細胞画像解析システム
【課題】生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞を特定し、特定した細胞の種類を認識可能な細胞画像解析システムを提供する。
【解決手段】細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する装置1と、画像を用いて生細胞の解析を行うコンピュータを備えた画像解析装置2を有する。画像解析装置2は、コンピュータを、画像における蛍光輝度が所定の閾値を上回る或いは隣接輝度との輝度差が所定の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する手段2a、蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する手段2b、当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの時間を計測する手段2c、細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する手段2hとして機能させる画像解析ソフトウェアを備える。
【解決手段】細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する装置1と、画像を用いて生細胞の解析を行うコンピュータを備えた画像解析装置2を有する。画像解析装置2は、コンピュータを、画像における蛍光輝度が所定の閾値を上回る或いは隣接輝度との輝度差が所定の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する手段2a、蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する手段2b、当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの時間を計測する手段2c、細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する手段2hとして機能させる画像解析ソフトウェアを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞の画像を取得し、取得した画像を用いて細胞を解析する細胞画像解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ES細胞、iPS細胞、癌肝細胞などの研究が盛んである。これらは、万能細胞と呼ばれる細胞であり、多様な細胞に分化することが可能である。
しかるに、これらの万能細胞が分化し、他の細胞に変化したことを顕微鏡観察しながら肉眼で確認することは、非常に困難である。分化する細胞が多種多様であり、細胞画像を肉眼で観察しただけでは、細胞画像中における細胞の種類を判別することが難しい。
このため、従来、万能細胞が分化して他の細胞に変化したことを確認するためには、分化した細胞を一旦取り出して増殖させ、増殖させた細胞に対して分子統計学的な解析を行うことによって、その分化した細胞の種類を特定するという手法を用いる必要があり、顕微鏡観察しながら分化した細胞の種類を特定することが困難であった。
【0003】
この問題を解決する方法として、本件出願人は、培養した細胞における細胞周期を特定し、特定した細胞周期における各期やM期内の詳細期に要した時間に応じて、分化する細胞の種類を検出することを着想した。
【0004】
従来、細胞周期を特定する方法としては、例えば、非特許文献1〜3、特許文献1に記載の方法がある。
【0005】
非特許文献1に記載の方法は、DNAインターカレータであるDAPIやPIを用いて、細胞周期を解析する方法であり、次のような手順で行われる。
DNAインターカレータは、DNAの二本鎖間に挿入される蛍光試薬である。培養した細胞にDNAインターカレータであるDAPIやPIで核を染色する。染色した細胞を、例えば、プレパラートに固定あるいはマルチウェルやシャーレ等の容器に収容して標本を作成し、顕微鏡を備えた撮像装置を介して画像を取得する。
取得した画像から核を認識して、各々の細胞を特定し、特定した細胞毎に、核内の蛍光量を測定する。蛍光量の測定は、核の画像ピクセル毎の輝度値の合計値と核内の画像ピクセルの最高輝度値との2つのパラメータから輝度の散布図を作図する。これにより、散布図上に各々の細胞が点として表される。散布図上に表された細胞集団における個々の細胞の相対的な輝度値からG1期、S期、G2期、M期、M期以後に層別することができる。また、プレパラート標本毎にG1期、S期、G2期、M期、M期以後のそれぞれに該当する細胞の割合を算出する、即ち、細胞周期における各期に該当する細胞の割合を算出することも可能である。
【0006】
この点に関し、詳述する。
DNAインターカレータを用いると、DNA量=細胞画像輝度、の関係が成り立つ。このため、以下の分析方法を用いることによって細胞周期の特定が可能となる。
即ち、細胞周期の各期においては、DNA量と核の凝集度が異なる。このDNA量と核の凝集度を、核の画像ピクセル毎の輝度値の合計値と核内の画像ピクセルの最高輝度値で測定する。
G1期においては、染色体が2本ある。このときのDNA量を2Nとする。S期においては、DNAの合成期にあり、2Nから4Nに増える過程にある。G2期においては、分裂前の準備期間にあり、DNA量がG1期の2倍に増えた状態(4N)となる。また、M期においては、核が凝集するので明るくなる。
そこで、G1期,S期,G2期は、DNA量(=DAPIの輝度の総和)によって特定する。DNAに直接結びつくタイプの蛍光試薬を用いると、蛍光量(核領域の輝度の総和)=DNA量となる。
M期は核の明るさで判断する。分裂期にある細胞は、輝度が明るく核が凝集している。このため、核領域中の最大輝度で判断する。
【0007】
しかし、非特許文献1に記載の方法は、蛍光試薬として用いるDAPIに細胞毒性があり、染色する際に細胞が死ぬ、或いは細胞の特性が変わってしまう等の影響が出ないように殺す等により固定標本を対象とせざるを得ず、細胞を生かしたままで解析することが困難であり、細胞周期の各期に該当する細胞の統計的な割合を算出することは可能であるが、特定の細胞の細胞分裂する時間の割合や細胞分裂期における細胞分裂する状況を把握することが出来ない。また、非特許文献1に記載の方法は、散布図を作図するために数百以上の細胞集団に対して輝度値をプロットする必要があるため、仮に、細胞を生かしたまま解析するようにしたとしても、時間が掛かり過ぎるため、生細胞を用いた細胞周期の期の解析には実用的でない。
【0008】
一方、蛍光顕微鏡(コンベンショナル顕微鏡、レーザ顕微鏡など)では、生きた細胞のタイムラプス観察が可能であり、サブマイクロ秒単位で細胞画像を取得し、M期における細胞分裂する状況を画像化することが可能である。このような細胞分裂する状況を画像化することにより、細胞の形態情報が認識できる。また、細胞が分裂した後、次に分裂するまでの画像を取得すれば、1サイクルの細胞分裂に要する時間(世代時間)も細胞の形態情報から認識可能である。
【0009】
しかし、細胞画像から細胞周期における各期を認識することは、細胞の形態情報のみからでは困難である。
例えば、特許文献1には、細胞の形状等からM期における細胞分裂の詳細期を特定することが可能であることが示されている。しかし、特許文献1に記載の方法は、M期における細胞分裂の詳細期のみを計測する方法であって、細胞を培養中に細胞周期における各期の時間を計測することができない。また、特許文献1の方法には、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することについての着想がない。
【0010】
また、近年、非特許文献2,3に記載の方法のような、細胞周期を可視化する方法が提案されている。
非特許文献2に記載の方法は、細胞周期における特定の時期にのみ存在する2種類のタンパク質に、それぞれ融合しうる2種類の蛍光タンパク質からなるFUCCIと呼ばれる蛍光プローブを細胞の核に導入して、細胞周期を可視化する方法である。FUCCIを導入された細胞は、G1期では赤色に光り、S期、G2期、M期では緑色に光る。非特許文献2に記載の方法を用いれば、G1期とそれ以外の期の時間を計測することが可能である。また、FUCCIには、DAPIなどの蛍光試薬とは異なり、細胞毒性がないので、細胞周期の1サイクルの時間(世代時間)のみならず、細胞を生きたままの状態にして長時間計測することができる。
【0011】
しかし、非特許文献2に記載の方法では、S期、G2期、M期の区別をすることができない。また、非特許文献2に記載の方法では、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することができない。また、蛍光タンパクは、上述した非特許文献1に記載のような蛍光試薬に比べて、生細胞から発する蛍光シグナルが弱く、細胞ごとにシグナルのバラツキが生じやすい。このため、非特許文献2に記載の方法では、細胞周期を高精度に解析し難い。
【0012】
非特許文献3の方法では、細胞周期に応じて細胞内における蛍光を発する部位が細胞核から細胞質へ移行する細胞周期マーカー(CCPM)を用いて、細胞周期を解析する。
しかし、非特許文献3に記載の方法では、細胞周期マーカーに毒性があるため、細胞を生きたままの状態では解析できず、細胞周期における各期を特定することができない。また、非特許文献3に記載の方法も、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することができない。
【0013】
さらに、これら特許文献1、非特許文献1〜3のいずれも、細胞周期の各期、或いはM期における詳細期を認識するものであって、種類の異なる細胞毎に、細胞周期の各期、M期における詳細期の時間を計測するものではないため、これらの方法では、細胞画像中における細胞の種類を判別することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−164551号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】製品カタログ“レーザスキャニングサイトメータ LSC2”, オリンパス光学工業株式会社
【非特許文献2】"Visualizing Spatiotemporal Dynamics of Multi cellular Cell-Cycle Progression", Cell 132, p487-498, February 8,2008, Elsevier inc.
【非特許文献3】“G1/S Cell Cycle Phase Maker Assay”,GEヘルスケア,[online],http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/cell-cycle/g1s.asp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、近年、生細胞の観察において、医療応用を目的としたiPS細胞やがん幹細胞による研究が盛んに行われている。また、iPS細胞の研究では、iPS細胞が樹立した後のがん化の問題が指摘されている。
このため、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化の正確な把握をすべく、細胞分裂に関する時間情報の定量化や細胞追跡のニーズが高まっている。
【0017】
また、iPS細胞の分化解析を含めて、一般的に生きたままの細胞を観察したいというニーズは多い。
固定状態(死んだ状態)の細胞からは、固定状態の前後の時点における細胞の状態を正確に把握することができず、前後の時点における細胞の状態は、一般に統計的に推測することができるに過ぎないのに対し、細胞が生きたままの状態で観察すれば、現時点の前後の時点における細胞の状態を正確に把握することができる。
iPS細胞などを含む幹細胞は、分裂と分化(「幹=元の状態」から、特定の種類の細胞に変化する状態)を繰り返していくが、特に、分化がどのように進行するのかを観察するためには、生きた細胞を観察途中で殺す(=固定する)ことができない。
また、生きたままの細胞を観察することによって、細胞集団の中で特異な細胞を抽出することができる。例えば、がん細胞などでは、極く少数の細胞だけが分裂時に異常を起こす場合がある。また、iPS細胞も作成方法によっては、がん化しやすくなることが知られている。このような細胞集団内における特異な細胞の抽出と解析を行うためには、個々の細胞に対して時間の経過にともなう状態の変化を辿るためにも、生きたままの細胞を解析することが必要である。
【0018】
しかし、特許文献1や非特許文献1〜3記載の技術では、上述のように、細胞周期の各期、或いはM期における詳細期を認識するものであって、種類の異なる細胞毎に、細胞周期の各期、M期における詳細期の時間を計測するものではないため、これらの方法では、異なる種類の細胞を特定することが難しい。このため、特定した種類の細胞ごとに、がん化等により細胞分裂を続けそうな細胞を事前に認識すること等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることが難しい。
【0019】
また、そもそも非特許文献1、3に記載の方法のようなDAPIやCCPM等の蛍光試薬は毒性があり、生細胞の観察に適さない。非特許文献2に記載の蛍光タンパクを用いれば生細胞を観察することができるが、蛍光タンパクから発せられる蛍光は通常の蛍光試薬から発せられる蛍光に比べて輝度が弱く、蛍光タンパク遺伝子導入時における細胞の環境(温度やPh)や、周囲の細胞の多さなど、の条件によって、蛍光タンパクの蛍光量(輝度)にバラツキが大きいうえ。G1期,S期,G2期を判別できず、しかもM期における詳細期を分類することができない。このため、従来の方法では、生細胞を観察しながら細胞周期の期及びM期における詳細期を特定することが難しい。
【0020】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞周期の各期、M期の詳細期を特定し、特定した期に応じて細胞の種類を認識でき、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることのできる細胞画像解析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明による細胞画像解析システムは、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する、顕微鏡を備えた画像取得装置と、前記画像取得装置が時系列に取得した画像を用いて生細胞に対する所定の解析を行う、コンピュータを備えた細胞画像解析装置と、を有する細胞画像解析システムであって、前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、前記画像取得装置が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する細胞領域特定手段、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する細胞周期の期検出手段、前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの細胞周期の期の時間を計測する細胞周期の期の時間計測手段、前記細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する同定手段、として機能させる画像解析ソフトウェアを備えたことを特徴としている。
【0022】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記データテーブルは、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞において、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光と、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光との対応付けを行うことによって得られたものであるのが好ましい。
【0023】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記蛍光タンパクが色の異なる2つの蛍光タンパクであり、前記細胞周期の期検出手段が、前記細胞領域特定手段が細胞領域として特定した画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞の画像を前記画像取得装置を介して取得し、前記細胞領域特定手段を介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記データテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と前記データテーブル作成用画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出するのが好ましい。
【0024】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間であるのが好ましい。
【0025】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間であるのが好ましい。
【0026】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するM期内の詳細期検出手段をさらに備えるのが好ましい。
【0027】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記M期内の詳細期検出手段が検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測するM期内の詳細期の時間計測手段をさらに備えるのが好ましい。
【0028】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する細胞周期の期の時間比較手段をさらに備えるのが好ましい。
【0029】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較するM期内の詳細期の時間比較手段をさらに備えるのが好ましい。
【0030】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記同定手段が、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定するのが好ましい。
【0031】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記同定手段は、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定するのが好ましい。
【0032】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出するのが好ましい。
【0033】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化するのが好ましい。
【0034】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化するのが好ましい。
【0035】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記画像取得装置は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得し、前記世代時間比較手段は、前記2つの計測条件下のそれぞれにおいて、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の世代時間を比較するのが好ましい。
【0036】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。
【0037】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。
【0038】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記蛍光タンパクが、FUCCIであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞周期の各期、M期の詳細期を特定し、特定した細胞を特定し、特定した期に応じて細胞の種類を認識でき、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることのできる細胞画像解析システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態にかかる細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】細胞から発される蛍光輝度と細胞周期との相関関係を示す図で、(a)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞を染色した蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す説明図、(b)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間経過特性を示す説明図、(c)は(a)と(b)との対応付けにより分類した、撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す図である。
【図3】M期内の詳細期ごとの細胞の状態を模式的に示す説明図で、(a)は前期における細胞の状態を示す図、(b)は前中期における細胞の状態を示す図、(c)は中期における細胞の状態を示す図、(d)は後期における細胞の状態を示す図、(e)は終期における細胞の状態を示す図、(f)は細胞質分裂の状態を示す図である。
【図4】本実施形態の細胞画像解析システムを用いた前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入から生細胞画像の解析までの全体の処理手順の概略を示す説明図である。
【図5】本実施形態の細胞画像解析システムにおける細胞画像解析装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】実施例1の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図7】種類の異なる細胞ごとの世代時間を模式的に示すグラフである。
【図8】実施例2の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図9】種類の異なる細胞ごとの世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係を模式的に示すグラフである。
【図10】実施例3の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図11】特定の細胞の世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係における理想値と測定値を模式的に示すグラフである。
【図12】実施例4の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図13】種類の異なる細胞ごとのM期内の詳細期の時間を模式的に示すグラフである。
【図14】実施例5の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図15】種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の各期の時間を模式的に示すグラフである。
【図16】実施例6の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図17】実施例7の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図18】実施例18の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
本実施形態の細胞画像解析システムは、画像取得装置1と、細胞画像解析装置2と、培養装置(図示省略)と、電動ステージ(図示省略)を有する。
画像取得装置1は、蛍光顕微鏡、共焦点レーザ蛍光顕微鏡など、細胞の蛍光画像を観察する顕微鏡を用いて構成されており、顕微鏡観察光学系1aと、撮像手段1bを有する。
顕微鏡観察光学系1aは、光源、照明レンズ、複数種類の励起フィルタをターレット等に備えた励起光切換手段、対物レンズ、吸収フィルタ、結像レンズ等、を備えた一般的な蛍光顕微鏡、共焦点レーザ蛍光顕微鏡における照明光学系及び観察光学系(図示省略)で構成されており、試料の像を撮像素子1b2の撮像面に結像する。
撮像手段1bは、撮像時間制御手段1b1と撮像素子1b2を有する。撮像素子1b2は、顕微鏡観察光学系1aを介して結像された細胞像を撮像する。撮像時間制御手段1b1は、撮像素子1b2が所定の時間的間隔でもって断続的に撮像動作を行うように制御する。
このような構成により、画像取得装置1は、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を所定の時間的な間隔でもって時系列に取得する。
【0042】
なお、生細胞の画像の時系列取得するための撮像時間制御手段1b1による時間的な間隔は、細胞周期における各期、M期内の詳細期の時間を算出するための単位であるサンプリング時間となる。このため、時間的な間隔は短い方が望ましい。本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1では、ms〜数百msの短時間から1時間程度の長時間に至るまでの所定の時間的な間隔でもって画像取得するよう撮像時間制御手段1b1が撮像する時間的な間隔を制御している。これに対し、細胞周期の1サイクルは、1日程度であるため、本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1が画像取得する時間的な間隔であれば、細胞周期の期の時間やM期内の詳細期の時間を算出する精度を充分に保つことが可能である。
【0043】
培養装置(図示省略)は、ディッシュやマイクロプレートなどの容器中に収容された細胞サンプルを、温度・湿度を一定に保った状態で培養する。
電動ステージ(図示省略)は、XYステージ等で構成されており、生細胞を収容したディシュやマイクロプレートを画像取得装置1における撮像位置に搬送する。
【0044】
本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1は、顕微鏡観察において一視野内であれば、複数の生細胞の画像を同時に取得することができるようになっている。
なお、顕微鏡観察における一視野に入らない生細胞に対しては、XYステージ等を用いて撮像位置に生細胞が位置するようにすることで、広範囲に生細胞の画像を取得することも可能になっている。あるいは、XYステージを用いる代わりに、撮像素子1b2をラインセンサ方式のTDI(Time Delay Integration:移動積分スキャン)カメラで構成することによって、広範囲に生細胞の画像を取得することができるようにしてもよい。
【0045】
細胞画像解析装置2は、コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)と、画像解析ソフトウェアを備えて構成されている。
画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、細胞領域特定手段2a、細胞周期の期検出手段2b、細胞周期の期の時間計測手段2c、M期内の詳細期検出手段2d、M期内の詳細期の時間計測手段2e、細胞周期の期の時間比較手段2f、M期内の詳細期の時間比較手段2g、同定手段2hとして機能させるように構成されている。
【0046】
細胞領域特定手段2aは、画像取得装置1が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度値の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する。
【0047】
細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量(即ち、画素群を構成する各画素の蛍光輝度を合計した値)の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、データテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する。
データテーブル2t−1は、予め蛍光タンパクを導入するとともに蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、生細胞と同種の細胞の画像を画像取得装置1を介して取得し、細胞領域特定手段2aを介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量(即ち、データテーブル作成用画素群を構成する各画素の蛍光輝度を合計した値)及び蛍光輝度の最大値(即ち、データテーブル作成用画素群を構成する画素のうち、最も蛍光輝度が高い画素の蛍光輝度)を用いて、細胞周期の期を分類するとともに、データテーブル作成用画素群における所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値とデータテーブル作成用画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されている。
【0048】
図2は細胞から発される蛍光輝度と細胞周期との相関関係を示す図で、(a)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞を染色した蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す説明図、(b)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間経過特性を示す説明図、(c)は(a)と(b)との対応付けにより分類した、撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す図である。
【0049】
図2(a)において、蛍光輝度の総量は、細胞内のDNA量を反映している。また、細胞内の蛍光輝度の最大値は、クロマチン凝集度を反映している。
細胞周期は、細胞分裂を起こす期であるM期と、M間とM期との間の期であるI期に分けられる。さらに、I期は、DNA合成の準備期であるG1期と、DNAが合成されて、染色体の複製が行われる期であるS期、S期とM期との間の細胞分裂の準備期であるG2期に分けられる。また、細胞周期から外れた期としてG0期がある。
【0050】
M期においては、細胞の分裂に際し、細胞内のDNAが合成されることによって複製された染色体が凝縮する。このため、M期においては、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が大きく、且つ、蛍光輝度の最大値が大きくなっている。
細胞分裂後(post M期)は、分裂した個々の細胞内のDNAが少なくなる。そして、G1期では、DNAの合成のために必要な酵素が活性化される。このため、G1期においては、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が小さくなっている。
なお、細胞は、通常、G1期おける酵素の活性化によりS期に移行するが、細胞分裂を続けない細胞は、G0期に移行する。
S期においては、細胞内でDNAが合成されて染色体が複製される。このため、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が増加している。
G2期においては、細胞分裂の準備の最終段階として、細胞内でタンパク質の合成が増加する。但し、この段階では、染色体は凝集していない。このため、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が大きく、且つ、蛍光輝度の最大値が小さくなっている。
【0051】
このように、生細胞の画素群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と生細胞の細胞周期の期には、相関関係がある。
このような相関関係は、DAPIなどの蛍光試薬を用いて染色した、大量の細胞集団における夫々の細胞領域として特定した画素群における蛍光輝度の総量及び細胞領域として特定した画素群内における最大蛍光輝度をプロットした散布図を作成し、散布図における相対的な値を用いて判別できる。しかし、DAPIなどの蛍光試薬を用いる方法では、細胞を長時間生きたままの状態にしておくことが出来ない。
【0052】
また、FUCCIなどの細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクを用いた蛍光プローブを細胞に導入すると、細胞周期の期に応じて特定のタンパクが発現する際に蛍光タンパクが同時に発現して異なる蛍光を発する、あるいは細胞周期の期に応じて1つの蛍光タンパクが異なる色を発する。このため、細胞における、蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間的な変化(例えば、図2(b)に示すようなFUCCIにおける赤色と緑色の夫々の光の輝度値の変化)、例えば、赤色と緑色の夫々の光に対して基準輝度を閾値として設定し、その基準輝度との相対的な大小関係によって、細胞周期の期を判別することができると考えられる。しかし、FUCCIを用いた場合、赤色、緑色の輝度値は、細胞ごとの性質や観察している細胞の周囲のノイズなどの要因によってバラツキが大きく、また、赤色に比べて緑色が強くなった状態での細胞周期の各期(S期,G2期,M期)を判別することが難しい。また、上記基準輝度の精度を上げるためには、多数の細胞の輝度値の平均を基準輝度とせざるを得ないが、それでは基準輝度から大きく外れた輝度値の光を発する細胞に対して正確な期を特定することが難しくなる。
【0053】
そこで、本発明では、予め、上述したDAPIなどの蛍光試薬を用いた方法とFUCCIを用いた方法とを組み合せることによって、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1を備えている。そして、細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、このデータテーブル2t−1と照合することによって、当該生細胞の細胞周期の期を検出する。
【0054】
ここで、データテーブル2t−1の具体的な作成例について説明する。
例えば、所定の蛍光試薬であるDNAインターカレータとして、ヘキスト、DRAQ5を用いて細胞核を染色する。なお、後述するように、この細胞には、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクとしてFUCCIも導入されている。
【0055】
まず、蛍光試薬を用いて細胞周期の期の検出を行う。
画像取得装置1を介して細胞画像を取得する。次いで、取得した細胞画像から細胞画像解析装置2の細胞領域特定手段2aを介して細胞における細胞核の領域を特定する。
次いで、細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定したデータテーブル作成用画素群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値をパラメータとした散布図を作成する(図2(a))。これにより、散布図上に細胞集団をなす各々の細胞が点として表される。次いで、散布図における細胞集団をなす各々の細胞の相対的な輝度値からG1期,S期,G2期,M期,post M期(分裂後)を層別する。
【0056】
一般に、G2期及びM期はG1期及びpost M期(分裂後)と比較して輝度の合計値が約2倍となる。そこで、散布図において、輝度の合計値が2倍離れて分布している範囲を割り出す。これらの範囲のうち、輝度の合計値が小さい方の範囲をG1期及びpost M期(分裂後)の範囲、大きい方の範囲をG2期及びM期の範囲とする。次いで、G1期及びpost M期(分裂後)、G2期及びM期に該当するそれぞれの範囲における輝度の合計値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、G1期及びpost M期(分裂後)に該当する範囲の輝度の合計値の平均値μから+3σを上回り、且つ、G2期及びM期に該当する範囲の輝度の合計値の平均値μから−3σを下回る範囲をS期の範囲とする。
次に、G1期及びpost M期(分裂後)の範囲における輝度の最大値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、輝度の最大値の平均値μから±3σの範囲をG1期の範囲、それ以外をpost M期(分裂後)の範囲とする。
同様に、G2期及びM期の範囲における輝度の最大値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、輝度の最大値の平均値μから±3σの範囲をG2期の範囲、それ以外をM期の範囲とする。
このようにして定めた、輝度の最大値、輝度の合計値に対応するG1期,G2期,S期,M期,post M期(分裂後)をコンピュータの記憶領域に格納する。
【0057】
次に、蛍光試薬を用いて得た細胞周期の期を、蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と対応付けする。
上記細胞の核には、例えば、細胞周期におけるそれぞれ異なる特定の時期にのみ存在するGemininとCdt1という2種類のタンパク質にそれぞれ融合しうる2種類の蛍光タンパク質からなるFUCCIと呼ばれる蛍光プローブが導入されている。
細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定したデータテーブル作成用画素群における蛍光のうち、Gemininに融合した蛍光タンパク質であるmAG1から発する緑色の光、Cdt1に融合したたんぱく質であるmkO2から発する赤色の光について、1サイクルの細胞周期分の時間において所定のピッチで取得された夫々の画像から検出する。なお、ここでは、緑色の光、赤色の光の特性の変化が1回りする時間を1サイクルとする。これにより、図2(b)に示すような緑色の光、赤色の光のそれぞれにおける時間に対する輝度値の総量の特性を示すグラフが得られる。
このとき、細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定した画素群において、上述の蛍光試薬を用いた方法により、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値が得られるとともに、その細胞周期の期が層別されている。
【0058】
そこで、次に、図2(a)に示す散布図における細胞群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と図2(b)に示す緑色の光、赤色の光のそれぞれの時間に対する輝度値の特性との対応付けを行い、対応付けしたデータをコンピュータの記憶領域に格納する。これにより、図2(b)で得た緑色の光、赤色の光のそれぞれの時間に対する輝度値の特性と、細胞周期のG1期,S期,G2期,M期とが、図2(c)に示すように対応付けられる。
次いで、図2(c)において、細胞周期のG1期,S期,G2期,M期に分けられたそれぞれの期間における緑色の光、赤色の光の輝度値の総量の比や、緑色の光と赤色の光の輝度値の総量の増加量を算出し、算出値をコンピュータの記憶領域に格納する。
これにより、データテーブル用画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の増加量に対応する細胞周期の期がコンピュータの記憶領域に格納された、データテーブル2t−1が作成される。
【0059】
上記の作成例のデータテーブル2t−1を用いた場合、細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光の輝度値の総量のうち、Cdtに融合した蛍光タンパク質であるmKO2から発する赤色の光がGemininに融合した蛍光タンパク質であるmAG1から発する緑色の光よりも大きいときは、データテーブル2t−1と照合してG1期と検出する。また、mAG1から発する緑色の光が、mKO2から発する赤色の光よりも大きいときは、mAG1から発する緑色の蛍光輝度の総量とmKO2から発する赤色の光の蛍光輝度の総量の比及び夫々の蛍光輝度ごとの増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期(S期,G2期,M期のいずれか)を検出する。
【0060】
このように作成されたデータテーブル2t−1を用いると、実際に観察する細胞に対しては、毒性の強い蛍光試薬で染色しなくて済むので、細胞を長時間生きたままの状態に保つことができる。また、データデーブル2t−1の作成時には、蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値に、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を対応付けたので、蛍光タンパクを用いた場合における細胞ごとの蛍光の輝度値のバラツキを補正でき、また、S期,G2期,M期を精度良く判別できるようになる。その結果、蛍光タンパクを用いて生細胞を観察しながら、精度良く細胞周期の期を検出することができるようになる。
【0061】
細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間を計測する。
上述したように、本実施形態の細胞画像解析システムにおいては、画像取得装置1が、撮像時間制御手段1b1等を介して生細胞の画像を一定の時間的間隔で時系列に取得する。このため、撮像時間制御手段1b1が制御する一定の時間的間隔に、細胞画像解析装置2において解析した画像の数を掛け合わせることで、所望の時間を算出することができる。
詳しくは、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、世代期間が算出される。
【0062】
また、本実施形態では、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間を計測する機能も備えている。
即ち、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、細胞周期の期の時間が算出される。
即ち、ここでの「細胞周期の期の時間」とは、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間のいずれも相当しうる。
【0063】
M期内の詳細期検出手段2dは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出する。
【0064】
図3はM期内の詳細期ごとの細胞の状態を模式的に示す説明図で、(a)は前期における細胞の状態を示す図、(b)は前中期における細胞の状態を示す図、(c)は中期における細胞の状態を示す図、(d)は後期における細胞の状態を示す図、(e)は終期における細胞の状態を示す図、(f)は細胞質分裂の状態を示す図である。
M期においては、有糸分裂と細胞質分裂が行われる。M期は、有糸分裂の段階に応じて、前期・前中期・中期・後期・終期に分けられる。
前期では、図3(a)に示すように、染色体3aが凝縮し、セントロゾーム(中心体)3bが2つ構成され、微小管3cが伸びる。前中期では、図3(b)に示すように、核膜3dが消失し、染色体3aが赤道面へ移動し始める。中期では、図3(c)に示すように、染色体3aが赤道面上に並ぶ。後期では、図3(d)に示すように、染色体3aが分離し始め、極方向に移動を開始する。終期では、図3(e)に示すように、染色体3aが両極へ移動を完了し凝集がなくなるとともに、新しい核膜3dが形成される。その後、細胞質分裂は、終期の間に始まる。そして、図3(f)に示すように、細胞質分裂により、細胞が2つに分裂する。
【0065】
このように、M期の詳細な各期においては、それぞれ、細胞に形態的特徴が現れる。
そこで、本実施形態の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2に備わるコンピュータの記憶領域に、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期を格納したデータテーブル2t−2を備えている。そして、M期内の詳細期検出手段2dが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することによって、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するようにしている。
【0066】
M期内の詳細期の時間計測手段2eは、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測する。
即ち、M期内の詳細期の時間計測手段2eは、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの解析対象となった細胞画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、M期内の詳細期の時間が算出される。
【0067】
細胞周期の期の時間比較手段2fは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する。そして、例えば、双方の期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。
なお、ここでの「第一の期の時間」及び「第二の期の時間」としては、例えば、互いに同一世代内における異なる二つの細胞周期の期同士の時間や、互いに異なる二つの世代における一つの細胞周期の期同士の時間が相当しうる。
【0068】
M期内の詳細期の時間比較手段2gは、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較する。そして、例えば、双方のM期内の詳細期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。
なお、ここでの「第一の詳細期の時間」と「第二の詳細期の時間」としては、例えば、互いに同一世代のM期内における異なる二つの詳細期の時間や、互いに異なる二つの世代における一つのM期内の詳細期の時間が相当しうる。
【0069】
同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の異なる詳細期同士の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定する。
同定手段2hは、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の異なる詳細期同士の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞集団の成長度、細胞の性質の少なくともいずれかを同定する。
【0070】
次に、このように構成された本実施形態の細胞画像解析システムを用いた生細胞の標識・染色から生細胞の画像の解析までの全体の処理手順について説明する。
図4は本実施形態の細胞画像解析システムを用いた前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入から生細胞の画像の解析までの全体の処理手順の概略を示す説明図である。
全体の処理は、図4に示すように、前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入(ステップS1)、画像取得装置1による生細胞の画像の取得(ステップS2)、細胞画像解析装置2による生細胞の画像の解析(ステップS3)の順で行う。生細胞への蛍光タンパクの導入(ステップS1)後、タイムラプス観察を行い、生細胞の画像の取得(ステップ2)と生細胞の画像の解析(ステップ3)を繰り返し行う。
【0071】
蛍光タンパクの導入処理段階(ステップS1)
蛍光タンパクの導入処理段階では、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクとして、FUCCI(Fluorescent Ubiqutination-based Cell Cycle Indicator: フーチ)を細胞内に導入する。そして、蛍光タンパクが導入された複数の細胞が、例えば、マルチウェルプレートに播種された状態にして、顕微鏡によりタイムラプス観察を行えるようにする。
【0072】
細胞画像取得段階(ステップS2)
撮像処理段階では、顕微鏡を用いて構成された細胞画像取得装置1の顕微鏡観察光学系1aが、試料中の生細胞の像を結像し、撮像素子1b2が顕微鏡観察光学系1aを介して結像された細胞像を所定の時間的間隔でもって撮像する。これにより、蛍光タンパクを導入された生細胞の画像が時系列に取得される。
【0073】
生細胞の画像の解析処理段階(ステップS3)
図5は本実施形態の細胞画像解析システムにおける細胞画像解析装置の処理手順を示すフローチャートである。
生細胞の画像の解析処理段階では、まず、細胞画像解析装置2の細胞領域特定手段2aが、画像取得装置1が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する(ステップS31)。
【0074】
次いで、細胞周期の期検出手段2bが、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、上述した、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する(ステップS32)。
【0075】
ここで、細胞周期の期が次の期に移行したときには、細胞周期の期の時間計測手段2cが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、細胞周期の期の時間を算出する(ステップS33,S34)。
【0076】
また、細胞周期の期が当世代の次世代の当該期に移行したときには、細胞周期の期の時間計測手段2cが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、世代期間を算出する(ステップS35,S36)。
【0077】
また、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合には、M期内の詳細期検出手段2dが、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出する(ステップS37,S38)。
【0078】
また、M期内の詳細期が次の期に移行したときには、M期内の詳細期の時間計測手段2eが、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、M期内の詳細期の時間を算出する(ステップS39,S40)。
【0079】
次いで、細胞周期の期の時間比較手段2gが、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較し、例えば、双方の期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。(ステップS41)。
【0080】
また、M期内の詳細期の時間比較手段2gが、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較し例えば、双方のM期内の詳細期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する(ステップS42)。
【0081】
このように、本実施形態の細胞画像解析システムでは、画像取得装置1を介して取得した画像を用いて細胞分裂に関連する諸情報を取得する。そこで、その意義について説明する。
【0082】
細胞は、細胞周期の進行を監視し、細胞の状態に異常等がある場合に、細胞周期の進行を減速ないし停止する制御機構(細胞周期チェックポイント)を備えている。
細胞周期チェックポイントは、次のポイントを監視し、異常が検知されたときに、チェックポイント制御因子と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素(サイクリン依存性キナーゼ:Cdk)とサイクリンという2種類のタンパク質からなる複合体の活性を制御することによって細胞周期の進行を減速ないし停止する。
・DNA複製チェック
DNAの複製が完了してM期へ進む準備が整っているかを監視する。
・紡錘体集合チェック
紡錘体の形成が正常でM期後期に移行できるかを監視する。
・染色体分離チェック
M期終期に正常な染色体分離分配がなされたかを監視する。
・DNA損傷チェック
G1期、G1期とS期との間、S期、G2期とM期との間で機能し、DNA損傷の修復が完了したかを監視する。
【0083】
細胞周期チェックポイントは、細胞周期の進行段階に応じて、例えば、G1期からS期へ移行する際のチェックポイント、S期チェックポイント、G2期からM期へ移行する際のチェックポイント、M期チェックポイント等に分類される。
G1期からS期へ移行する際のチェックポイントでは、G1期におけるDNA損傷の修復が完了したか否か、DNA複製に必要な栄養や、増殖因子が存在するか否か等を監視する。
S期チェックポイントでは、DNAの複製に不具合がないか否かを監視する。
G2期からM期へ移行する際のチェックポイントでは、DNA複製が完了したか否か、DNA損傷の修復が完了したか否か、DNA分配が可能であるか否か等を監視する。
M期チェックポイントでは、M期中期において、紡錘体の形成が完了したか否かを監視する。
【0084】
そして、G1期の通過はサイクリンD−Cdk4複合体、S期の開始はサイクリンE−Cdk2複合体、S期の通過はサイクリンA―Cdk2複合体、G2期の通過はサイクリンA−Cdk1(Cdc2)複合体、M期の開始はサイクリンB−Cdk1(Cdc2)複合体によってそれぞれ制御される。
【0085】
このように細胞は、細胞周期チェックポイントにより、DNAの損傷等、正常な細胞分裂を進行するための条件を満たしていないときに、細胞周期を停止し、その間にDNA傷害等を修復し不正な遺伝情報蓄積によるがん化等、細胞の変異を防止する。
【0086】
ところで、細胞周期チェックポイントによる細胞周期の進行の制御の破綻は、がんの発生と進行(細胞の無制御な異常増殖)の要因となると考えられている。
例えば、がん抑制遺伝子産物p53、Rb、BRCA1は,細胞周期チェックポイント制御に関与し、多くのがん抑制遺伝子産物はヒトのがんにおいて頻繁に不活性化され、多くのがんの原因となることが多い。細胞周期チェックポイントの異常は、遺伝的不安定性をもたらし、遺伝的不安定性は多くのがん細胞における主要な特徴となっている。
このようなことから、細胞周期における各期の時間やM期における各詳細期の時間の変化は、細胞の何らかの状態の変化を示し、さらには、細胞のがん化の予兆を示すシグナルとなり得るものと考えられる。
【0087】
そこで、本実施形態の細胞画像解析システムでは、生細胞の細胞周期の期やM期における詳細期における時間の長さや、それらの時間の長さの比によって細胞を分類・層別化するようにしている。具体的には、同定手段2hが、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定するようにしている。また、同定手段2hが、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定するようにしている。
【0088】
このため、本実施形態の細胞画像解析システムによれば、細胞分裂に関する時間的な情報に基づいて、細胞の種類を識別でき、さらに、例えば、細胞の特性の変化や、細胞の種類、細胞の分化の安定度、iPS細胞の樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞の樹立後の分化した細胞との識別、分化した細胞ごとの識別等、iPS細胞やES細胞、がん細胞の研究において有用と考えられる新たな解析データが得られる。
【0089】
なお、本実施形態の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、表示手段(図示省略)と接続可能あるいは表示手段を備えている。従って、同定手段2hが同定したデータは、表示手段を介して表示され得る。
【0090】
以下、本実施形態の細胞画像解析システムを用いた実施例について説明する。
実施例1
図6は実施例1の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図7は種類の異なる細胞ごとの世代時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに世代時間が異なる。
そこで、実施例1の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代時間を格納したデータテーブル2t−3を備えている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した夫々の生細胞の世代時間を、種類の異なる細胞ごとの世代時間が格納されたデータテーブル2t−3と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例1の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、世代時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0091】
実施例2
図8は実施例2の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図9は種類の異なる細胞ごとの世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに、世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係が異なり、その相関関係の違いは世代数を重ねるごとに明確になる。
そこで、実施例2の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値を格納したデータテーブル2t−4を備えている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に到達したとき、即ち、細胞領域特定手段2aが特定した夫々の生細胞の世代が変わるごとに世代数をカウントする世代数計測手段2iとしても機能させるように構成されている。また、細胞周期の期の時間計測手段2c’は、当該世代の世代期間を算出するとともに、世代ごとの世代期間を積算するように構成されている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2c’が計測した夫々の生細胞の世代時間の積算値及び世代数計測手段2iが計測した夫々の生細胞の世代数を、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値が格納されたデータテーブル2t−4と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例2の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類を、一世代の世代時間からでは特定することが難しい場合であっても、特定することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0092】
実施例3
図10は実施例3の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図11は特定の細胞の世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係における理想値と測定値を模式的に示すグラフである。
一般に細胞は、分裂を繰り返していくにつれて固有の形態および機能を持った細胞へと変化して行く。分化とは、この形態的機能的な細胞の変化をいう。また、一般に細胞は、未分化細胞ほど細胞周期が短く盛んに細胞分裂を繰り返す傾向がある。また、正常組織の細胞は、分化の方向は一方向である。これに対し、がん細胞は、分化の方向が逆行する幼若化・脱分化という性質を有している。また、がん細胞は、分化度の低いものほど増殖が早くて悪性度が高く、分化度の高いものほど比較的悪性度が低い傾向にある。このため、細胞の分化度や分化の安定度は、細胞のがん化やがん細胞の状態を検知する指標となると考えられる。
【0093】
そこで、実施例3の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関の理想値及び理想値からの乖離度に応じた細胞分化の安定度を格納したデータテーブル2t−5を備えている。また、同定手段2hは、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2c’が計測した夫々の生細胞の世代時間の積算値及び世代数計測手段2iが計測した夫々の生細胞の世代数を用いて、夫々の生細胞における世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関を算出し、算出した相関値を、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関の理想値及び理想値からの乖離度に応じた細胞分化の安定度が格納されたデータテーブル2t−5と照合して、夫々の細胞について細胞分化の安定度を検出するように構成されている。
実施例3の細胞画像解析システムによれば、複数世代の細胞の世代時間から、細胞分化の安定度を検出することができ、細胞のがん化や、がん化した細胞の悪性度などの診断に寄与しうる。
その他の構成及び作用効果は、図1及び図8に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0094】
実施例4
図12は実施例4の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図13は種類の異なる細胞ごとのM期内の詳細期の時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとにM期内の詳細期の時間及びM期全体の時間が異なる。
そこで、実施例4の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとのM期内の時間を詳細期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−6を備えている。また、同定手段2hは、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した夫々の生細胞のM期内の詳細期の時間及びM期全体の時間を、種類の異なる細胞ごとのM期内の時間を詳細期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−6と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例4の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、M期内の詳細期の時間及びM期全体の時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0095】
実施例5
図14は実施例5の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図15は種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の各期の時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに一世代における細胞周期の各期の時間及び世代時間が異なる。
そこで、実施例5の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の時間を各期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−7を備えている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した一世代における夫々の生細胞の細胞周期の各期の時間及び世代時間を、種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の時間を各期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−7と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例5の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、一世代における細胞周期の各期の時間及び世代時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0096】
実施例6
図16は実施例6の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
がん化等、細胞の変化に伴い世代時間も変化するものと考えられる。
そこで、実施例6の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの異なる世代同士の世代時間の比較値(例えば、双方の世代時間の差分値)に対応する生細胞の変化情報を格納したデータテーブル2t−8を備えている。また、細胞周期の期の時間計測手段2cは、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2jとしても機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2jが比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブル2t−8と照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出するように構成されている。
実施例6の細胞画像解析装置によれば、一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値から、細胞の変化を検出することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0097】
実施例7
図17は実施例7の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
がん細胞等に対しては、層別化を行うことがその後の治療効果を上げるために重要であると考えられる。
そこで、実施例7の細胞画像解析システムでは、細胞周期の期の時間計測手段2c”は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2c”が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2j’として機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2j’が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブル2−9と照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化するように構成されている。
その他の構成は、図16に示した細胞画像解析システムと略同じである。
実施例7の細胞画像解析装置によれば、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値から、当該二つ以上の生細胞を層別化することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0098】
実施例8
図18は実施例18の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
実施例8の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの異なる世代同士の世代時間の比較値(例えば、双方の世代時間の差分値)に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報を格納したデータテーブル2t−10を備えている。また、細胞周期の期の時間計測手段2c”は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、細胞周期の期の時間計測手段2c”が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2j’として機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2j’が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブル2t−10と照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化するように構成されている。
実施例8の細胞画像解析装置によれば、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値から、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出すると同時に当該二つ以上の生細胞を層別化することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0099】
実施例9
実施例9の細胞画像解析システムでは、画像取得装置1は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得するように構成されている。
また、世代時間比較手段2j(2j’)は、2つの計測条件下のそれぞれにおいて、細胞周期の期の時間計測手段2c(2c’,2c”)が計測した当該生細胞の世代時間を比較する。
その他の構成は、実施例1〜8のいずれかの細胞画像解析システムと略同じである。
【0100】
なお、上記各実施例の細胞画像解析システムにおいては、解析対象の生細胞は、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。または、生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであってもよい。
さらに、上記各実施例の細胞画像解析システムにおいては、蛍光色素が、FUCCIであるのが好ましい。
【0101】
上記各実施例の細胞画像解析システムによれば、がん化等による細胞分裂を続けそうな細胞を事前に認識し、細胞周期における細胞の変化を正確に捉えることができる。
なお、本発明の細胞画像解析システムは、上記実施例に記載の構成に限定されるものではなく、例えば、上記各実施例において特有の構成を任意に組み合せた構成としてもよい。
【0102】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、細胞画像解析装置2を介して解析された解析結果に応じて、特定の細胞に対して詳細な画像の取得を行うように、画像取得装置1の画像取得動作を制御するようにしてもよい。
例えば、細胞画像解析装置2を介して特異な細胞が検出された場合、画像取得装置1における顕微鏡観察光学系1aの倍率を高倍率にする、あるいは、撮像時間制御手段1の撮像時間間隔を短くする等の制御をして、この特異な細胞の分裂時の詳細な画像を取得するようにしてもよい。
【0103】
また、細胞画像取得のための時間は短いほうが、正確な細胞周期の期の時間を計測するためには好ましい。一方、画像取得装置1として用いる顕微鏡装置がレーザ顕微鏡の場合、撮像時におけるレーザによる細胞へのダメージを考慮すると、撮像のインターバルは長いほうが好ましい。そこで、細胞画像解析装置2を介して得られたデータから、細胞周期において注目を所望する期(細胞周期における所定の期やM期における所定の詳細期)の開始時刻と終了時刻を予測し、その所望する期を挟む前後の時間帯のみ撮像のインターバルを短くするとよい。
例えば、生細胞をG1期とG1期以外の期の長さの比で層別する場合、画像取得装置1は、当初は例えば1時間間隔のインターバルで生細胞を撮像し、細胞画像解析装置2が画像を解析する。ここで、細胞画像解析装置2がG1期からS期へ移行しそうな生細胞を検出した場合、画像取得装置1は、インターバルを例えば10分間隔に短縮して生細胞を撮像する。そして、細胞画像解析装置2がS期に移行した期の時間を測定し、その後、画像取得装置1は元のインターバル(例えば1時間間隔)で撮像する。
同様に、例えば、M期からPostM期に移行するまでの時間で層別する場合、細胞画像解析装置2がM期からPostM期へ移行しそうな生細胞を検出した場合、画像取得装置1は、インターバルを例えば5分間隔に短縮して生細胞を撮像する。そして、細胞画像解析装置2がPostM期に移行した(細胞が完全に分裂した)時間を測定し、その後、画像取得装置1は元のインターバル(例えば1時間間隔)で撮像する。
このようにすれば、細胞へ与えるダメージを極力抑えながら、細胞周期における所望の期の時間を正確に計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の細胞画像解析システムは、医療応用を目的としたiPS細胞、ES細胞、がん細胞を用いた診断や細胞遺伝子学研究を行う分野に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 細胞画像取得装置
1a 顕微鏡観察光学系
1b 撮像手段
1b1 撮像時間制御手段
1b2 撮像素子
2 細胞画像解析装置
2a 細胞領域特定手段
2b 細胞周期の期検出手段
2c,2c’,2c” 細胞周期の期の時間計測手段
2d M期内の詳細期検出手段
2e M期内の詳細期の時間計測手段
2f 細胞周期の期の時間比較手段
2g M期内の詳細期の時間比較手段
2h 同定手段
2i 世代数計測手段
2j,2j’ 世代時間比較手段
2t−1,2t−2,2t−3,2t−4,2t−5,2t−6,2t−7,2t−8,2t−9 データテーブル
3a 染色体
3b セントロゾーム(中心体)
3c 微小管
3d 核膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞の画像を取得し、取得した画像を用いて細胞を解析する細胞画像解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ES細胞、iPS細胞、癌肝細胞などの研究が盛んである。これらは、万能細胞と呼ばれる細胞であり、多様な細胞に分化することが可能である。
しかるに、これらの万能細胞が分化し、他の細胞に変化したことを顕微鏡観察しながら肉眼で確認することは、非常に困難である。分化する細胞が多種多様であり、細胞画像を肉眼で観察しただけでは、細胞画像中における細胞の種類を判別することが難しい。
このため、従来、万能細胞が分化して他の細胞に変化したことを確認するためには、分化した細胞を一旦取り出して増殖させ、増殖させた細胞に対して分子統計学的な解析を行うことによって、その分化した細胞の種類を特定するという手法を用いる必要があり、顕微鏡観察しながら分化した細胞の種類を特定することが困難であった。
【0003】
この問題を解決する方法として、本件出願人は、培養した細胞における細胞周期を特定し、特定した細胞周期における各期やM期内の詳細期に要した時間に応じて、分化する細胞の種類を検出することを着想した。
【0004】
従来、細胞周期を特定する方法としては、例えば、非特許文献1〜3、特許文献1に記載の方法がある。
【0005】
非特許文献1に記載の方法は、DNAインターカレータであるDAPIやPIを用いて、細胞周期を解析する方法であり、次のような手順で行われる。
DNAインターカレータは、DNAの二本鎖間に挿入される蛍光試薬である。培養した細胞にDNAインターカレータであるDAPIやPIで核を染色する。染色した細胞を、例えば、プレパラートに固定あるいはマルチウェルやシャーレ等の容器に収容して標本を作成し、顕微鏡を備えた撮像装置を介して画像を取得する。
取得した画像から核を認識して、各々の細胞を特定し、特定した細胞毎に、核内の蛍光量を測定する。蛍光量の測定は、核の画像ピクセル毎の輝度値の合計値と核内の画像ピクセルの最高輝度値との2つのパラメータから輝度の散布図を作図する。これにより、散布図上に各々の細胞が点として表される。散布図上に表された細胞集団における個々の細胞の相対的な輝度値からG1期、S期、G2期、M期、M期以後に層別することができる。また、プレパラート標本毎にG1期、S期、G2期、M期、M期以後のそれぞれに該当する細胞の割合を算出する、即ち、細胞周期における各期に該当する細胞の割合を算出することも可能である。
【0006】
この点に関し、詳述する。
DNAインターカレータを用いると、DNA量=細胞画像輝度、の関係が成り立つ。このため、以下の分析方法を用いることによって細胞周期の特定が可能となる。
即ち、細胞周期の各期においては、DNA量と核の凝集度が異なる。このDNA量と核の凝集度を、核の画像ピクセル毎の輝度値の合計値と核内の画像ピクセルの最高輝度値で測定する。
G1期においては、染色体が2本ある。このときのDNA量を2Nとする。S期においては、DNAの合成期にあり、2Nから4Nに増える過程にある。G2期においては、分裂前の準備期間にあり、DNA量がG1期の2倍に増えた状態(4N)となる。また、M期においては、核が凝集するので明るくなる。
そこで、G1期,S期,G2期は、DNA量(=DAPIの輝度の総和)によって特定する。DNAに直接結びつくタイプの蛍光試薬を用いると、蛍光量(核領域の輝度の総和)=DNA量となる。
M期は核の明るさで判断する。分裂期にある細胞は、輝度が明るく核が凝集している。このため、核領域中の最大輝度で判断する。
【0007】
しかし、非特許文献1に記載の方法は、蛍光試薬として用いるDAPIに細胞毒性があり、染色する際に細胞が死ぬ、或いは細胞の特性が変わってしまう等の影響が出ないように殺す等により固定標本を対象とせざるを得ず、細胞を生かしたままで解析することが困難であり、細胞周期の各期に該当する細胞の統計的な割合を算出することは可能であるが、特定の細胞の細胞分裂する時間の割合や細胞分裂期における細胞分裂する状況を把握することが出来ない。また、非特許文献1に記載の方法は、散布図を作図するために数百以上の細胞集団に対して輝度値をプロットする必要があるため、仮に、細胞を生かしたまま解析するようにしたとしても、時間が掛かり過ぎるため、生細胞を用いた細胞周期の期の解析には実用的でない。
【0008】
一方、蛍光顕微鏡(コンベンショナル顕微鏡、レーザ顕微鏡など)では、生きた細胞のタイムラプス観察が可能であり、サブマイクロ秒単位で細胞画像を取得し、M期における細胞分裂する状況を画像化することが可能である。このような細胞分裂する状況を画像化することにより、細胞の形態情報が認識できる。また、細胞が分裂した後、次に分裂するまでの画像を取得すれば、1サイクルの細胞分裂に要する時間(世代時間)も細胞の形態情報から認識可能である。
【0009】
しかし、細胞画像から細胞周期における各期を認識することは、細胞の形態情報のみからでは困難である。
例えば、特許文献1には、細胞の形状等からM期における細胞分裂の詳細期を特定することが可能であることが示されている。しかし、特許文献1に記載の方法は、M期における細胞分裂の詳細期のみを計測する方法であって、細胞を培養中に細胞周期における各期の時間を計測することができない。また、特許文献1の方法には、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することについての着想がない。
【0010】
また、近年、非特許文献2,3に記載の方法のような、細胞周期を可視化する方法が提案されている。
非特許文献2に記載の方法は、細胞周期における特定の時期にのみ存在する2種類のタンパク質に、それぞれ融合しうる2種類の蛍光タンパク質からなるFUCCIと呼ばれる蛍光プローブを細胞の核に導入して、細胞周期を可視化する方法である。FUCCIを導入された細胞は、G1期では赤色に光り、S期、G2期、M期では緑色に光る。非特許文献2に記載の方法を用いれば、G1期とそれ以外の期の時間を計測することが可能である。また、FUCCIには、DAPIなどの蛍光試薬とは異なり、細胞毒性がないので、細胞周期の1サイクルの時間(世代時間)のみならず、細胞を生きたままの状態にして長時間計測することができる。
【0011】
しかし、非特許文献2に記載の方法では、S期、G2期、M期の区別をすることができない。また、非特許文献2に記載の方法では、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することができない。また、蛍光タンパクは、上述した非特許文献1に記載のような蛍光試薬に比べて、生細胞から発する蛍光シグナルが弱く、細胞ごとにシグナルのバラツキが生じやすい。このため、非特許文献2に記載の方法では、細胞周期を高精度に解析し難い。
【0012】
非特許文献3の方法では、細胞周期に応じて細胞内における蛍光を発する部位が細胞核から細胞質へ移行する細胞周期マーカー(CCPM)を用いて、細胞周期を解析する。
しかし、非特許文献3に記載の方法では、細胞周期マーカーに毒性があるため、細胞を生きたままの状態では解析できず、細胞周期における各期を特定することができない。また、非特許文献3に記載の方法も、M期における細胞分裂の詳細期の時間や詳細期毎の時間を計測することができない。
【0013】
さらに、これら特許文献1、非特許文献1〜3のいずれも、細胞周期の各期、或いはM期における詳細期を認識するものであって、種類の異なる細胞毎に、細胞周期の各期、M期における詳細期の時間を計測するものではないため、これらの方法では、細胞画像中における細胞の種類を判別することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−164551号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】製品カタログ“レーザスキャニングサイトメータ LSC2”, オリンパス光学工業株式会社
【非特許文献2】"Visualizing Spatiotemporal Dynamics of Multi cellular Cell-Cycle Progression", Cell 132, p487-498, February 8,2008, Elsevier inc.
【非特許文献3】“G1/S Cell Cycle Phase Maker Assay”,GEヘルスケア,[online],http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/cell-cycle/g1s.asp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、近年、生細胞の観察において、医療応用を目的としたiPS細胞やがん幹細胞による研究が盛んに行われている。また、iPS細胞の研究では、iPS細胞が樹立した後のがん化の問題が指摘されている。
このため、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化の正確な把握をすべく、細胞分裂に関する時間情報の定量化や細胞追跡のニーズが高まっている。
【0017】
また、iPS細胞の分化解析を含めて、一般的に生きたままの細胞を観察したいというニーズは多い。
固定状態(死んだ状態)の細胞からは、固定状態の前後の時点における細胞の状態を正確に把握することができず、前後の時点における細胞の状態は、一般に統計的に推測することができるに過ぎないのに対し、細胞が生きたままの状態で観察すれば、現時点の前後の時点における細胞の状態を正確に把握することができる。
iPS細胞などを含む幹細胞は、分裂と分化(「幹=元の状態」から、特定の種類の細胞に変化する状態)を繰り返していくが、特に、分化がどのように進行するのかを観察するためには、生きた細胞を観察途中で殺す(=固定する)ことができない。
また、生きたままの細胞を観察することによって、細胞集団の中で特異な細胞を抽出することができる。例えば、がん細胞などでは、極く少数の細胞だけが分裂時に異常を起こす場合がある。また、iPS細胞も作成方法によっては、がん化しやすくなることが知られている。このような細胞集団内における特異な細胞の抽出と解析を行うためには、個々の細胞に対して時間の経過にともなう状態の変化を辿るためにも、生きたままの細胞を解析することが必要である。
【0018】
しかし、特許文献1や非特許文献1〜3記載の技術では、上述のように、細胞周期の各期、或いはM期における詳細期を認識するものであって、種類の異なる細胞毎に、細胞周期の各期、M期における詳細期の時間を計測するものではないため、これらの方法では、異なる種類の細胞を特定することが難しい。このため、特定した種類の細胞ごとに、がん化等により細胞分裂を続けそうな細胞を事前に認識すること等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることが難しい。
【0019】
また、そもそも非特許文献1、3に記載の方法のようなDAPIやCCPM等の蛍光試薬は毒性があり、生細胞の観察に適さない。非特許文献2に記載の蛍光タンパクを用いれば生細胞を観察することができるが、蛍光タンパクから発せられる蛍光は通常の蛍光試薬から発せられる蛍光に比べて輝度が弱く、蛍光タンパク遺伝子導入時における細胞の環境(温度やPh)や、周囲の細胞の多さなど、の条件によって、蛍光タンパクの蛍光量(輝度)にバラツキが大きいうえ。G1期,S期,G2期を判別できず、しかもM期における詳細期を分類することができない。このため、従来の方法では、生細胞を観察しながら細胞周期の期及びM期における詳細期を特定することが難しい。
【0020】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞周期の各期、M期の詳細期を特定し、特定した期に応じて細胞の種類を認識でき、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることのできる細胞画像解析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明による細胞画像解析システムは、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する、顕微鏡を備えた画像取得装置と、前記画像取得装置が時系列に取得した画像を用いて生細胞に対する所定の解析を行う、コンピュータを備えた細胞画像解析装置と、を有する細胞画像解析システムであって、前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、前記画像取得装置が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する細胞領域特定手段、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する細胞周期の期検出手段、前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの細胞周期の期の時間を計測する細胞周期の期の時間計測手段、前記細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する同定手段、として機能させる画像解析ソフトウェアを備えたことを特徴としている。
【0022】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記データテーブルは、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞において、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光と、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光との対応付けを行うことによって得られたものであるのが好ましい。
【0023】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記蛍光タンパクが色の異なる2つの蛍光タンパクであり、前記細胞周期の期検出手段が、前記細胞領域特定手段が細胞領域として特定した画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞の画像を前記画像取得装置を介して取得し、前記細胞領域特定手段を介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記データテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と前記データテーブル作成用画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出するのが好ましい。
【0024】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間であるのが好ましい。
【0025】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間であるのが好ましい。
【0026】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するM期内の詳細期検出手段をさらに備えるのが好ましい。
【0027】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記M期内の詳細期検出手段が検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測するM期内の詳細期の時間計測手段をさらに備えるのが好ましい。
【0028】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する細胞周期の期の時間比較手段をさらに備えるのが好ましい。
【0029】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較するM期内の詳細期の時間比較手段をさらに備えるのが好ましい。
【0030】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記同定手段が、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定するのが好ましい。
【0031】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記同定手段は、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定するのが好ましい。
【0032】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出するのが好ましい。
【0033】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化するのが好ましい。
【0034】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化するのが好ましい。
【0035】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記画像取得装置は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得し、前記世代時間比較手段は、前記2つの計測条件下のそれぞれにおいて、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の世代時間を比較するのが好ましい。
【0036】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。
【0037】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。
【0038】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、前記蛍光タンパクが、FUCCIであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞周期の各期、M期の詳細期を特定し、特定した細胞を特定し、特定した期に応じて細胞の種類を認識でき、例えば、iPS細胞が樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞が樹立した細胞と樹立後に分化した細胞との識別、iPS細胞が樹立した後に分化した細胞ごとの識別等や、細胞周期における細胞の状態の変化を正確に捉えることのできる細胞画像解析システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態にかかる細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】細胞から発される蛍光輝度と細胞周期との相関関係を示す図で、(a)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞を染色した蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す説明図、(b)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間経過特性を示す説明図、(c)は(a)と(b)との対応付けにより分類した、撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す図である。
【図3】M期内の詳細期ごとの細胞の状態を模式的に示す説明図で、(a)は前期における細胞の状態を示す図、(b)は前中期における細胞の状態を示す図、(c)は中期における細胞の状態を示す図、(d)は後期における細胞の状態を示す図、(e)は終期における細胞の状態を示す図、(f)は細胞質分裂の状態を示す図である。
【図4】本実施形態の細胞画像解析システムを用いた前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入から生細胞画像の解析までの全体の処理手順の概略を示す説明図である。
【図5】本実施形態の細胞画像解析システムにおける細胞画像解析装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】実施例1の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図7】種類の異なる細胞ごとの世代時間を模式的に示すグラフである。
【図8】実施例2の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図9】種類の異なる細胞ごとの世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係を模式的に示すグラフである。
【図10】実施例3の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図11】特定の細胞の世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係における理想値と測定値を模式的に示すグラフである。
【図12】実施例4の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図13】種類の異なる細胞ごとのM期内の詳細期の時間を模式的に示すグラフである。
【図14】実施例5の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図15】種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の各期の時間を模式的に示すグラフである。
【図16】実施例6の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図17】実施例7の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図18】実施例18の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
本実施形態の細胞画像解析システムは、画像取得装置1と、細胞画像解析装置2と、培養装置(図示省略)と、電動ステージ(図示省略)を有する。
画像取得装置1は、蛍光顕微鏡、共焦点レーザ蛍光顕微鏡など、細胞の蛍光画像を観察する顕微鏡を用いて構成されており、顕微鏡観察光学系1aと、撮像手段1bを有する。
顕微鏡観察光学系1aは、光源、照明レンズ、複数種類の励起フィルタをターレット等に備えた励起光切換手段、対物レンズ、吸収フィルタ、結像レンズ等、を備えた一般的な蛍光顕微鏡、共焦点レーザ蛍光顕微鏡における照明光学系及び観察光学系(図示省略)で構成されており、試料の像を撮像素子1b2の撮像面に結像する。
撮像手段1bは、撮像時間制御手段1b1と撮像素子1b2を有する。撮像素子1b2は、顕微鏡観察光学系1aを介して結像された細胞像を撮像する。撮像時間制御手段1b1は、撮像素子1b2が所定の時間的間隔でもって断続的に撮像動作を行うように制御する。
このような構成により、画像取得装置1は、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を所定の時間的な間隔でもって時系列に取得する。
【0042】
なお、生細胞の画像の時系列取得するための撮像時間制御手段1b1による時間的な間隔は、細胞周期における各期、M期内の詳細期の時間を算出するための単位であるサンプリング時間となる。このため、時間的な間隔は短い方が望ましい。本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1では、ms〜数百msの短時間から1時間程度の長時間に至るまでの所定の時間的な間隔でもって画像取得するよう撮像時間制御手段1b1が撮像する時間的な間隔を制御している。これに対し、細胞周期の1サイクルは、1日程度であるため、本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1が画像取得する時間的な間隔であれば、細胞周期の期の時間やM期内の詳細期の時間を算出する精度を充分に保つことが可能である。
【0043】
培養装置(図示省略)は、ディッシュやマイクロプレートなどの容器中に収容された細胞サンプルを、温度・湿度を一定に保った状態で培養する。
電動ステージ(図示省略)は、XYステージ等で構成されており、生細胞を収容したディシュやマイクロプレートを画像取得装置1における撮像位置に搬送する。
【0044】
本実施形態の細胞画像解析システムにおける画像取得装置1は、顕微鏡観察において一視野内であれば、複数の生細胞の画像を同時に取得することができるようになっている。
なお、顕微鏡観察における一視野に入らない生細胞に対しては、XYステージ等を用いて撮像位置に生細胞が位置するようにすることで、広範囲に生細胞の画像を取得することも可能になっている。あるいは、XYステージを用いる代わりに、撮像素子1b2をラインセンサ方式のTDI(Time Delay Integration:移動積分スキャン)カメラで構成することによって、広範囲に生細胞の画像を取得することができるようにしてもよい。
【0045】
細胞画像解析装置2は、コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)と、画像解析ソフトウェアを備えて構成されている。
画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、細胞領域特定手段2a、細胞周期の期検出手段2b、細胞周期の期の時間計測手段2c、M期内の詳細期検出手段2d、M期内の詳細期の時間計測手段2e、細胞周期の期の時間比較手段2f、M期内の詳細期の時間比較手段2g、同定手段2hとして機能させるように構成されている。
【0046】
細胞領域特定手段2aは、画像取得装置1が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度値の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する。
【0047】
細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量(即ち、画素群を構成する各画素の蛍光輝度を合計した値)の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、データテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する。
データテーブル2t−1は、予め蛍光タンパクを導入するとともに蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、生細胞と同種の細胞の画像を画像取得装置1を介して取得し、細胞領域特定手段2aを介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量(即ち、データテーブル作成用画素群を構成する各画素の蛍光輝度を合計した値)及び蛍光輝度の最大値(即ち、データテーブル作成用画素群を構成する画素のうち、最も蛍光輝度が高い画素の蛍光輝度)を用いて、細胞周期の期を分類するとともに、データテーブル作成用画素群における所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値とデータテーブル作成用画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されている。
【0048】
図2は細胞から発される蛍光輝度と細胞周期との相関関係を示す図で、(a)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞を染色した蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す説明図、(b)は撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間経過特性を示す説明図、(c)は(a)と(b)との対応付けにより分類した、撮像した細胞画像において細胞領域として特定された画素群における、細胞に導入した蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と細胞の細胞周期の期との相関関係を示す図である。
【0049】
図2(a)において、蛍光輝度の総量は、細胞内のDNA量を反映している。また、細胞内の蛍光輝度の最大値は、クロマチン凝集度を反映している。
細胞周期は、細胞分裂を起こす期であるM期と、M間とM期との間の期であるI期に分けられる。さらに、I期は、DNA合成の準備期であるG1期と、DNAが合成されて、染色体の複製が行われる期であるS期、S期とM期との間の細胞分裂の準備期であるG2期に分けられる。また、細胞周期から外れた期としてG0期がある。
【0050】
M期においては、細胞の分裂に際し、細胞内のDNAが合成されることによって複製された染色体が凝縮する。このため、M期においては、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が大きく、且つ、蛍光輝度の最大値が大きくなっている。
細胞分裂後(post M期)は、分裂した個々の細胞内のDNAが少なくなる。そして、G1期では、DNAの合成のために必要な酵素が活性化される。このため、G1期においては、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が小さくなっている。
なお、細胞は、通常、G1期おける酵素の活性化によりS期に移行するが、細胞分裂を続けない細胞は、G0期に移行する。
S期においては、細胞内でDNAが合成されて染色体が複製される。このため、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が増加している。
G2期においては、細胞分裂の準備の最終段階として、細胞内でタンパク質の合成が増加する。但し、この段階では、染色体は凝集していない。このため、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量が大きく、且つ、蛍光輝度の最大値が小さくなっている。
【0051】
このように、生細胞の画素群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と生細胞の細胞周期の期には、相関関係がある。
このような相関関係は、DAPIなどの蛍光試薬を用いて染色した、大量の細胞集団における夫々の細胞領域として特定した画素群における蛍光輝度の総量及び細胞領域として特定した画素群内における最大蛍光輝度をプロットした散布図を作成し、散布図における相対的な値を用いて判別できる。しかし、DAPIなどの蛍光試薬を用いる方法では、細胞を長時間生きたままの状態にしておくことが出来ない。
【0052】
また、FUCCIなどの細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクを用いた蛍光プローブを細胞に導入すると、細胞周期の期に応じて特定のタンパクが発現する際に蛍光タンパクが同時に発現して異なる蛍光を発する、あるいは細胞周期の期に応じて1つの蛍光タンパクが異なる色を発する。このため、細胞における、蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量の時間的な変化(例えば、図2(b)に示すようなFUCCIにおける赤色と緑色の夫々の光の輝度値の変化)、例えば、赤色と緑色の夫々の光に対して基準輝度を閾値として設定し、その基準輝度との相対的な大小関係によって、細胞周期の期を判別することができると考えられる。しかし、FUCCIを用いた場合、赤色、緑色の輝度値は、細胞ごとの性質や観察している細胞の周囲のノイズなどの要因によってバラツキが大きく、また、赤色に比べて緑色が強くなった状態での細胞周期の各期(S期,G2期,M期)を判別することが難しい。また、上記基準輝度の精度を上げるためには、多数の細胞の輝度値の平均を基準輝度とせざるを得ないが、それでは基準輝度から大きく外れた輝度値の光を発する細胞に対して正確な期を特定することが難しくなる。
【0053】
そこで、本発明では、予め、上述したDAPIなどの蛍光試薬を用いた方法とFUCCIを用いた方法とを組み合せることによって、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1を備えている。そして、細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、このデータテーブル2t−1と照合することによって、当該生細胞の細胞周期の期を検出する。
【0054】
ここで、データテーブル2t−1の具体的な作成例について説明する。
例えば、所定の蛍光試薬であるDNAインターカレータとして、ヘキスト、DRAQ5を用いて細胞核を染色する。なお、後述するように、この細胞には、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクとしてFUCCIも導入されている。
【0055】
まず、蛍光試薬を用いて細胞周期の期の検出を行う。
画像取得装置1を介して細胞画像を取得する。次いで、取得した細胞画像から細胞画像解析装置2の細胞領域特定手段2aを介して細胞における細胞核の領域を特定する。
次いで、細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定したデータテーブル作成用画素群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値をパラメータとした散布図を作成する(図2(a))。これにより、散布図上に細胞集団をなす各々の細胞が点として表される。次いで、散布図における細胞集団をなす各々の細胞の相対的な輝度値からG1期,S期,G2期,M期,post M期(分裂後)を層別する。
【0056】
一般に、G2期及びM期はG1期及びpost M期(分裂後)と比較して輝度の合計値が約2倍となる。そこで、散布図において、輝度の合計値が2倍離れて分布している範囲を割り出す。これらの範囲のうち、輝度の合計値が小さい方の範囲をG1期及びpost M期(分裂後)の範囲、大きい方の範囲をG2期及びM期の範囲とする。次いで、G1期及びpost M期(分裂後)、G2期及びM期に該当するそれぞれの範囲における輝度の合計値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、G1期及びpost M期(分裂後)に該当する範囲の輝度の合計値の平均値μから+3σを上回り、且つ、G2期及びM期に該当する範囲の輝度の合計値の平均値μから−3σを下回る範囲をS期の範囲とする。
次に、G1期及びpost M期(分裂後)の範囲における輝度の最大値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、輝度の最大値の平均値μから±3σの範囲をG1期の範囲、それ以外をpost M期(分裂後)の範囲とする。
同様に、G2期及びM期の範囲における輝度の最大値の平均値(μ)と標準偏差(シグマ:σ)を計算する。そして、輝度の最大値の平均値μから±3σの範囲をG2期の範囲、それ以外をM期の範囲とする。
このようにして定めた、輝度の最大値、輝度の合計値に対応するG1期,G2期,S期,M期,post M期(分裂後)をコンピュータの記憶領域に格納する。
【0057】
次に、蛍光試薬を用いて得た細胞周期の期を、蛍光タンパクから発せられる異なる色ごとの蛍光輝度の総量と対応付けする。
上記細胞の核には、例えば、細胞周期におけるそれぞれ異なる特定の時期にのみ存在するGemininとCdt1という2種類のタンパク質にそれぞれ融合しうる2種類の蛍光タンパク質からなるFUCCIと呼ばれる蛍光プローブが導入されている。
細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定したデータテーブル作成用画素群における蛍光のうち、Gemininに融合した蛍光タンパク質であるmAG1から発する緑色の光、Cdt1に融合したたんぱく質であるmkO2から発する赤色の光について、1サイクルの細胞周期分の時間において所定のピッチで取得された夫々の画像から検出する。なお、ここでは、緑色の光、赤色の光の特性の変化が1回りする時間を1サイクルとする。これにより、図2(b)に示すような緑色の光、赤色の光のそれぞれにおける時間に対する輝度値の総量の特性を示すグラフが得られる。
このとき、細胞領域特定手段2aが細胞における細胞核の領域として特定した画素群において、上述の蛍光試薬を用いた方法により、図2(a)に示すように、蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値が得られるとともに、その細胞周期の期が層別されている。
【0058】
そこで、次に、図2(a)に示す散布図における細胞群における蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と図2(b)に示す緑色の光、赤色の光のそれぞれの時間に対する輝度値の特性との対応付けを行い、対応付けしたデータをコンピュータの記憶領域に格納する。これにより、図2(b)で得た緑色の光、赤色の光のそれぞれの時間に対する輝度値の特性と、細胞周期のG1期,S期,G2期,M期とが、図2(c)に示すように対応付けられる。
次いで、図2(c)において、細胞周期のG1期,S期,G2期,M期に分けられたそれぞれの期間における緑色の光、赤色の光の輝度値の総量の比や、緑色の光と赤色の光の輝度値の総量の増加量を算出し、算出値をコンピュータの記憶領域に格納する。
これにより、データテーブル用画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の増加量に対応する細胞周期の期がコンピュータの記憶領域に格納された、データテーブル2t−1が作成される。
【0059】
上記の作成例のデータテーブル2t−1を用いた場合、細胞周期の期検出手段2bは、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光の輝度値の総量のうち、Cdtに融合した蛍光タンパク質であるmKO2から発する赤色の光がGemininに融合した蛍光タンパク質であるmAG1から発する緑色の光よりも大きいときは、データテーブル2t−1と照合してG1期と検出する。また、mAG1から発する緑色の光が、mKO2から発する赤色の光よりも大きいときは、mAG1から発する緑色の蛍光輝度の総量とmKO2から発する赤色の光の蛍光輝度の総量の比及び夫々の蛍光輝度ごとの増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期(S期,G2期,M期のいずれか)を検出する。
【0060】
このように作成されたデータテーブル2t−1を用いると、実際に観察する細胞に対しては、毒性の強い蛍光試薬で染色しなくて済むので、細胞を長時間生きたままの状態に保つことができる。また、データデーブル2t−1の作成時には、蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値に、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を対応付けたので、蛍光タンパクを用いた場合における細胞ごとの蛍光の輝度値のバラツキを補正でき、また、S期,G2期,M期を精度良く判別できるようになる。その結果、蛍光タンパクを用いて生細胞を観察しながら、精度良く細胞周期の期を検出することができるようになる。
【0061】
細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間を計測する。
上述したように、本実施形態の細胞画像解析システムにおいては、画像取得装置1が、撮像時間制御手段1b1等を介して生細胞の画像を一定の時間的間隔で時系列に取得する。このため、撮像時間制御手段1b1が制御する一定の時間的間隔に、細胞画像解析装置2において解析した画像の数を掛け合わせることで、所望の時間を算出することができる。
詳しくは、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、世代期間が算出される。
【0062】
また、本実施形態では、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間を計測する機能も備えている。
即ち、細胞周期の期の時間計測手段2cは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、細胞周期の期の時間が算出される。
即ち、ここでの「細胞周期の期の時間」とは、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間のいずれも相当しうる。
【0063】
M期内の詳細期検出手段2dは、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出する。
【0064】
図3はM期内の詳細期ごとの細胞の状態を模式的に示す説明図で、(a)は前期における細胞の状態を示す図、(b)は前中期における細胞の状態を示す図、(c)は中期における細胞の状態を示す図、(d)は後期における細胞の状態を示す図、(e)は終期における細胞の状態を示す図、(f)は細胞質分裂の状態を示す図である。
M期においては、有糸分裂と細胞質分裂が行われる。M期は、有糸分裂の段階に応じて、前期・前中期・中期・後期・終期に分けられる。
前期では、図3(a)に示すように、染色体3aが凝縮し、セントロゾーム(中心体)3bが2つ構成され、微小管3cが伸びる。前中期では、図3(b)に示すように、核膜3dが消失し、染色体3aが赤道面へ移動し始める。中期では、図3(c)に示すように、染色体3aが赤道面上に並ぶ。後期では、図3(d)に示すように、染色体3aが分離し始め、極方向に移動を開始する。終期では、図3(e)に示すように、染色体3aが両極へ移動を完了し凝集がなくなるとともに、新しい核膜3dが形成される。その後、細胞質分裂は、終期の間に始まる。そして、図3(f)に示すように、細胞質分裂により、細胞が2つに分裂する。
【0065】
このように、M期の詳細な各期においては、それぞれ、細胞に形態的特徴が現れる。
そこで、本実施形態の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2に備わるコンピュータの記憶領域に、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期を格納したデータテーブル2t−2を備えている。そして、M期内の詳細期検出手段2dが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することによって、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するようにしている。
【0066】
M期内の詳細期の時間計測手段2eは、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測する。
即ち、M期内の詳細期の時間計測手段2eは、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの解析対象となった細胞画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせる。これにより、M期内の詳細期の時間が算出される。
【0067】
細胞周期の期の時間比較手段2fは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する。そして、例えば、双方の期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。
なお、ここでの「第一の期の時間」及び「第二の期の時間」としては、例えば、互いに同一世代内における異なる二つの細胞周期の期同士の時間や、互いに異なる二つの世代における一つの細胞周期の期同士の時間が相当しうる。
【0068】
M期内の詳細期の時間比較手段2gは、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期に変化するまで、またはM期の終期が次の細胞周期の期であるG1期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較する。そして、例えば、双方のM期内の詳細期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。
なお、ここでの「第一の詳細期の時間」と「第二の詳細期の時間」としては、例えば、互いに同一世代のM期内における異なる二つの詳細期の時間や、互いに異なる二つの世代における一つのM期内の詳細期の時間が相当しうる。
【0069】
同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の異なる詳細期同士の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定する。
同定手段2hは、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の異なる詳細期同士の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞集団の成長度、細胞の性質の少なくともいずれかを同定する。
【0070】
次に、このように構成された本実施形態の細胞画像解析システムを用いた生細胞の標識・染色から生細胞の画像の解析までの全体の処理手順について説明する。
図4は本実施形態の細胞画像解析システムを用いた前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入から生細胞の画像の解析までの全体の処理手順の概略を示す説明図である。
全体の処理は、図4に示すように、前段階の処理としての生細胞への蛍光タンパクの導入(ステップS1)、画像取得装置1による生細胞の画像の取得(ステップS2)、細胞画像解析装置2による生細胞の画像の解析(ステップS3)の順で行う。生細胞への蛍光タンパクの導入(ステップS1)後、タイムラプス観察を行い、生細胞の画像の取得(ステップ2)と生細胞の画像の解析(ステップ3)を繰り返し行う。
【0071】
蛍光タンパクの導入処理段階(ステップS1)
蛍光タンパクの導入処理段階では、細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクとして、FUCCI(Fluorescent Ubiqutination-based Cell Cycle Indicator: フーチ)を細胞内に導入する。そして、蛍光タンパクが導入された複数の細胞が、例えば、マルチウェルプレートに播種された状態にして、顕微鏡によりタイムラプス観察を行えるようにする。
【0072】
細胞画像取得段階(ステップS2)
撮像処理段階では、顕微鏡を用いて構成された細胞画像取得装置1の顕微鏡観察光学系1aが、試料中の生細胞の像を結像し、撮像素子1b2が顕微鏡観察光学系1aを介して結像された細胞像を所定の時間的間隔でもって撮像する。これにより、蛍光タンパクを導入された生細胞の画像が時系列に取得される。
【0073】
生細胞の画像の解析処理段階(ステップS3)
図5は本実施形態の細胞画像解析システムにおける細胞画像解析装置の処理手順を示すフローチャートである。
生細胞の画像の解析処理段階では、まず、細胞画像解析装置2の細胞領域特定手段2aが、画像取得装置1が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する(ステップS31)。
【0074】
次いで、細胞周期の期検出手段2bが、細胞領域特定手段2aが細胞領域として特定した画素群における蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、上述した、蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブル2t−1と照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する(ステップS32)。
【0075】
ここで、細胞周期の期が次の期に移行したときには、細胞周期の期の時間計測手段2cが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、細胞周期の期の時間を算出する(ステップS33,S34)。
【0076】
また、細胞周期の期が当世代の次世代の当該期に移行したときには、細胞周期の期の時間計測手段2cが、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、世代期間を算出する(ステップS35,S36)。
【0077】
また、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合には、M期内の詳細期検出手段2dが、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブル2t−2と照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出する(ステップS37,S38)。
【0078】
また、M期内の詳細期が次の期に移行したときには、M期内の詳細期の時間計測手段2eが、M期内の詳細期検出手段2dが検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの解析対象となった画像の数をカウントし、その画像数を撮像時間制御手段1b1において定められた所定の時間的間隔に掛け合わせて、M期内の詳細期の時間を算出する(ステップS39,S40)。
【0079】
次いで、細胞周期の期の時間比較手段2gが、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較し、例えば、双方の期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する。(ステップS41)。
【0080】
また、M期内の詳細期の時間比較手段2gが、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較し例えば、双方のM期内の詳細期の時間の差分等、客観的な比較値を示す数値データを作成する(ステップS42)。
【0081】
このように、本実施形態の細胞画像解析システムでは、画像取得装置1を介して取得した画像を用いて細胞分裂に関連する諸情報を取得する。そこで、その意義について説明する。
【0082】
細胞は、細胞周期の進行を監視し、細胞の状態に異常等がある場合に、細胞周期の進行を減速ないし停止する制御機構(細胞周期チェックポイント)を備えている。
細胞周期チェックポイントは、次のポイントを監視し、異常が検知されたときに、チェックポイント制御因子と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素(サイクリン依存性キナーゼ:Cdk)とサイクリンという2種類のタンパク質からなる複合体の活性を制御することによって細胞周期の進行を減速ないし停止する。
・DNA複製チェック
DNAの複製が完了してM期へ進む準備が整っているかを監視する。
・紡錘体集合チェック
紡錘体の形成が正常でM期後期に移行できるかを監視する。
・染色体分離チェック
M期終期に正常な染色体分離分配がなされたかを監視する。
・DNA損傷チェック
G1期、G1期とS期との間、S期、G2期とM期との間で機能し、DNA損傷の修復が完了したかを監視する。
【0083】
細胞周期チェックポイントは、細胞周期の進行段階に応じて、例えば、G1期からS期へ移行する際のチェックポイント、S期チェックポイント、G2期からM期へ移行する際のチェックポイント、M期チェックポイント等に分類される。
G1期からS期へ移行する際のチェックポイントでは、G1期におけるDNA損傷の修復が完了したか否か、DNA複製に必要な栄養や、増殖因子が存在するか否か等を監視する。
S期チェックポイントでは、DNAの複製に不具合がないか否かを監視する。
G2期からM期へ移行する際のチェックポイントでは、DNA複製が完了したか否か、DNA損傷の修復が完了したか否か、DNA分配が可能であるか否か等を監視する。
M期チェックポイントでは、M期中期において、紡錘体の形成が完了したか否かを監視する。
【0084】
そして、G1期の通過はサイクリンD−Cdk4複合体、S期の開始はサイクリンE−Cdk2複合体、S期の通過はサイクリンA―Cdk2複合体、G2期の通過はサイクリンA−Cdk1(Cdc2)複合体、M期の開始はサイクリンB−Cdk1(Cdc2)複合体によってそれぞれ制御される。
【0085】
このように細胞は、細胞周期チェックポイントにより、DNAの損傷等、正常な細胞分裂を進行するための条件を満たしていないときに、細胞周期を停止し、その間にDNA傷害等を修復し不正な遺伝情報蓄積によるがん化等、細胞の変異を防止する。
【0086】
ところで、細胞周期チェックポイントによる細胞周期の進行の制御の破綻は、がんの発生と進行(細胞の無制御な異常増殖)の要因となると考えられている。
例えば、がん抑制遺伝子産物p53、Rb、BRCA1は,細胞周期チェックポイント制御に関与し、多くのがん抑制遺伝子産物はヒトのがんにおいて頻繁に不活性化され、多くのがんの原因となることが多い。細胞周期チェックポイントの異常は、遺伝的不安定性をもたらし、遺伝的不安定性は多くのがん細胞における主要な特徴となっている。
このようなことから、細胞周期における各期の時間やM期における各詳細期の時間の変化は、細胞の何らかの状態の変化を示し、さらには、細胞のがん化の予兆を示すシグナルとなり得るものと考えられる。
【0087】
そこで、本実施形態の細胞画像解析システムでは、生細胞の細胞周期の期やM期における詳細期における時間の長さや、それらの時間の長さの比によって細胞を分類・層別化するようにしている。具体的には、同定手段2hが、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定するようにしている。また、同定手段2hが、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、細胞周期の期の時間比較手段2fが比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、M期内の詳細期の時間比較手段2gが比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定するようにしている。
【0088】
このため、本実施形態の細胞画像解析システムによれば、細胞分裂に関する時間的な情報に基づいて、細胞の種類を識別でき、さらに、例えば、細胞の特性の変化や、細胞の種類、細胞の分化の安定度、iPS細胞の樹立した細胞とその他の細胞との識別、iPS細胞の樹立後の分化した細胞との識別、分化した細胞ごとの識別等、iPS細胞やES細胞、がん細胞の研究において有用と考えられる新たな解析データが得られる。
【0089】
なお、本実施形態の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、表示手段(図示省略)と接続可能あるいは表示手段を備えている。従って、同定手段2hが同定したデータは、表示手段を介して表示され得る。
【0090】
以下、本実施形態の細胞画像解析システムを用いた実施例について説明する。
実施例1
図6は実施例1の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図7は種類の異なる細胞ごとの世代時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに世代時間が異なる。
そこで、実施例1の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代時間を格納したデータテーブル2t−3を備えている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した夫々の生細胞の世代時間を、種類の異なる細胞ごとの世代時間が格納されたデータテーブル2t−3と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例1の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、世代時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0091】
実施例2
図8は実施例2の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図9は種類の異なる細胞ごとの世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに、世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係が異なり、その相関関係の違いは世代数を重ねるごとに明確になる。
そこで、実施例2の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値を格納したデータテーブル2t−4を備えている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期検出手段2bが検出した当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に到達したとき、即ち、細胞領域特定手段2aが特定した夫々の生細胞の世代が変わるごとに世代数をカウントする世代数計測手段2iとしても機能させるように構成されている。また、細胞周期の期の時間計測手段2c’は、当該世代の世代期間を算出するとともに、世代ごとの世代期間を積算するように構成されている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2c’が計測した夫々の生細胞の世代時間の積算値及び世代数計測手段2iが計測した夫々の生細胞の世代数を、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値が格納されたデータテーブル2t−4と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例2の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類を、一世代の世代時間からでは特定することが難しい場合であっても、特定することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0092】
実施例3
図10は実施例3の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図11は特定の細胞の世代数と世代数に応じた世代時間の合計値との相関関係における理想値と測定値を模式的に示すグラフである。
一般に細胞は、分裂を繰り返していくにつれて固有の形態および機能を持った細胞へと変化して行く。分化とは、この形態的機能的な細胞の変化をいう。また、一般に細胞は、未分化細胞ほど細胞周期が短く盛んに細胞分裂を繰り返す傾向がある。また、正常組織の細胞は、分化の方向は一方向である。これに対し、がん細胞は、分化の方向が逆行する幼若化・脱分化という性質を有している。また、がん細胞は、分化度の低いものほど増殖が早くて悪性度が高く、分化度の高いものほど比較的悪性度が低い傾向にある。このため、細胞の分化度や分化の安定度は、細胞のがん化やがん細胞の状態を検知する指標となると考えられる。
【0093】
そこで、実施例3の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関の理想値及び理想値からの乖離度に応じた細胞分化の安定度を格納したデータテーブル2t−5を備えている。また、同定手段2hは、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2c’が計測した夫々の生細胞の世代時間の積算値及び世代数計測手段2iが計測した夫々の生細胞の世代数を用いて、夫々の生細胞における世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関を算出し、算出した相関値を、種類の異なる細胞ごとの世代数及び世代数に応じた世代時間の積算値の相関の理想値及び理想値からの乖離度に応じた細胞分化の安定度が格納されたデータテーブル2t−5と照合して、夫々の細胞について細胞分化の安定度を検出するように構成されている。
実施例3の細胞画像解析システムによれば、複数世代の細胞の世代時間から、細胞分化の安定度を検出することができ、細胞のがん化や、がん化した細胞の悪性度などの診断に寄与しうる。
その他の構成及び作用効果は、図1及び図8に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0094】
実施例4
図12は実施例4の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図13は種類の異なる細胞ごとのM期内の詳細期の時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとにM期内の詳細期の時間及びM期全体の時間が異なる。
そこで、実施例4の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとのM期内の時間を詳細期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−6を備えている。また、同定手段2hは、M期内の詳細期の時間計測手段2eが計測した夫々の生細胞のM期内の詳細期の時間及びM期全体の時間を、種類の異なる細胞ごとのM期内の時間を詳細期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−6と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例4の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、M期内の詳細期の時間及びM期全体の時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0095】
実施例5
図14は実施例5の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図、図15は種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の各期の時間を模式的に示すグラフである。
例えば、樹立したiPS細胞、iPS細胞から分化した細胞、がん細胞、卵細胞等は、それぞれの種類ごとに一世代における細胞周期の各期の時間及び世代時間が異なる。
そこで、実施例5の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の時間を各期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−7を備えている。また、同定手段2hは、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した一世代における夫々の生細胞の細胞周期の各期の時間及び世代時間を、種類の異なる細胞ごとの一世代における細胞周期の時間を各期の時間に分けて格納したデータテーブル2t−7と照合して、細胞の種類を特定するように構成されている。
実施例5の細胞画像解析システムによれば、細胞の種類が、一世代における細胞周期の各期の時間及び世代時間から特定できるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0096】
実施例6
図16は実施例6の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
がん化等、細胞の変化に伴い世代時間も変化するものと考えられる。
そこで、実施例6の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの異なる世代同士の世代時間の比較値(例えば、双方の世代時間の差分値)に対応する生細胞の変化情報を格納したデータテーブル2t−8を備えている。また、細胞周期の期の時間計測手段2cは、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2cが計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2jとしても機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2jが比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブル2t−8と照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出するように構成されている。
実施例6の細胞画像解析装置によれば、一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値から、細胞の変化を検出することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0097】
実施例7
図17は実施例7の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
がん細胞等に対しては、層別化を行うことがその後の治療効果を上げるために重要であると考えられる。
そこで、実施例7の細胞画像解析システムでは、細胞周期の期の時間計測手段2c”は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、さらに、細胞周期の期の時間計測手段2c”が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2j’として機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2j’が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブル2−9と照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化するように構成されている。
その他の構成は、図16に示した細胞画像解析システムと略同じである。
実施例7の細胞画像解析装置によれば、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値から、当該二つ以上の生細胞を層別化することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0098】
実施例8
図18は実施例18の細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
実施例8の細胞画像解析システムでは、細胞画像解析装置2は、種類の異なる細胞ごとの異なる世代同士の世代時間の比較値(例えば、双方の世代時間の差分値)に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報を格納したデータテーブル2t−10を備えている。また、細胞周期の期の時間計測手段2c”は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測するように構成されている。また、細胞画像解析装置2に備わる画像解析ソフトウェアは、コンピュータを、細胞周期の期の時間計測手段2c”が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段2j’として機能させるように構成されている。また、同定手段2hは、さらに、世代時間比較手段2j’が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブル2t−10と照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化するように構成されている。
実施例8の細胞画像解析装置によれば、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値から、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出すると同時に当該二つ以上の生細胞を層別化することができるようになる。
その他の構成及び作用効果は、図1に示した細胞画像解析システムと略同じである。
【0099】
実施例9
実施例9の細胞画像解析システムでは、画像取得装置1は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得するように構成されている。
また、世代時間比較手段2j(2j’)は、2つの計測条件下のそれぞれにおいて、細胞周期の期の時間計測手段2c(2c’,2c”)が計測した当該生細胞の世代時間を比較する。
その他の構成は、実施例1〜8のいずれかの細胞画像解析システムと略同じである。
【0100】
なお、上記各実施例の細胞画像解析システムにおいては、解析対象の生細胞は、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであるのが好ましい。または、生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであってもよい。
さらに、上記各実施例の細胞画像解析システムにおいては、蛍光色素が、FUCCIであるのが好ましい。
【0101】
上記各実施例の細胞画像解析システムによれば、がん化等による細胞分裂を続けそうな細胞を事前に認識し、細胞周期における細胞の変化を正確に捉えることができる。
なお、本発明の細胞画像解析システムは、上記実施例に記載の構成に限定されるものではなく、例えば、上記各実施例において特有の構成を任意に組み合せた構成としてもよい。
【0102】
また、本発明の細胞画像解析システムにおいては、細胞画像解析装置2を介して解析された解析結果に応じて、特定の細胞に対して詳細な画像の取得を行うように、画像取得装置1の画像取得動作を制御するようにしてもよい。
例えば、細胞画像解析装置2を介して特異な細胞が検出された場合、画像取得装置1における顕微鏡観察光学系1aの倍率を高倍率にする、あるいは、撮像時間制御手段1の撮像時間間隔を短くする等の制御をして、この特異な細胞の分裂時の詳細な画像を取得するようにしてもよい。
【0103】
また、細胞画像取得のための時間は短いほうが、正確な細胞周期の期の時間を計測するためには好ましい。一方、画像取得装置1として用いる顕微鏡装置がレーザ顕微鏡の場合、撮像時におけるレーザによる細胞へのダメージを考慮すると、撮像のインターバルは長いほうが好ましい。そこで、細胞画像解析装置2を介して得られたデータから、細胞周期において注目を所望する期(細胞周期における所定の期やM期における所定の詳細期)の開始時刻と終了時刻を予測し、その所望する期を挟む前後の時間帯のみ撮像のインターバルを短くするとよい。
例えば、生細胞をG1期とG1期以外の期の長さの比で層別する場合、画像取得装置1は、当初は例えば1時間間隔のインターバルで生細胞を撮像し、細胞画像解析装置2が画像を解析する。ここで、細胞画像解析装置2がG1期からS期へ移行しそうな生細胞を検出した場合、画像取得装置1は、インターバルを例えば10分間隔に短縮して生細胞を撮像する。そして、細胞画像解析装置2がS期に移行した期の時間を測定し、その後、画像取得装置1は元のインターバル(例えば1時間間隔)で撮像する。
同様に、例えば、M期からPostM期に移行するまでの時間で層別する場合、細胞画像解析装置2がM期からPostM期へ移行しそうな生細胞を検出した場合、画像取得装置1は、インターバルを例えば5分間隔に短縮して生細胞を撮像する。そして、細胞画像解析装置2がPostM期に移行した(細胞が完全に分裂した)時間を測定し、その後、画像取得装置1は元のインターバル(例えば1時間間隔)で撮像する。
このようにすれば、細胞へ与えるダメージを極力抑えながら、細胞周期における所望の期の時間を正確に計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の細胞画像解析システムは、医療応用を目的としたiPS細胞、ES細胞、がん細胞を用いた診断や細胞遺伝子学研究を行う分野に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 細胞画像取得装置
1a 顕微鏡観察光学系
1b 撮像手段
1b1 撮像時間制御手段
1b2 撮像素子
2 細胞画像解析装置
2a 細胞領域特定手段
2b 細胞周期の期検出手段
2c,2c’,2c” 細胞周期の期の時間計測手段
2d M期内の詳細期検出手段
2e M期内の詳細期の時間計測手段
2f 細胞周期の期の時間比較手段
2g M期内の詳細期の時間比較手段
2h 同定手段
2i 世代数計測手段
2j,2j’ 世代時間比較手段
2t−1,2t−2,2t−3,2t−4,2t−5,2t−6,2t−7,2t−8,2t−9 データテーブル
3a 染色体
3b セントロゾーム(中心体)
3c 微小管
3d 核膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する、顕微鏡を備えた画像取得装置と、前記画像取得装置が時系列に取得した画像を用いて生細胞に対する所定の解析を行う、コンピュータを備えた細胞画像解析装置と、を有する細胞画像解析システムであって、
前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、
前記画像取得装置が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する細胞領域特定手段、
前記蛍光タンパクから発せられる蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する細胞周期の期検出手段、
前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの細胞周期の期の時間を計測する細胞周期の期の時間計測手段、
前記細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する同定手段、
として機能させる画像解析ソフトウェアを備えたことを特徴とする細胞画像解析システム。
【請求項2】
前記データテーブルは、
予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞において、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光と、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光との対応付けを行うことによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の細胞画像解析システム。
【請求項3】
前記蛍光タンパクが色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクであり、
前記細胞周期の期検出手段が、
前記細胞領域特定手段が細胞領域として特定した画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞の画像を前記画像取得装置を介して取得し、前記細胞領域特定手段を介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記データテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と前記データテーブル作成用画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞画像解析装置。
【請求項4】
前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項5】
前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項6】
前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するM期内の詳細期検出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項7】
前記M期内の詳細期検出手段が検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測するM期内の詳細期の時間計測手段をさらに備える請求項6に記載の細胞画像解析システム。
【請求項8】
前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する細胞周期の期の時間比較手段をさらに備える請求項1〜7のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項9】
前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較するM期内の詳細期の時間比較手段をさらに備えることを特徴とする請求項7又は請求項7に従属する請求項8に記載の細胞画像解析システム。
【請求項10】
前記同定手段が、
前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定することを特徴とする請求項7に従属する請求項8に従属する請求項9に記載の細胞画像解析システム。
【請求項11】
前記同定手段は、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定することを特徴とする請求項10に記載の細胞画像解析システム。
【請求項12】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項13】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項14】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項15】
前記画像取得装置は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得し、
前記世代時間比較手段は、前記2つの計測条件下のそれぞれにおいて、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の世代時間を比較することを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項16】
前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項17】
前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項18】
前記蛍光タンパクが、FUCCIであることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項1】
細胞周期の特定の期に特異的に蛍光を発する蛍光タンパクが導入された生細胞の画像を時系列に取得する、顕微鏡を備えた画像取得装置と、前記画像取得装置が時系列に取得した画像を用いて生細胞に対する所定の解析を行う、コンピュータを備えた細胞画像解析装置と、を有する細胞画像解析システムであって、
前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、
前記画像取得装置が取得した画像において、蛍光輝度が所定の輝度の閾値を上回る画素群、あるいは隣接輝度との輝度差が所定の輝度差の閾値を上回る画素群を細胞領域として特定する細胞領域特定手段、
前記蛍光タンパクから発せられる蛍光に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出する細胞周期の期検出手段、
前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期が別の期に変化するまでの細胞周期の期の時間を計測する細胞周期の期の時間計測手段、
前記細胞周期の期の時間を用いて、少なくとも細胞の種類を同定する同定手段、
として機能させる画像解析ソフトウェアを備えたことを特徴とする細胞画像解析システム。
【請求項2】
前記データテーブルは、
予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞において、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光と、前記蛍光タンパクから発せられる蛍光との対応付けを行うことによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の細胞画像解析システム。
【請求項3】
前記蛍光タンパクが色の異なる2つの蛍光タンパク、又は、細胞周期の期に応じて異なる色を発する1つの蛍光タンパクであり、
前記細胞周期の期検出手段が、
前記細胞領域特定手段が細胞領域として特定した画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量を、予め前記蛍光タンパクを導入するとともに前記蛍光タンパクとは別の所定の蛍光試薬で染色した、前記生細胞と同種の細胞の画像を前記画像取得装置を介して取得し、前記細胞領域特定手段を介して細胞領域として特定したデータテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値を用いて細胞周期の期を分類するとともに、前記データテーブル作成用画素群における前記所定の蛍光試薬から発せられる蛍光輝度の総量及び蛍光輝度の最大値と前記データテーブル作成用画素群における前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量との対応付けを行うことによって得られた、前記蛍光タンパクから発せられる異なる色同士の蛍光輝度の総量の比及び異なる色ごとの蛍光輝度の総量の増加量に対応する細胞周期の期が格納されたデータテーブルと照合して、当該生細胞の細胞周期の期を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞画像解析装置。
【請求項4】
前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次世代における当該細胞周期の期に変化するまでの世代時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項5】
前記細胞周期の期の時間が、当該生細胞の細胞周期の期が次の期に変化するまでの期の時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項6】
前記細胞周期の期検出手段が検出した当該生細胞の細胞周期の期がM期である場合に、当該生細胞の形態的特徴要素を、M期における生細胞の形態的特徴要素に対応するM期内の詳細期が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該生細胞のM期内の詳細期を検出するM期内の詳細期検出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項7】
前記M期内の詳細期検出手段が検出した当該生細胞のM期内の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの詳細期の時間を計測するM期内の詳細期の時間計測手段をさらに備える請求項6に記載の細胞画像解析システム。
【請求項8】
前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第一の期から次の期に変化するまでの第一の期の時間と、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の第二の期から次の期に変化するまでの第二の期の時間とを比較する細胞周期の期の時間比較手段をさらに備える請求項1〜7のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項9】
前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第一の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第一の詳細期の時間と、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の第二の詳細期が次の詳細期または次の細胞周期の期に変化するまでの第二の詳細期の時間とを比較するM期内の詳細期の時間比較手段をさらに備えることを特徴とする請求項7又は請求項7に従属する請求項8に記載の細胞画像解析システム。
【請求項10】
前記同定手段が、
前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、少なくとも細胞の種類を同定することを特徴とする請求項7に従属する請求項8に従属する請求項9に記載の細胞画像解析システム。
【請求項11】
前記同定手段は、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の細胞周期の期の時間、前記M期内の詳細期の時間計測手段が計測した当該生細胞のM期内の詳細期の時間、前記細胞周期の期の時間比較手段が比較した当該生細胞の細胞周期の期の時間の比較値、前記M期内の詳細期の時間比較手段が比較した当該生細胞のM期内の詳細期の時間の比較値の少なくともいずれかを用いて、細胞分裂、細胞の成長度、細胞集団の層別、細胞の性質の少なくともいずれかを同定することを特徴とする請求項10に記載の細胞画像解析システム。
【請求項12】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、一つの生細胞における複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該一つの生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該一つの生細胞の変化を検出することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項13】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞を層別化することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項14】
前記細胞周期の期の時間計測手段は、二つ以上の生細胞のそれぞれにおける複数世代の世代時間を計測し、
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間を比較する世代時間比較手段として機能させ、
前記同定手段は、さらに、前記世代時間比較手段が比較した当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける異なる世代同士の世代時間の比較値を、生細胞の異なる世代同士の世代時間の比較値に対応する生細胞の変化情報及び層別化情報が格納されたデータテーブルと照合することにより、当該二つ以上の生細胞のそれぞれにおける変化を検出するとともに当該二つ以上の生細胞を層別化することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項15】
前記画像取得装置は、投与する化学薬品、光刺激、遺伝子操作、温度・湿度・圧力・PH等の環境、培地の養分等の少なくともいずれかを異ならせた2つの計測条件下における生細胞の画像を時系列に取得し、
前記世代時間比較手段は、前記2つの計測条件下のそれぞれにおいて、前記細胞周期の期の時間計測手段が計測した当該生細胞の世代時間を比較することを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項16】
前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項17】
前記生細胞が、ES細胞、iPS細胞、がん幹細胞から分化した細胞の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【請求項18】
前記蛍光タンパクが、FUCCIであることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の細胞画像解析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−163538(P2012−163538A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26283(P2011−26283)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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