説明

細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造方法

本発明は、慢性炎症性疾患治療用の、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造方法に関する。疾患、細胞タイプ、組織および/またはステージ特異的なタンパク質および核酸を発現パターンに関して同定し、対応する核酸をDNAzymeまたはsiRNAの攻撃対象候補として解析する。続いて標的配列に結合しこれを切断する活性な特異的DNAzymeおよびsiRNAを設計し、慢性炎症性疾患および自己免疫疾患の治療薬に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性炎症の治療に適した、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ(krankheitsphasen)特異的な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症は、高い社会経済的影響を伴う大きな医療的問題となってきている。これには、特に以下の疾患群:
・自己免疫疾患およびリウマチ性(rheumatischen Formenkreises)の疾患(とりわけ皮膚、肺、腎臓、血管系、神経系、結合組織、運動器官、内分泌系における症状発現)
・アレルギー性急性反応および喘息
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・動脈硬化症
・乾癬および接触皮膚炎
・臓器移植、骨髄移植後の慢性拒絶反応、
が包含される。
【0003】
これらの疾患の多くは、ここ10年工業国だけでなく一部全世界的に有病率が増加している。その間に、ヨーロッパ、北米、日本およびオーストラリアでは、人口の20%以上がアレルギー性疾患および喘息を患っている。慢性閉塞性肺疾患は、現在5番目に頻繁な死因であり、WHOは2020年には3番目に頻繁な死因になると予測している。心筋梗塞、卒中、末梢動脈閉塞症を続発症として伴う動脈硬化は、世界中で罹患率統計や死亡率統計の上位を占めている。一般的に、乾癬および接触皮膚炎は、神経皮膚炎と共に最も頻繁な皮膚における慢性炎症疾患である。
【0004】
現在のところ、環境要因と遺伝的素因との間の相互作用がまだ十分に理解されていないため、免疫系の継続的な調節異常に至ってしまう。この場合において、この種々の疾患には以下のような共通の原則が認められる:
(A)通常は人間にとって無害な抗原に対する過剰な免疫応答が起こる。この抗原は、環境的要素(例えば花粉、動物の毛、食物、ダニ、化学物質(例えば防腐剤、染料、洗剤)のようなアレルゲン)である場合もある。そして患者はアレルギー性反応を示すようになる。例えば能動および受動喫煙の場合に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発病することがある。一方、免疫系が自己組織の成分に対しても反応する場合があり、自己組織の成分を非自己として認識し、それに対して炎症反応を起こす。この場合に、自己免疫疾患が発病する。いずれの場合においても、無害で非毒性の抗原が非自己または危険なものとして誤って認識され、不適当な炎症反応が引き起こされる。
【0005】
(B)これらの疾患は、開始、進行、すなわち炎症反応の進行、およびこれに伴う臓器機能性の欠損を有する破壊および改変(いわゆるリモデリング)を含むフェーズに沿って進行する。
【0006】
(C)これらの疾患は、患者に特異的にサブ表現型(sub-phaenotypische)の特徴の現れ方を示す。
【0007】
(D)開始、維持(Aufrechterhaltung)、および破壊および改変過程には、先天性免疫および獲得免疫の成分が継続的に関与している。先天性免疫(重要な成分:多様なポピュレーションを伴う抗原提示細胞および補体系)の影響下、
適応免疫系(重要な成分:Tリンパ球とBリンパ球)の細胞の活性化および分化が起こる。その後、T細胞が、高度に特化したエフェクター細胞に分化することで中心的機能を引き継ぐ。このとき、T細胞は、特に
以下の機能:抗体産生、免疫系のエフェクター細胞(例えば、好中球顆粒球、好塩基球顆粒球、好酸球顆粒球)の機能性制御、先天性免疫系の機能へのフィードバック、例えば上皮細胞、内皮細胞、結合組織、骨および軟骨、並びに全ての神経細胞のような非造血性細胞の機能性への影響、
を含む一定のエフェクター機構を活性化および獲得する。この際、免疫系と神経系の間に特別な相互作用が生じ、この相互作用にから慢性炎症における神経-免疫相互作用のコンセプトが展開された。
【0008】
慢性炎症を伴う疾患の病状の複雑さと多様性から、該疾患の治療に最適な薬剤は、以下の要件を満たしていなければならない:
(1)これらの疾患では、患者に特異的な(サブ)-表現型が現れる。従って、薬剤は高い患者または症例特異性を示すものでなくてはならない。
【0009】
(2)これらの疾患は、ステージ(Stadien)およびフェーズに沿って進行する。従って、薬剤はステージまたはフェーズ特異性を有するものでなくてはならない。
【0010】
(3)これらの疾患は、種々の特化した細胞によって制御されている。従って、薬剤は細胞特異的な作用を起こすものでなければならない。
【0011】
(4)これらの疾患は、種々の臓器および部位(Kompartimenten)で起こる。従って、薬剤は部位または臓器特異性を有するものでなくてはならない。
【0012】
(5)薬剤は、長期治療に適したものでなければならない。薬剤に対する免疫系の反応が抑制される必要がある。
【0013】
(6)薬剤の副作用プロファイルは、疾患の重篤度、予後および経過との医学的および倫理的関係において許容される程度のものでなければならない。
【0014】
現在、慢性炎症に対する使用可能な確立された治療はいずれも、この基準を適切に満たしていない。免疫グロブリンAによる治療は、特許文献1から、そしてホスホリパーゼA2(PLA2)および/または補酵素A非依存性アシル基転移酵素 (CoA-IT)の阻害は、特許文献2により公知である。該疾患に対して現在確立されている治療コンセプトの中心は、非特異的な抗炎症治療および免疫抑制である。よって、使用されるイブプロフェン、アセチルサリチル酸およびパラセタモールのような非特異的な抗炎症作用物質の多くは、効果が十分でないかまたは高い割合で不要な副作用を示す。それに対して、ステロイドは確かに高い作用効果を有するが、高血圧症、糖尿病および骨粗鬆症のような重大な副作用が伴う。例えば、シクロスポリンおよびタクロリムスのような新世代の免疫抑制剤は、肝毒性および腎毒性を示す。
【0015】
これらの状況に対処するため、免疫学的および細胞生物学的な調節異常に特異的に作用する新しい様々な分子の探索および臨床試験が行われた。これらの例として、サイトカイン、サイトカイン受容体および抗サイトカインなどを挙げることができる。これらの新しい治療方法で問題となるのは、細胞および臓器に対する特異性の低さ、これらの分子に対する不要な免疫反応の発生、および種々の表現型における有効性の低さである。
【0016】
最近、新しいクラスの触媒分子、いわゆる「DNAzyme」(非特許文献1)を、その発現が疾患の原因である遺伝子の不活化のために治療剤として使用する試みがなされている。DNAzymeは、原則的には、RNAの相補的な領域に結合することができ、切断を通してこれらを不活化する一本鎖分子である。ただし、DNAzymeを治療剤として特異的に使用するためには、前提として疾患原因遺伝子およびそのmRNAが正確にわかっていなければならない。しかし、これは現時点では数少ない疾患であてはまるのみである。
【0017】
特許文献3に記載されているDNAzymeは、RelA (p65) mRNAと結合し、それにより転写因子NF-κBに対しても適応し、そして特許文献4には、EGR-1 mRNAに結合するDNAzymeが開示されている。特許文献5には、核酸変異を見つける診断方法に使用可能な10-23 DNAzymeが開示されている。現在公知のアンチセンス分子およびDNAzymeは、 患者における慢性炎症の治療用薬剤の製造のために使用できるものではない。
【特許文献1】独国特許出願(DE-T2)公開第69511245号明細書
【特許文献2】独国特許出願(DE-T2)公開第69518667号明細書
【特許文献3】国際公開(WO-A1)第01/11023号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/42173号パンフレット
【特許文献5】国際公開第99/50452号パンフレット
【非特許文献1】Santoro, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、その発現が慢性炎症反応および自己免疫疾患の発症に関与している転写因子およびシグナル伝達経路における因子のリボ核酸分子を機能的に不活化させ、慢性炎症反応および自己免疫疾患の治療に適しており、本技術分野における従来の欠点を有していない、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤を提供することにある。
【0019】
本発明のさらなる課題は、その発現が慢性炎症反応および自己免疫疾患の発症に関与している転写因子およびシグナル伝達経路における因子のリボ核酸分子を同定し、標的細胞内においてこれらを機能的に不活化する、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題は、本発明請求項1に記載の方法、および請求項10〜15に記載の特異的DNAzymeを使用する請求項16〜18に記載の薬剤によって解決される。
【0021】
本発明の有利な点は、特異的なDNAzymeおよび/またはsiRNAを用いて、分化および/または慢性炎症反応および自己免疫疾患の発症に関与するサイトカインの発現をつかさどる転写因子およびシグナル伝達経路における因子のリボ核酸分子を、機能的に不活化することにある。このストラテジーは、従来の方法や遺伝子療法に対して、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異性および選択性が高いこと、分子の安定性が高いことおよび抗原性が無視できることを特徴とする。慢性炎症疾患を患っている患者の平均的な(massgeschneiderte)長期治療に最適な条件が得られた。
【0022】
本発明のさらなる詳細および好ましい実施態様を、以下の図および記載によって説明する。
【0023】
図1:CD4+細胞のTH1細胞またはTH2細胞への分化におけるシグナル伝達の模式図(Ho l. C. und Glimcher L. H., Cell 2002 ; 109 : S109-S120を改変)。
【0024】
図2:10-23 DNAzymeの触媒ドメインのヌクレオチド配列およびワトソン-クリック対合を用いた標的RNAとの結合(R = AまたはG;Y = UまたはC、N = A、G、UまたはG)。矢印は標的RNAにおける切断部位を示す。
【0025】
図3:段階b)後における特異的なリボ核酸分子のプール、特にGATA-3に対するDNAzyme hgd 1〜hgd 70およびそれらのヌクレオチド配列(A=アデニン、G=グアニン、C=シトシン、T=チミン)。大文字で記載されているヌクレオチドは、右側のおよび左側の基質結合ドメインを表し、小文字で記載されるヌクレオチドは、10-23 DNAzymeの中心の触媒ドメインを表している。
【0026】
図4:ヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)
配列1:ヒトGATA-3、データバンクNo.: XM_043124
配列2:ヒトGATA-3、データバンクNo.: X58072
配列3:ヒトGATA-3(プラスミドpCR2.1より配列決定)
塩基が多様な場合を灰色のバックで、GATA-3のクローニング用プライマー位置を下線で示した。DNAzyme hgd40の位置は、太字のアルファベット、灰色のバックおよび下線で強調されている(A=アデニン、G=グアニン、C=シトシン、T=チミン) 。
【0027】
図4A:図4のヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列3。その間に更なるDNAzyme切断部位がある各ヌクレオチドペアGTおよびATが示されている(灰色のバック)。
【0028】
図5:段階b)後における、特異的リボ核酸分子、ここでは非修飾DNAzyme [hgd11 (レーン2)、hgd13 (レーン4)、hgd17 (レーン6)、hgd40 (レーン8)]および修飾DNAzyme [hgd11-M (レーン3)、hgd13-M (レーン5)、hgd17-M (レーン7)、hgd40-M(レーン9)]による標的mRNA(ここではGATA-3 mRNA)の切断を示すゲル電気泳動。Mは修飾DNAzymeを表す。非修飾DNAzyme(0.25 μM)または修飾DNAzyme(0.25 μM)を、in vitro転写されたGATA-3 mRNA(0.025 μM)と一緒に、容量10μlの以下:50 mMのTris(pH 7.4)、150 mMのNaCl、10 mMのMgCl2の反応混合物中で、37℃において1時間インキュベートする。引き続いて、生成物をゲル電気泳動で分離する。レーン1は、DNAzymeを加えていないmRNAをコントロールとして含む。一緒に使用した分子量スタンダード(図示せず)は、1000 bp、2000 bpおよび3000 bpのバンドの大きさを示す。矢印は、基質(ここではGATA-3 mRNA)のバンドS、および切断生成物P1およびP2を示す。
【0029】
図6:細胞内における特異的なリボ核酸分子の反応を伴う免疫ブロット。Jurkat E6.1細胞は、特異的なリボ核酸分子を用いたリポフェクション(ここではDNAzyme [hgd 11-M (レーン4)、hgd 13-M (レーン5)、hgd 17-M (レーン6)、hgd 40-M (レーン7)])により形質転換される。コントロールとして、未処理細胞(レーン1)、トランスフェクション試薬のみで処理された細胞(レーン2)およびDNAzyme (hgd 11-M)のみ、すなわちトランスフェクション試薬なしで処理された細胞(レーン3)を用いる。48時間のインキュベーション後、可溶化したタンパク質は、SDS-PAGEにより分離し、GATA-3 (A)を特異的抗体による免疫ブロットで検出する(レーン4はhgd 11-Mを用いた細胞、レーン5はhgd 13-Mを用いた細胞、レーン6はhgd 17-Mを用いた細胞、レーン7はhgd 40-Mを用いた細胞。)。各レーンあたりのタンパク質量が同一であることを確認するために、同一のブロット膜上でβ-アクチン(B)による免疫染色を行った。一緒に使用した分子量スタンダード(図示せず)は、63.8 kDa、49.5 kDa および 37.4 kDaのバンドの大きさを示した。
【0030】
図7:段階b)後の特異的リボ核酸分子のプール、特にT-betに対するDNAzyme td 1〜td 70、およびそれらのヌクレオチド配列(A = アデニン、G = グアニン、C = シトシン、T = チミン)。
【0031】
図8:ヒトT-bet遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)
配列1:ヒトT-bet、データバンクNo.: NM_013351
配列2:ヒトT-bet(pBluescript-SKより配列決定)
塩基が多様な場合を灰色のバックで、T-betのクローニング用プライマー位置を下線で示した。LightCyclerにおける半定量化用プライマー位置を囲み線で示す。DNAzyme td54およびtd69の位置は、灰色のバックおよび下線で、またtd70は、更に太字のアルファベットで強調されている(A = アデニン、G = グアニン、C = シトシン、T = チミン)。
【0032】
図8A: 図8におけるヒトT-bet遺伝子のヌクレオチド配列1。その間にさらなるDNAzyme切断部位を有する各ヌクレオチドペアGTおよびATをグレーのバックで示す。
【0033】
図9:段階b)後における、特異的リボ核酸分子、ここでは修飾DNAzyme [(td54m (レーン3)、td69m (レーン4)およびtd70m (レーン5)]による標的mRNA(ここではT-bet mRNA)の切断を示すゲル電気泳動。修飾DNAzyme(0.25 μM)を、in vitro転写されたT-bet mRNA(0.025 μM)と一緒に、体積10μlの以下:50 mMのTris(pH 7.4)、150 mMのNaCl、10 mMのMgCl2の反応混合物中で、37℃において30分間インキュベートする。引き続いて、生成物をゲル電気泳動で分離する。レーンMは、分子量スタンダード3000塩基および2000塩基、レーン2は、コントロールとしてDNAzymを加えていないmRNA。矢印Aは、基質(ここではT-bet-mRNA)のバンド、矢印Bは、大きい方の切断生成物を示している。2つ目の切断生成物は、小さく、この図内には確認されない。
【0034】
図10:DNAzyme td54 (A)、td69 (B) および td70 (C)で処理された細胞由来のT-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNA量の、LightCyclerによる定量。Jurkat E6.1細胞は、24時間間隔で2回、T-bet特異的なDNAzyme td54 (A)、td69 (B) および td70 (C)により、またはコントロールとしてナンセンスDNAzyme(図示せず)によって形質転換される。続いて、RNAを精製し、逆転写を行い、得られたDNAをLightCyclerにおいて使用する。内部標準として、GAPDH(点線の曲線)を用いた。T-bet特異的なDNAzymeあるいはナンセンスDNAzymeによって処理された細胞をそれぞれ4回測定する。実線の曲線は、T-bet特異的なDNAzymeで処理された細胞内のT-betの量、点線は、ナンセンスDNAzymeによって処理された細胞内のT-betの量を示す。
【0035】
図11:Jurkat E6.1細胞内におけるT-bet-mRNAの半定量化グラフ。
【0036】
Jurkat E6.1細胞を、T-bet特異的なDNAzyme td54、td69およびtd70によって2回形質転換し、48時間後にRNAを単離する。逆転写後、mRNA量をLightCyclerで定量する。コントロールとしてナンセンスDNAzymeを使用する。T-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNAの半定量化は、説明書[User Bulletin #2 (ABI Prism 7700 Sequence detection System User Bulletin #2 (2001). Relative quantification of gene expression. Http://docs.appliedbiosystems.com/pebiodocs/04303859.pdf)]の方法に従った。
【0037】
ナンセンスDNAzymeを用いたコントロール実験のT-bet-mRNAの量を100%とした。
【0038】
図1は、CD4+細胞のTH1細胞またはTH2細胞への分化におけるシグナル伝達の関係をHo I.C.およびGlimcher L.H.(Cell 2002; 109: S109-S120)が示した模式図を改変したものである。対応するペプチドMHC複合体を介したT細胞レセプターによる刺激は、クローン拡大およびCD4+ T-リンパ球のT-ヘルパー(TH)1細胞またはTH2細胞へのプログラムされた分化を誘導する。これら2つのサブタイプへの分類は、これらのサイトカインプロファイルに基づいて行われる。TH1細胞は、インターフェロン-γ(INFγ)、インターロイキン2(IL-2)および腫瘍壊死因子β(Tumor-Nekrose-Faktor-β)を生成するのに対し、TH2細胞は、IL-4、IL-5、IL-9 および IL-13を分泌する。細菌感染およびウイルス感染は、TH1細胞が主体の免疫応答を誘導する。一方TH2細胞は、寄生虫に対するIgEの生産を制御する。この際、TH1細胞とTH2細胞は、バランスが保たれている。これらのバランスが崩れると疾患を引き起こし、すなわち過剰なTH1細胞応答は自己免疫疾患に関連し、それに対して強いTH2細胞応答はアレルギー性疾患の原因となる。
【0039】
TH1サイトカインが、例えば自己免疫性ぶどう膜炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎、1型糖尿病またはクローン病のような自己免疫疾患の病因に関与し、一方、TH2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13またはIL-9)が、例えば気管好酸球増多症、粘液過分泌および気管過敏性のような慢性炎症性気道疾患の発症に関与していることは知られている。これらの疾患の要因は、抗原特異的TH細胞における特有なサイトカイン生成の間の病態生理学的な変化である。よって、気管上皮内でTH2サイトカインIL-4、IL-5、IL-13またはIL-9が構成的に過剰発現する遺伝子導入マウスは、典型的なアレルギー性炎症反応を示す。一方、肺や気管内におけるTH2細胞サブポピュレーションは、動物モデルにおけるTH2細胞内で、気管支喘息に特有な症状を引き起こす。
【0040】
驚くべきことに、慢性炎症および/または自己免疫疾患の細胞および/または組織特異的な治療に、分化、および/または慢性炎症反応および自己免疫疾患に関与しているサイトカインの発現をつかさどる、例えばTH1細胞特異的な転写因子T-betおよびTH2細胞特異的転写因子GATA-3のような転写因子およびシグナル伝達経路における因子が適していることが判明した。
【0041】
TH1細胞特異的な転写因子T-betは、主に、ナイーブCD+T細胞からTH1細胞への分化に携わっている。該因子の発現は、T細胞受容体(TcR)のシグナル伝達経路およびINFγ受容体/STAT1を介して制御される。T-betは、内因性INFγ遺伝子をトランス活性化し、INFγ産出を誘導する。更に、該因子は、IL-12Rβ2鎖のタンパク質発現の上方調節を誘導し、個々のINFγ対立遺伝子のクロマチンリモデリングを導く。T-betのin vivoでの機能は、ノックアウトマウス(T-bet-/-)で確認された。T-bet欠失マウスは、通常のリンパ球の発達を示すにもかかわらず、抗CD3/CD28やPMA/イオノマイシンで刺激してもこのマウスのCD4+ T細胞は、INFγを産出しない。要するに、T-bet欠失マウスは、大形リューシュマニア(L. major)感染に免疫応答を示さず、TH2サイトカインが高い状態にある。
【0042】
炎症性腸疾患における粘膜T細胞内のT-betの機能は公知である。動物モデルにおける研究で、再構成SCID (重症複合免疫不全症)マウスにおいて、CD4+CD26L+T細胞へのT-betのレトロウイルスによる形質導入後、大腸炎(colitis)の悪化が見られるのに対し、T-bet欠損T細胞の導入からは大腸炎は誘導されない。
【0043】
転写因子T-betは、TH1細胞の発達を特異的に誘導し、この細胞内でのINFγ産出を制御する。T-betを阻害すると、TH1細胞とTH2細胞の間の平衡が、TH2細胞側に移動する。
【0044】
TH2細胞に特異的な転写因子GATA-3は、主に、ナイーブCD4+T細胞からTH2細胞への分化に携わっている。
【0045】
ここでTH2細胞分化は、主に、2通りのシグナル伝達経路、すなわちT細胞受容体(TcR)の経路およびIL-4受容体の経路を介して制御される。TcRから送られるシグナルは、TH2細胞特異的転写因子c-MafおよびGATA-3だけでなく、転写因子NFATおよびAP-1をも活性化する。IL-4受容体の活性化により、STAT6がIL-4受容体の細胞質ドメインに結合し、Jak1キナーゼおよびJak3キナーゼによりリン酸化される。そこでのリン酸化は、核内へのSTAT6の二量体化および移行を導き、STAT6はGATA-3およびその他の遺伝子の転写を活性化する。
【0046】
GATA-3は、ジンクフィンガー転写因子の1つであり、「Representational-Difference-Analysis」(RDA)およびIL-5の転写制御の研究によると、TH1細胞ではなく、成熟TH2細胞内でのみ発現する。
【0047】
TH1細胞またはTH2細胞の分化に関与して、その発現が慢性炎症反応および自己免疫疾患の要因と関与を示し、そしてその標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して差異を有して、本発明に同様に適しているその他の転写因子も、慢性炎症性疾患治療用の特異的なDNAzymeおよび/またはsiRNAの設計に使用することができる:
・STAT4、STAT5aおよびSTAT1 (シグナル伝達物質および転写アクチベーター)
・c-Rel
・CREB2 (cAMP response element-binding protein 2:cAMP応答要素結合タンパク質2)
・ATF-2、ATF-2
・Hlx
・IRF-1 (インターフェロン制御因子-1)
・c-Maf
・NFAT (Nuclear factor of activated T cells:活性化T細胞核因子)
・NIP45 (NF-AT interacting protein 45:NF-AT相互作用タンパク質45)
・AP1 (Activator Protein 1:アクチベータータンパク質1)
・Mel-18
・SKAT-2 (SCAN box, KRAB domain associated with a Th2phenotype:SCANボックス、Th2表現型関連KRABドメイン)
・CTLA-4 (Cytolytic T lymphocyte-associated antigen 4:細胞障害性Tリンパ球抗原4) 。
【0048】
サイトカインの分化および/または発現に関与して、慢性炎症反応および自己免疫疾患の要因と関与を示し、そしてその標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して差異を有して、本発明に同様に適しているその他のシグナル伝達経路における因子も、慢性炎症性疾患治療用の特異的なDNAzymeおよび/またはsiRNAの設計に使用することができる:
・Srcキナーゼ
・Tecキナーゼ
Rlk (ヒトではTxk)
Itk
Tec
・RIBP (Rlk/Itk結合タンパク質)
・PLCγ (ホスホリパーゼCγ1)
・MAPキナーゼ(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)
ERK
JNK
P38
・MKK (MAPキナーゼキナーゼ)
MKK1
MKK2
MKK3
MKK4
MKK6
MKK7
・Rac2
・GADD45 (増殖停止およびDNA損傷遺伝子45(Growth arrest and DNA damage gene 45))
GADD45β
GADD45γ
・SOCS (サイトカインシグナルのサプレッサー)
CIS (サイトカイン誘導性SH2タンパク質)
SOCS1
SOCS2
SOCS3
・JAK (Janusキナーゼ)
JAK1
JAK3
・NIP45 (NF-AT相互作用タンパク質) 。
【0049】
本発明は、慢性炎症の治療に適した、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤を提供する。
【0050】
該薬剤は、好ましくは、慢性炎症反応および自己免疫疾患の基礎となっている免疫学的および細胞生物学的な調節異常の複雑なカスケードに介入する箇所(Interventionspunkten)で作用する。例えば、TH2細胞特異的な転写因子GATA-3またはTH1細胞特異的な転写因子T-betのような、関連する転写因子の分化制御に介入する箇所が特に好ましい。達成される治療効果は、特異的なDNAzymeおよび/またはsiRNAによるmRNA分子の機能的不活化によるものである。このストラテジーは、従来の方法に対してだけでなく、遺伝子療法的アプローチと比較しても多くの利点:高い特異性および選択性、高い分子安定性および無視できる抗原性を有する。すなわち、慢性炎症疾患を患っている患者の平均的な長期治療に最適な前提条件が得られたのである。
【0051】
本発明は、以下の段階:
a)その標的細胞における発現が、コントロール細胞での発現と比較して差異を有するリボ核酸分子の同定
b)段階a)のリボ核酸分子と結合し、それを機能的に不活化する特異的なリボ核酸分子の設計
c)段階b)の特異的なリボ核酸分子の標的細胞への導入
d)段階b)の特異的なリボ核酸分子および/または段階c)の標的細胞の薬剤への製剤化、
を含む、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造方法を提供する。
【0052】
本発明における「細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な」という語句は、本発明の方法によって製造された薬剤が、本質的にある特定の種類の細胞(標的細胞)、および/または特定の組織または臓器、および/または疾患の特定のフェーズにおいてのみ効力を発揮し、その他の細胞(コントロール細胞)、組織または臓器には、無視できるほどの影響しか与えないという意味で使用されている。該薬剤が、標的細胞の少なくとも2/3に有効であることが好ましい。また、標的細胞の少なくとも80%で有効であることがより好ましく、少なくとも98%で有効であることが特に好ましい。更に、該薬剤が有効であるのが多くとも10%のコントロール細胞であることが好ましく、多くとも5%のコントロール細胞であることがより好ましく、1%未満であることが特に好ましい。
【0053】
本発明における「その標的細胞内における発現が、コントロール細胞内での発現と比較して差異を有するリボ核酸分子の同定」という語句には、以下の段階が含まれる。
【0054】
i)標的細胞は、疾患の発症を導くか、それに寄与するかまたはこれを悪化させるか、疾患を維持する過程を支持するか、それに寄与するかまたはこれを増強するか、または疾患の後遺症(Spaetfolgen)を導くか、それに寄与するかまたはそれを増強する組織および臓器内の細胞である。前記の細胞としては、例えば特定の転写因子を有し、特異的なホルモン、サイトカインおよび増殖因子を分泌する細胞、または典型的な表面受容体を有する細胞が挙げられる。
【0055】
ii)該標的細胞は、例えば特異的な抗体の結合に基づく技術によって単離することができる。ここでは、Miltenyi社製(Macs-System)、Dynal社製(DynaBeads)またはBD-Bioscience社製(iMAG)のマグネットビーズを使用する。あるいは、これは例えばCytomation社製(MOFLO)またはBD-Bioscience社製(FACS-Vantage)のセルソーターで蛍光標識抗体を用いた細胞の精製により行われる。更に、標的細胞の純度は、少なくとも80%であることが好ましく、少なくとも95%であることがより好ましく、少なくとも99%であることが特に好ましい。
【0056】
iii)RNAの単離方法は、例えば「Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3版、Cold Spring Harbor Laboratory (2001), New York」および「Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1998), New York」に記載されている。また、当業者であれば、市販のキット(シリカ・テクノロジー)、例えばQiagen社製RNeasy KitをRNA単離に使用することができる。更に好ましくは、市販のキット、例えばQiagen社製(Oligotex mRNA Kit)、Promega社製(PolyATract mRNA Isolation System)またはMiltenyi社製(mRNAdirect)を使用して、標的細胞から直接mRNAを精製する。
【0057】
iv)差次的(differentiell)な異なるmRNA、すなわち、その標的細胞における発現がコントロール細胞に対して増加しているmRNAの同定は、例えば市販の遺伝子チップ(例えば、MWG、CLON- TECH社)またはフィルターハイブリダイゼーション法(例えばUnigene社)を用いて、製造者の指示に従って実施される。あるいは、差次的なmRNAは、事前にmRNAからRT反応により生成されるcDNAのサブトラクティブ・ハイブリダイゼーションによっても調製される。当業者に公知の方法としては、例えばSSH法(Clontech社)またはRDA法が挙げられる。同様に、チップ技術およびサブトラクティブ・ハイブリダイゼーションの組み合わせもまた好ましい応用形態である。差次的に発現する遺伝子の同定は、市販のプログラム、例えばInforMax社のVector Xpression Programmを使用して、チップ技術を用いることにより行うことができる。サブトラクティブ・ハイブリダイゼーションを用いた場合、差次的に発現している遺伝子を同定した後に、クローニングおよびそれに続く配列決定(例えば「Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3版、Cold Spring Harbor Laboratory (2001), New York」および「Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1998), New York」参照)のような慣用の、当業者に公知の方法に基づいて、例えばGene-Bank (www. ncbi.nim. nih. gov)のようなデータバンクとの配列比較を行う。
【0058】
標的細胞における発現は、コントロール細胞での発現と比較して差異を有する。本発明による方法の1つの実施形態のおいて、標的細胞における発現は、コントロール細胞での発現と比較して、好ましくは少なくとも1.5倍に増加している。更に好ましい実施形態において、標的細胞内における発現は、コントロール細胞での発現と比較して少なくとも5倍に増加しており、そして最も好ましい実施形態においては、標的細胞でのみ発現が確認でき、コントロール細胞では確認できない。
【0059】
本発明における「段階a)のリボ核酸分子に結合し、それを機能的に不活化するリボ核酸分子の設計」という語句には、リボ核酸分子を機能的に不活化するRNA不活化DNA-Enzyme(DNAzyme)および/または低分子干渉RNA(siRNA)の使用が含まれる。
【0060】
「DNAzyme」という語句には、核酸の標的配列、DNAだけでなくRNAも特異的に認識して切断する本発明のDNA分子が含まれる。
【0061】
一般的なDNAzymeモデルの一例として「10-23」モデルを挙げることができる。「10-23 DNAzyme」とも呼ばれる10-23モデルのDNAzymeは、2つの基質結合ドメインに挟まれた15のデオキシリボ核酸からなる触媒ドメインを有している。基質結合ドメインの長さは可変で、同じ長さの場合も、異なる場合もある。好ましい実施形態において、基質結合ドメインの長さは、6〜14ヌクレオチドである。特に好ましい実施形態においては、基質結合ドメインは、切断位置の両側領域に対して完全に相補的である。しかしながら標的RNAに結合し切断するためには、DNAzymeが完全に相補的である必要はない。In vitroでの研究によって、10-23タイプのDNAzymeは、標的mRNAをプリン-ピリミジン連続配列で切断することが示された。
【0062】
DNAzymeを疾患の治療に用いるには、DNAzymeを体内(血液中、細胞内環境など)における分解に対して安定化できることが好ましい。本発明の好ましい実施形態として、DNAzymeの一末端あるいは複数の末端への3’-3’-インバージョン(Inversion)の導入がある。「3’-3’-インバージョン」という語句は、末端ヌクレオチドの3’-炭素と隣接するヌクレオチドとの間のリン酸共有結合を表す。このタイプの結合は、連続するヌクレオチドの3’炭素と5’炭素との間の通常のリン酸結合とは異なる。よって、触媒ドメインの3’端末に隣接する基質結合ドメインの3’端末のヌクレオチドがインバースであることが好ましい。インバースに加えて、DNAzymeは修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチド化合物も含むことができる。修飾ヌクレオチドは、例えば、N3’-P5’-ホスホルアミド(Phosphoramidat)化合物、2’-O-メチル置換およびペプチド-核酸化合物を含んでいる。これらの製造方法は当業者に公知である。
【0063】
潜在的なDNAzyme切断部位は広く分布して存在するにもかかわらず、これらはRNAの二次構造によってブロックされていることが多く、従ってDNAzymeに接近することができない。よって、DNAzymeのプールから、切断部位に自由に到達することができるものを選択する。この選択されたDNAzymeは活性で、標的mRNAを切断し、これを機能的に不活化する。各々のDNAzymeによるmRNAの切断効率は、DNAzymeごとの試験、または複数のDNAzymeの「Multiplex-Assays」(例えば「Cairns et al., 1999」参照)による結合試験によって明らかにされる。
【0064】
本発明における「siRNA」という語句は、in vitroにおいてもin vivoにおいても相補的な標的mRNAを特異的に分解する、二本鎖で21〜23塩基の長さのRNA分子を含む。標的mRNA配列から、siRNA分子を作製する方法は、文献(例えばhttp://www.mpibpc.gwdg.de/abteilungen/100/105/index.html)によって当業者に公知である。
【0065】
3つの選択されたsiRNA分子の中に、少なくとも1つ高い活性(標的RNA阻害率が少なくとも80%)のものが含まれている確率は、文献には少なくとも70%と記載されている。siRNA分子のプールから、in vitroにおいてもin vivoにおいても相補的な標的mRNAを特異的に分解するものを選択する。
【0066】
本発明において「段階b)の特異的なリボ核酸分子の標的細胞への導入」という語句は、上述の本発明における特異的なリボ核酸分子を含むベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルスまたはバクテリオファージの標的細胞へのトランスフェクションも含まれる。該ベクターは、動物細胞およびヒト細胞の形質転換に適しており、本発明のリボ核酸分子の組み込みが可能であることが好ましい。例えば、Invitrogen社のDMRIE-Cによるリポフェクションのようなトランスフェクションの方法が、文献により当業者に公知である。基本的にはリポソームベクターもこれに適している。転写因子、またはホルモン、サイトカインおよび成長因子を分泌する細胞だけでなく、発現した受容体を表面に有する細胞も標的分子である。本発明のコントロール細胞としては、標的組織内の正常細胞、同一患者のその他の部位または健常者の同一タイプの細胞が使用される。
【0067】
標的細胞の培養は、pH値、温度、塩濃度、抗生物質、ビタミン、微量元素および通気のような標的細胞の要求に適合する培地で行われる。「患者」という語句は、ヒトおよび脊髄動物に対して同等に用いる。すなわち該薬剤は、医学の分野でも獣医学の分野でも使用可能である。
【0068】
「段階b)の特異的なリボ核酸分子または段階c)の標的細胞の製剤化」という語句には、信頼できる医学的判断に基づいて、患者に対して過度の毒性、刺激またはアレルギー反応を引き起こさない限りにおいて、修飾および「プロドラッグ」を含む薬学的に許容される調合物が含まれる。「プロドラッグ」という用語は、吸収の改善のために、例えば血液内での加水分解において変換される化合物を表す。
【0069】
特異的なリボ核酸分子は、経口、経腸、非経口、静脈内、筋肉内または皮下、嚢内、腟内、腹腔内、髄腔内(intrathekal)、血管内、局所(パウダー、軟膏、点滴)により、またはスプレー剤により、薬学的に許容される調合物の形態で患者に投与することができる。
【0070】
この本発明の薬剤の局所的投与のための剤形(Dosierungsformen)には、軟膏、パウダー、スプレーまたは吸入剤が含まれる。有効成分は無菌条件下、必要に応じて生理学的に許容されるキャリアーおよび可能な保存剤、緩衝剤あるいは発泡剤(Treibmitteln)と混合される。用量決定の方法は、担当医が臨床的要因に応じて決定する。用量決定の方法が、例えば患者の体格、体重、体表面積、年齢、性別または一般的な健康状態のような種々の因子、ならびに特に投与される薬剤、投与の期間および方法、および場合により並行して投与されるその他の薬に依存することは、当業者に公知である。
【0071】
本発明の方法で製造される薬剤は、高い患者特異性、疾患特異性、ステージ特異性またはフェーズ特異性を示す。また本薬剤は細胞特異的に作用し、部位および臓器に対しても特異的である。該薬剤に対しては、免疫系の反応は全く起こらないかまたはほんのわずかしか起こらず、そして副作用プロファイルは疾患の重篤度、予後および経過に対して許容される程度のものである。
【0072】
該薬剤は、例えば自己免疫疾患、リウマチ性の疾患(皮膚、肺、腎臓、血管系、神経系、結合組織、運動器官、内分泌系等における症状発現)、アレルギー性急性反応および喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、動脈硬化症、乾癬および接触皮膚炎、および臓器移植および骨髄移植後の慢性拒絶反応のような、慢性炎症を伴う全ての疾患群に対する治療に使用することができる。
【実施例】
【0073】
実施例1:GATA-3
a)その標的細胞における発現が、コントロール細胞での発現と比較して差異を示すリボ核酸分子の同定
i)慢性炎症反応の発症に関与しているナイーブCD4+細胞を標的細胞として使用した。
【0074】
ii)該CD4+標的細胞は、マグネット・ビーズ(Miltenyi社製(Macs-System)、Dynal社製(DynaBeads)またはBD-Bioscience社製(iMAG))を用いて単離し、あるいは、例えばCytomation社製(MOFLO)またはBD-Bioscience社製(FACS-Vantage)のセルソーターで蛍光標識抗体を用いて単離した。
【0075】
iii)RNAの単離は、「Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3版、Cold Spring Harbor Laboratory (2001), New York」並びに「Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1998), New York」等に記載されている標準的な方法を用いて行った。
【0076】
あるいは、Qiagen社製RNeasy Kitを用いる方法、またはQiagen社製Oligotex mRNA Kitを用いてCD4+標的細胞からmRNAを直接単離する方法で、製造者の指示に従って行うこともできる。
なおこれは、Qiagen社製RNeasy Kitを用いる方法、或いは、Qiagen社製Oligotex mRNA Kitを用いて直接CD4+目標細胞からmRNAを単離する方法で、製造者の指示に従って行うこともできる。
【0077】
iv) 差次的な異なるmRNA、すなわち、その標的細胞における発現がコントロール細胞に対して増加しているmRNAの同定は、遺伝子チップ(例えば、MWG、CLON- TECH社)を使用して、そして差次的に発現する遺伝子の同定は、InforMax社のVector Xpression Programmを使用して行われる。
【0078】
フィルターハイブリダイゼーション法(例えばUnigene社)は製造者の指示に従う。差次的に発現している遺伝子の同定に引き続き、クローニング、配列決定(例えば、「Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3版、Cold Spring Harbor Laboratory (2001)に参照される標準的な説明に従って)および遺伝子データバンク(www. ncbi.nim. nih. gov)との配列比較が行われる。標的細胞(TH2細胞)におけるGATA-3の発現は、コントロール細胞(例えばTh0細胞)での発現と比較して差異を有する。
【0079】
b) 段階a)のリボ核酸分子に結合し、それを機能的に不活化する特異的なリボ核酸分子の設計
図3に、GATA-3 mRNAに特異的なDNAzymeである本発明のhgd 1〜hgd 70を示す。該DNAzymeの全長は33ヌクレオチドであるが、中心の触媒ドメインは15ヌクレオチド(小文字)であり、公知の10-23 DNAzyme(図2)の触媒ドメインと一致する。この触媒ドメインは、それぞれ9ヌクレオチドからなる2つの基質結合ドメイン(大文字)に左右から挟まれている。左右の基質結合ドメインのヌクレオチド配列は、DNAzyme hgd 1〜hgd 70において異なっており且つ可変であるため、ワトソン・クリック対合によって特異的にGATA-3 mRNAに結合する。
【0080】
図2は、10-23 DNAzymeと、Nを用いて示した任意の標的RNAとの結合に関する一般的なモデルを示しており、矢印は標的mRNAにおける切断部位を示している。
【0081】
DNAzymeは、いかなるプリン-ピリミジン配列も確実に切断することができるが、プリン-ウラシル結合のほうがプリン-シトシン結合よりも効果的に切断されることが、文献により知られている。よってプリン-ウラシル結合を切断するDNAzymeを設計することが好ましい。
【0082】
図2に示したモデルは、その作用様式においてDNAzyme hgd 1〜hgd 70とGATA-3 mRNAとの結合にも当てはめることができる。
【0083】
DNAzyme hgd 1〜hgd 70は、in vitro実験には修飾されていないものを使用し、培養細胞における実験には修飾されたもの(Eurogentec社から購入)を使用した。
【0084】
安定化および保護のための修飾として、以下:
1) 3’末端に安定なインバース・チミジン(inverses Thymidin)
2) 細胞のトランスフェクション効率をFACS分析で評価するための、5’末端のFAMによる標識、
を使用した。
【0085】
in vitroにおいてDNAzymeを試験するために、in vitro転写で生成されたGATA-3 mRNAが必要である。各段階は、以下の通りである。
【0086】
・QIAamp-RNA-Blood-Miniキット(Qiagen社製、ドイツ)を用い、取扱説明書の指示に従って、ヒトEDTA- 全血からRNAを単離する。
【0087】
・以下のプライマー:
フォワードプライマー GGCGCCGTCTTGATACTTT
リバースプライマー CCGAAAATTGAGAGAGAAGGAA、
を用いて逆転写し、2731ヌクレオチドの長さを持つPCR産物が増幅される(JumpStart Accu Taq DNA Polymerase, Sigma社製)。
【0088】
PCR条件:初期変性(96℃、30秒)、40サイクルの増幅(94℃、15秒;48℃、30秒;68℃、3分)、最終伸張(68℃、30分)。
【0089】
PCR産物は、標準的な方法に従ってプラスミドpCR2.1(Invitrogen社)にクローニングされ、確認のために配列決定される。GATA-3 mRNAの生成は、GATA-3を含有するプラスミドpCR2.1を、制限酵素Spe Iを用いた切断により直線化した後、製造者の指示に従ったin vitro転写(Ambion社)によって行われる。該GATA-3 mRNAの長さは、全体で2876ヌクレオチドである。
【0090】
図4は、データバンク[PubMed (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ entrez/query. fcgi?db=Nucleotide)]に登録されている既知のヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列であるが、塩基が多様な場合は灰色のバックで強調されている。配列1:ヒトGATA-3、データバンクNo.: XM_043124、配列2:ヒトGATA3、データベースNo.: X58072、配列3:ヒトGATA-3(プラスミドpCR2.1より単離)。
【0091】
GATA-3 mRNA配列は、3’-末端非翻訳領域または5’-末端非翻訳領域の長さによりお互いに区別される。mRNAの正確な全配列を得るため、プライマーの選択に、登録番号XM_043124およびX58072のmRNA配列を使用した。GATA-3クローニング用プライマーの位置は、図4において下線で強調されている。図4には更に、プラスミドpCR2.1から配列決定されたヌクレオチド配列(配列3)と、データバンクの(配列1および2)GATA-3の核酸配列とのアライメントも示されている。図から、配列は完全に同一ではなく、それぞれいくつかの塩基が異なっていることが分かる。図4のGATA-3の核酸配列3が、本発明のGATA-3 mRNAに対するDNAzymeコンストラクトの基礎をなしている。
【0092】
図4Aには、図4のヒトGATA-3遺伝子の配列3のヌクレオチド配列が示されており、そしてその間に更なるDNAzyme切断候補となる部位がある各2つのヌクレオチドGTまたはATが灰色のバックで強調されて示されている。
【0093】
GATA-3 mRNAのDNAzyme(hgd 1〜hgd 70)によるin vitro切断実験は、以下:50 mMのTris(pH 7.4)、150 mMのNaCl、10 mMのMgCl2、0.25 μMのDNAzymeおよび0.025 μMのin vitro転写されたGATA-3 mRNA(基質対DNAzyme比は、1:10)、の反応混合物からなる容量10 μl内で行われた。反応は、37°Cにおいてそれぞれ記載された時間インキュベートされた。ホルムアミドおよびEDTAを含むRNA-Sample-Loading-Buffer(Sigma社)を加えて反応を停止した。変性させた試料を、1.3%TAEアガロースゲル上で分離し、UVトランスイルミネーターで解析した。
【0094】
図5は、ゲル電気泳動の結果として、非修飾DNAzyme [hgd 11 (レーン2)、hgd 13 (レーン4)、hgd 17 (レーン6)、hgd 40 (レーン8)]および修飾DNAzyme [hgd 11-M (レーン3)、hgd 13-M (レーン5)、hgd 17-M (レーン7)、hgd 40-M (レーン9)]によるGATA-3標的mRNAの切断を示す。レーン1は、コントロールとしてDNAzymeを加えていないmRNAを含む。修飾DNAzymeは、Mをつけて区別している。使用した分子量スタンダード(図示せず)は、1000 bp、2000 bp および 3000 bpのバンドの大きさを示した。矢印は、基質(ここではGATA-3 mRNA)のバンドS、および切断生成物P1およびP2を示す。
【0095】
70個全てのDNAzyme間での比較から、hgd 11、hgd 13、hgd 17 および hgd 40が特に活性であり、修飾によりDNAzyme hgd 11, hgd 13 および hgd 17では効率が下がるものの、 DNAzymes hgd 40の効率は下がらないことが分かる。
【0096】
以下の表に、GATA-3 mRNAに対するDNAzyme hgd 1〜hgd 70を4つのグループに分けて示す。この分類は、GATA-3 mRNAに対するDNAzymeのin-vitro活性試験の実施結果に基づいている。グループ1:高い切断活性、グループ2:中程度の切断活性、グループ3:弱い切断活性、グループ4:測定可能な切断活性なし。
【0097】
【表1】

【0098】
c)段階b)の特異的なリボ核酸分子の標的細胞への導入
高い活性を示したDNAzyme hgd 11、hgd 13、hgd 17およびhgd 40を、上述のように修飾してまたは修飾しないで標的細胞に使用した。
【0099】
これにあたりまず、Jurkat E6.1細胞(ヒト急性T細胞性白血病細胞)を、100 U/mlのペニシリン、0.1 mg/mlのストレプトマイシンおよび10%のFKSを含むRPMI培地において、37°C、高湿度で、5%のCO2雰囲気下にて培養した。トランスフェクションは、6ウェルプレートで行った。2x106個のJurkat E6.1細胞をOpti-MEM-I-細胞培地(Invitrogen社)に移し、DMRIE-C(Invitrogen社)を用いて、修飾DNAzyme(0.3 μM)で形質転換を行った(方法は、Invitrogen社の指示に従った)。前記条件の培養器内で10時間インキュベーションを行った後、RPMI培地(前記の成分)を加え、更に14時間インキュベーションを続けた。細胞をOpti-MEM培地で洗浄した後、上述のプロトコールに従って再度、形質転換を行った。各々のトランスフェクション後、トランスフェクション効率をFACS解析によって評価した。
【0100】
引き続き、DNAzymeの活性を、GATA-3タンパク質量をウェスタンブロット法で調べることにより評価した(図6参照)。
【0101】
ウェスタンブロット解析用に、細胞質タンパク質および核タンパク質をProtein-Extractionキット(Pierce社)を用いて、メーカーの指示に従って分離した。タンパク質濃度は、BCAキット(Pierce社)で測定した。それぞれ30 μgのタンパク質の分離を、10% SDS−ポリアクリルアミドゲルにおける変性ゲル電気泳動によって行った。引き続き、タンパク質を標準的な方法でニトロセルロース膜上にブロットした。該膜を、5%のスキムミルクを含むPBS(0.01 %のTween 20含有)でブロッキングした後、マウス抗GATA-3抗体(Santa Cruz社)(1:500)を、続いてHRP標識マウス抗ウサギ抗体(BD Biosciences社)(1:2000)を加えてそれぞれ1時間、室温でインキュベーションを行った。タンパク質は、化学発光によって可視化した。平行してブロット上のベータ-アクチンを検出し、ブロットされたタンパク質量のばらつきを確かめた。この際、まずニトロセルロース膜上のGATA-3を検出した。続いて、同じ膜を高湿度のチャンバー内に一晩置いた。PBSで2回洗浄後、β-アクチンを特異的抗体(マウス抗ヒトベータ-アクチン抗体(Sigma社))による免疫染色によって検出した。
【0102】
図6は、細胞内におけるDNAzyme活性の結果による免疫ブロットの結果を示す。Jurkat E6.1細胞を、DNAzyme(レーン4 = hgd 11-M、レーン5 = hgd 13-M、レーン6 = hgd 17-M、レーン7 = hgd 40-M)を伴うリポフェクションにより形質転換した。コントロールとしては、未処理の(レーン1)、トランスフェクション試薬でのみ処理された(レーン2)およびトランスフェクション試薬なしでDNAzymeのみで処理された(レーン3)細胞を使用した。48時間インキュベーションを行った後、可溶化したタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、GATA-3 (A)を特異的抗体による免疫ブロットで検出した。各レーンあたりのタンパク質量が同一であることを確認するために、同一のブロット膜上でβ-アクチン(B)による免疫染色を行う。一緒に使用した分子量スタンダード(図示せず)は、63.8 kDa、49.5 kDa および 37.4 kDaの大きさのタンパク質のバンドを示す。
【0103】
DNAzyme hgd 11、hgd 13 および hgd 17がin vivoでは不活性であるのに対し、DNAzyme hgd 40はGATA-3発現をin vivoでも阻害する。従って、DNAzyme hgd 40によるin vivoでのGATA-3発現の特異的な阻害は、慢性炎症性疾患の治療のための有効な治療手段となる。
【0104】
d)薬剤中への、段階b)の特異的なリボ核酸および/または段階c)の標的細胞の製剤化
GATA-3特異的な基質結合ドメインを有する種々のDNAzymeの解析により、DNAzyme hgd 40がGATA-3の発現をin vivoにおいて特異的に阻害し、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤を製造するための特異的なリボ核酸として適していることが示される。ここでは、hgd 40 (5'-GTGGATGGAggctagctacaacgaGTCTTGGAG)またはhgd 40で形質転換された細胞を、薬学的に許容されるキャリアー、例えばリポソームまたは生分解性ポリマーを含む医薬調合物に組み入れる。
【0105】
GATA-3発現の特異的な阻害、および細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造のためのDNAzymeの代替としては、siRNAの使用が考えられる。siRNAは、マウスおよびヒトGATA-3の阻害に使用されることが好ましい。siRNAの製造方法は当業者に公知であり、文献にも記載されている。以下にsiRNA配列の例を挙げる。
【0106】
【表2】

【0107】
実施例2:T-betに対するDNAzyme
a)その標的細胞における発現が、コントロール細胞での発現と比較して差異を示すリボ核酸分子の同定
上述の方法と同様に同定を行った。
【0108】
標的細胞(Th1細胞)におけるT-betの発現は、コントロール細胞(Th0細胞)における発現と比較して差異を有する。
【0109】
b)段階a)のリボ核酸分子に結合し、それを機能的に不活化する特異的なリボ核酸分子の設計
T-betの切断部位の同定は、GATA-3に関する記載と同様に行った。
【0110】
図7は、T-bet mRNAに対して特異的なDNAzymeである本発明のtd 1〜td 78を示す。該DNAzymeの全長は33ヌクレオチドであるが、中心の触媒ドメインは15ヌクレオチド(小文字)であり、公知の10-23 DNAzyme(図2)の触媒ドメインと一致する。この触媒ドメインは、それぞれ9ヌクレオチドからなる2つの基質結合ドメイン(大文字)に左右から挟まれている。左右の基質結合ドメインのヌクレオチド配列は、DNAzyme td1〜td78において異なっており且つ可変であるため、ワトソン・クリック対合によって特異的にT-bet mRNAに結合する。
【0111】
標的mRNAのDNAzymeは、プリン-ウラシル結合のほうがプリン-シトシン結合よりも効果的に切断されることが、文献により知られており、プリン-ウラシル結合を切断するDNAzymeを設計することが好ましい。図2に示したモデルは、その作用様式においてDNAzyme td1〜td78とT-bet mRNAとの結合にも当てはめることができる。DNAzyme td 1〜td 78は、in vitro実験には修飾されていないものを使用し、培養細胞における実験にはGATA-3の時と同様に修飾されたものを用いた。
【0112】
DNAzymeの切断特性およびT-bet mRNAの標的mRNAの機能的不活化を示すため、ヒトEDTA- 全血からQIAamp-RNA-Blood-Miniキット(Qiagen社製、ドイツ)を用いて単離されたT-bet-mRNAを、製造者の指示に従ってin vitroで転写した。
【0113】
図8は、配列1を取り出すデータバンク[PubMed (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ entrez/query. fcgi?db=Nucleotide)]に登録されているNo.: NM_013351の配列のような、ヒトT-bet遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0114】
逆転写は、標準的手法(Invitrogen社のThermoScript)に従って、フォワードプライマー:CGGCCCGCTGGAGAGGAAGCおよびリバースプライマー:CACACACCCACACACAACCを用いて行われ、長さ2450ヌクレオチドのPCR産物が増幅される。PCR産物は、標準的な方法に従ってプラスミドpBluescript-SK(Stratagene社)にクローニングされ、確認のために配列決定される。
【0115】
図8は、T-bet No.: NM_013351(配列1)と配列決定された配列(配列2)の核酸配列の比較を示す。図から、配列は完全に同一ではなく、いくつかの塩基が置換されていることが解る。図8のT-betの核酸配列2が、本発明のT-bet mRNAに対するDNAzymeコンストラクトの基礎をなしている。
【0116】
図8Aには、図8のヒトT-bet遺伝子の配列1のヌクレオチド配列が示されており、そしてその間に更なるDNAzyme切断候補となる部位がある各2つのヌクレオチドGTまたはATが灰色のバックで強調されて示されている。
【0117】
T-bet mRNAの生成は、T-betを含有するプラスミドpBluescript-SKを、制限酵素Xba I(Fermentas社)を用いた切断により直線化した後、製造者(Ambion社)の指示に従ったin vitro転写によって行われる。該T- bet mRNAの全長は、2550ヌクレオチドである。
【0118】
T-bet mRNAのDNAzyme(td 1〜td 78)によるin vitro切断実験は、GATA-3の場合と同様に実施、分析される。図9は、ゲル電気泳動の結果として、修飾DNAzyme [td 54-M (レーン3), td 69-M (レーン4) および td 70-M (レーン5)]によるT-bet標的mRNAの切断を示す。レーン2は、コントロールとしてDNAzymeを加えていないT-bet標的mRNAを含む。使用した分子量スタンダード(レーンM)は2000 bp および 3000 bpのバンドの大きさを示した。矢印Aは、基質(ここではT-bet mRNA)のバンドを、矢印Bは、2つの切断生成物のうちの1つ(もう一方の切断生成物はこの図には見られない)を示す。
【0119】
78個全てのDNAzyme間での比較から、td 54、td 69 および td 70が特に活性であり、修飾してもDNAzymeの効率は下がらないことが分かった。
【0120】
以下の表にt-bet mRNAに対するDNAzyme td 1〜td 78を4つのグループに分けて示す。この分類は、t-bet mRNAに対するDNAzymeのin-vitro活性試験の実施結果に基づいている。グループ1:高い切断活性、グループ2:中程度の切断活性、グループ3:弱い切断活性、グループ4:測定可能な切断活性なし。
【0121】
【表3】

【0122】
c)段階b)の特異的なリボ核酸分子の標的細胞への導入
DNAzyme td54、td69 および td70を、上述のように修飾してまたは修飾しないで標的細胞に使用した。Jurkat E6.1細胞のトランスフェクションは、GATA-3の実施例同様に行った。Jurkat E6.1細胞のトランスフェクション後、GAPDH-mRNAの発現に対する相対的なT-bet-mRNA量を、Real-Time-PCR(LightCycler, Roche社)を用いて定量的に測定し、DNAzymeのin vitro効率を調べた。
【0123】
LightCycler分析用に、Jurkat E6.1細胞のRNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen社、ドイツ)で精製し、続いて分光学的(photometrisch)に平均化した。製造者の指示に従ってSuperScript II(Gibco社)により逆転写した後、LightCyclerでT-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNAを定量的に解析した。PCRの全容量は20μlで、その中には、1μl のDNA、各1μl(0.5μM)のセンス-およびアンチセンス-プライマーおよび10μl のQuantiTect-SYBR-Green-PCR-Master-Mix(Qiagen社、ドイツ)が含まれる。使用したT-bet用PCRプライマーは:センス5’-CCCACCATGTCCTACTACCG-3’;アンチセンス5’-GCAATCTCAGTCCACACCAA-3’である。使用したGAPDH用PCRプライマーは:センス5’-TCTTCTTTTGCGTCGCCAG-3’およびアンチセンス5’-AGCCCCAGCCTTCTCCA-3’ である。使用したPCR条件は:変性(15分95℃)、増幅(15秒95℃、25秒59℃、25秒72℃を50サイクル)、さらに最終伸張2分72℃である。引き続いて、融解曲線を、以下のように作成する:0秒95℃、15秒60℃、続いて温度を0.2℃間隔で97℃まで上昇させ、同時に蛍光を連続的に測定する。全てのPCR産物が特有の融解温度を持っているので、融解曲線は内部標準として使用される。
【0124】
SYBR-Greenは、二本鎖DNAに結合する蛍光色素(QuantiTect SYBR Green PCR Master Mixに含まれる)である。伸張の間にDNAが二本鎖になると、SYBR-Greenがそこに結合して結合依存性の蛍光シグナルが発生し、各伸張の最後にLightCyclerがこれを検出する。出発物質の量が多いほど、蛍光の有意な増加が早くに検出される。LightCyclerのソフトウェアによって、各サイクルに対して収集された蛍光強度が図示される。
【0125】
図10において、ナンセンスDNAzyme処理と比較して、Jurkat E6.1細胞を DNAzyme td54m、td69mおよびtd70mで処理した後の、T-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNAのLightCycler増幅曲線を示す。バックグラウンドの蛍光と有意に区別される蛍光の起点をPCRサイクルとして定義する各「交点」(Ct)は、LightCyclerソフトウェアのFit-Point法において手動で決定される。DNAzymeで処理された細胞および比較としてナンセンスDNAzymeで処理された細胞内のT-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNAの半定量化は、説明書 [User Bulletin #2 (ABI Prism 7700 Sequence detection System User Bulletin #2 (2001) Relative quantification of gene expression http://docs.appliedbiosystems.com/pebiodocs/04303859.pdf)]の方法に従って実施した。なおコントロール実験のT-bet-mRNAの量を100%とした。半定量化のデータは、図11にグラフとして示されている。
【0126】
ナンセンスDNAzyme処理と比較して、td69m-DNAzymeでは抑制が81.3%、td70m-DNAzymeでは抑制が81.0%に達する一方、td54m-DNAzymeではT-bet mRNA抑制効果は見られなかった。
【0127】
この結果は、td54m-DNAzymeはin vivoで不活性であるが、td69m-DNAzymeおよびtd70m-DNAzymeは、細胞環境においてもT-betのmRNAを不活化することを示している。よってDNAzyme td69m および td70mによるin vivoにおけるT-bet mRNAの特異的な減少は、慢性炎症性疾患の治療に効果的な手段である。
【0128】
d)薬剤中への、段階b)の特異的なリボ核酸および/または段階c)の標的細胞の製剤化
様々なT-bet特異的な基質結合ドメインを有するDNAzymeの分析により、DNAzyme td69およびtd70がT-betの発現をin vivoにおいて特異的に阻害し、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤製造のための特異的なリボ核酸として適していることが示される。
【0129】
ここでは、td69 (GGCAATGAAggctagctacaacgaTGGGTTTCT)またはtd70 (TCACGGCAAggctagctacaacgaGAACTGGGT)、またはtd69mまたはtd70mで形質転換された細胞を、薬学的に許容されるキャリアー、例えばリポソームまたは生分解性ポリマーを含む医薬調合物に組み入れる。
【0130】
T-bet発現の特異的な阻害、および細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造のためのDNAzymeの代替としては、siRNAの使用が考えられる。siRNAは、ヒトT-betの阻害に使用されることが好ましい。siRNAの製造方法は、当業者に公知であり、文献にも記載されている。以下にsiRNA配列の例を挙げる。
【0131】
【表4】

【0132】
本発明の記載に基づけば、TH1細胞またはTH2細胞の分化に関与するさらなる転写因子、例えばSTAT4、STAT5a、STAT1、c-Rel、CREB2、ATF-2、ATF-2、Hlx、IRF-1、c-Maf、NFAT、NIP45、AP1、Mel-18、SKAT-2、CTLA-4に対する、またはサイトカインの分化および/または発現に関するさらなるシグナル伝達経路の因子、例えばSrcキナーゼ、Tecキナーゼ、Rlk (ヒトではTxk)、Itk、Tec、RIBP、PLCγ、MAPキナーゼ、ERK、JNK、P38、MKK、MKK1、MKK2、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、Rac2、GADD45、GADD45β、GADD45γ、SOCS、CIS、SOCS1、SOCS2、SOCS3、JAK、JAK1、JAK3、NIP45に対する特異的なDNAzymeまたはsiRNAを、慢性炎症性疾患および自己免疫疾患に対する薬剤として容易に製造し得るということは、当業者にとって明らかである。
【0133】
これらのタンパク質は、コントロール細胞での発現と比較して標的細胞において高い発現を示す。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、CD4+細胞のTH1細胞またはTH2細胞への分化におけるシグナル伝達の模式図を示す。
【図2】図2は、10-23 DNAzymeの触媒ドメインのヌクレオチド配列およびワトソン-クリック対合を用いた標的RNAとの結合を示す。
【図3a】図3aは、段階b)後における特異的なリボ核酸分子のプール、特にGATA-3に対するDNAzyme hgd 1〜hgd 70およびそれらのヌクレオチド配列を示す。
【図3b】図3bは、段階b)後における特異的なリボ核酸分子のプール、特にGATA-3に対するDNAzyme hgd 1〜hgd 70およびそれらのヌクレオチド配列を示す。DNAzyme hgd 1〜hgd 70およびそれらのヌクレオチド配列を示す。
【図4a】図4aは、ヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)を示す。
【図4b】図4bは、ヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)を示す。
【図4c】図4cは、ヒトGATA-3遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)を示す。
【図5】図5は、段階b)後における、特異的リボ核酸分子による標的mRNA(ここではGATA-3 mRNA)の切断を示すゲル電気泳動を示す。
【図6】図6は、細胞内における特異的なリボ核酸分子の反応を伴う免疫ブロットを示す。
【図7a】図7aは、段階b)後の特異的リボ核酸分子のプール、特にT-betに対するDNAzyme td 1〜td 70、およびそれらのヌクレオチド配列を示す。
【図7b】図7bは、段階b)後の特異的リボ核酸分子のプール、特にT-betに対するDNAzyme td 1〜td 70、およびそれらのヌクレオチド配列を示す。
【図8a】図8aは、ヒトT-bet遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)を示す。
【図8b】図8bは、ヒトT-bet遺伝子のヌクレオチド配列(アライメント)を示す。
【図9】図9は、段階b)後における、特異的リボ核酸分子による標的mRNA(ここではT-bet mRNA)の切断を示すゲル電気泳動を示す。
【図10】図10は、DNAzyme td54 (A)、td69 (B) および td70 (C)で処理された細胞由来のT-bet-mRNAおよびGAPDH-mRNA量の、LightCyclerによる定量を示す。
【図11】図11は、Jurkat E6.1細胞内におけるT-bet-mRNAの半定量化グラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階:
a)その標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して差異を有するリボ核酸分子を同定すること
b)段階a)のリボ核酸分子と結合し、それを機能的に不活化する特異的なリボ核酸分子を設計すること
c)段階b)の特異的なリボ核酸分子を標的細胞へ導入すること
d)段階b)の特異的なリボ核酸分子および/または段階c)の標的細胞を薬剤へと製剤化すること、
を特徴とする、細胞および/または組織および/または疾患フェーズ特異的な薬剤の製造方法。
【請求項2】
標的細胞が転写因子および/またはホルモンおよび/またはサイトカインおよび/または増殖因子を分泌する細胞、および/または特有の表面受容体を提示する細胞であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
コントロール細胞が標的組織内の正常細胞、または同一患者のその他の部位(Kompartimenten)由来の同一タイプの細胞であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して高いリボ核酸分子が単離されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して高いリボ核酸分子が、STAT4、STAT5a、STAT1、c-Rel、CREB2、ATF-2、ATF-2、Hlx、IRF-1、c-Maf、NFAT、NIP45、AP1、Mel-18、SKAT-2、CTLA-4、Srcキナーゼ、Tecキナーゼ、Rlk (ヒトではTxk)、Itk、Tec、RIBP、PLCγ、MAPキナーゼ、ERK、JNK、P38、MKK、MKK1、MKK2、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、Rac2、GADD45、GADD45β、GADD45γ、SOCS、CIS、SOCS1、SOCS2、SOCS3、JAK、JAK1、JAK3、NIP45 mRNAから選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して高いリボ核酸分子がGATA-3 mRNAであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
標的細胞における発現がコントロール細胞での発現と比較して高いリボ核酸分子がT-bet mRNAであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
特異的なリボ核酸分子が、GATA-3 mRNAと結合して、それを機能的に不活化するRNA不活化DNA-Enzyme(DNAzyme)または低分子干渉RNA(siRNA)であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項9】
特異的なリボ核酸分子が、T-bet mRNAと結合し、それを機能的に不活化するRNA不活化DNA-Enzyme(DNAzyme)または低分子干渉RNA(siRNA)であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
・いかなるプリン-ピリミジン切断部位においても結合したmRNAを切断し、ヌクレオチド配列GGCTAGCTACAACGAを有する触媒ドメイン
・触媒ドメインの3’末端に結合する右側の基質結合ドメイン、および
・触媒ドメインの5’末端に結合する左側の基質結合ドメイン
を含み、2つの基質結合ドメインがGATA-3 mRNAの2つの領域とそれぞれ相補的であるためにmRNAとハイブリダイズする、GATA-3 mRNAを特異的に切断するDNAzyme。
【請求項11】
配列hgd 40 GTGGATGGA GGCTAGCTACAA CGAGTCTTGGAGを有することを特徴とする、請求項10記載のDNAzyme。
【請求項12】
・いかなるプリン-ピリミジン切断部位においても結合したmRNAを切断し、ヌクレオチド配列GGCTAGCTACAACGAを有する触媒ドメイン
・触媒ドメインの3’末端に結合する右側の基質結合ドメイン、および
・触媒ドメインの5’末端に結合する左側の基質結合ドメイン
を含み、2つの基質結合ドメインがT-bet mRNAの2つの領域とそれぞれ相補的であるためにmRNAとハイブリダイズする、T-bet mRNAを特異的に切断するDNAzyme。
【請求項13】
配列td69 GGCAATGAA GGCTAGCTACAACGA TGGGTTTCTまたはtd70 TCACGGCAA GGCTAGCTACAACGA GAACTGGGTを有することを特徴とする、請求項12記載のDNAzyme。
【請求項14】
DNAzymeが修飾されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1つに記載のDNAzyme。
【請求項15】
修飾が3’末端のインバースチミジン(inverses Thymidin)および/または5’末端のFAM標識であることを特徴とする、請求項14記載のDNAzyme。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか1つに記載のDNAzymeおよび薬学的に許容されるキャリアーを含む薬剤。
【請求項17】
薬学的に許容されるキャリアーがリポソームおよび生分解性ポリマーの群に由来することを特徴とする、請求項16記載の薬剤。
【請求項18】
慢性炎症および自己免疫疾患の治療のために、請求項1〜17のいずれか1つに記載のDNAzymeを含有する薬剤を使用する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図4c】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2007−507438(P2007−507438A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529624(P2006−529624)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002197
【国際公開番号】WO2005/033314
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(506110690)フィリップス−ウニベルジテート・マールブルク (8)
【Fターム(参考)】