説明

細胞培養および組織培養プラットフォームのための組成物および方法

本発明は、ポリマーの表面をダイヤモンド様炭素(DLC)で被膜し、神経堤起源細胞、好ましくは樹状突起を形成する神経細胞の担体として利用する方法を記載する。DLCで被膜するバイオポリマーには、生体分解性ポリマーおよび他の移殖可能なバイオポリマーなどがあり、脳、眼、中枢および末端神経系、肺、肝臓、脾臓、腎臓および骨および軟骨などの様々な身体部分へ細胞を移殖するための担体系として働く。該バイオポリマーはシートまたは微粒子形態があり得、その合成過程で、神経細胞の付着および成長を促進および支持する、付着または成長促進物質を包埋させるまたは組み込むことができる。この被膜方法により、培養ウシ角膜内皮細胞から分泌された細胞外マトリックス(ECM)などの他の被膜物質ならびにフィブロネクチン、ラミニンおよびRGDSのような付着性分子を強化することもできる。該被膜工程は逐次プロセスで行うことが可能であり、その場合ECM被膜表面または付着因子被膜表面の上にDLC層を重ねる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本特許出願は2003年10月10日出願の米国特許出願番号第60/510,358および2003年10月10日出願の60/510,348の優先権を主張し、その両方は引用することによりその全体を本明細書の一部とする。
【発明の背景】
【0002】
1.技術分野
本発明は概して、細胞培養法および本出願の新規な細胞培養表面組成物および方法を用いた、インビトロで様々な哺乳類細胞を成長させるための改良方法に関する。
【0003】
2.背景技術
眼、脳、肝臓、皮膚、軟骨および血管における疾患の処置などの、様々な治療的場面において、全器官置換の代替法として細胞移殖が提案されている。例えば、JP Vacanti et al., J. Pediat. Surg., Vol. 23, 1988, pp. 3-9;P Aebischer et al., Brain Res. Vol. 488, 1998, pp. 364-368;CB Weinberg and E. Bell, Science, Vol. 231, 1986 pp. 397-400;IV Yannas, Collagen III, ME Nimni, ed., CRC Press, Boca Raton, 1988;GL Bumgardner et al., Hepatology, Vol. 8, 1988, pp. 1158-1161;AM Sun et al., Appl. Bioch. Biotech., Vol. 10, 1984, pp. 87-99;AA Demetriou et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, Vol. 83, 1986, pp. 7475-7479;WT Green Jr., Clin. Orth. Rel. Res., Vol 124. 1977, pp. 237-250;CA Vacanti et al., J. Plas. Reconstr. Surg., 1991; 88:753-9;PA Lucas et al., J. Biomed. Mat. Res., Vol. 24, 1990, pp. 901-911を参照のこと。組織培養においてヒト細胞株を調製することが可能であるならば、失われた組織機能を回復する治療様式として細胞移殖の将来性が増すであろう。個体が成人期に達した後では、神経堤起源由来の組織または器官は、通常自身の損傷を修復することができないので、神経堤組織由来のヒト培養細胞株を調製可能であるということは特に重要である。
【0004】
インビトロでの細胞成長に有用な従来の組織培養の実験器具は、培養における哺乳類細胞の付着および場合により増殖を促進するために通常負電荷で被覆されている。しかし、従来の組織培養表面を用いて哺乳類の神経細胞の付着、維持および増殖を十分に行うのは、以前から最も難しいことであった。組織培養プレートや皿上にコラーゲンゲルの層を加えるかまたはラットEHS腫瘍細胞から分泌された細胞外マトリックスを沈着させることにより、神経細胞の付着および増殖を促進する改良が成されてきた。しかし、これらの技術は、細胞を播種する少し前にそれらの物質を培養表面上に層にしなければならないという欠点が妨害となっている。
【0005】
バイオポリマー担体を、付着、成長を支持するために使用すること、および最終的に移殖工程で細胞を運ぶビヒクルとして使用することは、特に、神経堤起源に由来する細胞が加齢により損傷される脳および眼底において、細胞置換療法を成功させるために非常に重要である。バイオポリマーは大まかに7種類ある:ポリヌクレオチド、ポリアミド、ポリサッカライド、ポリイソプレン、リグニン、ポリリン酸およびポリヒドロキシアルカン酸。例えば米国特許第6,495,152号を参照のこと。バイオポリマーは、コラーゲンIVから、その表面に炭素粒子が包埋されているか、または一級アミンおよび任意にペプチドで処理されているか、または一級アミンまたはカルボキシ含有シランまたはシロキサンで同時処理されているポリオルガノシロキサン組成物(米国特許第4,822,741号)にまで及ぶ。または例えば、グリコサミノグリカンとともにコラーゲンII物質は残したまま脱脂や他の処理を行った天然の軟骨物質を含む他の修飾コラーゲン類が知られており(米国特許第6,676,969号)、もしくは、精製したコラーゲンII繊維をグリコサミノグリカンおよび他の任意の必要添加物と混合してもよい。そのようなさらなる添加物の例として、コラーゲンII繊維および、軟骨誘導因子(CIF)、インスリン様成長因子(IGF)および形質転換成長因子(TGFβ)のような成長因子へ、軟骨細胞が付着するのを助ける、コンドロネクチンまたはアンコリン(anchorin)IIがある。
【0006】
本発明がなされるまで、哺乳類またはヒトの神経堤または個々の神経細胞由来の神経組織をインビトロで培養し、成長、分裂させることは不可能であった。
【発明の開示】
【0007】
[発明の概要]
本発明のひとつの局面は、安定な炭素プラズマ層、最も好ましくはDLCにより組織培養実験器具を被膜する方法の開示であり、これにより神経細胞の付着および成長を促進することができ、またこのタイプの細胞の組織培養を成功させるための器具を安定に供給することができる。
【0008】
ヒトまたは哺乳類の神経堤起源由来の細胞、特に神経細胞は、2つの特徴を示すことが知られている。1つ目はインビボまたは組織培養条件下では通常複製しないこと、2つ目は従来の細胞培養表面へはあまりよく付着しないことである。本発明者らは、ダイヤモンド様炭素(DLC)として知られる炭素プラズマで表面を被膜することにより、神経細胞が培養表面へ容易に付着し、増殖行動を示し得ることを見出した。
【0009】
DLCフィルムの機械的および摩擦学的特性(摩擦係数0.1付近(空気中)、硬度約80GPa以下、弾性率600GPa近く)はダイヤモンドのそれと非常に近い。さらに、このフィルムは、ほとんどの浸食環境において化学的に不活性であり、ダイヤモンドに近い密度で沈着し得る。しかし、炭素蒸着ダイヤモンドとは対照的に、DLCフィルムは日常的に室温で生産され、基質が高温に耐えられない場合への適用に特に好適である。
【0010】
本発明は、バイオポリマー表面上へのDLC被膜の沈着を開示し、これによりヒトおよび哺乳類の神経細胞ならびに神経堤を起源とする他の細胞種の付着および成長を支持する。
【0011】
本発明の目的は、細胞株の増殖および実験の実施を目的として、神経細胞および神経堤起源の細胞をインビトロで成長させ、維持するために特殊化した組織培養プラットフォームを作製することである。本発明のDLC被膜物には、組織培養皿、フラスコ、スライド、フィルターチャンバー、ポリマーやガラスビーズ、シートおよびブロックが含まれる。該被膜は、プラスチック、ガラス、合成および天然バイオポリマー、および金属上に沈着させることができる。特定のヒトおよび哺乳類細胞の成長に関するより優れた製品を作製するために、例えば培養ウシ角膜内皮細胞から分泌された細胞外マトリックス(ECM)、付着性分子被膜および成長因子被膜のような他種の被膜の上に、DLC被膜を重ねることができる。
【0012】
さらに、本発明で用いられるバイオポリマーは、天然または合成ポリマー起源であり得る。天然のバイオポリマーは、コラーゲンおよび他の周知のポリマー物質を含む。合成ポリマーについては、メタクリル酸ポリメチル、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドまたはポリ-2-ヒドロキシメタクリル酸のようなアクリル系および誘導体またはコポリマー、ポリビニルアルコールおよび誘導体およびコポリマーであり得る。該バイオポリマーは、薄いシートまたは微粒子の形態のいずれかであり得る。該バイオポリマーの成長支持特性を改良するために、合成過程でその組成物中に付着または成長促進因子を包埋させるまたは組み込むことができる。さらに、半固体バイオポリマーを含む、神経細胞の成長および複製の支持に適した3次元増殖培地(growth medium)をDLCで被膜し、神経細胞の成長および維持を支持する能力を向上させることもできる。該バイオポリマーはまた、キトサンまたはアルギン酸ナトリウム「may polymer」からも構成可能である。
【0013】
本発明のこれらの目的および他の目的ならびに附随する多くの利益は、以下の詳細な説明の好ましい態様を参照することにより、より容易に明確になると考える。
【0014】
[詳細な説明および好ましい態様]
本発明の好ましい態様を記載するにあたり、明解性のために特定の専門用語を用いる。しかし、選択した特定用語に本発明を限定することは意図しておらず、それぞれの特定用語には、同様の目的を達成するために類似の方法を行うあらゆる等価的技術が含まれることを理解されたい。
【0015】
本発明に記載の方法により、ポリマー表面のDLC被膜および同様の被膜を、細胞堤起源由来の細胞の担体として有用化することができる。該バイオポリマーは生分解性部分であり得る。該バイオポリマーは、薄いシート形態、微粒子形態または半固体ブロック形態のいずれかであり得る。該バイオポリマーは、所望の培養表面上へ200から400Åの薄さの薄層炭素プラズマを沈着させるプラズマ銃を用いて被膜する。
【0016】
ダイヤモンド様炭素(DLC)被膜と同様に、無定形炭素窒化物(C-N)フィルムは非常に強固且つ耐摩耗性である。これらは全人工股間接置換術無菌弛緩(aseptic loosening)における問題を解決する候補となり得る。Duらは、器官培養におけるシリコン、DLC被膜シリコンおよび無定形C-Nフィルム沈着シリコン上の骨芽細胞の形態学的特徴を、走査電子顕微鏡により調査したことを報告している。シリコンウェハ上では、細胞を付着させることはできたが、その後拡張させることはできなかった。対照的に、DLC被膜および無定形C-Nフィルム上では、細胞は付着し、拡張し、増殖し、明らかな細胞生理学的欠陥も見られなかった。被膜およびフィルム上での細胞の形態学的特性は、対照における細胞のそれと類似していた。この結果は、DLC被膜の生体適合性を支持しており、本発明における無定形C-Nフィルムの将来的な生物医学的適用を促すものである(C. Du et al., Biomaterials. 1998 Apr-May;19(7-9):651-8)。
DLC被膜方法は以下の通りである。
【0017】
プラズマ装置は、Lawrence Berkeley National Laboratory(Berkeley, CA)製の真空アークプラズマ銃からなり、繰り返しパルスモードで動作して高い電気出力および熱負荷の問題を最小化する。炭素陰極を取り付けたプラズマ銃で、約20eVの定方向ストリーミングエネルギーを持つ純粋な炭素プラズマの濃密なプリュームを作製する。陰極からの粒子物質を除去するために、該プラズマを90°磁気フィルター(ベントソレノイド)に投入し、次いで、プラズマ形状を平面化する働きをする大きな永久磁石の多孔性構造物に該プラズマを通す;これにより、炭素プラズマ沈着が広い沈着領域にわたり空間的に均一となる。
【0018】
フィルムの均一性をさらに増すために、DLC被膜をする基質をゆるやかに回転しているディスク上に置くことにより、方向不均一性を取り除く。記載した装置を用いて、約2から4000Å、好ましくは約200から400Åの薄さのDLCフィルムを作製した。
【0019】
バイオポリマーの細胞成長または付着を支持する能力を改良するために、以下のうち1またはそれ以上を含む付着性混合物を、合成過程でバイオポリマー組成物に包埋させるまたは組み込むことができる:ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のフィブロネクチン、ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のラミニン、ポリマーゲルに対して0.1μgから100μg/mlの濃度範囲のRGDS、ポリマーゲルに対して1ngから500ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリマーゲルに対して10ngから1000ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGF、ポリマーゲルに対して1ngから1000ng/mlの濃度範囲のNGFおよびポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲の硫酸ヘパリン。
【0020】
好ましい態様において、薄いシートまたは微粒子形態の被膜バイオポリマーは、神経細胞の担体として、また細胞移殖工程における細胞輸送のビヒクルとして用いる。半固体ポリマーブロック形態のバイオポリマーは、神経性刺激検出器として機能する集積回路チップまたはCCDチップと組み合わせて神経細胞維持装置として用いることができる。培養ウシ角膜内皮細胞により沈着した細胞外マトリックスで被膜し、続いてDLC被膜を重ねることにより、該被膜表面をさらに改良することができる。
【実施例1】
【0021】
シート形態のバイオポリマーのDLC被膜
バイオポリマーシートは様々な面積であり得るが、好ましくは約2cm×2cmの本発明のバイオポリマーシートを回転ディスクに固定し、ゆるやかに回転しているモーターの上のDLC被膜チャンバーに配置する。該プラズマ装置において、噴出銃(ejecting gun)により約20eVの定方向ストリーミングエネルギーを持つ純粋な炭素プラズマの濃密なプリュームを作製する。このプラズマを90°磁気フィルターに投入して粒子物質を除去し、高品質な、水素不含ダイヤモンド様炭素を形成させる。放射状のプラズマ形状を平面化する働きをする大きな永久磁石の多孔性構造物に炭素プラズマを通すと、炭素プラズマの沈着が広い沈着領域にわたり空間的に均一となる。ポリマーシートを固定したゆるやかに回転しているディスクへ、その炭素プラズマプリュームを近づけると、該シートの表面がDLCの均一なフィルムで被膜される。該シートは、UV照射または70%アルコールリンスで滅菌した後に、多種の細胞、好ましくは神経細胞の成長に用いることができ、または細胞移殖のビヒクルとして用いることができる。
【実施例2】
【0022】
微粒子形態のバイオポリマーのDLC被膜
特殊化した回転チャンバー内にバイオポリマー微粒子を置き、実施例1に記載のように炭素プラズマのプリュームを作製する。垂直軸上でゆるやかに回転し、該微粒子が上から下へ連続して落ちるようになっている該チャンバー内に、プラズマ銃でDLCのスプレーを導入することで、各微細球の表面全体に炭素プラズマが均一に沈着するチャンスが得られる。この工程を約2から3時間にわたって行い、全粒子表面が確かに均一かつ完全に被膜されるようにする。
【実施例3】
【0023】
合成過程でバイオポリマー組成物中に付着または成長促進因子を包埋または組み込み、次いでDLCで被膜したバイオポリマー
本発明のバイオポリマーは、以下のうち1またはそれ以上を含む付着または成長促進因子を、合成過程でそのバイオポリマー組成物中に包埋させるまたは組み込むことができる:ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のフィブロネクチン、ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のラミニン、ポリマーゲルに対して0.1μgから100μg/mlの濃度範囲のRGDS、ポリマーゲルに対して1ngから500ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリマーゲルに対して10ngから1000ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGF、ポリマーゲルに対して1ngから1000ng/mlの濃度範囲のNGFおよびポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲の硫酸ヘパリン。その後該バイオポリマーを薄いシートまたは半固体ブロック状に成形し、実施例1に記載のようにDLCを沈着させることができる。または、該ポリマーを微粒子または球状に成形し、実施例2に記載のようにDLCを沈着させることができる。
【実施例4】
【0024】
培養ウシ角膜内皮細胞により沈着した細胞外マトリックスによるバイオポリマーの被膜およびそれに次ぐ該バイオポリマーシートまたは微粒子のDLCによる被膜。
シート状および微粒子またはブロック状のバイオポリマーを、まず細胞外マトリックス(ECM)で被膜し、次いでその培養表面にDLCを沈着させることができる。これを行うために、ウシ角膜内皮細胞(BCE)をシートまたはブロック表面上に低密度で(約2000から150,000細胞/ml、好ましくは約20,000細胞/ml)播種する、または微粒子の表面に付着させる。BCE細胞を、10%ウシ血清、5%ウシ胎児血清、2%デキストラン(40,000MV)および50ng/mlのbFGFを補足したDME-H16含有培地で維持する。この細胞を10%CO2中37℃で7日間インキュベートし、その間50ng/ml濃度のbFGFを1日おきに加える。該ポリマーシート、ブロックまたは微粒子を20mM水酸化アンモニウムで5分間処理することにより、BCE細胞を除去する。細胞外マトリックスで被膜されたバイオポリマーを十分量のPBSで10回洗浄する。乾燥後、ECM被膜ポリマーシートまたはブロックに、実施例1に記載のようにDLCを沈着させる、またはECM被膜微粒子に、実施例2に記載のようにDLCを沈着させる。ECMおよびDLCで連続被膜した後、該ポリマーシート、ブロックまたは微粒子をUV照射またはアルコールリンスで滅菌し、神経細胞の成長に、または細胞移殖のビヒクルとして使用できる。
【実施例5】
【0025】
集積回路と電気的に連結した神経細胞を有するバイオポリマー含有基質
本発明のバイオポリマーは、以下のうち1またはそれ以上を含む付着または成長促進因子を、合成過程でそのバイオポリマー組成物中に包埋させるまたは組み込むことができる:ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のフィブロネクチン、ポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲のラミニン、ポリマーゲルに対して0.1μgから100μg/mlの濃度範囲のRGDS、ポリマーゲルに対して1ngから500ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリマーゲルに対して10ngから1000ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGF、ポリマーゲルに対して1ngから1000ng/mlの濃度範囲のNGFおよびポリマーゲルに対して1μgから500μg/mlの濃度範囲の硫酸ヘパリン。その後、該バイオポリマーを薄いシートまたは半固体ブロック状に成形し、実施例1に記載のようにDLCを沈着させることができる。または、該ポリマーを微粒子または球状に成形し、実施例2に記載のようにDLCを沈着させることができる。
【0026】
DLCで被膜した基質上の適切な位置に、集積回路またはチップを置いた。Zeck, G. & Fromherz, Proc. Nat. Acad. Sci., 98, 10457 - 10462, (2001)に記載のように、神経細胞をDLCで被膜したシリコンチップ上に置き、次いで、電子顕微鏡の可塑性PEG(microscopic plastic peg)で適切な位置に神経細胞を囲う。隣接する細胞同士は、互いの連結およびチップとの連結を成長させる。各神経細胞の下の刺激装置により電圧の変化を創出し、これにより細胞を通る活動電位が生じる。チップにかけられた電気パルスは、一方の神経細胞から他方の細胞へと通過していき、チップに戻ってシリコンのスイッチを切る。
【実施例6】
【0027】
組織培養実験器具の培養表面へのDLC沈着
皿、フィルターインサート、チャンバースライド、シートおよびブロックのような平面の培養表面の場合、そのような器具を真空チャンバーにおいて培養表面を上にしてプラズマ銃へ向け、前記のような被膜工程を行うことができる。微小担体ビーズの場合、全ての面を確実に均一に被膜するため、チャンバー内の流れにそれを導入する必要がある。フラスコおよび管類のような閉鎖表面の場合は、特別に改造したプラズマ銃をその容器内に挿入し目的の表面を被膜する。約20から4000Å、好ましくは約200から400Åの均一な薄さのDLC薄層を培養表面上に沈着させる。次いで、出来上がった物をUV照射またはアルコールリンスで滅菌し、包装し、封をし、使用するまで棚に保管することができる。
【実施例7】
【0028】
培養ウシ角膜内皮細胞から分泌されたECMおよびそれに次ぐDLC沈着による培養表面の連続被膜
本態様において、ウシ角膜内皮細胞の希薄な培養物(約1000から約50,000細胞/ml、好ましくは2000から5000細胞/ml)を、皿、フラスコ、管類、フィルターインサート、チャンバースライド、微小担体ビーズ、ローラーボトル、セルハーベスター、シートおよびブロックを含む適当な実験器具の培養表面上に播種する。その細胞を10%ウシ血清、5%ウシ胎児血清、2%デキストラン(40,000MV)および50ng/mlのbFGFを補足したDME-H16含有培地で維持する。1日おきにbFGFを加えて50ng/mlにしながら、ウシ角膜内皮細胞が密集するまで7から10日間成長させる。その後培地を除去し、十分量の20mM水酸化アンモニウム蒸留水溶液で3から30分間処理する。次いで表面を十分量のPBSで10回洗浄して残存水酸化アンモニウムを除去し、滅菌した層流フード内で乾燥させる。その後、細胞外マトリックスの上に、前記のようにDLC被膜を行うことができる。次いで出来上がった物をUV照射またはアルコールリンスで滅菌し、包装し、封をし、使用するまで棚に保管できる。
【実施例8】
【0029】
付着または成長促進物質およびそれに次ぐDLC沈着による培養表面の連続被膜
このもう一つの態様において、1またはそれ以上の付着または成長促進物質には、以下が含まれた:1μgから500μg/mlの濃度範囲のフィブロネクチン、1μgから500μg/mlの濃度範囲のラミニン、0.1μgから100μg/mlの濃度範囲のRGDS、1ngから400ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、10ngから1000ng/mlの濃度範囲の、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGF。該付着または成長促進物質を培養表面に加え、次いで4℃で20分から2時間インキュベートする。次いで表面をPBSで3回リンスし、滅菌した層流フード内で乾燥させる。その後、培養表面上の付着または成長促進物質被膜の上に、DLC層を沈着させる。次いでその実験器具をUV照射またはアルコールリンスで滅菌し、包装し、封をし、使用するまで保管する。
【0030】
ここまで本発明を記載したが、当業者に明らかなように、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神から逸脱することなく、本発明に関する多くの修飾が可能である。
【0031】
米国特許、特許出願および他の上記全ての引用文献の開示は、全て引用することによりその全体を完全に本明細書の一部とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高品質の、水素不含ダイヤモンド様炭素表面で被膜したバイオポリマーを含む、細胞の成長および付着のための改良された表面。
【請求項2】
バイオポリマーが生分解性である、請求項1に記載の改良された表面。
【請求項3】
バイオポリマーがシートの形態である、請求項1に記載の改良された表面。
【請求項4】
バイオポリマーが微粒子の形態である、請求項1に記載の改良された表面。
【請求項5】
高品質の、水素不含ダイヤモンド様炭素表面で被膜したバイオポリマー上に神経細胞を播種し、成長させることを含む、培養において神経細胞を成長させる方法。
【請求項6】
バイオポリマーが生分解性である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バイオポリマーがシートの形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
バイオポリマーが微粒子の形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質が、合成過程でバイオポリマーに包埋されてまたは組み込まれている、請求項1に記載の改良された表面:ラミニン、フィブロネクチン、RGDS、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGFおよび硫酸ヘパリン。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を用いて作製したバイオポリマー上に神経細胞を播種し、成長させることを含む、培養において神経細胞を成長させる方法。
【請求項11】
以下を含む神経細胞シグナルを検出するための装置:
a) 低密度で移殖した神経細胞が増殖し神経突起を伸ばすのに十分な、以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質:ラミニン、フィブロネクチン、RGDS、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGFおよび硫酸ヘパリンまたは神経成長因子が、合成過程で包埋されてまたは組み込まれているバイオポリマーユニット;
b) 前記神経突起または樹状突起が電気的に連結する部分を有する集積回路チップまたは電荷結合素子;
c) 神経細胞からの電気的シグナルを測定するための検出手段;
d) 前記チップと検出手段を結合させる手段。
【請求項12】
バイオポリマーユニットが内蔵されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
バイオポリマーユニットが半固体である、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
神経突起または樹状突起と集積回路チップ間の電気的接触を促すために、合成過程で、以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質で、集積回路チップまたは電荷結合素子を被膜した、請求項11に記載の装置:神経成長因子またはダイヤモンド様炭素。
【請求項15】
神経細胞の成長を支持することが可能な半固体バイオポリマーを含む、神経細胞の成長および複製を支持するのに適した3次元増殖培地。
【請求項16】
「May Polymer」をさらに含む、請求項15に記載の増殖培地。
【請求項17】
低密度で移殖した神経細胞が増殖し神経突起を伸ばすのに十分な、以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質:ラミニン、フィブロネクチン、RGDS、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGFおよび硫酸ヘパリンまたは神経成長因子を、合成過程で「May Polymer」に包埋させたまたは組み込んだ、請求項16に記載の増殖培地。
【請求項18】
ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGFまたは硫酸ヘパリンの濃度が約50μg/mL、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたNGFまたは硫酸ヘパリンの濃度が約50μg/mL、ラミニンの濃度が約500μg/mL、RGDSの濃度が約500μg/mLである、請求項17に記載の増殖培地。
【請求項19】
ダイヤモンド様炭素で被膜した、神経細胞の成長を支持することが可能な半固体バイオポリマーを含む、神経細胞の成長および複製を支持するのに適した3次元増殖培地。
【請求項20】
「May Polymer」をさらに含む、請求項19に記載の増殖培地。
【請求項21】
低密度で移殖した神経細胞が増殖し神経突起を伸ばすのに十分な、以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質:ラミニン、フィブロネクチン、RGDS、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGFおよび硫酸ヘパリンまたは神経成長因子を、合成過程で「May Polymer」に包埋させたまたは組み込んだ、請求項16に記載の増殖培地。
【請求項22】
バイオポリマーが、ビーズ、シートまたは微粒子状に成形されている、請求項21に記載の増殖培地。
【請求項23】
神経細胞をレシピエント宿主へ移殖する方法であって、目的とする神経細胞を請求項19に記載の増殖培地へ播種し、十分な密度にまで神経細胞を成長させること、および該増殖培地の神経細胞を前記宿主へ移殖することを含む方法。
【請求項24】
BCE-ECMで被膜した、神経細胞の成長を支持することが可能な半固体バイオポリマーを含む、神経細胞の成長および複製を支持するのに適した3次元増殖培地。
【請求項25】
以下を含む、請求項24に記載の増殖培地を作製する方法:
a) 前記3次元増殖培地に、成長に適した培地におけるウシ角膜内皮(BCE)細胞集団を低密度で播種すること;
b) BCE細胞を密集するまで成長させること;および
c) 培地を吸引し、3次元増殖培地を水酸化アンモニウムで十分な時間処理して細胞を除去すること。
【請求項26】
BCE-ECMおよびダイヤモンド様炭素で被膜した、神経細胞の成長を支持することが可能な半固体バイオポリマーを含む、神経細胞の成長および複製を支持するのに適した3次元増殖培地。
【請求項27】
「May Polymer」をさらに含む、請求項26に記載の増殖培地。
【請求項28】
低密度で移殖した神経細胞が増殖し神経突起を伸ばすのに十分な、以下のうちの1またはそれ以上を含む付着物質:ラミニン、フィブロネクチン、RGDS、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたbFGF、ポリカルボフィルとコンジュゲートしたEGFおよび硫酸ヘパリンまたは神経成長因子を、合成過程で「May Polymer」に包埋させたまたは組み込んだ、請求項27に記載の増殖培地。
【請求項28】
バイオポリマーが、ビーズ、シートまたは微粒子状に成形されている、請求項26に記載の増殖培地。
【請求項29】
内側表面および外側表面を持ち、内側表面は細胞および細胞培地と接触する面であり、その内側表面がダイヤモンド様被膜フィルムで被膜されている実験室器具を含む、細胞の成長および付着を誘導するのに適した被膜を有する実験室器具。
【請求項30】
細胞培養皿、ペトリ皿、組織培養フラスコ、プレート、瓶類、スライド、フィルターチャンバー、ローラーボトル、ハーベスターおよび管類からなる群から選択される、請求項29に記載の器具。
【請求項31】
少なくとも1の他の被膜の上に重ねてダイヤモンド様被膜フィルムを被膜した実験室器具を含む、細胞の成長および付着を誘導するのに適した被膜を有する実験室器具。
【請求項32】
該他の被膜が細胞外マトリックスである、請求項31に記載の器具。
【請求項33】
該他の被膜がBCE-ECMである、請求項32に記載の器具。
【請求項34】
内側表面にダイヤモンド様被膜フィルムを適用することを含む、細胞の成長および付着を誘導するのに適した実験室器具を被膜する方法。
【請求項35】
初めにBCE-ECMなどの少なくとも1の他の被膜で実験室器具の内側表面を被膜し、次いでダイヤモンド様被膜で被膜することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項34に記載の方法によって作製した器具。
【請求項37】
請求項35に記載の方法によって作製した器具。
【請求項38】
高品質の、水素不含ダイヤモンド様炭素表面で被膜した合成バイオポリマーを含む、細胞の成長および付着のための改良された表面。
【請求項39】
合成ポリマーが、メタクリル酸ポリメチル、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドまたはポリ-2-ヒドロキシメタクリル酸のようなアクリル系ポリマーおよびその誘導体またはコポリマーまたはポリビニルアルコールおよびその誘導体およびコポリマーである、請求項38に記載の改良された表面。

【公表番号】特表2007−508816(P2007−508816A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534369(P2006−534369)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033194
【国際公開番号】WO2005/037985
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506121559)
【氏名又は名称原語表記】Ge Ming LUI
【出願人】(506121560)セルラー・バイオエンジニアリング・インコーポレイテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】CELLULAR BIOENGINEERING, INC.
【Fターム(参考)】