説明

細胞の評価方法、細胞測定用システム、及び細胞測定用プログラム

【課題】細胞の細胞周期におけるステージ判定を、迅速かつ高い信頼度で行うことができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の細胞の評価方法は(a)細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得する工程、(b)前記画像に基づいて、染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出する工程、及び、(c) 第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する工程、を有し、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の評価方法、細胞測定用システム、及び細胞測定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞活性の評価は、細胞の生物、生化学的現象や性質の解明に有用であるばかりでなく、化学物質の生理活性や毒性を調べる手段としても有効であり活性評価の手法の検討がなされている。
【0003】
一般的な細胞活性の評価方法として、トリパンブルーやニュートラルレッドなどの色素の細胞内への取り込み量を吸光光度計で計測し計測結果に基づいて細胞活性を評価する方法、細胞外へ漏出した脱水素酵素などの酵素の量を活性から定量し定量結果に基づいて細胞活性を評価する方法、細胞懸濁液に電極を挿入し、電極に一定電位を印加して細胞の電気的活動に由来する電流値を測定し測定結果に基づいて細胞活性を評価する方法等がある。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、細胞活性を間接的に測定し、かかる測定結果に基づいて細胞活性を評価する方法であるため、細胞活性の変化が微少である場合には検出が困難であった。さらに、細胞周期のどのステージにおいて最も影響を受けているか等、細胞活性と細胞の生物学的情報との関係を知ることは困難であった。
【0005】
このような問題点を解決する方法として、細胞または細胞内小器官の形態変化を観察する方法がある。細胞の形態は細胞分裂期に変化するが、この際には、細胞内小器官である染色体の凝縮状態は特に大きく変化し、染色体の分離・分配が起こる。染色体の分離・分配は細胞分裂には必須であり、細胞活性の変化は分裂期での染色体分離に影響を及ぼすことが知られている。従って、染色体の形態変化の様子の観察結果から細胞活性を評価することが可能となる。染色体の形態変化を観察する方法として、蛍光色素を用いて染色体を可視化し、染色体の形態変化を追跡する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−136536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、細胞分裂期にある細胞数をカウントし、総数に対する百分率比を対照群と比較することにより薬効を判定する方法である。この際、染色体の蛍光画像を用いて細胞が分裂期にあるか否かを判定しているが、目視によるものであるため、信頼性を欠く上、迅速に判定することが困難である。尚、特許文献1の実施例1においては、分裂細胞の分裂段階をも判定しているが、目視によるさらなる詳細な段階の判定は、困難である上、信頼性を欠くものであると言わざるを得ない。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法においては、蛍光色素として4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを用いて染色体の構成要素であるDNAを染色することで染色体を可視化しているが、この蛍光色素を一般に用いられる濃度で使用すると細胞が死滅する。細胞が死滅すると、蛍光色素使用時の死んだ状態の細胞中の染色体の形態の観察は可能であるが、生細胞における染色体の形態変化を継続して観察することはできない。また、蛍光色素を用いて染色した染色体の蛍光強度は、細胞分裂ごとに半減し検出限界以下の蛍光強度に到達することから、長時間継続して観察することはできない。さらに、特許文献1の方法においては、細胞の分裂期の形態変化を追跡することにより抗癌剤の薬効を検出できるとの記載があるが、これは細胞分裂期にある細胞数をカウントし、細胞全体に対する百分率比を対照群と比較することにより薬効を判定するもので、一般に分裂期の細胞の比率が細胞全体の4%以下であることを考えると分裂期全体が影響を受ける様な大きな効果の時のみ検出可能な手法で、毒物試験や環境ホルモン試験といった微少な影響を及ぼす場合には検出が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するため、細胞の細胞周期におけるステージ判定を、迅速かつ高い信頼度で行うことができる方法を提供することを目的とする。さらには、細胞を死滅させることなく生きた状態でステージ判定を行うことができる方法を提供することを目的とする。また、前記細胞のステージの判定を自動で判定する細胞測定用システム、及び細胞のステージの判定をコンピュータに実行させる細胞測定用プログラムを提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは、さらに鋭意研究を進め、より高い信頼度で細胞周期におけるステージ判定を行うことができる方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の細胞の評価方法は、(a)細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得する工程、(b)前記画像に基づいて、染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出する工程、(c) 第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する工程、を有し、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む。
【0011】
なお、好ましくは、工程(c)において、前記細胞は少なくとも8つのステージに分類される。
【0012】
前記形状パラメータは、例えば、相当直径、フェレ直径、凸面直径、周囲長、離心率、相当直径とフェレ直径の比、相当直径と長軸の比、相当直径と短軸の比、及びこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される。
【0013】
前記テクスチャパラメータは、例えば、コントラスト、相関関係、エネルギー、同質性、及びこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される。
【0014】
一実施形態において、工程(c)は、第1パラメータの中からステージ判定に適した第2パラメータを抽出し、第2パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する。
【0015】
一実施形態において、第2パラメータの抽出に交差検証法及びケースワイズテスト法を用いる。
【0016】
上記細胞の評価方法において、好ましくは、前記工程(a)の前に、(d)前記細胞内で染色体タンパク質と蛍光を発するタンパク質との融合体を発現させる工程、を有し、前記工程(a)における前記画像は前記細胞が発する蛍光に由来する蛍光画像とする。
【0017】
また、本発明は、細胞内の染色体の状態を反映する光を検出する光検出装置と、前記光検出装置で検出した光に由来する画像を取得する撮像装置と、前記撮像装置で取得した画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する画像解析装置とを備える細胞測定用システムであって、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、細胞測定用システムである。
【0018】
また、本発明は、細胞内の染色体の状態を反映する光を検出し、前記光を画像として取得し、前記画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する手順をコンピュータに実行させる細胞測定用プログラムであって、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、細胞測定用プログラムである。
【0019】
また、本発明は、細胞内の染色体の状態を反映する光を検出し、前記光を画像として取得し、前記画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する手順をコンピュータに実行させる細胞測定用プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体であって、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、記録媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、細胞のステージを、簡便な方法で精度良く判別することができる。また、GFP融合タンパク質を発現させた細胞のモニタリングシステムにより、色素による染色を行なうことなく、生きた細胞のステージ判定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
本発明の細胞の評価方法は、細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得し、前記画像に基づいて、染色体の状態に対応するパラメータを算出し、前記算出の結果に基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する細胞の評価方法である。かかる評価に基づき、細胞の活性の評価を行うことができる。
【0023】
本発明の細胞の評価方法は、(a)細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得する工程、(b)前記画像に基づいて、染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出する工程、(c) 第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する工程、を有し、第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む。上記により細胞のステージが判定され、この結果を例えば細胞の活性度の評価に用いることができる。
【0024】
細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得する方法としては公知の種々の方法を採用し得るが、好ましい方法の一つとして、前記細胞内で染色体タンパク質と蛍光を発するタンパク質との融合体を発現させ、前記細胞が発する蛍光を蛍光画像として取得する方法が挙げられる。この方法によると、細胞外部から細胞に毒性を及ぼす可能性のある化合物を導入する必要がなく、容易に生細胞を評価対象とすることが可能である。以下、本方法を採用する場合について説明する。
【0025】
評価対象の細胞としては、蛍光タンパク質を導入しても死滅せず、細胞分裂活性を持ち、前記融合体が正常に染色体上に局在する細胞とする。本発明に係る方法は、例えば、ヒト子宮頸癌細胞であるHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣線維芽細胞であるCHO細胞、タバコ懸濁培養細胞であるBY-2細胞、ヒト喉頭癌由来細胞であるHep細胞などの評価に用いられる。
【0026】
前記染色体タンパク質としては、細胞分裂期に染色体への局在を示すものであり、蛍光タンパク質の付加により前記局在が変化しない染色体タンパク質とする。例えば、ヒストン、コンデンシン、トポイソメラーゼが好ましく用いられる。
【0027】
前記蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(dsRed)、及びこれらの改変体等が挙げられる。
【0028】
染色体タンパク質と蛍光タンパク質との融合体を発現する細胞の構築方法としては、公知の方法が挙げられる。
【0029】
染色体は、DNAと染色体タンパク質から構築されているため、DNAの蛍光画像より染色体の凝縮度,形態変化,又はテクスチャ変化に関する情報を得ることができる。一方、染色体タンパク質を直接観察することは難しいが、本実施形態のように染色体タンパク質と融合させた蛍光タンパク質の蛍光画像よりDNAの蛍光画像と同じく染色体の凝縮度,形態変化,又はテクスチャ変化に関する情報を得ることができる。
【0030】
尚、染色体の凝縮度,形態変化,又はテクスチャ変化の情報は、細胞の細胞周期におけるステージを判定するのに有用である。本発明者は、染色体の凝縮度,形態変化,テクスチャ変化等の染色体の状態に関連する情報を染色体に由来する蛍光画像より直接又は間接的に得ることにより、細胞の細胞周期におけるステージ判定を簡便、迅速、かつ正確に行うことができると考え、染色体の状態に対応する種々のパラメータを探索し、細胞の細胞分裂におけるステージ判定に有用なパラメータを検討した。検討の結果、表1及び表2に示すパラメータが、細胞のステージ判定において有用なパラメータとして利用し得ることを見いだした。また、これらを適宜選択し組み合わせてステージ判定用のパラメータとして用いることにより、より精度の高いステージ判定が可能となることを見いだした。表1、表2に、本実施形態において有用なパラメータを示し、併せて各パラメータについて説明を付す。表1は細胞の染色体の形態に由来する形態パラメータを示し、表2は細胞の染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータを示す。尚、表1及び表2に示すパラメータは、表1及び表2に示す説明から明らかなように、染色体に由来する蛍光画像より直接測定されるものと、測定値より算出されるものとがある。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

下記の実施例においては、表1及び表2に記載の複数のパラメータ(第1パラメータ)から、ステージ判定に適したパラメータ(第2パラメータ)を選択し、第2パラメータを用いて細胞の細胞周期におけるステージを判定している。しかしながら、実施例の判定方法に限定されることはない。本実施形態において、染色体に関する各パラメータを算出する際には、染色体群の輪郭を外周とする図形を染色体に対応する図形とみなしている。例えば、染色体群の輪郭を外周とする図形の面積を染色体の面積としている。
【0033】
次に、細胞の細胞周期におけるステージの判定結果に基づいて、細胞の活性度を評価する方法の具体例について説明する。例えば、同一試料内に含まれる複数の細胞を対象として各細胞について細胞周期におけるステージを判定し、全体の細胞数に対する各ステージにある細胞の数の割合を求め、その割合から細胞の活性度を評価する方法、特定の細胞(単数であっても複数であってもよい)について時間変化に対するステージの移行の様子を検出し、その検出結果から細胞の活性度を評価する方法が挙げられる。複数の方法を組み合わせても良い。これらのいずれの方法も、対照のデータとの比較により細胞の活性度を評価する。一例として、細胞の試薬応答性を検出するために本発明に係る細胞の活性評価方法を適用する場合について説明する。カウントモードによる場合は、試薬に接触させた細胞に関し全体の細胞数に対する各ステージにある細胞の数の割合を求め、かかる割合に基づく細胞分布グラフを作成し、試薬への接触を行わない細胞に関する細胞分布グラフと比較する。細胞分布グラフに有意な差が生じている場合には、試薬により細胞が何らかの影響を受けていることがわかる。例えば間期にある細胞の割合が増大し、分裂期にある細胞の割合が減少した場合には、細胞の細胞分裂活性が低下していることがわかる。
【実施例】
【0034】
[自動細胞測定用システム]
以下、本実施例に係る細胞測定用システムについて説明する。
【0035】
図1は、本実例における細胞測定用システム1の電気的構成を示すブロック図である。本実施例における細胞測定用システム1は、蛍光を検出する蛍光検出装置2と、蛍光検出装置2で検出された蛍光に由来する蛍光画像を撮像する撮像装置3と、撮像装置3にて撮像された蛍光画像を解析する画像解析装置4と、画像解析装置4での解析結果が出力される出力装置5と、各種操作を行うための入力装置6とからなる。画像解析装置4は、制御部41と記憶部42とを備え、後述の処理を実行する細胞ステージ判定プログラムが記憶部42に格納され、制御部41にて当該プログラムに従って画像解析等を行うとともに各装置を制御する。
【0036】
図2は、図1に示す細胞測定用システムの外観構成の一例を模式的に示す図である。図2の細胞測定用システム1aは、蛍光を検出する蛍光顕微鏡2aと、蛍光顕微鏡2aで検出される蛍光を蛍光画像として撮像するビデオカメラ3aと、ビデオカメラ3aにて撮像された蛍光画像を解析するパーソナルコンピュータ(以下、PCと称する)4aと、PC4aでの解析結果が出力されるモニター5aと、各種操作を行うためのキーボード6a及びマウス6bとからなる。細胞周期のステージ判定の際には、蛍光顕微鏡2aの載置台に試料が載置される。
【0037】
細胞測定用システム1における蛍光検出装置2としては、試料から発せられる蛍光の強度を検出できる装置であれば良く、蛍光顕微鏡2aが好ましく用いられ、その他蛍光スキャナを用いることもできる。撮像装置3には、例えば、蛍光検出装置2からの画像信号を2次元白黒画像として撮像するビデオカメラ3aを用いることができる。画像解析装置4は、一定間隔ごとの撮像画面を実時間で処理できる画像処理回路、並びにCPU、ROM、RAMおよびI/Oポートからなるマイクロコンピュータで構成できる。画像解析装置4は、例えばPC4aで構成することも可能である。画像解析装置4の記憶部42はROMやRAMで構成され解析用プログラムが記憶されているが、フロッピー(登録商標)ディスクやCD−ROM等のプログラム記録媒体8に記憶された解析用プログラムを、プログラム記録媒体8を機械的に読取・書込する装置(フロッピー(登録商標)ディスクドライブやCD−ROMドライブ等)である補助記憶装置7を介して記憶部42に読み込むようにしても良い。出力装置5には、例えばCRTや液晶ディスプレイに表示するようなモニター5aや、レーザプリンタのように紙に印刷する印刷装置を用いることができる。入力装置6には、キーボード6aやマウス6b等を用いることができる。
【0038】
図3は、細胞測定用システム1における細胞ステージの判定方法を模式的に示す。尚、図3は、測定対象がGFP-ヒストンH1融合体を発現しているHeLa細胞である場合のステージ判定方法を示す。
【0039】
図3に示すように、St1で後述の分類式1に基づいて、間期又は前期(St11へ進む)、前中期(St12へ進む)、中期(St13へ進む)、後期初期(St14へ進む)、後期、終期、又は細胞質分裂(St15へ進む)のいずれかに分類した。そして、St1で間期又は前期(St11)に分類された場合、St2で後述の分類式2に基づいて、間期(St21へ進む)又は前期(St22へ進む)に分類した。
【0040】
また、St1で後期、終期、又は細胞質分裂(St15)に分類された場合、St3で後述の分類式3に基づいて、後期(St31へ進む)、終期又は細胞質分裂(St32へ進む)のいずれかに分類した。そして、St3で終期又は細胞質分裂(St32)に分類された場合、St4で後述の分類式4に基づいて、終期(St41へ進む)又は細胞質分裂(St42へ進む)に分類した。
【0041】
以下、St1、2、3、4について詳細に説明する。St1では、まず以下の分類式1にあるA1〜A8の値を算出する。なお、分類式1において、F1 = EQD, F2 = FERET, F3 = CNVXP, F4 = PERI, F5 = EF, F6 = EMIN, F7 = EMAJ, F8 = ECC(以上、表1参照)であるので、図3に示すステージ判定を行う前に、判定対象の細胞の染色体の蛍光画像から測定し、または測定値に基づいて算出することにより、判定対象の細胞について少なくとも上述のF1〜F8の値を取得しておくこととする。
【0042】
<分類式1>
A1= -28428.85 + (-13845.47 × F1) + (28716.32 × F2) + (-5824.69 × F3) + (-45.39 × F4) + (2288.00 × F5) + (-8767.44 × F6) + (37265.21 × F7) + (37265.2139 × F8)
A2= -28538.05 + (-13925.65 × F1) + (28967.88 × F2) + (-5903.75 × F3) + (-42.07 × F4) + (2493.50 × F5) + (-8765.71 × F6) + (37303.28 × F7) + (37303.28 × F8)
A3= -28671.26 + (-14183.36 × F1) + (29342.93 × F2) + (-5983.67 × F3) + (-37.24 × F4) + (2608.75 × F5) + (-8811.76 × F6) + (37437.49 × F7) + (28348.50× F8)
A4= -28805.44 + (-14322.16 × F1) + (29105.35 × F2) + (-5882.41 × F3) + (-44.42 × F4) + (2459.21 × F5) + (-8806.57 × F6) + (37491.30 × F7) + (28348.50 × F8)
A5= -28790.16 + (-14259.29 × F1) + (29162.39 × F2) + (-5921.80 × F3) + (-40.63 × F4) + (2459.23 × F5) + (-8835.14 × F6) + (37535.50 × F7) + (28348.50 × F8)
A6=-28425.17 + (-13810.32 × F1) + (28793.80 × F2) + (-5948.20 × F3) + (-39.58 × F4) + (2089.96 × F5) + (-8870.64 × F6) + (37590.35 × F7) + (28348.50 × F8)
A7= -28457.78 + (-13781.20 × F1) + (28881.93 × F2) + (-5985.18 × F3) + (-42.65 × F4) + (2110.70 × F5) + (-8896.93 × F6) + (37660.41 × F7) + (28348.50 × F8)
A8= -28585.98 + (-13854.83 × F1) + (28959.20 × F2) + (-5988.96 × F3) + (-42.96 × F4) + (2145.82 × F5) + (-8911.94 × F6) + (37724.62 × F7) + (28348.50 × F8)
算出したA1〜A8の値を比較し、最も大きい値をとるものを特定する。そして、最も大きい値となるのがA1の場合は間期と仮に判定しSt11へ進み、A2の場合は前期と仮に判定しSt11へ進み、A3の場合は前中期と判定しSt12へ進み、A4の場合は中期と判定しSt13へ進み、A5の場合は後期初期と判定しSt14へ進み、A6の場合は後期と仮に判定しSt15へ進み、A7の場合は終期と仮に判定しSt15へ進み、A8の場合は細胞質分裂と仮に判定しSt15へ進む。
【0043】
St2では、以下の分類式2にあるB1及びB2の値を算出する。なお、分類式2において、F1 = Homogeneity (M.O.を使用), F2 = Homogeneity (H.O.を使用), F3 = Contrast (M.O.), F4 = Energy (H.O.), F5 = Standard Deviation, F6 = Mean, F7 = Entropy, F8 = Moment Invariant 1, F9 = Moment Invariant 2, F10 = Third Moment(以上、表2参照),図3に示すステージ判定を行う前に、判定対象の細胞の染色体の蛍光画像から測定し、または測定値に基づいて算出することにより、判定対象の細胞の上述のF1〜F10の値を取得しておくこととする。
【0044】
<分類式2>
B1= -2057.12 + (-654.94 × F1) + (2867.68 × F2) + (45.94 × F3) + (-265.08 × F4) + (-9.34 × F5) + (2.12 × F6) + (312.42 × F7) + (15142128.79 × F8) + (-11713.44 × F9) + (16226.64 × F10)
B2= -2029.57 + (-726.22 × F1) + (2850.07 × F2) + (49.87 × F3) + (-253.62 × F4) + (-9.64 × F5) + (1.99 × F6) + (322.05 × F7) + (15142128.79 × F8) + (-12740.52 × F9) + (16643.09 × F10)
算出したB1及びB2の値を比較し、大きい値となる方を特定する。そして、B1の方が大きい場合は間期と判定しSt21へ進み、B2の方が大きい場合は前期と判定しSt22へ進む。
【0045】
St3では、以下の分類式3にあるC1〜C3の値を算出する。なお、分類式3において、F1 = DIST, F2 = SEQD, F3 = SEBA, F4 = SAREA(以上、表1参照)であるので、図3に示すステージ判定を行う前に、判定対象の細胞の染色体の蛍光画像から測定し、または測定値に基づいて算出することにより、判定対象の細胞の上述のF1〜F4の値を取得しておくこととする。
【0046】
<分類式3>
C1= -2970.07 + (280.87 × F1) + (19647.30 × F2) + (35888.93 × F3) + (-40422.01 × F4)
C2= -3027.68 + (339.59 × F1) + (19768.18 × F2) + (34747.43 × F3) + (40412.21 × F4)
C3= -3037.92 + (347.06 × F1) + (19759.12 × F2) + (34874.34 × F3) + (-40374.98 ×F4)
算出したC1〜C3の値を比較し、最も大きい値をとるものを特定する。そして、最も大きい値となるのがC1の場合は後期と判定しSt31へ進み、C2の場合は終期と仮に判定しSt32へ進み、C3の場合は細胞質分裂と仮に判定しSt32へ進む。
【0047】
St4では、以下の分類式4にあるD1及びD2の値を算出する。なお、分類式4において、F1 = SPERI, F2 = SEBC, F3 = SFERET, F4 = DISTH(以上、表1参照)であるので、図3に示すステージ判定を行う前に、判定対象の細胞の染色体の蛍光画像から測定し、または測定値に基づいて算出することにより、判定対象の細胞の上述のF1〜F4の値を取得しておくこととする。
【0048】
<分類式4>
D1= -1471.50 + (2573.12 × F1) + (-9615.00 × F2) + (-268.94 × F3) + (-186.09× F4)
D2= -1553.62 + (2624.76 × F1) + (-9784.41 × F2) + (-263.42 × F3) + (-171.80× F4)
算出したD1及びD2の値を比較し、大きい値となる方を特定する。そして、D1の方が大きい場合は終期と判定しSt41へ進み、D2の方が大きい場合は細胞質分裂と判定しSt42へ進む。
(ステージ判定方法決定手順)
以下、細胞のステージ判定方法の決定手順の一例を示す。本実施例では、上述した判定方法の決定手順について説明する。すなわち判定対象がHeLa細胞である場合について説明する。
【0049】
1.GFP融合ヒストンH1を発現したHeLaの細胞準備
1)ヒトヒストンH1.2遺伝子のクローニングとプラスミド構築
ヒトヒストンH1.2遺伝子は、ヒトリンパ球のゲノムDNAからAGATCTATGTCCGAGACTGCTCCT(配列番号1)とGGATCCTTCTACTTTTTCTTGGCTGCCGC(配列番号2)のプライマーを用いてPCRにより増幅した。pEGFP-C1/ヒストンH1.2は2段階のステップで作成した。最初に、pUC18ベクターと、増幅したヒストンH1.2のコーディング領域をHincIIで処理した後にライゲーション反応によりつなげ、そして次にpEGFP-C1と、pUC18-ヒストンH1.2をBglIIとBamHIで処理し、ライゲーションによりつなげた。ヒトヒストンH1.2は、ヌクレオソームに隣接し、DNAと結合するリンカーヒストンである。
【0050】
2)細胞培養と遺伝子導入
HeLa細胞は100U/mlペニシリン/0.1μg/mlストレプトマイシン/5%FBS含有DMEM培地を用いて培養した。HeLa細胞は付着細胞であるので、継代には0.02%EDTA含有PBS、0.05%トリプシン/0.53mM EDTA・4Na溶液を用いた。継代は週に2〜3回の頻度で行い、HeLa細胞を維持した。インビトロジェン社のLipofectamine plus試薬を用いて、メーカーのプロトコールに従ってpEGFP-C1/ヒストンH1.2をHeLa細胞に導入した。そして遺伝子導入の36時間後に800μg/mlのgeneticinを加えた。形質転換体は限界希釈法によって単離した。明るい蛍光を放つ薬剤抵抗性のクローンを更なる解析のために選抜した。HeLa-GFP-Histone-H1細胞は、5%の胎児ウシ血清、ペニシリン(100のU/ml)、ストレプトマイシン(0.1μg/ml)と400μg/mlのgeneticinを含むDMEM増殖培地で培養した。
【0051】
3)経時観察
マツナミ社の35mmガラスボトムディッシに、細胞を平均1.7x 105個の密度でまき、48時間培養した。観察の前に、タイムラプス観察用の増殖培地に置き換えた。観察用培地の組成は、フェノールレッドを含まないDMEM培地(GIBCO 11054-020)、20mMのHEPES(SIGMA)、4mMのL-Glutamine、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(0.1g/ml)と10%の胎児ウシ血清である。冷却CCDカメラ(Photometrics社のCoolSnap)を装備したオリンパスの倒立顕微鏡IX71、メタモルフ画像処理ソフトウェア(v.6.2r6)を用いたライブ画像処理システムによりタイムラプス観察を行った。タイムラプス観察の間、インキュベーターで細胞にとって最適な37℃の状態を保った。位相差とGFP蛍光イメージ(16ビット、1024×860ピクセル)を同時にそれぞれのタイムラプス画像として100枚以上得た。細胞分裂のタイムラプス画像を単離し、メタモルフを用いて連続した積み重ね画像(スタック画像)に変換した。
【0052】
4)特徴抽出
各細胞の染色体のさまざまなパラメータを測定するためにスタック画像をImageJで加工した。
【0053】
5)用いたパラメータ
一つの細胞に対応する分割した領域毎に、パラメータとして染色体の形状に由来する表1に記載の全ての形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来する表2に記載の全てのテクスチャパラメータを測定又は算出した。形状パラメータの測定には、ImageJを使用した。
【0054】
テクスチャパラメータの測定又は算出には、3種類の主なテクスチャパラメータ、i)濃度共起行列(GLCM)、ii)統計的記述に基づいた輝度ヒストグラム、iii)二次元モーメント不変量(表2に記載)を使用した。これらテクスチャパラメータは、MATLAB(v.7.0.1 R14SP1)画像処理ツールボックス(v.5.0.1)のいくつかの機能を使用して測定又は算出した。MATLAB スクリプトは複数の画像上での測定を容易にする。
【0055】
i)GLCMは、テクスチャ解析方法のうちの1つとして知られている。回転の不変性を確実とするために、画像を0から360度まで45度の間隔で回転した。MATLAB スクリプトにより各々の回転させた画像から数値を自動抽出して、本実施例で使用するGLCM統計量の各々の最大値の平均を得る。ここでは、2つの補正値(M.O.とH.O.)を使用した(Multiple Offset とHorizontal Offsetは、表2の第3モーメントの説明参照)。GLCMに由来する4つのパラメータは、コントラスト、相関関係、エントロピー、そして同質性である。コントラストは、全画像上の所定のピクセルとその付近間での輝度の違いを判断する指標である。相関関係は、所定のピクセルとその付近の相関する割合を評価する。エントロピーは画像における乱雑性の程度を量的に評価するものであり、単に二乗ピクセルの合計である。最後に、同質性はGLCMから求めた画像の均質性の尺度である。これらのパラメータの数学的な定義は、表2に記載した。ii)輝度ヒストグラムに基づくパラメータは、画像の輝度ヒストグラムの統計記述から作成する。iii)モーメント不変量については、表2に記載した。
【0056】
6)分類式算出
5)にて測定または算出した値(形態パラメータ、テクスチャパラメータ)を用いて多変量線形判別分析(multivariate linear discriminant analysis)による分類方法を開発した。
【0057】
本実施例において多変量線形判別分析は、i)ANOVA(Analysis of Variance:分散分析、連続データのグループやサンプルの差に有意差があるか検証する)とKruskal-Wallisテスト(クラスカルーウォイス法:KW法、正規分布性を気にしないで、一変数または一要因の3つ以上のグループ差を検定する。平均値を使わず中央値を用いる。)で16種類抽出、ii)MANOVA(Multiple Analysis of Variance:多変量分散分析)のクラスタ解析、iii)MATLAB(Matrix Laboratory)スクリプト(複数のコマンドを集めてプログラムを作成する方法)でパラメータの組合せを分析する流れで行った。
【0058】
細胞周期を間期、前期(b)、前中期(c)、中期(d)、後期初期(e)、後期(f)、終期(g)、細胞質分裂(h)の8ステージに分類することを考案した。図4に、3)にて取得したスタック画像から抽出した前記8ステージの各ステージにある細胞の画像を示す。図4において、INTは間期、PROは前期、PMETは前中期、METは中期、EANAは後期初期、ANAは後期、TELOは終期、CYTは細胞質分裂を示す。図4において、(a)はGFP蛍光画像、(b)は(a)の画像にしきい値を設定して作成した境界線を挿入したもの、(c)は2値化処理後の画像を示す。(c)においては、複数のパラメータについて、各ステージの細胞画像に対応させて図示する。
【0059】
そして、5)にて測定または算出したパラメータから16種類をANOVAとKruskal-Wallisテストを用いて選択した。ここで選択したパラメータを表1に第1パラメータであるとして明記する。MANOVAは16次元のデーターセットを2次元のグラフとして視覚化するために用いた。図5は、このとき作成された2次元のグラフを示す。図5において、横軸は第一正準判別関数、縦軸は第二正準判別関数である。
【0060】
第1選択パラメータである16個のパラメータのあり得る組合せとして65535通り考えられる。
【0061】
ケースワイズテストで一貫して高い結果を与え、交差検証法を10回実施して変動が低かった方程式を分類式として選んだ。交差検証法とケースワイズテストに関する計算は、MATLAB スクリプトを使って行った。MATLAB スクリプトは全てのあり得る組合せ(本実施例の場合65535通り)を生み出し、それぞれのパラメータの組合せの分析を実行する。細胞周期の8ステージに対応する8つの式(分類式1)は、上述の16のパラメータのうちの8つ(表1に分類式1使用パラメータとして明記する)、すなわち相当直径、フェレ径、凸面直径、周囲長、離心率、相当直径とフェレ径の比、相当直径と長軸の比、相当直径と短軸の比を使用した。分類式1は、分類式1にて示される8つの式により算出される値を対比し、最も大きい値となる式に対応するステージを判定対象の細胞のステージとするものである。
【0062】
図6Aは、細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類した場合のケースワイズテストによる結果を示す。図6Aの横軸は実際のステージ、縦軸は分類したステージを示す。図6Aより、間期、前期、後期、終期、細胞質分裂の細胞で低い分類効率であったことがわかる。図6Bは、細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類し、交差検証法を10回実施した結果を示す。図6Bの横軸は分類式、縦軸は分類効率を示す。図6Bより、細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類した場合は低い分類効率であったことがわかる。判別関数を数セット用いて同様に検討したところ、4番目のセットでは、前中期の分類効率が最も低くなった。同じようなことは、後期初期でも起こり、判別関数の5番目のセットでは60%という低い分類効率となった。
【0063】
そこで、細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類するのではなく、グループ化して判別し、その後、グループ化したグループ内のステージを個々に判別する方法を考案した。
【0064】
図7Aは、間期と前期を1つのグループ、後期と終期そして細胞質分裂を1つのグループとした場合のケースワイズテストのグラフを示す。図7Aは、図6Aに対応するグラフを示す。図7Aより、このような分類方法により分類効率を高めることができることがわかる。また、図7Bは、間期と前期を1つのグループ、後期と終期そして細胞質分裂を1つのグループとし、交差検証法を10回実施した結果を示す図である。図7Bは、図6Bに対応するグラフを示す。図7Bより、このような分類方法により分類効率の変動が縮小し高い分類効率を維持したことがわかる。したがって、線形判別関数の分類式1を用いて、細胞周期の8群のグループを、間期と前期、前中期、中期、後期初期、後期と終期と細胞質分裂という5つのグループとして分類した(図3のSt1参照)。
【0065】
多変量解析の結果から得られる形状パラメータでは、前期と間期を分けるには十分ではないので、他のパラメータとしてテクスチャパラメータを用いた。図8は、間期(a)と前期(d)の細胞核領域の蛍光画像を示す。図8に示す蛍光画像から、間期と前期に細胞核領域の蛍光画像において、粗さの程度が異なるように見える。これらの見た目の違いを調べるために、間期と前期の画像を擬似カラーで表し(それぞれb、e)、3次元にプロット(それぞれc、f)した。cおよびfの縦軸は各ピクセル当たりの相対的蛍光強度を、横軸は図の平面座標を示す。一元配置分散分析(one-way ANOVA)とKruskal-Wallis testを用いることで、考案したテクスチャパラメータの分布に有意差を見出し、分類式2を開発した。
【0066】
判別関数の最もよい組合せはケースワイズテストの結果を用いて決定した。分類式1で間期と前期、前中期、中期、後期初期、後期と終期と細胞質分裂の5群に分けた。次に分類式2で間期、前期を分けた。次に4個のパラメータ、すなわち重心間の距離、相当直径の和、四角形で囲んだ面積と面積の差の絶対値の和、面積の和を用いて開発した分類式3により、後期、終期と細胞質分裂の2群に分けた。さらに異なる4個のパラメータ、すなわち周囲長さの和、四角で囲んだ面積と円形度の比の和、フェレ径の和、後期あるいは終期または細胞質分裂の細胞の重心間の距離を境界枠の高さの平均に乗じさらに四角形で囲んだ面積を足した和を用いて開発した分類式4により、終期、細胞質分裂を分けた。
7)分類結果
上述のように8ステージに分類した細胞周期の各ステージの判定効率は、間期:89.30%、前期:77.08%、前中期:86.00%、中期:97.00%、終期初期:82.00%、後期:94.72%、終期:87.09%、細胞質分裂:85.18%という高精度であり、平均分類効率は87.30%であった。かかる結果からわかるように、本実施例においては、非常に高精度な判定効率で分類できた。
【0067】
デジタル画像サイトメトリーを用いた細胞の分析法は、非常に充実したスクリーニング方法であり、細胞への医薬品などの影響を測定するために有用な定量的情報を生み出すことが可能である。染色体形態の異常、染色体の粗さの記述、有糸分裂指数は、さまざまな画像分析技術の生物学的応用において、一般的に用いられる基準である。
【0068】
生きている細胞でタンパク質のダイナミクスを追跡するリアルタイム(タイムラプス)観察により、細胞周期進行を通して、さまざまな処理による影響を評価することが可能である。このシステムでDNAに結合させた蛍光色素は、染色体可視化するために一般的に用いられている蛍光色素である。しかし、これらの色素の毒性は、観察期間を制限し、得られる情報量も限られる。GFP融合タンパク質を発現させた細胞を用いたモニタリングシステムは、色素による染色を行なわないので、この制限を克服することが可能である。
【0069】
細胞に処理を施した後、形態観察を行なうためにGFP融合タンパク質を使うことは、哺乳類細胞を化学製品などにさらした際に起こる事象を研究するのに非常に適している。同じ集合体の細胞をより長い期間研究することが可能であり、時間に依存したデータを集めることが容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の細胞の評価方法は、細胞毒性判定、創薬スクリーニング、内分泌撹乱物質等薬物影響検出、未知の細胞分裂特異的物質解析に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】細胞測定用システムの電気的構成を示すブロック図である。HeLa細胞の細胞
【図2】細胞測定用システムの外観構成の一例を模式的に示す図である。
【図3】細胞測定用システムの細胞ステージの判定方法を模式的に示す図である。
【図4】スタック画像から抽出した8ステージの各ステージにある細胞の画像を示す図である。
【図5】MANOVAを用いて16次元のデーターセットを2次元のグラフとして視覚化した図を示す。
【図6A】細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類した場合のケースワイズテストによる結果を示す。
【図6B】細胞周期の8ステージを1つの判別関数で一度に分類した場合の10倍の交差検証法による結果を示す。
【図7A】間期と前期を1つのグループ、後期と終期そして細胞質分裂を1つのグループとした場合のケースワイズテストのグラフを示す
【図7B】間期と前期を1つのグループ、後期と終期そして細胞質分裂を1つのグループとした場合の10倍の交差検証法による結果を示す図である。
【図8】間期(a)と前期(d)の細胞の染色体領域の蛍光画像、(a)および(d)それぞれに対応する相対的蛍光強度表示像(蛍光強度に比例して擬似色の濃さを増した像、bとe)、および相対的表面平滑度プロット像(相対的蛍光強度を3次元的に表現した像、cとf)を示す。
【配列表のフリーテキスト】
【0072】
配列番号1の<223>:ヒトヒストンH1.2クローニング用プライマー
配列番号2の<223>:ヒトヒストンH1.2クローニング用プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)細胞内における染色体の状態を反映する画像を取得する工程、
(b)前記画像に基づいて、染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出する工程、及び、
(c) 第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する工程、を有し、
第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、細胞の評価方法。
【請求項2】
前記工程(c)において、前記細胞は少なくとも8つのステージに分類される、請求項1に記載の細胞の評価方法。
【請求項3】
前記形状パラメータは、相当直径、フェレ直径、凸面直径、周囲長、離心率、相当直径とフェレ直径の比、相当直径と長軸の比、相当直径と短軸の比、及びこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の細胞の評価方法。
【請求項4】
前記テクスチャパラメータは、コントラスト、相関関係、エントロピー、同質性、及びこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される、請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞の評価方法。
【請求項5】
前記工程(c)は、第1パラメータの中からステージ判定に適した第2パラメータを抽出し、第2パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する、請求項1乃至4いずれかに記載の細胞の評価方法。
【請求項6】
前記工程(c)において、第2パラメータの抽出に交差検証法及びケースワイズテスト法を用いる、請求項5に記載の細胞の評価方法。
【請求項7】
前記工程(a)の前に、(d)前記細胞内で染色体タンパク質と蛍光を発するタンパク質との融合体を発現させる工程、を有し、
前記工程(a)において、前記画像は前記細胞が発する蛍光に由来する蛍光画像である、請求項1乃至6いずれかに記載の細胞の評価方法。
【請求項8】
細胞内の染色体の状態を反映する光を検出する光検出装置と、前記光検出装置で検出した光に由来する画像を取得する撮像装置と、前記撮像装置で取得した画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する画像解析装置とを備える細胞測定用システムであって、
第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、細胞測定用システム。
【請求項9】
細胞内の染色体の状態を反映する光を検出し、前記光を画像として取得し、前記画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する手順をコンピュータに実行させる細胞測定用プログラムであって、
第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、細胞測定用プログラム。
【請求項10】
細胞内の染色体の状態を反映する光を検出し、前記光を画像として取得し、前記画像に基づいて染色体の状態に対応する第1パラメータを測定又は算出し、第1パラメータに基づいて前記細胞の細胞周期におけるステージを判定する手順をコンピュータに実行させる細胞測定用プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体であって、
第1パラメータは、染色体の形状に由来する形状パラメータと、染色体のテクスチャに由来するテクスチャパラメータとを含む、記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−164551(P2008−164551A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356907(P2006−356907)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】