説明

紫外線遮蔽材料の製造方法

【課題】有機高分子材料の特性(透明性、強度など)を低下させることなく、汎用的な紫外線遮蔽材料の製造方法を提供する。
【解決手段】チタンアルコキシドと塩触媒を含有し、前記塩触媒が、N−N結合、N−O結合、N−C=N結合、又はN−C=S結合を有するアミン系化合物からなるチタニアゾル溶液をポリマー溶液と混合し、ノズルから空気中に吐出させ、固化させる、あるいは、ノズルから凝固浴中へ吐出して固化させることにより、繊維形状の紫外線遮蔽材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機高分子材料は、加工しやすく、軽量で取扱い性に優れることから、フィルムや繊維など様々な分野に使用されている。例えば、有機高分子材料を用いて、包装用フィルムを作製する場合、内容物を紫外線から保護するためには、有機高分子材料に紫外線遮蔽性を付与する必要がある。
【0003】
有機高分子材料に紫外線遮蔽性を付与する方法として、有機系の紫外線吸収剤を添加する方法が行われてきたが、有機系の紫外線吸収剤は劣化しやすいという欠点があった。
また、別の方法として、紫外線吸収能をもつ無機化合物(無機粒子)を添加するという方法があるが、例えば、酸化チタンなどの紫外線吸収能をもつ無機化合物は、紫外線吸収と同時に光触媒能を示すために、紫外線が照射されると有機物を分解するため、有機高分子材料の強度を低下させてしまうことが問題であった。また、紫外線吸収能をもつ無機粒子を1次粒子まで均一に分散させることは非常に困難で、凝集体を生じるために、有機高分子材料の強度を低下させたり、フィルムにした場合には、透明性が低下することが問題となっている。
【0004】
この改善として、特許文献1には、透明性と強度に優れた有機−無機ハイブリッド型の紫外線遮蔽材料が提案されている。この技術では、無機粒子を使用せず、フィルムの原料となる有機高分子材料(親水性有機溶媒に可溶なセルロース若しくはポリビニルピロリドン又はそれらの誘導体)の溶液中で、ゾル−ゲル反応によりチタニアを合成し、ハイブリッド材料を作製しているため、強度と透明性に優れた材料を作製することができる。しかし、この方法は、特定の材料の組み合わせのみに限定された内容であることから、汎用性に乏しいという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−299048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、有機高分子材料の特性(透明性、強度など)を低下させることなく、汎用的な紫外線遮蔽材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
[1]低次元性のチタニアゾル溶液とポリマー溶液とを混合し、その混合溶液を成型することを特徴とする、紫外線遮蔽材料の製造方法、
[2]前記チタニアゾル溶液がチタンアルコキシドと塩触媒とを含有し、前記塩触媒が、N−N結合、N−O結合、N−C=N結合、又はN−C=S結合を有するアミン系化合物である、[1]の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の(1)〜(4)の効果を得ることができる。
(1)チタニアゾルを用いたことにより、光触媒能を示さず、紫外線を吸収するため、紫外線を照射しても、有機高分子材料の劣化を防止することができる。
(2)低次元性のゾルを用いることにより、有機ポリマーの強度を向上することができる。
(3)ゾルは有機高分子材料の溶液と均一に混合することができるため、紫外線遮蔽材料(特にフィルムや成型体の場合)の透明性を低下させることがない。
(4)有機高分子材料の種類に限定されず、単に混合するだけで紫外線遮蔽材料を製造できるため、汎用性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法では、低次元性のチタニアゾル溶液とポリマー溶液とを混合し、その混合溶液を成型することにより、紫外線遮蔽材料を製造することができる。
【0010】
本発明の製造方法で使用する低次元性チタニアゾル溶液は、低次元性であることによって、有機ポリマーの強度を向上させることができる。つまり、低次元性のチタニアゾルは有機ポリマーを含まなくても曳糸性であるため、有機ポリマーの強度を向上させることができる。
【0011】
本明細書において「低次元性」の判定は、以下に示す条件で実際に静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定することができる。
(判定法)
アースしたアルミ板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から低次元性を判断する溶液(固形分濃度:20〜50wt%)を押出す(押出量:0.5〜1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1〜3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、アルミ板上に極細繊維不織布を形成する。
この集積した極細繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、極細繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の極細繊維不織布を製造できる条件が存在する場合には、その溶液は「低次元性である」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、固形分濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記極細繊維不織布を製造できる条件が存在しない場合には、その溶液は「低次元性ではない」と判断する。
【0012】
このようなチタニアゾル溶液は、チタン元素を含む化合物(例えば、金属有機化合物)を含む溶液(原料溶液)を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
【0013】
前記金属有機化合物としては、例えば、チタンアルコキシドを挙げることができる。チタンアルコキシドとして、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド等を使用することができる。チタン元素に加え、有機成分(例えば、メチル基、フェニル基等)を有する2官能又は3官能のアルコキシドを使用することもできる。
【0014】
チタンアルコキシドは、空気中において、触媒なしでも反応してしまう金属アルコキシドであり、反応性を制御するために、塩触媒を用いることが好ましい。このような塩触媒としては、非共有電子対をもつN、O、Sが、N−N結合、N−O結合、N−C=N結合、又はN−C=S結合を形成してなるアミン系化合物を挙げることができる。
【0015】
N−N結合を有するアミン系化合物としては、例えば、ヒドラジン誘導体を酸で中和した塩、より具体的には、ヒドラジン一塩酸塩(HN−NH・HCl)、塩化ヒドラジニウム(HN−NH・2HCl)などを挙げることができる。
N−O結合を有するアミン系化合物としては、例えば、ヒドロキシアミン(HO−NH)を酸で中和した塩を挙げることができる。
N−C=N結合を有するアミン系化合物としては、例えば、アセトアミジン[HC−C(=NH)−NH]、あるいは、グアニジンを酸で中和した塩を挙げることができる。
N−C=S結合を有するアミン系化合物としては、例えば、チオ尿酸誘導体、チウラム誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体を、それぞれ、酸で中和した塩を挙げることができる。
これらの触媒は、中性から酸性のpHで使用することが望ましい。
【0016】
また、チタンアルコキシドの反応性、特には、ゾル−ゲル反応を制御するための添加剤として、例えば、金属アルコキシドに配位可能な配位子を用いることができ、例えば、グリコール類(例えば、ジエチレングリコール)、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン)、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン)、カルボン酸類、α−ヒドロキシカルボン酸エステル類(例えば、乳酸エチル)、ヒドキシニトリル類などを挙げることができる。
【0017】
なお、これらの低次元性チタニアゾル溶液は、2種類以上の低次元性チタニアゾル溶液を混合して使用することができるし、2種類以上のチタン化合物から低次元性チタニアゾル溶液を調製することもできる。
【0018】
低次元性チタニアゾル溶液の粘度は、低次元性に優れているように、100〜5000mPa・sであるのが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法で使用するポリマー溶液の調製に用いることのできるポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、又はポリスルホンを挙げることができ、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスチレン、又はポリビニルピロリドンが好ましい。
【0020】
ポリマーの溶解に用いる溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を挙げることができる。
【0021】
低次元性チタニアゾル溶液とポリマー溶液との混合は、特に限定されるものではないが、例えば、単純に混合するだけで、混合溶液を得ることができる。
【0022】
ポリマー溶液に対する低次元性チタニアゾル溶液の添加量は、ポリマーに対する酸化チタン換算濃度で、1〜30wt%であることが好ましく、5〜10wt%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、このようにして得られた、低次元性のチタニアゾル溶液とポリマー溶液との混合溶液を、続いて、所望の形状、例えば、フィルム、繊維、成型体等に成型することができる。
例えば、前記混合溶液をキャスティングにより製膜した後、熱処理により乾燥することにより、フィルム形状の紫外線遮蔽材料を得ることができる。
また、前記混合溶液を、ノズルから空気中へ吐出させ、固化させることにより、あるいは、ノズルから凝固液中へ吐出して固化させることにより、繊維形状の紫外線遮蔽材料を得ることができる。
また、所望形状の型に流し込み、保型させることにより、任意形状の紫外線遮蔽材料を得ることができる。例えば、熱硬化性ポリマーの場合、型に流し込んだ後、加熱することにより保型することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
《実施例1》
(1)低次元チタニアゾルの合成
チタン テトラ−n−ブトキシド[Ti(OnBu)]、ヒドラジン一塩酸塩、水、2−プロパノールを、1:0.02:1.5:25のモル比となるように混合した。Ti(OnBu)が無機原料として、ヒドラジン一塩酸塩が触媒として、それぞれ、機能する。3日間、室温攪拌した後、アセチルアセトンを無機原料と等モル添加し、更に1時間攪拌した後、酸化チタン(TiO)に換算した濃度が33%となるように濃縮し、低次元チタニアゾルを得た。
【0026】
(2)低次元性の確認
得られたゾルを下記の条件で静電紡糸を行った。
・紡糸液の吐出量:1g/hr
・ノズル先端とターゲットの距離:10cm
・紡糸雰囲気の温湿度:25℃/45%RH
・印加電圧:10kV
・極性:プラス印加
上記条件にて、1分以上の連続紡糸が可能であった。繊維が得られたことから、ゾルが低次元に合成できていることを確認した。
【0027】
(3)フィルムの作製
分子量50万のポリアクリロニトリル(アルドリッチ製)を、10%の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。この溶液に、ポリマーに対する酸化チタン換算濃度が5%となるように、前記(1)で調製した低次元チタニアゾルを混合し、撹拌により均一溶液とした。混合溶液をキャスティングにより製膜後、70℃で30分間、続いて150℃で10分間熱処理を行うことにより、膜厚20μmの複合フィルムを作製した。
【0028】
(4)フィルムの物性評価
幅15mmのフィルムの引張強度は、33MPaであった。
紫外・可視光の透過率は、330nm:0%、360nm:11%、500nm:91%であった。
【0029】
(5)引張強度の測定法
幅15mm、長さ50mmの試料を採取した。
この試料を引張強度試験機(テンシロン TM−111−100;オリエンテック社製)のチャックに固定し、チャック間距離20mm、引張強度20mm/分として定速引張し、破断に至るまでの最大張力(引張強度)を測定した。
【0030】
(6)透過率の測定法
分光光度計UV−3100S(島津製作所製)を使用して透過率を測定した。
【0031】
《実施例2》
フィルム作製時、ポリアクリロニトリルに対する酸化チタン換算濃度が10%となるように、低次元チタニアゾルを添加したこと以外は、実施例1と同様に、複合フィルムを作製した。
幅15mmのフィルムの引張強度は、31MPaであった。
紫外・可視光の透過率は、330nm:0%、360nm:3%、500nm:91%であった。
【0032】
《比較例1》
10%濃度となるようにポリアクリロニトリルをDMFに溶解した。このポリアクリロニトリル/DMF溶液をキャスティングにより製膜後、70℃で30分間、続いて150℃で10分間熱処理を行うことにより、膜厚20μmのフィルムを作製した。
幅15mmのフィルムの引張強度は、24MPaであった。
紫外・可視光の透過率は、330nm:87%、360nm:89%、500nm:91%であった。
【0033】
《比較例2》
酸化チタン粒子P−25(BASF製)をDMFに10%濃度で分散させ、10分間超音波処理を行った。この酸化チタン分散溶液は、低次元性ではなかった。
酸化チタン分散溶液とポリアクリロニトリル/DMF溶液を、ポリアクリロニトリルの濃度が10%、ポリアクリロニトリルに対する酸化チタンの濃度が5%となるように混合した。混合溶液をキャスティングにより製膜後、70℃で30分間、続いて150℃で10分間熱処理を行うことにより、膜厚20μmの複合フィルムを作製した。
幅15mmのフィルムの引張強度は、22MPaであった。
紫外・可視光の透過率は、330nm:0%、360nm:13%、500nm:67%であった。
【0034】
《比較例3》
ポリアクリロニトリルに対する酸化チタンの濃度が10%となるように混合した以外は、比較例2と同様にフィルムを作製した。
幅15mmのフィルムの引張強度は、18MPaであった。
紫外・可視光の透過率は、330nm:0%、360nm:4%、500nm:56%であった。
【0035】
《比較例4》
10%ポリアクリロニトリル/DMF溶液に、Ti(OnBu)を酸化チタンに換算した濃度でポリアクリロニトリルに対して5%となるように混合したところ、混合溶液は白濁し、数分以内にゲル化を生じたため、フィルムを作製することができなかった。
【0036】
《まとめ》
実施例1、実施例2、比較例1〜比較例3の結果を、まとめて表1に示す。なお、表中の「酸化チタン換算濃度」は、有機ポリマー(ポリアクリロニトリル)に対する酸化チタン換算濃度である。
【0037】
《表1》
酸化チタン 引張強度 透過率
換算濃度 (MPa) 330nm 360nm 500nm
実施例1 5% 33 0% 11% 91%
実施例2 10% 31 0% 3% 91%
比較例1 0% 24 87% 89% 91%
比較例2 5% 22 0% 13% 67%
比較例3 10% 18 0% 4% 56%
【0038】
低次元性のチタニアゾルを有機ポリマーと混合してフィルムを作製したことにより、高い紫外線遮蔽性と透明性を付与することができた。
また、低次元性のゾルを複合したフィルムは、ゾル無添加のフィルムと比較して、高強度化された。
更には、単に混合するだけで紫外線遮蔽材料を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法で得られる紫外線遮蔽材料は、例えば、包装用フィルム、ガラスの保護膜、繊維材料、成型容器などとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低次元性のチタニアゾル溶液とポリマー溶液とを混合し、その混合溶液を成型することを特徴とする、紫外線遮蔽材料の製造方法。
【請求項2】
前記チタニアゾル溶液がチタンアルコキシドと塩触媒とを含有し、前記塩触媒が、N−N結合、N−O結合、N−C=N結合、又はN−C=S結合を有するアミン系化合物である、請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−150705(P2010−150705A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330186(P2008−330186)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】