説明

細胞集団を産生する方法

好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生する方法を提供し、その方法はエキソビボ工程:(a)好中球前駆細胞を含有する細胞の集団を供給すること;及び(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統に分化する1つ以上のサイトカインを含有する動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレスの条件下で、培養培地の表面を介する酸素移動が、静的条件下では前駆細胞またはその子孫の生育に不十分であるときには、培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂後細胞の集団を産生すること;を含有している。得られる細胞の集団は患者における好中球数を増加するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非活性化好中球を含有している医薬組成物及びそのような組成物を産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好中球減少症は、好中性顆粒球の異常な低下を特徴とする血液疾患である。好中球は活性食細胞(engulfers)である。高度な運動性をもつので、好中球は感染もしくは炎症巣へ集まる。好中球は通常循環白血球の50〜70%を占めていて、傷害性病原体による感染に対する初期防御として働く。従って、好中球減少症の患者は感染に対してより敏感であって、迅速な治療を行わないと、この疾患は命にかかわることになる。好中球減少症は病気の期間によって急性にも慢性にもなり得る。
【0003】
好中球減少症に関連する感染症の形態は過去20年で、真菌感染に移行して、特に、アスペルギルス(Aspegillus)、フサリウム(Fusarium)及びチゴミセス(Zygomyces)のような侵襲性のカビが死亡及び罹患率の主要原因として浮かび上がってきた。同種異系骨髄移植(BMT)を受けている患者における侵襲的なアスペルギルス感染の発病率は約15%で、死亡率は30〜80%である。これらの患者のフサリウム感染は症例の70%が致命的となっている。
【0004】
好中球減少症がもたらす問題をより良く理解するために、その起源及び発達を含む、血液細胞に関する基本的原則を理解することが役に立つ。
【0005】
血液細胞は多能性幹細胞から発達する。これらの幹細胞は増殖及び分化する能力を有している。増殖は幹細胞集団を維持するのに対して、分化は3つの主要血液細胞系統である、リンパ球、赤血球及び骨髄細胞の系列の1つに分類される成熟血液細胞の種々のタイプの形成をもたらす。単球(マクロファージ)、顆粒球(好中球を含む)、及び巨核球よりなり、抗原のために血流を監視し、抗原を血流から取り除き、感染物質を撃退し、そして血液凝固に関わる血小板を産生するのが、骨髄細胞系列である。
【0006】
好中球は造血幹細胞から一連の中間前駆細胞を介して分化する。前駆細胞は、それらの核の大きさ、細胞の大きさ、核/細胞質の比、顆粒の存在/不在、及び染色特性のような特徴を含む、顕微鏡的な形態学的外観によって区別できる(Atlas of Blood Cells: Function and Pathology, second edition, Zucker-Franklin et al. を参照されたい)。最初に、多能性幹細胞が、全ての骨髄性細胞株の前駆体を産生する骨髄性「前駆細胞」を生じる。最初の骨髄性前駆細胞は、「コロニー形成ユニット−顆粒球、赤血球、マクロファージ及び巨核球」としてCFU−CEMMと命名される。順次、CFU−CEMM前駆体はCFU−GM前駆細胞を生じ、これは「コロニー形成ユニット−顆粒球マクロファージ」としても知られている。これらの記述用語の全てにおいて、「コロニー」は一般に、クローン性生育についてのインビトロ試験で14日以内に測定して50個以上の細胞を生じることができる細胞を示している。これらの細胞は少なくとも6回分裂する。
【0007】
CFU−GMは用途が決まっている前駆細胞である。これは顆粒球及びマクロファージのみに分化することが確約されている。これは細胞の別の型への分化が可能ではなく、初期段階の前駆細胞への分化も可能ではない。CFU−GM前駆細胞は次いで骨髄芽球へ分化できる。CFU−GEMMから骨髄芽球へ分化するのに要する時間は約1〜4日であると考えられている。骨髄芽球は、完全に発達(分化)が可能になった時点で、それ自体が、6回未満の細胞分裂のみを経験でき、それ故に既述のようなインビトロ試験においてコロニーを形成しないと考えられている、好中球を形成することのみができる、好中球への「前駆体」と見なされる得る最初の一連の細胞である。
【0008】
骨髄芽球段階まで分化が進展すると、骨髄芽球は最終的に分化する。骨髄芽球は前骨髄球へ分化し、順次、4〜6日間で骨髄球へ分化する。さらに5日以内に、骨髄球は後骨髄球へ分化し、これは順次、桿状好中球へ分化する。これらの桿状好中球は最終的に、半減期が約0.3〜1日である、成熟した、分葉好中球に分化する。
【0009】
この発達段階で、形態学的分化、これらの細胞の表面抗原の変化を観察できる。更に、好中球前駆細胞が分化するときには、それらはその増殖能力を失う。一般に、成熟度がより少ない好中球前駆細胞、すなわち骨髄芽球、前骨髄球、及び骨髄球は増殖能力を保持している。しかしながら、より成熟した好中球、すなわち後骨髄球及び棹状好中球は、成熟した分葉好中球への分化は続けているが、増殖能力を失う。
【0010】
化学療法による好中球減少症の最近の治療は変化しているが、一般に、循環好中球の数を増加する、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)又は他の刺激因子の投与を併用することによる、細胞傷害性治療の投与量調節又は中断を含んでいる。末梢血は体内の好中球集団の約10%を含有している。G−CSFのような薬剤は、貯蔵されている成熟好中球の即時放出、及び貯蔵されている前駆好中球の再生及び分化を増大することによって作用する。骨髄の好中球の貯蔵量を補充して循環好中球レベルを元に戻すために10〜15日前後必要であるので、前駆体及び前駆細胞を破壊する傾向にある、骨髄破壊的な治療に対する試みはより困難であった。従って、G−CSFを投与しても、患者は追加の好中球輸血から利益をえるものと思われる。
【0011】
米国特許第6,146,623号には、好中球減少症の治療のための前駆幹細胞による治療を開発するために、様々の会社が試験したか又は試験している技術が記載されている。これは、造血幹細胞を単離すること、それらが決定された分化系統にあるが十分に分化していない時点までこれらの細胞をエキソビボで増殖すること、そして増殖した細胞を患者に輸血することを含んでいる。大部分が有糸好中球前駆細胞の後期前駆細胞であり、そしてCFU−GEMM、CFU−GM、骨髄芽球、前骨髄球及び骨髄球を含んでいる細胞を産生する増殖に重点が置かれていた。この理由の1つは、これらの細胞がその増殖能力を保持しているのに対して、より成熟した好中球、すなわち後骨髄球、棹状好中球及び分葉好中球が、有糸分裂終了細胞であってその増殖能力を失っていると理解されているからである。これらの前駆細胞が、循環している間、更に好中球区画への移植中においても分化して、好中球を産生し始めるので、好中球減少症の期間が減少するだろうということが指針であった。この戦略に対しては幾つかの不都合があり、その1つは有糸分裂前駆体及び前駆細胞の輸血には、移植片対宿主病(GVHD)の危険性を最小にするために、組織適合性が必要であると言うことである。別の不都合は、殆どの有効な幹細胞増殖技術が初期出発物質の150〜250倍増大したものしか産生しないと報告されており、これはこれらの工程を高価なものにして、最終的に前駆体は、成熟した分葉好中の必要となる迅速な保護をもたらさないということである。この不都合により、これらの治療は高価になりがちであり、そして患者をかなりの期間感染の危険に置いておくことになる。
【0012】
別の治療法、好中球の輸血は、重篤な疾患の最終的な選択としてのみ留保しておく最近の治療選択肢である。これは、投与回数、投与当たりに必要な好中球、適合したドナーの採用に関する困難さ、及びドナーに対するモビライゼーション及びアフェレーシス手法の必要性を包含する多くの因子に起因している。
【0013】
最近、好中球は、ドナーからモビライゼーションして又はしないで、アフェレーシス手法によって採取している。モビライゼーションは、少なくとも12時間前に、デキサメタゾンのようなステロイド、更に好中球に対して特異的な成長因子である顆粒球コロニー刺激因子(C−CSF)でドナーを前処置することを包含する。モビライゼーションなしでドナーにアフェレーシス手法を施すと、平均20×10個の好中球が得られる。モビライゼーションして同様のアフェレーシスを施すと、収量は一般に60〜80×10個の好中球に増加する。各採取は単回投与からなっている。
【0014】
採集された好中球のうちどれだけが生存していて活性化されていないかは、知られていないが、臨床報告によると、多分活性化により、70%以上が治療価値をもたらさないだろうと考えられる。また、アフェレーシス手法はその他の血液細胞及び免疫細胞を完全にろ去しないので、献血を移植者の血液型と適合させなければならず、そしてその結果として、同種免疫に増大した危険性が生じる。
【0015】
ドナーから好中球を採取する可能な代替え法は、好中球をエキソビボで産生できなければならない。しかしながら、上記のように、今までの関心はインビボで有糸分裂前駆体又は前駆細胞を産生することにあった。更に、PCT出願公開公報第WO03/080806号に記載のような、幹細胞の増殖によるエキソビボでの成熟好中球を産生する従来の技術は、汚染及び規制認可の問題をもたらす、間質細胞との接触を含んでいるだけでなく、臨床目的のために必要な活性化されていない細胞数を提供するには不適切である。T型フラスコのような試験管での培養では、好中球減少症を治療するために必要な臨床量の細胞の産生まで容易にスケールアップできず、一方バイオリアクターのようなより大規模な方法の使用は機能的細胞の増殖の適切なレベルをもたらさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、好中球減少症患者、又は好中球減少症へ進展の危険性がある患者へ、成熟した好中球を輸血することによる治療において、エキソビボで増殖した臨床スケールの成熟した好中球の使用を可能とするのに十分な量の成熟した好中球を産生する、改良されエキソビボでの方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
造血幹細胞及びその他の前駆細胞の細胞培養における増殖の初期段階は、酸化ストレスに対して非常に敏感であるということをここに見出した。この理由は、細胞の密度及び反応性酸素種に対する比率に関連している思われる。前駆細胞、例えばCD34+細胞は、通常低い初期密度、例えば、約1,000〜10,000細胞/mlで蒔種する。この密度で、細胞は、乏しい細胞増殖及び細胞死をもたらす、反応性酸素種に対して特に感受性であると思われる。しかしながら、しばらくして細胞がある密度に達した時点で、大規模培養で用いられるより激しい条件下で培養して成熟した好中球を高収率で得ることができることを我々は見出した。例えば、本明細書に記載の方法を用いて、前駆細胞の成熟した好中球への5,000〜10,000倍の増殖を得ることが可能であった。
【0018】
従って、本発明の第1の態様は、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度である時には培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0019】
関連する態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞が培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度になる時点まで静的条件下で、次いでその後培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0020】
第2の態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞の集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、低い酸化ストレスの条件下で細胞を培養する);及び
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0021】
関連する態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、細胞を静的条件下で培養し、総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌する);そして
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること;
を含有してなる。
【0022】
第3の態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法も提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞の集団を供給すること;
(b)約20,000好中球前駆細胞/ml未満の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で子孫細胞の集団を産生すること;及び
(c)工程(b)で得られた子孫細胞の集団を(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0023】
一態様では、初期培養培地は、総初期細胞密度が培地1ml当たり少なくとも100,000細胞になるように、好中球前記細胞以外の細胞を更に含んでいる。
【0024】
関連する態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法も提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞の集団を供給すること;
(b)約20,000好中球前駆細胞/ml未満の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、静的条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で、子孫細胞の集団を産生すること;及び
(c)工程(b)で得られた子孫細胞の集団を(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0025】
第4の態様では、本発明は好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を更に提供する。この方法は、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)少なくとも約100,000細胞/mlの総初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる。
【0026】
一態様では、好中球前駆細胞の初期細胞密度は約20,000細胞/ml未満である。 これに代わる態様では、好中球前駆細胞の初期細胞密度は少なくとも約20,000細胞/mlである。
【0027】
本発明は本発明の方法によって得られた又は得られうる単離された好中球系統の分裂終了細胞の集団も提供する。
細胞集団中の少なくとも約70%の細胞が好中球系統の分裂終了細胞であることが好ましい。
細胞集団中の少なくとも約40%が成熟棹状及び分葉好中球からなっていることが好ましい。
約20%未満の細胞が活性化されていることが好ましい。
【0028】
関連する態様では、本発明は本発明の細胞の集団を、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に含有していて、その細胞の集団が少なくとも10億個の細胞を含有している、医薬組成物を提供する。
本発明は更に、少なくとも50億個のエキソビボで増殖した好中球系統の分裂終了細胞の集団を、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に含有している医薬組成物を提供する。細胞の約30又は20%未満が活性化されていることが好ましい。
【0029】
本発明は、患者における好中球の数を増大する方法も提供し、この方法は本発明の細胞の集団又は本発明の医薬組成物を患者に投与することを含んでいる。
【0030】
関連する態様では、本発明は、患者における好中球の数の増大に用いるための本発明の細胞集団を含有している組成物を提供する。患者における好中球の数の増大に用いるための医薬の製造における、本発明の細胞の集団を含有している組成物の使用も提供する。
【0031】
本発明の方法は、前駆細胞を増殖して、前駆体及び/又は前駆細胞の増殖した集団を提供するために用いることができる。この場合には、細胞が分化して好中球系統の分裂終了細胞になる前に、細胞を培地からより早く採取する。
【0032】
従って、本発明は更に、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度である時に培養培地を撹拌して、細胞集団を培養して好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0033】
関連した態様では、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度になる時点まで静的条件下で、次いでその後培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0034】
更なる態様では、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞の集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、低い酸化ストレスの条件下で細胞を培養する);及び
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0035】
関連する態様では、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は、
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞の集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、細胞を静的条件下で培養し、総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌する);そして
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生することを含有してなる。
【0036】
別の態様では、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法も提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞の集団を供給すること;
(b)約20,000好中球前駆細胞/ml未満の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)前駆細胞又はその子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中、低い酸化ストレス条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で前駆細胞の集団を産生すること;及び
(c)工程(b)で得られた子孫細胞の集団を(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:を含有してなる。
【0037】
関連する態様では、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法も提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞の集団を供給すること;
(b)約20,000好中球前駆細胞/ml未満の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、静的条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で、子孫細胞の集団を産生すること;及び
(c)工程(b)で得られた子孫細胞の集団を(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:を含有してなる。
【0038】
更なる態様では、本発明は更に、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロもしくはエキソビボの方法を提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)少なくとも約100,000細胞/mlの総初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞又はその子孫を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0039】
本発明は、本発明の方法で得られるか又は得られうる好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団も提供する。
【0040】
関連する態様では、本発明は本発明の方法で得られるか又は得られうる好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を含有している医薬組成物を提供し、この細胞の集団は少なくとも10億個の好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞を含有している。
【0041】
好中球系統の分裂終了細胞を産生する本発明の方法に関する本明細書に記載の多種の特徴を、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生する本発明の方法に準用する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(発明の詳細な説明)
別段定義がない限り、本明細書で用いられている技術及び科学用語は当業者(例えば、細胞培養、化学及び分子生物学)によって通常理解されているような意味と同じ意味を有している。
【0043】
本明細書を通して、用語「含有してなる」、又は「含有する」若しくは「含有している」のようなその変形は、規定された成分、整数若しくは工程、又は成分、整数若しくは工程の群を包含していることを示しているが、他の成分、整数若しくは工程、又は成分、整数若しくは工程の群の何れも除外していないことを理解されたい。
【0044】
本明細書を通して、数値への言及は、他に規定がない限り、「約」その数値を意味するように扱われるものである。用語「約」は、数値を決定するために用いられる装置及び方法に対する固有の誤差、又は検討対象に存在する変量を包含する値を示すために用いられている。
【0045】
用語「低い酸化ストレス」は、細胞当たりの酸化ストレスのレベルが、反応性酸素種に起因する細胞傷害の修復に対する前駆細胞の不能性による重大な前駆細胞死の誘発を避けるために十分に低いことを示している。細胞死は、トリパンブルー排除法のような、標準的な技術によって算定できる。
【0046】
好中球は造血幹細胞から一連の中間細胞型を介して分化する。中間細胞型は、それらの核の大きさ、細胞の大きさ、核/細胞質の比、顆粒の存在/不在、及び染色特性のような特徴を含む、顕微鏡的な形態学的外観によって区別できる(Atlas of Blood Cells: Function and Pathology, second edition, Zucker-Franklin et al. を参照のこと)。
【0047】
用語「好中球前駆細胞」は、好中球を生み出すことができる幹細胞、及び好中球を生み出し、そしてコロニーを形成することができるそのような幹細胞由来の他の細胞を示すように用いられる。最初に、多能性幹細胞が、全ての骨髄性細胞株の前駆体を産生する用途が決まっている骨髄性「前駆細胞」を生じる。最初の骨髄性前駆体は、「コロニー形成ユニット−顆粒球、赤血球、マクロファージ及び巨核球」としてCFU−CEMMと命名されている。順次、CFU−CEMM前駆体はCFU−GM前駆細胞を生じ、これは「コロニー形成ユニット−顆粒球マクロファージ」としても知られている。これらの記述用語の全てにおいて、「コロニー」は一般に、クローン性生育についてのインビトロ試験で14日以内に測定して50個以上の細胞を生じることができる細胞を示している。これらの細胞は少なくとも6回分裂する。
【0048】
CFU−GMは用途が決まっている前駆体である。これは顆粒球及びマクロファージのみに分化することが確約されている。これは細胞の別の型への分化も、初期段階の前駆細胞への脱分化もできない。CFU−GM前駆細胞は次いで骨髄芽球へ分化できる。CFU−GEMMから骨髄芽球への分化に要する時間は約1〜4日であると考えられている。骨髄芽球は、完全に発達(分化)が可能になって時点で、それ自体が、6回未満の細胞分裂のみを経験でき、それ故に既述のようなインビトロ試験においてコロニーを形成しないと考えられている細胞のような、好中球系統に特異的な細胞と見なされ得る最初の一連の細胞である。
【0049】
好中球に特異的な系統の細胞は、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、棹状好中球、及び分葉好中球である。これらは、本明細書で骨髄芽球、前骨髄球及び骨髄球として定義している「好中球前駆細胞」;及び本明細書で後骨髄球、棹状好中球、及び分葉好中球として定義している「好中球系統の分裂終了細胞」(「成熟好中球」とも呼ぶ)に細分類することができる。
【0050】
この進行の間に、幹細胞から成熟好中球への形態学的分化、これらの細胞の表面抗原の変化を観察することができる。例えば、造血幹細胞、CFU−GEMM及びCFU−GMは典型的にCD34+である。CFU−GM段階を越えて分化する造血細胞は最早CD34+ではない。細胞表面抗原CD33及びCD45RAについて、同様な発現の進行を観察することができる。機能的好中球細胞の全てを、CD34−、CD16+、及びCD49d−として特徴付けることができる。棹状及び分葉好中球は更にCD35+、CD87+、CD16+、及びCD64−として特徴付けることができる(Terstappen et al. Leukemia 4:657, 1990; Elghetany et al. J Clin Lab Analysis 18:36, 2004; Elghetany, Blood Cells Mol Dis 28(2):260, 2002)。しかしながら、細胞抗原発現のそのような移行は、急激というより、漸進的であって、特定の前駆細胞型の幾つかの細胞が特定の細胞表面抗原に対して陽性であって、同じ型の別の細胞が陰性であり得るというこを、理解されたい。更に、特定の細胞型が特定の細胞表面抗原に対して陽性であるか陰性であるかの判定は、ある程度、その判定を行う特定の方法によって決まるだろう。細胞表面抗原の発現による細胞分化の特徴は、細胞形態学のような、細胞分化を特徴付ける他の方法によって確認することができる。
【0051】
形態学的変化及び細胞表面抗原発現の変化に加え、好中球前駆細胞が分化すると、これらは増殖(分裂)する能力を失う。一般に、あまり成熟していない好中球前駆細胞、すなわち、骨髄芽球、前骨髄球、及び骨髄球はそれらの増殖能力を保持している。しかしながら、より成熟した好中球、すなわち後骨髄球及び棹状好中球は、成熟した分葉好中球への分化は続いているが、それらの増殖能力は失われる。
【0052】
骨髄芽球段階まで分化が進行すると、骨髄芽球は前骨髄球へ最終分化して、それは順次、約4〜6日の間に骨髄球へ分化する。更に5日位の間で、骨髄球は後骨髄球へ分化して、これは順次、棹状好中球へ分化する。これらの棹状好中球は最後に、約0.3〜2日の半減期を有する、成熟した、分葉好中球に分化する。
【0053】
「有効量」は、意図する目的を達成するのに十分な治療薬剤の量である。所定の治療薬剤の有効量は、薬剤の特性、投与の経路、治療薬を投与される動物の大きさ及び種、並びに投与の目的のような因子によって変化するだろう。個々の症状における有効量を、当該技術分野で確立されている方法に従って、当業者によって経験的に決定することができる。
【0054】
好中球前駆細胞の供給源
上記の好中球前駆細胞は、適切な生育因子、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の存在下で、生育して好中球系統の細胞、例えば後顆粒球、棹状及び成熟好中球へ分化する細胞である。好中球前駆細胞は幹細胞及び用途が決まっている前駆細胞の両方を包含している。特定の例は、CD34+幹細胞のような造血幹細胞、骨髄性前駆細胞(例えば、CFU−混合物、CFU−GEMM)及び顆粒球/マクロファージ前駆細胞(例えばCFU−GM)を包含する。好ましい前駆細胞はCD34+である。
【0055】
好中球前駆細胞の適切な供給源は、胚幹細胞由来の前駆細胞、臍帯血、骨髄及び末梢血、例えば、動員後末梢血を包含し、これらは1回以上の精製を行って他の細胞及び非細胞成分から前駆細胞を精製することができる。特に、臍帯血、末梢血、例えば動員後末梢血、又は他の同様な供給源を、他の成分から単核細胞(MNCs)を分離するために、例えばフィコールの密度勾配遠心法によって最初の精製工程に付すことができる。
【0056】
一態様では、精製した単核細胞の集団を含有している好中球前駆細胞の供給源は、細胞集団における好中球前駆細胞の相対数を増大させための、選択工程、例えば細胞表面マーカーによる選択工程、例えばCD34による選択、に付していない。このような供給源を本発明では「非富化」と称する。本発明の方法は、他の細胞からのCD34+細胞の精製を必要としておらず、この工程の省略は全工程において経費を削減することになる。
【0057】
これに代わる態様では、好中球前駆細胞の供給源は、細胞集団における好中球前駆細胞の相対数を増大させるための、選択工程、例えば細胞表面マーカーによる選択工程、例えばCD34による選択、に付す。このような供給源を本発明では「富化」と称する。例えば細胞表面マーカーによる、特定な細胞型を単離する方法は当該技術分野において公知である(Dynal CD34 Progenitor Cell Selection System (Dynal A.S., Oslo, Norway) 又は実施例に記載の Miltenyi system等)。一つの適切な方法を実施例に記述する。一態様では、富化は好中球前駆細胞を選択することによって実施される。これに代わる態様では、富化は非前駆細胞型の1つ以上を除去することによってもたらされる。
【0058】
細胞増殖の手順
好中球前駆細胞は一般に、動物細胞、特に造血細胞の生育に適している、Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma Aldrich) 又はウシ胎仔血清を補完したイスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)のような、培養培地中に再懸濁される。
好中球前駆細胞の集団を所望の出発密度で培養容器に蒔種する。一態様では、好中球前駆細胞の初期密度は、培養培地1ml当たり約20,000細胞未満、例えば培養培地1ml当たり約15,000又は12,500細胞未満である。
【0059】
ある特定の態様では、好中球前駆細胞の初期密度は、培養培地1ml当たり約1,000〜3,000細胞のように、培養培地1ml当たり約7,500又は約5,000細胞未満である。一般には、好中球前駆細胞の初期密度は培養培地1ml当たり少なくとも約1,000細胞である。または、好中球前駆細胞の初期密度は、培地1ml当たり約7,500〜15,000細胞のように、培養培地1ml当たり少なくとも約5,000細胞であってもよい。
【0060】
一態様では、好中球前駆細胞は、最初に培養培地に蒔種した細胞の、少なくとも約70、80、又は90%のように、少なくとも約50%を形成している。
【0061】
これに代わる態様では、初期の細胞集団は実質数の好中球前駆細胞以外の細胞を含んでいてもよい。これらの細胞は、好中球前駆細胞の生物学的供給源に既に存在していていてもよく、そして/又は好中球前駆細胞に関して上で示した値より大きい値まで総初期細胞密度を増大させるために添加されてもよい。総初期細胞密度は、1ml当たり少なくとも約50,000又は100,000細胞、例えば少なくとも1ml当たり少なくとも200,000又は500,000細胞のように、1ml当たり約20,000細胞より大きくてもよい。一態様では、総初期細胞密度は1ml当たり約200,000〜400,000細胞である。別の態様では、例えば非選別MNCsを供給源として用いる場合には、総初期細胞密度は1ml当たり500,000〜50億細胞の範囲であってよい。
【0062】
好中球前駆細胞以外の残りの細胞は好中球前駆細胞の最初の供給源、例えば臍帯血細胞、末梢血細胞から得てもよく、そして/又は別の供給源、例えば総細胞含量を大きくするために細胞培養液に加えた末梢血細胞、から得てもよい。
【0063】
培養培地の初期容量は、入手可能な好中球前駆細胞の数及び好中球前駆細胞の所望の出発密度に基づいて、少なくとも約20、50又は100mlのように、一般には少なくとも約10mlである。培養培地の初期容量は一般に、約2L未満のように約5L未満であるが、たくさんの好中球前駆細胞が入手可能な場合には、それ以上であってもよい。
【0064】
別に表現すると、培養培地の初期容量は、成熟好中球を採取するするときの最終容量の約10%以下、例えば最終容量の約7、5又は2%以下であってよい。従って培養培地における増加量は約10倍〜50又は100倍であってよい。
【0065】
培地に最初に蒔種する好中球前駆細胞の総数は約50,000以上が好ましく、より好ましくは約100,000又は200,000細胞以上である。
【0066】
培養培地は、上記のような、好中球への細胞増殖に必要な生育因子を補完した、動物細胞の生育に適している培養培地である。本発明の方法は2つのタイプの生育因子の使用に基づいている。最初のタイプは早期作用性サイトカインである。これらのサイトカインは好中球経路に特異的ではないが、幹細胞及び前駆細胞に作用して生育及び増殖を促進する。公知の早期作用性サイトカインの例は、c−kitリガンド、幹細胞因子(SCF)及びFit−3リガンド(FL)を、更にインターロイキン1〜12(特にIL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−9、IL−10及びIL−12)、トロンボポエチン(TPO)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)も包含する。これらのサイトカインは一般に、Stem Cell Technologies、Amgen、Chemicon のような会社から市販されているか、又は、例えば標準的な技術を用いる遺伝子組み換えによって、又はペプチド合成によって製造することができる。本明細書の多種サイトカインの参照には、ペプチド模倣薬、例えばTPOペプチド模倣薬(Cwirla SE, et al. (1997) Peptide Agonist of the Thrombopoietin Receptor as Potent as the Natural Cytokine. Science 276:1696-1699; 国際特許出願公開第WO95/18858号及び米国特許第6835809号も参照のこと)のような機能的に等価な分子を包含する。
【0067】
サイトカインの第2のタイプは、細胞を好中球に特異的な系統、すなわち、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、棹状及び成熟好中球へ分化するように導くことができる。このようなサイトカインは、G−CSF及びGM−CSF、及びトロンボポエチンを包含する。また、これらのサイトカインは一般に、Amgen のような会社から市販されているか、又は、例えば標準的な技術を用いる遺伝子組み換えによって、又はペプチド合成によって製造することができる。
【0068】
サイトカインは、適切に、前駆細胞が好中球になる前駆細胞の増殖/分化を促進するのに有効な量で培養培地中に存在している。サイトカインは一般に、約5〜100ng/mlのような、約1〜200ng/mlの濃度で、培養培地に添加される。
【0069】
従って、培養培地は、1つ以上の早期作用性サイトカイン、及び前駆細胞の好中球特異的系統細胞への分化を促進するG−CSFのような、1つ以上のサイトカインを含有している。
1つ以上の早期作用性サイトカインがSCFを含有していることが好ましい。
【0070】
一態様では、培養培地は約1ng/ml未満のIL−3及び/又はIL−6を含有している。IL−3及び/又はIL−6が培養培地に添加されていないことが好ましい(血清及び細胞自体のような添加した成分にもともと存在しているような何れかの場合を除く)。
【0071】
好ましくは少なくとも培養が、以下に記載するように、低い酸化ストレス条件下で行われる培養工程の第一段階にある間は、培養培地がトロンボポエチン(TPO)又はそのペプチド模倣薬を含有していることが好ましい。
【0072】
特定な態様では、培養培地は有効量のSCF、G−CSF、TPO、及び随意にFit−3、及びサイトカイン以外のものを含有している。
【0073】
培養容器は動物細胞、特に造血細胞の培養に適している容器の何れの形態であってもよい。容器が細胞の懸濁培養に適していることが好ましい。細胞培養の容量が一般に培養工程の間に実質的に増大するので、好ましい培養容器は、細胞を別の培養容器に移す必要がないように、約500又は1000ml〜100Lのような、約100ml〜100L容量の培養培地中の培養細胞に用いることが可能なものである。従って、好ましい培養容器は、少なくとも約1L、より好ましくは少なくとも約10Lのような、少なくとも約2又は5Lの容量を有するものである。しかしながら、ある態様では、2つ以上の異なったサイズの培養容器を用いて、増殖工程中の適切な時点で細胞をより大きいサイズの容器へ移してもよい。
一態様では、培養容器は使い捨て又は単回使用の(再使用できない)ものである。
【0074】
特定の好ましい態様では、柔軟な袋のような、折り畳める培養容器中で細胞を培養する。折り畳み性/柔軟性の要件は、容器を部分的に又は完全に膨らませることができるということである。容器は一般に、低密度ポリエチレンのような軟質のプラスチックでできている。特に適している培養容器は米国特許第6,190,913号に記載されている。米国特許第6,190,913号に記載されているプラスチックバッグ培養容器は、0.1〜5Lから、100〜500Lまでの範囲の大きさで、Wave Bioreactor (登録商標)と一緒に用いるもので、Wave Biotech, NJ (Cellbag (登録商標))から入手できる。
【0075】
工程の第1段階の間に、前駆細胞及びその子孫が、細胞が酸化ストレスの影響に特に敏感になる密度に頻繁にあるとき、前駆細胞及びその子孫が細胞1個当たりに受けている酸化ストレスを減少させるために多くの異なった技術を用いることができる。
【0076】
一態様では、細胞を静的条件下で、すなわち撹拌、振盪などをおこなわずに培養する。
【0077】
別の態様では、他の細胞を用いて培養培地中の総細胞数を増加させることによって、前駆細胞当たりの酸化ストレスの正味の影響を低減する。この態様では、初期の総細胞密度が好ましくは1ml当たり少なくとも約50,000又は100,000細胞であり、より好ましくは1ml当たり少なくとも約200,000又は500,000細胞である。一態様では、初期の総細胞密度が1ml当たり約200,000〜400,000細胞である。別の態様では、例えば非選択MNCsを供給源として用いて、総初期細胞密度は1ml当たり500,000〜50億細胞の範囲であってよい。
【0078】
好中球前駆細胞以外の残りの細胞は好中球前駆細胞の最初の供給源、例えば臍帯血細胞、末梢血細胞から得てもよく、そして/又は別の供給源、例えば総細胞含量を大きくするために細胞培養液に加えた末梢血細胞、から得てもよい。これらの追加細胞は好中球前駆細胞及び成熟好中球を含んでいてもよい。一態様では、残りの細胞は主として非前駆細胞である。例えば、好中球前駆細胞以外の細胞の約70又は80%が、最終的に赤血球、マクロファージ、及びリンパ球のような細胞に分化するような、非前駆細胞である。
【0079】
更なる態様では、酸化ストレスのレベルを反応性酸素種を中和する薬剤、すなわち抗酸化剤及びラジカルスカベンジャーの添加によって減少させる。動物細胞の培養に適しているそのような薬剤の例は、グルタチオン、2−メルカプトメタノール及び他のチオール化合物、ピルビン酸塩、アスコルビン酸塩、カタラーゼ、血清アルブミン、及びプルロニックF68を包含する。
【0080】
別の態様では、酸化ストレスのレベルを、培養物の酸素圧を制御することによって減少させる。細胞代謝がないときの、正常な酸素圧は、5%のCOを含有する空気に対して約20%の溶存酸素(DO)である。溶存酸素(OD)含量が、約5%未満のように、約10%未満であることが好ましい。特定な態様では、初期前駆細胞密度が1ml当たり5,000細胞未満で初期総細胞密度が1ml当たり100,000細胞未満であり、DO含量は好ましくは約10%未満である。
【0081】
細胞を相対的に低い総細胞密度で蒔種して非前駆細胞を用いて初期細胞密度を増大すること以外の方法で酸化ストレスを減少させる(例えば、静的培養の利用による)態様では、最初の段階で好中球前駆細胞及びその子孫(すなわち、前駆細胞から増殖/分化によって得られる細胞)の所望の細胞密度に達するまで、細胞を培養する。一態様では、これは培養培地の表面を介する酸素移動が前駆細胞及び/又はその子孫を静的条件下での生育に対して不十分である場合の密度である、すなわち、溶存酸素は細胞の生育を制限する因子である、と考えられる。
【0082】
別の態様では、細胞密度、特に好中球前駆細胞及びその子孫の密度が、1ml当たり約100,000〜400,000細胞、又は1ml当たり約100,000〜200,000細胞のように、1ml当たり少なくとも50,000又は100,000細胞になるまで細胞を培養する。別の態様では、細胞密度が、1ml当たり約200,000〜400,000細胞のように、1ml当たり少なくとも約200,000細胞になるまで、細胞を培養する。
【0083】
この初期段階の間に、新鮮な培地を添加しなくても、或いは新鮮な培地を添加してもよい。しかしながら、新鮮な培地を添加しない場合には、追加の栄養素、特に生育因子を随意に添加してもよい。この初期の増殖段階は一般に、約4〜9日又は約7〜9日のように、少なくとも約4日又は5日かかる。
【0084】
前駆細胞の集団が所望の細胞密度に到達したら、次いで細胞を培養工程の第2段階に付すことができる。この第2段階において、前駆細胞は、十分に増殖し、そして大規模細胞培養方法で用いられるより激しい条件下で培養できる十分な細胞密度に達する。初期の総細胞密度が既に十分に高い態様では、第1段階を事実上省略して、培養工程の初めから撹拌を行うことができる。
【0085】
静的条件下では、適切に細胞を維持するための培養培地への酸素の移送が不十分になるので、細胞の撹拌をこの第2段階で用いる。同様に、培養培地中への栄養素の混和は細胞に有益である。従って、静的培養条件による不適切な細胞への給餌及び生育がもたらされるような総細胞密度になる前に、培養培地の撹拌を開始すべきである。これは当業者が、例えば、静的条件下で細胞を生育させ、そして細胞の生育速度が減少し始めた時点を観察することによって判定することができる。
【0086】
細胞を、例えば撹拌型タンクタイプのバイオリアクター中で撹拌するか、例えばローラーボトル培養により回転させるか、又は上記の Cellbag のような、畳み込める培養溶液中で波動によって揺れ動かす。また、一態様では、培養容器は使い捨て又は単回使用(再使用不可)のものである。
【0087】
更に詳細には、Cellbagは一般的に、培養培地がバッグの容量の約10〜50%の間を構成するように、液体培養培地を入れる。参考のために、液体培地の容量は、希釈給餌を用いるときは(培養物容量の増加のために余裕を待たせるために)最初はより少なくしなければならないが、還流方法などによって新鮮培地で給餌を実施する場合はより多くすることができる。次いでバッグの残りの部分には、バッグを固定するように、通常は酸素含有ガスを入れる。バッグは通常、培養培地の表面とバッグの上端の間に、バッグを穏やかに揺らしたときに培養培地の表面上に波動を形成できるような、十分なヘッドスペースが得られるように膨らませる。
【0088】
バッグは、単一自由度で揺らされることによってバッグ中の液体培地へ波動を誘導するプラットフォームに固定されている。細胞の生育及び産生に必要な酸素の移送及び混合は波動によって達成される。揺動は通常、プラットフォームの水平位置から約1〜15度の角度で行われる。揺動の速度は通常1分当たり約1〜20回の揺れである。
【0089】
細胞の給餌には2つの方法がある。一態様では、培養工程の第2段階の間培養培地の容量を増加させるように、新鮮な培地を加えることによって、細胞に給餌することができる。これを希釈給餌と称す。好ましくは、総細胞密度を1ml当たり約500万細胞未満、例えば培養培地1ml当たり約400万又は200万未満に確実に保持するように、給餌を十分な間隔で行う。
【0090】
これに代わる態様では、培養培地を実質的に一定に保って、古くなった培地を除去して新鮮な培地で置き換えることによって細胞を給餌するが生存細胞の実質数を変動させない。1つの適切な方法を還流と呼び(例えば、Koller et al., 1993, Blood 82:378-384)、これは連続的であっても非連続的であってもよい。
【0091】
更なる態様では、上記の2つの技術を併用できる。例えば、還流法を用いるが、細胞密度が所望のレベル以上に増加しないことを確実にするために、除去するよりも多くの新鮮培地を添加することによって培養培地の容量を長時間をかけて増加させる。
【0092】
どの給餌方法を用いても、第2培養段階中の細胞の総数を、1ml当たり少なくとも約400,000細胞又は500,000細胞の最小密度に保持することが一般的に好ましい。
【0093】
培養の両段階において、培養培地の温度は一般に、約35〜39℃、好ましくは、約37℃のように約36〜38℃に保持される。最適なCOレベルは一般に、約4〜6%COのように、約3〜10%CO、好ましくは約5%COである。
【0094】
この第2段階で、早期サイトカインは第1段階と異なっていても良く、例えばTPOを除去してもよい。
【0095】
細胞は、好中球系統の分裂終了細胞の最適な増殖及び産生を可能にするのに十分な時間培養する。一般に、第2段階には、5〜7日のように、5〜15日が必要である。増殖/分化の進行は、標準的な技術を用いて観察することができ、例えば細胞のアリコートを周期的に採取して、ギムザ染色後に顕微鏡下で試験して特徴的な形態を有している成熟した好中球を同定することができる。細胞を分析して、蛍光活性化細胞選別(FACS)のような標準的な技術を用いて、CD16のような成熟好中球に特異的な細胞表面マーカーの存在を確認することもできる。
【0096】
細胞を、好中球活性を測定するために試験することもできる。機能試験は、スーパーオキシド放出能、例えばフェリシトクロムcのSOD抑制性還元法(SOD-inhibitable reduction)(You et al., 1989, Blood 74:2144-2149)で測定されるようなもの;走化能、例えばボイデン法(Boyden metod)(Boyden,1962,J. Exp. Med. 115:971-975)又はZigmond, 1988 に記載されている方法(Methods Enzymol. 162:65-72)を用いる、を包含する。
【0097】
第1段階における最初の細胞の蒔種から細胞を採取する直前の状態までの総所要時間は、通常約12〜18日である。最短で約12日後そして最長で約18日後に細胞を採取することが好ましい。
【0098】
細胞の少なくとも約70、80又は90%が好中球系統の分裂終了細胞である時に細胞の採取を行うことが好ましい。
【0099】
一般に、採種した細胞を洗浄して、血小板貯蔵溶液(例えば、Plasmalyte A 又は T-Sol-両方とも Baxter Healthcare, Deerfield, Illinois から入手できる)のような治療的投与に適している媒体中に再懸濁する。
【0100】
本明細書に示されている結果は、好中球前駆細胞の分裂終了好中球への5000倍の増殖を明らかにしている。従って、本発明の方法が、前駆細胞の集団の好中球系統の分裂終了細胞への、少なくとも約1000倍の増殖、より好ましくは約2000又は4000倍の増殖をもたらすことが好ましい。
【0101】
得られる好中球系統の分裂終了細胞の総数が少なくとも10億個のように、少なくとも5億個であることが好ましく、少なくとも20、50、100、150又は200億個であることがより好ましい。細胞を採種する時の培養培地の最終容量が、少なくとも20、50又は100Lのように、少なくとも10Lであることが好ましい。
【0102】
分裂終了細胞の集団が、同数の細胞を有する末梢血好中球の集団の生物活性の少なくとも約40又は50%を有することが好ましく、より好ましくは末梢血好中球の集団の生物活性の約70、75、80又は90%である。これに関連する生物活性はスーパーオキシド放出能として測定されることが好ましい。
【0103】
上記の方法を、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を得るために用いることもできる。この態様では、前駆体及び前駆細胞の大部分が分化して成熟好中球を産生する前の早期段階で細胞を採種する。細胞を通常、好中球前駆細胞の初期集団を培養培地に蒔種して約10〜12日後に採種する。
【0104】
従って、本発明は好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロ又はエキソビボの方法も提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞の増殖に必要な1つ以上のサイトカインを含有している、動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及びその子孫の生育に対して不十分である細胞密度である時に、培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0105】
関連する態様では、本発明は、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロ又はエキソビボの方法を提供する。この方法は工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞の増殖に必要な1つ以上のサイトカインを含有している、動物細胞培養培地中で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度になる時点まで静的条件下で、次いでその後培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる。
【0106】
成熟好中球の産生に関する上記の多種の態様、定義、条件及び実施態様を、上記のように細胞を早期段階で採種するということを特に考慮して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団の産生に準用する。
【0107】
本発明は、本発明の方法で得られるか又は得られうる、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団のその集団も提供する。
【0108】
治療用組成物及びその使用
本発明の方法は、好中球減少症又は感染症のような疾患の治療又は予防に用いるための、好中球系統の分裂終了細胞の臨床用量を提供するために用いることができる。従って本発明は、少なくとも約10億個の好中球系統の分裂終了細胞、より好ましくは少なくとも約20、50、100、150又は200億個の好中球系統の分裂終了細胞を含有する単離した細胞の集団を、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に含有している医薬組成物を提供する。通常、細胞は本発明の方法によって産生されている。
【0109】
組成物中の細胞の好ましくは少なくとも約60%、70%、80%又は90%、より好ましくは少なくとも約95%が好中球系統の分裂終了細胞である。
【0110】
好ましくは細胞の少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50、60、70、又は80%が成熟好中球である。
【0111】
活性好中球は臨床的に有用ではないので、通常は約30又は20%未満の好中球が活性化されている。
【0112】
好ましくは、本発明による好中球系統の分裂終了細胞の集団は、同数の細胞を有する末梢血好中球の集団の生物活性の少なくとも約40%又は50%を有しており、より好ましくは末梢血好中球の集団の生物活性の少なくとも約70、75、80又は90%を有している。これに関連する生物活性はスーパーオキシド放出能として測定されることが好ましい。
【0113】
本発明の好中球系統の分裂終了細胞の集団及びこれを含有する組成物は、好中球の数又は機能の一過性又は恒常性の減少に関連する疾患(例えば、好中球減少症、白血病)を治療することのような、好中球レベルの増大を必要とする患者を治療するため、又は好中球レベルの増大によって利益をもたらすために用いることができる。
【0114】
正常な患者は通常、血液1リットル当たり2.5×10〜7.5×10細胞の好中球数を有していて、これは血液1マイクロリットル当たり2500〜7500細胞の絶対好中球数(ANC)に相当する。好中球減少症は2000<ANCとして、軽度の好中球減少症は1000<ANC<1500;中等度の好中球減少症は500<ANC<1000;重症の好中球減少症はANC<500として分類されている。従って、治療効果を達成することに関しては、好中球レベルの増大は、少なくとも約100又は500のANCの増大が好ましく、少なくとも約1000又は2000のANCの増大がより好ましい。従って「有効量」は、このような増大を達成するのに必要な細胞の用量である。本発明の組成物は何れかの適切な方法で患者に投与することができる。好ましい投与経路が、予防又は治療する疾患のタイプに基づくことは、当業者にとって明らかであろう。好ましい投与方法は、これに限定されないが、静脈内、腹腔内、冠動脈内、動脈内、関節内及び脳室内投与、カテーテルの挿入、及び組織への直接注射を包含する。
【0115】
好中球は薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に投与することができる。その例は、これに限定されないが、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、血清含有溶液、ハンクス液、他の水性生理平行溶液、油類、エステル類及びグリコール類を包含する。水性の担体は、例えば化学的な安定性及び等張性を増強することによって、移植者の生理的状態に近づけるために必要な適切な補助物質を含有していてもよい。
【0116】
本発明によれば、効果的な投与手順は、患者に一時的な又は長期にわたる利益を与えるために、有効数の機能的好中球の患者への送達をもたらす、適切な用量パラメーター及び投与方法を包含する。効果的な用量パラメーターは、特定の疾患又は病気に対する当該技術分野で標準的な方法を用いて決定することができる。そのような方法は、例えば、生存率、副作用(すなわち、毒性)及び疾患の進行又は退行の判定を包含する。
【0117】
本発明による好中球の適切な単回用量は、適切な期間に渡って1回又はそれ以上投与したときに、有益な数の好中球を患者へ提供できる用量である。例えば、本発明による好中球の好ましい単回用量は、1個人当たりで1投与当たり、約1×10〜約5×1010好中球のように、約1×10〜約5×1010好中球である。患者へ投与する用量の回数は疾患又は病気の程度及び個々の患者の治療に対する応答によって決まるということは、当業者には明らかであろう。
【0118】
治療には、疾患の症状を減少させること、病気の発症を減少させること、及び/又は病気の重症度を減少させることが含まれる。このように、治療には病気の発症を予防すること(予防的な処置)及び疾患を有しているか又は疾患の初期症状を経験している動物を治療すること(治療的な処置)の両方が含まれる。用語「疾患」は、哺乳動物の健康状態からの逸脱を示し、疾患の症状が存在するときの状態、更には逸脱(例えば感染、遺伝子の突然変異、遺伝子の欠陥など)が生じたが、症状が明らかになっていないときの健康状態をも包含する。
【0119】
本発明の方法では、本発明による細胞の集団及びそれを含んでいる組成物は、何れかの動物又はヒト、例えば霊長類、齧歯類、家畜及びペットのような哺乳動物に投与することができる。
【0120】
本発明をここで、説明のためであって限定しない以下の実施例を参照して、更に記述する。
【0121】
実施例
材料及び方法
臍帯血の採取
満期出産からのヒト臍帯血(UCB)を母親の同位を得て、Royal Brisbane Hospital (Brisbane, Australia)から得た。約30〜50mlの臍帯血を常法で回収して250IUのヘパリンナトリウム(DBL)を含有する50mlチューブに集めた。臍帯血試料を常温で採取24時間以内に処理した。
【0122】
CD34+細胞の選択
Ficll-Paque Plus (Amersham)を用いて密度勾配遠心分離によって単核細胞(MNC)を分離して、Midi and Mini-NACS カラム及び Direct CD34+ Progenitor Cell Isolation Kit (Miltenyi Biotech)を用い製造会社の提言に従って、ポジティブ選択を2回行ってCD34+細胞を富化した。
すなわち、臍帯血を、カルシウム及びマグネシウムを含まない、2mMのEDTAを含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)中に希釈(1:4)し、Ficoll-Paque Plus 濃度勾配に載せて、常温で30分間450gで遠心分離して、単核細胞を分離した。軟膜を採取し、洗浄して、夾雑している赤血球(RBC)を塩化アンモニウム溶解法によって除去した。
【0123】
溶解に続いて、細胞を洗浄してMACS緩衝液(PBS+2mMのEDTA+0.5%のウシ血清アルブミン(BSA))に再懸濁した。次いで細胞を最初にFcR阻害試薬と、2番目に単離キットのCD34抗体で被覆されているMACS常磁性マイクロビーズ(MACS paramagnetic MicroBeads)(coated with CD34 antibodies from the isolation kit) と培養した。培養工程の後に、細胞を洗浄してプレセパレーションフィルターに通した後、磁場で予め平衡化したポジティブ選択カラム(LS+)に通した。このカラムをMACS緩衝液で3回洗浄し、この間に結合しない非標識細胞はカラムを通過してCD34+細胞はカラム内に保持される。磁場を放出し、細胞をカラムから洗い出してCD34+細胞を回収する。溶出した細胞をMACS緩衝液中で洗浄し、次いで細胞を第2の充填済み選択カラム(MS+)に通して磁性分離工程を繰り返した。CD34+細胞は分離直後に用いた。CD34+細胞の一般的な精製度は>90%であった。選択に続いて、CD34+細胞を1mlの Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma aldrich) に再懸濁した。
【0124】
サイトカイン
幹細胞因子(rhSCF)及び顆粒球コロニー刺激因子(rhG−CSF)は Amgen から入手した。組み換えヒトトロンボポエチン(rhTPO)は Chemicon から入手した。TPOペプチド模倣薬は Auspep から入手した。
【実施例1】
【0125】
好中球前駆細胞のエキソビボにおける増殖−細胞密度及び撹拌の効果
上記のような精製及び選択に引き続き、臍帯血由来のCD34+細胞を1mlの Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma aldrich) に再懸濁して、1ml当たり2,000細胞又は1ml当たり10,000細胞の何れかの密度でT型フラスコ中に蒔種した。
【0126】
細胞を 好中球完全培地 (Neutrophil Complete Media)(幹細胞因子(rhSCF)100ng/ml、顆粒球コロニー刺激因子(rhGCSF)100ng/ml、及び100ng/mlのTPOペプチド模倣薬で補完した Stemline II)中に蒔種した。
【0127】
細胞をインキュベーター中、37℃、5%のCOで、揺動あり(15回揺動/分、8度の角度で)又は揺動なし(静的)の何れかで12日間培養した。
【0128】
得られた結果は、揺動により増殖が20〜50倍減少したことを示した。従って、揺動が前駆細胞から好中球への増殖レベルに対して重大な悪影響を及ぼしたが、その影響は高密度で蒔種した細胞にはそれ程ひどくはなかった。
【0129】
細胞を静的条件下で9日間、次いで9日目から揺動して培養して、実験を繰り返した。その結果は、実験の全過程が静的であったもの及び9日目以降に揺動したものの培養物の間には増殖のレベルに差がないことを示した。我々は、細胞密度の測定から、撹拌前に、細胞が最小密度、例えば1ml当たり少なくとも約100,000〜200,000細胞に達することが可能ならば、撹拌による有害な影響を避けることができると結論付ける。
【実施例2】
【0130】
好中球前駆細胞のビボ増殖に対する溶存酸素(DO)レベルの効果
上記のような精製及び選択に引き続き、臍帯血由来のCD34+細胞を1mlの Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma Aldrich) に再懸濁して、T型フラスコ中の好中球完全培地に1ml当たり2,000細胞又は1ml当たり10,000細胞の何れかの密度で蒔種した。
【0131】
細胞を、低い溶存酸素(5%)又は高い溶存酸素(20%)の何れかの条件下で培養した。1ml当たり2,000細胞の低い細胞密度では、見られた増殖のレベルは、低いDOに対して高いDOで有意に低かった。しかしながら、高い細胞密度で細胞を蒔種した場合には有意な差は見られなかった。我々は、このことが細胞に対する酸化ストレスの効果に起因していて、これらの効果は、少ない数の細胞を最初に用いると、与えられるDOのレベルに比例して増大することを示唆する。
【0132】
細胞が受ける酸化ストレスのレベルを減少させるために用いることができるいくつかの方法がある。最初に、初期細胞密度を減少させることができる。前駆細胞自体を高密度で蒔種しないことが好ましいので、多数の前駆細胞の使用を必要とせずに高い細胞密度に到達する1つの方法は、末梢血細胞のような、非前駆細胞を用いて前駆細胞の嵩を大きくすることである。別の方法は、実施例4に示したように、撹拌開始の前に前駆細胞の密度が所望の最小細胞密度に到達するまで、細胞を静的条件下で培養することである。更に可能なことは、酸素ラジカルを取り除く成分及び/又は酸素圧を制御する成分を含むよう培地の組成を調節することである。
【実施例3】
【0133】
rhTPOとTPOペプチド模倣薬との比較
上記のような精製及び選択に引き続き、臍帯血由来のCD34+細胞を1mlの Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma Aldrich) に再懸濁して、1ml当たり2,000細胞の密度でT型フラスコ中に蒔種した。
【0134】
細胞を好中球完全培地に蒔種した。TPOの供給源は、100ng/mlの組み換えヒトTPO、若しくは4、20又は100ng/mlのTPOペプチド模倣薬の何れかであった。
細胞を静的条件下で、37℃、5%COのインキュベーター中で12日間培養した。
【0135】
rhTPO、20ng/mlのTPOペプチド及び100ng/mlのTPOペプチド模倣薬で同じ結果が得られ、TPOペプチドがrhTPOと同じぐらいの効力があることを明らかにした。TPOペプチドはrhTPOよりも格段に安価であるので、コストの観点からTPOペプチドの使用は有利である。
【実施例4】
【0136】
セルバッグ中での好中球前駆細胞のエキソビボ増殖
材料及び方法
上記のような精製及び選択に引き続き、臍帯血由来のCD34+細胞を1mlの Stemline II Haematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma Aldrich) に再懸濁した。血球計数器を用いて細胞を計数して、Wave Bioreactor System (Wave Biotech) の一部として2LのFELセルバッグ中で以下に記述するようにして、最長17日間エキソビボで培養した。
細胞を200,000細胞/20ml総容量で、好中球完全培地(TPO供給源は100ng/mlのTPOペプチド模倣薬であった)に蒔種した。
【0137】
細胞を、10mlの好中球完全培地中に2倍の蒔種密度で、バッグのルアーロックサンプルポートからセルバッグへ入れ、次いで10mlの新鮮な培地をチューブから細胞を洗浄するために入れて密度及び容量を適切なレベルにした。この時点ではセルバッグを膨らまさずに、十分に加湿した雰囲気下で37℃、5%COのインキュベーター中に入れて、培養5日目まで静的に放置した。並行して、同じ2倍密度の細胞懸濁液10mlを、10mlの新鮮な培地とともにフラスコに入れて、同じ条件下で、5日目まで放置した。
【0138】
5日目に、セルバッグ中の培地に、等容量、すなわち20mlの新鮮培地を加えて希釈した(半希釈)。
7日目に、セルバッグ中の培地に、等容量、すなわち40mlの新鮮培地を加えて希釈した(半希釈)。
9日目及びその後1日おきに(11、13、15日目)、セルバッグを新鮮な培地で、約500,000細胞/mlに戻すように希釈した。更に、残りの培養期間中、セルバッグを連続給気(0.1L/分)で膨らませて、培養物を穏やかに揺動した(5回揺動/分、7度の角度)。
【0139】
分析用の試料を5日目から1日おきに、両方の容器から、培養物を混和した後、取り出した。血球計数機を用いて細胞を計数して細胞密度及び生存率を判定した。細胞生存率は、トリパンブルーを用いて生存細胞を非生存細胞と区別して顕微鏡的に評価した。
【0140】
培養細胞のサイトプシン調製物は、13、15日目及び/又は機能試験にあたる日に、Sigma遠心分離器に付属の細胞遠心分離器を用いて、1スライド当たり1×10細胞に調製した。スライドをリーシュマン保存液(Leishman's stock)に2分間固定して、pH6.8のリン酸緩衝液でのリーシュマン保存液の1:6希釈液中で8分間染色した。次いでスライドを骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、棹状及び分葉好中球が存在するかについて調べた。有糸分裂細胞、アポトーシス細胞及び他の細胞の集団にも留意した。
【0141】
結果
16日目に、最終希釈の後の最終培養容量は約100mlで、1ml当たり約1,000,000細胞の細胞密度であり、100mlの容量当たり総計10億細胞をもたらした。初期の培養液が20ml中に200,000細胞を含有していたので、最終細胞/初期細胞によって判定した増殖増大倍率は約5000倍であった。これは、他の技術を用いて以前に得られていたものよりも有意に大きい程度の増大である。
【0142】
増殖した細胞の集団を好中球機能についても試験した。得られた結果は、この好中球が活性化されていなかった(即ち、注入に対しても安全であった)が、適切な刺激剤の存在下で活性化する能力を有しいたことを示唆した。これらは、正常な末梢血好中球と比べると、正常下限で、スーパーオキシド機能(細菌を殺す能力)を有していた。更に、13、16及び18日目の培養細胞は、刺激に応答して、細菌感染巣へ移動するインビボでのそれらの能力を模倣する走化性を示した。
【0143】
この細胞は、正常レベルのHLAクラス1抗原及び好中球に特異的な抗原を発現するようであり、完全に成熟細胞であることを示した。16及び18日目の培養物における自動5分割器械による識別計算では、細胞の80%が成熟好中球であることを明らかにした。これはギムザ染色の塗抹標本上で合計200細胞の手動識別計算によって確認された。
【0144】
従って、有意な細胞増殖が得られたばかりではなく、得られた細胞は成熟して、有糸分裂終了段階であり機能的でもあった。
【0145】
比較するために、低密度のポリプロピレンセルバッグ又はテフロンセルバッグを用い、実験の全期間にわたり細胞を撹拌してヘッドスペース給気して、コントロール実験を実施した。これはバイオリアクターにスケールアップして用いられる典型的な条件を反映している。コントロール実験で得られた結果は、100倍程度である、貧弱な増殖レベルを示した。従って、本発明の方法は、1リットルを越える容量にスケールアップしたときに、現存するバイオリアクターによる細胞培養及び増殖方法よりも、有意に優れた好中球細胞の増殖をもたらすと思われる。
【実施例5】
【0146】
前駆細胞の非富化供給源の増殖
臍帯血をFicoll-Paque Plus 濃度勾配で精製した後に得られた単核細胞をCD34+非富化工程に直接用いた以外は、実施例4に記載されている方法を繰り返した。細胞を1ml当たり2000のCD34+細胞の初期密度で15〜20mlの培養培地に蒔種した。総細胞密度は、用いた特定の臍帯によって決まり(1ml当たり150,000〜500,000細胞の範囲)、残りの細胞は他の型の血液細胞であった。
【0147】
非富化細胞集団を用いて得られた結果は、CD34+細胞を富化した細胞集団を用いて得られたものよりも有意に優れていた(10,000倍(非選択、15日目)対6,000倍(15日目、選択))。
【0148】
上記の個々の項で言及されている、本発明の多様な特徴及び態様を、必要に応じて、他の項に準用する。従って、ある項で特定されている特徴を、必要に応じて、他の項で特定されている特徴と結びつけることができる。
【0149】
上記明細書で述べられている全ての刊行物を参照として本明細書に組み込む。本明細書に開示されていて、特許請求されている全ての組成物及び/又は方法は、本開示を参照すれば過度な実験を行わずに作成及び実施することができる。本発明の組成物及び方法は好ましい態様という観点で記載されているとはいえ、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、組成物及び/又は方法への、及び本明細書に記載されている方法の工程又は一連の工程における、変更が適用できるということは当業者に明らかであろう。すなわち、化学的及び生理学的の両方に関連しているある特定の薬剤を、同じもしくは同様な結果をもたらす限り、本明細書に記載されている試薬と置き換えることができる。当業者にとって明らかな、このような類似代用及び修正の全ては、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の精神、範囲及び概念の範囲内であると見なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法が工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度である時には、培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項2】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態での前駆細胞及びその子孫の生育に対して不十分である細胞密度になる時点まで静的条件下で、次いでその後培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項3】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞の集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、低い酸化ストレスの条件下で細胞を培養する);及び
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項4】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞集団を培養すること(ここにおいて、総細胞密度が約100,000〜200,000細胞/ml未満である時は、細胞を静的条件下で培養する);及び
(c)総細胞密度が少なくとも約100,000〜200,000細胞/mlになったら培地を撹拌して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生することを含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項5】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)少なくとも約100,000細胞/mlの総初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:
を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項6】
好中球前駆細胞の初期細胞密度が、1ml当たり約20,000細胞未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
好中球前駆細胞の初期細胞密度が、1ml当たり少なくとも約20,000細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞の集団を供給すること;
(b)1ml当たり約20,000好中球細胞未満の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低酸化ストレス条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で子孫細胞の集団を産生すること;及び
(c)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、工程(b)で得られる子孫細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞を産生すること:
を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項9】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;
(b)1ml当たり約20,000未満の好中球前駆細胞の初期細胞密度で、(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、静的条件下で、前駆細胞を培養して、培地1ml当たり少なくとも約100,000細胞の密度で、子孫細胞の集団を産生すること;及び
(c)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該子孫細胞を好中球特異的系統へ分化する、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、培地を撹拌して、工程(b)で得られる子孫細胞の集団を培養して、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生すること:を含有してなる、好中球系統の分裂終了細胞の集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項10】
総初期細胞密度が培地1ml当たり少なくとも100,000細胞になるように、初期培養培地が好中球前駆細胞以外の細胞を更に含有してなる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
好中球前駆細胞以外の細胞が末梢血単核細胞である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)において、細胞を約5〜約9日間培養する、請求項8〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において、細胞を約5〜約9日間培養する、請求項8〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上の早期作用性サイトカインが幹細胞因子(SCF)を包含する、請求項1〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
1つ以上の早期作用性サイトカインがトロンボポエチン(TPO)又はそのペプチド模倣薬を包含する、請求項1〜14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
培養培地がTPOペプチド模倣薬を含有してなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞が、培地1ml当たり約2百万細胞未満の密度を保持している、請求項1〜16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
好中球前駆細胞の集団が、臍帯血、骨髄及び/又は末梢血に由来している、請求項1〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
好中球前駆細胞の集団が富化されている、請求項1〜18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
好中球前駆細胞の集団が、単核細胞の非富化集団として提供されている、請求項1〜18の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
培地の容量が、細胞の培養を開始した後約5日まで少なくとも約1000mlである、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
培地の容量が、細胞の培養を開始した後約5日まで少なくとも約3000mlである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(c)における培養培地の容量が少なくとも1000mlである、請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
工程(c)における培養培地の容量が少なくとも3000mlである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
細胞希釈給餌方法又は拡散を用いて少なくとも工程(c)において、新鮮培地を供給する、請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
細胞希釈給餌方法又は拡散を用いて少なくとも工程(c)において新鮮培地を供給し、そして工程(b)の間には細胞を新鮮培地と共には供給しない、請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
細胞を折り畳める培養容器中で培養して、培養容器を部分的に又は全体的に膨らまし、そして容器を撹拌して培養培地中に波動を生じさせる、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
細胞を折り畳める培養容器中で培養し、そして工程(c)において、培養容器を部分的に又は全体的に膨らまし、そして容器を撹拌して培養培地中に波動を生じさせる、請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項29】
間質細胞が培養培地に実質的に不在である、請求項1〜28の何れか一項に記載の方法。
【請求項30】
培養培地中のIL−6及びIL−3の濃度が約1ng/ml未満である、請求項1〜29の何れか一項に記載の方法。
【請求項31】
細胞の培養開始後約12〜約18日目に、分裂終了細胞を培養培地から採取する、請求項1〜30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
採取した細胞を洗浄し、そして薬学的に許容される担体又は賦形剤に再懸濁する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項1〜32の何れか一項に記載の方法によって得られる単離した好中球系統の分裂終了細胞の集団。
【請求項34】
細胞の少なくとも約70%が好中球系統の分裂終了細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
細胞の少なくとも約40%が成熟好中球である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
細胞の約20%未満が活性化されている、請求項33〜35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
請求項33〜36の何れか一項に記載の細胞の集団を、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に含有してなり、そして当該細胞の集団が少なくとも約10億細胞を含有している、医薬組成物。
【請求項38】
エキソビボで増殖した少なくとも50億個の好中球系統の分裂終了細胞を、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に含有してなる、医薬組成物。
【請求項39】
方法が、請求項33〜36の何れか一項に記載の細胞の集団又は請求項37又は38に記載の医薬組成物を患者に投与することを包含してなる、患者において好中球の数を増加させる方法。
【請求項40】
当該細胞の集団を患者に自己移植する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
患者における好中球の数を増加させるために用いる、請求項33〜36の何れか一項に記載の細胞の集団を含有してなる組成物。
【請求項42】
患者における好中球の数を増加させるために用いる医薬の製造のための、請求項33〜36の何れか一項に記載の細胞の集団を含有してなる組成物の使用。
【請求項43】
患者における好中球の数を増加させるために用いる、請求項37又は38に記載の医薬組成物。
【請求項44】
患者における好中球の数を増加させるために用いる医薬の製造のための、請求項第37項又は第38項に記載の組成物の使用。
【請求項45】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞の増殖に必要な、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、低い酸化ストレス条件下で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及びその子孫の生育に対して不十分である細胞密度である時には培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。
【請求項46】
方法が、工程:
(a)好中球前駆細胞を含有している細胞の集団を供給すること;及び
(b)(i)1つ以上の早期作用性サイトカイン及び(ii)当該前駆細胞の増殖に必要な、1つ以上のサイトカインを含有している動物細胞培養培地中で、細胞が、培養培地の表面を介する酸素移動が静的状態で前駆細胞及び/又はその子孫の生育に対して不十分である細胞密度になる時点まで静的条件下で、次いでその後培養培地を撹拌して、細胞の集団を培養して、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生すること:
を含有してなる、好中球前駆体及び/又は好中球前駆細胞の増殖した集団を産生するインビトロ又はエキソビボによる方法。

【公表番号】特表2009−544290(P2009−544290A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521064(P2009−521064)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001019
【国際公開番号】WO2008/011664
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500020760)ザ・ユニバーシティ・オブ・クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】