 45.2重量%
タルク 10重量%
雲母チタン 2重量%
ベンガラ 2重量%
黄酸化鉄 3.5重量%
群青 1重量%
ステアリン酸アルミニウム 1重量%
ジメチルポリシロキサン 5重量%
スクワラン 7重量%
パラベン 0.2重量%
香料 0.1重量%
上記成分をヘンシェルミキサーを用いて混合し、これに油分を加えて更に混合した。これを中皿に充填し、固形ファンデーション4を得た。
【0040】
得られた酸化亜鉛内包ナイロン粒子1(実施例1)、金属酸化物を含まないダイセル・デグサ(株)製のダイアミド1640(ナイロン12)単体の粒子(比較例1)、及び樹脂に外包されない堺化学工業(株)製超微粒子酸化亜鉛FINEX-50S-LP2(比較例2)を、トリオクタノイン(日清オイリオグループ(株)製)に混合分散させた後に石英板に20μmの厚さで塗布し、この試験片の分光透過率を測定した。トリオクタノインと各粒子の混合分散割合は、トリオクタノインが75重量%に対し各粒子を25重量%とした。
【0041】
各試験片の分光透過率を図1に示した。
実施例1では可視光域の透明度が良好に保持されると同時に、紫外域の透過が抑制された。比較例1では、可視光域の透明度は良好ではあるものの紫外域の透過抑制効果は発現しなかった。比較例2では可視光域の透明度と紫外域の高い透過抑制が観察されるが、段落0017にて述べたように、化粧料として利用するには亜鉛イオンの溶出課題がある。
【0042】
実施例にて得られた固形ファンデーションの使用感を、10名の評価パネラーがファンデーションをスポンジで顔面に塗布し、そのときの伸び感、さらさら感、ソフト感について良いと感じたパネラーの人数を集計し、以下表1に示す基準により評価した。評価結果を表2に示した。
尚、比較例3は、実施例4にて樹脂粒子を配合しなかった処方である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
本発明の酸化亜鉛内包ナイロン粒子、酸化チタン内包ナイロン粒子、及び酸化亜鉛内包ポリエチレン粒子を含む化粧料は、塗布時の伸び感、さらさら感、ソフト感に優れていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】酸化亜鉛又は酸化チタンを粒子内部に含む熱可塑性樹脂粒子の分光透過率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次粒子径が2〜50nmである、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを熱可塑性樹脂粒子内部に含有し、平均粒子径が1〜20μmであり略球状であることを特徴とする樹脂粒子。
【請求項2】
1次粒子径が5〜20nmである酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを含有する請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項3】
熱可塑性樹脂100重量部に対して酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを1〜75重量部含有する請求項1又は2に記載の樹脂粒子。
【請求項4】
表面処理を施した、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを含有する請求項1〜3いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項5】
酸化亜鉛及び酸化チタンを含有する請求項1〜4いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン類、ポリアミド類、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及び、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体よりなる群より選ばれた請求項1〜5いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1つに記載の樹脂粒子を配合した化粧料。
【請求項8】
1)熱可塑性樹脂及び1次粒子径が2〜50nmである紫外線吸収性無機酸化物粒子の少なくとも1種から実質的になる熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共にこの組成物の融点以上の温度において混練して、平均粒子径が1〜20μmの熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂粒子に分散する工程(1)、及び2)得られた樹脂粒子をその融点以下の温度に冷却して、平均粒子径が1〜20μmの略球状の樹脂粒子とする工程(2)、を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−184435(P2008−184435A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20022(P2007−20022)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】