説明

細胞増殖方法

軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞の増殖または培養のためのインビトロ方法であって、前記細胞を、マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖と接触させる工程を含む方法である。本発明はまた、アミノ糖を前記細胞と組み合わせて含有する組成物に関する。これらの組成物は、軟骨、骨、腱および靭帯の病変または欠陥、骨質量の損失、および骨軟骨欠陥または病変の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖または培養のためのインビトロ方法に関する。同様に、本発明は、新規の組成物、並びに軟骨欠陥もしくは病変、骨質量損失、骨病変、骨軟骨病変、腱病変および靭帯病変の処置のためにそれらを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
関節面上の欠陥または病変は、それらが軟骨下の骨に浸透しているか否かによって、軟骨および骨軟骨の病変または欠陥として分類し得る。
【0003】
軟骨(cartilage)病変としても知られる軟骨(chondral)病変は、長年の間、解決すべき難しい問題であった。
【0004】
軟骨(cartilage)は、成人の関節、肋骨、耳、鼻中隔および呼吸気道などに見出される結合組織の特別の形状である。関節の軟骨は、骨が互いに滑り合うようにしている。それはまた、身体の動きが惹き起こすストレスをも吸収する。骨関節症は、関節軟骨の変性を特徴とし、それが骨同士の摩擦の原因となり、関節の疼痛、腫脹および運動機能の喪失を惹き起こす。関節は、時の経過とともに変形していく。
【0005】
数々の研究は、軟骨、骨および軟組織、例えば、靭帯および腱などは、とりわけ成人において、その再生能力が制限されていることを確認している。正常な状態で、軟骨の再生は、細胞外マトリックス成分の定常的な合成(同化作用)と分解(異化作用)からなる非常にゆっくりとした経過である。軟骨細胞は、この代謝を統括する細胞であり、従って、それらが浸漬している細胞外マトリックスの形成、維持および修復を統括する細胞である。
【0006】
1987年、スエーデンにおいて、軟骨欠陥を修復するための他の処置に替わる治療法として、自己由来軟骨細胞の最初の移植が、ヒトにおいて実施された(ACI技法)。この技法により最も頻繁に処置された関節は、膝である。
【0007】
自己由来軟骨細胞の移植は、2段階で実施する技法である。最初の外科的介入では、関節軟骨のシートを摘出する。このサンプルを、移植に十分な数の軟骨細胞に達するまで培養する。2回目の外科的介入では、損傷領域を注意深く壊死組織切除し、培養した軟骨細胞を注入するために残した小孔を骨膜パッチで蔽う。軟骨細胞を移植した後、それを閉鎖し、骨膜を密封する。最近、骨膜の替わりに、I/III型コラーゲン膜を使用することが記載された(非特許文献1)。
【0008】
ヒトにおける自己由来軟骨細胞の最初の移植から、細胞を用いる軟骨の欠陥または病変の処置または修復に対する興味が、増大しつつあった。
【0009】
1994年、ACI技法を用いた臨床研究が公表された。当該研究は、膝に軟骨欠陥をもつ患者23人について実施された(非特許文献2)。
【0010】
異なるマトリックスもしくはスカフォールドを用いるか、または常用の培地に替わる別の培地を用いることによる新しい軟骨細胞増殖方法が、多くの公表文献に記載されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献3)。
【0011】
骨の組織は、他の結合組織と同様に、細胞、線維および基本的物質により形成される特別の結合組織であるが、他の組織とは異なって、細胞外の成分が石灰化して、それをその支持と保護機能に適する硬い堅固な物質に変化させる。それが身体内部の支持体を供給し、運動にとって必須の筋肉と靭帯に、組み込みの場所を提供する。
【0012】
活発に成長する骨においては、4つのタイプの骨細胞が識別される。骨前駆細胞、骨芽細胞、骨細胞および破骨細胞である。骨前駆細胞は、間葉系細胞から生産される細胞であり、増殖して、骨芽細胞または破骨細胞にのみ分化することができる。骨芽細胞は、骨の形成に関与する。
【0013】
骨の欠陥は、重大な医療上の、また社会経済上の難問である。現在、異なるタイプの生体材料が開発されつつあり、また損傷を受けた骨組織の再構築に適用されている(非特許文献4)。
【0014】
腱は、筋肉を骨につなぐ解剖学的構造体であり、靭帯は、骨を他の骨につなぐ同様の構造体である。それらは、円筒状の細長い構造体であり、密度の高い結合組織から形成され、平行にあるコラーゲン線維により一方向に引き伸ばされるように作られている。
【0015】
腱において支配的な細胞は、腱細胞という。腱細胞は、改造を含む分解と合成の過程を介してマトリックスの構造を維持する機能を有し、ある程度まで修復にも寄与し得る。それにもかかわらず、腱の細胞密度は比較的低く、成熟分裂活性は小さいが、そのことは組織の再生速度が低下していることと、その細胞がどの程度まで固有の修復を促進し得るかの問題を説明するものである。このことは、外来性細胞による処置が、腱組織工学において重要な戦略となり得ることを意味する。
【0016】
1994年、腱工学用の移植片を開発するために、予備的な研究が合成ポリマ線維および腱細胞について実施された(非特許文献5)。それ以来、様々な研究が、腱細胞移植片について公表されている(特許文献3、特許文献4)。
【0017】
腱の病変は、最も共通の整形外科の病変である。例えば、米国では各年、少なくとも100,000例がアキレス腱病変と診断され、治療を受けている(非特許文献6)。米国では毎年、前十字靭帯(ACL)の病変が、75,000から125,000例存在するとも推計されており(非特許文献7)、また世界全体では約300,000例と報告された。これらの症状はすべて、患者において重要な作業不能の原因となり得る。
【0018】
腱および軟骨と骨組織でのように、靭帯の自己修復能力は限られている。このことを理由として、細胞にもとづく治療による組織工学は、これらのタイプの組織の新世代の療法として、大いに興味のある分野の代表である。靭帯用移植片についての研究が、最近公表されている(非特許文献8、非特許文献9)。
【0019】
上記の結合軟骨、骨、腱および靭帯組織は、筋骨格系の基本的成分である。
【0020】
D−マンノサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−マンノース)は、シアル酸とその誘導体の合成に使用されるアミノ糖である。
【0021】
他のアミノ糖の使用による軟骨細胞の増殖について、それを考察または記載する文献が存在する。
【0022】
特許文献5は、アミノ糖グルコサミンの存在下での軟骨細胞の培養について、特許請求している。
【0023】
特許文献6は、グルコサミンのN−アシル誘導体を使用するとき、軟骨細胞の増殖が増大することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】国際公開第2005/082433号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/054446号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/26667号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/060033号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/104183号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6,479,469号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】C.R.Gooding et al.,The Knee,13(3),203−210(2006)
【非特許文献2】M.Brittberg et al.,N.Engl.J.Med.,331,889−895(1994)
【非特許文献3】K.F.Almqvist et al.,Ann.Rheum.Dis.,60,781−790(2001)
【非特許文献4】U.Kneser,et al.,骨の組織工学;再構成外科医の観点、J.Cell.Mol.Med.10(1),7−19(2006)
【非特許文献5】Y.Cao et al.,「腱細胞を種とする合成ポリマを用いての新腱の生成」、Transplant.Proc.26,3390−3391(1994)
【非特許文献6】A.Praemer et al.,「米国における筋骨格症状」第1版、American Academy of Orthopaedic Surgeons,パークリッジ、IL,1992
【非特許文献7】D.L.Butler et al.,「前十字靭帯:その正常な応答と置換」、Journal of Orthopaedic Research 7(6),910−912(1989)
【非特許文献8】K.Tsuchiya et al.「軟骨細胞、靭帯細胞および間葉幹細胞の接着に対する細胞接着分子の効果」、Materials Science and Engineering C17,79−82(2001)
【非特許文献9】J.A.Cooper,Jr.「組織工学靭帯用細胞源としての前十字靭帯、側副靭帯、アキレス腱および膝蓋靭帯の評価」、Biomaterials 27,2747−2754(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、本発明にて解決すべき問題は、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞の増殖または培養のための代替方法を提供すること、並びに、軟骨欠陥もしくは軟骨病変、骨質量損失、骨病変、骨軟骨病変、腱病変および靭帯病変の処置に使用される代替組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞の増殖または培養のためのインビトロ方法であって、前記細胞を、マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖と接触させる工程を含む方法について記載する。
【0028】
好適な実施態様において、結合組織細胞は、生体適合性支持体マトリックスに見出され、このマトリックスは、好ましくは重合性物質を含み、また、ヒトまたは動物の体内に移植するのに適している。
【0029】
より好適な実施態様において、前記アミノ糖は、マンノサミン塩酸塩である。
【0030】
本発明はまた、マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖を、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞と組み合わせて含有する組成物を開示する。好適な実施態様において、前記組成物は、生体適合性支持体マトリックス、好ましくは重合性物質のマトリックスをさらに含有する。最も好適なアミノ糖は、マンノサミン塩酸塩である。
【0031】
本発明の別の側面は、前記細胞が軟骨細胞または軟骨前駆細胞である場合の本発明の組成物の使用であって、軟骨欠陥または病変の処置または予防用の移植薬物調製のための使用である。好適な実施態様において、軟骨の欠陥または病変は、骨関節症疾患に存在する。
【0032】
本発明の別の側面は、前記細胞が軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞または骨前駆細胞である場合の本発明の組成物の使用であって、骨質量の損失の処置または予防用の移植薬物調製のための使用である。
【0033】
本発明の別の側面は、前記細胞が軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞または骨前駆細胞である場合の本発明の組成物の使用であって、骨欠陥または病変の処置用の移植薬物調製のための使用である。
【0034】
本発明の別の側面は、前記細胞が軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞または骨前駆細胞である場合の本発明の組成物の使用であって、骨軟骨欠陥または病変の処置用の移植薬物調製のための使用である。
【0035】
本発明の別の側面は、前記細胞が腱細胞または靭帯細胞である場合の本発明の組成物の使用であって、腱または靭帯病変の処置用の移植薬物調製のための使用である。
【0036】
好ましくは、本発明に使用されるアミノ糖であるマンノサミン、N−アセチルマンノサミンおよびマンノサミン塩は、D−系統のものである。
【0037】
前記アミノ糖は、アノマ型αまたはβで存在し得る。本発明は、個々のαおよびβ別個のアノマ両方およびそれらの混合物の使用を包含する。
【0038】
医薬的に許容される酸とのマンノサミン塩は、限定されるものではないが、以下の酸との塩である。塩酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、グルコン酸、ピルビン酸、フマル酸、プロピオン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アスコルビン酸、グルクロン酸およびリンゴ酸である。
【0039】
マンノサミン塩は、標準的アミノ糖塩調製法に従って調製し得る。一つの方法は、先にマンノサミン塩酸塩からマンノサミン塩基を得て、次いで、入手を欲する塩に応じて、対応する酸を加えることを含む。別の方法は、入手を欲する塩の、または酸の金属塩のアニオンを含む酸で予め条件づけたアニオン交換樹脂を用いて、マンノサミン塩酸塩から直接塩を得ることを含む。電気透析法を用いることもできる。
【0040】
マンノサミン塩酸塩は工業製品である(NZP、ニュージーランド・ファーマシュティカル(New Zealand Pharmaceutical))が、所望により、このものは、N−アセチルグルコサミンをCa(OH)水溶液でエピマ化し、次いで、その異性体を分離し、塩酸で処理し、脱色し、溶媒で沈殿させることにより調製することができる(Sugai et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,68,3581−3589(1995);Sugai et al.,Tetrahedron,53(7),2397−2400(1997))。
【0041】
本発明において、「インビトロ(in vitro)方法」という用語は、エキソビボ(ex vivo)と呼ぶ方法をも含む。
【0042】
本発明において、「軟骨前駆細胞」および「骨前駆細胞」という用語は、すでに部分的分化を達成している細胞に、また幹細胞の分化多能受容能力を失っている細胞に関する。換言すると、それらは進化の進行において、ある種の細胞系列に加わって、特異的な特殊化された細胞を与える幹細胞である。従って、軟骨前駆細胞は、軟骨細胞を生じ、骨前駆細胞は骨芽細胞と破骨細胞を生じるであろう。
【0043】
本発明において、「支持体マトリックス」という用語はまた、支持体スカフォールドをも含む。
【0044】
好ましくは、本発明にて使用される生体適合性支持体マトリックスまたはスカフォールドは、生物分解性物質、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、セルロース、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸塩、デキストラン、ヒアルロン酸またはその誘導体などから構成される。
【0045】
生体非分解性物質、例えば、テフロン(登録商標)、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステルまたはポリビニルなどから構成されるマトリックスも使用することができる。この場合、所望により、そのものをゼラチンなどの第二の物質で被覆して、細胞とポリマの結合を増強することもできる。
【0046】
マトリックスは、柔軟であっても、堅いものであってもよい。また、海綿状構造も使用することができる。
【0047】
本発明方法に従って、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞または靭帯細胞を増殖または培養するためには、細胞を、マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩またはそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖と接触しておく。それらにアミノ糖を加える前に、栄養分、抗生物質、成長因子および分化もしくは脱分化誘発剤を含み得る培地中に、細胞を浸漬することができる。選択肢として、アミノ糖は栄養分、抗生物質、成長因子および分化もしくは脱分化誘発剤を含み得る培地の一部を形成し得る。一旦増殖させた細胞は移植可能であるか、または選択肢として引き続く移植操作のために支持体マトリックスに移行させることが可能である。このことは、培養後に細胞が分化してしまっている場合に有用である。その理由は、細胞を支持体マトリックスに移行させるに際し、細胞の再分化および細胞外マトリックスの成分の合成が起こるからである。
【0048】
別法として、増殖する細胞は、予め支持体マトリックスに移行させ、その後、アミノ糖を含む培地を加え、細胞が支持体マトリックス上で増殖するようにする。
【0049】
移植を実施する前に、細胞を含む支持体マトリックスの細胞を洗浄して、培地を除去することができる。別法として、増殖した細胞とアミノ糖を含む組成物、または増殖した細胞、支持体マトリックスおよびアミノ糖(マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩またはそれらの混合物)を含む組成物を移植することもできる。この組成物はさらに、栄養分または培地の一部を形成する他の物質を含み得る。
【0050】
細胞は適切な細胞体積に成長するまでインビトロで増殖させ、次いで、その細胞をアミノ糖と一緒に移植し(マトリックスとともに、または無しに)、細胞がインビボで増殖し続けるようにすることができる。別法として、所望により、マトリックスの存在下または不存在下に、細胞を直接アミノ糖とともに移植し、増殖がインビボで起こるようにすることもできる。
【0051】
細胞培養と外科的移植の専門家にとって既知の培養法および移植法を用いることができる。
【0052】
本発明の目的とする組成物は、傷害を受けた軟骨、骨、腱または靭帯を修復および/または再生するために、マトリックスの存在下または不存在下の細胞の移植に替わるものである。
【0053】
細胞とアミノ糖は、本発明の組成物中に異なる濃度で存在し得る。
【0054】
軟骨細胞および/または軟骨前駆細胞(マトリックスの存在または不存在下)並びにマンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖を含有する本発明の組成物は、身体のいずれもの関節に存在し得る軟骨欠陥または病巣を処置するために有用である。前記欠陥は、外傷性全身傷害、出産欠陥または骨関節症などの疾患の結果であり得る。
【0055】
軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞および/または骨前駆細胞(マトリックスの存在または不存在下)並びにマンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖を含有する本発明の組成物は、外傷性全身傷害、遺伝子欠陥または疾患の結果であり得る骨または骨軟骨の欠陥または病巣を処置するために有用である。それらはまた、例えば、加齢、閉経とともに、または疾患の結果として生じ得る骨質量損失を処置するために有用である。
【0056】
腱細胞および/または靭帯細胞(マトリックスの存在または不存在下)並びにマンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖を含有する本発明の組成物は、腱病変または靭帯病変を処置するために有用である。
【0057】
本発明における「処置」という用語は、「修復」と「再生」という用語を含む。
【0058】
本発明において、我々が「欠陥」または「病巣」について言うとき、この用語は「磨耗」または「損失」という用語を含む。
【0059】
本発明の有利な点は、マンノサミン塩酸塩を使用する場合、軟骨細胞の増殖が、標準的な培地を用いた場合より、またはアミノ糖、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンを用いた場合よりも、より大きいということである。
【0060】
もう一つの有利な点は、軟骨細胞培養にマンノサミン塩酸塩を用いた場合、GAGの放出が、メタロプロテアーゼ活性であるとしたとき、標準的培地に比べて低下することである。
【0061】
本発明のもう一つの重要な利点は、軟骨細胞培養にN−アセチルマンノサミンを用いた場合に、GAGの合成が増加することである。活性を刺激する同化作用は、GAGが細胞外マトリックスの一部を形成するので重要である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】アルギン酸ビーズ1個あたりのデオキシリボ核酸(DNA)のレベルに対するマンノサミン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンの影響を3段階の濃度(1、5および10mM)で示す図である。
【図2】IL−1βでの刺激後、アルギン酸ビーズ1個あたりの軟骨細胞によりグリコサミノグリカン(GAG)総量に関連して放出されるGAGの百分率に対するマンノサミン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンの影響を2段階の濃度(1および10mM)で示す図である。
【図3】IL−1βでの刺激およびAPMA(酢酸4−アミノフェニル水銀)での活性化後、アルギン酸ビーズ1個あたりの軟骨細胞のメタロプロテアーゼ活性(MMP)に対するマンノサミン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンの影響を2段階の濃度(5および10mM)で示す図である。
【図4】DNAのレベルに関し、GAGレベルに対するN−アセチルマンノサミンおよびN−アセチルグルコサミンの影響を2段階の濃度(5および10mM)で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下の実施例は単なる説明のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
<DNAレベルを介して測定される軟骨細胞の増殖>
本目的は、インビトロ培養モデルにおける軟骨細胞増殖に対するマンノサミン塩酸塩の影響を判定することであった。
【0065】
マンノサミン塩酸塩の活性を、以下の化合物、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンと比較した。
【0066】
軟骨細胞の増大を定量化するために、デオキシリボ核酸(DNA)レベルの増大を定量した。
【0067】
<材料と方法>
ウシ起源の軟骨細胞を、すでに記載されている方法(B.Beekman et al.,Exp.Cell Res.237,135−141(1997))に従って、コラゲナーゼによる消化により単離した。
【0068】
単離したウシ軟骨細胞は、文献(J.DeGroot,et al.,266、303−310(2001))に記載された方法に従って培養した。軟骨細胞をアルギン酸支持体マトリックスに移行させ、濃度2.5×10細胞/mlの細胞を含むアルギン酸ビーズを形成させ、そこにアスコルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびFCS(ウシ胎児血清)を補填し、グルタマックス(Glutamax)を含むDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)に加えた。24時間後に培地を取替え、アルギン酸ビーズ(5個のビーズ/ウエル、250μlの培地/ウエル、48ウエルのプレート)に含まれる軟骨細胞を試験化合物(1、5および10mM濃度)の存在下または不存在下(対照)に培養した。培地は週に2回取り替えた。10日の最終日に、ビーズを集め(各ウエルにビーズ5個;1条件につきn=3ウエル)、分析するまで−20℃の温度で保存した。
【0069】
DNAレベルを定量化するために、ビーズをパパインで消化し、ヘキスト(Hoechst)33258(ビスベンズイミド)色素を用いた。アルギン酸ビーズ1個あたりのDNAレベルを定量した。
【0070】
すべての化合物と対照条件間の差の評価は、分散分析(ANOVA)によりアッセイした。次いで、LSD試験を実施し、各化合物と対照条件間の差を決定した。それらはp≦0.05である場合、統計的に有意であると見なした。
【0071】
<結果>
3段階の試験濃度(1、5および10mM)において、測定したDNA/ビーズの最高レベルは、マンノサミン塩酸塩で培養した細胞で得られた(図1)。
【0072】
マンノサミン塩酸塩およびグルコサミン塩酸塩双方が、DNAレベルの用量依存性増大を惹き起こした。有意差は、マンノサミン塩酸塩およびグルコサミン塩酸塩間に3段階の試験濃度で見出された。マンノサミン塩酸塩は、10mMの濃度で対照(化合物なし)よりも10倍高い増大をもたらし、一方、グルコサミン塩酸塩のもたらした増大は、4倍高であった。
【0073】
DNA含量に対する有意な影響は、N−アセチルグルコサミンでは観察されなかった。
【0074】
我々は、マンノサミン塩酸塩が軟骨細胞の増殖を刺激し、グルコサミン塩酸塩よりも遥かに有効であると結論し得る。
【0075】
(実施例2)
<アルギン酸ビーズにおける軟骨細胞からのグリコサミノグリカンの放出>
本目的は、アルギン酸ビーズにおいて、IL−1βによる刺激後の軟骨細胞からのグリコサミノグリカン(GAG)の放出に対するマンノサミン塩酸塩の影響を判定することであった。
【0076】
GAGの放出は、軟骨細胞においてIL−1βが誘発するプロテオグリカンに対する化合物の影響を評価するために使用する試験である。これは、軟骨細胞の異化作用活性の評価を可能とする。IL−1βが誘発するGAGの放出は、主としてアグリカナーゼにより仲介される。
【0077】
マンノサミン塩酸塩の活性を以下の化合物、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンと比較した。
【0078】
<材料と方法>
ウシ起源の軟骨細胞を、支持体マトリックスとしてのアルギン酸ビーズ中で、21日間培養した。試験すべき化合物は加えずに、75cmの培養皿にて、培地25ml中、約100個のビーズとする。培地は週に2回取り替えた。培養21日後、ビーズを48穴プレートに移し、1ウエルあたりビーズ5個、1ウエルあたり培地250μlとした。21日目に試験化合物を加え(マンノサミン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミン)、IL−1β(20ng/ml)で刺激した後、細胞外マトリックスの分解に対する影響を評価した。各化合物は、1および10mMの濃度で試験した。各実験において、各濃度は、対照(n=8ウエル)を例外として、n=3ウエルで試験した。アルギン酸ビーズをIL−1β(20ng/ml)および化合物とともに48時間インキュベートした後、培地を集めた(21日目から23日目)。23日目のビーズ中および培地中のGAG含量を測定した(アグリカナーゼが仲介するGAGの放出)。GAG含量は、パパインでの消化後に、ブリスキャン(Blyscan;商標)アッセイキット(バイオカラー(株)(Biocolor Ltd.))により定量した。
【0079】
結果は、総計のGAGに関連して放出されたGAGの百分率で表わした。
【0080】
すべての化合物と対照条件間の差の評価は、分散分析(ANOVA)によりアッセイした。次いで、LSD試験を実施し、各化合物と対照条件間の差を決定した。それらはp≦0.05である場合、統計的に有意であると見なした。
【0081】
<結果>
上限濃度(10mM)で、マンノサミン塩酸塩は、グルコサミン塩酸塩でのように、軟骨細胞によるGAGの放出を低下させた(図2)。
【0082】
マンノサミン塩酸塩は、対照(化合物を含まない培養)と比べて30%、GAGの放出を低下させた。
【0083】
骨関節症の軟骨におけるGAGの放出は、正常の軟骨と比較して大きく、それは冒された組織中のプロテオグリカン含量の低下を必然的に伴う。それ故、GAG放出の低下は、骨関節症病理におけるプロテオグリカン損失の低下につながるので、有益である。
【0084】
(実施例3)
<メタロプロテアーゼ活性の阻害>
本目的は、IL−1βによる刺激の後、アルギン酸ビーズ中の軟骨細胞のメタロプロテアーゼ活性に対するマンノサミン塩酸塩の影響を判定することであった。
【0085】
メタロプロテアーゼ活性は、軟骨細胞において、IL−1βにより誘発されるメタロプロテアーゼ(MMP)の放出に対する化合物の影響を評価するために使用する。これは軟骨細胞の異化作用活性を評価するために有用な試験である。メタロプロテアーゼは不活性な酵素前駆体として軟骨細胞により分泌されるが、APMA(酢酸4−アミノフェニル水銀)を用いて予め活性化する。
【0086】
軟骨の病理学的破壊の第一の原因は、高いタンパク質分解活性である。メタロプロテアーゼは、関節軟膏の細胞外マトリックスを分解する酵素の1種である。これらの酵素は、コラーゲンの三重へリックスを分解する大きな許容能力を有する。高レベルのコラゲナーゼは、骨関節症の患者に見出されているが、これらのレベルと骨関節症病変の重篤度との間の関係にも見出されている。
【0087】
マンノサミン塩酸塩の活性を、以下の化合物、グルコサミン塩酸塩およびN−アセチルグルコサミンと比較した。
【0088】
<材料と方法>
ウシ軟骨細胞を出発点として用い、実施例2の方法に従って実施したが、この事例では、各化合物を2段階の濃度(5および10mM)で試験した。
【0089】
軟骨細胞は、細胞外マトリックスを産生させるために、アルギン酸中、21日間培養した。化合物の存在または不存在下にIL−1βで2日間刺激した後、培地を取り替えた。次いで、20ng/mlのIL−1β、1mMのAPMAとともに、化合物の存在下または不存在下に、2時間インキュベーションした後、培地中のメタロプロテアーゼ活性を定量した。メタロプロテアーゼ活性は、メタロプロテアーゼTNO211−F用の基質(I.Tchetverikov et al.,Clin.Exp.Rheumatol.21,711−8(2003))を用いて定量化した。
【0090】
すべての化合物と対照条件間の差の評価は、分散分析(ANOVA)によりアッセイした。次いで、LSD試験を実施し、各化合物と対照条件間の差を決定した。それらはp≦0.05である場合、統計的に有意であると見なした。
【0091】
<結果>
図3に見られるように、試験したすべての化合物の中、マンノサミン塩酸塩のみがメタロプロテアーゼ活性を低下させた唯一の化合物である。
【0092】
マンノサミン塩酸塩は、10mMの濃度で、対照と比べ、メタロプロテアーゼ活性を30%低下させた。
【0093】
(実施例4)
<軟骨細胞を基準とするグリコサミノグリカンの定量>
本目的は、DNAによるGAG含量(すなわち、軟骨細胞数により補正)に対するマンノサミン塩酸塩の影響を判定することであった。
【0094】
これは、軟骨細胞を基準とするGAGの析出に対する化合物の影響を評価することを可能とするアッセイ法であり、軟骨細胞の異化作用活性を評価するために有用である。
【0095】
N−アセチルマンノサミンをN−アセチルグルコサミンと比較した。
【0096】
<材料と方法>
ウシ軟骨細胞を出発点として用い、実施例1と同じ方法(DNAレベルにより測定した軟骨細胞増殖)に従って実施したが、この事例では、各化合物を2段階の濃度(5および10mM)で試験した。
【0097】
GAG含量は、パパインでの消化後に、ブリスキャン(Blyscan;商標)アッセイキット(バイオカラー(株))により定量した。
【0098】
すべての化合物と対照条件間の差の評価は、分散分析(ANOVA)によりアッセイした。次いで、LSD試験を実施し、各化合物と対照条件間の差を決定した。それらはp≦0.05である場合、統計的に有意であると見なした。
【0099】
<結果>
図4に見られるように、N−アセチルマンノサミンは、軟骨細胞ごとにGAGレベルを用量依存的に増大させた。
【0100】
N−アセチルマンノサミンは、10mMの濃度で、対照(生成物なしの培養)と比べて、軟骨細胞あたりのGAG含量を63%増大させた。
【0101】
軟骨細胞あたりのGAG含量に対する有意な影響は、N−アセチルグルコサミンでは観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞の増殖または培養のためのインビトロ方法であって、前記細胞を、マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖と接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記結合組織細胞が、生体適合性支持体マトリックスに見出されるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生体適合性支持体マトリックスが、重合性物質を含有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記生体適合性支持体マトリックスが、ヒトまたは動物の身体移植に適するものである請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記アミノ糖が、マンノサミン塩酸塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
マンノサミン、N−アセチルマンノサミン、マンノサミン塩およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミノ糖を、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、腱細胞および靭帯細胞からなる群より選択される結合組織細胞と組み合わせて含有する組成物。
【請求項7】
さらに生体適合性支持体マトリックスを含有する請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記生体適合性支持体マトリックスが、重合性物質を含有する請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記アミノ糖が、マンノサミン塩酸塩である請求項6〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記結合組織細胞が、軟骨細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記結合組織細胞が、骨芽細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記結合組織細胞が、軟骨前駆細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記結合組織細胞が、骨前駆細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記結合組織細胞が、腱細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記結合組織細胞が、靭帯細胞である請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項10または12に記載の組成物の使用であって、軟骨欠陥または病変の処置または予防用の移植薬物調製のための使用。
【請求項17】
前記軟骨欠陥または病変が、骨関節症疾患に存在する請求項16に記載の使用。
【請求項18】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、骨質量損失の処置または予防用の移植薬物調製のための使用。
【請求項19】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、骨欠陥または病変の処置用の移植薬物調製のための使用。
【請求項20】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、骨軟骨欠陥または病変の処置用の移植薬物調製のための使用。
【請求項21】
請求項14または15に記載の組成物の使用であって、腱病変の処置用の移植薬物調製のための使用。
【請求項22】
請求項14または15に記載の組成物の使用であって、靭帯病変の処置用の移植薬物調製のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−545299(P2009−545299A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522162(P2009−522162)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006757
【国際公開番号】WO2008/014970
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(506041707)バイオイベリカ ソシエダッド アノニマ (6)
【Fターム(参考)】