細胞老化関連因子
【課題】本発明の課題は、老化を診断する方法を提供することである。
【解決手段】当該課題は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出し、その発現量の変化を検出することにより解決される。
【解決手段】当該課題は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出し、その発現量の変化を検出することにより解決される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト正常線維芽細胞は、細胞の分裂に従い、その表現型を大きく変え、やがては老化を迎えることが知られており、これを細胞老化という。
加齢に伴いおきるエラー・損傷の蓄積などの変化は、生理的な機能低下だけでなく、ガン、糖尿病、高血圧等の生活習慣病を含む様々な疾病の原因となる病的な変化をも引き起こす。そこで、このような変化を引き起こす老化の機構を明らかにするために、細胞老化に着目した研究が行われてきた。
【0003】
現在までに判明している細胞老化の指標としては、老化関連β−ガラクトシダーゼ(Senescence associated β−galactosidase:SA−β−gal)活性が上昇すること;過酸化脂質であるリポフスチンが脳や内臓の細胞に蓄積すること;ヒト線維芽細胞ではSenescence associated heterochromatin foci (SAHF)というゲノムワイドなヘテロクロマチン形成が核内に蓄積すること等が知られており、また多くの増殖抑制遺伝子が老化関連遺伝子として単離されている。
【0004】
老化に関連する遺伝子はこれまでにも解析が行われてきてはいるが、老化の結果として発現増強あるいは活性化されているに過ぎないものであることが多く、老化の原因を規定する遺伝子の同定までに至った研究は非常に少ない。また、ある特定の遺伝子ノックダウンの結果として、細胞老化が遅延又は阻害された例は非常に少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 92(20): 9363-9367 (1995)
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 279: 17826-17833 (2004)
【非特許文献3】Cell, 113(6): 703-716 (2003)
【非特許文献4】Aging Cell, 2(3): 145-150 (2003)
【非特許文献5】Cell, 133(6): 1019-1031 (2008)
【非特許文献6】Cell, 133(6): 1006-1018 (2008),
【非特許文献7】Cell, 132(3): 363-374 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞老化を制御しうる分子基盤は明らかにされておらず、細胞老化プログラム及びその制御因子が加齢性疾患発症へどのように関与しているのかについても明らかにされていなかった。そこで、本発明は、この細胞老化という局面において、発現増強する老化誘導遺伝子および発現低下する老化抑制遺伝子を同定することにより、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法又は老化を軽減又は予防するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、加齢に伴う生理的な機能低下と病的老化のモデルとなる分子・シグナルを明らかにするために、ヒト正常線維芽細胞(TIG−1)をモデル細胞として用いて、細胞の老化とともに発現を変化させる細胞老化関連因子をプロテオミクス的アプローチにより同定するとともに、それらの強制発現実験を通じた機能解析を行い、細胞老化を誘導しうる遺伝子を同定すること、及び、各種生活習慣病患者由来cDNAを用いた細胞老化関連因子の発現解析から、細胞老化関連因子の生活習慣病発症に対する寄与を明らかにすることにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出することを特徴とする、老化を診断する方法。
【0009】
(2)Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を含む、生活習慣病、神経変性疾患、自己免疫疾患又は炎症性疾患のマーカー。
ここで、生活習慣病は、肥満症、糖尿病、高血圧及び動脈硬化からなる群から選択される少なくとも1でもよい。さらに、神経変性疾患はアルツハイマー病又は認知症でもよい。そして、自己免疫疾患は、リューマチ、1型糖尿病及び多発性硬化症からなる群から選択される少なくとも1であってもよい。また、炎症性疾患は、潰瘍性大腸炎及びクローン病からなる群から選択される少なくとも1であってもよい。
【0010】
(3)老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法であって、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下または非存在下に、前記細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)前記細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質質量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む、前記方法。
ここで、細胞老化関連因子がBand1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも減少している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断してもよい。さらに、細胞老化関連因子がBand2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも増加している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断してもよい。
【0011】
(4)Band2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を促進させる物質、又は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を抑制する物質を含む、老化を軽減するための医薬組成物。
【0012】
ここで、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23であってもよく、分裂老化に伴い発現が低下する老化関連遺伝子は、Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13であってもよい。
【0013】
また、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、早期老化に協調して発現増強する遺伝子は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、発現低下する遺伝子はSpot10、Spot13及びSpot27でもよい。
さらに、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子はBand5及びSpot8であってもよい。
【0014】
そして、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、アルツハイマー病患者での発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1及びBand11であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の老化を診断する方法に関連する老化特異的遺伝子又は抗老化遺伝子は、臓器レベルでの老化症状を客観的に測定して、診断するための指標として用いることができる。
また、本発明の老化特異的遺伝子等は、老化関連疾患の治療や創薬に有用な情報として利用することもできる。
【0016】
さらに、本発明の老化特異的遺伝子は、老化の進行を人為的に操作する技術にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、分裂老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図2】図2は、分裂老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質の二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図3】図3は、分裂老化及び早期老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図4】図4は、分裂老化及び早期老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質の二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図5】図5は、ヒト線維芽細胞の分裂老化にともなう老化マーカー遺伝子の発現変化を示すグラフである。
【図6】図6は、SDS−PAGEにより同定した遺伝子の分裂変化における発現変化を定量リアルタイムPCRにより定量したグラフである。
【図7】図7は、二次元電気泳動により同定した遺伝子の分裂変化における発現変化を定量リアルタイムPCRにより定量したである。
【図8】図8は、TIG−1細胞へ老化関連遺伝子強制発現ベクターを導入し、SA−β−gal染色してから10時間経過後の写真である。
【図9】図9は、糖尿病患者と健常者由来筋肉組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRで解析した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、糖尿病患者及び健常者由来膵臓組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRで解析した結果を示すグラフである。
【図11】図11は、アルツハイマー病患者及び健常者由来大脳皮質組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRにより解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法に関する。以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明の細胞老化関連因子>
本発明の細胞老化関連因子は、その発現量の変化を解析することにより、老化の進行を診断する方法に供することができる。
【0019】
本発明の細胞老化関連因子とは、細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子をいう。好ましくは、Band1(Homo Sapiens death inducer−obliterator1;アクセッション番号AK002127.1;配列番号1)、Band2(Homo sapiens zinc finger protein45;ZNF45;アクセッション番号BC037575.1;配列番号3)、Band3(Homo sapiens Ran GTPase activating protein1;RANGAP1;アクセッション番号BC014044.2;配列番号5)、Band4(Homo sapiens FK506 binding protein5;FKBP5;アクセッション番号U71321.1;配列番号7)、Band5(Homo sapiens WNT1 inducible signaling pathway protein3;WISP3;アクセッション番号AF100781.1;配列番号9)、Band6(Homo sapeins mitogen−activated protein kinase kinase6;MAP2K6;アクセッション番号BC012009.1;配列番号11)、Band10(Homo sapiens Transmembrane protein199;TMEM199;アクセッション番号BC033113.1;配列番号13)、Band11(Homo sapiens spermidine/spermine N1−acetyltransferase family member2;SAT2;アクセッション番号BC011751.2;配列番号15)、Spot1(Homo sapiens zinc finger protein73;ZNF73;アクセッション番号Y10929.1;配列番号17)、Spot4(Homo sapiens SWI/SNF related、matrix associated、actin dependent regulator of chromatin、subfamilyd、member1;SMARCD1;アクセッション番号BC009368.2;配列番号19)、Spot7(Homo sapiens serine/threonine kinase4;STK4;アクセッション番号U60207.1;配列番号21)、Spot8(Homo sapiens ATP synthase,H+ transporting,mitochondrial F1 complex,beta polypeptide;ATP5B;アクセッション番号BC016512.1;配列番号23)、Spot10(Homo sapiens Vimentin;アクセッション番号BC000163.2;配列番号25)、Spot13(Homo sapiens protein kinase,cGMP−dependen,type1;PRKG1;アクセッション番号BC127090.1;配列番号27)、Spot23(Homo sapiens ATPase,H+ transporting,lysosomal V0 subunita2;ATP6V0A2;アクセッション番号AF112972.1;配列番号29)、Spot27(Homo sapiens calmin;CLMN;アクセッション番号AB047979.1;配列番号31)があげられるが、これらに限定されない。
【0020】
このうち、Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23等の遺伝子は分裂老化に伴い発現が増加する遺伝子であり、Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13等の遺伝子は分裂老化に伴い発現が低下する遺伝子である。
【0021】
このうち、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は早期老化に伴い発現が増加する遺伝子であり、Spot10、Spot13及びSpot27等の遺伝子は早期老化に伴い発現が低下する遺伝子である。
【0022】
また、Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い筋肉で発現が増加する遺伝子であり、Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い、膵臓で発現が増加する遺伝子であり、Band5及びSpot8等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い膵臓で発現が低下する遺伝子である。
【0023】
さらに、Band1及びBand11等の遺伝子はアルツハイマー病の進行に伴い発現が増加する遺伝子である。
総じて、老化や老化関連の疾病の進行に伴い発現が増加する遺伝子を老化特異的遺伝子という場合もあり、また、老化や老化関連の疾病の進行に伴い発現が低下する遺伝子を、抗老化遺伝子という場合もある。
【0024】
本発明の細胞老化関連因子の遺伝子群は、細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子であり、細胞老化診断、細胞老化に依存した細胞機能変化修復のためのターゲット分子として好ましい。
【0025】
<本発明の老化を診断する方法>
本発明の上記細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、老化を診断することができる。
本発明の老化とは、生物学的に時間の経過とともに生物の個体に起こる変化や、細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされる細胞老化をいい、加齢性疾患や各種炎症性疾患が発症する状態をも含まれる。細胞老化は、特に、ヒト正常線維芽細胞において、細胞の分裂に従い、当該細胞の表現型が大きく変化することにより、老化を迎えることをいう場合もある。
【0026】
細胞老化には、「分裂老化」と「早期老化」が含まれる。正常なヒト体細胞では、染色体末端のテロメアを延長する酵素テロメラーゼが発現していないため、末端複製問題から細胞分裂の度にテロメアが短縮する。テロメア長がある限界値まで達したとき、細胞周期チェックポイントの発動とともに、細胞が増殖を不可逆的に停止する過程を分裂老化という。これに対して、細胞分裂回数に依存することなく、ガン遺伝子やDNA損傷などの様々な外因性のストレスによっても、細胞は不可逆的に増殖を停止し、細胞老化様の表現型を示す。この細胞老化は、テロメアが一定の閾値まで短縮するのを待たず、短期間のうちに細胞老化様形態を示し、早期老化と呼ばれている。この早期老化は最近、炎症性サイトカインによっても誘導されることが知られており、各種炎症性疾患発症に対する早期老化の寄与も推定されている。ここでいう炎症性疾患とは、糖尿病・肥満症を含むメタボリックシンドローム、動脈硬化症、アルツハイマー病、認知症を含む神経変性疾患、リューマチ及び多発性硬化症を含む自己免疫疾患を含むものであるがこれらに限定されない。
【0027】
「加齢性疾患」とは、加齢に伴い発症頻度が高まる疾患をいい、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満等の生活習慣病やアルツハイマー病や認知症等の神経変性疾患や、動脈硬化、骨粗鬆症、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、狭心症、大腸癌等の様々な癌等があげられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の老化を診断する方法は、好ましくは、本発明の細胞老化関連因子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)生体試料中の本発明の細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質量を測定する工程;
(ii)上記(i)に基づく結果と、同時に行った対照の結果又は経時的変化による結果とを比較して検出する工程;及び、
(iii)前記発現量の変化により、老化の進行を評価する工程;
を含む方法である。
【0029】
本発明の上記方法のうち、「生体試料」とは、血液、尿、組織等があげられるが、これらに限定されない。
本発明の上記方法のうち、「発現量の測定」には、公知の発現量を測定する方法を用いることができるが、例えば、本実施例に記載の定量PCR法、ELISA法、ウェスタンブロット法、免疫染色法などがあげられる。
【0030】
本発明の上記方法のうち、工程(ii)については、対照との比較を行ってもよく、また、経時変化による試験結果を比較することによってもよい。この場合、生体試料が存在しない条件下で工程(i)と同じ操作を行ったものが対照として好適である。あるいは、対照としては、生体試料をより低い濃度で含む場合であってもよい。または、健常者由来の生体試料を対照としてもよい。また、対照との比較にかえて、発現量の経時的な変化を比較してもよい。その場合は、試験開始時期と比較した、試験開始一定期間後の発現量の変化を指標にしてもよく、また、2以上の所定の時点での発現量をそれぞれ比較することにより、その発現量の変化を指標としてもよい。
【0031】
本発明の上記方法のうち、工程(iii)については、老化特異的遺伝子を用いる場合は、当該遺伝子の発現量又は当該タンパク質の発現量が増加すれば老化の状態が進行していると評価することができる。抗老化遺伝子を用いる場合は、当該遺伝子の発現量又は当該タンパク質の発現量が増加すれば、老化の進行が抑制されている又は老化が開始されていないと評価できる。
【0032】
「老化の状態」とは、生物学的に時間の経過とともに生物の個体に起こる変化の状態や、細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされた結果の状態、細胞がストレスや炎症性サイトカインに曝されることで増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされた結果の状態のほか、加齢性疾患が発症又は進行する状態をいう。
【0033】
<本発明のマーカー>
本発明の上記細胞老化関連因子は、老化の診断、例えば、上記<本発明の老化を診断する方法>に記載した方法において、マーカーとして用いることができる。すなわち、本発明の細胞老化関連因子は、老化マーカー、又は糖尿病又はアルツハイマー病等の加齢性疾患及び炎症性疾患のマーカーに適用することもできる。
【0034】
本発明の上記細胞老化関連因子をマーカーとして用いる場合の指標は、上記<本発明の老化を診断する方法>に記載したとおりである。
<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>
本発明の上記細胞老化関連因子を用いて、老化を軽減又は予防する物質のスクリーニングを行うことができる。
【0035】
老化を軽減又は予防する物質について、本発明によるスクリーニング方法は、以下の手順に基づく。すなわち、本発明の細胞老化関連因子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下又は非存在下に、本発明の細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)上記細胞老化関連因子の遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む方法により、老化を軽減又は予防する物質のスクリーニングを行うことができる。
【0036】
この場合、工程(i)の工程としては、被験物質の存在下または非存在下に、本発明の細胞老化関連因子を接触させる工程であれば何でもよく、例えば、特定の細胞を培養する工程や被験物質をある特定の細胞に接触させる工程でもよい。また、対照としては、被験物質が存在しない条件下で工程(i)および(ii)と同じ操作を行ったものが好適である。あるいは、被験物質をより低い濃度で含む場合であってもよい。また、対照との比較にかえて、発現量の経時的な変化を比較してもよい。その場合は、試験開始時期と比較した、被験物質投与一定期間後の発現量の変化を指標にしてもよく、また、2以上の所定の時点での発現量をそれぞれ比較することにより、その発現量の変化を指標としてもよい。
【0037】
このような物質のスクリーニングにおいて、被験物質の存在により老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現量が減少するか、又は、抗老化遺伝子又はタンパク質の発現量が増加することが確認できれば、当該物質は老化を軽減又は予防を促進する物質と判定される。
【0038】
<本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物>
本発明は、老化を軽減又は予防するための医薬組成物も提供する。
本発明に関する細胞老化関連因子のうち、老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現を阻害することにより、老化を軽減又は予防できる。したがって、本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物には、老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現を阻害する物質が含まれてもよい。当該物質は、上記<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>に記載した方法により探索することができる。
【0039】
その他、当該遺伝子の発現阻害の方法としては、特に限定されるものではないが、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができる。当該遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
【0040】
また、本発明に関する細胞老化関連因子のうち、抗老化遺伝子の発現を促進することによっても、老化を軽減又は予防できる。したがって、本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物には、抗老化遺伝子の発現を促進する物質が含まれてもよい。当該物質は、上記<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>に記載した方法により探索することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物を細胞内に導入させるには、公知の方法を用いることができるが、例えば、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能であるし、市販の遺伝子導入キット(例えばAdeno−X発現システム:クローンテック社)を用いることもできる。また場合によっては、本発明の医薬組成物を細胞に接触させるだけでもよい。本発明の医薬組成物の投与形態は、経口、非経口投与のいずれでも可能であり、その投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型により適宜変更することができる。
【実施例】
【0042】
本実施例は、プロテオミクス的手法により、分裂老化、早期老化、加齢性疾患及び炎症性疾患の発症に関与する細胞老化関連因子を同定し、その発現解析を行うことを目的とする。
【0043】
1.老化の誘導
分裂老化(Replicative senescence)は、ヒト正常線維芽細胞TIG−1を用いて、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むMEM培地にて、37℃、5%CO2存在下で長期間継代培養することで誘導した。
【0044】
早期老化(Premature senescence)は、アデノウイルス発現系を用いて、TIG−1細胞に細胞老化誘導因子であるTAK1とTAB1、PKC−δ、Rasを強制発現させることにより、誘導した。まず、アデノウイルスのインフェクションを行う12時間前に、10%FBSを含むMEM培地で培養したTIG−1細胞を、1.2×103細胞/mLの細胞密度で播種した。12時間後、無血清培地で2回洗浄した。陰性コントロールとしてAdeno−nullを、サンプルとしてRasを発現するAdeno- Ras,MKK6の優性活性化変異体MKK6gluを発現するAdeno- MKK6glu,TAK1を発現するAd−TAK1,TAB1を発現するAd−TAB1及びPKC−δを発現するAd−PKC−δの各ウイルス原液をMOI(Multiplicity of infection:多重感染度)が100となるように無血清MEM培地で希釈したものを細胞に添加した。細胞全体にウイルス液を行き渡らせ、37℃、5%CO2存在下で24時間培養した。培地交換後、さらに同条件にて3〜4日間培養を行い、早期老化を誘導した。
【0045】
2.老化細胞において発現が増強又は減少しているタンパク質の同定
次に、上記のように老化を誘導したTIG−1細胞から、細胞表層タンパクビオチン化キット(PIERCE)を用いて、膜タンパク質を調製した。具体的には、細胞をビオチン化し、NeutrAvidin(商標)Resinを用いてビオチン化タンパク質を単離し、SDSバッファ及び50mM DDTで溶出したものをサンプルとした。
【0046】
あるいは、細胞膜タンパク質はCALBIOCHEM膜タンパク質抽出キットを用いて調製した。具体的には、細胞にExtraction buffer I及びExtraction buffer IIを加え、遠心後沈殿物を除いた上清をサンプルとした。
【0047】
上記で得られた膜タンパク質を、SDS−PAGE及び二次元電気泳動に供し、目的タンパク質を切り出した。その後、ゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI TOF−MS解析により当該タンパク質の同定を行った。
【0048】
SDS−PAGEは、以下の方法で行った。すなわち、一般的なSDS−PAGE法に基づき、5%の濃縮ゲル、8%の分離ゲルである組成のゲルを作製し、25mM Tris、192mMグリシン、0.1%SDS溶液を泳動バッファとして用いて、400μg相当のタンパク質を、40V、200mAにて電気泳動を行った。
【0049】
二次元電気泳動は、以下の方法で行った。すなわち、まず一次元目は等電点電気泳動を行い、等電点によりタンパク質の分離を行った。二次元目はSDS−PAGEを行い、分子量でタンパク質の分離を行った。泳動後のゲルについて銀染色を行い、目的タンパク質のスポットを切り出した。その後、ゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI TOF−MS解析により当該タンパク質の同定を行った。
【0050】
分裂老化に関する結果を図1及び2に示す。図1はSDS−PAGEの結果を示し、図2は二次元電気泳動の結果を示す。ここで、Youngとは、集団倍加数PDL(Population doubling level)40(40回分裂したTIG−1細胞)を示し、Oldとは、PDL64(64回分裂したTIG−1細胞)を示す。このようにYoungとOldでは、発現に差があり、これにより、合計16種類のタンパク質を同定することができた。
【0051】
また、調製した膜タンパク質をSDS−PAGEと二次元電気泳動により分離して、早期老化及び分裂老化を誘導した細胞における発現タンパク質の変化を比較した結果を図3及び4に示す。
【0052】
その後、目的タンパク質を切り出してゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI−TOF−MS分析に供し、ペプチド断片の質量を測定し、データベース検索でそれぞれのタンパク質を同定した。
【0053】
上記の結果、SDS−PAGEおよび二次元電気泳動により同定されたタンパク質を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
3.細胞老化関連遺伝子の遺伝子発現解析
次に上記で同定した老化関連タンパク質に対する老化関連遺伝子が、TIG−1細胞の細胞老化にともない、どのような発現変化を示すかを検討した。当該遺伝子には細胞老化や個体老化との関連がこれまで指摘されていないものも多く見受けられた。
【0056】
具体的には、まず、上記で同定された16種類の細胞老化関連タンパク質について、該当遺伝子に関する情報を収集し、それぞれに対するプライマーを合成後、定量PCR法により細胞老化に依存した遺伝子発現解析を行った。用いた老化関連遺伝子は、Band1(配列番号1)、Band2(配列番号3)、Band3(配列番号5)、Band4(配列番号7)、Band5(配列番号9)、Band6(配列番号11)、Band10(配列番号13)、Band11(配列番号15)、Spot1(配列番号17)、Spot4(配列番号19)、Spot7(配列番号21)、Spot8(配列番号23)、Spot10(配列番号25)、Spot13(配列番号27)、Spot23(配列番号29)、Spot27(配列番号31)である。老化マーカーとしてCDKインヒビターである、p21(アクセッション番号NM_000389.3;配列番号33)、p16(アクセッション番号NM_000077.3;配列番号34)も用いた。
【0057】
分裂老化は上記のとおり、TIG−1の継代培養により誘導し、継代ごとにFastPureRNAキット(Takara)を用いて全RNAを抽出した。具体的には、1/100容の2−メルカプトエタノールを含むLysis bufferを添加し、1.5mLチューブに回収した。20Gの注射針でDNAを剪断後、Solubilization Bufferを添加した。この混合液をフィルターカートリッジに供し、Elution bufferで全RNA溶液を溶出した。
【0058】
この継代ごとのRNAの品質を、老化マーカーであるCDKインヒビターp21とp16の発現変化を指標にして、定量PCR法により評価した。定量PCR法には、SYBR Premix EX Taqキット(Takara)を用いた。測定には、ThermalCyclerDiceRealTimeSystem(Takara)を用いた。PCR反応条件としては、95℃ 10秒を1cycle、95℃ 5秒、55℃ 20秒、72℃ 20秒を50cycle行った。スタンダードには、ヒトβ−アクチンを用いた。また、相対遺伝子発現量は、標的遺伝子の発現量をβ−アクチンの発現量で除し求めた。以下にβ−アクチン、p16、p21のプライマー配列を示す。
−Homo sapiens β−アクチン
Forward:5’−TGGCACCCAGCACAATGAA−3’(配列番号35)
Reverse:5’−CTAAGTCATAGTCCGCCTAGAAGCA−3’(配列番号36)
−Homo sapiens p16
Forward:5’−GGCACCAGAGGCAGTAACCA−3’(配列番号37)
Reverse:5’−GGACCTTGGGTGACTGATGATC−3’(配列番号38)
−Homo sapiens p21
Forward:5’−TGAAATCGTCCAGCGACCTTC−3’(配列番号39)
Reverse:5’−GTCCATAGCCTCTACTGCCACC−3’(配列番号40)
その結果、両老化マーカーとも、TIG−1の分裂老化とともに発現増強していることが明らかとなった(図5)。そのため、以下の実験は、当該RNAを用いて行った。
【0059】
次に、SDS−PAGEで同定した8種の老化関連タンパク質(Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10及びBand11)に相当する老化関連遺伝子について、各々プライマーを合成し、定量PCRによりTIG−1の分裂老化に伴う遺伝子発現解析を行った。定量PCR条件は上記の通り行った。以下にプライマー配列を示す。
Band1:
Forward:5’−GCCTGTCTCCCTGGAGGATT(配列番号41)
Reverse:5’−TTTCAGAAGAGGCTGGTCGT(配列番号42)
Band2:
Forward:5’−GACGTGGCTGTGGTCTTCTC(配列番号43)
Reverse:5’−CTCTGGGTTGCCATCTTCAT(配列番号44)
Band3:
Forward:5’−CTCAGTGATGACGAGGACGA(配列番号45)
Reverse:5’−CCCAGTGTTAGGGTCCAGAA(配列番号46)
Band4:
Forward:5’−TCCCTCGAATGCAACTCTCT(配列番号47)
Reverse:5’−AAACATCCTTCCACCACAGC(配列番号48)
Band5:
Forward:5’−CAGATGCACCTCAGCGTAAA(配列番号49)
Reverse:5’−ATCCACAGCCATTCTTCACC(配列番号50)
Band6:
Forward:5’−ACGGCTACTGATGGATTTGG(配列番号51)
Reverse:5’−TGACCGAGAGCATTGATGAG(配列番号52)
Band10:
Forward:5’−CTCCACGGAACCCAGAACTA(配列番号53)
Reverse:5’−GATGGTGATGACCAGAGCCT(配列番号54)
Band11:
Forward:5’−AGTACATGGAAGGGACGCAC(配列番号55)
Reverse:5’−CTTTCCTGCCAACTTTCTCG(配列番号56)
その結果、TIG−1の分裂老化とともに発現増強する老化関連遺伝子3種(Band1、Band5及びBand11)および発現低下する老化関連遺伝子4種(Band2、Band4、Band6及びBand10)が同定された(図6)。当該結果は、SDS−PAGEでみられた発現変化とほぼ一致した。
【0060】
さらに、二次元電気泳動で同定した老化関連タンパク質(Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23、Spot27)について、同様に定量PCRにより分裂老化に伴う遺伝子発現解析を行った。定量PCR条件は上記の通り行った。以下にプライマー配列を示す。
Spot1:
Forward:5’−GGGAAAACGTTTCACCAAAAG(配列番号57)
Reverse:5’−CATGCATATGGTTTTTCCCCCG(配列番号58)
Spot4:
Forward:5’−ACGTCCCATCAAGCAAAAAC(配列番号59)
Reverse:5’−TTGGACAAGGCTGAATCCTC(配列番号60)
Spot7:
Forward:5’−TCCTGTGGAATCAGACCTCC(配列番号61)
Reverse:5’−TCAGATACAGAACCAGCCCC(配列番号62)
Spot8:
Forward:5’−TCACCCAGGCTGGTTCAGA(配列番号63)
Reverse:5’−AGTGGCCAGGGTAGGCTGAT(配列番号64)
Spot10:
Forward:5’−GAGAACTTTGCCGTTGAAGC(配列番号65)
Reverse:5’−GAAATCCTGCTCTCCTCGC(配列番号66)
Spot13:
Forward:5’−CGAGGTTATGCCAAACTGGT(配列番号67)
Reverse:5’−GGATGATCTCTGGGGCTACA(配列番号68)
Spot23:
Forward:5’−GGGATTTGTGTCTGGCCTAA(配列番号69)
Reverse:5’−CAGGGTCTTCAAGGGATTCA(配列番号70)
Spot27
Forward:5’−TGTTCAGTTGAGGAACGCAG(配列番号71)
Reverse:5’−CAAGCTGTGTCAGGGAGTCA(配列番号72)
その結果、TIG−1の分裂老化とともに発現増強する老化関連遺伝子6種(Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)および発現低下する老化関連遺伝子1種(Spot13)が同定された(図7)。この結果も、二次元電気泳動でみられた発現変化とほぼ一致した。
【0061】
以上の結果より、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子が9種類(Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)、分裂老化に伴い発現が低下する老化関連遺伝子が5種類(Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13)同定された。
【0062】
同様に、早期老化における遺伝子発現解析を行った。上記の老化関連遺伝子の転写量を、上記プライマーを用い、上記方法にてリアルタイムPCRで測定した。
早期老化TIG−1細胞における、老化関連遺伝子の発現量をリアルタイムPCRで測定した結果から、多くの老化関連遺伝子の発現が早期老化の誘導とともに増強されていることが明らかとなった。具体的には、4通り全ての早期老化誘導時に発現が増加する老化関連遺伝子が7種類(Band1、Band2、Band3、Band5、Band11、Spot1及びSpot7)、4通りのうち3通りの早期老化誘導時に発現が増加する老化関連遺伝子が5種類(Band6、Spot4、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。
【0063】
以上の結果から、本研究により同定された老化関連遺伝子群は細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子であり、細胞老化診断、細胞老化に依存した細胞機能変化修復のためのターゲット分子であることが示された。
【0064】
4.発現が増加する遺伝子と老化誘導との関連性の検討
上記分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子が老化を誘導するか否かを解析した。
【0065】
老化を誘導するか否かの評価については、老化の指標として広く用いられているSA−β−galアッセイにより検討した。具体的には、まずそれぞれの細胞老化関連遺伝子全長を増幅するためのプライマーを合成し、TIG−1細胞より調製したRNAを用いて合成したcDNAを鋳型としてPCRを行い、細胞老化関連遺伝子をpGEMT−easyベクター(Promega)にクローニングした。塩基配列を確認後、各細胞老化関連遺伝子を切り出し、動物細胞発現ベクターであるpEGFP−C3(クローンテック)に挿入した。得られた発現ベクターを遺伝子導入試薬(HilyMax;同仁化学)を用いTIG−1細胞へ導入した。
【0066】
その後、当該細胞に対し、SA−β−gal染色を行い、10時間放置した。
その結果、細胞老化関連遺伝子を強制発現した細胞では、mockと比較して、より強く染まっていることが確認された(図8)。当該結果から、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子は、TIG−1細胞において老化を誘導することが示された。このことから、当該遺伝子が老化プログラムにおいて重要な役割を担っていることが示された。
【0067】
5.細胞老化関連遺伝子の加齢性疾患に対する寄与
次に、細胞老化関連遺伝子が加齢性疾患にどのように寄与しているかを、糖尿病患者及び健常人の筋肉・膵臓組織由来cDNAを用いた、細胞老化関連遺伝子の発現解析により解析した。加齢性疾患としては糖尿病及びアルツハイマー病を選択した。
【0068】
糖尿病は、筋肉・膵臓の組織に対して、エラー・損傷の蓄積、ウイルス感染、ストレス等により細胞老化が誘導され、それに伴い、インスリン抵抗性、インスリン分泌低下を引き起こすことにより、発症すると考えることができるため、老化関連遺伝子が糖尿病の発症メカニズムとどのように関連しているかを検討した。
【0069】
具体的には、Toyoboより購入した糖尿病患者及びコントロールとして健常者由来の筋肉組織cDNAを鋳型として用いて、上記老化関連遺伝子特異的プライマーを用いて、上記方法により定量PCRを行い、老化関連遺伝子の発現を解析した。PCR反応条件としては、95℃10秒を1cycle、95℃5秒、55℃20秒、72℃20秒を50cycle行った。スタンダードとしては、β−アクチンを用いた。相対遺伝子発現量は、測定した値をβ−アクチンの値で除し求めた。
【0070】
その結果、糖尿病患者由来の筋肉では、p21、p16の発現が増強していることが明らかとなり、細胞老化が誘導されていることが示された(図9)。さらに、上記実施例で同定された多くの老化関連遺伝子群が、糖尿病患者由来の筋肉でも、発現が増強されていることも示された。具体的には、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子が13種類(Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。なお、図9では、左側が健常者、右側が糖尿病患者を示し、縦軸は相対発現量を示す。
【0071】
また、Toyoboより購入した、糖尿病患者及びコントロールとして健常者由来の膵臓組織cDNAを鋳型として用いて、上記老化関連遺伝子特異的プライマーを用いて、上記方法により定量PCRを行い、老化関連遺伝子の発現を解析した。
【0072】
その結果、筋肉組織と同様、糖尿病患者由来の膵臓においても、p21及びp16の発現が増強していることが明らかとなり、ここでも細胞老化が誘導されていることが示された(図10)。さらに、ここでも上記実施例で同定された多くの老化関連遺伝子群が、糖尿病患者由来膵臓において、発現増強していることが示された。具体的には、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子が14種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子が2種類(Band5及びSpot8)同定された。
なお、図10では、左側が健常者、右側が糖尿病患者を示し、縦軸は相対発現量を示す。
【0073】
このように、今回同定した、TIG−1の分裂老化に伴い発現増強する老化関連遺伝子のうち、そのほとんどのものが、糖尿病患者由来筋肉・膵臓組織で発現増強していることが明らかになった。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
このように、定量PCR法に基づき遺伝子発現解析を行った結果、TIG−1の分裂老化に協調して発現増強する遺伝子が9種類(Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)及び発現低下する遺伝子が5種類(Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13)確認された。
【0076】
さらに、4種類の細胞老化誘導因子(Ras,優勢活性化型変異体MKK6(MKK6glu)、TAK1およびTAB1、PKC−δ)を導入し早期老化を誘導した場合には、7種類の遺伝子の発現が全てに共通して、5種類の遺伝子の発現が4通りのうち3通りの早期老化誘導時に増強されていた。具体的には、TIG−1の早期老化に協調して発現増強する遺伝子が15種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)及び発現低下する遺伝子が3種類(Spot10、Spot13及びSpot27)確認された。
【0077】
これら細胞老化に伴って多少なりとも発現変化を示す細胞老化関連因子16種類のうち、糖尿病患者筋肉では13種類の遺伝子が、糖尿病患者膵臓でも14種類の遺伝子が発現増強されていた。具体的には、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子が13種類(Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。さらに、また、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子が14種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子が2種類(Band5及びSpot8)同定された。
【0078】
また、CDKインヒビターp16及びp21を含む細胞老化関連遺伝子群の発現が、上記疾患患者由来組織において増強していたことから、これら加齢性疾患の発症が細胞老化により引き起こされていることが示された。
【0079】
次に、分裂老化と早期老化TIG−1細胞において発現量が有意に変化した遺伝子について、その神経変性疾患に対する寄与を明らかにするため、Toyoboより購入した、アルツハイマー病患者由来大脳皮質及びコントロールとして健常者由来の大脳皮質cDNAを鋳型として用いて、前述と同様の方法により老化関連遺伝子の発現解析を行った。
【0080】
その結果、老化マーカーであるp21の発現がアルツハイマー病患者大脳皮質において、正常大脳皮質に比べて増強されていることが明らかになるとともに、今回同定された2種の細胞老化関連因子(Band1及びBand11)の発現がアルツハイマー病患者大脳皮質において、正常大脳皮質に比べて増強されていることが明らかとなった(図11)。この結果から、アルツハイマー病が細胞老化により引き起こされていると考えられるとともに、アルツハイマー病の発症においてもこれら細胞老化関連遺伝子が関与しているものと考えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の細胞老化関連因子を含む、老化を軽減するための医薬組成物により、肥満症・糖尿病・高血圧・動脈硬化を含む生活習慣病や神経変性疾患の診断、治療又は予防ができる。また、本発明に関連する細胞老化関連因子は上記疾患のマーカーとして有用である。さらに本発明に関連する細胞老化関連因子は未病診断マーカーとしても有用である。
【0082】
したがって、本発明に関連する細胞老化関連因子は、新たなドラッグターゲットになりうる点で産業上の利用可能性がある。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
配列番号35:プライマー
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【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト正常線維芽細胞は、細胞の分裂に従い、その表現型を大きく変え、やがては老化を迎えることが知られており、これを細胞老化という。
加齢に伴いおきるエラー・損傷の蓄積などの変化は、生理的な機能低下だけでなく、ガン、糖尿病、高血圧等の生活習慣病を含む様々な疾病の原因となる病的な変化をも引き起こす。そこで、このような変化を引き起こす老化の機構を明らかにするために、細胞老化に着目した研究が行われてきた。
【0003】
現在までに判明している細胞老化の指標としては、老化関連β−ガラクトシダーゼ(Senescence associated β−galactosidase:SA−β−gal)活性が上昇すること;過酸化脂質であるリポフスチンが脳や内臓の細胞に蓄積すること;ヒト線維芽細胞ではSenescence associated heterochromatin foci (SAHF)というゲノムワイドなヘテロクロマチン形成が核内に蓄積すること等が知られており、また多くの増殖抑制遺伝子が老化関連遺伝子として単離されている。
【0004】
老化に関連する遺伝子はこれまでにも解析が行われてきてはいるが、老化の結果として発現増強あるいは活性化されているに過ぎないものであることが多く、老化の原因を規定する遺伝子の同定までに至った研究は非常に少ない。また、ある特定の遺伝子ノックダウンの結果として、細胞老化が遅延又は阻害された例は非常に少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 92(20): 9363-9367 (1995)
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 279: 17826-17833 (2004)
【非特許文献3】Cell, 113(6): 703-716 (2003)
【非特許文献4】Aging Cell, 2(3): 145-150 (2003)
【非特許文献5】Cell, 133(6): 1019-1031 (2008)
【非特許文献6】Cell, 133(6): 1006-1018 (2008),
【非特許文献7】Cell, 132(3): 363-374 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞老化を制御しうる分子基盤は明らかにされておらず、細胞老化プログラム及びその制御因子が加齢性疾患発症へどのように関与しているのかについても明らかにされていなかった。そこで、本発明は、この細胞老化という局面において、発現増強する老化誘導遺伝子および発現低下する老化抑制遺伝子を同定することにより、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法又は老化を軽減又は予防するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、加齢に伴う生理的な機能低下と病的老化のモデルとなる分子・シグナルを明らかにするために、ヒト正常線維芽細胞(TIG−1)をモデル細胞として用いて、細胞の老化とともに発現を変化させる細胞老化関連因子をプロテオミクス的アプローチにより同定するとともに、それらの強制発現実験を通じた機能解析を行い、細胞老化を誘導しうる遺伝子を同定すること、及び、各種生活習慣病患者由来cDNAを用いた細胞老化関連因子の発現解析から、細胞老化関連因子の生活習慣病発症に対する寄与を明らかにすることにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出することを特徴とする、老化を診断する方法。
【0009】
(2)Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を含む、生活習慣病、神経変性疾患、自己免疫疾患又は炎症性疾患のマーカー。
ここで、生活習慣病は、肥満症、糖尿病、高血圧及び動脈硬化からなる群から選択される少なくとも1でもよい。さらに、神経変性疾患はアルツハイマー病又は認知症でもよい。そして、自己免疫疾患は、リューマチ、1型糖尿病及び多発性硬化症からなる群から選択される少なくとも1であってもよい。また、炎症性疾患は、潰瘍性大腸炎及びクローン病からなる群から選択される少なくとも1であってもよい。
【0010】
(3)老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法であって、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下または非存在下に、前記細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)前記細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質質量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む、前記方法。
ここで、細胞老化関連因子がBand1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも減少している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断してもよい。さらに、細胞老化関連因子がBand2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも増加している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断してもよい。
【0011】
(4)Band2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を促進させる物質、又は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を抑制する物質を含む、老化を軽減するための医薬組成物。
【0012】
ここで、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23であってもよく、分裂老化に伴い発現が低下する老化関連遺伝子は、Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13であってもよい。
【0013】
また、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、早期老化に協調して発現増強する遺伝子は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、発現低下する遺伝子はSpot10、Spot13及びSpot27でもよい。
さらに、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27であってもよく、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子はBand5及びSpot8であってもよい。
【0014】
そして、細胞老化関連因子のうち、好ましくは、アルツハイマー病患者での発現が増加する老化関連遺伝子は、Band1及びBand11であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の老化を診断する方法に関連する老化特異的遺伝子又は抗老化遺伝子は、臓器レベルでの老化症状を客観的に測定して、診断するための指標として用いることができる。
また、本発明の老化特異的遺伝子等は、老化関連疾患の治療や創薬に有用な情報として利用することもできる。
【0016】
さらに、本発明の老化特異的遺伝子は、老化の進行を人為的に操作する技術にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、分裂老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図2】図2は、分裂老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質の二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図3】図3は、分裂老化及び早期老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図4】図4は、分裂老化及び早期老化を誘導したTIG−1細胞から調製した、膜タンパク質の二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図5】図5は、ヒト線維芽細胞の分裂老化にともなう老化マーカー遺伝子の発現変化を示すグラフである。
【図6】図6は、SDS−PAGEにより同定した遺伝子の分裂変化における発現変化を定量リアルタイムPCRにより定量したグラフである。
【図7】図7は、二次元電気泳動により同定した遺伝子の分裂変化における発現変化を定量リアルタイムPCRにより定量したである。
【図8】図8は、TIG−1細胞へ老化関連遺伝子強制発現ベクターを導入し、SA−β−gal染色してから10時間経過後の写真である。
【図9】図9は、糖尿病患者と健常者由来筋肉組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRで解析した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、糖尿病患者及び健常者由来膵臓組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRで解析した結果を示すグラフである。
【図11】図11は、アルツハイマー病患者及び健常者由来大脳皮質組織における老化関連因子群の発現量を定量PCRにより解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、細胞老化関連因子を含む、老化を診断する方法に関する。以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明の細胞老化関連因子>
本発明の細胞老化関連因子は、その発現量の変化を解析することにより、老化の進行を診断する方法に供することができる。
【0019】
本発明の細胞老化関連因子とは、細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子をいう。好ましくは、Band1(Homo Sapiens death inducer−obliterator1;アクセッション番号AK002127.1;配列番号1)、Band2(Homo sapiens zinc finger protein45;ZNF45;アクセッション番号BC037575.1;配列番号3)、Band3(Homo sapiens Ran GTPase activating protein1;RANGAP1;アクセッション番号BC014044.2;配列番号5)、Band4(Homo sapiens FK506 binding protein5;FKBP5;アクセッション番号U71321.1;配列番号7)、Band5(Homo sapiens WNT1 inducible signaling pathway protein3;WISP3;アクセッション番号AF100781.1;配列番号9)、Band6(Homo sapeins mitogen−activated protein kinase kinase6;MAP2K6;アクセッション番号BC012009.1;配列番号11)、Band10(Homo sapiens Transmembrane protein199;TMEM199;アクセッション番号BC033113.1;配列番号13)、Band11(Homo sapiens spermidine/spermine N1−acetyltransferase family member2;SAT2;アクセッション番号BC011751.2;配列番号15)、Spot1(Homo sapiens zinc finger protein73;ZNF73;アクセッション番号Y10929.1;配列番号17)、Spot4(Homo sapiens SWI/SNF related、matrix associated、actin dependent regulator of chromatin、subfamilyd、member1;SMARCD1;アクセッション番号BC009368.2;配列番号19)、Spot7(Homo sapiens serine/threonine kinase4;STK4;アクセッション番号U60207.1;配列番号21)、Spot8(Homo sapiens ATP synthase,H+ transporting,mitochondrial F1 complex,beta polypeptide;ATP5B;アクセッション番号BC016512.1;配列番号23)、Spot10(Homo sapiens Vimentin;アクセッション番号BC000163.2;配列番号25)、Spot13(Homo sapiens protein kinase,cGMP−dependen,type1;PRKG1;アクセッション番号BC127090.1;配列番号27)、Spot23(Homo sapiens ATPase,H+ transporting,lysosomal V0 subunita2;ATP6V0A2;アクセッション番号AF112972.1;配列番号29)、Spot27(Homo sapiens calmin;CLMN;アクセッション番号AB047979.1;配列番号31)があげられるが、これらに限定されない。
【0020】
このうち、Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23等の遺伝子は分裂老化に伴い発現が増加する遺伝子であり、Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13等の遺伝子は分裂老化に伴い発現が低下する遺伝子である。
【0021】
このうち、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は早期老化に伴い発現が増加する遺伝子であり、Spot10、Spot13及びSpot27等の遺伝子は早期老化に伴い発現が低下する遺伝子である。
【0022】
また、Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い筋肉で発現が増加する遺伝子であり、Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い、膵臓で発現が増加する遺伝子であり、Band5及びSpot8等の遺伝子は糖尿病の進行に伴い膵臓で発現が低下する遺伝子である。
【0023】
さらに、Band1及びBand11等の遺伝子はアルツハイマー病の進行に伴い発現が増加する遺伝子である。
総じて、老化や老化関連の疾病の進行に伴い発現が増加する遺伝子を老化特異的遺伝子という場合もあり、また、老化や老化関連の疾病の進行に伴い発現が低下する遺伝子を、抗老化遺伝子という場合もある。
【0024】
本発明の細胞老化関連因子の遺伝子群は、細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子であり、細胞老化診断、細胞老化に依存した細胞機能変化修復のためのターゲット分子として好ましい。
【0025】
<本発明の老化を診断する方法>
本発明の上記細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、老化を診断することができる。
本発明の老化とは、生物学的に時間の経過とともに生物の個体に起こる変化や、細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされる細胞老化をいい、加齢性疾患や各種炎症性疾患が発症する状態をも含まれる。細胞老化は、特に、ヒト正常線維芽細胞において、細胞の分裂に従い、当該細胞の表現型が大きく変化することにより、老化を迎えることをいう場合もある。
【0026】
細胞老化には、「分裂老化」と「早期老化」が含まれる。正常なヒト体細胞では、染色体末端のテロメアを延長する酵素テロメラーゼが発現していないため、末端複製問題から細胞分裂の度にテロメアが短縮する。テロメア長がある限界値まで達したとき、細胞周期チェックポイントの発動とともに、細胞が増殖を不可逆的に停止する過程を分裂老化という。これに対して、細胞分裂回数に依存することなく、ガン遺伝子やDNA損傷などの様々な外因性のストレスによっても、細胞は不可逆的に増殖を停止し、細胞老化様の表現型を示す。この細胞老化は、テロメアが一定の閾値まで短縮するのを待たず、短期間のうちに細胞老化様形態を示し、早期老化と呼ばれている。この早期老化は最近、炎症性サイトカインによっても誘導されることが知られており、各種炎症性疾患発症に対する早期老化の寄与も推定されている。ここでいう炎症性疾患とは、糖尿病・肥満症を含むメタボリックシンドローム、動脈硬化症、アルツハイマー病、認知症を含む神経変性疾患、リューマチ及び多発性硬化症を含む自己免疫疾患を含むものであるがこれらに限定されない。
【0027】
「加齢性疾患」とは、加齢に伴い発症頻度が高まる疾患をいい、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満等の生活習慣病やアルツハイマー病や認知症等の神経変性疾患や、動脈硬化、骨粗鬆症、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、狭心症、大腸癌等の様々な癌等があげられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の老化を診断する方法は、好ましくは、本発明の細胞老化関連因子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)生体試料中の本発明の細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質量を測定する工程;
(ii)上記(i)に基づく結果と、同時に行った対照の結果又は経時的変化による結果とを比較して検出する工程;及び、
(iii)前記発現量の変化により、老化の進行を評価する工程;
を含む方法である。
【0029】
本発明の上記方法のうち、「生体試料」とは、血液、尿、組織等があげられるが、これらに限定されない。
本発明の上記方法のうち、「発現量の測定」には、公知の発現量を測定する方法を用いることができるが、例えば、本実施例に記載の定量PCR法、ELISA法、ウェスタンブロット法、免疫染色法などがあげられる。
【0030】
本発明の上記方法のうち、工程(ii)については、対照との比較を行ってもよく、また、経時変化による試験結果を比較することによってもよい。この場合、生体試料が存在しない条件下で工程(i)と同じ操作を行ったものが対照として好適である。あるいは、対照としては、生体試料をより低い濃度で含む場合であってもよい。または、健常者由来の生体試料を対照としてもよい。また、対照との比較にかえて、発現量の経時的な変化を比較してもよい。その場合は、試験開始時期と比較した、試験開始一定期間後の発現量の変化を指標にしてもよく、また、2以上の所定の時点での発現量をそれぞれ比較することにより、その発現量の変化を指標としてもよい。
【0031】
本発明の上記方法のうち、工程(iii)については、老化特異的遺伝子を用いる場合は、当該遺伝子の発現量又は当該タンパク質の発現量が増加すれば老化の状態が進行していると評価することができる。抗老化遺伝子を用いる場合は、当該遺伝子の発現量又は当該タンパク質の発現量が増加すれば、老化の進行が抑制されている又は老化が開始されていないと評価できる。
【0032】
「老化の状態」とは、生物学的に時間の経過とともに生物の個体に起こる変化の状態や、細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされた結果の状態、細胞がストレスや炎症性サイトカインに曝されることで増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされた結果の状態のほか、加齢性疾患が発症又は進行する状態をいう。
【0033】
<本発明のマーカー>
本発明の上記細胞老化関連因子は、老化の診断、例えば、上記<本発明の老化を診断する方法>に記載した方法において、マーカーとして用いることができる。すなわち、本発明の細胞老化関連因子は、老化マーカー、又は糖尿病又はアルツハイマー病等の加齢性疾患及び炎症性疾患のマーカーに適用することもできる。
【0034】
本発明の上記細胞老化関連因子をマーカーとして用いる場合の指標は、上記<本発明の老化を診断する方法>に記載したとおりである。
<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>
本発明の上記細胞老化関連因子を用いて、老化を軽減又は予防する物質のスクリーニングを行うことができる。
【0035】
老化を軽減又は予防する物質について、本発明によるスクリーニング方法は、以下の手順に基づく。すなわち、本発明の細胞老化関連因子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下又は非存在下に、本発明の細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)上記細胞老化関連因子の遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む方法により、老化を軽減又は予防する物質のスクリーニングを行うことができる。
【0036】
この場合、工程(i)の工程としては、被験物質の存在下または非存在下に、本発明の細胞老化関連因子を接触させる工程であれば何でもよく、例えば、特定の細胞を培養する工程や被験物質をある特定の細胞に接触させる工程でもよい。また、対照としては、被験物質が存在しない条件下で工程(i)および(ii)と同じ操作を行ったものが好適である。あるいは、被験物質をより低い濃度で含む場合であってもよい。また、対照との比較にかえて、発現量の経時的な変化を比較してもよい。その場合は、試験開始時期と比較した、被験物質投与一定期間後の発現量の変化を指標にしてもよく、また、2以上の所定の時点での発現量をそれぞれ比較することにより、その発現量の変化を指標としてもよい。
【0037】
このような物質のスクリーニングにおいて、被験物質の存在により老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現量が減少するか、又は、抗老化遺伝子又はタンパク質の発現量が増加することが確認できれば、当該物質は老化を軽減又は予防を促進する物質と判定される。
【0038】
<本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物>
本発明は、老化を軽減又は予防するための医薬組成物も提供する。
本発明に関する細胞老化関連因子のうち、老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現を阻害することにより、老化を軽減又は予防できる。したがって、本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物には、老化特異的遺伝子又はタンパク質の発現を阻害する物質が含まれてもよい。当該物質は、上記<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>に記載した方法により探索することができる。
【0039】
その他、当該遺伝子の発現阻害の方法としては、特に限定されるものではないが、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができる。当該遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
【0040】
また、本発明に関する細胞老化関連因子のうち、抗老化遺伝子の発現を促進することによっても、老化を軽減又は予防できる。したがって、本発明の老化を軽減又は予防するための医薬組成物には、抗老化遺伝子の発現を促進する物質が含まれてもよい。当該物質は、上記<老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法>に記載した方法により探索することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物を細胞内に導入させるには、公知の方法を用いることができるが、例えば、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能であるし、市販の遺伝子導入キット(例えばAdeno−X発現システム:クローンテック社)を用いることもできる。また場合によっては、本発明の医薬組成物を細胞に接触させるだけでもよい。本発明の医薬組成物の投与形態は、経口、非経口投与のいずれでも可能であり、その投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型により適宜変更することができる。
【実施例】
【0042】
本実施例は、プロテオミクス的手法により、分裂老化、早期老化、加齢性疾患及び炎症性疾患の発症に関与する細胞老化関連因子を同定し、その発現解析を行うことを目的とする。
【0043】
1.老化の誘導
分裂老化(Replicative senescence)は、ヒト正常線維芽細胞TIG−1を用いて、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むMEM培地にて、37℃、5%CO2存在下で長期間継代培養することで誘導した。
【0044】
早期老化(Premature senescence)は、アデノウイルス発現系を用いて、TIG−1細胞に細胞老化誘導因子であるTAK1とTAB1、PKC−δ、Rasを強制発現させることにより、誘導した。まず、アデノウイルスのインフェクションを行う12時間前に、10%FBSを含むMEM培地で培養したTIG−1細胞を、1.2×103細胞/mLの細胞密度で播種した。12時間後、無血清培地で2回洗浄した。陰性コントロールとしてAdeno−nullを、サンプルとしてRasを発現するAdeno- Ras,MKK6の優性活性化変異体MKK6gluを発現するAdeno- MKK6glu,TAK1を発現するAd−TAK1,TAB1を発現するAd−TAB1及びPKC−δを発現するAd−PKC−δの各ウイルス原液をMOI(Multiplicity of infection:多重感染度)が100となるように無血清MEM培地で希釈したものを細胞に添加した。細胞全体にウイルス液を行き渡らせ、37℃、5%CO2存在下で24時間培養した。培地交換後、さらに同条件にて3〜4日間培養を行い、早期老化を誘導した。
【0045】
2.老化細胞において発現が増強又は減少しているタンパク質の同定
次に、上記のように老化を誘導したTIG−1細胞から、細胞表層タンパクビオチン化キット(PIERCE)を用いて、膜タンパク質を調製した。具体的には、細胞をビオチン化し、NeutrAvidin(商標)Resinを用いてビオチン化タンパク質を単離し、SDSバッファ及び50mM DDTで溶出したものをサンプルとした。
【0046】
あるいは、細胞膜タンパク質はCALBIOCHEM膜タンパク質抽出キットを用いて調製した。具体的には、細胞にExtraction buffer I及びExtraction buffer IIを加え、遠心後沈殿物を除いた上清をサンプルとした。
【0047】
上記で得られた膜タンパク質を、SDS−PAGE及び二次元電気泳動に供し、目的タンパク質を切り出した。その後、ゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI TOF−MS解析により当該タンパク質の同定を行った。
【0048】
SDS−PAGEは、以下の方法で行った。すなわち、一般的なSDS−PAGE法に基づき、5%の濃縮ゲル、8%の分離ゲルである組成のゲルを作製し、25mM Tris、192mMグリシン、0.1%SDS溶液を泳動バッファとして用いて、400μg相当のタンパク質を、40V、200mAにて電気泳動を行った。
【0049】
二次元電気泳動は、以下の方法で行った。すなわち、まず一次元目は等電点電気泳動を行い、等電点によりタンパク質の分離を行った。二次元目はSDS−PAGEを行い、分子量でタンパク質の分離を行った。泳動後のゲルについて銀染色を行い、目的タンパク質のスポットを切り出した。その後、ゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI TOF−MS解析により当該タンパク質の同定を行った。
【0050】
分裂老化に関する結果を図1及び2に示す。図1はSDS−PAGEの結果を示し、図2は二次元電気泳動の結果を示す。ここで、Youngとは、集団倍加数PDL(Population doubling level)40(40回分裂したTIG−1細胞)を示し、Oldとは、PDL64(64回分裂したTIG−1細胞)を示す。このようにYoungとOldでは、発現に差があり、これにより、合計16種類のタンパク質を同定することができた。
【0051】
また、調製した膜タンパク質をSDS−PAGEと二次元電気泳動により分離して、早期老化及び分裂老化を誘導した細胞における発現タンパク質の変化を比較した結果を図3及び4に示す。
【0052】
その後、目的タンパク質を切り出してゲル内にてプロテアーゼ消化を行い、MALDI−TOF−MS分析に供し、ペプチド断片の質量を測定し、データベース検索でそれぞれのタンパク質を同定した。
【0053】
上記の結果、SDS−PAGEおよび二次元電気泳動により同定されたタンパク質を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
3.細胞老化関連遺伝子の遺伝子発現解析
次に上記で同定した老化関連タンパク質に対する老化関連遺伝子が、TIG−1細胞の細胞老化にともない、どのような発現変化を示すかを検討した。当該遺伝子には細胞老化や個体老化との関連がこれまで指摘されていないものも多く見受けられた。
【0056】
具体的には、まず、上記で同定された16種類の細胞老化関連タンパク質について、該当遺伝子に関する情報を収集し、それぞれに対するプライマーを合成後、定量PCR法により細胞老化に依存した遺伝子発現解析を行った。用いた老化関連遺伝子は、Band1(配列番号1)、Band2(配列番号3)、Band3(配列番号5)、Band4(配列番号7)、Band5(配列番号9)、Band6(配列番号11)、Band10(配列番号13)、Band11(配列番号15)、Spot1(配列番号17)、Spot4(配列番号19)、Spot7(配列番号21)、Spot8(配列番号23)、Spot10(配列番号25)、Spot13(配列番号27)、Spot23(配列番号29)、Spot27(配列番号31)である。老化マーカーとしてCDKインヒビターである、p21(アクセッション番号NM_000389.3;配列番号33)、p16(アクセッション番号NM_000077.3;配列番号34)も用いた。
【0057】
分裂老化は上記のとおり、TIG−1の継代培養により誘導し、継代ごとにFastPureRNAキット(Takara)を用いて全RNAを抽出した。具体的には、1/100容の2−メルカプトエタノールを含むLysis bufferを添加し、1.5mLチューブに回収した。20Gの注射針でDNAを剪断後、Solubilization Bufferを添加した。この混合液をフィルターカートリッジに供し、Elution bufferで全RNA溶液を溶出した。
【0058】
この継代ごとのRNAの品質を、老化マーカーであるCDKインヒビターp21とp16の発現変化を指標にして、定量PCR法により評価した。定量PCR法には、SYBR Premix EX Taqキット(Takara)を用いた。測定には、ThermalCyclerDiceRealTimeSystem(Takara)を用いた。PCR反応条件としては、95℃ 10秒を1cycle、95℃ 5秒、55℃ 20秒、72℃ 20秒を50cycle行った。スタンダードには、ヒトβ−アクチンを用いた。また、相対遺伝子発現量は、標的遺伝子の発現量をβ−アクチンの発現量で除し求めた。以下にβ−アクチン、p16、p21のプライマー配列を示す。
−Homo sapiens β−アクチン
Forward:5’−TGGCACCCAGCACAATGAA−3’(配列番号35)
Reverse:5’−CTAAGTCATAGTCCGCCTAGAAGCA−3’(配列番号36)
−Homo sapiens p16
Forward:5’−GGCACCAGAGGCAGTAACCA−3’(配列番号37)
Reverse:5’−GGACCTTGGGTGACTGATGATC−3’(配列番号38)
−Homo sapiens p21
Forward:5’−TGAAATCGTCCAGCGACCTTC−3’(配列番号39)
Reverse:5’−GTCCATAGCCTCTACTGCCACC−3’(配列番号40)
その結果、両老化マーカーとも、TIG−1の分裂老化とともに発現増強していることが明らかとなった(図5)。そのため、以下の実験は、当該RNAを用いて行った。
【0059】
次に、SDS−PAGEで同定した8種の老化関連タンパク質(Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10及びBand11)に相当する老化関連遺伝子について、各々プライマーを合成し、定量PCRによりTIG−1の分裂老化に伴う遺伝子発現解析を行った。定量PCR条件は上記の通り行った。以下にプライマー配列を示す。
Band1:
Forward:5’−GCCTGTCTCCCTGGAGGATT(配列番号41)
Reverse:5’−TTTCAGAAGAGGCTGGTCGT(配列番号42)
Band2:
Forward:5’−GACGTGGCTGTGGTCTTCTC(配列番号43)
Reverse:5’−CTCTGGGTTGCCATCTTCAT(配列番号44)
Band3:
Forward:5’−CTCAGTGATGACGAGGACGA(配列番号45)
Reverse:5’−CCCAGTGTTAGGGTCCAGAA(配列番号46)
Band4:
Forward:5’−TCCCTCGAATGCAACTCTCT(配列番号47)
Reverse:5’−AAACATCCTTCCACCACAGC(配列番号48)
Band5:
Forward:5’−CAGATGCACCTCAGCGTAAA(配列番号49)
Reverse:5’−ATCCACAGCCATTCTTCACC(配列番号50)
Band6:
Forward:5’−ACGGCTACTGATGGATTTGG(配列番号51)
Reverse:5’−TGACCGAGAGCATTGATGAG(配列番号52)
Band10:
Forward:5’−CTCCACGGAACCCAGAACTA(配列番号53)
Reverse:5’−GATGGTGATGACCAGAGCCT(配列番号54)
Band11:
Forward:5’−AGTACATGGAAGGGACGCAC(配列番号55)
Reverse:5’−CTTTCCTGCCAACTTTCTCG(配列番号56)
その結果、TIG−1の分裂老化とともに発現増強する老化関連遺伝子3種(Band1、Band5及びBand11)および発現低下する老化関連遺伝子4種(Band2、Band4、Band6及びBand10)が同定された(図6)。当該結果は、SDS−PAGEでみられた発現変化とほぼ一致した。
【0060】
さらに、二次元電気泳動で同定した老化関連タンパク質(Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23、Spot27)について、同様に定量PCRにより分裂老化に伴う遺伝子発現解析を行った。定量PCR条件は上記の通り行った。以下にプライマー配列を示す。
Spot1:
Forward:5’−GGGAAAACGTTTCACCAAAAG(配列番号57)
Reverse:5’−CATGCATATGGTTTTTCCCCCG(配列番号58)
Spot4:
Forward:5’−ACGTCCCATCAAGCAAAAAC(配列番号59)
Reverse:5’−TTGGACAAGGCTGAATCCTC(配列番号60)
Spot7:
Forward:5’−TCCTGTGGAATCAGACCTCC(配列番号61)
Reverse:5’−TCAGATACAGAACCAGCCCC(配列番号62)
Spot8:
Forward:5’−TCACCCAGGCTGGTTCAGA(配列番号63)
Reverse:5’−AGTGGCCAGGGTAGGCTGAT(配列番号64)
Spot10:
Forward:5’−GAGAACTTTGCCGTTGAAGC(配列番号65)
Reverse:5’−GAAATCCTGCTCTCCTCGC(配列番号66)
Spot13:
Forward:5’−CGAGGTTATGCCAAACTGGT(配列番号67)
Reverse:5’−GGATGATCTCTGGGGCTACA(配列番号68)
Spot23:
Forward:5’−GGGATTTGTGTCTGGCCTAA(配列番号69)
Reverse:5’−CAGGGTCTTCAAGGGATTCA(配列番号70)
Spot27
Forward:5’−TGTTCAGTTGAGGAACGCAG(配列番号71)
Reverse:5’−CAAGCTGTGTCAGGGAGTCA(配列番号72)
その結果、TIG−1の分裂老化とともに発現増強する老化関連遺伝子6種(Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)および発現低下する老化関連遺伝子1種(Spot13)が同定された(図7)。この結果も、二次元電気泳動でみられた発現変化とほぼ一致した。
【0061】
以上の結果より、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子が9種類(Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)、分裂老化に伴い発現が低下する老化関連遺伝子が5種類(Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13)同定された。
【0062】
同様に、早期老化における遺伝子発現解析を行った。上記の老化関連遺伝子の転写量を、上記プライマーを用い、上記方法にてリアルタイムPCRで測定した。
早期老化TIG−1細胞における、老化関連遺伝子の発現量をリアルタイムPCRで測定した結果から、多くの老化関連遺伝子の発現が早期老化の誘導とともに増強されていることが明らかとなった。具体的には、4通り全ての早期老化誘導時に発現が増加する老化関連遺伝子が7種類(Band1、Band2、Band3、Band5、Band11、Spot1及びSpot7)、4通りのうち3通りの早期老化誘導時に発現が増加する老化関連遺伝子が5種類(Band6、Spot4、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。
【0063】
以上の結果から、本研究により同定された老化関連遺伝子群は細胞の老化形質に依存して発現量が変化する遺伝子であり、細胞老化診断、細胞老化に依存した細胞機能変化修復のためのターゲット分子であることが示された。
【0064】
4.発現が増加する遺伝子と老化誘導との関連性の検討
上記分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子が老化を誘導するか否かを解析した。
【0065】
老化を誘導するか否かの評価については、老化の指標として広く用いられているSA−β−galアッセイにより検討した。具体的には、まずそれぞれの細胞老化関連遺伝子全長を増幅するためのプライマーを合成し、TIG−1細胞より調製したRNAを用いて合成したcDNAを鋳型としてPCRを行い、細胞老化関連遺伝子をpGEMT−easyベクター(Promega)にクローニングした。塩基配列を確認後、各細胞老化関連遺伝子を切り出し、動物細胞発現ベクターであるpEGFP−C3(クローンテック)に挿入した。得られた発現ベクターを遺伝子導入試薬(HilyMax;同仁化学)を用いTIG−1細胞へ導入した。
【0066】
その後、当該細胞に対し、SA−β−gal染色を行い、10時間放置した。
その結果、細胞老化関連遺伝子を強制発現した細胞では、mockと比較して、より強く染まっていることが確認された(図8)。当該結果から、分裂老化に伴い発現が増加する老化関連遺伝子は、TIG−1細胞において老化を誘導することが示された。このことから、当該遺伝子が老化プログラムにおいて重要な役割を担っていることが示された。
【0067】
5.細胞老化関連遺伝子の加齢性疾患に対する寄与
次に、細胞老化関連遺伝子が加齢性疾患にどのように寄与しているかを、糖尿病患者及び健常人の筋肉・膵臓組織由来cDNAを用いた、細胞老化関連遺伝子の発現解析により解析した。加齢性疾患としては糖尿病及びアルツハイマー病を選択した。
【0068】
糖尿病は、筋肉・膵臓の組織に対して、エラー・損傷の蓄積、ウイルス感染、ストレス等により細胞老化が誘導され、それに伴い、インスリン抵抗性、インスリン分泌低下を引き起こすことにより、発症すると考えることができるため、老化関連遺伝子が糖尿病の発症メカニズムとどのように関連しているかを検討した。
【0069】
具体的には、Toyoboより購入した糖尿病患者及びコントロールとして健常者由来の筋肉組織cDNAを鋳型として用いて、上記老化関連遺伝子特異的プライマーを用いて、上記方法により定量PCRを行い、老化関連遺伝子の発現を解析した。PCR反応条件としては、95℃10秒を1cycle、95℃5秒、55℃20秒、72℃20秒を50cycle行った。スタンダードとしては、β−アクチンを用いた。相対遺伝子発現量は、測定した値をβ−アクチンの値で除し求めた。
【0070】
その結果、糖尿病患者由来の筋肉では、p21、p16の発現が増強していることが明らかとなり、細胞老化が誘導されていることが示された(図9)。さらに、上記実施例で同定された多くの老化関連遺伝子群が、糖尿病患者由来の筋肉でも、発現が増強されていることも示された。具体的には、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子が13種類(Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。なお、図9では、左側が健常者、右側が糖尿病患者を示し、縦軸は相対発現量を示す。
【0071】
また、Toyoboより購入した、糖尿病患者及びコントロールとして健常者由来の膵臓組織cDNAを鋳型として用いて、上記老化関連遺伝子特異的プライマーを用いて、上記方法により定量PCRを行い、老化関連遺伝子の発現を解析した。
【0072】
その結果、筋肉組織と同様、糖尿病患者由来の膵臓においても、p21及びp16の発現が増強していることが明らかとなり、ここでも細胞老化が誘導されていることが示された(図10)。さらに、ここでも上記実施例で同定された多くの老化関連遺伝子群が、糖尿病患者由来膵臓において、発現増強していることが示された。具体的には、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子が14種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子が2種類(Band5及びSpot8)同定された。
なお、図10では、左側が健常者、右側が糖尿病患者を示し、縦軸は相対発現量を示す。
【0073】
このように、今回同定した、TIG−1の分裂老化に伴い発現増強する老化関連遺伝子のうち、そのほとんどのものが、糖尿病患者由来筋肉・膵臓組織で発現増強していることが明らかになった。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
このように、定量PCR法に基づき遺伝子発現解析を行った結果、TIG−1の分裂老化に協調して発現増強する遺伝子が9種類(Band1、Band5、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10及びSpot23)及び発現低下する遺伝子が5種類(Band2、Band4、Band6、Band10及びSpot13)確認された。
【0076】
さらに、4種類の細胞老化誘導因子(Ras,優勢活性化型変異体MKK6(MKK6glu)、TAK1およびTAB1、PKC−δ)を導入し早期老化を誘導した場合には、7種類の遺伝子の発現が全てに共通して、5種類の遺伝子の発現が4通りのうち3通りの早期老化誘導時に増強されていた。具体的には、TIG−1の早期老化に協調して発現増強する遺伝子が15種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)及び発現低下する遺伝子が3種類(Spot10、Spot13及びSpot27)確認された。
【0077】
これら細胞老化に伴って多少なりとも発現変化を示す細胞老化関連因子16種類のうち、糖尿病患者筋肉では13種類の遺伝子が、糖尿病患者膵臓でも14種類の遺伝子が発現増強されていた。具体的には、糖尿病患者由来の筋肉で発現が増加する老化関連遺伝子が13種類(Band1、Band3、Band4、Band5、Band6、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot13、Spot23及びSpot27)同定された。さらに、また、糖尿病患者由来の膵臓で発現が増加する老化関連遺伝子が14種類(Band1、Band2、Band3、Band4、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27)、糖尿病患者由来の膵臓で発現が低下する老化関連遺伝子が2種類(Band5及びSpot8)同定された。
【0078】
また、CDKインヒビターp16及びp21を含む細胞老化関連遺伝子群の発現が、上記疾患患者由来組織において増強していたことから、これら加齢性疾患の発症が細胞老化により引き起こされていることが示された。
【0079】
次に、分裂老化と早期老化TIG−1細胞において発現量が有意に変化した遺伝子について、その神経変性疾患に対する寄与を明らかにするため、Toyoboより購入した、アルツハイマー病患者由来大脳皮質及びコントロールとして健常者由来の大脳皮質cDNAを鋳型として用いて、前述と同様の方法により老化関連遺伝子の発現解析を行った。
【0080】
その結果、老化マーカーであるp21の発現がアルツハイマー病患者大脳皮質において、正常大脳皮質に比べて増強されていることが明らかになるとともに、今回同定された2種の細胞老化関連因子(Band1及びBand11)の発現がアルツハイマー病患者大脳皮質において、正常大脳皮質に比べて増強されていることが明らかとなった(図11)。この結果から、アルツハイマー病が細胞老化により引き起こされていると考えられるとともに、アルツハイマー病の発症においてもこれら細胞老化関連遺伝子が関与しているものと考えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の細胞老化関連因子を含む、老化を軽減するための医薬組成物により、肥満症・糖尿病・高血圧・動脈硬化を含む生活習慣病や神経変性疾患の診断、治療又は予防ができる。また、本発明に関連する細胞老化関連因子は上記疾患のマーカーとして有用である。さらに本発明に関連する細胞老化関連因子は未病診断マーカーとしても有用である。
【0082】
したがって、本発明に関連する細胞老化関連因子は、新たなドラッグターゲットになりうる点で産業上の利用可能性がある。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出することを特徴とする、老化を診断する方法。
【請求項2】
Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を含む、生活習慣病、神経変性疾患、自己免疫疾患又は炎症性疾患のマーカー。
【請求項3】
生活習慣病が、肥満症、糖尿病、高血圧及び動脈硬化からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項4】
神経変性疾患がアルツハイマー病又は認知症である、請求項2記載のマーカー。
【請求項5】
自己免疫疾患が、リューマチ、1型糖尿病及び多発性硬化症からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項6】
炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎及びクローン病からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項7】
老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法であって、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下または非存在下に、前記細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)前記細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質質量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む、前記方法。
【請求項8】
細胞老化関連因子がBand1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも減少している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞老化関連因子がBand2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも増加している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
Band2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を促進させる物質、又は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を抑制する物質を含む、老化を軽減するための医薬組成物。
【請求項1】
Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を検出することを特徴とする、老化を診断する方法。
【請求項2】
Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の遺伝子を含む、生活習慣病、神経変性疾患、自己免疫疾患又は炎症性疾患のマーカー。
【請求項3】
生活習慣病が、肥満症、糖尿病、高血圧及び動脈硬化からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項4】
神経変性疾患がアルツハイマー病又は認知症である、請求項2記載のマーカー。
【請求項5】
自己免疫疾患が、リューマチ、1型糖尿病及び多発性硬化症からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項6】
炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎及びクローン病からなる群から選択される少なくとも1である、請求項2記載のマーカー。
【請求項7】
老化を軽減又は予防する物質のスクリーニング方法であって、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の遺伝子を用いて、少なくとも次の工程、
(i)被験物質の存在下または非存在下に、前記細胞老化関連因子を接触させる工程;
(ii)前記細胞老化関連因子の遺伝子の発現量又はタンパク質質量を測定する工程;
(iii)被験物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、同時に行った対照の結果とを比較して検出する工程;および
(iv)前記発現量が変化した被験物質を選択する工程;
を含む、前記方法。
【請求項8】
細胞老化関連因子がBand1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも減少している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞老化関連因子がBand2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27から選択される少なくとも1の物質であり、当該物質の発現量が対照由来の発現量よりも増加している場合に、用いた被験物質が老化の軽減又は予防に効果があると判断する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
Band2、Band4、Band5、Band6、Band10、Spot8、Spot10、Spot13及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を促進させる物質、又は、Band1、Band2、Band3、Band4、Band5、Band6、Band10、Band11、Spot1、Spot4、Spot7、Spot8、Spot10、Spot13、Spot23及びSpot27からなる群から選択される少なくとも1の細胞老化関連因子の発現を抑制する物質を含む、老化を軽減するための医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−45334(P2011−45334A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198467(P2009−198467)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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