細胞観察装置および観察方法
【課題】ユーザが培養容器内の個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができるようにする。
【解決手段】画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着していると判定された細胞に細胞IDを付与する。画像処理装置12は、細胞画像に基づいて、細胞IDが付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する。画像処理装置12は、その判定の結果に基づいて、細胞IDが付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する。本発明は、例えば細胞観察システムに適用することができる。
【解決手段】画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着していると判定された細胞に細胞IDを付与する。画像処理装置12は、細胞画像に基づいて、細胞IDが付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する。画像処理装置12は、その判定の結果に基づいて、細胞IDが付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する。本発明は、例えば細胞観察システムに適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞観察装置および観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロプレートのウェル内の複数の細胞の画像を顕微鏡で取り込み、その画像から複数の細胞の各々の初期状態を認定して、ウェルの中に薬物を導入し、その後に顕微鏡で取り込んだ画像に基づいて薬物を導入した後の複数の細胞の各々の反応を検出し、複数の細胞の各々の初期状態と反応との相関情報を生成する細胞観察装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、この細胞観察装置では、個々の細胞が静的なものとして扱われているが、実際には、細胞は接着状態であっても移動するものである。即ち、細胞は移動して分裂していくものである。また、細胞は死滅することもある。そして、このような細胞の挙動は個々の細胞で異なるものであり、個々の細胞の挙動を把握することは、例えば癌化のメカニズムや、再生医療実現のツールとして重要視されている幹細胞の性質などを解明するために、必要不可欠であると考えられている。従って、個々の細胞を特定し、その挙動を経時的に観察したいという要望があった。
【特許文献1】特開2005−102538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ユーザに個々の細胞の挙動の経過を容易に把握させる細胞観察装置は考案されていなかった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ユーザが培養容器内の個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の細胞観察装置は、培養容器内の細胞の画像を取得する取得手段と、前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定する細胞判定手段と、前記画像に基づいて、前記細胞判定手段により前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定する浮遊判定手段と、前記浮遊判定手段により前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与する付与手段と、前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する挙動判定手段と、前記挙動判定手段による判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する作成手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の観察方法は、培養容器内の細胞を観察する細胞観察装置の観察方法において、前記培養容器内の細胞の画像を取得し、前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、前記画像に基づいて、前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定し、前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、その判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、培養容器内の細胞の画像を取得し、画像に基づいて、細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、画像に基づいて、単一細胞であると判定された細胞が、培養容器内に浮遊しているか、または、培養容器に部分的に接着しているかを判定し、培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、画像に基づいて、固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、その判定の結果に基づいて、固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成するようにしたので、ユーザは培養容器内の個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明を適用した細胞観察システムの一実施の形態の構成例を示している。
【0010】
図1の細胞観察システム10は、位相差顕微鏡11と画像処理装置12により構成される。
【0011】
位相差顕微鏡11は、図1に示すように、光源側から順に、光源21、コレクタレンズ22、拡散板23、開口絞り24、コンデンサレンズ25、ステージ26、対物レンズ27、結像レンズ28、およびCCD(Charge Coupled Device)カメラ29により構成される。位相差顕微鏡11は、ステージ26に載置されるウェルプレートなどの培養容器31内の培養環境にある試料oとしての細胞に光を照射し、その細胞の画像である細胞画像を撮像する。このとき、観察対象となる細胞は接着細胞であるため、培養容器31の底面に接着する細胞を観察するように、位相差顕微鏡11の焦点は培養容器31の底面に合わせられる。
【0012】
詳細には、位相差顕微鏡11の光源21は所定の光を出射する。光源21から出射された光はコレクタレンズ22により略平行光束になる。この略平行光束は、拡散板23を介して、輪帯形状(リング形状)の開口絞り24によって制限される。そして、開口絞り24を通過した光は、コンデンサレンズ25によって集光され、ステージ26に載置される培養容器31内の試料oとしての細胞に照射される。
【0013】
細胞を透過した直接光(0次の回折光)は、対物レンズ27に入射し、対物レンズ27内のリング状の位相膜(図示せず)を透過することによって位相が変換される。なお、この位相膜は、対物レンズ27内であって開口絞り24と共役な位置に設けられている。また、位相膜は、対物レンズ27の開口数の違いによってその径が異なるため、開口絞り24は位相膜の径に応じて開口が異なるものに適宜変更される。
【0014】
また、細胞によって回折されることで直接光に対して位相がずれた0次以外の回折光は、対物レンズ27に入射し、対物レンズ27内の位相膜以外の部分を透過する。そして、対物レンズ27を透過した直接光と回折光は、結像レンズ28によって結像されてCCDカメラ29の撮像面上で干渉する。これにより、CCDカメラ29の撮像面上には、細胞の拡大像Iが形成される。CCDカメラ29は、制御部30からの指令に応じて、撮像面上に形成された拡大像Iを細胞画像として撮像する。
【0015】
以上のように、位相差顕微鏡11では、試料oとしての細胞の屈折力の差や厚みなどによって生じる位相差を光の強弱であるコントラストに変換して像の明暗として可視化することで、細胞画像を観察することができる。
【0016】
なお、制御部30は、位相差顕微鏡11の各部を制御する。例えば、制御部30は、画像処理装置12からのステージ26の移動の指令に応じてステージ26を所定の方向に移動させ、培養容器31内に対流を発生させる。これにより、培養容器31内の細胞に、培養容器31内に浮遊している細胞の位置がずれ、かつ、培養容器31に部分的に接着している細胞の位置がずれない程度(以下、浮遊ずれ程度という)の物理的振動が与えられる。
【0017】
さらに、制御部30は、画像処理装置12からの撮像の開始の指令に応じて、比較的短い間隔でCCDカメラ29に撮像の指令を行う。なお、この間隔は、例えば細胞の移動速度に応じて決定される。具体的には、撮像間隔は、連続画像の中で細胞の同一性が認識できる程度の間隔であり、動きの早い細胞の場合は比較的短い時間間隔で、動きの遅い細胞の場合は比較的長い時間間隔で撮像が行われる。
【0018】
画像処理装置12には、CCDカメラ29により撮像された細胞画像が入力される。画像処理装置12は、入力された細胞画像を解析する。そして、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞に、その単一細胞に固有の情報としての細胞IDを付与する。
【0019】
このとき、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞を検出するために、所定のタイミングで制御部30にステージ26の移動を指令して細胞に振動を与える。
【0020】
また、画像処理装置12は、細胞画像に基づいて、細胞IDが付与された細胞の挙動を追跡する。そして、画像処理装置12は、追跡した細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成して表示させる。さらに、画像処理装置12は、ユーザからの解析の開始の指示に応じて、制御部30に撮像の開始を指令する。
【0021】
以上のように、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞に細胞IDを付与し、細胞IDが付与された細胞の挙動を追跡するので、培養容器31内の個々の細胞の挙動を独立して観察することができる。また、画像処理装置12は、系統樹を作成して表示させるので、ユーザは個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。
【0022】
次に、図2Aと図2Bを参照して、培養環境にある単一細胞の状態の経時的変化ついて説明する。
【0023】
なお、図2Aと図2Bでは、左から右に向かって時間が経過していくものとする。また、図2Aは、各状態の単一細胞の横方向(重力方向に垂直な方向)から見た形状を模式的に示しており、図2Bは、各状態の単一細胞の細胞画像を模式的に示している。
【0024】
図2Aに示すように、培養容器31内の単一細胞は、最初、培養容器31内を浮遊している状態aにある。この場合、図2Aに示すように、単一細胞の横方向から見た2次元形状は略円形であり、図2Bに示すように、細胞画像における単一細胞の2次元形状も略円形である。即ち、単一細胞の3次元形状は略球形である。また、図2Bに示すように、状態aの単一細胞の境界に見えるハローは強い。さらに、図2Bに示すように、状態aの単一細胞の細胞移動度は低く、培養容器31を動かさなければ状態aの単一細胞は2次元方向(観察光軸に略垂直な面内)には移動しない。
【0025】
そして時間が経過すると、図2Aに示すように、単一細胞は分裂を始めるため、状態aから培養容器31に部分的に接着する状態bになる。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状、ハローの強度、および細胞移動度は変化しない。
【0026】
さらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞は、状態bから足場を形成した状態cに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は球形からかけ離れた突起を有する形状になり、その形状は経時的に変化する。
【0027】
なお、状態cの単一細胞の細胞画像においては、細胞核を含む細胞オルガネラを認識することができる。また、単一細胞の状態が状態cになると、図2Bに示すように、ハローは弱くなり、細胞移動度は高くなる。従って、細胞移動度が高い単一細胞は、状態cになると移動を開始する。
【0028】
そしてさらに時間が経過し、分裂する直前になると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態cから分裂前の丸まっている状態dに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は再び球形になり、ハローは強くなる。また、図2Bに示すように、細胞移動度は低くなり、単一細胞はあまり移動しなくなる。
【0029】
さらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態dから分裂した状態eに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状にはくびれが発生するが、ハローの強度と細胞移動度は変化しない。
【0030】
そしてさらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態eから分裂した細胞が足場を形成した状態fに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は突起を有する形状になる。また、図2Bに示すように、ハローは弱くなり、細胞移動度は高くなる。従って、単一細胞は状態fになると再び移動を開始する。
【0031】
この後、分裂した2つの単一細胞はそれぞれ状態dになり、以降も同様に状態の変化を繰り返す。なお、培養環境にある単一細胞は、上述した状態a乃至fのいずれかになるだけでなく死滅する場合もある。
【0032】
図1の画像処理装置12は、生きている細胞の最も原始的な状態である状態bの単一細胞に細胞IDを付与する。従って、画像処理装置12は、細胞画像から単一細胞の状態が状態aであるか、状態bであるかを判定する必要がある。
【0033】
そこで、画像処理装置12は、図1の制御部30を制御して培養容器31内の細胞に浮遊ずれ程度の振動を与え、振動の前後の細胞画像における単一細胞の位置の変化によって状態bを判定する。
【0034】
即ち、単一細胞の状態が状態bである場合、浮遊ずれ程度の振動が与えられても単一細胞の位置は変化しないが、単一細胞の状態が状態aである場合、浮遊ずれ程度の振動が与えられると単一細胞の位置は変化する。従って、浮遊判定部83は、浮遊ずれ程度の振動が与えられても単一細胞の位置が変化しない場合、その単一細胞の状態が状態bであると判定し、単一細胞の位置が変化する場合、その単一細胞の状態が状態aであると判定する。
【0035】
なお、単一細胞の状態が状態aまたはbである場合、培養容器31を動かさなければ細胞は2次元方向には移動しないので、CCDカメラ29が細胞画像を比較的短い間隔で撮像することにより、振動の前後の細胞画像から、振動以外の要因による単一細胞の位置の変化がほとんど検出されないようにすることができる。
【0036】
実際には、培養容器31に振動を与えた前後における単一細胞の輪郭中心位置の変化量が所定値以内であるものを接着細胞、所定値より大きいものを浮遊細胞と判定することができる。この所定値と撮像間隔とは、細胞の種類に応じて実験により定めることができる。
【0037】
また、画像処理装置12は、単一細胞の挙動として、状態cのときの移動、状態eのときの分裂、および死滅を観察する。
【0038】
図3は、図1の画像処理装置12のハードウェアの構成例を示している。
【0039】
図3の画像処理装置12のCPU(Central Processing Unit)51は、ROM(Read Only Memory)52、または記憶部58に記憶されているプログラムにしたがって各種の処理を実行する。RAM(Random Access Memory)53には、CPU51が実行するプログラムやデータなどが適宜記憶される。これらのCPU51、ROM52、およびRAM53は、バス54により相互に接続されている。
【0040】
CPU51にはまた、バス54を介して入出力インターフェース55が接続されている。入出力インターフェース55には、キーボード、マウス、操作ボタンなどよりなる入力部56、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部57が接続されている。CPU51は、入力部56から入力される指令に対応して各種の処理を実行する。なお、CPU51が実行する処理の詳細については、後述する図4を参照して説明する。
【0041】
入力部56は、ユーザからの操作を受け付け、その操作に対応する指令をCPU51に入力する。出力部57は、CPU51からの指令に応じて画像や音声を出力する。
【0042】
入出力インターフェース55にはまた、例えばハードディスクからなる記憶部58が接続されている。記憶部58は、CPU51が実行するプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部58は、図1のCCDカメラ29から後述する通信部59を介して送信されてくる細胞画像などを記憶する。
【0043】
入出力インターフェース55にはさらに、通信部59が接続されている。通信部59は、インターネットやローカルエリアネットワークなどのネットワークを介して、位相差顕微鏡11などの外部の装置と通信する。例えば、通信部59は、ネットワークを介して位相差顕微鏡11のCCDカメラ29と通信し、CCDカメラ29から細胞画像を取得する。
【0044】
入出力インターフェース55にはまた、ドライブ60が接続されている。ドライブ60は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブルメディア61が装着されたとき、それらを駆動し、そこに記録されているプログラムやデータなどを取得する。取得されたプログラムやデータは、必要に応じて記憶部58に転送され、記憶される。なお、プログラムは、通信部59を介して取得され、記憶部58に記憶されてもよい。
【0045】
図4は、図3のCPU51の機能的構成例を示している。
【0046】
図4のCPU51の取得部81は、図1のCCDカメラ29により撮像された細胞画像を、解析の対象とする対象細胞画像として、通信部59を介して取得する。取得部81は、その細胞画像を細胞判定部82に供給するとともに、表示制御部85に供給する。
【0047】
細胞判定部82は、取得部81から供給される対象細胞画像に基づいて、その対象細胞画像内の単一細胞の形状と輪郭中心の対象細胞画像上の位置とを検出し、その形状と位置を表す形状位置情報を浮遊判定部83と挙動判定部87に供給する。また、細胞判定部82は、対象細胞画像と形状位置情報を記憶読出制御部86に供給して、図3の記憶部58に記憶させる。
【0048】
浮遊判定部83は、指令部88から供給される培養容器31内の細胞が振動した旨の通知に応じて、対象細胞画像の1つ前に撮像された細胞画像(以下、前細胞画像という)の形状位置情報、および、単一細胞に付与された細胞IDと、その単一細胞の形状位置情報とを対応付けた識別テーブルの記憶部58からの読み出しを、記憶読出制御部86に要求する。
【0049】
また、浮遊判定部83は、その要求に応じて記憶読出制御部86から供給される前細胞画像の形状位置情報および識別テーブルと、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、対象細胞画像内のまだ細胞IDが付与されていない単一細胞(以下、未付与単一細胞という)のうちの状態bの単一細胞の形状位置情報を、付与部84に供給する。
【0050】
付与部84は、浮遊判定部83から供給される形状位置情報に対応する未付与単一細胞に細胞IDを付与する。また、付与部84は、その細胞ID、その細胞IDが付与された単一細胞の形状位置情報、および対象細胞画像の撮像時刻を記憶読出制御部86に供給し、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。なお、対象細胞画像の撮像時刻は、例えばCCDカメラ29により対象細胞画像に付加され、画像処理装置12に入力されたものである。
【0051】
表示制御部85は、取得部81から供給される細胞画像を出力部57に供給して表示させる。また、表示制御部85は、作成部89から供給される系統樹を出力部37に供給して表示させる。
【0052】
記憶読出制御部86は、記憶部58に対する記憶と読み出しの制御を行う。具体的には、記憶読出制御部86は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像と形状位置情報を対応付けて記憶部58に記憶させる。
【0053】
また、記憶読出制御部86は、浮遊判定部83からの要求に応じて、記憶部58から前細胞画像に対応付けられている形状位置情報と識別テーブルを読み出し、浮遊判定部83に供給する。記憶読出制御部86は、挙動判定部87または作成部89からの要求に応じて記憶部58から識別テーブルを読み出し、挙動判定部87または作成部89に供給する。
【0054】
さらに、記憶読出制御部86は、付与部84から供給される細胞IDに対応付けて、形状位置情報および対象細胞画像の撮像時刻を、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。また、記憶読出制御部86は、挙動判定部87から供給される、細胞IDが付与された単一細胞の挙動を表す挙動情報を、その細胞IDに対応付けて識別テーブルに登録する。また、記憶読出制御部86は、作成部89から供給される系統樹を記憶部58に記憶させる。
【0055】
挙動判定部87は、識別テーブルの読み出しを記憶読出制御部86に要求する。挙動判定部87は、要求に応じて記憶読出制御部86から供給される識別テーブルと、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、細胞IDが付与された単一細胞が移動しているか、分裂しているか、または、死滅しているかを判定する。
【0056】
挙動判定部87は、対象細胞画像の撮像時刻、判定対象である単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、判定結果である「移動」、「死滅」、または「分裂」などを対応付けた情報を、判定対象である単一細胞の挙動情報として、その単一細胞の細胞IDとともに記憶読出制御部86に供給する。
【0057】
指令部88は、図3の入力部56から入力される解析の開始の指令に応じて、図1の制御部30に撮像の開始を指令する。また、指令部88は、所定のタイミングでステージ26の移動を制御部30に指令して、培養容器31内の細胞に浮遊ずれ程度の振動を与えるとともに、培養容器31内の細胞が振動した旨を浮遊判定部83に通知する。さらに、指令部88は、入力部56から入力される解析の終了の指令に応じて、系統樹の作成を作成部89に指令する。
【0058】
作成部89は、指令部88から供給される系統樹の作成の指令に応じて記憶読出制御部86に識別テーブルの読み出しを要求する。作成部89は、この要求に応じて読み出された識別テーブルに基づいて系統樹を作成し、その系統樹を表示制御部85に供給して出力部37に表示させる。また、作成部89は、作成した系統樹を記憶読出制御部86に供給し、記憶部58に記憶させる。
【0059】
次に、図5は系統樹の例を示している。
【0060】
図5の系統樹では、横軸が解析を開始してからの時刻を表している。また、図5の系統樹において記述されるアルファベットと数字の組み合わせは細胞IDと世代を表している。具体的には、系統樹において記述されるアルファベットと数字の組み合わせのうち、「g」より前の3桁の数字は細胞IDを表す。
【0061】
なお、「g」と2桁の数字の後にアルファベットがある場合、細胞IDは「g」の前の3桁の数字だけでなく、それに「g」と2桁の数字の後のアルファベットを繋げたものである。このアルファベットは、同一の単一細胞から分裂された単一細胞を識別するものであり、aから順に付与される。「g」より後の2桁の数字は、状態bのときの世代を第0世代としたときの世代を表している。
【0062】
例えば、「001g00」は、細胞ID「001」が付与された第0世代の単一細胞を表す。また「001g01a」は、細胞ID「001a」が付与された第1世代の単一細胞を表す。
【0063】
また、図5の系統樹において横線は、それに対応する時刻の間、横線の左上に記述されるアルファベットと数字の組み合わせが表す細胞IDと世代の単一細胞が存在することを表す。横線の分岐は、それに対応する時刻に分裂したことを表し、バツ印は死滅したことを表す。さらに、図5の系統樹において横線に設けられた白丸印どうしを接続する縦線は、各横線が表す単一細胞どうしが接着(隣接)していることを表す。また、横線に設けられた黒丸印は接着状態の解消を表す。
【0064】
具体的には、図5の系統樹では、以下の3つの単一細胞の挙動の経過が表されている。1つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t2後に培養容器31に部分的に接着し、1つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、1つ目の単一細胞には細胞ID「001」が付与される。
【0065】
その後時刻t4において、細胞ID「001」が付与された単一細胞が分裂し、第1世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001a」が付与され、他方には細胞ID「001b」が付与される。
【0066】
そして時刻t5において、細胞ID「001a」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001aa」が付与され、他方には細胞ID「001ab」が付与される。
【0067】
時刻t12において、細胞ID「001aa」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001aaa」が付与され、他方には細胞ID「001aab」が付与される。一方、時刻t9において、細胞ID「001aab」が付与された単一細胞は死滅する。
【0068】
また、細胞ID「001b」が付与された第1世代の単一細胞は、時刻t6において、後述する細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞と接着する。そして、時刻t7において、細胞ID「001b」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の単一細胞のうちの一方には細胞ID「001ba」が付与され、他方には細胞ID「001bb」が付与される。
【0069】
その後時刻t8において、細胞ID「001ba」が付与された第2世代の単一細胞は、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞との接着状態を解消する。従って、時刻t8以降は細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞だけが、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞と接着している。
【0070】
時刻t13において、細胞ID「001ba」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001bba」が付与され、他方には細胞ID「001bbb」が付与される。
【0071】
2つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t3後に培養容器31に部分的に接着し、2つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、2つ目の単一細胞には細胞ID「002」が付与される。そして時刻t9において、細胞ID「002」が付与された単一細胞は死滅する。
【0072】
また、3つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t1後に培養容器31に部分的に接着し、3つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、3つ目の単一細胞には細胞ID「003」が付与される。そして時刻t6において、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞は、上述したように、細胞ID「001b」が付与された第1世代の単一細胞と接着する。
【0073】
その後時刻t9において、細胞ID「003」が付与された単一細胞が分裂し、第1世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003a」が付与され、他方には細胞ID「003b」が付与される。
【0074】
時刻t10において、細胞ID「003b」が付与された第1世代の単一細胞は、細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞との接着状態を解消する。従って、時刻t10以降は細胞ID「001a」が付与された第1世代の単一細胞だけが、細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞と接着している。
【0075】
そして時刻t11において、細胞ID「003a」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aa」が付与され、他方には細胞ID「003ab」が付与される。
【0076】
時刻t15において、細胞ID「003aa」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aaa」が付与され、他方には細胞ID「003aab」が付与される。
【0077】
また、時刻t14において、細胞ID「003ab」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aba」が付与され、他方には細胞ID「003abb」が付与される。
【0078】
以上のように、図5の系統樹は個々の単一細胞の挙動の経過を表すので、例えばユーザは、画像処理装置12の出力部57(図3)に表示される系統樹を見ることにより、個々の単一細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。例えば、図5の系統樹により、ユーザは、細胞ID「001」が付与された単一細胞の第1世代の分裂時期にズレが生じていることを容易に把握することができる。
【0079】
また、図5の系統樹により、細胞ID「003」が付与された単一細胞は、培養容器31に部分的に接着した後比較的長時間にわたって分裂せずにいるが、細胞ID「001b」が付与された単一細胞と接着する(出会う)と、突如思い出したように分裂することを容易に把握することができる。
【0080】
さらに、図5の系統樹により、接着状態を解消した細胞ID「001ba」が付与された単一細胞と細胞ID「003b」が付与された単一細胞は、接着したままの細胞ID「001bb」が付与された単一細胞と細胞ID「003a」が付与された単一細胞に比べて、分裂の機会を失う傾向にあることを容易に把握することができる。
【0081】
次に、図6のフローチャートを参照して、図4のCPU51による細胞画像の解析処理について説明する。この解析処理は、例えば、ユーザが入力部56を操作して、細胞画像の解析の開始を指示したときに開始される。
【0082】
ステップS11において、取得部81は、通信部59を介してCCDカメラ29から細胞画像を取得したかを判定し、細胞画像を取得したと判定するまで待機する。
【0083】
具体的には、ユーザが入力部56を操作して細胞画像の解析の開始を指示すると、入力部56は、細胞画像の解析の開始を指令部88に指令する。指令部88は、その指令に応じて位相差顕微鏡11の制御部30に撮像の開始を指令する。制御部30は、その指令に応じて比較的短い間隔でCCDカメラ29に撮像の指令を行い、その結果CCDカメラ29により得られる細胞画像が通信部59を介して取得部81に供給される。取得部81は、その細胞画像を取得するまで待機する。
【0084】
ステップS11で細胞画像を取得したと判定された場合、取得部81は、取得した細胞画像を対象細胞画像として細胞判定部82と表示制御部85に供給する。そして、ステップS12において、細胞判定部82は、対象細胞画像に基づいて、その対象細胞画像に単一細胞があるかを判定する。
【0085】
具体的には、細胞判定部82は、円環形状検出手法などの手法を用いて対象細胞画像内から円環形状のハローを抽出する。そして、細胞判定部82は、抽出した円環形状のハローの大きさに基づいて、そのハローに対応する細胞が単一細胞であるかを判定する。
【0086】
なお、円環形状検出手法としては、例えば細胞画像内の所定の測定点としての画素から延びる所定の形状を有した輝度測定領域内の輝度分布を、その測定点を中心に輝度測定領域を所定角度ずつ回転させてそれぞれ測定し、この輝度分布を積算して輝度測定領域に対応する第1の積算輝度分布を算出し、輝度測定領域における所定部分領域内の測定輝度値を輝度測定領域の所定角度の回転それぞれについて積算して、所定角度の回転に応じて部分領域を円環状に繋げた円環状測定領域における第2の積算輝度分布を算出し、第1の積算輝度分布と第2の積算輝度分布に基づいて細胞画像内の円環形状を検出する方法を用いることができる。また、輪郭(外径形状)を検出する周知の各種画像処理手法を用いることもできる。
【0087】
ステップS12で単一細胞があると判定された場合、ステップS13において、細胞判定部82は、その単一細胞のハローを含む領域を、単一細胞の存在する領域である細胞存在領域として対象細胞画像から抽出する。
【0088】
ステップS14において、細胞判定部82は、各単一細胞の内側のエッジを抽出する。具体的には、細胞判定部82は、対象細胞画像から抽出した各単一細胞の細胞存在領域内にあるエッジのうち輪郭が最長のものを、各単一細胞の内側のエッジとして抽出する。
【0089】
ステップS15において、細胞判定部82は、各単一細胞の内側のエッジの形状を各単一細胞の形状として、各単一細胞の形状の輪郭中心の対象細胞画像上の位置を検出する。そして、細胞判定部82は、その形状と位置を表す形状位置情報を浮遊判定部83と挙動判定部87に供給する。また、細胞判定部82は、対象細胞画像と形状位置情報を記憶読出制御部86に供給して記憶部58に記憶させる。
【0090】
ステップS16において、CPU51は、状態bの単一細胞に細胞IDを付与する識別処理を行う。この識別処理の詳細は、後述する図7を参照して説明する。
【0091】
ステップS17において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が移動しているかを判定する移動判定処理を行う。この移動判定処理の詳細は、後述する図8を参照して説明する。
【0092】
ステップS18において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が分裂しているかを判定する分裂判定処理を行う。この分裂判定処理の詳細は、後述する図9を参照して説明する。
【0093】
ステップS19において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が死滅しているかを判定する死滅判定処理を行う。この死滅判定処理の詳細は、後述する図10を参照して説明する。ステップS19の処理後、処理はステップS20に進む。
【0094】
一方、ステップS12で単一細胞がないと判定された場合、即ち対象細胞画像内の細胞が全て多細胞の細胞塊である場合、処理はステップS13乃至S19をスキップして、ステップS20に進む。
【0095】
ステップS20において、指令部88は、入力部56から解析の終了が指令されたか、即ちユーザが入力部56を操作して解析の終了を指示したかを判定する。ステップS20で解析の終了が指令されていないと判定された場合、処理はステップS11に戻り、以降の処理が繰り返される。また、ステップS20で解析の終了が指令されたと判定された場合、指令部88は系統樹の作成を作成部89に指令する。そしてステップS21において、作成部89は、指令部88からの系統樹の作成の指令に応じて、系統樹(図5)を作成する。
【0096】
具体的には、作成部89は、記憶部58から読み出された識別テーブルに登録されている、各細胞IDの単一細胞の判定結果である「分裂」または「死滅」、および、それに対応する撮像時刻に基づいて、図5の系統樹における各単一細胞の横線(分岐を含む)の位置と長さを決定する。そして、作成部89は、位置と長さが決定された各横線に、対応する細胞IDを付加する。また、作成部89は、識別テーブルに登録されている、各細胞IDの単一細胞の判定結果である「死滅」、および、それに対応する撮像時刻に基づいて、各細胞IDに対応する横線の、その撮像時刻に対応する位置にバツ印を付加する。
【0097】
さらに、作成部89は、識別テーブルに登録されている各単一細胞の形状位置情報が表す位置に基づいて、接着した単一細胞を検出する。そして、作成部89は、接着した時刻に対応する、接着した各単一細胞を表す横線の位置に白丸印を付加し、その白丸印どうしを結ぶ縦線を付加する。また、作成部89は、識別テーブルに登録されている各単一細胞の形状位置情報が表す位置に基づいて、接着状態を解消した単一細胞を検出する。そして、作成部89は、接着状態を解消した時刻に対応する、接着状態を解消した単一細胞を表す横線の位置に黒丸印を付加する。
【0098】
以上のようにして、作成部89は、バツ印、白丸印、黒丸印、縦線、細胞IDなどが付加された横線(分岐を含む)からなる系統樹を作成する。そして、作成部89は、作成した系統樹を表示制御部85に供給して出力部37に表示させる。また、作成部89は、作成した系統樹を記憶読出制御部86に供給して記憶部58に記憶させる。そして処理は終了する。
【0099】
なお、図6の解析処理では、ハローの大きさによって細胞が単一細胞であるかが判定されたが、ハローの大きさだけでなく、ハローの形状や核の数などによって判定されるようにしてもよい。
【0100】
次に、図7のフローチャートを参照して、図6のステップS16の識別処理の詳細について説明する。
【0101】
ステップS31において、浮遊判定部83は、対象細胞画像の撮像直前に培養容器31内の細胞が振動したか、即ち、指令部88から培養容器31内の細胞が振動した旨の通知が供給されたかを判定する。ステップS31で培養容器31内の細胞が振動していないと判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0102】
一方、ステップS31で培養容器31内の細胞が振動したと判定された場合、ステップS32において、浮遊判定部83は、未付与単一細胞があるかを判定する。具体的には、浮遊判定部83は、識別テーブルの読み出しを記憶読出制御部86に要求する。記憶読出制御部86は、その要求に応じて識別テーブルを記憶部58から読み出し、その識別テーブルを浮遊判定部83に供給する。浮遊判定部83は、細胞判定部82からの対象細胞画像の形状位置情報のうち、記憶読出制御部86からの識別テーブルに登録されていない形状位置情報があるかを判定する。
【0103】
ステップS32で未付与単一細胞がないと判定された場合、即ち対象細胞画像の形状位置情報の全てが識別テーブルに既に登録されていると判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0104】
一方、ステップS32で未付与単一細胞があると判定された場合、即ち対象細胞画像の形状位置情報のうち識別テーブルに登録されていない形状位置情報があると判定された場合、浮遊判定部83は、記憶読出制御部86に前細胞画像の形状位置情報の読み出しを要求する。そして、ステップS33において、記憶読出制御部86は、浮遊判定部83からの要求に応じて、記憶部58から前細胞画像の形状位置情報を読み出す。
【0105】
ステップS34において、浮遊判定部83は、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報と、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報とに基づいて、その未付与単一細胞の移動距離を計算する。
【0106】
具体的には、浮遊判定部83は、対象細胞画像の形状位置情報から、識別テーブルに登録されていない形状位置情報を、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報として選択する。また、浮遊判定部83は、前細胞画像の形状位置情報から、識別テーブルに登録されていない形状位置情報を、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報として選択する。さらに、浮遊判定部83は、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報が表す位置と、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報が表す位置との距離を計算する。そして、浮遊判定部83は、その距離の最小値を、未付与単一細胞の移動距離とする。
【0107】
ステップS35において、浮遊判定部83はカウント値Lを1にする。ステップS36において、浮遊判定部83は、移動距離に基づいて、先頭からL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着しているかを判定する。例えば、浮遊判定部83は、移動距離が、予め設定された閾値未満であるかを判定する。なお、この閾値としては、任意の値(例えば、単一細胞の半径や直径など)を設定することができる。
【0108】
ステップS36でL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着している、例えば移動距離が閾値未満であると判定された場合、浮遊判定部83は、L番目の未付与単一細胞の形状位置情報を付与部84に供給する。そして、ステップS37において、付与部84は、L番目の未付与単一細胞に細胞IDを付与する。
【0109】
以上のように、画像処理装置12では、生きている細胞の最も原始的な状態である、部分的に接着している状態bの未付与単一細胞に細胞IDが付与されるので、細胞IDが付与された各単一細胞の挙動を観察することにより、各単一細胞の挙動を最初から確実に観察することができる。従って、画像処理装置12では、各単一細胞の挙動を観察する場合において最適な時期に、各単一細胞に対して細胞IDを付与することができるといえる。
【0110】
ステップS38において、付与部84は、L番目の未付与単一細胞の細胞IDおよび形状位置情報、並びに対象細胞画像の撮像時刻を記憶読出制御部86に供給して、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。そして処理はステップS39に進む。
【0111】
一方、ステップS36でL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着していないと判定された場合、即ち、L番目の未付与単一細胞は浮遊していると判定された場合、処理はステップS37とS38をスキップして、ステップS39に進む。
【0112】
ステップS39において、浮遊判定部83は、全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われたかを判定する。ステップS39でまだ全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われていないと判定された場合、ステップS40において、浮遊判定部83はカウント値Lを1だけインクリメントする。そして処理はステップS36に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0113】
一方、ステップS39で全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われたと判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0114】
次に、図8のフローチャートを参照して、図6のステップS17の移動判定処理の詳細について説明する。
【0115】
ステップS61において、挙動判定部87は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の全ての形状位置情報に基づいて、状態cの単一細胞があるか、即ち移動している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が円形と楕円形ではない形状を表しているかを判定する。
【0116】
ステップS61で対象細胞画像内に状態cの単一細胞がない、即ち対象細胞画像の全ての形状位置情報が円形または楕円形を表していると判定された場合、処理は図6のステップS17に戻り、以降の処理が行われる。
【0117】
一方、ステップS61で対象細胞画像内に状態cの単一細胞がある、即ち対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が円形と楕円形ではない形状を表していると判定された場合、処理はステップS62に進む。
【0118】
ステップS62において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている形状位置情報と、対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報とに基づいて、状態cの各単一細胞の細胞IDを認識する。
【0119】
具体的には、挙動判定部87は、記憶部58から読みされた識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報が表す位置と、対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報が表す位置との距離を、移動距離の候補としてそれぞれ求める。そして、挙動判定部87は、状態cの各単一細胞において、その移動距離の候補が最小となる場合の細胞IDを、その状態cの単一細胞の細胞IDとする。
【0120】
ステップS63において、挙動判定部87は、ステップS62で認識した状態cの各単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻、その状態cの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「移動」を識別テーブルに登録する。
【0121】
具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の撮像時刻、判定対象である状態cの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「移動」を対応付けた挙動情報を、判定対象である状態cの単一細胞の細胞IDとともに、記憶読出制御部86に供給する。記憶読出制御部86は、挙動判定部87からの挙動情報を、記憶部58に記憶されている識別テーブルの、その挙動情報とともに挙動判定部87から供給される細胞IDに対応付けて登録する。そして、ステップS63の処理後、処理は図6のステップS17に戻り、以降の処理が行われる。
【0122】
なお、ステップS63において、挙動判定部87は、細胞IDに対応付けて、ステップS62の処理で求められた、その細胞IDが付与された状態cの単一細胞の移動距離の候補のうちの最小値を、移動距離としてさらに登録するようにしてもよい。
【0123】
また、図8の移動判定処理では、ステップS62において、挙動判定部87は、移動距離の候補が最小となる場合の細胞IDを、状態cの単一細胞の細胞IDとしたが、状態cの単一細胞の細胞IDの決定方法はこれに限定されない。
【0124】
例えば、撮像間隔が比較的長い場合、挙動判定部87は、単一細胞の形状位置情報などに基づいて単一細胞の移動ベクトルを予測し、予測した移動ベクトルと、識別テーブルに登録されている各細胞IDの最近の形状位置情報が表す位置から対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報が表す位置までのベクトルが、最も近似している場合の細胞IDを、状態cの単一細胞の細胞IDとして決定するようにしてもよい。この場合、単一細胞が近接した位置に多くある場合であっても、状態cの単一細胞の細胞IDを比較的正確に決定することができる。
【0125】
次に、図9のフローチャートを参照して、図6のステップS18の分裂判定処理の詳細について説明する。
【0126】
ステップS81において、挙動判定部87は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の全ての形状位置情報に基づいて、状態eの単一細胞があるか、即ち分裂している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が表す形状にくびれがあるかを判定する。
【0127】
ステップS81で対象細胞画像内に状態eの単一細胞がない、即ち対象細胞画像の全ての形状位置情報が表す形状にくびれがないと判定された場合、処理は図6のステップS18に戻り、以降の処理が行われる。
【0128】
一方、ステップS81で対象細胞画像内に状態eの単一細胞がある、即ち対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が表す形状にくびれがあると判定された場合、処理はステップS82に進む。
【0129】
ステップS82において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている形状位置情報と、対象細胞画像の状態eの各単一細胞の形状位置情報とに基づいて、図8のステップS62の処理と同様の方法で、状態eの各単一細胞の細胞IDを認識する。
【0130】
ステップS83において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した状態eの単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻、その状態eの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「分裂」を登録する。
【0131】
ステップS84において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した分裂前の細胞IDに基づいて、分裂後の2つの単一細胞に細胞IDを付与する。即ち、挙動判定部87は、分裂前の細胞IDに関連する細胞ID(図5の例では、分裂前の細胞IDにアルファベットを付加したもの)を、分裂後の2つの単一細胞に付与する。
【0132】
ステップS85において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した細胞IDに対応する対象細胞画像における形状位置情報を分裂前の形状位置情報として、その分裂前の形状位置情報に基づいて、分裂後の2つの単一細胞の形状位置情報を生成する。具体的には、挙動判定部87は、分裂前の形状位置情報が表す形状に存在するくびれで、その形状を2つに分割する。挙動判定部87は、分割後の2つの形状の輪郭中心の対象細胞画像上の位置を検出する。そして、挙動判定部87は、分割後の形状と、それに対応する輪郭中心の対象細胞画像上の位置を表す形状位置情報を、分裂後の2つの単一細胞の形状位置情報としてそれぞれ生成する。
【0133】
ステップS86において、挙動判定部87は、ステップS84で付与された分裂後の単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻とステップS85で生成された形状位置情報を識別テーブルに登録する。そして、ステップS86の処理後、処理は図6のステップS18に戻り、以降の処理が行われる。
【0134】
次に、図10のフローチャートを参照して、図6のステップS19の死滅判定処理の詳細について説明する。
【0135】
ステップS101において、挙動判定部87は、記憶部58から読みされた識別テーブルに登録されている形状位置情報と、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、対象細胞画像内に死滅している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が1つもないかを判定する。
【0136】
ステップS101で死滅している単一細胞がない、即ち識別テーブルに登録されている全ての細胞IDに対応する最近の形状位置情報において、各形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が少なくとも1つあると判定された場合、処理は図6のステップS19に戻り、以降の処理が行われる。
【0137】
一方、ステップS101で死滅している単一細胞がある、即ち識別テーブルに登録されている少なくとも1つの細胞IDに対応する最近の形状位置情報において、その形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が1つもないと判定された場合、処理はステップS102に進む。
【0138】
ステップS102において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報のうち、その形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像における形状位置情報が表す位置が1つもない形状位置情報に対応する細胞IDを、死滅している単一細胞の細胞IDとして認識する。
【0139】
ステップS103において、挙動判定部87は、ステップS102で認識した細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻および判定結果である「死滅」を識別テーブルに登録する。そして、ステップS103の処理後、処理は図6のステップS19に戻り、以降の処理が行われる。
【0140】
なお、図8の移動判定処理、図9の分裂判定処理、および図10の死滅判定処理において、直近の単一細胞の挙動を考慮してもよい。また、上述した説明では、単一細胞の挙動として、移動、分裂、および死滅を判定したが、単一細胞の挙動はこれに限定されない。例えば、単一細胞の老化を判定するようにしてもよい。
【0141】
また、上述した説明では、ステージ26を所定の方向に移動させることにより、培養容器31内に対流を発生させたが、ステージ26を傾けたり、ステージ26を円運動させることにより対流を発生させ、細胞に浮遊ずれ程度の振動を与えるようにしてもよい。
【0142】
さらに、上述した説明では、細胞に振動を与えることにより、単一細胞が浮遊しているか、または、培養容器31に部分的に接着しているかを判定したが、判定方法は、これに限定されない。例えば、位相差顕微鏡11の焦点を接着している細胞の位置に合わせておき、細胞画像内のボケが生じている領域に対応する単一細胞は浮遊していると判定し、ボケが生じていない領域に対応する単一細胞は培養用器31に部分的に接着していると判定することもできる。
【0143】
なお、本明細書において、プログラム記録媒体に格納されるプログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0144】
また、本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
【0145】
さらに、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明を適用した細胞観察システムの一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】培養環境にある単一細胞の状態の経時的変化ついて説明する図である。
【図3】図1の画像処理装置のハードウェアの構成例を示す図である。
【図4】図3のCPUの機能的構成例を示す図である。
【図5】系統樹の例を示す図である。
【図6】CPUによる解析処理について説明するフローチャートである。
【図7】図6のステップS16の識別処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図8】図6のステップS17の移動判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図9】図6のステップS18の分裂判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図10】図6のステップS19の死滅判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0147】
10 細胞観察システム, 11 位相差顕微鏡, 12 画像処理装置, 51 CPU, 58 記憶部, 81 取得部, 82 細胞判定部, 83 浮遊判定部, 84 付与部, 87 挙動判定部, 89 作成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞観察装置および観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロプレートのウェル内の複数の細胞の画像を顕微鏡で取り込み、その画像から複数の細胞の各々の初期状態を認定して、ウェルの中に薬物を導入し、その後に顕微鏡で取り込んだ画像に基づいて薬物を導入した後の複数の細胞の各々の反応を検出し、複数の細胞の各々の初期状態と反応との相関情報を生成する細胞観察装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、この細胞観察装置では、個々の細胞が静的なものとして扱われているが、実際には、細胞は接着状態であっても移動するものである。即ち、細胞は移動して分裂していくものである。また、細胞は死滅することもある。そして、このような細胞の挙動は個々の細胞で異なるものであり、個々の細胞の挙動を把握することは、例えば癌化のメカニズムや、再生医療実現のツールとして重要視されている幹細胞の性質などを解明するために、必要不可欠であると考えられている。従って、個々の細胞を特定し、その挙動を経時的に観察したいという要望があった。
【特許文献1】特開2005−102538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ユーザに個々の細胞の挙動の経過を容易に把握させる細胞観察装置は考案されていなかった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ユーザが培養容器内の個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の細胞観察装置は、培養容器内の細胞の画像を取得する取得手段と、前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定する細胞判定手段と、前記画像に基づいて、前記細胞判定手段により前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定する浮遊判定手段と、前記浮遊判定手段により前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与する付与手段と、前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する挙動判定手段と、前記挙動判定手段による判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する作成手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の観察方法は、培養容器内の細胞を観察する細胞観察装置の観察方法において、前記培養容器内の細胞の画像を取得し、前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、前記画像に基づいて、前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定し、前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、その判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、培養容器内の細胞の画像を取得し、画像に基づいて、細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、画像に基づいて、単一細胞であると判定された細胞が、培養容器内に浮遊しているか、または、培養容器に部分的に接着しているかを判定し、培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、画像に基づいて、固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、その判定の結果に基づいて、固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成するようにしたので、ユーザは培養容器内の個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明を適用した細胞観察システムの一実施の形態の構成例を示している。
【0010】
図1の細胞観察システム10は、位相差顕微鏡11と画像処理装置12により構成される。
【0011】
位相差顕微鏡11は、図1に示すように、光源側から順に、光源21、コレクタレンズ22、拡散板23、開口絞り24、コンデンサレンズ25、ステージ26、対物レンズ27、結像レンズ28、およびCCD(Charge Coupled Device)カメラ29により構成される。位相差顕微鏡11は、ステージ26に載置されるウェルプレートなどの培養容器31内の培養環境にある試料oとしての細胞に光を照射し、その細胞の画像である細胞画像を撮像する。このとき、観察対象となる細胞は接着細胞であるため、培養容器31の底面に接着する細胞を観察するように、位相差顕微鏡11の焦点は培養容器31の底面に合わせられる。
【0012】
詳細には、位相差顕微鏡11の光源21は所定の光を出射する。光源21から出射された光はコレクタレンズ22により略平行光束になる。この略平行光束は、拡散板23を介して、輪帯形状(リング形状)の開口絞り24によって制限される。そして、開口絞り24を通過した光は、コンデンサレンズ25によって集光され、ステージ26に載置される培養容器31内の試料oとしての細胞に照射される。
【0013】
細胞を透過した直接光(0次の回折光)は、対物レンズ27に入射し、対物レンズ27内のリング状の位相膜(図示せず)を透過することによって位相が変換される。なお、この位相膜は、対物レンズ27内であって開口絞り24と共役な位置に設けられている。また、位相膜は、対物レンズ27の開口数の違いによってその径が異なるため、開口絞り24は位相膜の径に応じて開口が異なるものに適宜変更される。
【0014】
また、細胞によって回折されることで直接光に対して位相がずれた0次以外の回折光は、対物レンズ27に入射し、対物レンズ27内の位相膜以外の部分を透過する。そして、対物レンズ27を透過した直接光と回折光は、結像レンズ28によって結像されてCCDカメラ29の撮像面上で干渉する。これにより、CCDカメラ29の撮像面上には、細胞の拡大像Iが形成される。CCDカメラ29は、制御部30からの指令に応じて、撮像面上に形成された拡大像Iを細胞画像として撮像する。
【0015】
以上のように、位相差顕微鏡11では、試料oとしての細胞の屈折力の差や厚みなどによって生じる位相差を光の強弱であるコントラストに変換して像の明暗として可視化することで、細胞画像を観察することができる。
【0016】
なお、制御部30は、位相差顕微鏡11の各部を制御する。例えば、制御部30は、画像処理装置12からのステージ26の移動の指令に応じてステージ26を所定の方向に移動させ、培養容器31内に対流を発生させる。これにより、培養容器31内の細胞に、培養容器31内に浮遊している細胞の位置がずれ、かつ、培養容器31に部分的に接着している細胞の位置がずれない程度(以下、浮遊ずれ程度という)の物理的振動が与えられる。
【0017】
さらに、制御部30は、画像処理装置12からの撮像の開始の指令に応じて、比較的短い間隔でCCDカメラ29に撮像の指令を行う。なお、この間隔は、例えば細胞の移動速度に応じて決定される。具体的には、撮像間隔は、連続画像の中で細胞の同一性が認識できる程度の間隔であり、動きの早い細胞の場合は比較的短い時間間隔で、動きの遅い細胞の場合は比較的長い時間間隔で撮像が行われる。
【0018】
画像処理装置12には、CCDカメラ29により撮像された細胞画像が入力される。画像処理装置12は、入力された細胞画像を解析する。そして、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞に、その単一細胞に固有の情報としての細胞IDを付与する。
【0019】
このとき、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞を検出するために、所定のタイミングで制御部30にステージ26の移動を指令して細胞に振動を与える。
【0020】
また、画像処理装置12は、細胞画像に基づいて、細胞IDが付与された細胞の挙動を追跡する。そして、画像処理装置12は、追跡した細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成して表示させる。さらに、画像処理装置12は、ユーザからの解析の開始の指示に応じて、制御部30に撮像の開始を指令する。
【0021】
以上のように、画像処理装置12は、培養容器31に部分的に接着している単一細胞に細胞IDを付与し、細胞IDが付与された細胞の挙動を追跡するので、培養容器31内の個々の細胞の挙動を独立して観察することができる。また、画像処理装置12は、系統樹を作成して表示させるので、ユーザは個々の細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。
【0022】
次に、図2Aと図2Bを参照して、培養環境にある単一細胞の状態の経時的変化ついて説明する。
【0023】
なお、図2Aと図2Bでは、左から右に向かって時間が経過していくものとする。また、図2Aは、各状態の単一細胞の横方向(重力方向に垂直な方向)から見た形状を模式的に示しており、図2Bは、各状態の単一細胞の細胞画像を模式的に示している。
【0024】
図2Aに示すように、培養容器31内の単一細胞は、最初、培養容器31内を浮遊している状態aにある。この場合、図2Aに示すように、単一細胞の横方向から見た2次元形状は略円形であり、図2Bに示すように、細胞画像における単一細胞の2次元形状も略円形である。即ち、単一細胞の3次元形状は略球形である。また、図2Bに示すように、状態aの単一細胞の境界に見えるハローは強い。さらに、図2Bに示すように、状態aの単一細胞の細胞移動度は低く、培養容器31を動かさなければ状態aの単一細胞は2次元方向(観察光軸に略垂直な面内)には移動しない。
【0025】
そして時間が経過すると、図2Aに示すように、単一細胞は分裂を始めるため、状態aから培養容器31に部分的に接着する状態bになる。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状、ハローの強度、および細胞移動度は変化しない。
【0026】
さらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞は、状態bから足場を形成した状態cに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は球形からかけ離れた突起を有する形状になり、その形状は経時的に変化する。
【0027】
なお、状態cの単一細胞の細胞画像においては、細胞核を含む細胞オルガネラを認識することができる。また、単一細胞の状態が状態cになると、図2Bに示すように、ハローは弱くなり、細胞移動度は高くなる。従って、細胞移動度が高い単一細胞は、状態cになると移動を開始する。
【0028】
そしてさらに時間が経過し、分裂する直前になると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態cから分裂前の丸まっている状態dに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は再び球形になり、ハローは強くなる。また、図2Bに示すように、細胞移動度は低くなり、単一細胞はあまり移動しなくなる。
【0029】
さらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態dから分裂した状態eに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状にはくびれが発生するが、ハローの強度と細胞移動度は変化しない。
【0030】
そしてさらに時間が経過すると、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の状態は、状態eから分裂した細胞が足場を形成した状態fに変化する。この場合、図2Aと図2Bに示すように、単一細胞の3次元形状は突起を有する形状になる。また、図2Bに示すように、ハローは弱くなり、細胞移動度は高くなる。従って、単一細胞は状態fになると再び移動を開始する。
【0031】
この後、分裂した2つの単一細胞はそれぞれ状態dになり、以降も同様に状態の変化を繰り返す。なお、培養環境にある単一細胞は、上述した状態a乃至fのいずれかになるだけでなく死滅する場合もある。
【0032】
図1の画像処理装置12は、生きている細胞の最も原始的な状態である状態bの単一細胞に細胞IDを付与する。従って、画像処理装置12は、細胞画像から単一細胞の状態が状態aであるか、状態bであるかを判定する必要がある。
【0033】
そこで、画像処理装置12は、図1の制御部30を制御して培養容器31内の細胞に浮遊ずれ程度の振動を与え、振動の前後の細胞画像における単一細胞の位置の変化によって状態bを判定する。
【0034】
即ち、単一細胞の状態が状態bである場合、浮遊ずれ程度の振動が与えられても単一細胞の位置は変化しないが、単一細胞の状態が状態aである場合、浮遊ずれ程度の振動が与えられると単一細胞の位置は変化する。従って、浮遊判定部83は、浮遊ずれ程度の振動が与えられても単一細胞の位置が変化しない場合、その単一細胞の状態が状態bであると判定し、単一細胞の位置が変化する場合、その単一細胞の状態が状態aであると判定する。
【0035】
なお、単一細胞の状態が状態aまたはbである場合、培養容器31を動かさなければ細胞は2次元方向には移動しないので、CCDカメラ29が細胞画像を比較的短い間隔で撮像することにより、振動の前後の細胞画像から、振動以外の要因による単一細胞の位置の変化がほとんど検出されないようにすることができる。
【0036】
実際には、培養容器31に振動を与えた前後における単一細胞の輪郭中心位置の変化量が所定値以内であるものを接着細胞、所定値より大きいものを浮遊細胞と判定することができる。この所定値と撮像間隔とは、細胞の種類に応じて実験により定めることができる。
【0037】
また、画像処理装置12は、単一細胞の挙動として、状態cのときの移動、状態eのときの分裂、および死滅を観察する。
【0038】
図3は、図1の画像処理装置12のハードウェアの構成例を示している。
【0039】
図3の画像処理装置12のCPU(Central Processing Unit)51は、ROM(Read Only Memory)52、または記憶部58に記憶されているプログラムにしたがって各種の処理を実行する。RAM(Random Access Memory)53には、CPU51が実行するプログラムやデータなどが適宜記憶される。これらのCPU51、ROM52、およびRAM53は、バス54により相互に接続されている。
【0040】
CPU51にはまた、バス54を介して入出力インターフェース55が接続されている。入出力インターフェース55には、キーボード、マウス、操作ボタンなどよりなる入力部56、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部57が接続されている。CPU51は、入力部56から入力される指令に対応して各種の処理を実行する。なお、CPU51が実行する処理の詳細については、後述する図4を参照して説明する。
【0041】
入力部56は、ユーザからの操作を受け付け、その操作に対応する指令をCPU51に入力する。出力部57は、CPU51からの指令に応じて画像や音声を出力する。
【0042】
入出力インターフェース55にはまた、例えばハードディスクからなる記憶部58が接続されている。記憶部58は、CPU51が実行するプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部58は、図1のCCDカメラ29から後述する通信部59を介して送信されてくる細胞画像などを記憶する。
【0043】
入出力インターフェース55にはさらに、通信部59が接続されている。通信部59は、インターネットやローカルエリアネットワークなどのネットワークを介して、位相差顕微鏡11などの外部の装置と通信する。例えば、通信部59は、ネットワークを介して位相差顕微鏡11のCCDカメラ29と通信し、CCDカメラ29から細胞画像を取得する。
【0044】
入出力インターフェース55にはまた、ドライブ60が接続されている。ドライブ60は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブルメディア61が装着されたとき、それらを駆動し、そこに記録されているプログラムやデータなどを取得する。取得されたプログラムやデータは、必要に応じて記憶部58に転送され、記憶される。なお、プログラムは、通信部59を介して取得され、記憶部58に記憶されてもよい。
【0045】
図4は、図3のCPU51の機能的構成例を示している。
【0046】
図4のCPU51の取得部81は、図1のCCDカメラ29により撮像された細胞画像を、解析の対象とする対象細胞画像として、通信部59を介して取得する。取得部81は、その細胞画像を細胞判定部82に供給するとともに、表示制御部85に供給する。
【0047】
細胞判定部82は、取得部81から供給される対象細胞画像に基づいて、その対象細胞画像内の単一細胞の形状と輪郭中心の対象細胞画像上の位置とを検出し、その形状と位置を表す形状位置情報を浮遊判定部83と挙動判定部87に供給する。また、細胞判定部82は、対象細胞画像と形状位置情報を記憶読出制御部86に供給して、図3の記憶部58に記憶させる。
【0048】
浮遊判定部83は、指令部88から供給される培養容器31内の細胞が振動した旨の通知に応じて、対象細胞画像の1つ前に撮像された細胞画像(以下、前細胞画像という)の形状位置情報、および、単一細胞に付与された細胞IDと、その単一細胞の形状位置情報とを対応付けた識別テーブルの記憶部58からの読み出しを、記憶読出制御部86に要求する。
【0049】
また、浮遊判定部83は、その要求に応じて記憶読出制御部86から供給される前細胞画像の形状位置情報および識別テーブルと、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、対象細胞画像内のまだ細胞IDが付与されていない単一細胞(以下、未付与単一細胞という)のうちの状態bの単一細胞の形状位置情報を、付与部84に供給する。
【0050】
付与部84は、浮遊判定部83から供給される形状位置情報に対応する未付与単一細胞に細胞IDを付与する。また、付与部84は、その細胞ID、その細胞IDが付与された単一細胞の形状位置情報、および対象細胞画像の撮像時刻を記憶読出制御部86に供給し、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。なお、対象細胞画像の撮像時刻は、例えばCCDカメラ29により対象細胞画像に付加され、画像処理装置12に入力されたものである。
【0051】
表示制御部85は、取得部81から供給される細胞画像を出力部57に供給して表示させる。また、表示制御部85は、作成部89から供給される系統樹を出力部37に供給して表示させる。
【0052】
記憶読出制御部86は、記憶部58に対する記憶と読み出しの制御を行う。具体的には、記憶読出制御部86は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像と形状位置情報を対応付けて記憶部58に記憶させる。
【0053】
また、記憶読出制御部86は、浮遊判定部83からの要求に応じて、記憶部58から前細胞画像に対応付けられている形状位置情報と識別テーブルを読み出し、浮遊判定部83に供給する。記憶読出制御部86は、挙動判定部87または作成部89からの要求に応じて記憶部58から識別テーブルを読み出し、挙動判定部87または作成部89に供給する。
【0054】
さらに、記憶読出制御部86は、付与部84から供給される細胞IDに対応付けて、形状位置情報および対象細胞画像の撮像時刻を、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。また、記憶読出制御部86は、挙動判定部87から供給される、細胞IDが付与された単一細胞の挙動を表す挙動情報を、その細胞IDに対応付けて識別テーブルに登録する。また、記憶読出制御部86は、作成部89から供給される系統樹を記憶部58に記憶させる。
【0055】
挙動判定部87は、識別テーブルの読み出しを記憶読出制御部86に要求する。挙動判定部87は、要求に応じて記憶読出制御部86から供給される識別テーブルと、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、細胞IDが付与された単一細胞が移動しているか、分裂しているか、または、死滅しているかを判定する。
【0056】
挙動判定部87は、対象細胞画像の撮像時刻、判定対象である単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、判定結果である「移動」、「死滅」、または「分裂」などを対応付けた情報を、判定対象である単一細胞の挙動情報として、その単一細胞の細胞IDとともに記憶読出制御部86に供給する。
【0057】
指令部88は、図3の入力部56から入力される解析の開始の指令に応じて、図1の制御部30に撮像の開始を指令する。また、指令部88は、所定のタイミングでステージ26の移動を制御部30に指令して、培養容器31内の細胞に浮遊ずれ程度の振動を与えるとともに、培養容器31内の細胞が振動した旨を浮遊判定部83に通知する。さらに、指令部88は、入力部56から入力される解析の終了の指令に応じて、系統樹の作成を作成部89に指令する。
【0058】
作成部89は、指令部88から供給される系統樹の作成の指令に応じて記憶読出制御部86に識別テーブルの読み出しを要求する。作成部89は、この要求に応じて読み出された識別テーブルに基づいて系統樹を作成し、その系統樹を表示制御部85に供給して出力部37に表示させる。また、作成部89は、作成した系統樹を記憶読出制御部86に供給し、記憶部58に記憶させる。
【0059】
次に、図5は系統樹の例を示している。
【0060】
図5の系統樹では、横軸が解析を開始してからの時刻を表している。また、図5の系統樹において記述されるアルファベットと数字の組み合わせは細胞IDと世代を表している。具体的には、系統樹において記述されるアルファベットと数字の組み合わせのうち、「g」より前の3桁の数字は細胞IDを表す。
【0061】
なお、「g」と2桁の数字の後にアルファベットがある場合、細胞IDは「g」の前の3桁の数字だけでなく、それに「g」と2桁の数字の後のアルファベットを繋げたものである。このアルファベットは、同一の単一細胞から分裂された単一細胞を識別するものであり、aから順に付与される。「g」より後の2桁の数字は、状態bのときの世代を第0世代としたときの世代を表している。
【0062】
例えば、「001g00」は、細胞ID「001」が付与された第0世代の単一細胞を表す。また「001g01a」は、細胞ID「001a」が付与された第1世代の単一細胞を表す。
【0063】
また、図5の系統樹において横線は、それに対応する時刻の間、横線の左上に記述されるアルファベットと数字の組み合わせが表す細胞IDと世代の単一細胞が存在することを表す。横線の分岐は、それに対応する時刻に分裂したことを表し、バツ印は死滅したことを表す。さらに、図5の系統樹において横線に設けられた白丸印どうしを接続する縦線は、各横線が表す単一細胞どうしが接着(隣接)していることを表す。また、横線に設けられた黒丸印は接着状態の解消を表す。
【0064】
具体的には、図5の系統樹では、以下の3つの単一細胞の挙動の経過が表されている。1つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t2後に培養容器31に部分的に接着し、1つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、1つ目の単一細胞には細胞ID「001」が付与される。
【0065】
その後時刻t4において、細胞ID「001」が付与された単一細胞が分裂し、第1世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001a」が付与され、他方には細胞ID「001b」が付与される。
【0066】
そして時刻t5において、細胞ID「001a」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001aa」が付与され、他方には細胞ID「001ab」が付与される。
【0067】
時刻t12において、細胞ID「001aa」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001aaa」が付与され、他方には細胞ID「001aab」が付与される。一方、時刻t9において、細胞ID「001aab」が付与された単一細胞は死滅する。
【0068】
また、細胞ID「001b」が付与された第1世代の単一細胞は、時刻t6において、後述する細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞と接着する。そして、時刻t7において、細胞ID「001b」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の単一細胞のうちの一方には細胞ID「001ba」が付与され、他方には細胞ID「001bb」が付与される。
【0069】
その後時刻t8において、細胞ID「001ba」が付与された第2世代の単一細胞は、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞との接着状態を解消する。従って、時刻t8以降は細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞だけが、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞と接着している。
【0070】
時刻t13において、細胞ID「001ba」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「001bba」が付与され、他方には細胞ID「001bbb」が付与される。
【0071】
2つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t3後に培養容器31に部分的に接着し、2つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、2つ目の単一細胞には細胞ID「002」が付与される。そして時刻t9において、細胞ID「002」が付与された単一細胞は死滅する。
【0072】
また、3つ目の単一細胞は、解析が開始されてから時刻t1後に培養容器31に部分的に接着し、3つ目の単一細胞の第0世代が開始する。このとき、3つ目の単一細胞には細胞ID「003」が付与される。そして時刻t6において、細胞ID「003」が付与された第0世代の単一細胞は、上述したように、細胞ID「001b」が付与された第1世代の単一細胞と接着する。
【0073】
その後時刻t9において、細胞ID「003」が付与された単一細胞が分裂し、第1世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003a」が付与され、他方には細胞ID「003b」が付与される。
【0074】
時刻t10において、細胞ID「003b」が付与された第1世代の単一細胞は、細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞との接着状態を解消する。従って、時刻t10以降は細胞ID「001a」が付与された第1世代の単一細胞だけが、細胞ID「001bb」が付与された第2世代の単一細胞と接着している。
【0075】
そして時刻t11において、細胞ID「003a」が付与された単一細胞が分裂し、第2世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aa」が付与され、他方には細胞ID「003ab」が付与される。
【0076】
時刻t15において、細胞ID「003aa」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aaa」が付与され、他方には細胞ID「003aab」が付与される。
【0077】
また、時刻t14において、細胞ID「003ab」が付与された単一細胞が分裂し、第3世代の2つの単一細胞が発生する。このとき、分裂後の2つの単一細胞のうちの一方には細胞ID「003aba」が付与され、他方には細胞ID「003abb」が付与される。
【0078】
以上のように、図5の系統樹は個々の単一細胞の挙動の経過を表すので、例えばユーザは、画像処理装置12の出力部57(図3)に表示される系統樹を見ることにより、個々の単一細胞の挙動の経過を容易に把握することができる。例えば、図5の系統樹により、ユーザは、細胞ID「001」が付与された単一細胞の第1世代の分裂時期にズレが生じていることを容易に把握することができる。
【0079】
また、図5の系統樹により、細胞ID「003」が付与された単一細胞は、培養容器31に部分的に接着した後比較的長時間にわたって分裂せずにいるが、細胞ID「001b」が付与された単一細胞と接着する(出会う)と、突如思い出したように分裂することを容易に把握することができる。
【0080】
さらに、図5の系統樹により、接着状態を解消した細胞ID「001ba」が付与された単一細胞と細胞ID「003b」が付与された単一細胞は、接着したままの細胞ID「001bb」が付与された単一細胞と細胞ID「003a」が付与された単一細胞に比べて、分裂の機会を失う傾向にあることを容易に把握することができる。
【0081】
次に、図6のフローチャートを参照して、図4のCPU51による細胞画像の解析処理について説明する。この解析処理は、例えば、ユーザが入力部56を操作して、細胞画像の解析の開始を指示したときに開始される。
【0082】
ステップS11において、取得部81は、通信部59を介してCCDカメラ29から細胞画像を取得したかを判定し、細胞画像を取得したと判定するまで待機する。
【0083】
具体的には、ユーザが入力部56を操作して細胞画像の解析の開始を指示すると、入力部56は、細胞画像の解析の開始を指令部88に指令する。指令部88は、その指令に応じて位相差顕微鏡11の制御部30に撮像の開始を指令する。制御部30は、その指令に応じて比較的短い間隔でCCDカメラ29に撮像の指令を行い、その結果CCDカメラ29により得られる細胞画像が通信部59を介して取得部81に供給される。取得部81は、その細胞画像を取得するまで待機する。
【0084】
ステップS11で細胞画像を取得したと判定された場合、取得部81は、取得した細胞画像を対象細胞画像として細胞判定部82と表示制御部85に供給する。そして、ステップS12において、細胞判定部82は、対象細胞画像に基づいて、その対象細胞画像に単一細胞があるかを判定する。
【0085】
具体的には、細胞判定部82は、円環形状検出手法などの手法を用いて対象細胞画像内から円環形状のハローを抽出する。そして、細胞判定部82は、抽出した円環形状のハローの大きさに基づいて、そのハローに対応する細胞が単一細胞であるかを判定する。
【0086】
なお、円環形状検出手法としては、例えば細胞画像内の所定の測定点としての画素から延びる所定の形状を有した輝度測定領域内の輝度分布を、その測定点を中心に輝度測定領域を所定角度ずつ回転させてそれぞれ測定し、この輝度分布を積算して輝度測定領域に対応する第1の積算輝度分布を算出し、輝度測定領域における所定部分領域内の測定輝度値を輝度測定領域の所定角度の回転それぞれについて積算して、所定角度の回転に応じて部分領域を円環状に繋げた円環状測定領域における第2の積算輝度分布を算出し、第1の積算輝度分布と第2の積算輝度分布に基づいて細胞画像内の円環形状を検出する方法を用いることができる。また、輪郭(外径形状)を検出する周知の各種画像処理手法を用いることもできる。
【0087】
ステップS12で単一細胞があると判定された場合、ステップS13において、細胞判定部82は、その単一細胞のハローを含む領域を、単一細胞の存在する領域である細胞存在領域として対象細胞画像から抽出する。
【0088】
ステップS14において、細胞判定部82は、各単一細胞の内側のエッジを抽出する。具体的には、細胞判定部82は、対象細胞画像から抽出した各単一細胞の細胞存在領域内にあるエッジのうち輪郭が最長のものを、各単一細胞の内側のエッジとして抽出する。
【0089】
ステップS15において、細胞判定部82は、各単一細胞の内側のエッジの形状を各単一細胞の形状として、各単一細胞の形状の輪郭中心の対象細胞画像上の位置を検出する。そして、細胞判定部82は、その形状と位置を表す形状位置情報を浮遊判定部83と挙動判定部87に供給する。また、細胞判定部82は、対象細胞画像と形状位置情報を記憶読出制御部86に供給して記憶部58に記憶させる。
【0090】
ステップS16において、CPU51は、状態bの単一細胞に細胞IDを付与する識別処理を行う。この識別処理の詳細は、後述する図7を参照して説明する。
【0091】
ステップS17において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が移動しているかを判定する移動判定処理を行う。この移動判定処理の詳細は、後述する図8を参照して説明する。
【0092】
ステップS18において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が分裂しているかを判定する分裂判定処理を行う。この分裂判定処理の詳細は、後述する図9を参照して説明する。
【0093】
ステップS19において、CPU51は、細胞IDが付与された単一細胞が死滅しているかを判定する死滅判定処理を行う。この死滅判定処理の詳細は、後述する図10を参照して説明する。ステップS19の処理後、処理はステップS20に進む。
【0094】
一方、ステップS12で単一細胞がないと判定された場合、即ち対象細胞画像内の細胞が全て多細胞の細胞塊である場合、処理はステップS13乃至S19をスキップして、ステップS20に進む。
【0095】
ステップS20において、指令部88は、入力部56から解析の終了が指令されたか、即ちユーザが入力部56を操作して解析の終了を指示したかを判定する。ステップS20で解析の終了が指令されていないと判定された場合、処理はステップS11に戻り、以降の処理が繰り返される。また、ステップS20で解析の終了が指令されたと判定された場合、指令部88は系統樹の作成を作成部89に指令する。そしてステップS21において、作成部89は、指令部88からの系統樹の作成の指令に応じて、系統樹(図5)を作成する。
【0096】
具体的には、作成部89は、記憶部58から読み出された識別テーブルに登録されている、各細胞IDの単一細胞の判定結果である「分裂」または「死滅」、および、それに対応する撮像時刻に基づいて、図5の系統樹における各単一細胞の横線(分岐を含む)の位置と長さを決定する。そして、作成部89は、位置と長さが決定された各横線に、対応する細胞IDを付加する。また、作成部89は、識別テーブルに登録されている、各細胞IDの単一細胞の判定結果である「死滅」、および、それに対応する撮像時刻に基づいて、各細胞IDに対応する横線の、その撮像時刻に対応する位置にバツ印を付加する。
【0097】
さらに、作成部89は、識別テーブルに登録されている各単一細胞の形状位置情報が表す位置に基づいて、接着した単一細胞を検出する。そして、作成部89は、接着した時刻に対応する、接着した各単一細胞を表す横線の位置に白丸印を付加し、その白丸印どうしを結ぶ縦線を付加する。また、作成部89は、識別テーブルに登録されている各単一細胞の形状位置情報が表す位置に基づいて、接着状態を解消した単一細胞を検出する。そして、作成部89は、接着状態を解消した時刻に対応する、接着状態を解消した単一細胞を表す横線の位置に黒丸印を付加する。
【0098】
以上のようにして、作成部89は、バツ印、白丸印、黒丸印、縦線、細胞IDなどが付加された横線(分岐を含む)からなる系統樹を作成する。そして、作成部89は、作成した系統樹を表示制御部85に供給して出力部37に表示させる。また、作成部89は、作成した系統樹を記憶読出制御部86に供給して記憶部58に記憶させる。そして処理は終了する。
【0099】
なお、図6の解析処理では、ハローの大きさによって細胞が単一細胞であるかが判定されたが、ハローの大きさだけでなく、ハローの形状や核の数などによって判定されるようにしてもよい。
【0100】
次に、図7のフローチャートを参照して、図6のステップS16の識別処理の詳細について説明する。
【0101】
ステップS31において、浮遊判定部83は、対象細胞画像の撮像直前に培養容器31内の細胞が振動したか、即ち、指令部88から培養容器31内の細胞が振動した旨の通知が供給されたかを判定する。ステップS31で培養容器31内の細胞が振動していないと判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0102】
一方、ステップS31で培養容器31内の細胞が振動したと判定された場合、ステップS32において、浮遊判定部83は、未付与単一細胞があるかを判定する。具体的には、浮遊判定部83は、識別テーブルの読み出しを記憶読出制御部86に要求する。記憶読出制御部86は、その要求に応じて識別テーブルを記憶部58から読み出し、その識別テーブルを浮遊判定部83に供給する。浮遊判定部83は、細胞判定部82からの対象細胞画像の形状位置情報のうち、記憶読出制御部86からの識別テーブルに登録されていない形状位置情報があるかを判定する。
【0103】
ステップS32で未付与単一細胞がないと判定された場合、即ち対象細胞画像の形状位置情報の全てが識別テーブルに既に登録されていると判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0104】
一方、ステップS32で未付与単一細胞があると判定された場合、即ち対象細胞画像の形状位置情報のうち識別テーブルに登録されていない形状位置情報があると判定された場合、浮遊判定部83は、記憶読出制御部86に前細胞画像の形状位置情報の読み出しを要求する。そして、ステップS33において、記憶読出制御部86は、浮遊判定部83からの要求に応じて、記憶部58から前細胞画像の形状位置情報を読み出す。
【0105】
ステップS34において、浮遊判定部83は、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報と、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報とに基づいて、その未付与単一細胞の移動距離を計算する。
【0106】
具体的には、浮遊判定部83は、対象細胞画像の形状位置情報から、識別テーブルに登録されていない形状位置情報を、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報として選択する。また、浮遊判定部83は、前細胞画像の形状位置情報から、識別テーブルに登録されていない形状位置情報を、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報として選択する。さらに、浮遊判定部83は、対象細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報が表す位置と、前細胞画像の未付与単一細胞の形状位置情報が表す位置との距離を計算する。そして、浮遊判定部83は、その距離の最小値を、未付与単一細胞の移動距離とする。
【0107】
ステップS35において、浮遊判定部83はカウント値Lを1にする。ステップS36において、浮遊判定部83は、移動距離に基づいて、先頭からL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着しているかを判定する。例えば、浮遊判定部83は、移動距離が、予め設定された閾値未満であるかを判定する。なお、この閾値としては、任意の値(例えば、単一細胞の半径や直径など)を設定することができる。
【0108】
ステップS36でL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着している、例えば移動距離が閾値未満であると判定された場合、浮遊判定部83は、L番目の未付与単一細胞の形状位置情報を付与部84に供給する。そして、ステップS37において、付与部84は、L番目の未付与単一細胞に細胞IDを付与する。
【0109】
以上のように、画像処理装置12では、生きている細胞の最も原始的な状態である、部分的に接着している状態bの未付与単一細胞に細胞IDが付与されるので、細胞IDが付与された各単一細胞の挙動を観察することにより、各単一細胞の挙動を最初から確実に観察することができる。従って、画像処理装置12では、各単一細胞の挙動を観察する場合において最適な時期に、各単一細胞に対して細胞IDを付与することができるといえる。
【0110】
ステップS38において、付与部84は、L番目の未付与単一細胞の細胞IDおよび形状位置情報、並びに対象細胞画像の撮像時刻を記憶読出制御部86に供給して、記憶部58に記憶されている識別テーブルに登録する。そして処理はステップS39に進む。
【0111】
一方、ステップS36でL番目の未付与単一細胞が培養容器31に部分的に接着していないと判定された場合、即ち、L番目の未付与単一細胞は浮遊していると判定された場合、処理はステップS37とS38をスキップして、ステップS39に進む。
【0112】
ステップS39において、浮遊判定部83は、全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われたかを判定する。ステップS39でまだ全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われていないと判定された場合、ステップS40において、浮遊判定部83はカウント値Lを1だけインクリメントする。そして処理はステップS36に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0113】
一方、ステップS39で全ての未付与単一細胞に対するステップS36の判定が行われたと判定された場合、処理は図6のステップS16に戻り、以降の処理が行われる。
【0114】
次に、図8のフローチャートを参照して、図6のステップS17の移動判定処理の詳細について説明する。
【0115】
ステップS61において、挙動判定部87は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の全ての形状位置情報に基づいて、状態cの単一細胞があるか、即ち移動している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が円形と楕円形ではない形状を表しているかを判定する。
【0116】
ステップS61で対象細胞画像内に状態cの単一細胞がない、即ち対象細胞画像の全ての形状位置情報が円形または楕円形を表していると判定された場合、処理は図6のステップS17に戻り、以降の処理が行われる。
【0117】
一方、ステップS61で対象細胞画像内に状態cの単一細胞がある、即ち対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が円形と楕円形ではない形状を表していると判定された場合、処理はステップS62に進む。
【0118】
ステップS62において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている形状位置情報と、対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報とに基づいて、状態cの各単一細胞の細胞IDを認識する。
【0119】
具体的には、挙動判定部87は、記憶部58から読みされた識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報が表す位置と、対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報が表す位置との距離を、移動距離の候補としてそれぞれ求める。そして、挙動判定部87は、状態cの各単一細胞において、その移動距離の候補が最小となる場合の細胞IDを、その状態cの単一細胞の細胞IDとする。
【0120】
ステップS63において、挙動判定部87は、ステップS62で認識した状態cの各単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻、その状態cの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「移動」を識別テーブルに登録する。
【0121】
具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の撮像時刻、判定対象である状態cの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「移動」を対応付けた挙動情報を、判定対象である状態cの単一細胞の細胞IDとともに、記憶読出制御部86に供給する。記憶読出制御部86は、挙動判定部87からの挙動情報を、記憶部58に記憶されている識別テーブルの、その挙動情報とともに挙動判定部87から供給される細胞IDに対応付けて登録する。そして、ステップS63の処理後、処理は図6のステップS17に戻り、以降の処理が行われる。
【0122】
なお、ステップS63において、挙動判定部87は、細胞IDに対応付けて、ステップS62の処理で求められた、その細胞IDが付与された状態cの単一細胞の移動距離の候補のうちの最小値を、移動距離としてさらに登録するようにしてもよい。
【0123】
また、図8の移動判定処理では、ステップS62において、挙動判定部87は、移動距離の候補が最小となる場合の細胞IDを、状態cの単一細胞の細胞IDとしたが、状態cの単一細胞の細胞IDの決定方法はこれに限定されない。
【0124】
例えば、撮像間隔が比較的長い場合、挙動判定部87は、単一細胞の形状位置情報などに基づいて単一細胞の移動ベクトルを予測し、予測した移動ベクトルと、識別テーブルに登録されている各細胞IDの最近の形状位置情報が表す位置から対象細胞画像における状態cの各単一細胞の形状位置情報が表す位置までのベクトルが、最も近似している場合の細胞IDを、状態cの単一細胞の細胞IDとして決定するようにしてもよい。この場合、単一細胞が近接した位置に多くある場合であっても、状態cの単一細胞の細胞IDを比較的正確に決定することができる。
【0125】
次に、図9のフローチャートを参照して、図6のステップS18の分裂判定処理の詳細について説明する。
【0126】
ステップS81において、挙動判定部87は、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の全ての形状位置情報に基づいて、状態eの単一細胞があるか、即ち分裂している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が表す形状にくびれがあるかを判定する。
【0127】
ステップS81で対象細胞画像内に状態eの単一細胞がない、即ち対象細胞画像の全ての形状位置情報が表す形状にくびれがないと判定された場合、処理は図6のステップS18に戻り、以降の処理が行われる。
【0128】
一方、ステップS81で対象細胞画像内に状態eの単一細胞がある、即ち対象細胞画像の少なくとも1つの形状位置情報が表す形状にくびれがあると判定された場合、処理はステップS82に進む。
【0129】
ステップS82において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている形状位置情報と、対象細胞画像の状態eの各単一細胞の形状位置情報とに基づいて、図8のステップS62の処理と同様の方法で、状態eの各単一細胞の細胞IDを認識する。
【0130】
ステップS83において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した状態eの単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻、その状態eの単一細胞の対象細胞画像における形状位置情報、および判定結果である「分裂」を登録する。
【0131】
ステップS84において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した分裂前の細胞IDに基づいて、分裂後の2つの単一細胞に細胞IDを付与する。即ち、挙動判定部87は、分裂前の細胞IDに関連する細胞ID(図5の例では、分裂前の細胞IDにアルファベットを付加したもの)を、分裂後の2つの単一細胞に付与する。
【0132】
ステップS85において、挙動判定部87は、ステップS82で認識した細胞IDに対応する対象細胞画像における形状位置情報を分裂前の形状位置情報として、その分裂前の形状位置情報に基づいて、分裂後の2つの単一細胞の形状位置情報を生成する。具体的には、挙動判定部87は、分裂前の形状位置情報が表す形状に存在するくびれで、その形状を2つに分割する。挙動判定部87は、分割後の2つの形状の輪郭中心の対象細胞画像上の位置を検出する。そして、挙動判定部87は、分割後の形状と、それに対応する輪郭中心の対象細胞画像上の位置を表す形状位置情報を、分裂後の2つの単一細胞の形状位置情報としてそれぞれ生成する。
【0133】
ステップS86において、挙動判定部87は、ステップS84で付与された分裂後の単一細胞の細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻とステップS85で生成された形状位置情報を識別テーブルに登録する。そして、ステップS86の処理後、処理は図6のステップS18に戻り、以降の処理が行われる。
【0134】
次に、図10のフローチャートを参照して、図6のステップS19の死滅判定処理の詳細について説明する。
【0135】
ステップS101において、挙動判定部87は、記憶部58から読みされた識別テーブルに登録されている形状位置情報と、細胞判定部82から供給される対象細胞画像の形状位置情報とに基づいて、対象細胞画像内に死滅している単一細胞があるかを判定する。具体的には、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が1つもないかを判定する。
【0136】
ステップS101で死滅している単一細胞がない、即ち識別テーブルに登録されている全ての細胞IDに対応する最近の形状位置情報において、各形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が少なくとも1つあると判定された場合、処理は図6のステップS19に戻り、以降の処理が行われる。
【0137】
一方、ステップS101で死滅している単一細胞がある、即ち識別テーブルに登録されている少なくとも1つの細胞IDに対応する最近の形状位置情報において、その形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像の形状位置情報が表す位置が1つもないと判定された場合、処理はステップS102に進む。
【0138】
ステップS102において、挙動判定部87は、識別テーブルに登録されている各細胞IDに対応する最近の形状位置情報のうち、その形状位置情報が表す位置から所定の範囲内に、対象細胞画像における形状位置情報が表す位置が1つもない形状位置情報に対応する細胞IDを、死滅している単一細胞の細胞IDとして認識する。
【0139】
ステップS103において、挙動判定部87は、ステップS102で認識した細胞IDに対応付けて、対象細胞画像の撮像時刻および判定結果である「死滅」を識別テーブルに登録する。そして、ステップS103の処理後、処理は図6のステップS19に戻り、以降の処理が行われる。
【0140】
なお、図8の移動判定処理、図9の分裂判定処理、および図10の死滅判定処理において、直近の単一細胞の挙動を考慮してもよい。また、上述した説明では、単一細胞の挙動として、移動、分裂、および死滅を判定したが、単一細胞の挙動はこれに限定されない。例えば、単一細胞の老化を判定するようにしてもよい。
【0141】
また、上述した説明では、ステージ26を所定の方向に移動させることにより、培養容器31内に対流を発生させたが、ステージ26を傾けたり、ステージ26を円運動させることにより対流を発生させ、細胞に浮遊ずれ程度の振動を与えるようにしてもよい。
【0142】
さらに、上述した説明では、細胞に振動を与えることにより、単一細胞が浮遊しているか、または、培養容器31に部分的に接着しているかを判定したが、判定方法は、これに限定されない。例えば、位相差顕微鏡11の焦点を接着している細胞の位置に合わせておき、細胞画像内のボケが生じている領域に対応する単一細胞は浮遊していると判定し、ボケが生じていない領域に対応する単一細胞は培養用器31に部分的に接着していると判定することもできる。
【0143】
なお、本明細書において、プログラム記録媒体に格納されるプログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0144】
また、本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
【0145】
さらに、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明を適用した細胞観察システムの一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】培養環境にある単一細胞の状態の経時的変化ついて説明する図である。
【図3】図1の画像処理装置のハードウェアの構成例を示す図である。
【図4】図3のCPUの機能的構成例を示す図である。
【図5】系統樹の例を示す図である。
【図6】CPUによる解析処理について説明するフローチャートである。
【図7】図6のステップS16の識別処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図8】図6のステップS17の移動判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図9】図6のステップS18の分裂判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【図10】図6のステップS19の死滅判定処理の詳細について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0147】
10 細胞観察システム, 11 位相差顕微鏡, 12 画像処理装置, 51 CPU, 58 記憶部, 81 取得部, 82 細胞判定部, 83 浮遊判定部, 84 付与部, 87 挙動判定部, 89 作成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器内の細胞の画像を取得する取得手段と、
前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定する細胞判定手段と、
前記画像に基づいて、前記細胞判定手段により前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定する浮遊判定手段と、
前記浮遊判定手段により前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与する付与手段と、
前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する挙動判定手段と、
前記挙動判定手段による判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する作成手段と
を備えることを特徴とする細胞観察装置。
【請求項2】
前記作成手段は、前記挙動判定手段による判定に用いられた画像の撮像時刻に対応する位置に、前記固有情報が付与された細胞に対する判定の結果としての分裂または死滅を表すことにより、前記系統樹を作成する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察装置。
【請求項3】
培養容器内の細胞を観察する細胞観察装置の観察方法において、
前記培養容器内の細胞の画像を取得し、
前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、
前記画像に基づいて、前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定し、
前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、
前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、
その判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する
ステップを含むことを特徴とする観察方法。
【請求項1】
培養容器内の細胞の画像を取得する取得手段と、
前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定する細胞判定手段と、
前記画像に基づいて、前記細胞判定手段により前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定する浮遊判定手段と、
前記浮遊判定手段により前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与する付与手段と、
前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定する挙動判定手段と、
前記挙動判定手段による判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する作成手段と
を備えることを特徴とする細胞観察装置。
【請求項2】
前記作成手段は、前記挙動判定手段による判定に用いられた画像の撮像時刻に対応する位置に、前記固有情報が付与された細胞に対する判定の結果としての分裂または死滅を表すことにより、前記系統樹を作成する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察装置。
【請求項3】
培養容器内の細胞を観察する細胞観察装置の観察方法において、
前記培養容器内の細胞の画像を取得し、
前記画像に基づいて、前記細胞が単一細胞であるか、または、多細胞の細胞塊であるかを判定し、
前記画像に基づいて、前記単一細胞であると判定された細胞が、前記培養容器内に浮遊しているか、または、前記培養容器に部分的に接着しているかを判定し、
前記培養容器に部分的に接着していると判定された細胞に、その細胞に固有の情報である固有情報を付与し、
前記画像に基づいて、前記固有情報が付与された細胞が分裂しているか、または死滅しているかを判定し、
その判定の結果に基づいて、前記固有情報が付与された細胞の挙動の経過を表す系統樹を作成する
ステップを含むことを特徴とする観察方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−89630(P2009−89630A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261676(P2007−261676)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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