説明

細断処理装置、回転刃および回転刃の製造方法

【課題】従来より長い期間、対象物を安定して細断作用域に搬送することができ、長期間安定した細断機能を維持することのできる細断処理装置等を提供する。
【解決手段】紙処理装置は、本体部の周囲に複数の刃部220を略放射状に備えて回転する回転刃によって、紙を引き込んで細断する。回転刃の刃部220は、周側面(前面221,後面222,側面223)によって四角錐状に形成され、その先端部には先端面224が形成されて、鋭利な状態から先端が切断されたような形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙等を細断片に細断処理する細断処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば機密性のある文書を廃棄する際には、情報漏洩の防止やプライバシー保護等のためにその文書を細断処理装置(いわゆるシュレッダ)で細断処理することが一般的に行われている。
このようなシュレッダの一例として、特許文献1に開示のごとき構成のものが知られている。
特許文献1に開示のシュレッダは、水平面上に略平行に配置されて相互に反対方向へ駆動される一対の回転軸に、複数の回転刃を備えて構成されている。一方の回転軸および他方の回転軸に設けられた回転刃は、軸方向で交互配置となるように固着され、相互に反対方向へ回転する。そして、回転刃の上方に投入された古紙を、外周部の回転速度の遅い回転刃で引っ掛けて噛込部に搬送し、この噛込部にて引き裂くようにして破砕する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−272182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細断処理装置では、古紙等の対象物が多量に投入された場合でも、細断能力に応じた量の対象物を安定して細断作用域に搬送して細断できる構成が望まれる。
ここで、回転する刃(回転刃)によって古紙等の対象物を引っ掛けて搬送すると共に細断する細断処理装置では、回転刃は対象物の搬送と細断とによって徐々に摩耗し、その機能が低下する。
特に、搬送機能の変化が著しく、このため、回転刃に摩耗がなく鋭利な状態では、対象物を細断能力以上に過剰に搬送して過負荷となって機能停止を招来する虞がある一方で、回転刃の摩耗の進行に伴って搬送量が急激に低下する。
その結果、細断能力に応じた量の対象物を安定して細断作用域に供給(搬送)することが難しく、長期間に亘って安定した細断機能を維持することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであって、従来より長い期間、対象物を安定して細断作用域に搬送することができ、長期間安定した細断機能を維持することのできる細断処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明の細断処理装置は、対象物を細断部で細断処理する細断処理装置であって、対象物を細断部に引き込んで細断する回転刃と、回転刃を回転駆動する回転駆動手段と、を備え、回転刃は、円盤状本体の周囲に対象物と係合する刃部を複数備えており、刃部の先端には、刃部の複数の周側面とで角を成す角形成面が形成されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、回転刃の刃部は、四角錐状で先端に角形成面が形成されていることを特徴とすることができる。
また、角形成面は、略平坦であることを特徴とすることができる。
さらに、対象物を回転刃に押し付ける押圧部材をさらに備え、回転刃は刃部が対象物を突き刺すことで係合して引き込むように構成されていることを特徴とすることができる。
【0008】
本発明の回転刃は、円盤状本体の周囲に複数の刃部を備えており、刃部は、円盤状本体の周方向両側の側面と円盤状本体の厚さ方向両側の側面とで略四角錐状に形成され、先端に複数の側面とで角を成す角形成面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の回転刃の製造方法は、細断処理する対象物に係合して搬送すると共に細断する複数の刃部を周囲に備える回転刃の製造方法であって、円盤状の素材に刃部の側面を形成する工程と、刃部の先端に複数の側面との間に角を成す角形成面を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成された本発明の細断処理装置等によれば、本構成を備えないものに比較して、対象物を安定して細断作用域に搬送することができ、長期間安定した細断機能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係る細断処理装置としての紙処理装置10の外観図、図2は紙処理装置10の内部を示す概略構成図である。また、図3は押圧機構20Bを上側から見た図、図4は図3のA−A断面図である。
紙処理装置10は、装置本体を構成する本体部11の上面部12に、細断処理する対象物としての紙が投入される投入部13が形成されている。そして、投入部13に投入された紙の処理(細断処理等)を行い、処理済みの細断片を本体部11の内部に一時的に収容する。本体部11には、その内部に収容された細断片を外部へ排出する際に開閉する開閉扉14が設けられている。
【0012】
紙処理装置10の本体部11の内部には、投入部13に投入された紙を細断する細断機構20と、この細断機構20によって細断された細断片を圧縮して塊化する圧縮ユニット40とが設けられている。細断機構20と圧縮ユニット40との間には、細断機構20によって細断された細断片を圧縮ユニット40に導くホッパ30が設けられている。
さらに、圧縮ユニット40で塊化された細断片を移送するダクト50と、このダクト50により移送された細断片の塊を収容する収容ボックス60とを備えている。
【0013】
細断機構20は、第1の回転刃軸21と第2の回転刃軸22とを備える細断作用部20Aと、投入部13に投入された紙を細断作用部20Aに押圧付勢する押圧機構20Bと、細断作用部20Aの側方に配置された細断モータ20Mと、から構成されている。
細断作用部20Aは、第1の回転刃軸21と第2の回転刃軸22とが略水平平面内で平行に配置されて長方形の平面形状を呈している。
細断作用部20Aの第1の回転刃軸21と第2の回転刃軸22とは、それぞれ回転刃21a,22aを軸方向に所定間隔で複数備えている。
回転刃21a,22aは、円盤状の本体部の周囲に複数の刃部が略放射状に形成されている。
【0014】
両回転刃軸21,22に設けられた回転刃21a,22aは、交互に入り組んで配置されている。すなわち、第1の回転刃軸21の回転刃21aと第2の回転刃軸22の回転刃22aとは、それぞれ軸方向にずれて配置され、また、一方の回転刃21a,22aが他方の回転刃22a,21aの間に相互に所定量入り込んでいる。これにより、両回転刃軸21,22の回転刃21a,22aが軸方向に見て重なり合い、紙の細断を行う細断部23を形成している。
【0015】
第1の回転刃軸21および第2の回転刃軸22は、細断モータ20Mによって互いに逆回転に回転駆動される。たとえば、通常(正回転時)には、図2中に矢印で示すように、第1の回転刃軸21は時計方向に回転し、第2の回転刃軸22は反時計方向に回転する。これにより、細断部23では下側から上側に向かって回転刃21a,22aが移動するようになっている。
また、第1の回転刃軸21の回転速度(回転刃21aの周速度)と第2の回転刃軸22の回転速度(回転刃22aの周速度)とは異なっている。紙が投入される側の第1の回転刃軸21は遅く(低速)回転し、紙投入側から遠い第2の回転刃軸22は速く(高速)回転するようになっている。その速度差は例えば2倍の値を採用することができる。
なお、細断モータ20Mは、正逆反転が可能なものであり、第1の回転刃軸21および第2の回転刃軸22を図2の矢印方向とは反対の方向に回転させることも可能となっている。
【0016】
押圧機構20Bは、第1の回転刃軸21の上側に配置されており、ブラケット25で押圧部材としてのウェイト(第1のウェイト26,第2のウェイト27)を支持している。
ブラケット25は、板状の支持板部25aの縁部に装着部25bが形成され、その装着部25bで図示しないフレームに固定されて、第1の回転刃軸21の上側に設けられている。ブラケット25は、第1の回転刃軸21の軸方向に複数並列に設けられており、これらのブラケット25が、その支持板部25aで第1の支持軸26aと第2の支持軸27aとを支持している。
支持板部25aの下縁には、段部25cが形成されている。この段部25cは、第1の回転刃軸21の回転刃21aとの間隔が、回転刃21aの回転方向前方に向かって順次狭くなるようになっている。
【0017】
第1の支持軸26aと第2の支持軸27aとは、それぞれ第1の回転刃軸21と平行に設けられており、第1の支持軸26aは第1の回転刃軸21の略真上に位置し、第2の支持軸27aはそれより回転刃21aの回転方向前方に位置している。
第1の支持軸26aは、複数の第1のウェイト26を揺動自在に支持している。その第1のウェイト26は、隣接する回転刃21aの間の部位(間隔部位)と対応する位置に間隔部位一つ置きに配置されている。
第2の支持軸27aは、複数の第2のウェイト27を揺動自在に支持している。その第2のウェイト27は、第1のウェイト26が配置されない間隔部位と対応する位置に配置されている。
第1のウェイト26と第2のウェイト27とは、それぞれ重心位置から偏心した位置で第1の支持軸26a又は第2の支持軸27aに揺動自在に支持されている。そして、第1の支持軸26a又は第2の支持軸27aから垂下する自由状態では、それぞれその下部が回転刃21aの刃先移動域21b(図4に示す)の内側に所定量入り込むように設定されている。
【0018】
上記のごとく構成された細断機構20は、投入部13に投入された紙を、回転刃21aが突き刺して引っ掛け(紙に回転刃21aが係合し)、その回転によって引き込んで細断部23に搬送する。
その際、押圧機構20Bの第1のウェイト26及び第2のウェイト27が、回転刃21aの上側に供給される紙P(図4に示す)の上に揺動して乗り上げ、その重量で紙Pを回転刃21aに押圧し、回転刃21aの紙Pへの突き刺しを促進させる。
また、押圧機構20Bのブラケット25の支持板部25aの下縁に形成された段部25cが、過剰な量(厚さ)の紙が引き込まれることを阻止する。
【0019】
細断部23では、第1の回転刃軸21の回転刃21aが引き込んだ紙を、第2の回転刃軸22の回転刃22aがその回転速度差で引きちぎるようにして、図示しない所定間隔のフィルタを通過するまで破砕を繰り返して細断片とする。
つまり、第1の回転刃軸21(回転刃21a)が紙を細断部23に搬送し、第1の回転刃軸21(回転刃21a)と第2の回転刃軸22(回転刃22a)とで紙を細断するものである。
ここで、第1の回転刃軸21の回転刃21aと、第2の回転刃軸22の回転刃22aとは、基本的には同形状(回転方向に応じて配置方向は異なる)であるが、紙を細断部23に引き込む(搬送する)作用を行う回転刃21aには、本願発明の一構成例が適用されている。この回転刃21aの詳細については、後に詳述する。
【0020】
細断機構20の下方には、ホッパ30を挟んで圧縮ユニット40が設けられている。
ホッパ30は、傾斜した周囲側板によって漏斗状に形成されている。そして、細断機構20から落下する細断片を受けて集合させ、圧縮ユニット40に供給する。
圧縮ユニット40は、ホッパ30の下部開口部に接続された略筒状のハウジング41と、ハウジング41の内部に回動自在に配置されたスクリュー42と、スクリュー42を回転駆動する圧縮モータ40Mとを備えている。そして、圧縮ユニット40は、スクリュー42が圧縮モータ40Mによって所定速度で回転駆動され、ホッパ30を介して供給される細断片を、圧縮して密度の高い塊状にして送り出す。
【0021】
圧縮ユニット40に後続して、ダクト50および収容ボックス60が設けられている。
ダクト50は、詳細は図示しないが、略U字状を二つ組み合わせたように屈曲した管路であり、一方端が圧縮ユニット40のハウジング41の下流端に接続され、他端が収容ボックス60の上部に開口している。そして、圧縮ユニット40から送り出される細断片の塊を、収容ボックス60に至るように導く。
収容ボックス60は、ダクト50によって移送されて排出された細断片の塊を受け取るように配置されている。この収容ボックス60は、開閉扉14を開けて本体部11から取り出すことができるようになっている。
【0022】
上記のごとき構成の紙処理装置10は、図示しない制御装置によって制御され、投入部13に投入された紙を、細断機構20で細断片に細断し、その細断片を圧縮ユニット40によって塊状に圧縮して収容ボックス60に排出する。
すなわち、細断機構20は、第1の回転刃軸21と第2の回転刃軸22とが、その速度差で投入された紙を引きちぎって、図示しない所定間隔のフィルタを通過するまで破砕を繰り返して細断片とする。
その細断片は、ホッパ30に落下し、ホッパ30によって圧縮ユニット40に導かれる。
圧縮ユニット40は、ホッパ30から供給される細断片を、圧縮モータ40Mで回転駆動されるスクリュー42によってハウジング41内を移動させて圧縮し、塊状とする。
そして、圧縮ユニット40によって塊状とされた細断片は、圧縮ユニット40からの押し出し力によってダクト50内を移動し、収容ボックス60に排出されるものである。
【0023】
つぎに、本願発明の主要部分である細断機構20の第1の回転刃軸21に装着された回転刃21aについて、図5乃至図7を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では、回転刃21aを回転刃200とする。
図5は回転刃200の側面図である。また、図6はその刃部220の拡大図であり、(a)は側面図,(b)は正面図,(c)は刃先部分の拡大斜視図である。さらに、図7は回転刃200の刃部220の作用を説明する概念図である。
【0024】
回転刃200は、所定厚さで円盤状の円盤状本体としての本体部210の周囲に、複数の刃部220を略放射状に備えている。また、中央には第1の回転刃軸21(図2参照)に装着するための軸穴230が形成されている。そして、前述のごとくその刃部220で紙を突き刺して搬送し、細断する。なお、回転刃200は、図5中矢印で示す方向に回転するように設けられるものである。
回転刃200を形成する素材は、靱性が高く硬度があるもの(たとえば機械構造用炭素鋼、または高靱性丸鋸用材等)が好ましい。本実施の形態では、機械構造用炭素鋼S45Cによって形成され、刃部220には、たとえばロックウェル硬度(HRC)55±10度程度の硬度を有するように焼き入れが施される。
【0025】
刃部220は、回転方向前方側の面(前面221)と、回転方向後方側の面(後面222)と、軸方向の両側面223とで形成され、先細りの所定高さの四角錐状を呈している。
前面221は回転刃200の回転中心軸を含む面と略平行であり、後面222は前面221に対して所定の角度を有している。また、両側面223は、回転刃200の厚さ中心を対称軸として対称に所定の角度で形成されている。これにより、四角錐状の刃部220は、その先端が回転方向前方側に向かって所定の角度で傾斜した姿勢となっている。
【0026】
ここで、刃部220の先端部には、図6に示すように角形成面としての先端面224が形成され、鋭利な状態から先端が切断されたような形状となっている。
先端面224は、たとえば回転刃200の回転中心を中心軸とする円柱周面状またはそれに近い平面状に形成され、図6(c)に示すように刃部220を形成する周側面(前面221,後面222,側面223)とそれぞれ角部224eを成している。
このように先端に先端面224が形成されて鋭利に尖っていない刃部220は、概念図である図7(a)に示すように、先端が鋭利に尖っている図7(b)に示す刃部220′に比較して、紙Pに突き刺さる深さ(枚数)が限られる。
【0027】
図7(b)に示す先端が鋭利に尖っている刃部220′では、重合した紙Pに可能な限りの深さ(枚数)まで突き刺さり、その深さ(枚数)は荷重や角度等の条件によって大きく変化する。その結果、刃部220′が重ねて投入された紙Pに深く突き刺さって多量の紙を引き込んでしまう虞がある。多量の紙を引き込んで細断機構20(図2参照)の処理能力を超えると、過大負荷によって細断機構20(細断モータ20M)の停止を招来する。
【0028】
これに対して、図7(a)に示す先端に先端面224が形成された刃部220は、先端が鋭利に尖っていないことで紙Pに深く突き刺さらず、その深さ(枚数)は荷重や角度等の条件が変化してもあまり変わらない。
このため、先端に先端面224が形成された刃部220を有する回転刃200は、紙を引き込む際に、安定した量の紙を引き込むことができる。
【0029】
すなわち、先端に先端面224が形成されて紙に突き刺さる深さ(枚数)が限られるため、引き込む紙の量は、刃部220が突き刺さった紙と、多くても先端面224の角部224eが引っ掛かった紙とに限られる。これにより、多量の紙が重ねて供給された場合でも一度に多量の紙を引き込むことは無く、一定量の紙を引き込むことが可能となる。なお、図7(a)は刃部220が紙Pを2枚貫通している図としたが、貫通量はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
また、先端面224と周側面(前面221,後面222,側面223)との角部224eは、突き刺さった紙に強く引っ掛かり、紙を安定して引き込むことが可能となる。
【0030】
さらに、刃部220は、紙の引き込みと細断作用とによって摩耗するが、先端が鋭利であればその摩耗による形状変化が著しく、それに伴う機能変化も大きい。たとえば先端に面のない完全に尖った状態から摩耗によって先端に面が形成されると、紙を突き刺し得る深さ(枚数)が極端に少なくなる。その結果、当初は多量の紙を引き込むが、作業時間の経過に伴って引き込み量が激減してしまうことになり、長期間に亘る安定した紙の引き込みができない。
本実施の形態の刃部220では、先端に予め先端面224が形成されているために摩耗が生じても面積変化は小さい。従って、摩耗による紙を突き刺し得る深さの変化は少なく、紙の引き込み量を長期間に亘って略一定に維持することができる。
【0031】
ここで、回転刃以外の他の構成および駆動速度等は全く同条件の細断機構を用い、先端を鋭利に形成した刃部220′の回転刃(比較例)と、先端に先端面224を備える刃部220の回転刃200(本願構成例)とで、A4の普通紙30枚を横にした姿勢で引き込みに要する時間の比較実験を実施した。
本願構成例における先端面224の大きさは、図6中に示す各部位の寸法を、
周方向の長さ:L=0.175±0.125mm
軸方向の長さ:W=0.125±0.075mm
としたものである。
【0032】
その結果、A4の普通紙30枚を横にした姿勢で引き込みに要する時間は、比較例では4〜6.5秒であったのに対し、本願構成例では8〜12秒であった。これは、比較例では刃部220′が多数の紙を突き刺して引き込んでいるのに対し、本願構成では紙を突き刺す量が限定されることで安定した引き込みが可能となったことを示している。
その後、さらに、引き込み実験を継続したところ、本願構成例では3000×10枚以上安定して引き込みが可能であったのに対し、比較例ではその約1/3(=1000×10枚)程度で刃部220′先端の摩耗によって引き込みが不能となった。これにより、本願構成では安定した引き込みが可能で、且つそれを長期間継続できることを確認できた。
【0033】
なお、細断機構20における紙の引き込み量(絶対量)は、回転刃200の刃部220が突き刺し得る紙の深さ(枚数)と、回転刃200の刃数(刃部220の数)およびその回転数等の各要素が複合して決まるものである。
従って、刃部220の先端面224の大きさは、細断機構20の細断能力に応じた量の紙を引き込み得るように、他の要素との兼ね合いで設定する。
【0034】
つぎに、上記のごとき刃部220の先端に先端面224を備える回転刃200の製造工程について説明する。図8は、その製造工程を示す説明図である。
まず、(a)〜(b)に示すように、所定厚さの素材鋼板201(たとえば、S45C,t=4.2mm)から、回転刃200と対応する円盤状の素材(円盤状素材202)を、プレスによって打ち抜く。本実施の形態では、その際同時に、隣接する刃部220と刃部220の間の部分を一つ置き(刃間部241)に仕上げ代を残した形状に抜く。
【0035】
ついで、円盤状素材202に対して、(c)に示すように、プレスによって残りの刃間部242と中心の軸穴230とを、仕上げ代を残した形状に抜く。これによって、全ての刃部220の荒形状が形成された一次加工回転刃203を得る。
なお、このように刃間部241,242を一つ置きに抜いて二工程で刃部220を形成することで、刃部220の先端を鋭利に形成できる。これは、次のシェービング工程においても同じである。
【0036】
その後、シェービング(プレスによる削ぎ落とし)によって、刃部220の周方向の両面(図6に示す前面221および後面222)と、軸穴230の形状を所定形状及び精度に成形する。
すなわち、まず(d)に示すように、(a)〜(b)の工程で抜いた刃間部241を成形し、ついで、(e)に示すように(c)の工程で抜いた刃間部242を成形し、さらに、(f)に示すように軸穴230を成形する。これによって、刃部220の周方向が成形された二次加工回転刃204を得る。
つぎに、この二次加工回転刃204に対し、(g)に示すように熱処理(焼き入れ及び焼き戻し)を施し、刃部220を所定の硬度とする。
【0037】
そして、熱処理後の二次加工回転刃204に対して、(h)に示すように、厚さ方向の両面を研磨して所定の厚さ且つ表面粗さに仕上げ、その後、刃先研磨を行う。
刃先研磨は、(i)に示すように刃部220の厚さ方向両面(図6に示す側面223)を所定角度で斜めに研磨して刃部220を四角錐状に所定の精度で成形し、さらに、(j)に示すように刃部220の先端を研磨して先端面224を形成するものである。
上記のごとき工程により、刃部220の先端に先端面224を有する回転刃200を形成することができる。
なお、(i)の工程と(j)の工程とは、順番が逆であっても良い。すなわち、先に先端面224を形成し、ついで、刃部220の厚さ方向両面を研磨しても良いものである。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態の紙処理装置10(図1乃至6参照)によれば、細断機構20に設けられた紙を引き込む回転刃200の刃部220の先端に、先端面224が形成されていることにより、紙の引き込み量を長期間に亘って略一定に維持し、細断作業を安定して行うことができる。
ところで、本実施の形態は、本発明を細断機構20に設けられた回転刃21a(回転刃200として説明)に適用したものである。細断機構20の他方の第2の回転刃軸22に設けられた回転刃22aは、紙の引き込みは行わず専ら細断作用を行うものであるために基本的に同形状ではあっても刃部の先端は鋭利な方が細断機能の点で良いと考えられる。しかし、先端が鋭利な刃部は摩耗の進行が速く摩耗に伴う機能低下が大きいことから、本願構成が適用された回転刃200を用いることが好ましい。また、両回転刃軸21,22の回転刃21a,22aを同じものとすることで、量産効果によるコストダウンが可能となると共に管理が容易となる。
【0039】
なお、上記実施の形態に限定されず、他の実施の形態に適宜変更可能なものである。
たとえば、刃部220の先端面224は、複数の周側面(前面221,後面222,側面223)とで角を成せば良いものであり、凹凸状に形成しても良い。図9に、凹凸状で先端面224′を三面有する刃部220″の例を示す。この例のいずれの先端面224′も、複数(二面以上)の周側面(前面221,後面222,側面223)と角部224eを成している。このような構成では、多くの角が形成されて紙を強く引っ掛けることができる。
また、刃部220の形状は四角錐状に限らず、たとえば三角錐状等、異なる形状としても良いものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施の形態に係る紙処理装置の外観斜視図である。
【図2】紙処理装置の内部を示す概略構成図である。
【図3】押圧機構を上側から見た図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】回転刃の側面図である。
【図6】回転刃の刃部の拡大図であり、(a)は側面図,(b)は正面図,(c)は刃先部分の拡大斜視図である。
【図7】回転刃の刃部の作用説明図である。
【図8】回転刃の製造工程を示す説明図である。
【図9】先端面の異なる刃先部分の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
10…紙処理装置(細断処理装置)、20…細断機構、20A…細断作用部、23…細断部、21a,200…回転刃、210…本体部(円盤状本体)、220,220″…刃部、221…前面(周側面)、222…後面(周側面)、223…側面(周側面)、224,224′…先端面(角形成面)、224e…角部、P…紙(対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を細断部で細断処理する細断処理装置であって、
前記対象物を前記細断部に引き込んで細断する回転刃と、
前記回転刃を回転駆動する回転駆動手段と、
を備え、
前記回転刃は、円盤状本体の周囲に前記対象物と係合する刃部を複数備えており、
前記刃部の先端には、当該刃部の複数の周側面とで角を成す角形成面が形成されていることを特徴とする細断処理装置。
【請求項2】
前記回転刃の前記刃部は、四角錐状で先端に前記角形成面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の細断処理装置。
【請求項3】
前記角形成面は、略平坦であることを特徴とする請求項1または2に記載の細断処理装置。
【請求項4】
前記対象物を前記回転刃に押し付ける押圧部材をさらに備え、
前記回転刃は前記刃部が前記対象物を突き刺すことで係合して引き込むように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の細断処理装置。
【請求項5】
円盤状本体の周囲に複数の刃部を備えており、
前記刃部は、
前記円盤状本体の周方向両側の側面と当該円盤状本体の厚さ方向両側の側面とで略四角錐状に形成され、先端に複数の当該側面とで角を成す角形成面が形成されていることを特徴とする回転刃。
【請求項6】
細断処理する対象物に係合して搬送すると共に細断する複数の刃部を周囲に備える回転刃の製造方法であって、
円盤状の素材に前記刃部の側面を形成する工程と、
前記刃部の先端に複数の前記側面との間に角を成す角形成面を形成する工程と、
を含む回転刃の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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