説明

細胞組織を閉合または接着するための接着組成物系

本発明は、組織接着剤の接着剤層およびこの接着剤層の表面に適用する保護層とを含み、前記組織接着剤が親水性ポリウレタンポリマーに基づき、保護層が防水性である複合接着剤系に関する。また、本発明は、前記複合接着剤系の製造方法、その製造方法により得られる複合接着剤系、細胞組織を被覆、封止または結合させるために使用することのできる複合接着剤系、および細胞組織を被覆、封止または結合するための生成物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合接着剤系に関する。本発明のさらなる主題は、複合接着剤系の製造方法であり、その方法により得られる複合接着剤系であり、細胞組織を被覆し、封止しまたは結合するための手段として用いる複合接着剤系であり、細胞組織を被覆し、封止しまたは結合するための手段を作り出すための複合接着剤系の使用である。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願第2011808号には、親水性2成分ポリウレタン系に基づく組織接着剤が開示されている。これらの組織接着剤は、細胞組織を被覆し、封止し、または結合するために、特に創傷を接合するために使用することができる。記載される組織接着剤は、組織に対する強力な結合、得られる結合の高い柔軟性、適用容易性、幅広い範囲で調節可能な硬化時間、および高い生体適合性に関して注目される。
【0003】
しかしながら、既知の組織接着剤の使用はいくつかの問題点も伴う。例えば、ポリウレタン系の親水性に起因して、長時間の浸水は組織接着剤の膨潤を伴うであろう。この膨張は組織接着剤の組織に対する接着力を低下させ、一般的に、結合の耐久性に対して悪影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願第2011808号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、適用が容易で、生体適合性であり、組織に対して強力に接着する弾性的な接着を生じるために使用することができ、長時間の浸水においても膨潤することがないためこれらの条件下でさえも長期的に耐久性である複合接着剤系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、組織接着剤から構成される接着剤層およびこの接着剤層上に広く塗布される保護層を含み、組織接着剤が親水性ポリウレタンポリマーに基づき、保護層が不透水性である複合接着剤系によって解決される。
【0007】
本発明の意味において「不透水性」は、接着剤層と保護層から構成される複合接着剤系を最大40℃の温度で水浴に浸した場合に、下層の接着剤層を、少なくとも30分間膨潤から保護する保護層に対して適用される。
【0008】
不透水性層は、好ましくは、この種類の層を100μmの厚みの自由膜として23℃で2時間、過剰の脱塩水に貯蔵した場合に吸収する水の質量が、膜の初期質量に基づいて、100%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下であるという特徴により識別される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
組織接着剤は、
(A)(A1)脂肪族イソシアネート、および
(A2)400g/mol以上(≧400g/mol)の数平均分子量および2〜6の平均OH官能価を有するポリオール
から得られるイソシアネート官能性プレポリマー、
(B)一般式(I):
【化1】

〔式中、
Xは、n価のアミンの第一級アミノ基の除去により得られるn価の有機基であり、
、Rは、ツェレビチノフ活性水素を含有しない、同一または異なる有機基であり、および
nは、少なくとも2の整数である〕
で示されるアミノ官能性アスパラギン酸エステル、および/または
(C)イソシアネート官能性プレポリマー(A)とアスパラギン酸エステル(B)の反応生成物
を含有する。
【0010】
上述した組織接着剤は、組織に対する強力な結合、得られる結合の高い柔軟性、適用容易性、幅広い範囲で調節可能な硬化時間、および高い生体適合性が顕著である。
【0011】
ツェレビチノフ活性水素の定義については、Roempp Chemie Lexikon、Georg Thieme Verlag、Stuttgartの対応する項目「活性水素」が参照される。好ましくは、ツェレビチノフ活性水素を有する基は、OH基、NH基またはSH基であると理解される。
【0012】
(A1)のイソシアネートとして、例えば、モノマーの脂肪族または脂環式ジ−若しくはトリ−イソシアネート、例えば1,4−ブチレンジイソシアネート(BDI)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタンまたは任意の異性体含有のこれらの混合物、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(ノナントリイソシアネート)、およびC1〜C8アルキル基を有するアルキル2,6−ジイソシアナトヘキサノエート(リジンジイソシアネート)を用いることができる。
【0013】
本発明の特に好ましい一実施態様においては、ヘキサメチレンジイソシアネートのみを用いる。
【0014】
前記のモノマーイソシアネートの他に、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンまたはオキサジアジントリオン構造を有する、より高い分子量のそれらの誘導体、およびそれらの混合物を用いることもできる。
【0015】
イソシアネート(A1)は、好ましくは脂肪族的または脂環式に結合したイソシアネート基のみを有していてよい。
【0016】
(A1)のイソシアネートまたはイソシアネート混合物は、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜2.6、極めて好ましくは2〜2.4の平均NCO官能化を有する。
【0017】
(A2)のポリオールとして、当業者にそれ自体既知の、1分子あたり2個以上のOH基を有する全てのポリヒドロキシ化合物を用いることができる。これらとして、例えばポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリエステルポリオール、ポリウレタンポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、またはこれらの互いの任意の混合物が挙げられる。
【0018】
ポリオール(A2)は、好ましくは3〜4の平均OH官能価を有する。
【0019】
さらに、ポリオール(A2)は、好ましくは、400〜20000g/molの、より好ましくは2000〜10000g/molの、極めて好ましくは4000〜8500g/molの数平均分子量を有する。
【0020】
特に好ましいポリエーテルポリオールは、エチレンオキシドおよび場合によりプロピレンオキシドに基づくポリアルキレンオキシドポリエーテルである。
【0021】
これらのポリエーテルポリオールは、好ましくは、2個以上の官能基を有する出発分子、例えば2個以上の官能基を有するアミンまたはアルコールなどに基づく。
【0022】
そのような出発物質の例は、水(ジオールとみなされる)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、TMP、ソルビトール、ペンタエリトリトール、トリエタノールアミン、アンモニアまたはエチレンジアミンである。
【0023】
ポリオール(A2)が、とりわけ、存在するアルキレンオキシドの全量に基づいて60〜90重量%のエチレンオキシド系単位を有するポリアルキレンオキシドポリエーテルである場合も好ましい。
【0024】
好ましいポリエステルポリオールは、ジ−および任意にトリ−およびテトラオール、およびジ−および任意にトリ−およびテトラカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸またはラクトンの重縮合生成物である。遊離ポリカルボン酸の代わりに、対応するポリカルボン酸無水物、または対応する低級アルコールのポリカルボン酸エステルも、ポリエステルの製造に用いることができる。
【0025】
適当なジオールの例は、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール等、および1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、ネオペンチルグリコールまたはネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートであり、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールおよびネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートが好ましい。さらに、トリメチロールプロパン、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールベンゼンまたはトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートのようなポリオールを用いることもできる。
【0026】
ジカルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、テトラクロロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸、スベリン酸、2−メチルコハク酸、3,3−ジエチルグルタル酸および/または2,2−ジメチルコハク酸を使用することができる。対応する無水物を、酸の源として用いることもできる。
【0027】
エステル化されるポリオールの平均官能価が2より大きい(>2)場合、さらに、モノカルボン酸、例えば安息香酸およびヘキサンカルボン酸を用いることもできる。
【0028】
好ましい酸は、前記の種類の脂肪族酸または芳香族酸である。特に好ましいものは、アジピン酸、イソフタル酸およびフタル酸である。
【0029】
末端ヒドロキシ基を有するポリエステルポリオールの製造に、反応に加わる成分として用いることもできるヒドロキシカルボン酸の例は、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシステアリン酸などである。好ましいラクトンは、カプロラクトン、ブチロラクトンおよび同族体である。カプロラクトンが好ましい。
【0030】
同様に、ヒドロキシ基を有するポリカーボネート、好ましくは、400〜8000g/mol、好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量(Mn)を有するポリカーボネートジオールを用いることができる。これらは、カルボン酸誘導体、例えばジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲンと、ポリオール、好ましくはジオールとの反応によって得られる。
【0031】
そのようなジオールの例は、エチレングリコール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、および前記の種類のラクトン修飾ジオールである。
【0032】
プレポリマー(A)の製造のために、イソシアネート(A1)を、ポリオール(A2)と、好ましくは4:1〜12:1、特に好ましくは8:1のNCO/OH比で反応させることができる。次いで、未反応のイソシアネート(A1)の留分を、適当な方法によって分離することができる。このために、一般的に薄膜蒸留が利用され、それによって、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0.1重量%未満の残留モノマー含量を有する低残留モノマー生成物が得られる。
【0033】
必要に応じて、安定剤、例えば塩化ベンゾイル、塩化イソフタロイル、リン酸ジブチル、3−クロロプロピオン酸またはメチルトシレートを、製造工程中に添加することができる。
【0034】
ここで、反応温度は、特に20〜120℃であり、好ましくは60〜100℃である。
【0035】
好ましいアミノ官能性アスパラギン酸エステルは、式(I)において、
およびRが、ツェレビチノフ活性水素を含有しない、同一または異なった、1〜20個の、好ましくは1〜10個の炭素原子を有する任意に分枝または環状の有機基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、
nが、2〜4の整数であり、
Xが、n価の第1級アミンの第1級アミノ基の除去によって得られる、2〜20個の、好ましくは5〜10個の炭素原子を有する、任意に分枝または環状のn価の有機基である、
アミノ官能性アスパラギン酸エステルである。
【0036】
当然、2個以上のアスパラギン酸エステルの混合物を用いることができ、式(I)におけるnが非整数の平均値を示してもよい。
【0037】
アミノ官能性ポリアスパラギン酸エステル(B)は、対応する第1級の少なくとも二官能性アミンX(NHと、一般式(II):
【化2】

で示されるマレイン酸エステルまたはフマル酸エステルとの反応により、既知の方法において製造することができる。
【0038】
好ましいマレイン酸エステルまたはフマル酸エステルは、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、および対応するフマル酸エステルである。
【0039】
好ましい第1級の少なくとも二官能性アミンX(NHは、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチル−1,6−ジアミノヘキサン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチル−シクロヘキサン、2,4−および/または2,6−ヘキサヒドロトルイレンジアミン、2,4’−および/または4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシル−メタン、2,4,4’−トリアミノ−5−メチル−ジシクロヘキシルメタン、および脂肪族的に結合した第1級アミノ基を有し、148〜6000g/molの数平均分子量(Mn)を有するポリエーテルアミンである。
【0040】
特に好ましい第1級の少なくとも二官能性のアミンは、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,13−ジアミノ−4,7,10−トリオキサトリデカンである。特に好ましくは、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンである。
【0041】
本発明の好ましい一実施態様では、R=R=エチルであり、Xは、n価のアミンとして2−メチル−1,5−ジアミノペンタンに基づく。
【0042】
アミノ官能性アスパラギン酸エステル(B)は、上記出発物質から、独国特許出願第69311633号に従って、好ましくは0〜100℃の温度範囲内で製造され、出発物質は、各第1級アミノ基に対して、少なくとも1個、好ましくは正確に1個のオレフィン二重結合が存在するような割合で使用され、反応後に蒸留によって、過剰量で使用された全ての出発物質を除去することができる。この反応は、バルクで行ってもよく、または、メタノール、エタノール、プロパノールまたはジオキサンまたはそのような溶剤の混合物の存在下で行ってもよい。
【0043】
NCO反応性基に基づいて、プレポリマー架橋のために全体で使用される化合物の平均当量をさらに減少させるために、(B)で用いられる化合物に加えて、イソシアネート官能性プレポリマーとアスパラギン酸エステルとのアミノ−若しくはヒドロキシ−官能性反応生成物を分離予備的反応において生成し、次いで、比較的高い分子量の硬化成分(C)として、これらの反応生成物を使用することができる。
【0044】
予備的延長(伸長)のために、好ましくは50:1〜1.5:1の、より好ましくは15:1〜4:1のイソシネート反応性基とイソシアネート基の比率を用いることができる。
【0045】
このために使用されるイソシアネート官能性プレポリマーは、成分(A)のプレポリマーに対応していてもよく、または、本明細書においてイソシアネート官能性プレポリマーの考え得る成分として記載した成分と異なって合成されてもよい。
【0046】
本発明の2成分接着剤系は、プレポリマーと硬化成分(B)および/または(C)とを混合することにより得られる。NCO反応性NH基と遊離NCO基の比率は、好ましくは1:1.5〜1:1であり、より好ましくは1:1である。
【0047】
本発明の展開は、アスパラギン酸エステル(B)を含まず、代わりに反応生成物(C)のみを含む組織接着剤を想定する。
【0048】
さらに、接着剤層は、1つ以上の活性成分を含んでいてもよい。活性成分は、特に、創傷治癒に役立つ物質であってよい。
【0049】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、保護層は、100%以上(≧100%)、好ましくは200%以上(≧200%)の破断点伸びを有する。この種類の保護層は、特に変形しやすく、この点において、ポリウレタン接着剤層の力学的特性にとりわけよく対応する。
破断点伸びは、DIN EN ISO 527−1に従って測定する。
【0050】
保護層が、0.5〜20MPaの、好ましくは1〜15MPaの、より好ましくは2〜10MPaの100%弾性率を有する場合が特に好ましい。このような種類の保護層は弾力性があり、接着剤層が対応する力学的的特性を有する場合には、全体的に高い複合接着剤系の弾力性をもたらす。したがって、とりわけ、複合接着剤系がポリウレタン系接着剤層を含む場合、特に利点が得られる。
100%弾性率は、DIN EN ISO 527−1に従って測定する。
【0051】
保護層は、特に、ポリマーをベースとしていてよい。
ポリマーは、好ましくは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニルおよび/または対応するコポリマー、好ましくは、ポリアクリレートおよび/またはポリウレタンであってよい。
【0052】
特に好適なポリマーは、
(a)イソシアネート官能性プレポリマーを、
(a1)有機ポリイソシアネート、
(a2)400〜8000g/molの、好ましくは400〜6000g/molの、より好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量を有し、1.5〜6の、好ましくは1.8〜3の、より好ましくは1.9〜2.1のOH官能価を有する高分子ポリオール、および
(a3)場合により、62〜399g/molの分子量を有するヒドロキシ官能性化合物
から調製し、かつ、
(b)(a)のプレポリマーの遊離NCO基を、
(b1)32〜1000g/mol、好ましくは32〜400g/molの分子量を有するアミノ官能性および/またはヒドロキシ官能性化合物
と、完全にまたは部分的に、鎖延長により反応させる、
前重合工程により得られるポリウレタンである。
【0053】
適するポリイソシアネート(a1)は、2以上のNCO官能価を有する、脂肪族、芳香族または脂環式ポリイソシアネートである。
【0054】
そのようなポリイソシアネートの例は、1,4−ブチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,2,4−および/または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタンまたは任意の異性体含量のこれらの混合物、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(ノナントリイソシアネート)、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,2’−および/または2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−および/または1,4−ビス(2−イソシアナトプロ−2−イル)ベンゼン(TMXDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン(XDI)およびC1〜C8アルキル基を有するアルキル2,6−ジイソシアナトヘキサノエート(リジンジイソシアネート)である。
【0055】
前記のポリイソシアネートと同様に、2以上の官能価を有し、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンまたはオキサジアジントリオン構造を有する変性ジイソシアネート、およびそれらの混合物を用いることもできる。
【0056】
ポリイソシアネートまたはポリイソシアネート混合物は、好ましくは脂肪族的にまたは脂環式に結合したイソシアネート基を有する前記種類のもの、またはそれらの混合物、および2〜4の、好ましくは2〜2.6の、より好ましくは2〜2.4の混合物の平均NCO官能価を有するものである。特に好ましい実施態様において、それらは二官能性イソシアネート構成単位、好ましくは二官能性脂肪族イソシアネート構成単位である。
【0057】
ポリイソシアネート(a1)として、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、または異性体ビス(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、および前記ジイソシアネートの混合物を用いることができる。特定の好ましい実施態様において、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートの混合物が用いられる。
【0058】
高分子ポリオール(a2)としては、400〜8000g/mol、好ましくは400〜6000g/mol、極めて好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量(Mn)を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、好ましくは1.5〜6の、より好ましくは1.8〜3の、極めて好ましくは1.9〜2.1のOH官能価を有する。
【0059】
適する高分子ポリオールは、ポリウレタンコーティング技術においてそれ自体既知の、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリエステルポリオール、ポリウレタンポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリカーボネートポリオール、およびポリエステルポリカーボネートポリオールである。これらは、単独で、または互いの任意混合物として用いることができる。
【0060】
好ましいポリエステルポリオールは、ジ−および任意にトリ−およびテトラオール、およびジ−および任意にトリ−およびテトラカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸またはラクトンの重縮合生成物である。遊離ポリカルボン酸の代わりに、対応するポリカルボン酸無水物、または対応する低級アルコールのポリカルボン酸エステルも、ポリエステルの製造に用いることができる。
【0061】
適当なジオールの例は、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール等、および1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、ネオペンチルグリコールまたはネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートであり、1,6−ヘキサンジオールおよび異性体、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールおよびネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートが好ましい。さらに、トリメチロールプロパン、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールベンゼンまたはトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートのようなポリオールを用いることもできる。
【0062】
ジカルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、テトラクロロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸、スベリン酸、2−メチルコハク酸、3,3−ジエチルグルタル酸および/または2,2−ジメチルコハク酸を使用することができる。対応する無水物を、酸の源として用いることもできる。
【0063】
エステル化されるポリオールの平均官能価が2より大きい(>2)場合、さらに、モノカルボン酸、例えば安息香酸およびヘキサンカルボン酸を用いることもできる。
【0064】
好ましい酸は、前記の種類の脂肪族酸または芳香族酸である。特に好ましいものは、アジピン酸、イソフタル酸およびフタル酸である。
【0065】
末端ヒドロキシ基を有するポリエステルポリオールの製造に、反応に加わる成分として用いることもできるヒドロキシカルボン酸の例は、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシステアリン酸などである。好ましいラクトンは、カプロラクトン、ブチロラクトンおよび同族体である。カプロラクトンが好ましい。
【0066】
適当なポリカーボネートポリオールは、ヒドロキシ含有ポリカーボネートであり、好ましくは、400〜8000g/mol、好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量(Mn)を有するポリカーボネートジオールである。これらは、カルボン酸誘導体、例えばジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲンと、ポリオール、好ましくはジオールとの反応によって得られる。
【0067】
そのようなジオールの例は、エチレングリコール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、および前記の種類のラクトン修飾ジオールである。
【0068】
ジオール成分は、好ましくは40〜100重量%のヘキサンジオール、好ましくは1,6−ヘキサンジオールおよび/またはヘキサンジオール誘導体を含有する。そのようなヘキサンジオール誘導体は、ヘキサンジオールに基づいており、末端OH基に加えてエステル基またはエーテル基を有する。この種類の誘導体は、ヘキサンジオールと過剰量のカプロラクトンの反応により、または、ヘキサンジオールをそれ自身でエステル化し、ジ−またはトリへキシレングリコールを生じることにより得られる。
【0069】
純粋なポリカーボネートジオールに代えて、または加えて、ポリエーテル−ポリカーボネートジオールを用いることもできる。
ヒドロキシ基を含むポリカーボネートは、好ましくは直鎖構造である。
【0070】
適するポリエーテルポリオールは、例えば、テトラヒドロフランのカチオン性開環重合により得られるポリテトラメチレングリコールポリエーテルである。
【0071】
適当な出発分子として、例えば、水、ブチルジグリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、1,4−ブタンジオールなどの、先行技術において既知である全ての化合物を用いることができる。
【0072】
好ましいポリオール(a2)は、ポリテトラメチレングリコールポリエーテルおよびポリカーボネートポリオール、および/またはそれらの混合物であり、ポリテトラメチレングリコールポリエーテルが特に好ましい。
【0073】
ヒドロキシ官能性化合物(a3)として、前記分子量を有し、20個までの炭素原子を有するポリオール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、水素化ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスルトール、およびこれらの互いの任意混合物を用いることができる。
【0074】
また、前記分子量範囲のエステルジオール、例えば、α−ヒドロキシブチル−ε−ヒドロキシカプロン酸エステル、ω−ヒドロキシエチル−γ−ヒドロキシ絡酸エステル、β−ヒドロキシエチルアジピン酸またはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートも適当である。
【0075】
さらに、単官能性イソシアネート反応性ヒドロキシ含有化合物を用いることもできる。この種類の単官能性化合物の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノールが挙げられる。この種類のアルコールがイソシアネート官能性プレポリマーと反応した場合、それに応じて反応で消費される分量は、溶剤の一部として計算されない。
【0076】
アミノ官能性化合物(b1)として、例えば、1,2−エチレンジアミン、1,2−および1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、イソホロンジアミン、2,2,4−および2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの異性体混合物、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、4,4−ジアミノジシクロヘキシルメタン、および/またはジメチルエチレンジアミンなどの有機ジアミンまたはポリアミンを用いることができる。
【0077】
さらに、第1級アミノ基に加えて第2級アミノ基を有する、または(第1級若しくは第2級)アミノ基に加えてOH基を有するアミノ官能性化合物(b1)も用いることができる。そのような化合物の例としては、第1級/第2級アミン(例えばジエタノールアミン、3−アミノ−1−メチルアミノプロパン、3−アミノ−1−エチルアミノプロパン、3−アミノ−1−シクロヘキシルアミノプロパン、3−アミノ−1−メチルアミノブタン)、アルカノールアミン(例えばN−アミノエチルエタノールアミン、エタノールアミン、3−アミノプロパノール、ネオペンタノールアミン)などが挙げられる。
【0078】
アミノ官能性化合物(b1)としては、さらに、単官能性イソシアネート反応性アミン化合物、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、イソノニルオキシプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン、ジエチル(メチル)アミノプロピルアミン、モルホリン、ピペリジン、および/またはそれらの適当な置換誘導体、第1級ジアミンおよびモノカルボン酸から形成されるアミドアミン、第1級ジアミンのモノケチム、第1級/第3級アミン、例えばN,N−ジメチルアミノプロピルアミンなどを用いることもできる。
【0079】
1,2−エチレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,4−ジアミノブタン、イソホロンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびジエチレントリアミンを使用することが好ましい。
【0080】
成分(a1)、(a2)、(a3)および(b1)は、好ましくは、ポリウレタン内に分枝部が形成されない、またはほんの少しの分子部しか形成されないように選択される。そうでなければ、高い溶液粘度となってしまうからである。好ましくは2.2より小さい(<2.2)平均官能価を有する成分、極めて好ましくは2.05より小さい(<2.05)平均官能価を有する成分のみを用いることが特に好ましい。特に好ましい一実施態様は、二官能性および単官能性の構成単位のみを用い、とりわけ好ましい一実施態様は、二官能性の構成単位のみを用いる。
【0081】
好ましい一実施態様において、ポリウレタンを調製するために成分(a1)〜(a3)および(b1)を用いる。すなわち、ポリウレタンに、前記成分を下記の量(個々の量を加えると常に100重量%となる)で組み込む:
5〜40重量%の成分(a1)、
55〜90重量%の成分(a2)、
0〜10重量%の成分(a3)および
1〜15重量%の成分(b1)。
【0082】
特に好ましい一実施態様において、ポリウレタンを調製するために成分(a1)〜(a3)および(b1)を用いる。すなわち、ポリウレタンに、前記成分を下記の量(個々の量を加えると常に100重量%となる)で組み込む:
5〜35重量%の成分(a1)、
60〜85重量%の成分(a2)、
0〜5重量%の成分(a3)および
3〜10重量%の成分(b1)。
【0083】
特に好ましい一実施態様において、ポリウレタンを調製するために成分(a1)〜(a3)および(b1)を用いる。すなわち、ポリウレタンに、前記成分を下記の量(個々の量を加えると常に100重量%となる)で組み込む:
10〜30重量%の成分(a1)、
65〜85重量%の成分(a2)、
0〜3量%の成分(a3)および
3〜8重量%の成分(b1)。
【0084】
各成分(a1)、(a2)、(a3)および(b1)に対して記載した前記の量は、ポリウレタンの合成のために用いられる量を示すものであり、溶剤として存在し得るおよび/または添加され得るこれらの成分の付加的な量は含まれていない。
【0085】
完全にまたは部分的に実施される、(a1)、(a2)および任意に(a3)の重付加前、重付加中もしくは重付加後に溶解工程があってもよい。溶解工程は、(b1)の添加中または添加後に行ってもよい。
【0086】
少なくとも2種の有機溶剤の混合物またはただ1種の有機溶剤を使用することができる。混合溶剤が好ましい。
【0087】
ポリウレタン溶液の調製に関して、イソシアネート官能性ポリウレタンプレポリマーを製造するための初期充填に、成分(a1)、(a2)および任意に(a3)の一部若しくは全部を含み、イソシアネート基に対して不活性な溶剤により希釈を行い、50〜120℃の範囲の温度にバッチを加熱することが好ましい。イソシアネート付加反応を加速するために、ポリウレタン化学において既知の触媒を使用することができる。次いで、反応開始時に投入しなかった(a1)、(a2)および場合により(a3)以外の任意成分を測量添加する。
【0088】
(a1)、(a2)および任意に(a3)からのポリウレタンプレポリマー(a)の調製において、イソシアネート基とイソシアネート反応性基の物質量比は、一般的に1.05〜3.5、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.1〜2.5である。
【0089】
イソシアネート反応性基は、イソシアネート基に対して反応性である全ての基であり、例えば、第1級および第2級アミノ基、ヒドロキシ基またはチオール基である。
【0090】
成分(a1)、(a2)および任意に(a3)とプレポリマーの反応は、部分的にまたは完全に行うが、完全に行うことが好ましい。これにより、遊離イソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーがバルクまたは溶液において得られる。
【0091】
次いで、反応が未だ行われていないまたは一部しか行われていない場合、本方法のさらなる工程において、得られたプレポリマーを1種以上の有機溶剤を用いて溶解させることができる。
【0092】
工程(b)での鎖延長において、NH−および/またはNH−官能性成分を、プレポリマーの残存するイソシアネート基と反応させる。
【0093】
鎖延長の程度、言い換えると、工程(b)下における鎖延長および連鎖停止に使用する成分のNCO反応性基と、工程(a)で調製されたプレポリマーの遊離NCO基の当量比は、一般的に50〜150%、好ましくは50〜120%、より好ましくは60〜100%、極めて好ましくは約100%である。
【0094】
アミン成分(b1)は、任意に、溶剤による希釈形態、単独でまたは混合物で使用してよく、原則としていかなる添加順も可能である。アルコール性溶剤も、鎖延長または連鎖停止のために使用することができる。この場合、一般的に、存在する一部のアルコール性溶剤のみがポリマー鎖に組み込まれる。
【0095】
そのため、有機溶剤を希釈剤として使用する場合、(b)において鎖延長のために使用する成分の希釈剤含量は、希釈剤を含めた成分(B1)の総重量に基づき、好ましくは1〜95重量%、より好ましくは3〜50重量%である。
【0096】
希釈されたポリウレタン溶液は、組成物中に存在する全ての成分の固形留分に基づき、すなわち全固形分に基づき、通常、少なくとも5重量%のポリウレタンを含有する。しかしながら、全固形分に基づき、好ましくは少なくとも30重量%であり、より好ましくは少なくとも60重量%であり、極めて好ましくは70〜99重量%のポリウレタンが存在する。
【0097】
ポリウレタン溶液に適する溶剤は、エステル、例えば酢酸エチル、メトキシプロピルアセテートまたはブチロラクトン、アルコール、例えばエタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノール、ケトン、例えばアセトンまたはメチルエチルケトン、およびエーテル、例えばテトラヒドロフランまたはtert−ブチルメチルエーテルなどである。エステル、アルコール、ケトンおよび/またはエーテルを使用することが好ましい。少なくとも1つのアルコール、好ましくは少なくとも1つの脂肪族アルコール、より好ましくは少なくとも1つの炭素数2〜6の脂肪族アルコール(例えば、エタノール、n−プロパノールおよび/またはイソプロパノール)、および、エステル、ケトンまたはエーテルの群から選択される少なくとも1つの他の溶剤が存在することが特に好ましい。アルコール性溶剤の特に好ましい量は、全溶剤の総重量に基づいて、10〜80重量%であり、極めて好ましくは25〜65重量%である。本発明において、アルコールは供給される溶剤として識別され、これらはイソシネート官能性プレポリマーが形成された後で添加される。イソシアネート官能性プレポリマーの調製中にヒドロキシ官能性化合物(a3)として使用される、および前記プレポリマー中に共有的に組み込まれるアルコールの分量は溶剤の量として計算されない。
【0098】
好適なポリウレタン溶液の水の含有量は、溶液の総重量に基づいて、5重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満である。
【0099】
保護層を製造するために、異なるポリマーの混合物を用いることができる。例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニルおよび/または対応するコポリマーに基づくポリマーの混合物を含むことが適している。
【0100】
さらに、保護層の製造に使用し得るポリマーは、助剤および添加剤を含有し得る。そのような助剤および添加剤の例は、架橋剤、増粘剤、共溶媒、チキソトロープ剤、安定化剤、酸化防止剤、光安定化剤、可塑剤、顔料、フィラー、疎水化剤および流動性調整助剤などである。
【0101】
ポリマーは、さらに殺生物剤、創傷治癒に役立つ活性成分または他の活性成分、例えば鎮痛剤または抗炎症剤などを含んでいてよい。
【0102】
溶液形態でのポリマーの塗布は、例えば、それ自体は既知の任意の形態(例えば、ナイフコーティング、塗り広げ、流し込み、噴霧などが挙げられる)により行えばよい。ポリマー溶液の噴霧が好ましい。
必要な場合、合間に乾燥工程を伴う多層塗布も原則として可能である。
【0103】
乾燥後、ポリマーから形成された保護層は、一般的に、1〜500μmの、好ましくは2〜300μmの、より好ましくは5〜200μmの、極めて好ましくは5〜50μmの厚みを有していてよい。
【0104】
本発明のさらなる主題は、本発明の複合接着剤系の製造方法であって、
I.組織接着剤から構成される接着剤層を基材に塗布し、かつ、
II.不透水性保護層を前記接着剤層に広く塗布する
方法である。
【0105】
同様に、本発明の主題は、本発明の方法により得られる複合接着剤系である。
また、本発明の主題は、細胞組織を被覆し、封止し、結合するための手段として用いるための本発明の複合接着剤系である。
細胞組織を被覆し、封止し、結合するための手段を作り出すための本発明の複合接着剤系の使用も、本発明の主題である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【0107】
他に明示しない限り、全てのパーセンテージは重量%である。
他に明示しない限り、全ての分析的測定は23℃の温度に対するものである。
固形分は、DIN−EN ISO 3251に従い測定した。
NCO含量は、他に明示しない限り、DIN−EN ISO 11909に従い容量分析により測定した。
遊離NCO基に関する確認は、IR分光法(バンド:2260cm−1)により行った。
記載した粘度は、DIN 53019に従い、23℃で、回転型粘度計〔Anton Paar Germany GmbH(オストフィルデルン、ドイツ)製の回転型粘度計を使用〕により測定した。
【0108】
〔使用した物質および略称〕
Desmophen(登録商標)C2200:ポリカーボネートポリオール、OH価56mgKOH/g、数平均分子量2000g/mol〔Bayer MaterialScience AG(レバークーゼン、ドイツ)製〕
Desmophen(登録商標)C1200:ポリカーボネートポリオール、OH価112mgKOH/g、数平均分子量1000g/mol〔Bayer MaterialScience AG(レバークーゼン、ドイツ)製〕
PolyTHF(登録商標)2000:ポリテトラメチレングリコールポリオール、OH価56mgKOH/g、数平均分子量2000g/mol〔BASF AG(ルードヴィヒスハーデン、ドイツ)製〕
PolyTHF(登録商標)1000:ポリテトラメチレングリコールポリオール、OH価112mgKOH/g、数平均分子量1000g/mol〔BASF AG(ルードヴィヒスハーデン、ドイツ)製〕
Desmophen NH1220:アミン硬化剤、当量234(Bayer MaterialScience AG)
【0109】
実施例1:ポリウレタン溶液からのポリマー層(本発明)
一般的な攪拌装置内で、200gのPolyTHF(登録商標)2000および50gのPolyTHF(登録商標)1000を80℃まで加熱した。その後、80℃で5分間かけて、66.72gのイソホロンジイソシアネートと520gのメチルエチルケトンの混合物を加え、この混合物を、理論上のNCO値に達するまで還流下で攪拌した(約8時間)。得られたプレポリマーを20℃まで冷却した後、25.2gのメチレンビス(4−アミノシクロヘキサン)と519.5gのイソプロパノールの溶液を、30分間かけて計量添加した。その後、遊離イソシアネート基がIR分光法により検出されなくなるまで攪拌を続けた。
【0110】
得られた透明溶液は、以下の特性を有していた。
固形分:25%
粘度(粘度計、23℃):4600mPas
【0111】
実施例2:ポリウレタン溶液からのポリマー層(本発明)
一般的な攪拌装置内で、200gのDesmophen(登録商標)C2200および50gのDesmophen(登録商標)C1200を80℃まで加熱した。その後、80℃で5分間かけて、66.72gのイソホロンジイソシアネートと520gのメチルエチルケトンの混合物を加え、この混合物を、理論上のNCO値に達するまで還流下で攪拌した(約8時間)。得られたプレポリマーを20℃まで冷却した後、25.2gのメチレンビス(4−アミノシクロヘキサン)と519.5gのイソプロパノールの溶液を、30分間かけて計量添加した。その後、遊離イソシアネート基がIR分光法により検出されなくなるまで攪拌を続けた。
【0112】
得られた透明溶液は、以下の特性を有していた。
固形分:26%
粘度(粘度計、23℃):1800mPas
【0113】
実施例3:ポリウレタン溶液からのポリマー層(本発明)
一般的な攪拌装置内で、225gのPolyTHF(登録商標)2000および37.5gのPolyTHF(登録商標)1000を80℃まで加熱した。その後、80℃で5分間かけて、50.04gのイソホロンジイソシアネートと485gのメチルエチルケトンの混合物を加え、この混合物を、理論上のNCO値に達するまで還流下で攪拌した(約16時間、8時間後に2滴のDBTLの添加)。得られたプレポリマーを20℃まで冷却した後、13.70gのメチレンビス(4−アミノシクロヘキサン)と485gのイソプロパノールの溶液を、30分間かけて計量添加した。その後、遊離イソシアネート基がIR分光法により検出されなくなるまで攪拌を続け、次いで、メチルエチルケトンとイソプロパノールの1:1の混合物を用いて、約20重量%の固形分に調整した。
【0114】
得られた透明溶液は、以下の特性を有していた。
固形分:20.8%
粘度(粘度計、23℃):11,200mPas
【0115】
実施例4:ポリウレタン溶液からのポリマー層(本発明)
一般的な攪拌装置内で、200gのPolyTHF(登録商標)2000および50gのPolyTHF(登録商標)1000を80℃まで加熱した。その後、80℃で5分間かけて、66.72gのイソホロンジイソシアネートと500gの酢酸エチルの混合物を加え、この混合物を、理論上のNCO値に達するまで還流下で攪拌した(約8時間)。得られたプレポリマーを20℃まで冷却した後、31.3gのメチレンビス(4−アミノシクロヘキサン)と500gのイソプロパノールの溶液を、30分間かけて計量添加した。その後、遊離イソシアネート基がIR分光法により検出されなくなるまで攪拌を続けた。
【0116】
得られた透明溶液は、以下の特性を有していた。
固形分:25%
粘度(粘度計、23℃):4600mPas
【0117】
実施例5:試験に使用する高膨潤ポリウレタン創傷接着剤
500mlの4つ首フラスコに、92.6gのHDIおよび0.25gのジブチルホスフェートを投入した。80℃で2時間かけて、71%のエチレンオキシド含量および29%のプロピレンオキシド含量(それぞれ、全アルキレンオキシド含量に基づく)を有する二官能性ポリエーテル(157.1g)を加え、1時間攪拌を続けた。その後、過剰量のHDIを、130℃、0.13mbarで薄膜蒸留により留去した。これにより、2.42%のNCO含量を有するプレポリマーが得られた。残留モノマー含量は、0.03%未満(<0.03%)HDIであった。粘度:2077mPas。
【0118】
実施例6:非保護ポリウレタン創傷接着剤の例
4gの実施例5のプレポリマーを、0.53gのDesmophen NH1220および0.47gのPEG 200とともに、Medmix製の2部品構成のアプリケーターを使用してガラス板に、長さ3cm、幅1cmのストライプ状に塗布した。このガラス板を、40℃の温水中に20分間放置した。接着剤は完全に剥離した。
【0119】
実施例7:PU溶液についての性能例
長さ3cm、幅1cmのストライプ状の、実施例6に由来するポリウレタン創傷接着剤を、アプリケーターを使用してガラス板に塗布した。30分後、創傷接着剤および周辺のガラス板が完全に覆われるようにブラシを使って、実施例1〜4のポリウレタン溶液を塗布した。5分間の乾燥後、このガラス板を、40℃までの温水に6〜40分間投入し、膨潤および/またはガラス板からの剥離に関する創傷接着剤の挙動を評価した。前記ポリウレタン保護膜の下では、創傷接着剤は、40℃で30分までの間、視覚的に変化しなかった。ガラス板からの剥離はなかった。
【0120】
実施例8:ポリアクリレート系についての性能例
実施例7と同じ方法において、実施例6の創傷接着剤を、ポリイソブテン、マレイン酸1−イソプロピル、アクリル酸メチル、酢酸エチルおよびペンタンからなるアクリレート系スプレー石膏で重ね塗りした。この保護膜は、40℃で40分まで、下層の接着剤を膨潤から保護した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織接着剤から構成される接着剤層および該接着剤層上に広く塗布される保護層を含み、組織接着剤が親水性ポリウレタンポリマーに基づき、保護層が不透水性である複合接着剤系であって、組織接着剤が、
(A)(A1)脂肪族イソシアネート、および
(A2)400g/mol以上(≧400g/mol)の数平均分子量および2〜6の平均OH官能価を有するポリオール
から得られるイソシアネート官能性プレポリマー、
(B)一般式(I):
【化1】

〔式中、
Xは、n価のアミンの第一級アミノ基の除去により得られるn価の有機基であり、
、Rは、ツェレビチノフ活性水素を含有しない、同一または異なる有機基であり、および
nは、少なくとも2の整数である〕
で示されるアミノ官能性アスパラギン酸エステル、および/または
(C)イソシアネート官能性プレポリマー(A)とアスパラギン酸エステル(B)の反応生成物
を含有することを特徴とする複合接着剤系。
【請求項2】
イソシアネート(A1)が、脂肪族的または脂環式に結合したイソシアネート基のみを含有することを特徴とする、請求項1に記載の複合接着剤系。
【請求項3】
ポリオール(A2)が、ポリアルキレンオキシドポリエーテルである、特に、存在するアルキレンオキシド単位の全量に基づいて60〜90重量%のエチレンオキシド系単位含量を有するポリアルキレンオキシドポリエーテルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合接着剤系。
【請求項4】
アスパラギン酸エステル(B)が、式中のXが、n価のアミンとして4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサンまたは2,2,4−若しくは2,4,4−トリメチル−1,6−ジアミノヘキサンから誘導され、RおよびRが、互いに独立して、C〜C10アルキル基であり、nが2である、式(I)で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項5】
組織接着剤が、アスパラギン酸エステル(B)を含まず、代わりに反応生成物(C)のみを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項6】
保護層が、100%以上(≧100%)、好ましくは200%以上(≧200%)の破断点伸びを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項7】
保護層が、0.5〜20MPaの、好ましくは1〜15MPaの、より好ましくは2〜10MPaの100%弾性率を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項8】
保護層がポリマーに基づくことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項9】
ポリマーが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニルおよび/または対応するコポリマー、好ましくは、ポリアクリレートおよび/またはポリウレタンであることを特徴とする、請求項8に記載の複合接着剤系。
【請求項10】
ポリマーが、
(a)イソシアネート官能性プレポリマーを、
(a1)有機ポリイソシアネート
(a2)400〜8000g/molの、好ましくは400〜6000g/molの、より好ましくは600〜3000g/molの数平均分子量を有し、1.5〜6の、好ましくは1.8〜3の、より好ましくは1.9〜2.1のOH官能価を有する高分子ポリオール、および
(a3)場合により、62〜399g/molの分子量を有するヒドロキシ官能性化合物
から調製し、かつ、
(b)(a)のプレポリマーの遊離NCO基を、
(b1)32〜1000g/mol、好ましくは32〜400g/molの分子量を有するアミノ官能性および/またはヒドロキシ官能性化合物
と、完全にまたは部分的に、鎖延長により反応させる、
前重合工程により得られるポリウレタンであることを特徴とする、請求項9に記載の複合接着剤系。
【請求項11】
I.組織接着剤から構成される接着剤層を基材に塗布し、かつ、
II.不透水性保護層を接着剤層に広く塗布する
請求項1〜10のいずれかに記載の複合接着剤系の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られる複合接着剤系。
【請求項13】
細胞組織を被覆、封止または結合させるための手段として使用する、請求項1〜10および12のいずれかに記載の複合接着剤系。
【請求項14】
細胞組織を被覆、封止または結合するための手段を作製するための、請求項1〜10および12のいずれかに記載の複合接着剤系の使用。

【公表番号】特表2013−513679(P2013−513679A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542496(P2012−542496)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068985
【国際公開番号】WO2011/069973
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】