細胞の脱分化を行う方法
本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法を提供する。この方法は、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許商標庁に2008年5月6日付で出願され、シリアル番号第61/050,726号が与えられた「細胞の分化状態を調節する方法(Methods For Modulating The Differentiation Status Of A Cell)」の出願を引用し、これの優先権の利益を主張するものである。PCT規則4.18条に従い、本明細書に含まれていないPCT規則20.5(a)条に規定する明細書、請求の範囲または図面のいずれの要素または部分を組み入れることを含め、2008年5月6日付で出願された前記出願の内容は、引用によりあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、細胞の脱分化を行って、あまり分化していない細胞にする方法、たとえば多能性細胞にする方法に関する。したがって、この方法はとりわけ分化した体細胞から誘導多能性幹細胞を形成することを可能にする。この方法は、未分化細胞の多分化能を維持することも可能にする。
【背景技術】
【0003】
転写因子は、遺伝子発現プログラムの特定において主な影響を及ぼし、独自の細胞学的性質を付与することができる。多分化能の重要な調節因子であるOct4、Sox2およびNanogは転写因子である。これらの三つのタンパク質のうち、Oct4とNanogとは多能性細胞に対して特異的な役割を有する。多分化能とは、細胞が生命体の所望の組織の細胞を生じさせる能力である。さらなる転写因子、たとえばStat3、P53などは、多分化能を制御する調節ネットワークに関与すると考えられる。
【0004】
細胞の集団、たとえばヒトもしくは動物の身体の細胞は、分化のプロセスによって生じる。以前は、幹細胞は分化するにつれて、細胞の運命を決定する能力を失い、それらの潜在力がより制限されるようになると推測されていた。しかし、分化した体細胞の発生上制限された状態は、いくつかの再プログラミング法によって多能性状態に逆転することもできる(入門書として、非特許文献1、図1も参照)。これらの方法には、除核未受精卵母細胞を用いた体細胞核移植、分化した細胞の多能性細胞との融合および多能性細胞由来の抽出物を用いた分化した細胞の処理が含まれる(非特許文献2)。体細胞核移植は、一方で、レシピエントとして受精した胚にも適用されている(特許文献1)。
【0005】
体細胞の多能性細胞への再プログラミングは、所定の転写因子のレトロウイルスが関与する形質導入によっても達成できる。ネズミおよびヒト線維芽細胞の、誘導多能性幹(iPS)細胞として知られる多能性細胞への変換は、四つの転写因子Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4を用いて行うことができる(たとえば、非特許文献3および4を参照)。得られたiPS細胞は、発生上および後成的に胚幹(ES)細胞(同文献)と区別ができず、野生型胚幹細胞と非常によく似た発現プロフィールを有する(非特許文献5)。これらの転写因子を過剰発現することによって、ヒトES細胞から分化した線維芽細胞、一次胎児組織、新生児皮膚線維芽細胞、成人線維芽細胞および成人間充織幹細胞をiPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献6)。線維芽細胞のiPS細胞への再プログラミングを成功させるためには、これら四つの転写因子の少なくとも14日間の異種発現が必要とされる(非特許文献7)。
【0006】
成熟な完全に分化したBリンパ球、膵臓β細胞、肝細胞、ケラチノサイトおよび胃上皮細胞も、誘導性レンチウイルスベクターまたはpMXsベースのレトロウイルスを用いて異種Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4を発現することによって、iPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献8〜11、概説については例えば非特許文献12、または13、14を参照)。ヒトES細胞由来の間葉細胞および骨髄細胞、ならびに一次線維芽細胞および新生児包皮線維芽細胞も、レンチウイルスベクターを用いて異種Oct4、Sox2、NanogおよびLin28を発現することによって、iPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献15)。本発明の優先日後に、成人神経幹細胞でも異種Oct4とKlf4またはc−Mycのいずれかを用いて誘導多能性幹細胞に再プログラミングされた(非特許文献16)。
【0007】
胚幹細胞が容易に分化できることは、さらに実施上の大きな課題となる。胚幹細胞を多能性状態に維持するために、取り扱いおよび培地中での培養の間のこれらの分化は防止しなければならない。この理由で、伝統的にはこれらを支持細胞の層上にてウシ胎仔血清の存在下で(例えば、特許文献2および3を参照)または線維芽細胞条件培地(CM)中で培養する。それでも、慎重に制御された条件下でさえ、胚幹細胞はインビトロ増殖の間に自発的分化をする可能性がある。マウス胚幹細胞において自己再生を仲介する因子である白血病抑制因子は、マウス胚幹細胞の分化を阻害することも判明しているが、ヒト胚幹細胞の分化の防止における支持細胞の役割の代替にはならない。したがって、胚幹細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する手段は、幹細胞治療の商業的可能性の実現に実質的な成果をあげるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/103462号
【特許文献2】米国特許第5843780号明細書
【特許文献3】米国特許第6090622号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jaenisch,R.,&Young,R.,Cell(2008)132,567−582
【非特許文献2】Lewitzky,M.&Yamanaka,S.,Curr.Opin.Biotechnol.(2007)18,467−473
【非特許文献3】Takahashi,K.&Yamanaka,S.,Cell(2006)126,663−676
【非特許文献4】Lowry,W.E.ら、Proc.Natl.Acad.ScL(2008)105,8,2883−2888
【非特許文献5】Mikkelsen,T.S.ら、Nature(2008)454,49−55,Natureの誤植(2008)454,794−794
【非特許文献6】Park,I−Hら、Nature(2007)451,141−147
【非特許文献7】Brambrink,T.ら、Cell Stem Cell(2008)2,151−159
【非特許文献8】Takahashi,K.ら、Cell(2007)131,861−872
【非特許文献9】Hanna,J.、ら、Cell(2008)133,250−264
【非特許文献10】Stadtfeld,M.ら、Current Biology(2008)18,12,890−894
【非特許文献11】Maherali,N.ら、Cell Stem Cell(2008)3,340−345
【非特許文献12】Welstead,G.G.ら、Current Opinion in Genetics&Development(2008)18,doi:10.1016/j.gde.2008.01.013
【非特許文献13】Durcova−Hills,G.ら、Differentiation(2008)76,323−325
【非特許文献14】Aoi,T.ら、Science(2008)321,699−702
【非特許文献15】Yu,J.ら、Science(2007)318,191−920
【非特許文献16】Kim,J.B.ら、Nature(2008)454,646−650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一つの目的は、体細胞を再プログラミングし、未分化細胞の多分化能を維持する代替法を提供することにある。
この目的は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法を提供する。この方法は、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることを含む。
【0012】
第二の態様において、本発明は、第一の態様の方法によって得られる脱分化した細胞に関する。
第三の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができる候補化合物を同定する方法あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法を提供する。この方法は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを発現できる細胞中に化合物を導入することを含む。この方法は、Errタンパク質の発現を測定することをさらに含む。Errタンパク質の増大した発現は、化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化の実施あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能であることの現れである。
【0013】
第四の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことあるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能である化合物を同定するインビトロ法を提供する。この方法は、化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つを接触させることを含む。Errタンパク質ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つとの間での複合体形成の促進は、化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化の実施あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能であることを示す。
【0014】
第五の態様において、本発明は、細胞中のErrタンパク質の絶対量を増大させる核酸分子および/または化合物の、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことまたは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持のための薬剤の製造における使用に関する。
【0015】
本発明は、以下の非限定例および添付の図面と併せて考慮する場合に、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】細胞分化および細胞の再プログラミング、すなわち脱分化を誘導するプロセスの概略を示す図である。幹細胞は多能性であり、中胚葉、外胚葉および内胚葉系に分化する能力を保有する。細胞運命の決定を、多能性状態を包含するあまり分化していない状態に戻す再プログラミングは、本発明の方法によって誘導することができる。本発明の方法を用いて、多能性細胞をその状態で停止させることもできる(左)。
【図2】Oct4、Sox2およびc−Mycを用いたMEFを再プログラミングするEsrrbを示す図である。Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Myc感染MEFから回収されたiPS細胞は、フィーダ上でES様コロニー形態を維持した(図2a)。6代継代培養したiPS−OSCEクローン番号13を示す。単離されたiPSクローンは、ESマーカー、例えばアルカリ性ホスファターゼ(AP)(図2b)、Nanog(図2c)およびSSEA−1(図2e)を安定して発現する。対応する試料におけるDAPIを用いた対比染色を、図2dおよびfに示す。Pou5fl−GFP MEFにおいて、GFP発現によって示される内因性Oct4の回復は、特異的にiPSコロニーにおいてEsrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導されるが、周囲の線維芽細胞では誘導されなかった(図2gおよび図2h)。14dpi試料からの初代継代後3日目で形成されたコロニーを示す。iPS:誘導多能性幹細胞、dpi:感染後の日数、線分:200μm(図2a、図2b、図2g、図2h)、100μm(図2c〜図2f)。
【図2i】再プログラミングの仲介におけるEsrrbの効率を、Pou5fl−GFP MEFを用いたKlf4と比較する。14dpiでのOct4、Sox2およびcMycと関連してEsrrbまたはKlf4によって誘導されたGFP陽性コロニーの数を示す。
【図3a】Esrrb再プログラミング細胞の全体的な遺伝子発現分析を示す図である。相関分析(46643転写産物)を実施して、R1 ES細胞、再プログラミングされた細胞(OSCE番号13細胞系、OSCE番号8細胞系およびOSCK細胞系)、アクチン−GFP MEFおよびPou5fl−GFP MEFに遺伝子発現を分類した。Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4によってOSCK再プログラミング細胞系を得た。
【図3b】Esrrb再プログラミング細胞の全体的な遺伝子発現分析を示す図である。図3bにおけるヒートマップは、R1 ES細胞、iPS細胞(OSCE番号13再プログラミング細胞、OSCE番号8再プログラミング細胞およびOSCK再プログラミング細胞)、アクチン−GFP MEFおよびPou5fl−GFP MEFにおける500ES細胞関連遺伝子およびMEF関連遺伝子の発現プロフィールを示す。ES細胞関連遺伝子およびMEF関連遺伝子を、R1 ES細胞とアクチン−GFP MEF細胞との間の発現レベルのフォールド差(fold difference)に基づいて選択した。遺伝子を、平均発現比によって分類し、平均中心を求めた。
【図4a】Esrrb再プログラミング細胞の後成的状態の分析を示す図である。再プログラミングされた細胞のプロモータメチル化分析を示す。NanogおよびOct4プロモータのメチル化状態を、重亜硫酸塩シークエンシングを用いて分析した。白丸は、非メチル化CpGジヌクレオチドを示し、黒丸はメチル化CpGジヌクレオチドを示す。ES細胞(V6.4)、MEF(CD1)、Esrrb再プログラミング細胞(OSCE番号8およびOSCE番号13クローン)から配列決定された10の代表的なクローンを示す。
【図4】Esrrb再プログラミング細胞の後成的状態の分析を示す図である。トリメチル化ヒストンH3K4およびH3K27に対する抗体とES細胞(V6.4)、MEFs(CD1)、およびEsrrb再プログラミング細胞(OSCE番号8およびOSCE番号13クローン)から得られる抽出物を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)後のリアルタイムPCRの結果を示す。ES細胞におけるいくつかのすでに報告されている「二価」遺伝子座についてのlog2濃縮を示す。データは平均±s.e.m.として表し、3回の独立した実験から得る(n=3)。
【図5A】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。EsrraおよびEsrrgの再プログラミング可能性を示す。Oct4、Sox2およびc−Mycとの組み合わせで、Esrrgは、Pou5f1−GFP MEF中、16dpiで多くのGFP陽性コロニーを誘導した。対照的に、Esrraは同じ条件下でごくわずかしかGFP陽性コロニーを誘導しなかった。
【図5B】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。感染したMEFにおけるウイルスでコードされたEsrra、EsrrbおよびEsrrgの転写産物発現の検証を示す。ウイルス特異的プライマおよび遺伝子特異的プライマを用いてcDNA上でPCRを実施した。
【図5】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。図5cは、Pou5f1−GFP MEFからEsrrg、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞を示す。明視野像を示す。図5cに対応する蛍光画像を図5dに示す。GFP陽性シグナルは、内因性Pou5f1遺伝子の発現が再プログラミングされた細胞において特異的に回復されたが、周囲の線維芽細胞では回復されなかったことを示す。図5eは、Esrrg再プログラミング細胞におけるアルカリ性ホスファターゼ発現を示す。図5fは、Esrrg再プログラミング細胞におけるNanog発現を示す。図5fにおいて核をマーキングするために、細胞をHoechstで染色した(図5g)。図5hは、Esrrg再プログラミング細胞におけるES細胞特異的表面抗原SSEA−1の発現を示す。図5hにおいて核をマーキングするために、細胞をHoechstで染色した(図5i)。線分は、図5c〜図5eでは100μmを表し、図5f〜図5iでは50μmを表す。
【図5J】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。Esrrg再プログラミング細胞は、EBが関与する分化において三つの主要胚系統に分化し得る。分化した細胞は、ネスチン(神経外胚葉)、α−平滑筋アクチン(中胚葉)またはGata−4(内胚葉)を発現した。全ての系統マーカーを赤色に染色し、核をHoechstで対比染色した。選択された細胞は、アクチン−GFP MEFから生成し、GFP発現は緑色シグナルによって示された。線分は100μmを表す。
【図5K】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。Esrrg再プログラミング細胞によるテラトーマ形成を示す。分割された試料のMalloryのテトラクローム染色は、再プログラミングされた細胞の、三つ全ての一次胚葉由来の様々な組織への分化を示した。示された組織は、神経外胚葉(外胚葉)、血液(中胚葉)および肝細胞、細胞(内胚葉)に対応する。線分は50μmを表す。
【図6】Esrrb再プログラミング細胞が多能性であることを示す図である。Esrrb再プログラミング細胞は、マウス胚中に組み込まれ、三つの主要な胚葉由来の広範囲の組織に貢献する(図6a)。二つの異なる再プログラミング細胞系を、8細胞期のマウス胚中に顕微注入して、キメラを生成させ、これをE9.5で集め、EGFP発現について立体顕微鏡下で直接観察することによって、多能性について分析した。図6a〜図6cは、3胚についての明視野像を示し、図6d〜図6fは、キメラ胚におけるEGFP陽性細胞の広範囲の組み込みを示す。図6g〜図6hは、キメラ胚の傍矢状断面におけるEGFP陽性細胞の分布を示す。EGFP陽性細胞は、全組織および器官中で広範囲に分布し、発生中の胚の三つの主要な胚葉(外胚葉、中胚葉および内胚葉)由来の組織において表される。略語:F:前脳、Fg:前腸憩室、H:心臓、Hb:後脳、M:中脳、Ne:神経上皮、O:耳胞、S:中胚葉節。
【図7a】Esrrbが、自己複製、多分化能、再プログラミングおよび後成的修飾に関与する因子をコードする遺伝子を調節することを示す図である。経時変化マイクロアレイ分析を実施して、Esrrbノックダウン後、様々な日数での遺伝子発現変化を測定した。形態およびアルカリ性ホスファターゼ(AP)染色を、対照およびEsrrb欠失細胞の両方について各時点で示す。コロニー形態およびアルカリ性ホスファターゼ発現は2日目で維持されることに留意すべきであり、このことは、ES細胞が未分化のままであることを示す。選択されたES細胞関連遺伝子および再プログラミング遺伝子の様々な日での発現変化を表すマイクロアレイヒートマップを示し、これは、これらの遺伝子に対するEsrrbの調節を示唆する。赤色は、対照試料と比べて増加した発現を示し、一方、緑色は減少した発現を意味する。遺伝子発現レベルの平均中心を求めて、これらの相対的変化を示す。
【図7b】Esrrbが、自己複製、多分化能、再プログラミングおよび後成的修飾に関与する因子をコードする遺伝子を調節することを示す図である。ES細胞におけるEsrrbの役割に関するモデルを表す。Esrrbは、フィードバックループによってその発現を自己調節する。Esrrb、Oct4およびSox2は、多分化能および自己再生の維持に関与する遺伝子を調節する。これらの三つの転写因子はまた、再プログラミングに関与する遺伝子を正に調節する。
【図8】Oct4およびSox2を含むが、c−Mycを含まない、Esrrb再プログラミングMEFを表す図である。Esrrb、Oct4およびSox2感染MEFから回収されたiPSクローンは、フィーダ上でES様形態を維持し(図8a)、AP(図8b)、Nanog(図8c)およびSSEA−1(図8e)を安定して発現する。図8dおよび図8fは、Hoechstを用いた対比染色を示す。Pou5f1−GFP MEFにおいて、Esrrb、Oct4およびSox2は特異的にiPSコロニーにおけるGFP発現の引き金となるが、周囲の線維芽細胞では発現させず、このことは、内因性Oct4の回復を示す(図8gおよび図8h)。iPS:誘導多能性幹細胞、dpi:感染後の日数、線分:200μm(図8a、図8b、図8g、図8h)、100μm(図8c〜図8f)。
【図8i】Oct4およびSox2を含むが、c−Mycを含まない、Esrrb再プログラミングMEFを表す図である。再プログラミングの仲介におけるEsrrbの有効性を、Pou5f1−GFP MEFを用いてKlf4と比較する。Oct4およびSox2と関連してEsrrbまたはKlf4により23dpiで誘導されるGFP陽性コロニーの数を示す。
【図9a】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。iPS細胞系OSCE番号8についての正常な核型を示す。
【図9b】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。iPS細胞系OSCE番号13についての正常な核型を示す。
【図9c】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Esrrbをコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9d】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Oct4をコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9e】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Sox2をコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9f】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。c−Mycをコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9g】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。
【図10a】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Esrrb遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10b】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Klf4遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10c】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Klf5遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10d】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Nanog遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10e】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。SaM遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10f】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Sox2遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10g】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Tbx3遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10h】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Tcl1遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、体細胞、前駆細胞または幹細胞などの細胞におけるエストロゲン関連受容体(Err)タンパク質の量を調節すること、たとえばその発現を調節することに基づく。好適なErrタンパク質の実例としては、限定されるものではないが、Esrrb、EsrrdおよびEsrrgが挙げられる。Errタンパク質は、リガンド調節転写因子として作用する核受容体のファミリーであり、リガンドの非存在下で転写を活性化する。これらはDNA結合ドメインにおいてエストロゲン受容体と高い配列類似性を有し、エストロゲン受容体と同じ標的反応エレメントおよび共調節(coregulatory)タンパク質を共有する。しかし、Errタンパク質は古典的なERリガンドである17β−エストラジオールに反応しない。合成エストロゲン化合物、たとえばジエチルスチルベストロールおよび4−ヒドロキシタモキシフェン(OHT)はErr−コアクチベータ相互作用を妨害することによって、Errファミリーメンバーの逆作動薬として作用する。低酸素症誘導性因子(HIF)による低酸素遺伝子の転写活性化は、Errタンパク質によって向上されることが判明し、HIFおよびErrタンパク質は複合体を形成することが示されている(Ao,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2008)105,22,7812−7826)。
【0018】
エストロゲン関連受容体アルファ(Esrra)タンパク質(ESRL1、Err1、Nr3b1、EstrraおよびERRαとも称する)は、ミトコンドリア発生の重要な調節因子とされている。これはまた、筋肉における酸化的代謝の重要な調節因子とされ、代謝性疾患の治療において活性化の潜在的な標的と呼ばれている(Hyatt,S.M.ら、J.Med.Chem.(2007)50,26,6722−6724)。
【0019】
エストロゲン関連受容体β(Esrrb)タンパク質は、Estrrb、ERRB、ERRβ、ERR2、ERRβ2、ESRL2およびNR3B2とも称し、適切な聴力に必須であることが示唆されている(Collin,R.W.J.ら、The American Journal of Human Genetics(2008)82,125−138)。Esrrbはさらに、胚幹細胞のマーカーとしても示唆されている(Zhou,Q.ら、Proc Natl.Acad.Sci U.S.A.(2007)104,42,16438−16443)。スクリーニングによって、特にEssrbは胚幹細胞における重要な遺伝子調節物質として特定され、さらに、Oct4、Sox2、およびNanogとともに作用するコアクチベータであり、これらの直接的標的であることが示唆されている(Zhou,Q.ら、Proc Natl.Acad.Sci U.S.A.(2007)104,42,16438−16443)。質量分光分析および親和性精製によって、EsrrbとNanogとの間の複合体形成が特定された(Liang,J.ら、Nature Cell Biology(2008)10,731−739、Wang,J.,ら、Nature(2006)444,364−368)。しかし、ヒト臍帯静脈間充織幹細胞において、Oct−4およびNanogの両方が発現されることが判明したが、Essrbは発現されなかった(Kermani,A.J.ら、Rejuvenation Res(2008)11,2,379−385)。この知見は、万能幹細胞マーカーとしてのEssrbの有用性と、Essrbの遺伝子調節物質としての一般的重要性との両方について疑念を抱かせる。未分化胚幹細胞中に異種細胞集団が存在するという仮説に基づいて、Carterら(Gene Expression Patterns(2008)8,181−198)は、胚幹細胞の培養物において転写因子の発現パターンを調べた。彼らは、esrrbが不均一に発現されることを見いだし(「モザイク・イン・コロニー」)、これによっても、幹細胞の遺伝子調節におけるesrrbの役割について疑問が投げかけられた。
【0020】
そのN末端ドメインの長さが異なる、エストロゲン関連受容体γ(Esrrg)タンパク質の異なるイソ型(ERR3、Errγ、NR3B3、FLJ16023、KIAA0832およびDKFZp781L1617とも称する)は、たとえばマウスおよびヒトにおいても見いだされ、この場合、これらはイソ型1および2と呼ばれる。Esrrgは、発癌性およびホルモン活性物質ビスフェノールAならびに4−α−クミルフェノールの特異受容体であることが判明している(Matsushima,A.ら、Biochemical and Biophysical Research Communications(2008)373,408−413)。ビスフェノールAと同様に、4−クロロ−3−メチルフェノールは、逆作動薬4−ヒドロキシタモキシフェンと競合して、Esrrgのリガンド結合ドメインと結合し、安定化させることが示されている(Abad,M.C.ら、Journal of Steroid Biochemistry&Molecular Biology(2008)108,44−54)。したがって、ビスフェノールAは、4−ヒドロキシタモキシフェンによる不活性化を、用量依存的に逆転させて当初の高い基礎活性化状態にするので、Esrrgの逆拮抗物質と見なすことができる(Liu,X.ら、FEBS(2007)274,6340−6351)。
【0021】
Esrraは卵巣癌細胞系および癌において高度に発現されることが判明しているが、Esrrbは、分析した一つの細胞系および一つの癌でしか検出できなかった(Sun,P.ら、J.Mol.Med.(2005)83,457−467)。したがって、Esrrbが癌の発生に関与するかどうかは現在のところ明らかではない。Esrrgはすでに遺伝的プロファイリングに考慮されているが、乳癌に関連して特に関連性を有するものであることは見いだされていない(Orsetti,B.ら、British Journal of Cancer(2006)95,1439−1447)。
【0022】
本発明は、Errファミリーのオーファン核受容体がOct4、Sox2およびc−Mycとともに作用して、マウス胚線維芽細胞などの体細胞のiPS細胞への再プログラミングに関与するという予想外の発見に基づく。Err再プログラミング細胞は胚幹細胞の類似した発現および後成的特性を共有する。14個のさらなる因子(転写因子およびクロマチン修飾因子)との、マウス胚線維芽細胞(MEF)においてこれらの因子をOct4、Sox2およびc−Mycと同時発現することによる比較例によって、Errタンパク質EsrrbのみがES細胞様細胞の形成を誘発できることが示された(Esrrbは、Errファミリーの代表的メンバーとして選択された。表1を参照)。本発明者らによってなされたこの発見によって、Esrrbは、自己再生、多分化能および遺伝子発現の後成的調節に関与する多くの遺伝子を標的とし得るという以前の示唆が現実味を帯びるようになる。このことはさらに、Errタンパク質が、胚幹(ES)細胞特異的遺伝子の上方調節によって再プログラミングに関与し得ることを示唆する。本発明者らの発見はまた、Klf転写因子と独立した方法でマウス線維芽細胞などの体細胞を再プログラミングすることが可能であることを示し、これらの核受容体を体細胞再プログラミングと関連付ける。
【0023】
本発明者らの発見は、Oct4およびNanogの標的に関するノックダウン研究における従来のデータについてさらに説明する。Ivanova,N.ら(Nature(2006)442,533−538)は、Esrrbを、shRNAによってその欠乏がマウスES細胞のインビトロでの自己再生に影響を及ぼす、10の遺伝子産物のうちの一つとして同定した。さらに、Esrrbは、その欠乏が、分化細胞に特有の形態変化およびアルカリホスファターゼ活性の喪失をもたらす19遺伝子産物のうちの一つであることを確認した(同文献およびLoh,Y.−H.ら、Nature Genetics(2006)38,4,431−440)。国際公開第2008/021483号はまた、マウス胚幹細胞は、Esrrb siRNAでの処理の6日後に、「幹細胞性(stemness)」を失い、分化した細胞のコロニーを形成することが見いだされたことを開示している。
【0024】
本発明は、細胞の分化を防止、阻害、阻止及び/又は逆転する方法および使用を提供する。任意の細胞を本発明の方法で使用することができる。細胞は、たとえば体細胞または生殖系列細胞で有り得る。いくつかの実施形態において、細胞は、幹細胞および体細胞のハイブリッド細胞である。細胞は、任意の起源および任意の分化状態であってよい。細胞は、たとえば完全に分化していてもよいし、任意の程度まで分化していてもよいし、または未分化であってもよい。細胞が未分化である実施形態において、本発明の方法は典型的には、多能性(multipotency)ならびに全能性(生命体のあらゆる細胞型を形成することができる)(適用可能な場合)および/またはその自己複製特性をはじめとする多分化能を維持する方法である(図1左側)。通常、このような細胞は、未分化細胞、たとえば胚幹細胞、トロホブラスト幹細胞および任意の胚外幹細胞、たとえば成人幹細胞などの幹細胞である。未分化細胞のさらなる例としては、生殖細胞、卵母細胞、割球、および内細胞塊細胞が挙げられる。
【0025】
部分的に分化した細胞の一例は、前駆細胞である(図1、中央)。単能性または多能性で有り得る前駆細胞は、特定の種類の細胞に分化する能力および限定された自己再生能力を有し、これを維持することはできない。部分的に分化した細胞のさらなる例としては、限定されるものではないが、前駆細胞、すなわち特定の種類の新規血液細胞の形成がゆだねられる段階まで発達した幹細胞、系統限定(lineage−restricted)幹細胞、および体性幹細胞が挙げられる。好適な体細胞の例としては、限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血細胞、筋細胞、マクロファージ、単球、および単核細胞が挙げられる。体細胞は、たとえば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、脾臓、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、心臓、眼または神経組織などの任意の組織の細胞であってよい。
【0026】
細胞は、任意の宿主生命体から得られるか、または誘導され得る。細胞は、各宿主生命体から、生検または血液試料などの試料の形態で直接採取することができる。宿主生命体から誘導し、続いて培養するか、成長させるか、形質転換させるかまたは選択された処理に付すこともできる。いくつかの実施形態において、細胞は、宿主生命体中に含まれていてもよい。たとえば、宿主生命体の血液中または器官中に存在していてもよい。細胞を誘導するかまたは得ることができる宿主生命体は、任意の生命体、たとえば微生物、動物、たとえば魚、両生類、は虫類、鳥、齧歯類種を包含する哺乳動物、無脊椎動物種、例えばカエル、ヒキガエル、サンショウウオもしくはイモリを包含する平滑両生亜綱のもの、または植物であってよい。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イヌ、ヤギ、ウマ、ブタ、ゾウ、ニワトリ、マーカーク、チンパンジーおよびヒトが挙げられる。
【0027】
本発明の方法が、前駆細胞、すなわち成熟体細胞を生じさせる細胞について用いられることが意図される場合、任意の前駆細胞を本発明の方法で使用することができる。好適な前駆細胞の例としては、限定されるものではないが、神経前駆細胞、内皮前駆細胞、赤血球前駆細胞、心臓前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、網膜前駆細胞、または造血前駆細胞が挙げられる。
【0028】
本発明の方法で用いられる細胞は、典型的には、Errタンパク質をコードする核酸配列を、一般的に(内因性または異種に関わらず)Errタンパク質の機能的遺伝子の形態で含む点で、少なくとも一つのErrタンパク質を発現できる。いくつかの実施形態において、細胞はすべてのErrタンパク質を発現できる。いくつかの実施形態において、細胞は、一つ以上のErrタンパク質、たとえばEsrrb、Esrrdおよび/またはEsrrgを発現する。いくつかの実施形態において、細胞は全てのErrタンパク質を発現する。いくつかの実施形態において、Errタンパク質をコードする一つ以上のそれぞれの(たとえば内因性)遺伝子は、機能的に活性であり、(一つまたは複数の)Errタンパク質を発現する。いくつかの実施形態において、一つ以上のErrタンパク質をコードする一つ以上の内因性核酸配列は機能的に不活性である。これらの実施形態のうちのいくつかにおいては、Errタンパク質は異種Err遺伝子からでも発現される。Errタンパク質をコードする異種遺伝子は、組換え技術によって、たとえば核酸分子を、典型的にはErrタンパク質遺伝子を保有するベクターとして使用することによって導入することができる(下記も参照)。この点で、各宿主細胞(内因性または異種起源のいずれかに関わらない)における転写を開始するのに有効なプロモータを含むベクターをさらに使用することが有利であり得る。この点で、本発明はまた、このような核酸分子、たとえば各ベクターを、細胞中のErrタンパク質の絶対量を増大させるために使用することにも関する。本発明はまた、このような核酸分子、たとえば各ベクターを、細胞の分化状態を調節するため、特に、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うため、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持するための医薬などの薬剤の製造において使用することにも関する。
【0029】
「ベクター」という用語は、細胞中にトランスフェクトでき、細胞ゲノム内で、またはそれとは独立して複製可能な一本鎖もしくは二本鎖環状核酸分子に関する。環状二本鎖核酸分子を切断して、制限酵素での処理によって直線化することができる。核酸ベクター、制限酵素、および制限酵素によって切断されたヌクレオチド配列の情報の組み合わせは、当業者には容易に入手可能である。ベクターを制限酵素で切断し、二つの断片をライゲートすることによって、Errタンパク質をコードする核酸分子をベクター中に挿入することができる。
【0030】
「プロモータ」という用語は、本明細書で用いられる場合、遺伝子配列発現に必要な核酸配列を意味する。プロモータ領域は生命体ごとに異なるが、様々な生命体については当業者には周知である。たとえば、原核生物においてプロモータ領域は、プロモータ(RNA転写を開始させる)ならびにDNA配列(RNA中に転写される場合、合成開始のシグナルを送る)の両方を含む。このような領域は、通常、転写および翻訳の開始に関与する5’−非コーディング配列、たとえばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含む。
【0031】
「核酸」という用語は、本明細書で用いられる場合、一本鎖、二本鎖またはこれらの組み合わせなどの任意の可能な構造の任意の核酸分子を意味する。核酸は、たとえば、DNA分子、RNA分子、ヌクレオチド類似体を用いるかまたは核酸化学を用いて生成されるDNAもしくはRNAの類似体、ロックト核酸分子(LNA)、ペプチド核酸分子(PNA)およびtecto−RNA分子を包含する(たとえば、Liu,B.ら、J.Am.Chem.Soc.(2004)126,4076−4077)。PNA分子は、骨格が糖ではなく擬ペプチドである核酸分子である。したがって、PNAは一般的に、たとえばDNAまたはRNAとは対照的に、電荷中性骨格を有する。それでも、PNAは、少なくとも相補的な核酸ストランドおよび実質的に相補的な核酸ストランドを、たとえば(PNAが構造を模倣すると考えられる)DNAまたはRNAのようにハイブリダイズできる。LNA分子は、C4’とO2’との間にメチレンブリッジを有する修飾RNA骨格を有し、このブリッジは、N型構造におけるフラノース環をロックし、個々の分子により高い二本鎖安定性およびヌクレアーゼ耐性を提供する。PNA分子と異なり、LNA分子は荷電した骨格を有する。DNAまたはRNAは、ゲノムまたは合成起源のものであってよく、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。このような核酸は、たとえばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムRNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとのコポリマー、オリゴヌクレオチド等であり得る。各核酸は、非天然ヌクレオチド類似体をさらに含有し得、および/または親和性タグもしくは標識と結合することができる。
【0032】
多くのヌクレオチド類似体は公知であり、本発明の方法において用いることができる。ヌクレオチド類似体は、たとえば塩基、糖、またはリン酸塩部分で修飾を含むヌクレオチドである。実例として、siRNAの2’−OH残基の2’F、2’O−Meまたは2’H残基での置換は、各RNAのインビボ安定性を改善することが知られている。塩基部分での修飾は、A、C、G、およびT/U、異なるプリンもしくはピリミジン塩基、たとえばウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イル、および2−アミノアデニン−9−イル、ならびに非プリンもしくは非ピリミジンヌクレオチド塩基の天然および合成修飾を包含する。他のヌクレオチド類似体はユニバーサル塩基としての働きをする。ユニバーサル塩基としては、3−ニトロ−ピロールおよび5−ニトロインドールが挙げられる。ユニバーサル塩基は、任意の他の塩基と塩基対を形成することができる。塩基修飾は、多くの場合、たとえば2’−O−メトキシエチルなどの糖修飾と組み合わせて、たとえば二本鎖安定性の増大など、独自の特性を得ることができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明の方法または使用は、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの活性を増大させることを含む。各Errタンパク質は、たとえば、Esrrb、EsrrdまたはEsrrgであり得る。いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質の核酸標的配列との相互作用を増大させるかまたは減少させるなどの調節をすることを含む。EsrraおよびEsrrbは、エストロゲン応答エレメント、および構成的に活性な形態で、すなわちリガンドの非存在下での回帰性甲状腺ホルモン応答エレメントによって、転写を活性することが判明している(Xie,W.ら、Molecular Endocrinology(1999)13,2151−2162)。Esrrg1は、sft4、SF−1RE、およびTREpalなどの応答エレメント(Sanyal,S.ら、Molecular Endocrinology(2004)18,2,312−325)ならびにDAX−1(染色体X、遺伝子1上の用量感受性性転換副腎形成不全臨界領域)のプロモータにおけるERR調節エレメント(NR0B1)(Park,Y.−Y.ら、Nucleic Acids Research(2005)33,21,6756−6768)、オーファン核受容体を活性化することが示されている。DAX−1の核免疫反応性が乳癌組織で検出され、Esrrgの過剰発現が9例のうち3例で観察された(同文献)。Esrrg2は、たとえば、ヒトβPDGFプロモータのDR−0エレメントおよびラクトフェリンプロモータの拡張されたハーフサイト(half−site)と結合することが判明した(Hentschke,Mら、Eur.J.Biochem.(2002)269,16,4089−4097)。
【0034】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質とさらなるタンパク質との間に複合体を形成するか、またはかかる複合体の形成を向上させることを含む。典型的には、Errタンパク質が一緒になって複合体を形成するタンパク質もまた核タンパク質である。この点で、他の核受容体、GRIP1、および(わずかであるが)SRC−1aおよびACTRは、EsrraおよびEsrrbの転写コアクチベータとしての働きをすることがさらに判明した(同文献)。PPARγコアクチベータ(PGC1a)はさらにEsrrbおよびEsrrgの活性化因子として機能することが示されている(たとえば、Zuercher、WJ.ら、Journal of Medicinal Chemistry(2005)48,3107−3109、およびここで記載される文献を参照)。PGC−1αおよびPGC−1β(Hentschkeら、2002、上記)に加えて、Esrrgの好適なアクチベータのさらなる実例は、Pl60コアクチベータ、たとえば転写中間因子2/グルココルチコイド受容体相互作用タンパク質1、ステロイド受容体コアクチベータ1(乳癌1で増幅)、およびRAP250/活性化シグナルコインテグレータ2(ASC2)である(たとえば、Sanyalら、2004、上記を参照)。この点で、Esrrg活性はさらに、これが結合する応答エレメントに依存することが示されている(同文献)。Esrrg2の一つ以上のアクチベータはさらに血清および網状赤血球溶解物中に含まれる(Hentschkeら、2002、上記)。
【0035】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質と化合物との間の複合体を形成することを含む。Errタンパク質を活性化する化合物の好適な例としては、限定されるものではないが、ペプチド、ペプトイド、無機分子および低分子量有機分子が挙げられる。
【0036】
Esrrbの作動性リガンドとして好適な各低分子量有機分子は、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジド、フラボンフィトエストロゲンまたはイソフラボンフィトエストロゲンであってよい。対応する4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジドのアリール部分は、典型的には6員環、すなわちベンゼン誘導体である。4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジドの一例は、4−ヒドロキシ安息香酸2−[[4−(ジエチルアミノ)フェニル]メチレン]ヒドラジド(Chemical Abstracts No95167−41−2)(DY131もしくはGSK9089としても知られる)である(Yu,D.,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters(2005)15,1311−1313、Zuercher,W.J.ら、Journal of Medicinal Chemistry(2005)48,3107−3109、米国特許出願第2006/0189825号明細書)。さらなる実例は、4−ヒドロキシ安息香酸[[4−(1−メチルエチル)フェニル]メチレン]ヒドラジド(CAS−番号101574−65−6)(GSK4716としても知られる)であり、これも同様にEsrrbを活性化することが判明している。好適なフラボンおよびイソフラボンフィトエストロゲンの例としては、限定されるものではないが、ゲニステイン(5,7,4’−トリヒドロキシイソフラボン)、ダイゼイン(7,4’−ジヒドロキシイソフラボン)、ビオカニンA(5,7−ジヒドロキシ−4’−メトキシイソフラボン)が挙げられ、これらも(程度は低いが6,3’,4’−トリヒドロキシフラボン(フラボン)も同様に)Esrrbを活性化することが報告されている(Suetsugi,M.ら、Molecular Cancer Research(2003)1,981−991)。
【0037】
EsrraおよびEsrrgについて、今までのところ、それ自体アクチベータとして、特に作動薬として作用する化合物は特定されていない。しかし、逆作動薬(全体的な阻害効果を有するこのような化合物は、たとえばEsrraとEsrrgとの両方について知られている)の置換を、各Errタンパク質の活性化と見なすことができる。実例として、ビスフェノールAならびに4−α−クミルフェノールは、Esrrgを不活性化する4−ヒドロキシタモキシフェンを置換することによって、Esrrgを活性化する(Matsushimaら、2008、上記)。ビスフェノールAは、Esrrg活性を増大させることができるので、Esrrgの逆拮抗物質であることがさらに示される(上記、Liuら2007、上記)。さらに、最近の結晶データ(たとえば、Kallen,J.ら、J.Biol.Chem.(2007)282,23,23231−23239)を考慮して、アクチベータを将来同定できることが期待できる。かかる化合物を次いで本発明の方法において用いることができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増加させることは、Errタンパク質、さらなるタンパク質および化合物間で複合体を形成することを含む。さらなるタンパク質および化合物は前記定義の通りであってよい。実例として、PPARγコアクチベータ(PGC1a)の存在下で、化合物4−ヒドロキシ安息香酸ベンジリデンヒドラジド(DY159)、4−ヒドロキシ安息香酸(3−メチル−ベンジリデン)ヒドラジド(DY162)、4−ヒドロキシ安息香酸(4−メチル−ベンジリデン)ヒドラジド(DY163)および4−ヒドロキシ安息香酸(5−エチル−チオフェン−2−イルメチレン)ヒドラジド(DY164)はEsrrbを活性化することが見いだされた(US第2006/0189825号)。この点で、本発明は、前記のような化合物、たとえば上記の例のうちの一つを、細胞におけるErrタンパク質の活性を増加させるために使用することにも関する。本発明は、概して、細胞におけるErrタンパク質の活性および/または絶対量を増大させるための化合物の使用にも関する。本発明は、細胞の分化状態を増大させるための薬剤、たとえば医薬の製造における、かかる化合物の使用にも関する。
【0039】
いくつかの実施形態において、Errタンパク質の活性および/または細胞量は、リン酸化などの翻訳後修飾の変更によって変更される(Tremblay,A.M.ら、Mol.Endocrinol.(2008)22,3,570−584)。いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性および/または量は、SUMO化、つまり小ユビキチン関連修飾因子(SUMO)タンパク質の結合によって調節される(同文献)。EsrraおよびEsrrgは、SUMO化され、これによってその転写活性が負に調節されることが示されている(同文献)。このように、本発明の方法のいくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、リン酸化および/またはSUMO化の変更などの翻訳後修飾の変更を起こさせることを含む。典型的な実施形態において、SUMO化は、対応するリン酸化されたErrタンパク質でのみ起こる。
【0040】
いくつかの実施形態において、細胞は一つ以上の興味のあるErrタンパク質を発現しないか、または任意のErrタンパク質を発現しない。このような実施形態において、本発明の方法は、一つ以上のErrタンパク質をコードする一つ以上の内因性遺伝子を活性化することを含み得る。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞におけるErrタンパク質の発現を可能にできる、Errタンパク質をコードする核酸分子、典型的には異種核酸分子(前出)を細胞中に導入することを含む。かかる実施形態における方法は、異種Errタンパク質を発現することをさらに含む。
【0041】
本発明の方法は、各遺伝子の発現を測定することをさらに含んでもよい。これは例えば、各プロモータの制御下にある遺伝子から転写されたRNA分子の数を測定することによって行うことができる。当該技術分野で通常用いられる方法は、その後、逆転写酵素を用いてRNAをcDNAにコピーし、cDNA分子を蛍光色素とカップリングさせることである。分析は、典型的にはDNAマイクロアレイの形態で実施される。多くのサービスおよびキットはそれぞれ、例えばGeneChip(登録商標)発現アレイはAffymetrixから商業的に入手可能である。Errタンパク質の遺伝子発現を測定する他の手段としては、限定されるものではないが、オリゴヌクレオチドアレイ、および定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態において、遺伝子発現データを較正するか、または評価することが有利であるかまたは望ましい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、得られた結果を一つ以上の対照測定結果と比較することをさらに含む。このような対照測定は、主な測定自体と異なる条件を含んでもよい。各遺伝子の発現が起こらないような方法の条件を含んでもよい。対照測定のさらなる手段は、例えばErrタンパク質をコードしない遺伝子、または非機能性Errタンパク質をコードする遺伝子のなどの各遺伝子の突然変異形態の使用である。
【0043】
その量または活性が増大したErrタンパク質は、各Errタンパク質の任意の変異体、イソ型、対立遺伝子などであり得る。Esrrbの実例は、GenPept受入番号AAH44858(マウス)、AAI11278(ウシ)、AAI31518(ヒト)、O95718(ヒト)、NP_001008516(ラット)、XP_001162698(チンパンジー)、XP_001100608(アカゲザル)、XP_001519435(カモノハシ)、XP_001491623(ウマ)、XP_001235147(ニワトリ)、XP_001333980(ゼブラフィッシュ)、ABF65992(ロシアハタネズミ)、XP_001928086(ブタ)、ならびにhERRb2−Δ10および短形hERRβ[どちらもZhouら(J.Clin.Endocrinol.&Metab.(2006)91、2、569−579)によって記載されている]のタンパク質である。Esrrgの実例は、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62508のヒトタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号Q5RAM2のオランウータンタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62509のマウスタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62510のラットタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号A4IIT9のアフリカツメガエルタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号Q6Q6F4のゼブラフィッシュタンパク質およびGenPept受入番号XP_001489640、XP_001489725、XP_001489702およびXP_001489611のウマタンパク質である。
【0044】
Esrraの実例は、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P11474のヒトタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号Q6QMY5のイヌタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号O08580のマウスタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot番号Q5QJV7のラットタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号A0JM86のアフリカツメガエルタンパク質およびUniProtKB/TrEMBL受入番号O42537のゼブラフィッシュタンパク質である。
【0045】
本発明の方法および使用は、一つ以上のErrタンパク質、または(一つまたは複数の)Errタンパク質の(一つまたは複数の)対応する機能的フラグメントの細胞における量もしくは活性を評価することをさらに含み得る。興味のあるErrタンパク質の量もしくは活性を評価することができる。
【0046】
細胞におけるErrタンパク質の量を、たとえば標識と結合し得る免疫グロブリンなどの抗体によって評価することができる。細胞が単離された細胞もしくは微生物である場合、細胞内免疫グロブリンを、たとえば細胞膜の透過化後に細胞中に導入することができる。次いで検出をインビボまたはエキソビボで行うことができる。いくつかの実施形態において、検出はインビトロで、たとえば細胞抽出物または細胞溶解物に関して実施することができる。このような技術としては、電気泳動、HPLC、フローサイトメトリ、蛍光相関分光法またはこれらの技術の変形態様もしくは組み合わせが挙げられる。
【0047】
「抗体」という用語は、一般的に、免疫グロブリン、そのフラグメントまたは免疫グロブリン様機能を有するタンパク様結合分子を意味する。(組換え)免疫グロブリンフラグメントの例は、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、二重特異性抗体、三重特異性抗体(Iliades,P.ら、FEBS Lett(1997)409,437−441)、デカボディ(decabody)(Stone,E.ら、Journal of Immunological Methods(2007)318,88−94)および他のドメイン抗体(Holt,L.J.ら、Trends Biotechnol.(2003),21,11,484−490)である。免疫グロブリン様機能を有するタンパク様結合分子の一例は、リポカリンファミリーのポリペプチドに基づく突然変異タンパク質である(国際公開第2003/029462号、国際公開第2005/019254号、国際公開第2005/019255号、国際公開第2005/019256号、Besteら、Proc.Natl.Acad.Sci USA(1999)96,1898−1903)。リポカリン、たとえばビリン結合タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ヒトアポリポタンパク質D、ヒト涙液リポカリン、またはグリコデリンは、ハプテンとして知られる選択された小タンパク質領域と結合するように修飾することができる天然のリガンド結合部位を有する。さらなるタンパク様結合分子の他の非限定的な例は、いわゆるグルボディ(glubody)(国際公開第96/23879号を参照)、アンキリン・スカフォールドに基づくタンパク質(Mosavi,L.K.ら、Protein Science(2004)13,6,1435−1448)または結晶性スカフォールド(国際公開第2001/04144号)、Skerra(J.Mol.Recognit.(2000)13,167−187)によって記載されるタンパク質、アドネクチン、テトラネクチン、アビマーおよびペプトイドである。アビマーは、いくつかの細胞表面受容体において複数のドメインのストリングとして存在する、いわゆるAドメインを含む(Silverman,Jら、Nature Biotechnology(2005)23,1556−1561)。ヒトフィブロネクチンのドメイン由来のアドネクチンは、標的との免疫グロブリン様結合が得られるように操作できる三つのループを含む(Gill,D.S.&Damle,N.K.,Current Opinion in Biotechnology(2006)17,653−658)。各ヒトホモトリマータンパク質由来のテトラネクチンは、所望の結合を得るために操作できるループ領域をC型レクチンドメインにおいて同様に含む(同文献)。タンパク質リガンドとして作用できるペプトイドは、側鎖がα炭素原子ではなくアミド窒素と結合している点でペプチドと異なるオリゴ(N−アルキル)グリシンである。ペプトイドは、典型的にはプロテアーゼおよび他の修飾酵素に対して耐性であり、ペプチドよりもはるかに高い細胞透過性を有する(たとえば、Kwon,Y.−U.、およびKodadek,T.,J.Am.Chem.Soc.(2007)129,1508−1509を参照)。所望により、標的物の任意の形態、種類などに対する各部分の親和性をさらに増大させる修飾剤を用いることができる。
【0048】
Errタンパク質の活性の評価は、タンパク質の核酸標的配列に対する結合の測定を含み得る。このような測定は、たとえば、分光、光化学的、測光、蛍光測定、放射線、酵素的または熱力学的手段(インビボとインビトロとの両方)に依存し得る。分光検出法の一例は、蛍光相関分光法である(たとえば、Haustein,E.,&Schwille,P.,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.(2007)151−169を参照)。光化学的方法は、光化学的架橋である。光活性、蛍光、放射性または酵素標識の使用は、それぞれ測光法、蛍光測定法、放射線法および酵素検出法の例である。実例として、量子ドットもフルオロフォアとして、たとえばインビボ測定で使用できる(たとえばLidke,D.S.ら、Current Protocols in Cell Biology(2007)25.1.1−25.1.18、doi:10.1002/0471143030.cb2501s36を参照)。蛍光のインビボでの使用のさらなる実例は、二分子蛍光相補法において黄色蛍光タンパク質を用いることである。蛍光プローブの使用に関する総括は、Xieらによって提示されている(Annu.Rev.Biophys.(2008)37,417−44)。熱力学的検出法の一例は、等温滴定熱量測定である。Errタンパク質の核酸配列に対する結合を測定する好適な方法のさらに別の例は、表面プラズモン共鳴技術、たとえば局在表面プラズモン共鳴である(たとえば、Endo,T.ら、Analytica Chimica Acta(2008)614,2,182−189)。これらの方法のいくつかには、さらなる分離技術、たとえば、電気泳動またはHPLCが含まれる。詳細には、標識の使用例は、プローブとしての化合物または酵素が結合した免疫グロブリンを含み、これによって触媒される反応は、検出可能なシグナルをもたらす。放射性標識および電気泳動による分離を用いる方法の一例は、電気泳動移動度シフト分析である。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞の分化状態を評価することを含む。細胞の分化状態は、例えば細胞によって提示される表現型に基づいて顕微鏡下で評価することができる。当業者は、細胞の表現型をモニタリングすることによって、分化状態における微細な変化を評価することができる。細胞の表現型はまた、細胞の高分子含量によっても反映される。この含量の変化は、したがって、分化状態の変化を示す。ラマン顕微分光法またはFT−IR分光法は、これに関して分化状態を評価するために好適な技術の実例である。Amiら(Biochimica et Biophysica Acta(2008)1783,98−106)は最近、たとえば胚幹細胞分化をモニタリングするために全タンパク質発現および核酸赤外線域の検出を評価することを含むFT−IR分光法技術を実証した。同じ技術によって、細胞の脱分化を同様に評価することができる。
【0050】
細胞の分化状態を評価する技術のさらなる例は、細胞の分化状態のマーカーの存在の評価である。このようなマーカーは、典型的には細胞タンパク質である。分化マーカーと見なすために、タンパク質は、細胞のある分化状態の間に検出可能な量でのみ存在し得る。あるいは、マーカーは、ある細胞の分化状態を特徴付けるいくつかの選択された相において存在し得る。この場合、それぞれが発現される分化状態に関して異なるプロフィールを有する異なるマーカーの組み合わせを使用して、細胞の分化状態を評価することができる。たとえば、第1マーカーが幹細胞もしくは前駆細胞を示し、第2マーカーが前駆細胞もしくは線維芽細胞を示すならば、両マーカーの存在は、前駆細胞を示す。さらなる代替法において、タンパク質はある段階、すなわちある細胞分化状態の間、特に多量または少量でのみ存在し得る。この点で異なる特性を有する多くのマーカーの組み合わせをまた細胞の分化状態を評価するために使用できる。一般的に、細胞の分化状態を評価するために、いくつかのマーカーの組み合わせを選択することが有利である。マーカータンパク質の存在は、たとえば抗体によってタンパク質レベルで検出することができるか(上記)、またはマーカータンパク質の発現レベルに基づいて評価することができる。タンパク質の半減期に関係なく、あるマーカータンパク質の発現は、一般的に各細胞の分化状態の好適な指標である。その量および発現を細胞の分化状態のマーカーとして評価することができるタンパク質の例としては、限定されるものではないが、Nanog、Oct4、Sox2、Sal14、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gml739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553、またはNanog、Oct4、Sox2、Sal14、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gml739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つのプロモータのメチル化状態が挙げられる。複数のこのようなマーカーの発現は、マイクロアレイハイブリダイゼーションなどの標準的技術を用いて実施することができる。定量的な発現プロファイリングに使用できるマイクロアレイの一例は、欧州特許出願公開第1477571号明細書に見いだすことができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、細胞の分化状態の評価は、ある期間にわたって量および/または活性を評価することを含む。一例として、細胞は、たとえば光学的に連続して評価することができる。さらなる例として、選択された時間間隔の後、細胞の評価を実施することができる。細胞の分化状態の評価は、対照測定をさらに含んでもよい。対照測定は、たとえば同じ起源であり、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性が増加しないか、または一般的に調節されない、同等の細胞を含んでもよい。このような対照測定に関して、Errタンパク質の量もしくは活性が影響を受けないことがわかっている条件を選択することができる。条件は、各対照測定に関して、Errタンパク質の量もしくは活性が増加しないように、または概して変化しないように選択することもできる。一つ以上のErrタンパク質の量および/または活性、または一つ以上のErrタンパク質の(一つまたは複数の)機能的フラグメントが増加する細胞の評価を実施するので、この対照測定は、たとえば、ほぼ同時に、たとえば同時に実施することができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、所定の閾値をそれぞれ分化および脱分化に設定する。二つの評価、すなわち、Errタンパク質の量および/または活性が増大した「試料」と「対照」測定値とが異なって、細胞の分化状態を示す/特徴付ける測定値間の差が所定の閾値よりも大きいならば、脱分化が達成される。実例として、マーカータンパク質の発現を用いて、細胞の分化状態を評価することができる。マーカータンパク質の発現は、選択された細胞型の細胞の脱分化を示す。発現における変動が、選択された条件下で起こり得るならば確実に考慮されるように、対照測定を用いることができる。「試料」(上記)と「対照」測定との間のマーカータンパク質の発現の差が所定の閾値を超えるならば、「試料」中で脱分化が起こったと結論づけられる。
【0053】
脱分化した細胞を評価するさらなる好適な方法は、未分化対照細胞の使用および、たとえば米国特許出願公開第2008/0076176号明細書に記載される細胞の表現型のモニタリングを含む。多分化能は、たとえば細胞が、後に細胞混合物から完全に組み込まれた生命体を形成する胚盤胞と各幹細胞または幹様細胞を組み合わせた後に、胚のキメラ、つまり2以上の生命体からの細胞のブレンドを形成する能力によって評価することができる。多分化能を評価するさらなる方法は、各幹細胞をマウスの皮膚の下に注射することであり、皮下でこれらの幹細胞は奇形種を形成し得る。さらなる評価方法は、4倍体相補性、さらに分化することができない4N胚中に注射することによって、対応する細胞の多分化能を測定するインビボ試験である。結果として得られる正常な2N胚は、輸入された多能性細胞から発生し続ける。
【0054】
実際面での最適化、たとえば最も好適なベクターの同定をより詳細に行うと、本発明の方法により得られた細胞、たとえば誘導幹細胞もしくは前駆細胞を、現在利用可能な細胞の代替物として容易に使用できる。最近、ゲノム組み込みウイルスは誘導多能性幹細胞を得るためには必要でないことが実証された。一つの代替物として、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを一時的に発現する非組み込みアデノウイルスがStadtfeldらにより使用され(Science(2008)doi:10.1126/science.1162494)、別の代替物として、Oct3/4、Sox2、およびKlf4のcDNAを含むプラスミドを一つだけ、c−Myc発現プラスミドとあわせて繰り返しトランスフェクションすることが、Okitaらによって用いられた(Science(2008)doi:10.1126/science.1164270)。
【0055】
細胞を十分に未分化細胞状態まで脱分化させるために本発明の方法を使用した場合、得られた細胞、典型的には幹様細胞は、たとえば所望の分化した細胞型を得るために用いることができる。したがって、本発明の方法は、多種多様の治療上用途に使用することができる。このような細胞は、たとえば同じ個体から得られる細胞を選択された細胞型の細胞を提供するために使用できるという利点を有する再生医療において使用することができる。実例として、ヒト造血幹細胞を、骨髄移植を必要とする医療で用いることができる。本発明にしたがって得られる細胞を、多くの生理学的状態および疾患、たとえば多発性硬化症などの神経変性疾患、卵巣癌および白血病などの末期癌、並びにHIV感染症(「AIDS」)などの免疫系を傷つける疾患の治療において用いることができる。治療することができる生理学的状態のさらなる例としては、限定されるものではないが、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィ、糖尿病、肝臓疾患、すなわち、高コレステロール血症、心臓疾患、軟骨置換、熱傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎臓疾患、尿路疾患、および老化に伴う疾患および状態が挙げられる。このような細胞も、一つ以上の細胞系の形成に用いることができる。
【0056】
本発明の方法は、たとえば、細胞を可逆的に脱分化および分化させることによって、いくつかの実施形態においてはさらに興味のある化合物の存在下で、研究目的で用いることもできる。この点に関して、本発明の方法によって得られる細胞は、ある状態、たとえば疾患状態になるインビトロ、エキソビボもしくはインビボモデル細胞、またはある状態、たとえば疾患状態にある細胞に対して用いることもできる。このような細胞は、ヒトをはじめとする動物などの生命体の発生を研究するために用いることもできる。本発明の方法を用いて誘導多能性幹細胞を生じさせる場合、疾患特異性多能性細胞系を、Parkら(Cell(2008)134,877−886)によって記載される技術と同様にして生成させることができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法である。胚幹細胞などの幹細胞を制御された方法で、たとえば神経成長因子およびレチノイン酸の存在下でニューロンに分化させることができ(Schuldinerら、Br.Res.(2001)913,201−205)、これらが容易に分化できることは、実施上の大きな問題となる。胚幹細胞を多能性状態に維持するためには、取り扱いおよび培地中での成長の間のこれらの分化は防止されなければならない。この理由のために、これらは伝統的に支持細胞の層上でウシ胎仔血清の存在下(たとえば米国特許第5843780号明細書および第6090622号明細書を参照)または線維芽細胞条件培地(CM)中で培養される。それにもかかわらず、慎重に制御された条件下でも、胚幹細胞はインビトロ増殖の間に自発的分化を受け得る。マウス胚幹細胞における自己複製に関与する因子である白血病抑制因子(LIF)はまた、マウス胚幹細胞の分化を阻害することが判明しているが、ヒト胚幹細胞の分化の防止において支持細胞の役割の代替とならない。したがって、当業者らは、著しい改善として幹細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することを含む調節方法を理解するであろう。
【0058】
成人幹細胞は、多能性様胚幹細胞でないが、自己複製可能であり、柔軟性を有するものであることが証明され、これによって、これらの発生可能性は、より未熟な多能性胚幹細胞と匹敵するようになる。一例として、成人幹細胞は、その起源の組織とは異なる細胞系に分化することができる。
【0059】
本発明の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法は、任意の幹細胞、前駆細胞、奇形種細胞またはこれらから誘導される任意の細胞に好適である。典型的には、各細胞はErrタンパク質を発現することができる。実例として、任意の多能性ヒト胚幹細胞もしくは各細胞系を各方法で用いることができる。かかる細胞の集団を誘導する手段は当該技術分野で十分確立されている(たとえば、Thomson,J.A.ら、Science[1998]282,1145−1147またはCowan,C.A.ら、N.Engl.J.Med.[2004]350,1353−1356を参照)。さらに、たとえば、少なくとも78の独立したヒト胚幹細胞系(たとえば、the NIH Human Embryonic Stem Cell Registry(http://stemcells.nih.gov/research/registry/eligibilityCriteria.aspを参照)、たとえばGE01、GE09、BG01、BG02、TE06またはWA09が存在することが知られ、そのうちの少なくとも21細胞系が研究目的で利用可能である。ヒト胚幹細胞をはじめとする胚は、たとえば桑実胚、後期胚盤胞期の胚、単一割球または単為生殖胚から誘導することができる。多能性胎児幹細胞並びに前駆細胞を胎児から単離することができる。多能性胎児幹細胞は、通常、誕生時に廃棄される胎児外組織からも単離することができる。成人幹細胞は、たとえば神経組織(Chojnacki,A.,&Weiss,S.,Nature Protocols(2008)3,935−940)もしくは脂肪組織(Bunnell,B.A.ら、Methods in stem cell research(2008)45,2,115−120)などの組織、精巣の精原細胞(たとえばConrad,S.ら、Nature(2008)doi:10.1038/nature07404)、歯、誕生後に残る胎盤および臍帯からの血液、または筋繊維から単離することができ、この幹細胞および前駆細胞にいわゆる「衛星細胞」として関連する(Collins,C.A.ら、Cell[2005]122,289−301、Rando,T.A.,Nature Medicine[2005]11,8,829−831も参照)。前駆細胞は、血液および様々な組織、たとえば神経組織、脳室下帯、膵臓、網膜、骨膜または内皮細胞からも単離することができる。
【0060】
「幹細胞」という用語は、本明細書で用いられる場合、任意の幹細胞を意味し、いわゆる癌幹細胞も包含する。多くの種類の癌は、このような癌幹細胞を含むことが判明しており、これらは自己複製能力および分化能力によって特徴付けられる。広範囲の研究によって、ほとんどの癌がクローン性であり、腫瘍成長を維持する能力が付与された一つの癌幹細胞であり得ることがわかる。Krivtsovら(Nature(2006)442、818−822)は、たとえば、前駆細胞由来の白血病幹細胞を非常に多く含む細胞集団を精製し、これらを遺伝子発現プロファイリングによって特徴付けた。彼らは、これらの細胞が、これらが生じた前駆細胞と類似しているが、造血幹細胞において通常発現される自己複製関連プログラムを発現すると報告している(同文献)。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞または細胞が含まれる宿主生命体に対して、Errタンパク質の発現および/または活性を調節する化合物を投与することを含む。「投与する」という用語は、生命体の細胞または組織中に化合物を組み入れる技術に関する。
【0062】
本明細書で記載する化合物、並びに本発明の方法によって同定される化合物は、細胞、動物またはヒト患者にそれ自体で、あるいは他の活性成分もしくは安定剤をはじめとする好適な担体または(一つもしくは複数の)賦形剤と混合される医薬組成物で投与することができる。このような担体、賦形剤または安定剤は、通常、用いられる用量および濃度で、暴露される細胞もしくは哺乳動物に対して無毒である点で薬剤的に許容される。多くの場合、生理学的に許容される担体は、水性pH緩衝液である。生理学的に許容される担体の例としては、緩衝液、たとえばリン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸、アスコルビン酸をはじめとする酸化防止剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、たとえば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン、親水性ポリマー、たとえばポリビニルピロリドン、アミノ酸、たとえばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリシン、単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンをはじめとする他の炭水化物、キレート剤、たとえばEDTA、糖アルコール、たとえばマンニトールもしくはソルビトール、塩形成カウンターイオン、たとえばナトリウム、および/または非イオン性界面活性剤、たとえばTWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(登録商標)が挙げられる。
【0063】
好適な投与経路としては、たとえば持続性薬剤、経口、直腸、経粘膜、または腸投与、筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、並びに髄膜、直接脳室内、腹腔内、鼻内、または眼球内注射をはじめとする非経口送達を挙げることができる。化合物は、全身的ではなく、たとえば化合物を組織にたとえば持続性薬剤または持続放出処方で直接注射することにより、局所投与することもできる。
【0064】
さらに、標的の薬物送達システム中、たとえば腫瘍特異性抗体でコーティングされたリポソーム中に薬物を投与することができる。リポソームは興味のある(一つもしくは複数の)細胞を含む組織によって選択的に標的とされ、吸収される。
【0065】
前記の化合物を含む組成物は、たとえば通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、粉末化、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥法によって、医薬組成物についてそれ自体公知の方法で製造することができる。本発明にしたがって使用される組成物は、したがって活性化合物の薬剤的に使用できる製剤への加工を容易にする賦形剤および助剤を包含する一つ以上の生理学的に許容される担体を用いた通常の方法で処方することができる。適切な処方は、選択された投与経路に依存する。
【0066】
注射に関して、化合物は水溶液、たとえば生理学的に適合性の緩衝液、たとえばハンクス液、リンガ液、または生理食塩緩衝液中に配合することができる。経粘膜投与に関して、浸透されるバリアに対して適切な浸透剤を処方中で使用する。このような浸透剤は当該技術分野で一般的に公知である。経口投与に関して、化合物は、活性化合物を当該技術分野で周知である薬剤的に許容される担体と組み合わせることによって容易に配合することができる。このような担体によって、治療される患者が経口摂取するための錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することが可能になる。
【0067】
固体賦形剤を添加し、場合によって結果として得られた混合物を粉砕し、所望により好適な助剤を添加した後に顆粒の混合物を加工して、錠剤もしくは糖衣錠コアを得ることによって、経口使用される製剤を得ることができる。好適な賦形剤は、特に、充填剤、たとえばラクトース、スクロース、マンニトール、もしくはソルビトールをはじめとする糖、セルロース調製物、たとえば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)である。所望により、崩壊剤、たとえば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、たとえばアルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0068】
糖衣錠コアに好適なコーティングを提供する。このために、濃厚糖溶液を用いることができ、この溶液は、場合によって、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含む。活性化合物量の様々な組み合わせを特定するかまたは特徴付けるために、染料または顔料を錠剤もしくは糖衣錠コーティングに添加することができる。
前記の化合物を含む製剤を経口的に使用することができ、ゼラチンでできた押し込み型カプセル、並びにゼラチンおよびグリセロールもしくはソルビトールなどの可塑剤で作製されたソフト密封カプセルを包含する。押し込み型カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、及び/又はタルクもしくはステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、および場合によって安定剤との混合物で活性成分を含むことができる。ソフトカプセルにおいて、活性化合物を、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中に溶解もしくは懸濁させることができる。加えて、安定剤を添加することができる。経口投与用の全ての処方は、かかる投与に好適な用量である。口腔投与のために、組成物は、通常の方法で処方された錠剤もしくはロゼンジの形態を取ることができる。
【0069】
吸入による投与に関して、本発明にしたがって使用する化合物は、好適なプロペラント、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適なガスを使用した、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で都合よく送達される。加圧エアゾルの場合、投与単位は、定量を送達するためのバルブを提供することによって決定することができる。吸入器または注入器において用いられるゼラチンなどのカプセルおよびカートリッジは、化合物および好適な粉末基剤、たとえばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含んで処方することができる。
【0070】
化合物は、注射、たとえばボーラス注入法または持続注入による非経口投与用に処方することができる。注射用処方は、単位投与形態、たとえばアンプル中または複数回投与容器中で、保存料を添加して提示することができる。各組成物は、懸濁液、溶液または油性もしくは水性ビヒクル中エマルジョンなどの形態を取ることができ、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの処方剤を含んでもよい。
【0071】
好適な非経口投与用処方の実例は、水溶性形態の活性化合物の水溶液である。さらに、活性化合物の懸濁液を適切な油状注射懸濁液として調製することができる。好適な親油性溶媒もしくはビヒクルとしては、脂肪油、たとえばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、たとえばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが挙げられる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含むことができる。場合によって、懸濁液は、好適な安定剤または化合物の溶解度を増大させて非常に濃厚な溶液の調製を可能にする薬剤も含んでもよい。
【0072】
活性成分は、好適なビヒクル、たとえば滅菌ピロゲンを含まない水で使用前に構成される粉末形態であってもよい。化合物は、たとえばカカオ脂または他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を含む坐剤または停留浣腸などの直腸組成物に処方することもできる。
【0073】
すでに記載した処方に加えて、化合物は持続性製剤として処方することもできる。このような長時間作用型処方は、移植(たとえば皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、たとえば化合物を、好適なポリマーもしくは疎水性材料(たとえば許容できる油中エマルジョンとして)またはイオン交換樹脂を用いて、あるいは難溶性誘導体、たとえば、難溶性塩として処方することができる。
【0074】
さらなる態様において、本発明は、細胞の脱分化を行うことができる化合物を同定する方法を提供する。このような方法は、化合物とErrタンパク質との間に複合体を形成することを包含する相互作用を可能にすることを含んでもよい。一実施形態において、方法は、化合物がErrタンパク質とNanogおよびOct4の一方または両方との間の複合体の形成を変えるかどうか、たとえば防止、減少または向上させるかを確認することを含んでもよい。さらなる実施形態において、方法は、Errタンパク質の転写因子活性を向上、軽減または防止することなど調節するかどうかを確認することを含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、各方法は、一つ以上のErrタンパク質、または一つ以上のErrタンパク質の(一つもしくは複数の)機能的フラグメントを発現できる細胞中に化合物に導入し、(一つもしくは複数のErrタンパク質)の発現を測定することを含む(詳細については前記参照)。各Errタンパク質の増大した発現は、対応する化合物が、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することができることを示す。
【0076】
この複合体の形成は、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法を用いて実施できる。実例は、表面プラズモン共鳴(たとえば、Biacore(登録商標)技術)、核磁気共鳴または結晶化およびその後のX線分析による検出である。分光検出法の一例は蛍光相関分光法である(Thompson,N.L.ら、Curr.Opin.Struct.Biol.[2002]12,5,634−641)。光化学的方法は、たとえば光化学的架橋である。光活性標識、蛍光標識、放射性標識または酵素標識の使用は、それぞれ測光法、蛍光測定法、放射線法および酵素的検出方法の例である(これも前記参照)。
【0077】
いくつかの実施形態において、かかる方法はインビトロ法である。化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、およびNanogもしくはOct4または三つのタンパク質全てを接触させることを含み得る。かかる方法において、一般的に、化合物がErrタンパク質と、NanogおよびOct4の少なくとも一つとの間の複合体形成を調節できるかどうかを確認する。化合物がかかる複合体形成を軽減もしくは防止する場合、この化合物は、分化の実施に好適であり得る候補分子である。化合物がかかる複合体形成を増大もしくは促進する場合、このことは、この化合物が、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することができることを示す。
【0078】
インビトロ方法の前記実施形態は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つの複合体形成を調節できると予測される化合物を試験管に添加することを含むことができる。方法は、Errタンパク質、又はその機能的フラグメントを試験管に添加することをさらに含むことができる。方法は、NanogもしくはOct4を試験管に添加することも含むことができる。いくつかの実施形態において、NanogとOct4との両方を試験管に添加する。これらは、あわせて、または連続して添加することができる。これらはErrタンパク質を試験管に添加する前、添加とともに、または添加後に添加することもできる。さらに、方法は、Errタンパク質とNanogおよび/またはOct4との間の複合体形成を可能にすることを含むことができる。方法は、この複合体の形成を検出することも含む。上で説明したように、この複合体の形成を、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法を用いて実施することができる。
【0079】
本発明を、以下の非限定的例によってさらに説明する。当業者には本発明の開示から容易に明らかになるように、既存の、または本明細書で記載する対応する実施形態例と実質的に同じ機能を果たすか、同じ結果を実質的に達成するように後に開発される他の物質の組成物、手段、使用、方法、または工程も同様に本発明にしたがって利用できる。
(実施例)
細胞培養およびトランスフェクション
マウスES細胞を、ゼラチンでコーティングした皿上、15%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS、GIBCO)、0.055mMのβ−メルカプトエタノール(GIBCO)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのMEM非必須アミノ酸、5,000単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび1,000単位/mlのLIF(Chemicon)を添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM、GIBCO)中で培養し、2〜3日ごとに継代した。再プログラミングされた細胞、V6.4およびR1マウスES細胞を同じES細胞培地中マイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダ上で培養し、2〜3日ごとに継代した。MEFを13.5d.p.c胚から、0.05%トリプシンで37℃にて10分間解離させることにより単離し、200μg/mlゲンタマイシンを含む15%FBS/DMEM中で培養した。この研究において、本発明者らは、MEFを5継代以内で使用して、複製老化を回避した。CD1、B6、129/B6、アクチン−GFP、アクチン−GFP/CD1、Pou5f1−GFP/B6マウス由来のMEFを、この研究においてiPS誘導のために使用した。shRNAおよび過剰発現プラスミドのトランスフェクションを、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を製造業者の指示にしたがって使用して実施した。簡単に言うと、1.5μgのプラスミドをRNAおよびタンパク質抽出のために60mmのプレート上ES細胞中にトランスフェクトした。ES細胞の非分化状態の指標であるアルカリ性ホスファターゼの検出を、Chemiconから市販のES Cell Characterization Kitを用いて実施した。プロマイシン(Sigma)選択をトランスフェクションの1日後、0.8μg/mlの濃度で導入し、収集前2〜6日間維持した。
【0080】
RNA抽出、逆転写および定量的リアルタイムPCR
全RNAを、TRIzol Reagent(Invitrogen)を用いて抽出し、RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて精製した。SuperScript II Kit(Invitrogen)を用いて逆転写を実施した。DNA汚染をDNase(Ambion)処理によって除去し、RNAをRNAeasyカラム(Qiagen)によってさらに精製した。定量的PCR分析を、ABI PRISM7900 Sequence Detection SystemおよびSYBR Green Master Mixを記載されているようにして使用して、リアルタイムで実施した。使用した全てのプライマについて、それぞれが正しい大きさの一つの生成物を生成した。逆転写酵素がない四つの対照全てにおいて、シグナルは検出されなかった。それぞれのRNAi実験を、ES細胞の異なるバッチを用いて少なくとも3回繰り返した。Esrrb shRNAによって標的とされる配列は、Lohら(2006、上記)によって記載されている通りである。
【0081】
マウス
野生型CD1マウス、B6マウス、アクチン−EGFPトランスジェニックマウスおよびPou5f1−EGFPトランスジェニックマウス(Jackson’s Lab,それぞれストック番号003516および004654)をMEF単離のために使用した。B6マウスを顕微注入のために使用した。
【0082】
レトロウイルスパッケージングおよび感染
Esrrbおよび他の因子のCDSをPCRによってマウスES細胞から増幅させ、MMLV系pMXsレトロウイルスベクター中にクローンした。レトロウイルスは、TakahashiおよびYamanaka(2006、上記)によって記載されているようにして生成させた。iPS細胞を誘導するために、異なる因子をコードする等しい量のウイルスを、MEF上に、6ng/mlのポリブレンを含む15%FBS/DMEM中、50〜70%コンフルエンスで塗布した。24時間後、培地を新鮮なものと替え、翌日(2dpi)に、細胞をMEFフィーダ上で1:6〜1:20に分割した。培養物を次いでマウスES細胞培地中に11〜24日間維持した。
【0083】
免疫蛍光および免疫化学
ガラス底皿中またはゼラチン化スライドカバー上MEFフィーダ上で培養したES細胞または再プログラミングされた細胞を、4%PFA/PBSで固定した。1%トリトン−X100/PBS中で30分間透過化後に、Nanogを1:20抗Nanog(RCAB0002PF,CosmoBio)で染色した後、1:300Alexa Flour568接合抗ウサギ(Invitrogen)で染色した。SSEA1を、1:200モノクローナル抗SSEA1(MAB4301,Chemicon)で直接染色し、続いて1:2000Alexa Flour546接合抗マウスIgMで染色した。DAPIもしくはHoechst(Invitrogen)を対比染色に使用した。免疫化学分析のために、E9.5胚を4%PFA中4℃で一夜固定し、パラフィン中に埋め込んだ。セクショニング後、GFPを、1:200抗GFP(sc−9996,Santa Cruz)、続いてHRP接合抗マウス(VECTASTAIN ABC kit,Vector)を用いて染色し、次いでDAB(3,3’−ジアミノベンジジン)を用いて発生させた。ヘマトキシリンを用いて核を対比染色した。
【0084】
Gバンド染色体分析
細胞を有糸分裂停止のためにコルセミドで処理し、標準的低張処理およびメタノール:酢酸(3:1)固定によって集めた。標準的空気乾燥法によってスライドを調製し、Gバンド染色体分析を実施した。
【0085】
顕微注入
iPS細胞をM2培地(SAFC Biosciencesから入手可能(カタログ番号5170C)であり、M16胚培地の修飾物である)中に再懸濁させ、8細胞期B6マウス胚中に注入した。胚を次いで発生させて、iPS細胞が動物中に組み込まれる能力について試験した。
【0086】
クロマチン免疫沈降(ChIP)分析
ChIP分析はすでに記載されているようにして実施した。簡単に言うと、細胞を1%ホルムアルデヒドで10分間室温にて架橋させ、ホルムアルデヒドを次いで125mMのグリシンの添加によって不活性化した。平均サイズが500bpのDNAフラグメントを含むクロマチン抽出物を、抗H3K4me3(Abcam)または抗H3K27me3(Upstate Biotech)抗体を用いて免疫沈降させた。全ChIP実験について、定量的PCR分析を、ABI PRISM 7900配列検出システムおよびSYBRグリーンマスターミックスを用いてすでに記載されているようにしてリアルタイムで実施した。見かけの免疫沈降効率(免疫沈降したDNAの量の、投入試料の量に対する比)を測定することによって相対的占有率値を計算し、観察されたレベルに対して標準化した。
【0087】
重亜硫酸塩シークエンシング
Imprint(商標)DNA Modification Kit(Sigma)を製造業者の指示にしたがって用いて、DNAの重亜硫酸塩処理を実施した。ゲル濾過カラムを使用することによって増幅産物を精製し、pCR2.1ベクター(Invitrogen)中にクローンし、M13順方向および逆方向プライマを用いて配列決定した。Nanogプロモータを増幅するために使用したプライマは、配列:5’−GATTTTGTAGGTGGGATTAATTGTGAATTT(配列番号8)および5’−ACCAAAAAAACCCACACTCATATCAATATA(配列番号9)を有していた。Oct4プロモータを増幅するために使用したプライマは、配列:5’−ATGGGTTGAAATATTGGGTTTATTTA(配列番号10)および5’−CCACCCTCTAACCTTAACCTCTAAC(配列番号11)を有していた。
【0088】
遺伝子型決定
各反応について、MEF、ES細胞、iPS細胞または胚卵黄嚢から抽出したゲノムRNA500ngを用いてPCR増幅を実施した。増幅に使用したセンスプライマは以下の配列を有していた:5’−GACGGCATCGCAGCTTGGATACAC(配列番号1)。
【0089】
増幅に使用したアンチセンスプライマは、以下の配列を有していた。
Esrrb:5’−TGTGGTGGCTGAGGGCATCA(配列番号2)
Esrra:5’−TGTAGAGAGGCTCGATGCCCACCAC(配列番号3)
Esrrg:5’−GGCAAAGTTCTACCGAATCC(配列番号4)
Oct4:5’−CCAATACCTCTGAGCCTGGTCCGAT(配列番号5)
Sox2:5’−GCTTCAGCTCCGTCTCCATCATGTT(配列番号6)
cMyc:5’−TCGTCGCAGATGAAATAGGGCTG(配列番号7)
マイクロアレイ分析
細胞由来のmRNAを逆転写し、標識し、Illuminaマイクロアレイプラットフォーム(Sentrix Mouse−6 Expression BeadChip vl.l)を用いて分析した。アレイを製造業者の指示にしたがって処理した。マイクロアレイデータをSAMによって分析した。
【0090】
Esrrb再プログラミング細胞の生成
すでに記載されている遺伝的に未修飾の線維芽細胞の直接再プログラミングを使用して(Blelloch,R.ら、Cell Stem Cell(2007)1,245−247、Meissner,A.ら、Nat Biotechnol(2007)25,1177−81)、Oct4、Sox2、c−MycおよびEsrrbを、マウス胚線維芽細胞(MEF)中で共発現させた。得られたES細胞様細胞を、アルカリ性ホスファターゼ、SSEA1およびNanogについて陽性に染色した(図2a〜図2g)。以下で、これらのOct4、Sox2、c−MycおよびEsrrb再プログラミング細胞は、OSCE再プログラミング細胞とも称する。先のレポートと一致して、Oct4、Sox2およびc−Mycは、安定したクローンの形成を誘導できない(データ不掲載、Blelloch,2007、上記、Nakagawa,2008、上記)。先のレポートは、再プログラミング細胞単離のためのストリンジェントな選択法としての内因性Pou5flレポータの活性化の使用を示している(Wernigら、2007、上記)。したがって、本発明者らは、MEFをPou5fl−GFPレポータとともに使用して(Szabo,P.E.ら、Mech Dev(2002)115,157−160)、Oct4、Sox2およびcMycを用いたES細胞様コロニーの誘導におけるEsrrbの潜在性をさらに検証した。ES細胞様コロニーは、9〜11dpi付近で出現した。本発明者らは、14dpiでGFP陽性コロニーの数を定量化した(図2h、図2i)。Esrrb再プログラミング細胞の生成効率は、Klf4、Oct4、Sox2およびc−Mycの導入によって得られるものの約50%であった(図2j)。この結果から、EsrrbはMEFの再プログラミングにおいてKlf4と置き換わることができることがわかった。
【0091】
Pou5fl−GFPレポータをEsrrb、Oct4およびSox2とともに用いてMEFを形質導入し、本発明者らは、GFP、アルカリ性ホスファターゼ、NanogおよびSSEA1陽性細胞を誘導することができた(図8を参照)。Pou5fl−GFPレポータをEsrrg、Oct4、Sox2およびc−Mycとともに使用してMEFを形質導入し、本発明者らはGF、アルカリ性ホスファターゼ、NanogおよびSSEA1陽性細胞を誘導することができた(図5を参照)。
【0092】
再プログラミング細胞の特徴付け
Esrrb再プログラミング細胞をさらに特徴付けるために、本発明者らは発現プロファイリングを実施して、二つのES細胞系、三つの再プログラミング細胞系(Esrrb再プログラミング細胞系について二つ、およびKlf4再プログラミング細胞系について一つ)ならびに二つのマウス系統由来のMEFのトランスクリプトームを捕捉した。クラスター分析によって、再プログラミング細胞系がMEFよりもES細胞に類似していることがわかった(図3a)。本発明者らのマイクロアレイ分析によって、再プログラミングされた細胞におけるES細胞関連遺伝子の上方調節およびMEF関連遺伝子の下方調節も明らかになった(図3b)。
【0093】
再プログラミングされた細胞の後成的状態
ES細胞特異的遺伝子、たとえばNanogおよびPou5flはES細胞において高度に発現され、これらのプロモータ領域はDNAメチル化が不足している。MEFにおいて、これらの遺伝子を抑制し、これらのプロモータはDNAメチル化を獲得する。従来の研究から、再プログラミングがメチル化の除去につながることがわかっている(Wernigら、2007、上記、Maherali,N.ら、Cell Stem Cell(2007)1,55−71、Okita,K.ら、Nature(2007)448,313−7)。本発明者らは、ES細胞、MEFおよび二つの再プログラミング細胞系の重亜硫酸塩シークエンシングによって、NanogおよびPou5flプロモータでのDNAメチル化の状態を分析した。結果から、DNAメチル化が本発明者らの再プログラミング細胞系では失われたことがわかった(図4a)。
【0094】
ES細胞において、ES細胞は分化する場合に抑制されるが誘導を受けない、いくつかの遺伝子は、活性H3K4me3マークと不活性H3K27me3マークとの両方を示す(Bernstein,B.E.ら、Cell(2006)125,315−326)。これらの二価クロマチン構造が、Esrrb再プログラミング細胞中に存在するかどうかをさらに試験した。抗H3K4me3および抗H3K27me3抗体を使用するChIP分析によって、七つの遺伝子(Zfpm2、Nkx2.2、Sox21、Pax5、Lbx1h、Evx1およびDlx1)のクロマチンが両修飾を含むことが明らかになった(図4b)。この結果は、二価ドメインがiPS細胞において再形成されることを証明する先の研究(Wernigら、2007、上記)と一致する。要するに、前記データにより、多分化能遺伝子の後成的状態が抑制(メチル化)から活性(非メチル化)胚状態へと再プログラミングされ、二価クロマチン構造がEsrrb再プログラミング細胞で獲得されたことが示された。
【0095】
Esrrb再プログラミング細胞は多能性である
得られた再プログラミングされた細胞が多能性であるかどうかを評価するために、これらの細胞を細胞期C57/BL6胚中に顕微注入した。OSCE再プログラミング細胞はアクチン−GFPレポータを用いてMEFから誘導されるので、これらはGFP陽性である。これらの細胞を胚盤胞中に導入する前に、本発明者らまず、OSCE番号8およびOSCE番号13細胞系が正常な核型を有することを立証した(図9a、図9bを参照)。胚盤胞中に注射した後、OSCE番号8およびOSCE番号13細胞系は、9.5d.p.c.胚がGFP標識細胞のモザイク組み込みを示したので、マウス胚に貢献した(図6a〜図6f)。キメラ胚の卵黄嚢組織中に四つのレトロウイルスが存在することが、PCR検出分析によってさらに確認された(図9cを参照)。胚の免疫染色も、GFP陽性細胞が全組織に貢献することを示した(図6g〜図6i)。したがって、OSCE再プログラミング細胞は多能性であり、インビボで三つの系統に分化することができる。
【0096】
Esrrbは、ES細胞の自己複製状態の維持に関与することが示された(Ivanova,N.ら、Nature(2006)442,533−538、Loh,Y.H.ら、Nat.Genet.(2006)38,431−440)。今までのところ、再プログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf2、Klf4、Klf5、n−Mycおよびc−Myc)はES細胞特異的遺伝子の上方調節に関与する(Ivanovaら、2006、上記、Lohら、2006、上記、Boiani,M.&Scholer,H.R.,Nat Rev Mol Cell Biol(2005)6,872−884、Cartwright,P.ら、Development(2005)132,885−896、Matoba,R.ら、PLoS ONE(2006)1,e26、Masui,S.ら、Nat.Cell.Biol.(2007)9,625−635、Jiang,J.ら、Nat Cell Biol(2008)10,353−360)。EsrrbがどのようにしてOct4およびSox2を用いた再プログラミングを仲介するかについての洞察を得るために、ES細胞における遺伝子発現の調節におけるEsrrbの役割を調べた。本発明者らは、すでにEsrrbおよび他の転写因子のES細胞における結合部位を、ChIP−seq技術を用いて位置づけしていた(Chenら、Cell(2008)133,1106−1117)。EsrrbがEsrrb遺伝子のイントロン部位と結合することがわかることは興味深い(図10を参照)。このことは、Esrrbが潜在的に自身の発現を調節できることを示唆する。どの遺伝子がEsrrbによって結合されているかは既知であるが、Esrrbがこれらの遺伝子に対して転写効果を及ぼすかどうかは明らかではない。したがって、DNAマイクロアレイ実験を実施して、その発現がEsrrb欠乏によって減少するEsrrb結合遺伝子を決定した。RNA試料を、shRNA発現構築物のトランスフェクション後、様々な時点で集めた。第2日に、EsrrbのないES細胞の形態は、ルシフェラーゼに対してshRNAを発現する対照プラスミドでトランスフェクトされたES細胞と類似し(図6a)、これらの細胞もアルカリ性ホスファターゼについて陽性染色された。これらのES細胞特性を維持するにもかかわらず、ES細胞の重要な調節因子(Sox2、Nanog、Sall4、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf4、Klf5)をコードするEsrrb結合遺伝子の発現はすでに減少していた(図6a)。4日および6日後、Esrrb欠失ES細胞はすでに分化し、異なる形態を有し、アルカリ性ホスファターゼ染色が失われていた。データから、EsrrbがES細胞状態に関連して上方調節する遺伝子であることがわかった。EsrrbによるMEFの再プログラミングは、Oct4およびSox2を必要とするので、結合Esrrb、Oct4およびSox2である遺伝子が特定された(図10)。興味深いことに、これらは、多分化能の調節因子(Sox2、Nanog、Sall4)、自己複製調節因子(Tcll、Tbx3)および再プログラミング因子(Klf4、Klf5)をコードする遺伝子を含む(図7b)。これは、なぜEsrrbが再プログラミングにおいてOct4およびSox2とともに作用できるかについての説明を提供することができる。
【0097】
親和性精製および質量分析法を用いて、EsrrbはNanogおよびOct4を含む複合体において見いだされた(Wangら、2006、上記、Liangら、2008、上記)。共通の標的遺伝子を調節することに加えて、これらの転写因子間のタンパク質−タンパク質相互作用は、体細胞におけるES細胞特異的遺伝子発現プログラムに重要である可能性があり得る。NanogおよびOct4複合体の他の成分が再プログラミング機能を有するかどうかを試験することも興味深い。MEFのiPS細胞への再プログラミングに関する以前の研究は、細胞運命の改変におけるKlf4の重要な役割を強調する。前記結果は、Klf4がEsrrbによって置換され得ることを示す。理論によって拘束されないが、ES細胞を用いて得られたデータ(上記)は、三つの転写因子Esrrb、Oct4およびSox2が、ES細胞の維持に重要であるかまたはそれ自体が再プログラミング因子をコードする共通の遺伝子を標的とすることの証拠を提供する。
【0098】
本明細書における先に公開された文献の記載または議論は、この文献が最先端技術の一部であるか、または一般常識であるということを承認するものとして解釈すべきではない。
【0099】
本明細書で例示的に記載した本発明は、本明細書で具体的に開示されていない任意の(一つもしくは複数の)要素、(一つもしくは複数の)制限の非存在下で好適に実施することができる。したがって、たとえば、「含む」、「包含する」、「含有する」などの用語は、広く制限なく解釈されるべきである。したがって、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変化形は、記載された整数もしくは整数の群を含むが、他の整数もしくは整数の群を排除しないことを意味すると理解される。さらに、本明細書で用いられる用語および表現は、説明に関して用いられ、制限するものではなく、このような用語および表現の使用は図示され記載された特徴の同等物またはその部分を排除することを意図せず、様々な変更が請求される本発明の範囲内で可能であることが認識される。このように、本発明を具体例によって具体的に開示したが、本明細書で開示された中で具体化された本発明の任意の特徴、変更および変形は、当業者が再分類することができ、このような変更および変形は、本発明の範囲内に含まれると見なされる。
【0100】
本発明を本明細書では広く一般的に記載した。一般的開示内にある、より狭い種および亜属分類のそれぞれも、本発明の一部を形成する。除去された物質が本明細書で具体的に限定されているかどうかに関係なく、属から任意の対象物を除去するという条件付き、または消極的限定付きで、これは本発明の一般的記載を包含する。
【0101】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュグループに関して記載される場合、本はつめがマーカッシュグループの任意の個々の要素、又は要素のサブグループに関しても記載されるということを当業者は認識するであろう。
【0102】
【表1】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許商標庁に2008年5月6日付で出願され、シリアル番号第61/050,726号が与えられた「細胞の分化状態を調節する方法(Methods For Modulating The Differentiation Status Of A Cell)」の出願を引用し、これの優先権の利益を主張するものである。PCT規則4.18条に従い、本明細書に含まれていないPCT規則20.5(a)条に規定する明細書、請求の範囲または図面のいずれの要素または部分を組み入れることを含め、2008年5月6日付で出願された前記出願の内容は、引用によりあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、細胞の脱分化を行って、あまり分化していない細胞にする方法、たとえば多能性細胞にする方法に関する。したがって、この方法はとりわけ分化した体細胞から誘導多能性幹細胞を形成することを可能にする。この方法は、未分化細胞の多分化能を維持することも可能にする。
【背景技術】
【0003】
転写因子は、遺伝子発現プログラムの特定において主な影響を及ぼし、独自の細胞学的性質を付与することができる。多分化能の重要な調節因子であるOct4、Sox2およびNanogは転写因子である。これらの三つのタンパク質のうち、Oct4とNanogとは多能性細胞に対して特異的な役割を有する。多分化能とは、細胞が生命体の所望の組織の細胞を生じさせる能力である。さらなる転写因子、たとえばStat3、P53などは、多分化能を制御する調節ネットワークに関与すると考えられる。
【0004】
細胞の集団、たとえばヒトもしくは動物の身体の細胞は、分化のプロセスによって生じる。以前は、幹細胞は分化するにつれて、細胞の運命を決定する能力を失い、それらの潜在力がより制限されるようになると推測されていた。しかし、分化した体細胞の発生上制限された状態は、いくつかの再プログラミング法によって多能性状態に逆転することもできる(入門書として、非特許文献1、図1も参照)。これらの方法には、除核未受精卵母細胞を用いた体細胞核移植、分化した細胞の多能性細胞との融合および多能性細胞由来の抽出物を用いた分化した細胞の処理が含まれる(非特許文献2)。体細胞核移植は、一方で、レシピエントとして受精した胚にも適用されている(特許文献1)。
【0005】
体細胞の多能性細胞への再プログラミングは、所定の転写因子のレトロウイルスが関与する形質導入によっても達成できる。ネズミおよびヒト線維芽細胞の、誘導多能性幹(iPS)細胞として知られる多能性細胞への変換は、四つの転写因子Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4を用いて行うことができる(たとえば、非特許文献3および4を参照)。得られたiPS細胞は、発生上および後成的に胚幹(ES)細胞(同文献)と区別ができず、野生型胚幹細胞と非常によく似た発現プロフィールを有する(非特許文献5)。これらの転写因子を過剰発現することによって、ヒトES細胞から分化した線維芽細胞、一次胎児組織、新生児皮膚線維芽細胞、成人線維芽細胞および成人間充織幹細胞をiPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献6)。線維芽細胞のiPS細胞への再プログラミングを成功させるためには、これら四つの転写因子の少なくとも14日間の異種発現が必要とされる(非特許文献7)。
【0006】
成熟な完全に分化したBリンパ球、膵臓β細胞、肝細胞、ケラチノサイトおよび胃上皮細胞も、誘導性レンチウイルスベクターまたはpMXsベースのレトロウイルスを用いて異種Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4を発現することによって、iPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献8〜11、概説については例えば非特許文献12、または13、14を参照)。ヒトES細胞由来の間葉細胞および骨髄細胞、ならびに一次線維芽細胞および新生児包皮線維芽細胞も、レンチウイルスベクターを用いて異種Oct4、Sox2、NanogおよびLin28を発現することによって、iPS細胞に再プログラミングすることができる(非特許文献15)。本発明の優先日後に、成人神経幹細胞でも異種Oct4とKlf4またはc−Mycのいずれかを用いて誘導多能性幹細胞に再プログラミングされた(非特許文献16)。
【0007】
胚幹細胞が容易に分化できることは、さらに実施上の大きな課題となる。胚幹細胞を多能性状態に維持するために、取り扱いおよび培地中での培養の間のこれらの分化は防止しなければならない。この理由で、伝統的にはこれらを支持細胞の層上にてウシ胎仔血清の存在下で(例えば、特許文献2および3を参照)または線維芽細胞条件培地(CM)中で培養する。それでも、慎重に制御された条件下でさえ、胚幹細胞はインビトロ増殖の間に自発的分化をする可能性がある。マウス胚幹細胞において自己再生を仲介する因子である白血病抑制因子は、マウス胚幹細胞の分化を阻害することも判明しているが、ヒト胚幹細胞の分化の防止における支持細胞の役割の代替にはならない。したがって、胚幹細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する手段は、幹細胞治療の商業的可能性の実現に実質的な成果をあげるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/103462号
【特許文献2】米国特許第5843780号明細書
【特許文献3】米国特許第6090622号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jaenisch,R.,&Young,R.,Cell(2008)132,567−582
【非特許文献2】Lewitzky,M.&Yamanaka,S.,Curr.Opin.Biotechnol.(2007)18,467−473
【非特許文献3】Takahashi,K.&Yamanaka,S.,Cell(2006)126,663−676
【非特許文献4】Lowry,W.E.ら、Proc.Natl.Acad.ScL(2008)105,8,2883−2888
【非特許文献5】Mikkelsen,T.S.ら、Nature(2008)454,49−55,Natureの誤植(2008)454,794−794
【非特許文献6】Park,I−Hら、Nature(2007)451,141−147
【非特許文献7】Brambrink,T.ら、Cell Stem Cell(2008)2,151−159
【非特許文献8】Takahashi,K.ら、Cell(2007)131,861−872
【非特許文献9】Hanna,J.、ら、Cell(2008)133,250−264
【非特許文献10】Stadtfeld,M.ら、Current Biology(2008)18,12,890−894
【非特許文献11】Maherali,N.ら、Cell Stem Cell(2008)3,340−345
【非特許文献12】Welstead,G.G.ら、Current Opinion in Genetics&Development(2008)18,doi:10.1016/j.gde.2008.01.013
【非特許文献13】Durcova−Hills,G.ら、Differentiation(2008)76,323−325
【非特許文献14】Aoi,T.ら、Science(2008)321,699−702
【非特許文献15】Yu,J.ら、Science(2007)318,191−920
【非特許文献16】Kim,J.B.ら、Nature(2008)454,646−650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一つの目的は、体細胞を再プログラミングし、未分化細胞の多分化能を維持する代替法を提供することにある。
この目的は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法を提供する。この方法は、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることを含む。
【0012】
第二の態様において、本発明は、第一の態様の方法によって得られる脱分化した細胞に関する。
第三の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができる候補化合物を同定する方法あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法を提供する。この方法は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを発現できる細胞中に化合物を導入することを含む。この方法は、Errタンパク質の発現を測定することをさらに含む。Errタンパク質の増大した発現は、化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化の実施あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能であることの現れである。
【0013】
第四の態様において、本発明は、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことあるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能である化合物を同定するインビトロ法を提供する。この方法は、化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つを接触させることを含む。Errタンパク質ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つとの間での複合体形成の促進は、化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化の実施あるいは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持が可能であることを示す。
【0014】
第五の態様において、本発明は、細胞中のErrタンパク質の絶対量を増大させる核酸分子および/または化合物の、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことまたは未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性の維持のための薬剤の製造における使用に関する。
【0015】
本発明は、以下の非限定例および添付の図面と併せて考慮する場合に、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】細胞分化および細胞の再プログラミング、すなわち脱分化を誘導するプロセスの概略を示す図である。幹細胞は多能性であり、中胚葉、外胚葉および内胚葉系に分化する能力を保有する。細胞運命の決定を、多能性状態を包含するあまり分化していない状態に戻す再プログラミングは、本発明の方法によって誘導することができる。本発明の方法を用いて、多能性細胞をその状態で停止させることもできる(左)。
【図2】Oct4、Sox2およびc−Mycを用いたMEFを再プログラミングするEsrrbを示す図である。Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Myc感染MEFから回収されたiPS細胞は、フィーダ上でES様コロニー形態を維持した(図2a)。6代継代培養したiPS−OSCEクローン番号13を示す。単離されたiPSクローンは、ESマーカー、例えばアルカリ性ホスファターゼ(AP)(図2b)、Nanog(図2c)およびSSEA−1(図2e)を安定して発現する。対応する試料におけるDAPIを用いた対比染色を、図2dおよびfに示す。Pou5fl−GFP MEFにおいて、GFP発現によって示される内因性Oct4の回復は、特異的にiPSコロニーにおいてEsrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導されるが、周囲の線維芽細胞では誘導されなかった(図2gおよび図2h)。14dpi試料からの初代継代後3日目で形成されたコロニーを示す。iPS:誘導多能性幹細胞、dpi:感染後の日数、線分:200μm(図2a、図2b、図2g、図2h)、100μm(図2c〜図2f)。
【図2i】再プログラミングの仲介におけるEsrrbの効率を、Pou5fl−GFP MEFを用いたKlf4と比較する。14dpiでのOct4、Sox2およびcMycと関連してEsrrbまたはKlf4によって誘導されたGFP陽性コロニーの数を示す。
【図3a】Esrrb再プログラミング細胞の全体的な遺伝子発現分析を示す図である。相関分析(46643転写産物)を実施して、R1 ES細胞、再プログラミングされた細胞(OSCE番号13細胞系、OSCE番号8細胞系およびOSCK細胞系)、アクチン−GFP MEFおよびPou5fl−GFP MEFに遺伝子発現を分類した。Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4によってOSCK再プログラミング細胞系を得た。
【図3b】Esrrb再プログラミング細胞の全体的な遺伝子発現分析を示す図である。図3bにおけるヒートマップは、R1 ES細胞、iPS細胞(OSCE番号13再プログラミング細胞、OSCE番号8再プログラミング細胞およびOSCK再プログラミング細胞)、アクチン−GFP MEFおよびPou5fl−GFP MEFにおける500ES細胞関連遺伝子およびMEF関連遺伝子の発現プロフィールを示す。ES細胞関連遺伝子およびMEF関連遺伝子を、R1 ES細胞とアクチン−GFP MEF細胞との間の発現レベルのフォールド差(fold difference)に基づいて選択した。遺伝子を、平均発現比によって分類し、平均中心を求めた。
【図4a】Esrrb再プログラミング細胞の後成的状態の分析を示す図である。再プログラミングされた細胞のプロモータメチル化分析を示す。NanogおよびOct4プロモータのメチル化状態を、重亜硫酸塩シークエンシングを用いて分析した。白丸は、非メチル化CpGジヌクレオチドを示し、黒丸はメチル化CpGジヌクレオチドを示す。ES細胞(V6.4)、MEF(CD1)、Esrrb再プログラミング細胞(OSCE番号8およびOSCE番号13クローン)から配列決定された10の代表的なクローンを示す。
【図4】Esrrb再プログラミング細胞の後成的状態の分析を示す図である。トリメチル化ヒストンH3K4およびH3K27に対する抗体とES細胞(V6.4)、MEFs(CD1)、およびEsrrb再プログラミング細胞(OSCE番号8およびOSCE番号13クローン)から得られる抽出物を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)後のリアルタイムPCRの結果を示す。ES細胞におけるいくつかのすでに報告されている「二価」遺伝子座についてのlog2濃縮を示す。データは平均±s.e.m.として表し、3回の独立した実験から得る(n=3)。
【図5A】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。EsrraおよびEsrrgの再プログラミング可能性を示す。Oct4、Sox2およびc−Mycとの組み合わせで、Esrrgは、Pou5f1−GFP MEF中、16dpiで多くのGFP陽性コロニーを誘導した。対照的に、Esrraは同じ条件下でごくわずかしかGFP陽性コロニーを誘導しなかった。
【図5B】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。感染したMEFにおけるウイルスでコードされたEsrra、EsrrbおよびEsrrgの転写産物発現の検証を示す。ウイルス特異的プライマおよび遺伝子特異的プライマを用いてcDNA上でPCRを実施した。
【図5】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。図5cは、Pou5f1−GFP MEFからEsrrg、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞を示す。明視野像を示す。図5cに対応する蛍光画像を図5dに示す。GFP陽性シグナルは、内因性Pou5f1遺伝子の発現が再プログラミングされた細胞において特異的に回復されたが、周囲の線維芽細胞では回復されなかったことを示す。図5eは、Esrrg再プログラミング細胞におけるアルカリ性ホスファターゼ発現を示す。図5fは、Esrrg再プログラミング細胞におけるNanog発現を示す。図5fにおいて核をマーキングするために、細胞をHoechstで染色した(図5g)。図5hは、Esrrg再プログラミング細胞におけるES細胞特異的表面抗原SSEA−1の発現を示す。図5hにおいて核をマーキングするために、細胞をHoechstで染色した(図5i)。線分は、図5c〜図5eでは100μmを表し、図5f〜図5iでは50μmを表す。
【図5J】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。Esrrg再プログラミング細胞は、EBが関与する分化において三つの主要胚系統に分化し得る。分化した細胞は、ネスチン(神経外胚葉)、α−平滑筋アクチン(中胚葉)またはGata−4(内胚葉)を発現した。全ての系統マーカーを赤色に染色し、核をHoechstで対比染色した。選択された細胞は、アクチン−GFP MEFから生成し、GFP発現は緑色シグナルによって示された。線分は100μmを表す。
【図5K】Oct4、Sox2およびc−Mycと組み合わせたEsrrg再プログラミングMEFを示す図である。Esrrg再プログラミング細胞によるテラトーマ形成を示す。分割された試料のMalloryのテトラクローム染色は、再プログラミングされた細胞の、三つ全ての一次胚葉由来の様々な組織への分化を示した。示された組織は、神経外胚葉(外胚葉)、血液(中胚葉)および肝細胞、細胞(内胚葉)に対応する。線分は50μmを表す。
【図6】Esrrb再プログラミング細胞が多能性であることを示す図である。Esrrb再プログラミング細胞は、マウス胚中に組み込まれ、三つの主要な胚葉由来の広範囲の組織に貢献する(図6a)。二つの異なる再プログラミング細胞系を、8細胞期のマウス胚中に顕微注入して、キメラを生成させ、これをE9.5で集め、EGFP発現について立体顕微鏡下で直接観察することによって、多能性について分析した。図6a〜図6cは、3胚についての明視野像を示し、図6d〜図6fは、キメラ胚におけるEGFP陽性細胞の広範囲の組み込みを示す。図6g〜図6hは、キメラ胚の傍矢状断面におけるEGFP陽性細胞の分布を示す。EGFP陽性細胞は、全組織および器官中で広範囲に分布し、発生中の胚の三つの主要な胚葉(外胚葉、中胚葉および内胚葉)由来の組織において表される。略語:F:前脳、Fg:前腸憩室、H:心臓、Hb:後脳、M:中脳、Ne:神経上皮、O:耳胞、S:中胚葉節。
【図7a】Esrrbが、自己複製、多分化能、再プログラミングおよび後成的修飾に関与する因子をコードする遺伝子を調節することを示す図である。経時変化マイクロアレイ分析を実施して、Esrrbノックダウン後、様々な日数での遺伝子発現変化を測定した。形態およびアルカリ性ホスファターゼ(AP)染色を、対照およびEsrrb欠失細胞の両方について各時点で示す。コロニー形態およびアルカリ性ホスファターゼ発現は2日目で維持されることに留意すべきであり、このことは、ES細胞が未分化のままであることを示す。選択されたES細胞関連遺伝子および再プログラミング遺伝子の様々な日での発現変化を表すマイクロアレイヒートマップを示し、これは、これらの遺伝子に対するEsrrbの調節を示唆する。赤色は、対照試料と比べて増加した発現を示し、一方、緑色は減少した発現を意味する。遺伝子発現レベルの平均中心を求めて、これらの相対的変化を示す。
【図7b】Esrrbが、自己複製、多分化能、再プログラミングおよび後成的修飾に関与する因子をコードする遺伝子を調節することを示す図である。ES細胞におけるEsrrbの役割に関するモデルを表す。Esrrbは、フィードバックループによってその発現を自己調節する。Esrrb、Oct4およびSox2は、多分化能および自己再生の維持に関与する遺伝子を調節する。これらの三つの転写因子はまた、再プログラミングに関与する遺伝子を正に調節する。
【図8】Oct4およびSox2を含むが、c−Mycを含まない、Esrrb再プログラミングMEFを表す図である。Esrrb、Oct4およびSox2感染MEFから回収されたiPSクローンは、フィーダ上でES様形態を維持し(図8a)、AP(図8b)、Nanog(図8c)およびSSEA−1(図8e)を安定して発現する。図8dおよび図8fは、Hoechstを用いた対比染色を示す。Pou5f1−GFP MEFにおいて、Esrrb、Oct4およびSox2は特異的にiPSコロニーにおけるGFP発現の引き金となるが、周囲の線維芽細胞では発現させず、このことは、内因性Oct4の回復を示す(図8gおよび図8h)。iPS:誘導多能性幹細胞、dpi:感染後の日数、線分:200μm(図8a、図8b、図8g、図8h)、100μm(図8c〜図8f)。
【図8i】Oct4およびSox2を含むが、c−Mycを含まない、Esrrb再プログラミングMEFを表す図である。再プログラミングの仲介におけるEsrrbの有効性を、Pou5f1−GFP MEFを用いてKlf4と比較する。Oct4およびSox2と関連してEsrrbまたはKlf4により23dpiで誘導されるGFP陽性コロニーの数を示す。
【図9a】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。iPS細胞系OSCE番号8についての正常な核型を示す。
【図9b】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。iPS細胞系OSCE番号13についての正常な核型を示す。
【図9c】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Esrrbをコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9d】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Oct4をコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9e】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。Sox2をコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9f】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。c−Mycをコードするレトロウイルスのゲノム中への組み込みを、キメラ胚のiPS細胞および卵黄嚢から単離されるDNAを用いたPCRを使用して検出した。
【図9g】Esrrb、Oct4、Sox2およびc−Mycによって誘導された再プログラミング細胞系の検証を示す図である。
【図10a】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Esrrb遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10b】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Klf4遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10c】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Klf5遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10d】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Nanog遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10e】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。SaM遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10f】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Sox2遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10g】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Tbx3遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【図10h】ChIP−seq技術を用いたES細胞におけるEsrrb、Oct4およびSox2結合プロフィールを表す図である。Tcl1遺伝子座でのEsrrb、Oct4、Sox2およびモックChIP対照の結合を示すT2Gブラウザのスクリーンショットを示す。クラスター密度(緑色)は結合のプロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、体細胞、前駆細胞または幹細胞などの細胞におけるエストロゲン関連受容体(Err)タンパク質の量を調節すること、たとえばその発現を調節することに基づく。好適なErrタンパク質の実例としては、限定されるものではないが、Esrrb、EsrrdおよびEsrrgが挙げられる。Errタンパク質は、リガンド調節転写因子として作用する核受容体のファミリーであり、リガンドの非存在下で転写を活性化する。これらはDNA結合ドメインにおいてエストロゲン受容体と高い配列類似性を有し、エストロゲン受容体と同じ標的反応エレメントおよび共調節(coregulatory)タンパク質を共有する。しかし、Errタンパク質は古典的なERリガンドである17β−エストラジオールに反応しない。合成エストロゲン化合物、たとえばジエチルスチルベストロールおよび4−ヒドロキシタモキシフェン(OHT)はErr−コアクチベータ相互作用を妨害することによって、Errファミリーメンバーの逆作動薬として作用する。低酸素症誘導性因子(HIF)による低酸素遺伝子の転写活性化は、Errタンパク質によって向上されることが判明し、HIFおよびErrタンパク質は複合体を形成することが示されている(Ao,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2008)105,22,7812−7826)。
【0018】
エストロゲン関連受容体アルファ(Esrra)タンパク質(ESRL1、Err1、Nr3b1、EstrraおよびERRαとも称する)は、ミトコンドリア発生の重要な調節因子とされている。これはまた、筋肉における酸化的代謝の重要な調節因子とされ、代謝性疾患の治療において活性化の潜在的な標的と呼ばれている(Hyatt,S.M.ら、J.Med.Chem.(2007)50,26,6722−6724)。
【0019】
エストロゲン関連受容体β(Esrrb)タンパク質は、Estrrb、ERRB、ERRβ、ERR2、ERRβ2、ESRL2およびNR3B2とも称し、適切な聴力に必須であることが示唆されている(Collin,R.W.J.ら、The American Journal of Human Genetics(2008)82,125−138)。Esrrbはさらに、胚幹細胞のマーカーとしても示唆されている(Zhou,Q.ら、Proc Natl.Acad.Sci U.S.A.(2007)104,42,16438−16443)。スクリーニングによって、特にEssrbは胚幹細胞における重要な遺伝子調節物質として特定され、さらに、Oct4、Sox2、およびNanogとともに作用するコアクチベータであり、これらの直接的標的であることが示唆されている(Zhou,Q.ら、Proc Natl.Acad.Sci U.S.A.(2007)104,42,16438−16443)。質量分光分析および親和性精製によって、EsrrbとNanogとの間の複合体形成が特定された(Liang,J.ら、Nature Cell Biology(2008)10,731−739、Wang,J.,ら、Nature(2006)444,364−368)。しかし、ヒト臍帯静脈間充織幹細胞において、Oct−4およびNanogの両方が発現されることが判明したが、Essrbは発現されなかった(Kermani,A.J.ら、Rejuvenation Res(2008)11,2,379−385)。この知見は、万能幹細胞マーカーとしてのEssrbの有用性と、Essrbの遺伝子調節物質としての一般的重要性との両方について疑念を抱かせる。未分化胚幹細胞中に異種細胞集団が存在するという仮説に基づいて、Carterら(Gene Expression Patterns(2008)8,181−198)は、胚幹細胞の培養物において転写因子の発現パターンを調べた。彼らは、esrrbが不均一に発現されることを見いだし(「モザイク・イン・コロニー」)、これによっても、幹細胞の遺伝子調節におけるesrrbの役割について疑問が投げかけられた。
【0020】
そのN末端ドメインの長さが異なる、エストロゲン関連受容体γ(Esrrg)タンパク質の異なるイソ型(ERR3、Errγ、NR3B3、FLJ16023、KIAA0832およびDKFZp781L1617とも称する)は、たとえばマウスおよびヒトにおいても見いだされ、この場合、これらはイソ型1および2と呼ばれる。Esrrgは、発癌性およびホルモン活性物質ビスフェノールAならびに4−α−クミルフェノールの特異受容体であることが判明している(Matsushima,A.ら、Biochemical and Biophysical Research Communications(2008)373,408−413)。ビスフェノールAと同様に、4−クロロ−3−メチルフェノールは、逆作動薬4−ヒドロキシタモキシフェンと競合して、Esrrgのリガンド結合ドメインと結合し、安定化させることが示されている(Abad,M.C.ら、Journal of Steroid Biochemistry&Molecular Biology(2008)108,44−54)。したがって、ビスフェノールAは、4−ヒドロキシタモキシフェンによる不活性化を、用量依存的に逆転させて当初の高い基礎活性化状態にするので、Esrrgの逆拮抗物質と見なすことができる(Liu,X.ら、FEBS(2007)274,6340−6351)。
【0021】
Esrraは卵巣癌細胞系および癌において高度に発現されることが判明しているが、Esrrbは、分析した一つの細胞系および一つの癌でしか検出できなかった(Sun,P.ら、J.Mol.Med.(2005)83,457−467)。したがって、Esrrbが癌の発生に関与するかどうかは現在のところ明らかではない。Esrrgはすでに遺伝的プロファイリングに考慮されているが、乳癌に関連して特に関連性を有するものであることは見いだされていない(Orsetti,B.ら、British Journal of Cancer(2006)95,1439−1447)。
【0022】
本発明は、Errファミリーのオーファン核受容体がOct4、Sox2およびc−Mycとともに作用して、マウス胚線維芽細胞などの体細胞のiPS細胞への再プログラミングに関与するという予想外の発見に基づく。Err再プログラミング細胞は胚幹細胞の類似した発現および後成的特性を共有する。14個のさらなる因子(転写因子およびクロマチン修飾因子)との、マウス胚線維芽細胞(MEF)においてこれらの因子をOct4、Sox2およびc−Mycと同時発現することによる比較例によって、Errタンパク質EsrrbのみがES細胞様細胞の形成を誘発できることが示された(Esrrbは、Errファミリーの代表的メンバーとして選択された。表1を参照)。本発明者らによってなされたこの発見によって、Esrrbは、自己再生、多分化能および遺伝子発現の後成的調節に関与する多くの遺伝子を標的とし得るという以前の示唆が現実味を帯びるようになる。このことはさらに、Errタンパク質が、胚幹(ES)細胞特異的遺伝子の上方調節によって再プログラミングに関与し得ることを示唆する。本発明者らの発見はまた、Klf転写因子と独立した方法でマウス線維芽細胞などの体細胞を再プログラミングすることが可能であることを示し、これらの核受容体を体細胞再プログラミングと関連付ける。
【0023】
本発明者らの発見は、Oct4およびNanogの標的に関するノックダウン研究における従来のデータについてさらに説明する。Ivanova,N.ら(Nature(2006)442,533−538)は、Esrrbを、shRNAによってその欠乏がマウスES細胞のインビトロでの自己再生に影響を及ぼす、10の遺伝子産物のうちの一つとして同定した。さらに、Esrrbは、その欠乏が、分化細胞に特有の形態変化およびアルカリホスファターゼ活性の喪失をもたらす19遺伝子産物のうちの一つであることを確認した(同文献およびLoh,Y.−H.ら、Nature Genetics(2006)38,4,431−440)。国際公開第2008/021483号はまた、マウス胚幹細胞は、Esrrb siRNAでの処理の6日後に、「幹細胞性(stemness)」を失い、分化した細胞のコロニーを形成することが見いだされたことを開示している。
【0024】
本発明は、細胞の分化を防止、阻害、阻止及び/又は逆転する方法および使用を提供する。任意の細胞を本発明の方法で使用することができる。細胞は、たとえば体細胞または生殖系列細胞で有り得る。いくつかの実施形態において、細胞は、幹細胞および体細胞のハイブリッド細胞である。細胞は、任意の起源および任意の分化状態であってよい。細胞は、たとえば完全に分化していてもよいし、任意の程度まで分化していてもよいし、または未分化であってもよい。細胞が未分化である実施形態において、本発明の方法は典型的には、多能性(multipotency)ならびに全能性(生命体のあらゆる細胞型を形成することができる)(適用可能な場合)および/またはその自己複製特性をはじめとする多分化能を維持する方法である(図1左側)。通常、このような細胞は、未分化細胞、たとえば胚幹細胞、トロホブラスト幹細胞および任意の胚外幹細胞、たとえば成人幹細胞などの幹細胞である。未分化細胞のさらなる例としては、生殖細胞、卵母細胞、割球、および内細胞塊細胞が挙げられる。
【0025】
部分的に分化した細胞の一例は、前駆細胞である(図1、中央)。単能性または多能性で有り得る前駆細胞は、特定の種類の細胞に分化する能力および限定された自己再生能力を有し、これを維持することはできない。部分的に分化した細胞のさらなる例としては、限定されるものではないが、前駆細胞、すなわち特定の種類の新規血液細胞の形成がゆだねられる段階まで発達した幹細胞、系統限定(lineage−restricted)幹細胞、および体性幹細胞が挙げられる。好適な体細胞の例としては、限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血細胞、筋細胞、マクロファージ、単球、および単核細胞が挙げられる。体細胞は、たとえば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、脾臓、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、心臓、眼または神経組織などの任意の組織の細胞であってよい。
【0026】
細胞は、任意の宿主生命体から得られるか、または誘導され得る。細胞は、各宿主生命体から、生検または血液試料などの試料の形態で直接採取することができる。宿主生命体から誘導し、続いて培養するか、成長させるか、形質転換させるかまたは選択された処理に付すこともできる。いくつかの実施形態において、細胞は、宿主生命体中に含まれていてもよい。たとえば、宿主生命体の血液中または器官中に存在していてもよい。細胞を誘導するかまたは得ることができる宿主生命体は、任意の生命体、たとえば微生物、動物、たとえば魚、両生類、は虫類、鳥、齧歯類種を包含する哺乳動物、無脊椎動物種、例えばカエル、ヒキガエル、サンショウウオもしくはイモリを包含する平滑両生亜綱のもの、または植物であってよい。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イヌ、ヤギ、ウマ、ブタ、ゾウ、ニワトリ、マーカーク、チンパンジーおよびヒトが挙げられる。
【0027】
本発明の方法が、前駆細胞、すなわち成熟体細胞を生じさせる細胞について用いられることが意図される場合、任意の前駆細胞を本発明の方法で使用することができる。好適な前駆細胞の例としては、限定されるものではないが、神経前駆細胞、内皮前駆細胞、赤血球前駆細胞、心臓前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、網膜前駆細胞、または造血前駆細胞が挙げられる。
【0028】
本発明の方法で用いられる細胞は、典型的には、Errタンパク質をコードする核酸配列を、一般的に(内因性または異種に関わらず)Errタンパク質の機能的遺伝子の形態で含む点で、少なくとも一つのErrタンパク質を発現できる。いくつかの実施形態において、細胞はすべてのErrタンパク質を発現できる。いくつかの実施形態において、細胞は、一つ以上のErrタンパク質、たとえばEsrrb、Esrrdおよび/またはEsrrgを発現する。いくつかの実施形態において、細胞は全てのErrタンパク質を発現する。いくつかの実施形態において、Errタンパク質をコードする一つ以上のそれぞれの(たとえば内因性)遺伝子は、機能的に活性であり、(一つまたは複数の)Errタンパク質を発現する。いくつかの実施形態において、一つ以上のErrタンパク質をコードする一つ以上の内因性核酸配列は機能的に不活性である。これらの実施形態のうちのいくつかにおいては、Errタンパク質は異種Err遺伝子からでも発現される。Errタンパク質をコードする異種遺伝子は、組換え技術によって、たとえば核酸分子を、典型的にはErrタンパク質遺伝子を保有するベクターとして使用することによって導入することができる(下記も参照)。この点で、各宿主細胞(内因性または異種起源のいずれかに関わらない)における転写を開始するのに有効なプロモータを含むベクターをさらに使用することが有利であり得る。この点で、本発明はまた、このような核酸分子、たとえば各ベクターを、細胞中のErrタンパク質の絶対量を増大させるために使用することにも関する。本発明はまた、このような核酸分子、たとえば各ベクターを、細胞の分化状態を調節するため、特に、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うため、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持するための医薬などの薬剤の製造において使用することにも関する。
【0029】
「ベクター」という用語は、細胞中にトランスフェクトでき、細胞ゲノム内で、またはそれとは独立して複製可能な一本鎖もしくは二本鎖環状核酸分子に関する。環状二本鎖核酸分子を切断して、制限酵素での処理によって直線化することができる。核酸ベクター、制限酵素、および制限酵素によって切断されたヌクレオチド配列の情報の組み合わせは、当業者には容易に入手可能である。ベクターを制限酵素で切断し、二つの断片をライゲートすることによって、Errタンパク質をコードする核酸分子をベクター中に挿入することができる。
【0030】
「プロモータ」という用語は、本明細書で用いられる場合、遺伝子配列発現に必要な核酸配列を意味する。プロモータ領域は生命体ごとに異なるが、様々な生命体については当業者には周知である。たとえば、原核生物においてプロモータ領域は、プロモータ(RNA転写を開始させる)ならびにDNA配列(RNA中に転写される場合、合成開始のシグナルを送る)の両方を含む。このような領域は、通常、転写および翻訳の開始に関与する5’−非コーディング配列、たとえばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含む。
【0031】
「核酸」という用語は、本明細書で用いられる場合、一本鎖、二本鎖またはこれらの組み合わせなどの任意の可能な構造の任意の核酸分子を意味する。核酸は、たとえば、DNA分子、RNA分子、ヌクレオチド類似体を用いるかまたは核酸化学を用いて生成されるDNAもしくはRNAの類似体、ロックト核酸分子(LNA)、ペプチド核酸分子(PNA)およびtecto−RNA分子を包含する(たとえば、Liu,B.ら、J.Am.Chem.Soc.(2004)126,4076−4077)。PNA分子は、骨格が糖ではなく擬ペプチドである核酸分子である。したがって、PNAは一般的に、たとえばDNAまたはRNAとは対照的に、電荷中性骨格を有する。それでも、PNAは、少なくとも相補的な核酸ストランドおよび実質的に相補的な核酸ストランドを、たとえば(PNAが構造を模倣すると考えられる)DNAまたはRNAのようにハイブリダイズできる。LNA分子は、C4’とO2’との間にメチレンブリッジを有する修飾RNA骨格を有し、このブリッジは、N型構造におけるフラノース環をロックし、個々の分子により高い二本鎖安定性およびヌクレアーゼ耐性を提供する。PNA分子と異なり、LNA分子は荷電した骨格を有する。DNAまたはRNAは、ゲノムまたは合成起源のものであってよく、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。このような核酸は、たとえばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムRNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとのコポリマー、オリゴヌクレオチド等であり得る。各核酸は、非天然ヌクレオチド類似体をさらに含有し得、および/または親和性タグもしくは標識と結合することができる。
【0032】
多くのヌクレオチド類似体は公知であり、本発明の方法において用いることができる。ヌクレオチド類似体は、たとえば塩基、糖、またはリン酸塩部分で修飾を含むヌクレオチドである。実例として、siRNAの2’−OH残基の2’F、2’O−Meまたは2’H残基での置換は、各RNAのインビボ安定性を改善することが知られている。塩基部分での修飾は、A、C、G、およびT/U、異なるプリンもしくはピリミジン塩基、たとえばウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イル、および2−アミノアデニン−9−イル、ならびに非プリンもしくは非ピリミジンヌクレオチド塩基の天然および合成修飾を包含する。他のヌクレオチド類似体はユニバーサル塩基としての働きをする。ユニバーサル塩基としては、3−ニトロ−ピロールおよび5−ニトロインドールが挙げられる。ユニバーサル塩基は、任意の他の塩基と塩基対を形成することができる。塩基修飾は、多くの場合、たとえば2’−O−メトキシエチルなどの糖修飾と組み合わせて、たとえば二本鎖安定性の増大など、独自の特性を得ることができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明の方法または使用は、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの活性を増大させることを含む。各Errタンパク質は、たとえば、Esrrb、EsrrdまたはEsrrgであり得る。いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質の核酸標的配列との相互作用を増大させるかまたは減少させるなどの調節をすることを含む。EsrraおよびEsrrbは、エストロゲン応答エレメント、および構成的に活性な形態で、すなわちリガンドの非存在下での回帰性甲状腺ホルモン応答エレメントによって、転写を活性することが判明している(Xie,W.ら、Molecular Endocrinology(1999)13,2151−2162)。Esrrg1は、sft4、SF−1RE、およびTREpalなどの応答エレメント(Sanyal,S.ら、Molecular Endocrinology(2004)18,2,312−325)ならびにDAX−1(染色体X、遺伝子1上の用量感受性性転換副腎形成不全臨界領域)のプロモータにおけるERR調節エレメント(NR0B1)(Park,Y.−Y.ら、Nucleic Acids Research(2005)33,21,6756−6768)、オーファン核受容体を活性化することが示されている。DAX−1の核免疫反応性が乳癌組織で検出され、Esrrgの過剰発現が9例のうち3例で観察された(同文献)。Esrrg2は、たとえば、ヒトβPDGFプロモータのDR−0エレメントおよびラクトフェリンプロモータの拡張されたハーフサイト(half−site)と結合することが判明した(Hentschke,Mら、Eur.J.Biochem.(2002)269,16,4089−4097)。
【0034】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質とさらなるタンパク質との間に複合体を形成するか、またはかかる複合体の形成を向上させることを含む。典型的には、Errタンパク質が一緒になって複合体を形成するタンパク質もまた核タンパク質である。この点で、他の核受容体、GRIP1、および(わずかであるが)SRC−1aおよびACTRは、EsrraおよびEsrrbの転写コアクチベータとしての働きをすることがさらに判明した(同文献)。PPARγコアクチベータ(PGC1a)はさらにEsrrbおよびEsrrgの活性化因子として機能することが示されている(たとえば、Zuercher、WJ.ら、Journal of Medicinal Chemistry(2005)48,3107−3109、およびここで記載される文献を参照)。PGC−1αおよびPGC−1β(Hentschkeら、2002、上記)に加えて、Esrrgの好適なアクチベータのさらなる実例は、Pl60コアクチベータ、たとえば転写中間因子2/グルココルチコイド受容体相互作用タンパク質1、ステロイド受容体コアクチベータ1(乳癌1で増幅)、およびRAP250/活性化シグナルコインテグレータ2(ASC2)である(たとえば、Sanyalら、2004、上記を参照)。この点で、Esrrg活性はさらに、これが結合する応答エレメントに依存することが示されている(同文献)。Esrrg2の一つ以上のアクチベータはさらに血清および網状赤血球溶解物中に含まれる(Hentschkeら、2002、上記)。
【0035】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、Errタンパク質と化合物との間の複合体を形成することを含む。Errタンパク質を活性化する化合物の好適な例としては、限定されるものではないが、ペプチド、ペプトイド、無機分子および低分子量有機分子が挙げられる。
【0036】
Esrrbの作動性リガンドとして好適な各低分子量有機分子は、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジド、フラボンフィトエストロゲンまたはイソフラボンフィトエストロゲンであってよい。対応する4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジドのアリール部分は、典型的には6員環、すなわちベンゼン誘導体である。4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジドの一例は、4−ヒドロキシ安息香酸2−[[4−(ジエチルアミノ)フェニル]メチレン]ヒドラジド(Chemical Abstracts No95167−41−2)(DY131もしくはGSK9089としても知られる)である(Yu,D.,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters(2005)15,1311−1313、Zuercher,W.J.ら、Journal of Medicinal Chemistry(2005)48,3107−3109、米国特許出願第2006/0189825号明細書)。さらなる実例は、4−ヒドロキシ安息香酸[[4−(1−メチルエチル)フェニル]メチレン]ヒドラジド(CAS−番号101574−65−6)(GSK4716としても知られる)であり、これも同様にEsrrbを活性化することが判明している。好適なフラボンおよびイソフラボンフィトエストロゲンの例としては、限定されるものではないが、ゲニステイン(5,7,4’−トリヒドロキシイソフラボン)、ダイゼイン(7,4’−ジヒドロキシイソフラボン)、ビオカニンA(5,7−ジヒドロキシ−4’−メトキシイソフラボン)が挙げられ、これらも(程度は低いが6,3’,4’−トリヒドロキシフラボン(フラボン)も同様に)Esrrbを活性化することが報告されている(Suetsugi,M.ら、Molecular Cancer Research(2003)1,981−991)。
【0037】
EsrraおよびEsrrgについて、今までのところ、それ自体アクチベータとして、特に作動薬として作用する化合物は特定されていない。しかし、逆作動薬(全体的な阻害効果を有するこのような化合物は、たとえばEsrraとEsrrgとの両方について知られている)の置換を、各Errタンパク質の活性化と見なすことができる。実例として、ビスフェノールAならびに4−α−クミルフェノールは、Esrrgを不活性化する4−ヒドロキシタモキシフェンを置換することによって、Esrrgを活性化する(Matsushimaら、2008、上記)。ビスフェノールAは、Esrrg活性を増大させることができるので、Esrrgの逆拮抗物質であることがさらに示される(上記、Liuら2007、上記)。さらに、最近の結晶データ(たとえば、Kallen,J.ら、J.Biol.Chem.(2007)282,23,23231−23239)を考慮して、アクチベータを将来同定できることが期待できる。かかる化合物を次いで本発明の方法において用いることができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増加させることは、Errタンパク質、さらなるタンパク質および化合物間で複合体を形成することを含む。さらなるタンパク質および化合物は前記定義の通りであってよい。実例として、PPARγコアクチベータ(PGC1a)の存在下で、化合物4−ヒドロキシ安息香酸ベンジリデンヒドラジド(DY159)、4−ヒドロキシ安息香酸(3−メチル−ベンジリデン)ヒドラジド(DY162)、4−ヒドロキシ安息香酸(4−メチル−ベンジリデン)ヒドラジド(DY163)および4−ヒドロキシ安息香酸(5−エチル−チオフェン−2−イルメチレン)ヒドラジド(DY164)はEsrrbを活性化することが見いだされた(US第2006/0189825号)。この点で、本発明は、前記のような化合物、たとえば上記の例のうちの一つを、細胞におけるErrタンパク質の活性を増加させるために使用することにも関する。本発明は、概して、細胞におけるErrタンパク質の活性および/または絶対量を増大させるための化合物の使用にも関する。本発明は、細胞の分化状態を増大させるための薬剤、たとえば医薬の製造における、かかる化合物の使用にも関する。
【0039】
いくつかの実施形態において、Errタンパク質の活性および/または細胞量は、リン酸化などの翻訳後修飾の変更によって変更される(Tremblay,A.M.ら、Mol.Endocrinol.(2008)22,3,570−584)。いくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性および/または量は、SUMO化、つまり小ユビキチン関連修飾因子(SUMO)タンパク質の結合によって調節される(同文献)。EsrraおよびEsrrgは、SUMO化され、これによってその転写活性が負に調節されることが示されている(同文献)。このように、本発明の方法のいくつかの実施形態において、細胞におけるErrタンパク質の活性を増大させることは、リン酸化および/またはSUMO化の変更などの翻訳後修飾の変更を起こさせることを含む。典型的な実施形態において、SUMO化は、対応するリン酸化されたErrタンパク質でのみ起こる。
【0040】
いくつかの実施形態において、細胞は一つ以上の興味のあるErrタンパク質を発現しないか、または任意のErrタンパク質を発現しない。このような実施形態において、本発明の方法は、一つ以上のErrタンパク質をコードする一つ以上の内因性遺伝子を活性化することを含み得る。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞におけるErrタンパク質の発現を可能にできる、Errタンパク質をコードする核酸分子、典型的には異種核酸分子(前出)を細胞中に導入することを含む。かかる実施形態における方法は、異種Errタンパク質を発現することをさらに含む。
【0041】
本発明の方法は、各遺伝子の発現を測定することをさらに含んでもよい。これは例えば、各プロモータの制御下にある遺伝子から転写されたRNA分子の数を測定することによって行うことができる。当該技術分野で通常用いられる方法は、その後、逆転写酵素を用いてRNAをcDNAにコピーし、cDNA分子を蛍光色素とカップリングさせることである。分析は、典型的にはDNAマイクロアレイの形態で実施される。多くのサービスおよびキットはそれぞれ、例えばGeneChip(登録商標)発現アレイはAffymetrixから商業的に入手可能である。Errタンパク質の遺伝子発現を測定する他の手段としては、限定されるものではないが、オリゴヌクレオチドアレイ、および定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態において、遺伝子発現データを較正するか、または評価することが有利であるかまたは望ましい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、得られた結果を一つ以上の対照測定結果と比較することをさらに含む。このような対照測定は、主な測定自体と異なる条件を含んでもよい。各遺伝子の発現が起こらないような方法の条件を含んでもよい。対照測定のさらなる手段は、例えばErrタンパク質をコードしない遺伝子、または非機能性Errタンパク質をコードする遺伝子のなどの各遺伝子の突然変異形態の使用である。
【0043】
その量または活性が増大したErrタンパク質は、各Errタンパク質の任意の変異体、イソ型、対立遺伝子などであり得る。Esrrbの実例は、GenPept受入番号AAH44858(マウス)、AAI11278(ウシ)、AAI31518(ヒト)、O95718(ヒト)、NP_001008516(ラット)、XP_001162698(チンパンジー)、XP_001100608(アカゲザル)、XP_001519435(カモノハシ)、XP_001491623(ウマ)、XP_001235147(ニワトリ)、XP_001333980(ゼブラフィッシュ)、ABF65992(ロシアハタネズミ)、XP_001928086(ブタ)、ならびにhERRb2−Δ10および短形hERRβ[どちらもZhouら(J.Clin.Endocrinol.&Metab.(2006)91、2、569−579)によって記載されている]のタンパク質である。Esrrgの実例は、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62508のヒトタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号Q5RAM2のオランウータンタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62509のマウスタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P62510のラットタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号A4IIT9のアフリカツメガエルタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号Q6Q6F4のゼブラフィッシュタンパク質およびGenPept受入番号XP_001489640、XP_001489725、XP_001489702およびXP_001489611のウマタンパク質である。
【0044】
Esrraの実例は、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号P11474のヒトタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号Q6QMY5のイヌタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot受入番号O08580のマウスタンパク質、UniProtKB/Swiss−Prot番号Q5QJV7のラットタンパク質、UniProtKB/TrEMBL受入番号A0JM86のアフリカツメガエルタンパク質およびUniProtKB/TrEMBL受入番号O42537のゼブラフィッシュタンパク質である。
【0045】
本発明の方法および使用は、一つ以上のErrタンパク質、または(一つまたは複数の)Errタンパク質の(一つまたは複数の)対応する機能的フラグメントの細胞における量もしくは活性を評価することをさらに含み得る。興味のあるErrタンパク質の量もしくは活性を評価することができる。
【0046】
細胞におけるErrタンパク質の量を、たとえば標識と結合し得る免疫グロブリンなどの抗体によって評価することができる。細胞が単離された細胞もしくは微生物である場合、細胞内免疫グロブリンを、たとえば細胞膜の透過化後に細胞中に導入することができる。次いで検出をインビボまたはエキソビボで行うことができる。いくつかの実施形態において、検出はインビトロで、たとえば細胞抽出物または細胞溶解物に関して実施することができる。このような技術としては、電気泳動、HPLC、フローサイトメトリ、蛍光相関分光法またはこれらの技術の変形態様もしくは組み合わせが挙げられる。
【0047】
「抗体」という用語は、一般的に、免疫グロブリン、そのフラグメントまたは免疫グロブリン様機能を有するタンパク様結合分子を意味する。(組換え)免疫グロブリンフラグメントの例は、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、二重特異性抗体、三重特異性抗体(Iliades,P.ら、FEBS Lett(1997)409,437−441)、デカボディ(decabody)(Stone,E.ら、Journal of Immunological Methods(2007)318,88−94)および他のドメイン抗体(Holt,L.J.ら、Trends Biotechnol.(2003),21,11,484−490)である。免疫グロブリン様機能を有するタンパク様結合分子の一例は、リポカリンファミリーのポリペプチドに基づく突然変異タンパク質である(国際公開第2003/029462号、国際公開第2005/019254号、国際公開第2005/019255号、国際公開第2005/019256号、Besteら、Proc.Natl.Acad.Sci USA(1999)96,1898−1903)。リポカリン、たとえばビリン結合タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ヒトアポリポタンパク質D、ヒト涙液リポカリン、またはグリコデリンは、ハプテンとして知られる選択された小タンパク質領域と結合するように修飾することができる天然のリガンド結合部位を有する。さらなるタンパク様結合分子の他の非限定的な例は、いわゆるグルボディ(glubody)(国際公開第96/23879号を参照)、アンキリン・スカフォールドに基づくタンパク質(Mosavi,L.K.ら、Protein Science(2004)13,6,1435−1448)または結晶性スカフォールド(国際公開第2001/04144号)、Skerra(J.Mol.Recognit.(2000)13,167−187)によって記載されるタンパク質、アドネクチン、テトラネクチン、アビマーおよびペプトイドである。アビマーは、いくつかの細胞表面受容体において複数のドメインのストリングとして存在する、いわゆるAドメインを含む(Silverman,Jら、Nature Biotechnology(2005)23,1556−1561)。ヒトフィブロネクチンのドメイン由来のアドネクチンは、標的との免疫グロブリン様結合が得られるように操作できる三つのループを含む(Gill,D.S.&Damle,N.K.,Current Opinion in Biotechnology(2006)17,653−658)。各ヒトホモトリマータンパク質由来のテトラネクチンは、所望の結合を得るために操作できるループ領域をC型レクチンドメインにおいて同様に含む(同文献)。タンパク質リガンドとして作用できるペプトイドは、側鎖がα炭素原子ではなくアミド窒素と結合している点でペプチドと異なるオリゴ(N−アルキル)グリシンである。ペプトイドは、典型的にはプロテアーゼおよび他の修飾酵素に対して耐性であり、ペプチドよりもはるかに高い細胞透過性を有する(たとえば、Kwon,Y.−U.、およびKodadek,T.,J.Am.Chem.Soc.(2007)129,1508−1509を参照)。所望により、標的物の任意の形態、種類などに対する各部分の親和性をさらに増大させる修飾剤を用いることができる。
【0048】
Errタンパク質の活性の評価は、タンパク質の核酸標的配列に対する結合の測定を含み得る。このような測定は、たとえば、分光、光化学的、測光、蛍光測定、放射線、酵素的または熱力学的手段(インビボとインビトロとの両方)に依存し得る。分光検出法の一例は、蛍光相関分光法である(たとえば、Haustein,E.,&Schwille,P.,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.(2007)151−169を参照)。光化学的方法は、光化学的架橋である。光活性、蛍光、放射性または酵素標識の使用は、それぞれ測光法、蛍光測定法、放射線法および酵素検出法の例である。実例として、量子ドットもフルオロフォアとして、たとえばインビボ測定で使用できる(たとえばLidke,D.S.ら、Current Protocols in Cell Biology(2007)25.1.1−25.1.18、doi:10.1002/0471143030.cb2501s36を参照)。蛍光のインビボでの使用のさらなる実例は、二分子蛍光相補法において黄色蛍光タンパク質を用いることである。蛍光プローブの使用に関する総括は、Xieらによって提示されている(Annu.Rev.Biophys.(2008)37,417−44)。熱力学的検出法の一例は、等温滴定熱量測定である。Errタンパク質の核酸配列に対する結合を測定する好適な方法のさらに別の例は、表面プラズモン共鳴技術、たとえば局在表面プラズモン共鳴である(たとえば、Endo,T.ら、Analytica Chimica Acta(2008)614,2,182−189)。これらの方法のいくつかには、さらなる分離技術、たとえば、電気泳動またはHPLCが含まれる。詳細には、標識の使用例は、プローブとしての化合物または酵素が結合した免疫グロブリンを含み、これによって触媒される反応は、検出可能なシグナルをもたらす。放射性標識および電気泳動による分離を用いる方法の一例は、電気泳動移動度シフト分析である。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞の分化状態を評価することを含む。細胞の分化状態は、例えば細胞によって提示される表現型に基づいて顕微鏡下で評価することができる。当業者は、細胞の表現型をモニタリングすることによって、分化状態における微細な変化を評価することができる。細胞の表現型はまた、細胞の高分子含量によっても反映される。この含量の変化は、したがって、分化状態の変化を示す。ラマン顕微分光法またはFT−IR分光法は、これに関して分化状態を評価するために好適な技術の実例である。Amiら(Biochimica et Biophysica Acta(2008)1783,98−106)は最近、たとえば胚幹細胞分化をモニタリングするために全タンパク質発現および核酸赤外線域の検出を評価することを含むFT−IR分光法技術を実証した。同じ技術によって、細胞の脱分化を同様に評価することができる。
【0050】
細胞の分化状態を評価する技術のさらなる例は、細胞の分化状態のマーカーの存在の評価である。このようなマーカーは、典型的には細胞タンパク質である。分化マーカーと見なすために、タンパク質は、細胞のある分化状態の間に検出可能な量でのみ存在し得る。あるいは、マーカーは、ある細胞の分化状態を特徴付けるいくつかの選択された相において存在し得る。この場合、それぞれが発現される分化状態に関して異なるプロフィールを有する異なるマーカーの組み合わせを使用して、細胞の分化状態を評価することができる。たとえば、第1マーカーが幹細胞もしくは前駆細胞を示し、第2マーカーが前駆細胞もしくは線維芽細胞を示すならば、両マーカーの存在は、前駆細胞を示す。さらなる代替法において、タンパク質はある段階、すなわちある細胞分化状態の間、特に多量または少量でのみ存在し得る。この点で異なる特性を有する多くのマーカーの組み合わせをまた細胞の分化状態を評価するために使用できる。一般的に、細胞の分化状態を評価するために、いくつかのマーカーの組み合わせを選択することが有利である。マーカータンパク質の存在は、たとえば抗体によってタンパク質レベルで検出することができるか(上記)、またはマーカータンパク質の発現レベルに基づいて評価することができる。タンパク質の半減期に関係なく、あるマーカータンパク質の発現は、一般的に各細胞の分化状態の好適な指標である。その量および発現を細胞の分化状態のマーカーとして評価することができるタンパク質の例としては、限定されるものではないが、Nanog、Oct4、Sox2、Sal14、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gml739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553、またはNanog、Oct4、Sox2、Sal14、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gml739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つのプロモータのメチル化状態が挙げられる。複数のこのようなマーカーの発現は、マイクロアレイハイブリダイゼーションなどの標準的技術を用いて実施することができる。定量的な発現プロファイリングに使用できるマイクロアレイの一例は、欧州特許出願公開第1477571号明細書に見いだすことができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、細胞の分化状態の評価は、ある期間にわたって量および/または活性を評価することを含む。一例として、細胞は、たとえば光学的に連続して評価することができる。さらなる例として、選択された時間間隔の後、細胞の評価を実施することができる。細胞の分化状態の評価は、対照測定をさらに含んでもよい。対照測定は、たとえば同じ起源であり、細胞におけるErrタンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性が増加しないか、または一般的に調節されない、同等の細胞を含んでもよい。このような対照測定に関して、Errタンパク質の量もしくは活性が影響を受けないことがわかっている条件を選択することができる。条件は、各対照測定に関して、Errタンパク質の量もしくは活性が増加しないように、または概して変化しないように選択することもできる。一つ以上のErrタンパク質の量および/または活性、または一つ以上のErrタンパク質の(一つまたは複数の)機能的フラグメントが増加する細胞の評価を実施するので、この対照測定は、たとえば、ほぼ同時に、たとえば同時に実施することができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、所定の閾値をそれぞれ分化および脱分化に設定する。二つの評価、すなわち、Errタンパク質の量および/または活性が増大した「試料」と「対照」測定値とが異なって、細胞の分化状態を示す/特徴付ける測定値間の差が所定の閾値よりも大きいならば、脱分化が達成される。実例として、マーカータンパク質の発現を用いて、細胞の分化状態を評価することができる。マーカータンパク質の発現は、選択された細胞型の細胞の脱分化を示す。発現における変動が、選択された条件下で起こり得るならば確実に考慮されるように、対照測定を用いることができる。「試料」(上記)と「対照」測定との間のマーカータンパク質の発現の差が所定の閾値を超えるならば、「試料」中で脱分化が起こったと結論づけられる。
【0053】
脱分化した細胞を評価するさらなる好適な方法は、未分化対照細胞の使用および、たとえば米国特許出願公開第2008/0076176号明細書に記載される細胞の表現型のモニタリングを含む。多分化能は、たとえば細胞が、後に細胞混合物から完全に組み込まれた生命体を形成する胚盤胞と各幹細胞または幹様細胞を組み合わせた後に、胚のキメラ、つまり2以上の生命体からの細胞のブレンドを形成する能力によって評価することができる。多分化能を評価するさらなる方法は、各幹細胞をマウスの皮膚の下に注射することであり、皮下でこれらの幹細胞は奇形種を形成し得る。さらなる評価方法は、4倍体相補性、さらに分化することができない4N胚中に注射することによって、対応する細胞の多分化能を測定するインビボ試験である。結果として得られる正常な2N胚は、輸入された多能性細胞から発生し続ける。
【0054】
実際面での最適化、たとえば最も好適なベクターの同定をより詳細に行うと、本発明の方法により得られた細胞、たとえば誘導幹細胞もしくは前駆細胞を、現在利用可能な細胞の代替物として容易に使用できる。最近、ゲノム組み込みウイルスは誘導多能性幹細胞を得るためには必要でないことが実証された。一つの代替物として、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを一時的に発現する非組み込みアデノウイルスがStadtfeldらにより使用され(Science(2008)doi:10.1126/science.1162494)、別の代替物として、Oct3/4、Sox2、およびKlf4のcDNAを含むプラスミドを一つだけ、c−Myc発現プラスミドとあわせて繰り返しトランスフェクションすることが、Okitaらによって用いられた(Science(2008)doi:10.1126/science.1164270)。
【0055】
細胞を十分に未分化細胞状態まで脱分化させるために本発明の方法を使用した場合、得られた細胞、典型的には幹様細胞は、たとえば所望の分化した細胞型を得るために用いることができる。したがって、本発明の方法は、多種多様の治療上用途に使用することができる。このような細胞は、たとえば同じ個体から得られる細胞を選択された細胞型の細胞を提供するために使用できるという利点を有する再生医療において使用することができる。実例として、ヒト造血幹細胞を、骨髄移植を必要とする医療で用いることができる。本発明にしたがって得られる細胞を、多くの生理学的状態および疾患、たとえば多発性硬化症などの神経変性疾患、卵巣癌および白血病などの末期癌、並びにHIV感染症(「AIDS」)などの免疫系を傷つける疾患の治療において用いることができる。治療することができる生理学的状態のさらなる例としては、限定されるものではないが、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィ、糖尿病、肝臓疾患、すなわち、高コレステロール血症、心臓疾患、軟骨置換、熱傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎臓疾患、尿路疾患、および老化に伴う疾患および状態が挙げられる。このような細胞も、一つ以上の細胞系の形成に用いることができる。
【0056】
本発明の方法は、たとえば、細胞を可逆的に脱分化および分化させることによって、いくつかの実施形態においてはさらに興味のある化合物の存在下で、研究目的で用いることもできる。この点に関して、本発明の方法によって得られる細胞は、ある状態、たとえば疾患状態になるインビトロ、エキソビボもしくはインビボモデル細胞、またはある状態、たとえば疾患状態にある細胞に対して用いることもできる。このような細胞は、ヒトをはじめとする動物などの生命体の発生を研究するために用いることもできる。本発明の方法を用いて誘導多能性幹細胞を生じさせる場合、疾患特異性多能性細胞系を、Parkら(Cell(2008)134,877−886)によって記載される技術と同様にして生成させることができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法である。胚幹細胞などの幹細胞を制御された方法で、たとえば神経成長因子およびレチノイン酸の存在下でニューロンに分化させることができ(Schuldinerら、Br.Res.(2001)913,201−205)、これらが容易に分化できることは、実施上の大きな問題となる。胚幹細胞を多能性状態に維持するためには、取り扱いおよび培地中での成長の間のこれらの分化は防止されなければならない。この理由のために、これらは伝統的に支持細胞の層上でウシ胎仔血清の存在下(たとえば米国特許第5843780号明細書および第6090622号明細書を参照)または線維芽細胞条件培地(CM)中で培養される。それにもかかわらず、慎重に制御された条件下でも、胚幹細胞はインビトロ増殖の間に自発的分化を受け得る。マウス胚幹細胞における自己複製に関与する因子である白血病抑制因子(LIF)はまた、マウス胚幹細胞の分化を阻害することが判明しているが、ヒト胚幹細胞の分化の防止において支持細胞の役割の代替とならない。したがって、当業者らは、著しい改善として幹細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することを含む調節方法を理解するであろう。
【0058】
成人幹細胞は、多能性様胚幹細胞でないが、自己複製可能であり、柔軟性を有するものであることが証明され、これによって、これらの発生可能性は、より未熟な多能性胚幹細胞と匹敵するようになる。一例として、成人幹細胞は、その起源の組織とは異なる細胞系に分化することができる。
【0059】
本発明の多分化能および/または自己複製特性を維持する方法は、任意の幹細胞、前駆細胞、奇形種細胞またはこれらから誘導される任意の細胞に好適である。典型的には、各細胞はErrタンパク質を発現することができる。実例として、任意の多能性ヒト胚幹細胞もしくは各細胞系を各方法で用いることができる。かかる細胞の集団を誘導する手段は当該技術分野で十分確立されている(たとえば、Thomson,J.A.ら、Science[1998]282,1145−1147またはCowan,C.A.ら、N.Engl.J.Med.[2004]350,1353−1356を参照)。さらに、たとえば、少なくとも78の独立したヒト胚幹細胞系(たとえば、the NIH Human Embryonic Stem Cell Registry(http://stemcells.nih.gov/research/registry/eligibilityCriteria.aspを参照)、たとえばGE01、GE09、BG01、BG02、TE06またはWA09が存在することが知られ、そのうちの少なくとも21細胞系が研究目的で利用可能である。ヒト胚幹細胞をはじめとする胚は、たとえば桑実胚、後期胚盤胞期の胚、単一割球または単為生殖胚から誘導することができる。多能性胎児幹細胞並びに前駆細胞を胎児から単離することができる。多能性胎児幹細胞は、通常、誕生時に廃棄される胎児外組織からも単離することができる。成人幹細胞は、たとえば神経組織(Chojnacki,A.,&Weiss,S.,Nature Protocols(2008)3,935−940)もしくは脂肪組織(Bunnell,B.A.ら、Methods in stem cell research(2008)45,2,115−120)などの組織、精巣の精原細胞(たとえばConrad,S.ら、Nature(2008)doi:10.1038/nature07404)、歯、誕生後に残る胎盤および臍帯からの血液、または筋繊維から単離することができ、この幹細胞および前駆細胞にいわゆる「衛星細胞」として関連する(Collins,C.A.ら、Cell[2005]122,289−301、Rando,T.A.,Nature Medicine[2005]11,8,829−831も参照)。前駆細胞は、血液および様々な組織、たとえば神経組織、脳室下帯、膵臓、網膜、骨膜または内皮細胞からも単離することができる。
【0060】
「幹細胞」という用語は、本明細書で用いられる場合、任意の幹細胞を意味し、いわゆる癌幹細胞も包含する。多くの種類の癌は、このような癌幹細胞を含むことが判明しており、これらは自己複製能力および分化能力によって特徴付けられる。広範囲の研究によって、ほとんどの癌がクローン性であり、腫瘍成長を維持する能力が付与された一つの癌幹細胞であり得ることがわかる。Krivtsovら(Nature(2006)442、818−822)は、たとえば、前駆細胞由来の白血病幹細胞を非常に多く含む細胞集団を精製し、これらを遺伝子発現プロファイリングによって特徴付けた。彼らは、これらの細胞が、これらが生じた前駆細胞と類似しているが、造血幹細胞において通常発現される自己複製関連プログラムを発現すると報告している(同文献)。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、細胞または細胞が含まれる宿主生命体に対して、Errタンパク質の発現および/または活性を調節する化合物を投与することを含む。「投与する」という用語は、生命体の細胞または組織中に化合物を組み入れる技術に関する。
【0062】
本明細書で記載する化合物、並びに本発明の方法によって同定される化合物は、細胞、動物またはヒト患者にそれ自体で、あるいは他の活性成分もしくは安定剤をはじめとする好適な担体または(一つもしくは複数の)賦形剤と混合される医薬組成物で投与することができる。このような担体、賦形剤または安定剤は、通常、用いられる用量および濃度で、暴露される細胞もしくは哺乳動物に対して無毒である点で薬剤的に許容される。多くの場合、生理学的に許容される担体は、水性pH緩衝液である。生理学的に許容される担体の例としては、緩衝液、たとえばリン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸、アスコルビン酸をはじめとする酸化防止剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、たとえば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン、親水性ポリマー、たとえばポリビニルピロリドン、アミノ酸、たとえばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリシン、単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンをはじめとする他の炭水化物、キレート剤、たとえばEDTA、糖アルコール、たとえばマンニトールもしくはソルビトール、塩形成カウンターイオン、たとえばナトリウム、および/または非イオン性界面活性剤、たとえばTWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(登録商標)が挙げられる。
【0063】
好適な投与経路としては、たとえば持続性薬剤、経口、直腸、経粘膜、または腸投与、筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、並びに髄膜、直接脳室内、腹腔内、鼻内、または眼球内注射をはじめとする非経口送達を挙げることができる。化合物は、全身的ではなく、たとえば化合物を組織にたとえば持続性薬剤または持続放出処方で直接注射することにより、局所投与することもできる。
【0064】
さらに、標的の薬物送達システム中、たとえば腫瘍特異性抗体でコーティングされたリポソーム中に薬物を投与することができる。リポソームは興味のある(一つもしくは複数の)細胞を含む組織によって選択的に標的とされ、吸収される。
【0065】
前記の化合物を含む組成物は、たとえば通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、粉末化、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥法によって、医薬組成物についてそれ自体公知の方法で製造することができる。本発明にしたがって使用される組成物は、したがって活性化合物の薬剤的に使用できる製剤への加工を容易にする賦形剤および助剤を包含する一つ以上の生理学的に許容される担体を用いた通常の方法で処方することができる。適切な処方は、選択された投与経路に依存する。
【0066】
注射に関して、化合物は水溶液、たとえば生理学的に適合性の緩衝液、たとえばハンクス液、リンガ液、または生理食塩緩衝液中に配合することができる。経粘膜投与に関して、浸透されるバリアに対して適切な浸透剤を処方中で使用する。このような浸透剤は当該技術分野で一般的に公知である。経口投与に関して、化合物は、活性化合物を当該技術分野で周知である薬剤的に許容される担体と組み合わせることによって容易に配合することができる。このような担体によって、治療される患者が経口摂取するための錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することが可能になる。
【0067】
固体賦形剤を添加し、場合によって結果として得られた混合物を粉砕し、所望により好適な助剤を添加した後に顆粒の混合物を加工して、錠剤もしくは糖衣錠コアを得ることによって、経口使用される製剤を得ることができる。好適な賦形剤は、特に、充填剤、たとえばラクトース、スクロース、マンニトール、もしくはソルビトールをはじめとする糖、セルロース調製物、たとえば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)である。所望により、崩壊剤、たとえば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、たとえばアルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0068】
糖衣錠コアに好適なコーティングを提供する。このために、濃厚糖溶液を用いることができ、この溶液は、場合によって、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含む。活性化合物量の様々な組み合わせを特定するかまたは特徴付けるために、染料または顔料を錠剤もしくは糖衣錠コーティングに添加することができる。
前記の化合物を含む製剤を経口的に使用することができ、ゼラチンでできた押し込み型カプセル、並びにゼラチンおよびグリセロールもしくはソルビトールなどの可塑剤で作製されたソフト密封カプセルを包含する。押し込み型カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、及び/又はタルクもしくはステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、および場合によって安定剤との混合物で活性成分を含むことができる。ソフトカプセルにおいて、活性化合物を、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中に溶解もしくは懸濁させることができる。加えて、安定剤を添加することができる。経口投与用の全ての処方は、かかる投与に好適な用量である。口腔投与のために、組成物は、通常の方法で処方された錠剤もしくはロゼンジの形態を取ることができる。
【0069】
吸入による投与に関して、本発明にしたがって使用する化合物は、好適なプロペラント、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適なガスを使用した、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で都合よく送達される。加圧エアゾルの場合、投与単位は、定量を送達するためのバルブを提供することによって決定することができる。吸入器または注入器において用いられるゼラチンなどのカプセルおよびカートリッジは、化合物および好適な粉末基剤、たとえばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含んで処方することができる。
【0070】
化合物は、注射、たとえばボーラス注入法または持続注入による非経口投与用に処方することができる。注射用処方は、単位投与形態、たとえばアンプル中または複数回投与容器中で、保存料を添加して提示することができる。各組成物は、懸濁液、溶液または油性もしくは水性ビヒクル中エマルジョンなどの形態を取ることができ、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの処方剤を含んでもよい。
【0071】
好適な非経口投与用処方の実例は、水溶性形態の活性化合物の水溶液である。さらに、活性化合物の懸濁液を適切な油状注射懸濁液として調製することができる。好適な親油性溶媒もしくはビヒクルとしては、脂肪油、たとえばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、たとえばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが挙げられる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含むことができる。場合によって、懸濁液は、好適な安定剤または化合物の溶解度を増大させて非常に濃厚な溶液の調製を可能にする薬剤も含んでもよい。
【0072】
活性成分は、好適なビヒクル、たとえば滅菌ピロゲンを含まない水で使用前に構成される粉末形態であってもよい。化合物は、たとえばカカオ脂または他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を含む坐剤または停留浣腸などの直腸組成物に処方することもできる。
【0073】
すでに記載した処方に加えて、化合物は持続性製剤として処方することもできる。このような長時間作用型処方は、移植(たとえば皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、たとえば化合物を、好適なポリマーもしくは疎水性材料(たとえば許容できる油中エマルジョンとして)またはイオン交換樹脂を用いて、あるいは難溶性誘導体、たとえば、難溶性塩として処方することができる。
【0074】
さらなる態様において、本発明は、細胞の脱分化を行うことができる化合物を同定する方法を提供する。このような方法は、化合物とErrタンパク質との間に複合体を形成することを包含する相互作用を可能にすることを含んでもよい。一実施形態において、方法は、化合物がErrタンパク質とNanogおよびOct4の一方または両方との間の複合体の形成を変えるかどうか、たとえば防止、減少または向上させるかを確認することを含んでもよい。さらなる実施形態において、方法は、Errタンパク質の転写因子活性を向上、軽減または防止することなど調節するかどうかを確認することを含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、各方法は、一つ以上のErrタンパク質、または一つ以上のErrタンパク質の(一つもしくは複数の)機能的フラグメントを発現できる細胞中に化合物に導入し、(一つもしくは複数のErrタンパク質)の発現を測定することを含む(詳細については前記参照)。各Errタンパク質の増大した発現は、対応する化合物が、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することができることを示す。
【0076】
この複合体の形成は、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法を用いて実施できる。実例は、表面プラズモン共鳴(たとえば、Biacore(登録商標)技術)、核磁気共鳴または結晶化およびその後のX線分析による検出である。分光検出法の一例は蛍光相関分光法である(Thompson,N.L.ら、Curr.Opin.Struct.Biol.[2002]12,5,634−641)。光化学的方法は、たとえば光化学的架橋である。光活性標識、蛍光標識、放射性標識または酵素標識の使用は、それぞれ測光法、蛍光測定法、放射線法および酵素的検出方法の例である(これも前記参照)。
【0077】
いくつかの実施形態において、かかる方法はインビトロ法である。化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、およびNanogもしくはOct4または三つのタンパク質全てを接触させることを含み得る。かかる方法において、一般的に、化合物がErrタンパク質と、NanogおよびOct4の少なくとも一つとの間の複合体形成を調節できるかどうかを確認する。化合物がかかる複合体形成を軽減もしくは防止する場合、この化合物は、分化の実施に好適であり得る候補分子である。化合物がかかる複合体形成を増大もしくは促進する場合、このことは、この化合物が、少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および/または自己複製特性を維持することができることを示す。
【0078】
インビトロ方法の前記実施形態は、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくとも一つの複合体形成を調節できると予測される化合物を試験管に添加することを含むことができる。方法は、Errタンパク質、又はその機能的フラグメントを試験管に添加することをさらに含むことができる。方法は、NanogもしくはOct4を試験管に添加することも含むことができる。いくつかの実施形態において、NanogとOct4との両方を試験管に添加する。これらは、あわせて、または連続して添加することができる。これらはErrタンパク質を試験管に添加する前、添加とともに、または添加後に添加することもできる。さらに、方法は、Errタンパク質とNanogおよび/またはOct4との間の複合体形成を可能にすることを含むことができる。方法は、この複合体の形成を検出することも含む。上で説明したように、この複合体の形成を、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法を用いて実施することができる。
【0079】
本発明を、以下の非限定的例によってさらに説明する。当業者には本発明の開示から容易に明らかになるように、既存の、または本明細書で記載する対応する実施形態例と実質的に同じ機能を果たすか、同じ結果を実質的に達成するように後に開発される他の物質の組成物、手段、使用、方法、または工程も同様に本発明にしたがって利用できる。
(実施例)
細胞培養およびトランスフェクション
マウスES細胞を、ゼラチンでコーティングした皿上、15%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS、GIBCO)、0.055mMのβ−メルカプトエタノール(GIBCO)、2mMのL−グルタミン、0.1mMのMEM非必須アミノ酸、5,000単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび1,000単位/mlのLIF(Chemicon)を添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM、GIBCO)中で培養し、2〜3日ごとに継代した。再プログラミングされた細胞、V6.4およびR1マウスES細胞を同じES細胞培地中マイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダ上で培養し、2〜3日ごとに継代した。MEFを13.5d.p.c胚から、0.05%トリプシンで37℃にて10分間解離させることにより単離し、200μg/mlゲンタマイシンを含む15%FBS/DMEM中で培養した。この研究において、本発明者らは、MEFを5継代以内で使用して、複製老化を回避した。CD1、B6、129/B6、アクチン−GFP、アクチン−GFP/CD1、Pou5f1−GFP/B6マウス由来のMEFを、この研究においてiPS誘導のために使用した。shRNAおよび過剰発現プラスミドのトランスフェクションを、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を製造業者の指示にしたがって使用して実施した。簡単に言うと、1.5μgのプラスミドをRNAおよびタンパク質抽出のために60mmのプレート上ES細胞中にトランスフェクトした。ES細胞の非分化状態の指標であるアルカリ性ホスファターゼの検出を、Chemiconから市販のES Cell Characterization Kitを用いて実施した。プロマイシン(Sigma)選択をトランスフェクションの1日後、0.8μg/mlの濃度で導入し、収集前2〜6日間維持した。
【0080】
RNA抽出、逆転写および定量的リアルタイムPCR
全RNAを、TRIzol Reagent(Invitrogen)を用いて抽出し、RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて精製した。SuperScript II Kit(Invitrogen)を用いて逆転写を実施した。DNA汚染をDNase(Ambion)処理によって除去し、RNAをRNAeasyカラム(Qiagen)によってさらに精製した。定量的PCR分析を、ABI PRISM7900 Sequence Detection SystemおよびSYBR Green Master Mixを記載されているようにして使用して、リアルタイムで実施した。使用した全てのプライマについて、それぞれが正しい大きさの一つの生成物を生成した。逆転写酵素がない四つの対照全てにおいて、シグナルは検出されなかった。それぞれのRNAi実験を、ES細胞の異なるバッチを用いて少なくとも3回繰り返した。Esrrb shRNAによって標的とされる配列は、Lohら(2006、上記)によって記載されている通りである。
【0081】
マウス
野生型CD1マウス、B6マウス、アクチン−EGFPトランスジェニックマウスおよびPou5f1−EGFPトランスジェニックマウス(Jackson’s Lab,それぞれストック番号003516および004654)をMEF単離のために使用した。B6マウスを顕微注入のために使用した。
【0082】
レトロウイルスパッケージングおよび感染
Esrrbおよび他の因子のCDSをPCRによってマウスES細胞から増幅させ、MMLV系pMXsレトロウイルスベクター中にクローンした。レトロウイルスは、TakahashiおよびYamanaka(2006、上記)によって記載されているようにして生成させた。iPS細胞を誘導するために、異なる因子をコードする等しい量のウイルスを、MEF上に、6ng/mlのポリブレンを含む15%FBS/DMEM中、50〜70%コンフルエンスで塗布した。24時間後、培地を新鮮なものと替え、翌日(2dpi)に、細胞をMEFフィーダ上で1:6〜1:20に分割した。培養物を次いでマウスES細胞培地中に11〜24日間維持した。
【0083】
免疫蛍光および免疫化学
ガラス底皿中またはゼラチン化スライドカバー上MEFフィーダ上で培養したES細胞または再プログラミングされた細胞を、4%PFA/PBSで固定した。1%トリトン−X100/PBS中で30分間透過化後に、Nanogを1:20抗Nanog(RCAB0002PF,CosmoBio)で染色した後、1:300Alexa Flour568接合抗ウサギ(Invitrogen)で染色した。SSEA1を、1:200モノクローナル抗SSEA1(MAB4301,Chemicon)で直接染色し、続いて1:2000Alexa Flour546接合抗マウスIgMで染色した。DAPIもしくはHoechst(Invitrogen)を対比染色に使用した。免疫化学分析のために、E9.5胚を4%PFA中4℃で一夜固定し、パラフィン中に埋め込んだ。セクショニング後、GFPを、1:200抗GFP(sc−9996,Santa Cruz)、続いてHRP接合抗マウス(VECTASTAIN ABC kit,Vector)を用いて染色し、次いでDAB(3,3’−ジアミノベンジジン)を用いて発生させた。ヘマトキシリンを用いて核を対比染色した。
【0084】
Gバンド染色体分析
細胞を有糸分裂停止のためにコルセミドで処理し、標準的低張処理およびメタノール:酢酸(3:1)固定によって集めた。標準的空気乾燥法によってスライドを調製し、Gバンド染色体分析を実施した。
【0085】
顕微注入
iPS細胞をM2培地(SAFC Biosciencesから入手可能(カタログ番号5170C)であり、M16胚培地の修飾物である)中に再懸濁させ、8細胞期B6マウス胚中に注入した。胚を次いで発生させて、iPS細胞が動物中に組み込まれる能力について試験した。
【0086】
クロマチン免疫沈降(ChIP)分析
ChIP分析はすでに記載されているようにして実施した。簡単に言うと、細胞を1%ホルムアルデヒドで10分間室温にて架橋させ、ホルムアルデヒドを次いで125mMのグリシンの添加によって不活性化した。平均サイズが500bpのDNAフラグメントを含むクロマチン抽出物を、抗H3K4me3(Abcam)または抗H3K27me3(Upstate Biotech)抗体を用いて免疫沈降させた。全ChIP実験について、定量的PCR分析を、ABI PRISM 7900配列検出システムおよびSYBRグリーンマスターミックスを用いてすでに記載されているようにしてリアルタイムで実施した。見かけの免疫沈降効率(免疫沈降したDNAの量の、投入試料の量に対する比)を測定することによって相対的占有率値を計算し、観察されたレベルに対して標準化した。
【0087】
重亜硫酸塩シークエンシング
Imprint(商標)DNA Modification Kit(Sigma)を製造業者の指示にしたがって用いて、DNAの重亜硫酸塩処理を実施した。ゲル濾過カラムを使用することによって増幅産物を精製し、pCR2.1ベクター(Invitrogen)中にクローンし、M13順方向および逆方向プライマを用いて配列決定した。Nanogプロモータを増幅するために使用したプライマは、配列:5’−GATTTTGTAGGTGGGATTAATTGTGAATTT(配列番号8)および5’−ACCAAAAAAACCCACACTCATATCAATATA(配列番号9)を有していた。Oct4プロモータを増幅するために使用したプライマは、配列:5’−ATGGGTTGAAATATTGGGTTTATTTA(配列番号10)および5’−CCACCCTCTAACCTTAACCTCTAAC(配列番号11)を有していた。
【0088】
遺伝子型決定
各反応について、MEF、ES細胞、iPS細胞または胚卵黄嚢から抽出したゲノムRNA500ngを用いてPCR増幅を実施した。増幅に使用したセンスプライマは以下の配列を有していた:5’−GACGGCATCGCAGCTTGGATACAC(配列番号1)。
【0089】
増幅に使用したアンチセンスプライマは、以下の配列を有していた。
Esrrb:5’−TGTGGTGGCTGAGGGCATCA(配列番号2)
Esrra:5’−TGTAGAGAGGCTCGATGCCCACCAC(配列番号3)
Esrrg:5’−GGCAAAGTTCTACCGAATCC(配列番号4)
Oct4:5’−CCAATACCTCTGAGCCTGGTCCGAT(配列番号5)
Sox2:5’−GCTTCAGCTCCGTCTCCATCATGTT(配列番号6)
cMyc:5’−TCGTCGCAGATGAAATAGGGCTG(配列番号7)
マイクロアレイ分析
細胞由来のmRNAを逆転写し、標識し、Illuminaマイクロアレイプラットフォーム(Sentrix Mouse−6 Expression BeadChip vl.l)を用いて分析した。アレイを製造業者の指示にしたがって処理した。マイクロアレイデータをSAMによって分析した。
【0090】
Esrrb再プログラミング細胞の生成
すでに記載されている遺伝的に未修飾の線維芽細胞の直接再プログラミングを使用して(Blelloch,R.ら、Cell Stem Cell(2007)1,245−247、Meissner,A.ら、Nat Biotechnol(2007)25,1177−81)、Oct4、Sox2、c−MycおよびEsrrbを、マウス胚線維芽細胞(MEF)中で共発現させた。得られたES細胞様細胞を、アルカリ性ホスファターゼ、SSEA1およびNanogについて陽性に染色した(図2a〜図2g)。以下で、これらのOct4、Sox2、c−MycおよびEsrrb再プログラミング細胞は、OSCE再プログラミング細胞とも称する。先のレポートと一致して、Oct4、Sox2およびc−Mycは、安定したクローンの形成を誘導できない(データ不掲載、Blelloch,2007、上記、Nakagawa,2008、上記)。先のレポートは、再プログラミング細胞単離のためのストリンジェントな選択法としての内因性Pou5flレポータの活性化の使用を示している(Wernigら、2007、上記)。したがって、本発明者らは、MEFをPou5fl−GFPレポータとともに使用して(Szabo,P.E.ら、Mech Dev(2002)115,157−160)、Oct4、Sox2およびcMycを用いたES細胞様コロニーの誘導におけるEsrrbの潜在性をさらに検証した。ES細胞様コロニーは、9〜11dpi付近で出現した。本発明者らは、14dpiでGFP陽性コロニーの数を定量化した(図2h、図2i)。Esrrb再プログラミング細胞の生成効率は、Klf4、Oct4、Sox2およびc−Mycの導入によって得られるものの約50%であった(図2j)。この結果から、EsrrbはMEFの再プログラミングにおいてKlf4と置き換わることができることがわかった。
【0091】
Pou5fl−GFPレポータをEsrrb、Oct4およびSox2とともに用いてMEFを形質導入し、本発明者らは、GFP、アルカリ性ホスファターゼ、NanogおよびSSEA1陽性細胞を誘導することができた(図8を参照)。Pou5fl−GFPレポータをEsrrg、Oct4、Sox2およびc−Mycとともに使用してMEFを形質導入し、本発明者らはGF、アルカリ性ホスファターゼ、NanogおよびSSEA1陽性細胞を誘導することができた(図5を参照)。
【0092】
再プログラミング細胞の特徴付け
Esrrb再プログラミング細胞をさらに特徴付けるために、本発明者らは発現プロファイリングを実施して、二つのES細胞系、三つの再プログラミング細胞系(Esrrb再プログラミング細胞系について二つ、およびKlf4再プログラミング細胞系について一つ)ならびに二つのマウス系統由来のMEFのトランスクリプトームを捕捉した。クラスター分析によって、再プログラミング細胞系がMEFよりもES細胞に類似していることがわかった(図3a)。本発明者らのマイクロアレイ分析によって、再プログラミングされた細胞におけるES細胞関連遺伝子の上方調節およびMEF関連遺伝子の下方調節も明らかになった(図3b)。
【0093】
再プログラミングされた細胞の後成的状態
ES細胞特異的遺伝子、たとえばNanogおよびPou5flはES細胞において高度に発現され、これらのプロモータ領域はDNAメチル化が不足している。MEFにおいて、これらの遺伝子を抑制し、これらのプロモータはDNAメチル化を獲得する。従来の研究から、再プログラミングがメチル化の除去につながることがわかっている(Wernigら、2007、上記、Maherali,N.ら、Cell Stem Cell(2007)1,55−71、Okita,K.ら、Nature(2007)448,313−7)。本発明者らは、ES細胞、MEFおよび二つの再プログラミング細胞系の重亜硫酸塩シークエンシングによって、NanogおよびPou5flプロモータでのDNAメチル化の状態を分析した。結果から、DNAメチル化が本発明者らの再プログラミング細胞系では失われたことがわかった(図4a)。
【0094】
ES細胞において、ES細胞は分化する場合に抑制されるが誘導を受けない、いくつかの遺伝子は、活性H3K4me3マークと不活性H3K27me3マークとの両方を示す(Bernstein,B.E.ら、Cell(2006)125,315−326)。これらの二価クロマチン構造が、Esrrb再プログラミング細胞中に存在するかどうかをさらに試験した。抗H3K4me3および抗H3K27me3抗体を使用するChIP分析によって、七つの遺伝子(Zfpm2、Nkx2.2、Sox21、Pax5、Lbx1h、Evx1およびDlx1)のクロマチンが両修飾を含むことが明らかになった(図4b)。この結果は、二価ドメインがiPS細胞において再形成されることを証明する先の研究(Wernigら、2007、上記)と一致する。要するに、前記データにより、多分化能遺伝子の後成的状態が抑制(メチル化)から活性(非メチル化)胚状態へと再プログラミングされ、二価クロマチン構造がEsrrb再プログラミング細胞で獲得されたことが示された。
【0095】
Esrrb再プログラミング細胞は多能性である
得られた再プログラミングされた細胞が多能性であるかどうかを評価するために、これらの細胞を細胞期C57/BL6胚中に顕微注入した。OSCE再プログラミング細胞はアクチン−GFPレポータを用いてMEFから誘導されるので、これらはGFP陽性である。これらの細胞を胚盤胞中に導入する前に、本発明者らまず、OSCE番号8およびOSCE番号13細胞系が正常な核型を有することを立証した(図9a、図9bを参照)。胚盤胞中に注射した後、OSCE番号8およびOSCE番号13細胞系は、9.5d.p.c.胚がGFP標識細胞のモザイク組み込みを示したので、マウス胚に貢献した(図6a〜図6f)。キメラ胚の卵黄嚢組織中に四つのレトロウイルスが存在することが、PCR検出分析によってさらに確認された(図9cを参照)。胚の免疫染色も、GFP陽性細胞が全組織に貢献することを示した(図6g〜図6i)。したがって、OSCE再プログラミング細胞は多能性であり、インビボで三つの系統に分化することができる。
【0096】
Esrrbは、ES細胞の自己複製状態の維持に関与することが示された(Ivanova,N.ら、Nature(2006)442,533−538、Loh,Y.H.ら、Nat.Genet.(2006)38,431−440)。今までのところ、再プログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf2、Klf4、Klf5、n−Mycおよびc−Myc)はES細胞特異的遺伝子の上方調節に関与する(Ivanovaら、2006、上記、Lohら、2006、上記、Boiani,M.&Scholer,H.R.,Nat Rev Mol Cell Biol(2005)6,872−884、Cartwright,P.ら、Development(2005)132,885−896、Matoba,R.ら、PLoS ONE(2006)1,e26、Masui,S.ら、Nat.Cell.Biol.(2007)9,625−635、Jiang,J.ら、Nat Cell Biol(2008)10,353−360)。EsrrbがどのようにしてOct4およびSox2を用いた再プログラミングを仲介するかについての洞察を得るために、ES細胞における遺伝子発現の調節におけるEsrrbの役割を調べた。本発明者らは、すでにEsrrbおよび他の転写因子のES細胞における結合部位を、ChIP−seq技術を用いて位置づけしていた(Chenら、Cell(2008)133,1106−1117)。EsrrbがEsrrb遺伝子のイントロン部位と結合することがわかることは興味深い(図10を参照)。このことは、Esrrbが潜在的に自身の発現を調節できることを示唆する。どの遺伝子がEsrrbによって結合されているかは既知であるが、Esrrbがこれらの遺伝子に対して転写効果を及ぼすかどうかは明らかではない。したがって、DNAマイクロアレイ実験を実施して、その発現がEsrrb欠乏によって減少するEsrrb結合遺伝子を決定した。RNA試料を、shRNA発現構築物のトランスフェクション後、様々な時点で集めた。第2日に、EsrrbのないES細胞の形態は、ルシフェラーゼに対してshRNAを発現する対照プラスミドでトランスフェクトされたES細胞と類似し(図6a)、これらの細胞もアルカリ性ホスファターゼについて陽性染色された。これらのES細胞特性を維持するにもかかわらず、ES細胞の重要な調節因子(Sox2、Nanog、Sall4、Tcl1、Tbx3、Eras、Klf4、Klf5)をコードするEsrrb結合遺伝子の発現はすでに減少していた(図6a)。4日および6日後、Esrrb欠失ES細胞はすでに分化し、異なる形態を有し、アルカリ性ホスファターゼ染色が失われていた。データから、EsrrbがES細胞状態に関連して上方調節する遺伝子であることがわかった。EsrrbによるMEFの再プログラミングは、Oct4およびSox2を必要とするので、結合Esrrb、Oct4およびSox2である遺伝子が特定された(図10)。興味深いことに、これらは、多分化能の調節因子(Sox2、Nanog、Sall4)、自己複製調節因子(Tcll、Tbx3)および再プログラミング因子(Klf4、Klf5)をコードする遺伝子を含む(図7b)。これは、なぜEsrrbが再プログラミングにおいてOct4およびSox2とともに作用できるかについての説明を提供することができる。
【0097】
親和性精製および質量分析法を用いて、EsrrbはNanogおよびOct4を含む複合体において見いだされた(Wangら、2006、上記、Liangら、2008、上記)。共通の標的遺伝子を調節することに加えて、これらの転写因子間のタンパク質−タンパク質相互作用は、体細胞におけるES細胞特異的遺伝子発現プログラムに重要である可能性があり得る。NanogおよびOct4複合体の他の成分が再プログラミング機能を有するかどうかを試験することも興味深い。MEFのiPS細胞への再プログラミングに関する以前の研究は、細胞運命の改変におけるKlf4の重要な役割を強調する。前記結果は、Klf4がEsrrbによって置換され得ることを示す。理論によって拘束されないが、ES細胞を用いて得られたデータ(上記)は、三つの転写因子Esrrb、Oct4およびSox2が、ES細胞の維持に重要であるかまたはそれ自体が再プログラミング因子をコードする共通の遺伝子を標的とすることの証拠を提供する。
【0098】
本明細書における先に公開された文献の記載または議論は、この文献が最先端技術の一部であるか、または一般常識であるということを承認するものとして解釈すべきではない。
【0099】
本明細書で例示的に記載した本発明は、本明細書で具体的に開示されていない任意の(一つもしくは複数の)要素、(一つもしくは複数の)制限の非存在下で好適に実施することができる。したがって、たとえば、「含む」、「包含する」、「含有する」などの用語は、広く制限なく解釈されるべきである。したがって、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変化形は、記載された整数もしくは整数の群を含むが、他の整数もしくは整数の群を排除しないことを意味すると理解される。さらに、本明細書で用いられる用語および表現は、説明に関して用いられ、制限するものではなく、このような用語および表現の使用は図示され記載された特徴の同等物またはその部分を排除することを意図せず、様々な変更が請求される本発明の範囲内で可能であることが認識される。このように、本発明を具体例によって具体的に開示したが、本明細書で開示された中で具体化された本発明の任意の特徴、変更および変形は、当業者が再分類することができ、このような変更および変形は、本発明の範囲内に含まれると見なされる。
【0100】
本発明を本明細書では広く一般的に記載した。一般的開示内にある、より狭い種および亜属分類のそれぞれも、本発明の一部を形成する。除去された物質が本明細書で具体的に限定されているかどうかに関係なく、属から任意の対象物を除去するという条件付き、または消極的限定付きで、これは本発明の一般的記載を包含する。
【0101】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュグループに関して記載される場合、本はつめがマーカッシュグループの任意の個々の要素、又は要素のサブグループに関しても記載されるということを当業者は認識するであろう。
【0102】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持する方法であって、前記細胞におけるエストロゲン関連受容体(Err)タンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることを含む、方法。
【請求項2】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Oct4およびSox2のうちの一つの量または活性を増大させることをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも部分的に分化した細胞が、最終分化した体細胞、前駆細胞(precursor cell)、系統限定(lineage−restricted)幹細胞、体性幹細胞および前駆細胞(progenitor cell)のうちの一つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記未分化細胞が、幹細胞、生殖細胞、卵母細胞、割球、および内細胞塊細胞のうちの一つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞における前記Errタンパク質の量を増加させることが、前記Errタンパク質の発現を増大させることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Errタンパク質の前記発現を、核酸分子によって増大させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸分子が異種核酸分子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸分子がRNA又はDNAである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸分子が、Errタンパク質またはその機能的フラグメントをコードする配列を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、前記Errタンパク質の核酸標的配列との相互作用を調節することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸標的配列がエストロゲン応答エレメントまたは回帰性甲状腺ホルモン応答エレメントを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、(i)前記Errタンパク質とタンパク質、(ii)前記Errタンパク質と化合物、および(iii)前記Errタンパク質とタンパク質と化合物のうちの一つとの間で複合体を形成することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、ペプチド、ペプトイド、無機分子および低分子量有機分子からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Errタンパク質がEsrrbタンパク質であり、前記低分子量有機分子が、4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジド、フラボンフィトエストロゲンおよびイソフラボンフィトエストロゲンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、GRIP1、SRC−1a、ACTRおよびPPARガンマコアクチベータのうちの一つである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
前記PPARガンマコアクチベータが、PGC−1αおよびPGC−1βのうちの一つである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、前記Errタンパク質の翻訳後修飾の変更を起こさせることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記翻訳後修飾が、リン酸化、SUMO化およびこれらの組み合わせのうちの一つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(i)前記Errタンパク質、又はその機能的フラグメントの前記細胞における前記量または活性、および
(ii)前記細胞中の分化状態のマーカーの存在
のうちの一つを評価することをさらに含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞の前記分化状態の前記マーカーが、
(i)Nanog、Oct4、Sox2、Sall4、Tc11、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gm1739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つの発現、または
(ii)Nanog、Oct4、Sox2、Sall4、Tc11、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gm1739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh,Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つのプロモータのメチル化状態
である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記Errタンパク質の前記量及び活性の少なくともいずれか一方を評価することが、前記量および活性の少なくともいずれか一方をある期間にわたって評価することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記Errタンパク質の前記細胞における量の評価を、前記細胞における前記Errタンパク質の遺伝子発現を測定することによって行う、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
Err遺伝子発現の測定結果を対照測定の結果と比較することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記対照測定が、Err遺伝子発現を少なくとも本質的に調節しない条件の使用を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞における分化状態のマーカーの存在の評価が、前記マーカーの発現および活性の少なくともいずれか一方をある期間にわたって測定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、宿主生命体から得られるか、または宿主生命体中に含まれる、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主生命体が、微生物、魚、両生類、鳥および哺乳動物のうちの一つである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、軟骨細胞、肝細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血細胞、マクロファージ、単球、および単核細胞からなる群から選択される哺乳動物体細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が培養される、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
Errタンパク質の発現および活性の少なくともいずれか一方を調節する化合物を投与することを含む、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法によって得られる脱分化した細胞。
【請求項33】
請求項32に記載の脱分化した細胞の集団。
【請求項34】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持することができる候補化合物を同定する方法であって、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを発現できる細胞中に前記化合物を導入する工程と、前記Errタンパク質の発現を測定する工程とを含み、前記Errタンパク質の増大した発現が、前記化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持できることを示す方法。
【請求項35】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質又はEsrrgタンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持できる化合物を同定するインビトロ法であって、前記化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方を接触させる工程を含み、前記Errタンパク質とNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方との間の複合体形成の促進が、前記化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくとも一つを維持できることを示す方法。
【請求項37】
(a)Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方の複合体形成を調節可能であると予測される化合物を試験管に添加する工程と、
(b)前記Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを前記試験管に添加する工程と、
(c)NanogおよびOct4の少なくともいずれか一方を前記試験管に添加する工程と、
(d)前記複合体形成を検出する工程と
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記検出する工程を、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法によって行う、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項36〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持する薬剤の製造における、Errタンパク質の細胞での絶対量を増大させる核酸分子および化合物の少なくともいずれか一方の使用。
【請求項41】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項40に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持する方法であって、前記細胞におけるエストロゲン関連受容体(Err)タンパク質、またはその機能的フラグメントの量または活性を増大させることを含む、方法。
【請求項2】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Oct4およびSox2のうちの一つの量または活性を増大させることをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも部分的に分化した細胞が、最終分化した体細胞、前駆細胞(precursor cell)、系統限定(lineage−restricted)幹細胞、体性幹細胞および前駆細胞(progenitor cell)のうちの一つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記未分化細胞が、幹細胞、生殖細胞、卵母細胞、割球、および内細胞塊細胞のうちの一つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞における前記Errタンパク質の量を増加させることが、前記Errタンパク質の発現を増大させることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Errタンパク質の前記発現を、核酸分子によって増大させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸分子が異種核酸分子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸分子がRNA又はDNAである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸分子が、Errタンパク質またはその機能的フラグメントをコードする配列を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、前記Errタンパク質の核酸標的配列との相互作用を調節することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸標的配列がエストロゲン応答エレメントまたは回帰性甲状腺ホルモン応答エレメントを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、(i)前記Errタンパク質とタンパク質、(ii)前記Errタンパク質と化合物、および(iii)前記Errタンパク質とタンパク質と化合物のうちの一つとの間で複合体を形成することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、ペプチド、ペプトイド、無機分子および低分子量有機分子からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Errタンパク質がEsrrbタンパク質であり、前記低分子量有機分子が、4−ヒドロキシ安息香酸アリールヒドラジド、フラボンフィトエストロゲンおよびイソフラボンフィトエストロゲンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、GRIP1、SRC−1a、ACTRおよびPPARガンマコアクチベータのうちの一つである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
前記PPARガンマコアクチベータが、PGC−1αおよびPGC−1βのうちの一つである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞における前記Errタンパク質の活性を増大させることが、前記Errタンパク質の翻訳後修飾の変更を起こさせることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記翻訳後修飾が、リン酸化、SUMO化およびこれらの組み合わせのうちの一つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(i)前記Errタンパク質、又はその機能的フラグメントの前記細胞における前記量または活性、および
(ii)前記細胞中の分化状態のマーカーの存在
のうちの一つを評価することをさらに含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞の前記分化状態の前記マーカーが、
(i)Nanog、Oct4、Sox2、Sall4、Tc11、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gm1739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh、Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つの発現、または
(ii)Nanog、Oct4、Sox2、Sall4、Tc11、Tbx3、Eras、Klf2、Klf4、Klf5、Baf250a、BC031441、Eno3、Etv5、Gm1739、Gtf2h3、Hes6、Jub、Mtf2、Myod1、Nmyc1、Notch4、Nr5a2、Nrg2、Otx2、Rab2b、Rbpsuh,Rest、Stat3、Utf1、Tcfap2cおよびZfp553のうちの一つのプロモータのメチル化状態
である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記Errタンパク質の前記量及び活性の少なくともいずれか一方を評価することが、前記量および活性の少なくともいずれか一方をある期間にわたって評価することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記Errタンパク質の前記細胞における量の評価を、前記細胞における前記Errタンパク質の遺伝子発現を測定することによって行う、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
Err遺伝子発現の測定結果を対照測定の結果と比較することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記対照測定が、Err遺伝子発現を少なくとも本質的に調節しない条件の使用を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞における分化状態のマーカーの存在の評価が、前記マーカーの発現および活性の少なくともいずれか一方をある期間にわたって測定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、宿主生命体から得られるか、または宿主生命体中に含まれる、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主生命体が、微生物、魚、両生類、鳥および哺乳動物のうちの一つである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、軟骨細胞、肝細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血細胞、マクロファージ、単球、および単核細胞からなる群から選択される哺乳動物体細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が培養される、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
Errタンパク質の発現および活性の少なくともいずれか一方を調節する化合物を投与することを含む、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法によって得られる脱分化した細胞。
【請求項33】
請求項32に記載の脱分化した細胞の集団。
【請求項34】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持することができる候補化合物を同定する方法であって、Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを発現できる細胞中に前記化合物を導入する工程と、前記Errタンパク質の発現を測定する工程とを含み、前記Errタンパク質の増大した発現が、前記化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持できることを示す方法。
【請求項35】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質又はEsrrgタンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持できる化合物を同定するインビトロ法であって、前記化合物、Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方を接触させる工程を含み、前記Errタンパク質とNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方との間の複合体形成の促進が、前記化合物が少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うことができるか、または未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくとも一つを維持できることを示す方法。
【請求項37】
(a)Errタンパク質、またはその機能的フラグメント、ならびにNanogおよびOct4の少なくともいずれか一方の複合体形成を調節可能であると予測される化合物を試験管に添加する工程と、
(b)前記Errタンパク質、またはその機能的フラグメントを前記試験管に添加する工程と、
(c)NanogおよびOct4の少なくともいずれか一方を前記試験管に添加する工程と、
(d)前記複合体形成を検出する工程と
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記検出する工程を、好適な分光法、光化学的方法、測光法、蛍光測定法、放射線法、酵素法または熱力学的方法によって行う、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項36〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも部分的に分化した細胞の脱分化を行うか、未分化細胞の多分化能および自己複製特性の少なくともいずれか一方を維持する薬剤の製造における、Errタンパク質の細胞での絶対量を増大させる核酸分子および化合物の少なくともいずれか一方の使用。
【請求項41】
前記Errタンパク質が、Esrrbタンパク質、Esrrdタンパク質およびEsrrgタンパク質のうちの一つである、請求項40に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図2i】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5】
【図5J】
【図5K】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図6h】
【図6i】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図8i】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図9e】
【図9f】
【図9g】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図10e】
【図10f】
【図10g】
【図10h】
【図2】
【図2i】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5】
【図5J】
【図5K】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図6h】
【図6i】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図8i】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図9e】
【図9f】
【図9g】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図10e】
【図10f】
【図10g】
【図10h】
【公表番号】特表2011−522520(P2011−522520A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508447(P2011−508447)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000407
【国際公開番号】WO2009/136867
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000407
【国際公開番号】WO2009/136867
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
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