説明

細胞シート培養方法及び細胞培養容器

【課題】細胞シートを密閉空間内で培養し、シート形状のまま細胞シートを取り出すことができる細胞シート培養方法及び細胞培養容器を提供する。
【解決手段】細胞シート培養方法は、培地及び付着性細胞を充填可能な閉空間の少なくとも一部を形成する培養フィルム11,12を有する細胞培養容器1に、培地及び付着性細胞を充填して、培養フィルム11,12に、付着性細胞がシート形状に培養された細胞シート18を形成する第1工程と、細胞シート18が付着した部分を含む培養フィルム11,12を細胞培養容器、から分離する第2工程と、培養フィルム11,12から細胞シート18を剥離する第3工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートを培養するための細胞シート培養方法及び細胞培養容器に関し、特に、細胞培養容器の培養フィルムが容器本体から分離可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、哺乳動物の付着性細胞や懸濁細胞を生体外で培養する方法が知られている。このような培養は、例えばガラス製や合成樹脂製のフラスコ又はシャーレに代表される細胞培養容器内で行われる。一般に、このような細胞培養容器は容量の小さいものが多く、大量培養には不向きである。また、培地を交換する際に雑菌が混入しやすいという問題がある。
【0003】
一方、浮遊性細胞を培養する容器として、バッグ形状の細胞培養容器が考案されている(特許文献1)。この細胞培養容器は、合成樹脂シートを貼り合わせて内部に培地を封入可能な密閉空間を形成し、該密閉空間にポートを通じて培地や細胞浮遊液を流出入可能とされている。同様に、付着性細胞を培養する容器として、フレームとガス透過性膜とで培養チェンバーと称される密閉空間を形成した細胞培養装置が考案されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平3−65177号公報
【特許文献2】特表2004−514432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
再生医療の分野において、付着性細胞をシート形状に培養することがある(本明細書において、シート形状に培養された細胞が「細胞シート」と称せられる。)。この細胞シートの培養においては、シャーレのように、培養された細胞シートを取り出すことができる大きさの開口を有する細胞培養容器が使用される。しかし、このような細胞培養容器は、容量が小さいことや雑菌の混入があるという不利益がある。一方、密閉空間を有するバッグ形状などの細胞培養容器では、遠心分離により細胞培養容器の密閉空間内の細胞シートを壁面から剥離させ、細胞と培地との懸濁液として細胞培養容器のポートから培養された細胞が取り出される。したがって、密閉空間内の細胞シートは破壊されることとなる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、細胞シートを密閉空間内で培養し、シート形状のまま細胞シートを取り出すことができる細胞シート培養方法及び細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る細胞シート培養方法は、一定空間を囲み、且つ該一定空間と通ずる開口を有する容器本体と、該開口を封止する培養フィルムとを備えた細胞培養容器に、培地及び付着性細胞を上記細胞培養容器の一定空間に充填して、上記培養フィルムに付着性細胞がシート形状に培養された細胞シートを形成する第1工程と、上記細胞シートが付着した部分を含む上記培養フィルムを上記細胞培養容器から分離する第2工程と、上記培養フィルムから上記細胞シートを剥離する第3工程と、を含む。
【0008】
細胞シート培養方法に使用される細胞培養容器は、容器本体により囲まれる一定空間を有する。細胞培養容器の構成部材である培養フィルムは、この一定空間と通ずる開口を封止している。つまり、培養フィルムは一定空間に面している。第1工程において、細胞培養容器の一定空間に培地及び付着性細胞が充填される。充填された付着性細胞は、培養フィルムの内面側(一定空間側)に付着して培養され、培養フィルムに沿って細胞シートを形成する。第2工程において、細胞シートとともに培養フィルムが細胞培養容器から分離される。これにより、細胞シートがシート形状を維持して細胞培養容器の一定空間から取り出される。第3工程において、培養フィルムから細胞シートが剥離される。これにより、付着性細胞の細胞シートが得られる。
【0009】
(2) 上記培養フィルムは、上記細胞培養容器の容器本体に対して剥離可能に設けられたものであり、上記第2工程において、該培養フィルムを上記容器本体から剥離することにより分離することが考えられる。
【0010】
(3) 上記培養フィルムは、上記細胞培養容器から切り取り可能に設けられたものであり、上記第2工程において、該培養フィルムを上記細胞培養容器から切り取ることにより分離することが考えられる。
【0011】
(4) 本発明に係る細胞培養容器は、培地及び付着性細胞が充填される一定空間を囲み、且つ該一定空間と通ずる開口を有する容器本体と、上記容器本体の開口を封止するとともに細胞培養容器から分離可能に設けられ、その内面側に細胞シートが形成される培養フィルムと、を具備するものである。
【0012】
細胞培養容器は、容器本体により囲まれる一定空間を有する。培養フィルムは、この一定空間と通ずる開口を封止している。つまり、培養フィルムは一定空間に面している。細胞培養容器の一定空間に培地及び付着性細胞が充填されると、充填された付着性細胞は、培養フィルムの内面側(一定空間側)に付着して培養され、これにより、培養フィルムに沿って細胞シートが形成される。培養フィルムは容器本体から分離可能に形成されているので、細胞シートとともに培養フィルムが細胞培養容器から分離されることにより、細胞シートをシート形状を維持して細胞培養容器の一定空間から取り出すことができる。
【0013】
(5)上記容器本体として、枠体が考えられる。これにより、一定空間を囲み、且つ該一定空間と通ずる開口を有する容器本体が簡易な構成で実現される。
【0014】
(6) 上記培養フィルムは、上記容器本体に対して剥離可能に設けられたものが考えられる。
【0015】
(7) 上記培養フィルムは、少なくとも細胞シートが形成される領域を含む一部分が切り取り可能に設けられたものが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞シート培養方法によれば、第1工程において、培養フィルムに沿って形成された細胞シートを、第2工程において、培養フィルムを細胞培養容器から分離することにより、シート形状を維持して細胞培養容器の閉空間から取り出し、第3工程において、細胞シートを培養フィルムから剥離するので、細胞シートの培養を閉空間で行い、シート形状を維持させて閉空間から細胞シートを取り出すことができる。また、本発明に係る細胞培養容器においても、同様の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養容器1の外観構成を示す斜視図である。図2は、細胞培養容器1の分解斜視図である。図3は、細胞培養容器1のIII−III断面図である。図4及び図5は、細胞培養容器1を用いた細胞シート培養方法を説明するための図である。図6は、変形例に係る細胞培養容器2の構成を示す斜視図である。
【0018】
図1及び図2に示されるように、細胞培養容器1は、容器本体10と、容器本体10の両面に張り付けられた2枚の培養フィルム11,12とを有する。なお、図1において、培養フィルム12は細胞培養容器1の下面側にあるので図には表れていない。容器本体10は、一定空間を囲み、該一定空間と通ずる開口を有する枠体であり、平面視において外形が矩形である。容器本体10を枠とする内側の空間が培地等が充填される一定空間であり、容器本体10は、その上面側及び下面側にそれぞれ開口を有する。このような容器本体10は、例えば、ポリプロピレンや、ポリプロピレンとポリエチレンのポリマーアロイなどの合成樹脂から成形することができるが、容器本体10の素材は特に限定されない。容器本体10の形状は、特に限定されるものではなく、後述される培養領域の面積や充填される培地の容量、操作性などを考慮して、形状及び容量が設定される。要するに、容器本体10は、閉空間となる一定空間を形成し、培養フィルム11,12が分離可能に設けられるものであればよい。容器本体10により形成される一定空間の容量としては、例えば、20〜400mLが採用され、操作性を考慮すれば、50〜200mLが好ましい。
【0019】
容器本体10の側面側には2つのポート13,14が形成されている。ポート13,14は、容器本体10の外側から内側の一定空間へ貫通された貫通孔15(図3に点線で示される)と、貫通孔15に連続されたチューブ16,17とからなる。このポート13,14により、細胞培養容器1の外部から容器本体10の一定空間にアクセスすることができる。ポート13,14は、培地及び細胞の充填や、空気抜きに用いられるものであり、ポートの数や位置は適宜変更されてよい。
【0020】
容器本体10の上面及び下面には培養フィルム11,12が貼り付けられている。培養フィルム11,12は、平面視において矩形の合成樹脂からなるシートであり、容器本体10の上面側及び下面側の開口より若干大きいものである。培養フィルム11,12は、各々の四方の周縁領域が容器本体10の上面又は下面に貼り付けられて、容器本体10の上下の各開口を覆うように塞いでいる。容器本体10の各開口が培養フィルム11,12により、前述された一定空間が閉空間となる。培養フィルム11,12の内面側の中央の領域は閉空間に対して露出されており、この露出された領域が細胞シートが培養される領域となる。
【0021】
培養フィルム11,12として、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレン−ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレン−1,2−ジクロロエタン共重合体などのポリオレフィン系樹脂から成形されたフィルムが挙げられる。これらのうち、ガス透過性の観点から、培養フィルム11,12として、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンから成形されたフィルムを用いることが好ましい。なお、培養フィルム11,12の素材や厚みは適宜選択可能であり、例えば、ラミネート構造を採用してもよい。
【0022】
培養フィルム11,12の内面に形成される培養領域は、細胞付着性官能基を有する。細胞付着性官能基とは、細胞との親和性に優れた化学官能基という。細胞付着性官能基として、例えば、アミノ基、アミン基、水酸基、スルホン基、スルフェン基、スルフィン基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基などが挙げられる。これらのうち、細胞との付着性が高いアミノ基及びカルボキシル基が好ましい。
【0023】
細胞シートが培養される領域(培養領域)は、培養フィルム11,12の内面側の中央部分がプラズマ処理されることにより形成される。プラズマ処理により培養フィルム11,12の内面のポリオレフィン系樹脂層が細胞付着性官能基化される。プラズマ処理とは、特定ガス雰囲気下で放電して、特定ガスの電離作用によって生じるプラズマを処理対象物に照射することにより、処理対象物の表面に、エッチング、親水性(濡れ性)の向上、官能基の導入などの効果を付与する処理である。プラズマ処理における放電としては、一般に、コロナ放電(高圧低温プラズマ)、アーク放電(高圧高温プラズマ)、グロー放電(低圧低温プラズマ)、大気圧プラズマが挙げられるが、製造コストが安価であることから大気圧プラズマが好ましい。培養領域は、培地と接触する。つまり、培養領域は、培養フィルム11,12における培地との接触面でもある。なお、培養フィルム11,12の培養領域は、容器本体10とにより形成される閉空間に露出される面のすべてである必要はなく、一部のみに形成されていてもよい。
【0024】
培養フィルム11,12の周縁の領域は、容器本体10の上面又は下面との接着領域である。培養フィルム11,12と容器本体10との接着は、例えば熱溶着により行うことができる。培養フィルム11,12と容器本体10との接着は、容器本体10の一定空間に培地を封入した状態を維持することができ、かつ、人力により培養フィルム11,12を容器本体10から剥離できる強度とする。つまり、細胞シートの培養の際には、培養フィルム11,12が容器本体10の各開口を封止した状態を維持し、細胞シートを取り出す際には培養フィルム11,12が容器本体10から人力により分離できる接着強度とする。このような接着強度は、イージーピール性とも称される。好ましい接着強度は、0.3〜3N/10mm(JIS Z0238)であり、特に好ましくは、0.5〜1.5N/10mmである。なお、培養フィルム11,12と容器本体10との接着は、熱溶着に限定されるものではなく、接着剤などの他の接着手段を用いてもよい。
【0025】
培養フィルム11,12には、凸片25,26がそれぞれ形成されている。凸片25,26は、培養フィルム11,12の矩形の周縁から外側へ舌形状に突出するものである。このような凸片25,26は、例えば、培養フィルム11,12が矩形に裁断される際に、その周縁の一部が舌形状に裁断されることにより形成される。凸片25,26は、容器本体10と接着されない。したがって、培養フィルム11,12が容器本体10に接着された状態において、凸片25,26を容易に摘むことができる。なお、本実施形態では、凸片25,26が培養フィルム11,12の四隅のうちの一隅付近に形成されているが、凸片25,26が設けられる位置や数は変更されてもよい。
【0026】
2枚の培養フィルム11,12は、容器本体10に貼り付けられた状態において、培養領域が互いに接触しない距離を維持することが、培養される細胞シートの剥離や細胞の死滅を防止する観点から好ましく、そのための容器本体10の上下方向の厚みは2mm以上であることが好ましく、特に好ましくは、10mm以上である。なお、本実施形態では、容器本体10の上下面ともに培養フィルム11,12を貼り付けているが、容器本体10の上面側又は下面側の一方にのみ開口を形成して、1枚の培養フィルムを貼り付けることとしてもよい。
【0027】
以下、細胞培養容器1を用いた細胞シート培養方法について説明する。図4は、細胞シート培養方法の第2工程を説明するための図であり、図5は、細胞シート培養方法の第3工程を説明するための図である。
【0028】
細胞培養容器1は、付着性細胞の培養に用いられる。付着性細胞とは、基材に付着して、該基材を足場として増殖することができる細胞であり、浮遊性細胞と対立する概念である。付着性細胞としては、例えば、骨膜細胞、間葉系幹細胞、神経細胞、上皮細胞、繊維芽細胞などが挙げられる。
【0029】
培養される付着性細胞は、培地との細胞懸濁液としてポート13,14の一方から容器本体10の閉空間内へ充填する。使用される培地は付着性細胞の種類等に応じて公知の培地から適宜選択される。使用される培地としては、DMEM培地、199培地、Ham12培地、Ham15培地、HTF培地、SPRM培地などが挙げられる。また、培地には、生理食塩水やリン酸緩衝液などが加えられてもよい。
【0030】
細胞培養容器1の閉空間に細胞懸濁液を充填することにより、培養フィルム11,12の各内面(培養領域)が細胞懸濁液と接触する。細胞懸濁液における付着性細胞の濃度は適宜設定されるものではあるが、通常、培養フィルム11,12における培養領域の単位面積当たり、約2000〜3000cells/cmが目安とされる。容器本体10の閉空間に細胞懸濁液を充填した後、培養フィルム11,12のいずれか一方を下側にした状態で、10〜40分間程度、細胞培養容器1を静置する。これにより、細胞懸濁液中の付着細胞が沈殿して培養フィルム11,12のいずれか一方の内面(培養領域)に付着する。つまり、培養フィルム11,12のいずれか一方の培養領域に付着性細胞が播種される。本実施形態のように、容器本体10に対して2枚の培養フィルム11,12が設けられている場合には、その後、容器本体10を上下が逆になるように反転させ、培養フィルム11,12の他方の培養領域にも付着性細胞を付着させる。そして、二酸化炭素環境下、37℃などの所定の培養条件でインキュベートして細胞培養を行う。培養フィルム11,12の培養領域に播種された付着性細胞は、培養フィルム11,12の内面に沿って培養されてシート形状の細胞シート18(図5参照)を形成する。この工程が本発明に係る細胞シート培養方法の第1工程に相当する。
【0031】
細胞シート18が形成された後、図4に示すように、培養フィルム11,12が容器本体10から剥離される。前述されたように、培養フィルム11,12は、人力により剥離可能な強度で容器本体10に熱溶着されているので、培養フィルム11,12の各凸片25,26を摘み持ち、容器本体10から引き剥がすようにして、培養フィルム11,12を容器本体10から剥離することができる。この際、容器本体10の閉空間に充填されている培地は、充填された状態であっても、ポート13,14を通じて流出された状態であってもよい。培養フィルム11,12が容器本体10からそれぞれ剥離されることにより、培養フィルム11,12の内面側に付着した細胞シート18がシート形状を維持したまま細胞培養容器1の閉空間から取り出される。この工程が本発明に係る細胞シート培養方法の第2工程に相当する。
【0032】
図5には、容器本体10から分離された培養フィルム11が示されている。なお、培養フィルム12も培養フィルム11と同様の状態であり、同様に処理されるので、ここでは、培養フィルム11を代表例として説明され、培養フィルム12についての説明は省略される。
【0033】
細胞シート18は、容器本体10から剥離された培養フィルム11に付着した状態であり、この培養フィルム11が細胞シート18を剥離するための溶液中に浸漬されることにより、細胞シート18が培養フィルム11から剥離される。細胞シート18を培養フィルム11から剥離させる溶液として、トリプシンなどのプロテアーゼを含む溶液やコラゲナーゼを含む溶液、EDTAを含む溶液などが挙げられる。これにより、細胞シート18がシート形状を維持したまま培養フィルム11から剥離される。なお、詳細な説明は省略されるが、培養フィルム12からも同様の方法により細胞シート18が剥離される。この工程が本発明に係る細胞シート培養方法の第3工程に相当する。
【0034】
このように、細胞培養容器1を用いた細胞シート培養方法によれば、第1工程において、培養フィルム11,12に沿って形成された細胞シート18を、第2工程において、培養フィルム11,12を容器本体10から分離することにより、シート形状を維持して細胞培養容器1の閉空間から取り出し、第3工程において、細胞シート18を培養フィルム11,12から剥離するので、細胞シート18の培養を閉空間で行うことができる。これにより、培養中での雑菌の侵入が防止され、また、細胞培養容器1の取り扱いが容易である。また、細胞培養容器1の閉空間からシート形状を維持させて細胞シート18を取り出すことができるので、細胞の取り出しに細胞培養容器1の遠心分離を必要とせず、操作が簡便となる。また、培養された付着性細胞が培養フィルム11,12から離れて塊になることがなく、細胞の死滅を防止することができる。
【0035】
以下、上記細胞培養容器1の変形例について説明する。図6は、変形例に係る細胞培養容器2を示す斜視図である。
【0036】
図6に示されるように、細胞培養容器2は、上記細胞培養容器1と同じ容器本体10に2枚の培養フィルム20,21が貼り付けられたものである。容器本体10の構成は既に説明されているので省略される。なお、図6において、培養フィルム21は細胞培養容器2の下面側にある。また、図6は、培養フィルム20の一部が切り出された状態を示している。
【0037】
容器本体10の上面及び下面に貼り付けられた培養フィルム20,21は、平面視において矩形の合成樹脂からなるシートであり、容器本体10の上面側及び下面側の開口より若干大きいものである。培養フィルム20,21は、各々の四方の周縁領域が容器本体10の上面又は下面に貼り付けられて、容器本体10の上下の各開口を覆うように塞いでいる。容器本体10の各開口が培養フィルム20,21により、前述された一定空間が閉空間となる。培養フィルム20,21の内面側の中央の領域は閉空間に対して露出されており、この露出された領域が細胞シートが培養される領域(培養領域)となる。
【0038】
培養フィルム20,21の周縁の領域(周縁領域)は、容器本体10の上面又は下面との接着領域である。培養フィルム20,21と容器本体10との接着は、例えば熱溶着や接着剤を用いた接着固定により行うことができる。培養フィルム20,21は、前述された培養領域と周縁領域の境界(図6に2点鎖線で示される)に沿って切り取り可能である。この切り取り可能とは、培養フィルム20,21がカッターやミクロトームなどの切断器具によって切り出すことができることや、培養フィルム20,21の周縁に切込みを形成して人力による切り取りを容易にすること、培養フィルム20,21に方向性フィルムを採用することなどを含む概念である。
【0039】
このような細胞培養容器2を用いた細胞シート培養方法においては、前述された細胞シート培養方法の第1工程により培養フィルム20,21に沿って細胞シート18が形成された後、図6に示すように、培養フィルム20,21が切り取られることにより、容器本体10から分離される。これにより、培養フィルム20,21の内面側に付着した細胞シート18がシート形状を維持したまま細胞培養容器2の閉空間から取り出される。この工程が本発明に係る細胞シート培養方法の第2工程に相当する。そして、前述された細胞シート培養方法の第3工程により、培養フィルム20,21から細胞シート18が剥離される。このような細胞培養容器2を用いた細胞シート培養方法によっても、前述と同様の効果が奏される。
【0040】
また、本発明に係る細胞シート培養方法に使用される細胞培養容器は、上記細胞培養容器1,2に限定されるものではなく、例えば、バッグ形状やボトル形状などの閉空間を形成する公知の形状のものを採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養容器1の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、細胞培養容器1の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図3は、図1のIII−III断面図である。
【図4】図4は、細胞シート培養方法の第2工程を説明するための図である。
【図5】図5は、細胞シート培養方法の第3工程を説明するための図である。
【図6】図6は、変形例に係る細胞培養容器2の外観構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1,2・・・細胞培養容器
10・・・容器本体
11,12,20,21・・・培養フィルム
18・・・細胞シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定空間を囲み、且つ該一定空間と通ずる開口を有する容器本体と、該開口を封止する培養フィルムとを備えた細胞培養容器に、培地及び付着性細胞を上記細胞培養容器の一定空間に充填して、上記培養フィルムに付着性細胞がシート形状に培養された細胞シートを形成する第1工程と、
上記細胞シートが付着した部分を含む上記培養フィルムを上記細胞培養容器から分離する第2工程と、
上記培養フィルムから上記細胞シートを剥離する第3工程と、を含む細胞シート培養方法。
【請求項2】
上記培養フィルムは、上記細胞培養容器の容器本体に対して剥離可能に設けられたものであり、上記第2工程において、該培養フィルムを上記容器本体から剥離することにより分離する請求項1に記載の細胞シート培養方法。
【請求項3】
上記培養フィルムは、上記細胞培養容器から切り取り可能に設けられたものであり、上記第2工程において、該培養フィルムを上記細胞培養容器から切り取ることにより分離する請求項1に記載の細胞シート培養方法。
【請求項4】
培地及び付着性細胞が充填される一定空間を囲み、且つ該一定空間と通ずる開口を有する容器本体と、
上記容器本体の開口を封止するとともに細胞培養容器から分離可能に設けられ、その内面側に細胞シートが形成される培養フィルムと、を具備するものである細胞培養容器。
【請求項5】
上記容器本体が枠体である請求項4に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
上記培養フィルムは、上記容器本体に対して剥離可能に設けられたものである請求項4又は5に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
上記培養フィルムは、少なくとも細胞シートが形成される領域を含む一部分が切り取り可能に設けられたものである請求項4又は5に記載の細胞培養容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−22715(P2008−22715A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195426(P2006−195426)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】