説明

細胞表面グリカンを修飾するための組成物および方法

グリカン(例えば生存細胞または細胞粒子上に発現するグリカン)を修飾する方法および組成物が本明細書中で提供される。その組成物および方法は、細胞の生存性および細胞の1つまたはそれ以上の表現型の特徴を保存しながら、細胞表面のグリカンの修飾を可能にする。例えば、その方法および組成物を採用して、細胞の1つまたはそれ以上の他の表現型の特徴(例えば多分化能)を保存しながら、細胞の特定の表現型の特徴(糖鎖付加のような)を修飾し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に記載される研究は、一部において、国立衛生研究所からの補助(補助金第RO1 HL073714号および補助金第RO1 HL060528号)をとおして資金を提供された。従って、米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
本発明は、外来性の糖転移酵素を用いて、生存細胞の細胞表面グリカンを修飾する組成物および方法に関連する。特に、本発明の方法の組成物は、処理した細胞の生存性および1つまたはそれ以上のもとの表現型の特徴を保存する。
【背景技術】
【0002】
血液由来細胞の、前もって決定された位置への移動を指示する能力(「ホーミング」)は、様々な生理学的および病理学的過程に大きな意味を有する。循環細胞の、特定の解剖学的位置へのリクルートは、血流中の細胞および標的組織の血管内皮の間の、別々の接着相互作用によって開始される。これらの接触を媒介する分子は、「ホーミング受容体」と呼ばれ、そして歴史的に定義されるように、これらの構造は血中の細胞の、それぞれの標的組織への指向性を導く。現在、3つの組織特異的ホーミング受容体:末梢リンパ節のL−セレクチン、腸管および消化管関連リンパ系組織のαβ(LPAM−1)、および皮膚の皮膚リンパ球抗原(CLA)のみが知られている(非特許文献1)。これらの組織の他に、循環細胞、特に造血幹細胞は、効率的に骨髄へ向かうことが、数十年の間知られていた(非特許文献2)。しかし、数十年にわたるこの過程に対する多数の調査は、複雑な、および時には対立する結果を生じ、骨髄指向性を独自に促進するホーミング受容体の直接的な証拠は提供しなかった。
【0003】
生物物理学的観点から、ホーミング受容体は、分子ブレーキとして機能し、支配的な血流の速度より低い速度で、血流中の細胞の、血管内皮への最初の係留、次いで持続した回転接触を起こす(第1段階)(非特許文献1)。その後、典型的にはケモカインによって増強される、イベントのカスケードが後に続き、インテグリン接着の活性化(第2段階)、安定した接着(第3段階)、および内皮遊出(第4段階)を引き起こす(非特許文献3)。この「多段階パラダイム」は、組織特異的遊走は、当該循環細胞上のホーミング受容体およびケモカイン受容体発現の別々の組み合わせによって調節され、関連する血管接着リガンドおよび標的内皮に発現するケモカインによって、臓器特異的な方式で示される、適切な「交通信号」の認識を可能にすることを主張する。細胞の骨髄への交通を指示するホーミング受容体の関与後、いくつかの証拠が、特に1つのケモカイン、SDF−1が、第2段階による細胞のこの部位へのリクルートに、重要な役割を果たしていることを示す((非特許文献2)、4、5)。
【0004】
第1段階の回転相互作用の最も効率的なエフェクターは、セレクチン(E−、P−およびL−セレクチン)およびそのリガンドである(非特許文献1)。その名前が示すように、セレクチンは、原型として四糖シアリルルイスX(sLe;Neu5Acα2−3Galβ1−4[Fucα1−3]GlcNAcβ1−))として提示される、α(2,3)−結合シアル酸置換およびα(1,3)−結合フコース修飾を含むシアロフコシル化からなる、特定化された炭水化物決定基に結合するレクチンである(1、6)。E−およびP−セレクチンは、血管内皮に発現し(P−セレクチンは血小板にも発現)、およびL−セレクチンは循環白血球に発現する(非特許文献1)。E−およびP−セレクチンは、典型的には組織の損傷および炎症の部位のみに顕著に発現する、誘導性内皮膜分子である。しかし、骨髄の微小血管系は、これらのセレクチンを構成的に発現し(5、7)、そしてインビボ研究が、循環細胞の骨髄へのリクルートにおけるE−セレクチンの役割を示した(5、8)。重要なことに、SDF−1は骨髄内で高濃度に発現し、そして血液由来細胞を骨髄へリクルートする、特定化した類洞内皮ベッドでE−セレクチンと独自に共存する(5)。
【0005】
E−セレクチンの2つの主なリガンド、PSGL−1(9)および造血細胞E−/L−セレクチンリガンド(HCELL)(10、11)として知られる、特定化されたシアロフコシル化CD44グリコフォームが、ヒト造血幹/前駆細胞(HSPC)において同定された。CD44は、どちらかと言えば遍在性の細胞膜タンパク質であるが、HCELL表現型は、ヒトHSPCにおいてのみ見出される。HCELLの限定された分布と対照的に、PSGL−1は、骨髄内の造血前駆細胞およびより成熟した骨髄およびリンパ球系細胞の中で広く発現している(9)。HCELLは、操作上、せん断条件下でE−セレクチンおよびL−セレクチンに結合するCD44として定義され、そしてCD44グリコフォームはE−セレクチン−Igキメラ(E−Ig)、およびシアリルルイスX様エピトープを認識するmAb HECA452と反応性のCD44グリコフォームとして、細胞溶解物のウェスタンブロット分析によって同定される。全ての糖タンパク質セレクチンリガンドと同様に、E−およびL−セレクチンに対するHCELLの結合は、α(2,3)−シアル酸およびα(1,3)−フコース修飾に決定的に依存する(10−13)。ヒトHSPCにおいて、HCELLは、N−グリカンにおける適切なシアロフコシル化セレクチン結合決定基を提示する(10、12)。血行力学的せん断ストレス下でのE−およびL−セレクチン結合のインビトロアッセイは、HCELLは、あらゆるヒト細胞において発現するこれらの分子の最も強力なリガンドであることを示す(10、13)。重要なことに、E−セレクチンは骨髄の微小血管内皮に構成的に発現するが、この分子は組織の損傷(例えば虚血−再灌流障害または外傷)または炎症の全ての部位において、内皮ベッドに顕著に発現する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.Sackstein,Curr Opin Hematol 12,444(2005)
【非特許文献2】T.Lapidot,A.Dar,O.Kollet,Blood 106,1901(2005)
【非特許文献3】T.A.Springer,Cell 76,301(1994)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生きているもの、例えば生存細胞の表面に発現するグリカンを修飾するための組成物および方法を特色とする。その組成物および方法は、細胞の生存性および細胞の1つまたはそれ以上の表現型の特徴を保存しながら、細胞表面のグリカンの修飾を可能にする。例えば、その方法および組成物を採用して、細胞の1つまたはそれ以上の他の表現型の特徴(例えば多分化能)を保存しながら、細胞の特定の表現型の特徴(糖鎖付加のような)を修飾し得る。
【0008】
1つの局面において、本発明は、グリカン、例えば細胞または粒子または細胞断片(例えば哺乳類細胞または血小板またはリポソームのような細胞膜由来物質/断片)の表面に発現するグリカンを(エキソビボまたはインビトロで)修飾するための組成物を特色とする。その組成物は、精製した糖転移酵素(例えば組み換え糖転移酵素)および生理学的に許容可能な溶液を含み、ここでその生理学的に許容可能な溶液は、1つまたはそれ以上の二価金属補助因子を含まない(例えば、その溶液はマンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルトまたはニッケルを含まない)。様々な実施態様において、その糖転移酵素は、フコシル基転移酵素(例えばアルファ1,3フコシル基転移酵素、例えばアルファ1,3フコシル基転移酵素III、アルファ1,3フコシル基転移酵素IV、アルファ1,3フコシル基転移酵素VI、アルファ1,3フコシル基転移酵素VII、またはアルファ1,3フコシル基転移酵素IX)、ガラクトシル基転移酵素、またはシアル酸転移酵素である。
【0009】
その組成物は、1つ以上の糖転移酵素を含み得る、および/またはドナー基質(例えば糖)のような、1つまたはそれ以上のさらなる薬剤を含み得る。ドナー基質は、フコース、ガラクトース、シアル酸、またはN−アセチルグルコサミンを含む。
【0010】
その糖転移酵素は、酵素活性を有する。最適には、その糖転移酵素は、pH6.5、37℃で1分あたり1.0μモルの糖を転移し得る。その組成物は、細胞または細胞粒子のインテグリン接着に影響を与えない。
【0011】
その組成物は、二価の金属補助因子を欠く、あらゆる生理学的に許容可能な溶液を含み得る。様々な実施態様において、生理学的に許容可能な溶液は、緩衝化されている。その生理学的に許容可能な溶液は、例えばハンクス平衡塩溶液、ダルベッコ変法イーグル培地、HEPES緩衝液のようなグッド緩衝液(N.E.Good、G.D.Winget、W.Winter、TN.Conolly、S.IzawaおよびR.M.M.Singh、Biochemistry 5、467(1966);N.E.Good、S.Izawa、Methods Enzymol.24、62(1972)を参照のこと)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)である。
【0012】
様々な実施態様において、生理学的に許容可能な溶液は、グリセロールを含まない。
【0013】
その組成物を、幹細胞(例えば間葉系幹細胞、造血幹細胞)、前駆細胞(例えば神経幹/前駆細胞または肺幹/前駆細胞)、または造血系の細胞(例えば白血球、リンパ球)、または細胞粒子(例えば血小板)、またはリポソームのような、細胞の表面のグリカンを修飾するために使用し得る。
【0014】
別の局面において、本発明は、細胞または粒子の表面のグリカンを修飾するためのキットを特色とする。そのキットは、精製糖転移酵素、および1つまたはそれ以上の二価金属補助因子を含まない、生理学的に許容可能な溶液中で、細胞を糖転移酵素と接触させるための指示を含む。
【0015】
別の局面において、本発明は、細胞または粒子の表面上のグリカンを修飾する方法を特色とする。その方法は、二価の金属補助因子を含まない、生理学的に許容可能な溶液中で、糖転移酵素が酵素活性を有し、そして細胞または細胞粒子集団の生存性が、少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上である条件下で、細胞または細胞粒子を、糖転移酵素と接触させることを含む。生存性は、糖転移酵素との接触後2、4、6、8、12、24時間に測定する。
【0016】
様々な実施態様において、細胞または粒子を、1つ以上の糖転移酵素およびその適当なドナー基質(例えば糖)と接触させる。例えば、細胞を、2つの糖転移酵素と同時に、または連続的に接触させ、それぞれ別の単糖を適当な結合で、(伸長している)コアグリカン構造に加える。その方法は、例えば細胞、例えば幹細胞または分化した細胞または血小板のような細胞粒子の表面上のグリカンを修飾するために有用である。細胞は、例えば間葉系細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞のような、組織幹/前駆細胞、臍帯幹細胞、胚性幹細胞、または白血球を含む。その細胞または細胞粒子は、CD44、例えばα(2,3)シアル酸付加CD44を発現する。その細胞または細胞粒子は、CD34またはPSGL−1を発現しない。修飾後、その細胞または細胞粒子は、E−セレクチンおよび/またはL−セレクチンに結合する。修飾された細胞または細胞粒子は、P−セレクチンには結合しない。
【0017】
様々な局面において、細胞のリガンドに対する親和性を増加するために、および/または患者に投与した場合に細胞のインビボにおける生着/ホーミング可能性を増加させるために、投与された細胞または血小板のクリアランスを予防する(循環半減期を延長する)ために、または血小板の凝集するまたは基質(例えば内皮、白血球、細胞外マトリックス等)に結合する能力を変化させるために、その方法は有用である。
【0018】
本発明の方法によって産生された細胞または細胞粒子も、本発明に含まれる。
【0019】
本発明はまた、患者、例えばヒトに、本発明の細胞を含む組成物を投与することによって、細胞の生着可能性を増加させる、免疫疾患、組織損傷または癌の症状を治療または軽減する方法を特色とする。
【0020】
本発明の1つまたはそれ以上の実施態様の詳細を、付随する図および下記の説明で述べる。本発明の他の特徴、目的、および利点が、その説明および図から、および請求から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ヒト間葉系幹細胞(MSC)はCD44を発現し、そしてCD44骨格にのみ存在するN−グリカン置換基に提示される、シアル酸依存性エピトープを認識するSACK−1mAbと反応する。(a)還元4−20%SDS−PAGEゲルで分離したKG1a細胞(HCELLを天然に発現するヒト細胞系統)からの未処理(−)またはN−グリコシダーゼ−F処理(+)免疫沈降CD44のウェスタンブロットのSACK−1染色。(b)(左パネル)未処理(灰色のヒストグラム)またはシアリダーゼ処理(白色のヒストグラム)KG1a細胞におけるSACK−1発現のフローサイトメトリー分析。(右パネル)還元4−20%SDS−PAGEゲルで分離したKGa1細胞由来の未処理(−)またはシアリダーゼ処理(+)免疫沈降CD44のウェスタンブロットのSACK−1染色。SACK−1反応性は、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロットの両方によって示されたように、シアリダーゼ処理後に顕著に減少する。(c)E−セレクチンリガンド活性(E−セレクチン−Igキメラ(E−Ig)結合)、およびMSC上のPSGL−1、CD44、SACK−1、HECA452、KM93(sLe)、CD11a/CD18(LFA−1)、CD49d/CD29(VLA−4)およびCXCR4発現のフローサイトメトリー分析。点線はアイソタイプコントロールであり、実線は特異的抗体(またはE−Igキメラ)である;SACK−1プロファイルの影のついたヒストグラムは、MSCのシアリダーゼ処理後の反応性を示す。示した結果は、複数の骨髄ドナーから得られたMSC由来の複数のヒストグラムの代表である。ヒトMSCは、CD44およびSACK−1決定基を提示するCD44グリコフォームを発現するが、E−セレクチンリガンドを発現しない(E−セレクチン−Igキメラで染色なし)ことに注意すること;それらはまたCXCR4およびPSGL−1を欠き、そしてKM93およびHECA452mAbによって認識されるsLe決定基も欠く。
【図2】ヒトMSCのFTVI処理は、CD44のN−結合グリカンのシアロフコシル化を生じ、HCELL発現を与える。(a)未処理およびFTVI処理MSCのHECA452、KM93(sLe)およびE−Ig反応性のフローサイトメトリー分析。点線は未処理MSCであり、実線はFTVI処理MSCである。(b)還元4−20%SDS−PAGEで分離した、MSC溶解物のHECA452(左パネル)およびE−Ig(右パネル)反応性のウェスタンブロット分析。各レーンの溶解物の量を、未処理およびFTVI処理MSCの細胞数に関して標準化する。Ca2+の存在下(+)または非存在下(−)で、E−Igによる染色を行った。FTVI処理は、〜100kDaの糖タンパク質に対するHECA452反応性シアロフコシル化およびE−Ig結合選択性を誘導することに注意すること。(c)MSCをFTVIで処理した(+)または処理しなかった(−)。その後、FTVI処理および未処理細胞の等価な細胞溶解物からCD44を免疫沈降し(抗CD44mAb Hermes−1を用いて)、そして免疫沈降物をN−グリコシダーゼFで消化(+)または緩衝液で処理した(−)。次いで免疫沈降物を、還元SDS−PAGE(4−20%勾配)によって分離し、そしてHECA452、E−Ig、または別の抗ヒトCD44mAb(2C5)によってブロッティングした。示されるように、N−グリコシダーゼF処理は、FTVI処理MSC由来のCD44のHECA452およびE−Ig染色を抑制する。示した結果は、数人の骨髄ドナーから得られたMSC由来の複数の実験の代表である。
【図3】FTVI処理ヒトMSCは、規定されたせん断ストレス条件下で、内皮E−セレクチンと顕著に増強されたせん断抵抗性接着相互作用を示す。未処理、FTVI処理、またはシアリダーゼ消化FTVI処理MSCを、0.5dyne/cmで、IL−1βおよびTNF−α刺激ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に灌流した。関連するMSCの蓄積を、0.5、1、2、5、10、20、および30dyne/cmのせん断ストレスで決定した。ある場合には、EDTAをアッセイ緩衝液に加えた、または接着アッセイにおいて使用する前にHUVECをE−セレクチンに対する機能阻害mAbで前処理した。値は平均±SEMである(各グループn=4)。
【図4】FTVI処理、HCELL発現ヒトMSCは、インビボで骨髄に効率的にホーミングする。NOD/SCIDマウスの代表的な実験から集められた、頭蓋冠の傍矢状領域のモンタージュ画像。(a)このパネルのセットで示された全ての画像は、関連細胞の注入の1時間後に得られた:左パネル、未処理MSC;中央パネル、シアリダーゼで消化したFTVI処理細胞;右パネル、FTVI処理細胞。(b)示した結果は、FTVI処理MSCの注入の1時間(左パネル)および24時間(中央パネル)後における、1匹のマウスの代表的な画像由来である。右パネルは、FTVI処理MSCの注入の24時間後の、類洞血管周囲領域の高画質カラー画像を示し、注入したFTVI処理MSCの血管外(実質性)浸潤を明らかにする:赤い斑点はDiD標識MSCであり、蛍光量子ドット(805nm)の注入によって可視化された緑色は類洞血管を強調する。
【図5】フコシル基転移酵素−VIで処理した神経幹細胞のHECA452反応性を示すウェスタンブロットの写真である。
【図6】フコシル基転移酵素−VI処理前および後の、神経幹細胞のHECA452発現のフローサイトメトリー分析である。
【図7】フコシル基転移酵素−VI処理前および後の、肺幹細胞のHECA452発現のフローサイトメトリー分析である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、部分的には、糖転移酵素は二価金属補助因子(例えばマンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルトまたはニッケルのような二価陽イオン)およびグリセロールのような安定剤の非存在下で、酵素活性を保持するという驚くべき発見に基づく。以前は、二価金属補助因子は酵素活性に決定的であると考えられてきた。本発明による糖転移酵素組成物は、生存細胞のグリカンの修飾において特に有用である。生存細胞のグリカン構造を修飾する以前の試みは、金属補助因子およびグリセロールのような酵素安定剤の毒性効果のために、細胞死および細胞の表現型の変化を引き起こした。エキソビボにおける、糖転移酵素を用いた生存細胞表面グリカンのカスタムエンジニアリングのために、処理後に標的細胞が生きたままであり、そして表現型が保存されることが重要である。幹細胞を利用する適用において、酵素処理によって、特徴的な系列にそった分化が影響を受けるかどうかを分析することも重要である。
【0023】
細胞生存性に対するその認識された効果の他に(20)、Mn++のような二価金属補助因子は、それ自身がシグナル伝達を引き起こし(21)、そしてインテグリン接着(例えばVLA−4に関して)を、強制糖鎖付加(例えばフコシル化)で採用されるものよりもずっと下のレベルで活性化する(22、23)。できたインテグリンによる強固な接着は、内皮ベッドおよび関連リガンドを発現する組織実質内で広く現れるので、これらのMn++効果は、細胞輸送に対する糖鎖付加の効果に対する交絡因子である。
【0024】
これらの問題に取り組むために、Pichia Pastoris系における高力価のフコシル基転移酵素産生の新規方法を開発した。さらに、フコシル基転移酵素を、細胞毒性を最低限にするために特に選択された緩衝液(例えばHBSS)中で、安定化させた。さらに、二価金属補助因子を入れずに(例えばMn++イオンを入れずに)、結合反応で生理学的緩衝液を利用するために、酵素条件を改良した。
【0025】
これらの実験的修飾は、MSC上のCD44の高い効率のフコシル化を引き起こし、酵素処理後の細胞生存性は100%であった。重要なことに、強制フコシル化後の動態分析は、インビトロの細胞生存性は、全てのMSCにおいて処理後無期限に保持されたが、HCELL発現は一過性であることを示した:HCELLレベルは24時間の間安定であり、そしてその後96時間までにベースライン(HCELLなし)まで着実に減少し、おそらく膜CD44の細胞ターンオーバーを反映する。重要なことに、処理後2週間まで毎日アッセイして、FTVI処理後、様々な系統へのMSCの分化には影響はなかった。従って、FTVI処理は、HCELL発現のみを例外として、MSCの表現型に明らかな影響を有さなかった(図2c)。対照的に、市販で入手可能なFTVI(例えばMn++およびグリセロールを含む組成物;Calbiochem)由来のMSCのFTVI処理は、HCELL発現は増強したが、細胞生存性はこれらのFTVI処理後に損傷を受け、修飾後8時間以内に>95%の細胞が死んだ。この生存性の喪失は、市販の酵素処方中の安定剤(例えばグリセロール)に対する暴露、および酵素反応に使用された高レベルのMn++(10mM)に対する暴露のためであった。よって、本発明の組成物は、エキソビボで生存細胞の表面上のグリカンを操作して、ヒトへのインビボ投与に適当な治療製品を産生することを可能にする。
【0026】
強制フコシル化の後、そして表面CXCR4の発現の欠如にも関わらず、静脈内注入されたMSCは、血管E−セレクチンを構成的に発現する組織である、骨髄に強くホーミングした。これらの発見は、HCELLをヒト骨髄ホーミング受容体として確立し、CXCR4の関与は骨髄輸送に必須ではないという直接的な証拠を提供し、そして多段階パラダイムに対する新しい展望を示す。
【0027】
強制HCELL発現は、骨髄指向性を与えること、およびシアリダーゼ処理によるその機能的不活性化は、この効果を特異的に逆転させるという発見は、このCD44グリコフォームを「骨髄ホーミング受容体」として規定する。それ自体、エキソビボでHCELL発現を注文に応じて修飾する能力は、臨床的移植におけるHSPCの生着の改善に、または細胞に基づく治療(例えば骨疾患のための)におけるMSCの使用のために有用であり得る。より一般的に、そのデータは、細胞のHCELL発現を強制することは、全身性伝達を、その内皮ベッドがE−セレクチンを発現する組織にまで促進し得ることを示唆する。従って、CD44のα(2,3)シアル化グリコフォームの、このどちらかといえばわずかなフコース修飾の高い特異性および効率は、養子細胞療法のためにHCELL発現を選択的にアップレギュレートする戦略に、先導する原理および技術を提供する。これを達成し得る容易さは、このアプローチの患者への迅速な移行は、直接であるべきであることを示唆する。E−セレクチンは主に、霊長類の影響された組織の、炎症および虚血の部位に提示されるので(29、30)、HCELL発現の調節は、再生治療のために、損傷/障害組織における前駆/幹細胞の指向性の移動および浸潤を引き起こし得る。幹細胞に基づく治療における意味を超えて、これらの発見はまた、免疫学的エフェクターおよび調節細胞のような他の細胞における、アップレギュレートされたE−セレクチンリガンド活性を、免疫疾患、感染性疾患、および癌治療を含む様々な生理学的および病理学的過程において標的化細胞移動を達成するために、いかに利用し得るかを試験する。
【0028】

組成物
本発明は、生存細胞または細胞粒子の細胞表面グリカンの、エキソビボ修飾のための組成物を提供する。その組成物は、精製糖転移酵素ポリペプチドおよび二価金属補助因子を含まない生理学的に許容可能な溶液を含む。その組成物は、例えばグリセロールのような安定化化合物を含まない。糖転移酵素は、例えばフコシル基転移酵素、ガラクトシル基転移酵素、シアル酸転移酵素、およびN−アセチルグルコサミン転移酵素を含む。フコシル基転移酵素は、アルファ1,3フコシル基転移酵素III、アルファ1,3フコシル基転移酵素IV、アルファ1,3フコシル基転移酵素VI、アルファ1,3フコシル基転移酵素VII、またはアルファ1,3フコシル基転移酵素IXのような、アルファ1,3フコシル基転移酵素である。
【0029】
任意で、その組成物はさらに、特定の糖転移酵素に適当な糖ドナーを含む。例えば、その糖転移酵素がフコシル基転移酵素である場合、ドナーはGDP−フコースである。一方、その糖転移酵素がシアル酸転移酵素である場合、ドナーはCMP−シアル酸である。当業者は、適当な糖ドナーを認識する。
【0030】
その糖転移酵素は、生物学的に活性である。生物学的に活性によって、その糖転移酵素が、糖分子をドナーからアクセプターへ転移し得ることを意味する。例えば、その糖転移酵素は、pH6.5、37℃において、1分あたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、5、10またはそれ以上のμモルの糖を転移し得る。
【0031】
生理学的に許容可能な溶液は、細胞に損傷、例えば死を引き起こさないあらゆる溶液である。例えば、細胞または細胞粒子の生存性は、本発明の組成物による治療後に、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上である。適当な生理学的に許容可能な溶液は、例えばハンクス平衡塩溶液(HBSS)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、HEPES緩衝液のようなグッド緩衝液(N.E.Good、G.D.Winget、W.Winter、TN.Conolly、S.IzawaおよびR.M.M.Singh、Biochemistry 5、467(1966);N.E.Good、S.Izawa、Methods Enzymol.24、62(1972)を参照のこと)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。
【0032】

治療方法
本発明の組成物は、その生存細胞に対する低い毒性および高い酵素活性のために、細胞または細胞粒子の表面上のグリカンの、エキソビボまたはインビトロ修飾に有用である。さらに、本発明の組成物および方法を用いて産生された修飾細胞および粒子は、骨疾患、免疫疾患、感染性疾患、および癌治療薬を含む、様々な生理学的および病理学的過程において、標的化細胞移動を達成するために、治療環境において有用である。Federal Drug Administration(FDA)は、ヒト投与のための全ての最終細胞産物に、厳格な必要条件を課す。具体的には、FDAは、70%の最低細胞生存性を要求し、そしてあらゆる過程は一貫してこの最低必要条件を超えなければならない。二価金属補助因子およびグリセロールのような安定剤(有意な細胞死を引き起こす)を含む、糖転移酵素組成物を利用した細胞表面のグリカンのエキソビボまたはインビトロ修飾の以前に記載された方法と違って、本明細書中で記載された方法は、FDAの必要条件を満たす、またはそれを超える、細胞に基づく製品を産生する。
【0033】
より具体的には、細胞表面のグリカン操作は、E−セレクチンを発現するあらゆる部位に対する細胞のホーミングを促進する。特に、CD44は普遍的に発現する細胞膜タンパク質であり、そして「成人」および胚性の型両方の幹/前駆細胞集団に提示されるので、このタンパク質の、エキソビボグリカン操作によって糖鎖付加を修飾してHCELL(CD44グリコフォーム)表現型を産生する能力は、インビボで血管内に注入された(養子性に伝達された)細胞の、骨髄またはE−セレクチンを発現するあらゆる組織/臓器部位に対する移動を促進する。
【0034】
細胞の集団を、1つまたはそれ以上の本発明による糖転移酵素組成物と接触させることによって、細胞または細胞粒子(例えば血小板またはリポソーム)の表面上でグリカンを修飾する。糖転移酵素が酵素活性を有する条件下で、細胞を糖転移酵素組成物と接触させる。本発明によるグリカン修飾は、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の生存性を有する細胞を生ずる。トリパンブルー色素排除試験のような、当該分野で公知の方法によって、生存性を決定する。生存性を、処理の1時間、2時間、4時間、18時間、12時間、24時間またはそれ以上後に測定する。細胞の表現型(グリカン修飾以外)は、処理後に保存される。保存された表現型によって、その細胞がそのもとの機能および/または活性を維持することを意味する。例えば、もしその細胞が幹細胞なら、それはその多能性を保持する。
【0035】
修飾後、その細胞または細胞粒子は、E−セレクチンおよび/またはL−セレクチンに結合する。様々な局面において、その修飾細胞は、P−セレクチンには結合しない。好ましくは、修飾後、細胞は造血細胞E−/L−セレクチンリガンド(HCELL)として知られる、シアロフコシル化CD44グリコフォームを発現する。修飾後、その細胞または細胞粒子は、インビボで骨髄および/または虚血または炎症の部位にホーミングし得る。
【0036】
その細胞または細胞粒子は、細胞表面グリカン修飾が望ましいあらゆる細胞である。その細胞は幹細胞(すなわち多分化能)または分化細胞である。幹細胞は、例えば造血幹細胞、間葉系幹細胞、組織幹/前駆細胞(例えば神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞)、臍帯幹細胞、または胚性幹細胞を含む。分化細胞は、白血球、例えばリンパ球のような造血系細胞を含む。リンパ球は、B−リンパ球またはT−リンパ球、またはT−リンパ球のサブセット、例えば「調節性」リンパ球(CD4/CD25/FOXP3)であり得る。
【0037】
その細胞または細胞粒子は、CD44を発現する。そのCD44はシアロフコシル化されていない。あるいは、そのCD44はアルファ(2,3)−シアル化され、そしてHCELL表現型を与える、関連するフコシル化を欠く。HCELLを与えるためのCD44の強制糖鎖付加は、臨床的造血幹細胞移植において、造血幹/前駆細胞(HSPC)の生着の改善において、または細胞に基づく治療(例えば骨疾患のための)におけるMSCの使用のために有用である。より一般的には、そのデータは、細胞HCELL発現を強制することは、HCELLを有する細胞の、その内皮ベッドがE−セレクチンを発現する組織への全身性伝達を促進し得ることを示唆する。
【0038】
様々な局面において、細胞はPSGL−1、CD34、または両方を発現しない。
【0039】
本発明の修飾細胞は、その増加したホーミング能力のために、例えば臨床的移植におけるHSPCの生着の改善において、細胞に基づく治療(例えば骨疾患のための)におけるMSCの使用のために、または再生治療のために損傷/障害組織における前駆/幹細胞の移動および浸潤を指示するために有用である。
【0040】
例えば、その組成物は、虚血性状態(例えば四肢の虚血、うっ血性心不全、心虚血、腎臓虚血およびESRD、脳卒中、および眼の虚血)、臓器または組織の再生(例えば肝臓、膵臓、肺、唾液腺、血管、骨、皮膚、軟骨、腱、靭帯、脳、毛髪、腎臓、筋肉、心筋、神経および四肢の再生)を必要とする状態、炎症性疾患(例えば心疾患、糖尿病、脊髄損傷、慢性関節リウマチ、変形性関節症、人工股関節置換術または修正のための炎症、クローン病、および移植片対宿主病)、自己免疫疾患(例えば1型糖尿病、乾癬、全身性ループス、および多発性硬化症)、変性性疾患、先天性疾患、貧血、好中球減少症、血小板増加症、骨髄増殖性疾患、または白血病のような血液学的新生物および癌のような血液学的疾患のような、様々な疾患および異常を治療するために有用である。
【0041】
その必要がある患者に、本発明の方法によって産生された細胞組成物を投与することによって、疾患および異常を治療する、または症状を軽減する。その細胞組成物を、同種間で、または自己に投与する。
【実施例】
【0042】
実施例1:一般的な方法
試薬:以下の抗体はBD Pharmingen由来であった:機能阻害マウス抗ヒトE−セレクチン(68−5411;IgG)、ラット抗ヒトCLA(HECA−452;IgM)、マウス抗ヒトPSGL−1(KPL−1;IgG)、精製およびFITC結合マウス抗ヒトL−セレクチン(DREG−56;IgG)、マウス抗ヒトCXCR4(12G5;IgG2a)、FITC結合マウス抗ヒトCD18(L130;IgG)、マウス抗ヒトCD29(MAR4;IgG)、PE結合マウス抗ヒトCD49d(9F10;IgG)、マウスIgG、κアイソタイプ、マウスIgG2aアイソタイプ、マウスIgMアイソタイプ、ラットIgGアイソタイプおよびラットIgMアイソタイプ。ラット抗ヒトCD44(Hermes−1;IgG2a)は、Dr.Brenda Sandmaier(Fred Hutchinson Cancer Research Center;Seattle、WA)から寄贈された。組み換えマウスB−セレクチン/ヒトIgキメラ(E−Ig)およびマウス抗ヒトCD44(2C5;IgG2a)は、R&D Systems由来であった。マウス抗ヒトsLe(KM93;IgM)はCalbiochem由来であった。FITC結合マウス抗ヒトCD11a(25.3;IgG)、PE結合マウスIgG、κアイソタイプおよびFITC結合マウスIgMアイソタイプは、Coulter−Immunotech由来であった。FITC結合ヤギ抗ラットIgM、FITC結合ヤギ抗マウスIgG、FITC結合ヤギ抗マウスIgM、PE結合ストレプトアビジン、アルカリホスファターゼ(AP)結合抗ラットIgM、抗マウスIg、および抗ヒトIgは、Southern Biotechnology Associates由来であった。V.CholeraeシアリダーゼはRoche由来であった。
【0043】
ヒト細胞:骨髄(BM)細胞は、Brigham & Women’s Hospital/Dana Farber Cancer InstituteおよびMassachusetts General Hospitalにおいて、造血幹細胞移植のために骨髄を提供した健康な個人の採取フィルターから得た。BM単核細胞(BMMNC)を、Ficoll−Paque密度勾配遠心によって採取した。ヒト細胞を、Human Experimentation and Ethics Committees of Partners Cancer Care Institutions[Massachusetts General Hospital、Brigham & Women’s Hospital and Dana Farber Cancer Institute(Boston、MA)]によって許可されたプロトコールに使用した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、Brigham & Women’s Hospital’s Pathology Departmentの組織培養コア施設から得て、そして15%のFBS、5ユニット/mlのヘパリン、50μg/mlの内皮増殖因子および1%のペニシリン/ストレプトマイシンを添加したM199で維持した。E−セレクチンの発現を刺激するために、HUVECのコンフルエントな単層を、接着研究において使用する前に、1ng/mlのIL−1β(Research Diagnostics,Inc;Concord、MA)および10ng/mlのTNF−α(Research Diagnostics,Inc.)で、4−6時間前処理した。
【0044】
MSC培養:MSCを、95%空気、5%CO雰囲気下で((15)により)、または3%O、5%CO、92%Nにおいて((16)により、「MIAMI」細胞)、加湿インキュベーター中で、37℃で維持した。MSCのいずれかの型の培養のために、BMMNCを最初に2×10/cmの濃度で、選択したロットから10%の胎児ウシ血清(FBS)を添加したDMEM−低グルコース培地にまいた。数日後、非接着細胞を除去し、そして接着細胞を、0.05%のトリプシン/0.5mMのEDTA/HBSS(Invitrogen Corp.)で処理することによって回収し、そして50細胞/cmの密度で再びまいた。培地を48から72時間に、そしてその後3または4日ごとに交換した。密度が40%コンフルエントに近づいた場合に細胞を再びまいた。全ての実験に関して、MSCを最初の3継代以内に使用し、そして0.05%のトリプシン/0.5mMのEDTA/HBSSで、37℃で3分以下の間処理することによって回収した。
【0045】
SACK−1 mAbの産生:抗CD44mAbを用いた細胞溶解物のイムノアフィニティークロマトグラフィーによって、HCELLをKG1a細胞から単離した。BALB/cマウスに、接種材料を皮膚および腹腔内部位に50:50で分けて、完全フロイントアジュバント中の純粋HCELL(1:1エマルション)を注射した。不完全フロイントアジュバント中で1:1に希釈し、そして腹腔内に注射した純粋HCELLで、2週間後に追加免疫を行った。10−14日後、5μgのHCELLのIV注射によってマウスを追加免疫し、次いでIV追加免疫の3日後に脾臓を採取した。脾臓細胞をNSO骨髄腫細胞と融合した。最初にハイブリドーマ上清のスクリーニングを、造血細胞系統KG1a(CD44+/HCELL+/HECA452+)、HL60(CD44+/HCELL−/HECA452+)、RPMI8402(CD44+/HCELL−/HECA452−)、JURKATおよびK562(両方ともCD44−/HCELL−/HECA452−)に対して、フローサイトメトリーによって行った。SACK−1mAbを、CD44−細胞系統ではなくKG1aに対する反応性によって、N−グリコシダーゼF(New England Biolabs;N−グリコシダーゼF消化は以前に記載されたように行った(10、12))による消化に感受性の、KG1a細胞に発現するCD44に対する単一特異性のウェスタンブロットの証拠と組み合わせて、「CD44−特異的、炭水化物特異的」として同定した。
【0046】
フローサイトメトリー:細胞のアリコート(2×10細胞)を、PBS/2%FBSで洗浄し、そして一次mAbまたはアイソタイプコントロールmAb(未結合または蛍光色素結合のいずれか)とインキュベートした。細胞をPBS/2%FBSで洗浄し、そして間接的免疫蛍光のために、適当な二次蛍光色素結合抗アイソタイプ抗体とインキュベートした。細胞を洗浄した後、FITCまたはPE蛍光強度を、Cytomics FC500MPLフローサイトメーター(Beckman Coulter Inc.、Fullerton、CA)を用いて決定した。
【0047】
ヒトα(1,3)−フコシル基転移酵素VIの組み換え発現および処方:オンラインメタノール検知(Raven Biotech、Vancouver、Canadaによる滅菌可能メタノールセンサー)およびAlitea−ポンプ(Alitea A.B.、Stockholm、Sweden)によるメタノール添加の調節を用いて、ヒトα(1,3)−フコシル基転移酵素VI(FTVI)遺伝子およびS.cerevisiae α因子のN末端シグナル配列を含むPichia pastoris KM71(arg4his4aox1:ARG4)宿主系統を、高度に活性なα(1,3)−フコシル基転移酵素VIの安定した発現および培地への分泌のために使用した。発酵の終了後、ブロスを10℃に冷却し、そしてPichia細胞を、0.2μmの膜を有するPellicon−微量ろ過システムによって分離し、そして続いて、最終的な処方を、10kD−UF−膜(再生セルロース)を有するPellicon−限外ろ過システムを用いて、HBSSによる緩衝液交換によって達成した。
【0048】
ヒトシアル酸転移酵素の組み換え発現および処方:オンラインメタノール検知(Raven Biotech、Vancouver、Canadaによる滅菌可能メタノールセンサー)およびAlitea−ポンプ(Alitea A.B.、Stockholm、Sweden)によるメタノール添加の調節を用いて、ヒトシアル酸転移酵素遺伝子およびS.cerevisiae α因子のN末端シグナル配列を含むPichia pastoris KM71(arg4his4aox1:ARG4)宿主系統を、高度に活性なシアル酸転移酵素の安定した発現および培地への分泌のために使用した。発酵の終了後、ブロスを10℃に冷却し、そしてPichia細胞を、0.2μmの膜を有するPellicon−微量ろ過システムによって分離し、そして続いて、最終的な処方を、10kD−UF−膜(再生セルロース)を有するPellicon−限外ろ過システムを用いて、HBSSによる緩衝液交換によって達成した。
【0049】
ヒト糖転移酵素の組み換え発現および処方:オンラインメタノール検知(Raven Biotech、Vancouver、Canadaによる滅菌可能メタノールセンサー)およびAlitea−ポンプ(Alitea A.B.、Stockholm、Sweden)によるメタノール添加の調節を用いて、ヒト糖転移酵素遺伝子およびS.cerevisiae α因子のN末端シグナル配列を含むPichia pastoris KM71(arg4his4aox1:ARG4)宿主系統を、高度に活性な糖転移酵素の安定した発現および培地への分泌のために使用した。発酵の終了後、ブロスを10℃に冷却し、そしてPichia細胞を、0.2μmの膜を有するPellicon−微量ろ過システムによって分離し、そして続いて、最終的な処方を、10kD−UF−膜(再生セルロース)を有するPellicon−限外ろ過システムを用いて、HBSSによる緩衝液交換によって達成した。
【0050】
ヒトN−アセチルグルコサミン転移酵素の組み換え発現および処方:オンラインメタノール検知(Raven Biotech、Vancouver、Canadaによる滅菌可能メタノールセンサー)およびAlitea−ポンプ(Alitea A.B.、Stockholm、Sweden)によるメタノール添加の調節を用いて、ヒトN−アセチルグルコサミン転移酵素遺伝子およびS.cerevisiae α因子のN末端シグナル配列を含むPichia pastoris KM71(arg4his4aox1:ARG4)宿主系統を、高度に活性なN−アセチルグルコサミン転移酵素の安定した発現および培地への分泌のために使用した。発酵の終了後、ブロスを10℃に冷却し、そしてPichia細胞を、0.2μmの膜を有するPellicon−微量ろ過システムによって分離し、そして続いて、最終的な処方を、10kD−UF−膜(再生セルロース)を有するPellicon−限外ろ過システムを用いて、HBSSによる緩衝液交換によって達成した。
【0051】
FTVIおよびシアリダーゼ処理:コンフルエントな単層または懸濁液中のMSCを、20mMのHEPES、0.1%のヒト血清アルブミンおよび1mMのグアノシン2リン酸(GDP)−フコースを含むHBSS中、60mU/mLのFTVIで、37℃で40分間処理した。インキュベーション後、MSCを、0.2%のBSAおよび20mMのHEPESを含むHBSSで洗浄した。次いで未処理およびFTVI処理MSCを実験に使用した。いくつかの実験において、MSCをまずFTVIで処理し、そして次いでシアリダーゼ処理(100mU/mlのV.Choleraeシアリダーゼ、1時間、37℃)した(「FTVI−シアリダーゼMSC」)。シアリダーゼ処理の効率を、フローサイトメトリーによる、KM93およびHECA452に対する反応性の喪失によって、各例において確認した。
【0052】
シアル酸転移酵素処理:細胞を、60mU/mLのN−シアル酸転移酵素、1mMのCMP−シアル酸で、または緩衝液単独(HBSS、0.1%ヒト血清アルブミン)で、37℃で1時間処理する。インキュベーション後、細胞を、0.2%のBSAおよび20mMのHEPESを含むHBSSで洗浄する。
【0053】
ガラクトシル基転移酵素処理:細胞を、60mU/mLのガラクトシル基転移酵素、1mMのUDP−ガラクトースで、または緩衝液単独(HBSS、0.1%ヒト血清アルブミン)で、37℃で1時間処理する。インキュベーション後、細胞を、0.2%のBSAおよび20mMのHEPESを含むHBSSで洗浄する。
【0054】
N−アセチルグルコサミン転移酵素処理:細胞を、60mU/mLのN−アセチルグルコサミン転移酵素、1mMのUDP−N−アセチルグルコサミンで、または緩衝液単独(HBSS、0.1%ヒト血清アルブミン)で、37℃で1時間処理する。インキュベーション後、細胞を、0.2%のBSAおよび20mMのHEPESを含むHBSSで洗浄する。
【0055】
ウェスタンブロット分析:未処理およびFTVI処理MSCを、緩衝液A(150mMのNaCl、50mMのTris−HCl、pH7.4.1mMのEDTA、20μg/mlのPMSF、0.02%のアジ化ナトリウム、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル錠(Roche Molecular Biochemicals))中、2%のNP−40を用いて溶解した。定量したタンパク質溶解物または免疫沈降タンパク質のウェスタンブロットを、以前に記載されたように(10)、還元条件下で行った。
【0056】
免疫沈降研究:未処理またはFTVI処理MSCの細胞溶解物を、免疫沈降抗体または適当なアイソタイプコントロールとインキュベートし、そして次いでプロテインG−アガロースとインキュベートした。免疫沈降物を、2%のNP−40、1%のSDSを含む緩衝液Aを用いて徹底的に洗浄した。いくつかの実験において、免疫沈降物を、以前に記載されたように(10、12)N−グリコシダーゼF(New England Biolabs)で処理した。ウェスタンブロット分析のために、全ての免疫沈降物を、還元サンプル緩衝液で希釈し、沸騰させ、次いでSDS−PAGEにかけ、PVDF膜に転写し、そしてHECA−452、E−Ig、SACK−1、または2C5で免疫染色した(10)。
【0057】
パラレルプレートフローチャンバー接着アッセイ:未処理およびFTVI処理MSCのE−セレクチン結合能力を、パラレルプレートフローチャンバー(Glycotech;Gaithersburg、MD)を用いて評価した。MSC(0.5×10細胞/ml、HBSS/10mMのHEPES/2mMのCaCl溶液に懸濁)を、コンフルエントなHUVEC単層の上に伸ばした。最初、MSCをHUVECと0.5dyne/cmのせん断ストレスで接触させ、続いて0.5から30dyne/cmのせん断ストレスを及ぼすように、流速を調整した。HUVEC単層に接着性の未処理またはFTVI処理MSCの数を、0.5、1、2、5、10、20および30dyne/cmのせん断ストレスで、最終的に15秒の間隔で定量した。各アッセイを少なくとも3回行い、そして値を平均した。セレクチン結合に必要なCa2+をキレート化するために5mMのEDTAをアッセイ緩衝液に加えることによって、または接着アッセイで使用する前に、HUVECを機能阻害抗ヒトE−セレクチンmAb(68−5411)で、37℃で15分処理することによって、コントロールアッセイを行った。
【0058】
インビボホーミング:全ての研究を、動物のケアおよび使用に関するNIHのガイドラインに従って、およびInstitutional Animal Care and Use Committees of the Massachusetts General Hospital and the Harvard Medical Schoolの許可の下で行った。生体内顕微鏡検査のために、以前に記載されたように(5)、NOD/SCIDマウスを麻酔し、そして頭皮に小さい切開をして下にある背側頭蓋骨表面を露出した。MSCの4つのグループ(各グループn=4):(1)FTVI処理(上記のように)MSC;(2)緩衝液処理MSC;(3)シアリダーゼで消化した(100mU/ml、V.Choleraeシアリダーゼ、37℃、1時間)FTVI処理MSC;および(4)未処理MSCのそれぞれを分析するために、同腹仔を用いて同じ日に実験を行った。細胞を、蛍光親油性トレーサー色素DiD(10μM、37℃、30分;Molecular Probes)で染色し、そしてNOD/SCIDマウスの尾静脈に注入した。傍矢状領域におけるMSCの骨髄微小血管内皮細胞との相互作用を、以前に記載されたように(5)、ビデオレートイメージングと組み合わせた順次走査および光学切片を用いたインビボ共焦点顕微鏡によって、注射後の異なる時点においてモニターおよび画像化した。骨髄の脈管構造を描写するために、長時間循環蛍光量子ドット(Qtracker800、Invitrogen)を、画像化の直前に全身性に注射した。Qtracker800のストック溶液(2μM)を1:4に希釈し(50μLを150μLのPBS1×と混合する)、そして麻酔マウス尾静脈に注射した。マウス頭蓋骨骨髄のインビボ共焦点顕微鏡検査を、以前に記載されたように(5)行った。DiD標識細胞を、633nmの固体レーザーで励起し、そして695nmで中心に置いた45nmのバンドパスフィルターで画像化し、一方量子ドットを固体Nd:YAGレーザーで532nmにおいて励起し、そして770nmのロングパスフィルターで画像化した。
【0059】

実施例2:ヒト間葉系幹細胞は、CD44のN−結合シアル化グリコフォームを発現し、そしてセレクチンに結合しない
骨髄は、2つの幹細胞の集団、造血幹細胞および間葉系幹細胞(MSC)を含む。MSCは、正常骨髄内に存在する細胞の小集団を表すが、それらを単離および培養中で増殖させ得る。MSCは特徴的にCD44および造血細胞において見出されるいくつかの他の接着分子を発現する(14)。しかし、これらの原始的非造血細胞が、セレクチンリガンドを発現しているかどうかは不明である。このデータの不足、およびHCELLは最も初期の造血細胞(CD34+/lin−細胞)にのみ発現するという発見(10、11)が、MSCがセレクチンに結合し得る、CD44上の同様の炭水化物修飾を示すかどうかを調査するよう私たちを刺激した。
【0060】
MSCを、2つの確立された、公開されたプロトコール(15、16)に従って、ヒト骨髄から培養した。両方の方法を用いて得られたMSCは、以前に記載されたように(15、16)、脂肪細胞、骨細胞、および線維芽細胞分化に向けて、多分化能の分化をし得た。プロトコールに関わらず、MSCは、測定された細胞表面マーカーのいずれにおいても、または酵素的処理に対する反応においても、有意な差は示さなかった。フローサイトメトリー(図1c)によって、MSCはPSGL−1、またはセレクチンリガンドとして作用し得るシアロフコシル化決定基を欠いていた:特に、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロットの両方によって、細胞はmAbKM93またはHECA452(これらはそれぞれシアリルルイスXを同定する)、およびE−Igに対する反応性を欠いていた(図1c、2a、および2b)。さらに、両方の型のMSCは、LFA−1(CD11a/CD18)を欠いていたが、別のインテグリン、VLA−4(CD49d/CD29)を発現していた(図1c)。VLA−4は、血管内皮における回転相互作用および安定した接着を媒介し得るが(17)、これらの接着機能はどちらも、通常SDF−1/CXCR4経路によって媒介される「インサイドアウト」活性化を必要とする(18)。重要なことに、プレートにおける、およびフローサイトメトリーによる接着MSCの免疫蛍光染色の分析は、CXCR4の発現を示さず(図1c)、そして予想通り、MSCは静的または流れに基づくアッセイのいずれにおいても、SDF−1に反応して移動しなかった(示していない)。
【0061】
CD44の発現は、多くのドナーから単離された全てのMSCで高かった(図1c)。顕著に、SACK−1反応性も、全てのドナー由来の全てのMSCで高く(図1c)、これらの細胞は一様にCD44のN−結合、シアル酸付加グリコフォームを発現していることを示す。もともとセレクチンリガンドを欠くが、シアル酸付加CD44アクセプターが存在するので、MSCは、HCELL発現が骨髄への細胞輸送にどのように影響するか調べるために理想的な細胞型であった。
【0062】

実施例3:間葉系幹細胞のエキソビボフコシル化はHCELLの発現を引き起こす
HCELL発現を強制するために、MSCをエキソビボでα(1,3)−フコシル基転移酵素、フコシル基転移酵素VI(FTVI)で処理した。全てのドナーから培養した全てのMSCにおいて、強制フコシル化は、mAb HECA452およびKM93による著明な染色を引き起こし、シアリルルイスXエピトープの発現と一致していた(図2a)。細胞溶解物およびFTVI処理MSC由来の免疫沈降CD44のウェスタンブロットは、HECA452によって認識される必要なシアロフコシル化を有する唯一の糖タンパク質がCD44であることを明らかにした(図2bおよび2c)。さらに、フローサイトメトリーによって、フコシル化MSCはE−Igに結合しており、そして細胞溶解物のウェスタンブロット分析は、E−Ig結合を支持する唯一の糖タンパク質がCD44であることを示した(図2)。関連するHCELLのシアロフコシル化は、N−グリコシダーゼFによる消化後のE−Ig結合の抑止によって示されるように、N−グリカン上に示された(図2c)。
【0063】
生理学的な血流条件下で、FTVI処理MSCのE−セレクチンリガンド活性を分析するために、E−セレクチンを発現するようサイトカインで刺激したヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて、パラレルプレートフローチャンバー研究を行った。図3に示すように、FTVI処理MSCは、著明なE−セレクチンリガンド活性を示し、それはEDTAの存在下で、およびMSCをシアリダーゼで処理することによって完全に抑止された。もともとHCELLを発現する細胞の以前の研究と一致して、通常の後毛細管細静脈せん断レベル(1−4dyne/cm)で、確固としたせん断抵抗相互作用が観察され、PSGL−1がE−セレクチン結合を支持し得る範囲をはるかに超えて、20dyne/cmより上において持続した(10)。これらのデータは、MSC表面のフコシル化によって産生されたHCELLは、KG1a細胞およびヒト造血前駆細胞の表面にもともと示されるものと機能的に同様であることを示した(10、11)。
【0064】

実施例4:HCELLの発現は、インビボでMSCの骨髄へのホーミングを増強した
HCELLの発現がインビボでMSCの骨髄へのホーミングを増強するかどうかを決定するために、我々はダイナミックリアルタイム共焦点顕微鏡を採用して、生存免疫欠損マウス(NOD/SCID)宿主の頭蓋冠の骨髄類洞血管を可視化した(5)。4つのグループの細胞を、それぞれの宿主の尾静脈に注射した:(1)FTVI処理MSC、(2)シアリダーゼで消化したFTVI処理MSC(「FTVI−シアリダーゼMSC」)、(3)緩衝液処理MSC、および(4)未処理MSC。インビボ顕微鏡研究は、FTVI処理、HCELL発現MSCは、骨髄類洞血管を直接回転し、そして注入から数時間以内に、骨髄実質に迅速に浸潤したことを示した(図4)。対照的に、未処理MSCおよび緩衝液処理MSCは、類洞内皮と最低限の結合相互作用を示し、そして中程度の浸潤のみを示し、一方FTVI−シアリダーゼMSCは、典型的にはさらに低いレベルの内皮相互作用および骨髄浸潤を示した(図4)。後者の発見は、ホーミングにおけるHCELLの決定的な役割を強調し、そしてまたFTVI処理後の骨髄指向性は、フコシル化それ自体または他の接着分子の間接的な影響の結果ではなく、(2,3)シアル酸の発現およびα(1,3)フコース修飾を同時に必要とする、誘導されたセレクチンリガンド活性の結果のみであることを示す。MSCおよび血管の同時染色によって得られた画像は、HCELL+MSCが骨髄実質に浸潤したことを明らかに示す(図4)。本明細書中の研究は、骨髄輸送を促進する類洞リガンドの発現を著しく増強する、レシピエント動物の照射または他の予備操作の使用によるような、損傷を誘発せずに行われたことを考えると、観察された骨髄浸潤は印象的である(27)。まとめると、これらのデータは、HCELL発現はMSCの骨髄へのホーミングを直接的に増強するという決定的な証拠を提供する。
【0065】
基準の多段階パラダイムにおいて、内皮におけるホーミング受容体による回転相互作用は、安定した接着、続く遊出を引き起こす、インテグリン接着のG−タンパク質共役アップレギュレーションに決定的であると考えられる、ケモカインへの接触を促進する(3)。特に、本明細書中で使用したMSCは、CXCR4を有さない、または骨髄ホーミングを調節する主なケモカインであるSDF−1への走化性がない(4、5)。従って、これらの細胞の骨髄へ浸潤する能力は、CXCR4の関与は、骨髄輸送に必須ではないことを示す。しかし、第1段階の相互作用は、細胞のあらゆる組織への輸送のために不可欠であり、そしてここで示したように、E−セレクチンリガンド活性の増強は、骨髄ホーミングを促進する。より広い観点から、我々の発見は、安定した接着および内皮を超える移動を伴うインテグリン接着を誘発するために、ホーミング受容体の関与は単独で(すなわちケモカインシグナル伝達の非存在下で)十分であり得ることを示す、増加する実験的証拠と一致する(1)。特に、リンパ球上のCD44それ自身のライゲーションが、ケモカインの関与なしで遊出を引き起こす、VLA−4接着の直接的な、相乗的アップレギュレーションを引き起こすことが発見された(28)。この軸が他の細胞型で作用するどうかを決定するためには将来の研究が必要であるが、MSCが特徴的にVLA−4を発現するという事実(図1c)は、この可能性を高める。
【0066】

実施例5:神経幹細胞のインビボフコシル化
神経幹細胞を、60mU/mLのFT−VI、1mMのGDP−フコースで、または緩衝液単独(HBSS、0.1%ヒト血清アルブミン)で、37℃で1時間処理した。細胞を、2%のNP−40を含む緩衝液中で溶解した。タンパク質を、変性条件下で4−20%Tris−HCl勾配ゲルで分離し、そしてPVDF膜に転写した。膜をHECA452抗体でイムノブロッティングした。できたブロットは、強制フコシル化後、多くのタンパク質上のHECA452反応性エピトープの発現を示す。FT−VI処理神経幹細胞をまた、フローサイトメトリーを用いてHECA452反応性に関して分析した。FT−VI細胞を、10μg/mLのHECA452または10μg/mLのラットIgMアイソタイプコントロールと、4℃で30分間、そして続いて20μg/mLの抗ラットIgM−FITCと、4℃で30分間インキュベートした。フローサイトメトリーの結果は、強制フコシル化後、細胞表面のHECA452エピトープ発現の増加を示す。
【0067】

実施例6:肺幹細胞のインビボフコシル化
肺幹細胞を、60mU/mLのFt−VI、1mMのGDP−フコースで、または緩衝液単独(HBSS、0.1%ヒト血清アルブミン)で、37℃で1時間処理した。細胞を、10μg/mLのHECA452または10μg/mLのラットIgMアイソタイプコントロールと、4℃で30分間、そして続いて20μg/mLの抗ラットIgM−FITCと、4℃で30分間インキュベートした。フローサイトメトリーの結果は、強制フコシル化後、細胞表面のHECA452エピトープ発現の増加を示す。
【0068】

参考文献
【0069】
【化1】

【0070】
【化2】

本発明の多くの実施態様が記載された。それにも関わらず、本発明の意図および範囲から離れることなく、様々な修飾をし得ることが理解される。よって、他の実施態様が以下の請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存細胞または細胞粒子の表面上のグリカンのエキソビボ修飾のための組成物であって、該組成物が、以下:
精製糖転移酵素ポリペプチドと、
二価金属補助因子を含まない生理学的に受容可能な溶液を含む、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記糖転移酵素がフコシル基転移酵素、ガラクトシル基転移酵素、シアル酸転移酵素、またはN−アセチルグルコサミン転移酵素である組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、適当な糖ドナーをさらに含む組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、前記生理学的に受容可能な溶液が緩衝されている組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記生理学的に受容可能な溶液がグリセロールを含まない組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、前記糖転移酵素が、pH6.5、37℃で1分あたり1.0μモルの糖を転移し得る組成物。
【請求項7】
請求項3に記載の組成物であって、前記糖がフコース、ガラクトース、シアル酸、またはN−アセチルグルコサミンである組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、該組成物が前記細胞または粒子のインテグリン接着に影響しない、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物であって、前記細胞粒子が血小板である組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物であって、前記細胞が分化細胞または幹細胞である組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の組成物であって、前記幹細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、組織幹/前駆細胞、臍帯幹細胞、または胚性幹細胞である組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物であって、前記組織幹/前駆細胞が神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞である組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の組成物であって、前記細胞がCD44を発現する組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物であって、前記二価金属補助因子がマンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、またはニッケルである組成物。
【請求項15】
細胞または粒子の表面上のグリカンを修飾するためのキットであって、該キットが、以下:
二価金属補助因子を含まない生理学的に受容可能な溶液中の精製糖転移酵素、および
細胞または粒子を接触させるための指示を含む、キット。
【請求項16】
生存細胞または細胞粒子の表面上のグリカンを修飾するためのエキソビボの方法であって、該方法が、以下:
糖転移酵素が酵素活性を有し、そして細胞または細胞粒子集団の生存性が、糖転移酵素との接触後8時間において少なくとも90%である条件下で、細胞または細胞粒子の集団を、二価の金属補助因子を含まない生理学的に許容可能な溶液中で、糖転移酵素と接触させることを含む、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞または細胞粒子の天然の機能上の表現型が、糖転移酵素および酵素学的条件との接触後保存されている方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞粒子が血小板である方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞が分化細胞または幹細胞である方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記幹細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、組織幹/前駆細胞、臍帯幹細胞、または胚性幹細胞である方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記組織幹/前駆細胞が神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞である方法。
【請求項22】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞がCD44を発現する方法。
【請求項23】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞がCD34である方法。
【請求項24】
請求項16に記載の方法であって、前記細胞または細胞粒子が、関連する糖転移酵素と接触後、E−セレクチン、L−セレクチン、またはこの両方と結合する、方法。
【請求項25】
請求項16に記載の組成物であって、前記糖転移酵素が、フコシル基転移酵素、ガラクトシル基転移酵素、シアル酸転移酵素、またはN−アセチルグルコサミン転移酵素、またはそれらの組合せである組成物。
【請求項26】
細胞上のグリカンを修飾する方法であって、以下:
α(2,3)シアル酸付加CD44を発現し、そしてE−セレクチンを結合しない細胞の集団を提供し、そして該細胞の集団をインビトロで二価金属補助因子を含まない生理学的に受容可能な溶液中の精製アルファ1,3−フコシル基転移酵素、およびフコースドナーで処理して修飾細胞を形成させることを含み、ここで該修飾細胞がE−セレクチンを結合する、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、前記細胞がCD34である方法。
【請求項28】
請求項26に記載の方法であって、前記細胞が分化細胞または幹細胞である方法。
【請求項29】
請求項26に記載の方法であって、前記幹細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、組織幹/前駆細胞、臍帯幹細胞、または胚性幹細胞である方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、前記組織幹/前駆細胞が神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞である方法。
【請求項31】
請求項26に記載の方法であって、前記細胞がさらにL−セレクチンを結合する方法。
【請求項32】
請求項26に記載の方法であって、前記修飾細胞がP−セレクチンを結合しない方法。
【請求項33】
請求項28に記載の方法であって、前記分化細胞がリンパ球または白血球である方法。
【請求項34】
請求項19に記載の方法であって、修飾細胞の生存性が少なくとも90%である方法。
【請求項35】
細胞上のグリカンを修飾する方法であって、CD44を発現し、そしてE−セレクチンを結合しない細胞の集団を提供し、そして該細胞の集団をインビトロで以下:
a) グリセロールおよび二価金属補助因子を含まない生理学的に受容可能な溶液中でシアル酸ドナーの存在下、精製シアル酸転移酵素;
b) 二価金属補助因子を含まない生理学的に受容可能な溶液中で精製アルファ1,3−フコシル基転移酵素、およびフコースドナー
で処理して修飾細胞を形成させることを含み、ここで該修飾細胞がE−セレクチンを結合する、方法
【請求項36】
請求項35に記載の方法であって、前記細胞がCD34である方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法であって、前記CD44が修飾に先立ってシアル酸付加されていない方法。
【請求項38】
請求項35に記載の方法であって、前記細胞が分化細胞または幹/前駆細胞である方法。
【請求項39】
請求項38に記載の方法であって、前記幹細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、組織幹/前駆細胞、臍帯幹細胞、または胚性幹細胞である方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、前記組織幹/前駆細胞が神経幹細胞、筋幹細胞、または肺幹細胞である方法。
【請求項41】
請求項36に記載の方法であって、前記修飾細胞がさらにL−セレクチンを結合する方法。
【請求項42】
請求項36に記載の方法であって、前記修飾細胞がP−セレクチンを結合しない方法。
【請求項43】
請求項36に記載の方法であって、分化細胞が白血球である方法。
【請求項44】
請求項36に記載の方法であって、前記修飾細胞の生存性が少なくとも90%である方法。
【請求項45】
請求項16、26、または35の方法により生成される細胞。
【請求項46】
細胞の移植可能性を増大させる方法であって、請求項45に記載の細胞を含む組成物を、必要とする被験体に投与することを含む方法。
【請求項47】
免疫不全、組織損傷、または癌の症状を処置または軽減する方法であって、請求項45に記載の細胞を含む組成物を、必要とする被験体に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−539350(P2009−539350A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513334(P2009−513334)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/013178
【国際公開番号】WO2007/143204
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508354692)
【Fターム(参考)】