説明

細胞増殖抑制剤、医薬品及び食品組成物、並びに製造法

【課題】成人T細胞性白血病細胞の増殖を抑制することによる成人T細胞性白血病進展抑制剤、治療剤、それらを用いた医薬製剤、食品組成物、並びに製造法を提供する。
【解決手段】ニガウリ種子の加工処理物、例えば、ニガウリの破砕物、抽出物を有効成分として用いる。その含有成分は、天然の食用植物に由来する成分を有効成分とするものであるため、医薬製剤や長期に亘り安心して服用できる日常薬としての利用することができる。本発明は、高機能性食品の開発にもその素材として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成人T細胞白血病(以下、ATLと記載する。)の細胞増殖抑制剤、進展抑制剤、治療剤、その医薬品組成物及び食品組成物、並びにそれらの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白血病は以前は治療が困難であったが、近年、有効な抗がん剤や治療技術の研究開発が進んだ結果、白血病の種類によっては治療することも可能になって来ている。しかし、レトロウイルス感染によって惹起される白血病として知られているATLには、未だ有効な予防法・治療法がなく、極めて予後が悪い疾患である。ATLは、ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus type 1 ; 以下、HTLV-1と記載する)によって起こる疾病のである。非特許文献1に示すように、ヒトのがんの中でも、多段階発がん説に最も良く一致するモデルであると認識されている。乳幼児期の授乳などを通じて、生体内のTリンパ球にHTLV-1が感染することでウイルスキャリアとなる。その後、数十年の長い歳月をかけて、ウイルスや宿主細胞の遺伝子に変異が蓄積し、最終的に感染細胞の中のごく一部が異常増殖能を獲得した結果、ATLを発症すると考えられており、極めて特異的な白血病と云うことが出来る。
【0003】
既存の抗がん剤では、ATL細胞は速やかに耐性を獲得することから、ATLの治療は困難を極めている。インターフェロンαなど白血病や悪性リンパ腫に準じた化学療法も試みられているが、未だ効果は良くない。以上の理由により、ATLの克服に向けては、抗がん剤等の治療的観点からだけではなく、予防的観点にも着目した研究が急務である。従って、発症までの数十年の間に日々の食事によりHTLV-1感染細胞の増殖を抑制すること、また、たとえATLを発症したとしても抗がん剤などでATL細胞の増殖を抑制することがATLを予防・治療する上で重要となる。
【0004】
非特許文献2では、緑茶がATLの予防に有効であることが報告されており、更にその活性本体はポリフェノール類であることが明示されている。また、非特許文献2は、HTLV-1キャリアに緑茶サプリメントを5ヶ月間摂取させることにより、発症危険因子の一つであるウイルス感染価が抑制されることを示している。
【0005】
抗ウイルスや抗腫瘍作用等の機能性を有する植物の一つにニガウリMomordica charantia がある。ニガウリの原産地はインドで、日本では南西諸島と南九州で多く栽培されており、今日では更に広い地域で食用栽培が盛んである。食用に供されているのはもっぱらその果肉部であり、既に健康食品、ダイエット食品として知られている。その機能性は多岐にわたり、脂質代謝改善や糖尿病患者の血糖値降下剤として伝統的に使用されている他に、in vitro での抗腫瘍活性やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の抑制活性の報告がなされている。
【0006】
一方、ニガウリ種子由来の有効成分の機能性に関する報告がある。先ず、ニガウリ種子を水で抽出し、得られた抽出液を40%以上の塩濃度で塩析して得られたモモジンは、エールリッヒ腹水がん細胞の増殖抑制効果を示すと報告されている(特許文献2)。次いで有効成分の一つである共役リノレン酸の種々の白血病細胞の増殖抑制効果が報告されている。即ち、共役リノレン酸がヒトT細胞性白血病細胞(Jurkat)やヒト急性前骨髄性白血病細胞(HL-60)の増殖抑制効果を示すことが、それぞれ非特許文献3、4に報告されている。一方、特許文献3には、ニガウリ種子由来の別の有効成分であるレクチンの血液凝集を利用した血液型の判定キットや溶剤が提案されている。ニガウリ種子由来のレクチンについては、非特許文献5に示すように、レクチンの血液凝集作用は50℃以上では失活することが報告されている。
【0007】
これまでに、ニガウリ種子加工物のATLの細胞増殖抑制機能の特許・非特許文献は見当たらない。加えて、ニガウリ種子から単離・精製された有効成分のうち、レクチンのATLに対する効果は全く知られていない。一方、共役リノレン酸ついては、ATLとは異なる別種の白血病細胞の増殖抑制効果などの機能性の報告があるが、特異的な白血病であるATLに対する効果は全く知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開2001−122777
【特許文献2】特許0937256
【特許文献3】特開2006−126025
【非特許文献1】わかる実験医学シリーズ「がんのシグナル伝達がわかる」、p. 77-87、山本雅、仙波憲太郎 編、羊土社、2005年
【非特許文献2】J. Sonoda et al.,Cancer Sci., 95, 595-601 (2004). “HTLV-1 provirus load in peripheral blood lymphocytes of HTLV-1carriers is diminished by green tea drinking.”
【非特許文献4】Azevedo-Martins AK, Curi R., Cell Biochem Funct. 2007 Jun 13. “Fatty acids decreasecatalase activity in human leukaemia cell lines.”
【非特許文献5】Jung KC, Park CH,Hwang YH, Rhee HS, Lee JH, Kim HK, Yang CH., Leukemia., 20, 122-127 (2006).“Fatty acids, inhibitors for the DNA binding of c-Myc/Max dimer, suppressproliferation and induce apoptosis of differentiated HL-60 human leukemiacell.”
【非特許文献5】Sultan, Nabil AliMohammed; Swamy, Musti J, Arch Biochem Biophys., 437, 115-125 (2005).Energetics of carbohydrate binding to Momordica charantia (bitter gourd)lectin: an isothermal titration calorimetric study.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ニガウリ種子に由来するATL細胞の増殖抑制に用いられる細胞増殖抑制剤、進展抑止剤やそれを含むATL治療剤や医薬製剤を提供することを目的とする。
【0010】
また本発明は、ATL患者を改善のための食品組成物を提供することを目的とする。
【0011】
さらに本発明は、ATL患者を治療するために用いる植物由来の医薬製剤の製法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、ATL患者を改善するために用いる食品組成物の製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解消すべく、ニガウリの諸部位(種子、果肉、胎座、葉)について、ATL細胞への影響を検討した結果、その種子の加工物は、果肉、胎座、葉よりもED細胞増殖抑制効果が顕著であることが認められた。更にこのATL細胞の増殖抑制効果は、70℃程度まで維持され、75℃以上では急速に失活することを知見し、失活しない温度で乾燥などの加工する製法を見出し本発明に至った。
前記目的を達成した本発明は、次の態様を特徴としている。
項1:ニガウリ種子の加工処理を70℃以下で行うことにより得られたニガウリ種子の処理物を有効成分とする成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
項2:加工処理を50〜70℃の範囲内で行うことにより得られたニガウリ種子の処理物を有効成分とする成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
項3:ニガウリ種子からの水抽出物を有効成分とする、項1乃至2に記載する成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
項4:項1乃至3に記載する増殖抑制剤を含む、成人T細胞白血病の進展抑止剤。
項5:項1乃至3に記載する増殖抑制剤を含む、成人T細胞白血病治療剤。
項6:加工処理を50〜70℃の範囲内で行う、項3乃至5に記載する薬剤からの医薬製剤の製法。
項7:ニガウリ種子の加工処理を70℃以下で行うことにより得られた処理物を有効成分とする成人T細胞白血病改善のために用いられる食品組成物。
項8:ニガウリ種子からの水抽出物を有効成分とする、項7に記載する成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
項9:ニガウリ種子の加工処理を50〜70℃で行うことにより得られた処理物を有効成分とする項7乃至8記載の食品組成物の製造法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のニガウリ種子の加工処理物及びそれらからの医薬製剤は、ATL細胞の増殖抑制効果を有し、ATLの進展抑制効治療に用いることが出来る。また、HTLV-1感染患者に対して、ATL発症抑制が期待される。
【0015】
更に、ATL患者やキャリア等に対する症状進展抑制等の食品機能性の作用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に使用するニガウリは、南西諸島と南九州を始め広い地域で栽培され、また、同様に海外でも生産されている。食用に供されているのは通常その果肉部であるが、本発明では種子を使用する。なお、ニガウリは、ウリ科、ツルレイシ属のものを用いる。本発明ではツルレイシ属に属する全ての種を用いることが出来る。本発明のATLの進展抑制剤、治療剤、あるいは食品組成物に用いることの出来るニガウリは、その種類や原産地を特に制限するものではなく、いずれも使用することができる。代表的な品種として、例えば下記の品種を挙げることが出来る:宮崎N1号、N2号、N3号、N4号、宮崎こいみどり、宮崎緑、宮崎青長、佐土原3号、佐土原白長、白麗、ホワイト、トクセン、秀華、パワフル、ゴーヤ節成、月美、海馬、緑玉、緑人、高月、大白さつま大長、くま、ねずみ、にがにがくん、ほろにがくん、並びに、それらの交配種。
【0017】
露地栽培でのニガウリの標準的な収穫時期は、その生育適温からして7月〜8月が標準的であるが、暖地では収穫時期が繰り上がることもある。また近年では、とくに営利目的として暖地での施設栽培が一部で行われているので、通年で栽培することも可能である。後者の栽培の場合には、作付体系から2〜6月あたりが収穫時期として適していると言える。本発明では、露地栽培、施設栽培のいずれのニガウリも用いることが出来る。
【0018】
本発明において、ニガウリの果実採取後に果肉や胎座を除去して得られる種子を加工処理して用いる。本発明の効果を損なわない程度の他の部位の混入は許容される。本発明において、加工処理工程は70℃以下で実施する。75℃以上では後述するように主要な有効成分が失活する。好ましい加工処理の温度は65℃以下である。更に、凍結乾燥など特に低温が必須条件である工程を除き、50〜70℃で実施することにより、例えば加工処理時間などを短縮できる。本発明の加工処理物としては、ニガウリ種子の粉砕物(生、乾燥物)、搾汁、水等の溶媒抽出物等を用いることができる。本発明の機能性発現及び加工容易性から種子の粉砕物、それからの抽出物、及び抽出物からの乾燥物が望ましい。
【0019】
本発明で好ましく用いられる乾燥粉砕物は、ニガウリを乾燥した後に破砕するか、または生の状態で切断した後に乾燥することによって調製する。乾燥後に粉砕する方法は、粉砕の程度及び生産効率の点から好ましい。乾燥には、本発明の機能性を損なわない範囲であれば特に制限はなく、真空凍結乾燥、温風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥等を広く用いることができる。好ましくは、真空凍結乾燥であり、これを適用する場合、その条件は加工物の状態によって異なるので特定できないが、例えば種子の破砕物をそのまま乾燥する際、凍結温度は-30℃〜-20℃、乾燥温度は-30〜30℃、乾燥時間は15〜24時間の範囲が望ましい。
【0020】
ニガウリ種子の抽出物は、好ましくは破砕等の方法で小さくした後に抽出操作に供するか、また乾燥後、必要に応じて粉砕、細化し抽出操作に供することによっても調製することができる。また種子の搾汁も、上記抽出原料として使用することができる。
【0021】
抽出溶媒には、水、含水エタノールが有効成分の抽出効率の向上及び安全面からも好ましい。得られた抽出物は、必要に応じて、ろ過または遠心分離などの操作により固形物を除去する。次の工程で行われる操作に応じては、抽出物をそのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮もしくは乾燥して用いてもよい。また得られた抽出物は、濃縮もしくは乾燥後、さらに適正な溶媒、例えば、非溶解性溶媒で洗浄精製して用いても、またこれを更に適当な溶媒に溶解若しくは懸濁して用いることもできる。さらに本発明においては、例えば、得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段を経て、ニガウリの乾燥加工物として次の工程で使用することもできる。
【0022】
以上の工程を経て得られるニガウリ加工処理物は、後述の実験例で示すように、ATL細胞の増殖抑制効果を有している。具体的には、ATL細胞の一つであるED細胞に対して強力な増殖抑制活性を有している。本発明のATL進展抑制、治療剤は、上記ニガウリの加工処理物(特に粉砕物、搾汁、もしくは抽出物)を液体状又は固体状で利用することもできる。上記で調製された本発明の加工処理物は、製剤化工程あるいは食品組成物の製造工程に供することが出来る。
【0023】
本発明の加工処理物は、これに薬理効果や製法上許容される担体または添加剤を配合して、固体又は液体状の医薬製剤とすることもできる。本発明の医薬製剤は、その形態に特に制限はないが、経口に適した形態であることが好ましい。例えば、経口投与用固体組成物(固形医薬製剤)としては、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の形態を、また経口投与用液状組成物(液状医薬製剤)としては、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態をとることができる。これらの製剤には、有効成分に加えて、剤形に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、矯味矯臭剤、pH調整剤等を適宜配合することができ、常法に従って製剤化することができる。
【0024】
また本発明の医薬製剤には、有効成分であるニガウリ種子由来の成分及び前記担体または添加剤に加えて、ビタミン等の他の機能性成分が含まれていてもよい。医薬製剤の有効成分の組成比は、使用目的等によって異なるので一概には特定できない。尤も、後述の有効投与量を基準値として、適宜調製が可能である。
【0025】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、投与法、投与期間、患者の病態、年齢、性別、投与目的、その他の条件に応じて広範囲から選択できる。本発明の医薬製剤を、ATLの改善を目的として用いる場合、ニガウリ種子では、体重60 kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、ニガウリの乾燥重量に換算して約300〜4800 mg、好ましくは約600〜2400 mgの範囲を、体重60 kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、約900〜1500 mg、好ましくは約1800〜7500 mgの範囲を挙げることができる。
【実施例】
【0026】
ニガウリ種子とその含有成分によるATL細胞の増殖抑制活性
[1]素材と試料の調整方法
(1)ニガウリ各部位の水及び80%エタノールでの抽出・凍結乾燥
2005年産のニガウリ5品種(宮崎N1号、宮崎N2号、宮崎N3号、宮崎N4号、佐土原3号(S3))の果肉、胎座、種子、葉の4部位を用いた。但し、佐土原3号の葉は今回入手できなかった。各種各部位の凍結乾燥粉末を1 g秤量し、水または80%エタノール30 mLで30秒間ボルテックスにて室温抽出を行った。抽出後、アスピレーターで吸引ろ過し、水抽出液のろ液は、凍結温度-30℃、乾燥温度30℃、乾燥時間24時間で真空凍結乾燥(真空凍結乾燥機、EYELA FDU-2100)した。一方の80%エタノール抽出ろ液は、ロータリーエバポレーター(BUCHI B-490, V-500, V-800, R-200)で濃縮後、減圧乾燥した。
【0027】
温度依存性の検討は宮崎N4号のニガウリ種子を用いた。このニガウリの収穫時期は5月であった。取り出した種子0.5 gをMilliQ水15 mLで30秒間室温で撹拌抽出した。得られた水抽出液を遠心分離器で3000 rpmで10分間処理した。上清をアスピレーターで吸引ろ過し、ろ液を、凍結温度-30℃、乾燥温度30℃、乾燥時間24時間で真空凍結乾燥(真空凍結乾燥機、EYELA FDU-2100)した。このようにして108.5 mgの乾燥粉末を得た。また、参考例として、果皮、胎座、葉も同様に処理した(参考例1)。更に、80%エタノール溶媒を用いて、各部位につき同様の抽出・乾燥処理を行った。なお、ニガウリ種子由来のレクチンの標品として、富士化学工業株式会社製の試薬(アジ化ナトリウム非添加特注品、力価x256)を購入して比較試験に供した。購入試薬は褐色と透明の2品を用いた。
【0028】
(2)種子破砕物由来の水再溶解物の加熱処理
上記で得られた粉末108.5 mgをMilliQ水10 mLに溶解し、0.22 μmのフィルターでろ過滅菌後、エッペンに300 μLずつ分注した。それらをサーモミキサーで温度を設定し5分間処理した。
【0029】
ATL細胞(ED)増殖抑制試験
ニガウリ種子の抽出エキスのATL細胞(ED)に対する増殖抑制作用をCell Counting Kit-8試薬で評価した。Cell Counting Kit-8は高感度水溶性ホルマザンを生成する新規テトラゾリウム塩WST-8を発色基質としている。WST-8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。このホルマザン量が生細胞数と比例することから、ホルマザンの吸光度(測定波長450 nm/対照波長650 nm)を直接測定することにより、生細胞数の測定ができるというものである。
【0030】
96wellプレートに被検細胞(ED細胞)の懸濁液(1.0×105 cells/mL)を90μLずつ加え、37℃、5%CO2存在下、相対湿度100%の条件で24時間培養した。調製したニガウリ種子水抽出試料の終濃度が0.01、0.03、0.12、0.49、1.95、7.81、31.25、125.00 μg/mLになるよう滅菌水で希釈を行い、上記96 wellプレートに10 μL/wellの割合で添加した。コントロールとして、上記の抽出試料の代わりに滅菌水を添加した。この後、さらに72時間培養した。次いでCell Counting Kit-8試薬(株式会社 同仁化学研究所)をPBSで10倍希釈し、これを50 μL/well加えて、さらに4時間培養した。培養後、650 nmを対照波長として、抽出試料の各濃度における溶解培養液の吸光度(450 nm)を吸光マイクロプレートリーダー(日本モレキュラーデバイス株式会社製 商品名:EMaxTM )で測定した。吸光度測定値から、コントロールに対する百分率を求め、抽出試料の各濃度における被検細胞の生細胞率(%)を算出した。生細胞率が50%になる値をIC50(50% 細胞増殖抑制濃度:μg/mL)とした。結果を図1に示す。
【0031】
(2)ニガウリ種子の加熱処理物の活性試験
加熱処理物とコントロール(非加熱処理群)を用いて、上記の細胞増殖抑制試験方法によって、IC50を測定した。
(3)電気泳動法
各加熱処理群に含まれる成分の温度による変化を調べるために、電気泳動を行った。定法に従って、SDS-PAGEを、ゲル濃度11%、泳動時間50分で行った。試料はLowry法にて、33 μgのBSAタンパクに揃えてアプライした。
【0032】
[2]試験結果
(1)ニガウリ各部位からの水抽出物のATL細胞増殖抑制活性
種子と果肉、胎座、葉から調製した水抽出物のATL細胞の増殖抑制活性について、表1にまとめた。種子の部位の抑制効果が顕著であり、また、80%エタノールに比して、水抽出の効果が高い結果であった。

【表1】

【0033】
(2)ニガウリ種子抽出物の加熱処理温度によるATL細胞増殖抑制活性の相違
上記で得られた各加熱処理温度を経た水溶液を用いて細胞増殖抑制効果を調べた。表2に示すように。75℃以上では抑制効果が失活した。図1に抑制効果保持の温度依存性を示した。

【表2】

【0034】
(3)電気泳動法の結果
結果を図2に示した。75℃以上では70℃以下の試料群と比較して34 kDa付近の明確なバンドが認められない。なお、70℃以下の試料群では、明確なバンドが認められた。
以上の結果、ニガウリはED細胞の増殖を強力に抑制すること、さらにその活性は75℃以上では失活することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のATLの細胞抑制剤、進展抑制剤、治療剤、及びその医薬製剤は、ATL発症患者に対する薬剤、医薬製剤として、広く利用することができる。また、HTLV-1感染患者に対して、ATL発症抑制が期待される。特に本発明は、天然の食用植物に由来する成分を有効成分とするものであるため、医薬品や長期に亘り安心して服用できる日常薬としての利用性が高い。更に、ATL患者やキャリア等に対する症状進展抑制等の機能性食品として有用である。

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ニガウリ種子抽出物の加熱処理温度によるED細胞増殖抑制活性を示した図である。
【図2】非加熱・加熱処理群に含まれる成分の電気泳動チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニガウリ種子の加工処理を70℃以下で行うことにより得られたニガウリ種子の処理物を有効成分とする成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
【請求項2】
加工処理を50〜70℃の範囲内で行うことにより得られたニガウリ種子の処理物を有効成分とする成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
【請求項3】
ニガウリ種子からの水抽出物を有効成分とする、請求項1乃至2に記載する成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載する増殖抑制剤を含む、成人T細胞白血病の進展抑止剤。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載する増殖抑制剤を含む、成人T細胞白血病治療剤。
【請求項6】
加工処理を50〜70℃の範囲内で行う、請求項3乃至5に記載する薬剤からの医薬製剤の製法。
【請求項7】
ニガウリ種子の加工処理を70℃以下で行うことにより得られた処理物を有効成分とする成人T細胞白血病改善のために用いられる食品組成物。
【請求項8】
ニガウリ種子からの水抽出物を有効成分とする、請求項7に記載する成人T細胞白血病細胞の増殖抑制剤。
【請求項9】
ニガウリ種子の加工処理を50〜70℃の範囲内で行うことにより得られた処理物を有効成分とする請求項7乃至8記載の食品組成物の製造法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57295(P2009−57295A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223799(P2007−223799)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】